特許第5941385号(P5941385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941385
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】セメント混和材およびセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/14 20060101AFI20160616BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20160616BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20160616BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C04B18/14 A
   C04B22/06 Z
   C04B22/14 A
   C04B22/14 B
   C04B28/02
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-210882(P2012-210882)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-65626(P2014-65626A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年2月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 コンクリート工学年次論文集第34巻第1号(平成24年6月15日発行)公益社団法人日本コンクリート工学会発行 第1408頁〜第1413頁に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】小出 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】岸 利治
(72)【発明者】
【氏名】安 台浩
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−124205(JP,A)
【文献】 特開2008−247620(JP,A)
【文献】 特開平04−238847(JP,A)
【文献】 特開2010−235381(JP,A)
【文献】 特開昭52−072723(JP,A)
【文献】 亀島範昭ほか,高炉スラグの各種物性値と高炉セメントの強度との関係について,セメント技術年報,日本,1982年,36,第85頁〜第88頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
C04B 103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を0.5質量%以上含む高炉スラグ粒子と、
水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む刺激材とを含むセメント混和材であって、
前記刺激材は、前記高炉スラグ粒子の表面に付着されており、
前記セメント混和材は、水酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とを含むセメント混和材。
【請求項2】
鉄を0.5質量%以上含む高炉スラグ粒子と、
水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む刺激材とを含むセメント混和材であって、
前記刺激材は、セメントを含み、
前記セメント混和材は、水酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とを含むセメント混和材。
【請求項3】
前記高炉スラグ粒子は前記鉄を4.0質量%以下含む請求項1又は2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
前記刺激材は、AlおよびSOを、Alに対するモル比が0.01以上27.3以下となるように含む請求項1乃至のいずれか一項に記載のセメント混和材。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のセメント混和材を含むセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材、および前記セメント混和材を含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートなどのセメント硬化体は、セメント組成物に含まれるセメントの水和反応によって硬化するものであるが、硬化後に、応力が作用したり、温度や湿度の変化が生じたりすることで、硬化体にひび割れが発生する場合がある。
ひび割れが生じたセメント硬化体は強度低下、外観の悪化の他に、漏水などの原因となるという問題がある。
【0003】
そこで、近年、硬化後にひび割れが生じた場合にも水分が存在する状態であればひび割れを自然に閉塞する性質、いわゆる自己治癒性を有するセメント硬化体が検討されている。このような自己治癒性を有するセメント硬化体を得るためには、種々のセメント混和材をセメント組成物に配合することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1乃至3には、セメント中の水酸化カルシウム等と反応して不溶性の結晶を生成する作用がある膨張材が配合されたセメント組成物が記載されている。
特許文献4には、前記膨張材に加えて、さらに、膨潤性を有するアルミノシリケートが配合されたセメント組成物が記載されている。
特許文献5には、膨張材成分、潜在水硬性材料、酸化カルシウム等の成分と、セメントと、水とを混練して造粒されたセメント混和材が記載されている。
特許文献6および7には、水溶性ケイ弗化物等の防水剤・止水剤・劣化抑制剤と、セメントとを混合して、多孔質体より成る担体に担荷されたセメント硬化体用骨材が記載されている。
【0005】
すなわち特許文献1乃至7には、セメント硬化体にひび割れが発生した場合に、水の存在下、セメント組成物中の成分と反応して結晶等を生成する成分、または、膨張する成分等を含むセメント混和材をセメント組成物中に配合することで、ひび割れを閉塞して自己治癒することができるひび割れ自己治癒性をセメント組成物に付与することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3658568号公報
【特許文献2】特開2005−239482号公報
【特許文献3】特開2007−332010号公報
【特許文献4】特開2009−190937号公報
【特許文献5】特開2011−57520号公報
【特許文献6】特開2003−95715号公報
【特許文献7】特許4285675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1乃至4に記載の前記膨張材やアルミノシリケートは、吸水性、膨潤性、水との反応活性が高い材料であるため、そのままセメント組成物に混合した場合には、フレッシュコンクリートやフレッシュモルタルの流動性を低下させるおそれがある。
かかる流動性の低下を抑制するためには、減水剤や高性能減水剤などの添加量を増量する必要があるが、減水剤や高性能減水剤等の添加量を増量した場合、凝結遅延や、それによる強度低下が生じるおそれがある。また、減水剤や高性能減水剤等を増加するためのコストがかかるという問題がある。
【0008】
特許文献5に記載のセメント混和剤のように、ひび割れ自己治癒性を有する成分をセメントとともに混練して造粒されたセメント混和材を用いることで、流動性の低下はある程度抑制できる。しかし、造粒物の場合、中心部にも前記成分が存在しているため、該中心部の成分はひび割れ発生時に水と反応せずに未反応のまま造粒物内部に残存するおそれがある。特許文献6および7に記載の骨材においても、担体が多孔質体であるため、孔の内部に存在する前記成分は、やはり水と未反応の状態で残存するおそれがある。従って、特許文献5乃至7に記載の混和材等は、十分なひび割れ自己治癒性を得るためには未反応残存量を見越して多めにセメント組成物に配合する必要がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、流動性を低下するおそれがなく、少量でも高いひび割れ自己治癒性を発揮しうるセメント混和材およびセメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセメント混和材は、鉄を0.5質量%以上含む高炉スラグ粒子と、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む刺激材とを含むセメント混和材であって、上記刺激材は、上記高炉スラグ粒子の表面に付着されており、上記セメント混和材は、水酸化カルシウムを含む上記刺激材が表面に付着された上記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む上記刺激材が表面に付着された上記高炉スラグ粒子とを含む
また、本発明のセメント混和材は、鉄を0.5質量%以上含む高炉スラグ粒子と、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む刺激材とを含むセメント混和材であって、上記刺激材は、セメントを含み、上記セメント混和材は、水酸化カルシウムを含む上記刺激材が表面に付着された上記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む上記刺激材が表面に付着された上記高炉スラグ粒子とを含む。
【0011】
本発明のセメント混和は、鉄を0.5質量%以上含む高炉スラグ粒子と、前記刺激材を含むことにより、優れたひび割れ治癒効果を発揮する。
すなわち、高炉スラグ粒子は、セメントの水和反応によって生成する水酸化カルシウム等の強アルカリ性物質あるいは石膏等の硫酸塩の刺激で水和反応を開始する潜在水硬性を有しており、前記刺激材の刺激によってかかる水硬性を発揮するが、高炉スラグ粒子に前記範囲の量の鉄が含まれていることで、セメント組成物中の各成分および水、酸素と前記鉄とが反応し、種々の酸化鉄あるいは水酸化鉄等の膨張性の析出物が生成する。つまり、前記量の鉄を含む高炉スラグ粒子は、セメント硬化体にひび割れが生じた場合に、ひび割れ部分に析出物を形成しながら高炉スラグ粒子自体も硬化してひび割れ箇所を閉塞できるため、ひび割れ自己治癒性が高く、従って、少量の使用でも十分にひび割れ自己治癒性が得られる。
また、前記高炉スラグ粒子と、前記刺激材とを含むことにより、セメント組成物に配合した場合に、添加剤を添加することなしに、流動性の低下を抑制できる。
さらにまた、水酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とを含むことにより、より高いひび割れ自己治癒効果を発揮しうる。
前記刺激材が、前記高炉スラグ粒子の表面に付着されていることにより、セメント硬化体にひび割れが発生した場合に、ひび割れの断面に露出する高炉スラグ粒子の表面に刺激材が存在することになり、刺激材がひび割れ断面において反応しやすくなり、ひび割れを閉塞しやすくなる。よって、高いひび割れ自己治癒効果を発揮しうる。
前記刺激材がセメントを含む場合には、前記高炉スラグの表面に前記刺激材が付着されやすくなり、より、刺激材が反応しやすくなる。
【0012】
尚、本発明において、前記高炉スラグ粒子中の鉄の量は、以下の測定方法によって測定される鉄の量をいう。
絶乾状態の高炉スラグ粒子20kgを、横型ブラウン粉砕機(ディスクミル)等の粉砕装置を用いて粗粉砕し、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいであって、公称目開き2.36mmのふるいを全通させた後、磁束密度2.7テスラの対極式磁力選別機を用いて10分間(処理能力:毎時120kg)磁力選別処理を行い、鉄を主成分とする回収物を得る。該回収物の質量を測定後、該回収物の全量をタングステンカーバイド製のディスク型振動ミルを用いて微粉砕し、波長分散型蛍光X線分析装置(WDXRF)を用いて、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して粉末ブリケット法で該回収物の鉄(FeO=2価の酸化鉄換算)の含有量を測定する。該回収物の質量および該回収物中の鉄(FeO換算)の含有量から高炉スラグ粒子中の鉄(FeO換算)の質量%を算出する。
【0013】
本発明において、前記高炉スラグ粒子が前記鉄を4.0質量%以下含んでいてもよい。
【0014】
前記高炉スラグ粒子が前記鉄を4.0質量%以下含む場合には、少量の使用でも十分にひび割れ自己治癒性が得られ、セメント組成物に配合した場合の流動性の低下が抑制できると同時に、セメント硬化体に錆びが必要以上に発生して、外観を損なうことが抑制できる。
【0021】
本発明において、前記刺激材は、Al23およびSO3を、Al23に対するSO3のモル比が0.01以上27.3以下となるように含んでいてもよい。
【0022】
SO3およびAl23を前記モル比の範囲で含むことにより、より高いひび割れ自己治癒性能を発揮しうる。
【0023】
また、本発明のセメント組成物は、前記セメント混和材を含んでいる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、流動性を低下するおそれがなく、少量でも高いひび割れ自己治癒性を発揮しうるセメント混和材およびセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のセメント混和材およびセメント組成物の実施形態について、具体的に説明する。
【0026】
『セメント混和材』
まず、本実施形態のセメント混和材について説明する。
本実施形態のセメント混和材は、鉄を0.5質量%以上含む高炉スラグ粒子と、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む刺激材とを含むセメント混和材である。
【0027】
(高炉スラグ粒子)
前記高炉スラグ粒子としては、製鉄用高炉から発生する高炉スラグであれば、どのようなものであってもよく、例えば、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等が挙げられる。
高炉スラグは、日本における年間発生量が約2000万tと莫大であり、環境負荷軽減のために有効な利用方法が近年求められている。従来から、高炉徐冷スラグは、セメント原料や路盤材などに使用され、高炉水砕スラグは、セメントの混合材料等として使用されているが、副産物として発生する高炉スラグの多くは有効利用されていない。
かかる高炉スラグを原料とすることで、本実施形態のセメント混和材は、原料コストが安価になる。
【0028】
《高炉水砕スラグ》
前記高炉水砕スラグは、鉄鉱石から銑鉄を精錬採取する際に、高炉から1500℃を超える高温溶融状態で出滓したスラグに高圧水を噴射して急冷固化した後、所定の粒度に調整したものである。
高炉水砕スラグは、非晶質(ガラス質)のカルシウムシリケート等を多量に含んでおり、水酸化カルシウム、ポルトランドセメント等の高アルカリ性物質や、硫酸カルシウム等の硫酸塩による刺激で水和反応を生じる潜在水硬性を有している。
高炉水砕スラグの水和反応では、カルシウムシリケート系水和物やカルシウムアルミネート系水和物が析出しやすいため、本実施形態の高炉スラグ粒子として好ましい。
【0029】
前記高炉水砕スラグとしては、例えば、JIS A 5011−1「コンクリート用スラグ骨材 第1部:高炉スラグ骨材」に適合する高炉スラグ細骨材(粒径の範囲=5mm以下)、又は、前記高炉スラグ細骨材を粉砕、分級したものなどが挙げられる。前記高炉スラグ細骨材の中でも、比較的粒径の小さい2.5mm高炉スラグ細骨材(BFS2.5)、1.2mm高炉スラグ細骨材(BFS1.2)、0.3〜5mm高炉スラグ細骨材(BFS5−0.3)は、粉砕工程を省略して分級のみで最大粒径5mm以下の高炉スラグ粒子として得ることができるため好ましい。
【0030】
《高炉徐冷スラグ砂》
前記高炉徐冷スラグ砂は、高炉から1500℃を超える高温溶融状態で出滓したスラグを空冷および適度の散水によって徐冷して固化した後、所定の粒度に調整したものである。
前記高炉徐冷スラグは、徐冷によって潜在水硬性の低いゲーレナイト(2CaO・Al23・SiO2)等の結晶性鉱物を多く含有するため、前記高炉水砕スラグと比較すると潜在水硬性は低い。従って、モルタルおよびコンクリートの硬化体において、ゆっくり潜在水硬性を発揮させて、長期間にわたってひび割れ自己治癒性能を付与させる場合には、前記高炉徐冷スラグを高炉スラグ粒子として使用することが好ましい。
【0031】
前記高炉徐冷スラグとしては、例えば、JIS A 5015「道路用鉄鋼スラグ」に適合する水硬性粒度調整鉄鋼スラグ(HMS25:粒径の範囲=25〜0mm)、粒度調整鉄鋼スラグ(MS−25:粒径の範囲=25〜0mm)、クラッシャラン鉄鋼スラグ(CS−40:粒径の範囲=40〜0mm、CS−30:粒径の範囲=30〜0mm、CS−20:粒径の範囲=20〜0mm)を粉砕および分級したものなどが挙げられる。
中でも、比較的粒径の小さい水硬性粒度調整鉄鋼スラグのHMS−25、粒度調整鉄鋼スラグのMS−25、クラッシャラン鉄鋼スラグのCS−20は、分級により粒径5mm以下のものが得られやすいため、特に好ましい。
【0032】
前記高炉スラグ粒子としては、高炉水砕スラグおよび高炉徐冷スラグを単独であるいは複数種類を混合して用いてもよい。
【0033】
本実施形態で使用される前記高炉スラグ粒子は、鉄を0.5質量%以上、好ましくは、0.5質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは、0.5質量%以上2.5質量%以下含むものである。
高炉スラグ粒子が前記範囲の量の鉄を含むことで、セメント組成物中の各成分および水、酸素と前記鉄とが反応し、種々の酸化鉄あるいは水酸化鉄等の膨張性の析出物を生成する。よって、前記量の鉄を含む高炉スラグ粒子は、セメント硬化体にひび割れが生じた場合に、ひび割れ部分に析出物を形成し、ひび割れの治癒効果を発揮する。また、高炉スラグ粒子が前記範囲の量の鉄を含むことで、セメント硬化体のひび割れ治癒性も高まると同時に、セメント硬化体の表面に必要以上の錆びが発生して外観を損なうことがなく、さらに、鉄が酸化する際の膨張によってセメント硬化体が膨張破壊することも抑制できる。
【0034】
前記鉄は、金属鉄、又は、マグヘマイト(γ−Fe23)、マグネタイト(Fe34)等の酸化鉄等の形で前記高炉スラグ粒子中に含まれていることが好ましい。
前記酸化鉄は、磁力選別によって回収可能な鉄化合物として含まれていることがひび割れを自己治癒させやすい観点から好ましい。
前記磁力選別によって回収可能な金属鉄、又は、鉄酸化物(例えば、マグヘマイト(γ−Fe23)、マグネタイト(Fe34))は、水および酸素等と共存することで酸化および水和反応を生じて膨張性の錆であるヘマタイト(α−Fe23)やゲータイト(ゲーサイト;α−FeOOH)を生じ、ひび割れ箇所を閉塞できるため、本実施形態で使用される前記高炉スラグ粒子として好ましい。
【0035】
前記鉄の含有量は、例えば、磁力選別によって、高炉スラグ粒子から磁力選別によって分離回収される鉄化合物を基に算出される質量%をいう。
具体的には、絶乾状態の高炉スラグ粒子20kgを、横型ブラウン粉砕機(ディスクミル)等の粉砕装置を用いて粗粉砕し、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいであって、公称目開き2.36mmのふるいを全通させた後、磁力選別機(例えば、日本磁力選鉱社製NJ−G−600×2、対極型、磁束密度2.7テスラ)を用いて10分間(処理能力:毎時120kg)磁力選別処理を行い、鉄を主成分とする回収物を得る。該回収物の質量を測定後、該回収物の全量をタングステンカーバイド製のディスク型振動ミルを用いて微粉砕し、波長分散型蛍光X線分析装置(WDXRF)を用いて、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して粉末ブリケット法で該回収物の鉄(FeO=2価の酸化鉄換算)の含有量を測定する。該回収物の質量および該回収物中の鉄(FeO換算)の含有量から高炉スラグ粒子中の鉄(FeO換算)の質量%を算出する。
前記磁力選別機としては、特に限定されるものではないが、一般的な永久磁石や電磁石を用いた対極型磁力選別機のほかに、ドラム型磁力選別機、プーリー型磁力選別機、吊下型磁力選別機等を用いることができる。
【0036】
前記範囲の鉄を含有する前記高炉スラグ粒子は、例えば、前記磁力選別装置等によって、鉄を前記範囲量含む高炉スラグ粒子を選別することや、あるいは、高炉スラグ粒子の鉄の含有量を調整すること等によって得られる。
高炉スラグ粒子の鉄の含有量を調整する方法としては、例えば、鉄の含有量が前記範囲未満である高炉スラグ粒子の場合は、磁力選別等の手段で別の高炉スラグ粒子から回収しておいた鉄を加えて調整する方法が挙げられる。
あるいは、鉄の含有量が前記範囲を超えている高炉スラグ粒子の場合は、前記磁力選別等の鉄回収手段によって鉄の含有量を減らした後、所要量の鉄を戻して鉄の含有量が前記範囲になるように調整する方法等が挙げられる。
【0037】
前記高炉スラグ粒子は、粒子径が5mm以下、好ましくは2.5mm以下0.075mm以上であることが好ましい。
前記高炉スラグ粒子の粒子径が前記範囲であるため、前記鉄による酸化鉄、水酸化鉄等の膨張性物質の析出が効率よく起きる。また、前記刺激材と混合した際に、前記高炉スラグ粒子と接触する前記刺激材の量が多くなり、流動性の低下を抑制でき、且つ、セメント混和材に比較的少量の刺激材を配合した場合でも、効率よく、ひび割れ自己治癒効果が発揮される。
また、後述するように高炉スラグ粒子の表面に層をなすように刺激材を付着させる場合には、前記粒子径の範囲であることで、表面に刺激材を、より付着させやすい。
【0038】
尚、前記高炉スラグ粒子の粒子径が5mm以下であるとは、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいであって、公称目開き4.75mmのふるいを通過した粒子が、90質量%以上含まれていることを意味する。
前記高炉スラグ粒子の粒子径が2.5mm以下0.075mm以上であるとは、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいであって、公称目開き2.36mmのふるいを通過し、且つ75μmのふるいを通過しない粒子が、90質量%以上含まれていることを意味する。
【0039】
(刺激材)
前記刺激材は、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものである。
水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸リチウムは、いずれも、前記高炉スラグ粒子の潜在水硬性を促進する、高炉スラグ刺激成分である。すなわち、前記高炉スラグ粒子は、前記刺激材の刺激成分の作用によって、より高いひび割れ自己治癒作用を発揮しうる。
【0040】
前記刺激成分としては、水酸化カルシウム、硫酸カルシウムが好ましく、特に、水酸化カルシウムと硫酸カルシウムとを併用することが好ましい。
水酸化カルシウムおよび硫酸カルシウムは、前述のような高炉スラグの潜在水硬性を誘発する刺激成分として作用すると同時に、刺激材中に共存することで、以下のようなひび割れ治癒性を発揮しうる。
【0041】
水酸化カルシウムは、水の存在下でセメント中に含まれるカルシウムアルミネート(3CaO・Al23=C3A、CaO・Al23=CA、12CaO・7Al23=C127など)と水和反応する。水酸化カルシウムとカルシウムアルミネートとが水和反応すると、まず、CAH10(CaO・Al23・10H2O)、C2AH8(2CaO・Al23・8H2O)などを生成し、さらに、結晶転化してハイドロガーネット(3CaO・Al23・6H2O=C3AH6)あるいはハイドロカルマイト(3CaO・Al23・Ca(OH)2・12H2O=C4AH13)などのカルシウムアルミネート水和物を生成する。前記カルシウムアルミネート水和物は、単独では膨張性を示さないが、硫酸カルシウム(硫酸イオン)および水が供給されると、エトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・32H2O)、またはモノサルフェート(3CaO・Al23・CaSO4・12H2O)を生成する。前記エトリンガイトおよびモノサルフェートは膨張性の生成物であるため、硬化後のモルタルおよびコンクリートのひび割れ部分において生成すると、ひび割れを閉塞させることができる。すなわち、水酸化カルシウムおよび硫酸カルシウムが併存することで、前記高炉スラグ粒子の潜在水硬性を促進すると同時に、自らも、膨張性の生成物である前記エトリンガイトおよびモノサルフェートを生成することで、ひび割れを閉塞することができる。よって、より高いひび割れ治癒性を発揮しうる。
【0042】
本実施形態の刺激材に刺激成分として含まれる水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸リチウムは、それぞれ粒子径が0.1mm以下の粒子状であることが好ましい。
前記各刺激成分の粒子径が前記範囲である場合、水に溶解しやすく、刺激材として作用しやすくなるため好ましい。
【0043】
尚、前記各刺激成分の粒子径が0.1mm以下であるとは、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいであって、公称目開き100μmのふるいを通過した粒子が、90質量%以上含まれていることを意味する。
【0044】
《水酸化カルシウム》
水酸化カルシウムとしては、例えば、JIS R 9001「工業用消石灰」に適合する特号消石灰、1号消石灰、2号消石灰等の市販品等を用いることができる。
中でも、CaO含有量が70質量%以上で、最大粒径0.1mm(100μm)以下に調整された安価な工業用消石灰である、特号消石灰、1号消石灰等を使用することが好ましい。
前記各水酸化カルシウムは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0045】
前記刺激材に含まれる水酸化カルシウムの含有量は、刺激材100質量部のうち10乃至90質量部(Ca(OH)2としての質量部)であることが好ましい。
水酸化カルシウムの含有量が前記範囲であれば、高炉スラグ粒子の潜在水硬性を十分に刺激し、さらにセメント中のカルシウムアルミネートと反応する際に十分な量のハイドロカルマイト等のカルシウムアルミネート水和物を生成できるため好ましい。
【0046】
《酸化カルシウム》
酸化カルシウムとしては、生石灰(遊離酸化カルシウム)を主成分とする製鋼ペレット製造用生石灰、製鋼転炉用生石灰、硬焼生石灰(死焼生石灰)、超硬焼生石灰、土質改良用生石灰、農業又は園芸用生石灰等の市販品の生石灰(CaO)、または、貝殻を焼成して製造した貝灰、製鋼スラグ、カルシアクリンカ、JIS A 6202「コンクリート用膨張材」の規格を満足するエトリンガイト系膨張材、生石灰系膨張材、エトリンガイト−生石灰複合系膨張材等を用いることができる。
中でも、通常の生石灰より水和反応速度が遅いため超硬焼生石灰を使用することが好ましい。前記超硬焼生石灰は、CaO含有量が80質量%以上で、最大粒径0.1mm(100μm)以下に調整されたものを使用することが好ましい。
前記酸化カルシウムは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0047】
前記製鋼スラグとしては、製鋼時に伴って副生する転炉スラグ(脱リンスラグ)、電気炉スラグ等の生石灰(遊離酸化カルシウム)を含有する製鋼スラグであって、遊離酸化カルシウムを含むもの等が挙げられる。
前記製鋼スラグは、ボールミルなどの粉砕装置を用いて最大粒径0.1mm(100μm)以下に粉砕して使用することが好ましい。また、前記製鋼スラグは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0048】
前記製鋼スラグとしては、例えば、JIS A 5015「道路用鉄鋼スラグ」に適合する単粒度製鋼スラグ(SS−20:粒径の範囲=20〜13mm、SS−13:粒径の範囲=13〜5mm、SS−5:粒径の範囲=5〜2.5mm)、クラッシャラン製鋼スラグ(CSS−30:粒径の範囲=30〜0mm、CSS−20:粒径の範囲=20〜0mm)、転炉スラグを粉砕および分級したものなどが挙げられる。
転炉スラグは、粒径が小さいほど遊離酸化カルシウムの含有量が高い傾向にあるため、遊離酸化カルシウムを3質量%以上含有する転炉スラグを最大粒径0.1mm(100μm)以下に粉砕して使用することが好ましい。
また、前記単粒度製鋼スラグの中でも粒径が小さいSS−5は、粉砕しやすいため、特に好ましい。
【0049】
前記製鋼スラグに含まれる生石灰(遊離酸化カルシウム)は、フリーライム(f−CaO)ともいい、水と反応して高アルカリ性を示す水酸化カルシウムに変化するため、前記製鋼スラグは前記高炉スラグの潜在水硬性を刺激する刺激成分となりうる。また、遊離酸化カルシウムは、水酸化カルシウムに変化する際に体積膨張を伴うため、かかる遊離酸化カルシウムを含む製鋼スラグを刺激材として含むセメント混和材は、より高いひび割れ自己治癒性能を発揮しうる。
前記製鋼スラグは、遊離酸化カルシウムの他に、ジカルシウムフェライト(2CaO・Fe23)、マグヘマイト(γ−Fe23)、マグネタイト(Fe34)等の酸化鉄、金属鉄等も含有する。従って、水および酸素等と反応して膨張性の水酸化鉄、鉄を含有する水和物などが析出するため、より高いひび割れ自己治癒性能を発揮しうる。
【0050】
前記膨張材としては、一般的にコンクリート用の膨張材として市販されているエトリンガイト系(カルシウムサルフォアルミネート系)膨張材、生石灰系膨張材、エトリンガイト−生石灰複合系膨張材、膨張材の有効成分であるアウイン=カルシウムサルフォアルミネート(3CaO・3Al23・CaSO4)、遊離石灰(CaO)、遊離石膏(CaSO4)、非焼成の膨張材成分含有材料(石膏、アウイン、酸化カルシウムの粉末をそれぞれ任意の組合せおよび混合比率で混合したもので、混合後に焼成処理を施さないもの)、鉄粉系膨張材等が挙げられる。これらの膨張材は、最大粒径0.1mm(100μm)以下に調整したものが好ましい。
中でも、JIS A 6202「コンクリート用膨張材」の規格を満足するエトリンガイト系膨張材、生石灰系膨張材、エトリンガイト−生石灰複合系膨張材の市販品を使用することが、品質が安定しており安価であるため好ましい。前記各膨張材は、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0051】
前記刺激材に含まれる酸化カルシウムの含有量は、刺激材100質量部のうち10乃至90質量部(CaOとしての質量部)であることが好ましい。
酸化カルシウムの含有量が前記範囲であれば、高炉スラグ粒子の潜在水硬性を十分に刺激し、さらにセメント中のカルシウムアルミネートと反応する際に十分な量のカルシウムアルミネート水和物を生成させるうるため好ましい。
【0052】
《硫酸カルシウム》
硫酸カルシウムとしては、無水石膏、二水石膏、半水石膏などの一般的な工業用石膏等が挙げられる。前記工業用石膏は、天然品、副生品(排煙脱硫時の副生石膏、ふっ酸製造時の副生石膏、りん酸製造時の副生石膏、酸化チタン製造時の副生石膏等)のいずれであってもよい。
中でも、無水石膏が、SO3含有量が55質量%以上であって、水分を含有せず、微粉砕処理が容易なため好ましい。
前記無水石膏は、最大粒径0.1mm(100μm)以下に調整されたものを使用することが好ましい。さらに、前記無水石膏の中でも、ブレーン比表面積が5000m2/g以上になるまで微粉砕したものを使用することが特に好ましい。
前記硫酸カルシウムは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0053】
前記刺激材に含まれる硫酸カルシウムの含有量は、刺激材100質量部のうち10乃至90質量部(CaSO4としての質量部)であることが好ましい。
硫酸カルシウムの含有量が前記範囲であれば、高炉スラグ粒子の潜在水硬性を十分に狙撃し、さらにカルシウムアルミネートと反応してひび割れを自己治癒させるのに十分な量のエトリンガイト等の水和物を生成させうるため好ましい。
【0054】
《硫酸アルミニウム》
硫酸アルミニウムとしては、一般的な粉末状またはフレーク状の工業用硫酸バンド(硫酸アルミニウム=Al2(SO43)、水に溶解させた液体硫酸バンド等が挙げられる。
これらの硫酸アルミニウムは、結晶水を有する硫酸アルミニウム、無水硫酸アルミニウムのいずれであってもよい。
中でも、結晶水を含まない粉末状の無水硫酸アルミニウムは、粉砕しやすいため好ましく、最大粒径が0.1mm(100μm)以下に調整したものが特に好ましい。
前記各硫酸アルミニウムは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0055】
前記刺激材に含まれる硫酸アルミニウムの含有量は、固形分(無水硫酸アルミニウム)としてスラグ刺激材100質量部のうち10乃至90質量部であることが好ましい。
硫酸アルミニウムの含有量が前記範囲であれば、高炉スラグ粒子の潜在水硬性を十分に刺激し、さらにカルシウムアルミネートと反応してひび割れを自己治癒させるのに十分な量のエトリンガイト等の水和物を生成させうるため好ましい。
【0056】
《硫酸リチウム》
硫酸リチウムとしては、一般的な粉末状またはフレーク状の工業用硫酸リチウム(Li2SO4)、水に溶解させた硫酸リチウム水溶液等が挙げられる。
これらの硫酸リチウムは、結晶水を有する硫酸リチウム、無水硫酸リチウムのいずれであってもよい。
中でも、吸湿性の低い粉末状の硫酸リチウム一水和物は、粉砕しやすいため好ましく、最大粒径が0.1mm(100μm)以下に調整したものが特に好ましい。
前記各硫酸リチウムは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
【0057】
前記刺激材に含まれる硫酸リチウムの含有量は、固形分(無水硫酸リチウム)としてスラグ刺激材100質量部のうち10乃至90質量部であることが好ましい。
硫酸リチウムの含有量が前記範囲であれば、高炉スラグ粒子の潜在水硬性を十分に刺激し、さらにカルシウムアルミネートと反応してひび割れを自己治癒させるのに十分な量のエトリンガイト等の水和物を生成させうるため好ましい。
【0058】
《セメント》
本実施形態の前記刺激材は、セメントを含んでいてもよい。
前記刺激材がセメントを含む場合には、前記高炉スラグ粒子と、前記刺激材とを混合する際に、前記高炉スラグ粒子の表面に、刺激材を付着させやすい。
【0059】
前記セメントとしては、特に限定されるものではないが、ポルトランドセメント、ポルトランドセメントをベースとした混合セメント、超速硬系セメント、その他の公知のセメント等が挙げられる。
前記ポルトランドセメントとしては、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定された普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、超早強、耐硫酸塩などの各種ポルトランドセメントが挙げられる。
ポルトランドセメントをベースとした混合セメントとしては、JIS R 5211「高炉セメント」に規定された高炉セメントのA種、B種、C種、JIS R 5212「シリカセメント」に規定されたシリカセメントのA種、B種、C種、JIS R 5213「フライアッシュセメント」に規定されたフライアッシュセメントのA種、B種、C種等が挙げられる。
超速硬系セメントとしては、旧JIS R 2511「耐火物用アルミナセメント」の規格を満たすアルミナセメント、あるいは11CaO・7Al23・CaX2(XはF等のハロゲン元素)系の超速硬セメント、アウイン=カルシウムサルフォアルミネート(3CaO・3Al23・CaSO4)系の超速硬セメント等が挙げられる。
その他のセメントとしては、JIS R 5214「エコセメント」に規定された普通エコセメント等が挙げられる。
【0060】
前記セメントの中でも、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントは、ブレーン比表面積が高く、且つエーライト(3CaO・SiO2)含有量が高いため、後述するように刺激材を高炉スラグ粒子に層を成すように付着させた場合に、短時間で刺激材の層の強度を高められるため好ましい。
また、低熱ポルトランドセメント又は中庸熱ポルトランドセメントは、水和反応の遅いビーライト(2CaO・SiO2)含むため、長期間にわたって高炉スラグ粒子のひび割れの自己治癒能力が保持できるために好ましい。
また、アルミナセメントは、硬化が早いため、短時間で刺激材の層の強度を高められるため好ましい。アルミナセメントの中でも、アルミナ(Al23)が55質量%以上含まれている高アルミナ型のアルミナセメントは、膨張性のエトリンガイト等の水和物を大量に生成させうるため特に好ましい。
【0061】
さらに、前記セメントは、単体で又は任意の組合せで混合して用いてもよい。
また、前記セメントは、刺激成分である、前記水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸リチウムとの組み合わせによって、前記の中から選択してもよい。
【0062】
例えば、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムと組み合わせるセメントとしては、カルシウムアルミネートを多く含むアルミナセメントが好ましい。
また、硫酸カルシウムと組み合わせるセメントとしては、ポルトランドセメントを用いることも好ましい。
【0063】
水酸化カルシウム又は酸化カルシウムと組み合わせるセメントとして、カルシウムアルミネートを多く含むアルミナセメントを用いた場合には、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムとアルミナセメントとが水の存在下反応してハイドロカルマイト、ハイドロガーネット等のカルシウムアルミネート水和物を生成する。このカルシウムアルミネート水和物は、ひび割れ箇所において水の存在下セメントおよび刺激材等から供給される硫酸イオン(SO42-)と反応して膨張性のエトリンガイトを生成するため、ひび割れ治癒効果がより高くなる。一方、未反応の水酸化カルシウムは、高炉スラグ粒子の刺激材として作用するため、ひび割れ治癒効果が高くなる。
【0064】
硫酸カルシウムと組み合わせるセメントとして、ポルトランドセメントを用いた場合には、ポルトランドセメントに含まれるアルミネート(3CaO・Al23、4CaO・Al23・Fe23)に対して過剰量の硫酸カルシウムを加えることができ、膨張性のエトリンガイトを安定的に生成させることが可能となる。また、ハイドロカルマイト等のカルシウムアルミネート水和物を多量に含むセメント混和材と併用した場合に、過剰量の硫酸カルシウムのうち未反応の硫酸カルシウムは、ひび割れ箇所において水の存在下、カルシウムアルミネート水和物と反応して膨張性のエトリンガイトを生成するため、ひび割れ治癒効果がより高くなる。
さらに、ポルトランドセメントの主要構成鉱物であるケイ酸カルシウム(3CaO・SiO2、2CaO・SiO2)の水和によって水酸化カルシウムが多量に生成し、該水酸化カルシウムは、高炉スラグ粒子の刺激材として作用するため、ひび割れ治癒効果が高くなる。
【0065】
前記セメントは、通常より大きな粒度(例えば、最大粒径が50〜300μm、ブレーン比表面積が500〜2000cm2/g)に調整した粗粉(粗粒)セメントとして用いてもよい。かかる、粗粉セメントを用いた場合には、ひび割れ自己治癒性能を長期間にわたって発揮できるため好ましい。
【0066】
前記刺激材に前記セメントを配合する場合には、前記セメントは、セメント混和材100質量部に対して10乃至90質量部の含有量となるように配合されることが好ましい。
前記範囲の含有量であれば、前記刺激材を高炉スラグ粒子の表面に付着させやすくなり、且つ、ひび割れ自己治癒性も十分に発揮しうる。
【0067】
《水》
本実施形態の刺激材は、水を含んでいてもよい。
前記刺激材に水を配合することで、刺激材を前記高炉スラグ粒子の表面に付着させやすくすることができる。
前記水としては、上水道水、工業用水、地下水、河川水、雨水、蒸留水、化学分析用の高純度水(超純水、純水、イオン交換水)等が使用できるが、セメントの水和反応、モルタルおよびコンクリート硬化体に悪影響を及ぼす有機物、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を含有しないことが好ましい。
特に、上水道水または工業用水が、安価で品質も安定していることから好ましい。
【0068】
前記水の量は、刺激材100質量部に対して10〜40質量部の範囲内であることが好ましい。
水の量が前記範囲であれば、高炉スラグ粒子の表面に刺激材を付着させやすくなる。
【0069】
《他の成分》
本実施形態の前記刺激材は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。例えば、水の配合量を減らすための各種の化学混和剤等を含んでいてもよい。
化学混和剤としては、コンクリートあるいはモルタル用に市販されている液体状又は粉末状の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤などの減水剤として公知のものを使用できる。
化学混和剤は、刺激材100質量部に対して、固形分として0.1〜3.0質量部程度含有させることが好ましい。
【0070】
また、他の成分として、Na−ベントナイト、Ca−ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト、タルク、灰長石、明礬石、リン酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、フライアッシュ、非晶質のシリカ質微粉末(シリカフューム)、珪酸質白土や凝灰岩などの天然ポゾラン、炭酸ジアミドなどの粉末材料を助材として含んでいてもよい。
これらの助材を添加することでひび割れの自己治癒性能をより向上させうる。
前記助材は、単独又は混合して任意の混合量で用いることができる。
【0071】
本実施形態のセメント混和材が含む前記高炉スラグ粒子および前記刺激材は、それぞれ粉末の状態で混合されていてもよく、あるいは、前記刺激材が前記高炉スラグ粒子の表面に付着されていてもよい。
前記刺激材を高炉スラグ粒子表面に付着させる場合には、粉状の刺激材を高炉スラグ粒子の表面にまぶすように付着させてもよく、あるいは、予め水等が配合されたペースト状の刺激材で、高炉スラグ粒子の表面をコーティングすることで、前記刺激材が高炉スラグ粒子の表面に層をなすように付着されているようにしてもよい。
【0072】
前記刺激材が前記高炉スラグ粒子の表面に層をなすように付着されている場合には、刺激材と高炉スラグ粒子とを粉末の状態で混合するよりも、少量の刺激材でも効率よくひび割れの自己治癒効果が発揮できる。
また、前記高炉スラグ粒子の表面を刺激材の層でコーティングすることにより、セメント組成物に配合した場合に、流動性をより高くする効果が得られる。
さらに、前記刺激材がセメントを含む場合には、酸化カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸リチウム等の刺激成分がセメントによって難溶化された状態で前記高炉スラグ粒子表面に付着されるため、セメント組成物の混練時に前記刺激材中の前記各刺激成分が急激に水和反応を起こしてセメント組成物の流動性が低下することを抑制することができる。
【0073】
前記刺激材が前記高炉スラグ粒子の表面に層をなすように付着されている場合には、層の厚みは、好ましくは、平均厚み0.1mm以上0.4mm以下、より好ましくは0.2mm以上0.3mm以下である。
刺激材の層厚みが前記範囲である場合には、より高いひび割れ自己治癒性能が得られ且つ、少量の刺激材を効率よくひび割れ治癒時に水との反応に寄与できるように高炉スラグ粒子の表面に存在させておくことができる。
【0074】
前記刺激材が前記高炉スラグ粒子の表面に層をなすように付着されている場合の前記刺激材の層の厚みの測定方法は以下のとおりである。
前記刺激材を層状に付着させた高炉スラグ粒子を、JIS Z 8801−1「試験用網ふるい第1部:金属製網ふるい」に規定された試験用ふるいであって、公称目開き100μm(=0.1mm)のふるいにかけ、ふるいの上に留まる粒子から任意に20個取り出す。取り出した高炉スラグ粒子から刺激材の層の一部を剥がして、該剥がされた刺激材の層の断面を光学顕微鏡あるいはデジタル顕微鏡等を用いて断面画像を撮影し、該断面画像の任意の2箇所における刺激材の層の厚みを計測した計40箇所の計測値の平均を算出して、層厚みとする。
【0075】
前記刺激材を前記高炉スラグ粒子の表面に層状に付着させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、水が配合された液状の刺激材を高炉スラグ粒子に噴霧する方法、高炉スラグ粒子と水とを転動攪拌あるいは混合攪拌しながら、粉末状の刺激材を前記高炉スラグ粒子中に添加する方法、高炉スラグ粒子を転動攪拌あるいは混合攪拌しながら、水が配合されたペースト状の刺激材を添加して、高炉スラグ粒子表面に付着させる方法などが挙げられる。
また、高炉スラグ粒子に、刺激材の材料中粉体材料と液体材料とを交互に添加しながら攪拌して、高炉スラグ粒子の表面に、刺激材を付着させる方法を採用してもよい。
これらの付着作業には、攪拌混合装置(一軸式ミキサ、二軸式ミキサ等)、転動式混合装置(パンペレタイザ、傾胴式ミキサ等)等の汎用装置を使用することができる。
【0076】
本実施形態のセメント混和材は、異なる種類の刺激材を付着させた高炉スラグ粒子を含んでいてもよい。
例えば、水酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とを含むセメント混和材であってもよい。
【0077】
酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とが混合されている場合には、前述のような水酸化カルシウムおよび硫酸カルシウムが共存することによる、より高いひび割れ治癒性を発揮しうる。
さらに、水酸化カルシウムおよび硫酸カルシウムが共存することによる前述の作用に加えて、水酸化カルシウムを含む前記刺激材と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材とをそれぞれ高炉スラグ粒子に付着させて、これらの高炉スラグ粒子を混合してセメント混和材とすることで、以下のようなメリットがある。
【0078】
本実施形態の刺激材に、例えばアルミナセメントに代表されるカルシウムアルミネートを多量に含むセメントを配合した場合、前記カルシウムアルミネートと、水酸化カルシウム、硫酸カルシウムおよび水とが、刺激材中で反応してしまい、モルタルおよびコンクリートの硬化体にひび割れが発生した時には、未反応のカルシウムアルミネート水和物および硫酸カルシウム(硫酸塩)が硬化体中に残存しなくなるため、前記水和反応によるひび割れを閉塞させることが難しくなる。
従って、特に、アルミナセメント等を刺激材に配合する場合には、水酸化カルシウムを含む前記刺激材と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材とをそれぞれ個別に高炉スラグ粒子に付着させておき、後から混合することで、モルタルおよびコンクリートの硬化体にひび割れが生じて水が浸入するまで、カルシウムアルミネート又はカルシウムアルミネート水和物と、硫酸カルシウムとが直接反応しにくくなり、ひび割れが発生した時に高いひび割れ自己治癒性能を発揮しうる。
【0079】
本実施形態のセメント混和剤は、Al23およびSO3を、Al23に対するSO3のモル比(SO3/Al23)が0.01以上27.4以下、好ましくは、0.09以上3.6以下、となるように含むことが好ましい。
【0080】
混和材中のAl23に対するSO3のモル比が前記範囲内であることで、より高いひび割れ自己治癒効果が発揮でき、且つ、効率よくひび割れ時に水との反応が生じ、ひび割れ治癒に寄与する膨張性のエトリンガイト等が効率よく生成するため好ましい。
【0081】
特に、前記酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とを含むセメント混和材である場合に、Al23に対するSO3のモル比(SO3/Al23)が前記範囲になるように、前記酸化カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子と、硫酸カルシウムを含む前記刺激材が表面に付着された前記高炉スラグ粒子とを混合することが好ましい。
【0082】
混和材中のAl23に対するSO3のモル比が前記範囲内であることで、より高いひび割れ自己治癒効果が発揮でき、且つ、効率よくひび割れ時に水との反応が生じ、ひび割れ治癒に寄与する膨張性のエトリンガイト等が効率よく生成するため好ましい。
【0083】
尚、前記刺激材は、高炉スラグ粒子表面に単層で付着されていてもよく、あるいは、二層以上の複数の層をなすように付着されていてもよい。
二層以上の複数層になるように刺激材を付着させることにより、各層の刺激材の特性を生かして、より高いひび割れ自己治癒性能を得ることができる。
また、高炉スラグ粒子の表面に付着されているスラグ刺激材の厚みの調整を容易に行いうる。
【0084】
前記複数の層を成すように刺激材を高炉スラグ粒子に付着させたセメント混和材としては、例えば、前記水酸化カルシウムおよびアルミナセメントを含む刺激材を高炉スラグ粒子表面に付着させた後、硫酸カルシウムおよびポルトランドセメントを含む刺激材を、さらに付着させたものや、前記硫酸カルシウムおよびポルトランドセメントをからなる刺激材を高炉スラグ粒子表面に付着させた後、水酸化カルシウムおよびアルミナセメントからなる刺激材を、さらに付着させた高炉スラグ粒子等が挙げられる。
あるいは、同じ刺激材であって該刺激材中のセメントの混合比率を変化させた刺激材を、複数回にわけて付着させて複数層を形成したセメント混和材であってもよい。
【0085】
『セメント組成物』
次に本実施形態のセメント混和材を含むセメント組成物について説明する。
本実施形態のセメント組成物は、モルタル組成物、コンクリート組成物などのセメント組成物である。
【0086】
本実施形態のセメント組成物は、前述の本実施形態のセメント混和材と、セメントを含み、必要に応じて、細骨材、粗骨材等の骨材、水、その他各種添加剤等を含んでいてもよい。
【0087】
《セメント》
前記セメントとしては、前記刺激材の材料として例示した各種セメントを使用することができる。
本実施形態のセメント組成物に含まれるセメントの量は、例えば、セメント混和材100質量部に対して、セメント100〜300質量部の範囲であることが好ましい。
【0088】
《骨材》
前記細骨材としては、陸砂(山砂)、海砂、川砂、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材、フェロクロム細骨材、人工軽量細骨材、再生細骨材、溶融スラグ細骨材等が挙げられる。
粗骨材としては、陸砂利(山砂利)、海砂利、川砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、人工軽量粗骨材、再生粗骨材、溶融スラグ粗骨材等が挙げられる。
尚、粗骨材および細骨材とは、JIS A 1102のふるい分け試験に則して区別することができる。
【0089】
本実施形態のセメント組成物に含まれる前記細骨材および粗骨材の量は、以下の範囲であることが好ましい。
モルタル用のセメント組成物の場合は、モルタル硬化体1m3あたり、細骨材の量は1000〜1700kg、好ましくは1200〜1500kgである。
コンクリート用のセメント組成物の場合は、コンクリート硬化体1m3あたり細骨材の量は700〜1000kg、好ましくは800〜900kgであり、粗骨材の量はコンクリート硬化体1m3あたり800〜1100kg、好ましくは、850〜950kgである。
【0090】
《セメント混和材》
本実施形態のセメント組成物に含まれる前記セメント混和材の量は、例えば、モルタル用のセメント組成物の場合、モルタル硬化体1m3あたり300〜1600kg、好ましくは360〜1500kgである。
コンクリート用のセメント組成物の場合、前記セメント混和材の量は、コンクリート硬化体1m3あたり200〜1000kg、好ましくは400〜850kgである。
前記セメント混和材の含有量がこれらの範囲であると、セメント硬化体の硬化が良好に行えると同時に、セメント硬化体中に、未反応の高炉スラグ粒子および刺激材が十分に存在することで、硬化後のひび割れ発生時に高いひび割れ自己治癒性能を発揮できる。
【0091】
《水》
本実施形態のセメント組成物は、水を配合してもよい。
前記水の量は、例えば、前記セメント、セメント混和材および必要に応じて配合される骨材等の粉体材料を100質量部としたとき、5〜50質量部、好ましくは、10〜30質量部である。
前記水の量が前記範囲であると、硬化体とした場合に十分な強度が得られ、且つ、高いひび割れ自己治癒性能が得られる。
【0092】
本実施形態のセメント組成物から得られるセメント硬化体は、例えば、ひび割れが生じた場合でも、かかるひび割れを自己治癒させることが可能となる。
【0093】
本実施形態のセメント混和材またはセメント組成物は、例えば、コンクリート高架橋の上部工・床版底面および橋脚・橋台側面、トンネルの覆工コンクリート、農業用水路等のコンクリート底面および側面、オフィスビル又はマンション等のスラブ・壁、トンネル用セグメント、ボックスカルバート、L型擁壁等の擁壁製品、U字構、ヒューム管、電柱、コンクリートブロック、コンクリートパネル等のように、漏水が発生しやすく、且つひび割れの修復が困難であった構造物に好適に使用することができる。
これらの構造物にひび割れが発生した場合であって、ひび割れ箇所に、降雨、降雪、地下水の浸透、河川水、海水などの流入、散水、注水操作等により水が供給されると、硬化体中のセメント混和材が、水およびセメント中の成分と水和物生成反応を生じることで、ひび割れを効果的に自己治癒させることができる。
【0094】
前記のような構造物にひび割れが発生した場合には、従来は、ひび割れに有機性または無機性の充填材料を注入する補修工事を行ったり、ひび割れが発生しても構造物に影響を与えないようにセメント硬化体に防水工事、止水工事を施すなどの対策がとられていたりした。しかし、かかる補修工事、防水工事、止水工事等は、コストがかかる上に、セメント硬化体の施工工事と同時に防水工事や止水工事を行う場合には、構造物の工期の長期化を招く。特に、モルタルあるいはコンクリート硬化体が、トンネル、鉄道高架橋、自動車高架橋等の構造物である場合には、構造物の供用開始後にこれらのひび割れに対する補修工事を施すことは、通行止や供用休止などが必要であり、非常に困難であった。
従って、本実施形態のセメント混和材、セメント組成物を、かかる構造物に用いた場合には、前記のような補修工事、防水工事、止水工事等を行わなくても、ひび割れ自己治癒材性能が得られるという利点がある。
【0095】
本実施形態のセメント混和材またはセメント組成物は、高いひび割れ自己治癒性能を発揮しうるため、従来自己治癒が困難であったひび割れ幅が0.3mm程度の比較的大きいひび割れでも、本実施形態のセメント混和材またはセメント組成物を用いることで、良好にひび割れを自己治癒することが可能となる。
【0096】
尚、本実施形態にかかるセメント混和材およびセメント組成物は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0097】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
本実施例で使用した機器は以下のとおりである。
[使用機器]
・ステンレス製試験用ふるい(高炉スラグ粒子調整=分級用、JIS Z 8801−1適合品、校正証明付き、関西金網社製、直径300mm×高さ60mm:公称目開き=4.75mm、2.36mm、100μmの3種類を使用)
・磁力選別機(高炉スラグ粒子の鉄含有量測定および調整用、NJ−G−600×2、日本磁力選鉱社製、対極型、磁束密度2.7テスラ)
・横型ブラウン粉砕機(1025−HC、吉田製作所社製、ディスク径300mm、ディスク材質クロムカーバイド、水冷装置付き、回転数350〜400rpm、200V三相モータ出力3.7kW)
・ディスク型振動ミル(9306D−KD、Rigaku社製、試料粉砕用容器材質タングステンカーバイド、200V三相モータ出力2.2kW)
・波長分散型蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII、Rigaku社製)
・コンクリート傾胴式ミキサ(NGM−4M22、トンボ工業社製、容量100リットル、200V三相モータ出力2.2kW)
・ハンドスプレー(ホームセンターコーナン社製、ポリカーボネート製、手動式、容量2リットル)
・モルタルミキサ(ホバートミキサN−50、ホバートジャパン社製、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」の強さ試験適合品、100V単相モータ出力125W)
・コンクリートミキサ(SUPER DOUBLE MIXER SD−55、大平洋機工社製、二軸強制練りミキサ、容量55リットル、200V三相モータ出力3.7kW)
・モルタル用耐圧試験機(島津製作所社製、最大載荷能力300KN)
・コンクリート用耐圧試験機(島津製作所社製、最大載荷能力3000KN)
・デジタル顕微鏡(キーエンス社製、本体=VHX−1000、レンズ=VH−Z100Rワイドレンジレンズ(倍率100−1000倍))
【0099】
(高炉スラグ粒子)
本実施例では、高炉スラグ粒子として以下の6種類を調整して使用した。
A)高炉スラグA
シンコーサンド(神鋼スラグ製品社製、JIS A 5011−1のBFS2.5適合品、最大粒径5mm、絶乾密度=2.74g/cm3)を、前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き4.75mm)を使用して分級し、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.74g/cm3、鉄=0.51質量%に調整した高炉スラグAを120kg作製した。
尚、本実施例において、各高炉スラグ粒子の鉄の含有量は、以下の方法で測定した。
絶乾状態の高炉スラグ粒子20kgを、前記横型ブラウン粉砕機を用いて粗粉砕し、前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き2.36mm)を全通させた後、前記磁力選別機を用いて10分間(処理能力毎時120kg)かけて磁力選別処理を行い、鉄を主成分とする回収物を得た。該回収物は、質量を測定後、前記ディスク型振動ミルを用いて全量微粉砕し、前記波長分散型蛍光X線分析装置を用いてJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して粉末ブリケット法で該回収物の鉄(FeO換算)の含有量を測定した。該回収物の質量および該回収物中の鉄(FeO換算)の含有量から高炉スラグ粒子中の鉄(FeO換算)の質量%を算出した。
B)高炉スラグB
高炉徐冷スラグ(神鋼スラグ製品社製、粒径25mm未満、絶乾密度=2.70g/cm3)を前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き4.75mm)を使用して分級し、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.69g/cm3、鉄=0.65質量%に調整した高炉スラグBを20kg作製した。
C)高炉スラグC
シンコーサンド(神鋼スラグ製品社製、JIS A 5011−1のBFS2.5適合品、最大粒径5mm、絶乾密度=2.74g/cm3)を、前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き4.75mm)を使用して分級し、さらに別途準備した高炉水砕スラグから磁力選別機を用いて回収しておいた鉄を含む回収物を添加して、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.74g/cm3、鉄=2.45質量%に調整した高炉スラグCを20kg作製した。
D)高炉スラグD
高炉徐冷スラグ(神鋼スラグ製品社製、粒径25mm未満、絶乾密度=2.70g/cm3)を前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き4.75mm)を使用して分級し、さらに別途準備した高炉徐冷スラグから磁力選別機を用いて回収しておいた鉄を含む回収物を添加して、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.69g/cm3、鉄=1.37質量%に調整した高炉スラグDを20kg作製した。
E)高炉スラグE
シンコーサンド(神鋼スラグ製品社製、JIS A 5011−1のBFS2.5適合品、最大粒径5mm、絶乾密度=2.74g/cm3)を、前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き4.75mm)を使用して分級し、さらに別途準備した高炉水砕スラグから磁力選別機を用いて回収しておいた鉄を含む回収物を添加して、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.74g/cm3、鉄=3.88質量%に調整した高炉スラグEを20kg作製した。
F)高炉スラグF
シンコーサンド(神鋼スラグ製品社製、JIS A 5011−1のBFS2.5適合品、最大粒径5mm、絶乾密度=2.74g/cm3)を、前記ステンレス製試験用ふるい(公称目開き4.75mm)を使用して分級し、さらに別途準備した高炉水砕スラグから磁力選別機を用いて回収しておいた鉄を含む回収物を添加して、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.75g/cm3、鉄=4.23質量%に調整した高炉スラグFを20kg作製した。
(珪砂)
混合珪砂(愛知県産、乾燥珪砂3号および4号を50質量%ずつ混合、最大粒径5mm以下、絶乾密度=2.64g/cm3、鉄=0.03質量%)を比較例用に20kg準備した。
【0100】
(刺激材)
刺激材を、表1に示す配合で作製した。
尚、表1において使用した材料は以下のとおりである。
(1)刺激成分
a)水酸化カルシウム(JIS特号消石灰、吉澤石灰工業社製、JIS R 9001適合品、CaO含有量=74.0質量%、Al23含有量=0.45質量%、SO3含有量=0.1質量%未満、密度=2.34g/cm3、ブレーン比表面積=5000cm2/g、最大粒径=45μm以下)
b)酸化カルシウム(超硬焼生石灰、吉澤石灰工業社製、CaO含有量=95.2質量%、Al23含有量=0.78質量%、SO3含有量=0.1質量%未満、密度=3.32g/cm3、ブレーン比表面積=4500cm2/g、最大粒径=45μm以下)
c)硫酸カルシウム(天然産無水石膏の微粉砕品、住友大阪セメント社製、密度=2.97g/cm3、CaO含有量=41.1質量%、Al23含有量=0.1質量%未満、SO3含有量=56.7質量%、ブレーン比表面積=6800cm2/g、最大粒径=45μm以下)
d)硫酸アルミニウム(試薬無水硫酸アルミニウムの粉砕品、関東化学社製、密度=2.71g/cm3、Al23含有量=28.7質量%、SO3含有量=66.7質量%、最大粒径=0.1mm以下)
e)硫酸リチウム(試薬硫酸リチウム一水和物、関東化学社製、密度=2.21g/cm3、Al23含有量=0.1質量%未満、SO3含有量=71.8質量%、最大粒径=0.1mm以下)
f)製鋼スラグ(生石灰(遊離酸化カルシウム)を含有する転炉徐冷スラグの粉砕品、神鋼スラグ製品社製、絶乾密度=2.74g/cm3、CaO含有量=51.8質量%、f−CaO(遊離酸化カルシウム)含有量=7.7質量%、Al23含有量=3.2質量%、SO3含有量=1.0質量%、最大粒径=0.1mm以下)
g)膨張材:エトリンガイト系膨張材 サクス(住友大阪セメント社製、JIS A 6202適合品、密度=2.98g/cm3、CaO含有量=52.2質量%、Al23含有量=13.9質量%、SO3含有量=30.2質量%、ブレーン比表面積=3200cm2/g、最大粒径=45μm以下)
(2)セメント
イ)低熱ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、JIS R 5210適合品、密度=3.24g/cm3、C2S含有量=56質量%、Al23含有量=2.7質量%、SO3含有量=2.0質量%、ブレーン比表面積=3400cm2/g、最大粒径=45μm以下)
ロ)アルミナセメント(アサヒアルミナセメント1号、旭硝子セラミックス社製、旧JIS R 2511適合品、密度=2.99g/cm3、Al23含有量=55.0質量%、CaO含有量=35.3質量%、SO3含有量=0.4質量%、ブレーン比表面積=4500cm2/g、最大粒径=45μm以下)
ハ)早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製、JIS R 5210適合品、密度=3.13g/cm3、C3S含有量=65質量%、Al23含有量=5.0質量%、SO3含有量=2.8質量%、ブレーン比表面積=4400cm2/g、最大粒径=45μm以下)
(3)水:上水道水(千葉県船橋市産)
【0101】
(セメント混和材A−1〜A−7)
表1に示す配合で作製した各刺激材、高炉スラグAをコンクリート用傾胴式ミキサに全量投入後(1バッチ10kg)、傾胴式ミキサのドラムの角度を水平から15度上げ、40rpmで10分間回転して、乾式状態で混合したセメント混和材:7種類(A−1〜A−7)を作製した。
【0102】
(セメント混和材B−1〜B−12、C−1、D−1)
前記高炉スラグ粒子A〜Fをコンクリート用傾胴式ミキサに全量投入後(1バッチ10kg)、傾胴式ミキサのドラムの角度を水平から15度上げ、40rpmで10分間回転させながら、表1に示す各刺激材と水(ハンドスプレーで噴霧)とを交互に少しずつ加えて、高炉スラグ粒子の表面に刺激材を1層付着させたセメント混和材:14種類(B−1〜B−12、C−1、D−1)を作製した。尚、これらは、刺激材付着後、個別に容量50リットルのポリエチレン製袋に入れて密封し、20℃恒温室内で7日間養生を行った。
【0103】
(セメント混和材E−1、E−2)
比較のため、高炉スラグ粒子に代えて、前記珪砂と、表1に示す刺激材とを、用いて、前記セメント混和材A−1〜A−7と同様に乾式状態で混合したセメント混和材E−1を作製した。
さらに、前記珪砂と、表1に示す刺激材とを用いて、前記セメント混和材B−1〜B−12、C−1、D−1と同様に刺激材を珪砂に付着させたセメント混和材E−2を作製した。
【0104】
(層厚みの測定)
前記養生を行ったセメント混和材B−1〜B−12、C−1、D−1およびE−2を公称目開き100μm(=0.1mm)のふるいを通して、ふるいの上に留まる粒子から20個の高炉スラグ粒子を任意に抽出して精密ピンセットおよびカッターナイフを用いて、高炉スラグ粒子に付着されたひび割れ自己治癒材をはがし、はがされたひび割れ自己治癒材の厚みを、デジタルマイクロスコープを用いて、切断面の画像から高炉スラグ粒子に付着されたひび割れ自己治癒材の層の厚さ(膜厚)を任意の箇所を2箇所ずつ計測し、計40箇所の平均値を求めた。
各厚みの平均値を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
表2および表3に示すようなセメント組成物を用いて実施例1〜56および比較例1乃至10のコンクリートおよびモルタル硬化体を作製し、各種試験を行った。
尚、実施例25〜27および実施例53〜55は、セメント混和材として各表に示す2種類のセメント混和材を混合したものを用いた。
また、セメント混和材の配合量は、細骨材に対して内割置換になるように配合した。
尚、各セメント混和材の密度は、細骨材と同一とみなして配合修正は行わなかった。また、高性能AE減水剤は、水の一部とみなした。
コンクリートおよびモルタル硬化体用のセメント組成物の材料を以下に示す。
【0107】
・セメント(モルタルおよびコンクリート共通):普通ポルドランドセメント(住友大阪セメント社製、JIS R 5210適合品、密度=3.15g/cm3、C3S含有量=56質量%、C2S含有量=17質量%、Al23含有量=5.2質量%、SO3含有量=1.9質量%、ブレーン比表面積=3400cm2/g、最大粒径=45μm以下)
・細骨材(モルタルおよびコンクリート共通):千葉県富津産陸砂(表乾密度=2.58g/cm3、吸水率=2.1%、FM=2.65)
・コンクリート用粗骨材:茨城県桜川市産硬質砂岩砕石2005(表乾密度=2.65g/cm3、吸水率=0.6%、FM=6.67)
・水(モルタルおよびコンクリート共通):上水道水
・高性能AE減水剤(モルタルおよびコンクリート共通):レオビルドSP8SVX2(BASFジャパン社製、ポリカルボン酸系、JIS A 6204の高性能減水剤標準型I種適合品)
【0108】
(モルタルの練混ぜ・フロー試験)
実施例1乃至28、比較例1乃至5のセメント組成物についてモルタルフローを測定した。モルタルの練混ぜ方法は、JIS R 5201「ポルトランドセメントの物理試験方法」のモルタル試験方法に則して行った。
練り上った各モルタルについて、直ちにJIS R 5201に則して15打モルタルフローを測定した結果を表2に示す。
【0109】
(モルタルの圧縮強度試験)
実施例1乃至28、比較例1乃至5のセメント組成物について圧縮強度を測定した。前記フローを測定した各モルタルをモルタルミキサの練り鉢に戻して、30秒間再度練り混ぜた後、直径5cm×高さ10cmの鋼製簡易型枠に打ち込み、モルタル円柱供試体を4本ずつ作製した。作製した円柱供試体は、鋼製簡易型枠の頭部(開口部)をポリエチレン製ビニールキャップおよび輪ゴムを使用して封かん状態とし、20℃恒温室内で91日間封かん養生した。91日間養生後、供試体4本全てを脱型し、その3本を使用して、耐圧試験機を用いて、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に則して材齢91日の圧縮強度を測定した。
結果を表2に示す。
【0110】
(モルタルの止水性(通水試験))
実施例1乃至28、比較例1乃至5のセメント組成物について止水性(通水性)試験を行なった。前記供試体のうち圧縮強度試験に用いなかった一本を、JIS A 1113「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に準拠して、円柱供試体を割裂し、2つに破断させた。
割裂(破断)させた円柱供試体は、長さ100mm×幅5mm×厚さ0.3mmのパラフィン製フィルム2枚を円柱の側面両端部に挟みながら2つの破断面を正確に合わせた後、内径45〜55mm可変式×幅9mm×厚さ0.8mmの鋼製バンドを2本用いて円柱供試体の外部(側面部分)を2箇所拘束し、デジタルマイクロスコープを用いて円柱供試体に導入したひび割れ部のひび割れ幅を観察(供試体上下面をそれぞれ2箇所ずつ計測)しながら、鋼製バンドの張力を調節することによって、円柱供試体上下面の表面部分のひび割れ幅が約0.2〜0.3mmとなるように調整した。この後、円柱供試体上面(供試体作製時の型枠上部側)に通水試験用の内径51mm×高さ100mmの塩化ビニル製パイプを接続し、円柱供試体とパイプの接続部および円柱供試体側面のひび割れ部分に市販のシーリング材(シリコーンゴム)を塗布してシーリングを行った。
かかる供試体を20℃恒温室内に敷設した鋼製グレーチング上に鉛直に静置し、割裂によりひび割れを導入した材齢91日から、モルタル円柱供試体の上部に接続した塩化ビニル製パイプに上水道水を注水し、常時8cmの水頭を与えてモルタル円柱供試体のひび割れからの漏水量を7日間測定して止水性の評価を、以下の5段階の指標で評価した。
【0111】
ひび割れの自己治癒による止水性の評価
・初期漏水量=通水開始直後の5分間あたりの漏水量
・評価A:通水試験開始7日目の5分間あたりの漏水量が初期漏水量の1%以下となる場 合
・評価B:通水試験開始7日目の5分間あたりの漏水量が初期漏水量の1%よりも大きく 、5%以下となる場合
・評価C:通水試験開始7日目の5分間あたりの漏水量が初期漏水量の5%よりも大きく 10%以下となる場合
・評価D:通水試験開始7日目の5分間あたりの漏水量を初期漏水量の10%よりも大き く25%以下となる場合
・評価E:通水試験開始7日目の5分間あたりの漏水量を初期漏水量の25%以下にする ことができない場合
【0112】
(供試体表面の発錆の評価)
前記圧縮強度試験で、20℃恒温室内で91日間封かん養生後、脱型した供試体の表面を目視で観察して、発錆が確認された場合を、あり、確認されなかった場合を、なしと評価した。
結果を表2に示す。
【0113】
(SO3/Al23 モル比)
実施例1乃至27、比較例1乃至6のセメント混和材中に含まれる全SO3および全Al23のモル比SO3/Al23を算出して表2に示した。
【0114】
各試験結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
上記表2より、各実施例は、セメント混和材をモルタルに添加した場合のフロー値はいずれも良好であり、且つ、91日圧縮強度もいずれも高かった。さらに、止水性の評価もB以上と良好であった。
比較例1は、セメント混和材を添加しないモルタルであるため、自己治癒による止水性の評価が低いことが明らかである。
また、比較例2および3は、セメント混和材として高炉スラグ粒子の代わりに混合珪砂を使用したものを用いたため、実施例に比して自己治癒による止水性の評価が低かった。
実施例28は、鉄の含有量が4.23質量%の高炉スラグ粒子を含むセメント混和材B−12を使用したため、鉄の含有量が多く、材齢91日で脱型した円柱供試体の表面に多数の点状の赤錆の発生が確認され美観上問題があった。
比較例4および5は、刺激成分d(硫酸アルミニウム)および刺激成分e(硫酸リチウム)をそれぞれセメント混和材として配合したため、モルタルが急速にこわばり、練り混ぜそのものが困難であり、供試体を作製できなかった。
【0117】
(コンクリートの練混ぜ・スランプ測定および空気量の測定)
実施例29乃至56、比較例6乃至10のセメント組成物についてスランプおよび空気量を測定した。
まず、表3に示すように、水セメント質量比:50%(単位水量=175kg/m3)、s/a(細骨材率;細骨材の絶対容積÷(細骨材の絶対容積+粗骨材の絶対容積))=48.1体積%となるように配合を決め、さらに、高性能AE減水剤をセメントに対して0.8〜2.0質量%加えて、目標スランプ=18±3cm、目標空気量=4.5±1.5%のコンクリートを、20℃恒温室で、JIS A 1138「試験室におけるコンクリートの作り方」に則して、1バッチあたり25リットル練り混ぜた。
練り上ったフレッシュコンクリートを用いて、JIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に則してスランプを、又、JIS A 1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法」に則して空気量を測定した。結果を表3に示す。
【0118】
(コンクリートの圧縮強度試験)
実施例29乃至56、比較例6乃至10のフレッシュコンクリートを使用して、直径10cm×高さ20cmの鋼製簡易型枠に打ち込み、コンクリート円柱供試体を4本ずつ作製した。作製した円柱供試体は、鋼製簡易型枠の頭部(開口部)をポリエチレン製ビニールキャップおよび輪ゴムを使用して封かん状態とし、20℃恒温室内で28日間封かん養生した。28日間養生後、供試体4本全てを脱型し、そのうち3本を耐圧試験機を用いて、JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に則して材齢28日の圧縮強度を測定した。結果を表3に示す。
【0119】
(コンクリートの止水性(通水試験))
前記圧縮試験で使用しなかった1本の供試体について、実施例1乃至28、比較例1乃至5と同様に止水性(通水性)試験を行なった。
但し、前記割裂(破断)させた円柱供試体は、長さ200mm×幅5mm×厚さ0.3mmのパラフィン製フィルム2枚を円柱の側面両端部に挟みながら2つの破断面を正確に合わせて鋼製バンドで拘束して固定した。円柱供試体の外部(側面部分)拘束する鋼製バンドは内径95〜115mm可変式×幅12mm×厚さ0.8mmのものを2本用いた。円柱供試体上下面の表面部分のひび割れ幅が約0.2〜0.3mmとなるように調整した。また、円柱供試体上面(供試体作製時の型枠上部側)に接続するパイプは、内径106mm×高さ100mmの塩化ビニル製パイプを用いた。
さらに、割裂によりひび割れを導入した材齢28日から注水してコンクリート円柱供試体のひび割れからの漏水量を7日間測定して止水性の評価を、前記5段階の指標で評価した。結果を表3に示す。
【0120】
(SO3/Al23 モル比)
実施例29乃至56、比較例6乃至10のセメント混和材中に含まれる全SO3および全Al23のモル比SO3/Al23を算出して表3に示した。
【0121】
【表3】
【0122】
上記表3より、各実施例は、セメント混和材をコンクリートに添加した場合のスランプ、および空気量共に良好であり、且つ28日圧縮強度もいずれも高かった。さらに、止水性の評価もB以上と良好であった。
比較例6は、セメント混和材を何ら添加しないコンクリートであるため、自己治癒による止水性の評価が低いことが明らかである。
また、比較例7および8は、高炉スラグ粒子の代わりに混合珪砂を使用したものを用いた、実施例に比して自己治癒による止水性の評価が低かった。
実施例56は、鉄の含有量が4.23質量%の高炉スラグ粒子を含むセメント混和材B−12を使用したため、鉄の含有量が多く、材齢91日で脱型した円柱供試体の表面に多数の点状の赤錆の発生が確認され美観上問題があった。
比較例9および10は、刺激成分d(硫酸アルミニウム)および刺激成分e(硫酸リチウム)をそれぞれセメント混和材として配合したため、モルタルが急速にこわばり、練り混ぜそのものが困難であり、供試体を作製できなかった。