【文献】
Naoyuki TAKAHASHI,et al.,Atmospheric pressure vapor-phase growth of ZnO using a chloride source,Journal of Crystal Growth,2000年,Vol.209,P.822-827
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2原料収容部にキャリアガスを供給するキャリアガス供給源を更に備え、前記第1原料収容部と、前記第2原料収容部とは、これらから出射されるガスの流量を互いに独立して制御することができ、且つ、前記第1原料収容部からのガスの出射方向と、前記第2原料収容部からのガスの出射方向が異なるよう、離間して配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のZnO膜の製造装置。
前記第1原料収容部と、前記第2原料収容部とは、前記第1原料収容部を通ったガスが、前記第2原料収容部内を通るように連続している、ことを特徴とする請求項1に記載のZnO膜の製造装置。
前記第1原料収容部と、前記第2原料収容部とは、前記第1原料収容部を通ったガスが、前記第2原料収容部内を通るように連続しており、且つ、前記第1及び2原料収容部の底面は、この底面よりも上方に位置する水平面からの深さが、前記第2原料収容部のガス出射口に向かうにしたがって深くなるように、傾斜していることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載のZnO膜の製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の手法では、ZnO膜の品質が低く、X線回折におけるFWHM(半値全幅)は、20〜80(min)である。すなわち、ZnO膜のFWHMは、最高でも1200arcsecである。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高品質のZnO膜を製造することが可能なZnO膜の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明の態様に係るZnO膜の製造装置は、ZnO膜が形成されるべき基板が配置される設置台と、前記設置台を収容する反応容器と、前記反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する第1原料収容部と、前記反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する第2原料収容部と、前記設置台、前記第1原料収容部、及び前記第2原料収容部を加熱する加熱手段と、少なくとも前記第1原料収容部に塩素ガスを供給する塩素ガス供給源と、前記反応容器内に酸素ガスを供給する酸素ガス供給源と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記第1原料収容部の温度T1、前記第2原料収容部の温度T2、前記基板の配置された前記設置台の温度T3が、前記ZnO膜の成膜時において、T1<T2<T3の関係を満たすように、前記加熱手段を制御し、
200℃≦T1≦420℃、300℃≦T2≦600℃、600℃≦T3≦1000℃、であり、前記制御装置は、前記塩素ガス供給源から前記第1原料収容部に供給される塩素ガスの流量を制御し、
塩化亜鉛ガスの分圧を、前記基板表面の直上の近傍領域において、8.8×10−5気圧以上3.6×10−4気圧以下に設定し、且つ、前記酸素ガス供給源から前記反応容器内に供給される酸素ガスの流量を制御することを特徴とする。
【0006】
この製造装置によれば、ZnO成膜時の温度T1,T2が異なる第1及び第2原料収容部が存在しており、少なくとも一方に塩素ガスが供給され、Zn固体原料と塩素ガス(Cl
2)との反応によって、ZnCl
2が生成され、また、加熱によってZn自身が気体化し、基板表面上で酸素ガスと反応する。これら2種類のZn系材料(ZnCl
2、Zn)と酸素とが反応することで、高品質なZnO膜を製造することが可能となる。基板上において、ZnCl
2+0.5O
2=ZnO+Cl
2の膜成長反応が進む際に、この反応系に気体となるZnが供給されると、Zn+Cl
2=ZnCl
2の反応が生じて、上記膜成長反応が促進され、そうでない場合にはCl
2によるエッチングが生じて、膜成長反応が阻害される。本願発明者らによれば、かかる原理を用いて、気体のZnをZnCl
2とは別の箇所から供給することで、高品質のZnO膜が製造できることが確認された。
【0007】
また、本発明の態様に係る第1のZnO膜の製造装置は、前記第2原料収容部にキャリアガスを供給するキャリアガス供給源を更に備え、前記第1原料収容部と、前記第2原料収容部とは、これらから出射されるガスの流量を互いに独立して制御することができ、且つ、前記第1原料収容部からのガスの出射方向と、前記第2原料収容部からのガスの出射方向が異なるよう、離間して配置されていることを特徴とする。
【0008】
キャリアガス供給源は、Znが気体化した場合、これを基板方向に輸送することができる。キャリアガス供給源が、塩素ガスを含有することとしてもよい。
【0009】
また、本発明の態様に係る第2のZnO膜の製造装置は、前記第1原料収容部と、前記第2原料収容部とは、前記第1原料収容部を通ったガスが、前記第2原料収容部内を通るように連続していることを特徴とする。
【0010】
この場合においても、同様に、Zn固体原料と塩素ガス(Cl
2)との反応によって、ZnCl
2が生成され、また、加熱によってZn自身が気体化し、基板表面上で酸素ガスと反応する。これら2種類のZn系材料(ZnCl
2、Zn)と酸素とが反応することで、高品質なZnO膜を製造することが可能となる。上述のように、基板上において、ZnCl
2+0.5O
2=ZnO+Cl
2の膜成長反応が進む際に、この反応系に気体となるZnが供給されると、Zn+Cl
2=ZnCl
2の反応が生じて、上記膜成長反応が促進され、そうでない場合にはCl
2によるエッチングが生じて、膜成長反応が阻害される。本願発明者らによれば、かかる原理を用いて、気体のZnをZnCl
2とは別の箇所から供給するが、双方の気体が同一の経路を通ることを妨げる理由はなく、高品質のZnO膜が製造できることが確認された。
【0011】
なお、前記制御装置は、前記塩素ガス供給源から供給される塩素ガスの量を制御し、塩化亜鉛ガスの分圧を、前記基板表面の直上の近傍領域において、8.8×10
−5気圧以上3.6×10
−4気圧以下に設定することが好ましい。塩素亜鉛ガスの分圧が、当該下限以上においては、ZnO膜は成長するが、当該上限以上となるとZnO膜のエッチングが始まり、ZnO膜が成長しないからである。なお、近傍領域は、基板表面から当該表面に垂直な方向に1cm以内の領域と規定する。
【0012】
前記制御装置は、前記塩素ガス供給源から供給される塩素ガスの量を制御し、塩化亜鉛ガスの分圧を、前記基板表面の直上の近傍領域において、8.8×10
−5気圧以上3.3×10
−4気圧以下に設定することが好ましい。塩素ガスの分圧が、当該範囲内においては、十分にZnO膜が成長するからである。
【0013】
前記制御装置は、前記塩素ガス供給源から供給される塩素ガスの量を制御し、塩化亜鉛ガスの分圧を、前記基板表面の直上の近傍領域おいて、8.8×10
−5気圧以上2.2×10
−4気圧以下に設定することが好ましい。塩素亜鉛ガスの分圧が、当該範囲内においては、ZnO膜の成長速度が一定となり、安定した制御が可能となるからである。
【0014】
本発明の態様に係るZnO膜の製造装置においては、前記第1原料収容部と、前記第2原料収容部とは、前記第1原料収容部を通ったガスが、前記第2原料収容部内を通るように連続しており、且つ、前記第1及び第2原料収容部の底面は、この底面よりも上方に位置する水平面からの深さが、前記第2原料収容部のガス出射口に向かうにしたがって深くなるように、傾斜していることを特徴とする。
【0015】
この場合、Znを含有する固体原料は、底面に沿って、重力により、ガス出射口に近い方に近づいてくる。したがって、固体原料の量が変動しても、高い再現性で固体原料を配置することができ、固体原料位置のばらつきを抑え、ZnO膜の品質を安定化させることができる。
【0016】
上述の製造装置を用いたZnO膜の製造方法は、前記設置台に前記基板を配置する設置工程と、前記制御装置によって、前記塩素ガス供給源から前記第1原料収容部に塩素ガスを供給し、且つ、前記酸素ガス供給源から前記反応容器内に酸素ガスを供給しつつ、前記第1原料収容部の温度T1、前記第2原料収容部の温度T2、前記基板の配置された前記設置台の温度T3が、T1<T2<T3の関係を満たすように、前記加熱手段を制御する成膜工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
この製造方法によれば、上述のように、高品質のZnO膜を製造することができる。
【0018】
また、本発明の態様に係るZnO膜の製造装置は、ZnO膜が形成されるべき基板が配置される設置台と、設置台を収容する反応容器と、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する第1原料収容部と、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する第2原料収容部と、第1原料収容部、及び第2原料収容部を加熱する加熱手段と、少なくとも第1原料収容部に塩素を含むガスを供給する第1のガス供給源と、反応容器内に酸素を含むガスを供給する第2のガス供給源とを備え、第1原料収容部の温度T1、第2原料収容部の温度T2が、ZnO膜の成膜時において、T1<T2の関係を満たしていることを特徴とする。この場合において、上述のように、高品質のZnO膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造装置及び製造方法によれば、高品質のZnO膜を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態に係るZnO膜の製造装置及び製造方法について説明する。同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、第1のZnO膜の製造装置の平面図である。
【0023】
このZnO膜の製造装置は、ZnO膜が形成されるべき基板(ウェハ)2が配置される設置台3と、設置台3を収容する反応容器1とを備えている。本例では、反応容器1内には、第1原料収容部(室)R1及び第2原料収容部(室)R2が配置されているが、第1原料収容部R1及び第2原料収容部R2は、反応容器1の外側に配置されていてもよい。少なくとも、第1原料収容部R1は、反応容器1の内部に連通し、Znを含有する固体原料M1を収容する。同様に、第2原料収容部R2は、反応容器1の内部に連通し、Znを含有する固体原料M2を収容する。なお、ここでの基板2は、水熱合成法で作製された1cm角のZnO基板である。
【0024】
この製造装置は、設置台3、第1原料収容部R1、及び第2原料収容部R2を加熱する加熱手段(H3,H1、H2)を更に備えている。加熱手段は、各要素を加熱するためのヒータH1,H2,H3から構成されている。ヒータとしては、抵抗加熱、ランプ加熱、高周波加熱などが知られているが、ここでは、抵抗加熱を用いた加熱炉を採用する。ヒータH1,H2、H3は、これらへの通電によって、それぞれ第1原料収容部R1、第2原料収容部R2、及び設定台3を加熱する。
【0025】
Znを含有する固体原料は、本例では、金属Znであるが、結果に大きな影響を与えない程度の不純物を含有することが可能である。反応容器1は、常圧(1気圧(atm))で用いられるものであるが、減圧環境とすることも可能である。第1ガス(塩素ガス等)A1、第2ガス(キャリアガス等)A2は、それぞれ相対的に低温の第1原料収容部R1及び相対的に高温の第2原料収容部R2を介して、矢印の方向に沿って、反応容器1内に導入することができる。
【0026】
第1ガスA1は、第1供給管P1を介して、第1原料収容部R1内に導入され、ここで固体原料と反応した後、反応容器1の内部に配置された基板2の方向へと流れる。第2ガスA2は、第2供給管P2を介して、第2原料収容部R2内に導入され、ここで固体原料と反応した後、反応容器1の内部に配置された基板2の方向へと流れる。
【0027】
また、第3ガスA3、第4ガスA4は、それぞれ第3供給管P3及び第4供給管P4をそれぞれ介して、反応容器1内に流れ、基板2に向けて流れる。反応容器1には、排気装置が接続されており、内部の気体は、排気管PEを介して、外部に排出される。
【0028】
なお、設置台3は、設置台3を先端に固定した搬送アーム(ロッド)4によって、反応容器1内に搬送される。もちろん、設置台3は、反応容器1内に固定しておき、基板の搬送アーム4が、基板2を設置台3上まで搬送した後、反応容器1の外部に退避する構成とすることも可能である。反応容器1には、必要に応じて、外部との基板の出し入れを行うロードロック室や、他の材料の処理を行う処理装置(スパッタ装置などの成膜装置、エッチング装置など)を設けることができる。
【0029】
図2は、第1のZnO膜の製造装置を変形した製造装置の平面図である。
【0030】
図1の装置では、第3供給管P3は、反応容器1の側面に接続され、水平方向に延びていたが、本例では、第3供給管P3は、反応容器の底面に接続され、垂直方向に延びている。第3供給管P3は、反応容器1から垂直方向に延びたのち、水平に延びることとしてもよい。なお、他の供給管の接続位置も、反応容器1の側面、底面或いは上面に変更することが可能である。
【0031】
図3は、
図2に示す製造装置の第1ガス供給管P1を通る縦断面構成を示す図である。
【0032】
第1ガス供給源G1は、第1流量制御装置C1を介して、第1供給管P1に接続され、第1供給管P1は、第1原料収容部R1に接続され、そのガス出射口が基板2の方向を向いている。
【0033】
第3ガス供給源G3は、第3流量制御装置C3を介して、第3供給管P3に接続され、第3供給管P3は、反応容器1内に連通している。導入された第3ガスA3は、基板2方向へ流れる。また、図示しないキャリアガス供給源から、第4ガスA4が反応容器内に導入され、第4ガスA4は基板2の方向へと流れる。
【0034】
図4は、
図2に示す製造装置の第2ガス供給管P2を通る縦断面構成を示す図である。
【0035】
第2ガス供給源G2は、第2流量制御装置C2を介して、第2供給管P2に接続され、第2供給管P2は、第2原料収容部R2に接続され、そのガス出射口が基板2の方向を向いている。反応容器1内に導入されたガスは、排気管PEを介して、排気装置EX1によって排気される。
【0036】
図3及び
図4に示す制御装置CONTは、第1原料収容部R1の温度T1、第2原料収容部R2の温度T2、基板2の配置された設置台3の温度T3が、ZnO膜の成膜時において、T1<T2<T3の関係を満たすように、加熱手段(H1,H2,H3)を制御する。また、ZnO膜の成膜時においては、第1ガス供給源(塩素ガス供給源)G1から第1原料収容部R1に供給される塩素ガスの流量を制御し、且つ、第3ガス供給源(酸素ガス供給源)G3から反応容器1内に供給される酸素ガスの流量を制御する。制御装置CONTは、ヒータH1,H2,H3,流量制御装置C1,C2,C3を制御している。
【0037】
また、第2ガス供給源G2は、第2原料収容部R2にキャリアガス(N
2)を供給するキャリアガス供給源である。本装置では、第1原料収容部R1と、第2原料収容部R2とは、これらから出射されるガスの流量を互いに独立して制御することができ、且つ、第1原料収容部R1からのガスの出射方向と、第2原料収容部R2からのガスの出射方向が異なるよう、離間して配置されている。
【0038】
ここで、第2ガス供給源G2(キャリアガス供給源)からのキャリアガスは、Znが気体化(昇華)した場合、これを基板2方向に輸送することができる。このキャリアガス供給源が、塩素ガスを含有することとしてもよい。すなわち、少なくとも第1原料収容部R1には、塩素ガスが塩素ガス供給源から供給されているが、第2原料収容部R2に塩素ガスを供給することもできる。
【0039】
第1ガスA1、第2ガスA2、第3ガスA3、第4ガスA4は、具体的には、以下の通りである。第1ガスA1は塩素ガスと窒素ガスを含むものである。第2ガスA2は窒素ガスを含むが、塩素ガスを含むこともできる。第3ガスA3は酸素ガスであるが、窒素ガスを含むこともできる。第4ガスA4は、窒素ガスである。なお、キャリアガスとしての窒素ガスは、代わりにアルゴンなどの不活性ガスを用いることもできる。
【0040】
図5は、第1原料収容部及び基板を、これらの位置と温度の関係を示すグラフと共に示す図である。
【0041】
反応容器1内の径方向の位置Xを、ガスの上流から順番に、X1,X2,X3,X4とする。第1原料収容部1に関して、位置X1は、第1原料収容部R1のガス導入口の位置、位置X2は、第1原料収容部R1のガス出射口の位置、位置X3は、基板2の重心位置、位置X4は、重心位置X3に対して、位置X2とは逆側の位置である。
【0042】
第1原料収容部R1を含む領域X1〜X2においては、固体原料M1の配置される領域の温度は一定(低温)T1であり、設置台3と基板2を含む領域X2〜X4においては、温度は一定(高温)T3である。
【0043】
図6は、第2原料収容部及び基板を、これらの位置と温度の関係を示すグラフと共に示す図である。
【0044】
第2原料収容部2に関して、位置X1は、第2原料収容部R2のガス導入口の位置、位置X2は、第2原料収容部R2のガス出射口の位置、位置X3は、基板2の重心位置、位置X4は、重心位置X3に対して、位置X2とは逆側の位置である。
【0045】
第2原料収容部R2を含む領域X1〜X2においては、固体原料M2の配置される領域の温度は一定(中温)T2であり、設置台3と基板2を含む領域X2〜X4においては、温度は一定(高温)T3である。
【0046】
この製造装置によれば、ZnO成膜時の温度T1,T2が異なる第1及び第2原料収容部R1,R2が存在しており、少なくとも一方の第1原料収容部R1に塩素ガスが供給される。そうすると、Zn固体原料M1(M2)と塩素ガス(Cl
2)との反応によって、ZnCl
2が生成される。また、加熱によってZn自身が気体化し、基板2の表面上で酸素ガスと反応する。なお、温度T1は、ZnCl
2の生成に求められる温度であり、温度T2は、Znの気化(昇華)に求められる温度である。これら2種類のZn系材料(ZnCl
2、Zn)と酸素とが反応することで、高品質なZnO膜を製造することが可能となる。なぜならば、基板上において、ZnCl
2+0.5O
2=ZnO+Cl
2の膜成長反応が進む際に、この反応系に気体となるZnが供給されると、Zn+Cl
2=ZnCl
2の反応が生じて、上記膜成長反応が促進される。そうでない場合にはCl
2によるエッチング反応が生じて、膜成長反応が阻害される。かかる原理を用いて、気体のZnをZnCl
2とは別の箇所から供給することで、高品質のZnO膜が製造できる。
【0047】
なお、温度T1,T2,T3の設定可能範囲は以下の通りである。
200℃≦T1≦420℃
300℃≦T2≦600℃
600℃≦T3≦1000℃
【0048】
なお、原料収容部R1,R2においては、(s)を固体、(g)を気体として、以下の2種類の反応が生じる。なお、P
0は、初期分圧を示している。
Zn(s)+Cl
2(g)→ZnCl
2(g)…(1)
Zn(s)→Zn(g)…(2)
【0049】
また、基板表面においては、以下の反応が生じる。
ZnCl
2(g)+0.5O
2(g)→ZnO(s)+Cl
2(g)…(3)
Zn(g)+0.5O
2(g)→ZnO(s)…(4)
【0050】
また、各ガスの圧力Pは、以下の関係を有している。
P(Cl
2)+P(ZnCl
2)+P(Zn)+P(O
2)+P(N
2)=1…(5)
P
0(ZnCl
2)−P(ZnCl
2)−P(Zn)=2P
0(O
2)−2P
0(O
2)…(6)
P
0(ZnCl
2)=P(ZnCl
2)+P(Cl
2)…(7)
【0051】
図7は、第2のZnO膜の製造装置の縦断面構成を示す図である。
【0052】
第2のZnO膜の製造装置は、
図2〜
図4に示した第1の製造装置として、第1原料収容部R1と、第2原料収容部R2とは、第1原料収容部R1を通ったガスが、第2原料収容部R2内を通るように連続している点が異なり、その他の点は、同一である。同図では、第1原料収容部R1と、第2原料収容部R2とは、連結管Jを用いて接続されている。また、第1の製造装置において用いた第1及び第2ガス供給源は、共通ガス供給源G12に置換されることになる。共通ガス供給源G12は、共通流量制御装置C12を介して、供給管P12に接続され、供給管P12は第1原料収容部R1に接続され、第1原料収容部R1は連結管Jを介して、第2原料収容部R2に接続されている。
【0053】
共通ガス供給源G12からは、塩素ガスと窒素ガスの混合ガスが供給され、共通ガスA12(塩素ガス)は、第1原料収容部R1の固体原料M1と反応し、続いて、第2原料収容部R2の固体原料M2と接触して、その出射口から基板2に向けて移動する。各原料収容部R1,R2は、ヒータH1,H2によって加熱され、基板2及び設置台3はヒータH3によって加熱される。
【0054】
図7に示す制御装置CONTは、第1原料収容部R1の温度T1、第2原料収容部R2の温度T2、基板2の配置された設置台3の温度T3が、ZnO膜の成膜時において、T1<T2<T3の関係を満たすように、加熱手段(H1,H2,H3)を制御する。また、ZnO膜の成膜時においては、共通ガス供給源(塩素ガス供給源)G12から第1及び第2原料収容部R1,R2に供給される塩素ガスの流量を制御し、且つ、第3ガス供給源(酸素ガス供給源)G3から反応容器1内に供給される酸素ガスの流量を制御する。制御装置CONTは、ヒータH1,H2,H3,流量制御装置C12,C3を制御している。
【0055】
この製造装置においても、上述の装置と同様に、Zn固体原料と塩素ガス(Cl
2)との反応によって、ZnCl
2が生成され、また、加熱によってZn自身が気体化(昇華)し、基板表面上で酸素ガスと反応する。これら2種類のZn系材料(ZnCl
2、Zn)と酸素とが反応することで、高品質なZnO膜を製造することが可能となる。なお、温度T1は、ZnCl
2の生成に求められる温度であり、温度T2は、Znの気化(昇華)に求められる温度である。上述のように、基板上において、ZnCl
2+0.5O
2=ZnO+Cl
2の膜成長反応が進む際に、この反応系に気体となるZnが供給されると、Zn+Cl
2=ZnCl
2の反応が生じて、上記膜成長反応が促進される。そうでない場合にはCl
2によるエッチング反応が生じて、膜成長反応が阻害される。気体のZnは、ZnCl
2とは別の箇所から供給されるが、双方の気体が同一の経路を通ることを妨げる理由はなく、高品質のZnO膜が製造できることが確認された。
【0056】
図8は、第1及び第2原料収容部及び基板を、これらの位置と温度の関係を示すグラフと共に示す図である。
【0057】
反応容器1内の径方向の位置Xを、ガスの上流から順番に、X0,X1,X2,X3,X4とする。位置X0は、第1原料収容部R1のガス導入口の位置、位置X1は、第1原料収容部R1のガス出射口の位置、位置X2は、第2原料収容部R2のガス出射口の位置、
位置X3は、基板2の重心位置、位置X4は、重心位置X3に対して、位置X2とは逆側の位置である。
【0058】
第1原料収容部R1を含む領域X0〜X1においては、固体原料M1の配置される領域の温度は一定(低温)T1であり、第2原料収容部R2を含む領域X1〜X2においては、固体原料M2の配置される領域の温度は基板に近づくにつれ高くなっている。すなわち、領域X1〜X2においては、温度勾配を有しており、面内の温度の平均値は(中温)T2である。設置台3と基板2を含む領域X2〜X4においては、温度は一定(高温)T3である。いずれにしても、T1<T2<T3が満たされている。なお、温度T1,T2は各固体原料M1,M2の配置されるそれぞれの領域内の温度の平均値、T3は基板温度の面内の平均値である。
【0059】
図9は、第2のZnO膜の製造装置を変形した製造装置の縦断面構成を示す図である。
【0060】
この装置は、
図7に示した製造装置において、連結管Jを除き、第1原料収容部R1と第2原料収容部R2の底面がフラットに連続したものである。この場合、全体の原料収容部の長さ方向の中点位置を第1及び第2原料収容部R1,R2の境界位置Bとすることができる。その他の構成は、
図7及び
図9に示したものと同一である。
【0061】
図10は、
図9に示すZnO膜の製造装置を変形した製造装置の縦断面構成を示す図である。
【0062】
この製造装置においては、
図9に示した製造装置と比較して、第1原料収容部R1と、第2原料収容部R2とは、第1原料収容部R1を通ったガスが、第2原料収容部R2内を通るように連続している点では同一である。一方、本例では、第1及び2原料収容部R1、R2の底面ISは、この底面よりも上方に位置する水平面(例:供給管P12の軸に平行な水平面)からの深さが、第2原料収容部R2のガス出射口に向かうにしたがって深くなるように、傾斜している。他の点は、
図9に示した製造装置と同一である。
【0063】
この場合、Znを含有する固体原料M1、M2は、底面ISに沿って、重力により、ガス出射口に近い方に近づいてくる。したがって、固体原料M1,M2の量が変動しても、高い再現性で固体原料M1,M2を配置することができ、固体原料位置のばらつきを抑え、ZnO膜の品質を安定化させることができる。
【0064】
上述の製造装置(
図9)を用いてZnO膜を製造した。製造条件は、以下の通りである。なお、分圧は、基板表面直上の近傍領域(表面から1cm以内)の圧力を示す。なお、この実験においては、反応容器1として石英管10を用いた。
【0065】
(サンプル1)
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=2.2E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=5.1E−2(atm)
・N
2分圧=9.5E−1(atm)
・成長時間=60分
・VI/II=447
【0066】
図11は、上述の製造装置(
図9)を用いて製造したZnO膜の表面の顕微鏡像を示す図である。第2原料収容部R2から反応容器1内に供給された原料ガスは、基板表面において、酸素ガスと反応し、基板上にZnO膜を形成する。同図では、基板表面上における原料ガスの上流側の位置(A)、中流における位置(B)、下流における位置(C)が示されている。いずれの場合も、良好なモフォロジーが観察された。ZnO膜の表面粗さを、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定した。この場合、表面粗さ(二乗平均平方根(RMS))は、上流において0.128nm、中流において0.128nm、下流において0.122nmであった。すなわち、位置に拘らず、表面粗さは一定であり、また、非常に平坦な表面を得ることができた。
【0067】
図12は、X線回折測定におけるX線入射方向に対するX線回折方向の角度ω(°)と強度(a.u.)の関係を示すグラフである。測定試料は、上記サンプル1である。
【0068】
グラフ(A)では、FWHM=18(arcsec)が得られている。測定したZnO膜の結晶方位(Tilt)は(002)である。この値は、基板のFWHMと比較しても、殆ど変化がなく、非常に高品質な結晶が得られていることが分かる。なお、全てのサンプルにおいて、下地となるZnO基板は、その結晶方位、すなわち面方位(002)に関するX線回折ピークのFWHMが、17(arcsec)であり、水熱合成したn形ZnO基板である。
【0069】
グラフ(B)の場合、FWHM=13(arcsec)が得られている。測定したZnO膜の結晶方位(Twist)は(101)である。この値は、基板のFWHMと比較しても、殆ど変化がなく、非常に高品質な結晶が得られていることが分かる。なお、特許文献1のFWHMは、最高でも1200(arcsec)であり、本実施形態のZnO膜は、従来のZnO膜と比較して、非常に高品質であることが分かる。
【0070】
なお、サンプル1の製造条件における比率VI/II(=6族の酸素(O)のモル濃度/2族の亜鉛(Zn)のモル濃度)と成長時間のみを変更した場合のサンプルのFWHMは、以下の通りであった。
【0071】
(サンプル2)
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=2.2E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=1.3E−1(atm)
・N
2分圧=8.7E−1(atm)
・成長時間=60分
・VI/II=1140
【0072】
なお、サンプル測定時の結晶方位がTilt(002)の場合を(A)、Twist (101)の場合を(B)とする。
(A);FWHM=20(arcsec)
(B);FWHM=13(arcsec)
【0073】
(サンプル3)
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=2.2E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=1.3E−1(atm)
・N
2分圧=8.7E−1(atm)
・成長時間=360分
・VI/II=1140
【0074】
なお、サンプル測定時の結晶方位がTilt(002)の場合を(A)、Twist (101)の場合を(B)とする。
(A);FWHM=18(arcsec)
(B);FWHM=13(arcsec)
【0075】
(サンプル4)
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=2.2E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=1.3E−1(atm)
・N
2分圧=8.7E−1(atm)
・成長時間=540分
・VI/II=1140
【0076】
なお、サンプル測定時の結晶方位がTilt(002)の場合を(A)、Twist (101)の場合を(B)とする。
(A);FWHM=46(arcsec)
(B);FWHM=30(arcsec)
【0077】
図13は、ZnO膜内の深さ(μm)と不純物濃度(cm
−3)との関係を示すグラフである。このZnO膜は、サンプル3である。
【0078】
この測定は、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて行った。同図(A)は、Cs
+イオンを照射して、H,C,Si,Clの元素分析を行った結果であり、同図(B)は、O
2+イオンを照射して、Li,Al,Gaの元素分析を行った結果である。C,H,Clなどの不純物は、バックグラウンドレベルであり、非常に良質なZnO膜が形成されていることが分かる。同図(B)においてAlの濃度が上昇しているが、これは、ZnO基板が水熱合成法で作製したものであるため、Alが混入している。ZnO膜には、Alは存在していないので、ZnO膜の厚みは1.27μmであることが分かる。
【0080】
図14は、C-V測定用のMOSダイオードの構造を示す図である。
【0081】
ZnO基板2上に、ZnO膜2Aを成長させ、ZnO膜2A上に絶縁膜SOGを形成し、この上に直径100μmの電極E1をマスクを用いて形成した。基板2の下面全面には電極E2を形成した。ZnO膜2Aの厚みは2.1μm、絶縁膜SOGの厚みは200nm、電極材料はTi(10nm)/Au(200nm)を用い、電極は蒸着法を用いて形成した。絶縁膜SOGは、スピンオンガラス材料であり、東京応化工業(株)製のOCDT−12であり、スピンオンガラス材料の塗布後に400℃、30分の加熱を行って形成した。なお、このZnO膜は、サンプル4である。
【0082】
下面電極E2をグランドに接続し、上面電極E1に加える電圧を変化させて、容量(F/cm
2)を測定した。
【0083】
図15は、電圧(V)と単位面積当たりの容量(F/cm
2)との関係を示すグラフである。正の電圧が印加されると、容量は増加し、5V以上では一定値に飽和している。このことからZnO成長膜がn形結晶であることが分かる。この曲線から、アンドープの場合のキャリア濃度を計算することができる。この場合のキャリア濃度は、7.6×10
15(cm
−3)であり、十分に低く、大きな欠陥がないことが分かった。
【0084】
図16は、ZnCl
2供給分圧(atm)と成長速度(μm/h)との関係を示すグラフである。分圧は、基板表面直上の近傍領域(表面から1cm以内)の圧力を示す。データD0〜D5が同グラフ中にプロットしてある。データD4のみは、他の実測データD0,D1,D2,D3,D5から推定される曲線(点線)上の成長速度=0(μm/h)の場合の仮想データである。
【0085】
各データD0,D1,D2,D3,D5を得るための条件は、以下の通りである。なお、VI/II(=6族の酸素(O)のモル濃度/2族の亜鉛(Zn)のモル濃度)は、D0以外1200に固定した。
【0086】
(サンプル(データD0))
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=0(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=1.3E−1(atm)
・N
2分圧=8.7E−1(atm)
・成長時間=60分
【0087】
(サンプル(データD1))
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=8.8E−5(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=6.6E−2(atm)
・N
2分圧=9.3E−1(atm)
・成長時間=60分
【0088】
(サンプル(データD2))
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=2.2E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=1.3E−1(atm)
・N
2分圧=8.7E−1(atm)
・成長時間=60分
【0089】
(サンプル(データD3))
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=3.3E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=2E−1(atm)
・N
2分圧=8E−1(atm)
・成長時間=60分
【0090】
(サンプル(データD5))
・反応容器内圧力=1(atm)
・基板2:ZnO基板
・共通ガスA12:Cl
2+N
2
・第3ガスA3:O
2+N
2
・温度T1=380℃
・温度T2=400℃
・温度T3=1000℃
・ZnCl
2分圧=4.4E−4(atm)
・Zn分圧=8E−6(atm)
・O
2分圧=2.6E−1(atm)
・N
2分圧=7.4E−1(atm)
・成長時間=60分
【0091】
上述の結果によれば、Cl
2の供給量を増加させると、成長速度が低下し、エッチングが進行することが分かる。
【0092】
すなわち、データD1〜D4を観察すると、ZnO膜を成長させるためには、制御装置CONTは、共通ガス供給源(塩素ガス供給源)G12から供給される塩素ガス(Cl
2)の量を制御し、塩化亜鉛ガス(ZnCl
2)の分圧を、基板表面の直上の近傍領域において、8.8×10
−5気圧以上3.6×10
−4気圧(=D4におけるZnCl
2分圧)以下に設定することが好ましい。塩化亜鉛ガスの分圧が、当該下限以上においては、ZnO膜は成長するが、当該上限を超えるとZnO膜のエッチングが始まり、ZnO膜が成長しないからである。なお、データD0に示すように、塩化亜鉛ガス(ZnCl
2)の分圧が0気圧(以上)の場合においても、ZnO膜は成長する。
【0093】
また、データD1〜D3を観察すると、制御装置CONTは、共通ガス供給源(塩素ガス供給源)G12から供給される塩素ガスの量を制御し、塩化亜鉛ガス(ZnCl
2)の分圧を、基板表面の直上の近傍領域において、8.8×10
−5気圧以上3.3×10
−4気圧以下に設定することが好ましい。塩素ガスの分圧が、当該範囲内においては、十分にZnO膜が成長するからである。
【0094】
また、データD1〜D2を観察すると、制御装置CONTは、共通ガス供給源(塩素ガス供給源)G12から供給される塩素ガスの量を制御し、塩化亜鉛ガスの分圧を、基板表面の直上の近傍領域おいて、8.8×10
−5気圧以上2.2×10
−4気圧以下に設定することが好ましい。塩素亜鉛ガスの分圧が、当該範囲内においては、ZnO膜の成長速度が一定となり、安定した制御が可能となるからである。
【0095】
なお、以下では、ZnO膜成長における考察について説明する。
【0096】
図17は、温度T(℃)とZn分圧(atm)との関係を示すグラフ(蒸気圧曲線)である。温度Tの上昇に伴って、固体原料から直接昇華して気体となるZnが発生する。温度Tが330℃を超えた場合、少しずつZnが気体化することがわかる。
【0097】
図18は、上記VI/IIと成長速度(μm/h)との関係を示すグラフである。実線は計算によって求めた理論曲線である。Zn分圧が上昇するにしたがって、成長速度は増加することが分かる。ZnO基板の温度T3=1000℃、原料収容部におけるCl
2供給分圧2.2×10
−4(atm)とし、金属Znを原料収容部内に配置して、データを測定した。なお、T1=380℃、T2(平均値)=400℃である。その他は、サンプル1の形成条件と同じである。
【0098】
Zn分圧が0(atm)の場合、上述の(3)の反応式のみが進行すると考えられるが、実際には、温度330℃以上ではZnが蒸発し、(4)の反応も進行する。また、VI/IIが500以下ではZn分圧は7.4×10
−6〜8.5×10
−6(atm)である。VI/IIが1000以上では、成長速度が低下するが、これはO
2分圧が増大することで、気相でZn原子がO
2と反応しているものと考えることができる。
【0099】
図19は、熱平衡解析により求めたZnCl
2供給分圧(atm)とCl
2分圧(atm)との関係を示すグラフである。
【0100】
上述の成長速度の考察から、Cl
2量が増加すると、成長速度が低下することが判明した。同グラフは、未反応のCl
2供給量を加えて計算したものである。この結果から、Cl
2供給量を増加させると、Znとは反応しないCl
2が増加し、この未反応のCl
2によって、ZnO膜がエッチングされていることが分かる。
【0101】
図20は、ZnO膜の成膜の時間(hour)と、厚み(μm)及び成長速度(μm/h)との関係を示すグラフである。サンプルの作製条件は、データD2のサンプルのものと同一である。時間の経過とともに、安定して厚みが増加していることが分かる。すなわち、成長速度は、ほぼ一定である。
【0102】
図21(A)は、温度T(℃)と成長速度(μm/h)との関係を示すグラフである。サンプルの作製条件は、データD2のサンプルのものと同一である。VI/II=1200とし、Cl
2供給量2.2×10
−4(atm)とし、基板温度T3を変化させた。これにより、温度に対する明確な傾向が観察される。この反応は、表面反応律速であると考えられる。
【0103】
なお、上記成長速度は、基板の中心における成長速度である。また、
図21(B)は、基板位置(cm)と成長速度(μm/h)との関係を示すグラフである。基板上の位置が遠くなると、成長速度は僅かに低下する。なお、基板位置の原点はZnCl
2の成長領域への吹き出し部であり、ZnCl
2の流れる下流に向けて、位置が大きくなるとする。
【0104】
その他、各種のデータの測定を行った。
図22及び
図23は、各種条件毎のZnO膜の特性を示す図表である。サンプルの条件は、各種変数(温度T3、ZnCl
2分圧(P(ZnCl
2)基板近傍)、成長時間(hour)、VI/II)を除き、データD2のサンプルと同一である。変数を変化させた場合、表面粗さRMS(nm)、フォトルミネッセンス(PL)スペクトルにおける近バンド端発光(NBE)のFWHM(meV)、結晶欠陥の度合い(=ディープレベルの発光強度(Deep)/NBE強度)を測定した。いずれの場合も、FWHMが小さく、また、結晶欠陥の度合いも小さいことが確認され、極めて良質なZnO膜が形成されていることが判明した。また、温度T3は800〜1000℃まで変化させることができ、ZnCl
2分圧も8.8×10
−5〜3.3×10
−4(atm)まで変化させることができ、時間は1時間から9時間まで変化させることができ、VI/IIは20〜2400まで変化させることができ、これらの場合に、優れた特性のZnO膜が得られることが判明した。
【0105】
図24は、ZnO基板表面を、オリンパス製のノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察した表面顕微鏡写真を示す図である。本例は、
図7の装置において、温度一定の単一の第1原料収容部のみを備えることとし、第2原料収容部を備えないこととしたものであり、かかる装置を用いて、ZnO膜の結晶成長を試みたものである。成長温度は、1000℃と600℃であるが、基板表面の上流側と中流のいずれにおいても、ZnOは成長しなかった。なお、基板はサファイアであり、その他の条件は、データD2のサンプルと同一である。
【0106】
図25は、ZnO基板表面を、オリンパス製のノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察した表面顕微鏡写真を示す図である。本例は、
図7の装置において、温度一定の単一の第1原料収容部のみを備えることとし、第2原料収容部を備えないこととしたものであり、かかる装置を用いて、ZnO膜の結晶成長を試みたものである。なお、同図では、塩素ガス濃度を変化させた場合毎の状態が示されている。
図24の場合において、塩素ガスの原料収容部内の濃度(モル濃度)を0.2%から10%に増加させると、更に、成長は抑制され、ZnO膜は殆ど成長しなかった。
【0107】
以上、説明したように、上述の製造装置を用いたZnO膜の製造方法は、設置台3に前記基板2を配置する設置工程と、制御装置CONTによって、塩素ガス供給源(G12、G1、G2)から第1原料収容部R1に塩素ガスを供給し、且つ、第3ガス供給源(酸素ガス供給源)G3から反応容器1内に酸素ガスを供給しつつ、第1原料収容部R1の温度T1、第2原料収容部R2の温度T2、基板2の配置された設置台3の温度T3が、T1<T2<T3の関係を満たすように、加熱手段(ヒータH1,H2,H3)を制御する成膜工程とを備えおり、この製造方法によれば、上述のように、高品質のZnO膜を製造することができる。
【0108】
また、上述のZnO膜の製造装置は、ZnO膜が形成されるべき基板が配置される設置台3と、設置台3を収容する反応容器と、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する第1原料収容部R1と、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する第2原料収容部R2と、第1原料収容部R1、及び第2原料収容部R2を加熱する加熱手段(ヒータH1,H2,H3)と、少なくとも第1原料収容部R1に塩素を含むガスを供給する第1のガス供給源と、反応容器内に酸素を含むガスを供給する第2のガス供給源(上述の第3ガス供給源G3)とを備え、第1原料収容部R1の温度T1、第2原料収容部R2の温度T2が、ZnO膜の成膜時において、T1<T2の関係を満たしている。この場合において、上述のように、高品質のZnO膜を製造することができる。なお、第2原料収容部R2への流通ガスの供給を行わず、第2原料収容部に配置された原料の基板への供給を、加熱によって、蒸気圧を上昇させるのみで行ったり、分子線エピタキシー(MBE)法を用いて供給する構造も可能である。