特許第5744580号(P5744580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5744580鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法及び鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744580
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法及び鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20150618BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150618BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   B22F9/24 C
   B22F1/00 M
   C22C19/03 M
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-58706(P2011-58706)
(22)【出願日】2011年3月17日
(65)【公開番号】特開2012-193418(P2012-193418A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 修治
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】野本 英朗
(72)【発明者】
【氏名】山内 智央
(72)【発明者】
【氏名】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】塚原 保徳
(72)【発明者】
【氏名】川端 亮次
(72)【発明者】
【氏名】奥村 治樹
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−185312(JP,A)
【文献】 特開2010−037647(JP,A)
【文献】 特開2010−064983(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/115213(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/124625(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00 − 9/30
B22F 1/00
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸ニッケル、鉄塩及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る錯化反応液生成工程と、
該錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子スラリーを得るナノ粒子スラリー生成工程と、
を備え、
前記鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子は、ニッケル元素、鉄元素及び酸素元素の合計量が金属複合ニッケルナノ粒子100質量部に対し95質量部以上であり、鉄元素の量がニッケル元素と鉄元素の合計量100質量部に対し5〜50質量部の範囲内にあり、平均粒径が30nm〜150nmの範囲内にある、鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応液生成工程において、前記混合物に代えて、前記カルボン酸ニッケル及び前記1級アミンの混合物並びに前記鉄塩及び前記1級アミンの混合物をそれぞれ別々に100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱し、得られるそれぞれの反応液を混合する請求項1記載の鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記反応液生成工程を有機溶媒存在下で行う請求項1又は2に記載の鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記鉄塩がカルボン酸鉄(II)又はカルボン酸鉄(III)である請求項1又は2に記載の鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
遅くとも前記ナノ粒子スラリー生成工程の前に、パラジウム塩、銀塩、白金塩及び金塩からなる金属塩群から選択される1又は2以上の金属塩を加える金属塩添加工程を更に有する請求項1又は2に記載の鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子であって、ニッケル元素、鉄元素及び酸素元素の合計量が金属複合ニッケルナノ粒子100質量部に対し95質量部以上であり、鉄元素の量がニッケル元素と鉄元素の合計量100質量部に対し5〜50質量部の範囲内にあり、平均粒径が30nm〜150nmの範囲内にあり、該鉄酸化物が四酸化三鉄を主成分とすることを特徴とする鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法及び鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルナノ粒子は、銀ナノ粒子等の貴金属ナノ粒子よりも安価で、貴金属ナノ粒子よりも化学的に安定であることから、触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等への利用が期待されている。従来、ニッケルナノ粒子は、固相反応又は液相反応によって得られていた。
固相反応としては、塩化ニッケルの化学気相蒸着やギ酸ニッケル塩の熱分解等が知られている。液相反応としては、塩化ニッケル等のニッケル塩を水素化ホウ素ナトリウム等の強力な還元剤で直接還元する方法、NaOH存在下ヒドラジン等の還元剤を添加して前駆体[Ni(H2NNH22]SO4・2H2Oを形成した後に熱分解する方法、塩化ニッケル等のニッケル塩や有機配位子を含有するニッケル錯体を溶媒とともに圧力容器に入れて水熱合成する方法等が知られている。
【0003】
ニッケルナノ粒子を、上記した触媒、磁性材料、電極等の用途に好適に供するには、その粒径が例えば150nmを下回る程度に小さくかつ均一なものに制御できる必要がある。
例えば積層セラミックコンデンサの内部電極用途に用いられる場合、粒径制御は、後述する層間剥離やクラックを生じさせないうえで重要である。
【0004】
しかし、固相反応のうち化学気相蒸着による方法の場合、粒子がサブミクロンからミクロンオーダーに肥大化する。また、熱分解による方法の場合、反応温度が高いことから、粒子が凝集する。また、これらの固相反応による製造方法は、液相反応による製造方法に比べてニッケルナノ粒子の製造コストが高くなりがちである。
一方、液相反応のうち強力な還元剤を使用する方法の場合、即時にニッケルが還元されることから、所望の粒径の粒子を得るために反応を制御することが困難である。また、前駆体を経由させる方法の場合、前駆体がゲル状をなし、その後の還元反応が不均一となること、水熱合成の場合、反応温度が高いことから、いずれも凝集を避けることができない。
【0005】
液相反応の技術に関して、ニッケル前駆物質、有機アミン及び還元剤を混合した後、加熱することでニッケルナノ粒子を得る技術が開示されている(特許文献1)。この技術によれば、ニッケルナノ粒子の大きさ及び形状の制御が容易であるとされている。しかしながら、この製造方法は、テトラブチルアンモニウムホウ化水素等の強い還元剤を使用するため、還元反応の制御が難しく、粒子の大きさ等が十分に制御されたニッケルナノ粒子を得るうえで、必ずしも好適ではないと考えられる。
【0006】
ところで、積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体と内部電極を交互に積層して圧着した後、焼結して一体化したものとして得られる。このとき、例えば1,000℃を超えるセラミック誘電体の焼結温度に比べて内部電極材料であるニッケルナノ粒子の焼結温度は数百℃程度と低いため、両者の焼結時における膨張・収縮による体積変化等の挙動が異なり、層間剥離やクラックを生じるおそれがある。このような焼結時の問題に対して、上記特許文献1等の従来技術では、何ら有効な対策が講じられていない。
【0007】
金属ナノ粒子の粒径とその分布の適正化を図りながら、なおかつ金属ナノ粒子の焼結温度を高める技術として、例えば、銅粉末についてのものではあるが、金属銅微粒子又は表面を酸化処理した金属銅微粒子のスラリーに金属塩水溶液を添加し、pH調整をすることで、金属酸化物等を表面に固着させた金属銅微粒子が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この技術は、製造工程が煩雑であるため、安価なニッケルナノ粒子を得ることは難しいと考えられる。
【0008】
なお、本発明者等は、先に、ギ酸ニッケル水和物、脂肪酸アミン等のルイス塩基及び溶媒を含む溶液を加熱することによって製造される、一般式Ni(HCOO)(L)(L)(但し、L、Lはルイス塩基配位子を示し、LとLとは互いに同一であっても異なっていてもよい)で表されるニッケル錯体を開示している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−37647号公報
【特許文献2】特開2000−345201号公報
【特許文献3】特開2010−64983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、液相反応技術を利用して、粒径の大きさと分布の適正化を図るとともに適度に焼結温度が高いニッケルナノ粒子を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ニッケルナノ粒子について鋭意研究を重ねた結果、ニッケルナノ粒子の製造において、鉄を適宜な量含有させること、及びニッケル前駆物質の錯体形成反応と還元反応を完全に分離するとともに特定の加熱方法を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、カルボン酸ニッケル、鉄塩及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る錯化反応液生成工程と、
該錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子スラリーを得るナノ粒子スラリー生成工程と、
を備えている。
【0013】
また、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、前記反応液生成工程において、前記混合物に代えて、前記カルボン酸ニッケル及び前記1級アミンの混合物並びに前記鉄塩及び前記1級アミンの混合物をそれぞれ別々に加熱し、得られるそれぞれの反応液を混合してもよい。
【0014】
また、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、前記反応液生成工程を有機溶媒存在下で行ってもよい。
【0015】
また、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、前記鉄塩がカルボン酸鉄(II)又はカルボン酸鉄(III)であってもよい。
【0016】
また、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、遅くとも前記ナノ粒子スラリー生成工程の前に、パラジウム塩、銀塩、白金塩及び金塩からなる金属塩群から選択される1又は2以上の金属塩を加える金属塩添加工程を更に有していてもよい。
【0017】
また、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子は、ニッケル元素、鉄元素及び酸素元素の合計量が金属複合ニッケルナノ粒子100質量部に対し95質量部以上であり、鉄元素の量がニッケル元素と鉄元素の合計量100質量部に対し5〜50質量部の範囲内にあり、平均粒径が30nm〜150nmの範囲内にあり、該鉄酸化物が四酸化三鉄を主成分とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、カルボン酸ニッケル、鉄塩及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度で加熱して錯化反応液を得る工程と、該錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子スラリーを得る工程と、を備えるため、金属複合ニッケルナノ粒子の粒径の大きさと分布の適正化を図ることができるとともに、特に、焼結温度が高い金属複合ニッケルナノ粒子を得ることができる。焼結温度が高い金属複合ニッケルナノ粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。
【0019】
また、本発明に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子は、鉄酸化物の主成分として四酸化三鉄(Fe)を含有しているので、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】各酢酸ニッケル錯体の構造を示す図であり、(a)は二座配位を、(b)は単座配位を、(c)は外圏にカルボン酸イオンが配位した状態を、それぞれ示す。
図2】実施例1で得られたナノ粒子のSEM写真を示す図である。
図3】実施例1で得られたナノ粒子のX線回折図を示す図である。
図4】実施例1で得られたナノ粒子の熱膨張収縮の挙動を示す図である。
図5】実施例2で得られたナノ粒子のSEM写真を示す図である。
図6】実施例3で得られたナノ粒子のSEM写真を示す図である。
図7】比較例1で得られたナノ粒子のSEM写真を示す図である。
図8】比較例1で得られたナノ粒子の熱膨張収縮の挙動を示す図である。
図9】実施例5で得られたナノ粒子の熱膨張収縮の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、詳細に説明する。まず、本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子(以下、「ナノ粒子」と略称することがある)の製造方法について説明する。
【0022】
[鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法]
本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、カルボン酸ニッケル、鉄塩及び1級アミンの混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度で加熱して錯化反応液を得る錯化反応液生成工程と、該錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子スラリーを得るナノ粒子スラリー生成工程と、を備える。錯化反応液生成工程において、カルボン酸ニッケルと1級アミン及び鉄塩と1級アミンとの錯形成反応が行われてニッケル錯体及び鉄錯体を含む反応液が生成され、ナノ粒子スラリー生成工程において、ニッケル錯体及び鉄錯体並びに未反応のニッケルイオン及び鉄イオンが還元されて鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子スラリーが生成される。
【0023】
<錯化反応液生成工程>
錯化反応液生成工程は、カルボン酸ニッケル及び鉄塩と1級アミンとの錯形成反応を、中間生成物の単離精製を行わずに連続して反応を進めるワンポットで行うものであり、錯体を高い収率で得ることができ、好適である。このとき、錯化反応液生成工程において、上記混合物に代えて、(1)カルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物並びに(2)鉄塩及び1級アミンの混合物をそれぞれ別々に加熱し、得られるそれぞれの反応液を混合してもよい。
【0024】
(カルボン酸ニッケル)
カルボン酸ニッケル(カルボン酸のニッケル塩)は、カルボン酸の種類を限定するものではなく、例えば、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、また、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸ニッケルとして、非環式モノカルボン酸ニッケルを好適に用いることができ、非環式モノカルボン酸ニッケルのなかでも、酢酸ニッケルあるいは酢酸ニッケルよりも直鎖の長いプロピオン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等を用いることがより好ましい。これらの非環式モノカルボン酸ニッケルを用いることによって、例えば、得られるナノ粒子は、その形状のばらつきがより抑制され、均一な形状として形成されやすくなる。カルボン酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。
【0025】
なお、カルボン酸ニッケルに代えて、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩を用いることも考えられるが、無機塩の場合、解離(分解)が高温であるため、解離後のニッケルイオン(又はニッケル錯体)を還元する過程で更なる高い温度での加熱が必要となるため好ましくない。また、Ni(acac)2(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いることも考えられるが、これらのニッケル塩を用いると、原料コストが高くなり好ましくない。
【0026】
(鉄塩)
鉄塩としては、適宜の鉄化合物を用いることができ、例えば、ハロゲン化物であってもよく、また、カルボン酸鉄であってもよい。鉄塩として2価のカルボン酸鉄(II)又は3価のカルボン酸鉄(III)を用いることがより好ましい。鉄塩をカルボン酸ニッケルとともに用いることで、得られるナノ粒子が複合金属となり、鉄塩を用いないときに得られる金属ニッケルナノ粒子に比べて、その焼結温度が上昇する。
【0027】
ナノ粒子に含有する鉄量は、使用する鉄塩の量によって制御することができる。使用する鉄塩の量は、得られるナノ粒子中の鉄元素の量がニッケル元素と鉄元素の合計量100質量部に対し5〜50質量部の範囲内となるようにすることが好ましく、より好ましくは5〜40質量部の範囲内となるようにする。使用する鉄塩の量が過小であると、得られるナノ粒子の焼結温度を向上させることが困難となり、また、使用する鉄塩の量が過大であると、高温条件下で使用するときのナノ粒子の焼結過程においてナノ粒子の熱膨張が生じやすくなり、例えばナノ粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極用途に使用した場合、層間剥離やクラックを生じるおそれがある。
【0028】
なお、本発明のナノ粒子の熱膨張については、例えば熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)により評価した際に、特に800℃以上の温度でナノ粒子の熱膨張を確認することができる。
【0029】
(1級アミン)
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも使用できない。
【0030】
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0031】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するナノ粒子の粒径を制御することができ、特に平均粒径が50nm〜100nmの範囲内にあるナノ粒子を製造する場合において有利である。ナノ粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるナノ粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ナノ粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液での反応を効率的に進行できる。
【0032】
1級アミンは、ナノ粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。又、1級アミンは、還元反応後の生成したナノ粒子の固体成分と溶剤又は未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からも好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケルナノ粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンにおいては沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましく、炭素数が9以上が好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミンのC21N(ノニルアミン)の沸点は201℃である。1級アミンの量は、ニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケルナノ粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下程度とする。
【0033】
(有機溶媒)
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をカルボン酸ニッケル及び1級アミンと同時に混合してもよいが、カルボン酸ニッケル及び1級アミンをまず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケル原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により変化する可能性がある。例えばカルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物を加熱して反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、図1に示すように、カルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位(a)又は単座配位(b)いずれかで配位する可能性があり、更にアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造(c)をとる可能性がある。反応温度(還元温度)において均一溶液とするには少なくともA、B、C、D、E、Fの配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0035】
鉄イオンについてもニッケルイオンと類似の挙動をとり、錯体を形成するものと考えられる。このため、1級アミンは鉄イオンに対しても過剰量存在する必要がある。
【0036】
この錯形成反応は室温においても進行することができるが、反応を確実かつより効率的に行うために、100℃〜165℃の範囲内の温度で加熱を行う。この加熱は、カルボン酸ニッケルとして、例えば酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、この錯体配位子としての水分子を解離させることができ、更にその水を系外に出すことができるので効率よく錯体を形成させることができる。また、加熱温度は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下とすることがよい。
【0037】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を確実に完結させるという観点から、10分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間加熱することは、エネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0038】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応(鉄塩も同様)は、カルボン酸ニッケルと1級アミンを混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えば酢酸ニッケル四水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する反応液のシフトを観測することによって確認することができる。カルボン酸ニッケル及び鉄塩と1級アミンとの錯形成が行われた後、得られる反応液を、次に説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有する金属複合ニッケルナノ粒子が生成する。一般にカルボン酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、カルボン酸ニッケル及び鉄塩を含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオン及び鉄イオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0039】
<ナノ粒子スラリー生成工程>
本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法は、カルボン酸ニッケル及び鉄塩(あるいは、カルボン酸ニッケル又は鉄塩)と1級アミンとの錯形成反応によって得られた反応液(又は混合液)を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱する。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られるナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下程度とすることが好適である。加熱時間は特に限定するものではなく、例えば2〜10分程度とすることができる。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0040】
ナノ粒子スラリー生成工程では、マイクロ波が反応液内(又は混合液内)に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応液全体を所望の均一な温度にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、粒径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。この製造過程で、反応液中(又は混合液中)に存在する鉄錯体(又は鉄イオン)は、主にFe(四酸化三鉄)となり、ニッケル(0価)と複合化するものと考えられる。Fe(四酸化三鉄)は、X線回折装置(XRD;X‐ray
diffraction)を用いて同定できる。なお、Feは鉄酸化物として、ニッケルの置換型固溶体であるNiFe(ニッケルフェライト)という態様で存在しているとも考えられる。
【0041】
均一な粒径を有するナノ粒子を生成させるには、錯化反応液生成工程(ニッケル錯体の生成が行われる工程)でニッケル錯体を均一にかつ十分に生成させることと、ナノ粒子スラリー生成工程(マイクロ波照射によって加熱する工程)で、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元により生成するニッケル(0価)の核の同時発生・成長を行う必要がある。すなわち、錯化反応液生成工程の加熱温度を上記の特定の範囲内で調整し、ナノ粒子スラリー生成工程の加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し、ナノ粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、ナノ粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ナノ粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0042】
マイクロ波照射によって加熱して得られる金属複合ニッケルナノ粒子スラリー(ナノ粒子スラリー)を、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、金属複合ニッケルナノ粒子(ナノ粒子)が得られる。
【0043】
ナノ粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることは、本発明の好適な実施の形態である。
【0044】
<金属塩の添加>
本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法において、遅くともマイクロ波を照射する前(ナノ粒子スラリー生成工程の前)に、パラジウム塩、銀塩、白金塩及び金塩からなる金属塩群から選択される1又は2以上の金属塩を加える工程を更に有することが好ましい。
【0045】
金属塩は、いずれも塩の種類を特に限定するものではない。塩を構成する酸(酸基)として、塩酸、硝酸、硫酸及び酢酸を用いることは好適な実施の形態である。白金塩及び金塩については、例えば塩化白金酸や塩化金酸を用いることも好適な実施の形態である。
【0046】
金属塩の量は特に限定するものでないが、カルボン酸ニッケルのニッケル元素及び鉄塩の鉄元素の合計量100質量部に対して金属塩を金属基準で0.01質量部以上加えると好適である。金属塩の量の上限は特にないが、例えば発明の効果とコストのバランス等を勘案して、カルボン酸ニッケルのニッケル元素及び鉄塩の鉄元素の合計量100質量部に対して10質量部以下に設定することができる。
【0047】
本実施の形態の鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法では、マイクロ波照射によって反応液(又は混合液)を加熱することにより、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長の各々の過程を溶液全体において同時に生じさせる。このとき、上記金属塩を添加しておくことによって、先に生成するパラジウムや銀の微粒子を核として、その表面にニッケルが生成し、成長するものと考えられる。これにより、粒径・形状の整った粒子が生成し易くなる。
【0048】
<表面修飾剤>
本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法において、ナノ粒子の粒径を制御すること、且つ、ナノ粒子の分散性を向上させることを目的として表面修飾剤を添加することができる。例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等の高分子樹脂、ミリスチン酸、オレイン酸等の長鎖カルボン酸又はカルボン酸塩等を添加することができる。但し、得られるナノ粒子の表面修飾量が多いと、ニッケル電極用の導電性ペーストに用いる場合、ニッケル粒子をペーストして高温で焼成すると充填密度の減少を招き、層間剥離やクラックを生じる可能性があるため、得られるナノ粒子を洗浄した後の表面修飾量は可能な限り少ない方が好ましい。従って、表面修飾剤の添加量は、ニッケル元素及び鉄塩の鉄元素の合計量100質量部に対して0.1以上100質量部以下の範囲内とすることが好ましい。表面修飾剤は、錯化反応液生成工程におけるカルボン酸ニッケル、鉄塩及び1級アミンの混合物の段階で添加してもよく、錯化反応液生成工程で得られる錯化反応液に添加してもよいが、好ましくは、添加タイミングは錯化反応後か、金属複合ニッケルナノ粒子の生成後がよい。
【0049】
以上説明した本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法により、粒径が150nm以下、より好ましくは10〜120nmの範囲内であり、かつ均一であって、また、特に焼結温度が従来のニッケル粒子(例えば、特許文献3で開示されているニッケルナノ粒子)に比べて50℃以上(好ましくは100℃以上)高い複合ニッケルナノ粒子を得ることができる。このように焼結温度が高い複合ニッケルナノ粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。また、カルボン酸ニッケルに対する鉄塩の配合割合を高めた原料を用いて得られる、Feの比率の高い金属複合ニッケルナノ粒子は、Feの重要で多様な用途、例えば磁性流体、高品質トナー又は診断医学等に好適に用いることができる。
【0050】
[金属複合ニッケルナノ粒子]
次に、本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子について説明する。
【0051】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子は、鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子であって、ニッケル元素、鉄元素及び酸素元素の合計量が金属複合ニッケルナノ粒子100質量部に対し95質量部以上であり、鉄元素の量がニッケル元素と鉄元素の合計量100質量部に対し5〜50質量部の範囲内にあり、平均粒径が30nm〜150nmの範囲内にあり、鉄酸化物が四酸化三鉄を主成分とする。
【0052】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子は、上記した本実施の形態に係る鉄酸化物を含有する金属複合ニッケルナノ粒子の製造方法により、好適に得ることができる。
【0053】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子において、ニッケル元素、鉄元素及び酸素元素の合計量が過小であると、有機アミンが低温(200〜300℃)で揮発するため、焼結過程においてナノ粒子の質量損失が生じやすくなり、ニッケルの充填密度が低くなる。その結果、例えばナノ粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極用途に使用した場合、層間剥離やクラックを生じるおそれがある。なお、ナノ粒子の質量損失については、例えば熱質量測定(TGA)により評価することができる。従って、ニッケル元素、鉄元素及び酸素元素の合計量は、金属複合ニッケルナノ粒子100質量部に対し97質量部以上であるとより好ましく、99質量部以上であると更に好ましい。金属複合ニッケルナノ粒子のニッケル元素、鉄元素及び酸素元素を除く残部は、ニッケルナノ粒子の表面をコーティングしている有機アミンである。ナノ粒子にコーティングされた有機アミンは、ナノ粒子の安定性、分散性を向上させる。
【0054】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子において、鉄元素の割合が過小であると、ナノ粒子の焼結温度を十分に上げることが困難となり、一方、鉄元素の割合が過大であると、焼結過程においてナノ粒子の熱膨張が生じやすくなり、例えばナノ粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極用途に使用した場合、層間剥離やクラックを生じるおそれがある。従って、鉄元素の量は、ニッケル元素と鉄元素の合計量100質量部に対し好ましくは5〜40質量部である。なお、鉄、ニッケル等の各元素の量は、元素分析装置により測定することができる。
【0055】
金属複合ニッケルナノ粒子の平均粒径は、好ましくは30nm〜120nmの範囲内、より好ましくは50nm〜100nmの範囲内にある。また、金属複合ニッケルナノ粒子の平均粒径が100nm以下である場合には、特に耐焼結性(焼結温度が高く、焼結しにくいことをいう。)の効果が有効に発揮される。ここで、平均粒径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出したものの面積平均粒径である。
【0056】
また、粒度分布がシャープであることは、より好ましい態様であるから、金属複合ニッケルナノ粒子のCv値(変動係数)は0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。ここで、Cv値は、相対的な散らばりを表す指標であり、この値が小さいほど粒度分布がシャープであることを意味する。なお、Cv値は標準偏差を平均粒径で除することにより算出する。
【0057】
金属複合ニッケルナノ粒子は、鉄酸化物が四酸化三鉄を主成分とする。ここで、「鉄酸化物が四酸化三鉄を主成分とする」とは、鉄酸化物中に、四酸化三鉄が本発明の効果を奏するために十分な量で含まれていることを意味し、元素構成でいえば、ナノ粒子が鉄元素100質量部に対し酸素元素を好ましくは10〜45質量部の範囲内、より好ましくは10〜38質量部の範囲内で含むことをいう。また、別の観点でいえば、X線回折装置(XRD;X‐ray
diffraction)を用いて観測されるピークの強度比が、金属複合ナノ粒子のニッケルの回折角度(2θ)=44.50°のピーク強度を100としたときに、好ましくは、Feの最大ピーク(2θ=35.42°)強度が1〜500、FeOの最大ピークが1.0以下、α−Fe(ヘマタイト)の最大ピーク(2θ=33.15°)強度が1.0以下であり、より好ましくはFeの最大ピーク強度が5〜250、FeOの最大ピーク(2θ=54.37°)強度が0.1以下、α−Fe(ヘマタイト)の最大ピークが0.1以下であることをいう。
【0058】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子の形状は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錘状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えばナノ粒子を積層セラミックコンデンサの内部電極用途に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、より好ましくは球状がよい。ここで、ナノ粒子の形状は、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。
【0059】
本実施の形態に係る金属複合ニッケルナノ粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適である。
【実施例】
【0060】
実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。ナノ粒子の粒径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出し、その平均粒径(面積平均径)と標準偏差を求めた。Cv値(変動係数)は(標準偏差)÷(平均粒径)によって算出した。
【0061】
[実施例1]
窒素雰囲気下で、42.90gの酢酸ニッケル四水和物、8.94gの酢酸鉄(II)及び690.00gのオレイルアミンを混合した後、撹拌しながら、140℃で20分間加熱することによって、青色の反応液1を得た。UV−可視吸収スペクトル測定装置を用いて、反応液1の吸収スペクトルを測定したところ、300nm〜800nmの波長領域における吸収極大の波長は370nm、及び610nmに存在していた。反応液1の吸収スペクトルは酢酸ニッケル4水和物の吸収極大の波長である710nmに対して、低波長側にシフトしていることから錯形成反応が確認された。
【0062】
次いで反応液1に0.14gの硝酸銀を加えた後、窒素雰囲気下で、マイクロ波を照射して250℃で5分間加熱することによって、ナノ粒子スラリー1を得た。なお、以下の実施例、比較例において、「250℃で5分間加熱」とは、マイクロ波により5.0℃/秒の昇温速度で250℃まで加熱し、同温度で5分間保持したことを意味する。
【0063】
得られたナノ粒子スラリー1を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールとトルエンの体積比率が1:4の混合溶媒を用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して、ナノ粒子(金属複合ニッケルナノ粒子)1を得た。ナノ粒子は、平均粒径60nm(Cv値;0.34)球状の均一な粒子群であった。ナノ粒子1の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0064】
ナノ粒子1の同定は、粉末X線回折装置(XRD)(リガク社製、商品名;RINT2500)を用いて行った。X線解析の回折角度(2θ)=44.58°、51.84°、76.40°にそれぞれニッケルの結晶面(111)、(200)、(220)のピークを有することにより、得られた粉体が面心立方構造(fcc)を有するNiであることが確認された。また、X線解析の回折角度(2θ)=30.29°、35.66°、43.19°、57.16°、62.74°にそれぞれ四酸化三鉄(Fe)に由来するピークが確認された。このとき、Feの最大ピーク強度は、Niの最大ピーク強度100に対し、18であった。また、原料である酢酸ニッケル錯体のピークや、ニッケルの酸化物、酸化鉄(FeO)、三酸化二鉄(α-Fe)のピークは確認されなかった。得られたナノ粒子1のX線回折図を図3に示す。
【0065】
ナノ粒子1の熱膨張収縮の挙動を熱機械分析装置(TMA)(リガク社製、商品名;Thermo plus EVO−TMA8310)を用いて確認した。ナノ粒子1の5%の熱収縮における開始温度が約420℃であった。ナノ粒子1の熱膨張収縮の挙動を図4に示す。また、5%熱収縮開始温度を表1に示す。
【0066】
ナノ粒子1の組成は、元素分析装置を用いて確認した。この元素分析の結果、Ni;82.9、Fe;13.2、O;2.5、C;0.7、H;0.1(単位は質量%)であった。この分析結果より、質量換算でニッケル元素100に対し、鉄元素は15.9であり、鉄元素100に対し、酸素元素は19.0であった。
【0067】
[実施例2]
窒素雰囲気下で、14.30gの酢酸ニッケル四水和物、2.98gの酢酸鉄(II)及び225.00gのオレイルアミンを混合した後、撹拌しながら、140℃で20分間加熱することによって、反応液2を得た。
【0068】
次いで反応液2にマイクロ波を照射して250℃で5分間加熱することによってナノ粒子スラリー2を得た。
【0069】
得られたナノ粒子スラリー2を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールとトルエンの体積比率が1:4の混合溶媒を用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して、ナノ粒子2を得た。ナノ粒子2は、平均粒径120nm(Cv値;0.46)の球状の均一な粒子群であった。ナノ粒子2の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。また、得られたナノ粒子2の5%の熱収縮における開始温度は約400℃であった。また、5%熱収縮開始温度を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
実施例1における8.94gの酢酸鉄(II)の代わりに、9.81gの酢酸鉄(III)塩基性を使用したこと以外、実施例1と同様にして、反応液3を得、次いでナノ粒子スラリー3を得た後、平均粒径60nm(Cv値;0.40)の球状の均一なナノ粒子3を得た。ナノ粒子3の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図6に示す。得られたナノ粒子3の5%の熱収縮における開始温度が約420℃であることを確認した。5%熱収縮開始温度を表1に示す。
【0071】
[実施例4〜6]
表1記載の割合(質量%)で、酢酸ニッケル四水和物、酢酸鉄(II)及びオレイルアミンの各原料を仕込み、実施例1と同様の条件で調製して、ナノ粒子4〜6を得た。各ナノ粒子における平均粒径、CV値、形状及び5%熱収縮開始温度の結果を表1に示す。
【0072】
[実施例7]
窒素雰囲気下で、42.90gの酢酸ニッケル四水和物、及び490.0gのオレイルアミンを混合した後、撹拌しながら、140℃で20分間加熱することによって、青色の反応液7aを得た。
【0073】
また、窒素雰囲気下で、8.94gの酢酸鉄(II)及び200.0gのオレイルアミンを混合した後、撹拌しながら、140℃で20分間加熱することによって、茶色の反応液7bを得た。
【0074】
上記のようにして得られた反応液7a及び7bを混合し、撹拌しながら、0.14gの硝酸銀を加えた後、窒素雰囲気下で、マイクロ波を照射して250℃で5分間加熱することによって、ナノ粒子スラリー7を得た。
【0075】
実施例1と同様にして、平均粒径65nm(Cv値;0.32)の球状の均一なナノ粒子7を得た。得られたナノ粒子7の5%の熱収縮における開始温度が約415℃であった。この結果を表1に示す。
【0076】
[実施例8]
窒素雰囲気下で、42.90gの酢酸ニッケル四水和物、8.94gの酢酸鉄(II)及び予め40℃の湯浴で加熱して溶解させておいた390.00gのオレイルアミンを混合した後、撹拌しながら、140℃で20分間加熱することによって、青色の反応液8を得た。
【0077】
次いで反応液8に0.14gの硝酸銀と溶媒として300gのテトラエチレングリコールを加えた後、窒素雰囲気下で、マイクロ波を照射して250℃で5分間加熱することによって、ナノ粒子スラリー8を得た。
【0078】
得られたナノ粒子スラリー8を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールとトルエンの体積比率が1:4の混合溶媒を用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して、ナノ粒子(金属複合ニッケルナノ粒子)8を得た。ナノ粒子8は、平均粒径65nm(Cv値;0.31)球状の均一な粒子群であった。この結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
実施例1において、42.90gの酢酸ニッケル四水和物の代わりに、60.00gの酢酸ニッケル四水和物を使用したこと、及び酢酸鉄(II)を使用しなかったこと以外、実施例1と同様にして、平均粒径100nm(Cv値;0.17)の球状の均一な金属ニッケルナノ粒子を得た。得られた金属ニッケルナノ粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図7に示す。また、得られた金属ニッケルナノ粒子の5%の熱収縮における開始温度は約295℃であった。この熱膨張収縮の挙動を図8に示す。
【0080】
[参考例1]
実施例1において、マイクロ波を照射して250℃で5分間加熱したことの代わりに、マントルヒーターにより、5.0℃/秒の昇温速度で250℃まで加熱し、250℃で5分間保持したこと以外、実施例1と同様にして、平均粒径60nm(Cv値;0.55)の球状のナノ粒子を得た。得られたナノ粒子の5%の熱収縮における開始温度は約370℃であった。
【0081】
以上の結果をまとめて、表1に示す。表1中、実施例6における「擬球状」とは、表面に凹凸状の突起がある金平糖のような球状であることを意味する。また、「Fe/(Ni+Fe)」は、仕込み時のカルボン酸ニッケルのニッケル元素及び鉄塩の鉄元素の合計質量部に対する鉄塩の鉄元素の質量比(%)を示し、「Ag/(Ni+Fe)」は、仕込み時のカルボン酸ニッケルのニッケル元素及び鉄塩の鉄元素の合計質量部に対する硝酸銀の銀元素の質量比(%)を示す。さらに、「FeとNiの強度比」は、XRDを用いて観測される、金属複合ナノ粒子のニッケルの回折角度(2θ)=44.50°のピーク強度を100としたときのFeの最大ピーク(2θ=35.42°)強度を意味する。
【0082】
実施例1〜7の結果より、仕込み量におけるFe/(Ni+Fe)が高くなるほど5%熱収縮の開始温度が高くなることがわかる。また、実施例1及び実施例3〜8の結果より、硝酸銀を加えることで平均粒径が小さく均一なナノ粒子が得られることがわかる。一方、比較例1で得られた金属ニッケルナノ粒子の5%の熱収縮における開始温度は、実施例1のナノ粒子と比較して、約125℃も低かった。また、参考例1では、強力な還元剤を使用しないにも関わらず、還元工程における加熱手段として、マイクロ波照射を使用しなかったために、Cv値が0.5を超える結果となった。
【0083】
【表1】
図1
図3
図4
図8
図9
図2
図5
図6
図7