(54)【発明の名称】タンパク質又はペプチドのプリンティング方法、及び、タンパク質アレイ又はペプチドアレイの製造方法、並びに、機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、CREST事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Curr. Opin. Biotechnol.,2008年,vol.19, no.1,pp.4-9
【文献】
Nat. Methods,2008年,vol.5, no.2,pp.175-177
【文献】
J. Nanosci. Nanotechnol.,2006年,vol.6, no.8,pp.2237-2264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記タンパク質又はペプチドは、固相結合部位としてのアミノ酸配列を含み、前記基板は前記アミノ酸配列に親和性を有する固相結合部位認識部位を有する請求項1に記載のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法。
(a)特定の開口形状を有する微小凹部からなるマイクロ凹版において、前記微小凹部内に、核酸と、ビオチン化ピューロマイシン誘導体と、無細胞タンパク質合成系を用意する工程と、
(b)前記微小凹部中で合成される後記タンパク質又はペプチドと接触するようにアビジンで修飾された基板を前記マイクロ凹版と重ね合わせる工程と、
(c)前記微小凹部内において、前記無細胞タンパク質合成系を用いて前記核酸からタンパク質又はペプチドを合成し、前記タンパク質又はペプチドを前記基板上に、前記微小凹部が有する特定の開口形状に沿って固定化する工程と、を有することを特徴とするタンパク質又はペプチドのプリンティング方法。
前記無細胞タンパク質合成系は、独立に精製されたタンパク質合成に必要な因子のみからなる請求項1〜7のいずれか一項に記載のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法。
前記工程(a)において、前記核酸は固相結合部位で修飾されたDNAであり、固相結合部位認識部位で修飾された磁気ビーズにより固定化されたものである請求項1〜8のいずれか一項に記載のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法。
前記工程(a)において、前記核酸はビオチンで修飾されたDNAであり、ストレプトアビジンで修飾された磁気ビーズにより固定化されたものである請求項1〜9のいずれか一項に記載のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1で提案されている方法は、凸版印刷技術を利用したものであり、タンパク質等の生体分子を直接プリンティングする方法であるため、インクとして用いられる該タンパク質は乾燥しやすく、例えば保存安定性の低いタンパク質をプリンティングする方法としては改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、保存安定性の低いタンパク質又はペプチドに与えるダメージを低減し、前記タンパク質又はペプチドを任意の形状にプリントすることができるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法、及び、これらの方法により製造されたアレイ、並びに、該アレイを用いた機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、凹版印刷(インタリオプリンティング)技術を応用することにより課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち本発明の一実施態様は、下記(1)〜(12)を提供するものである。
(1)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、(a)特定の開口形状を有する微小凹部からなるマイクロ凹版において、前記微小凹部内に、核酸と無細胞タンパク質合成系を用意する工程と、(b)前記微小凹部中で合成される後記タンパク質又はペプチドと接触するように基板を前記マイクロ凹版と重ね合わせる工程と、(c)前記微小凹部内において、前記無細胞タンパク質合成系を用いて前記核酸からタンパク質又はペプチドを合成し、前記タンパク質又はペプチドを前記基板上に、前記微小凹部が有する特定の開口形状に沿って固定化する工程と、を有することを特徴とする。
(2)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記タンパク質又は前記ペプチドは、固相結合部位としてのアミノ酸配列を含み、前記基板は前記アミノ酸配列に親和性を有する固相結合部位認識部位を有することが好ましい。
(3)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記固相結合部位認識部位は、ニッケルイオン又はコバルトイオンであることが好ましい。
(4)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記アミノ酸配列は、ポリヒスチジンであることが好ましい。
(5)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、(a)特定の開口形状を有する微小凹部からなるマイクロ凹版において、前記微小凹部内に、核酸と、ビオチン化ピューロマイシン誘導体と、無細胞タンパク質合成系を用意する工程と、(b)前記微小凹部中で合成される後記タンパク質又はペプチドと接触するようにアビジンで修飾された基板を前記マイクロ凹版と重ね合わせる工程と、(c)前記微小凹部内において、前記無細胞タンパク質合成系を用いて前記核酸からタンパク質又はペプチドを合成し、前記タンパク質又はペプチドを前記基板上に、前記微小凹部が有する特定の開口形状に沿って固定化する工程と、を有することを特徴とする。
(6)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記ビオチン化ピューロマイシン誘導体は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
[式中、Zは、下記式(2)、(3)、又は(4)で表される基である。]
【化2】
[式中、X
1及びX
2のうち少なくとも一方は、下記式(5)で表される基であり、他方は、蛍光基又は水素原子である。*は結合部位を表す。]
【化3】
[式中、*は結合部位を表す。]
(7)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、Zは、前記式(2)で表される基であることが好ましい。
(8)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記無細胞タンパク質合成系は、独立に精製されたタンパク質合成に必要な因子のみからなることが好ましい。
【0010】
(9)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記工程(a)において、前記核酸は固相結合部位で修飾されたDNAであり、固相結合部位認識部位で修飾された磁気ビーズにより固定化されたものであることが好ましい。
(10)本発明の一実施態様におけるタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、前記工程(a)において、前記核酸はビオチンで修飾されたDNAであり、ストレプトアビジンで修飾された磁気ビーズにより固定化されたものであることが好ましい。
(11)本発明の一実施態様におけるタンパク質アレイ又はペプチドアレイ
の製造方法は、前記タンパク質又はペプチドのプリンティング方法を用い
ることを特徴とする。
(12)本発明の一実施態様における機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法は、
前記タンパク質アレイ又はペプチドアレイ
の製造方法を用いて、タンパク質アレイ又はペプチドアレイを製造した後、
前記工程(c)において固定化されたタンパク質又はペプチドの機能性スクリーニングを行い、前記機能性スクリーニングにより特定された、前記工程(c)において固定化されたタンパク質又はペプチドを、前記工程(a)において対応する微小凹部内の核酸を用いて同定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法によれば、保存安定性の低いタンパク質やペプチドにダメージを与えずに、前記タンパク質又は前記ペプチドが任意の形状にプリントされたタンパク質アレイ又はペプチドアレイが得られる。
本発明によれば、前記タンパク質アレイ又は前記ペプチドアレイを高密度化することも可能であり、かかる高密度タンパク質アレイ又は高密度化ペプチドアレイは、膨大な種類のタンパク質又はペプチドが固定化されているだけではなく、1スポット当たりに多分子数のタンパク質又はペプチドが固定化されたものであるため、利用価値が高い。
また、本発明の機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法は、高密度化タンパク質アレイ又はペプチドアレイから所望の機能を有するタンパク質又はペプチドを迅速に同定することができるため、進化分子工学的用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪タンパク質又はペプチドのプリンティング方法≫
[第1実施形態]
図1A〜
図1Cに示されるように、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、
(a)特定の開口形状を有する複数の微小凹部2からなるマイクロ凹版1において、前記微小凹部2内に、核酸3と無細胞タンパク質合成系9を用意する工程と、
(b)前記微小凹部2中で合成される後記タンパク質又はペプチド7と接触するように基板5を前記マイクロ凹版1と重ね合わせる工程と、
(c)前記微小凹部2内において、前記無細胞タンパク質合成系9を用いて前記核酸3からタンパク質又はペプチド7を合成し、前記タンパク質又はペプチド7を前記基板5上に、前記微小凹部2が有する特定の開口形状に沿って固定化する工程と、を有することを特徴とする。
以下、
図2A〜
図2Eを参照しながら、各工程について説明する。
【0014】
工程(a)は、特定の開口形状を有する微小凹部12からなるマイクロ凹版11において、前記微小凹部12内に、核酸と無細胞タンパク質合成系19を用意する工程である。
【0015】
前記マイクロ凹版11は、複数の微小凹部12からなることが好ましい。本実施形態においては、個々に壁を有する微小凹部12からなるマイクロ凹版11を用いるため、基板15へのタンパク質又はペプチド17のプリントの際に、各スポット間のリーク等の心配が無く、微細な形状のパターン印刷が可能となり、後記する工程(c)において、前記微小凹部12の有する特定の開口形状がそのまま基板15上にプリントされ、スポット形状に反映される。
よって、該形状により、高密度化タンパク質アレイ18の製造が可能となる。更に、基板15上のスポット形状は、前記微小凹部12の開口形状に依存するため、本実施形態においては、任意の形状にて基板15上のスポット形状を決めることができる。
また、DNAマイクロアレイ上に固定化するDNAの分子数には制限があるのに対し、本実施形態においては、マイクロ凹版11上に多分子数のDNAを添加することができるため、後記する無細胞タンパク質合成系を用いることにより、多分子数のタンパク質を合成することができ、1スポット当たり多分子数のタンパク質を固定化したタンパク質アレイを作製することができる。また、本実施形態では、微小凹部12からなるマイクロ凹版11を用いるため、転写段階と翻訳段階とを1度に行うことができ、効率的である。
【0016】
マイクロ凹版11の表面及び微小凹部12内壁を、DNA等生体分子の非特異吸着防止用ブロッキング剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)や2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)で好適にコーティングすることができる。かかるブロッキング剤をコーティングすることで、基板表面や微小反応槽の内壁への生体分子の非特異吸着を抑制することができる。
【0017】
マイクロ凹版11に用いられる基板材料は、透明なガラス又はポリマー材であることが好ましく、リークを抑える目的からは、ポリジメチルシロキサンなどのエラストマー材料であることがより好ましい。なお、マイクロ凹版11に用いられる基板材料にエラストマー材料を用いる場合、微小なゴミなどの粒子が凹版と基板15との間に挟まれた時に生じる凹版全体の基板との密着性に及ぼす悪影響がエラストマーの局所的な変形により回避される利点がある。
【0018】
工程(a)において、微小凹部12内に用意される核酸は、プリンティングに用いられるタンパク質又はペプチドをコードするものであれば特に限定されないが、DNA又はmRNAが好ましく、取り扱い安さの観点からDNAであることが好ましい。
該DNAは、マイクロ凹版11において、該DNAの位置情報が特定されている必要性の観点から固定化されていることが好ましい。
固定化には、アビジン−ビオチン結合を利用する方法の他、DNAをアミノ基、アルデヒド基、SH基、などの官能基で修飾し、固相をアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などを有するシランカップリング剤で表面処理したものを利用する方法などを用いることができ、特に、アビジン−ビオチン結合を利用した方法が好ましい。この場合、アビジンを固相に固定化し、ビオチンをDNAに結合させたものが好ましい。
【0019】
前記固相は、後にDNAを回収する観点から、ビーズであることが好ましく、短時間でマイクロ凹版11中の各微小凹部12に配列させることが可能であるという観点から磁気ビーズであることがより好ましい。
また、ビーズを用いる場合には、基板上にDNAを固定する場合より多分子数のDNAを固定することができる。かかるDNAの分子数は、無細胞タンパク質合成系を用いて合成されるタンパク質の分子数に反映されるため、本実施形態によれば、DNAマイクロアレイからタンパク質アレイを作製する方法よりも1スポット当たりに多分子数のタンパク質を固定することができる。
【0020】
本実施形態において、固相として磁気ビーズを用いる場合には、マイクロ凹版11に用いられる基板材料下に、磁性体板が配設されていることが好ましい。
かかる構造のマイクロ凹版11を用いることにより、微小凹部12内に磁気ビーズ14を容易にかつ確実に配置することができる。具体的には、該基板材料の下部に磁石を配置し、該基板材料上にDNA13を固定した磁気ビーズ14を分散させた分散液を滴下する。磁気ビーズ14及び磁性体薄膜による磁力の作用により、微小凹部12内へ磁気ビーズが誘引されることにより配置されやすくなる。さらに磁石を適宜基板に対し平行方向に動かすことで磁気ビーズ14が分散し、微小凹部12内への充填率が向上する。磁石によりビーズ配置用基板に印加する磁場の強さは、所望の効果を得る上で、好ましくは100〜10000ガウスである。
また、磁石を取り除いた後も磁性体板の磁化は残るため、磁気ビーズ14は安定した配置を保持し続けることが可能となる。
【0021】
かかる磁性体の材料としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄および鉄合金などの金属を好適に用いることができ、本実施形態においては残留磁化の大きな磁性材料を用いることが好ましい。
【0022】
磁気ビーズ14の微小凹部12への充填率は微小凹部12の直径に依存し、微小凹部12の直径が磁気ビーズ14の直径よりも若干広い方が充填率が高く、好ましくは微小凹部12の径は磁気ビーズの直径の1〜2倍である。また、1個の微小凹部12に1個の磁気ビーズ14を充填する上で、微小凹部12の深さは、好ましくは磁気ビーズ14の直径の1〜2倍である。
【0023】
微小凹部12は、親水化されていることが好ましく、該微小凹部12を酸素プラズマ照射などにより親水化処理することにより、微小凹部12内部への磁気ビーズを分散させた液の充填が容易になり、充填率が向上する。
【0024】
本実施形態において、微小凹部12内に核酸を用意する際には、DNAライブラリーなど複数種類のDNAの混合物をDNA増幅試薬と混合し、混合物を適当なバッファーなどで希釈して、微小凹部12に分注してもよい。また、DNAライブラリーとしては、進化分子工学的用途に好適に用いられるものとして、遺伝子変異が導入された変異DNAライブラリーを用いてもよい。ここで、各微小凹部12に確率的にDNAが1分子になるように希釈して分注を行うことが好ましい。DNAと増幅試薬と希釈との前後は特に限定するものではなく、分注後、DNAが増幅するのに適するように、マイクロ凹版11の条件を設定し、反応を行わせると、微小凹部12毎に異なる種類のDNAが増幅される。
ここで、DNAを増幅する場合、PCR反応を利用することが好ましく、該反応のために必要な反応溶液な市販のものを使用することができる。また、微小凹部12内のDNAをビーズに固定する場合、DNAにビオチンが取り込まれるように増幅反応を行わせ、アビジンでコートしてビーズを用いれば、アビジン−ビオチン結合を介して、DNAは容易にビーズ上に固定化することができる。DNAにビオチンを取り込ませる方法としては、例えば、ビオチン標識したPCRプライマーを用いる方法などを利用することができる。
【0025】
工程(b)は、前記微小凹部12中で合成される後記タンパク質又はペプチド17と接触するように基板15を前記マイクロ凹版11と重ね合わせる工程である。
前記工程(b)は、版の凹んだ部分にインクをいれ、上から紙などを押し当てる凹版印刷(インタリオプリンティング)技術を利用したものである。前記工程(b)は、マイクロ凹版11上の凹部である微小凹部12に反応溶液を滴下し、上から基板15を前記マイクロ凹版11と重ね合わせ、ハンドプレス器等を用いて、押し当てる工程であり、後記工程(c)において、基板15上にタンパク質又はペプチド17がプリントされる。よって、微小凹部12の有する特定の開口形状がそのまま基板15でのスポットの形状に反映されることになるため、本実施形態によれば、基板に任意のサイズ及び形状のタンパク質又はペプチドを印刷することができる。従って、該形状が微細であれば、転写されるスポットの形状も微細なものとなる。かかる微細な形状により、高密度化したタンパク質アレイ又はペプチドアレイの作製が可能となる。
【0026】
更に、後記工程(c)により、配列上に固定化された核酸の位置情報を変更することなく、該核酸からタンパク質又はペプチドを合成し、該タンパク質又は該ペプチドを基板上にプリントすることができる。
【0027】
前記微小凹部12が有する前記開口形状は任意であるが、少なくとも1つのビーズを充填可能な形状であることが好ましい。例えば、前記微小凹部12が有する前記開口形状は、円形状、四角状、六角状、ライン状、などであってもよい。
【0028】
前記工程(b)において用いられる基板15としては、ガラス基板、シリコン基板、ポリマー基板、金属基板等が挙げられる。
本実施形態においては、マイクロ凹版11と重ね合わせる基板15の表面は必ずしも平坦である必要はなく、例えば、タンパク質又はペプチド17を固定する表面積を増やすために凹凸を加工してもよい。ただし、基板15とマイクロ凹版11を重ね合わせた際に、マイクロ凹版11上の全ての微小凹部12内の試薬等の漏れがなく封じられるように、マイクロ凹版11が接触する部分の基板表面は平坦である必要がある。
【0029】
工程(c)は、前記微小凹部12内において、前記無細胞タンパク質合成系19を用いて前記核酸からタンパク質又はペプチド17を合成し、前記タンパク質又はペプチド17を前記基板15上に、前記微小凹部12が有する特定の開口形状に沿って固定化する工程である。
【0030】
無細胞タンパク質合成系とは、適当な細胞から抽出されたタンパク質合成能を有する成分からなるタンパク質翻訳系であり、この系にはリボゾーム、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素等、翻訳に必要な要素が含まれている。このようなタンパク質翻訳系として、大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液等が挙げられる。
更に、上記翻訳に必要な要素が独立に精製された因子のみからなる再構成型無細胞タンパク質合成系が挙げられる。再構成型無細胞タンパク質合成系は、従来の細胞抽出液を使用する場合よりもヌクレアーゼやプロテアーゼの混入を容易に防ぐことができるため、翻訳効率を高めることができる。かかる翻訳効率の観点から、本実施形態においては、無細胞タンパク質合成系として、再構成型無細胞タンパク質合成系を用いることが好ましい。
このような系を用いることにより、前記微小凹部12内においてタンパク質又はペプチド17が製造される。
【0031】
合成されるタンパク質は、分解や変性により失活しやすいため、基板へのプリントの際にはできるだけ安定な状態で該タンパク質を維持する必要がある。本実施形態においては、微小凹部12内で合成したタンパク質17を、そのまま基板15にプリントするため、タンパク質の失活を極力抑えたアレイ18を作製することができる。
【0032】
前記工程(c)において、無細胞タンパク質合成系19に用いられる核酸がDNA13である場合には、無細胞タンパク質転写系を用いて前記DNA13からmRNA16を合成する工程が含まれる。前記mRNA16は、スクリーニングすべきタンパク質をコードする固定化されたDNA13から、RNAポリメラーゼにより転写させることにより得られる。RNAポリメラーゼとしては、例えばT7RNAポリメラーゼが挙げられる。
転写反応及び後述する翻訳反応を最適な状態で行わせるために、マイクロ凹版11の温度、微小凹部12内のpH条件などを制御する他の装置などを組み合わせて、実施してもよい。
また、簡便であることから、転写翻訳がカップルした系を用いてもよい。
【0033】
工程(c)において、前記タンパク質又はペプチド17の合成に続いて、前記タンパク質又はペプチドの基板15への固定化が行われる。具体的には、工程(a)において、マイクロ凹版11上の微小凹部12に、必要な試薬や材料(核酸)を添加した後に、工程(b)において、基板15を用いて上からマイクロ凹版11に封をし、密閉状態にする。工程(c)において、試薬を混ぜた先から、DNA13→mRNA16→タンパク質17の一連の転写/翻訳反応が進行し、さらに翻訳されたタンパク質17の有するタグが前記基板15に結合する。
【0034】
本実施形態において、タンパク質又はペプチドを基板に固定するため、前記タンパク質又は前記ペプチドは、固相結合部位としてのアミノ酸配列を含み、前記基板は前記アミノ酸配列に親和性を有する固相結合部位認識部位を有することが好ましい。
このような固相結合部位/固相結合部位認識部位の組み合わせとしては、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジン/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの、各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。
これらの中で、固相結合部位/固相結合部位認識部位の組合せとしては、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジン/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、抗体/抗原分子(エピトープ)などが好ましく、使い勝手の良さからポリヒスチジン/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオンの組合せが最も好ましい。
ポリヒスチジンとしては、ヘキサマー以上のものが好ましく用いられる。タンパク質又はペプチド中にポリヒスチジンを含ませるためには、PCR等で予めcDNAの末端に該ポリヒスチジンをコードする塩基配列を付加しておくことが好ましい。
また、上記の固相結合部位認識部位は、該基板上において、所定ピッチの円形状や四角状のパターン、所定ピッチのラインパターン、又はそれらの組み合わせパターン、などの所定パターンに基づいて形成されていてもよい。この場合、上述のタンパク質又はペプチドは、基板にパターンニングされた固相結合部位認識部位のパターンに応じて、任意のサイズ及び形状で印刷される。
【0035】
次に、重ね合わせた前記基板15を前記マイクロ凹版11から剥がす(工程d)。前記基板15でのスポットの形状は、前記微小凹部12の有する特定の開口形状がそのまま反映されたものである。さらに、前記基板15上のスポットは、対応するマイクロ凹版11上に固定化されたDNA13の位置情報を変更することなくプリントされたものである。
【0036】
このようにしてタンパク質又はペプチド17が固定化された基板15をPBS等で洗浄して、タンパク質アレイ又はペプチドアレイ18が製造される(工程e)。
【0037】
[第2実施形態]
図3A〜
図3Cに示されるように、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、
(a)特定の開口形状を有する微小凹部2からなるマイクロ凹版1において、前記微小凹部2内に、核酸3と、ビオチン化ピューロマイシン誘導体10と、無細胞タンパク質合成系9を用意する工程と、
(b)前記微小凹部2中で合成される後記タンパク質又はペプチド7と接触するようにアビジンで修飾された基板5を前記マイクロ凹版1と重ね合わせる工程と、
(c)前記微小凹部2内において、前記無細胞タンパク質合成系9を用いて前記核酸3からタンパク質又はペプチド7を合成し、前記タンパク質又はペプチド7を前記基板5上に、前記微小凹部2が有する特定の開口形状に沿って固定化する工程と、を有することを特徴とする。
以下、
図4A〜
図4Eを参照しながら、各工程について説明する。
図4A〜
図4Eにおいて、
図2A〜
図2Eのタンパク質又はペプチドのプリンティング方法の模式図に示されたものと同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
工程(a)において、微小凹部12内に用意される核酸としては、固相に固定化されたDNAが好ましい。固定化には、アビジン−ビオチン結合を利用した方法が好ましく、アビジンを固相に固定化し、ビオチンをDNAに結合させた方法がより好ましい。
【0039】
工程(b)において用いられる基板15はアビジンで修飾されており、後記工程(c)において、ビオチン化された合成タンパク質又はペプチド17を固定することができる。ここで、基板15の修飾に用いられるアビジンとしては、使い勝手の良さからストレプトアビジンが好ましい。
【0040】
本実施形態において、ビオチン化ピューロマイシン誘導体10とは、ピューロマイシンとビオチン化されたヌクレオチドの複合体である。ピューロマイシンは、3’末端がアミノアシルtRNAに化学構造が類似している化合物であり、翻訳系においてタンパク質の合成がされた際に、合成されたタンパク質のC末端に結合する性質を有する。そのため、本実施形態においては、タンパク質又はペプチド合成の際、工程(a)において、微小凹部12内に用意されたビオチン化ピューロマイシン誘導体10が、合成されたタンパク質又はペプチド17のC末端に結合する。
【0041】
本実施形態において、前記ビオチン化ピューロマイシン誘導体は、前記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。前記一般式(1)において、Zは、前記式(2)、(3)、又は(4)で表される基である。
即ち、前記ビオチン化ピューロマイシン誘導体としては、デオキシシチジルピューロマイシン、リボシチジルピューロマイシン、デオキシウリジルピューロマイシンがビオチン化された誘導体がより好ましい。
更に、前記一般式(1)において、Zは、前記式(2)で表される基であることが好ましく、前記ビオチン化ピューロマイシン誘導体としては、下記式(6)で表されるビオチン化デオキシシチジルピューロマイシン誘導体であることが特に好ましい。
【0042】
【化4】
[式中、X
1及びX
2のうち少なくとも一方は、下記式(5)で表される基であり、他方は、蛍光基又は水素原子である。]
【0043】
【化5】
[式中、*は結合部位を表す。]
【0044】
前記式(2)〜(4)、(6)中、X
1及びX
2のうち少なくとも一方は、前記式(5)で表される基(ビオチン)である。具体的には、X
1又はX
2のみがビオチンであってもよく、X
1及びX
2の両方がビオチンであってもよい。ピューロマイシン誘導体がビオチンを有することにより、工程(c)においてタンパク質又はペプチド17が合成される際、そのC末端にビオチンが付加される。従って、本実施形態においては、鋳型として用いるcDNAの末端にヘキサヒスチジンや他のペプチド・タンパク質タグをコードする塩基配列を付加しておく必要がない。
また、工程(a)において、微小凹部12内に用意される核酸として、変異DNAライブラリーを用いる場合には、該変異DNAライブラリー中に、コード領域中に終止コドンが導入されたDNAが存在する場合がある。このようなDNAを鋳型としてタンパク質を合成する場合、DNAの3’末端側に予めポリヒスチジンをコードする塩基配列を付加する方法では、C末端にポリヒスチジンタグを付加することができない。一方、本実施形態においては、このようなトランケート型のタンパク質にもビオチンを付加することができる。従って、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法は、進化分子工学的手法に好適に用いられる。
【0045】
前記式(1)中、X
1又はX
2がビオチンでない場合、X
1又はX
2は、蛍光基又は水素原子である。蛍光基としては、fluorescein 、rhodamine 、Cy dye、Alexa(登録商標)Fluor、HiLyte(商標名)Fluor等、タンパク質又はペプチドの蛍光標識に汎用される蛍光色素が挙げられる。ビオチン化ピューロマイシン誘導体10が蛍光基を有することにより、作製したタンパク質アレイ又はペプチドアレイ中に固定されたタンパク質又はペプチドの量を、蛍光強度を測定することにより確認することができる。
【0046】
微小凹部12に添加された反応溶液総量におけるビオチン化ピューロマイシン誘導体10の濃度としては、1μM〜100μMが好ましく、10μM〜50μMがより好ましい。1μM以上の場合、タンパク質のビオチン化の効率が低くなりすぎず、100μM以下の場合、タンパク質の発現量が低くなりすぎない。
【0047】
合成されるタンパク質は、分解や変性により失活しやすいため、基板へのプリントの際にはできるだけ安定な状態で該タンパク質を維持する必要がある。本実施形態においては、微小凹部12内で合成したタンパク質17を、そのまま基板15にプリントするため、タンパク質の失活を極力抑えたアレイ18’を作製することができる。
【0048】
≪タンパク質アレイ又はペプチドアレイ≫
本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法を用いて製造された本実施形態のタンパク質アレイ又はペプチドアレイは、任意のスポット形状を有するものであり、スポットの高密度化にも対応し得るものである。また、該タンパク質アレイ又はペプチドアレイは、使用時に、随時、前記マイクロ凹版から製造されるものであるため、アレイ上のタンパク質やペプチドの変性等を抑制することができる。
【0049】
≪機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法≫
本実施形態の機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法は、上述したタンパク質アレイ又はペプチドアレイを用いて、機能性スクリーニングを行い、前記機能性スクリーニングにより特定された、前記工程(c)において固定化されたタンパク質又はペプチドを、前記工程(a)において対応する微小凹部内の核酸を用いて同定する方法である。
【0050】
前記機能性スクリーニング方法は、タンパク質又はペプチドの有する所望の機能に依存するものであるが、タンパク質又はペプチドの活性を測定する場合、例えば以下の工程が挙げられる。
先ず、工程(a)におけるマイクロ凹版と同様に、タンパク質アレイ又はペプチドアレイ上に固定化されているスポットの位置に対応するようなマイクロ凹版を用意する。
次いで、マイクロ凹版の微小凹部内にタンパク質又はペプチドの活性を測定するために必要な溶液を予め充填し、タンパク質アレイ又はペプチドアレイとマイクロ凹版を重ね合わせて反応させる。
これらの工程により、アレイ上のタンパク質又はペプチドの活性を測定することができる。
【0051】
本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法により製造されたタンパク質アレイ又はペプチドアレイは、対応するマイクロ凹版上に固定化された核酸の位置情報を変更することなく基板上にプリントされたものである。よって、該タンパク質アレイ又は該ペプチドアレイを用いて、前記機能性スクリーニングにより特定されたスポットに対応するマイクロ凹版上の微小凹部内のDNAを回収し、その塩基配列を解析することにより、特定の機能を有するタンパク質等、及び該タンパク質等をコードするDNAを同定することができる。
【0052】
本実施形態の機能性タンパク質又は機能性ペプチドの同定方法によれば、高密度化タンパク質アレイ又はペプチドアレイから所望の機能を有するタンパク質又はペプチドを迅速に同定することができるため、進化分子工学的用途に好適に用いられる。
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(cDNA結合磁気ビーズの作製)
直径約40μmのストレプトアビジン修飾されたビーズ30μl(約3000個)を1.5 mlチューブに取り、磁石を用いてビーズをチューブの底に引き寄せ、上清を取り除いた。1×Binding Buffer(10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA,1M NaCl,及び0.1% TritonX−100)を用いて、二回洗浄した後、ビオチン修飾されたGFP(Green Fluorescent Protein)−HisタグcDNA50μl[40pmol]と2×Binding Buffer(20mM Tris−HCl(pH8.0),2mM EDTA,2M NaCl,及び0.2% TritonX−100)を50μlを加え、60分間転倒混和した。磁石を用いてビーズをチューブの底に引き寄せ、上清を取り除いた後、PBSもしくはTNT(商標名)Reaction Buffer(Promega)10μlに懸濁した。
【0055】
(cDNA結合磁気ビーズの凹版への導入)
上記により作製したcDNA結合磁気ビーズ懸濁液10μlを100×100個のマイクロウェル(直径80μm、 深さ45μm)がアレイ状に並んだシリカガラス製の鋳型(30mm×30mm,t=0.5)の凹部に導入した。
cDNA結合磁気ビーズがマイクロウェルモールドの中に導入されているかどうか、倒立顕微鏡を用いて観察した。結果を
図5に示す。
【0056】
図5中、凹版の各々の凹部に1つずつcDNA結合磁気ビーズが導入されている。このように、効率よく磁気ビーズがマイクロウェルモールド中に導入されていることが確認された。
【0057】
(ガラス基板を用いたGFP−Hisタグタンパク質のパターニング)
cDNA結合磁気ビーズがマイクロウェルモールドの中に導入された凹版上に、転写・翻訳を同時に起こさせる無細胞タンパク質合成系溶液(TNT(商標名) Coupled Wheat germ Extract System (Promega))を滴下した後、Nickel−nitlirotriacetic acid(Ni−NTA)で修飾されたガラス基板を密着させ、約1時間保持した。
その後、Ni−NTA基板を凹版から剥がし、PBSバッファーで洗浄し、基板上にGFP−Hisタグタンパク質がパターニングされているかどうかを、蛍光顕微鏡(Ex:488nm ,Em:515nm)にて確認した。結果を
図6に示す。
【0058】
図6に示されるように、ガラス基板上にGFP由来の蛍光スポットがアレイ状に並んでいることが観察された。このことから、GFP−HisタグcDNA結合磁気ビーズが導入された凹版に対応して、GFP−Hisタグタンパク質がNi−NTAで修飾されたガラス基板上にパターニングされていることが確認された。
【0059】
以上の結果から、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法によれば、マイクロウェルモールドといった微小構造体の中でタンパク質又はペプチドの合成を行い、合成されたタンパク質又はペプチドを微細なパターン形状で基板表面に固定化することができる。従って、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法によれば、基板に任意のサイズ及び形状のタンパク質を印刷することができる。
【0060】
(蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体の合成)
前記式(6)で表される化合物であって、X
1がCy5、X
2が前記式(5)で表されるビオチンである化合物(以下、蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体)を標準的なホスホラミダイト法により合成した。また、対照として、X
1がCy5、X
2が水素原子である化合物(以下、蛍光標識ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体)も作製した。
【0061】
(無細胞転写/翻訳系を用いたタンパク質合成及びビオチン化)
GFP(Green Fluorescent Protein)cDNAが挿入されたpET21a−d(+)ベクター(Novagen社製)を制限酵素を用いて直線化した。
次いで、この直線化したベクターを鋳型として、ベクター由来のT7プロモーターを含むGFPcDNAをExTaq DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用いて増幅した。増幅された断片(PCR産物)をQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて精製し、無細胞転写/翻訳系の鋳型として用いた。
次いで、無細胞転写/翻訳系として、PURESYSTEM(商標名)classic II(バイオコゥマー社製)を用い、タンパク質を合成した。詳細には、5μl(0.1μg/μl)のPCR産物をPURESYSTEM(商標名)classic IIのライセート(転写/翻訳系混合物)35μlと混ぜた後、2μlの蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体(最終濃度:2〜40μM)が前もって加えられている384ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに8μlずつ加えた。反応は、37℃1時間の条件で行い、プレートを氷上に置いて反応を停止した。反応産物を、12%ゲルを用いてSDS−PAGEを行い、FluoroImager(GE Healthcare社製、商品名:Typhoon9410)を用いて解析した。結果を
図7に示す。
【0062】
図7中、レーン1は蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体及び蛍光標識ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体未添加のGFP発現サンプル、レーン2は蛍光標識ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を10μM添加したGFP発現サンプル、レーン3は蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を2μM添加したGFP発現サンプル、レーン4は蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を10μM添加したGFP発現サンプル、レーン5は蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を40μM添加したGFP発現サンプル、矢印は目的タンパク質であるGFPを示す。上段及び下段の電気泳動結果は、同一のゲルを異なるイメージング法を用いて解析したものである。上段(GreenScan)は、GFPによる蛍光イメージを取得した結果であり、下段は、Cy5による蛍光イメージを取得した結果である。
上段のレーン3〜5において、GFPの発現が確認された。また、下段のレーン3〜5において、蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を取り込んだビオチン化GFPの発現が確認された。
更に、上段のレーン4及びレーン5において、GFP由来の蛍光強度はレーン4の方が強く検出された。その一方、下段のレーン4及びレーン5においては、Cy5蛍光強度はレーン5の方が強く検出された。これらのことから、蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を40μM添加したサンプルは、ビオチン化効率が特に高いことが確認された。
【0063】
(スライドガラスを用いたビオチン化GFPタンパク質のパターニング)
ビオチンコートされたスライドガラス(MicroSurface社製、商品名:Bio−02)上に、20μgのストレプトアビジンと10%グリセロールを含有したPBS(pH7.5)を滴下し、ストレプトアビジンでコートされたスライドガラスを作製した。次いで、(無細胞転写/翻訳系を用いたタンパク質合成及びビオチン化)で述べた方法により、384ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルにGFPタンパク質合成反応液を加え、ストレプトアビジンでコートされたスライドガラスを密着させ、加湿チャンバー中で約30分、室温で保持した。
その後、ストレプトアビジンでコートされたスライドガラスを384ウェルマイクロタイタープレート凹版から剥がし、PBS 1x washバッファー(100mM Phospate、150mM NaCl、0.05% TritonX−100)で15秒間、3回洗浄した。更に、水を用いてリンスし、風乾した。スライドガラス上にGFPタンパク質がパターニングされているかどうかを、FluoroImager)を用いてGFP由来の蛍光を確認した。結果を
図8に示す。
【0064】
図8中、左上のスポットは蛍光標識ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を10μM添加したGFP発現サンプル、右上のスポットは蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を2μM添加したGFP発現サンプル、左下のスポットは蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を10μM添加したGFP発現サンプル、右下のスポットは蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体を40μM添加したGFP発現サンプルを示す。左上のスポットにおいて蛍光が観察されない一方、その他のスポットにおいては、蛍光標識ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体の用量依存にスポットの蛍光強度が強まっていることが確認された。
このことから、ビオチン化ピューロマイシン−ヌクレオチド複合体をタンパク質合成系に加えることにより、タンパク質がビオチン化され、基板上に容易にパターニングされることが確認された。
【0065】
以上の結果から、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法によれば、マイクロウェルモールドといった微小構造体の中でビオチン化タンパク質又はビオチン化ペプチドの合成を行い、合成されたビオチン化タンパク質又はビオチン化ペプチドを微細なパターン形状でアビジン修飾された基板表面に固定化することができる。従って、本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法によれば、基板に任意のサイズ及び形状のタンパク質を簡便にかつ効率よく印刷することができる。
【0066】
更に、本実施形態のタンパク質アレイ又はペプチドアレイは、上記の様に本実施形態のタンパク質又はペプチドのプリンティング方法を用いて、簡便でかつ効率よく製造されるものであるため、近年遺伝子レベルで診断が行われている生活習慣病やガンなどに関連する遺伝子や、病原細菌やウイルスの遺伝子の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、SNP)解析に柔軟に対応することができる。そして、本実施形態のタンパク質アレイ又はペプチドアレイによれば、かかる一塩基多型診断をタンパク質レベルで迅速にかつ詳細に行うことができる。