【実施例】
【0029】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。
実施例1:組換えヒトオートタキシンの発現
Autotaxin−t(Genbank accession number L46720)の塩基番号1−2589(配列番号1)をヒト肝臓cDNAライブラリーよりRT−PCRを用い常法に従いクローニングした。本cDNAをバキュロウイルス用トランスファーベクターpFASTBac−1(インビトロジェン)に導入し、Bac−to−Bacシステム(インビトロジェン)を用い、全長ヒトオートタキシン発現用バキュロウイルスをプロトコールに従い調製した。クローニングした全長ヒトオートタキシンcDNAから停止コドン(TAA塩基配列2590−2592)を除去しヒスチジン6残基を追加し、ポリヒスチジンを有するポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン発現用バキュロウイルスをプロトコールに従い調製した。本バキュロウイルスを用い、常法に従い、sf9あるいはsf21などに感染させることにより全長ヒトオートタキシンおよびポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを含む発現培養上清を調製することができる。
【0030】
実施例2:ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンの精製
ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン発現用バキュロウイルスを昆虫細胞sf21細胞(5×10
5cells/mL)1Lに感染させ、28℃にて4日間培養した。培養終了後、遠心分離(3000rpmにて10分間)により細胞を分離し、さらに0.45μmのフィルターにより細胞破砕物などの沈殿物を除去した。回収した培養上清をTBS(Tris buffer saline;10mM Tris−HCl,150mM NaCl,pH7.4)により透析後、BD−TALON Metal Affinity Resin(BD Biosciences,Cat.NO.63501)金属キレートカラムを用い添付マニュアルに従い精製を行った。具体的には5mL容量のレジンをカラムに充填する。本カラムに50mMのCoCl
2溶液を50mL添加し、コバルトを結合させた。300mMのNaClを含む水溶液によりカラムを洗浄後、50mMリン酸ナトリウム、300mMのNaCl、pH7.7の水溶液(洗浄緩衝液)によりカラムを平衡化した。ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを含むサンプル50mLを添加した。100mLの洗浄緩衝液により未結合物質を洗浄し、カラム通過溶液の280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認した。10mMのイミダゾールを含む洗浄緩衝液約15ml、続いて100mMのイミダゾールを含む洗浄緩衝液により目的物をカラムから溶出した。溶出サンプルは1mLごとに回収し、各画分中のポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンの純度をSDS−PAGEにより検証した。初期画分は不純物を多く含むため回収せず、目的ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを主要に含む画分を回収混合し、精製ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン抗原として用いた。
図1はポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン精製品のSDS−PAGE像および、抗オートタキシンペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。レーンMは分子量マーカーを示す。レーン1は1μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行い、CBBにより染色した像を示す。レーン2〜5はウェスタンブロッティング像を示す。0.25μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行った後、PVDF膜に転写しPVDF膜は3%スキムミルクを含むTBSにより一昼夜ブロッキング処理を行った。TBSにより洗浄後、1%ブロックエース(大日本製薬社製)および0.05% Tween 20を含むTBSに浸透させた。レーン2は1μg/mLのラット抗オートタキシンペプチドモノクローナル抗体(アミノ酸配列49−59(配列番号2)を認識)、レーン4は1μg/mLのウサギ抗オートタキシンペプチドポリクローナル抗体(アミノ酸配列671−686(配列番号3)を認識)を加え2時間反応させた(レーン3,5のサンプルには抗体を加えない)。0.05% Tween 20を含むTBS(TBST)による洗浄後、レーン2および3のサンプルには0.3μg/mLのアルカリ性ホスファターゼ標識抗ラットIgG抗体(American Qualex社製;Cat.No.A103AT)および1%ブロックエースを含むTBSTを添加し、レーン4および5のサンプルには0.3μg/mLのアルカリ性ホスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体(Zymed社製)および1%ブロックエースを含むTBSTを添加した。2時間反応後、TBSTにより十分洗浄し、CDP−STAR(Perkin Elmer社製)を用いた化学発光を感光フィルムにより検出した。レーン1に示すとおりCBB染色像においては単一バンドとして確認された。また、抗ペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果では、アミノ酸配列49−59(配列番号2)、ならびにアミノ酸配列652−666(配列番号3)を認識する2種の抗体により検出されることより、本精製抗原が目的であるポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンであることを確認した。ウェスタンブロッティングでは2本のバンドが検出されており糖鎖の差、あるいは培養、精製過程での分解を示唆する結果が得られた。
【0031】
実施例3:モノクローナル抗体作製
ウィスター・ルイス・ラット7週令メスに対し、抗原250μgをフロイントの完全アジュバントと共に後足にエーテル麻酔下により免疫を行なった。1カ月後、ラットより鼠頚リンパ節ならびに腸骨リンパ節を採取し、B細胞を回収した。マウスミエローマ細胞株PAIとポリエチレングリコール存在下、細胞融合を常法に従い行い、約10日間のHAT培地による選択を行ない、実施例4に従い抗体産生細胞ハイブリドーマのスクリーニングにより目的抗体の選択を行った。スクリーニング陽性ウェル中の細胞を限界希釈法によりモノクローナル化を行いハイブリドーマとして樹立した。この際、HT培地により約10日間の培養を行った後、最終的にハイブリドーマ用培地により培養を続け、抗体回収のために培養上清を回収した。GIT培地(大日本住友製薬)500mLに対し、NCTC−109培地(インビトロジェン)27.5mL、不必須アミノ酸(インビトロジェン)5.5mL、ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン酸(インビトロジェン)5.5mLをろ過滅菌し添加したものをハイブリドーマ細胞培養用培地とした。本培地にHAT(Sigma−Aldrich Co.,HYBRYMAX,Cat.No.H0262)を添加したものをHAT培地として、HT(Sigma−Aldrich Co.,HYBRYMAX,Cat.No.H0137)を添加したものをHT培地として用いた。
【0032】
実施例4:ハイブリドーマスクリーニング
抗ラットイムノグロブリン抗体(American Qualex,Cat.No.A103UT)を96穴イムノプレート(MaxiSorp;Nalge NUNC International,Cat.No.430341)に250ng/ウェルにてコーティングした。具体的には、抗ラットイムノグロブリン抗体をTBSにより希釈し、5μg/mL溶液を調製した。本溶液を50μL/ウェルにてイムノプレートに添加し、4℃にて一昼夜保存した。続いてTBSにより3回の洗浄後、3%−ウシ血清アルブミン(BSA;bovine serum albumin)を含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置した。TBSにより3回洗浄を行い、ハイブリドーマ細胞の培養上清を50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行なった後、0.6μg/mLのポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、続いて1μg/mLのHisProbe−HRP(Pierce Bioctechnology,Inc.,Cat.No.15165)、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し室温30分放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、TMB基質(Kirkegaard & Perry Laboratories,Inc.,Cat.No.50−76−00)を50μl/ウェルで添加し室温30分放置した。1N−リン酸にて反応を停止しOD450の吸光度を測定した。この際、ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを含まず、それ以外の操作を同時に行なったものを対照データとして取得しバックグラウンドとした。対照データに対しポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン存在下で反応性を示したものを陽性クローンとして選択し、限界希釈によりモノクローナル抗体産生細胞株の樹立を行った。
【0033】
実施例5:抗体精製とビオチン標識
モノクローン化した抗体産生細胞の培養上清を回収し、HiTrap Protein G HP(GEヘルスケア バイオサイエンス(株),Cat.No.17−0405−01)により抗体の精製を行った。PBS(phosphate buffer saline;10mM リン酸、150mM NaCl、pH7.4)で緩衝液置換した上記カラムに対し、培養上清を流速20mL/minにて通過させた。カラム容量の5倍以上のPBSにより十分カラムを洗浄し、未結合蛋白質の除去を行った。この際、カラムを通過した緩衝液のOD280による吸光度が0.01以下になったことを確認することにより、未結合蛋白質が残っていないことの確認が可能である。カラム洗浄後、100mM グリシン、pH2.5溶出液により結合抗体を溶出させた。溶出抗体は速やかに1/10容量の1M Tris、pH8を添加し、中性にするとともにTBSにより速やかに透析を行った。精製抗体の一部は抗体評価用にEZ−Link Sulfo−NHS−LC−LC−biotin(Pierce Bioctechnology,Inc.,Cat.No.21338)によりビオチンによる標識を行った。
【0034】
実施例6:モノクローナル抗体のヒトオートタキシンに対する反応性評価
実施例5により精製を行ったモノクローナル抗体のヒトオートタキシンに対する反応性を直接イムノプレートにヒトオートタキシンをコーティングした際の反応性と溶液中に存在するヒトオートタキシンへの反応性の2通りの方法で検証した。はじめにイムノプレートにヒトオートタキシンをコーティングした実施例を示す。精製した組換え全長ヒトオートタキシンを50ng/ウェル(1μg/mL溶液を50μL/ウェル)にて96穴イムノプレート(maxiSorp;Nalge NUNC International,Cat.No.430341)に添加し、4℃にて一昼夜保存しコーティングを行った。続いてTBSにより3回の洗浄後、3%−BSAを含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置しブロッキングを行った。TBSにより3回洗浄を行い、1μg/mLの精製抗体および1% BSAを含むTBSTを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行なった後、0.3μg/mLのHRP標識ヤギ抗ラットIgG抗体、1% BSAを含むTBSTを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、TMB基質を50μl/ウェルで添加し室温30分放置した。1N−リン酸により反応を停止しOD450の吸光度を測定した結果を
図2に示す。縦軸にモノクローナル抗体の種類を、横軸に450nmの吸光度を示す。
【0035】
続いて、溶液中のヒトオートタキシンに対する反応性を実施例4にならい検証した結果を示す。抗ラットイムノグロブリン抗体を96穴イムノプレート(MaxiSorp)に250ng/ウェルにてコーティングした。TBSにより3回の洗浄後、3%−BSAを含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置しブロッキングした。TBSにより3回洗浄を行い、10μg/mL濃度の精製抗体を50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行なった後、0.6μg/mLのポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、続いて1μg/mLのHisProbe−HRP、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し、室温で30分放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、TMB基質を50μl/ウェルで添加し、室温で30分放置した。1N−リン酸により反応を停止しOD450の吸光度を測定した結果を
図3に示す。縦軸にモノクローナル抗体の種類を、横軸に450nmの吸光度を示す。また、バックグランドは抗ヒトオートタキシン抗体を含まない緩衝液での反応性を示す。
【0036】
図2,3の結果は通常のモノクローナル抗体作製時のスクリーニング方法である抗原を結合させたELISA方法においては、今回得られた血清中に存在するような天然形態のヒトオートタキシンを効率よく捕捉可能な抗体群の取得が非常に困難であることを示している。
【0037】
実施例7:モノクローナル抗体による血清中のリゾホスフォリパーゼD活性の吸収
抗体による血清中ヒトオートタキシンの吸収を血清リゾホスフォリパーゼD活性の吸収により検証した。抗ラットIgG抗体が固定化された磁性微粒子BioMag Goat Anti−Rat IgG Fc(QIAGEN,Cat.No.310144)50μL(50%サスペンジョン溶液)に対し精製抗ヒトオートタキシン抗体10μgを添加し、抗ヒトオートタキシン固定化磁性微粒子を準備した。未反応の抗体をTBSTにより洗浄後、TBSTにより4倍希釈したヒト血清200μLを添加し、2時間反応させた。反応後、磁石により磁性微粒子を除去し上清中のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した。抗ヒトオートタキシン抗体未添加の抗ラットIgG抗体が固定化磁性微粒子により処理を行ったヒト血清のリゾホスフォリパーゼD活性に対する活性の阻害率を検証した結果を
図4に示す。縦軸にモノクローナル抗体の種類を、横軸に活性阻害率(吸収率)を示す。活性吸収率は抗ヒトオートタキシン抗体を含まない緩衝液での残存活性に対する阻害活性を示す。リゾホスフォリパーゼD活性測定はFEBS letters 571,197−204,2004を若干変更し行った。具体的には、サンプル20μLと2mMのリゾホスファチジルコリン(14:0−リゾホスファチジルコリン)、100mM Tris−HCl、500mM NaCl、5mM MgCl
2、0.05% Triton X−100(pH9.0)を含む基質溶液20μLを混合し、37℃にて6時間から一昼夜反応させた。続いて本酵素反応により生成したコリンを定量するため、0.5mM TOOS(N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−3−メチルアニリン)、10Unit/mL 西洋ワサビペルオキシダーゼ、0.01% Triton X−100、100mM Tris−HCl(pH8.0)からなるR1溶液150μLを加え5分間放置した後、1mM 4−アミノアンチピリン、10Unit/mL コリンオキシダーゼ、0.01% Triton X−100、100mM Tris−HCl(pH8.0)からなるR2溶液50μLを加えた。30分後、既知濃度塩化コリンを対象に550nmの吸光度を測定し活性値とした。抗体R10.30およびR10.31を除く抗体では吸収性能を発揮しており、実施例6におけるHisProbeを用いた溶液中の天然形態のヒトオートタキシンの結合性能を反映した結果を示しており、抗原を直接イムノプレートに結合させた結果を反映しない。抗体R10.30およびR10.31において血清から吸収性能とHisProbe−HRPを用いた測定での差は組換えヒトオートタキシンと血清中に存在するヒトオートタキシンの構造あるいは存在状態に差がありこれら抗体が血清中のヒトオートタキシンを認識できないことが推測される。
【0038】
実施例8:モノクローナル抗体の他動物種オートタキシンへの反応性確認
実施例5により精製した代表的な抗体による動物血清中オートタキシンへの反応性を血清リゾホスフォリパーゼD活性の吸収により検証した。ストレプトアビジンが固定化された磁性微粒子BioMagストレプトアビジン(QIAGEN,Cat.No.311711)20μL(50%サスペンジョン溶液)に対し実施例5で作製したビオチン標識抗ヒトオートタキシン抗体10μgを添加し、抗ヒトオートタキシン固定化磁性微粒子を準備した。未反応の抗体をTBSTにより洗浄後、TBSTにより2.5倍希釈した動物血清125μLを添加し、2時間反応させた。反応後、磁石により磁性微粒子を除去し、上清中のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した。抗ヒトオートタキシン抗体未添加のストレプトアビジン固定化磁性微粒子により処理を行った動物血清のリゾホスフォリパーゼD活性に対する活性の阻害率を検証した結果を
図5および表1に示す。縦軸に動物血清の種類を、横軸に活性阻害率(吸収率)を示す。活性吸収率は抗ヒトオートタキシン抗体を含まない緩衝液での残存活性に対する阻害活性を示す。R10.23に代表されるようにヒトオートタキシンに特異的な抗体から、何種かの動物オートタキシンと交差反応性を示すものまで多様性に富んだ抗体群が取得できた。エピトープ位置の詳細な解析を、オートタキシン断片を大腸菌発現させた抗原を用いて試みたが、ほとんど全ての抗体が可溶性オートタキシン断片と反応性を示さず、エピトープの特定に至らなかった。しかし、取得したモノクローナル抗体はヒトオートタキシン上の異なるエピトープを認識する抗体群で構成されていることが予想され2抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイ構築が可能性を示唆する結果を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例9:ヒトオートタキシン標準品の調製
実施例5で精製した抗体を用い抗体固定化担体を作製し、抗原の精製ならびにヒト血清から抗原の除去を行なったヒトオートタキシンゼロ血清の調製を行った。これらを材料として用いヒトオートタキシン免疫測定に用いる標準品(ヒトオートタキシン既知濃度サンプル)の調製を行った。具体的には実施例5に従い精製を行ったモノクローナル抗体R10.23をHiTrap NHS−活性化5mLカラム(GEヘルスケア バイオサイエンス(株),Cat.No.17−0717−01)に対し25mgの抗体をマニュアルに従い結合させた。本R10.23結合カラムを用い、0.8μmのフィルターにより不純物を除去したヒト血清200mLを1mL/minの流速で送液しカラム素通り画分を回収した。本素通り画分中のヒトオートタキシンは実施例6記載のELISA測定法において反応性を示さないことを確認した。本品を標準品作製用のベース血清としさらに、ゼロ濃度標準品とした。精製抗原の調製は昆虫細胞・バキュロウイルス系で発現させた全長ヒトオートタキシンを材料に行った。培養上清1LをR10.23結合カラムに流速1mL/minの流速にて送液し、続いてPBSにより未結合蛋白質の洗浄を行った。カラムを通過したPBSの280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認し、続いて100mMグリシン緩衝液pH3.5を用い結合蛋白質を溶出させた。溶出液は1/10容量の1M−Tris pH8.0を添加することにより中性に戻した後、TBSにより速やかに透析処理を行なった。
図6は全長ヒトオートタキシン精製品のSDS−PAGE像および、抗オートタキシンペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。図中レーンMは分子量マーカーを示す。レーン1は1μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行い、CBBにより染色した像を示す。レーン2〜5はウェスタンブロッティング像を示す。すなわち0.25μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行った後、PVDF膜に転写した。ブロッキング処理後、レーン2はラット抗オートタキシンペプチドモノクローナル抗体(アミノ酸配列49−59を認識(配列番号2)、レーン4はウサギ抗オートタキシンペプチドポリクローナル抗体(アミノ酸配列671−686(配列番号2)を認識)、レーン3,5は抗ヒトオートタキシンを含まない非特異的結合検出のためのバックグラウンドとして検出を行った。精製抗原はCBB染色像においては2本バンドとして確認され、抗ペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングにおいては実施例2同様分子量105kDa付近に2本以上のバンドが検出されており糖鎖の差、あるいは培養、精製過程での分解を示唆する結果が得られた。本精製全長ヒトオートタキシンをBCA蛋白定量キット(Pierce Biotechnology,Inc.,Cat.No.23225)により濃度測定し、ヒトオートタキシン濃度とした。本精製ヒトオートタキシン抗原を上記ヒトオートタキシン除去ヒト血清に添加し既知濃度標準品を調製した。
【0041】
実施例10:サンドイッチELISA測定系用抗体組み合わせの選択
精製抗体ならびにビオチン標識抗体を用い、サンドイッチELISA測定系が構築可能な抗体の組み合わせ評価を行なった。96穴イムノプレート(NUNC)に、精製抗体2μg/mLを含むTBS溶液を50μL/ウェルにて添加し、一昼夜、4℃にて抗体プレートに結合させる。TBSにより3回洗浄後、実施例9により精製した組換え全長ヒトオートタキシンをELISAアッセイ緩衝液(3% BSA、10mM MgCl
2、0.1% Tween 20を含むTBS)にて精製ヒトオートタキシン100ng/mLになるよう希釈し、50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間放置後、TBSTにより4回洗浄し、0.8μg/mLのビオチン標識抗体を含むELISAアッセイ緩衝液を50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間放置後、TBSTにより4回洗浄し、1000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Zymed社製)を含むELISAアッセイ緩衝液を50μL/ウェルにて添加した。1時間室温で放置後、TBSTにより6回洗浄し、TMB基質を50μL/ウェルで添加した。室温10分後、1N−リン酸により反応を停止しOD450の吸光度を測定した。
図7に代表的な結果を示す。R10.21およびR10.23に関してそれぞれをイムノプレートに1次抗体としてコーティングし、ヒトオートタキシンと反応させた後、他の抗体群を用いて2抗体サンドイッチELISAにより反応性を検出した結果を上段(左
図R10.21、右
図R10.23をプレートコートした際の結果)を示す。また、同様に取得抗体群をイムノプレートに1次抗体としてコーティングし、R10.21およびR10.23を2次抗体として用い反応性を検出した結果を下段(左
図R10.21、右
図R10.23を検出用2次抗体とした際の結果)に示す。横軸は使用した抗体(上段:2次抗体、下段:1次抗体)、縦軸は450nmの吸光度による反応性を示す。グラフ上段、下段の比較より同じ抗体の組み合わせにおいても1次抗体、2次抗体の用い方により反応性を示す場合、示さない場合が確認された。
図8に取得した抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAでの反応性の一覧を示した。本結果で反応性を示さないものは、サンドイッチELISA構築が不可能である組み合わせを示しており、反応性を示した組み合わせは構築可能なことを示唆している。横方向にイムノプレートに結合させた1次抗体を、縦方向に2次抗体の名称を示している。また、表中の数値は450nmの吸光度を示しており、−は吸光度0.5以下を示している。組み合わせ評価全529通りのうち0.5以上の反応性を示した組み合わせは、16通りであり、全体の約3%であった。また、実施例6との関連で
図2に示したヒトオートタキシンを直接イムノプレートに結合させたELISAに反応性を示したR10.16、R10.48、R10.49の3種のモノクローナル抗体を用いた組み合わせではサンドイッチELISAを構築できなかった。すなわち、ヒトオートタキシンを直接イムノプレートに結合させた通常のスクリーニング方法により取得した抗体ではサンドイッチELISAを構築できない、あるいは構築することが非常に困難であることを示唆しており、本発明の手法による抗体スクリーニング方法は非常に効果的な手法であることを示している。
【0042】
実施例11:2ステップサンドイッチELISA測定法によるヒトオートタキシンの定量 実施例9で反応性を示した抗ヒトオートタキシン抗体の組み合わせを用い、2ステップ2抗体サンドイッチELISAによる血清中のヒトオートタキシン測定系を構築した。固相用抗体としてR10.23を用い、2次抗体としてR10.21を用い測定系の検証を行った。固相用抗体R10.23はペプシン消化によりF(ab)
2化し使用した。実施例9と同様にR10.23を96穴イムノプレート(NUNC社製)に2μg/mL濃度で50μL/ウェルにて添加し、一昼夜、4℃にてプレートに結合させた。TBSにより3回洗浄後、3% BSAを含むTBSを250μL/ウェルで添加し2時間ブロッキング処理を行った。TBSにより3回洗浄後、実施例10で作製した標準品ならびに濃度未知のヒト血清をELISAアッセイ緩衝液で1/5に希釈し50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間反応後、TBSTにより4回洗浄し、0.8μg/mLのビオチン標識R10.21を含むELISAアッセイ緩衝液を50μL/ウェル添加した。室温で2時間放置後、TBSTにより4回洗浄し、1000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Zymed社製)を含むELISA緩衝液を50μL/ウェル添加した。1時間室温放置後、TBSTにより6回洗浄し、TMB基質を50μL/ウェルで添加した。室温30分後、1N−リン酸により反応を停止し450nmの吸光度を測定した。
図9にヒトオートタキシン既知濃度の標準品6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)による検量線を示す。検量線の回帰は3次回帰により行った。ヒトオートタキシン濃度依存的に450nmの吸光度上昇が確認された。本検量線を用い未知濃度のヒト血清で得られた450nmの吸光度より検体中のヒトオートタキシンの濃度を算出した。また、測定に用いたヒト血清中のリゾホスフォリパーゼD活性を実施例7に従い決定し、ヒトオートタキシン濃度との相関性を検証した。
図10はヒト血清42検体の結果を示しており、横軸にリゾホスフォリパーゼD活性を、縦軸にヒトオートタキシン濃度を示す。血清中のヒトオートタキシン濃度とリゾホスフォリパーゼD酵素活性は相関係数r=0.8934と良好な相関関係を示しており、本サンドイッチELISA法により血清中のオートタキシン濃度定量が可能なことが示された。
【0043】
実施例12:1ステップサンドイッチELISA測定法によるヒトオートタキシンの定量 実施例10で反応性を示した抗ヒトオートタキシン抗体の組み合わせを用い、2抗体1ステップサンドイッチELISAによる血清中のヒトオートタキシン測定系を構築した。固相用抗体としてR10.23を用い、2次抗体としてR10.21を用い測定系の検証を行った。固相用抗体R10.23はF(ab)
2化し使用した。2次抗体となるR10.21はアルカリ性ホスファターゼとSulfo−SMCCを用い酵素標識を行なった。実施例9と同様にR10.23を96穴イムノプレート(NUNC社製)に2μg/mLで添加し、一昼夜、4℃にてプレートに結合させた。TBSにより3回洗浄後、3% BSAを含むTBSを250μL/ウェルで添加し2時間ブロッキング処理を行った。0.57μg/mLのアルカリ性ホスファターゼ標識R10.21を含むELISAアッセイ緩衝液をTBS 50μl/ウェルで添加し、速やかに−40℃にて凍結した。一昼夜をかけて減圧下凍結乾燥品とし、1ステップサンドイッチELISA測定試薬を作製した。測定は、実施例10で作製した標準品ならびに濃度未知のヒト血清を0.125% Tween 20水溶液により1/5倍希釈し50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間反応後、TBSTにより4回洗浄し、TMB基質を50μL/ウェルで添加した。室温30分後、1N−リン酸により反応を停止し450nmの吸光度を測定した。
図11にヒトオートタキシン既知濃度の標準品6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)による検量線を示す。検量線の回帰は3次回帰により行った。ヒトオートタキシン濃度依存的に450nmの吸光度上昇が確認された。本検量線を用い未知濃度のヒト血清で得られた450nmの吸光度より検体中のヒトオートタキシンの濃度を算出した。また、測定に用いたヒト血清中のリゾホスフォリパーゼD活性を実施例7に従い決定し、ヒトオートタキシン濃度との相関性を検証した。
図12は横軸にリゾホスフォリパーゼD活性を、縦軸にヒトオートタキシン濃度を示す。血清中のヒトオートタキシン濃度とリゾホスフォリパーゼD酵素活性は相関係数r=0.9185と良好な相関関係を示しており、本サンドイッチELISA法により血清中のオートタキシン濃度定量が可能なことが示された。
【0044】
実施例13:1ステップサンドイッチELISA測定法による癌患者検体のヒトオートタキシンの定量と診断
健常人検体および癌患者血清検体のヒトオートタキシン濃度の定量を行い、健常人に対する有意差を検証した。癌患者血清としては、前立腺癌マーカーPSA(Prostare Specific Antigen)、消化器癌マーカーCA19−9、乳癌マーカーCA153、卵巣癌マーカーCA125がカットオフを超える検体を用い、実施例12に従い1ステップサンドイッチELISAを実施した。それぞれの癌マーカーは全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600II(Tosoh Corporation)、ならびに体外診断薬として製造承認を得ている各マーカー測定試薬を用い実施した。癌患者血清の陽性判断は、PSA(>10ng/mL)、CA19−9(>38ng/mL)、CA153(>23ng/mL)、CA125(>32ng/nL)とした。
図13および表2に結果を示す。健常人血清中オートタキシン濃度に対し、いずれの癌検体群も有意(p<0.001)に高値を示した。本結果より、血清中のオートタキシン濃度定量は癌の診断に有効であることが示された。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例14:1ステップサンドイッチELISA測定法による慢性肝疾患患者検体のヒトオートタキシンの定量と診断
健常人検体146検体および慢性肝疾患(CLD:Chronic liver disease)患者血清検体29検体のヒトオートタキシン濃度の定量を行い、健常人に対する有意差を検証した。実施例12に従い1ステップサンドイッチELISAを実施した。
図14に結果を示す。健常人(149検体)及び慢性肝疾患群(27検体)の測定値平均±標準偏差はそれぞれ、0.756±0.045、0.1866±1.244ng/mLであり、有意差p<0.0001を示した。また、表3に慢性肝疾患患者検体17例を用い既存肝疾患マーカーであるヒアルロン酸、血清アルブミン、総ビリルビン濃度、血小板数、プロトロンビン時間を測定値とオートタキシン濃度との関係を示した。いずれの既存マーカーに対してもヒトオートタキシン濃度は相関性を示した。本結果より、血清中のオートタキシン濃度定量は慢性肝疾患の診断あるいは診断補助に有効であり、かつその疾患の程度を反映することが示された。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例15:ヒト精漿の測定
健常人精漿中のオートタキシンの定量とリゾホスフォリパーゼD活性測定を行った。オートタキシンの定量は、全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600II(承認番号13B3X90002000003)を用いて行った。2抗体1ステップサンドイッチ測定試薬は、実施例12同様、固相用抗体としてF(ab)
2化R10.23を1.2μg、2次抗体としてアルカリ性ホスファターゼ標識R10.21を0.57μg用い、5%ゼラチン、10mM MgCl2を含むELISAアッセイ緩衝液50μLを測定カップに分注し、一昼夜凍結乾燥を行った。本測定試薬を用い、自動化装置により測定を行った。測定条件は、20μLの検体と130μLの0.1% Triton X−100溶液を測定カップに分注し、37℃にて10分間反応を行った。反応後コハク酸緩衝液により洗浄後、4−メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し、アルカリ性ホスファターゼにより分解、生成した4−メチルウンベリフェロンの単位時間当たりの生成濃度を測定することにより定量を行った。ヒトオートタキシン既知濃度の標準品6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)による検量線を用いた際の、健常人オートタキシン濃度は0.164μg/mLであった。一方、実施例7に従い、精漿中のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した結果、
図15左に示すとおり、基質であるリゾホスファチジルコリン存在、非存在下においてコリン生成量に大きな差が認められず、10倍希釈した精漿においても非常に高値を示した。基質非存在下で高値を示すことより、内在性のコリンを測定していることが推測され、その測定値から健常人精漿中のコリン濃度は、約40mMと非常に高濃度であり、実施例7によるリゾホスフォリパーゼD活性測定時の基質濃度が2mMであることより、本コリン濃度を排除した測定を行うためには、精漿検体を1000倍程度希釈する必要がある。本希釈操作によりオートタキシンも同時に希釈されるため、酵素活性測定には長時間が必要であることが予測される。精漿中のリゾホスフォリパーゼD高値活性が内在性コリンによるものであることを確認するため、精漿検体を8時間TBSにて充分透析し低分子物質を除去した後のリゾホスフォリパーゼD活性を
図15中央に示す。透析により、高値を示していたリゾホスフォリパーゼD活性であるコリン生成量は1/100程度まで低下した。また、透析後の精漿のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した結果、
図15右に示すとおり、基質非存在下に対し基質存在下で酵素活性を確認できた。基質非存在下では、反応温度4℃での酵素反応を停止制御した際の測定値と同等であった。これら、結果より、精漿中には非常に高濃度のコリンが存在し、コリン生成度を指標としたリゾホスフォリパーゼD活性測定は困難であり、本発明による免疫測定方法によりはじめて定量可能なことを示す結果である。
【0049】
実施例16:オートタキシン測定試薬の調製
水不溶性担体(内部にフェライトを練り込んだ粒子径約1.5mmのエチレンビニルアルコール性)に抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を100ng/担体になるように37℃にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて40℃、4時間ブロッキングを行ない抗体固定化担体とした。標識抗体は抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.21)をペプシン処理によりF(ab)2化した後、SPDP(N-スクシニミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネート)を用いアルカリ性ホスファターゼと結合させ酵素標識抗体とした。磁力透過性の容器(容量1.2mL)に12個の抗体固定化担体を入れた後、1μg/mLの標識抗体を含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)50μLを容器に添加し凍結乾燥を施しオートタキシン測定試薬とした。オートタキシン測定試薬は窒素充填下密閉封印シールを施し測定まで4℃にて保管した。
【0050】
実施例17:ヒトオートタキシン標準品の調製
抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を用い抗体固定化担体を作製し、抗原の精製ならびにヒト血清から抗原の除去を行なったヒトオートタキシンゼロ血清の調製を行った。これらを材料として用いヒトオートタキシン免疫測定に用いる標準品(ヒトオートタキシン既知濃度サンプル)の調製を行った。具体的にはR10.23をHiTrap NHS−活性化5mLカラム(GEヘルスサイエンス,Cat.No.17−0717−01)に対し25mgの抗体をマニュアルに従い結合させた。本R10.23結合カラムを用い、0.8μmのフィルターにより不純物を除去したヒト血清200mLを1mL/minの流速で送液しカラム素通り画分を回収した。本素通り画分中のヒトオートタキシンは実施例16記載の測定試薬にて反応性を示さないことを確認した。本品を標準品作製用のベース血清としさらに、ゼロ濃度標準品とした。精製抗原の調製は昆虫細胞・バキュロウイルス系で発現させた全長ヒトオートタキシンを材料に行った。培養上清1LをR10.23結合カラムに流速1mL/minの流速にて送液し、続いてPBSにより未結合蛋白質の洗浄を行った。カラムを通過したPBSの280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認し、続いて100mMグリシン緩衝液pH3.5を用い結合蛋白質を溶出させた。溶出液は1/10容量の1M−Tris pH8.0を添加することにより中性に戻した後、TBSにより速やかに透析処理を行なった。精製全長ヒトオートタキシンをBCA蛋白定量キット(Pierce Biotechnology,Inc.,Cat.No.23225)により濃度測定し、ヒトオートタキシン濃度とした。本精製ヒトオートタキシン抗原を上記ヒトオートタキシン除去ヒト血清に添加し既知濃度標準品を調製した。
【0051】
実施例18:オートタキシン測定試薬の評価
実施例16にて作製したオートタキシン測定試薬を用い実施例17で作製した標準品を用い試薬性能評価を実施した。評価用装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-1800(東ソー株式会社製:製造販売届出番号13B3X90002000002)を用いた。標準品濃度は0、0.313、0.625、1.25、2.5及び5.0μg/mLの6濃度標準品を使用した。全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-1800の測定原理は標準品あるいはヒト血清検体20μLと界面活性剤を含む希釈液130μLを実施例16で作製したオートタキシン測定試薬容器に自動で分注される。37℃恒温下10分間の抗原抗体反応を経て、界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄が行われた後、4−メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(nmol/L・sec)とする。標準品測定時の測定値を表4に、そしてそれを用いた検量線を
図16に示す。また、本検量線およびゼロ濃度標準品の(平均値+2×標準偏差)より算出した最小検出感度は110ng/mLであった。
【0052】
【表4】
【0053】
実施例19:オートタキシン測定試薬の再現性試験
オートタキシン測定試薬で得られる結果の再現性を検証するため、実施例18で作成した検量線を用いてコントロール検体3例にて再現性試験を実施した。同時再現性として検体を10重測定し変動係数(%CV:coefficient variation = 標準偏差/平均値×100)を算出し、表5に示す。また、数日おきに検体を測定し0日目測定値からの変動ならびに全測定値の変動係数を算出し、その結果を表6に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
いずれの変動係数も10%以下を示しておりオートタキシン測定試薬にて得られる結果は信頼しうることが証明された。
【0057】
実施例20:白血病、悪性リンパ腫検体の測定
全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600IIを使用し、健常人120例、白血病、悪性リンパ腫215例の血清検体をオートタキシン測定試薬にて測定した。その結果を表7に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
男性健常人74例の測定値は平均値 0.656μg/mL、標準偏差0.121μg/mL、最小値0.401μg/mL、最大値1.088μg/mLであった。また、女性健常人46例の測定値は平均値 0.852μg/mL、標準偏差0.184μg/mL、最小値0.621μg/mL、最大値1.590μg/mLであった。白血病および悪性リンパ腫215例の測定を実施した。対象検体は健常人、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病)、慢性白血病(慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、前駆リンパ球性白血病)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫)、その他白血病、悪性リンパ腫(慢性活動性EBV感染症、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫)であり、それぞれの検体数も表7に示す。測定結果は
図17及び18に示すとおり、非ホジキンリンパ腫において男性、女性いずれも有意差p<0.01をもって高値を示した。
【0060】
実施例21:非ホジキンリンパ腫の詳細な評価
実施例20で測定した非ホジキンリンパ腫をさらに詳細に分類し、評価を実施した。その結果を表8、並びに
図19、20に示す。濾胞性リンパ腫において男性、女性それぞれにおいて有意差p<0.05、p<0.01をもって高値を示した。
【0061】
【表8】
【0062】
実施例22:オートタキシン濃度とリゾホスファチジン酸濃度の相関性試験
オートタキシンは生理活性脂質であるリゾホスファジン酸(LPA)産生を介して、癌の浸潤及び転移と係わっていることが明らかとなっている。そこで、血清中のオートタキシン濃度を測定し、LPA濃度との相関性を検討した。LPA測定はClin.Chim.Acta 333,59−67,2003に従い行った。具体的には、測定試薬として以下の組成を含む100mM HEPES緩衝液(pH 7.6)を準備した。
【0063】
(測定試薬組成)
20kU/L リゾホスフォリパーゼ(EC.3.1.1.5)
1.3kU/L ペルオキシダーゼ
100kU/L グリセロール3リン酸オキシダーゼ(G3PO;EC1.1.3.21)
10kU/L グリセロール3リン酸脱水素酵素(G3PDH;EC1.1.1.8)
10kU/L α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSD;EC1.1.1.50)
10μM ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NADH)
1mM コール酸(cholic acid)
0.5mM TOOS
1mM 4−アミノアンチピリン
0.01% Triton X−100
測定は9μLの血清およびLPA濃度既知の標準品を上記測定試薬240μLと混合後、37℃にてインキュベートし7分後および9分後での570nmの吸光度を測定した。7分から9分までの測定値の増加量(rate値=吸光度/分)を算出し、標準品測定値より作成した検量線を用い血清検体中のLPA濃度を算出した。測定検体中のオートタキシン抗原濃度とLPA濃度の相関性を検証した結果、
図21に示す通り、相関係数r=0.621と良好な相関が認められた(なお、一般的にr=0.5以上であればかなり高い相関性があると判断できる)。
【0064】
従来LPA濃度の測定はLPA自身が不安定であり、かつ、採血後血清中に自然に生成されることから臨床での測定が困難であったが、本発明によるオートタキシン測定は容易であり、かつ、LPA濃度と良好な相関性が得られた。