【実施例】
【0045】
実施例1:
本実施例では、特定の二本鎖DNA配列を認識可能な亜鉛フィンガー蛋白質、Zif12 (
図2、Yoshitake et al., Biosens. Bioelectron., 23, 1266-1271, 2008) とルシフェラーゼ変異体の融合蛋白質をいくつか作製した。2つのZif12の認識配列が近接している場合、2つの融合蛋白質は2本鎖DNA上で空間的に接近するため、変異体1から放出された中間体LH
2-AMPが効率的に、変異体2へと受け渡され発光反応速度が増大することを期待した(
図2)。
【0046】
Zif12と融合するホタルルシフェラーゼ変異体として、H245D、K529A 、およびK443A、さらにK529AとH245Dのアミノ酸置換を組み合わせた変異体K529A/H245D(5H)、及びK443AとH245Dのアミノ酸置換を組み合わせた変異体K443A/H245D(4H)の合計5種類を選び、特異的DNA存在下での発光活性測定を行った。また、従来のPCA法との比較のための参照実験として、ルシフェラーゼのNドメイン(1-437番目)のみもしくはCドメイン(394-550番目)のみとZif12との融合蛋白質を作製、同様に発光活性を測定した。
【0047】
以下の実施例で使われる略語は以下の通りである。
LB:1%バクトトリプトン、0.5% イーストエクストラクト、0.5% NaClを含む液体培地
LBA:100 μg/mlアンピシリンを含むLB
LBAG:100 μg/mlアンピシリン及び 1% グルコースを含むLB
LBAC:100 μg/mlアンピシリン及び 33 μg/mlクロラムフェニコールを含むLB
LBAGプレート:100 μg/mlアンピシリン及び 1% グルコースを含むLB寒天培地
LBACプレート:100 μg/mlアンピシリン及び33 μg/mlクロラムフェニコールを含むLB寒天培地
SOC:2%バクトトリプトン、0.5% イーストエクストラクト、0.05% NaCl、2.5 mM KCl、20 mMグルコース、10 mM MgCl
2を含む培地
IPTG:イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド
PBS:137 mM NaClと2.7 mM KClを含む10 mM phosphate buffer(pH 7.2)
PBST:0.1% triton-X100を含むPBS
PBSB:1 % BSAを含むPBS
TAEバッファー:1 mM EDTAを含む40 mM Tris-acetate(pH 8.3)
Extraction buffer: 50 mM Na
2HPO
4-NaH
2PO
4, 300 mM NaCl (pH 7.0)
TALON溶出液:50 mM Na
2HPO
4-NaH
2PO
4, 300 mM NaCl, 250 mM imidazole (pH 7.0)
蛋白質保存用バッファー: 60 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 0.8M 硫安, 90 mM KCl, 1 mM MgCl
2, 90 μM ZnCl
2
発光測定用バッファー:10 mM Tris-HCl, 90 mM KCl, 1mM MgCl
2, 90 μM ZnCl
2, 50 mM HEPES, 1 mM DTT, 1 % BSA, 2.5 % グリセロール(pH 7.5)
2x LH2溶液:200 mM MOPS, 20 mM MgSO
4, 600 μM ルシフェリン(LH
2), 20 mM ATP, 2 mg/ml BSA, (pH7.0)
【0048】
すべての実験において、Milli-Q (Millipore Co., Billerica, MA)にて精製した水を用いた。以下、milliQ水と表記する。通常の試薬は特に表記のあるもの以外は、シグマ(St. Louis, MO)、ナカライテスク(京都)、和光純薬(大阪)、関東化学(東京)のものを使用した。オリゴDNAはテキサスジェノミクスジャパン(東京)、またはInvitrogen(東京)にて合成した。
【0049】
Polymerase chain reaction (PCR)には、MJ mini personal thermal cycler (BIO-RAD Laboratories, Inc., Hercules, CA)を、DNA配列決定には、CEQ
TM 8000 Genetic Analysis System (Beckman Coulter, Fullerton, CA)を使用した。
【0050】
本実験で使用した酵素(AscI、NotI、XhoI、EcoRI、DpnI)は、Takara Bio(大津)、Roche Applied Science(Basel, Switzerland)、New England BioLabs(Ipswich, MA)、Promega Co.(Madison, WI)製のいずれかを使用した。
【0051】
本実験で用いた大腸菌株は以下の通りである。
DH5α: F-, Φ80dlacZΔM15, Δ(lacZYA-argF)U169, deoR, recA1, endA1, hsdR17(rK-, mK+), phoA, supE44, λ-, thi-1, gyrA96, relA1
BL21 (DE3, pLysS): F
-, hsdS
B(r
B- m
B-), gal dcm, lacY1, aphC, gor522::Tn10(Tet
r), trxB::Kan
r (DE3) pLysS(Cm
r)
【0052】
本実験で用いたオリゴDNA配列は以下の通りである。
Full-1: 5’-ggcgcgcCTCGAGCTTTCCGCCCTTCTTGGCCT-3’(配列番号1)
Full-2: 5’-ggcgcgccGCGGCCGCCggtggtggtggtagcATGGAAGACGCCAAAAACATAAAG-3’(配列番号2)
Ndomain-1: 5’-ggcgcgcCTCGAGGCGGTCAACTATGAAGAAGTG-3’(配列番号3)
Ndomain-2: 5’-ggcgcgccGCGGCCGCCggtggtggtggtagcATGGAAGACGCCAAAAACATAAAG-3’(配列番号4)=Full-2
Cdomain-1: 5’-ggcgcgcCTCGAGCTTTCCGCCCTTCTTGGCCT-3’(配列番号5)=Full-1
Cdomain-2: 5’-ggcgcgccGCGGCCGCCggtggtggtggtagcGGACCTATGATTATGTCCGG-3’(配列番号6)
M13M3: 5'-gtaaaacgacggccagt-3'(配列番号7)
M13RV: 5'-caggaaacagctatgac-3'(配列番号8)
T7term: 5'-tagttattgctcagcggtgg-3'(配列番号9)
TrxFusBack: 5'-ttcctcgacgctaacctg-3'(配列番号10)
K529A-r: 5'-ctctctgatttttcttgcgtcgagAGCtccggtaagacctttcgg-3'(配列番号11)
K529A-f: 5'-ccgaaaggtcttaccggaGCTctcgacgcaagaaaaatcagagag-3'(配列番号12)
K443A-r: 5'-gccacctgatatcctttgtatGCaattaaagacttcaagcggtc-3'(配列番号13)
K443A-f: 5'-gaccgcttgaagtctttaattGCatacaaaggatatcaggtggc-3'(配列番号14)
【0053】
ターゲットDNAの配列は以下の通りである。配列は水溶液中でヘアピン構造をとり部分二重鎖を形成する(
図2)。IRでは、ターゲット配列(Zif12認識配列)が2つ回文配列として存在しているが、SSではターゲット配列は一つのみである。
IR (inverted repeat DNA):
5'-Biotin-ggaTGGGCGCGCCCAgggttttcccTGGGCGCGCCCAtcc-3'(配列番号15)
SS (single site DNA):
5'-Biotin-ggaTGGGCGtatgctgggttttcccagcataCGCCCAtcc-3'(配列番号16)
大文字は、Zif12認識配列を示す。
【0054】
本実験で使用したプラスミドは以下の通りである。
pGEX-WT:野生型ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含む(Zako et al., FEBS Lett. 579, 4389-4394, 2005)
pGEX-H245D:ホタルルシフェラーゼ変異体H245Dの遺伝子を含む(Ayabe et al., FEBS Lett. 579, 4389-4394,2005)
pNEB193:New England BioLabs社より購入
pET32-ZiF12-EYFP : Yoshitake et al., Biosensors and Bioelectronics, 23, 1266-1271, 2008.
pET32-ZiF12-LucWT:野生型ルシフェラーゼとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucH245D:H245DとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucK443A:K443AとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucK529A:K529AとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucH245D/K443A:H245D/K443AとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucH245D/K529A:H245D/K529AとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucN:ルシフェラーゼNドメインとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucC:ルシフェラーゼCドメインとZif12との融合蛋白質発現ベクター
【0055】
基本的な実験操作
ライゲーション
ライゲーション反応は、ベクターDNA及びインサートDNAを適量混合し、この混合液と等量の2×Ligation high (TOYOBO. CO., LTD., 大阪)を混合し、16℃で30分インキュベートすることにより行った。
トランスフォーメーション
トランスフォーメーションは塩化カルシウム法で行った。プラスミド(ライゲーション反応物など)と大腸菌を混合し、氷上に30分間静置、42℃で45秒間反応させ、氷上で3分間静置した後、大腸菌液の2倍量のSOC培地を加え、37℃で20分間培養した。培養後、適当な抗生物質を含むLBプレートに塗布し、37℃で一晩培養した。
アガロースゲル電気泳動
DNA断片の確認のための電気泳動は、Agarose S (NIPPON GENE CO., LTD., 富山)を終濃度1%となるようにTAEに溶解して作製したアガロースゲルに、泳動バッファーが終濃度1×となるようにDNA溶液を調整、アプライし泳動を行った。また、その断片を切り出し精製して使用する場合には、バンド周辺のゲルをナイフで切り出し、それをWizard SV Gel & PCR Clean-up System (Promega Co., Madison, WI)を用いて精製した。
【0056】
(1)プラスミド構築の概要
野生型ルシフェラーゼもしくはH245D、Nドメイン、Cドメインの遺伝子をPCRによって増幅し、発現用プラスミドでありZif12遺伝子を有するpET32-ZiF12に組込み、Zif12との融合蛋白質発現ベクター(pET32-ZiF12-LucWT、pET32-ZiF12-LucH245D、pET32-ZiF12-LucN、pET32-ZiF12-LucC)を構築した。その後、pET32-ZiF12-LucWTもしくはpET32-ZiF12-LucH245Dにクイックチェンジ法により443番目、529番目のリジン残基をアラニンに変換することで、Zif12とK443A及びK529A、H245D/K443A及びH245D/K529Aとの融合蛋白質発現ベクター(pET32-ZiF12-LucK443A、pET32-ZiF12-LucK529A、pET32-ZiF12-LucH245D/K443A、pET32-ZiF12-LucH245D/K529A)を構築した。
【0057】
野生型ルシフェラーゼ及びH245D遺伝子をPCRによって以下の様に増幅した。
反応液組成
pGEX-WTもしくはpGEX-H245D 1 μl
プライマー Full-1 (100 nM) 0.5 μl
プライマー Full-2 (100 nM) 0.5 μl
10x ExTaq buffer (Mg2+ 20 mM) (Takara bio Inc., 大津) 10 μl
dNTP Mixture (2.5 mM each) (Takara bio Inc.) 8 μl
5 U/μl ExTaq DNA polymerase (Takara bio Inc.) 1 μl
milliQ 79 μl
【0058】
反応サイクル
1、94℃ 5 min
2、94℃ 30 sec
3、60℃ 1 min 30 sec
4、72℃ 2 min
(2から4を25サイクル)
5、72℃ 10 min
6、15℃で保持
【0059】
ルシフェラーゼNドメインもしくはCドメインをコードする遺伝子を、PCRによって以下の様に増幅した。PCR反応では、プライマーとして、Nドメインの場合にはNdomain-1及びNdomain-2、Cドメインの場合にはCdomain-1及びCdomain-2、用いたほかは、上と同様の条件で行った。
【0060】
増幅したPCR産物は、AscIで切断した後、Wizard SV Gel & PCR Clean-up System (Promega Co)を用いて精製した。また、pNEB193(New England BioLabs)についても、同じくAscIで切断しアガロースゲル電気泳動後、開環状pNEB193に相当するDNAバンドを切り取り、上記の通り精製した。AscI 処理し精製したPCR産物及び開環状pNEB193は、上記の通りライゲーション反応を行い、DH5αのトランスフォームに供し、LBAプレートで培養した。得られたコロニーは、プライマーM13RV、M13M3を用いたコロニーPCRとその後のアガロースゲル電気泳動によって解析した。
【0061】
コロニーPCR反応液組成
プライマー M13RV (5 nM) 1 μl
プライマー M13M3 (5 nM) 1 μl
2x GoTaq (Promega Co.) 5 μl
milliQ 3 μl
【0062】
コロニーPCR反応サイクル
1、94℃ 5 min
2、94℃ 30 sec
3 55℃ 30 sec
4、72℃ 1 min
(2から4を25サイクル)
5、72℃ 2 min
6、15℃で保持
【0063】
コロニーPCRによって、ルシフェラーゼ野生型及びH245D遺伝子に相当するDNAバンドが得られたクローンについては、4 ml LBA液体培地で一晩培養し、回収した大腸菌ペレットからWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System (Promega Co.)を用いてプラスミドを抽出し、その後配列を確認した。
【0064】
ルシフェラーゼ野生型及びH245D、Nドメイン、Cドメイン遺伝子が挿入されたpNEB193を、NotI及びXhoI処理によって切断し、アガロースゲル電気泳動後、ルシフェラーゼ野生型及びH245D遺伝子をコードするDNA断片を上記の通り精製した。一方、pET32-ZiF12を同様にNotI及びXhoI処理を行い、上記と同様に開環状pET32-ZiF12を精製し、ルシフェラーゼ野生型及びH245D遺伝子断片とライゲーションし、トランスフォーム、及びLBAプレートで培養後、コロニーPCRを行った。コロニーPCRは、プライマーとして、T7 Term及びTrxFusBackを用いたほかは、上記のコロニーPCRと同様の条件で行った。コロニーPCR産物は、ルシフェラーゼ野生型及びH245D遺伝子内に存在するEcoRIで切断反応後、アガロースゲル電気泳動により解析した。うち正しい切断パターンを与えたクローンを4 mlのLBA液体培地に植菌し、プラスミドを抽出し、pET32-ZiF12-LucWT及びpET32-ZiF12-LucH245Dを得た。それぞれが設計通りのDNA配列を有することは、シーケンシングによって確認した。
【0065】
得られたpET32-ZiF12-LucWT及びpET32-ZiF12-LucH245Dをテンプレートとして用いたクイックチェンジ法により、変異体K443A、K529A、H245D/K443A、H245D/K529Aを得た。以下にプライマーと反応条件を示す。
【0066】
クイックチェンジ反応条件
pET32-ZiF12-LucWTもしくはpET32-ZiF12-LucH245D 1 μl
K443-fもしくはK529A-f (10μM) 1.5 μl
K443-rもしくはK529A-r (10μM) 1.5 μl
Pfu ULTRA Buffer (Stratagene, La Jolla, CA ) 5 μl
dNTP 4 μl
Pfu ULTRA (Stratagene) 1 μl
milliQ 36 μl
【0067】
反応サイクル
1、95℃ 1 min
2、95℃ 30 s
3、55℃ 1 min
4、68℃ 8.5 min
(2から4を18サイクル)
5、16℃で保持
【0068】
得られたクイックチェンジ産物は、1 μl DpnIを加えて1.5時間、37℃で放置した後、数μlをDH5αコンピテントセルに加えて形質転換した。得られたコロニーから上記のようにプラスミド抽出を行い、pET32-ZiF12-LucK443A、pET32-ZiF12-LucK529A、pET32-ZiF12-LucH245D/K443A、及びpET32-ZiF12-LucH245D/K443Aを得た。得られたプラスミドが、設計通りのDNA配列を有することは、シーケンシングによって確認した。
【0069】
(2)蛋白質発現
得られた6種類のベクターによって、大腸菌BL21(DE3)(pLysS)の形質転換を行い、37℃でLBACプレートにて一晩培養し、得られたコロニーをLBAC培地4 mlに植菌し、37℃で一晩培養した。次にその培養液400 μlをLBAC液体培地100 mlに植菌し、37℃で、OD
600が約0.5に達したときに、IPTG 1 mMを添加し、蛋白質発現を誘導し、16℃で一晩培養した。
【0070】
(3)蛋白質精製
培養後、菌体を遠心分離操作によって回収し、10 mlのExtraction bufferに再懸濁し、氷上で超音波破砕した後、10000 x g、60 min、4℃で遠心分離し、上清(ライセート)を回収した。
今回発現させた蛋白質にはヒスチジンタグが融合されており、TALON affinity resin (Clontech Laboratories, Inc., Mountain View, CA)を用いて精製を行った。TALON affinity Resin 100 μlにライセート10 mlを添加し、室温で20 min穏やかに反転混合しながら蛋白質を結合させた。卓上遠心分離機によってresinを回収し、上清を廃棄した後、10 ml のExtraction bufferを加えて懸濁するという洗浄操作を3回繰り返した後、Elution Bufferを加えて蛋白質の溶出操作を数回行った。それぞれの溶出液はブラッドフォード法による蛋白濃度測定を行い、濃度が高いと思われるフラクションをNAP5カラム(GE Healthcare UK Ltd., Amersham Place, England)を用いて蛋白質保存用バッファーに置換し、分注して-80℃に保存した。
【0071】
金属アフィニティ精製後サンプルのSDS-PAGEにより、野生型と他変異体 (M.W. 88.3 kDa)、Nドメイン (M.W. 76.7 kDa)、Cドメイン (M.W. 44.8 kDa)とZif12との融合蛋白質が設計したサイズの通り十分な純度で調製できたことを確認した。そこでブラッドフォード法による蛋白濃度測定(プロテインアッセイ,Bio-Rad)にて最終的に各蛋白質の定量を行った。
【0072】
(4)比活性の評価
精製Zif12融合蛋白質を、終濃度10 nMになるように発光測定用バッファーで希釈し、Costar白色96穴プレート(CorningCostar Inc., Corning, NY)に50 μlずつ分注し、2x LH2溶液を50 μl添加し、1秒間の発光強度をAB-2350 ルミノメーターPHELIOS(Atto Co., 東京)を用いて測定した。それぞれの蛋白質終濃度10 nMで発光強度を測定した結果が
図3である。これによりNドメイン、Cドメインおよび変異体の発光活性は、野生型の1 %以下であることを確認し、バックグラウンドとして十分に低いことがわかった。
【0073】
(5)DNA結合活性測定
白色96穴プレートにPBS溶液で希釈したストレプトアビジン10 μg/ml を4°Cで一晩固定させた後、PBSBで2時間ブロッキングした後、PBSTで3回洗浄した。次いで10 nMのビオチン化ターゲットDNA(IR、SS)を含むPBSBを50 μlずつ分注し、1時間室温で静置した。PBSTで3回洗浄し、発光測定用バッファーで希釈した様々な濃度の精製Zif12融合野生型ルシフェラーゼを50 μlずつ分注し、1時間静置した。PBSTで3回洗浄し、発光測定用バッファーを50 μlずつ分注した後、2x LH2溶液を50 μl添加して発光強度を測定した。その結果、隣り合った2個のターゲット配列を持つIRを固定化した場合、加えた蛋白質濃度に比例して発光強度が増大したのに対し、ターゲット配列を1個のみ持つSSを固定化した場合シグナルも弱く有意な蛋白質濃度依存性が確認できなった。よって、融合蛋白質のIR特異的DNA結合能が確認できた。
【0074】
(6)2種の変異体混合による発光強度増強
白色96穴プレートにビオチン化IR DNAを上記のように固定し、発現精製して得られたZif12融合蛋白質のうち2つを選び、それぞれを単独で40 nM、あるいは終濃度20 nM(合計40 nM)になるように混合し分注し、上記のように洗浄後発光強度を測定した。発光測定は特に記さない場合基質添加後3秒後から1秒間行い、3サンプルの平均値を求めた。その結果、従来のPCA法であるNドメインとCドメインを組み合わせた場合、それぞれ単独の発光活性から予想される値(平均値)に対しわずか1.3倍の発光強度しか観測されなかった(
図4、測定時間3分)。一方、残りの組み合わせのうち、K529A/H245D (5H)+ K529A、5H + K443A、K443A/H245D(4H) + K529A、および4H + K443Aにおいて混合した場合に期待値より顕著に高い活性が観察され、それらの発光強度は5H+K529Aで期待値の7.5倍、4H+K443Aで6.9倍に達した(
図4)。また後者で得られた発光強度は、
図4で得られたPCA法の場合の1000倍以上でかつ野生型酵素を用いた場合の1%を優に超える強度であった。また活性比率の最も高い変異体ペアである5HとK529Aについてその混合比を変化させて発光強度を測定したところ、
図5に示すように混合比が1:1の時に活性が最も高くなった(反応時間3分)。このことから、活性上昇は二種類の変異体がIR-DNAにより単にプレート表面に濃縮されただけでなく、Zif12を介して二種類の変異体同士が1:1で近接したことに起因することが示唆された。さらに、5H と K529A、ならびに4H と K443Aを単に活性測定用バッファー中で1:1で混合(終濃度40 nM)して活性を測定した場合には、両者の平均の発光強度しか得られなかった(
図6)。以上より、これらの変異体ペアを用いた場合、従来のPCA法では十分な活性回復が観測されない条件においても、ターゲットDNAと結合して、互いに接近することにより酵素活性が相補され、発光強度が顕著に増大したことが示された。また予想に反して、今回の実験系においてK443A変異体はK529A変異体とほぼ同等の機能を果たすことが明かとなった。
【0075】
実施例2:
実施例1の実験は固定化したDNAに結合した変異体の活性を測定するものであったが、ホモジニアスな溶液中で抗原添加による活性変化が観察されるかどうか検討した。より高い活性変化を得るため、中間体LH
2-AMPを多く産生すると考えられるK443A/H245D変異体に対し中間体生成量が高まると期待されるL530R変異(Fujii et al., Anal. Biochem. 366, 131-136, 2007)を、さらに全ての変異体に対して安定性向上が期待される変異E354Kを導入した。すなわち、実施例2で作製したプラスミドは以下の通りである。
pET32-ZiF12-LucK443A/H245D/L530R/E354K : LucK443A/H245D/L530R/E354KとZif12との融合蛋白質発現ベクター
pET32-ZiF12-LucK529A/E354K : LucK529A/E354KとZif12との融合蛋白質発現ベクター
【0076】
(1)変異体プラスミドの構築
pET32-ZiF12-LucK443A/H245Dにクイックチェンジ法を適用し、プライマー1及び2を用いてFlucの354番目のグルタミン酸をリジンに、さらにプライマー3及び4を用いて530番目のロイシン残基をアルギニンに変異させたpET32-ZiF12-LucK443A/H245D/L530R/E354Kを構築した。また同様にしてpET32-ZiF12-LucK529AのFlucの354番目のグルタミン酸をリジンに変異させることで、pET32-ZiF12-LucK529A/E354Kを構築した。プラスミド構築の実験操作は、pET32-ZiF12-LucH245D等と同様に行った。
【0077】
プライマー1:
5'-TTCTGATTACACCCAAGGGGGATGATAAA-3'(配列番号18)
プライマー2:
5'-TTTATCATCCCCCTTGGGTGTAATCAGAA-3'(配列番号19)
プライマー3:
5’- CCGAAAGGTCTTACCGGTAAACGCGACGCAAGAAAAATCA-3'(配列番号20)
プライマー4:
5’- TGATTTTTCTTGCGTCGCGTTTACCGGTAAGACCTTTCGG-3'(配列番号21)
【0078】
(2)蛋白質の発現精製
得られた2種類のベクターを用いて、pET32-ZiF12-LucH245D等と同様に行った。
【0079】
(3)2種の変異体へのDNA添加による発光強度増強
白色Half well 96穴プレート(Costar 3693, CorningCostar Inc., Corning, NY)に、発現精製して得られたZif融合LucK529A/E354KとZif融合LucK443A/H245D/L530R/E354Kをそれぞれ単独で5 nM、 あるいはそれぞれ5 nM (合計10 nM)になるように、100 mM Tricine, 1mg/ ml BSA, pH 8.0で希釈・混合して、50μlずつ分注した。それぞれの混合液に終濃度5 nMの非ビオチン化IR DNAを混合し、対照としてIR DNAを添加しない試料を用意した。ATTO AB-2350ルミノメーターのポンプで200 mM MOPS, 20 mM MgSO
4, 2 mg/ml BSA, 75 μM LH
2, 20 mM ATP, pH 7.0に調製した基質溶液を各50μl添加し、添加直後から0.1秒ずつ40秒間発光強度を測定し、3サンプルの平均値と標準偏差を求めた。まず、それぞれの変異体単独での測定を行ったところ、Zif融合LucK529A/E354KにIR DNAを混合した場合には、何も混合しなかった場合と比較して、基質添加4秒後に約1.05倍の発光強度が観察された。またZif融合LucK443A/H245D/L530R/E354KにIRを混合した場合には、何も混合しなかった場合と比較して、発光強度の上昇は見られなかった。これらに対し、Zif融合LucK529A/E354KとZif融合LucK443A/H245D/L530R/E354Kとの混合液にIRを混合した場合には、何も混合しなかった場合と比較して、基質添加4秒後に約1.19倍の発光強度が観察された (
図7)。以上より、この変異体ペアを用いた場合、ターゲットDNA依存的に両者が接近することによって酵素活性が相補され、発光強度が顕著に増大したことが強く示唆された。
【0080】
(4)2種の変異体への抗体添加による発光強度増強
DNA添加以外の方法で溶液中で二つの融合タンパクを近接させることにより、同様の活性への効果が認められるかどうか検討した。Costar 3693プレートに、発現精製して得られたZif融合LucK529A/E354KとZif融合LucK443A/H245Dをそれぞれ10 nMになるように、100 mM Tricine, 1mg/ ml BSA, pH 8.0で希釈・混合して、50μlずつ分注した。それぞれの混合液にthioredoxin認識抗体 (Trx・Tag
TM Monoclonal Antibody, Novagen, Cat.No. 71542-3)を1/1000加えたものと、対照として抗体を加えないものを用意し、これらに200 mM MOPS, 20 mM MgSO
4, 2 mg/ml BSA, 300 μM LH
2, 20 mM ATPを含むpH 7.0に調製した溶液を各50μl添加し、添加直後から2分間の発光強度を測定し、3サンプルの平均値と標準偏差を求めた。thioredoxin認識抗体を混合した場合、混合しなかった場合と比較して基質添加から2分間の積算値で約1.18倍の発光強度が測定された(
図8)。以上より、この変異体ペアを用いた場合、融合タンパク中のpET32がコードするthioredoxin部分が抗体と結合し、互いに接近することによって酵素活性が相補され、発光強度が顕著に増大したことが強く示唆された。
【0081】
実施例3:
実施例1、2では、DNA結合ドメインZif12を相互作用ドメインとして利用していたが、DNAによって、異なる変異体同士のヘテロダイマーのみならず、同一の変異体同士のホモダイマー形成も誘導されてしまうという問題があった。そこで、ヘテロダイマーを選択的に形成できる系としてFKBP12とFRBを選び、これらのラパマイシン依存的な二量体形成の発光活性への影響を評価した。
(1)FKBP12およびFRBを融合させた変異体プラスミドの構築
ラパマイシンと結合して二量体形成が誘導されることが知られるFK506結合蛋白質12 kd断片(FKBP12)と、とFKBP-ラパマイシン結合蛋白質FRB(Choi et al., Science 273, 239-242, 1996)を、Zif12のかわりに相互作用ドメインとして使用し、溶液中で相互作用依存的な発光強度増強が得られるかどうか検討した。人工合成したFKBP12ならびにFRB (Mr Gene GMBH, Regensburg, Germany)(
図9(配列番号22及び23)、並びに
図10(配列番号24及び25))をコードするプラスミドを、制限酵素Sfi IとNot Iで処理し、FKBP12およびFRBをコードする断片を単離した。これらを同じ制限酵素で処理してそれぞれZif12を除去したpET32-ZiF12-LucK443A/H245D/L530R/E354KとpET32-ZiF12- LucK529Q/E354Kに挿入し、pET-FKBP-LucK443A/H245D/L530R/E354KならびにpET-FRBP-LucK529Q/E354Kを得た。なおプラスミド構築の実験操作は、pET32-ZiF12-LucH245D等と同様に行った。
【0082】
(2)蛋白質の発現精製
得られた2種類のベクターを用いて、pET32-ZiF12-LucH245D等と同様に行った。
【0083】
(3)FKBP12あるいはFRBを融合させた2種の変異体へのラパマイシン添加による発光強度増強
ラパマイシン依存的なFKBP12、 FRBの会合により、FKBP12融合LucK443A/H245D/L530R/E354KとLucK529Q/E354Kの近接が誘導され、その結果活性が変化するかどうか検討した。Costar 3693プレートに、FKBP融合LucK443A/H245D/L530R/E354KとFRB融合LucK529Q/E354Kをそれぞれ250 nM (合計500 nM)になるよう、100 mM Tricine, 1 mg/ml BSA, pH 8.0で希釈・混合して、50μlずつ分注した。それぞれの混合液に終濃度1%メタノール中50 nMのラパマイシン溶液を混合し、対照として終濃度1%のメタノールのみを添加した試料を用意した。ルミノメーターのポンプで200 mM MOPS, 20 mM MgSO4, 2 mg/ml BSA, 75μM LH2, 20 mM ATP, pH 7.0に調製した基質溶液を各50μl添加し、添加直後から0.1秒ずつ10秒間発光強度を測定し、3サンプルの平均値と標準偏差を求めた。FKBP融合LucK443A/H245D/L530R/E354KとFRB融合LucK529Q/E354Kとの混合液にラパマイシンを混合しておいた場合に、ラパマイシンを混合しなかった場合と比較して、反応開始0.5秒後に約2.46倍の発光強度が観察された (
図11)。以上より、この変異体ペアを用いた場合、ラパマイシンを介したFKBPとFRBの結合によって両者が接近することによって酵素活性が相補され、発光強度が顕著に増大したことが強く示唆された。この際、異なる変異体同士のヘテロダイマーのみが形成されることにより、より高い応答性が得られたものと考えられる。