【文献】
Mindy Lee and Philippe M. Fauchet,Two-dimensional silicon photonic crystal based biosensing platform for protein detection,Optics Express,米国,Optical Society of America,2007年 4月 3日,Vol. 15,No. 8,pp. 4530-4535
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
蛍光ラベルにより特定分子を検出する蛍光型バイオセンサと異なり、ラベルフリーで光学的に分子検出を行うバイオセンサの研究開発が、人体の化学物質の分析や病気の早期発見などの医療応用の観点で進められている。例えば、ラベルフリーで光学的に分子検出が行えるセンサとして、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)センサがある。SPRセンサは、分子吸着による屈折率/反射率変化を捉えるセンサであり、生化学研究で広く用いられているが、小型化に難がある。専門家による分析を必要とせず、家庭で簡便に利用できるバイオセンサには、小型化・低価格化が必須であり、エレクトロニクス同様、Si−CMOS技術を用いてチップ上に機能集積したセンサが望ましい。
【0003】
今日まで、Si−CMOS加工技術を用いた光学的手法によるセンサチップが報告されている。例えば、板状のSi層(Siスラブ)を数100nmの幅・高さの矩形断面をもつ細線に加工したSi光導波路をベースに、Mach−Zehnder干渉計を構成したセンサがある。また、上述したSi光導波路をベースに、μmサイズの直径の微小リング光共振器を構成したセンサがある。
【0004】
抗原抗体反応により光導波路表面に選択的に分子が吸着することによって、屈折率に変化が生じ、光の透過率が変化することで分子を捉えることが可能となる。透過率の変化は、マッハツェンダー(Mach-Zehnder)干渉計では強め合う、または、弱め合う干渉が起こる波長、すなわち、共振の起こる波長(共振波長)がシフトすることによる。また、Siスラブに周期的に孔を形成したフォトニック結晶(PhC)において、一部に孔を形成しない部分を設け、また、孔の大きさを変えた点欠陥を設けて光共振器として動作させること(非特許文献1参照)により、分子吸着を捉えることが可能である。
【0005】
しかし、これらの共振器の多くでは、光のパワーが主にSi中に閉じ込められており、導波路から弱くしみ出したエバネッセント波で表面に吸着した分子を捉えているため、SPRに比べると感度(検出濃度の下限)に難がある。高感度化には、導波路側壁の粗を原子レベルで低減する超精密加工により、共振器のQ値(quality factor)を極めて高くする必要がある(非特許文献2参照)。一方、Si導波路中にスロットと呼ばれる空隙を設け(非特許文献3参照)、また、フォトニック結晶中で点欠陥となっている1個の孔のサイズを調整し(非特許文献1参照)、導波路や光共振器からしみ出した光強度を増加させることにより、検出感度を向上させる試みがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. R. Lee and P. M. Fauchet, "Two-dimensional silicon photonic crystal based biosensing platform for protein detection", Opt. Express, vol.15, no.8, pp.4530-4535, 2007.
【非特許文献2】A. M. Armani et al. , "Label-Free, Single-Molecule Detection with Optical Microcavities", Science, vol.317, pp.783-787, 2007.
【非特許文献3】T. Claes et al. , "Label-Free Biosensing With a Slot-Waveguide-Based Ring Resonator in Silicon on Insulator", IEEE Photonics Journal, vol.1,no.3, pp.197-204, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
検出感度の向上は、シリコンによる微小リング光共振器やフォトニック結晶を用いた共振器のQ値(quality factor)を高くすることで実現できる。共振器のQ値の向上は、現状では、主に、導波路側壁の粗を原子レベルで低減する超精密加工によって行われている。このため、従来では、Q値を向上させることが容易ではないという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、容易に製造できるシリコンによるフォトニック結晶において、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るフォトニック結晶光共振器は、シリコンからなるフォトニック結晶本体に設けられて周期的に配置された柱状の複数の第1格子要素を備える基部と、フォトニック結晶本体の中央部に設けられて周期的に配置された柱状の複数の第2格子要素を備える共振部と
、フォトニック結晶本体を挾んで接続されたシリコンコアおよびシリコンコアよりなる2つの光導波路とを備え、
共振部は、2つの光導波路の間に配置され、2つの光導波路の間に第1格子要素および第2格子要素が、各々の周期で欠陥を設けることなく配置され、第1格子要素および第2格子要素は、周囲と屈折率が異なり、複数の第2格子要素は、複数の第1格子要素とは周期および径の少なくとも1つが異なり、複数の第1格子要素の周期および第1格子要素の径により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ内に対象とする波長の光のエネルギーがあり、複数の第2格子要素の周期および第2格子要素の径により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ外に対象とする波長の光のエネルギーがあり、第2格子要素によるフォトニックバンドギャップの上端より大きなエネルギーのバンドに光のエネルギーがあるように、複数の第2格子要素の周期および第2格子要素の径が設定されている。
【0010】
上記フォトニック結晶光共振器において、第1格子要素および第2格子要素は、周囲をシリコンとする柱状の中空構造であればよい。また、第1格子要素および第2格子要素は、周囲を空間とするシリコンからなる柱状構造であってもよい。
【0011】
上記フォトニック結晶光共振器において、共振部に共振させる光は、波長1.55μmであり、第2格子要素の周期は、350nmより大きく900nmより小さい範囲であり、第2格子要素の径の半径を周期で除した値は、0.15より大きく0.50より小さい範囲である。また、共振部に共振させる光は、波長1.3μmであり、第2格子要素の周期は、250nmより大きく750nmより小さい範囲であり、第2格子要素の径の半径を周期で除した値は、0.15より大きく0.50より小さい範囲である。また、共振部に共振させる光は、波長1.1μmであり、第2格子要素の周期は、200nmより大きく650nmより小さい範囲であり、第2格子要素の径の半径を周期で除した値は、0.15より大きく0.50より小さい範囲である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したことにより、本発明によれば、容易に製造できるシリコンによるフォトニック結晶において、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態における他のフォトニック結晶光共振器の構成を示す平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、フォトニック結晶におけるフォトニックバンドギャップの状態を示す説明図である。
【
図5】
図5は、TEモードの光にして厚さ250nmのフォトニック結晶本体101を用いた場合の分散関係を示す特性図である。
【
図6】
図6は、フォトニック結晶における格子要素の半径および周期に対するフォトニックバンドギャップのバンド端のエネルギーの関係を示す特性図である。
【
図7】
図7は、波長が1.55μmの光が厚さ250nmのフォトニック結晶本体101のフォトニックバンドギャップ内となるaおよびr/aの関係を「○」で示す説明図である。
【
図8】
図8は、波長が1.3μmの光が厚さ250nmのフォトニック結晶本体101のフォトニックバンドギャップ内となるaおよびr/aの関係を「○」で示す説明図である。
【
図9】
図9は、波長が1.1μmの光が厚さ250nmのフォトニック結晶本体101のフォトニックバンドギャップ内となるaおよびr/aの関係を「○」で示す説明図である。
【
図10A】
図10Aは、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の製造方法を説明する各工程における状態を示す断面図である。
【
図10B】
図10Bは、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の製造方法を説明する各工程における状態を示す断面図である。
【
図10C】
図10Cは、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の製造方法を説明する各工程における状態を示す断面図である。
【
図10D】
図10Dは、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の製造方法を説明する各工程における状態を示す断面図である。
【
図11】
図11は、中空のシリコン細線部を備えるシリコン光導波路から構成したバイオセンサを示す写真である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態における他のフォトニック結晶光共振器の構成を示す平面図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態における他のフォトニック結晶光共振器の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の構成を示す平面図である。このフォトニック結晶光共振器は、シリコンからなるフォトニック結晶本体101が、基部102と、フォトニック結晶本体101の中央部に設けられた共振部103とを備える。基部102は、周期的に配置された柱状の複数の第1格子要素121を備える。また、共振部103は、周期的に配置された柱状の複数の第2格子要素131を備える。また、フォトニック結晶本体101には、シリコンコア104およびシリコンコア105が接続されている。また、シリコンコア104およびシリコンコア105は、クラッド106の上に形成されている。
【0015】
ここで、まず、第1格子要素121および第2格子要素131は、周囲と屈折率が異なり、複数の第2格子要素131は、複数の第1格子要素121とは周期および径の少なくとも1つが異なる。加えて、複数の第1格子要素の周期および第1格子要素の径により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ内に対象とする波長の光のエネルギーがあり、複数の第2格子要素の周期および第2格子要素の径により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ外に対象とする波長の光のエネルギーがあり、第2格子要素によるフォトニックバンドギャップの上端より大きなエネルギーのバンド(airバンド)内に光のエネルギーがあるように、複数の第2格子要素の周期および第2格子要素の径が設定(設計)されている。このようにすることで、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようになる。
【0016】
図1では、第2格子要素131は、第1格子要素121に比較して小さい径とした場合について示しているが、これに限らず、例えば、
図2に示すように、第1格子要素121に比較して大きい径とした第2格子要素131aから構成した共振部103aとしてもよい。また、複数の第2格子要素131aは、複数の第1格子要素121に比較した大きな周期となっている。ここで、「周期」は、隣り合う格子要素の配置間隔であり、フォトニック結晶の技術においては、格子定数とも呼ばれている。
図1,
図2に示す例では、各格子要素を孔(円柱)から構成し、六方晶構造としている。なお、
図1,
図2において、共振部103,共振部103aを示す点線は、実際に存在するものではない。
【0017】
上述したフォトニック結晶光共振器は、よく知られたSOI(Silicon on Insulator)基板を用いることで形成(作製)できる。例えば、
図3の断面図に示すように、基体部110,埋め込み絶縁層111,表面シリコン層112を備えるSOI基板を用い、表面シリコン層112に、基部102,共振部103,シリコンコア104,シリコンコア105を形成し、基部102に形成した貫通孔より第1格子要素121を構成し、共振部103に形成した貫通孔より第2格子要素131を構成すればよい。また、フォトニック結晶本体101の下部には、埋め込み絶縁層111に形成した空間111aが形成されていればよい。なお、この場合、埋め込み絶縁層111がシリコンコア104,シリコンコア105に対するクラッドとなる。
【0018】
上述した構成のフォトニック結晶光共振器を用いることで、バイオセンサが構成できる。共振部103の表面や共振部103の第2格子要素131の側面への分析対象の分子吸着による屈折率や光吸収の変化が、シリコンコア104およびシリコンコア105よりなる光導波路を導波する光スペクトルのピーク波長や強度の変化として検出できる。
【0019】
このフォトニック結晶光共振器では、基部102の第1格子要素121とは異なる周期,径の第2格子要素131から共振部103を構成したヘテロ構造フォトニック結晶とし、主に、
図4に示すように、共振部103の第2格子要素131を構成する孔の内部に光が存在する状態(airバンド)を利用する。また、このフォトニック結晶光共振器では、空間111aを、分析対象流体の流路として用いることもできる。
【0020】
フォトニック結晶を構成する柱状の複数の格子要素の径を小さくする、あるいは格子要素の周期をより大きくするなどにより、
図4に示すように、フォトニックバンドギャップの周波数(エネルギー)が低下する。フォトニック結晶の一部に、周囲(基部102)に比較して、上述したように格子パラメータを変化させた領域(共振部103)を設けると、周囲のフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ域の周波数(エネルギー)でかつ共振部103のフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ外でギャップ上端よりも大きな周波数(エネルギー)において光共振器として動作する。
【0021】
共振部103の内部はairバンドの状態が許容されるため、上述の構成の場合、円筒状の孔である屈折率の低い第2格子要素131の内部に光が多く存在する。第2格子要素131の側壁に吸着した分子の存在による光学定数変化が、光の透過スペクトル(共振ピークの波長や強度)に大きく現れ、共振波長のシフトを大きくすることができる。このように大きなシフトが得られる実施の形態のフォトニック結晶光共振器を用いたバイオセンサによれば、センサ感度を向上できる。
【0022】
次に、対象とする波長の光が、複数の第1格子要素121の周期および第1格子要素121の径により決定される共振部のフォトニックバンドギャップ内のエネルギーをもつことについて説明する。
【0023】
まず、電界がフォトニック結晶本体101(基部102あるいは共振部103)の平面方向に向いたTEモードの光に対して、厚さ250nmのフォトニック結晶本体101を用いた場合の分散関係を
図5に示す。以下では、周期(格子定数)をaとし、第1格子要素121あるいは第2格子要素131は、中空の円筒とし、この半径をrとしている。また、厚さは、柱状の格子要素の高さ方向のフォトニック結晶の寸法である。
【0024】
例えば、
図5の(a)に示すように、a=400nm、r/a=0.3とすると、0.78eV(波長1590nm)から1.02eV(波長1210nm)の範囲で光が存在できないフォトニックバンドギャップが形成される。
図5の(b),
図5の(c),および
図6に示すように、第1格子要素121あるいは第2格子要素131の円筒半径を小さくする、または、第1格子要素121あるいは複数の第2格子要素131の周期を大きくすることで、バンド端のエネルギーおよびフォトニックバンドギャップの大きさが減少する。
【0025】
特にバンドギャップ上端であるairバンド下端のエネルギーが低下することにより、
図5の(a)に示す場合のフォトニックバンドギャップ域であった光の存在が許容されるようになり、かつairバンド内に存在する光であることから、共振部103の第2格子要素131内部での光強度を大きくできる。これにより、フォトニック結晶光共振器をセンサとして用いた場合のセンシング感度を向上することができる。
【0026】
フォトニック結晶本体101の厚さが250nmであり、クラッドが大気であり、格子要素の配置が三角格子の構成を考えた場合、例えば波長が1.55μmの光は、aとr/aを、
図7の「○」となる領域に選ぶことにより、フォトニックバンドギャップ内に存在するようにできる。例えば、1.55μmの光がフォトニックバンドギャップ内に存在するような最も小さい構造はa=350nm、r/a=0.15程度であり、最も大きい構造はa=900nm、r/a=0.50程度である。
【0027】
このように、対象とする波長の光が、フォトニックバンドギャップ内となるaとr/aの関係から、孔の加工精度に対して共振器(共振部103)の孔の内部での光強度を大きくできる構造を選択することができ、検出感度を最大化することができる。
【0028】
対象とする光の波長を1.55μm以外とする際は、波長に比例してaやフォトニック結晶本体101の厚さを変化させるなど、適宜に構造パラメータを設定すればよい。
図8に、対象とする光の波長を1.3μmとした場合のaとr/aの関係を示し、
図9に、対象とする光の波長を1.1μmとした場合のaとr/aの関係を示す。
図8に示すように、1.3μmの光がフォトニックバンドギャップ内に存在するような最も小さい構造はa=250nm、r/a=0.15程度であり、最も大きい構造はa=750nm、r/a=0.50程度である。また、
図9に示すように、1.1μmの光がフォトニックバンドギャップ内に存在するような最も小さい構造はa=200nm、r/a=0.15程度であり、最も大きい構造はa=650nm、r/a=0.50程度である。波長1.55μm以外の光の場合でも、波長を変更してaとr/aの関係を導出することで、共振器(共振部103)の孔の内部での光強度の増大が図れ、センサとして用いた場合の検出感度の向上が図れる。
【0029】
次に、本発明の実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器の製造について簡単に説明する。まず、
図10Aに示すように、基体部110,埋め込み絶縁層111,表面シリコン層112を備えるSOI基板を用意する。次に、
図10Bに示すように、表面シリコン層112の上に、レジストパターン201を形成する。レジストパターン201は、第1格子要素形成領域221に複数の第1格子要素形成孔202を備え、共振部形成領域213に複数の第2格子要素形成孔203を備える。また、レジストパターン201は、コア形成領域214,215に、コア形成パターン204,205を備える。
【0030】
例えば、よく知られたポジ型のフォトレジストを、スピンコート法により表面シリコン層112の上に塗布してレジスト膜を形成し、形成したレジスト膜を公知のフォトリソグラフィー技術によりパターニングすることで、レジストパターン201が形成できる。
【0031】
次に、形成したレジストパターン201をマスクとして公知のドライエッチング技術により表面シリコン層112を選択的にエッチングすることで、
図10Cに示すように、第1格子要素121,第2格子要素131,シリコンコア104,およびシリコンコア105が形成できる。
【0032】
次に、緩衝フッ酸液あるいはフッ酸水溶液を用いたウエットエッチングにより、形成した第1格子要素121および第2格子要素131による貫通孔を介して第1格子要素形成領域221,共振部形成領域213の埋め込み絶縁層111を等方的にエッチングすることで、
図10Dに示すように、空間111aを形成してもよい。この後、レジストパターン201を除去すれば、
図1,
図3に示したフォトニック結晶光共振器が得られる。なお、レジストパターン201を除去した後で、ウエットエッチングにより空間111aを形成してもよい。
【0033】
実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器によれば、例えばセンシング(検出)を行う共振部103などのフォトニック結晶本体101は、第1格子要素121および第2格子要素131を形成しているが、一体構造であり、高い機械的強度が得られている。
【0034】
例えば、
図11に示すような、中空のシリコン細線部を備えるシリコン光導波路から構成したバイオセンサがある。このバイオセンサは、中央部を左右に横切る溝部を備え、上下方向に配列されているシリコン光導波路のシリコン細線が、溝部において露出する中空構造を備えている。このバイオセンサでは、溝部にシリコン細線を架設して中空構造としているため、高い機械的強度が得られない。
図11に示す例では、この写真中央部にあるはずのシリコン細線が破断して無い状態となり、右側のシリコン細線の近傍に飛散している。このように、
図11に示すバイオセンサでは、破損が発生しやすい。これに対し、実施の形態におけるフォトニック結晶光共振器によれば、前述したように高い機械的強度が得られており、破損などが発生しにくい。
【0035】
以上に説明したように、本発明によれば、複数の第1格子要素の周期および第1格子要素の径により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ内に対象とする波長の光のエネルギーがあり、複数の第2格子要素の周期および第2格子要素の径により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ外に対象とする波長の光のエネルギーがあり、第2格子要素によるフォトニックバンドギャップの上端より大きなエネルギーのバンド(airバンド)内に光のエネルギーがあるように、複数の第2格子要素の周期および第2格子要素の径が設定(設計)されている状態としているので、容易に製造できるシリコンによるフォトニック結晶において
、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようになる。共振器となるフォトニック結晶の部分(共振部)の格子要素のサイズや格子要素の周期を適切に選ぶことによって、共振器の孔の内部で大きな光強度が得られるようになる。
【0036】
このようなフォトニック結晶光共振器をバイオセンサに用いると、シリコン内部ではなく、分子の吸着が起こるシリコンの外部である大気あるいは溶液側での光強度を増大できるようになり、分子吸着による共振波長のシフト量が増加し、分子を検出する感度を向上させることができる。
【0037】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述では、格子要素を中空構造としたが、これに限るものではなく、格子要素の部分にシリコンが存在し、格子要素の周囲が空間の状態としてもよい。
【0038】
例えば、
図12の平面図および
図13の断面図に示すように、基体部310,埋め込み絶縁層311,表面シリコン層312を備えるSOI基板を用い、表面シリコン層312に、基部302,共振部303,シリコンコア304,シリコンコア305を形成し、基部302に形成したシリコンからなる柱状構造体より第1格子要素321を構成し、共振部303に形成したシリコンからなる柱状構造体より第2格子要素331を構成してもよい。第1格子要素321および第2格子要素331の周囲が空間の状態となる。
【0039】
なお、フォトニック結晶本体301は、基部302と、フォトニック結晶本体301の中央部に設けられた共振部303とを備え、基部302は、周期的に配置された柱状の複数の第3格子要素321を備え、共振部303は、周期的に配置された柱状の複数の第2格子要素331を備え、フォトニック結晶本体301には、シリコンコア304およびシリコンコア305が接続され、シリコンコア304およびシリコンコア305は、クラッド306(埋め込み絶縁層311)の上に形成されている。
【0040】
また、例えば、上述では、六方晶構造のフォトニック結晶を例に説明したが、これに限るものではなく、正方晶構造のフォトニック結晶であってもよい。また、格子要素は、円柱に限らず、四角柱,六角柱などであってもよい。
【0041】
また、フォトニック結晶本体の一部(下部)にSiO
2からなる構造体が配置されていてもよい。この構成では、対象とする光が、SiO
2およびSiが透明な近赤外域(1.1〜3μm)に動作が制限される。フォトニック結晶本体の一部と光入出力用導波路の大部分を中空構造のフォトニック結晶導波路とすることで、中赤外域(3−8μm程度)でも動作可能となる。このようなフォトニック結晶光共振器をバイオセンサに用いることで、分子吸着による屈折率変化に加えて、分子振動励起による光吸収変化によるセンシングも可能となる。