特許第5946136号(P5946136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5946136ヘテロ接合バイポーラトランジスタおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946136
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ヘテロ接合バイポーラトランジスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/331 20060101AFI20160621BHJP
   H01L 29/737 20060101ALI20160621BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   H01L29/72 H
   H01L21/205
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-142318(P2013-142318)
(22)【出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2015-15411(P2015-15411A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】井田 実
(72)【発明者】
【氏名】明吉 智幸
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 悠太
(72)【発明者】
【氏名】日暮 栄治
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−45925(JP,A)
【文献】 特開昭61−24275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/331
H01L 21/205
H01L 29/737
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InPからなる基板と、
前記基板の上に形成されたInPからなるコレクタ層と、
前記コレクタ層の上に接して形成されてGeからなるベース層と、
前記ベース層の上に接して形成されてInPからなるエミッタ層と
を備えることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【請求項2】
InPからなる基板の上にコレクタ層となるInPからなる第1半導体層を形成する第1工程と、
ベース層となるGeからなる第2半導体層を、表面活性化接合法により、前記第1半導体層の上に貼り合わせる第2工程と、
エミッタ層となるInPからなる第3半導体層を表面活性化接合法により、前記第2半導体層の上に貼り合わせる第3工程と
を備えることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルマニウムから構成されたベース層を備えるヘテロ接合バイポーラトランジスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor:HBT)は、その高速性から、高速電子回路への応用が進んでいる。HBTでは、ベース層をエミッタ層よりもバンドギャップが小さい材料から構成することで、価電子帯端に生じるポテンシャル障壁によりベースからエミッタへの正孔の注入を抑制するようにしている。このため、HBTでは、ベース層の不純物濃度を高くしても、高い電流利得が得られるという特徴を持つ。ベース層の不純物濃度を高くすることにより、ベース抵抗を下げることができ、これにより、高速動作および低雑音動作が達成される。
【0003】
また、上述したようなHBTのコレクタ層には、通常、ベース層と同じ材料が用いられるが、高い耐圧が必要とされる場合には、コレクタ層にもバンドギャップが広い材料が用いられる。このように、ベース層よりもバンドギャップが広い材料をコレクタ層に用いる構成は、ダブルヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Double-Heterojunction Bipolar Transistor:DHBT)と呼ばれている。
【0004】
通常、ベース層よりもバンドギャップが広い材料のみでコレクタ層を構成すると、図4に示すように、コレクタ403とベース404との接合部の伝導帯端不連続411により、ポテンシャル障壁411が生じ、ベース404からコレクタ403への電子の注入が阻害されてしまう。なお、図4において、符号405は、エミッタである。
【0005】
上述した問題を防ぐために、図5に示すように、伝導帯端のエネルギー準位がコレクタ503より大きくなる材料からベース504を構成し、コレクタ503とベース504との間を、いわゆるType−II接合とする技術もある。なお、図5において、符号505は、エミッタである。
【0006】
InPと格子整合する材料系を用いたInP系のHBTは、材料が持つ良好な電気特性により、超高速回路への適用が期待されている。InP系HBTでは、通常、ベース層には、InPと格子整合し、InPよりもバンドギャップが狭いInGaAsが用いられる。また、InPと格子整合するGaAsSbは、InPとType−II接合となるため、DHBTのベース層として用いられている(特許文献1参照)。従って、GaAsSbからベース層を構成することで、上述したコレクタ・ベース接合における伝導帯端不連続によるポテンシャル障壁の問題が解消できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−227245号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E. Higurashi et al. , "Room temperature GaN-GaAs direct bonding by argon-beam surface activation", Proceedings of SPIE, Vol. 6717, 67170L, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、InGaAsやGaAsSbは、いずれも正孔の移動度が小さいため、これら材料から構成したベース層では、不純物濃度を高くしてもベース抵抗を下げることには限界がある。このため、例えば、ベース層をGaAsSbから構成することで、上述したポテンシャル障壁の問題は解消できるが、更なる高速化を図ることが容易ではないという問題があった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、ヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、コレクタ・ベース接合におけるポテンシャル障壁の問題を解消し、かつ、更なる高速化が図れるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタは、InPからなる基板と、基板の上に形成されたInPからなるコレクタ層と、コレクタ層の上に接して形成されてGeからなるベース層と、ベース層の上に接して形成されてInPからなるエミッタ層とを備える。
【0012】
また、本発明に係るヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法は、InPからなる基板の上にコレクタ層となるInPからなる第1半導体層を形成する第1工程と、ベース層となるGeからなる第2半導体層を、表面活性化接合法により、第1半導体層の上に貼り合わせる第2工程と、エミッタ層となるInPからなる第3半導体層を表面活性化接合法により、第2半導体層の上に貼り合わせる第3工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ベース層をゲルマニウム(Ge)から構成したので、ヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、コレクタ・ベース接合におけるポテンシャル障壁の問題を解消し、かつ、更なる高速化が図れるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの構成を示す構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタにおけるコレクタ層103,ベース層104,エミッタ層105の部分のバンドギャップエネルギーの状態を示すバンド図である。
図3A図3Aは、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法を説明するための、製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図3B図3Bは、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法を説明するための、製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図3C図3Cは、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法を説明するための、製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図3D図3Dは、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法を説明するための、製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図3E図3Eは、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法を説明するための、製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図4図4は、ベース層よりもバンドギャップが広い材料でコレクタ層を構成した場合のコレクタ層403,ベース層404,エミッタ層405の部分のバンドギャップエネルギーの状態を示すバンド図である。
図5図5は、伝導帯端のエネルギー準位がコレクタ503より大きくなる材料からベース504を構成した場合のコレクタ層503,ベース層504,エミッタ層505の部分のバンドギャップエネルギーの状態を示すバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)の構成を示す構成図である。図1では、断面を模式的に示している。
【0016】
このヘテロ接合バイポーラトランジスタは、まず、InPからなる基板101の上に、サブコレクタ層102が形成され、サブコレクタ層102の上にInPからなるコレクタ層103が形成されている。また、コレクタ層103の上には、ゲルマニウム(Ge)からなるベース層104が接して形成されている。また、ベース層104の上には、InPからなるエミッタ層105が、接して形成されている。また、エミッタ層105の上には、エミッタキャップ層106が形成されている。
【0017】
ここで、例えば、コレクタ層103およびベース層104は、第1メサとされ、エミッタ層105およびエミッタキャップ層106は第2メサとされている。第2メサは、第1メサより、平面視で小さい面積とされている。このように各メサ形状が形成されている中で、第2メサの側方のサブコレクタ層102の上に、コレクタ電極111が接続されている。また、第1メサの側方のベース層104の上に、ベース電極112が接続されている。また、エミッタキャップ層106の上には、エミッタ電極113が接続されている。
【0018】
例えば、基板101は、鉄をドープすることで高抵抗とされたInPから構成すればよい。また、サブコレクタ層102は、n型の不純物が高濃度に導入されたInPおよびInGaAsから構成すればよい。また、コレクタ層103は、n型の不純物が導入されたInPから構成すればよい。また、ベース層104は、p型の不純物が導入されたGeから構成すればよい。また、エミッタ層105は、n型の不純物が導入されたInPから構成すればよい。また、エミッタキャップ層106は、n型の不純物が高濃度に導入されたInGaAsから構成すればよい。
【0019】
上述した構成とした実施の形態のヘテロ接合バイポーラトランジスタによれば、図2のバンド図に示すように、Geからなるベース層104とInPからなるコレクタ層103とのヘテロ接合は、Type−IIとなる。従って、ベース層104とコレクタ層103との接合部には、ポテンシャル障壁は形成されない。この結果、実施の形態におけるヘテロバイポーラトランジスタによれば、コレクタ層103への電流注入に問題は生じない。
【0020】
また、実施の形態によれば、InGaAsやGaAsSbに比較して正孔移動度の大きなGeからベース層104を構成したので、ベース抵抗が低減でき、ヘテロ接合バイポーラトランジスタの更なる高速化、および低雑音化が可能となる。
【0021】
次に、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法について、図3A図3Eを用いて説明する。図3A図3Eは、本発明の実施の形態におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法を説明するための、製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0022】
まず、図3Aに示すように、例えば、鉄をドープすることで高抵抗とされたInPからなる基板101の上に、n型の不純物が高濃度に導入されたInPおよびInGaAsからなるサブコレクタ層102、およびn型の不純物が導入されたInPからなるn−InP層203を形成する。これらは、例えば、よく知られた有機金属化学気相成長法(MOVPE)および分子線エピタキシャル成長法(MBE)などの堆積法で、基板101の上にエピタキシャル成長させることで形成すればよい。n−InP層203は、コレクタ層103となる。
【0023】
次に、図3Bに示すように、GeもしくはGaAsからなる他基板301の上に犠牲層302を介して形成したp型の不純物が導入されたGeからなるp−Ge層204を、表面活性化接合法によりn−InP層203に貼り合わせる。GeとInPとは、格子定数が異なるが、表面活性化接合法によれば、室温(20〜25℃)でも接合することができる(非特許文献1参照)。ここで、犠牲層302は、例えば、AlAsから構成すればよい。また、犠牲層302およびp−Ge層204は、有機金属化学気相成長法または分子線エピタキシャル成長法などの堆積法で、他基板311の上にエピタキシャル成長させることで形成できる。p−Ge層204の成長では、GeH4をソースガスとすればよい。
【0024】
次に、フッ酸系のエッチャントでウエットエッチングすることで、犠牲層302を選択的に除去して他基板301を取り除き、図3Cに示すように、基板101の上に、サブコレクタ層102,n−InP層203,およびp−Ge層204が積層された状態とする。犠牲層302は、AlAsから構成しているので、フッ酸系のエッチャントによるウエットエッチングで、p−Ge層204や他の層,基板をエッチングせずに、犠牲層302を選択的に除去することができる。
【0025】
次に、図3Dに示すように、InPからなる他基板311の上に、犠牲層312を介し、n型の不純物が高濃度に導入されたInGaAsからなるn+−InGaAs層206およびn型の不純物が導入されたInPからなるn−InP層205を形成し、n−InP層205を、表面活性化接合法によりp−Ge層204に貼り合わせる。犠牲層312は、例えば、AlAsから構成すればよい。また、犠牲層312,n+−InGaAs層206およびn−InP層205は、有機金属化学気相成長法または分子線エピタキシャル成長法などの堆積法で、他基板311の上にエピタキシャル成長させることで形成できる。
【0026】
次に、フッ酸系のエッチャントでウエットエッチングすることで、犠牲層312を選択的に除去して他基板311を取り除き、図3Eに示すように、基板101の上に、サブコレクタ層102,n−InP層203,p−Ge層204,n−InP層205,およびn+−InGaAs層206が積層された状態とする。犠牲層312は、AlAsから構成しているので、フッ酸系のエッチャントによるウエットエッチングで、n+−InGaAs層206や他の層,基板をエッチングせずに、犠牲層312を選択的に除去することができる。
【0027】
上述したように、各半導体層(第1半導体層,第2半導体層,第3半導体層)を形成した後、以下に示すように、コレクタ層,ベース層,エミッタ層を形成してヘテロ接合バイポーラトランジスタとする。まず、n+−InGaAs層206の上にエミッタ電極113を形成する。例えば、真空蒸着法やスパッタ法などにより堆積した電極金属材料の膜を、よく知られたリフトオフ法やエッチングなどによりパターニングすることで、エミッタ電極113を形成すればよい。
【0028】
次に、n−InP層205およびn+−InGaAs層206をパターニングすることで、エミッタ層105およびエミッタキャップ層106を形成し、第2メサとする。
【0029】
次に、第2メサ形成により露出したp−Ge層204の第2メサ側方に、ベース電極112を形成する。例えば、真空蒸着法やスパッタ法などにより堆積した電極金属材料の膜を、よく知られたリフトオフ法やエッチングなどによりパターニングすることで、ベース電極112を形成すればよい。
【0030】
次に、n−InP層203およびp−Ge層204をパターニングすることで、コレクタ層103およびベース層104を形成し、第1メサとする。次に、第1メサ形成により露出したサブコレクタ層102の第1メサ側方に、コレクタ電極111を形成する。例えば、真空蒸着法やスパッタ法などにより堆積した電極金属材料の膜を、よく知られたリフトオフ法やエッチングなどによりパターニングすることで、コレクタ電極111を形成すればよい。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、ベース層をGeから構成したので、ヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、コレクタ・ベース接合におけるポテンシャル障壁の問題を解消し、かつ、更なる高速化が図れるようになる。
【0032】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0033】
101…サブコレクタ層、102…サブコレクタ層、103…コレクタ層、104…ベース層、105…エミッタ層、106…エミッタキャップ層、111…コレクタ電極、112…ベース電極、113…エミッタ電極。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5