【実施例】
【0038】
(試験用Fe水溶液の調整)
以下の試験用のFe水溶液をそれぞれ調整した。
1.Fe−EDTA水溶液
2.治療液A(水溶液)
3.治療液B(水溶液)
4.クエン酸鉄水溶液
5.硫酸鉄水溶液
【0039】
(1.Fe−EDTA水溶液)
Fe−EDTA水溶液は、Fe−EDTA(シグマアルドリッチジャパン製、商品名:エチレンジアミン四酢酸(III)ナトリウム)を総Feイオン濃度が15mg/Lになるように脱塩蒸留水で溶解することにより調整した。
【0040】
(2.治療液A(水溶液))
治療液Aは、水100mLあたりのクエン酸が14gであり、水100mLあたりのFeが、クエン酸の含有量を100質量部とした場合に、40質量部である治療液A原液を総Feイオン濃度が15mg/Lになるよう脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
治療液A原液を希釈した水溶液は、各々Fe
2+イオンとFe
3+イオンとを含有し、Fe
2+イオンとFe
3+イオンとの合計量を100質量%とした場合に、Fe
2+イオンが20〜40質量%である。但し、この各イオン濃度は、後述する測定方法により測定された値である。
【0041】
(3.治療液B(水溶液))
治療液Bは、水100mLあたりのクエン酸が14gであり、水100mLあたりのFeが、クエン酸の含有量を100質量部とした場合に、13質量部である治療液B原液を総Feイオン濃度が15mg/Lになるよう脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
治療液B原液を希釈した水溶液は、各々Fe
2+イオンとFe
3+イオンとを含有し、Fe
2+イオンとFe
3+イオンとの合計量を100質量%とした場合に、Fe
2+イオンが50〜90質量%である。但し、この各イオン濃度は、後述する測定方法により測定された値である。
【0042】
(4.クエン酸鉄水溶液)
クエン酸鉄水溶液は、クエン酸鉄(昭和化工株式会社)を総Feイオン濃度が15mg/Lとなるように脱塩蒸留水で溶解することにより調整した。
【0043】
(5.硫酸鉄水溶液)
硫酸鉄水溶液は、硫酸鉄を総Feイオン濃度が15mg/Lとなるように脱塩蒸留水で溶解することにより調整した。
【0044】
(総Feイオン濃度の測定)
治療液A、治療液B、クエン酸鉄水溶液、Fe−EDTA水溶液及び硫酸鉄水溶液について、これらの水溶液中に含まれるFe
2+イオンを確認するため、各Fe水溶液におけるFe
2+イオン濃度を測定した。なお、本測定は、総Feイオン濃度が約50mg/Lになるように調整されたFe水溶液を用いて行った。
まず、上記と同様にして、治療液A原液を総Feイオン濃度が約50mg/Lとなるようにイオン交換水で希釈して治療液A水溶液を調整した。その後、すぐにRQflex多項目水質検査器(Merck社製)とリフレクトクァント鉄イオン試験紙(Merck社製)を用いて、得られた水溶液に含有されるFe
2+イオンと総Feイオンとを測定した。測定は、リフレクトクァント鉄イオン試験紙に添付のプロトコールに従って行った。また、総Feイオン量からFe
2+イオン量を差し引いた量をFe
3+イオン量として換算した。尚、この測定では常に直射日光の差し込まない室内において作業を行った。
【0045】
この測定の結果、Fe
2+イオン濃度は10.4mg/Lであり、Fe
3+イオン濃度は36.6mg/Lであり、Fe
2+イオンとFe
3+イオンとの合計を100質量%とした場合にFe
2+イオンは22質量%であった。
【0046】
上記と同様に、治療液B、クエン酸鉄、Fe−EDTA及び硫酸鉄を総Feイオン濃度が約50mg/Lになるように調整して各々の水溶液におけるFe
2+イオン濃度と総Feイオン濃度、総Feイオンに占めるFe
2+イオンの割合を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0047】
このように、治療液A水溶液、治療液B水溶液、クエン酸鉄水溶液及び硫酸鉄水溶液は、何れもFe
2+イオンを所定の割合で含有することが確認された。一方、Fe−EDTA水溶液は、Fe
3+イオンを安定に保持していることが確認された。
【0048】
(カンキツグリーニング病の治療効果の検証)
カンキツグリーニング病に感染した柑橘類の樹木に、上記のFe水溶液を施用し、Fe
2+イオンを含有する治療液のカンキツグリーニング病に対する治療効果について検証した。
【0049】
1.ラフレモンにおける効果
検体としてラフレモン(Citrus verrucosa Lush.)の樹木を用いた。まず、ラフレモンの種子を発芽させ、約1Lのポット植、野菜育苗用培土(タキイ種苗株式会社製)で育成した。育成1年後に、接ぎ木によって病原木から病原菌を摂取させて、カンキツグリーニング病を感染させた。病原木は、石垣島から採取され「Ishi−1」と命名された病原菌株を感染させたものである。感染後、更に1年育成した検体を試験に供した。同様にして、カンキツグリーニング病を感染させた検体を10検体(検体A〜検体J)準備した。
【0050】
なお、栽培はグロスキャビネット内で行った。昼間温度32℃、夜間温度28℃の条件で行った。10日おきに栄養分を土壌に施用した。施用した栄養分は、10mM硝酸カルシウム、2.5mMリン酸二水素一カリウム、2.5mM硫酸マグネシウム7水和物、1mM硫酸カリウムを含む水溶液であり、これを1ポットにつき50mL/1回与えた。
【0051】
1−1.Fe−EDTA水溶液の施用
以上のように準備した10検体(検体A〜検体J)を育成し、まず、育成60日目までは、5検体(検体A〜検体E)に対して、総Feイオン濃度15mg/LのFe−EDTA水溶液を施用した。また、他の5検体(検体F〜検体J)に対して、Fe−EDTA水溶液の代わりに蒸留水を施用した。
【0052】
上記のFe−EDTA水溶液、及び、蒸留水の施用は、検体の葉に散布すること、及び、検体の根本に灌水することにより行った。葉への散布、及び根本への灌水は、それぞれ5日に1回行った。葉へ散布したFe−EDTA水溶液、及び蒸留水の量は、1回につき50mLである。また、根本へ灌水したFe−EDTA水溶液、及び蒸留水の量は、1回につき50mLである。
【0053】
Fe−EDTA水溶液処理開始後(育成)60日目に、それぞれの検体の葉を3〜5枚ほど採取してDNAを抽出し、PCR法にて増幅して、カンキツグリーニング病の診断(以下、PCR診断という)を行った。具体的には、以下のように行った。
【0054】
(1)DNAの抽出
採取した各葉(3〜5g)を蒸留水で洗浄して水分を除き、中肋を切り取った後、液体窒素を用いて凍結させた。これを蒸気滅菌・乾熱滅菌した乳鉢・乳棒でホモジナイズして、5mLの1×CTABバッファー(1%CTAB,50mMTris−HCl(pH8.0),0.7M NaCl,10mM EDTA)に溶解し、65℃で撹拌しながら30分間インキュベートした後、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1v/v)を5mL加え、30分間転倒混和し3000rpm×15分遠心分離し、上澄みをスポイドで新しい遠心チューブに移した。以上の除タンパク質処理を3回行った。上澄みの1/10量の10%CTAB溶液(10%CTAB、0.7M NaCl)を加え転倒混和し除タンパク質処理によって失われたCTABを補充した。その上澄みに等量のCTAB沈殿液(1%CTAB、50mM Tris−HCl,pH8.0、0.10mM EDTA)をゆっくり加え、静かに転倒混和した。上澄みにある核酸は低濃度(0.35M以下のNaCl)でCTABと結合し沈殿する。一晩静置、沈殿させ、1800rpm×15分で遠心分離し、デンプンを含む上澄みを捨てた。沈殿に1mLの沈殿溶解液(1M NaCl、50mM Tris−HCl、10mM EDTA)を加え、核酸・CTAB複合体を分離し、核酸を溶かした。この核酸溶液に等量のイソアミルアルコールをゆっくり加えて、核酸を沈殿させた。1800rpm×10分で遠心分離し、CTABを含む上澄みを捨てた。70%エタノールで沈殿及び遠心管側面のCTABを洗浄し、同様に遠心してCTABを除去した。最後に1/10TE溶液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA)で核酸を溶解した。核酸溶液の純度は分光光度計で260nm/230nmでデンプン混入度を、260nm/280nmでタンパク質の混入度を評価し、両値とも1.8以上のものを次の実験に使用した。また、アガロース電気泳動によりλDNA(47.5kb)以上の高分子の核酸溶液を次の実験に使用した。DNA量は蛍光分光光度計で測定した。
【0055】
(2)PCR診断
PCR診断は、「Marjorie A.Hoy,Ayyamperumal Jeyaprakash,and Ru Nguyen(2001),Long PCR is a sensitive Method for Detecting Liberobacter asiaticum in Parasitoids Undergoing Risk Assessment in Quarantine. Biological Control 22,278−287」に記載の方法に従って行った。
具体的には、48mM MgCl
2 1μL、Takara Premix tag2×PCR溶液10μL(Takara,Bio Inc.,Shiga,Japan)、90ng/μLフォワードプライマーMHO035 1μL、90ng/μLリバースプライマーMHO0354 1μL、上記にて抽出したDNA試料2μL(20ng)、及び滅菌水5μLを混合してPCR反応液20μLを調整した。このPCR反応液を、DNA Thermal Cycler PTC−1148(Bio−Rad Laboratories,Inc.)にセットし、以下の条件でDNAを増幅した。
プライマー
フォワードプライマー(MHO0353):
5’-CACCGAAGATATGGACAACA-3’ (配列番号1)
リバースプライマー(MHO0354):
5’-CAGGTTCTTGTGGTTTTTCTG-3’ (配列番号2)
PCR条件
90℃ 3分 1サイクル
{94℃ 1分、68.5℃ 1分、72℃ 3分}35サイクル
72℃ 3分 1サイクル
4℃で泳動まで保存
【0056】
ポジティブコントロール(PC)には、病原菌株Ishi−1が感染した病原木から採取した葉から上記のDNAの抽出方法によって抽出されたDNA試料を用いた。
【0057】
上記PCR法にて増幅した試料17μLについて、0.8%アガロースゲルを用いて電気泳動し、臭化エチジウム染色により増幅されたDNAを検出した。
Fe−EDTA水溶液を施用した検体のPCR診断結果及び蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を
図1及び表2に示す。図中、mは分子量マーカーを流したレーンを示す。
【0058】
図1に示されるように、ポジティブコントロール(PC)には所定の位置(図中、矢印で示す)に陽性バンドが検出された。この陽性バンドが検出された場合は、検体はカンキツグリーニング病に罹病しており、検出されない場合は罹病していないと判断することができる。また、表2には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
電気泳動結果のバンド強度は、ImageJ(画像処理プログラム、NIH)を用いて解析した。まず、PCのバンド部分(図中、白い領域)を選択し、選択された領域の輝度(濃さ)を数値化した。各試料のバンド部分についても、PCのバンドで選択された領域と同じ面積を有する領域内の濃さを数値化した。次にブランクになっている黒い部分の濃さも同様にして数値化し、各バンドの濃さの数値から差し引いた値を各バンドの元の数値とした。表2には、ポジテイブコントロール(PC)の濃さを100%とした場合の各バンドの元の数値の相対値(%)を示している。
【表2】
その結果、いずれの検体もPCと同じ位置にバンドが出現していることから、検体内にHLB菌遺伝子が存在していることがわかった。従って、いずれの検体もHLB病に感染したままである。Fe−EDTA水溶液は、FeがFe
3+イオンとして存在している水溶液であることから、Fe
3+イオンを供給しても、HLB病に感染した検体を治療する効果はないことが明らかとなった。また、後述の
図8に示されるように、Fe−EDTA水溶液は活性酸素の発生量が著しく低い。Fe−EDTA水溶液では活性酸素がほとんど発生しないことから、HLB病の治療効果がないと推察される。
【0059】
1−2.治療液Aの施用
育成61日目以降も、上記の検体をそのまま育成し続けた。そして、61日目からはFe−EDTA水溶液に代えて、5検体(検体A〜検体E)に治療液Aを総Feイオン濃度15mg/Lにて施用した。
【0060】
治療液Aの施用は、Fe−EDTA水溶液の施用と同様、検体の葉に散布すること、及び、検体の根本に灌水することにより行った。葉への散布、及び、根本への灌水は5日に1回行った。葉へ散布した治療液は1回につき50mLである。また、根本へ灌水した治療液Aの量は1回につき50mLである。
【0061】
用いた治療液Aは、上記と同様に治療液A原液を総Feイオン濃度が15mg/Lになるように脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
【0062】
他の5検体(検体F〜検体J)については、61日目以降も継続して上記と同条件で蒸留水を施用した。
【0063】
育成114日目(治療液Aを施用して54日目)の各検体の葉を3〜5枚程度採取し、上記と同様に、それぞれPCR診断を行った。治療液Aを施用した検体及び蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を
図2及び表3に示す。また、表3には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。なお陽性バンドの強度が0%を示した場合、その検体はHLB病に感染していないことを示している。
【表3】
【0064】
蒸留水の施用を続けた検体(検体F〜検体J)では、いずれもPCと同じ位置(図中、矢印で示す)にバンドが出現しており、病状が改善することはなかった。
【0065】
一方、治療液Aを施用した検体(検体A〜E)では、3つの検体(検体A,B,D)で陽性バンドが消失し、病状が改善していた。
【0066】
更に、115日目以降も同条件でそれぞれの検体を育成した。そして、育成252日目(治療液を施用して192日目)に、各検体の上部、中部、下部の葉をそれぞれ5枚程度採取し、PCR診断を行った。治療液を施用した検体及び蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を
図3(a)〜(d)及び表4(a)〜(d)に示す。
【0067】
図3(a)〜(d)中、検体Aの上部の葉、中部の葉、下部の葉のPCR診断結果について、それぞれAa、Ab、Acと記しており、
図3(a)〜(d)中の他の検体B〜検体Jについても同様に記している。また、図中、NCはネガティブコントロールを示し、非感染の樹木の葉から抽出されたDNA試料を用いた。また、表4(a)〜(d)には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【0068】
【表4a】
【表4b】
【表4c】
【表4d】
【0069】
蒸留水の施用を続けた検体(検体F〜検体J)では、検体Fのみ、PCと同じ位置にバンドが出現しなかったが、他の検体G〜検体Jでは、いずれもPCと同じ位置(図中、矢印で示す)に陽性バンドが出現した。
【0070】
一方、治療液を施用した検体(検体A〜検体E)では、全てにおいて陽性バンドは出現しなかった。従って、検体A〜検体Eではカンキツグリーニング病が完治していることがわかる。
【0071】
更に253日目以降も同条件でそれぞれの検体を育成した。そして、育成1年9ヶ月(治療液を施用して1年7ヶ月)後の各検体の葉を3〜5枚程度採取し、上記と同様に、それぞれPCR診断を行った。治療液A又は蒸留水を施用した検体のPCR診断結果を
図4に示す。また、表5には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【表5】
【0072】
蒸留水の施用を続けた検体(検体F〜検体J)では、4検体(検体G〜検体J)でPCと同じ位置(図中、矢印で示す)にバンドが出現しており、病状が改善することはなかった。また、1検体(検体F)において陽性バンドが消失していた。原因は不明であるが、カンキツグリーニング病においては、希に菌が検出されなくなる個体があることが知られており、この個体もその一つであると考えられる。
【0073】
一方、治療液Aを施用した検体(検体A〜E)では、全てにおいてPC(図中、Conと示す)と同じ位置にバンドは検出されず、検体A〜検体Eではカンキツグリーニング病が完治していることが確認された。
【0074】
このように、Fe
2+イオンを含有する治療液Aを、カンキツグリーニング病に罹ったラフレモンの樹木に施用することにより、カンキツグリーニング病を完治させられることが立証された。
【0075】
さらに、上記の治療液Aの施用によるラフレモンの枝の伸長への影響を調べた。67日間に伸長した枝の長さを
図5に示す。カンキツグリーニング病に罹病した樹木に治療液Aを施用しない場合、枝の伸長は25cm程度であるのに対し、治療液Aを施用した場合、枝の伸長は35cm以上であり、罹病していない健康な樹木の枝の伸長と同程度又はそれ以上であることが分かった。
以上の結果から、Fe
2+イオンを含有する治療液Aの施用は、枝の伸長を促進する効果も有することが立証された。
このように、本実施の形態に係る治療液は、柑橘類樹木の成長を損なうことなく、カンキツグリーニング病を治療できるという驚くべき効果を有することが明らかとなった。
【0076】
2.タンカンにおける効果
次に検体としてタンカン(Citrus tankan Hayata)の樹木を用いて評価を行った。まず、沖縄県恩納村の樹園地にて、複数のタンカンの樹木の中からカンキツグリーニング病に罹病している樹木を特定するため、各樹木の古葉を用いて上記のPCR診断を行った。その結果を
図6(a)(b)、及び表6(a)(b)に示す。表6(a)(b)には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【表6a】
【表6b】
【0077】
その結果、
図6(a)に示すように、1,2及び3で示す検体(検体1〜3)において、PCと同じ位置にバンドが検出され、カンキツグリーニング病に罹病していることが分かった。また、検体5についても、
図6(b)に示すように、カンキツグリーニング病の陽性バンドが検出されたため、カンキツグリーニング病に罹病した検体として以下の実験に供した。
【0078】
これら罹病した検体1〜3に対して、総Feイオン濃度30mg/Lの治療液Bを施用した。また、罹病した検体5に対しては、総Feイオン濃度30mg/Lの治療液Aを施用した。各治療液の施用は、治療液B又は治療液Aを検体の葉に散布することにより行った。葉への散布は7日に1回行った。葉へ散布した治療液の量は、検体1本1回につき1.5Lである。このように多量の治療液を葉へ散布することにより、散布された治療液の一部が土壌へと落ちるため、根本への灌水と同様の効果が得られる。
【0079】
用いた治療液Bは、治療液B原液を総Feイオン濃度が30mg/Lになるように脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。治療液Aは、治療液A原液を総Feイオン濃度が30mg/Lになるように脱塩蒸留水で希釈することにより調整した。
【0080】
治療液処理開始後46日目に、それぞれの検体から新葉及び古葉を3〜5枚採取して、上記と同様にDNAを抽出して、PCR診断を行った。その結果を
図7及び表7に示す。表7には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度を示す。
【表7】
【0081】
図7において、Aは古葉、Bは新葉を示す。治療液を施用した検体(検体1〜3,5)の全てにおいてPC(図中、Conと示す)と同じ位置にバンドは検出されず、これら検体1〜3及び5ではカンキツグリーニング病が完治していることがわかった。
従って、Fe
2+イオンを含有する治療液B及び治療液Aは、タンカンにおいてもカンキツグリーニング病の治療に有効であることが立証された。
【0082】
3.シークワーシャーにおける効果
次に検体としてシークワーシャー(Citrus depressa Hayata)の樹木を用いて評価した。上記のラフレモンと同様に接ぎ木によって病原木から病原菌を接種させ、カンキツグリーニング病に感染した検体を準備した。
【0083】
栽培はグロスキャビネット内で行った。昼間温度32℃、夜間温度28℃の条件で行った。10日おきに栄養分を土壌に施用した。施用した栄養分は、10mM硝酸カルシウム、2.5mMリン酸二水素一カリウム、2.5mM硫酸マグネシウム7水和物、1mM硫酸カリウムを含む水溶液であり、これを1ポットにつき50mL/1回与えた。
【0084】
以上のように準備した検体に対して、総Feイオン濃度15mg/LのFe−EDTA水溶液、治療液B、クエン酸鉄水溶液、硫酸鉄水溶液、及び蒸留水をそれぞれ施用した。各Fe水溶液について2〜3検体を用いて評価した。
【0085】
上記のFe水溶液等の施用は、検体の葉に散布すること、及び、検体の根本に灌水することにより行った。葉への散布、及び根本への灌水は、それぞれ5日に1回行った。葉へ散布したFe水溶液等の量は、1回につき50mLである。また、根本へ灌水したFe水溶液等の量は、1回につき50mLである。
【0086】
各Fe水溶液処理開始後309日目に、それぞれの検体の葉を3〜5枚ほど採取してDNAを抽出し、PCR法にて増幅して、カンキツグリーニング病のPCR診断を行った。表8には、PCの陽性バンドの強度を100%としたときの各検体のバンド強度の平均値を示す。
【表8】
【0087】
表8に示すように、Fe−ETDA水溶液を施用した検体では、バンド強度の低下は認められなかった。これに対し、治療液B、クエン酸鉄水溶液、及び硫酸鉄水溶液を施用した検体では、バンド強度が大幅に低下していることから、HLB菌が減少し、病状が改善していることが分かった。
このように、本実施の形態に係る治療液は、シークワーシャーにおいてもカンキツグリーニング病の治療に有効であることが立証された。
【0088】
(活性酸素の発生の検証)
上述したように、本実施の形態に係る治療液はFe
2+イオンを含有する。そのため、治療液を樹木に施用すると、細胞内で発生した過酸化水素と反応して活性酸素を生じると考えられる。そこで、上記の各種Fe水溶液による活性酸素の発生量及びその安定性について評価した。
上述の試験用Fe水溶液の調整においてそれぞれ調整した各種Fe水溶液を蒸留水に添加した際に発生する活性酸素をルミノール反応により測定した。なお、蒸留水中には一定量の割合で過酸化水素が含まれるため、Fe
2+イオンを含有する水溶液を添加することによって活性酸素が発生する。
各Fe水溶液を100μLずつとり、蒸留水50μL及びルミノール液を50μL添加して、ルミネッセンサー(アトー株式会社製)を用いて化学発光量を10秒間の積算にて測定した。各試料について3反復で測定した。溶液中の活性酸素の量が多いほど発光強度は高い値を示す。
【0089】
その結果を
図8に示す。
図8では、上記の各水溶液を100μLずつとり、蒸留水50μLを添加し、0,60,180及び360分経過後にルミノール液を50μL添加して化学発光量を測定した。Fe−EDTA水溶液では、
図8に示されるように、活性酸素はほとんど検出されなかった。一方、治療液A、治療液B、クエン酸鉄水溶液、及び硫酸鉄水溶液をそれぞれ蒸留水に添加した場合には強い発光強度が検出され、活性酸素を発生していることが分かった。これらの結果から、治療液A、治療液B、クエン酸鉄水溶液、及び硫酸鉄水溶液中には、Fe
2+イオンが存在することが確認された。
さらに、活性酸素は蒸留水の添加後3時間以上継続して検出されたことから、これらFe
2+イオンを含有する水溶液は、安定にFe
2+イオンを保持できることが明らかとなった。
【0090】
二価鉄によって生じた活性酸素種を特定するために、上記のFe水溶液100μLに0mM〜20mMのクロロゲン酸を含有する蒸留水50μL及びルミノール液50μLを添加し、上記と同様に発光強度を測定した。
【0091】
その結果、
図9に示されるように、高濃度のクロロゲン酸が添加された試料では、発光強度の値が著しく低下していた。クロロゲン酸はヒドロキシラジカルを捕捉する特性を有することから、Fe水溶液を蒸留水に添加することで発生した活性酸素の主要成分は、ヒドロキシラジカルであることが確認された。
また、所定の濃度のクロロゲン酸存在下でも、Fe−EDTA水溶液以外のFe水溶液では発光強度がある程度維持されていた。従って、これらのFe水溶液は、ヒドロキシラジカルを捕捉、除去するような物質の存在下でも、安定に且つ持続的に活性酸素を供給できることが分かった。
【0092】
次に、硫酸鉄水溶液及び治療液Bについて、総Feイオン濃度と活性酸素の発生量との関係を調べた。その結果、
図10に示されるように、硫酸鉄水溶液及び治療液Bのいずれも、総Feイオン濃度が1.5mg/Lの場合、発光強度が低く、活性酸素をほとんど発生しないことが分かった。1.5mg/Lの総Feイオン濃度は、植物に肥料として通常施用される濃度であり、カンキツグリーニング病には効果がない。一方、総Feイオン濃度が150mg/L以上の場合、発光強度が1×10
7以上であり、活性酸素の発生量が非常に高いことが分かった。このことから、150mg/L以上の総Feイオン濃度では、過剰の活性酸素により植物を痛めてしまうと考えられる。
【0093】
以上の結果から、本実施の形態に係る治療液は、Fe
2+イオンを含有し、且つFe
2+イオンを安定に保持できることが確認された。
【0094】
このように、本実施の形態に係る治療液は、Fe
2+イオンを含有し、カンキツグリーニング病に罹った柑橘類の樹木に施用されることにより、カンキツグリーニング病を完治させることができるという驚くべき効果を有することが明らかとなった。
【0095】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0096】
本出願は、2010年12月14日に出願された日本国特許出願2010−278654号に基づく。本明細書中に、日本国特許出願2010−278654号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。