【文献】
Memoirs of the Faculty of Education and Human Studies Akita University,2003年,Vol.58,p.29-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の米粉は、下記の要件(A)〜(D)を満たすことが必要である。
(A) 米粉の粒度の累積分布による中位径(D50)が30〜80μmである;
(B) 比表面積(Sw)が1400cm
2/g以上である;
(C) 米粉のすべてが中位径D50(μm)を直径とする球体であると仮定して算出した比表面積(S
50)(cm
2/g)で、比表面積(Sw)(cm
2/g)を除した比表面積係数(Sw/S
50)が2以上である;および、
(D)澱粉損傷度が5〜10%である。
【0016】
本発明における上記の要件(A)の「米粉の粒度の累積分布による中位径(D50)」[以下単に「中位径(D50)」ということがある]は、“メジアン径”とも称される。
本発明の米粉は、50〜80μmの中位径(D50)を有しており、中位径(D50)が前記範囲であることによって、パン類の製造に用いたときに、ベタツキがなく、機械耐性に優れていて、製パン時の取り扱い性および作業性に優れるパン生地を調製することができ、しかも柔らかく、きめが細かくて良好な食味を有し、モチモチとした良好な食感を有し、側面や上面が凹むケービングが生じておらず、よく膨らんでいて良好な外観を有する高品質の米粉パン類を製造することができる。
米粉の中位径(D50)は、35〜70μmであることが好ましく、40〜60μmであることがより好ましい。
米粉の中位径(D50)が小さすぎると、製粉するための製造コストが高くなる。一方、中位径(D50)が大きすぎると、パン生地の混練時に粗大粒子がグルテン網の形成を阻害するため、焼成時にパンがよく膨らまない。
【0017】
本発明における「中位径(D50)」(メジアン径)は、米粉を分級処理して、縦軸を米粉の累積質量%とし、横軸を米粉の粒子径(μm)とする、
図1に示すような粒度の累積分布のグラフを作成したときに、縦軸の累積値が50質量%であるときの横軸の粒子径(μm)を意味する。
本発明における米粉の中位径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置である日機装株式会社製「マイクロトラック MT3300」などを使用して米粉の粒度の累積分布を測定して求めることができ、その詳細な測定方法については、以下の実施例に記載するとおりである。
【0018】
本発明の米粉の比表面積(Sw)は、1400cm
2/g以上である[要件(B)]。米粉の比表面積(Sw)が1400cm
2/g以上であることによって、パン類の製造に用いたときに、ベタツキがなく、機械耐性に優れていて製パン時の取り扱い性および作業性に優れる生地を製造することができ、しかも柔らかく、きめが細かくて良好な食味を有し、モチモチとした良好な食感を有し、側面や上面が凹むケービングが生じておらず、よく膨らんでいて良好な外観を有する高品質の米粉パン類を製造することができる。
米粉の比表面積(Sw)は、1600cm
2/g以上であることが好ましく、1700cm
2/g以上であることがより好ましい。
米粉の比表面積(Sw)が小さすぎると、パン類の製造に用いたときに生地のベタツキが生じ易くなり、また十分に膨らまずにパンの体積が小さくなり易い。
一方、米粉の比表面積(Sw)は大きすぎて困ることはないが、現在の製粉技術では比表面積(Sw)が4000cm
2/gを超す米粉は製造が困難であり、そのため米粉の比表面積(Sw)の上限値は4000cm
2/g、更には3700cm
2/g、特に3600cm
2/gであることが、製造の容易性などの点から好ましい。
【0019】
本発明における上記の要件(B)の「比表面積(Sw)」は、筒井理化学器械株式会社製のブレーン空気透過装置・粉末度測定器(比表面積測定器)などの粉粒体の比表面積測定装置を用いて測定することができ、その詳細な測定方法については、以下の実施例に記載するとおりである。
【0020】
本発明の米粉は、米粉のすべてが中位径(D50)(μm)を直径とする球体であると仮定して算出した比表面積(S
50)(cm
2/g)で、米粉の比表面積(Sw)(cm
2/g)を除した値(割った値)である比表面積係数(Sw/S
50)[以下単に「比表面積係数(Sw/S
50)」ということがある]が2以上である[要件(C)]。
本発明の米粉は、比表面積係数(Sw/S
50)が2以上であることにより、パン類の製造に用いたときに、ベタツキがなく機械耐性に優れていて、製パン時の取り扱い性および作業性に優れる生地を製造することができ、しかも柔らかく、きめが細かくて良好な食味を有し、モチモチとした良好な食感を有し、側面や上面が凹むケービングが生じていない、よく膨らんでいて良好な外観を有する高品質の米粉パン類を製造することができる。
比表面積係数(Sw/S
50)が2以上である本発明の米粉は、細胞壁がはがれて澱粉粒がむき出しとなった粒子の比率が高くなっている。一般に比表面積が大きい粉体は、コゼニー・カルマン(Kozeny-Carman)の式に表わされるように、粉体層への流体の透過・浸透速度が遅くなる。この作用により、比表面積係数の大きい米粉を主体とするパン用ミックスに水を加えたとき、粉体層内への水分の浸透が緩やかになり、米粉成分が優先して水分を奪う傾向が緩和されるため、十分な水分がグルテン成分に供給されることとなる。その結果、生地混練時に良好なグルテン網が形成され、これを焼成するとパンがよく膨らみ、製パン適性に優れるものとなる。
本発明の米粉では、比表面積係数(Sw/S
50)は、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。
比表面積係数(Sw/S
50)の値は大きいほど好ましく、そのため比表面積係数(Sw/S
50)の上限値は特に制限されないが、本発明における要件(A)、(B)および(D)を満たしながら、比表面積係数(Sw/S
50)が4を超える米粉は現在の製粉技術では製造が困難であり、そのため実用上の観点からは、米粉の比表面積係数(Sw/S
50)は4以下であることが好ましい。
【0021】
ここで、本明細書でいう米粉の比表面積係数(Sw/S
50)は、以下のようにして求めることができる。
[比表面積係数(Sw/S50)の算出方法]
(i)比表面積(Sw):
筒井理化学器械株式会社製のブレーン空気透過装置・粉末度測定器などを使用して上記した方法および以下の実施例に記載する方法で測定する。
(ii)比表面積(S
50):
日機装株式会社製「マイクロトラック MT3300」などのレーザー回折粒度分布測定装置を使用して上記した方法および以下の実施例に記載する方法で求めた米粉の中位径(D50)の値がDa(μm)であるときに、米粉を構成している全ての粒子が、直径Da(μm)を有する球体であると仮定すると、当該1個の球状の米粉の表面積Sa(μm
2)および体積Va(μm
3)が、以下の数式《1》および《2》から求められる。
1個の米粉粒子の表面積Sa(μm
2)=4π(Da/2)
2=π(Da)
2 《1》
1個の米粉粒子の体積Va(μm
3)=4/3π(Da/2)
3=π(Da)
3/6 《2》
米粉の比重をρ(g/cm
3)とすると、1個の米粉粒子の質量Wa(g)は、下記の数式《3》から求められる。
1個の米粉粒子の質量Wa(g)=(Va×10
-12)×比重ρ(g/cm
3) 《3》
なお、前記の数式《3》における「×10
-12」は、μmをcmに換算するために掛けたものである。
そして、上記の数式《1》で求められた表面積Saと上記の数式《3》で求められた質量Waから、米粉の比表面積(S
50)(cm
2/g)が下記の数式《4》によって求められる。
米粉の比表面積(S
50)(cm
2/g)=(Sa×10
-8)/Wa=[π(Da)
2×10
-8]/[{π(Da)
3/6}×10
-12×ρ]=60000/(Da×ρ) 《4》
なお、数式《4》における「×10
-8」は、μmをcmに換算するために掛けたものである。
ここで、本明細書における米粉の比表面積(S
50)(cm
2/g)は、上記の数式《3》および《4》において、米粉の比重ρ(g/cm
3)=1.4g/cm
3として求めた値である。
(iii)比表面積係数(Sw/S50):
上記(i)で測定された比表面積(Sw)を、上記(ii)で求めた比表面積(D
50)で除した値(割った値)を比表面積係数(Sw/S50)とする。
【0022】
本発明の米粉は、その澱粉損傷度が5〜10%である[要件
(D)]。
本発明の米粉は、その澱粉損傷度が前記範囲であることにより、パン類の製造に用いたときに、ベタツキがなくて取り扱い性および作業性に優れるパン生地を調製することができ、しかも柔らかく、きめが細かくて良好な食味を有し、モチモチとした良好な食感を有し、側面や上面が凹むケービングが生じにくく且つよく膨らんでいて良好な外観を有する米粉主体の高品質のパン類を製造することができる。
澱粉損傷度が5〜10%である本発明の米粉は、適度に水分を含むことができる状態になっており、焼成時に澱粉が糊化する際の水の供給源として作用して、モチモチとした良好な食感を与え、しかも当該良好な食感を長時間維持することができる。
米粉の澱粉損傷度が低すぎると、パン類の製造に用いたときに生地のべたつきがなく、作業性に優れ、得られるパンの体積が大きい反面、しっとり感およびもちもち感のない、不良な食感となる。
一方で、米粉の澱粉損傷度が高すぎると、パン類の製造に用いたときに生地がべたついて、作業性および取り扱い性が悪くなり、しかも十分に膨らまないため、得られるパンの体積が小さく、硬く不良な食感になるだけでなく、火抜けが悪く、発酵臭のこもった不良な食味になる。
【0023】
本明細書における澱粉損傷度は、Megazyme社製「STARCH DAMAGE ASSAY KIT」を用いて、それに添付されたプロトコールに従って測定した澱粉損傷度をいう。
具体的な測定方法については、以下の実施例に記載したとおりである。
【0024】
上記の要件(A)〜(D)を満たす本発明の米粉は、大きな比表面積を有し、それによって加水したときに、水が米粉中に徐々に拡散、浸透する。そのため、本発明の米粉に小麦粉などのグルテンを含有する穀粉およびグルテンを加えてパン類を製造したときに、小麦粉などのグルテンを含有する穀粉およびグルテンの吸水が阻害されず、グルテン網が良好に形成されて、ベタツキがなく、機械耐性に優れていて、製パン時の取り扱い性および作業性に優れるパン生地が形成され、当該パン生地を用いて製造されるパン類は、柔らかく、きめが細かくて良好な食味を有し、モチモチとした良好な食感を有し、側面や上面が凹むケービングが生じにくく且つ良く膨らんでいて良好な外観を有するものとなる。
【0025】
本発明の米粉は、粳米(ウルチ米)を原料とする米粉であってもよいし、モチ米を原料とする米粉であってもよいし、または粳米とモチ米の両方を原料とする米粉であってもよい。そのうちでも、本発明の米粉は、粳米を原料とする米粉であることが、原材料コスト、得られるパン類のスライス性、ケービング防止の点から好ましい。
【0026】
本発明の米粉の製造方法は特に制限されず、上記の要件(A)〜(D)を満たす米粉を製造できる限りはいずれの方法で製造してもよいが、本発明の米粉は、原料米(米粒)への加水処理→気流式粉砕機による粉砕→乾燥という工程を経て米粉を製造する際に、粉砕機中での滞留時間、粉砕機における粉砕ロータの回転数や分級ロータの回転数、粉砕機に供給する米の水分含量などを調整することによって製造することができ、例えば、粉砕機における米の滞留時間を長くする方法などを挙げることができる。
具体的な方法としては、
(I) 粉砕ロータとは別駆動の分級ロータを有する分級機構内蔵の気流式粉砕機を使用して、加水または加水・調湿した原料米(米粒)を粉砕し、その際に原料米の水分含量、粉砕ロータの回転速度、分級ロータの回転速度を調整して粉砕処理を行ない、粉砕機から排出された米粉を乾燥して本発明の米粉を製造する方法;
(II) 気流式粉砕機により粉砕された粉体を連続的に別体の分級機で分級し、粗粉成分を連続的に粉砕機に戻して再粉砕し、微粉成分のみを製品として排出するような閉回路粉砕分級システムを構築し、加水または加水・調湿した原料米(米粒)を閉回路中での滞留時間を通常よりも長くしながら粉砕し、得られた米粉を乾燥して本発明の米粉を製造する方法;
(III) 加水または加水・調湿した原料米(米粒)を、粉砕領域を通過する粉体粒子の流れを妨げるような改変を施した気流式粉砕機に供給して、粉砕機内での滞留時間を通常よりも長くしながら粉砕を行い、粉砕機から排出された米粉を乾燥して本発明の米粉を製造する方法;
などを挙げることができる。
【0027】
上記した(I)〜(III)の方法において、原料米(米粒)の吸水または吸水・調湿処理は、一般に、粉砕機に供給する時点での米粒の水分含量が20〜32質量%、特に28〜30質量%程度になるように、5〜20℃の温度下で行うことが好ましい。米粒における吸水量を前記範囲にすることによって、米粒の粉砕を円滑に行うことができる。吸水量が少なすぎると、粒度が大きいかまたは澱粉損傷が高い米粉となり易く、一方吸水量が多すぎると、粉砕機内壁への米粉の付着により粉砕機の動力異常または閉塞の原因となり易い。
原料米(米粒)の吸水または吸水・調湿処理は、限定されるものではないが、例えば、水への浸漬→水からの取り出し、水への浸漬→水からの取り出し→テンパリングなどの工程によって行なうことができる。
【0028】
無洗米を使用する場合は、水洗処理を行わずにそのまま直接吸水・調湿処理を行うことができるが、精白米を使用する場合は、水洗処理を行って米粒に付着している糠などを除去した後に吸水・調湿処理を行うことが好ましい。
【0029】
また、上記(I)〜(III)の方法において、吸水した米粒の粉砕および分級は、一般に、10〜90℃の温度下で行うことが、米粉の変質防止、品質の安定などの点から好ましい。
【0030】
上記(I)〜(III)の方法で米粉を製造するに当たって、原料米(米粒)に加水する前に原料米(米粒)を熱処理して米粒の表面に微細な亀裂を生じさせ、その後に加水処理を行って、吸水した米粒を粉砕すると、本発明における上記の要件(A)〜(D)を満たしながら製パン適性に一層優れる米粉を一層円滑に製造することができる。
原料米(米粒)の表面に微細な亀裂を生じさせるための熱処理としては、米粒の水分含量が10〜13質量%程度になるまで、40〜50℃の温風や高周波を利用して乾燥する方法などを挙げることができる。
【0031】
上記(I)の方法によって米粉を製造するに当たっては、粉砕ロータの回転速度、分級ロータの回転速度、粉砕機中での滞留時間などは、分級機能付き気流式粉砕機の形式、構造、全体および各部の大きさ、分級機能付き気流式粉砕機への米粒の供給量、などに応じて調節するとよい。
限定されるものではないが、例えば、分級機能付き気流式粉砕機の1つであるホソカワミクロン社製「ACM−15H」を用いて米粉を製造する場合は、当該粉砕機の粉砕ロータの回転速度を3000〜5500rpmとし、分級ロータの回転速度を500〜3000rpmとし、吸水した米粒の1時間当たりの供給量を20〜40kgとして粉砕、分級を行うと、要件(A)〜(D)を満たす本発明の米粉を円滑に製造することができる。
【0032】
また、上記(III)の方法によって米粉を製造するに当たっては、粉砕機中での滞留時間を通常よりも長くする方法は、気流式粉砕機の構造、機種などによって異なり得るが、例えば、気流式粉砕機の内部を通過させる気流の風量を低くする方法、気流式粉砕機への被粉砕物の供給速度を低くする方法、気流式粉砕機中に設けた回転軸に対して傾斜した粉砕ブレードを通常とは逆の方向に回転させる方法などを挙げることができる。
何ら限定されるものではないが、例えば、分級機構を持たない気流式粉砕機の1種である日清エンジニアリング株式会社製「BM−15」を用いて米粉を製造する場合には、当該粉砕機が有する回転軸に対して傾斜して設けたブレードを有する粉砕ロータを通常とは逆方向に回転させる(粉砕物の排出を妨げる方向)に回転させることによって、粉砕機中での滞留時間が通常よりも長くなる。
当該粉砕機を使用する場合は、粉砕ロータを逆方向に、6000〜14000rpmの回転速度で回転しながら、粉砕機への吸水した米粒の1時間当たりの供給量を10〜20kgとして粉砕、分級を行うと、要件(A)〜(D)を満たす本発明の米粉を円滑に製造することができる。
【0033】
本発明の米粉は、製パン適性に優れているため、パン類を製造するための原料粉として有効に使用することができ、かかる点から、本発明は、上記の要件(A)〜(D)を満たす米粉を含有するパン用米粉組成物を包含する。
パン類の製造に当たっては、原料粉(パン製造用穀粉)として本発明の米粉のみを用いてもよいが、小麦粉、ライ麦などのパン類の製造に従来から用いられている穀粉と併用することが好ましく、特に小麦粉と併用することが好ましい。
小麦粉と併用することによって、ベタツキがなく、機械耐性に優れていて製パン時の取り扱い性および作業性に優れるパン生地を形成でき、しかも焼後のパンの側面や上面が凹むケービングが生じにくく、良く膨らんでいて外観に優れ、きめが揃っていて食味に優れ、米粉パンらしいモチモチとした食感・食味を有する高品質の米粉パン類を製造することができる。
【0034】
本発明の米粉と小麦粉を併用するに当たっては、両者の使用割合は特に制限されず、米粉を小麦粉よりも多く用いてもよいし、米粉と小麦粉を同じ量で用いてもよいし、または小麦粉を米粉よりも多く用いてもよい。
従来の米粉では、上記したように、米粉を小麦粉よりも多く使用してパンを製造すると、米粉が優先的に水分を奪い、小麦粉中のグルテンに充分な量の水分が供給されなくなって適切なグルテン網が形成されなくなり、それに伴ってパン生地のベタツキが生じ、機械耐性が低下して製パン時の取り扱い性や作業性が悪くなり、しかも十分に膨らまずに重くて硬いパンとなったり、キメの粗い、食感および食味の不良なパンとなったり、パンの側面や上面が凹むケービングが発生するなどの問題が生じ易いものであった。
それに対して、本発明の米粉を用いると、米粉を小麦粉と同量または小麦粉よりも多く使用しても、或いは米粉のみを用いても、米粉の吸水が遅いために、小麦粉の吸水が妨げられずグルテン網が良好に形成されて、ベタツキがなく、機械耐性に優れていて製パン時の取り扱い性および作業性に優れるとパン生地が形成され、それによって側面や上面が凹むケービングが生じず、十分に膨らんだ、外観、食感および食味に優れる高品質の米粉パンを得ることができる。
そのため、本発明の米粉を用いることによって、米粉の割合が小麦粉と等量または小麦粉よりも多い米粉パンであっても円滑に製造することができる。
かかる点から、本発明は、上記の要件(A)〜(D)を満たす米粉と小麦粉を、当該米:小麦粉=50:50〜100:0の質量比、特に50:50〜70:30の質量比で含有するパン用米粉組成物を好ましい態様として包含する。
【0035】
上記の要件(A)〜(D)を満たす本発明の米粉を用いてパン類を製造するに当たっては、グルテン(小麦粉に含まれるグルテンとは別体のグルテン自体)をさらに添加してもよいしまたは添加しなくてもよいが、グルテンを更に添加すると、パン生地の特性および得られるパン類の外観、食感および食味が一層良好になる。
グルテンを添加する場合は、パン類の製造に用いる全穀粉(グルテンは含まない)100質量部に対してグルテンを5〜20質量部、特に5〜15質量部、更には5〜12質量部の割合で添加することが好ましい。
グルテンの添加量が多くなりすぎると、グルテン網が強くなりすぎて、硬くて伸びの小さい生地になり、それに伴って十分に膨らまず、硬いパンになり易い。
かかる点から、本発明は、上記の要件(A)〜(D)を満たす米粉と共にパン用米粉組成物中に含まれる全穀粉(グルテンを含まず)100質量部に対してグルテンを5〜12質量部の割合で含有するパン用米粉組成物を好ましい態様として包含する。
【0036】
本発明のパン用米粉組成物は、米粉、小麦粉以外に、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等およびこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の澱粉類;糖類;卵粉;油脂類;乳化剤;イーストフード;食塩等の無機塩類等の通常パン製造に用いる副資材を含有することができる。
【0037】
本発明の米粉を用いてパン類を製造する際の製パン方法は特に制限されず、従来から採用されている製パン方法のいずれもが採用でき、例えば、中種法、ストレート法、水種法、冷蔵法、酒種法などの製パン法を挙げることができる。
また、本発明の米粉を用いて、冷蔵パン生地、冷凍パン生地などを製造してもよい。
【0038】
本発明の米粉を用いてパン類を製造する際の製パン条件は特に制限されず、製パン方法、製パン原料の種類、配合組成、製造するパンの種類などに応じて、それぞれに適した条件を採用することができる。
【0039】
本発明の米粉を用いて製造するパン類の種類は特に限定されず、例えば、食パン;バターロール、ホットドッグロール、ディナーロールなどのソフトロール類;カイザーロールなどのハードロール類;フランスパン類;スイートロール、デニッシュペストリー、バンズ、パネトーネ、シュトーレン、ブリオッシュ、クロワッサンなどの欧米式菓子パン類;あんパン、ジャムパン、クリームパンなどの日本式菓子パン類;カレーパン、ピロシキ、ドーナツなどの揚げパン類などを挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、米粉の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度は、以下の方法で求めた。
【0041】
(1)米粉の中位径(D50):
レーザー回折粒度分布測定装置である日機装株式会社製「マイクロトラック MT3300II」を使用して、ターボトラックドライフィーダ(TDF)による乾式粒度測定の操作を行って、分散空気圧力0.2MPaの条件下で米粉の粒度の累積分布を測定して、その中位径(D50)(メジアン径)(μm)を求めた。
【0042】
(2)米粉の比表面積(Sw):
筒井理化学器械株式会社製のブレーン空気透過装置・粉末度測定器(比表面積測定器)を使用して、比表面積試験用標準物質 102M(普通ポルトランドセメント、比表面積3370cm
2/g) を標準物質とした空気透過時間測定の操作を行って、米粉の真比重を1.4として米粉の比表面積(cm
2/g)を測定した。
【0043】
(3)米粉の比表面積係数(Sw/S
50):
上記した方法で数式《1》〜《4》を用いて米粉のすべてが中位径(D50)(μm)の球体であると仮定して算出した比表面積(S
50)(cm
2/g)を求め、上記(2)の方法で得られた比表面積(Sw)(cm
2/g)を当該比表面積(S
50)(cm
2/g)で除して、米粉の比表面積係数(Sw/S
50)を求めた。
【0044】
(4)米粉の澱粉損傷度:
Megazyme社製「STARCH DAMAGE ASSAY KIT」を使用して、当該キットに添付されたプロトコールに従って、株式会社日立製作所製「U―2000A 吸光光度計」にて510nmにおける吸光度を測定することにより、澱粉損傷度(%)を求めた。
【0045】
《実施例1》[米粉の製造]
○
実験番号1a[米粉(A−1a)の製造]:
(1) 原料米(新潟県産コシヒカリ)15kgを(株)井関邦栄製造所製電子自動洗米機「POLISH BOY RW−150」を用いて、温度11℃の水で3分間洗米した後、温度11℃の水に20分間浸漬し、ついて水から取り出して、ザルに入れた状態で気温14℃湿度58%の大気中に静置してテンパリングを行なった(このときの米の水分含量=30質量%)。
(2) 上記(1)で得られた吸水・調湿した米(米粒)を、ホソカワミクロン社製「ACM−15H」(分級機能付き気流式粉砕機)に、20kg/hrの供給量で供給して、粉砕ロータの回転数4000rpmおよび分級ロータの回転数3000rpmで気流温度70℃、風量15m
3/minの条件下に粉砕して米粉[以下「米粉(A−1a)」という]を製造した[なお、米粉の水分含量が13質量%以下であったため、米粉(A−1a)の製造に当たっては粉砕後の乾燥処理を省略した)。
(3) 上記(2)で得られた米粉(A−1a)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0046】
○
実験番号2a〜7a[米粉(A−2a)〜米粉(A−7a)の製造]:
(1) 実験番号1aにおいて、分級機能付き気流式粉砕機に供給する米(米粒)の水分含量、当該粉砕機への米(米粒)の供給量、粉砕機における粉砕ロータの回転数および/または分級ロータの回転数を下記の表1に示すように変えた以外は、実験番号1aの(1)〜(2)と同じ操作を行なって、米粉(A−2a)〜米粉(A−7a)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(A−2a)〜米粉(A−7a)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0047】
○
実験番号8a〜11a[米粉(A−8a)〜米粉(A−11a)の製造]:
(1) 原料米(新潟県産コシヒカリ)15kgを70℃の温風で5分間加熱処理して、米(米粒)の表面に微細な亀裂を生じさせた。
(2) 上記(1)で得られた表面に微細な亀裂を有する米(米粒)15kgを、株式会社井関邦栄製造所製の電子自動洗米機「POLISH BOY RW−150」を用いて、温度10℃の水で3分間洗米した後、温度10℃の水に15〜20分間浸漬し、ついて水から取り出して、ザルに入れた状態で気温14℃、湿度58%の大気中に静置してテンパリングを行なった(このときの米の水分含量=29〜30質量%)。
(3) 上記(2)で得られた加水・調湿した米(米粒)を、実験番号1aで使用したのと同じホソカワミクロン社製「ACM−15H」に、20kg/hrの供給量で供給して、表1に示す粉砕・分級条件で気流温度70℃の条件下に粉砕し粉砕機から取り出して、温度70℃で棚に静置した状態で乾燥して米粉(A−8a)〜米粉(A−11a)を製造した。
(4) 上記(3)で得られた米粉(A−8a)〜米粉(A−11a)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0048】
○
実験番号1b〜12b[米粉(A−1b)〜米粉(A−12b)の製造]:
(1) 実験番号1aにおいて、分級機能付き気流式粉砕機に供給する米(米粒)の水分含量、粉砕機における粉砕ロータの回転数および分級ロータの回転数を下記の表1に示すように変えた以外は、実験番号1aの(1)〜(2)と同じ操作を行なって、米粉(A−1b)〜米粉(A−12b)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(A−1b)〜米粉(A−12b)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0049】
○
実験番号13b〜14b[米粉(A−13b)〜米粉(A−14b)の製造]:
(1) 実験番号8a〜11aにおいて、米の表面に微細な亀裂を生じさせるための温風による加熱処理、分級機能付き気流式粉砕機に供給する米(米粒)の水分含量、当該粉砕機への米(米粒)の供給量、粉砕機における粉砕ロータの回転数および/または分級ロータの回転数を下記の表1に示すように変えた以外は、実験番号8a〜11aの(1)〜(3)と同じ操作を行なって、米粉(A−13b)〜米粉(A−14b)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(A−13b)〜米粉(A−14b)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0050】
《実施例2》[米粉の製造]
○
実験番号12a[米粉(B−12a)の製造]:
(1) 原料米(新潟県産コシヒカリ)15kgを株式会社井関邦栄製造所製の電子自動洗米機「POLISH BOY RW−150」を用いて、温度10℃の水で3分間洗米した後、温度12℃の水に20分間浸漬し、ついて水から取り出して、ザルに入れた状態で気温14℃、湿度58%の大気中に静置してテンパリングを行なった(このときの米の水分含量=30質量%)。
(2) 上記(1)で得られた加水・調湿した米(米粒)を、日清エンジニアリング株式会社製ブレードミル「BM−15」に、10kg/hrの供給量で供給して、回転軸に対して傾斜して設けたブレードミルを通常とは逆方向(粉砕物の排出を妨げる方向)に回転数8000rpmで回転させながら、気流温度32℃の条件下に粉砕した後、温度70℃で静置した状態で乾燥して米粉[以下「米粉(B−12a)」という]を製造した。
(3) 上記(2)で得られた米粉(B−12a)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0051】
○
実験番号13a〜21a[米粉(B−13a)〜米粉(B−21a)の製造]:
(1) 実験番号12aにおいて、粉砕機(ブレードミル)に供給する米(米粒)の水分含量、粉砕機におけるブレードミルの回転数を下記の表2に示すように変えた以外は、実験番号12aの(1)〜(2)と同じ操作を行なって、米粉(B−13a)〜米粉(B−21a)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(B−13a)〜米粉(B−21a)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0052】
○
実験番号15b〜17b[米粉(B−15b)〜米粉(B−17b)の製造]:
(1) 実験番号11aにおいて、粉砕機(ブレードミル)に供給する米(米粒)の水分含量、粉砕機におけるブレードミルの回転方向および/またはブレードミルの回転数を下記の表2に示すように変えた以外は、実験番号12aの(1)〜(2)と同じ操作を行なって、米粉(B−15b)〜米粉(B−17b)を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(B−15b)〜米粉(B−17b)の中位径(D50)、比表面積(Sw)、比表面積係数(Sw/S
50)および澱粉損傷度を上記した方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
《実施例3》[パンの製造]
(1) 実施例1の実験番号1a〜11aおよび実験番号1b〜14bで得られたそれぞれの米粉を用いて、以下に記載する方法で、ストレート法によって山型の食パンを製造した。
【0056】
[山型の食パンの製造法]
(i) パン用小麦粉(日清製粉株式会社製「カメリヤ」)50質量部、実施例1の実験番号1a〜11aおよび実験番号1b〜14bのそれぞれで得られた米粉50質量部、バイタルグルテン8質量部、上白糖5質量部、生イースト3質量部、食塩2質量部および水80〜90質量部を混合して、低速で4分間、中高速で4分間混捏した後、ショートニング5質量部を添加し、さらに低速で2分間、中高速で5分間混捏して生地を調製した(捏上げ温度27.0℃)。
(ii) 上記(i)で得られた生地を、温度27℃および湿度75%の条件下で80分間発酵させた。
(iii) 上記(ii)で得られた発酵後の生地を、1個450gに分割して、丸め、30分間のベンチタイムをとった後、モルダーで成形してワンローフ型に詰め、温度38℃および湿度85%の条件下で45分間ホイロをとり、次いで温度210℃の条件下で30分間焼成して山型の食パンを製造した。
【0057】
上記の実施例3において、それぞれの米粉を用いて山型の食パンを製造したときの生地のベタツキの有無、パンの焼成適性(食パンの体積)および食感の評価と、総合評価を以下のようにして行なったところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0058】
(1)生地のベタツキ:
下記の(a)の評価基準にしたがって10名のパネラが点数を付し、10名の平均値をとって、以下の(b)のように判定した。
(a)
生地のベタツキの点数評価の基準:
3点:ベタツキがなく、製パン時の作業性が良好である。
2点:ややベタツキがある。
1点:ベタツキが大きく、作業性が悪く、機械耐性がない。
(b)
パン生地のベタツキの平均値による判定:
○:2.3〜3.0点
△:1.8〜2.2点
×:1.0〜1.7点
【0059】
(2)パンの焼成適性(パン体積):
実施例3で得られた食パンの体積を菜種置換法で測定して、その測定値に基づいて、以下の(a)にしたがって焼成適性を判定した。
ここで、パン体積が大きいほど、十分に膨らんでいてパン生地の焼成適性が優れていていることを示す。
(a)
パン体積による焼成適性の評価:
○:パン体積が1760cm
3以上
△:パン体積が1710cm
3以上で1760cm
3未満
×:パン体積が1710cm
3未満
【0060】
(3)食感:
下記の(a)の評価基準にしたがって10名のパネラが点数を付し、10名の平均値をとって、以下の(b)のように判定した。
なお、パン体積が1710cm
3未満の食パンについては、食感の評価を行なわなかった。
(a)
パンの食感の点数評価の基準:
3点:非常にしっとりとしていて柔らかく、米粉らしいモチモチ感が非常にある。
2点:しっとり感は少しあるが、米粉らしいモチモチ感がない。
1点:パサパサしていて硬く、米粉らしいモチモチ感がない。
(b)
パンの食感の平均値による判定:
○:2.5〜3.0点
△:2.0〜2.4点
×:1.0〜1.9点
【0061】
(4)総合判定:
以下の(a)にしたがって総合的に判定した。
(a)
総合判定の基準:
◎:上記(1)〜(3)の全てが○である。
○:上記(1)〜(3)の合計で、○が2個で△が1個である。
△:上記(1)〜(3)の合計で、○が1個以下で△が2個以上ある。
×:上記(1)〜(3)の合計で、×が1個以上ある。
【0062】
《実施例4》[パンの製造]
(1) 実施例2の実験番号12a〜21aおよび実験番号15b〜17bのそれぞれで得られた米粉を用いた以外は、実施例3と同様にして山型の食パンを製造して、実施例3と3と同様にして、生地のベタツキ、パンの焼成適性および食感の評価(判定)並びに総合判定を行ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
上記の表3および表4にみるように、上記の要件(A)〜(D)の全てを満たしている実験番号1a〜11aの米粉A−1a〜A−11aおよび実験番号12a〜21aの米粉B−12a〜B−21aのそれぞれを用いたパンを製造した場合には、生地のベタツキがなく、しかも体積が大きくて、食感に優れるパンが得られている。
これに対して、上記の要件(A)〜(D)のうちのいずれかを満たしていない実験番号1b〜14bの米粉A−1b〜A−14bおよび実験番号15b〜17bの米粉B−15b〜B−17bのそれぞれを用いたパンを製造した場合には、生地のベタツキがあったり、得られるパンの体積が小さくて焼成適性がなかったり、および/または食感が不良である。
特に、表3および表4の結果から、比表面積係数(Sw/S
50)が2よりも小さい米粉(実験番号2b、5b、7b、9b、10b、11b、14bで得られた米粉)を用いて製造したパンは、得られるパンの体積が小さいことが分かる。