【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 セルロース系バイオマスエタノールからプロピレンを製造するプロセス開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Gustavo LARSEN,Alcohol Dehydration Reactions over Tungstated Zirconia Catalysts,Journal of Catalysis,1997年 7月 1日,Volume 169, Issue 1,p.67-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1に記載の方法では、ゼオライトを主成分とする触媒を用いるため、アルカン及びBTX成分(ベンゼン、トルエン、キシレン)が多量に副生するため、オレフィンの選択率が低くなってしまう。従って、選択的に効率よくオレフィンを製造することができる技術の開発が強く求められている。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルコールから該アルコールの炭素原子数よりも大きい炭素原子数のオレフィンを選択的に効率よく製造することができる触媒及び方法を提供することにある。また、当該方法により製造されたオレフィンを原料として用いて製造されるポリオレフィン及びオレフィンオキサイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、アルコールを原料として用いて、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを選択的に効率よく製造することができる触媒成分として、酸化ジルコニウムが非常に有効であり、少なくとも固体の触媒の表面を実質的に酸化ジルコニウムで構成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0008】
[1] アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造するための固体の触媒であって、
少なくとも表面が実質的に酸化ジルコニウムからなる触媒。
[2] 全体が実質的に酸化ジルコニウムからなる[1]に記載の触媒。
[3] 前記アルコールがエタノールであり、前記オレフィンがプロピレンである[1]又は[2]に記載の触媒。
[4] 前記酸化ジルコニウムが正方晶及び立方晶のいずれかの構造を有する[1]〜[3]のいずれかに記載の触媒。
[5] アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを生成するオレフィン生成工程を含み、
前記オレフィン生成工程では、前記アルコールと[1]〜[4]のいずれかに記載の触媒とを、温度300℃〜700℃で接触させるオレフィンの製造方法。
[6] 前記アルコールが、該アルコールのモル数の7倍モル以下の水を含む[5]に記載のオレフィンの製造方法。
[7] 前記アルコールと、前記触媒とを、ゲージ圧50kPa以上で接触させる[5]又は[6]に記載のオレフィンの製造方法。
[8] 前記アルコールがエタノールであり、前記オレフィンがプロピレンである[5]〜[7]のいずれかに記載のオレフィンの製造方法。
[9] [5]〜[8]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたオレフィンを原料として用いて製造されるポリオレフィン。
[10] [5]〜[8]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたオレフィンを原料として用いて製造されるオレフィンオキサイド。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコールから該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも1つ大きい炭素原子数のオレフィンを選択的に効率よく製造することができる触媒及び方法を提供することができる。また、当該方法により製造されたオレフィンを原料として用いて製造されるポリオレフィン及びオレフィンオキサイドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のオレフィンを製造するための固体の触媒(以下、「本発明のオレフィン製造用触媒」又は「本発明の触媒」ともいう)及びオレフィンの製造方法、並びにポリオレフィン及びオレフィンオキサイドについて説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
また本明細書において、「〜」という表現により数値範囲を示す場合には、下限値及び上限値を含むものとする。
【0011】
〔1.オレフィン製造用触媒〕
本発明のオレフィン製造用触媒は、アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを製造するための固体の触媒であって、少なくとも表面が実質的に酸化ジルコニウムからなる。
ここで、「少なくとも表面が実質的に酸化ジルコニウムからなる」とは、表面における酸化ジルコニウムの割合(面積比)が50面積%以上であることをいう。酸化ジルコニウムの面積比は、好ましくは、70面積%以上であり、より好ましくは100面積%(全体が酸化ジルコニウムの場合)である。ここで、「酸化ジルコニウムの面積比が100面積%である」とは、該触媒の表面の全体が酸化ジルコニウムからなることを意味する。
【0012】
例えば、原料がエタノールであり目的とする生成物がプロピレンである場合、反応活性触媒種としての酸化ジルコニウムだけが存在すれば、当該酸化ジルコニウム上でエタノールからアセトンを経由して選択的にプロピレンが生成する。一方、他の成分、例えば硫酸根のような酸強度の強い触媒成分が共存する場合、エタノールの脱水反応により生成したエチレンが重合してオリゴマーが生成し、プロトン化された該オリゴマーが骨格異性化とβ開裂を経て多様に分解する分解反応が進行してしまうため、本発明に係る反応が阻害され上記のように主としてプロピレンが生成することはなく、種々の生成物が生成してしまう。
従って、触媒表面は実質的に酸化ジルコニウムだけで構成されていることが好ましい。
【0013】
本発明の触媒の形態としては、担持触媒や酸化物触媒が挙げられるが、担持触媒の場合の担体としては、特に限定されず、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、カルシア、グラファイト等が挙げられ、表面に担体が露出する場合は、原料として用いるアルコールの脱水能力が低い、シリカ、αアルミナ、グラファイト等が好適な例として挙げられる。酸化ジルコニウムの担持量は、好ましくは51質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。また、酸化物触媒としては、酸化ジルコニウム粉末や酸化ジルコニウム成型体等の形態が挙げられる。酸化ジルコニウム粉末の場合、篩い分け後の粒径は、好ましくは0.01〜2mmであり、より好ましくは0.1〜1mmである。成型体の場合は、成型体に外接する直方体を想定した場合、該直方体の1辺の最大の長さが、好ましくは0.5〜20mmであり、より好ましくは、1〜10mmである。
【0014】
酸化ジルコニウムの結晶構造の種類としては、正方晶、立方晶、単斜晶又はアモルファス等を例示することができる。これらのうち、本発明に適用する酸化ジルコニウムは、正方晶又は立方晶であることが好ましい。酸化ジルコニウムが正方晶又は立方晶であれば、目的とするオレフィンの選択率が高くなり収率を高くすることができる。
【0015】
本発明の触媒と反応させるアルコールは、特に限定されないが、炭素原子数2〜12の1級アルコールであることが好ましい。炭素原子数2〜12の1級アルコールとしては、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール等を例示することができる。中でも、炭素原子数2〜8の1級アルコールが好ましく、炭素原子数2〜4の1級アルコールがより好ましい。炭素原子数2〜12の1級アルコールであれば、オレフィンの選択性を向上させることができる。
【0016】
さらに、本発明に適用するアルコールとしては、生物資源(バイオマス)由来のエタノール(バイオエタノール)を用いることがより好ましい。本発明に係る反応にバイオエタノールを用いることにより、化石燃料から得られたエタノールを用いる場合とは異なり、環境中の二酸化炭素を増加させることなくオレフィンを製造することができる。
【0017】
また、製造されるオレフィンは、反応させるアルコールにもよるが、プロピレンであることが好ましい。従って、本発明の触媒は、エタノールを原料として用いてプロピレンを製造する際に使用することが好ましい。
【0018】
本発明の触媒の製造方法は特に限定されず、種々の公知の製造方法を適用することが可能である。少なくとも表面が実質的に酸化ジルコニウムからなるものであれば、市販品を用いることもできる。
【0019】
本発明の触媒が担持触媒である場合は、酸化ジルコニウム前駆体を既述のような担体に含浸法等によって担持させ適宜焼成(例えば、300〜900℃)を行なって作製することができる。
本発明の触媒が酸化物触媒である場合は、例えば、酸化ジルコニウム前駆体を含む沈殿物を作製し、ろ過、焼成(例えば、300〜900℃)を行い、篩い分けや成型処理等を適宜行って製造することができる。
【0020】
ここで、酸化ジルコニウム前駆体の原料としては、アセチルアセトナトジルコニウム(IV)((CH
3COCHCOCH
3)
4Zr)、ジルコニウム(IV)n−ブトキシド(Zr(OC
4H
9)
4)、ジルコニウム(IV)tert−ブトキシド(Zr(OC
4H
9)
4)、ジルコニウム(IV)n−プロポキシド(Zr(OC
3H
7)
4)、ジルコニウム(IV)iso−プロポキシド(Zr(OCH(CH
3)
2)
4)、ジルコニウム(IV)エトキシド(Zr(OC
2H
5)
4)、炭酸ジルコニウム(IV)n水和物(Zr(CO
3)
2・nH
2O)、酸化ジルコニウム(IV)ジクロリドn水和物(ZrCl
2O・nH
2O)、塩化ジルコニウム(IV)(ZrCl
4)、臭化ジルコニウム(IV)(ZrBr
4)、二硝酸ジルコニウム(IV)オキシドn水和物(ZrO(NO
3)
2・nH
2O)を例示することができる。
【0021】
〔2.オレフィンの製造方法〕
本発明のオレフィンの製造方法は、アルコールから、該アルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンを生成するオレフィン生成工程を含み、上記生成工程では、上記アルコールと本発明のオレフィン製造用触媒とを反応温度300℃〜700℃で接触させるものである。
なお、アルコールやオレフィンについては、詳細については既述の通りである。
【0022】
本発明に用いるアルコールは、好ましくは該アルコールのモル数の7倍モル以下の水を含み、より好ましくはアルコールのモル数の0.5〜7倍モルの水を含み、更に好ましくは、アルコールのモル数の0.5〜6倍モルの水を含み、特に好ましくは、アルコールのモル数の1〜5倍モルの水を含む。
【0023】
生成されるオレフィンとしては、原料となるアルコールがエタノールの場合には、エチレンの他、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブテン、ペンテン等、原料となるアルコールが1−プロパノールの場合には、プロピレンの他、ペンテン類、ヘキセン類、オクテン類等を例示することができる。
【0024】
なかでも製造するオレフィンとしては、プロピレンであることが好ましい。この場合、本発明のオレフィンの製造方法においては、エタノールを原料として選択的にプロピレンを製造することが特に好ましい。
【0025】
オレフィン生成工程において、アルコールと本発明の触媒との接触方法は、特に限定されず、触媒を充填した容器内に単にアルコールを導入するだけでもよい。
オレフィン生成工程を実施する反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、回分式反応器、半回分式反応器等を例示することができるが、オレフィンの生産性の観点からは、好ましくは固定床反応器又は流動床反応器であり、より好ましくは固定床反応器である。
【0026】
原料となるアルコールの形態は特に限定されないが、オレフィンの生成効率を高め、かつ反応が容易である観点から、触媒との接触時は気体であることが好ましい。
また、容器内で気体状のアルコールを触媒と接触させるとき、アルコールを他の成分と組み合わせて容器内に供給してもよい。
他の成分としては、例えば、窒素ガス、水蒸気、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、反応器出口から回収した生成物の全部又は一部、前記以外の原料となるアルコール及び生成するオレフィンとの反応性が実質的に無い不活性キャリアガス等を挙げることができる。
【0027】
触媒の使用量は、特に限定されないが、アルコール1トン当たり、好ましくは0.000002トン〜0.02トンである。また、アルコールの供給速度は、例えば、触媒1トン当たり、0.002トン/h〜200トン/hであればよく、好ましくは0.02トン/h〜20トン/hである。
【0028】
また、オレフィン生成工程における原料となるアルコールと触媒とを接触させる温度は、300〜700℃の範囲であれば特に限定されるものではないが、好ましくは350〜600℃である。この範囲の温度で反応させることにより、オレフィンの選択性の低下を防ぐことができる。
【0029】
また、オレフィン生成工程における反応圧力として、好ましくはゲージ圧で50kPa以上であり、より好ましくはゲージ圧で150kPa以上であり、更に好ましくはゲージ圧で150〜20000kPaであり、特に好ましくはゲージ圧で450〜1000kPaである。ここで、ゲージ圧とは、大気圧を基準として表示した圧力であり、ゲージ圧に大気圧を加算すると絶対圧になる。
【0030】
アルコールと触媒との接触時間は特に限定されず、例えば、反応に供した原料の体積を25℃、1atmの気体換算で計算した場合、0.001秒〜1時間であり、好ましくは0.1秒〜1分である。
【0031】
また、原料となるアルコールの炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの収率は高い方が好ましいが、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。
ここで、オレフィンの収率は、「(生成した、アルコールよりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの炭素モル数)/(反応に供したアルコールの炭素モル数)×100(%)」により求めることができる。
【0032】
〔3.ポリオレフィン及びオレフィンオキサイド〕
本発明のポリオレフィンは、既述の本発明のオレフィンの製造方法によって得られたオレフィンを重合することにより製造される。ポリプロピレンに代表されるポリオレフィンは、安価でかつ機械特性に優れるために構造材料として幅広い分野で使用されている。
かかるポリオレフィンの製造法としては、例えば、オレフィンまたはオレフィン混合物を重合用触媒の存在下、気相もしくは液相で反応させるといった方法や単独のポリマーを重合させた後に別のオレフィンまたはオレフィン混合物を重合させる方法等が挙げられる。ポリオレフィンとして、好ましくは、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体、第一工程でプロピレンの単独重合体を製造し、第二工程でプロピレンとエチレンとのランダム共重合体を製造して得られるポリプロピレン系組成物等が挙げられる。
【0033】
また、本発明のオレフィンオキサイドは、既述の本発明のオレフィンの製造方法によって得られたオレフィンを酸化すること等により製造される。酸化プロピレンに代表される酸化オレフィンは、工業薬品、合成樹脂、ゴム等の中間原料として工業的に重要である。かかる酸化オレフィンの製造法としては、例えば、酸化オレフィン製造用触媒の存在下、オレフィンと過酸化物とを接触させる方法、オレフィンと塩素からクロロヒドリンを製造し、クロロヒドリンを水酸化カルシウム等の塩基と接触させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。
【0035】
〔実施例1〕
(1)触媒Aの作製
酸化ジルコニウム粉末(第一稀元素化学工業製、RC−100)を篩い分けにより0.3〜0.6mmに整粒し、オレフィン製造用触媒を得た。該触媒を以下、触媒Aと記す。
なお、粉末X線回折パターンから触媒Aの結晶構造は単斜晶であることが確認された。
【0036】
(2)プロピレンの製造
0.50gの触媒Aを断面積0.85cm
2の石英製の反応管に充填し、エタノール濃度が33vol%であるエタノール/窒素混合ガスを、11ml/分の速度で反応管へ供給し、常圧、400℃で反応(接触時間:2.8秒)を行なった。反応管のガス排出口から排出されたガスをガスクロマトグラフィーで分析し、プロピレンの収率及び生成速度を求めた。得られた分析結果を下記表1に示す。
【0037】
〔比較例1〕
(1)触媒Bの作製
国際公開第2007/083684号パンフレットに記載の方法に従い、シリカからなる担体にニッケルが担持されている触媒を調製した。該触媒の調製は、以下に記す手順で行なった。
【0038】
306gのコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製:スノーテックス(登録商標)20)、225gのドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、4N水酸化ナトリウム水溶液71g、及び705gのイオン交換水を混合し、静置したまま140℃で48時間加熱し、次いでろ過し、ろ過残渣を乾燥させ、乾燥体を得た。
80gのイオン交換水に該乾燥体8gを加え、さらに1.1gの硝酸ニッケル6水和物を81gのイオン交換水に溶解させた溶液を加え、80℃で20時間加熱した。その後、ろ過し、ろ過残渣を乾燥し、550℃で空気中加熱し、Ni−MCM41を得た。該触媒を以下、触媒Bと記す。
得られた触媒Bは、粉末X線回折パターンからヘキサゴナル構造を持つことが確認され、BET表面積は844m
2/g、ニッケル濃度は3.6質量%であった。
【0039】
(2)プロピレンの製造
触媒Aの代わりに触媒Bを用いた以外は、実施例1と同様にしてプロピレンを製造した。結果を下記表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
なお、表1に記載の「C3’」はプロピレンを表し(以下同様)、「C3’収率」の収率とは、「(生成したプロピレン中の炭素モル数)/(反応に供したアルコール中の炭素モル数)×100(%)」で定義され、また、「C3’生成速度」は、触媒1ml当たり1時間に生成するプロピレンの質量を表す。
【0042】
上記表1に示すように、実施例1では、比較例1と比較して触媒1ml当たり1時間に生成するプロピレンの重量(収率)が大幅に多かった。
【0043】
〔実施例2〕
(1)触媒Cの作製
酸化ジルコニウム粉末(第一稀元素化学工業製、RSC−HP)を篩い分けにより0.18〜0.3mmに整粒し、オレフィン製造用触媒を得た。該触媒を以下、触媒Cと記す。
(2)プロピレンの製造
1.00gの触媒Cを断面積0.83cm
2の石英製の反応管に充填し、エタノールガスを3ml/分、窒素を3ml/分および水を水蒸気として6ml/分の速度で反応管へ供給し、ゲージ圧で500kPaの圧力下、450℃で反応を行なった。
エタノール供給開始から180分後に反応管のガス排出口から排出されたガスをガスクロマトグラフィーで分析し、エタノールの転化率および生成物の収率を求めた。結果を表2に示す。
【0044】
表2中の「EtOH」はエタノール、「H
2O」は水、「C3’」はプロピレン、「C2’」はエチレン、「C2」はエタン、「C2s」はエチレン+エタン、「C3」はプロパン、「C3s」はプロピレン+プロパン、「C4s」はイソブテン+1−ブテン+トランス−2−ブテン+シス−2−ブテン+1,3−ブタジエン+n−ブタン+イソブタン、「BTX」はベンゼン+トルエン+o−キシレン+m−キシレン+p−キシレンを表す(以下、同様)。
【0045】
なお、各生成物の収率は、「(反応管出口のそれぞれの生成物中の炭素モル数)/(反応に供したエタノールの炭素モル数)×100(%)」で定義される(以下同様)。
転化率は、「1−(反応後のエタノールの炭素モル数)/(供給したエタノールの炭素モル数)×100(%)」で定義される(以下同様)。
【0046】
〔比較例2〕
(1)触媒Dの作製
Catalysis Letters(2009)、p364−p369記載の方法を用いてZr−modified ZSM―5(80)を作製した。
具体的には、ZrO(NO
3)
2・2H
2O(0.13g)を40mlの純水に溶解させた水溶液に3gのNH
4型ZSM−5(ゼオリストインターナショナル製、CBV8014)を添加し(ジルコニウム/アルミニウムモル比=0.4)、50℃でエバポレーターによって乾燥させ、さらに100℃で5時間乾燥後、540℃で4時間空気中焼成してZr−modified ZSM―5(80)を得た。
【0047】
Zr−modified ZSM―5(80)を篩い分けにより0.18〜0.3mmに整粒し、オレフィン製造用触媒を得た。該触媒を以下、触媒Dと記す。触媒D中のジルコニウム濃度は、1.5重量%であった。なお、触媒Dの表面積が431m
2/g、ジルコニウム濃度が1.5重量%なので、酸化ジルコニウムが単分子層を形成(この場合、最大の面積となる。)したとしても、1gの触媒Dに含まれる酸化ジルコニウムの表面積は21m
2以下となり、すなわち、計算上、酸化ジルコニウムの表面積は触媒Dの表面積の5%以下となる。
【0048】
(2)プロピレンの製造
1.00gの触媒Dを用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行ない、エタノールの転化率および生成物の収率を求めた。結果を下記表2に示す。
【0049】
〔比較例3〕
(1)触媒Eの作製
0.50gの球状アルミナ(住友化学製、KHO−12)を粉砕し、0.3〜0.6mmに分級し、オレフィン製造用触媒を得た。該触媒を以下、触媒Eと記す。
【0050】
(2)プロピレンの製造
触媒Eを断面積0.85cm
2の石英製の反応管に充填し、エタノール濃度が33vol%であるエタノール/窒素混合ガスを、11ml/分の速度で反応管へ供給し、常圧下、450℃で反応を行なった。反応管のガス排出口から排出されたガスをガスクロマトグラフィーで分析し、エタノールの転化率および各生成物の収率を求めた。結果を下記表2示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表面が実質的に酸化ジルコニウムで構成されていない触媒Dや固体酸触媒である触媒Eに比べて、本発明に相当する触媒Cは、エタノール炭素原子数よりも少なくとも一つ大きい炭素原子数のオレフィンの選択性が高かった。
【0053】
〔実施例3〕
1.02gの触媒Cを断面積0.071cm
2の石英製の反応管に充填し、エタノールガスを2ml/分、窒素を2ml/分および水を水蒸気として0ml/分、2ml/分、10ml/分、20ml/分および30ml/分の速度で反応管へ供給し、常圧下、410℃で反応を行なった。反応管のガス排出口から排出されたガスをガスクロマトグラフィーで分析し、エタノールの転化率およびプロピレンの収率を求めた。結果を下記表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3より、水の比率が大きくなるに伴って、C3’(プロピレン)収率が高くなった。この結果と、転化率の結果とを考慮すると、H
2O/EtOH比が5付近の場合が最も実用的であるといえる。
【0056】
〔実施例4〕
1.02gの触媒Cを断面積0.071cm
2の石英製の反応管に充填し、エタノールガスを3ml/分、窒素を6ml/分および水を水蒸気として3ml/分の速度で反応管へ供給し、ゲージ圧で0kPa、100kPa、200kPa及び500kPaの圧力下、450℃で反応を行なった。反応管のガス排出口から排出されたガスをガスクロマトグラフィーで分析し、エタノールの転化率およびプロピレンの収率を求めた。結果を下記表4に示す。
【0057】
〔実施例5〕
エタノールガスを3ml/分、窒素を3ml/分および水を水蒸気として6ml/分の速度で反応管へ供給し、反応圧がゲージ圧で500kPaであること以外は実施例4と同様の操作を行ない、エタノールの転化率およびプロピレンの収率を求めた。結果を下記表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4より、ゲージ圧が高いほど、C3’(プロピレン)収率が高くなった。そして、H
2O/EtOH比を大きくすることで、さらにC3’(プロピレン)収率が高くなった(実施例5)。
【0060】
〔実施例6〕
(1)触媒Fの作製
26.2gのオキシ塩化ジルコニウム八水和物を60.1gの純水に溶解させ、30%アンモニア水を溶液のpHが3になるまで添加した。1時間溶液を攪拌し、ゲル状の酸化ジルコニウム前駆体を含む沈殿物を得た。ろ過により酸化ジルコニウム前駆体を含む沈殿物を溶液から回収し、純水200mlで洗浄した。洗浄した酸化ジルコニウム前駆体を含む沈殿物を110℃で12時間、次いで450℃で3時間空気中で加熱し、酸化ジルコニウム焼成体を得た。酸化ジルコニウム焼成体を粉砕し、篩い分けにより0.3から0.6mmに整粒した後に純水ですすぎ、110℃で重量変化がなくなるまで乾燥させ、酸化ジルコニウム乾燥体を得た。酸化ジルコニウム乾燥体を粉砕し、篩い分けにより0.18から0.3mmに整粒してオレフィン製造用触媒を得た。該触媒を以下、触媒Fと記す。X線回折測定の結果、触媒Fは正方晶の酸化ジルコニウムであった。
【0061】
(2)プロピレンの製造
0.50gの触媒Fを断面積0.071cm
2の石英製の反応管に充填し、エタノールガスを3ml/分、窒素を6ml/分および水を水蒸気として3ml/分の速度で反応管へ供給し、ゲージ圧で200kPaの圧力下、450℃で反応を行なった。反応管のガス排出口から排出されたガスをガスクロマトグラフィーで分析し、エタノールの転化率およびプロピレンの収率を求めた。結果を下記表5に示す。単斜晶の酸化ジルコニウムである触媒Cを用いた実施例4と対比すると、正方晶の酸化ジルコニウムである触媒Fを用いた方が、触媒量は半分であるが、プロピレン収率が高かった。
【0062】
【表5】