特許第5920729号(P5920729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920729カンキツグリーニング病の治療液及びこれを用いた治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920729
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】カンキツグリーニング病の治療液及びこれを用いた治療方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20160428BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20160428BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20160428BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20160428BHJP
   A01N 43/08 20060101ALI20160428BHJP
   A01N 55/02 20060101ALI20160428BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   A01N59/16 Z
   A01N25/00 102
   A01N25/02
   A01N37/36
   A01N43/08 H
   A01N55/02 G
   A01P3/00
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-548729(P2012-548729)
(86)(22)【出願日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2011077868
(87)【国際公開番号】WO2012081420
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-278654(P2010-278654)
(32)【優先日】2010年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】正岡 淑邦
(72)【発明者】
【氏名】臼井 誠
(72)【発明者】
【氏名】松山 倫也
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−267092(JP,A)
【文献】 特開2000−44417(JP,A)
【文献】 特開2007−137791(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0021463(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0074972(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feイオンを含有し、該Feイオンの少なくとも一部がFe2+イオンであり、総Feイオンの濃度が10mg/L〜100mg/Lであるとともに、前記総Feイオンに加えさらに酸を含有することを特徴とするカンキツグリーニング病の治療液。
【請求項2】
前記酸が有機酸であることを特徴とする請求項に記載のカンキツグリーニング病の治療液。
【請求項3】
前記有機酸がカルボキシル基及びヒドロキシル基のうち少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及びヒドロキシル基の合計が2つ以上であることを特徴とする請求項に記載のカンキツグリーニング病の治療液。
【請求項4】
前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項又はに記載のカンキツグリーニング病の治療液。
【請求項5】
施用する植物が、柑橘類植物であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のカンキツグリーニング病の治療液。
【請求項6】
施用する植物が、ラフレモン、タンカン又はシークワーシャーであることを特徴とする請求項に記載のカンキツグリーニング病の治療液。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の治療液をカンキツグリーニング病に感染した柑橘類植物の葉面、根圏、又は葉面及び根圏の両方に施用して、該柑橘類植物中の病原菌を減少又は消滅させることでカンキツグリーニング病を治療することを特徴とするカンキツグリーニング病の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンキツグリーニング病の治療液及びこれを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンキツグリーニング病(Huanglongbing:以下、HLB病とも記す)は、柑橘類の最重要病害のひとつである。HLB病は、HLB菌が柑橘類等の樹木に感染して起こる植物病である。
【0003】
HLB病に罹った柑橘類の果実は小さく、また熟しているにもかかわらず、その大部分が緑色のままであり、その味も相当苦い。従って、HLB病に罹った柑橘類の果実の商品価値はほとんどない。また、HLB病に罹った樹木は落葉し、やがて枯死する。このため、HLB病は、園芸農業に対して大打撃をもたらす深刻な病害である。
【0004】
現状におけるHLB病の対処方法は、罹病樹の早期発見及び伐採、媒介虫であるカンキツキジラミの防除が最善策とされている。HLB病を発見する方法として、特許文献1にカンキツグリーニング病の検出方法、及び検出キットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−267092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明では、HLB病に罹った樹木を簡易的に検出することができるが、HLB病に罹った樹木は伐採せざるをえなかった。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カンキツグリーニング病に罹った柑橘類の樹木を治療できるカンキツグリーニング病の治療液及びこれを用いた治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係るカンキツグリーニング病の治療液は、Feイオンを含有し、該Feイオンの少なくとも一部がFe2+イオンであり、総Feイオンの濃度が10mg/L〜100mg/Lであるとともに、前記総Feイオンに加えさらに酸を含有することを特徴とする。
【0011】
また、前記酸が有機酸であることが好ましい。
【0012】
また、前記有機酸がカルボキシル基及びヒドロキシル基のうち少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及びヒドロキシル基の合計が2つ以上であることが好ましい。
【0013】
また、前記有機酸がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記治療液を施用する植物が、柑橘類植物であることが好ましい。
【0015】
前記治療液を施用する植物が、ラフレモン、タンカン又はシークワーシャーであることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様に係るカンキツグリーニング病の治療方法は、上記いずれかに記載の治療液をカンキツグリーニング病に感染した柑橘類植物の葉面、根圏、又は葉面及び根圏の両方に施用して、該柑橘類植物中の病原菌を減少又は消滅させることでカンキツグリーニング病を治療することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るカンキツグリーニング病の治療液をカンキツグリーニング病に罹った樹木に施用することでカンキツグリーニング病を治療することができ、樹木を伐採する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】Fe−EDTA水溶液を施用した検体のPCR診断結果を示す図である。
図2】治療液を施用した検体のPCR診断結果を示す図である。
図3】(a)〜(d)は治療液を施用した検体のPCR診断結果を示す図である。
図4】治療液を施用した検体のPCR診断結果を示す図である。
図5】治療液を施用した検体の枝の伸長を示す図である。
図6】(a)(b)は治療液を施用した検体のPCR診断結果を示す図である。
図7】治療液を施用した検体のPCR診断結果を示す図である。
図8】ルミノール反応による活性酸素の測定結果を示す図である。
図9】ルミノール反応による活性酸素の測定結果を示す図である。
図10】(a)(b)はルミノール反応による活性酸素の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(カンキツグリーニング病の治療液)
本実施の形態に係るカンキツグリーニング病の治療液(以下、単に治療液ともいう)は、Fe2+イオンを含有する。この治療液は、Fe2+イオンを安定に保持している。
【0020】
本実施の形態に係る治療液は、Fe2+イオンを供給することができる鉄化合物を水に溶解して得ることができる。本実施の形態に係る治療液において、Fe2+イオンを供給することができる鉄化合物としては、水溶液中でFe2+イオンを含有することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、FeO、FeSO等の二価の鉄化合物を用いることができる。また、クエン酸鉄のように粉末では三価の鉄を含む鉄化合物であっても、水に溶けるとFe3+イオンとFe2+イオンとの平衡により、水溶液中でFe2+イオンを含有することができるものであればよい。
【0021】
本実施の形態に係る治療液に含有される総Feイオンの濃度は、好ましくは10mg/Lから100mg/Lである。より好ましくは12mg/Lから50mg/Lである。さらに好ましくは15mg/Lから30mg/Lである。10mg/Lよりも低い場合は、十分なHLB病の治療効果を得ることができない。また、100mg/Lよりも高い場合は、HLB病を罹患した樹木自体を痛めてしまう恐れがある。通常、栄養成分として鉄を植物に施用する場合、1〜1.5mg/Lの濃度範囲で用いる。これに対し、本実施の形態に係る治療液は10〜100mg/Lの高濃度で総Feイオンを含有することにより、HLB病の治療に優れた効果を有する。
【0022】
本明細書において、「総Feイオン」とは、二価の鉄イオン(Fe2+イオン)及び三価の鉄イオン(Fe3+イオン)を含む。
Fe2+イオン濃度は、例えばo−フェナントロリンを用いた既存の方法によって測定することができる。o−フェナントロリンはFe2+イオンと選択的に錯体を形成するため、この錯体の吸光度を測定することにより、Fe2+イオンを選択的に定量することができる。また、溶液中に含まれるFe3+イオンをあらかじめ還元して全Feイオンを二価鉄とした後にo−フェナントロリン法を用いて定量することにより、総Feイオン量を定量することができる。
【0023】
一般に、Fe2+イオンは酸化されてFe3+イオンになりやすいが、本実施の形態に係る治療液は、好ましくは酸を含むことによってFe2+イオンを安定に保持することができる。治療液に含まれる酸は、Fe2+イオンを安定に保持することができれば、有機酸であってもよいし、無機酸であってもよい。Fe2+イオンをより安定に保持できるので、有機酸が好ましい。
【0024】
有機酸は、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を備える、カルボキシル基とヒドロキシル基との合計が2つ以上の酸であり、水中で上記の鉄化合物から生じるFe2+イオンとキレートを形成する。これにより、Fe2+イオンが水中で安定して存在する。カルボキシル基を備える有機酸として、クエン酸(無水クエン酸)、リンゴ酸、酒石酸及びシュウ酸等が挙げられる。ヒドロキシル基を備える有機酸として、アスコルビン酸等が挙げられる。また、カルボキシル基とヒドロキシル基を両方備える有機酸として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのなかでも、治療液中におけるFe2+イオンの安定性が優れるため、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸が好ましい。更に、これら有機酸と鉄化合物とを含有する水溶液を調整した場合に、有機酸濃度に対するFe2+イオン濃度が高いため、クエン酸及び酒石酸が好ましい。また、これらのなかでも、有機酸と鉄化合物とを含有する水溶液を調製した場合に、有機酸濃度に対するFe2+イオン濃度が特に高いため、クエン酸が最も好ましい。また、クエン酸は柑橘類自身が生成する有機酸でもあるので、柑橘類に害を与えることもない。
【0026】
また、この治療液に用いられる水は、特に限定されず、種々の水を用いることができる。純水及びイオン交換水等の高度に精製された水であってもよく、水道水、工業用水、農業用水及び地下水等の通常使用される水であってもよい。
【0027】
また、治療液には、有機酸及び鉄化合物のほか、例えばマグネシウムやカルシウムといった他の栄養成分等が含まれていてもよい。
【0028】
また、本実施の形態に係る治療液は、以下の製造方法によって得ることもできる。
有機酸粉末とFe2+イオンを供給することができる鉄化合物粉末とを水に加熱溶解して得ることができる。
【0029】
また、予め全量の有機酸粉末を水に溶解させて得られた有機酸水溶液にFe2+イオンを供給する鉄化合物粉末を添加して加熱して得ることもできる。
【0030】
また、クエン酸第一鉄等の有機酸第一鉄の粉末を水に添加し加熱して得ることもできる。
【0031】
また、加熱せず有機酸粉末とFe2+イオンを供給する鉄化合物粉末と水とを混合して得ることもできる。
【0032】
本実施の形態に係る治療液は、HLB病に罹った柑橘類の樹木に施用されることで、HLB病の治療をすることができる。柑橘類には、例えば、ラフレモン(Citrus verrucosa)、タンカン(Citrus tankan)、シークワーシャー(Citrus depressa Hayata)、温州みかん(Citrus unshiu)等が含まれる。その中でも特に、ラフレモン(Citrus verrucosa)、タンカン(Citrus tankan)及びシークワーシャー(Citrus depressa Hayata)が好ましい。
【0033】
HLB菌は、師部局在性かつ難培養性の多様性グラム陰性の細菌様微生物であり、アジア型、アフリカ型、アメリカ型と呼ばれる3系統に類別され、それぞれCandidatus Liberobacter asiaticus、Candidatus Liberobacter africanus、及び、Candidatus Liberobacter americanusの3系統に類別される。本実施の形態に係る治療液は、いずれの系統のHLB菌による感染にも用い得る。
【0034】
治療液の施用は、例えば、樹木の葉面に散布することや、樹木の根本、即ち根圏に灌水することで行えばよい。
【0035】
柑橘類の樹木への治療液の施用頻度、及び、1回に施用する治療液の量について、特に制限はない。一例として、後述の実施例のように、Fe2+イオン濃度15mg/L〜50mg/Lの治療液を、1回につき50mLで、5日に1回施用することによりカンキツグリーニング病に罹った柑橘類の樹木を治療することができる。
【0036】
カンキツグリーニング病の治療メカニズムは定かではないが、後述の実施例にて説明するように、樹木に施用された治療液によって発生するヒドロキシラジカルが影響していると推察される。
一般に、病原体等の侵入物に対する細胞の耐性には活性酸素が関与していることが知られている。この活性酸素は細胞内において病原性ストレスから細胞を保護する働きを有し、細胞内の活性酸素濃度は、細胞内で発生した過酸化水素が二価鉄と反応してヒドロキシラジカルを生成するフェントン反応を介して制御される。
本実施の形態に係る治療液は、Fe2+イオンを安定に保持し、後述の実施例に示すようにヒドロキシラジカルを持続的に発生することができる。そのため、この治療液を樹木に施用すると、柑橘類の細胞内で反応性の高いヒドロキシラジカルを生じ、このヒドロキシラジカルが直接的にHLB菌を死滅させる、或いは、細胞内で何らかの反応性を促して、二次的作用でHLB菌を死滅させることにより、カンキツグリーニング病を治療することができると考えられる。
【0037】
また、カンキツグリーニング病に罹った柑橘類の樹木では、正常な樹木に比べ鉄分が減少していることがわかっている。通常、植物は根からFe3+イオンを還元してFe2+イオンを摂取しているが、本実施の形態に係る治療液ではFe2+イオンが安定して存在している水溶液であるので、Fe2+イオンをそのまま摂取することができる。そして、この治療液はFe2+イオンを多量に含んでいるので、柑橘類の樹木が多くのFe2+イオンを直接摂取でき、不足した鉄分を補充し、治療効果が高められていることも考えられる。
【実施例】
【0038】
(試験用Fe水溶液の調整)
以下の試験用のFe水溶液をそれぞれ調整した。
1.Fe−EDTA水溶液
2.治療液A(水溶液)
3.治療液B(水溶液)
4.クエン酸鉄水溶液
5.硫酸鉄水溶液
【0039】
(1.Fe−EDTA水溶液)
Fe−EDTA水溶液は、Fe−EDTA(シグマアルドリッチジャパン製、商品名:エチレンジアミン四酢酸(III)ナトリウム)を総Feイオン濃度が15mg/Lになるように脱塩蒸留水で溶解することにより調整した。
【0040】
(2.治療液A(水溶液))
治療液Aは、水100mLあたりのクエン酸が14gであり、水100mLあたりのFeが、クエン酸の含有量を100質量部とした場合に、40質量部である治療液A原液を総Feイオン濃度が15mg/Lになるよう脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
治療液A原液を希釈した水溶液は、各々Fe2+イオンとFe3+イオンとを含有し、Fe2+イオンとFe3+イオンとの合計量を100質量%とした場合に、Fe2+イオンが20〜40質量%である。但し、この各イオン濃度は、後述する測定方法により測定された値である。
【0041】
(3.治療液B(水溶液))
治療液Bは、水100mLあたりのクエン酸が14gであり、水100mLあたりのFeが、クエン酸の含有量を100質量部とした場合に、13質量部である治療液B原液を総Feイオン濃度が15mg/Lになるよう脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
治療液B原液を希釈した水溶液は、各々Fe2+イオンとFe3+イオンとを含有し、Fe2+イオンとFe3+イオンとの合計量を100質量%とした場合に、Fe2+イオンが50〜90質量%である。但し、この各イオン濃度は、後述する測定方法により測定された値である。
【0042】
(4.クエン酸鉄水溶液)
クエン酸鉄水溶液は、クエン酸鉄(昭和化工株式会社)を総Feイオン濃度が15mg/Lとなるように脱塩蒸留水で溶解することにより調整した。
【0043】
(5.硫酸鉄水溶液)
硫酸鉄水溶液は、硫酸鉄を総Feイオン濃度が15mg/Lとなるように脱塩蒸留水で溶解することにより調整した。
【0044】
(総Feイオン濃度の測定)
治療液A、治療液B、クエン酸鉄水溶液、Fe−EDTA水溶液及び硫酸鉄水溶液について、これらの水溶液中に含まれるFe2+イオンを確認するため、各Fe水溶液におけるFe2+イオン濃度を測定した。なお、本測定は、総Feイオン濃度が約50mg/Lになるように調整されたFe水溶液を用いて行った。
まず、上記と同様にして、治療液A原液を総Feイオン濃度が約50mg/Lとなるようにイオン交換水で希釈して治療液A水溶液を調整した。その後、すぐにRQflex多項目水質検査器(Merck社製)とリフレクトクァント鉄イオン試験紙(Merck社製)を用いて、得られた水溶液に含有されるFe2+イオンと総Feイオンとを測定した。測定は、リフレクトクァント鉄イオン試験紙に添付のプロトコールに従って行った。また、総Feイオン量からFe2+イオン量を差し引いた量をFe3+イオン量として換算した。尚、この測定では常に直射日光の差し込まない室内において作業を行った。
【0045】
この測定の結果、Fe2+イオン濃度は10.4mg/Lであり、Fe3+イオン濃度は36.6mg/Lであり、Fe2+イオンとFe3+イオンとの合計を100質量%とした場合にFe2+イオンは22質量%であった。
【0046】
上記と同様に、治療液B、クエン酸鉄、Fe−EDTA及び硫酸鉄を総Feイオン濃度が約50mg/Lになるように調整して各々の水溶液におけるFe2+イオン濃度と総Feイオン濃度、総Feイオンに占めるFe2+イオンの割合を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0047】
このように、治療液A水溶液、治療液B水溶液、クエン酸鉄水溶液及び硫酸鉄水溶液は、何れもFe2+イオンを所定の割合で含有することが確認された。一方、Fe−EDTA水溶液は、Fe3+イオンを安定に保持していることが確認された。
【0048】
(カンキツグリーニング病の治療効果の検証)
カンキツグリーニング病に感染した柑橘類の樹木に、上記のFe水溶液を施用し、Fe2+イオンを含有する治療液のカンキツグリーニング病に対する治療効果について検証した。
【0049】
1.ラフレモンにおける効果
検体としてラフレモン(Citrus verrucosa Lush.)の樹木を用いた。まず、ラフレモンの種子を発芽させ、約1Lのポット植、野菜育苗用培土(タキイ種苗株式会社製)で育成した。育成1年後に、接ぎ木によって病原木から病原菌を摂取させて、カンキツグリーニング病を感染させた。病原木は、石垣島から採取され「Ishi−1」と命名された病原菌株を感染させたものである。感染後、更に1年育成した検体を試験に供した。同様にして、カンキツグリーニング病を感染させた検体を10検体(検体A〜検体J)準備した。
【0050】
なお、栽培はグロスキャビネット内で行った。昼間温度32℃、夜間温度28℃の条件で行った。10日おきに栄養分を土壌に施用した。施用した栄養分は、10mM硝酸カルシウム、2.5mMリン酸二水素一カリウム、2.5mM硫酸マグネシウム7水和物、1mM硫酸カリウムを含む水溶液であり、これを1ポットにつき50mL/1回与えた。
【0051】
1−1.Fe−EDTA水溶液の施用
以上のように準備した10検体(検体A〜検体J)を育成し、まず、育成60日目までは、5検体(検体A〜検体E)に対して、総Feイオン濃度15mg/LのFe−EDTA水溶液を施用した。また、他の5検体(検体F〜検体J)に対して、Fe−EDTA水溶液の代わりに蒸留水を施用した。
【0052】
上記のFe−EDTA水溶液、及び、蒸留水の施用は、検体の葉に散布すること、及び、検体の根本に灌水することにより行った。葉への散布、及び根本への灌水は、それぞれ5日に1回行った。葉へ散布したFe−EDTA水溶液、及び蒸留水の量は、1回につき50mLである。また、根本へ灌水したFe−EDTA水溶液、及び蒸留水の量は、1回につき50mLである。
【0053】
Fe−EDTA水溶液処理開始後(育成)60日目に、それぞれの検体の葉を3〜5枚ほど採取してDNAを抽出し、PCR法にて増幅して、カンキツグリーニング病の診断(以下、PCR診断という)を行った。具体的には、以下のように行った。
【0054】
(1)DNAの抽出
採取した各葉(3〜5g)を蒸留水で洗浄して水分を除き、中肋を切り取った後、液体窒素を用いて凍結させた。これを蒸気滅菌・乾熱滅菌した乳鉢・乳棒でホモジナイズして、5mLの1×CTABバッファー(1%CTAB,50mMTris−HCl(pH8.0),0.7M NaCl,10mM EDTA)に溶解し、65℃で撹拌しながら30分間インキュベートした後、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1v/v)を5mL加え、30分間転倒混和し3000rpm×15分遠心分離し、上澄みをスポイドで新しい遠心チューブに移した。以上の除タンパク質処理を3回行った。上澄みの1/10量の10%CTAB溶液(10%CTAB、0.7M NaCl)を加え転倒混和し除タンパク質処理によって失われたCTABを補充した。その上澄みに等量のCTAB沈殿液(1%CTAB、50mM Tris−HCl,pH8.0、0.10mM EDTA)をゆっくり加え、静かに転倒混和した。上澄みにある核酸は低濃度(0.35M以下のNaCl)でCTABと結合し沈殿する。一晩静置、沈殿させ、1800rpm×15分で遠心分離し、デンプンを含む上澄みを捨てた。沈殿に1mLの沈殿溶解液(1M NaCl、50mM Tris−HCl、10mM EDTA)を加え、核酸・CTAB複合体を分離し、核酸を溶かした。この核酸溶液に等量のイソアミルアルコールをゆっくり加えて、核酸を沈殿させた。1800rpm×10分で遠心分離し、CTABを含む上澄みを捨てた。70%エタノールで沈殿及び遠心管側面のCTABを洗浄し、同様に遠心してCTABを除去した。最後に1/10TE溶液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)で核酸を溶解した。核酸溶液の純度は分光光度計で260nm/230nmでデンプン混入度を、260nm/280nmでタンパク質の混入度を評価し、両値とも1.8以上のものを次の実験に使用した。また、アガロース電気泳動によりλDNA(47.5kb)以上の高分子の核酸溶液を次の実験に使用した。DNA量は蛍光分光光度計で測定した。
【0055】
(2)PCR診断
PCR診断は、「Marjorie A.Hoy,Ayyamperumal Jeyaprakash,and Ru Nguyen(2001),Long PCR is a sensitive Method for Detecting Liberobacter asiaticum in Parasitoids Undergoing Risk Assessment in Quarantine. Biological Control 22,278−287」に記載の方法に従って行った。
具体的には、48mM MgCl 1μL、Takara Premix tag2×PCR溶液10μL(Takara,Bio Inc.,Shiga,Japan)、90ng/μLフォワードプライマーMHO035 1μL、90ng/μLリバースプライマーMHO0354 1μL、上記にて抽出したDNA試料2μL(20ng)、及び滅菌水5μLを混合してPCR反応液20μLを調整した。このPCR反応液を、DNA Thermal Cycler PTC−1148(Bio−Rad Laboratories,Inc.)にセットし、以下の条件でDNAを増幅した。
プライマー
フォワードプライマー(MHO0353):
5’-CACCGAAGATATGGACAACA-3’ (配列番号1)
リバースプライマー(MHO0354):
5’-CAGGTTCTTGTGGTTTTTCTG-3’ (配列番号2)
PCR条件
90℃ 3分 1サイクル
{94℃ 1分、68.5℃ 1分、72℃ 3分}35サイクル
72℃ 3分 1サイクル
4℃で泳動まで保存
【0056】
ポジティブコントロール(PC)には、病原菌株Ishi−1が感染した病原木から採取した葉から上記のDNAの抽出方法によって抽出されたDNA試料を用いた。
【0057】
上記PCR法にて増幅した試料17μLについて、0.8%アガロースゲルを用いて電気泳動し、臭化エチジウム染色により増幅されたDNAを検出した。
Fe−EDTA水溶液を施用した検体のPCR診断結果及び蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を図1及び表2に示す。図中、mは分子量マーカーを流したレーンを示す。
【0058】
図1に示されるように、ポジティブコントロール(PC)には所定の位置(図中、矢印で示す)に陽性バンドが検出された。この陽性バンドが検出された場合は、検体はカンキツグリーニング病に罹病しており、検出されない場合は罹病していないと判断することができる。また、表2には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
電気泳動結果のバンド強度は、ImageJ(画像処理プログラム、NIH)を用いて解析した。まず、PCのバンド部分(図中、白い領域)を選択し、選択された領域の輝度(濃さ)を数値化した。各試料のバンド部分についても、PCのバンドで選択された領域と同じ面積を有する領域内の濃さを数値化した。次にブランクになっている黒い部分の濃さも同様にして数値化し、各バンドの濃さの数値から差し引いた値を各バンドの元の数値とした。表2には、ポジテイブコントロール(PC)の濃さを100%とした場合の各バンドの元の数値の相対値(%)を示している。
【表2】
その結果、いずれの検体もPCと同じ位置にバンドが出現していることから、検体内にHLB菌遺伝子が存在していることがわかった。従って、いずれの検体もHLB病に感染したままである。Fe−EDTA水溶液は、FeがFe3+イオンとして存在している水溶液であることから、Fe3+イオンを供給しても、HLB病に感染した検体を治療する効果はないことが明らかとなった。また、後述の図8に示されるように、Fe−EDTA水溶液は活性酸素の発生量が著しく低い。Fe−EDTA水溶液では活性酸素がほとんど発生しないことから、HLB病の治療効果がないと推察される。
【0059】
1−2.治療液Aの施用
育成61日目以降も、上記の検体をそのまま育成し続けた。そして、61日目からはFe−EDTA水溶液に代えて、5検体(検体A〜検体E)に治療液Aを総Feイオン濃度15mg/Lにて施用した。
【0060】
治療液Aの施用は、Fe−EDTA水溶液の施用と同様、検体の葉に散布すること、及び、検体の根本に灌水することにより行った。葉への散布、及び、根本への灌水は5日に1回行った。葉へ散布した治療液は1回につき50mLである。また、根本へ灌水した治療液Aの量は1回につき50mLである。
【0061】
用いた治療液Aは、上記と同様に治療液A原液を総Feイオン濃度が15mg/Lになるように脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
【0062】
他の5検体(検体F〜検体J)については、61日目以降も継続して上記と同条件で蒸留水を施用した。
【0063】
育成114日目(治療液Aを施用して54日目)の各検体の葉を3〜5枚程度採取し、上記と同様に、それぞれPCR診断を行った。治療液Aを施用した検体及び蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を図2及び表3に示す。また、表3には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。なお陽性バンドの強度が0%を示した場合、その検体はHLB病に感染していないことを示している。
【表3】
【0064】
蒸留水の施用を続けた検体(検体F〜検体J)では、いずれもPCと同じ位置(図中、矢印で示す)にバンドが出現しており、病状が改善することはなかった。
【0065】
一方、治療液Aを施用した検体(検体A〜E)では、3つの検体(検体A,B,D)で陽性バンドが消失し、病状が改善していた。
【0066】
更に、115日目以降も同条件でそれぞれの検体を育成した。そして、育成252日目(治療液を施用して192日目)に、各検体の上部、中部、下部の葉をそれぞれ5枚程度採取し、PCR診断を行った。治療液を施用した検体及び蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を図3(a)〜(d)及び表4(a)〜(d)に示す。
【0067】
図3(a)〜(d)中、検体Aの上部の葉、中部の葉、下部の葉のPCR診断結果について、それぞれAa、Ab、Acと記しており、図3(a)〜(d)中の他の検体B〜検体Jについても同様に記している。また、図中、NCはネガティブコントロールを示し、非感染の樹木の葉から抽出されたDNA試料を用いた。また、表4(a)〜(d)には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【0068】
【表4a】
【表4b】
【表4c】
【表4d】
【0069】
蒸留水の施用を続けた検体(検体F〜検体J)では、検体Fのみ、PCと同じ位置にバンドが出現しなかったが、他の検体G〜検体Jでは、いずれもPCと同じ位置(図中、矢印で示す)に陽性バンドが出現した。
【0070】
一方、治療液を施用した検体(検体A〜検体E)では、全てにおいて陽性バンドは出現しなかった。従って、検体A〜検体Eではカンキツグリーニング病が完治していることがわかる。
【0071】
更に253日目以降も同条件でそれぞれの検体を育成した。そして、育成1年9ヶ月(治療液を施用して1年7ヶ月)後の各検体の葉を3〜5枚程度採取し、上記と同様に、それぞれPCR診断を行った。治療液A又は蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を図4に示す。また、表5には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【表5】
【0072】
蒸留水の施用を続けた検体(検体F〜検体J)では、4検体(検体G〜検体J)でPCと同じ位置(図中、矢印で示す)にバンドが出現しており、病状が改善することはなかった。また、1検体(検体F)において陽性バンドが消失していた。原因は不明であるが、カンキツグリーニング病においては、希に菌が検出されなくなる個体があることが知られており、この個体もその一つであると考えられる。
【0073】
一方、治療液Aを施用した検体(検体A〜E)では、全てにおいてPC(図中、Conと示す)と同じ位置にバンドは検出されず、検体A〜検体Eではカンキツグリーニング病が完治していることが確認された。
【0074】
このように、Fe2+イオンを含有する治療液Aを、カンキツグリーニング病に罹ったラフレモンの樹木に施用することにより、カンキツグリーニング病を完治させられることが立証された。
【0075】
さらに、上記の治療液Aの施用によるラフレモンの枝の伸長への影響を調べた。67日間に伸長した枝の長さを図5に示す。カンキツグリーニング病に罹病した樹木に治療液Aを施用しない場合、枝の伸長は25cm程度であるのに対し、治療液Aを施用した場合、枝の伸長は35cm以上であり、罹病していない健康な樹木の枝の伸長と同程度又はそれ以上であることが分かった。
以上の結果から、Fe2+イオンを含有する治療液Aの施用は、枝の伸長を促進する効果も有することが立証された。
このように、本実施の形態に係る治療液は、柑橘類樹木の成長を損なうことなく、カンキツグリーニング病を治療できるという驚くべき効果を有することが明らかとなった。
【0076】
2.タンカンにおける効果
次に検体としてタンカン(Citrus tankan Hayata)の樹木を用いて評価を行った。まず、沖縄県恩納村の樹園地にて、複数のタンカンの樹木の中からカンキツグリーニング病に罹病している樹木を特定するため、各樹木の古葉を用いて上記のPCR診断を行った。その結果を図6(a)(b)、及び表6(a)(b)に示す。表6(a)(b)には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【表6a】
【表6b】
【0077】
その結果、図6(a)に示すように、1,2及び3で示す検体(検体1〜3)において、PCと同じ位置にバンドが検出され、カンキツグリーニング病に罹病していることが分かった。また、検体5についても、図6(b)に示すように、カンキツグリーニング病の陽性バンドが検出されたため、カンキツグリーニング病に罹病した検体として以下の実験に供した。
【0078】
これら罹病した検体1〜3に対して、総Feイオン濃度30mg/Lの治療液Bを施用した。また、罹病した検体5に対しては、総Feイオン濃度30mg/Lの治療液Aを施用した。各治療液の施用は、治療液B又は治療液Aを検体の葉に散布することにより行った。葉への散布は7日に1回行った。葉へ散布した治療液の量は、検体1本1回につき1.5Lである。このように多量の治療液を葉へ散布することにより、散布された治療液の一部が土壌へと落ちるため、根本への灌水と同様の効果が得られる。
【0079】
用いた治療液Bは、治療液B原液を総Feイオン濃度が30mg/Lになるように脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。治療液Aは、治療液A原液を総Feイオン濃度が30mg/Lになるように脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
【0080】
治療液処理開始後46日目に、それぞれの検体から新葉及び古葉を3〜5枚採取して、上記と同様にDNAを抽出して、PCR診断を行った。その結果を図7及び表7に示す。表7には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【表7】
【0081】
図7において、Aは古葉、Bは新葉を示す。治療液を施用した検体(検体1〜3,5)の全てにおいてPC(図中、Conと示す)と同じ位置にバンドは検出されず、これら検体1〜3及び5ではカンキツグリーニング病が完治していることがわかった。
従って、Fe2+イオンを含有する治療液B及び治療液Aは、タンカンにおいてもカンキツグリーニング病の治療に有効であることが立証された。
【0082】
3.シークワーシャーにおける効果
次に検体としてシークワーシャー(Citrus depressa Hayata)の樹木を用いて評価した。上記のラフレモンと同様に接ぎ木によって病原木から病原菌を接種させ、カンキツグリーニング病に感染した検体を準備した。
【0083】
栽培はグロスキャビネット内で行った。昼間温度32℃、夜間温度28℃の条件で行った。10日おきに栄養分を土壌に施用した。施用した栄養分は、10mM硝酸カルシウム、2.5mMリン酸二水素一カリウム、2.5mM硫酸マグネシウム7水和物、1mM硫酸カリウムを含む水溶液であり、これを1ポットにつき50mL/1回与えた。
【0084】
以上のように準備した検体に対して、総Feイオン濃度15mg/LのFe−EDTA水溶液、治療液B、クエン酸鉄水溶液、硫酸鉄水溶液、及び蒸留水をそれぞれ施用した。各Fe水溶液について2〜3検体を用いて評価した。
【0085】
上記のFe水溶液等の施用は、検体の葉に散布すること、及び、検体の根本に灌水することにより行った。葉への散布、及び根本への灌水は、それぞれ5日に1回行った。葉へ散布したFe水溶液等の量は、1回につき50mLである。また、根本へ灌水したFe水溶液等の量は、1回につき50mLである。
【0086】
各Fe水溶液処理開始後309日目に、それぞれの検体の葉を3〜5枚ほど採取してDNAを抽出し、PCR法にて増幅して、カンキツグリーニング病のPCR診断を行った。表8には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度の平均値を示す。
【表8】
【0087】
表8に示すように、Fe−ETDA水溶液を施用した検体では、バンド強度の低下は認められなかった。これに対し、治療液B、クエン酸鉄水溶液、及び硫酸鉄水溶液を施用した検体では、バンド強度が大幅に低下していることから、HLB菌が減少し、病状が改善していることが分かった。
このように、本実施の形態に係る治療液は、シークワーシャーにおいてもカンキツグリーニング病の治療に有効であることが立証された。
【0088】
(活性酸素の発生の検証)
上述したように、本実施の形態に係る治療液はFe2+イオンを含有する。そのため、治療液を樹木に施用すると、細胞内で発生した過酸化水素と反応して活性酸素を生じると考えられる。そこで、上記の各種Fe水溶液による活性酸素の発生量及びその安定性について評価した。
上述の試験用Fe水溶液の調整においてそれぞれ調整した各種Fe水溶液を蒸留水に添加した際に発生する活性酸素をルミノール反応により測定した。なお、蒸留水中には一定量の割合で過酸化水素が含まれるため、Fe2+イオンを含有する水溶液を添加することによって活性酸素が発生する。
各Fe水溶液を100μLずつとり、蒸留水50μL及びルミノール液を50μL添加して、ルミネッセンサー(アトー株式会社製)を用いて化学発光量を10秒間の積算にて測定した。各試料について3反復で測定した。溶液中の活性酸素の量が多いほど発光強度は高い値を示す。
【0089】
その結果を図8に示す。図8では、上記の各水溶液を100μLずつとり、蒸留水50μLを添加し、0,60,180及び360分経過後にルミノール液を50μL添加して化学発光量を測定した。Fe−EDTA水溶液では、図8に示されるように、活性酸素はほとんど検出されなかった。一方、治療液A、治療液B、クエン酸鉄水溶液、及び硫酸鉄水溶液をそれぞれ蒸留水に添加した場合には強い発光強度が検出され、活性酸素を発生していることが分かった。これらの結果から、治療液A、治療液B、クエン酸鉄水溶液、及び硫酸鉄水溶液中には、Fe2+イオンが存在することが確認された。
さらに、活性酸素は蒸留水の添加後3時間以上継続して検出されたことから、これらFe2+イオンを含有する水溶液は、安定にFe2+イオンを保持できることが明らかとなった。
【0090】
二価鉄によって生じた活性酸素種を特定するために、上記のFe水溶液100μLに0mM〜20mMのクロロゲン酸を含有する蒸留水50μL及びルミノール液50μLを添加し、上記と同様に発光強度を測定した。
【0091】
その結果、図9に示されるように、高濃度のクロロゲン酸が添加された試料では、発光強度の値が著しく低下していた。クロロゲン酸はヒドロキシラジカルを捕捉する特性を有することから、Fe水溶液を蒸留水に添加することで発生した活性酸素の主要成分は、ヒドロキシラジカルであることが確認された。
また、所定の濃度のクロロゲン酸存在下でも、Fe−EDTA水溶液以外のFe水溶液では発光強度がある程度維持されていた。従って、これらのFe水溶液は、ヒドロキシラジカルを捕捉、除去するような物質の存在下でも、安定に且つ持続的に活性酸素を供給できることが分かった。
【0092】
次に、硫酸鉄水溶液及び治療液Bについて、総Feイオン濃度と活性酸素の発生量との関係を調べた。その結果、図10に示されるように、硫酸鉄水溶液及び治療液Bのいずれも、総Feイオン濃度が1.5mg/Lの場合、発光強度が低く、活性酸素をほとんど発生しないことが分かった。1.5mg/Lの総Feイオン濃度は、植物に肥料として通常施用される濃度であり、カンキツグリーニング病には効果がない。一方、総Feイオン濃度が150mg/L以上の場合、発光強度が1×10以上であり、活性酸素の発生量が非常に高いことが分かった。このことから、150mg/L以上の総Feイオン濃度では、過剰の活性酸素により植物を痛めてしまうと考えられる。
【0093】
以上の結果から、本実施の形態に係る治療液は、Fe2+イオンを含有し、且つFe2+イオンを安定に保持できることが確認された。
【0094】
このように、本実施の形態に係る治療液は、Fe2+イオンを含有し、カンキツグリーニング病に罹った柑橘類の樹木に施用されることにより、カンキツグリーニング病を完治させることができるという驚くべき効果を有することが明らかとなった。
【0095】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0096】
本出願は、2010年12月14日に出願された日本国特許出願2010−278654号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2010−278654号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明に係るカンキツグリーニング病の治療液を用いることで、カンキツグリーニング病に罹った柑橘類を治療することができる。従って、柑橘類を栽培する農業分野での利用が期待される。
図5
図9
図10
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]