特許第5863069号(P5863069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5863069
(24)【登録日】2016年1月8日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】半導体装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20160202BHJP
   H01L 21/8238 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 27/092 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 27/08 20060101ALI20160202BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20160202BHJP
【FI】
   H01L29/78 618E
   H01L27/08 321D
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 627D
   H01L29/78 613A
   H01L21/28 301B
   H01L29/44 S
   H01L29/50 M
   H01L27/08 321C
   H01L27/08 331E
   H01L29/78 301B
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-118087(P2014-118087)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-231032(P2015-231032A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2014年6月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「省エネルギー革新技術開発事業/先導研究/極低消費電力III−V族化合物半導体CMOSの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 春喜
(72)【発明者】
【氏名】横山 正史
(72)【発明者】
【氏名】高木 信一
(72)【発明者】
【氏名】竹中 充
【審査官】 宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−171456(JP,A)
【文献】 特開平08−306909(JP,A)
【文献】 特開2009−038307(JP,A)
【文献】 特開2012−023326(JP,A)
【文献】 金相賢 他13名,Ni-InGaAs合金を用いた自己整合型メタルソース・ドレイン,信学技報,日本,社団法人 電子情報通信学会,第110巻 第406号,p.1−4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/28
H01L 21/336
H01L 21/8238
H01L 27/08
H01L 27/092
H01L 29/41
H01L 29/417
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板と、
前記Si基板上に積層された第1の絶縁膜と、
前記絶縁膜上に積層された半導体層であって、III−Sb層と前記III−Sb層上に積層されたIII−As層を含む半導体層と、
前記III−As層の上面あるいは側面に形成された金属ソース・ドレイン電極、あるいは、前記III−As層と前記III−Sb層とに接合するよう形成された金属ソース・ドレイン電極と、
を備え、
前記III−As層は、n−MOSFETおよびp−MOSFETに共通のチャネル層として構成されており、
前記Si基板の裏面に形成されたバックゲート電極を備え、前記バックゲート電極に第1のバックゲート電圧を印加することで前記n−MOSFETとして動作し、前記バックゲート電極に第2のバックゲート電圧を印加することで前記p−MOSFETとして動作することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記半導体層上に積層された第2の絶縁膜と、
前記第2の絶縁膜上に形成された金属フロントゲート電極と
をさらに備え、前記フロントゲート電極に第3のゲート電圧を印加することで前記n−MOSFETとして動作し、前記フロントゲート電極に第4のゲート電圧を印加することで前記p−MOSFETとして動作することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記III−As層は、InAsであり、前記III−Sb層は、GaSb又はInGaSbであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記III−As層の膜厚は0.6 nm 以上2.5 nm 以下であり、前記III−Sb層の膜厚は0.6 nm 以上20 nm 以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記半導体層は、第2のIII−As層をさらに含み、前記III−Sb層が前記第2のIII−As層上に積層されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
Si基板上に第1の絶縁膜を積層するステップと、
InAs基板上にIII−Sbエッチストッパー層を積層するステップと、
前記III−Sbエッチストッパー層上にIII−V族半導体層を積層するステップと、
前記III−V族半導体層上に第2の絶縁膜を積層するステップと、
前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜を貼り合わせるステップと、
前記InAs基板および前記III−Sbエッチストッパー層をエッチングするステップと、
前記III−V族半導体層上に金属ソース・ドレイン電極を形成するステップと、
前記Si基板の裏面にバックゲート電極を形成するステップと、
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記III−V族半導体層上に第3の絶縁膜を積層するステップと、
前記第3の絶縁膜上に金属フロントゲート電極を積層するステップと、
をさらに有することを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記III−V族半導体層を積層するステップは、
前記III−Sbエッチストパー層上に第1のIII−As層を積層するステップと、
前記第1のIII−As層上に第2のIII−Sb層を積層するステップと、
前記第2のIII−Sb層上に第2のIII−As層を積層するステップと、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記InAs基板および前記III−Sbエッチストッパー層をエッチングするステップは、濃度36%の塩酸を用いて、前記InAs基板を前記III−Sbエッチストッパー層から選択エッチングするステップと、
濃度0.6−1.0%の硫化アンモニウム溶液を用いて、前記III−Sbエッチストッパー層を前記第1のIII−As層から選択エッチングするステップと、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持基板上に絶縁膜を介して設けられた半導体層に形成されたIII−V CMOSトランジスタである半導体装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高移動度材料を利用したCMOSトランジスタは、省消費電力デバイスや高速CPUといった高速動作回路への応用が期待されている。特に、n−MOSFETとp−MOSFETのいずれにおいても、Siより高い移動度を有するIII−V族化合物半導体を利用する構造が期待される。さらに、III−V族化合物半導体チャネル層がSi基板上に絶縁膜を介して形成されたIII−V族化合物半導体CMOSトランジスタの応用が期待される。
【0003】
図18に、従来提案されてきた、n−MOSFETとp−MOSFET、それぞれに適したチャネルを集積した、複数チャネルを有するIII−V族化合物半導体装置の構造を示す。Si基板1801上埋め込み酸化膜(BOX:Buried Oxide Layer)層1802を積層し、その上にIII−Sb層1803およびIII−As層1804が積層されている。ここで、III−Sb層1803は、High−Kゲート絶縁層1806−1、金属ゲート層1807−1を積層し形成されたゲートスタックと、金属ソース/ドレイン層1805−1が形成され、p−MOSFETを構成している。また、III−As層1804は、High−Kゲート絶縁層1806−2、金属ゲート層1807−2を積層し形成されたゲートスタックと、金属ソース/ドレイン層1805−2が形成され、n−MOSFETを構成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Takagi et al., Solid-State Electron. 51, 526 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の手法では、n−MOSFETとp−MOSFETのチャネルとなる層がIII−Sb層1803、III−As層1804のように種類が異なるため、それぞれの層を別々に形成する必要があるという課題があった(非特許文献1参照)。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、同一チャネルにIII−As層とIII−Sb層を形成し、電界制御によりチャネル極性を制御し、n−MOSFETとp−MOSFETを切り替えることができるIII−V CMOSトランジスタである半導体装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、半導体装置であって、Si基板と、前記Si基板上に積層された第1の絶縁膜と、前記絶縁膜上に積層された半導体層であって、III−Sb層と前記III−Sb層上に積層されたIII−As層を含む半導体層と、前記III−As層の上面あるいは側面に形成された金属ソース・ドレイン電極、あるいは、前記III−As層と前記III−Sb層とに接合するよう形成された金属ソース・ドレイン電極と、を備え、前記III−As層は、n−MOSFETおよびp−MOSFETに共通のチャネル層として構成されており、前記Si基板の裏面に形成されたバックゲート電極を備え、前記バックゲート電極に第1のバックゲート電圧を印加することで前記n−MOSFETとして動作し、前記バックゲート電極に第2のバックゲート電圧を印加することで前記p−MOSFETとして動作することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の半導体装置において、前記半導体層上に積層された第2の絶縁膜と、前記第2の絶縁膜上に形成された金属フロントゲート電極と、をさらに備え、前記フロントゲート電極に第3のゲート電圧を印加することで前記n−MOSFETとして動作し、前記フロントゲート電極に第4のゲート電圧を印加することで前記p−MOSFETとして動作することを特徴とする。すなわち、単一素子からなるトランジスタのチャネルの極性をpチャネルとnチャネルに制御できることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の半導体装置において、前記III−As層は、InAsであり、前記III−Sb層は、GaSb又はInGaSbであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体装置において、前記III−As層の膜厚は 0.6 nm 以上 2.5 nm 以下であり、前記III−Sb層の膜厚は 0.6 nm 以上 20 nm 以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体装置において、前記半導体層は、第2のIII−As層をさらに含み、前記III−Sb層前記第2のIII−As層上に積層されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、半導体装置の製造方法であって、Si基板上に第1の絶縁膜を積層するステップと、InAs基板上にIII−Sbエッチストッパー層を積層するステップと、前記III−Sbエッチストッパー層上にIII−V族半導体層を積層するステップと、前記III−V族半導体層上に第2の絶縁膜を積層するステップと、前記第1の絶縁膜と前記第2の絶縁膜を貼り合わせるステップと、前記InAs基板および前記III−Sbエッチストッパー層をエッチングするステップと、前記III−V族半導体層上に金属ソース・ドレイン電極を形成するステップと、前記Si基板の裏面にバックゲート電極を形成するステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の半導体装置の製造方法において、前記III−V族半導体層上に第3の絶縁膜を積層するステップと、前記第3の絶縁膜上に金属フロントゲート電極を積層するステップと、をさらに有することを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の半導体装置の製造方法において、前記III−V族半導体層を積層するステップは、前記III−Sbエッチストパー層上に第1のIII−As層を積層するステップと、前記第1のIII−As層上に第2のIII−Sb層を積層するステップと、前記第2のIII−Sb層上に第2のIII−As層を積層するステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、前記InAs基板および前記III−Sbエッチストッパー層をエッチングするステップは、濃度36%の塩酸を用いて、前記InAs基板を前記III−Sbエッチストッパー層から選択エッチングするステップと、濃度0.6−1.0%の硫化アンモニウム溶液を用いて、前記III−Sbエッチストッパー層を前記第1のIII−As層から選択エッチングするステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、III−V−OI単一チャネル構造において、バックゲート電極、および、フロントゲート電極を用いて電圧を制御することで、チャネル層に誘起される支配的なキャリアの極性を制御できるため、チャネルの極性の制御が可能となり、単一素子トランジスタにおいて、III−V CMOSトランジスタの動作が可能となるため、III−V―OI CMOS on Si構造およびそのトランジスタを少ない製造工程で作製する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態1に係る半導体装置の断面概略図である。
図2】(a)はエネルギーバンド図であり、(b)、(c)は本願発明の一実施形態に係る単一チャネルによるIII−V CMOSトランジスタの動作の概要を説明する図である。
図3】(a)、(b)は、本願発明の一実施形態に係る単一チャネルによるIII−V CMOSトランジスタの金属ソース/ドレイン接合の概念図である。
図4】(a)は、半導体の積層構造を示す図であり、(b)はバンド図であり、(c)はInAs層の実効バンドギャップのInAs層膜厚依存性の計算結果を示す図である。
図5】(a)は、半導体の積層構造を示す図であり、(b)、(c)は単一チャネル層における電圧印加時のキャリア濃度分布の計算結果を示す図である。
図6】(a)、(b)はバックゲート電圧を 0 V とした時のキャリア濃度とフロントゲート電圧の関係のInAs層とGaSb層の膜厚依存性の計算結果を示す図であり、(c)はInAs層とGaSb層の膜厚を一定とした時のキャリア濃度とフロントゲート電圧の関係のバックゲート電圧依存性の計算結果を示す図である。
図7】(a)〜(d)は、InAs層の導入による、GaSb MOS界面の改善の様子を示す図である。
図8】(a)は、本発明の一実施形態に係るIII−V CMOSトランジスタで用いるIII−V−OI on Si基板の作製手順を説明する図であり、(b)〜(f)は、III−V−OI on Si基板の作製結果を示す図である。
図9】(a)〜(d)は、それぞれの選択エッチング前後でのXPS測定結果を示す図である。
図10】Si基板上に絶縁膜を介してInAs/GaSb/InAs層を積層した半導体の断面TEM像およびEDXマッピング測定の結果を示す図である。
図11】(a)は、本願発明の一実施形態に係るバックゲート構造のInAs/GaSb III−V CMOSトランジスタの構造を示す図であり、(b)〜(e)は、そのバックゲート動作を示す図である。
図12】(a)は、本願発明の一実施形態に係るフロントゲート構造のInAs/GaSb III−V CMOSトランジスタの構造を示す図であり、(b)〜(e)は、そのフロントゲート動作を示す図である。
図13】(a)、(b)は、バックゲート動作における、InAs n−MOSFETとGaSb p−MOSFETそれぞれの実効電子移動度と実効正孔移動度を示す図である。
図14】(a)〜(c)は、InGaSb−OI基板とInAs/InGaSb/InAs−OI基板の作製結果を示す図である。
図15】(a)〜(d)は、バックゲート構造のInGaSb−OI p−MOSFETのデバイス特性を示す図である。
図16】(a)〜(d)は、バックゲート構造のInAs/InGaSb III−V CMOSトランジスタの構造とそのバックゲート動作を示す図である。
図17】(a)、(b)、バックゲート動作における、InAs n−MOSFETとInGaSb p−MOSFETそれぞれの実効電子移動度と実効正孔移動度を示す図である。
図18】従来のn−MOSFETとp−MOSFETに対して複数チャネルを有するIII−V族化合物半導体装置の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0020】
本発明では、絶縁膜上に設けられた、III−Sb層、III−As層が積層された単一チャネルを利用したIII−V CMOSトランジスタを作製可能にするため、基板貼り合わせ手法、エピタキシャル成長、選択エッチングを用いて作製したIII−V−OI(III族半導体−V族半導体−on insulator=絶縁体=Al23、絶縁膜はHfO2、La23、ZrO2等、あるいは、それらの一つを含んだ複合構造の絶縁膜でも良い)基板を用いる。また、本発明は、このIII−V−OI基板においてIII−Sb層、III−As層の膜厚を所定の厚さにすることで、単一チャネルを利用したIII−V CMOSトランジスタを、同一素子において、n−MOSFETおよびp−MOSFETとして動作させることができる。
【0021】
(実施形態1)
図1に、本発明の実施形態1に係る半導体装置の断面概略図を示す。Si基板101上にBOX層102を積層し、その上にIII−Sb層103、III−As層104が順に積層されている。それらの上にHigh−Kゲート絶縁層106、金属フロントゲート層107を積層し、ゲートスタックが形成されている。さらに、III−Sb層103、III−As層104に対して、金属ソース/ドレイン層105が形成されている。この時、ソース/ドレインの金属として、Niを用い、ゲートファーストプロセスで、自己整合型プロセスによる合金化を行うことで、InAsとGaSbチャネルまで到達するソース/ドレイン接合を形成してもよい。
【0022】
III−As層104の膜厚は 0.6 nm 以上 2.5 nm 以下であり、III−Sb層103の膜厚は 0.6 nm 以上 20 nm 以下である。膜厚の上限は後述する理由によって決まるが、膜厚の下限は、膜厚を精密に制御し、層状の薄膜を作製することができる限界が二分子層程度(0.6 nm)であることにより決まったものである。
【0023】
図2(a)に、エネルギーバンド図を示し、図2(b)、(c)に、本願発明の一実施形態に係る単一チャネルによるIII−V CMOSトランジスタの動作の概要を説明する図を示す。III−V CMOSトランジスタにおけるInAs層のバンドギャップ(図2(b)、(c))は、量子閉じ込め効果によりバルク状態時(図2(a))よりも拡大している。このように本願発明のIII−V CMOSトランジスタは、適当な電圧でチャネルの極性を制御することにより、単一チャネルでn−MOSFETとp−MOSFETの動作を行うことができる。
【0024】
図3(a)、(b)に、本願発明の一実施形態に係る単一チャネルによるIII−V CMOSトランジスタの金属ソース/ドレインの概念図を示す。InAsとGaSbのフェルミ準位ピンニングにより、InAs、GaSbのそれぞれと金属ソース/ドレインとのチャネルに対して、低いショットキー障壁を提供できる。
【0025】
図4(a)に、半導体層の積層構造を示し、図4(b)にエネルギーバンド図を示し、図4(c)にInAs層の実効バンドギャップのInAs膜厚依存性の計算結果を示す。図4(b)、(c)は、GaSb層401、InAs層402、Al23層403(図1のHigh−Kゲート絶縁層106に相当)、ゲート層404(図1の金属フロントゲート層107に相当)を順に積層し、InAs層402の膜厚TInAsを変化させた場合について実効バンドギャップを計算したものである。InAs層402の膜厚TInAsを薄くすることで、量子効果で実効的なバンドギャップが増大することがわかる。このように、InAs層の膜厚を適当な値に設計することで、InAs層をn−MOSFETのチャネルとしてだけでなく、GaSb層をp−MOSFETのチャネルとしたときの絶縁層として利用することが可能となる。
【0026】
図5(a)に、半導体層の積層構造を示し、図5(b)、(c)に単一チャネル層における電圧印加時のキャリア濃度分布の計算結果を示す。計算に用いた単一チャネル層は、バックゲート層501、Al23層502(図1のBOX層102に相当)、InAs層503、GaSb層504、InAs層505、Al23層506(図1のHigh−Kゲート絶縁層106に相当)、フロントゲート層507を順に積層したものである。各層の膜厚は、Al23層502、506が 5 nm、InAs層503、505が 1.5 nm、GaSb層504が 20 nm とした。図5(b)は、バックゲート層501に 0 V、フロントゲート層507に −1 V を印加したときの正孔の濃度分布を示し、図5(c)は、バックゲート層501に 0 V、フロントゲート層507に 1 V を印加したときの電子の濃度分布を示している。
【0027】
適当な電圧を印加することにより、図2に示したように、InAs層に電子が、GaSb層に正孔が蓄積されることがわかる。ここでは、仕事関数により計算しているため、実際の外部電圧とは異なる。ゲート電極の仕事関数を適切に選択することにより、適切な電圧でチャネル極性とデバイス動作を制御できるものと考えられる。
【0028】
図6(a)、(b)にバックゲート電圧を0 V とした時のキャリア濃度とフロントゲート電圧の関係のInAs層とGaSb層の膜厚依存性の計算結果を示し、図6(c)にInAs層とGaSb層の膜厚を一定とした時のキャリア濃度とフロントゲート電圧の関係のバックゲート電圧依存性の計算結果を示す。バックゲートに適当な電圧を印加することにより、単一チャネルにおいて、InAs層、GaSb層のそれぞれが、フロントゲートに対してn−MOSFET、p−MOSFETとして動作するように、キャリア濃度を制御し、チャネルの極性を制御することができる。このように、InAs/GaSb−OI構造の単一チャネルを利用することで、n−MOSFET、p−MOSFETとして動作可能なIII−V CMOSトランジスタの作製が可能である。
【0029】
図7(a)〜(d)に、InAs層の導入による、GaSb MOS界面の改善の様子を示す。1.5 nm の膜厚のInAs層を挿入することにより、GaSbのミッドギャップ付近から伝導電子帯での界面準位の改善が確認された。そして、InAs/GaSb−OI構造においては、フロントゲート側だけでなくバックゲート側の界面も重要であるため、BOX層側にもInAs層を導入し、InAs/GaSb/InAs−OI構造としている。
【0030】
図8(a)に、本発明の一実施形態に係るIII−V CMOSトランジスタで用いるIII−V−OI on Si基板の作製手順を説明する図を示す。また、図8(b)〜(f)に、III−V−OI on Si基板の作製結果を示す。先ず、InAs(100)基板808上に、GaSb層807、InAs層806、GaSb層805、InAs層804、Al23層803を順に積層する。これとは別に、Si(100)基板801上にAl23層802を積層する。
【0031】
次に、InAs(100)基板808を含む半導体層上に設けられたAl23層803をSi(100)基板801上に設けられたAl23層802と貼り合わせ、InAs(100)基板808、GaSb層807は選択エッチングする。ここで、III−V−OI on Si基板の作製プロセスにおけるエッチングについて説明する。選択エッチングは、塩酸と硫化アンモニウム溶液を用いて行う。まず、硫酸過水でInAs(100)基板808を薄層化し、さらに、濃度36%の塩酸を用いて、InAs(100)基板808をGaSbエッチストッパー層であるGaSb層807から、選択エッチングする。このプロセスは、GaSb単層の場合と同じである。Ga組成が1であれば、GaSb層807は、塩酸でほとんどエッチングされないため、InAs(100)基板808との選択エッチングは高い選択比が得られる。但し、InGaSbのようにInが入ると、塩酸での選択比は落ちるため注意が必要である。
【0032】
エッチストッパー層のGaSb層807をInAs層806から選択エッチングする場合は、濃度0.6−1.0%の硫化アンモニウム溶液を利用する。アルカリ系溶液であれば、Sb系のエッチングレートがAs系より早いため、選択エッチングが可能である。ただし、例えば、濃度29%のアンモニア水では、As系のエッチングレートも早いため、InAs層が薄い場合、その選択エッチングに利用するのは困難である。そのため、InAs層806が 1−2 nm 程度の薄い場合は、InAs層806がほとんどエッチングされず、InAs層806表面の硫黄終端が可能な濃度0.6−1.0%の硫化アンモニウム溶液を利用する必要がある。
【0033】
図9(a)〜(d)に、それぞれの選択エッチング前後でのXPS(X線光電子分光分析:X−ray Photoelectron Spectroscopy)測定結果を示す。塩酸と硫化アンモニウム溶液を利用することで、InAsとGaSbの選択エッチングがなされたことを示している。
【0034】
このようにして、基板貼り合わせ手法と、選択エッチングを利用することにより、2インチ基板サイズで、InAs/GaSb/InAs層をSi基板上に絶縁膜(Al23)を介して集積することができる。尚、図1のIII−As層104はInAs層806、III−Sb層103はGaSb層805、BOX層102がAl23層802、803に対応する。基板の大きさはこれよりも大きくても小さくてもよい。
【0035】
図10に、Si基板上に絶縁膜を介してInAs/GaSb/InAs層を積層した半導体の断面TEM像およびEDX(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)マッピング測定の結果を示す。図10からも、Si基板上に集積されたInAs/GaSb/InAs層は良好な結晶性を保っていることがわかる。このIII−V CMOSトランジスタ用基板の作製手法は、InAs層の膜厚が、1.5 nm のときでも適用でき、本発明で用いた選択エッチングの選択性の高さを示している。
【0036】
(実施形態2)
図11(a)に、本願発明の一実施形態に係るバックゲート構造のInAs/GaSb III−V CMOSトランジスタの構造を示し、図11(b)〜(e)に、そのバックゲート動作を示す。図11(a)に示すようにトランジスタは、Alバックゲート電極1001、n+−Si(100)層1002、Al23 BOX層1003、InAs/GaSb−OIチャネルを形成するInAs層1004、GaSb層1005、InAs層1006の積層構造、Ni層1007と、Al層1008を積層したソース/ドレイン電極により形成されている。尚、InAs層1004、1006の膜厚は 2.5 nm であり、GaSb層1005の膜厚は 20 nm である。
【0037】
ここで、フロントゲート側は、電極がないものの、ある一定の電圧が印加されている状態とみなすことができる。その結果、InAs層1004とGaSb層1005、それぞれが、n−MOSFETとp−MOSFETとして動作する。ここで、InAs層1004の膜厚が、5 nm 以上の場合は、n−MOSFET動作のみとなることが確認された。
【0038】
(実施形態3)
図12(a)に、本願発明の一実施形態に係るフロントゲート構造のInAs/GaSb III−V CMOSトランジスタの構造を示し、図12(b)〜(e)に、そのフロントゲート動作を示す。図12(a)に示すようにトランジスタは、Alバックゲート電極1101、n+−Si層1102、Al23 BOX層1103、InAs/GaSb−OIチャネルを形成するInAs層1104、GaSb層1105、InAs層1106の積層構造、Ni層1007かなるソース/ドレイン電極、Al23層1108、Niフロントゲート電極1109により形成されている。尚、InAs層1106の膜厚は 2.5 nm で、GaSb層1105の膜厚は 20 nm である。
【0039】
ここで、バックゲートに適当な電圧を印加することにより、InAs層1106およびGaSb層1105が、単一素子において、それぞれ、n−MOSFETとp−MOSFETとして動作することが確認できた。本実施形態では、バックゲートに −0.5 V を印加したときn−MOSFETとして、−2 V を印加したときp−MOSFETとして動作する。
【0040】
図13(a)、(b)に、バックゲート動作における、InAs n−MOSFETとGaSb p−MOSFETそれぞれの実効電子移動度と実効正孔移動度を示す。InAs層の膜厚が、2.5 nm のとき、InAs n−MOSFETは同程度の膜厚のSOI MOSFETの移動度を上回る。また、InAs層の膜厚が 5 nm では、実効電子移動度は 1200 cm2/Vs を超えた。
【0041】
一方、GaSb層は、GaSb単層では、GaSb MOS界面の高い界面準位密度のため、Siに比べ移動度が高くない。しかし、InAs層を表面不動層として導入して、GaSb MOS界面を改善することにより、Siを超える移動度を実現できる。
【0042】
以上から、InAs/GaSbの単一チャネル層からなるIII−V CMOSトランジスタにおいて、III−V CMOS動作が可能であり、n−MOSFETとp−MOSFETそれぞれにおいて、Siを超える移動度を実現できる。
【0043】
III−V CMOSトランジスタにおけるp−MOSFETの移動度向上のために、InGaSb層の導入を検討した。図14(a)〜(c)に、InGaSb−OI基板とInAs/InGaSb/InAs−OI基板の作製結果を示す。XRD測定の結果は、InGaSb−OI基板とInAs/InGaSb/InAs層が良好な結晶性を保持していることを示している。
【0044】
尚、実施形態2、3では、III−As層、III−Sb層、III−As層を積層した半導体層を用いているが、III−Sb層、III−As層、III−Sb層を積層した半導体層としてもよい。
【0045】
(実施形態4)
図15(a)〜(d)に、バックゲート構造のInGaSb−OI p−MOSFETのデバイス特性を示す。InGaSb−OI p−MOSFETは図11(a)のInAs/GaSb/InAsをInGaSbで置き換えた構造である。図15(a)はVDを−0.05 V、−0.5 V とした時のIDのVG(−3〜3 V)に対する変化、図15(b)はVGを3〜−3Vで変化させた時のIDのVD(0〜−0.5 V)に対する変化、図15(c)はVDを−0.05 V、−1 V とした時のIDのVG(−3〜3 V)に対する変化、図15(d)はVGを 3〜−3 V で変化させた時のIDのVD(0〜−1 V)に対する変化をそれぞれ示している。また、図15(c)には比較のために、InGaSbをGaSbで置き換えた時のデータも同時に示している。この結果から、InGaSb−OI p−MOSFETは、GaSb−OI p−MOSFETと比較して電流値IDが向上することがわかる。
【0046】
(実施形態5)
図16(a)〜(d)に、バックゲート構造のInAs/InGaSb III−V CMOSトランジスタの構造とそのバックゲート動作を示す。バックゲート構造のInAs/InGaSb III−V CMOSトランジスタは図11(a)のInAs/GaSb/InAsのGaSbをInGaSbで置き換えた構造である。ここで、InAs層の膜厚は、2.5 nm で、InGaSb層の膜厚は、20 nm である。ここで、フロントゲート側は、電極がないものの、ある一定の電圧が印加されている状態とみなすことができる。その結果、InAs層とInGaSb層、それぞれが、n−MOSFETとp−MOSFETとして動作することが確認できた。ここで、InAs層の膜厚が、5 nm 以上の場合は、n−MOSFET動作のみとなる。
【0047】
図17(a)、(b)に、バックゲート動作における、InAs n−MOSFETとInGaSb p−MOSFETそれぞれの実効電子移動度と実効正孔移動度を示す。InAs層の膜厚が、2.5 nm のとき、同程度の膜厚のSOI MOSFETの移動度を上回る。一方、InGaSb層は、InGaSb単層でもSiを超える移動度を実現しており、さらに、InAs層を表面不動層として導入してInGaSb MOS界面を改善することで、移動度の改善が可能である。
【0048】
同様に、InAs/InGaSbの単一チャネル層からなるIII−V CMOSトランジスタにおいても、III−V CMOS動作が可能であり、n−MOSFETとp−MOSFET、それぞれにおいてSiを超える移動度を実現できる。
【符号の説明】
【0049】
101、801、1701、1801 Si基板
102、1802 BOX層
103、1803 III−Sb層
104、1804 III−As層
105、1805 金属ソース/ドレイン層
106、1806 High−Kゲート絶縁層
107、1807 金属ゲート層
401、504、805、807、1005、1105、1705、1707 GaSb層
402、503、505、804、806、1004、1006、1104、1106、1704、1706 InAs層
403、502、506、802、803、1108、1702、1703 Al23
404 ゲート層
501 バックゲート層
507 フロントゲート層
808、1708 InAs(100)基板
1001、1101 Al基板
1002、1102 n+−Si(100)層
1003、1103 Al23 BOX層
1007、1107、1109 Ni層
1008 Al層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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