(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御対象の前記第1及び第2部分は、それぞれ、並進及び回転方向に駆動され、前記第1制御量は、前記第1部分の前記並進方向に関する位置に関連する物理量の少なくとも1つを含み、
前記第2制御量は、前記第2部分の前記回転方向に関する位置に関連する物理量の少なくとも1つを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の駆動システム。
前記移動体は、前記物体を保持して所定面上を移動する第1移動体と、該第1移動体の一部を構成するナット部とともに送りねじ機構を構成するねじ部を含む第2移動体とを有し、
前記制御対象の前記第1及び第2部分は、それぞれ、前記第1及び第2移動体に含まれる請求項10又は11に記載の露光装置。
前記第1制御量は前記第1部分の位置に関連する少なくとも1種類の物理量であり、前記第2制御量は前記第2部分の位置に関連する少なくとも1種類の物理量である請求項14に記載の駆動方法。
前記計測することでは、前記第1制御量として前記第1部分の並進方向に関する位置に関連する物理量の少なくとも1つを、前記第2制御量として、前記第2部分の回転方向に関する位置に関連する物理量の少なくとも1つを、それぞれ計測し、
前記駆動することでは、前記制御対象の前記第1及び第2部分を、それぞれ、前記並進及び前記回転方向に駆動する請求項14〜19のいずれか一項に記載の駆動方法。
前記物体を保持して所定面上を移動する第1移動体と、該第1移動体の一部を構成するナット部とともに送りねじ機構を構成するねじ部を含む第2移動体とを有する前記移動体が、前記制御対象とされ、
前記移動体の駆動に際して、前記第1移動体の位置に関連する第1制御量、及び前記剛体モードに対し前記第1移動体と逆相の共振モードを示す前記第2移動体の位置に関連する第2制御量が、計測される請求項23又は24に記載の露光方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
《第1の実施形態》
以下、第1の実施形態について、
図1〜
図17に基づいて説明する。
【0024】
図1には、フラットパネルディスプレイ、例えば液晶表示装置(液晶パネル)などの製造に用いられる第1の実施形態に係る露光装置110の構成が概略的に示されている。露光装置110は、液晶表示素子パターンが形成されたマスクMと、プレートステージPSTに保持されたガラスプレート(以下、「プレート」という)Pとを、投影光学系PLに対して所定の走査方向(ここでは、
図1における紙面内左右方向であるX軸方向とする)に沿って例えば同一速度で同一方向に相対走査し、マスクMのパターンをプレートP上に転写するスキャニング・ステッパ(スキャナ)である。露光装置110は、照明系IOP、マスクMを保持するマスクステージMST、投影光学系PL、マスクステージMST及び投影光学系PLなどが搭載された不図示のボディ、プレートPをプレートホルダPHを介して保持するプレートステージPST、及びこれらの制御系等を備えている。制御系は、露光装置110の構成各部を統括制御する主制御装置(不図示)及びその配下のステージ制御装置50(
図3等参照)によって主に構成される。以下においては、露光時にマスクMとプレートPとが投影光学系PLに対してそれぞれ相対走査される方向をX軸方向(X方向)とし、水平面内でこれに直交する方向をY軸方向(Y方向)、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸方向(Z方向)とし、X軸、Y軸、及びZ軸回りの回転(傾斜)方向をそれぞれθx、θy、及びθz方向として説明を行う。
【0025】
照明系IOPは、例えば米国特許第5,729,331号明細書などに開示される照明系と同様に構成されている。すなわち、照明系IOPは、マスクM上に千鳥状に配置された複数、例えば5つの照明領域のそれぞれを照明する複数、例えば5つの照明系を有し、各照明系は、図示しない光源(例えば、水銀ランプ)から射出された光を、図示しない反射鏡、ダイクロイックミラー、シャッター、波長選択フィルタ、各種レンズなどを介して、露光用照明光(照明光)ILとしてマスクMに照射する。照明光ILとしては、例えばi線(波長365nm)、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)などの光(あるいは、上記i線、g線、h線の合成光)が用いられる。また、照明光ILの波長は、波長選択フィルタにより、例えば要求される解像度に応じて適宜切り替えることが可能になっている。
【0026】
マスクステージMSTには、回路パターンなどがそのパターン面(
図1における下面)に形成されたマスクMが、例えば真空吸着(あるいは静電吸着)により固定されている。マスクステージMSTは、不図示のボディの一部である鏡筒定盤の上面に固定されたX軸方向に伸びる一対のマスクステージガイド(不図示)上に、不図示の気体静圧軸受(例えばエアベアリング)を介して非接触状態で支持(浮上支持)されている。マスクステージMSTは、例えばリニアモータを含むマスクステージ駆動系MSD(
図1では不図示、
図3参照)により、走査方向(X軸方向)に所定のストロークで駆動されるとともに、Y軸方向、及びθz方向にそれぞれ適宜微少駆動される。マスクステージMSTのXY平面内の位置情報(θz方向の回転情報を含む)は、マスク干渉計システム16により計測される。
【0027】
マスク干渉計システム16は、マスクステージMSTの端部に固定された移動鏡15に測長ビームを照射し、移動鏡15からの反射光を受光することにより、マスクステージMSTの位置を計測する。その計測結果はステージ制御装置50に供給され(
図3参照)、ステージ制御装置50は、マスク干渉計システム16の計測結果に基づいて、マスクステージ駆動系MSDを介してマスクステージMSTを駆動する。なお、移動鏡に代えて、マスクステージの端面に鏡面加工を施して反射面(移動鏡の反射面に相当)を形成しても良い。また、マスク干渉計システム16に代えて、あるいはマスク干渉計システム16とともにエンコーダ(又は複数のエンコーダから構成されるエンコーダシステム)を用いても良い。
【0028】
投影光学系PLは、マスクステージMSTの
図1における下方において、不図示のボディの一部(鏡筒定盤)に支持されている。投影光学系PLは、例えば米国特許第5,729,331号明細書に開示された投影光学系と同様に構成されている。すなわち、投影光学系PLは、前述した複数の照明領域に対応して、マスクMのパターン像の投影領域が千鳥状に配置された複数、例えば5つの投影光学系(マルチレンズ投影光学系)を含み、Y軸方向を長手方向とする長方形状の単一のイメージフィールドを持つ投影光学系と同等に機能する。ここでは、3つの投影光学系がY軸方向に所定間隔で配置され、残りの2つの投影光学系が、3つの投影光学系から+X側に離間して、Y軸方向に所定間隔で配置されている。本実施形態では、複数(5つ)の投影光学系のそれぞれとしては、例えば両側テレセントリックな等倍系で正立正像を形成するものが用いられている。また、以下では投影光学系PLの千鳥状に配置された複数の投影領域をまとめて露光領域と呼ぶ。
【0029】
照明系IOPからの照明光ILによってマスクM上の照明領域が照明されると、投影光学系PLの第1面(物体面)とパターン面とがほぼ一致して配置されるマスクMを通過した照明光ILにより、投影光学系PLを介してその照明領域内のマスクMの回路パターンの投影像(部分正立像)が、投影光学系PLの第2面(像面)側に配置される、表面にレジスト(感応剤)が塗布されたプレートP上の照明領域に共役な照明光ILの照射領域(露光領域)に形成される。そして、マスクステージMSTとプレートステージPST(より正確には、後述のプレートテーブルPTB)との同期駆動によって、照明領域(照明光IL)に対してマスクMを走査方向(X軸方向)に相対移動させるとともに、露光領域(照明光IL)に対してプレートPを走査方向(X軸方向)に相対移動させることで、プレートP上の1つのショット領域(区画領域)の走査露光が行われ、そのショット領域にマスクMのパターンが転写される。すなわち、本実施形態では照明系IOP及び投影光学系PLによってプレートP上にマスクMのパターンが生成され、照明光ILによるプレートP上の感応層(レジスト層)の露光によってプレートP上にそのパターンが形成される。
【0030】
プレートステージPSTは、投影光学系PLの下方(−Z側)に配置されている。プレートステージPSTは、X軸方向(走査方向)に移動するキャリッジ30と、該キャリッジ30の上に支持されてプレートPを保持してY軸方向(非走査方向、クロススキャン方向)に移動するプレートテーブルPTBとを備えている。
【0031】
図2には、プレートステージPSTが、プレート干渉計システム18(18X、18Y、18X
1、18X
2、
図3参照)とともに、斜視図にて示されている。プレートテーブルPTBは、
図2に示されるように、平面視矩形板状の部材から成り、その上面の中央にプレートP(
図2では不図示、
図1参照)を吸着保持するプレートホルダPHが固定されている。プレートテーブルPTBは、複数、例えば3つの支持機構(不図示)を介してYスライダ32Y上に支持されている。各支持機構は、プレートテーブルPTBを支持するとともに、その支持点にてプレートテーブルPTBをZ軸方向に駆動するアクチュエータ(例えばボイスコイルモータ等)を含む。3つの支持機構により、プレートテーブルPTBは、Yスライダ32Y上で、3自由度方向(Z軸、θx、及びθyの各方向)に微小駆動される。
【0032】
Yスライダ32Yは、XZ断面が逆U字状の部材であり、エアベアリング(不図示)等を介して非接触で、Y軸方向に伸びるYビーム(Yガイド)34Yに上方から係合している。Yビーム34Yの内部には、例えば複数のコイルがY軸方向に所定間隔で配置され、Yスライダ32Yの内面側には、例えば複数の永久磁石が、配置されている。Yビーム34YとYスライダ32Yとによって、可動子であるYスライダ32YをY軸方向に駆動するムービングマグネット型のYリニアモータ36Yが構成されている。Yリニアモータ36Yによって、プレートテーブルPTBが、Yビーム34Yに沿ってY軸方向に駆動される。なお、Yリニアモータ36Yとしては、ムービングマグネット型に限らず、ムービングコイル型のリニアモータを用いることもできる。
【0033】
Yビーム34Yの長手方向の一端と他端の下面には、Xスライダ32X
1,32X
2が固定されている。Xスライダ32X
1,32X
2は、それぞれ、YZ断面が逆U字状の部材であり、Y軸方向に離間して配置され、かつX軸方向にそれぞれ延設された一対のXガイド34X
1,34X
2にエアベアリング(不図示)等を介して非接触で、上方から係合している。Xガイド34X
1,34X
2は、それぞれ、不図示の防振部材を介して(あるいは直接)床面F上に設置されている。
【0034】
Xガイド34X
1,34X
2のそれぞれの内部には、例えば複数のコイルがX軸方向に所定間隔で配置され、Xスライダ32X
1,32X
2の内面側には、それぞれ、複数の永久磁石が配置されている。Xガイド34X
1とXスライダ32X
1とによって、可動子であるXスライダ32X
1をX軸方向に駆動するムービングマグネット型のXリニアモータ36X
1が構成されている。同様に、Xガイド34X
2とXスライダ32X
2とによって、可動子であるXスライダ32X
2をX軸方向に駆動するムービングマグネット型のXリニアモータ36X
2が構成されている。
【0035】
ここで、一対のXスライダ32X
1,32X
2と、Yビーム34Yとを含んで、キャリッジ30(
図1参照)が構成され、キャリッジ30が、一対のXリニアモータ36X
1,36X
2によって、X軸方向に駆動される。また、一対のXリニアモータ36X
1,36X
2が異なる推力(駆動力)を発生することで、一対のXリニアモータ36X
1,36X
2によって、キャリッジ30が、θz方向に駆動されるようになっている。なお、Xリニアモータ36X
1,36X
2としては、ムービングマグネット型に限らず、ムービングコイル型のリニアモータを用いることもできる。
【0036】
本実施形態では、上述したYリニアモータ36Y、一対のXリニアモータ36X
1,36X
2、及び3つの支持機構(不図示)によって、プレートテーブルPTBを6自由度方向(X軸,Y軸,Z軸,θx,θy,θzの各方向)に駆動するプレートステージ駆動系PSD(
図3参照)が構成されている。プレートステージ駆動系PSD(の構成各部)は、ステージ制御装置50によって制御される(
図3参照)。
【0037】
図2に戻り、プレートテーブルPTBの上面には、−X端部及び+Y端部に、それぞれX軸に直交する反射面を有する移動鏡(平面ミラー)17X、Y軸に直交する反射面を有する移動鏡(平面ミラー)17Yが、固定されている。また、Xスライダ32X
1の上面にはコーナーキューブ17X
1が、Xスライダ32X
2の上面にはコーナーキューブ(不図示)が、それぞれ固定されている。
【0038】
プレートステージPSTの位置は、プレート干渉計システム18(
図3参照)によって計測されている。プレート干渉計システム18は、
図2に示される4つの干渉計18X,18Y、18X
1及び18X
2を含む。
【0039】
干渉計18Xは、プレートテーブルPTBに固定された移動鏡17XにX軸に平行な少なくとも3本の測長ビームを照射し、それぞれの反射光を受光して、プレートテーブルPTBのX軸方向、θz方向、及びθy方向の位置を計測する。干渉計18Yは、プレートテーブルPTBに固定された移動鏡17YにY軸に平行な少なくとも2本の測長ビームを照射し、それぞれの反射光を受光して、プレートテーブルPTBのY軸方向及びθx方向の位置を計測する。
【0040】
干渉計18X
1は、Xスライダ32X
1上に固定されたコーナーキューブ17X
1にX軸に平行な測長ビームを照射し、その反射光を受光してキャリッジ30のX軸方向の位置(X位置)を計測する。同様に、干渉計18X
2は、Xスライダ32X
2上に固定されたコーナーキューブ(不図示)にX軸に平行な測長ビームを照射し、その反射光を受光してキャリッジ30のX軸方向の位置(X位置)を計測する。
【0041】
プレート干渉計システム18の各干渉計の計測結果は、ステージ制御装置50に供給される(
図3参照)。ステージ制御装置50は、プレート干渉計システム18の各干渉計の計測結果に基づいて、プレートステージ駆動系PSD(より正確には、一対のXリニアモータ36X
1,36X
2及びYリニアモータ36Y)を介してプレートステージPST(プレートテーブルPTB)をXY平面内で駆動する。本実施形態では、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)のX軸方向の駆動に際して、後述するように、干渉計18Xの計測結果と、干渉計18X
1及び18X
2の少なくとも一方の計測結果とが用いられる。
【0042】
なお、ステージ制御装置50は、露光時などに、不図示のフォーカス検出系の検出結果に基づいて、プレートステージ駆動系PSD(より正確には、3つの支持機構(不図示))を介してプレートテーブルPTBをZ軸、θy及びθzの少なくとも1方向に微小駆動する。
【0043】
図3には、露光装置110のステージ制御に関連する制御系の構成が示されている。
図3の制御系は、例えばマイクロコンピュータなどを含むステージ制御装置50を中心として構成されている。
【0044】
露光装置110では、予め行われたプレートのアライメント計測(例えば、EGA等)の結果に基づいて、以下の手順で、プレートPの複数のショット領域が露光される。すなわち、主制御装置(不図示)の指示に応じて、ステージ制御装置50が、マスク干渉計システム16及びプレート干渉計システム18の計測結果を監視して、マスクステージMSTとプレートステージPSTとを、プレートP上の1つのショット領域を露光するためのそれぞれの走査開始位置(加速開始位置)に移動する。そして、ステージMST,PSTをX軸方向に沿って同一方向に同期駆動する。これにより、前述のようにして、プレートP上の1つのショット領域にマスクMのパターンが転写される。走査露光中、ステージ制御装置50は、例えば補正パラメータに従って、マスクステージMSTとプレートステージPSTの同期駆動(相対位置及び相対速度)を微調整する。これにより、前工程レイヤに形成されたパターンに重なるように、マスクMのパターンの投影像が位置合わせされる。
【0045】
1つのショット領域に対する走査露光が終了すると、ステージ制御装置50が、プレートステージPSTを、次のショット領域を露光するための走査開始位置(加速開始位置)へ移動(ステッッピング)させる。そして、次のショット領域に対する走査露光を行う。このようにして、プレートPのショット領域間のステッピングとショット領域に対する走査露光とを繰り返すことにより、プレートP上の全てのショット領域にマスクMのパターンが転写される。
【0046】
次に、プレートステージPSTを駆動する駆動システム(プレートステージPSTの駆動を制御する制御系)の設計について説明する。
【0047】
本実施形態では、並進方向、一例としてX軸方向にプレートステージPSTを駆動する駆動システムについて説明する。また、比較のため、従来技術についても、簡単に説明する。
【0048】
従来技術では、1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系(閉ループ制御系)が構築される。この1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系を、露光装置110に適用する場合を考える。この場合、干渉計18Xにより、制御対象であるプレートステージPST(プレートテーブルPTB)のX位置(制御量)が計測される。その計測結果Xは、ステージ制御装置50に供給される。ステージ制御装置50は、計測結果Xを用いて操作量U(Xリニアモータ36X
1,36X
2が発する駆動力F、又はXリニアモータ36X
1,36X
2のコイルに流す電流量I等)を求め、求められた操作量Uをプレートステージ駆動系PSDへ送る。プレートステージ駆動系PSDは、受信した操作量Uに従って、例えば、駆動力Fに等しい駆動力を発する、あるいは電流量Iに等しい量の電流をXリニアモータ36X
1,36X
2のコイルに流す。これにより、プレートステージPSTが駆動(制御)される。
【0049】
図4には、上述の1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系におけるプレートステージPST(プレートテーブルPTB)の入出力応答(操作量Uに対する制御量Xの応答)を表現する伝達関数P(=X/U)の周波数応答特性を示すボード線図(振幅(ゲイン)|P(s)|及び位相arg(P(s)))、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。ここで、s=jω=j2πf、j=√(−1)、fは周波数である。図中、実線は、例えば後述する力学模型に基づいて求められた理論結果を示し、一点鎖線は、実験結果(実験機を用いて測定された結果)を示す。実験では、操作量Uに対して制御量Xを測定し、その結果を定義式(P=X/U)に適用することにより、伝達関数Pの周波数応答特性が求められている。
【0050】
伝達関数Pの周波数応答特性において、10数Hz付近に、共振モード(共振振舞い)が現れることが確認できる。伝達関数Pは、基本的な振舞いとして、周波数fの増加に対して、その振幅を単調に減少し、位相を一定に保つ。これらは、ゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、右下がりの直線及び傾き零の直線を示す。そして、伝達関数Pは、共振振舞いとして、10数Hz付近において、振幅を急激に増加そして減少し、位相を急激に減少そして増加する。これらは、ゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、連続する山と谷の形及び谷の形を示す。すなわち、伝達関数Pは、10数Hz付近において、剛体モードに対して逆相の共振モードを示す。
【0051】
上述の共振モード(共振振舞い)は、近年の露光装置の大型化により、より低周波数域に現れ、プレートステージPSTの駆動の精密なかつ安定した制御の大きな妨げになっている。なお、
図4の周波数応答特性の実験結果において、高周波数域(数10Hz以上)において激しい振動振舞いが見られるが、ここでは特に問題としない。
【0052】
上述の共振モード(共振振舞い)を相殺し、プレートステージPSTの駆動を精密にかつ安定して制御するために、プレート干渉計システム18の干渉計18X(第1計測器)に加えて干渉計18X
1(第2計測器)を用いることにより、1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築する。ここで、キャリッジ30のX位置は、干渉計18X
1、18X
2のいずれによっても計測することができ、両者の計測値の平均によっても得られるが、ここでは、説明の便宜上、キャリッジ30のX位置を計測する第2計測器として、干渉計18X
1を用いるものとしている。
【0053】
この1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系では、干渉計18X,18X
1により、それぞれ、プレートステージPST(制御対象)を構成するプレートテーブルPTB(制御対象の第1部分)及びキャリッジ30(制御対象の第2部分)のX位置(制御量)X
1,X
2が計測される。これらの計測結果(X
1,X
2)は、ステージ制御装置50に供給される。ステージ制御装置50は、計測結果(X
1,X
2)を用いて操作量U(駆動力F)を求め、求められた操作量Uをプレートステージ駆動系PSDへ送信する。プレートステージ駆動系PSD(Xリニアモータ36X
1,36X
2)は、受信した操作量U(駆動力F)に従って、駆動力Fに等しい駆動力をキャリッジ30(第2部分)に加える。これにより、プレートステージPSTが駆動される。
【0054】
図5(A)には、キャリッジ30の入出力応答(操作量U(駆動力F)に対する制御量X
2)を表現する伝達関数P
2(=X
2/U)の周波数応答特性を示すボード線図、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。また、
図5(B)には、プレートテーブルPTBの入出力応答(操作量U(駆動力F)に対する制御量X
1)を表現する伝達関数P
1(=X
1/U)の周波数応答特性を示すボード線図、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。
【0055】
プレートテーブルPTBに対する伝達関数P
1の周波数応答特性(
図5(B))は、前述の周波数応答特性(
図4)と同様の振舞いを示す。ただし、共振振舞い(共振モード)が現れる周波数域が、幾分高周波数側にシフトしている。これに対し、キャリッジ30に対する伝達関数P
2の周波数応答特性は、伝達関数P
1の周波数応答特性と相反する振舞い(逆相の共振モード)、すなわち剛体モードに対して同相の共振モードを示す。伝達関数P
2は、周波数fの増加に対して、その振幅を急激に減少そして増加し、位相を急激に増加そして減少する。これらは、
図5(A)のゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、連続する谷と山の形及び山の形を示している。
【0056】
また、1入力2出力系(SIMO系)の制御対象に対するフィードバック制御を用いた露光装置が、特開2006−203113号公報に記載されている。しかし、2つの出力を合成して1出力とし、1入力1出力系(SISO系)の制御対象に対して1つの制御器を設計する構成であるため、十分とは言えなかった。
【0057】
本第1の実施形態に係る露光装置110では、1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築するにあたり、第1計測器(干渉計18X(移動鏡17X))が設置されたプレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)が示す共振モードに対して逆相の共振モードを示すプレートステージPSTの第2部分(キャリッジ30(Xスライダ32X
1))に、第2計測器(干渉計18X
1(コーナーキューブ17X
1))を設置している。これにより、目的のフィードバック制御系の構築が可能となる。
【0058】
図6には、プレートステージPSTを駆動する駆動システムに対応する1入力2出力系(SIMO系)の閉ループ制御系(フィードバック制御系)を示すブロック図が示されている。この
図6の閉ループ制御系に対応する駆動システムは、制御対象であるプレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)のX位置(第1の制御量X
1)及び第2部分(キャリッジ30)のX位置(第2の制御量X
2)をそれぞれ計測するプレート干渉計システム18の干渉計18X,18X
1と、プレートステージPSTを駆動するステージ制御装置50と、を含む。ステージ制御装置50は、目標値Rと第1、第2の制御量の計測結果(X
1,X
2)とに基づいて操作量Uを演算し、その結果をプレートステージ駆動系PSDに送信してプレートステージPSTを駆動することで、プレートステージPSTの位置を制御する。このように、本実施形態では、ステージ制御装置50によるプレートステージPSTの駆動は、プレートステージPSTの位置の制御を伴うが、以下においては、単に駆動(ただし、必要に応じて駆動(位置制御))と表記する。
【0059】
ここで、目標値(目標軌道)、制御量、操作量等は、時間の関数として定義されるが、
図6及びそれを用いた説明では、制御ブロック図の説明に際しての慣習に従い、それらのラプラス変換を用いて説明を行うものとする。また、後述する演算式U(R−X
1,R−X
2)についても、ラプラス変換形においてその定義を与えるものとする。また、以降においても、特に断らない限り、ラプラス変換(ラプラス変換形)を用いて説明するものとする。
【0060】
ステージ制御装置50は、目標生成部50
0と、2つの制御器50
1,50
2と、2つの減算器50
3,50
4と、加算器50
5と、を含む。なお、これら各部は、実際には、ステージ制御装置50を構成するマイクロコンピュータとソフトウェアによって実現されるが、ハードウェアによって構成しても勿論良い。
【0061】
目標生成部50
0は、プレートステージPSTの目標値、ここでは目標位置(時々刻々変化する位置の目標値)Rを生成して、減算器50
3、50
4に供給する。
【0062】
一方の減算器50
3は、目標位置Rと干渉計18Xによって計測されるプレートテーブルPTB(伝達関数P
1)のX位置X
1(現在位置)との差、すなわち偏差(R−X
1)を算出し、制御器50
1(伝達関数C
1)に供給する。他方の減算器50
4は、目標位置Rと干渉計18X
1によって計測されるキャリッジ30(伝達関数P
2)のX位置X
2(現在位置)との差、すなわち偏差(R−X
2)を算出し、制御器50
2(伝達関数C
2)に供給する。ここで、X位置X
1、X
2は、それぞれ干渉計18X、18X
1によって計測されるが、
図6では、図示が省略されている。以降の閉ループ制御系のブロック図においても同様に計測器は図示が省略される。
【0063】
制御器50
1は、偏差(R−X
1)が零となるように、演算(制御演算)により中間量C
1(R−X
1)を算出し、加算器50
5に送出する。同様に、制御器50
2は、偏差(R−X
2)が零となるように、制御演算により中間量C
2(R−X
2)を算出し、加算器50
5に送出する。ここで、C
1,C
2は、それぞれ、制御器50
1,50
2の伝達関数である。伝達関数とは、入力信号r(t)と出力信号C(t)とのラプラス変換の比R(s)/C(s)、すなわちインパルス応答関数のラプラス変換関数である。
【0064】
加算器50
5は、制御器50
1,50
2の出力(中間量)を加算して操作量Uを求める。このように、ステージ制御装置50は、干渉計18X,18X
1の計測結果(X
1,X
2)と目標位置Rとに基づいて演算式U(R−X
1,R−X
2)=C
1(R−X
1)+C
2(R−X
2)で表される制御演算を行って操作量Uを求め、該操作量Uを制御対象であるプレートステージPSTに与える。これにより、操作量Uに従ってプレートステージPSTが駆動(位置制御)される。
【0065】
本実施形態では、制御器50
1,50
2を設計するために、すなわち伝達関数C
1,C
2を決定するために、簡素化された力学模型(剛体模型)を用いてプレートステージPSTの力学的運動を表現する。ここでは、
図7(A)に示されるように、プレートステージPSTが、第1計測器(干渉計18X)が設置されたプレートテーブルPTB、及び第2計測器(干渉計18X
1)が設置されたキャリッジ30の2部分から構成されるものとする。そして、これらの部分のX軸方向の運動を、ばねにより連結された2つの剛体の運動、より詳細には、
図7(A)に示されるように、プレートステージ駆動系PSD(Xリニアモータ36X
1,36X
2)に対応する駆動系から駆動力Fを与えられてX軸方向に並進する剛体Cr(キャリッジ30に対応する)と、剛体Cr上の回転中心Oにてばねを介して連結され、回転中心Oに関して(θ
O方向に)回転する剛体Tb(プレートテーブルPTBに対応する)との運動として表現する。
【0066】
ここで、剛体Tb,CrのX位置をそれぞれX
1,X
2、質量をそれぞれM
1,M
2、剛体Tbの(回転中心Oに関する)慣性モーメントをJ
1、粘性(剛体Crの速度に比例する抵抗)をC、剛体Tbと剛体Crとの間の減衰係数をμ、ばね定数(剛体Tbと剛体Crとの間のねじり剛性)をk、剛体Tbの重心と回転中心Oとの間の距離をL、剛体Tb,CrのそれぞれのX位置(X
1,X
2)計測の基準位置間のZ軸方向に関する離間距離をl、無駄時間をτ
dとする。なお、
図7(B)の表に、これらの力学パラメータの値が示されている。これらの値は、後述する式(1a)及び式(1b)により表されるモデル式が、それぞれ、
図5(A)及び
図5(B)に示される周波数応答特性(の実験結果)を再現するように、最小自乗法等を用いて決定されたものである。
【0067】
上述の剛体模型において、剛体Tb,Crの入出力応答(駆動力Fに対する制御量X
1,X
2の応答)を表す伝達関数P
1,P
2は、ラプラス変換形において、次のように与えられる。
【0068】
【数1】
【0069】
上記の伝達関数P
1,P
2を用いて、伝達関数C
1,C
2を決定する。便宜のため、伝達関数P
1,P
2,C
1,C
2を、分数式形P
1=N
P1/D
PD
R,P
2=N
P2/D
PD
R,C
1=N
C1/D
C、C
2=N
C2/D
Cにおいて表す。ここで、
N
P1=b
12s
2+b
11s+b
10 …(2a)
N
P2=b
22s
2+b
21s+b
20 …(2b)
D
P=s
2+C/(M
1+M
2)s …(2c)
D
R=a
4s
2+(a
3−a
4C/(M
1+M
2))s+a
1(M
1+M
2)/C …(2d)
である。この場合、フィードバック制御系(
図6)に対する閉ループ伝達関数の特性方程式A
CLは、1+C
1P
1+C
2P
2の分数式の分子部分により与えられる。すなわち、
A
CL=D
CD
PD
R+N
C1N
P1+N
C2N
P2 …(3)
特性方程式A
CLにおいて、任意の解析関数αを用いて、次式(4)を満たすようにN
C1,N
C2を決定する。
【0070】
N
C1N
P1+N
C2N
P2=αD
R …(4)
これにより、開ループ伝達関数C
1P
1+C
2P
2=α/D
CD
Pが得られ、P
1,P
2のそれぞれに含まれる共振振舞いを与える極(すなわちP
1,P
2のそれぞれが示す共振モード)が極零相殺される。さらに、特性方程式A
CLが安定な極(本説明では便宜上、重根となるようにする)を有するように、すなわち次式(5)を満たすように、D
C,αを決定する。
【0071】
A
CL=(D
CD
P+α)D
R=(s+ω
n)
nD
R …(5)
【0072】
次に、伝達関数C
1,C
2(N
C1,N
C2,D
C,α)の具体形を決定する。N
C1,N
C2が特異点(極)を有するD
Rを含まないように、定数a,bを用いて、N
C1=aα、N
C2=bαと与える。式(2a)〜式(2d)及び式(4)より、a=M
1L/l,b=M
1+M
2−aと定まる。ここで、定数a,bは、質量M
1,M
2および距離L,lのみに依存し、ばね定数k、減衰係数μ,粘性C等、プレートステージPSTの状態に応じて変化し得るパラメータに依存しないことに注目する。これは、閉ループ伝達関数においてP
1,P
2の共振モードが相殺され、剛体Tb,Crの質量M
1,M
2(すなわちプレートテーブルPTB及びキャリッジ30の質量)および距離L,lが変化しない限り、閉ループ伝達関数の振舞いは如何なるプレートステージPSTの状態の変化に対しても不変であることを意味する。
【0073】
残りのD
C,αの決定において、幾らかの自由度が残る。そこで、制御器50
1,50
2として、例えばPID制御器を設計することとする。これにより、D
C=s
2+b
1s,α=b
2s
2+b
3s+b
4が得られる。ただし、b
1=4ω
n−C/(M
1+M
2),b
2=6ω
n2−C/(M
1+M
2)b
1,b
3=4ω
n3,b
4=ω
n4である。
【0074】
なお、露光装置110において、干渉計18X,18X
1によるプレートステージPSTのX位置計測の基準位置、すなわち移動鏡17Xとコーナーキューブ17X
1の設置位置にオフセットがある。このオフセットを取り除くために、制御器50
2(伝達関数C
2)にハイパスフィルタ(不図示)を接続して、低周波数帯域において制御量X
2をカットする。
【0075】
図8(A)及び
図8(B)には、それぞれ、上で設計された1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系における制御器50
2,50
1の伝達関数C
2,C
1の周波数応答特性を示すボード線図が示されている。
図8(A)及び
図8(B)のいずれにおいても、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。ここで、伝達関数C
1,C
2に含まれる力学パラメータには、
図7(B)に示されている値がそれぞれ代入されている。
図8(B)には、比較例として、従来の1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系(例えば特開2006−203113号公報参照)における制御器(PID型制御器とノッチフィルタの組み合わせ)の伝達関数の周波数応答特性(破線で表示)も示されている。ここでは、SISO系の制御器の周波数帯域を5Hz(ω
n=10πrad/s)、SIMO系の制御器の周波数帯域を20Hz(ω
n=40πrad/s)、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を1Hzとした。
【0076】
従来のSISO系の制御器の伝達関数は、30Hz付近において特異な振舞いを示すのに対し、SIMO系の制御器50
1,50
2の伝達関数C
1,C
2は、いずれも全周波数帯域において特異な振る舞いは示していない。
【0077】
発明者らは、上で設計した制御器50
1,50
2(伝達関数C
1,C
2)を用いて構築されるSIMO系のフィードバック制御系のパフォーマンスを、シミュレーションにより検証した。ここで、プレートステージPSTの力学的運動(応答特性)は、前述の剛体模型(伝達関数C
1,C
2)を用いて再現されている。シミュレーションでは、剛体模型(伝達関数C
1,C
2)について3つの条件を適用する。条件Aとして、ノミナルモデル、すなわち全ての力学パラメータに対し
図7(B)に与えられた値を、条件Bとして、ばね定数kに対し
図7(B)に与えられた値の0.5倍の値を、その他の力学パラメータに対し
図7(B)に与えられた値を、条件Cとして、慣性モーメントJ
1に対し
図7(B)に与えられた値の5倍の値を、その他の力学パラメータに対し
図7(B)に与えられた値を、適用する。
【0078】
図9(A)〜
図9(C)には、それぞれ条件A〜Cに対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系の感度関数(閉ループ伝達関数)S(及びT=1−S;Tは相補感度関数)の周波数応答特性を示すゲイン線図が示されている。また、比較例として、前述のSISO系のフィードバック制御系の感度関数S(及びT=1−S;Tは相補感度関数)の周波数応答特性を示すゲイン線図も示されている。ここで、先と同様に、SISO系の制御器の周波数帯域を5Hz(ω
n=10πrad/s)、SIMO系の制御器の周波数帯域を20Hz(ω
n=40πrad/s)、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を1Hzとしている。
【0079】
図9(A)に示されるノミナルモデルに対する周波数応答特性では、従来のSISO系のフィードバック制御系、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系ともに、特異な振る舞いはしていない。なお、SIMO系のフィードバック制御系についての周波数応答特性において、30Hz付近に特異な振舞いが現れているが、これは、ハイパスフィルタに起因する振舞いであり、システム制御上、無視できる程度の微小な振舞いである。
【0080】
図9(B)及び
図9(C)において、従来のSISO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、
図9(A)における周波数応答特性から大きく変化し、30Hz付近において特異な振舞いを示している。これは、次のような理由による。
【0081】
すなわち、
図9(A)の条件A(ノミナルモデル)に対しては、プレートステージPSTの共振振舞い(共振モード)が現れる帯域がノッチフィルタの実効帯域に一致しているため、ノッチフィルタの作用により共振モードが抑制されていた。しかし、
図9(B)の条件Bにおいてはばね定数kの値を、
図9(C)の条件Cにおいては慣性モーメントJ
1の値をずらしたことにより、プレートステージPSTの状態がノミナルモデルから変化して、共振モードが現れる帯域がノッチフィルタの実効帯域から外れたため、ノッチフィルタが作用せず、共振モードが抑制されなかったからである。
【0082】
これに対し、
図9(B)及び
図9(C)における本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、
図9(A)におけるノミナルモデルに対する周波数応答特性からまったく変化していない。これは、前述の通り、制御器50
1,50
2の伝達関数C
1,C
2(定数a,b)が質量M
1,M
2および距離L,lのみに依存し、ばね定数k等、プレートステージPSTの状態に応じて変化し得るパラメータに依存しないからである。この結果は、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系は、如何なるプレートステージPSTの状態の変化に対してもロバストであることを示唆している。
【0083】
なお、従来のSISO系のフィードバック制御系に対して本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、プレートステージPSTを駆動する上で特に重要な低周波数帯域(10Hz以下)において、約30dB、外乱抑圧特性が向上している。
【0084】
図10(A)〜
図10(C)には、それぞれ条件A〜Cに対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれの開ループ伝達関数の周波数応答特性を示すボード線図が示されている。
図10(A)〜
図10(C)のいずれにおいても、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。従来のSISO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、30Hz付近において特異な振舞いを示しているのに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、全周波数帯域において特異な振舞いを示していない。
【0085】
図11(A)〜
図11(C)には、それぞれ条件A〜Cに対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれに対するナイキスト線図が示されている。従来のSISO系のフィードバック制御系では、ナイキスト軌跡は、ノミナルモデル(条件A)に対してのみ、点(−1,0)を囲まず、ナイキストの安定条件を満たすが、条件B及びCに対しては、点(−1,0)を囲み、ナイキストの安定条件を満たさない。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、ナイキスト軌跡は、全ての条件A〜Cについて、点(−1,0)を囲まず、ナイキストの安定条件を満たしている。
【0086】
図12には、条件A〜Cに対するゲイン余裕(Gm)と位相余裕(Pm)とが示されている。従来のSISO系のフィードバック制御系では、ノミナルモデル(条件A)において、ゲイン余裕は9.7dB、位相余裕は30.1degである。条件B及びCに対しては、システムは不安定であり、ゲイン余裕と位相余裕は定義できない。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、条件A〜Cともに、ゲイン余裕は17.8dB、位相余裕は35.7degである。通常、高帯域化と安定余裕は、一方が改善されれば他方は改悪する関係にある。それにも関わらず、制御器の周波数帯域を4倍にしたにも関わらず、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、従来のSISO系に対して、ゲイン余裕、位相余裕ともに劇的に改善されている。
【0087】
発明者らは、露光装置110を模擬した実験機において、上で設計した制御器50
1,50
2(伝達関数C
1,C
2)を用いて1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築し、そのパフォーマンスを実験により検証した。実験においても、先のシミュレーションと同様の3つの条件A〜Cを採用した。
【0088】
図13(A)〜
図13(C)には、それぞれ条件A〜Cに対する、本実施形態の1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系と、従来の1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれの感度関数Sの周波数応答特性を示すゲイン線図が示されている。ここで、先と同様に、SISO系の制御器の周波数帯域を5Hz(ω
n=10πrad/s)、SIMO系の制御器の周波数帯域を20Hz(ω
n=40πrad/s)、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を1Hzとしている。
【0089】
従来のSISO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、
図13(A)からわかるように条件A(ノミナルモデル)では特異な振る舞いを示さないが、
図13(B)及び
図13(C)に示されるように、条件B及びCにおいては30Hz付近において特異な振舞いを示す。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、いずれの条件においても、30Hz付近にハイパスフィルタに起因する無視できる程度の微小な特異振舞いを、高周波数帯域(100Hz以上)において高次共振モードに起因する微小な特異振舞いを、それぞれ示すが、これらを除いて、特に露光装置110において問題となる低周波数帯域においては問題となるような特異な振舞いを示していない。
【0090】
図14(A)〜
図14(C)には、それぞれ条件A〜Cに対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれに対する開ループ伝達関数の周波数応答特性を示すボード線図が示されている。
図14(A)〜
図14(C)のいずれにおいても、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。従来のSISO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、30Hz付近において特異な振舞いを示している。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系に対する周波数応答特性は、いずれの条件においても、30Hz付近にハイパスフィルタに起因する無視できる程度の微小な特異振舞いを、高周波数帯域(100Hz以上)において高次共振モードに起因する微小な特異振舞いを、それぞれ示すが、これらを除いて、特に露光装置110において問題となる低周波数帯域において問題となるような特異な振舞いを示していない。
【0091】
図15(A)〜
図15(C)には、それぞれ条件A〜Cに対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれに対するナイキスト線図が示されている。従来のSISO系のフィードバック制御系に対し、ナイキスト軌跡は、ノミナルモデル(条件A)に対してのみ、点(−1,0)を囲まず、ナイキストの安定条件を満たすが、条件B及びCに対しては、点(−1,0)を囲み、ナイキストの安定条件を満たさない。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系に対し、ナイキスト軌跡は、全ての条件A〜Cについて、点(−1,0)を囲まず、ナイキストの安定条件を満たしている。
【0092】
発明者らは、さらに、実験機において、
図16(A)に示されるプレートステージPSTの目標軌道(位置及び速度のそれぞれに関する目標値)のうち位置の目標値Rに対し、フィードバック制御系の追従性能を検証した。
【0093】
図16(B)には、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれにおけるプレートステージPSTの追従誤差の時間変化が示されている。追従誤差は、特に、プレートステージPSTの加減速時に大きくなる。
図16(B)から明らかなように、従来のSISO系のフィードバック制御系に対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、プレートステージPSTの追従性能が劇的に改善されていることが分かる。
図16(C)には、フィードバック制御にフィードフォワード制御を組み合わせた場合の追従誤差の時間変化が示されている。フィードフォワード制御を組み合わせることにより、さらに、追従性能が改善されることが分かる。
【0094】
以上説明したように、本実施形態に係る露光装置110によると、プレートステージPST(制御対象)の位置(第1制御量)X
1を計測する干渉計18X(第1計測器)が設置されたプレートテーブルPTB(制御対象の第1部分)が示す共振モードと逆相の剛体モードに対する共振モードを示すキャリッジ30(制御対象の第2部分)に、プレートステージPSTの位置(第2制御量)X
2を計測する干渉計18X
1(第2計測器)が設置される。第1及び第2計測器を用いることにより、プレートステージPSTを駆動する、高帯域でロバストな駆動システムを設計することが可能となる。
【0095】
また、駆動システムの設計に際し、プレートステージPSTの位置(第1及び第2制御量)X
1,X
2の計測結果を用いて操作量を求めるための演算式U(X
1,X
2)=C
1X
1+C
2X
2において、伝達関数C
1,C
2を、プレートステージPSTの第1及び第2部分(プレートテーブルPTB及びキャリッジ30)の応答を表現する伝達関数P
1,P
2のそれぞれに含まれる共振モードに対応する極が開ループ伝達関数C
1P
1+C
2P
2において相殺されるように決定する。さらに、伝達関数P
1,P
2の具体形を、第1及び第2部分の運動をばねにより連結された2つの剛体の運動として表現する力学模型(剛体模型)を用いて与える。これにより、閉ループ伝達関数においてP
1,P
2の共振振舞い(共振モード)が相殺され(P
1の共振モードがP
2の共振モードにより相殺され)、第1及び第2部分の質量(すなわちプレートテーブルPTB及びキャリッジ30の質量)および距離L,lが変化しない限り、如何なる状態の変化に対してもロバストなプレートステージPSTの駆動(位置制御)が可能な駆動システムを設計することが可能となる。
【0096】
また、本実施形態に係る露光装置110によると、プレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)の第1制御量(位置)を計測するとともに、第1部分が示す共振モードと逆相の剛体モードに対する共振モードを示すプレートステージPSTの第2部分(キャリッジ30)の第2制御量(位置)を計測し、それらの計測結果と目標値とに基づいて制御演算を行って操作量を求め、得られた操作量をプレートステージ駆動系PSDに与えることにより、プレートステージPSTを駆動する。これにより、プレートステージPSTを精密に且つ安定して駆動することが可能となる。
【0097】
また、本実施形態に係る露光装置110は、上述のように設計されたプレートステージPSTの駆動システムを備えるため、プレートステージPSTを精密に且つ安定して駆動することが可能となり、露光精度、すなわち重ね合わせ精度の向上が可能となる。
【0098】
なお、本実施形態では、制御対象であるプレートステージPSTの制御量として位置を選択したが、これに代えて速度、加速度等、位置以外の位置に関連する物理量を制御量として選択しても良い。かかる場合、プレート干渉計システム18(を構成する干渉計18X,18Y,18X
1)とは独立の速度計測器、加速度計測器等を設置し、それらを用いて速度、加速度等を計測することとする。あるいは、プレート干渉計システム18の計測値の1階差分又は2階差分演算により、速度、加速度を算出して用いても良い。
【0099】
また、位置、速度、加速度等、位置に関連する物理量を複数組み合わせてプレートステージPSTの制御量とすることも可能である。
図17には、本実施形態に係る1入力2出力系のフィードバック制御系の変形例のブロック図が示されている。この変形例のフィードバック制御系は、全体として速度制御ループを構成している。従って、目標生成部50
0が目標値として目標速度Vを生成し、制御対象であるプレートステージPSTの制御量も速度となっている。プレート干渉計システム18を構成する第1計測器(干渉計18X)及び該第1計測器とは独立の第1速度計測器(不図示)によってプレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)の位置X
1及び速度V
1がそれぞれ計測され、これらの計測結果が混合部52に送られる。位置X
1の計測結果は、微分器52aを介して、混合器52bにより速度V
1の計測結果と合成され、合成された結果はステージ制御装置50の減算器50
3にフィードバックされる。同様に、プレート干渉計システム18を構成する第2計測器(干渉計18X
1)及び第2計測器とは独立の第2速度計測器(不図示)によってプレートステージPSTの第2部分(キャリッジ30)の位置X
2及び速度V
2がそれぞれ計測され、それらの計測結果が混合部52に送られる。位置X
2の計測結果は、微分器52aを介して、混合器52bにより速度V
2の計測結果と合成され、合成された結果はステージ制御装置50の減算器50
4にフィードバックされる。ここで、混合器52bは、一例として、同じカットオフ周波数を有するハイパスフィルタとローパスフィルタを含み、これらの2つのフィルタを用いて位置X
1,X
2及び速度V
1,V
2の一方の計測結果が通過するように構成されている。この混合式のフィードバック制御系により、プレートステージPSTをさらに精密に且つ安定して駆動する(すなわち速度(及び位置)を制御する)ことが可能となる。
【0100】
なお、上記実施形態では、X軸方向についてプレートステージPSTを駆動する場合について説明したが、Y軸方向及びZ軸方向についてプレートステージPSTを駆動する場合についても、同様にして、フィードバック制御系を設計することができ、同等の効果を得ることができる。
【0101】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態について、
図6、
図18〜
図24に基づいて説明する。ここで、前述した第1の実施形態と同一の構成部分には同一の符号を用いるものとする。この第2の実施形態に係る露光装置の構成等は、第1の実施形態と同様であるので装置構成等の説明は省略する。ただし、本第2の実施形態では、回転(傾斜)方向(θx方向、θy方向、及びθz方向)についてプレートステージPSTを駆動する駆動システムを取り扱うこととし、その設計等について説明する。ここでは、一例として、プレートステージPSTを、θz方向に駆動する駆動システムについて説明する。
【0102】
露光装置110では、前述のごとく、Xリニアモータ36X
1,36X
2がそれぞれ発生するX軸方向の駆動力(推力)を異ならせることでZ軸周りのトルクτを発生させて、キャリッジ30及びプレートテーブルPTBをθz方向に駆動する。
【0103】
また、プレートステージPSTのθz方向の位置(ヨーイング値、ヨー角)は、前述の通り、プレート干渉計システム18の干渉計18Xにより計測される。すなわち、干渉計18XによってプレートテーブルPTBのθz位置(θz
1)が計測される。また、プレート干渉計システム18の干渉計18X
1、18X
2のそれぞれによるキャリッジ30のX位置の計測結果同士の差に基づいて、ステージ制御装置50は、キャリッジ30のθz位置(θz
2)を求めることができる。
【0104】
プレート干渉計システム18の干渉計18X、18X
1及び18X
2を用いて、
図6のブロック図で表される1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築する。なお、制御対象の第2部分であるキャリッジ30のθz位置(θz
2)を計測する第2計測器は干渉計18X
1,18X
2から構成されるが、以下では、説明の便宜上、第2計測器を、干渉計18X
1と表記する。
【0105】
図6に示される、本第2の実施形態に係るフィードバック制御系では、干渉計18X,18X
1(第1及び第2計測器)により、それぞれ、プレートステージPST(制御対象)のプレートテーブルPTB(第1部分)及びキャリッジ30(第2部分)のθz位置(第1制御量θz
1及び第2制御量θz
2)が計測される。
【0106】
第1及び第2制御量の計測結果(θz
1,θz
2)は、ステージ制御装置50に供給される。ステージ制御装置50は、計測結果(θz
1,θz
2)を用いて操作量U(トルクτ)を求め、求められた操作量UをプレートステージPST(制御対象)を駆動するプレートステージ駆動系PSDへ送信する。プレートステージ駆動系PSD(Xリニアモータ36X
1,36X
2)は、受信した操作量U(トルクτ)に従って、Xリニアモータ36X
1,36X
2が発生する駆動力(推力)を互いに異ならせることによりトルクτに等しいトルクをキャリッジ30(第2部分)に加える。これにより、プレートステージPSTがθz方向に関して駆動され、θz方向の位置が制御される。このように、本第2の実施形態においても、ステージ制御装置50によるプレートステージPSTの駆動は、プレートステージPSTの位置の制御を伴うが、以下においては、単に駆動と表記する。
【0107】
ステージ制御装置50に含まれる目標生成部50
0は、プレートステージPSTの目標値R(この場合はθz位置(ヨー角)の目標値)を生成して、減算器50
3、50
4に供給する。一方の減算器50
3は、目標値Rと干渉計18Xによって計測されるプレートテーブルPTBのθz位置θz
1(現在位置)との差、すなわち偏差(R−θz
1)を算出し、制御器50
1(伝達関数C
1)に供給する。他方の減算器50
4は、目標値Rと干渉計18X
1によって計測されるキャリッジ30(伝達関数P
2)のθz位置θz
2(現在位置)との差、すなわち偏差(R−θz
2)を算出し、制御器50
2(伝達関数C
2)に供給する。
【0108】
制御器50
1は、偏差(R−θz
1)が零となるように、演算(制御演算)により中間量C
1(R−θz
1)を算出し、加算器50
5に送出する。同様に、制御器50
2は、偏差(R−θz
2)が零となるように、制御演算により中間量C
2(R−θz
2)を算出し、加算器50
5に送出する。
【0109】
加算器50
5は、制御器50
1,50
2の出力(中間量)を加算して操作量Uを求める。このように、ステージ制御装置50は、干渉計18X,18X
1の計測結果(θz
1,θz
2)と目標値Rとに基づいて演算式U(R−θz
1,R−θz
2)=C
1(R−θz
1)+C
2(R−θz
2)で表される制御演算を行って操作量Uを求め、該操作量Uを制御対象であるプレートステージPSTに与える。これにより、操作量Uに従ってプレートステージPSTがθz方向に駆動される。
【0110】
本実施形態では、制御器50
1,50
2を設計する(伝達関数C
1,C
2を決定する)ために、簡素化された力学模型(剛体模型)を用いてプレートステージPSTの力学的運動を表現する。
図18(A)は、一般的な2慣性系の力学模型を表す図である。ここで、プレートステージPSTは、その2慣性系の一例であって、
図1に示されるように、第1計測器(干渉計18X)が設置されたプレートテーブルPTB、及び第2計測器(干渉計18X
1)が設置されたキャリッジ30の2部分から構成されるものとする。そして、これらの部分のθz方向の運動(回転)を、ばねにより連結された2つの剛体の回転運動、より詳細には、プレートステージ駆動系PSD(Xリニアモータ36X
1,36X
2)に対応する駆動系からトルクτを与えられる剛体L2(キャリッジ30に対応する)と、剛体L2にばねを介して連結された剛体L1(プレートテーブルPTBに対応する)と、の回転運動として表現する。
【0111】
ここで、剛体L1,L2のθz位置をそれぞれθz
1,θz
2、慣性モーメントをそれぞれJ
1,J
2、ばね定数kとする。なお、
図18(B)の表に、これら力学パラメータの値(実測値)が示されている。
【0112】
上述の剛体模型において、剛体L1,L2の入出力応答(トルクτに対する制御量θz
1,θz
2の応答)を表す伝達関数P
1,P
2は、ラプラス変換形において、次のように与えられる。
【0113】
【数2】
【0114】
図19(A)及び
図19(B)には、それぞれ、伝達関数P
2,P
1の周波数応答特性を示すボード線図が示されている。
図19(A)及び
図19(B)のいずれにおいても、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。2つの剛体L1,L2の回転運動に係る伝達関数P
1,P
2は、並進運動についての剛体模型(
図7(A))における2つの剛体Cr,Tbの並進運動に係る伝達関数P
1,P
2(
図5(A)及び
図5(B)参照)とほぼ同様の振舞いを示す。伝達関数P
1は、基本的な振舞いとして、周波数fの増加に対して、その振幅を単調に減少し、位相を一定に保つ。そして、伝達関数P
1は、共振モード(共振振舞い)として、60数Hz付近において、振幅を急激に増加そして減少し、位相を急激に減少する。これらは、
図19(B)のゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、山形及びステップ形状を示す。一方、伝達関数P
2の周波数応答特性は、伝達関数P
1の周波数応答特性と相反する共振モード(共振振舞い)、すなわち逆相の共振モードを示す。すなわち、伝達関数P
2は、基本的な振舞いとして、周波数fの増加に対して、その振幅を単調に減少し、位相を一定に保つ。そして、伝達関数P
2は、60数Hz付近において、その振幅を急激に減少そして増加し、位相を急激に増加そして減少する。これらは、
図19(A)のゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、連続する谷と山の形及びパルス形状を示している。
【0115】
従って、剛体L1(プレートテーブルPTB)に対する伝達関数P
1は、剛体モードと逆相の共振モードを示し、剛体L2(キャリッジ30)に対する伝達関数P
2は、剛体モードと同相の共振モードを示すことから、第1の実施形態と同様に、プレートテーブルPTB(伝達関数P
1)の共振振舞いをキャリッジ30(伝達関数P
2)の共振振舞いでもって相殺する1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築することができる。
【0116】
上記の伝達関数P
1,P
2を用いて、伝達関数C
1,C
2を決定する。便宜のため、伝達関数P
1,P
2,C
1,C
2を、分数式形P
1=N
P1/D
PD
R,P
2=N
P2/D
PD
R,C
1=N
C1/D
C、C
2=N
C2/D
Cにおいて表す。ここで、
N
P1=k/J
1 …(7a)
N
P2=s
2+k/J
1 …(7b)
D
P=J
2s
2 …(7c)
D
R=s
2+(k/J
1)(1+J
1/J
2) …(7d)
である。この場合、フィードバック制御系(
図6)の閉ループ伝達関数の特性方程式A
CL(式(3))において、任意の解析関数αを用いて、式(4)を満たすようにN
C1,N
C2を決定する。これにより、開ループ伝達関数C
1P
1+C
2P
2=α/D
CD
Pが得られ、P
1,P
2のそれぞれに含まれる共振振舞いを与える極(すなわちP
1,P
2のそれぞれが示す共振モード)が極零相殺される。さらに、特性方程式A
CLが安定な極(本説明では便宜上、重根となるようにする)を有するように、すなわち式(5)を満たすように、D
C,αを決定する。
【0117】
次に、伝達関数C
1,C
2(N
C1,N
C2,D
C,α)の具体形を決定する。第1の実施形態と同様に、N
C1,N
C2が特異点(極)を有するD
Rを含まないように、定数a,bを用いて、N
C1=aα、N
C2=bαと与える。式(7a)〜式(7d)及び式(4)より、a=J
1/J
2,b=1と定まる。ここで、定数a,bは、慣性モーメントJ
1,J
2のみに依存し、ばね定数k、すなわちプレートステージPSTの状態に応じて変化し得るパラメータに依存しないことに注目する。残りのD
C,αは、PID型の制御器50
1,50
2を設計することで、D
C=s
2+b
1s,α=b
2s
2+b
3s+b
4と定まる。ただし、b
1=4ω
n,b
2=6J
2ω
n2、b
3=4J
2ω
n3,b
4=J
2ω
n4である。
【0118】
図20(A)及び
図20(B)には、それぞれ、上で設計された1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系における制御器50
2,50
1の伝達関数C
2,C
1の周波数応答特性を示すボード線図が示されている。
図20(A)及び
図20(B)のいずれにおいても、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。ここで、伝達関数C
1,C
2に含まれる力学パラメータには、
図18(B)に示されている値がそれぞれ代入されている。
図20(B)には、比較例として、従来の1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系(例えば特開2006−203113号公報参照)における制御器(PID型制御器とノッチフィルタの組み合わせ)の伝達関数の周波数応答特性も表されている。ここで、SISO系の制御器の周波数帯域を5Hz(ω
n=10πrad/s)、SIMO系の制御器の周波数帯域を20Hz(ω
n=40πrad/s)とした。
【0119】
従来のSISO系の制御器の伝達関数は、60Hz付近において特異な振舞いを示すのに対し、SIMO系の制御器50
1,50
2の伝達関数C
1,C
2は、いずれも全周波数帯域において特異な振る舞いを示していない。
【0120】
発明者らは、上で設計した制御器50
1,50
2(伝達関数C
1,C
2)を用いて構築される1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系のパフォーマンスを、シミュレーションにより検証した。ここで、プレートステージPSTの力学的運動(応答特性)は、前述の剛体模型(伝達関数P
1,P
2)を用いて再現されている。
【0121】
図21には、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれに対する感度関数S(及びT=1−S;Tは相補感度関数)の周波数応答特性を示すゲイン線図が示されている。いずれのフィードバック制御系においても、閉ループ伝達関数は、全周波数帯域において特異な振舞いを示していない。
【0122】
ただし、従来のSISO系のフィードバック制御系に対して本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、プレートステージPSTを駆動する上で特に重要な低周波数帯域(10Hz以下)において、約30dB、外乱抑圧特性が向上している。
【0123】
図22には、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれに対する開ループ伝達関数の周波数応答特性示すボード線図が示されている。
図22において、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。いずれのフィードバック制御系においても、開ループ伝達関数は、全周波数帯域において特異な振舞いを示していない。
【0124】
図23には、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系と、従来のSISO系のフィードバック制御系(比較例)とのそれぞれに対するナイキスト線図が示されている。いずれのフィードバック制御系についても、ナイキスト軌跡は点(−1,0)を囲まず、ナイキストの安定条件を満たしている。
【0125】
図24には、ゲイン余裕(Gm)と位相余裕(Pm)とが示されている。従来のSISO系のフィードバック制御系に対し、ゲイン余裕は12.2dB、位相余裕は30.2degである。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系に対し、ゲイン余裕は無限大、位相余裕は43.5degである。制御器の周波数帯域を4倍にしたにも関わらず、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系では、従来のSISO系に対して、ゲイン余裕、位相余裕ともに劇的に改善されている。
【0126】
以上説明したように、本第2の実施形態に係る露光装置によると、プレートステージPST(制御対象)の位置(第1制御量)θz
1を計測する干渉計18X(第1計測器)が設置されたプレートテーブルPTB(制御対象の第1部分)が示す共振モードと逆相の剛体モードに対する共振モードを示すキャリッジ30(制御対象の第2部分)に、プレートステージPSTの位置(第2制御量)θz
2を計測する干渉計18X
1(第2計測器)が設置される。第1及び第2計測器を用いることにより、回転方向についてのプレートステージPSTの駆動についても、第1の実施形態における並進方向についてのプレートステージPSTの駆動と同様に、プレートステージPSTを駆動(θz位置を制御)する、高帯域でロバストな駆動システムを設計することが可能となる。
【0127】
また、駆動システムの設計に当たり、プレートステージPSTの位置(第1及び第2制御量)θz
1,θz
2の計測結果を用いて操作量を求めるための演算式U(θz
1,θz
2)=C
1θz
1+C
2θz
2において、伝達関数C
1,C
2を、プレートステージPSTの第1及び第2部分(プレートテーブルPTB及びキャリッジ30)の応答を表現する伝達関数P
1,P
2のそれぞれに含まれる共振モードに対応する極が開ループ伝達関数C
1P
1+C
2P
2において相殺されるように決定する。さらに、伝達関数P
1,P
2の具体形を、第1及び第2部分の運動をばねにより連結された2つの剛体の運動として表現する力学模型(剛体模型)を用いて与える。これにより、閉ループ伝達関数においてP
1,P
2の共振モード(共振振舞い)が相殺され(P
1の共振モードがP
2の共振モードにより相殺され)、第1及び第2部分の慣性モーメント(すなわちプレートテーブルPTB及びキャリッジ30の慣性モーメント)が変化しない限り、如何なる状態の変化に対してもロバストなプレートステージPSTの駆動システムを設計することが可能となる。
【0128】
また、本第2の実施形態に係る露光装置によると、プレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)の第1制御量(θz方向の位置(回転位置))を計測するとともに、第1部分が示す共振モードと逆相の剛体モードに対する共振モードを示すプレートステージPSTの第2部分(キャリッジ30)の第2制御量(θz方向の位置(回転位置))を計測し、それらの計測結果と目標値とに基づいて制御演算を行って操作量を求め、得られた操作量をプレートステージ駆動系PSDに与えることにより、プレートステージPSTを駆動する。これにより、プレートステージPSTを精密に且つ安定して駆動することが可能となる。
【0129】
また、本第2の実施形態に係る露光装置は、上述のように設計されたプレートステージPSTの駆動システムを備えるため、プレートステージPSTを精密に且つ安定して駆動することが可能となり、露光精度、すなわち重ね合わせ精度の向上が可能となる。
【0130】
なお、上記第2の実施形態では、制御対象であるプレートステージPSTの制御量として回転位置を選択したが、これに代えて回転速度、回転加速度等、回転位置以外の回転位置に関連する物理量を制御量として選択しても良い。かかる場合、プレート干渉計システム18(を構成する干渉計18X,18Y,18X
1,18X
2)とは独立の回転速度計測器、回転加速度計測器等を設置し、それらを用いて回転速度、回転加速度等を計測することとする。あるいは、プレート干渉計システム18の計測値の1階差分又は2階差分演算により、回転速度、回転加速度を算出して用いても良い。
【0131】
また、第1の実施形態に対する変形例(
図17)と同様に、回転位置、回転速度、回転加速度等、回転位置に関連する物理量を複数組み合わせてプレートステージPSTの制御量とすることも可能である。
【0132】
また、本実施形態では、θz方向についてプレートステージPSTを駆動する場合について説明したが、θx方向及びθy方向についてプレートステージPSTを駆動する場合についても、同様に、フィードバック制御系を設計することができ、同等の効果を得ることができる。
【0133】
なお、上記第1、第2の実施形態に係る露光装置では、剛体モードと逆相の共振モードを示すプレートテーブルPTB(プレートステージPSTの第1部分)に第1計測器(干渉計18X(移動鏡17X))を設置し、剛体モードと同相の共振モードを示すキャリッジ30(プレートステージPSTの第2部分)に第2計測器(干渉計18X
1(及び干渉計18X
2)(コーナーキューブ17X
1(及びX
2)))を設置し、これら第1及び第2計測器を用いてフィードバック制御系を構築した。しかし、これに限らず、例えば、制御対象(プレートステージPST)の剛体モードと同相の共振モードを示す位置(部分)に配置されたセンサ(第1計測器)を使ったセミクローズド制御の場合などでは、制御対象の剛体モードと逆相の共振モードを示す位置(部分)にセンサ(第2計測器)を(追加)配置し、上記第1、第2の実施形態と同様のフィードバック制御系を構築し、発生する負荷側の振動を、抑圧することとしても良い。
【0134】
また、上記第1、第2の実施形態では、プレートの走査方向に移動するキャリッジと該キャリッジ上に支持されてプレートを保持して非走査方向に移動するプレートテーブルとの2部分(あるいは3部分以上)から構成されるガントリー型のプレートステージPSTを制御対象として、該プレートステージPSTを精密に且つ安定して駆動する駆動システムを構築したが、これに限らず、2次元方向に移動する粗動ステージと該粗動ステージ上に支持されてプレート(基板)を保持して微小移動する微動ステージとの2部分(あるいは3部分以上)を有する粗微動型の基板ステージに対しても、上記第1、第2の実施形態と同様にして駆動システムを構築することが可能である。
【0135】
《第3の実施形態》
次に、第3の実施形態について、
図25及び
図26に基づいて説明する。ここで、前述した第1の実施形態と同一若しくは同等の構成部分については、同一の符号を用いるとともに、その説明を簡略若しくは省略する。
【0136】
本第3の実施形態では、前述の第1、第2の実施形態と異なり、単一部分から成る移動ステージ、一例として露光装置110におけるマスクステージMSTを制御対象とする駆動システムを構築する場合について説明する。
【0137】
ここでは、一例として、走査方向(X軸方向)についてのマスクステージMSTの駆動について説明する。
【0138】
マスクステージMSTは、
図25に示されるように、マスクステージ本体60と、マスクステージ本体60のY軸方向の一側と他側に、支持部材61(+Y側の支持部材は不図示)をそれぞれ介して設けられた一対の可動子62A,62Bと、を備えている。
【0139】
マスクステージ本体60は、平面視(上方から見て)矩形の枠状部60
0と、枠状部60
0の+Y側と−Y側にそれぞれ一体的に設けられたスライダ部60
1,60
2とを有している。一方のスライダ部60
1の+Y端面には、Y軸に垂直な反射面を有する平面ミラーから成る移動鏡15Yが固定されている。すなわち、スライダ部60
1は、ミラー支持部材を兼ねている。枠状部60
0のほぼ中央には、平面視矩形の凹部60aが形成され、凹部60aの内部底面の中央部には、照明光ILが通る開口(不図示)が形成されている。
【0140】
枠状部60
0上面の凹部60aの+Y側と−Y側に各4つのマスク保持機構63が設けられている。凹部60a内に収容されたマスクMは、8つのマスク保持機構63によって、±Y端部が押さえつけられ、枠状部60
0に対して固定されている。
【0141】
枠状部60
0の+Y側端部及び−Y側端部の中央には、それぞれコーナーキューブ15X
1,15X
2が固定されている。また、スライダ部60
1,60
2のそれぞれのほぼ中央には、コーナーキューブ15X
12,15X
22が、固定されている。
【0142】
スライダ部60
1,60
2は、前述の一対のマスクステージガイド(不図示)の上に、不図示の気体静圧軸受(例えばエアベアリング)を介して浮上支持されている。
【0143】
一対の可動子62A,62Bは、それぞれ対応する固定子(不図示)と係合して、マスクステージ駆動系MSDを構成する一対のリニアモータを構成する。一対のリニアモータにより、マスクステージMSTは走査方向(X軸方向)に駆動されるとともに、非走査方向(Y軸方向)に微小駆動される。
【0144】
マスクステージMSTの位置は、マスク干渉計システム16(
図3参照)により計測される。マスク干渉計システム16は、
図25に示されるように、干渉計16Y,16X
1,16X
2,16X
12,16X
22を有する。干渉計16Yは、マスクステージMSTに固定された移動鏡15YにY軸に平行な測長ビームを照射し、その反射光を受光することで、マスクステージMSTのY位置を計測する。干渉計16X
1,16X
2は、枠状部60
0上のコーナーキューブ15X
1,15X
2に測長ビームをそれぞれ照射し、それぞれの反射光を受光して、マスクステージMSTの枠状部60
0のX位置を計測する。干渉計16X
12,16X
22は、スライダ部60
1,60
2上のコーナーキューブ15X
12,15X
22に測長ビームをそれぞれ照射し、それぞれの反射光を受光して、マスクステージMSTのスライダ部60
1,60
2のX位置を計測する。
【0145】
本第3の実施形態では、マスク干渉計システム16を構成する干渉計16X
1,16X
2,16X
12,16X
22を用いて、
図26のブロック図で表される1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系が構築される。フィードバック制御系の基本構成は、前述の第1及び第2実施形態におけるフィードバック制御系の基本構成と同様である。すなわち、干渉計16X
1,16X
2(第1計測器)により、マスクステージMST(制御対象)の枠状部60
0(第1部分)のX位置(第1制御量X
1)が計測され、また干渉計16X
12,16X
22(第2計測器)によりマスクステージMST(制御対象)の第2部分(スライダ部60
1,60
2と可動子62A、62Bと移動鏡15Y)のX位置(第2制御量X
2)が計測される。これらの計測結果(X
1,X
2)は、ステージ制御装置50に供給される。なお、干渉計16X
1,16X
2によりマスクステージMSTのX位置を計測する場合、両干渉計16X
1,16X
2のいずれかの計測結果又は両計測結果の平均により、マスクステージMSTのX位置(第1制御量X
1)が得られるのであるが、本実施形態では、説明の便宜上、干渉計16X
1,16X
2(第1計測器)により第1制御量X
1が計測されるものとしている。同様の趣旨から、干渉計16X
12,16X
22(第2計測器)により第2制御量X
2が計測されるものとしている。また、マスクステージMST(制御対象)の第2部分は、スライダ部60
1,60
2の他、可動子62A,62B及び移動鏡15Yを含むが、以下では、適宜、スライダ部60
1,60
2が第2部分であるものとして説明する。
【0146】
ステージ制御装置50は、計測結果(X
1,X
2)を用いて操作量U(駆動力F)を求め、求められた操作量UをマスクステージMST(制御対象)を駆動するマスクステージ駆動系MSDへ送信する。マスクステージ駆動系MSDは、受信した操作量U(駆動力F)に従って、駆動力Fに等しい駆動力を一対のリニアモータの可動子62A,62Bに加える。これにより、マスクステージMSTがX軸方向に関して駆動される。
【0147】
図26において、ステージ制御装置50に含まれる目標生成部50
0は、マスクステージMSTの制御のための目標値、ここではX軸方向の目標位置(時々刻々変化するX位置の目標値))Rを生成して、減算器50
3,50
4に供給する。
【0148】
一方の減算器50
3は、干渉計16X
1,16X
2によって計測されるマスクステージMST(制御対象)の枠状部60
0(伝達関数P
1)のX位置X
1(現在位置)と目標位置Rとの差、すなわち偏差(R−X
1)を算出し、制御器50
1(伝達関数C
1)に供給する。他方の減算器50
4は、干渉計16X
12,16X
22によって計測されるマスクステージMST(制御対象)のスライダ部60
1,60
2(伝達関数P
2)のX位置X
2(現在位置)と目標位置Rとの差、すなわち偏差(R−X
2)を算出し、制御器50
2(伝達関数C
2)に供給する。
【0149】
制御器50
1は、偏差(R−X
1)が零となるように、演算(制御演算)により中間量C
1(R−X
1)を算出し、加算器50
5に送出する。同様に、制御器50
2は、偏差(R−X
2)が零となるように、制御演算により中間量C
2(R−X
2)を算出し、加算器50
5に送出する。
【0150】
加算器50
5は、制御器50
1,50
2の出力(中間量)を加算して操作量Uを求める。このように、ステージ制御装置50は、第1及び第2計測器(干渉計16X
1,16X
2及び16X
12,16X
22)の計測結果(X
1,X
2)と目標位置Rとに基づいて演算式U(R−X
1,R−X
2)=C
1(R−X
1)+C
2(R−X
2)で表される制御演算を行って操作量Uを求め、該操作量Uを制御対象であるマスクステージMSTに与える。これにより、操作量Uに従ってマスクステージMSTがX軸方向に関して駆動される。
【0151】
マスクステージMSTは、枠状部60
0によって構成される第1部分と、スライダ部60
1,60
2(及び可動子62A,62B、並びに移動鏡15X)によって構成される第2部分との2部分が連結された複合ステージとみなすこともできる。このような複合ステージでは、連結部分の剛性不足によりステージ全体のねじれ(曲げ)が生じ、これにより、第1及び第2部分60
0,60
1,60
2の入出力応答、すなわち操作量U(駆動力F)に対する第1及び第2制御量X
1,X
2の応答を表現する伝達関数P
1(=X
1/U),P
2(=X
2/U)の周波数応答特性は、
図5(A)及び
図5(B)に示される周波数応答特性と同様に、互いに相反する振舞い(逆相の共振モード)を示す。
【0152】
そこで、第1及び第2の実施形態と同様に、制御器50
1,50
2を設計する(伝達関数C
1,C
2を決定する)。ここで、
図7(A)及び
図18(A)に示される剛体模型と同様の模型を用いてマスクステージMSTの力学的運動を表現する。これにより、P
1,P
2の共振モードが互いに相殺し、高帯域でロバストなマスクステージMSTの駆動(位置制御)が可能となる。
【0153】
本第3の実施形態に係るマスクステージMSTでは、干渉計16X
1,16X
2及び16X
12,16X
22による位置計測の基準位置(コーナーキューブ15X
1,15X
2及び15X
12,15X
22の設置位置)は、適宜、互いに逆相の共振モードを示すマスクステージMSTの部分に選択される。この場合、ロバスト性を考慮して、共振周波数が変わっても、共振比が一定になるような位置にセンサ(干渉計で用いるコーナーキューブ)を配置することが最も好ましい。かかる観点から、例えば、
図25において、干渉計16X
1,16X
2(第1計測器)の基準位置(コーナーキューブ15X
1,15X
2の設置位置)に対し、コーナーキューブ15X
12,15X
22の設置位置(干渉計16X
12,16X
22(第2計測器)の基準位置)を、
図25中に点線を用いて示される位置15X
10,15X
20に変更しても良い。
【0154】
以上説明したように、本第3の実施形態に係る露光装置によると、プレートステージPSTのように複数の部分(構成要素)から構成される複合ステージに限らず、マスクステージMSTのように単一部分から構成される(剛性不足により複数部分から構成される複合ステージとみなすことのできる)移動ステージに対しても、前述の第1及び第2の実施形態と同様の駆動システムを構築することが可能であり、同等の効果を得ることができる。また、制御対象(マスクステージMST)の剛体モードと同相の共振モードを示す位置(部分)に配置されたセンサ(第1計測器)を使ったセミクローズド制御の場合などでは、制御対象の剛体モードと逆相の共振モードを示す位置(部分)にセンサ(第2計測器)を(追加)配置し、上記と同様のSIMO系のフィードバック制御系を構築し、発生する負荷側の振動を抑圧することとしても良い。
【0155】
なお、上記第3の実施形態では、制御対象であるマスクステージMSTの制御量として位置を選択したが、これに代えて速度、加速度等、位置以外の位置に関連する物理量を制御量としても良い。かかる場合、マスク干渉計システム16とは独立の速度計測器、加速度計測器等を設置し、それらを用いて速度、加速度等を計測することとする。あるいは、プレート干渉計システム18の計測値の1階差分又は2階差分演算により、速度、加速度を算出して用いても良い。
【0156】
また、前述の第1の実施形態に対する変形例(
図17)と同様に、位置、速度、加速度等、位置に関連する物理量を複数組み合わせてマスクステージMSTの制御量とすることも可能である。
【0157】
また、上記第3の実施形態では、X軸方向に関してマスクステージMSTを駆動する場合について説明したが、Y軸方向及びZ軸方向に関してマスクステージMSTを駆動する場合についても、同様に、フィードバック制御系を設計(及び構築)することができる。
【0158】
また、前述の第2の実施形態と同様に、回転(傾斜)方向(θx方向、θy方向、及びθz方向)に関してマスクステージMSTを駆動する場合についても、フィードバック制御系を設計(及び構築)することができる。
【0159】
《第4の実施形態》
次に、第4の実施形態について、
図27〜
図29に基づいて説明する。
【0160】
本第4の実施形態では、プレートを保持するプレートテーブルと、プレートテーブルに設けられたナットに螺合された(組み合わされた)送りねじをその軸周りに回転することによりプレートテーブルを走査方向に送る駆動部と、から構成される送りねじ式(例えばボールねじ式)のプレートステージを駆動対象として、駆動システムを構築する場合を取り上げるものとする。
【0161】
送りねじ式のプレートステージは、主に、静止型(ステップ・アンド・リピート方式)の投影露光装置において採用されている。静止型の露光装置の構成は周知であるので、以下では、プレートステージについてのみ説明することとし、その他の部分の構成等の説明は省略する。
【0162】
図27(A)及び
図27(B)には、第4の実施形態に係る送りねじ式のプレートステージPST’の構成が示されている。プレートステージPST’は、プレートを保持するプレートテーブルPTB’と、プレートテーブルPTB’をX軸方向に駆動する駆動部PSD’と、を備えている。
【0163】
プレートテーブルPTB’上には、その中央にプレートを吸着保持するプレートホルダPHが固定されている。プレートテーブルPTB’の−X端面には、鏡面加工が施されて反射面76
1が形成されている。プレートテーブルPTB’の底面には、その中央にボールネット(以下、ナットと略記する)70
1が固定されている。
【0164】
プレートテーブルPTB’は、その底面が、ナット70
1をY軸方向に挟んで床面F上に固定されたX軸方向に延びる一対のガイド73
1,73
2の上面と対向するように配置され、その一対のガイド73
1,73
2上に、不図示の気体静圧軸受(例えばエアベアリング)を介して非接触状態で支持(浮上支持)されている。
【0165】
駆動部PSD’は、ナット70
1とともにボールねじ70を構成するねじ軸70
2と、ねじ軸70
2をその軸周りに回転する回転モータ71と、を備えている。ねじ軸70
2は、所定長さの軸部と該軸部より大径で軸部の長手方向の両端部を除く部分に一体的にかつ同軸で設けられたねじ部とを有する。ねじ軸70
2は、ねじ部が多数のボール(不図示)を介してナット70
1に螺合(係合)されている。ねじ軸70
2の軸部の−X端部は床面F上に固定された軸受72
3に回転自在に支持され、+X端部は+X端面より−X側の位置が、床面F上に固定された別の軸受72
2に回転自在に支持されている。ねじ軸70
2の軸部の+X端は、軸用カップリング72
1を介して回転モータ71の軸に連結されている。回転モータ71の本体は、床面F上に配置されている。ここで、軸受72
2には、スラストベアリング(付図示)が設けられており、これにより、ねじ軸70
2に働くその軸方向(X軸方向)の力が吸収される。
【0166】
上述の構成のプレートステージPST’では、回転モータ71によりねじ軸70
2がその軸周り(θx方向)に回転され、ボールねじ70によりねじ軸70
2の回転がナット70
1の並進に変換されることにより、プレートテーブルPTB’がX軸方向に駆動される。
【0167】
プレートテーブルPTB’のX位置は、干渉計75
1により計測される。干渉計75
1は、プレートテーブルPTB’の反射面76
1に測長ビームを照射し、その反射光を受光することで、プレートテーブルPTB’のX位置(X)を計測する。
【0168】
回転モータ71の回転(θx)は、ロータリーエンコーダ(エンコーダ)75
2により計測される。エンコーダ75
2は、回転モータ71の回転軸に固定された回転スリット76
2を介して発光素子(不図示)からの光を受光する。これにより、回転モータ71の回転(θx)が計測される。
【0169】
本第4の実施形態では、干渉計75
1及びエンコーダ75
2を用いて、
図28のブロック図で表される1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系が構築される。このフィードバック制御系では、干渉計75
1(第1計測器)及びエンコーダ75
2(第2計測器)により、それぞれ、プレートステージPST’(制御対象)を構成するプレートテーブルPTB’のX位置(第1制御量X)及び回転モータ71の回転位置(第2制御量θx)が計測される。これらの計測結果(X,θx)は、ステージ制御装置50に供給される。ステージ制御装置50は、計測結果(X,θx)を用いて操作量U(トルクτ)を求め、求められた操作量Uを駆動部PSD’へ送信する。駆動部PSD’は、受信した操作量U(トルクτ)に従って、トルクτに等しいトルクを回転モータ71に発生させる。これにより、プレートテーブルPTB’が駆動される。
【0170】
図28において、ステージ制御装置50に含まれる目標生成部50
0は、プレートテーブルPTB’のX位置の目標値Rを生成して、減算器50
3、変換器50
6に供給する。
【0171】
減算器50
3は、干渉計75
1によって計測されるプレートステージPST’(制御対象)のプレートテーブルPTB’(伝達関数P
1)のX位置X(現在位置)と目標位置Rとの差、すなわち偏差(R−X)を算出し、制御器50
1(伝達関数C
1)に供給する。変換器50
6は、X位置の目標値Rを該目標値Rに相当(対応)するθx位置(回転モータ71の回転位置)R
θに変換して、減算器50
4に供給する。他方の減算器50
4は、エンコーダ75
2によって計測されるプレートステージPST’(制御対象)の回転モータ71(伝達関数P
2)の回転位置θx(現在位置)とθx位置R
θとの差、すなわち偏差(R
θ−θx)を算出し、制御器50
2(伝達関数C
2)に供給する。
【0172】
制御器50
1は、偏差(R−X)が零となるように、演算(制御演算)により中間量C
1(R−X)を算出し、加算器50
5に送出する。同様に、制御器50
2は、偏差(R
θ−θx)が零となるように、制御演算により中間量C
2(R
θ−θx)を算出し、加算器50
5に送出する。
【0173】
加算器50
5は、制御器50
1,50
2の出力(中間量)を加算して操作量Uを求める。このように、ステージ制御装置50は、第1及び第2計測器(干渉計75
1及びエンコーダ75
2)の計測結果(X,θx)と目標位置(R、R
θ)とに基づいて演算式U(R−X,R
θ−θx)=C
1(R−X)+C
2(R
θ−θx)で表される制御演算を行って操作量Uを求め、該操作量Uを制御対象であるプレートステージPST’に与える。これにより、操作量Uに従ってプレートステージPST’が駆動される。
【0174】
図29(A)及び
図29(B)には、それぞれ、回転モータ71及びプレートテーブルPTB’の入出力応答、すなわち操作量U(トルクτ)に対する制御量θx,Xの応答を表現する伝達関数P
2(=θx/U),P
1(=X/U)の周波数応答特性を示すボード線図が示されている。
図29(A)及び
図29(B)のいずれにおいても、上側の図がゲイン線図、下側の図が位相線図である。伝達関数P
2,P
1は、並進運動に係る剛体模型(
図7(A)参照)から導出される伝達関数P
2,P
1(
図5(A)及び
図5(B))及び回転運動に係る剛体模型(
図18(A)参照)から導出される伝達関数P
2,P
1(
図19(A)及び
図19(B))と、ほぼ同様の振舞いを示す。すなわち、伝達関数P
1,P
2は、互いに相反する振舞い(逆相の共振モード)を示す。(伝達関数P
1は剛体モードと逆相の共振モードを示し、伝達関数P
2は剛体モードと同相の共振モードを示す。)。
【0175】
上述の伝達関数P
1,P
2の振舞いは、プレートテーブルPTB’と回転モータ71との連結部分(ボールねじ70等)の剛性不足に起因すると考えられる。従って、プレートテーブルPTB’と回転モータ71との力学的運動を、
図7(A)及び
図18(A)に示される剛体模型と同様に、ばねにより連結された2つの剛体の運動として表現することができる。
【0176】
従って、前述の第1〜第3の実施形態と同様に、
図7(A)又は
図18(A)の剛体模型を適用して、制御器50
1,50
2を設計する(伝達関数C
1,C
2を決定する)ことにより、伝達関数P
1,P
2の共振モードが互いに相殺し、高帯域でロバストなプレートテーブルPTB’(プレートステージPST’)の駆動が可能となる。
【0177】
以上説明したように、本第4の実施形態によると、プレートテーブルPTB’の並進運動と回転モータ71の回転運動が結合した送りねじ式のプレートステージPST’を制御対象として、第1〜第3の実施形態と同様の駆動システムを構築することが可能であり、同等の効果を得ることができる。また、制御対象(送りねじ式のプレートステージ)の剛体モードと同相の共振モードを示す位置(部分)に配置されたセンサ(第1計測器)を使ったセミクローズド制御の場合などでは、制御対象の剛体モードと逆相の位置(部分)にセンサ(第2計測器)を(追加)配置し、上記と同様のSIMO系のフィードバック制御系を構築し、発生する負荷側の振動を抑圧することとしても良い。
【0178】
なお、上記第4の実施形態では、プレートテーブルPTB’の制御量として位置を選択したが、これに代えて速度、加速度等、位置以外の位置に関連する物理量を制御量として選択しても良い。かかる場合、干渉計75
1とは独立の速度計測器、加速度計測器等を設置し、それらを用いて速度、加速度等を計測することとする。あるいは、プレート干渉計システム18の計測値の1階差分又は2階差分演算により、速度、加速度を算出して用いても良い。
【0179】
また、第1の実施形態に対する変形例(
図17)と同様に、位置、速度、加速度等、位置に関連する物理量を複数組み合わせてプレートテーブルPTB’の制御量とすることも可能である。
【0180】
なお、上記第4の実施形態では、回転モータ71の制御量として回転位置を選択したが、これに代えて回転速度、回転加速度等、回転位置以外の位置に関係する物理量を制御量として選択しても良い。かかる場合、エンコーダ75
2とは独立の回転速度計測器、回転加速度計測器等を設置し、それらを用いて回転速度、回転加速度等を計測することとする。あるいは、エンコーダ75
2の計測値の1階差分又は2階差分演算により、回転速度、回転加速度を算出して用いても良い。
【0181】
また、第1の実施形態に対する変形例(
図17)と同様に、回転位置、回転速度、回転加速度等、回転位置に関連する物理量を複数組み合わせて回転モータ71の制御量とすることも可能である。
【0182】
なお、上記各実施形態では、露光装置におけるプレートステージPST及び/又はマスクステージMSTを制御対象として駆動システムを構築する場合について説明した。しかし、露光装置に限らず、精密且つ安定な駆動(位置又は速度等の制御)を要する装置、例えば工作装置における可動ステージ、ロボットアームのような搬送装置等に対しても、上記各実施形態の駆動システム(SIMO系)を適用することができる。
【0183】
また、計測器を追加する等して、主共振のみでなく、2次共振以上の高次共振に対しても同様に適用させることが可能である。
【0184】
なお、プレート干渉計システム18及びマスク干渉計システム16の構成は、上記第1、第2、第3の実施形態における構成に限らず、目的に応じて、適宜、さらに干渉計を追加した構成を採用することができる。また、プレート干渉計システム18に代えて、あるいはプレート干渉計システム18とともにエンコーダ(又は複数のエンコーダから構成されるエンコーダシステム)を用いても良い。また、マスク干渉計システム16に代えて、あるいはマスク干渉計システム16とともにエンコーダ(又は複数のエンコーダから構成されるエンコーダシステム)を用いても良い。
【0185】
なお、上記各実施形態に係る露光装置は、サイズ(長辺又は直径)が500mm以上の基板、例えば液晶表示素子などのフラットパネルディスプレイ(FPD)用の大型基板を露光する露光装置に対して適用することが特に有効である。
【0186】
また、上記各実施形態に係る露光装置において、照明光は、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)などの紫外光や、F
2レーザ光(波長157nm)などの真空紫外光であっても良い。また、照明光としては、例えばDFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(又はエルビウムとイッテルビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いても良い。また、固体レーザ(波長:355nm、266nm)などを使用しても良い。
【0187】
また、上記実施形態では、投影光学系PLが、複数本の光学系を備えたマルチレンズ方式の投影光学系である場合について説明したが、投影光学系の数はこれに限らず、1つ以上あれば良い。また、マルチレンズ方式の投影光学系に限らず、例えばオフナー型の大型ミラーを用いた投影光学系などであっても良い。また、上記実施形態では投影光学系PLとして、投影倍率が等倍系のものを用いる場合について説明したが、これに限らず、投影光学系は拡大系及び縮小系のいずれでも良い。
【0188】
なお、上記各実施形態においては、光透過性のマスク基板上に所定の遮光パターン(又は位相パターン・減光パターン)を形成した光透過型マスクを用いたが、このマスクに代えて、例えば米国特許第6,778,257号明細書に開示されているように、露光すべきパターンの電子データに基づいて、透過パターン又は反射パターン、あるいは発光パターンを形成する電子マスク(可変成形マスク)、例えば、非発光型画像表示素子(空間光変調器とも呼ばれる)の一種であるDMD(Digital Micro-mirror Device)を用いる可変成形マスクを用いても良い。
【0189】
また、上記各実施形態(のステージ駆動システム)は、一括露光型又はスキャニング・ステッパなどの走査型露光装置、及びステッパなどの静止型露光装置のいずれにも適用することができる。また、ショット領域とショット領域とを合成するステップ・アンド・スティッチ方式の投影露光装置にも上記各実施形態は適用することができる。また、上記各実施形態は、投影光学系を用いない、プロキシミティ方式の露光装置にも適用することができるし、光学系と液体とを介して基板を露光する液浸型露光装置にも適用することができる。この他、上記各実施形態は、例えば米国特許第6,611,316号明細書などに開示されている、2つのパターンを、投影光学系を介して基板上で合成し、1回のスキャン露光によって基板上の1つのショット領域をほぼ同時に二重露光する露光装置などにも適用できる。
【0190】
また、露光装置の用途としては、角型のガラスプレートに液晶表示素子パターンを転写する液晶用の露光装置に限定されることなく、例えば半導体製造用の露光装置、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン及びDNAチップなどを製造するための露光装置にも広く適用できる。また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるマスク又はレチクルを製造するために、ガラス基板又はシリコンウエハなどに回路パターンを転写する露光装置にも上記各実施形態を適用できる。なお、露光対象となる物体はガラスプレートに限られるものでなく、例えばウエハ、セラミック基板、あるいはマスクブランクスなど、他の物体でも良い。
【0191】
液晶表示素子(あるいは半導体素子)などの電子デバイスは、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、この設計ステップに基づいたマスク(あるいはレチクル)を製作するステップ、ガラスプレート(あるいはウエハ)を製作するステップ、上述した各実施形態の露光装置、及びその露光方法によりマスク(レチクル)のパターンをガラスプレートに転写するリソグラフィステップ、露光されたガラスプレートを現像する現像ステップ、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト除去ステップ、デバイス組み立てステップ、検査ステップ等を経て製造される。この場合、リソグラフィステップで、上記実施形態の露光装置を用いて前述の露光方法が実行され、ガラスプレート上にデバイスパターンが形成されるので、高集積度のデバイスを生産性良く製造することができる。
【0192】
なお、これまでの説明で引用した露光装置などに関する全ての公報、及び米国特許明細書の開示を援用して本明細書の記載の一部とする。