【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
E. S. SALAMA, et al.,Biomass, lipid content, and fatty acid composition of freshwater Chlamydomonas mexicana and Scenedes,Bioprocess Biosyst. Eng.,2013年,vol.36,p.827-833
【文献】
M. SIAUT, et al.,Oil accumulation in the model green alga Chlamydomonas reinhardtii: characterization, variability be,BMC Biotechnology,2011年,vol.11, no.7,<URL: http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1472-6750-11-7.pdf>
【文献】
中西昭仁他,緑藻Chlamydomonas orbicularisを用いた海水塩存在下での油脂高生産条件の開発,日本生物工学会大会講演要旨集,2013年 8月25日,vol.65,p.64(1P-185)
【文献】
A. NAKANISHI, et al.,Development of lipid productivities under different CO2 conditions of marine microalgae Chlamydomona,Bioresource Technology,2014年,vol.152,p.247-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光合成生物は、光エネルギーを利用してCO
2を固定する生物の総称であり、特に藻類は、培養条件が良好であれば光合成効率が高い光合成生物の一種である。藻類の工業的培養は半世紀以上にわたって行われており、工業原料、燃料、飼料及びファインケミカルの原料として、並びに健康食品としての需要があり、今後も藻類生産は産業上で重要な位置を占めると考えられる。
【0003】
藻類の培養過程において、CO
2を固定化する工程を通じて各種有用な炭素成分が産生されることから、藻類の培養、及び培養による各種炭素成分の産生検討が盛んに行われてきている。
今後、化石燃料の枯渇化が懸念されることから、代替燃料の早期の探索の必要性が高まり、また、需要者の健康志向の向上から、健康維持・向上に好ましい機能性化学品への需要が増加し、益々藻類の産生する有用成分への関心が高まってきている。
【0004】
従来、藻類を用いた、炭素成分の製造方法としては、例えば、燃料や化学品原料等として有用なエタノールの製造として、特許文献1には、海水の塩分濃度で生育して細胞内に澱粉を蓄積し、暗くかつ嫌気性雰囲気に保つことにより細胞内の澱粉よりエタノールを生産するクラミドモナス属に属する微細藻類Chlamydomonas sp.MT−JE−SH−1について記載がある。上記課題を解決する手段として、(1)海水の塩分濃度で生育させて細胞内に澱粉を蓄積し、暗くかつ嫌気性雰囲気に保つことにより、細胞内の澱粉よりエタノールを生産するクラミドモナス属に属する微細藻類Chlamydomonas sp.MT−JE−SH−1、及び(2)クラミドモナス属に属する微細藻類Chlamydomonas sp.MT−JE−SH−1を海水の塩分濃度で培養して細胞内に澱粉を蓄積させた後、培養した藻体を含むスラリーを、pHを6.0〜9.0の範囲に保ちながら暗黒かつ嫌気性雰囲気に保持してエタノールを生成させる方法が記載されている。
【0005】
また、油脂成分の製造方法としては、特許文献2には、ラビリンチュラ科ラビリンチュラ属に属する4,7,10,13,16‐ドコサペンタエン酸生産菌L59株(FERM P−18987)であって、この微生物を培養し、菌体中に構成脂肪酸として4,7,10,13,16‐ドコサペンタエン酸を含む油脂を蓄積させたのち、菌体を分離し、分離した菌体から溶媒により前記油脂を抽出したのち、その抽出物を加水分解する方法が記載されている。
【0006】
非特許文献1では、海生藻類を用いた油脂産生と培養時における塩濃度の関係を検討しており、塩濃度が初期濃度で1.5Mを超える場合には、藻類の生育が抑制され、0.5〜1.0Mの場合には、高い含有率で油脂が生成されることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[藻類]
本発明で用いられる藻類は、クラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類であることに特徴を有する。
クラミドモナスは、緑藻綱クラミドモナス目(もしくはオオヒゲマワリ目)に属する単細胞の鞭毛虫からなる属である。クラミドモナスの多くは淡水産であるが、海水中に生育するものもある。本発明の海生のクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類とは、海産や汽水産及び海水塩を含む培地で生育可能なクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類を言う。
【0016】
本発明で用いられるクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類は、海生のものであれば、特に限定されない。
海水中には栄養源が存在するため、別途培地に栄養源を添加する必要がない。また、純水を用いる必要もない。更に、藻類の培養には糖源を必要としない。本発明の油脂成分を産生する方法は、コスト面においても優れている。
更に、培地中の塩濃度が高いため、培養液のコンタミネーションのおそれがない。本発明は、簡易にクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類を培養でき、大量培養が可能で、大規模に油脂成分を産生できる点でも優れている。
【0017】
上記課題解決のため、本発明者らは目的とする油脂成分を高効率で産生する藻類の探索を行い、藻類としてクラミドモナス属の藻類が好ましいことを見出した。
更に、クラミドモナス属のなかでも、高効率に油脂成分を産生することから、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)が特に好ましいことを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
[クラミドモナス・スピーシーズJSC4株]
本発明で用いられるクラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)の分離精製は以下の手順により行った。
即ち、台湾中西部の海岸で採取した汽水試料から、常法により1細胞だけを単離し、無菌化した。これを、以下に組成を示すHSM寒天培地を用いて、20℃、8〜15μmol photons/m
2/sec、12時間明期12時間暗期の光条件で培養し、2週間に1度植え継ぐことで藻株を確立し、形態観察その他よりクラミドモナス属の緑藻と同定して、JSC4株と名づけた。
【0020】
クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の藻類学的性質は以下の通りである。クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の栄養型細胞(好適生育環境、豊富な栄養条件下で旺盛に増殖する状態の細胞)の顕微鏡写真を
図1に示す。
【0021】
(形態的性質)
(1)栄養型細胞は、楕円形であり、大きさは、約10μmである。栄養型細胞において、細胞長の約等倍の鞭毛を2本有する。栄養型細胞は、運動性を有する。
(2)栄養型細胞は外囲を細胞壁に囲まれ、内部に核、葉緑体が一個存在し、その他、ミトコンドリア、ゴルジ体、液胞、油滴等が認められる。葉緑体内の基底部にピレノイドを有する。
【0022】
(生殖様式)
(1)内生胞子は栄養細胞内に二〜八個形成され、細胞内に均等に分布する。内生胞子はその細胞内に核、葉緑体を一個有する。
(2)二分裂による増殖も行う。
【0023】
(生理学・生化学性状)
(1)培養液:海産や汽水産及び海水塩を含む培養液中で生育できる。
(2)光合成能:光合成による光独立栄養生育ができる。
(3)含有色素:クロロフィルa、クロロフィルb、及び他のカロテノイド類。
(4)同化貯蔵物質:澱粉。
(5)生育温度域:15℃〜35℃(至適温度25℃)。
(6)生育pH域:pH6.0〜10.0(至適pHは7.0)。
【0024】
以上の点から、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株は、形態観察その他よりクラミドモナス属の緑藻と同定した。
クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の18S rDNA遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
図2〜
図4は、近縁クラミドモナス種の18S rDNA配列を比較したものである。網掛けは、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の分子マーカー配列である。クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の最近縁種は、Chlamydomonas debaryanaであるが、分子マーカー配列に着目すれば同一種でないことは明らかである。このように、18S rDNA配列の比較の点から、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株を新規の微細藻類株と判断した。
クラミドモナス・スピーシーズJSC4株は、2014年3月5日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)にプタベスト条約の規定下で
受託番号FERM BP−22266として国際寄託されている。
【0025】
[培地]
本発明では、クラミドモナス属に属する藻類を培養するにあたり培地を用いることが好ましい。
用いられる培地は、クラミドモナス属に属する藻類が生育する条件であれば制限はないが、海水塩を含む培地が、海水、濃縮海水、又は人工海水を含むものが油脂産生能を向上させることから、特に好ましい。
例えば、このような培地として、特に改変Bold 3N培地を好ましく用いることができる。
その他用いることのできる培地として、改変Basal培地、改変Bristol培地、BG−11培地、改変HSM(High Salt medium)培地などを挙げることができるが、高効率で油脂成分を産生できることから、改変Bold 3N培地が特に好ましい。
【0026】
本発明に用いられる培養の特徴として、窒素含有量が低い条件下での培養が挙げられる。
窒素含有量が低い条件下での培養は、増殖に伴う窒素消費による窒素欠乏状態下における培養であっても、藻体を窒素含有量が低い培地に移植させる等による培養であってもよい。
本発明において、培地中に含まれる窒素含有量は、培地中に含まれる硝酸塩の含有量を220nmの波長で測定することにより評価することができる。
培地中に含まれる窒素含有量は、この方法に限定されるものではなく、 例えばイオンセンサーや発色試薬による吸光度測定などで、硝酸塩やアン モニウム塩の含有量を測定することにより評価することもできる。
測定法は、1999年にCollosらによって報告された方法を改変して行った(文献:ジャーナル オブ アプライド ファイコロジー,11巻、179−184ページ(1999年)(Journal of Applied Phycology,Volume 11, P179−184 (1999))。
詳細な測定法は、下記実施例に記載する。
【0027】
本発明で使用された改変Bold 3N培地の組成を以下に記す。
【0029】
[海水塩]
本発明では、培地中の海水塩の濃度(培地全体に占める質量%)が、油脂成分の産生能に大きく影響を及ぼすことを見出した。よって、上記培地に最適濃度の海水塩を添加することで、油脂成分の産生効率を向上させることができる。
本発明で使用が可能な海水塩は、公知慣用の海水塩を挙げることができる。本発明で用いられる海水塩は、海水を蒸発乾固させて得られたものであっても、海水や海水の濃縮液を用いてもよいが、培地中に含まれる濃度を調整するためには、海水の固形分である海水塩を用いる方がより好ましい。
【0030】
また、人工海水も用いることができる。本発明で用いられる人工海水は、海水の組成を模して人工的に調整された粉末や濃縮液のことであり、海水を必要とする生物の飼育や培養において、入手性、再現性、廉価性などの理由から天然海水の代用となるものである。市販の人工海水を用いることができるが、市販の人工海水は塩化ナトリウムを主成分として、様々な無機塩類やpH調整剤などが含まれており、用途により水道水や蒸留水で希釈することによって海水に近い成分となるものである。
その他、上記の海水塩等でなくても、本発明の目的に適う培地として使用が可能な塩を調整して用いることができる。
【0031】
本発明では、上記海水塩濃度が、油脂産生効率に大きく影響することを見出した。
藻類の油脂産生能(mg/L/day)で評価すると、好ましい海水塩濃度として、0.5〜5質量%を挙げることができ、中でも2.0〜5.0質量%の範囲が、目的とする油脂成分の含有量も高いことから、特に好ましい。
なお、藻類の大量培養を想定した場合には、海水を用いることに利便性があるが、塩化ナトリウムを用いても、油脂産生に対して同様の効果を有し、好ましく用いることができる。
【0032】
[培養方法]
本発明において、クラミドモナス属に属する藻類の培養方法は、公知慣用の方法で行うことができる。
培養においては、本発明では前記培地を用いることができる。
本発明に用いる培養方法としては、静置培養法を用いることも可能であるが、藻類の藻体生産性と油脂成分の生産性を考えると、振盪培養法又は深部通気撹拌培養法による培養が好ましい。振盪培養は、往復振盪であっても、回転振盪であってもよい。培養温度としては、通常15〜40℃で藻体産生を行なうことが可能である。
上述のように海洋性微細藻類を、本発明の培養方法で培養すると、安定した増殖を示すばかりでなく、油脂成分の割合が高度に高いクラミドモナス藻類が得られる。
また、光条件は、光合成可能な条件下であれば特に制限はないが、連続光とすることが好ましい。
【0033】
培養終了後、粗油脂を得る方法としての培養液からの藻体の回収は、一般的な方法である遠心分離法や、濾紙及びガラスフィルターによる濾過法等により行なうことが可能である。このようにして回収した藻体は、そのままか、あるいは、凍結乾燥法、熱風乾燥法などにより乾燥藻体とすることができる。得られた藻体又はその乾燥藻体から、油脂成分を抽出することが可能である。
【0034】
本発明では、通常炭酸ガスを供給して行うことが好ましい。
炭酸ガスの供給法として、公知慣用の方法で行うことができ、例えば、培養液中に通気することにより、好適に炭酸ガスの供給を行うことができる。
【0035】
本発明で産生される油脂成分は、トリグリセリドであることに特徴を有する。
トリグリセリドは、グリセリンのアシル体であり、アルキルエステル化することにより、バイオディーゼル燃料としての利用が期待されている。
本発明においてトリグリセリドとして挙げられる化合物としては、グリセリンと脂肪酸とのエステル体であり、脂肪酸としては炭素数10〜30の高級飽和或いは不飽和脂肪酸である。
【0036】
また、本発明は、バイオディーゼル燃料として有用な高級不飽和脂肪酸の製造方法も提供する。
即ち、本発明の方法において得られる油脂成分を加水分解することにより、燃焼効率の高い高級不飽和脂肪酸を製造することができる。
燃焼効率の高い高級不飽和脂肪酸として、オレイン酸、又はリノレン酸を挙げることができ、燃焼効率が特に高いことから特にオレイン酸が好ましい。
上記高級不飽和脂肪酸を産生するための最適海水塩濃度の検討の結果、0.5〜5質量%が好ましく、特に好ましくは2.0〜5質量%の範囲を挙げることができる。
【0037】
[油脂の抽出方法]
藻体から油脂成分を抽出する方法としては、通常の油脂の抽出方法を用いることができ、特に、Folch法やBligh−Dyer法に代表されるクロロホルム/メタノール系等の有機溶媒による一般的な抽出方法を用いることが可能であるが、これらに限らない。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(培養液中の藻濃度の測定)
フォトバイオリアクターからの液体試料を、予め精密に秤量した0.45μm孔径のフィルターでろ過し、これを恒量になるまで凍結乾燥して精密に秤量した。ろ過前後のフィルター質量の差を、ろ過した液体試料量で割り、藻濃度を決定した。
【0040】
(培養液中の窒素含有量の測定)
フォトバイオリアクターからの液体試料を、0.22μm孔径のフィルターでろ過し、蒸留水で20倍に希釈した。硝酸塩含有量はUV/VIS分光光度計を用いて、220nm(OD
220)の波長における光学濃度によって決定した。
即ち、OD
220における値を、
図5に示すOD
220と硝酸塩含有量の検量線を用いて、硝酸塩濃度を換算した。
【0041】
(藻体中の油脂成分の分析)
凍結乾燥した藻体15mgを、直径0.5mmのガラスビーズ0.5gが入ったマイクロバイアルに取り、これに1mLの0.5M濃度KOH溶液を加えて、ビーズビーター式ホモジナイザーで40分破砕処理した。処理液を7mLの0.5M濃度KOH溶液で共洗いしながら50mL容耐熱ガラスビンに移して密栓し、ウオーターバス中で100℃15分間処理した。室温まで冷却後、8mLの0.7M濃度HClメタノール溶液と10mLの14%(v/v)3フッ化ホウ素メタノール溶液(シグマ・アルドリッチ社)を加えて、再度ウオーターバス中で100℃15分間処理した。室温まで冷却後、4mLの飽和食塩水と3mLのn−へキサンを加えて、ボルテックスミキサーで5分間撹拌した。撹拌した液を50mL容プラスチック遠沈管に移して7,000rpmで2分間遠心分離した。上清100μLをエッペンドルフチューブに取り、890μLのn−へキサンと10μLの内部標準物質(ペンタデカン酸メチル、シグマ社)を加えた後、10,000rpmで3分間遠心分離し、上清をGCMS分析装置で分析した。
【0042】
GCMS分析装置(GCMS−QP2010Plus、島津製作所)には、DB−23キャピラリーカラム(0.25mmφ×60m、0.15μm膜厚、アジレント・テクノロジー社)を装着し、ヘリウムガスを毎分2.3mL流した。インジェクター、イオン源及びインターフェース温度は、それぞれ230、230及び250℃に設定し、カラム温度は、試料注入後1分間は50℃で保持後に毎分25℃で175℃まで昇温し、さらに毎分4℃で230℃まで昇温後5分間保持した。上記上清1μLを注入して、スプリット比5:1でカラム分離して、脂肪酸メチルエステルの各成分を50〜500m/zのフルスキャンモードで検出し、内部標準の添加量を基に定量して、これを油脂量とした。
【0043】
(CO
2固定化能の分析)
バイオマスの濃度(g/L)の時間経過プロファイルを用いて、乾燥藻体重量当たりの時間プロットに対する増殖率を計算した。
バイオマス生産速度(P
biomass;mg/L/d)は、以下の式で求められる。
【0044】
【数1】
【0045】
式中、ΔXは、培養時間Δt(d)におけるバイオマスの濃度(mg/L)の変化量を示す。
更に、CO
2固定化速度(P
CO2;mg/L/d)は、以下の式で求められる。
【0046】
【数2】
【0047】
藻類のバイオマスの典型的な分子式として、CO
0.48H
1.83N
0.11P
0.01を用いた。
CO
2固定化率(%)は、以下の式で求められる。
【0048】
【数3】
【0049】
式中、C
CO2,influent及びC
CO2,effluentは、それぞれCO
2の流入濃度及び流出濃度を示す。
【0050】
(実施例1)
(培地の比較)
表3に組成を示した改変Basal培地、改変Bristol培地、BG−11培地、改変Bold 3N培地、改変HSM(High Salt medium)培地を各1リッター調製し、それぞれ容量1リッターのフォトバイオリアクターに仕込んでオートクレーブ滅菌した。各々のフォトバイオリアクターに、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)を藻濃度が約100mg/Lとなるよう接種し、室温、200μmol photons/m
2/secの強度の蛍光灯光を24時間連続照射、2%炭酸ガス含有空気を毎分50mL通気、スターラーで200rpm撹拌、の条件で5.7日間培養した。
各培養液の油脂成分を分析した結果を、表4に示した。藻体中の油脂含量、培養液当りの油脂生産速度とも、改変Bold 3N培地が最も高かった。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
(実施例2)
(海水塩の添加効果)
表3に組成を示した改変Bold 3N培地のSea Salt添加量を、0.5%、2%、3.5%、及び5%(w/v)とした培地を各1リッター調製し、それぞれ容量1リッターのフォトバイオリアクターに仕込んでオートクレーブ滅菌した。各々のフォトバイオリアクターに、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)を藻濃度が約100mg/Lとなるよう接種し、室温、200μmol photons/m
2/secの強度の蛍光灯光を24時間連続照射、2%炭酸ガス含有空気を毎分50mL通気、スターラーで200rpm撹拌、の条件で10日間培養した。
【0054】
いずれも、藻体の増殖とともに培養液中の硝酸塩含有量は低下し、1.9ないし2.7日間で10mg/L以下になった。その後藻体中の油脂含量と油脂生産速度は、著しく増加した。特に海水塩の添加量が2%、3.5%、及び5%添加した場合、藻体中の油脂含量は50%以上の高含量に達し、最大の油脂生産速度は140mg/L/d以上と非常に高かった。
【0055】
【表5】
【0056】
(実施例3)
(窒素欠乏条件下での培養がバイオディーゼルの品質にもたらす効果)
バイオディーゼルの品質は、飽和脂肪酸に対する不飽和脂肪酸の割合で評価される。バイオディーゼル中の飽和脂肪酸含量は、高温下での酸化抑制に影響する。その一方、不飽和脂肪酸含量は、低温下での流動性に影響する。バイオディーゼル中の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸が等量であることが、バイオディーゼルに、低温下及び高温下における良好な特性を付与するために重要である。脂肪酸のプロファイルは、培地中の栄養分、外気温、及び光強度から生じる環境ストレスに影響する。これらのストレスのうち、窒素欠乏条件は、藻類の脂肪代謝に影響する最も重要な因子である。
窒素十分条件下、及び窒素欠乏条件下で培養したクラミドモナス・スピーシーズJSC4株(Chlamydomonas sp. JSC4)の脂肪酸の組成を
図6に示す。
図6において、対照として、大豆油由来の脂肪酸の組成と比較している。クラミドモナス・スピーシーズJSC4株の培養条件は、実施例2と同様である。
図6に示すように、窒素欠乏条件下では、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株における脂肪の蓄積は、オレイン酸(C18:1)が増加傾向にあり、リノレン酸(C18:3)が減少傾向にあることが確認された。バイオディーゼルの特性によると、オレイン酸を高い割合で含有することにより、より良い酸化安定性と低い外気温下における適切な目詰まり点(CFPP)を備える。更に、欧州バイオ燃料規格(EN14214)に基づくと、リノレン酸(C18:3)の含有量は、最大12%(m/m)に限定されている。よって、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株により生産される油脂は、バイオ燃料を製造するために適切な品質を有していることが確認された。
更に、
図6に示すように、大豆油由来の脂肪酸の組成と比較して、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株は、高い飽和脂肪酸含有量と低い多価不飽和脂肪酸(n≧2)含有量示した。一般的に油脂における飽和脂肪酸の高含有は、バイオ燃料に優れた流動性と密度をもたらす。一方、多価不飽和脂肪酸の低含有は、低い外気温下での酸化安定性の増加のみならず、適切な目詰まり点の付与をもたらす。よって、油脂において適切な脂肪酸のプロファイルを有するという観点から、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株は、バイオ燃料の製造に適切な株であることが確認された。
【0057】
(実施例4)
(海水塩と窒素源の制御が、クラミドモナス・スピーシーズJSC4株のCO
2固定にもたらす効果)
異なる海水塩濃度で培養したクラミドモナス・スピーシーズJSC4株のCO
2固定化能を一定時間ごとに調べた。結果を
図7〜
図10に示す。
図7〜
図10に示すように、異なる海水塩濃度におけるCO
2固定化率とCO
2固定速度は、時間経過全般にわたり同様の傾向を示した。即ち、培養2−3日後に最高値に達した後、徐々に減少するベル型のカーブを示した。
図7〜
図10において、CO
2固定化率及びCO
2固定速度の最大値は、海水塩の添加量が2%の条件下で得られ、それぞれ54.9%及び1319.0mg/L/dであった。この優れたCO
2固定能からクラミドモナス・スピーシーズJSC4株が、工業ガスを用いたCO
2固定への実用的応用に対応しうる株であることが確認された。
【0058】
以上で説明した各実施態様における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は各実施態様によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
藻類を培養することにより油脂成分を産生する方法において、海生のクラミドモナス(Chlamydomonas)属の藻類を、海水塩を含む培地で培養することを特徴とする油脂成分を産生する方法。