(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の回転角度検出装置の実施例について説明する。
図1はその一実施例の構成を示すブロック図で、1は回転検出器であるレゾルバ本体、2は回転角度検出部を示す。回転角度検出部2おいて、3Aは正弦波側のA/D変換器、3Bは余弦波側のA/D変換器、4Aは正弦波側のフーリエ分析器、4Bは余弦波側のフーリエ分析器である。A/D変換器3A,3Bは同じ回路構成、フーリエ分析器4A,4Bは同じ回路構成である。5は合成波生成・位相制御器、6は制御器、7は励磁信号生成器である。なお、フーリエ分析器4A、4B、合成波生成・位相制御器5、励磁信号生成器7は、いずれも2相発振器を基とした回路で構成されている。
【0011】
図2はディジタル2相発振器の構成を示したもので、8が加算器、9A,9Bが積分器、10A,10Bがω係数器である。積分器9A,9Bは、レジスタ91と2相発振器の出力発散防止のための1−δ係数器92と加算器93とで構成されている。なお、2相発振器をディジタル的に表現する場合、ω係数器10A,10B、および1−δ係数器92の係数値は、ビットシフト回路と加算器を組み合わせることで実現できる。
【0012】
2相発振器自体は公知の技術であるが、簡単にその原理を説明する。積分器9A,9Bを伝達関数1/sとし、
図2の加算器8に発振の初期値として振幅Aのインパルスを入力すると、右上側の出力Z(s)は以下のように求められる。
式(1)を逆ラプラス変換すると、Z(t)=Acosωtとなる。
同様に、左下側の出力Z'(s)は以下のように求められる。
式(2)を逆ラプラス変換すると、Z'(t)=−Asinωtとなる。つまり、2相発振器においては同一の入力信号(振幅Aのインパルス)に対して、Acosωt、−Asinωtの2相の出力を同時に得ることができる。
【0013】
この原理を応用したものがフーリエ分析器4A、4Bであり、
図3にフーリエ分析器の伝達関数を示す。積分器41A,41Bは、レジスタ411と1−δ係数器412と加算器413とで構成される。42A,42Bはω係数器である。その考え方は文献(小林史典、中野道雄、「2相発振器を応用したアナログ式フーリエ分析器」、電子通信学会論文誌 別刷、Trans.IECE '80/6 Vol.63-C No.6)を参考にしている。詳しい説明は前記文献に譲るが、簡単に説明すると、
図3の系の加算器43にωの成分を有する周期信号f(t)(=f(t+nT))が入力される場合、出力は系のインパルス応答と、入力信号の畳み込み積分で表されることから、T周期後のcos側出力からは、信号のcosωtの振幅値に比例した値(一次成分)が出力し、sin側出力からは信号のsinωtの振幅値に比例した値(一次成分)が出力する。
【0014】
これにより、
図1のフーリエ分析器4A,4Bでは、それぞれの加算器43にA/D変換器3A,3Bから出力するsinθ・f(t)、cosθ・f(t)をそれぞれ入力させれば、周波数成分f(t)は無くなるので、sinθ・f(t)側のフーリエ分析器4Aからは励磁信号f(t)の振幅値に当たるsinθが得られ、cosθ・f(t)側のフーリエ分析器4Bからはcosθが得られる。また、このフーリエ分析器4A,4Bにおいて、励磁成分f(t)は除去されるので、同期検波は不要となる。なお、本発明においては、励磁信号にωの成分を有する正弦波を用いている(f(t)=sinωt)が、方形波を用いても同様の分析結果が得られることは明らかであり、その場合、励磁信号生成器7には2相発振器を用いず、分周器のみでごく簡単に構成可能であり、その出力も電圧レベルとしては“Low/High”の2種類だけであるので、例えばオープンドレイン出力端子などを使えば、プルアップするための電源電圧を変化させるだけで、信号の増幅も非常に効率的に行うことが出来る。
【0015】
フーリエ分析器4A,4Bより得られた振幅値sinθ、cosθから制御偏差ε=sin(θ-φ)を求めるのが、合成波生成・位相制御器5である。合成波生成・位相制御器5も2相発振器の応用で実現できる。合成波生成・位相制御器5の伝達関数を
図4に示す。この合成波生成・位相制御器5は、2相発振器を重ね合わせたものであり、その動作は以下のようになる。
図4において、51A,51Bは積分器、52A,52Bはω係数器、53A,53Bは加算器である。積分器51A,51Bは、レジスタ511、1−δ係数器512、加算器513で構成される。
【0016】
図4の加算器53Aに振幅Aのインパルスを入力した場合を考える。この場合、右上側の出力からはAcosωtの信号が得られる。同様に
図4の加算器53Bに振幅値Bのインパルスを入力した場合を考える。この場合、右上側の出力からは−Bsinωtの信号が得られる。よって、同じタイミングで振幅A、Bを2相発振器の系に入力した場合を考えると、右上側の出力よりそれぞれの出力の和であるAcosωt−Bsinωtを得ることができる。
【0017】
ここで
図1のブロック図において、合成波生成・位相制御器5に入力される振幅Aをsinθ、振幅Bをcosθ、角度ωtを内部推定角度φとすると、三角関数の加法定理より上記合成波出力は以下のようになる。
【0018】
この式(3)より、
図1の合成波生成・位相制御器5より出力される信号は、制御偏差εそのものとなることが判る。この制御偏差ε=sin(θ−φ)において、θはレゾルバ1の回転角度、φは内部推定角度であるため、両者が一致するよう、つまり制御偏差ε=0となるように
図1の合成波生成・位相制御器5は動作する。これにより、回転角度θ−φ=0から、θを検出することができる。
【0019】
具体的には、制御偏差εは2の補数表現で表されるため、最上位の符号ビット(MSB)で正負の判別ができ、
図4の上側の積分器51Aのレジスタ511のMSBが‘0’の場合、θ>φとなるため、
図4のω係数器52A,52Bの符号はそのままで、内部推定角度φの位相を進める。逆にMSBが‘1’の場合、θ<φとなるため、
図4のω係数器52A,52Bの符号を逆に替えて内部推定角度φの位相を遅らせる。これにより、φ=θに収束する。
【0020】
これを実際にクロック周期ΔTの概念を入れて式で表すと、以下のようになる。制御偏差εが、ε>0、つまりMSB=‘0’のときは、
となる。一方、ε<0、つまりMSB=‘1’のときは、
となる。このように、合成波生成・位相制御器5の内部で制御偏差εのフィードバック制御を行うことで、常にθ=φを得ることができる。
【0021】
また、制御器6では、合成波生成・位相制御器5で得られたMSBをアップ/ダウン信号として、内部推定角度φを表すアップ/ダウンカウンタのカウント値を同じタイミングで増減している。このため、(3)式で表される合成波生成・位相制御器5の内部推定角度φと、制御器6から出力される内部推定角度φは、常に同期している。つまり、制御器6からはレゾルバ1の回転角度θ(=φ)を表す信号が出力する。
【0022】
なお、
図1において、励磁信号生成器7は
図2に示した2相発振器そのものであり、回転検出器1の励磁側へ、ωの成分を含む励磁成分f(t)=sinωtを出力する。
【0023】
本発明の実施例では励磁信号f(t)に正弦波を使用しているが、フーリエ分析器の説明でも述べたように、方形波を使用しても同様の結果が得られる。方形波を利用する場合、分周器を利用して励磁信号を生成できるため、マイコン等DAC出力を持たない半導体装置で本発明を実現する場合においても、実現することができる。
【0024】
以上の説明及び
図2〜
図4から判るように、本発明において主要な構成要素であるフーリエ分析器4A,4B、合成波生成・位相制御器5、および励磁信号生成器7は、全て2相発振器を基とするほぼ同じ回路によって構成されている。
【0025】
2相発振器自体は、
図2からも明らかなように簡単な回路で構成されているため、本発明における回転角度検出装置を専用の半導体装置で構成する場合、A/D変換回路以外には特許文献1のような専用回路を必要とせず、ハードウェアを大幅に簡略化できる。またDSP、マイコン等で構成する場合においても、一般的にDSP、マイコン等が具備している回路で実現可能であり、複雑な処理を必要としないため、より廉価なDSP、マイコンで実現することが可能である。
【0026】
いま、励磁信号生成器7で生成される励磁信号f(t)(=sinωt)を
図2の2相発振器で生成し、フーリエ分析器4A,4Bで生成されるsinθ、cosθを
図3の2相発振器で生成し、合成波生成/位相制御器5で生成される合成波sin(θ−φ)を
図4の2相発振器で生成する場合、それらの2相発振器を構成する1−δ係数器及びω係数器はビットシフト回路と加算器の組み合わせで構成できるため、その組み合わせを切り替えることで共有させることができ、このとき、積分器を構成するレジスタは、そこにセットするデータを入れ替えることによって、そのレジスタも共有させることができる。
【0027】
図5はこのように1つの2相発振器によって、励磁信号生成器7、フーリエ分析器4A,4B、合成波生成/位相制御器5の3種の回路を実現する場合の構成を示す図である。積分器60A,60Bは、レジスタ61、1−δ係数器62、加算器63、セレクタ64で構成される。そして、1−δ係数器62は、ビットシフト回路群621、セレクタ622〜624、および加算器625で構成される。また、ω係数器70A,70Bは、ビットシフト回路群71、セレクタ72〜74、加算器75、利得が−1の乗算器76、およびセレクタ77で構成される。
【0028】
図5の回路を励磁信号生成器7として使用する場合は、積分器60A,60Bにおいて、ビットシフト回路群621の所定のビットシフト回路により得られる1−δ係数をセレクタ622〜624で選択する。そして、一方の積分器60Aのセレクタ64によって、外部入力する初期値(
図2の初期パルスAに相当する値)をレジスタ61に取り込んでおく。なお、他方の積分器60Bのセレクタ64は加算器63の出力を選択するようにする。また、ω係数器70A,70Bにおいて、ビットシフト回路群71の所定のビットシフト回路により得られるω係数をセレクタ72〜74で選択し、セレクタ77でそのω係数の極性を選択する。ω係数の値は、例えば、T=50であれば、ω=2π/Tにより、ω=0.125663706・・・≒2
-3+2
-11+2
-13により設定される。これにより、f(t)=sinωtが積分器60Bから生成される。ただし、(1−δ係数、及びω係数を決める)このビットシフト回路のセレクタの数は、3個に限られるものではなく、必要な精度で決まる。
【0029】
図5の回路をフーリエ分析器4A,4Bとして使用する場合は、フーリエ分析器4A,4Bのそれぞれを
図5の回路で構成する。そして、積分器60A,60Bにおいて、ビットシフト回路群621の所定のビットシフト回路により得られる1−δ係数をセレクタ622〜624で選択する。そして、一方の積分器60Aのセレクタ64によって、
図1のA/D変換器3A,3Bから入力する値(sinθ・f(t)、又はcosθ・f(t))を当該値が更新される毎に初期値としてレジスタ61に取り込み発振を行わせる。なお、他方の積分器60Bのセレクタ64は加算器63の出力を選択するようにする。また、ω係数器70A,70Bにおいて、ビットシフト回路群71の所定のビットシフト回路により得られるω係数をセレクタ72〜74で選択し、セレクタ77でそのω係数の極性を選択する。これにより、積分器60Aから入力信号の振幅値であるcosθ、又はsinθが生成される。
【0030】
図5の回路を合成波生成/位相制御器5として使用する場合は、積分器60A,60Bにおいて、ビットシフト回路群621の所定のビットシフト回路により得られる1−δ係数をセレクタ622〜624で選択する。そして、一方の積分器60Aのセレクタ64によって、
図1のフーリエ分析器4Aから入力する値(sinθ)を当該値が更新される毎に初期値としてレジスタ61に取り込み、他方の積分器60Bのセレクタ64によって、
図1のフーリエ分析器4Bから入力する値(cosθ)を当該値が更新される毎(つまり、前記cosθの取り込みと同時)に初期値としてレジスタ61に取り込み、発振を行わせる。また、ω係数器70A,70Bにおいて、ビットシフト回路群71の所定のビットシフト回路により得られるω係数をセレクタ72〜74で選択し、積分器60A側のレジスタ61のデータのMSBの値に応じて、セレクタ77でそのω係数の極性を選択する。これにより、積分器60Aからsin(θ−φ)が生成される。
【0031】
図5の構成では、以上の励磁信号生成器7、フーリエ分析器4A,4B、および合成波生成・位相制御器5のような3種類4つの2相発振器の動作を、時分割動作により実施する。この時分割動作では、励磁信号生成器7として動作させるときは、フーリエ分析器4A,4B、および合成波生成・位相制御器5で動作して生成した積分器60A,60Bのレジスタ61の値を図示しないメモリ(レジスタ)に一時待避させ、フーリエ分析器4A,4Bの一方として動作させるときは、フーリエ分析器4A,4Bの他方、励磁信号生成器7、および合成波生成・位相制御器5で動作して生成した積分器60A,60Bのレジスタ61の値をメモリ(レジスタ)に一時待避させ、合成波生成・位相制御器5として動作させるときは、フーリエ分析器4A,4B、および励磁信号生成器7で動作して生成した積分器60A,60Bのレジスタ61の値をメモリ(レジスタ)に一時待避させる。そして、励磁信号生成器7、フーリエ分析器4A,4B、合成波生成・位相制御器5としてそれぞれを動作させるとき、それぞれメモリの値をセレクタ64から取り込んでレジスタ61に復帰セットさせて、当該の動作を行わせる。このような手法により、積分器60A,60Bのレジスタ61をそれぞれ1個で済ませることができ、回路素子を大幅に削減できる。
【0032】
本発明の回転角度検出装置は、以上の実施例で説明した1相励磁2相出力のレゾルバ1以外にも、90度位相の異なる信号を出力する回転検出器の信号処理の実現に好適である。
【符号の説明】
【0033】
1:レゾルバ
2:回転角度検出部
3A,3B:A/D変換器、4,4A,4B:フーリエ分析器、5:合成波生成/位相制御器、6:制御器、7:励磁信号生成器
8:加算器、9A,9B:積分器、91:レジスタ、92:1−δ係数器、93:加算器、10A,10B:ω係数器
41A,41B:積分器、411:レジスタ、412:1−δ係数器、413:加算器、42A,42B:ω係数器、43:加算器
51A,51B:積分器、511:レジスタ、512:1−δ係数器、513:加算器、52A,52B:ω係数器、53A,53B:加算器
60A,60B:積分器、61:レジスタ、62:1−δ係数器、621:ビットシフト回路群、622〜624:セレクタ、625:加算器、63:加算器、64:セレクタ
70A,70B:ω係数器、71:ビットシフト回路群、72〜74:セレクタ、75:加算器、76:乗算器、77:セレクタ