(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態では、SiCエピタキシャル膜の成膜を例にとるが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、Siエピタキシャル膜の成膜にも適用可能である。
【0029】
上述したように、成膜装置のヒータを構成するカーボン材は、高温の環境下で、例えば、次の反応式にしたがって水素と反応する。
また、1000℃以上の高温環境下では、CH
4がさらに分解するなどして、C
2H
2、CH
3、C
2H
3なども発生する。
【0030】
上記のような反応が生じると、ヒータは劣化し、その寿命は短くなってしまう。そこで、ヒータと、水素ガスを含む反応ガスとを触れ合わないようにする必要がある。特に、上記反応は高温下で顕著となることから、SiCエピタキシャル膜を成膜する際には重要である。
【0031】
図1は、本実施の形態における成膜装置の模式的な断面図である。
【0032】
図1の成膜装置100は、SiC膜の成膜に用いることができる。この場合、半導体基板6としては、SiCウェハを用いることが可能である。但し、これに限られるものではなく、場合に応じて、他の材料からなるウェハなどを用いてもよい。例えば、SiCウェハに代えてSiウェハとしてもよく、また、SiO
2(石英)などの他の絶縁性基板や、
高抵抗のGaAsなどの半絶縁性基板などを用いてもよい。
【0033】
成膜装置100は、成膜室としてのチャンバ1と、チャンバ1内に配置された中空筒状のライナ2と、チャンバ1を冷却する冷却水の流路3a、3bと、チャンバ1内に不活性ガス25、35を導入するための第1の不活性ガス供給部4および第2の不活性ガス供給部34と、チャンバ1内に反応ガス26を導入するための反応ガス供給部14と、反応後の反応ガス26をチャンバ1外に排気する排気部5と、ウェハなどの半導体基板6を載置してこれを支持するサセプタ7と、支持部(図示せず)に支持されて半導体基板6を加熱する下部ヒータ8および上部ヒータ18と、チャンバ1の上下部を連結するフランジ部9と、フランジ部9をシールするパッキン10と、排気部5と配管を連結するフランジ部11と、フランジ部11をシールするパッキン12とを有する。
【0034】
ライナ2は、非常に高い耐熱性を備える材料を用いて構成される。例えば、カーボンにSiCをコートして構成された部材の使用が可能である。ライナ2の頭部31の開口部には、シャワープレート20が取り付けられている。シャワープレート20は、半導体基板6の表面に反応ガス26を均一に供給するためのガス整流板である。このシャワープレート20には、反応ガス26を供給するための貫通孔21が複数個設けられている。
【0035】
尚、ライナ2を設ける理由は、一般に、成膜装置におけるチャンバの壁がステンレス製であることによる。すなわち、成膜装置100では、このステンレス製の壁を気相反応系内に露出させないようにするためにライナ2が用いられる。ライナ2には、結晶膜形成時におけるチャンバ1の壁へのパーティクルの付着や金属汚染を防いだり、チャンバ1の壁が反応ガス26によって侵食されるのを防いだりする効果がある。
【0036】
ライナ2は、中空筒状であり、サセプタ7を内部に配置する胴部30と、胴部30より内径が小さい頭部31とを有する。胴部30内にはサセプタ7が配置される。
【0037】
サセプタ7上には半導体基板6が載置される。サセプタ7は、中空筒状の回転筒23上に取り付けられている。そして、回転筒23は、チャンバ1の底部からチャンバ1内部に伸びる回転軸(図示せず)を介して回転機構(図示せず)に接続されている。すなわち、サセプタ7は、ライナ2の胴部30内の下部ヒータ8の上方で回転可能に配置されている。したがって、気相成長反応時には、サセプタ7を回転させることにより、その上に載置された半導体基板6が高速に回転する。
【0038】
例えば、半導体基板6の上にSiCエピタキシャル膜を形成しようとする場合、反応ガス26として、シラン(SiH
4)やジクロロシラン(SiH
2Cl
2)などの珪素(Si)のソースガスと、プロパン(C
3H
8)やアセチレン(C
2H
2)などのカーボン(C)のソースガスと、キャリアガスとしての水素(H
2)ガスとを混合させた混合ガスが使用される。混合ガスは、成膜装置100の反応ガス供給部14から導入される。具体的には、ライナ2内、換言すると、反応ガス供給部14から半導体基板6の周囲に至る第1の空間(空間A)に導入される。
【0039】
ライナ2の頭部31の上部開口部には、上述したように、シャワープレート20が配設されている。シャワープレート20は、胴部30内のサセプタ7上に載置された半導体基板6の表面に反応ガス26を均一に供給する。
【0040】
ライナ2の頭部31の内径は、シャワープレート20の貫通孔21の配置と半導体基板6の大きさに対応するように決められる。これにより、シャワープレート20の貫通孔21を出た反応ガス26が拡散する無駄な空間を低減できる。つまり、成膜装置100は、シャワープレート20から供給される反応ガス26が無駄なく、効率良く半導体基板6の表面に集められるように構成される。さらに、半導体基板6の表面での反応ガス26の流れをより均一にするために、半導体基板6の周縁部分とライナ2との間の隙間ができるだけ狭くなるように構成されている。
【0041】
ライナ2を上記のような形状とすることで、半導体基板6の表面における気相成長反応を効率良く進めることができる。すなわち、反応ガス供給部14に供給される反応ガス26は、空間Aにおいて、シャワープレート20の貫通孔21を通過して整流され、下方の半導体基板6に向かってほぼ鉛直に流下する。つまり、反応ガス26は、空間Aにあるシャワープレート20から半導体基板6の表面に至る領域で、いわゆる縦フローを形成する。そして、高速回転する半導体基板6の引き付け効果により引き付けられ、半導体基板6に衝突した後は、乱流を形成すること無く、半導体基板6の上面に沿いながら水平方向にほぼ層流となって流れる。このように、半導体基板6の表面でガスが整流状態となることにより、膜厚均一性が高く高品質のエピタキシャル膜が形成される。
【0042】
上記のようにして半導体基板6の表面に供給された反応ガス26は、半導体基板6の表面で熱分解反応または水素還元反応を起こす。これにより、半導体基板6の表面にエピタキシャル膜が形成される。反応ガス26の内で気相成長反応に使用されたガス以外のものは、変性された生成ガスとなって、チャンバ1の下部に設けられた排気部5から排気される。
【0043】
図1の成膜装置100では、チャンバ1のフランジ部9と排気部5のフランジ部11に、それぞれシールのためのパッキン10、12が用いられている。このパッキン10、12には、フッ素ゴム製のものが好ましく用いられるが、その耐熱温度は約300℃である。本実施の形態では、チャンバ1を冷却する冷却水の流路3a、3bを設けることで、パッキン10、12が熱で劣化するのを防止できる。
【0044】
図1に示す成膜装置100では、ライナ2内の半導体基板6を加熱するための手段として、上部ヒータ18と下部ヒータ8が設けられている。
【0045】
上部ヒータ18は、カーボン基材の表面をSiC材料により被覆して構成された抵抗加熱ヒータであり、ライナ2とチャンバ1内壁との間に形成された第2の空間(空間B)に配置されている。そして、上部ヒータ18は、半導体基板6を効率的に加熱する点から、半導体基板6の近く、具体的には、ライナ2の胴部30と頭部31との連結部分近くに配置されている。
【0046】
下部ヒータ8も、上部ヒータ18と同様に、カーボン基材の表面をSiC材料で被覆して構成された抵抗加熱ヒータである。そして、この下部ヒータ8は、半導体基板6の載置されるサセプタ7の下方、回転筒23の内部空間である第3の空間(空間C)に配置される。
【0047】
本実施の形態の成膜装置100においては、チャンバ1の上部には、反応ガス供給部14とは別に、パージガスである不活性ガス25を空間Bに供給するための第1の不活性ガス供給部4が設けられている。空間Bには、上部ヒータ18が配置されている。第1の不活性ガス供給部4から不活性ガス25が空間Bに供給されることにより、上部ヒータ18の周囲は不活性ガス25でパージされる。そして、ライナ2の胴部30の下端と、チャンバ1の内壁の間に挟まれた部分は、第1の不活性ガス供給部4から供給された不活性ガスの排出部(第1の不活性ガス排出部37)となる。すなわち、第1の不活性ガス供給部4から不活性ガス25が供給されると、不活性ガス25は空間Bを通り、上部ヒータ18の周囲をパージしながら、第1の不活性ガス排出部37に向かって流下する。その後、不活性ガス25は排気部5から排出される。
【0048】
また、さらに、成膜装置100においては、チャンバ1の底部に第2の不活性ガス供給部34が設けられている。この第2の不活性ガス供給部34は、パージガスである不活性ガス35を、回転筒23内の空間Cに供給する。
【0049】
図2は、本実施の形態の成膜装置の回転筒部分の構造を示す模式的な断面図である。
【0050】
図1および
図2に示すように、回転筒23の底部近傍の側壁部分には、回転筒23の側壁を貫通する貫通孔が設けられている。この貫通孔は、空間Cに供給された不活性ガス35の排出部(第2の不活性ガス排出部38)を構成している。上述のように、空間Cには下部ヒータ8が配置されており、第2の不活性ガス供給部34から供給された不活性ガス35は、下部ヒータ8の周囲をパージする。その後、不活性ガス35は、第2の不活性ガス排出部38から空間Cの外に排出され、成膜中の半導体基板6に影響を及ぼすことなしに排気部5から排出される。
【0051】
不活性ガス25、35としては、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガスおよびキセノン(Xe)ガスよりなる群から選ばれる1種以上のガスを選択して使用することが可能である。この内、パージガスとしては安価で使用の容易なアルゴンガスが好ましく用いられる。
【0052】
以上述べたように、本実施の形態の成膜装置100では、反応ガス供給部14とは別にガス供給部(第1の不活性ガス供給部4、第2の不活性ガス供給部34)が設けられており、反応ガス26とは異なるタイプのガスをチャンバ1内に導入できるようになっている。これにより、パージを目的とした不活性ガス25、35をチャンバ1内の上部ヒータ18と下部ヒータ8の周囲に導入して、上部ヒータ18と下部ヒータ8とをそれぞれ不活性
ガス雰囲気下とすることができる。
【0053】
ところで、不活性ガス25によってパージされる空間Bは、第1の不活性ガス排出部37を介して空間Aと繋がっている。また、不活性ガス35によってパージされる空間Cも、第2の不活性ガス排出部38を介して空間Aと繋がっている。したがって、不活性ガス25、35によるパージが不十分であると、空間Aに供給された反応ガス26が、第1の不活性ガス排出部37や第2の不活性ガス排出部38を通って、空間Bや空間Cに入り込むおそれがある。
【0054】
そこで、空間Bや空間Cへの反応ガス26の侵入を防止するために、空間Bと空間Cの圧力を空間Aの圧力に対して陽圧とする。すなわち、空間Aの圧力(P1)と、空間Bの圧力(P2)との関係が、P1<P2となるようにする。また、空間Aの圧力(P1)と、空間Cの圧力(P3)との関係がP1<P3となるようにする。具体的には、空間A、空間Bおよび空間Cのそれぞれに圧力計を配置し、各空間の圧力を計測可能とする。そして、P1<P2およびP1<P3の関係を満足するよう、空間Bに供給する不
活性ガス25の流量と、空間Cに供給する不活性ガス35の流量とを調節する。
【0055】
このように不活性ガス25、35の流量を制御することで、空間Aに導入された反応ガス26が、空間Bや空間Cに侵入して、高温状態の上部ヒータ18や下部ヒータ8に接触するのを防止することができる。これにより、反応ガス26に含まれる水素ガスと、上部ヒータ18や下部ヒータ8を構成するSiCとが反応するのを防ぐことができるので、SiCの分解によって、下地のカーボンが露出して水素ガスと反応するのを防ぐこともできる。したがって、ヒータの寿命を長くすることができる。
【0056】
さらに、本実施の形態では、排気部付近の第4の空間(空間D)の圧力(P4)と、空間Aの圧力(P1)、空間Bの圧力(P2)および空間Cの圧力(P3)との間に下記の関係が成立するようにする。
P4<P1
P4<P2
P4<P3
【0057】
空間A、空間Bおよび空間Cに導入された各ガスは、空間Dで合流する。ここで、チャンバ1内を大気圧に近い圧力として成膜するプロセスでは、排気速度が低くなるため、チャンバ1内のガス供給部と排気部との間で圧力勾配がつきにくい状態となる。それ故、空間Bや空間Cへ不活性ガスを供給すると、空間A、空間Bおよび空間Cの各圧力が空間Dの圧力と同じになるか、または、空間A、空間Bおよび空間Cの各圧力よりも空間Dの圧力の方が高くなるおそれがある。すると、空間Dにガスが滞留し、場合によっては、排気されるべきガスがチャンバ1内に逆流する。そこで、空間Dからの排気を円滑にするため、上記関係が成立するよう各空間に供給されるガスの量を調整する。
【0058】
次に、本実施の形態の成膜方法について、SiC膜の成膜を例として、
図1に示す成膜装置100を参照しながら説明する。
【0059】
まず、半導体基板6をチャンバ1の内部に搬入してサセプタ7の上に載置する。次に、回転筒23およびサセプタ7に付随させて、サセプタ7上に載置された半導体基板6を50rpm程度で回転させる。
【0060】
上部ヒータ18および下部ヒータ8に電流を供給して作動させ、上部ヒータ18および下部ヒータ8から発せられる熱によって半導体基板6を加熱する。半導体基板6の温度が、成膜温度である1500℃〜1700℃までの間の所定の温度、例えば、1600℃に達するまで徐々に加熱する。このとき、上部ヒータ18および下部ヒータ8の温度は1800℃程度の高温の状態となる。したがって、チャンバ1の壁部分に設けた流路3a、3bに冷却水を流し、過度にチャンバ1が昇温するのを防止する。
【0061】
半導体基板6の温度が1600℃に達した後は、下部ヒータ8により1600℃近辺での緻密な温度調整がなされる。このとき、半導体基板6の温度測定は、成膜装置に付設された放射温度計(図示せず)を用いて行われる。そして、放射温度計による測定で半導体基板6の温度が所定温度に達したことを確認した後は、徐々に半導体基板6の回転数を上げていく。例えば、900rpm程度の回転数とするのがよい。
【0062】
本実施の形態においては、上述したように、空間Bや空間Cへの反応ガス26の侵入を防止するために、空間Bと空間Cの圧力を空間Aの圧力に対して陽圧とする。すなわち、空間Aの圧力(P1)と、空間Bの圧力(P2)との関係が、P1<P2となるようにする。また、空間Aの圧力(P1)と、空間Cの圧力(P3)との関係がP1<P3となるようにする。さらに、空間Dから空間A、B、Cへのガスの逆流を防ぐために、空間Dの圧力(P4)との間に、P4<P1、P4<P2、P4<P3の関係が成立するようにする。例えば、空間Aの圧力を13.33kPaとし、空間Bと空間Cの圧力をそれぞれ13.34kPaとし、空間Dの圧力を13.32kPaとすることができる。
【0063】
反応ガス供給部14から反応ガス26を供給し、シャワープレート20を介して、反応ガス26をライナ2の胴部30内に置かれた半導体基板6の上に流下させる。このとき、反応ガス26は、整流板であるシャワープレート20の貫通孔21を通過して整流され、下方の半導体基板6に向かってほぼ鉛直に流下する。すなわち、いわゆる縦フローを形成する。反応ガス26の流量は、例えば、70リットル/分とすることができる。
【0064】
反応ガス26の供給と同時に、第1の不活性ガス供給部4から、不活性ガスであるアルゴンガスを空間Bに供給して、空間Bに配置されている高温状態の上部ヒータ18が、アルゴンガスの雰囲気下に置かれるようにする。アルゴンガスの流量は、例えば、10リットル/分とすることができる。
【0065】
さらに、反応ガス26の供給と同時に、不活性ガスであるアルゴンガスも空間Cに供給する。そして、空間Cに配置されている高温状態の下部ヒータ8が、アルゴンガスの雰囲気下に置かれるようにする。アルゴンガスの流量は、例えば、10リットル/分とすることができる。
【0066】
このように、空間Bと空間Cに不活性ガスを供給して、各空間に配置された上部ヒータ18と下部ヒータ8を不活性ガス雰囲気下に置くとともに、空間Bの圧力(P2)と空間Cの圧力(P3)を空間Aの圧力(P1)より高くする。これにより、空間Aから反応ガス26が空間Bと空間Cに流入して、上部ヒータ18や下部ヒータ8に接触するのを防ぐことができる。
【0067】
図3は、
図1の成膜装置100について、空間A、B、Cの各圧力と、これらの空間に供給する各ガス流量の制御方法を模式的に説明する図である。
【0068】
図3に示すように、空間A、B、Cおよび空間Dの圧力(P4)は、それぞれ圧力計901、902、903、904によって計測可能なようになっている。
【0069】
また、空間A、B、Cに供給されるガス流量は、それぞれ流量計43、45、47によって計測される。すなわち、空間Aへは、反応ガス26の入ったタンク42から反応ガス供給部14を経て反応ガス26が供給される。このときの反応ガス26の流量は流量計43によって計測される。また、空間Bへは、不活性ガス25の入ったタンク44から第1の不活性ガス供給部4を経て不活性ガス25が供給される。このときの不活性ガス25の流量は流量計45によって計測される。さらに、空間Cへは、不活性ガス35の入ったタンク46から第2の不活性ガス供給部34を経て不活性ガス35が供給される。このときの不活性ガス35の流量は流量計47によって計測される。
【0070】
圧力計901、902、903、904と、流量計43、45、47は、制御装置41に接続しており、制御装置41によっ
て下記式の関係を満足するよう各ガスの流量と圧力が制御される。
P1<P2
P1<P3
P4<P1
P4<P2
P4<P3
【0071】
以上のようにすることで、空間Bと空間Cを不活性ガス雰囲気にできるとともに、空間Aから反応ガス26が空間Bや空間Cに流れ込むのを防ぐことができる。これにより、反応ガス26に含まれる水素ガスと、上部ヒータ18や下部ヒータ8を構成するSiCとが反応するのを防ぐことができる。したがって、SiCの分解によって、下地のカーボンが露出して水素ガスと反応するのを防ぐことができるので、ヒータの長寿命化が図れる。また、空間Dから空間A、B、Cへガスが逆流するのを防いで、スムーズに排気できるようにもなる。
【0072】
一方、空間Aでは、反応ガス26を供給することにより、ライナ2の頭部31から胴部30にかけて反応ガス26が半導体基板6に向けて流下し、半導体基板6の上で整流状態となる。そして、加熱された半導体基板6の表面に反応ガス26が到達すると、反応ガス26は熱分解反応または水素還元反応を起こして、半導体基板6の表面にSiCエピタキシャル膜を形成する。
【0073】
SiCエピタキシャル膜が所定の膜厚に達したら、反応ガス26の供給を停止する。このとき、キャリアガスである水素ガスの供給は停止せず、放射温度計(図示せず)による測定で半導体基板6が所定の温度より低くなったのを確認してから停止するようにしてもよい。一方、不活性ガス25、35の供給は、反応ガス26が空間Bや空間Cに入り込むのを防ぐため、反応ガス26の供給を停止してから終えるようにする。
【0074】
半導体基板6が所定の温度まで冷却されたのを確認した後は、チャンバ1の外部に半導体基板6を搬出する。
【0075】
以上述べたように、本実施の形態では、高温状態にある上部ヒータ18と下部ヒータ8とをそれぞれ不活性ガスの雰囲気下に置きながら、半導体基板
6上にSiCエピタキシャル膜を成膜する。この成膜方法によれば、上部ヒータ18と下部ヒータ8が、反応ガス26に含まれる水素ガスの作用で劣化するのを防ぐことができる。すなわち、上部ヒータ18と下部ヒータ8の寿命を従来より長くすることができる。
【0076】
以上、SiCエピタキシャル膜の成膜を例として、本実施の形態の成膜装置および成膜方法について説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、Siエピタキシャル膜など他のエピタキシャル膜の成膜にも適用可能である。Siエピタキシャル膜を成膜する場合、半導体基板上での温度は1100℃程度となる。したがって、上述した成膜装置100における上部ヒータ18を設けなくても成膜可能である。
【0077】
図4は、本実施の形態における成膜装置の別の例である。
【0078】
図4において、成膜装置200は、ライナ202とチャンバ201の内壁との間に形成された空間B’に上部ヒータは配置されていない。下部ヒータ208のみが、半導体基板206が載置されるサセプタ207の下方、回転筒223の内部にある空間C’内に配置されている。尚、成膜装置200は、上部ヒータを有していないこと以外は、
図1に示す成膜装置100と同様の構成となっている。
【0079】
すなわち、成膜装置200は、成膜室としてのチャンバ201と、ライナ202と、流路203a、203bと、不活性ガス225、235を導入するための第1の不活性ガス供給部204および第2の不
活性ガス供給部234と、反応ガス226を導入するための反応ガス供給部214と、排気部205と、サセプタ207と、下部ヒータ208と、フランジ部209、211と、パッキン210、212とを有する。
【0080】
中空筒状のライナ202は、サセプタ207を内部に配置する胴部230と、胴部230より内径が小さい頭部231とを有する。ライナ202の頭部231の開口部には、貫通孔221を有するシャワープレート220が取り付けられている。サセプタ207は回転筒223の上に取り付けられており、サセプタ207の上には半導体基板206が載置される。
【0081】
反応ガス供給部214から空間A’内に反応ガス226を供給すると、反応ガス226は半導体基板206の表面に到達して気相成長反応に使用される。反応ガス226の内で反応に使用されたガス以外のものは排気部205を通じて排気される。
【0082】
図4に示す成膜装置200では、半導体基板206を加熱するための手段として下部ヒータ208が設けられている。下部ヒータ208としては、カーボン基材の表面をSiC材料により被覆して構成された抵抗加熱ヒータを使用する。下部ヒータ208は、半導体基板206の載置されるサセプタ207の下方、回転筒223の内部の空間C’に配置される。
【0083】
成膜装置200には、チャンバ201の上部に、反応ガス供給部214とは別に、パージガスである不活性ガスを空間B’内に供給するための第1の不活性ガス供給部204が設けられている。また、ライナ202の胴部230の下端部分には、第1の不活性ガス排出部237が設けられている。したがって、第1の不活性ガス供給部204から不活性ガス225が供給されると、不活性ガス225は空間B’を通り、第1の不活性ガス排出部237に向かって流下した後、排気部205から排出される。
【0084】
また、成膜装置200には、チャンバ201の底部に、第2の不活性ガス供給部234が設けられている。第2の不活性ガス供給部234は、パージガスである不活性ガス235を空間C’に供給する。供給された不活性ガス235は、下部ヒータ208の周囲をパージし、回転筒223に設けられた第2の不活性ガス排出部238から空間C’の外に排出される。
【0085】
パージガスである不活性ガス225、235としては、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガスおよびキセノン(Xe)ガスよりなる群から選ばれる少なくとも1つのガスを使用することができるが、安価で使用の容易性からアルゴンガスが好ましく用いられる。
【0086】
尚、上部ヒータを有しない成膜装置200においては、空間B’に導入するガスをアルゴンガスなどの不活性ガスとせず、水素ガスとすることも可能である。ただし、その場合でも空間C’に供給するガスは、下部ヒータ208の構成部材と水素ガスとの反応を避けるためにアルゴンガスなどの不活性ガスを選択する。
【0087】
すなわち、成膜装置200では、反応ガス供給部214とは別にガスの供給部(第1の不活性ガス供給部204、第2の不活性ガス供給部234)が設けられており、反応ガス226とは異なるタイプのガスをチャンバ201内に導入することができる。これにより、パージを目的とした不活性ガス225、235を、ライナ202とチャンバ201の内壁との間の空間B’、および、下部ヒータ208の周囲の空間C’に導入して、これらの空間を不活性ガス雰囲気下とすることができる。
【0088】
このとき、不活性ガス225、235によってパージされる空間B’および空間C’は、それぞれ第1の不活性ガス排出部237および第2の不活性ガス排出部238を介して空間
A’と繋がっている。そこで、空間A’の圧力(
P5)と空間B’の圧力(
P6)について、
P5<
P6という関係を満たすようにする。また、空間A’の圧力(P5)と空間C’の圧力(
P7)についても、
P5<
P7という関係を満たすようにする。
【0089】
具体的には、空間B’に供給する不
活性ガス225の流量と、空間C’に供給する不活性ガス235の流量を制御する。これにより、空間A’に導入された反応ガス226が、空間B’や空間C’に侵入するのを防ぐことができる。つまり、反応ガス226が空間B’に侵入し、チャンバ201の壁が反応ガス226によって侵食されるのを防止することができる。また、反応ガス226が空間C’に侵入し、高温状態の下部ヒータ208に触れるのを防ぐこともできる。すなわち、反応ガス226に含まれる水素ガスと、下部ヒータ208を構成するSiC材、ひいてはカーボン材とが反応するのを防いで、下部ヒータ208の劣化を防止することが可能となる。
【0090】
さらに、成膜装置200においては、排気口付近の空間D’の圧力(P8)と、空間A’の圧力(P5)および空間B’の圧力(P6)および空間C’の圧力(P7)との間に下記の関係が成立するようにする。
P8<P5
P8<P6
P8<P7
【0091】
空間A’、空間B’および空間C’に導入された各ガスは、空間D’で合流する。ここで、チャンバ201内を大気圧に近い圧力として成膜するプロセスでは、排気速度が低くなるため、チャンバ201内のガス供給部と排気部との間で圧力勾配がつきにくい状態となる。それ故、空間B’や空間C’へ不活性ガスを供給すると、空間A’、空間B’および空間C’の各圧力が空間D’の圧力と同じになるか、または、空間A’、空間B’および空間C’の各圧力よりも空間D’の圧力の方が高くなるおそれがある。すると、空間D’にガスが滞留し、場合によっては、排気されるべきガスがチャンバ201内に逆流する。そこで、空間D’からの排気を円滑にするため、上記関係が成立するよう各空間に供給されるガスの量を調整する。
【0092】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0093】
例えば、本実施の形態の成膜装置100’は、
図5に示すように、第1のライナ31’と、第2のライナ30’と、第3のライナ32’とを有する構成とすることができる。これらのライナによって、中空筒状のライナ2が構成される。
【0094】
ライナ2を配設する目的は、本来的には、成膜装置100のチャンバ1の壁をステンレス製としていることによる。すなわち、このステンレス製の壁を気相反応を行う系内に露出させないようにするためにライナ2を設けている。また、ライナ2を設けることで、結晶膜形成時におけるチャンバ1の壁へのパーティクルの付着や金属汚染を防いだり、チャンバ1の壁が反応ガス26によって侵食されるのを防いだりする効果も得られる。
【0095】
中空筒状のライナ2は、第1のライナ31’と、第2のライナ30’と、第3のライナ32’とを有し、これらが組み合わされて構成されている。第1のライナ31’、第2のライナ30’および第3のライナ32’は、例えば、石英製とすることができる。但し、1500℃以上の高温とする必要のあるSiCエピタキシャル膜を成膜する場合には、カーボンにSiCをコートして構成された部材を用いることが好ましい。
【0096】
第1のライナ31’は、中空筒状の形状を有し、上端部でチャンバ1に固定されている。また、第1のライナ31’には、ガス整流板としてのシャワープレート20が取り付けられている。シャワープレート20には、反応ガス26を供給するための貫通孔21が複数個設けられており、半導体基板6の表面に対して反応ガス26を均一に供給できるよう構成されている。
【0097】
第1のライナ31’の内径は、シャワープレート20の貫通孔21の配置と、半導体基板6の大きさとに対応して決められる。そして、第1のライナ31’は、後述する第3のライナ32’とともに、半導体基板6に至る反応ガス26の流路を構成する。これにより、シャワープレート20の貫通孔21を通過した反応ガス26が拡散する無駄な空間を低減し、半導体基板6に向けて反応ガス26を効率的に流下させることができる。
【0098】
第2のライナ30’は、中空筒状の形状を有しており、半導体基板6の下方に配置されたチャンバ1の側壁部と底面部とが気相反応を行う系内に露出されないようにしている。第2のライナ30’の内部には、サセプタ7が取り付けられた回転筒23が配置される。
【0099】
図7は、第2のライナ30’を模式的に示す側面図である。
【0100】
第2のライナ30’の側壁の一部上端には、切り欠け部分が設けられている。この切り欠け部分は、半導体基板6の第1の搬送口56を構成する。すなわち、半導体基板6をチャンバ1に搬入する際、または、半導体基板6をチャンバ1から搬出する際には、第1の搬送口56を介して行われる。詳しくは
図6を用いて後述するが、第3のライナ32’が第2のライナ30’に支持されて、成膜が行われるときの位置から所定の位置まで持ち上げられた後、第1の搬送口56を通じて半導体基板6のチャンバ1内(より具体的には、ライナ2内)への搬入と搬出が行われる。
【0101】
第3のライナ32’は、中空筒状の形状を有し、第1のライナ31’と第2のライナ30’との間に設けられている。そして、第2のライナ30’に支持されて、サセプタ7上に載置された半導体基板6の周縁部の上部と半導体基板6の周囲とを包囲するように構成されている。また、第3のライナ32’において、チャンバ1の内壁に対向する側には、上部ヒータ18が配置されている。上部ヒータ18は、ライナ2とチャンバ1の内壁との間の空間Bに設けられた図示しない支持部に支持されている。
【0102】
成膜装置100’は、第1の搬送口56を通じてチャンバ1の内外で半導体基板6を搬出入するために、第2のライナ30’と第3のライナ32’を上昇させるための機構を有する。
図6は、第2のライナ30’と第3のライナ32’が上昇した状態を説明する模式的な断面図である。尚、反応ガス25の内で気相成長反応に使用されたガス以外のガスは、チャンバ1の下部に設けられた排気部5’から排気される。
【0103】
成膜装置100’のチャンバ1の底部には、上端が第2のライナ30’に接続する昇降棒48が設けられている。成膜室100’の下部には、昇降機構47が配置されており、昇降棒48の下端は、昇降機構47に接続している。昇降機構47は、昇降棒48の昇降動作を制御する。
【0104】
昇降機構47の制御により、昇降棒48を上昇させると、昇降棒48は第2のライナ30’をその下方側から支持して第2のライナ30’と第3のライナ32’を押し上げる。すなわち、第2のライナ30’と第3のライナ32’は、昇降棒48を通じて上昇する。これにより、
図6に示すように、第2のライナ30’に設けられた切り欠け部分が所定の位置まで上昇し、第1の搬送口56を構成するようになる。尚、このとき、第3のライナ32’の上部と、これを包囲する第1のライナ31’の下部とは、互いに離間していて、接触していない。したがって、第1のライナ31’が、第3のライナ32’の上昇動作の妨げとなることはない。
【0105】
このように、昇降機構47の制御による昇降棒48の動作によって、第2のライナ30’と第3のライナ32’を持ち上げることができる。ここで、
図5および
図6に示すように、第2のライナ30’の側壁には、第1の搬送口56が設けられている。したがって、第2のライナ30’や第3のライナ32’によって妨げられること無く、チャンバ1の側壁にある第2の搬送口57を通じて、半導体基板6をチャンバ1の外に搬出したり、半導体基板6をチャンバ1内に搬入してサセプタ7上に載置したりすることができる。
【0106】
半導体基板6のチャンバ1内への搬入およびチャンバ1外への搬出を終えた後は、昇降機構47の制御によって昇降棒48を下降させ、第2のライナ30’と第3のライナ32’を元の位置に設置することが可能である。
【0107】
尚、本実施の形態においては、第2のライナ30’と第3のライナ32’は一体化していてもよい。例えば、第1のライナ31’を上部ライナとし、第2のライナ30’と第3のライナ32’が一体化したライナを下部ライナとすることができる。上部ライナは、反応ガス供給部14の近くに配置されて、反応ガス供給部14からサセプタ7に向けて流下する反応ガスの流路となる。下部ライナの内部には、サセプタ7を支持する回転筒が配置される。また、下部ライナの一部には、第1の搬送口56に対応する開口部が設けられている。チャンバの外部には、下部ライナの昇降を制御する昇降機構が配置され、この昇降機構の制御により下部ライナを成膜が行われる位置より上昇させて、下部ライナに設けられた開口部から基板を搬送するよう構成される。一方、上述のように、第2のライナ30’と第3のライナ32’を別体とすれば、成膜装置100’のメンテナンスが容易になるという利点が得られる。
【0108】
また、本実施の形態では、
図5および
図6に示すように、上部ヒータ18の上にリフレクタ55を設けることもできる。このリフレクタ55は、上部ヒータ18からの熱を反射して、サセプタ7上に載置された半導体基板6への加熱効率を向上させるとともに、半導体基板6や上部ヒータ18の周囲における過度の温度上昇を抑制するように働く。リフレクタ55は、1枚の薄板からなるものに限られず、複数枚の薄板を適当な間隔で離間させた構造としてもよい。