特許第5936783号(P5936783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5936783
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ニッケル粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/26 20060101AFI20160609BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B22F9/26 C
   B22F1/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-542060(P2015-542060)
(86)(22)【出願日】2015年2月9日
(86)【国際出願番号】JP2015053541
(87)【国際公開番号】WO2015125650
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2015年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-31253(P2014-31253)
(32)【優先日】2014年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-51219(P2014-51219)
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 和道
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 俊豪
(72)【発明者】
【氏名】池田 修
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】米山 智暁
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−074160(JP,A)
【文献】 特開2006−283159(JP,A)
【文献】 米国特許第04545814(US,A)
【文献】 特表平10−509213(JP,A)
【文献】 米国特許第04148632(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0159187(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
B22F 1/00− 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に、種晶とアニオン系の官能基を有するリグニンスルホン酸ナトリウムである分散剤を該分散剤の添加量がニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶の重量に対して5.0wt%以上、50.0wt%以下の割合で添加して形成した混合スラリーに、150℃〜250℃の高温高圧雰囲気下で水素を吹き込んで還元反応を生じさせる加圧水素還元処理を施して、前記混合スラリー中のニッケルアンミン錯体を還元してニッケルの粉末を得ることを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に、種晶とアニオン系の官能基を有するドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである分散剤を該分散剤の添加量がニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶の重量に対して0.05wt%以上、10.0wt%以下の割合で添加して形成した混合スラリーに、150℃〜250℃の高温高圧雰囲気下で水素を吹き込んで還元反応を生じさせる加圧水素還元処理を施して、前記混合スラリー中のニッケルアンミン錯体を還元してニッケルの粉末を得ることを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に、種晶とノニオン系の官能基を有する分散剤を該分散剤の添加量がニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶の重量に対して5.0wt%以上、50.0wt%以下の割合で添加して形成した混合スラリーに、150℃〜250℃の高温高圧雰囲気下で水素を吹き込んで還元反応を生じさせる加圧水素還元処理を施して、前記混合スラリー中のニッケルアンミン錯体を還元してニッケルの粉末を得ることを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
前記種晶が、ニッケル粉であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小なニッケル粉を用いて硫酸ニッケルアンミン錯体を含有する溶液から、ニッケル粉末を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ペーストやニッケル水素電池等の正極活物質の材料として使用が期待されるニッケル粉の製造方法として、例えば特許文献1に示す方法が知られている。この特許文献1に開示される製造方法は、生成したニッケルアンミン錯体を含有する溶液を、高温高圧下で処理することにより下記(1)式に示す反応を起こさせ、水酸化ニッケル粒子を析出させることを特徴とする水酸化ニッケル粉末の製造方法である。
【0003】
【化1】
【0004】
この水酸化ニッケルを還元剤で還元すれば、ニッケル粉末を得ることができる。還元剤としては様々なものが利用できるが、水素ガスを用いるのが、工業的に安価であり、広く利用されている。
【0005】
また非特許文献1にはSherritt Gordon社におけるニッケル粉製造プロセスが記載されている。
この製造方法は、硫酸ニッケル水溶液と錯化剤を混合してニッケルアンミン錯体を含有する溶液とし、その溶液をオートクレーブ等の加圧容器に入れ、150〜250℃程度に昇温し、溶液中に水素ガスを吹き込むもので、水素によりニッケルアンミン錯塩が還元されてニッケル粉が得られるものである。
【0006】
しかしながら、非特許文献1に示される錯化還元法と呼ばれる方法においては、水素ガスを吹き込む際に、核となる種晶が存在しないと微細なニッケル粉を不均一に多数生成することが多く、その結果、所定の粒径サイズの物を得ることが難しくなり、均一な品質が得難くなるという問題を抱えている。
また、加圧容器の内壁や攪拌機などの機器表面にスケーリングのように微細なニッケルが析出するため、設備のメンテナンスの手間が増加したり製品の回収率が低下したりする等の問題も発生しているために好ましくない。
【0007】
このような状態を避けるためには、溶液に種晶を添加して還元剤を吹き込むことにより抑制できることが知られている。この種晶の添加によってニッケルアンミン錯体の溶液に還元剤が吹き込まれてニッケルの析出を開始する際に、種晶を核として成長が進み、上記のような容器や機器の表面に不均一に微細な析出が生じることを抑制できる。
【0008】
種晶には同じ品種の微細な結晶を用いたり、製品の一部を破砕等で加工したりして利用することが多い。一方で、種晶を添加する割合や形状が得られる製品の品質にも影響することが知られている。
しかし上記のように、製品の一部を利用した場合、加工には手間がかかりコストアップの要因となる。さらに加工で得られる形状のばらつきなどに起因して品質が安定しない課題があった。
【0009】
また、例えば鉄粉など均一かつ微細な形状の物が工業的に得られやすいものを種晶として用いることもしばしばある。
しかし、例えばニッケル粉を得るために、非特許文献1のプロセスで使用しているように鉄粉を種晶として用いれば、製品の品質に影響するため、用途が限られてしまい、好ましいことではなかった。
【0010】
このように、製品の品質を安定化し、製造コストを削減するためには、製品と同種の種晶を用いながら、同時に添加量を極力抑えた製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−194156号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】POWDER METALLURGY、1958、No.1/2、P.40−52.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中、本発明はニッケルアンミン錯体を含有する溶液を高温高圧下で、ニッケルの種晶を添加し、水素還元してニッケル粉を得る製造方法における生産性の低下およびコスト増加という課題を解決するために、種晶使用量を削減しつつ、ニッケル粉の品質を維持している製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための、本発明の第1の発明は、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に、種晶とアニオン系の官能基を有する分散剤を添加して形成した混合スラリーに、150℃〜250℃の高温高圧雰囲気下で水素を吹き込んで還元反応を生じさせる加圧水素還元処理を施して、前記混合スラリー中のニッケルアンミン錯体を還元してニッケルの粉末を得ることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0015】
本発明の第2の発明は、第1の発明における分散剤が、アニオン系の官能基を有するリグニンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0016】
本発明の3の発明は、第1の発明のける分散剤が、アニオン系の官能基を有するドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムであることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の発明は、第2の発明における分散剤の添加量が、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶の重量に対して、5.0wt%以上、50.0wt%以下の割合であることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0018】
本発明の第5の発明は、第3の発明における前記分散剤の添加量が、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶の重量に対して、0.05wt%以上、10.0wt%以下の割合であることを特徴とする請求項3に記載のニッケル粉の製造方法である。
【0019】
本発明の第6の発明は、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に、種晶とノニオン系の官能基を有する分散剤を添加して形成した混合スラリーに、150℃〜250℃の高温高圧雰囲気下で水素を吹き込んで還元反応を生じさせる加圧水素還元処理を施して、前記混合スラリー中のニッケルアンミン錯体を還元してニッケルの粉末を得ることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0020】
本発明の第7の発明は、第6の発明における分散剤の添加量が、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶の重量に対して、5.0wt%以上、50.0wt%以下の割合であることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0021】
本発明の第8の発明は、第1から第7の発明における種晶が、ニッケル粉であることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に種晶を添加し、高温高圧下で水素還元してニッケル粉を製造するニッケル粉の製造方法において、分散剤、特にリグニンスルホン酸ナトリウムを錯体を含有する溶液に添加して水素還元することにより、核となる種晶を効率よく利用してニッケル粉を生成することができると共に、その種晶の使用量を削減しつつ、生産性の低下を防ぐと共に、製造に係るコストの増加を抑制し、さらにニッケル粉の品質を向上させることを可能とし、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るニッケルアンミン錯体を含有する溶液からニッケル粉を生成する製造フローを示す図である。
図2】本発明における分散剤添加の有無による種晶比による還元率の変化を示す図である。
図3】本発明の実施例における還元率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の高純度ニッケル粉の製造方法は、オートクレーブなどの高圧容器を用いてニッケルアンミン錯体を含有する溶液に種晶を添加し、高温高圧で水素による還元をする加圧水素還元処理をする際に、アニオン系又はノニオン系の官能基を有する分散剤を、さらに含むことにより、従来20%程度だった還元率が、100%近くに向上することができ、効率よくニッケル粒子を析出させることができることを特徴とする。
【0025】
図1に示す本発明の製造フローを用いて、本発明を説明する。
本発明は、ニッケル含有物を硫酸による浸出工程で生成した浸出液の硫酸ニッケル溶液(NiSO)に、図1に示すようにアンモニア水(NHOH)及び硫酸アンモニウム((NHSO)による錯化処理を施す錯化工程を経て生成したニッケルアンミン錯体を含有する溶液に、ニッケル粉の種晶及び分散剤を添加して混合スラリーを形成し、その混合スラリーに高圧容器中で水素還元処理を行う加圧水素還元工程を加えて還元スラリーを得て、その後濾過・洗浄工程を経てニッケル粉を形成する製造方法である。
【0026】
さらに、錯化処理に使用する硫酸アンモニウム、及びアンモニア(NH3)または、アンモニア水(NHOH)には、濾過・洗浄工程で排出される硫酸アンモニウム:(NHSO及びその硫酸アンモニウムから、アンモニア回収工程を経て回収したアンモニアまたは、アンモニア水が利用可能である。
以下、本発明の特徴とする分散剤及び種晶について説明する。
【0027】
[分散剤]
本発明で使用する分散剤は、アニオン系またはノニオン系の官能基を持つものであればよいが、とりわけ、アニオン系の官能基を持つ分散剤としては、リグニンスルホン酸ナトリウム、又はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることで、ニッケル還元への効果はさらに向上し、80%以上の還元率が得られる。
ここで、分散剤を添加すると、還元率が向上するメカニズムは、添加された種晶が分散するため、種晶一粒あたりに多くのニッケルが析出可能となり、ニッケルの還元率が向上すると考えられる。
【0028】
一般に、分散剤の分子は、疎水部と親水部に分かれていて通常疎水部が粒子の表面に吸着して、親水部の電荷の反発で分散が生じるとされる。このため、分散剤が吸着した粉末同士が反発しあうので分散する効果が得られる。
【0029】
さらに、ノニオン系の官能基を有するPVA(ポリビニルアルコール)やPEG(ポリエチレングリコール)も分散剤として用いることはできるが、上記リグニンスルホン酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムほどの効果が得られず、また使用量も増加する。さらに、プラスイオンを持つカチオン系の分散剤も存在するが、工業的に高価でコストを増加させるなど適さない。
【0030】
さらに、分散剤の添加量は、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液に添加する種晶重量に対して、リグニンスルホン酸ナトリウムでは、5.0wt〜50.0wt%の量、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムでは、0.05〜10.0wt%の量を添加することが好ましい。
この分散剤の添加量は、分散剤の種類にも左右されるが、種晶の粒径又は比表面積に大きく依存、影響されるもので、同じ重量の種晶を添加した場合、粒径が小さいと比表面積が大きくなり、逆に粒径が大きいと比表面積は小さくなって、分散剤の添加量も少なくて済む。種晶の粒径は、製品のニッケル粉末を繰り返して使用する場合は、ばらつきがあり、比表面積も大きい場合、小さい場合がある。
【0031】
このため、種晶の粒子が一番小さい場合でも、粒子全部をコーティングさせる分散剤の添加量は、0.05〜50.0wt%が必要で、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの分散剤では0.05wt%以上、10.0wt%以下、リグニンスルホン酸ナトリウムの分散剤では5.0wt%以上、50.0wt%以下の範囲での添加が望ましく、これらの範囲外では、少ないと還元率向上の効果が減少し、超えて添加しても、それほど効果の上積みは見込めず、添加量を増やすだけ薬剤コストの浪費となる。
さらに、添加が過剰となる場合には、本発明で見出した上記の特異的な効果が発現せず、凝集を生じる問題が発生する。
なお、図2に示すように、分散剤を使用しない場合の還元率は25%程度だが、本発明の分散剤を添加することで95%以上まで向上する。
【0032】
[種晶]
使用する種晶は、微小なニッケル粉を用いることで、形成するニッケル粉の純度を低下させずにすみ、高い純度のニッケル粉を得ることができる。
また、使用する微小なニッケル種晶の粒径は、0.5〜5.0μmの範囲が、形成されたニッケル粉の均一性や上記分散剤を使用した際の形成されるニッケル粉の分散を促進する働きなどを阻害せずに効果を表すものである。その範囲外の大きさでは、均一性や分散を害してしまう恐れがあり望ましくない。
【0033】
本発明により、種晶として系内を循環するニッケルを少なくすることができるため、それだけ製品になるニッケル粉の割合が向上し生産性が向上する。また、繰り返し量が減少するので同じ生産量を得るための設備規模も相応に節約でき、コストも低減できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
図1は、本発明に係るニッケル粉の製造方法の一例を示す製造工程フロー図で、「硫酸ニッケル(NiSO)溶液」をニッケル元液とし、錯化工程を経て作製される「ニッケルアンミン錯体を含有する溶液」を用いた場合の製造工程フロー図である。
下記実施例で用いた還元率は、水素還元後の液中のNi濃度を測定し求めたものである。
【0035】
【数1】
【実施例1】
【0036】
製造装置にバッチ式の容量3Lのオートクレーブを用いた。
純水440mlに試薬硫酸ニッケル六水和物336g、硫酸アンモニウム330gを含む溶液を調製し、これに25%アンモニア水191mlを添加し、合計の液量が1000mlになるように調整して始液とし、この始液を上記オートクレーブの内筒缶に装入した。
【0037】
装入した内筒缶内の始液に市販のニッケル粉を種晶として7.5g、分散剤としてリグニンスルホン酸ナトリウム0.4gを添加して混合スラリーとし、その内筒缶をオートクレーブに装入し密栓した。
この時の種晶添加率は、10wt%(7.5/75×100=10)となる。
【0038】
次に加圧水素還元工程を以下の条件で行った。
電動撹拌機により750rpmで撹拌させながら、熱媒ヒーターを用いてオートクレーブの内部温度が185℃になるまで昇温した。185℃に温度が到達した時点から、水素ガスをボンベから内筒缶内の液相部に2.0リットル/minの流量で吹込み、内部圧力を3.5MPaになるように昇圧、維持して還元反応を生じさせた。
水素ガスを吹き込み開始してから60分間反応させ、60分経過後に水素ガスの供給を停止し、その後撹拌しながら室温まで冷却した。
【0039】
冷却させた内筒缶をオートクレーブから取り出し、内筒缶に入っている還元スラリーを濾過・洗浄工程により、濾紙とヌッチェを用いて濾過による固液分離を行い、ニッケル粉を回収した。その回収したニッケル粉を、水で洗浄し、不純物を洗い流した。
ニッケルの還元率は約99%だった。
還元後の濾液のpHは6.5〜7.5の範囲になった。
【0040】
(比較例1)
分散剤を添加しなかった以外は、実施例1と同じ条件である純水440ml、硫酸ニッケル六水和物336g、硫酸アンモニウム330gを含む溶液に25%アンモニア水191ml添加し、合計の液量が1000mlになるように調整して内筒缶に装入し、この溶液に実施例1で用いたものと同じニッケル粉を種晶として7.5g添加した。
【0041】
次に、上記内筒缶をオートクレーブにセットし、撹拌機により750rpmで撹拌させながら、実施例1と同じく熱媒ヒーターで内部温度が185℃に達するまで昇温した。温度が185℃に到達した時点から、内筒缶内の液相に水素ガスを2.0リットル/minで吹込み、内部圧力が3.5MPaになるように昇圧、維持し、還元反応を進めた。
【0042】
水素を吹き込み開始してから60分間反応させた後、水素ガスの供給を停止して冷却した。
冷却した内筒缶を取り出し、取り出した内筒缶に入っているスラリーを固液分離してニッケル粉を回収した。
回収したニッケル粉は約25gであり、還元率は24%だった。
【実施例2】
【0043】
実施例2として種晶の添加割合を種晶比0.05(すなわち5%)とした場合について実施例1と同じ方法を用いてニッケル粉を生成させ、その還元率を求めた。
【実施例3】
【0044】
種晶の添加割合を種晶比0.07(すなわち7%)とした以外は、実施例1と同じ方法を用いてニッケル粉が生成され、その還元率を求めた。
【0045】
(比較例2)
種晶の添加割合を種晶比0.01(すなわち1%)とした以外は、実施例1と同じ方法を用いてニッケル粉が生成され、その還元率を求めた。
【0046】
(比較例3)
比較例3として種晶を添加せず分散剤のみ添加した以外は、実施例1と同じ方法を用いてニッケル粉が生成され、その還元率を求めた。
【0047】
(比較例4)
分散剤を添加せずに、種晶比0.30(すなわち30%)の種晶のみを添加した以外は、実施例1と同じ方法を用いてニッケル粉が生成され、その還元率を求めた。
【0048】
(比較例5)
分散剤を添加せずに、種晶比0.50(すなわち50%)の種晶のみを添加した以外は、実施例1と同じ方法を用いてニッケル粉が生成され、その還元率を求めた。
【0049】
上記実施例1〜3及び比較例1〜5の結果を纏めて表1に示し、分散剤の添加の有無による種晶比による還元率の変化を図2に示す。
表1及び図2に示すように、種晶を添加せずに分散剤のみ添加した比較例3の場合の還元率は7%だった。これに対し、実施例2として種晶比を0.05とすることで、99%の還元率まで向上した。
すなわち、分散剤は種晶添加時の還元率の向上に顕著な効果があることがわかる。
【0050】
また、種晶比を0.07(実施例3)、0.10(実施例1)とした場合もほぼ同水準の還元率となり、0.05(5%)程度の種晶比とすれば効果が得られることがわかる。
一方、比較例1、4、5として示した、分散剤を使用せずに種晶比だけを増加させた場合も、還元率は向上するが、上記の分散剤を使用した場合に比べると、10倍の0.5程度もの比率となる種晶が必要であり、それだけコストが上昇することがわかる。言い換えると本発明により分散剤を使用しない場合の約10分の1の種晶で済むことになり、製品の繰り返し量や購入量が減少することでそれだけコストが節減でき、種晶由来の不純物が存在する場合でも影響を大きく低減できる効果を有することがわかる。
【0051】
【表1】
【実施例4】
【0052】
硫酸ニッケル六水和物336g、硫酸アンモニウム330gを含む溶液に25%アンモニア水を191ml添加し、合計の液量が1000mlになるように調整して錯化処理を行い、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液を作製した。
【0053】
この溶液に、種晶としてニッケル粉15g(種晶添加率は20wt%)を含む種晶スラリーと、分散剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを種晶重量に対して1.3wt%添加して混合スラリーを作製した。
【0054】
次に、加圧水素還元工程を以下の条件で行った。作製した混合スラリーを、高圧容器のオートクレーブ内に装入し、撹拌しながら185℃に昇温後、還元剤の水素ガスを吹き込み、オートクレーブ内の圧力が3.5MPaになるように水素ガスを供給して還元処理を行った。
【0055】
水素ガスの供給後、1時間が経過した後に、その水素ガスの供給を停止して、オートクレーブを冷却した。冷却後得られた還元スラリーを濾過してニッケル粉を回収した。
このときのニッケル還元率は、図3に示す通り95%以上が得られた。
【実施例5】
【0056】
分散剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を、種晶重量に対して6.7wt%とした以外は、実施例4と同条件でニッケル粉を作製して回収した。
回収した実施例2に係るニッケル粉のニッケル還元率は、図3に示すように95%以上が得られた。
【0057】
(比較例6)
硫酸ニッケル六水和物336g、硫酸アンモニウム330gを含む溶液に25%アンモニア水を191ml添加し、合計の液量が1000mlになるように調整して錯化処理を行い、ニッケルアンミン錯体を含有する溶液を作製した。この溶液にニッケル粉の種晶15gを含む種晶スラリーを添加して混合スラリーとした。
【0058】
この混合スラリーをオートクレーブ内に装入し、撹拌しながら185℃に昇温後、その混合スラリーに水素ガスを吹き込み、オートクレーブ内の圧力が3.5MPaになるように水素ガスを供給した。
【0059】
水素ガスの供給後、1時間が経過した後に水素ガスの供給を停止した。その後、オートクレーブを冷却して得られた還元スラリーを濾過してニッケル粉を回収した。
この回収した比較例1に係るニッケル粉のニッケル還元率は、図3に示す通り概ね25%程度だった。
図1
図2
図3