【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0065】
本実施例では、先ず、本発明を適用した液晶表示素子の光学応答を改善する方法の一般的な方法について
図3及び
図4を参照して説明する。なお、
図3は、液晶光学素子10を構成する各部の光学配置を示す模式図である。
図2は、
図4に示す液晶光学素子10から位相差板(光学補償板)6,7の配置を省略した場合の各部の光学配置を示す模式図である。
【0066】
液晶光学素子10は、
図3に示すように、液晶セル2と、第1の偏光板3及び第2の偏光板4と、第1の位相差板6及び第2の位相差板7とを概略備えている。そして、この液晶光学素子10は、液晶セル2と第1の偏光板3との間に第1の位相差板6が配置され、液晶セル2と第2の偏光板4との間に第2の位相差板7が配置されている。
【0067】
それ以外の構成については、上記
図1に示す液晶光学素子1と基本的に同じである。したがって、
図3に示す液晶光学素子10において、上記
図1に示す液晶光学素子1と同等の部分については説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。
【0068】
また、
図3に示す液晶光学素子10から第1の位相差板6及び第2の位相差板7の配置を省略した場合の液晶光学素子10’を
図4に示す。
【0069】
本例では、第1の偏光板3と第2の偏光板4との透過軸が法線方向から見て互い直交した位置関係にあるものの、第1の偏光板3及び第2の偏光板4の配置については任意である。また、
図3及び
図4に示す液晶光学素子10,10’には、それぞれの液晶セル2の背面側から波長kの入射光が垂直な方向(Z軸と平行な方向)に対して任意の方向から入射するものとする。
【0070】
ここで、第1の偏光板3及び第2の偏光板4が任意に配置された場合の透過光量Ι
1,Ι
2の数式が存在しないため、Stokesベクトル、拡張Jones行列、拡張Mueller行列などを用いて、上記式(1)に関わる表式を導き出し、本発明に適用可能な透過光量Ι
1,Ι
2の計算方法について説明する。
【0071】
以下の説明では、
図3及び
図4に示す場合を例に挙げて座標軸などを定義して計算を進める。また、以下の説明では、散乱、反射、減衰などが各界面で小さいとしてダイナミック行列を近似して計算を進めるものとする(J.Opt.Soc.Am.Vol.72,No.4,p.507(1982))。
【0072】
先ず、光学異方体に入射した光の偏光状態は、下記式6aの拡張Jones行列式(Jo)で表される。また、拡張Mueller行列(Mu)では、下記式6bで表される。
【0073】
また、透過光量は、入射光StokesベクトルSを下記式6cとし、透過光StokesベクトルS’を下記式6dとし、偏光子行列をPとし、検光子行列をAとすると、下記式6eの関係から、透過光StokesベクトルS’の成分S0’になる。
【0074】
【数4】
【0075】
ここで、上記式6a及び式6b中における光学軸回転角Ψ及び位相回転角Γは、
図5A、及び
図5Bに示すように、光学異方体に入射した光に対応した光学量である。したがって、任意配置における光学軸回転角Ψ及び位相回転角Γの表式が得られれば、透過光量に関する考察ができる。なお、
図5Aは、一軸の光学異方体に光が入射した場合を示し、
図5Bは、二軸の光学異方体に光が入射した場合を示す。
【0076】
次に、偏光板の上に下記のXY座標(式7a,式7b)を取り、偏光板の法線方向をZ軸(式7c)とする。第1の偏光板3の吸収軸を偏光子ベクトルPとし、第2の偏光板4の透過軸を検光子ベクトルAとし、下記のXY座標(式8a,式8b)を取る。極角θi、方位角φi、波長kである入射光は、入射光ベクトルkとして下記式7dで表される。
【0077】
入射光のs波は、下記式9で定義され、偏光板を透過した光のo波は、下記式10a及び式11aで定義される。このことから、偏光板のMueller行列で用いられる回転角Ψは、偏光子の場合は下記式10b及び式10cで求められ、検光子の場合は下記式11b及び式11cで求められる。
【0078】
したがって、偏光子と検光子の各Mueller行列は、下記式12a,12b及び式13a〜式13cとなる。これにより、任意に配置された偏光板(φp,φa)に任意な方向から入射する光(θi,φi)に関する表式が得られる。
【0079】
【数5】
【0080】
次に、第1の位相差板6(光学軸の位置:極角θc、方位角φc、屈折率:ne
c、no
c、厚み:Λc)、液晶セル2の液晶層(光学軸の位置:極角θd、方位角φd、屈折率:ned、nod、厚み:Λd)、第2の位相差板7(光学軸の位置:極角θb、方位角φb、屈折率:neb、nob、厚み:Λb)の各光学異方体におけるMueller行列の導出は、同じ計算過程の部分を引数「b」、「d」、「c」に替え「j」として表記する。
【0081】
XYZ座標に対する光学異方体の主軸系座標abcは、下記式14a〜式14cとして定義する。
【0082】
入射光ベクトルkは、スネルの法則(Z軸方向の成分が変化する)に従って、光学異方体中に屈折して伝搬することから、下記式15aと下記式15bの2つに分かれる。
【0083】
ここで、|ne−no|<<ne、no、nz及び|ne−nz|<<ne、no、nzの場合には、下記式16aの近似ができるとの立場(J.Opt.Soc.Am.Vol.72,No.4,p.507(1982))を使って、光学異方体中のoj波は、下記式16bで表すことができる。
【0084】
光学異方体のMueller行列の光学軸回転角Ψjは、ベクトルの内積、外積の公式を適用し、式を変形をした下記式17a及び式17bから、下記式18a及び式18bとして得られる。
【0085】
【数6】
【0086】
次に、ベクトルkoz
j、kez
jを求める。具体的には、入射光がabc座標系の光学異方体に入射する場合、下記式19a及び式19bを下記式19cのマックスウェル方程式から得られる方程式に代入する。そして、そこから導き出された下記式19dで表される連立方程式の固有値問題を解くことと等価になる。電場EがE≠0以外の意味ある解は、下記式20aの方程式Fを解くことに帰着する。
【0087】
ここで、ベクトル(ka,kb
j,kc
j)は、abc座標系のベクトルke
jの成分である。このベクトルのXYZ座標系への座標変換は、下記式20bで表される。すなわち、下記式20bの変換式を下記式20aに代入すると、方程式Fは、kez
jの四次方程式になる。なお、ω、εa
j、εb
j、εc
jは、下記式20c〜式20eの関係にある。
【0088】
下記式21aのようにNa、Nb、Ncが全て等しい場合は、下記式21bの四重根となり、kez
jはなく、下記式24cで表されるkoz
jのみの光学等方体である。
【0089】
例えば、下記式22aのようにNa、Nb、Ncの2つが等しく1つが異なる場合は、下記式22bのように因数分解できることから、koz
jの重根とkez
jの正負の2根が得られる。
【0090】
負のkez
jの光学的意味は、光の進路が逆方向を意味することから、正のkez
jとkoz
jが屈折光に関わる一軸の光学異方体である。その場合、koz
jは、下記式24cで表される。kezjの根は、下記式23aの二次方程式から、下記式24bで表される。これにより、Mueller行列で用いられる位相回転角Γjは、式24aとなる。
【0091】
【数7】
【0092】
下記式25aのようにNa、Nb、Ncが全て異なる場合、方程式Fはkez
jの四次方程式となる。ここで、下記式25bの条件で、上記式20aを整理した下記式25cの四次方程式を用いて説明する。
【0093】
下記式25cの根が虚数の場合、光学的意味は光の減衰に該当することから、考察から除外する。下記25cの方程式が4実根を持つ場合、下記式25dから、二つの正根(k11
j、k21
j)と二つの負根(k12
j、k22
j)になる。
【0094】
負の根の光学的意味は、先ほどと同じく、光の進路が逆方向を意味することから、正のk11
jとk21
jが屈折光に関わる二軸の光学異方体である。したがって、位相回転角Γ
jは、下記式25eとなる。
【0095】
さらに、「屈折率間の積どうしの差は桁落ちして微量になる」として、下記式26aの近似を下記式25cの方程式に適応すると、k11
jとk21
jはより簡便な表式に変形できる。このときの位相回転角Γ
jは、下記式26cとなる。
【0096】
次に、二軸の光学異方体における光学軸回転角Ψ
jは、以下のように求められる。すなわち、2つの正根(k11
j,k21
j)は、下記式19dの固有値であることから、該固有値に対応する電界ベクトルEabc(Ea,Eb,Ec)のベクトル成分比は、クラメルの公式を適用した下記式26dで計算できる(abc座標系表記)。
【0097】
電界ベクトルEabc(k11
j)と電界ベクトルEabc(k21
j)は、数学的には上記式(1)9dの固有ベクトルであるので、両者は直交関係(内積がゼロ)にある。
したがって、k11
jで屈折した波がe波(eabcと表記する。)、k21
jで屈折した波がo波(oabcと表記する。)に該当する。
【0098】
XYZ座標系表記のoXYZ波のベクトル成分比は、θ
j=0、φ
jをEuler anglesとした回転行列(Z軸周りの回転)をoabc波ベクトル成分に乗じた式26eから得られる。従って、回転角Ψ
jは、式26g〜式26jの関係式を使用して、式26fで得られる。以上で任意に配置した位相差フィルムB、Cや液晶パネルLCDの各光学異方体の拡張Mueller行列の導出ができたことになる。一軸光学異方体の拡張Mueller行列を改めて書き下すと式27〜式28eとなる。
【0099】
【数8】
【0100】
【数9】
【0101】
以上のようにして、一軸の光学異方体と二軸の光学異方体の拡張Mueller行列表式を得たことになり、これらを使用することで上記式(1)を満たす光学設計をすることが可能である。
【0102】
次に、一軸の光学異方体の具体的な表記を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
第1の位相差板6、第2の位相差板7、液晶セル2の各光学異方体について、Aプレート、Cプレート、λ/4板、ホモジニアス配向の液晶セル(ECBモード)、垂直配向の液晶セル(VAモード)などのように、具体的に指定できる場合には、表1を使用することができる。
【0105】
ここで補足すると、AプレートとCプレートの相違は、Mueller行列のパラメーターの特定方法の相違である。ECBモードとVAモードの相違は、θdの特定方法の相違である。したがって、Mueller行列のパラメーターの特定方法のみで所望の配置が可能となる。
【0106】
また、一軸の光学異方体と二軸の光学異方体の相違は、上記式26cと上記式26fにnz
d=no
dの関係を代入すれば、θj=0を代入した上記式24aと上記式(1)8aになることから、同様にMueller行列のパラメーターの特定方法のみで所望の配置が可能となる。したがって、これらの式を用いた透過光量は、一般論として考察できる。
【0107】
次に、積層の計算と透過光量及び時間変化について説明する。
本例では、上記
図3及び
図4に示す液晶光学素子10,10’について、下記の定義により計算を進めるものとする。
【0108】
第1の偏光板3(軸位置:方位角
φp)、
第1の位相差板6(軸:極角
θc、方位角
φc、屈折率:
nec、
noc、厚み:
Λc)、
液晶セル2の液晶層(軸:極角θ
d、方位角φ
d、屈折率:ne
d、no
d、厚み:Λ
d)、
第2の位相差板7(軸:極角
θb、方位角
φb、屈折率:
neb、
nob、厚み:
Λb)、
第2の偏光板4(軸位置:方位角
φa)
【0109】
第1の位相差板6、第2の位相差板7及び液晶セル2の各Mueller行列を下記式29a〜式29cと置くと、これらのMueller行列の積は、下記式30となる。また、第1の位相差板6をn個の位相差板で構成した場合は、下記式31aを使用する。同様に、第2の位相差板7をn個の位相差板で構成した場合は、下記式31bを使用する。
さらに、位相差板の配置を省略した場合、例えば第2の位相差板7の配置を省略した場合は、
θb=0、
neb=
nobと置いて、下記式
29aのMueller行列を単位行列化すればよい。
【0110】
入射光を自然光(偏りがない光)とした場合、Stokesベクトルは、下記式30aで表されるので、
図3及び
図4に示す液晶表示素子10,10’の透過光量Ι
1,Ι
2は、下記式32bの計算を経て、下記式32d及び式32cとなる。そして、これらの時間微分とその比は、下記式32e〜式32gとして得られる。
【0111】
なお、高低関係がV1>V2である電圧V1から電圧V2への立下り(オフ)時の光学応答をECBモードとVAモードに適用した場合、液晶層のθdのみがθd(V,t)であることから、下記式32e〜式32gにおいてθd(t)を独立変数とする。
【0112】
【数10】
【0113】
[シミュレーションの実施要件]
以下、上記式32c〜式32gを用いた種々のシミュレーション結果を例示し、本発明による光学設計の方法や有用性について説明する。
【0114】
先ず、
図6及び
図7に示すシミュレーション結果は、何れも
図3に示す液晶光学素子10を用いた例である。また、液晶光学素子10の各種条件については、以下のとおりとした。
第1の偏光板3及び第2の偏光板4の配置:(φp,φa)=(45°,135°)
液晶セル2の配置:(φd)=(0°)
第1の位相板6の配置:(θ
c,φ
c)=(90°,90°)
第2の位相板7の配置:単位行列
なお、第1の位相板6はAプレートとし、簡略に説明する意図で、第2の位相板7はその配置を省略する(該当Mueller行列を単位行列にする。)ものとする。
【0115】
図6は、駆動電圧の無印加時に液晶層の配向状態が水平配向(HO)となる場合に本発明の方法を適用した例であり、Rlc=Rf<π/2の条件で上記式(1)を適用した場合のシミュレーションの結果を示す。また、
図6中の上段には、透過光量Ιと極角θdとの関係を示し、
図6中の下段には、∂Ι/∂θdと極角θdとの関係を示す。
【0116】
図6に示すように、駆動電圧が十分高いとき(オン時)には、θdが0°である。一方、駆動電圧が0Vのとき(オフ時)には、θdが90°である。
【0117】
図7は、駆動電圧の無印加時に液晶層の配向状態が垂直配向(VA)となる場合の例であり、∂Ι/∂θdの関係を示す。また、
図7中の上段は、上記式(1)を満たさない光学条件(Rlc=Rf<π/2)のシミュレーション結果を示し、
図7中の下段は、上記式(1)を満たす光学条件(Rlc=Rf>π/2)のシミュレーション結果である。
【0118】
図7に示すように、駆動電圧が十分高いとき(オン時)には、θdが90°である。一方、駆動電圧が0Vのとき(オフ時)には、θdが0°である。
【0119】
また、
図6及び
図7中に示すグラフのうち、実線は、第1の位相差板6及び第2の位相差板7が配置された場合(
図3に示す液晶表示素子10)であり、二重線破線は、第1の位相差板6及び第2の位相差板7の配置を省略した場合(
図4に示す液晶表示素子10’)である(以下同じ。)。
【0120】
また、高低関係がV1>V2である電圧V1から電圧V2への立下り(オフ)時の応答時間をτd、電圧V2から電圧V1への立上り(オン)時の応答時間をτrとする(以下同じ。)。なお、∂Ι/∂θdは、数値微分の方法で求めた(以下同じ。)。
【0121】
各電圧V1,V2を液晶セル2に印加すると、液晶層の液晶分子は、連続体弾性理論で計算されたθd(V1)やθd(V2)の角度になる。V1からV2へと電圧を切り替えると、緩和現象のトルク方程式に従い、液晶分子の傾きは、θd(V1)からθd(V2)へと時間変化する。透過光量Ιは、このθd(t)によって、下記式32c,式32dから得られる。
【0122】
ここで、
図3に示す液晶表示素子10と
図4に示す液晶表示素子10’とは、同一の液晶セル(液晶物性やパネル構成因子も同じ。)2を使用しているため、緩和現象のトルク方程式の解は同一である。したがって、互いの透過光量Ι
2,Ι
1は、緩和現象から受ける影響もよく似た傾向と推定される。一方、互いの透過光量Ι
2,Ι
1は、同一のθdに対して異なっている。逆に、互いの透過光量Ι
2,Ι
1が同一となる場合のθdは異なる。
【0123】
これを前提に、上記
図6示すHOの場合について説明する。
透過光量Ι
1=Ι
2=1(共にθd=0°)から透過光量Ιaへの光学応答の場合、各値は下記となる。この場合、Ι
2のθdの変化量が少なくて足り、Ι
2の微分係数絶対値も大きいことが示され、ダブルでτdの高速化がなされている。
Ι
2のθd変化量:0°→θ2a
Ι
1のθd変化量:0°→θ1a
|∂Ι
2/∂θd(θ2a)|>|∂Ι
1/∂θd(θ1a)|
【0124】
透過光量Ι
1=Ι
2=Ιaから透過光量Ι
1=Ι
2=Ιbへの階調光学応答の場合、各値は下記となる。この場合、Ι
2のθdの変化量がやや少なくて足り、(θ2a,θ2b)区間のΙ
2の微分係数絶対値が(θ1a,θ1b)区間のΙ
1の微分係数絶対値より大きいことが示され、τdの高速化がなされている。
Ι
2のθd変化量:θ2a→θ2b
Ι
1のθd変化量:θ1a→θ1b
|∂Ι
2/∂θd(θ2a)|>|∂Ι
1/∂θd(θ1a)|
|∂Ι
2/∂θd(θ2b)|≧|∂Ι
1/∂θd(θ1b)|
【0125】
次に、上記
図7に示すVAの場合について説明する。
応答時間τdに該当するθdの区間は、おおよそ(90°,45°)である。「Rlc=Rf<π/2」の場合、この区間のΙ
2の微分係数絶対値はΙ
1のそれよりも小さく、位相差板を配置することでτdが大幅に悪化している。逆に、「Rlc=Rf>π/2」の場合は、この区間のΙ
2の微分係数絶対値はΙ
1のそれよりも大きく、τdを改善している。
【0126】
実用化されている液晶表示素子において、透過光量は0〜100%全てを使用していない。また、環境温度や視野角などの種々の要因による影響に対し、表示品位が保持されるように設計されている。
【0127】
ここで、駆動電圧の印加時に液晶セル2の背面側から前面側へと透過する光の透過光量が最大となる場合(ノーマリーホワイト)と、駆動電圧の印加時に液晶セル2の背面側から前面側へと透過する光の透過光量が最小となる場合(ノーマリーブラック)における種々の電圧−透過率曲線を
図8に示す。
【0128】
なお、
図8中において、破線の間が使用される駆動電圧の領域である。
この領域以外の領域では、透過光量Ιが局所極値となるところがあると、微係数∂Ι/∂θd(θd)の大小関係の判断に誤りが生じる。
【0129】
液晶表示素子の表示領域は、所望の設計に依存するため特定化は困難であるが、概念として表示に使用する領域に対応したθdの角度領域に、本発明の手段を用いることが最適である。
【0130】
また、Ι
2及びΙ
1は、同じ「ノーマリーホワイト」又は同じ「ノーマリーブラック」となることは一般的にはない。本発明が明示した「高低関係がV1>V2である電圧V1から電圧V2への立下り(オフ)時の光学応答を改善する」ことが可能なように、どちらかの透過光量とθdを変換して使用し、上記式(1)の関係が得られるように光学設計をすることは自明である。
【0131】
上述した説明で陥りやすい誤りのシミュレーションを避けるために、上記式(1)に絶対値関数を付加しているが、十分な理解によるシミュレーションの場合には、絶対値を無くして設計してもよい。例えば、透過光量I
1を変換して透過光量I
2に合わせた場合には、以下のようにすればよい。
I
1(θd)←「I
1の数値の中で最大となる透過光量」−I
1(θd)
【0132】
なお、上述した説明における液晶分子のθdは、液晶層の厚みΛdの全てで同一に扱ってきた。液晶層の厚みΛdをn分割し、k番目の分割層のθdを連続体弾性理論で計算し、これをMueller行列化し、下式を立てて進めることも可能である。この方法は、正確さを求める場合に有効である。一方、光学設計の物理光学的理解度と新たな課題解決や選択多様性を求める場合は、単純化も有効である。
【0133】
【数11】
【0134】
次に、種々のシミュレーション結果について説明する。
なお、以下に示すシミュレーション結果は、何れも
図3に示す液晶光学素子10を用いた例である。
【0135】
また、液晶光学素子10の各種条件については、以下のとおり共通とした。
第1の偏光板3及び第2の偏光板4の配置:(φp,φa)=(45°,135°)
液晶セル2の配置:(φd)=(0°)
第1の位相差板6の配置:(θ
c,φ
c)=(90°,90°)
第2の位相差板7の配置:単位行列
なお、第1の位相板6はAプレートとし、簡略に説明する意図で、第2の位相板7はその配置を省略する(該当Mueller行列を単位行列にする。)ものとする。液晶セル2は水平配向(HO)である。
また、
図9及び
図10には、上記式32gの透過光量の時間変化の比もグラフに示した。
【0136】
[nedと入射波長のシミュレーション結果]
図9は、入射光が垂直の場合のシミュレーション結果の例である。
図9に示すcase1〜case3は、波長λ=550nmで、nedを1.58、1.5916666、1.600とした場合である。
図9に示すcase4〜case6は、ned−nod=0.06で、入射波長を420nm、550nm、600nmに変化させた場合である。
【0137】
case1〜case3の結果から、上記式(1)を満たすのはcase1であり、液晶層と位相差板を共にπΛ△n/λ<π/2とする光学設計をすればよいことが示された。
【0138】
case4〜case6の結果から、△nを0.06程度にすれば、バックライトからの光が3原色(RGB)に対して全て上記式(1)を満たし、τdの改善が可能であることが示された。
【0139】
また、∂Ι/∂θdの大きさの比較による光学設計と、上記式32gの時間変化の比による光学設計とは、同じ結果を示していることが確認された。
【0140】
なお、case3においてθd=(0°,90°)全域に対し欠けた曲線となっている理由は、上記
図8で説明したように、使用が不適切な表示領域が生じたためである。
【0141】
[視野角変化のシミュレーション結果]
図10は、入射光に対する視野角変化のシミュレーション結果の例である。
本例では、入射光に関する透過光強度を観測することになるので、観測する視野角の方位は入射光方位(θi,φi)と一致する。
case7〜case9:(θi,φi)=(15°,45°)
case10〜case12:
(θi,φi)=(15°,
0°)
【0142】
case7〜case9の結果から、上記式(1)を満たすのはcase7であり、液晶層と位相差板を共にπΛ△n/λ<π/2とする光学設計をすればよいことが示された。
【0143】
case10〜case12の結果から、上記式(1)を満たすのはcase10であり、液晶層と位相差板を共にπΛ△n/λ<π/2とする光学設計をすればよいことが示された。すなわち、垂直入射で導かれた光学設計条件は、比較的広い視野角領域でもτdを高速とする改善効果を維持することが示された。
【0144】
[液晶層の厚みを変化させた場合の液晶層と位相差板との位相差のシミュレーション結果]
図11は、液晶層の厚みを変化させた場合の液晶層と位相差板との位相差のシミュレーション結果の例である。本例では、液晶層の厚みΛを変えて、液晶層と位相板との位相差を下記のように不一致にさせている。
case13:Λd=4μm、Λd(ned−nod)=0.28、Λb=3μm、Λb(neb−nob)=0.21
case14:Λd=3μm、Λd(ned−nod)=0.21、Λb=4μm、Λb(neb−nob)=0.28
【0145】
case13は、上記式(1)を満たす本発明に該当し、case14は、上記式(1)の条件満たさない本発明外となる。case1とcase3の結果も含め下記表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
表2に示す結果から、case1が上記式(1)を満たす必要十分条件ではないことが明らかになった。勿論、case1がより安定なτdの効果を発揮すると推定される。
【0148】
[光学測定のシミュレーション結果]
図12は、液晶層の厚みを変化させた場合の液晶層と位相差板との位相差を異ならせたcase15〜case18について、立下り(オフ)時の応答時間τdと、立
上り(オン)時の応答時間τrを測定した。
【0149】
本例では、同一の液晶材料(ned−nod=0.062)を厚みΛが3.29μm、3.75μm、4.78μm、5.01μmである液晶セル(LCD)に注入し、LCDを各2枚作製した。
【0150】
作製したLCDの1枚を位相板として使用し、上記
図3示す液晶表示素子10と同様の配置で液晶表示素子を組み立てた。測定に使用する光の波長は550nmとした。
【0151】
電圧の高低関係をV1>V2としたとき、
図12中のグラフに示す「印加電圧」をV1とし、V2=0Vとし、電圧V1から電圧V2への立下り(オフ)時の応答時間τdと、電圧V2から電圧V1への立
上り(オン)時の応答時間τrとを測定した。また、case15〜case18の結果を下記表3に示す。
【0152】
【表3】
【0153】
表3に示す結果から、以下の(i)〜(iii)が示された。
(i) 上記式(1)を満たすことによりτdの改善が確認できたこと。
(ii) 任意の配置に関する透過光量の表式の導出と、その時間微分式である式32e〜式32gが検証されたこと。
(iii) 改善効果が特段に大きかったこと(応答改善の為に液晶材料の粘性γ1を半減させることは、現在極めて困難な課題となっている。)。
【0154】
一方、本発明は、立上り時の応答時間τrを悪化させることが教示されたが、結果は「印加電圧」V1依存性が強く、上記背景技術で述べた(3)オーバードライブ方式や、(4)倍速駆動方式などで補える程度であることが示された。
【0155】
[中間諧調の光学測定]
下記表4は、上記case15〜case
17について、中間諧調の応答時間τdを測定した結果である
。
表4に示す結果から、
上記式(1)を満たすcase15〜case16では、何れの階調も
case17に比べて応答時間τdが50〜60%と大幅に改良していることがわかる。
【0156】
【表4】