【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
イ:第1試験
1.前処理
<実施例1>
ALC板(住友金属鉱山シポレックス社製、品名:シポレックス)を10mm程度の大きさに粉砕し、加熱炉内に50g配置した。
次に、加熱炉内の温度を800℃とし、該加熱炉内へ水蒸気を90vol%(常圧下)含む窒素ガスを連続的に流入しつつ加熱処理を行なった。前記窒素ガスの流量は500cm
3/min(常温常圧換算)とした。
そして、加熱処理開始直後、2時間後及び5時間後に加熱炉から放出される前記窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量を測定した。硫黄成分の測定は、JIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて行なった。前処理試験結果については下記表1に示す。
【0037】
<実施例2〜4>
加熱炉内の温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は、実施例1と同一条件で加熱処理を行ない、同一の試験方法で硫黄成分(H
2S)の含有量を測定した。前処理試験結果については下記表1に示す。
【0038】
<比較例1>
加熱炉内へ水蒸気を供給しなかったこと以外は、実施例1と同一条件で加熱処理を行ない、同一の試験方法で硫黄成分(H
2S)の含有量を測定した。前処理試験結果については下記表1に示す。
【0039】
<比較例2>
加熱炉内の温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は、実施例1と同一条件で加熱処理を行なったが、形状が崩壊してしまい、脱硫剤を得ることができなかった。このため、加熱炉から放出される窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量の測定を行わなかった。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において実施例1〜4と比較例1とを比較すると、各実施例の方が加熱処理後のガス中のH
2Sの含有量が低くなっていることが認められる。つまり、水蒸気雰囲気下において加熱処理を行なうことで、水蒸気の作用によりALCからの硫黄成分の除去を効率的に行ない得ることが認められる。水蒸気が共存しない雰囲気下で加熱された比較例1では、熱の影響によってALCが変質し、硫黄成分を多量に放出し続けるのに対し、各実施例のように、水蒸気共存下で前処理されることで、硫黄成分が効果的に除去されるため、ガス中のH
2Sの含有量が低くなるものと推測される。
また、表1の実施例1〜4の結果と比較例2とを比較すると、各実施例の方が脱硫剤として用い得る程度の強度を有するものを得ることができた。つまり、各実施例の温度で加熱処理を行なうことで、脱硫剤として用い得る程度の強度を維持し得るものと認められる。
【0042】
2.脱硫試験
前処理を5時間行なった実施例1及び比較例1の脱硫剤を加熱炉内に配置し、該加熱炉内へ水蒸気を50vol%(常圧下)、H
2Sを100ppm(常圧下)含む窒素ガス(被処理ガス)を連続的に流入しつつ脱硫試験を行なった。そして、加熱炉から放出される前記窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量をJIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて測定した。脱硫試験結果については下記表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2において実施例1と比較例1とを比較すると、比較例1では、被処理ガスの温度が低い範囲(450〜600℃)では脱硫効果が得られるものの、温度の高い範囲(600〜750℃)では、脱硫効果が得られなかった。一方、実施例1では、被処理ガスの温度に影響されることなく、各温度範囲において良好な脱硫効果を得ることができた。
つまり、セメント系水和物を水蒸気雰囲気下において400℃以上800℃以下で加熱処理することで得られた脱硫剤を用いることで、広い温度範囲において硫黄成分の除去を効率的に行なうことができると認められる。
【0045】
ロ:第2試験
1.前処理(脱硫剤の作製)
<実施例5>
ALC板(住友金属鉱山シポレックス社製、品名:シポレックス)を10mm程度の大きさに粉砕し、加熱炉内に50g配置した。
そして、加熱炉内の水蒸気が下記表3に記載の割合(水蒸気濃度)となるように、水蒸気を含む窒素ガスを加熱炉内に連続的に流入しつつ、下記表3に記載の温度(前処理温度)で加熱処理を行なって脱硫剤を作製した。前記窒素ガスの流量は、500cm
3/min(常温常圧換算)とした。
【0046】
脱硫剤の作製に伴って、加熱炉から放出される窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量(H
2S濃度)の測定を行った。該含有量の測定は、JIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて行った。なお、加熱炉から放出される窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量が1ppm以下となった状態を前処理が完了した状態とし、斯かる状態となるまでの時間を前処理時間として下記表3に示す。
【0047】
<実施例6〜
10、及び参考例11>
前処理温度及び水蒸気濃度を下記表3に記載の通りに設定したこと以外は、実施例5と同一条件で加熱処理を行なって脱硫剤を作製し、放出される窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量(H
2S濃度)の測定を行った。また、前処理時間は、下記表3に記載の通りである。
【0048】
<実施例12>
実施例5のALC板に代えて、エアモルタル(住友大阪セメント社製高炉セメントB種、気泡剤品名:スミシールド)を用い、前処理温度及び水蒸気濃度を下記表3に記載の通りに設定したこと以外は、実施例5と同一条件で加熱処理を行なって脱硫剤を作製し、放出される窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量(H
2S濃度)の測定を行った。また、前処理時間は、下記表3に記載の通りである。
【0049】
<比較例3>
水蒸気の存在下で加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例5と同一条件で加熱処理を行ない、放出される窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量(H
2S濃度)の測定を行った。また、前処理時間は、下記表3に記載の通りである。
【0050】
2.窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量の変化
各実施例の脱硫剤を作製する際に測定された窒素ガス中の硫黄成分(H
2S)の含有量(H
2S濃度)を測定時間に対してプロットし、
図1〜3のグラフを作製した。具体的には、
図1のグラフは、ALC板(実施例5)を用いた場合とエアモルタル(実施例12)を用いた場合のH
2S濃度の変化を示したグラフである。また、
図2のグラフは、前処理温度の影響によるH
2S濃度の変化を実施例5〜8を用いて示したグラフである。また、
図3のグラフは、前処理時の水蒸気濃度によるH
2S濃度の変化を実施例5,10,
参考例11及び比較例3を用いて示したグラフである。
【0051】
【表3】
【0052】
図1のグラフを見ると、実施例5および12の両方で、H
2S濃度が効果的に減少していることが認められる。つまり、ALC板以外のセメント系原料(エアモルタル)を脱硫剤の原料として用いた場合であっても、水蒸気雰囲気下で効果的に前処理が行えることが認められる。
また、
図2のグラフを見ると、前処理温度が高い実施例の方が、H
2S濃度の減少量が大きいことが認められる。つまり、前処理温度が高い方が、ALC板からのH
2Sの除去を効率的に行うことができる。特に、700℃以上で前処理することでH
2Sの除去をより効率的に行うことができる。
また、
図3のグラフを見ると、各実施例のように水蒸気雰囲気下で前処理されることで、前処理が完了するまでの時間が短くなることが認められる。
また、水蒸気濃度が高い実施例の方がH
2S濃度の減少量が大きいことが認められる。つまり、水蒸気濃度が高い環境で前処理される方が、ALC板からのH
2Sの除去を効率的に行うことができる。
【0053】
2.脱硫試験
各実施例で作製された脱硫剤、及び前処理を行っていないALCからなる脱硫剤(比較例4)を用いて脱硫試験を行った。具体的には、各脱硫剤を加熱炉内に配置し、下記表4に示す被処理ガス(水蒸気およびH
2Sを含有する窒素ガス)を連続的に加熱炉内に流入させて所定の温度における脱硫試験を行った。その際、加熱炉から放出される窒素ガス中のH
2Sの含有量を測定した。
【0054】
【表4】
【0055】
加熱炉から放出される窒素ガス中のH
2Sの含有量の測定は、JIS K 0804「検知管式ガス測定器」に従い、気体検知管(ガステック社製、品名:4HH,4H,4M,4L,4LL,4LK,4LB,4LT)を用いて行った。具体的には、各実施例に関しては、加熱炉内の温度を各脱硫剤に対する脱硫試験の最高温度に設定し、加熱炉内の温度が斯かる温度に到達した段階で被処理ガスを加熱炉内に供給した。そして、約10分後に加熱炉から放出される窒素ガス中のH
2Sの含有量の測定を行った。その後、加熱炉内の温度を最高温度から段階的に低下させ、最高温度未満の各試験温度について、温度の高い順位に同様の測定を行った。一方、比較例4に関しては、脱硫試験の最低温度から順に測定を行ったこと以外は、各実施例と同一条件で測定を行った。脱硫試験の温度については、下記表5に示す通りである。
そして、得られた測定結果から下記(1)式を用いて脱硫率を算出した。脱硫率については、下記表5に示す通りである。
脱硫率(%)=(被処理ガスのH
2S濃度−加熱炉から放出される窒素ガス中のH
2S濃度)÷被処理ガスのH
2S濃度×100・・・(1)
【0056】
【表5】
【0057】
各実施例と比較例4とを比較すると、比較例4は、400℃以上の被処理ガスの各温度に対して、各実施例よりも脱硫効果が低いことが認められる。つまり、上述のような前処理を行うことによって、400℃以上で水蒸気を含む被処理ガスに対して効果的な脱硫作用を有する脱硫剤を得ることができる。
また、前処理温度が高い実施例の脱硫剤の方が、400℃よりも高温側の広い温度範囲の被処理ガスに対して、脱硫作用を有するものとなる。
また、前処理を行った際の加熱温度以下および水蒸気濃度以下の被処理ガスに対して、特に有効な脱硫作用を有するものとなる。