特許第5963900号(P5963900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5963900オートタキシン測定による悪性リンパ腫の検査方法および検査薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5963900
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】オートタキシン測定による悪性リンパ腫の検査方法および検査薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20160721BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20160721BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20160721BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20160721BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20160721BHJP
   C12N 15/02 20060101ALN20160721BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160721BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20160721BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20160721BHJP
【FI】
   G01N33/574 A
   G01N33/53 V
   G01N33/577 B
   G01N33/543 501A
   C12Q1/34
   !C12N15/00 CZNA
   !C12N15/00 A
   !C07K16/18
   !C12P21/08
【請求項の数】11
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-41714(P2015-41714)
(22)【出願日】2015年3月3日
(62)【分割の表示】特願2013-134351(P2013-134351)の分割
【原出願日】2007年8月2日
(65)【公開番号】特開2015-111154(P2015-111154A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2006-212275(P2006-212275)
(32)【優先日】2006年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2007-92412(P2007-92412)
(32)【優先日】2007年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳賢
(72)【発明者】
【氏名】新井 洋由
(72)【発明者】
【氏名】矢冨 裕
(72)【発明者】
【氏名】池田 均
(72)【発明者】
【氏名】中村 和宏
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩二
(72)【発明者】
【氏名】井手 和史
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0171096(US,A1)
【文献】 特開2004−159531(JP,A)
【文献】 Karl R. N. Baumforth et al.,Induction of Autotaxin by the Esptein-Barr Virus Promotes the Growth and Survival of Hodgkin Lymphoma Cells,Blood,American Society of Hematology,2005年 6月 2日,Vol.106 / No.6,pp.2138-2146
【文献】 五十嵐浩二 他,Quantitative Immunoassay for Autotaxin Using Monoclonal Antibodies Specific to Conformation-dependent Epitope,BMB2007講演要旨集,日本,BMB2007,2007年11月25日,3P-1179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト検体中のオートタキシン濃度を測定し、その値が健常人測定値からなる正常値に対し有意差をもって高値を示した場合に悪性リンパ腫と診断することを補助することを特徴とし、ここで当該悪性リンパ腫が濾胞性リンパ腫であることを特徴とする悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項2】
ートタキシンが完全長のオートタキシン、部分的に切断を受けたオートタキシン、一部遺伝子の変異を受けたオートタキシンであることを特徴とする請求項1記載の診断の補助方法。
【請求項3】
体が、全血、血球、血清、血漿などのヒト血液成分あるいはヒト細胞、組織の抽出液であることを特徴とする請求項1又は2記載の診断の補助方法。
【請求項4】
体を用いた免疫化学的測定方法によってオートタキシンの濃度を測定することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項記載された悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項5】
前記抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項4に記載された悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項6】
前記抗体を検体と接触させ、検体に結合あるいは結合しなかった抗体を検出することにより検体中のオートタキシン濃度の測定を行なうこと特徴とする請求項4又は5に記載された悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項7】
前記抗体を検体と接触させ、抗体に結合あるいは結合しなかったオートタキシンを検出することにより検体中のオートタキシン濃度の測定を行なうことを特徴とする請求項4又は5に記載された悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項8】
前記免疫化学的測定方法が酵素標識、アイソトープ標識、蛍光標識を利用した競合法、サンドイッチ法あるいは蛍光偏光法を利用したホモジニアス測定法、表面プラズモン共鳴分析法を利用した結合測定であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載された悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項9】
抗ヒトオートタキシン抗体を含有し、免疫化学的方法により測定することを特徴とする濾胞性リンパ腫である悪性リンパ腫検査薬。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項記載の方法がオートタキシンの有するリゾホスフォリパーゼD活性の測定であり、その値が健常人測定値からなる正常値に対し有意差をもって高値を示した場合に悪性リンパ腫と診断することを補助することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の悪性リンパ腫の診断の補助方法。
【請求項11】
リゾホスファチジルコリンを含有し、リゾホスフォリパーゼD活性を測定することを特徴とする濾胞性リンパ腫である悪性リンパ腫検査薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然形態ヒトオートタキシンを特異的に認識、結合する抗体及びそのスクリーニング方法、並びにヒト検体中のオートタキシン濃度の測定による慢性肝疾患の検査方法および検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトオートタキシンは、1992年M.L.StrackeらによってA2058ヒト黒色腫細胞培養培地から細胞運動性を惹起する物質として単離された分子量約125kDaの糖蛋白質である(J.Biol.Chem.,256,2524,1992)。その後、1994年にJ.MurataらによるcDNAクローニングにより構造解析が進められアミノ末端側で単一膜貫通部分を有すること、細胞ガイドメインに2つのソマトメジンB領域、I型ホスホジエステラーゼ活性VおよびEFハンドのループ領域を含み、ホスホジエステラーゼ活性を有することなどが明らかとなった(J.Biol.Chem.,269,30479,1994)。しかし、オートタキシンが細胞運動性を惹起する機能に関しての明確な証拠は得られぬままであった。2002年、新規リゾホスフォリパーゼDの同定がヒト(A.Tokumura et al.,J.Biol.Chem.,277,39436,2002)およびウシ血清(M.Umezu−Goto et al.,J.Cell Biol.,158,227,2002)からなされ、本酵素活性により生成されるリゾホスファチジン酸が細胞運動性を惹起することがはじめて明らかとなった。
【0003】
オートタキシンの運動性惹起機能から推測し、Strackeらはヒト癌の浸潤性能力に対するマーカーとしてのオートタキシンの使用を米国特許第5,449,753号(1995年)に記載している。また、Strackeらは、毒素と結合された抗オートタキシン抗体の投与による癌治療に関しても米国特許第5,731,167号(1998年)に示唆している。この様にヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体が切望されているが、オートタキシンは動物血清中に様々な形態で比較的多量に含まれているため、血清中に通常存在する変性を受けていないオートタキシン(天然形態のオートタキシン)に対し特異性かつ強い結合力を有する抗体取得は非常に困難なことが予想される。実際、オートタキシン自体の定量法はなく、オートタキシンが有するリゾホスフォリパーゼD活性の評価により間接的にその定量が行われているのが現状である。かかる活性測定は手法が煩雑であり、また酵素活性発揮させるために通常数時間にも及ぶ基質とのインキュベーション時間を要する。また、ヒト検体中にはオートタキシンとは異なるリゾホスフォリパーゼD活性を有する酵素が存在することが予想されること、酵素活性測定におけるリゾホスファチジルコリン基質分解により生じるリゾホスファチジン酸およびコリンがヒト検体中に内在する、などいった妨害因子が存在する。酵素活性測定におけるこれら内在性因子はヒトオートタキシンの特異的定量に少なからず影響を及ぼし、精度の高いヒトオートタキシン定量法ではない。実際、ヒト精漿中には数十mM程度の濃度のコリンが含まれており、コリン除去の前処理なしには、リゾホスファチジルコリンを基質としたコリン生成量による精漿の活性測定は困難である。
【0004】
我々を含めいくつかのグループによりヒトオートタキシンの合成部分ペプチドや部分配列を大腸菌により発現させた可溶性ヒトオートタキシンを免疫することにより多数のモノクローナル抗体が樹立されている(Journal of Biological Chemistry 269,30479−30484,1994,FEBS letter 571,197−204,2004)。しかし、これら抗体を利用し、ウェスタンブロッティングによりヒトオートタキシンを検出することはできるが、これらの抗体はヒト検体中の天然形態なヒトオートタキシンとの反応性は示さない、あるいはきわめて低い反応性しか示さない。よって、ヒト検体を対象としたELISA測定法などの免疫学的測定方法への適用は非常に困難であり、実用には至っていない。
【0005】
本発明によれば、ヒト検体中の天然形態ヒトオートタキシンと特異的に反応するモノクローナル抗体を非常に効率よく樹立可能である。すなわち、抗原免疫、細胞融合によりモノクローナル抗体を作製する際のスクリーニング方法において、溶液中に存在する天然形態の抗原との反応性を指標に抗体を選択することにより、ELISA法などの汎用的なヒトオートタキシン定量測定系を確立することができる。また、本手法で取得した抗体は、血液などに含まれるヒトオートタキシンを効率よく結合捕捉できることより、サンプルからの抗原の除去はもとより、抗原精製も可能な高性能な抗体である。
【発明の概要】
【0006】
オートタキシンのヒト組織あるいは体液中の存在濃度が様々な疾病により変動することを示唆する報告がなされているが、これまでその定量方法がないことより、その詳細な解析が行なわれていない。還元剤存在下など変性条件下でのオートタキシンの有無や存在比などの定性的な解析はなされてきたが、構造、機能を維持した状態で通常生体内に存在する天然形態のヒトオートタキシンを効率よく認識、結合可能な抗体がなかったことより、汎用可能なヒトオートタキシンの定量法は確立されていなかった。また、オートタキシンが有するリゾホスフォリパーゼD活性を指標に、酵素活性測定によりリゾホスフォリパーゼD活性の変動と疾病との因果関係の解析が行なわれているが、本酵素活性測定ではヒト検体中に含まれるオートタキシン以外の他のリゾホスフォリパーゼD活性を含んだ測定値が得られてしまうこと、活性測定の際に用いるリゾホスファチジルコリン基質や活性測定の際に生じるコリンが検体中に内在的に含まれること、などのため、真のオートタキシン特異的定量方法としては信頼性が十分でない。
【0007】
我々は、天然形態のヒトオートタキシンに対する抗体を効率よく取得する手法を見出し、その方法により取得した天然形態のヒトオートタキシンに対する抗体を用いることにより、活性測定時に問題となる内在性物質の影響を受けることなく、また、検体を還元処理、グアニジン塩酸塩、尿素などの蛋白変性剤などにより変性させるなどの前処理を必要とすることなくヒトオートタキシンを精度よく定量可能な測定方法ならびに定量試薬の提供に成功した。
【0008】
詳しくは、本願は下記の発明を包含する:
(1)変性を受けることなく生体内での存在状態にある天然形態のヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体のスクリーニング方法であって、以下の段階:
当該抗体の候補抗体を補足可能な結合因子を固相に結合させ;
当該結合因子に当該抗体の候補抗体を結合させ;
当該候補抗体を作用させた系に天然形態ヒトオートタキシンを作用させ;次いで
当該天然形態ヒトオートタキシンの前記抗体に対する結合力を指標に、当該天然形態ヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体を選定する;
を含んでなる方法。
(2)前記結合因子が抗体である、(1)の方法。
(3)前記天然形態ヒトオートタキシンがポリヒスチジンタグを有する組換ヒトオートタキシン抗原である、(1)又は(2)の方法。
(4)前記ポリヒスチジンタグを有する組換ヒトオートタキシン抗原に対し特異的に結合する標識された抗ポリヒスチジン抗体を利用し、前記天然形態ヒトオートタキシンの前記抗体に対する結合力を測定する、(3)の方法。
(5)前記標識された抗ポリヒスチジン抗体が酵素標識化抗ポリヒスチジン抗体である、(4)の方法。
(6)変性を受けることなく生体内での存在状態にある天然形態のヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体であって、以下の段階:
当該抗体の候補抗体を補足可能な結合因子を固相に結合させ;
当該結合因子に当該抗体の候補抗体を結合させ;
当該候補抗体を作用させた系に天然形態ヒトオートタキシンを作用させ;次いで
当該天然形態ヒトオートタキシンの前記抗体に対する結合力を指標に、当該天然形態ヒトオートタキシンを特異的に認識する抗体を選定する;
を含んでなる方法により獲得可能な抗体。
(7)前記結合因子が抗体である、(6)の抗体。
(8)前記天然形態ヒトオートタキシンがポリヒスチジンタグを有する組換ヒトオートタキシン抗原である、(6)又は(7)の抗体。
(9)前記ポリヒスチジンタグを有する組換ヒトオートタキシン抗原に対し特異的に結合する標識された抗ポリヒスチジン抗体を利用し、前記天然形態ヒトオートタキシンの前記抗体に対する結合力を測定する、(8)の抗体。
(10)前記標識された抗ポリヒスチジン抗体が酵素標識化抗ポリヒスチジン抗体である、(9)の抗体。
【0009】
上記発明によれば、天然形態のヒトオートタキシンを特異的に認識結合可能なモノクローナル抗体が効率よく取得可能であり、本抗体を用いたヒト検体中のオートタキシンを前処理などする必要なく定量可能な測定方法を構築可能である。上記発明により得られた天然形態ヒトオートタキシン測定試薬を用い、ヒト血清を測定することにより癌の診断、あるいは慢性肝疾患の診断が可能である。また、上記方法によればリゾホスフォリパーゼD酵素活性によるオートタキシン量の推察において問題であった内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく、かつ短時間でヒトオートタキシンを定量可能な方法、試薬を提供することが可能である。
【0010】
さらに、本発明者は、ヒト検体中の天然形態ヒトオートタキシンと特異的に反応するモノクローナル抗体を使用したELISA法などの汎用的なヒトオートタキシン定量測定系を用いることにより簡便かつ短時間で血液などに含まれるヒトオートタキシンを定量することが可能であることを見出した。そして、本測定系を使用し鋭意検討を行なったところ、リンパ腫、特に濾胞性リンパ腫患者において血清中のオートタキシン濃度が高値を示すことが明らかとなった。悪性リンパ腫には、大きく分けてホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つがあり、日本では約90%が非ホジキンリンパ腫に分類される。非ホジキンリンパ腫は形態学的特徴(病理学的分類)、細胞系質的特徴(“B細胞性、T細胞性、NK細胞性”)、染色体・遺伝子情報などをもとに分類され、WHO分類において非常に多様な分類がなされており、その一分類である濾胞性リンパ腫は日本において悪性リンパ腫の10〜15%との報告があり、年々増加傾向がある。悪性リンパ腫の診断は、リンパ節生検や胸部X線検査 、コンピュータ断層撮影(CT)、核磁気共鳴検査(MRI)、ガリウム(Ga)シンチグラフィー、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)などによる病気の進行度などの検査がなされる。血液検査としては乳酸脱水素酵素(LDH)、C反応性蛋白(CRP)、可溶性インターロイキン‐2(IL-2)受容体 などがあるが、いずれも悪性リンパ腫特異的な診断マーカーではなく、悪性リンパ腫の診断マーカーが切望されている。
【0011】
オートタキシンのヒト組織あるいは体液中の存在濃度が様々な疾病により変動することを示唆する報告がなされているが、これまでその定量方法がないことより様々な疾病との因果関係の解析がなされてこなかった。本発明によれば、血清などのヒト検体中のオートタキシン濃度を簡便、短時間、かつ信頼性高く定量可能となった。本測定方法、測定試薬を用いることによりこれまで明らかにされていなかった様々な疾患とオートタキシン濃度の関係を明らかにすることが可能となった。さらに、本測定系を用い鋭意検討を重ねた結果、これまで血清マーカーがなかったことより診断が煩雑、困難であった悪性リンパ腫、特に濾胞性リンパ腫の検査が可能となった。
【0012】
本発明者はヒトオートタキシンに対する抗体を用いた免疫化学的測定方法を構築したことにより、活性測定時に問題となる内在性物質の影響を受けることなく、また、検体について前処理を必要とすることなくヒトオートタキシンを精度よく定量可能となった。本測定試薬を用い鋭意検討を重ねた結果、悪性リンパ腫、特に濾胞性リンパ腫患者において血清中のオートタキシン濃度が高値を示すことを見出し、濾胞性リンパ腫の検査あるいは検査補助が可能な検査試薬の提供が可能となった。また、煩雑さや精度は劣るもののオートタキシンが有するリゾホスフォリパーゼD酵素活性測定によっても濾胞性リンパ腫の検査あるいは検査補助が可能である。
【0013】
従って、本願は下記の発明をも包含する:
(11)ヒト検体中のオートタキシン濃度を測定し、その値が健常人測定値からなる正常値に対し有意差をもって高値を示した場合に悪性リンパ腫と判断することを特徴とする悪性リンパ腫の検査方法。
(12)(11)の悪性リンパ腫が濾胞性リンパ腫であることを特徴とする検査方法。
(13)(11)のオートタキシンが完全長のオートタキシン、部分的に切断を受けたオートタキシン、一部遺伝子の変異を受けたオートタキシンであることを特徴とする(11)又は(12)の検査方法。
(14)(11)の検体が、全血、血球、血清、血漿などのヒト血液成分あるいはヒト細胞、組織の抽出液であることを特徴とする(11)〜(13)のいずれかに記載の検査方法。
(15)(11)のオートタキシン濃度測定方法が、抗体を用いた免疫化学的測定方法である(11)〜(14)のいずれかに記載の検査方法。
(16)(15)の抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする(11)〜(15)のいずれかに記載の検査方法。
(17)(15)の抗体を検体と接触させ、検体に結合あるいは結合しなかった抗体を検出することにより検体中のオートタキシン濃度の測定を行なうこと特徴とする(11)〜(16)のいずれかに記載の検査方法。
(18)(14)の抗体を検体と接触させ、抗体に結合あるいは結合しなかったオートタキシンを検出することにより検体中のオートタキシン濃度の測定を行なうことを特徴とする(11)〜(16)のいずれかに記載の検査方法。
(19)(15)〜(18)のいずれかに記載の方法が酵素標識、アイソトープ標識、蛍光標識などを利用した競合法、サンドイッチ法あるいは蛍光偏光法等を利用したホモジニアス測定法、表面プラズモン共鳴分析法を利用した結合測定等であることを特徴とする(11)〜(18)のいずれかに記載の検査方法。
(20)(11)〜(19)のいずれかに記載の測定方法を原理とすることを特徴とする悪性リンパ腫検査薬。
(21)(11)〜(14)のいずれかに記載の方法がオートタキシンの有するリゾホスフォリパーゼD活性の測定であり、その値が健常人測定値からなる正常値に対し有意差をもって高値を示した場合に悪性リンパ腫と判断することを特徴とする検査方法。
(22)(21)の測定方法を原理とすることを特徴とする悪性リンパ腫検査薬検体中のオートタキシンを測定することによるリンパ腫の検査方法。
【0014】
上記発明によれば、ヒト検体中のオートタキシンを前処理などする必要なくヒトオートタキシン特異的モノクローナル抗体を用いた定量試薬を使用しヒト検体中のオートタキシン濃度を定量することにより悪性リンパ腫、特に濾胞性リンパ腫の検査が可能である。本免疫学的定量試薬を用いれば検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく、かつ短時間でヒトオートタキシンを定量可能な検査薬を提供することが可能である。また、上記発明によればリゾホスフォリパーゼD酵素活性測定によっても前記免疫化学的定量方法に煩雑さ、精度は劣るものの悪性リンパ腫の判断が可能であり、その検査薬の提供も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ポリヒスチジンタグ標識ヒトオートタキシン精製品のSDS−PAGEおよび、抗オートタキシンペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。
図2図2は、ヒトオートタキシンをイムノプレートに直接結合させた際の抗体の反応性を示す。
図3図3は、抗ラットIgG抗体を介してイムノプレートに結合させた抗ヒトオートタキシン抗体の溶液中に存在するヒトオートタキシンとの反応性を示す。
図4図4は、抗体による血清中ヒトオートタキシンのリゾホスフォリパーゼD活性の吸収性能を示す。
図5図5は、抗体による動物血清中オートタキシンのリゾホスフォリパーゼD活性の吸収性能を示す。
図6図6は、全長ヒトオートタキシン精製品のSDS−PAGEおよび、抗オートタキシンペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。
図7図7は、抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体による2抗体サンドイッチ法によるヒトオートタキシンとの反応性を示す。
図8図8は、取得した抗ヒトオートタキシン抗体群を用いた組み合わせ評価によるサンドイッチELISA測定系での反応性を示した。
図9図9は、2抗体2ステップサンドイッチELISA法を用い、6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)のヒトオートタキシン既知濃度標準品を測定した際のオートタキシン濃度と450nmの吸光度の関係を示したグラフである。
図10図10は、ヒト血清42検体の2抗体2ステップサンドイッチELISA法によるヒトオートタキシン濃度とリゾホスフォリパーゼD活性の相関性を示す。
図11図11は、2抗体1ステップサンドイッチELISA法を用い、6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)のヒトオートタキシン既知濃度標準品を測定した際のオートタキシン濃度と450nmの吸光度の関係を示したグラフである。
図12図12は、ヒト血清42検体の2抗体1ステップサンドイッチELISA法によるヒトオートタキシン濃度とリゾホスフォリパーゼD活性の相関性を示す。
図13図13は、2抗体1ステップサンドイッチELISA法を用いPSA、CA19−9、CA153、CA125測定値がカットオフを超える検体を用い、健常人に対するオートタキシン濃度を検証した結果を示す。いずれの検体群においても健常人に対し有意差p<0.001を示した。
図14図14は、2抗体1ステップサンドイッチELISA法を用い慢性肝疾患患者および健常人の血清中のヒトオートタキシン濃度を測定した結果を示す。
図15図15は、精漿中のリゾホスフォリパーゼD活性測定の結果を示す。
図16図16は、6濃度標準品を用いた際の検量線を示す。回帰式はLog(Rate)=aLog(Conc)3+bLog(Conc)2+cLog(Conc)+dで示され、表示している検量線の各定数は、a=−0.12278770、b=−0.30068255、c=1.26861618、d=1.56201600である。Rateは単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロンの生成量(nmol/L・sec)を示す。
図17図17は、男性血清のオートタキシン濃度を測定し、白血病、悪性リンパ腫ごとに分類した結果を示す。縦軸はオートタキシン(ATX)濃度、横軸は各病態分類を示し、健常人(NHS)、AL(急性白血病)、CL(慢性白血病)、HD(ホジキンリンパ腫)、NHL(非ホジキンリンパ腫)、その他白血病、リンパ腫(others)を示す。
図18図18は、女性血清のオートタキシン濃度を測定し、白血病、悪性リンパ腫ごとに分類した結果を示す。縦軸はオートタキシン(ATX)濃度、横軸は各病態分類を示し、健常人(NHS)、AL(急性白血病)、CL(慢性白血病)、HD(ホジキンリンパ腫)、NHL(非ホジキンリンパ腫)、その他白血病、リンパ腫(others)を示す。
図19図19は、男性血清のオートタキシン濃度を測定し、非ホジキンリンパ種ごとに分類した結果を示す。縦軸はオートタキシン(ATX)濃度、横軸は各病態分類を示し、健常人(NHS)、Burkitt(バーキットリンパ腫)、LBL(リンパ芽球性リンパ腫)、NHL(MCL)(マントル細胞リンパ腫)、NHL(DLBCL)(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)、NHL(FL)(濾胞性リンパ腫)を示す。
図20図20は、女性血清のオートタキシン濃度を測定し、非ホジキンリンパ種ごとに分類した結果を示す。縦軸はオートタキシン(ATX)濃度、横軸は各病態分類を示し、健常人(NHS)、NHL(DLBCL)(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)、NHL(FL)(濾胞性リンパ腫)を示す。
図21図21は、オートタキシン(ATX)濃度とリゾホスファチジン酸(LPA)濃度の相関性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
免疫抗原の調製のためのヒトオートタキシン遺伝子をコードする核酸分子は、ヒトオートタキシンの遺伝子情報をもとにしたポリヌクレオチドプローブを使用して、cDNAライブラリーあるいはゲノムライブラリーよりスクリーニングすることにより得られる。cDNAライブラリーは、公知の方法を利用して組織からRNAを単離することにより容易に調製可能であり、また市販のものを利用してもかまわない。得られたヒトオートタキシンcDNAを用い、発現用ベクターに組換えることにより、種々の発現系での抗原発現を行なうことができる。また、以降の抗原精製操作を簡便にするためにポリヒスチジンタグやMycタグ等の汎用されているマーカータグをヒトオートタキシン遺伝子の末端に導入することも有効である。蛋白質発現系は大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などいずれでもかまわないが、大量発現が可能であり、かつ糖鎖付加など天然形態なヒトオートタキシンに近い構造を有する蛋白質発現が可能である昆虫細胞−バキュロウイルス系が好ましい。ポリヒスチジンタグを有するオートタキシンを発現させた場合は、金属キレートカラムなどにより容易に精製可能である。また、c−mycタグなどは抗c−myc抗体アフィニティーカラムによる精製が可能である。これらの方法は標準的であり充分技術確立されている。
【0017】
本発明に用いる抗原免疫は技術確立されていれば手法を選ばず、例えば精製抗原を動物に免疫することにより抗体の産生は可能である。使用する動物は抗体産生能を有するものであれば特に制限されるものではなく、マウス、ラット、ウサギなどの通常用いられる哺乳動物でもかまわないし、ニワトリ等を用いることも可能である。たとえば、マウスを用いる場合、精製ヒトオートタキシン抗原とフロイント完全アジュバントのエマルジョンを皮下、足底球(footpad)、あるいは腹腔などに投与することにより免疫を行う。必要に応じ精製抗原とフロイント不完全アジュバントによる繰り返し追加免疫を行なうことにより抗体価の上昇が望める場合もある。細胞融合の数日前に最終免疫として、アジュバントとエマルジョン化することなく抗原のみを動物に投与する。投与する抗原量は動物体重あたり約0.4μg/g−体重程度を目安に行えば良いが、抗原過少、過多による免疫寛容を受けない抗原量であれば問題ない。
【0018】
本発明に用いるハイブリドーマ細胞作製は技術確立されていれば手法を選ばず、電気的融合、ポリエチレングリコールなどの試薬を用いた融合手段を選ばない。例えば免疫を行なった動物のB細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール存在下細胞融合を行い、HAT培地により抗体産生細胞の選択を行うことにより得ることが可能である。選択したハイブリドーマ細胞は限界希釈法によりモノクローン化を行なうことによりモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞として樹立可能である。
【0019】
本発明に用いるハイブリドーマ選択方法は、通常のELISA方法で行なわれるような免疫抗原を固相に結合させ、固相表面に結合した抗原に対する反応性による選択を行なわないことを特徴とする。その理由は、抗原を固相に結合させたELISA法によるスクリーニング方法では、反応性を有する多くの抗体を取得可能であるものの、これら抗体のほとんどが血清中に存在するヒトオートタキシンを効率よく捕捉できないためである。本発明に用いる抗体スクリーニング方法においては、ハイブリドーマ細胞培養上清中に含まれる抗体を捕捉可能な1次抗体、又はその他の抗体結合性因子、例えばプロテインA、プロテインCなどをイムノプレートに結合させる。例えば、ラット抗体取得を目的とする場合、抗ラットイムノグロブリン抗体をイムノプレートに結合させる。非特異的結合を防ぐため、1次抗体などを結合させたイムノプレート表面をウシ血清アルブミンなどでブロッキング処理を行った後、細胞融合により得られたハイブリドーマ細胞の培養上清をイムノプレートに添加し、1次抗体などに捕捉させる。未反応物質を除去するため、PBS(リン酸緩衝液)などの緩衝液によりイムノプレートを洗浄後、ポリヒスチジン−タグを有する組換ヒトオートタキシン抗原(ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン)を添加する。ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンは、リゾホスフォリパーゼD活性を有することを確認したものが好ましい。一定時間の反応によりハイブリドーマ培養上清中の抗体によりポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを捕捉させる。この際、捕捉されるポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンは生体中と同様に溶液中においても天然形態を維持した状態を反映しているものと推測でき、本反応によりポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを捕捉可能なハイブリドーマ培養上清中の抗体がヒト検体中のオートタキシンを捕捉可能なことが期待できる。続いて捕捉されたポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンのポリヒスチジンタグに対し、酵素標識抗ポリヒスチジン抗体や酵素標識プローブであるHisProbe−HRP(Pierce Biotechnology,Inc.,Cat.No.15165)等により、抗体により捕捉されたポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンの検出を行なう。最終的な検出は酵素に対する発色、蛍光、化学発光基質等を用い行なうことが可能であり、例えばペルオキシダーゼの基質であるTMB(テトラメチルベンジジン)などにより波長450nmの吸光度の発色検出が可能である。本方法で取得した抗体群のほとんどが、ヒトオートタキシンを直接イムノプレートに結合させた通常のELISA法では反応性を示さず、さらに直接結合抗原に反応性を示した抗体を用いての2抗体サンドイッチ免疫測定系構築は不可能であった。すなわち、直接イムノプレートに結合させた通常のELISA法では天然形態のヒトオートタキシンを有効に捕捉可能な抗体取得は非常に困難であることが示唆される。
【0020】
本発明に使用する抗体の精製方法は、技術確立されている手法であればその手法は問わない。例えば目的の抗体産生ハイブリドーマの選択後、限界希釈によりモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを樹立し、細胞の培養上清を回収する。必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿による抗体濃縮後、プロテインAやプロテインG固相化担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによりモノクローナル抗体の精製を行うことが可能である。また、精製した抗体はビオチン標識あるいはアルカリ性ホスファターゼ等の酵素により標識を施すことによりヒトオートタキシン2抗体サンドイッチ免疫測定系構築の検証に使用することが可能である。これらの方法は標準的であり充分技術確立されている。
【0021】
本発明において開示される天然形態ヒトオートタキシン測定方法は、天然形態ヒトオートタキシンを特異的に捕捉し、その結果精製した抗体−天然形態ヒトオートタキシン複合体を検出可能な方法であれば手法を選ばない。好ましくはイムノアッセイで汎用されている標識抗原と検体中の天然形態ヒトオートタキシンの抗体に対する競合を利用した競合法、エピトープの異なる2抗体を用い天然形態ヒトオートタキシンとの3者の複合体を形成させるサンドイッチ法が簡便かつ汎用しやすい。抗体を担体に結合させる場合、担体としてはイムノプレート、ラテックス粒子、磁性微粒子、ニトロセルロース膜、PVDF膜などイムノアッセイで使用されるものであれば特に担体を選ばない。担体を用いる場合、担体に固定化した抗体により捕捉したヒトオートタキシンの酵素活性を検出する方法、あるいは抗体を固定化したチップに検体を接触させて天然形態ヒトオートタキシン結合依存的なシグナルを検出する表面プラズモン共鳴などの方法でヒトオートタキシンの検出が可能である。また、蛍光標識した抗体が天然形態ヒトオートタキシンと結合することによる蛍光偏光を検出するようなホモジニアス測定方法においてもヒトオートタキシンの定量は可能である。これら試薬、装置は十分技術確立されている。
【0022】
前記の測定方法において特異性、感度、汎用性などの点からエピトープの異なる2抗体サンドイッチ免疫測定方法が優れている。本測定系が構築可能な抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体の組み合わせの選択は、精製した抗体群と標識抗体群を用い、組換えヒトオートタキシンをサンプルとしてサンドイッチ測定系が構築可能であるかの検証により行なう。具体的には、精製した未標識の抗天然形態ヒトオートタキシンモノクローナル抗体をイムノプレートに結合させ、ウシ血清アルブミンなどでイムノプレート表面のブロッキング処理を行う。続いて、組換えヒトオートタキシンをイムノプレートに添加し、固相抗体に捕捉させる。未反応物質を除去するためPBSなどの緩衝液でイムノプレートを洗浄後、標識を施した天然形態ヒトオートタキシンに対する抗体を反応させ2種類の抗体での天然形態ヒトオートタキシンのサンドイッチ複合体を形成させる。未反応物質を除去するためPBSなどの緩衝液でイムノプレートを洗浄後、抗体標識に酵素標識を行った場合は基質の添加を行い、ビオチン標識などさらに反応が必要な場合は酵素により標識ストレプトアビジンなどを反応させる。標識酵素に対する発色、蛍光、化学発光基質等を用い2種の天然形態ヒトオートタキシン抗体により捕捉された組換えヒトオートタキシンの検出を行なう。以上の実験を組換えヒトオートタキシンを含まない緩衝液で同様に行いバックグラウンド値として用いる。組換えヒトオートタキシンを用いた測定値がバックグラウンド低値でありかつ測定値に対し有意に高い組み合わせをヒトオートタキシン免疫測定系候補とする。
【0023】
前記の通りに選択したヒトオートタキシン2抗体サンドイッチ免疫測定系候補の信頼性を検証するため、組換ヒトオートタキシンおよびヒト血清の希釈系列サンプルを準備し、希釈倍率依存的に反応性が認められるか検証を行う。依存性が認められた抗体の組み合わせにおいては、さらにリゾホスフォリパーゼD酵素活性既知のヒト血清検体を使用し、ヒトオートタキシン定量を実施し検証を行う。すなわちリゾホスフォリパーゼD酵素活性に対するヒトオートタキシン濃度の相関性を検証し、リゾホスフォリパーゼD酵素活性とヒトオートタキシン濃度に相関性が認められる免疫測定系を選択することにより天然形態ヒトオートタキシン測定法として選択する。
【0024】
選択した2種の抗体組み合わせを用い、天然形態ヒトオートタキシン測定試薬の調製を行う。2ステップサンドイッチ測定試薬の場合、2種の抗体の一方をイムノプレート、磁性粒子などB/F分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合、いずれでもかまわない。非特異的結合を避けるため担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルクあるいは市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行ない1次試薬とする。2次試薬として標識を施した、異なるエピトープを認識するもう一方の抗体を含む溶液を準備する。抗体標識はペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出可能な物質、ビオチン、アビジンなどの特異的結合パートナーが存在する物質などでの標識が好ましい。また、2次試薬溶液は抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris−HCl緩衝液などが好ましい。実検体の測定は、1次試薬と実検体を一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は4〜40℃の温度で5分〜3時間の反応が好ましい。未反応物質をB/F分離により除去し、続いて2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させサンドイッチ複合体を形成させる。反応条件に関しては4〜40℃の温度で5分〜3時間の反応が好ましい。未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度ヒトオートタキシンを標準とし作成した検量線により、実検体中のヒトオートタキシン濃度を定量する。1ステップサンドイッチ測定試薬の場合、2ステップサンドイッチ測定試薬と同様、担体に抗体を結合させブロッキング処理を行ったものを準備する。本抗体固相化担体に標識抗体を含む緩衝液を添加し試薬とする。必要に応じ、試薬を凍結乾燥品とすることも可能である。1ステップ試薬では抗原−抗体の使用量バランスにより抗原あるいは抗体の過不足が生じ測定系構築が困難であることが多い。本発明ではELISA法の場合、担体に結合させる抗体量を96穴イムノプレート1ウェルあたり5〜500ng、好ましくは100ng、標識抗体1〜100ng、好ましくは10ngを使用することにより良好な結果が得られる。測定に用いるヒト検体は、血清、血漿、尿、精漿、脳脊髄液などがあるが、用いる検体の希釈倍率は無希釈〜100倍希釈での使用が好ましく、特に血清、血漿においては5倍希釈検体を100μL、精漿においては無希釈検体を100μL用いることにより良好な結果が得られる。
【0025】
本発明による測定試薬により定量した検体中のヒトオートタキシン濃度はオートタキシンの有するリゾホスフォリパーゼD活性と良好な相関性を示す。
【0026】
本発明による測定試薬を用い、癌患者血清中のヒトオートタキシンを測定することによる癌の診断が可能である。前立腺癌マーカーPSA、消化器癌マーカーCA19−9、乳癌マーカーCA153、卵巣癌マーカーCA125測定値がカットオフを超える検体のオートタキシン濃度と、特に臨床症状を有しない健常人のオートタキシン濃度とを比較すると、いずれの癌患者検体においても健常人群に対し有意差p<0.001を示し、癌の診断あるいは診断補助が可能である結果を示した。特に、乳癌、卵巣癌、においては健常人に比較し顕著に高値を示し、本測定試薬を用いた癌の診断あるいは診断補助に有効な測定試薬である結果が得られた。
【0027】
特に、本測定試薬を用い、患者検体中のヒトオートタキシンを測定することにより悪性リンパ腫、特に濾胞性リンパ腫の検査が可能である。白血病、悪性リンパ腫と判断された患者検体中のオートタキシン濃度と、特に臨床症状を有しない健常人のオートタキシン濃度とを比較すると、非ホジキンリンパ腫患者において有意差をもって高値を示した。また、特に濾胞性リンパ腫において顕著に高値を示し、本測定試薬を用いた悪性リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫、さらには濾胞性リンパ腫の検査あるいは検査補助に有効な測定試薬である結果が得られた。
【0028】
本発明による測定試薬を用い、慢性肝疾患患者血清中のヒトオートタキシンを測定することによる慢性肝疾患の診断が可能である。慢性肝疾患患者ならびに健常人検体中のヒトオートタキシン濃度を測定した結果、有意差p<0.0001にて慢性肝疾患患者血清中のオートタキシン濃度が高い結果が得られ、慢性肝疾患診断あるいは診断補助に有用である結果が示された。さらに、他の慢性肝疾患マーカーとヒトオートタキシン濃度の相関性を検証した結果、ヒアルロン酸濃度、血清アルブミン濃度、総ビリルビン濃度、血小板数、プロトロンビン時間とヒトオートタキシン濃度の間に相関性が認められ慢性肝疾患の程度を反映しており血清ヒトオートタキシン濃度測定が慢性肝疾患診断に非常に有効であることが示された。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。
実施例1:組換えヒトオートタキシンの発現
Autotaxin−t(Genbank accession number L46720)の塩基番号1−2589(配列番号1)をヒト肝臓cDNAライブラリーよりRT−PCRを用い常法に従いクローニングした。本cDNAをバキュロウイルス用トランスファーベクターpFASTBac−1(インビトロジェン)に導入し、Bac−to−Bacシステム(インビトロジェン)を用い、全長ヒトオートタキシン発現用バキュロウイルスをプロトコールに従い調製した。クローニングした全長ヒトオートタキシンcDNAから停止コドン(TAA塩基配列2590−2592)を除去しヒスチジン6残基を追加し、ポリヒスチジンを有するポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン発現用バキュロウイルスをプロトコールに従い調製した。本バキュロウイルスを用い、常法に従い、sf9あるいはsf21などに感染させることにより全長ヒトオートタキシンおよびポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを含む発現培養上清を調製することができる。
【0030】
実施例2:ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンの精製
ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン発現用バキュロウイルスを昆虫細胞sf21細胞(5×105cells/mL)1Lに感染させ、28℃にて4日間培養した。培養終了後、遠心分離(3000rpmにて10分間)により細胞を分離し、さらに0.45μmのフィルターにより細胞破砕物などの沈殿物を除去した。回収した培養上清をTBS(Tris buffer saline;10mM Tris−HCl,150mM NaCl,pH7.4)により透析後、BD−TALON Metal Affinity Resin(BD Biosciences,Cat.NO.63501)金属キレートカラムを用い添付マニュアルに従い精製を行った。具体的には5mL容量のレジンをカラムに充填する。本カラムに50mMのCoCl2溶液を50mL添加し、コバルトを結合させた。300mMのNaClを含む水溶液によりカラムを洗浄後、50mMリン酸ナトリウム、300mMのNaCl、pH7.7の水溶液(洗浄緩衝液)によりカラムを平衡化した。ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを含むサンプル50mLを添加した。100mLの洗浄緩衝液により未結合物質を洗浄し、カラム通過溶液の280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認した。10mMのイミダゾールを含む洗浄緩衝液約15ml、続いて100mMのイミダゾールを含む洗浄緩衝液により目的物をカラムから溶出した。溶出サンプルは1mLごとに回収し、各画分中のポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンの純度をSDS−PAGEにより検証した。初期画分は不純物を多く含むため回収せず、目的ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを主要に含む画分を回収混合し、精製ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン抗原として用いた。図1はポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン精製品のSDS−PAGE像および、抗オートタキシンペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。レーンMは分子量マーカーを示す。レーン1は1μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行い、CBBにより染色した像を示す。レーン2〜5はウェスタンブロッティング像を示す。0.25μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行った後、PVDF膜に転写しPVDF膜は3%スキムミルクを含むTBSにより一昼夜ブロッキング処理を行った。TBSにより洗浄後、1%ブロックエース(大日本製薬社製)および0.05% Tween 20を含むTBSに浸透させた。レーン2は1μg/mLのラット抗オートタキシンペプチドモノクローナル抗体(アミノ酸配列49−59(配列番号2)を認識)、レーン4は1μg/mLのウサギ抗オートタキシンペプチドポリクローナル抗体(アミノ酸配列671−686(配列番号3)を認識)を加え2時間反応させた(レーン3,5のサンプルには抗体を加えない)。0.05% Tween 20を含むTBS(TBST)による洗浄後、レーン2および3のサンプルには0.3μg/mLのアルカリ性ホスファターゼ標識抗ラットIgG抗体(American Qualex社製;Cat.No.A103AT)および1%ブロックエースを含むTBSTを添加し、レーン4および5のサンプルには0.3μg/mLのアルカリ性ホスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体(Zymed社製)および1%ブロックエースを含むTBSTを添加した。2時間反応後、TBSTにより十分洗浄し、CDP−STAR(Perkin Elmer社製)を用いた化学発光を感光フィルムにより検出した。レーン1に示すとおりCBB染色像においては単一バンドとして確認された。また、抗ペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果では、アミノ酸配列49−59(配列番号2)、ならびにアミノ酸配列652−666(配列番号3)を認識する2種の抗体により検出されることより、本精製抗原が目的であるポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンであることを確認した。ウェスタンブロッティングでは2本のバンドが検出されており糖鎖の差、あるいは培養、精製過程での分解を示唆する結果が得られた。
【0031】
実施例3:モノクローナル抗体作製
ウィスター・ルイス・ラット7週令メスに対し、抗原250μgをフロイントの完全アジュバントと共に後足にエーテル麻酔下により免疫を行なった。1カ月後、ラットより鼠頚リンパ節ならびに腸骨リンパ節を採取し、B細胞を回収した。マウスミエローマ細胞株PAIとポリエチレングリコール存在下、細胞融合を常法に従い行い、約10日間のHAT培地による選択を行ない、実施例4に従い抗体産生細胞ハイブリドーマのスクリーニングにより目的抗体の選択を行った。スクリーニング陽性ウェル中の細胞を限界希釈法によりモノクローナル化を行いハイブリドーマとして樹立した。この際、HT培地により約10日間の培養を行った後、最終的にハイブリドーマ用培地により培養を続け、抗体回収のために培養上清を回収した。GIT培地(大日本住友製薬)500mLに対し、NCTC−109培地(インビトロジェン)27.5mL、不必須アミノ酸(インビトロジェン)5.5mL、ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン酸(インビトロジェン)5.5mLをろ過滅菌し添加したものをハイブリドーマ細胞培養用培地とした。本培地にHAT(Sigma−Aldrich Co.,HYBRYMAX,Cat.No.H0262)を添加したものをHAT培地として、HT(Sigma−Aldrich Co.,HYBRYMAX,Cat.No.H0137)を添加したものをHT培地として用いた。
【0032】
実施例4:ハイブリドーマスクリーニング
抗ラットイムノグロブリン抗体(American Qualex,Cat.No.A103UT)を96穴イムノプレート(MaxiSorp;Nalge NUNC International,Cat.No.430341)に250ng/ウェルにてコーティングした。具体的には、抗ラットイムノグロブリン抗体をTBSにより希釈し、5μg/mL溶液を調製した。本溶液を50μL/ウェルにてイムノプレートに添加し、4℃にて一昼夜保存した。続いてTBSにより3回の洗浄後、3%−ウシ血清アルブミン(BSA;bovine serum albumin)を含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置した。TBSにより3回洗浄を行い、ハイブリドーマ細胞の培養上清を50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行なった後、0.6μg/mLのポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、続いて1μg/mLのHisProbe−HRP(Pierce Bioctechnology,Inc.,Cat.No.15165)、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し室温30分放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、TMB基質(Kirkegaard & Perry Laboratories,Inc.,Cat.No.50−76−00)を50μl/ウェルで添加し室温30分放置した。1N−リン酸にて反応を停止しOD450の吸光度を測定した。この際、ポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシンを含まず、それ以外の操作を同時に行なったものを対照データとして取得しバックグラウンドとした。対照データに対しポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン存在下で反応性を示したものを陽性クローンとして選択し、限界希釈によりモノクローナル抗体産生細胞株の樹立を行った。
【0033】
実施例5:抗体精製とビオチン標識
モノクローン化した抗体産生細胞の培養上清を回収し、HiTrap Protein G HP(GEヘルスケア バイオサイエンス(株),Cat.No.17−0405−01)により抗体の精製を行った。PBS(phosphate buffer saline;10mM リン酸、150mM NaCl、pH7.4)で緩衝液置換した上記カラムに対し、培養上清を流速20mL/minにて通過させた。カラム容量の5倍以上のPBSにより十分カラムを洗浄し、未結合蛋白質の除去を行った。この際、カラムを通過した緩衝液のOD280による吸光度が0.01以下になったことを確認することにより、未結合蛋白質が残っていないことの確認が可能である。カラム洗浄後、100mM グリシン、pH2.5溶出液により結合抗体を溶出させた。溶出抗体は速やかに1/10容量の1M Tris、pH8を添加し、中性にするとともにTBSにより速やかに透析を行った。精製抗体の一部は抗体評価用にEZ−Link Sulfo−NHS−LC−LC−biotin(Pierce Bioctechnology,Inc.,Cat.No.21338)によりビオチンによる標識を行った。
【0034】
実施例6:モノクローナル抗体のヒトオートタキシンに対する反応性評価
実施例5により精製を行ったモノクローナル抗体のヒトオートタキシンに対する反応性を直接イムノプレートにヒトオートタキシンをコーティングした際の反応性と溶液中に存在するヒトオートタキシンへの反応性の2通りの方法で検証した。はじめにイムノプレートにヒトオートタキシンをコーティングした実施例を示す。精製した組換え全長ヒトオートタキシンを50ng/ウェル(1μg/mL溶液を50μL/ウェル)にて96穴イムノプレート(maxiSorp;Nalge NUNC International,Cat.No.430341)に添加し、4℃にて一昼夜保存しコーティングを行った。続いてTBSにより3回の洗浄後、3%−BSAを含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置しブロッキングを行った。TBSにより3回洗浄を行い、1μg/mLの精製抗体および1% BSAを含むTBSTを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行なった後、0.3μg/mLのHRP標識ヤギ抗ラットIgG抗体、1% BSAを含むTBSTを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、TMB基質を50μl/ウェルで添加し室温30分放置した。1N−リン酸により反応を停止しOD450の吸光度を測定した結果を図2に示す。縦軸にモノクローナル抗体の種類を、横軸に450nmの吸光度を示す。
【0035】
続いて、溶液中のヒトオートタキシンに対する反応性を実施例4にならい検証した結果を示す。抗ラットイムノグロブリン抗体を96穴イムノプレート(MaxiSorp)に250ng/ウェルにてコーティングした。TBSにより3回の洗浄後、3%−BSAを含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置しブロッキングした。TBSにより3回洗浄を行い、10μg/mL濃度の精製抗体を50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行なった後、0.6μg/mLのポリヒスチジン−タグ付ヒトオートタキシン、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、続いて1μg/mLのHisProbe−HRP、0.1% Tween−20、1% BSAを含むTBSを50μL/ウェルにて添加し、室温で30分放置した。TBSTにより6回洗浄を行ない、TMB基質を50μl/ウェルで添加し、室温で30分放置した。1N−リン酸により反応を停止しOD450の吸光度を測定した結果を図3に示す。縦軸にモノクローナル抗体の種類を、横軸に450nmの吸光度を示す。また、バックグランドは抗ヒトオートタキシン抗体を含まない緩衝液での反応性を示す。
【0036】
図2,3の結果は通常のモノクローナル抗体作製時のスクリーニング方法である抗原を結合させたELISA方法においては、今回得られた血清中に存在するような天然形態のヒトオートタキシンを効率よく捕捉可能な抗体群の取得が非常に困難であることを示している。
【0037】
実施例7:モノクローナル抗体による血清中のリゾホスフォリパーゼD活性の吸収
抗体による血清中ヒトオートタキシンの吸収を血清リゾホスフォリパーゼD活性の吸収により検証した。抗ラットIgG抗体が固定化された磁性微粒子BioMag Goat Anti−Rat IgG Fc(QIAGEN,Cat.No.310144)50μL(50%サスペンジョン溶液)に対し精製抗ヒトオートタキシン抗体10μgを添加し、抗ヒトオートタキシン固定化磁性微粒子を準備した。未反応の抗体をTBSTにより洗浄後、TBSTにより4倍希釈したヒト血清200μLを添加し、2時間反応させた。反応後、磁石により磁性微粒子を除去し上清中のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した。抗ヒトオートタキシン抗体未添加の抗ラットIgG抗体が固定化磁性微粒子により処理を行ったヒト血清のリゾホスフォリパーゼD活性に対する活性の阻害率を検証した結果を図4に示す。縦軸にモノクローナル抗体の種類を、横軸に活性阻害率(吸収率)を示す。活性吸収率は抗ヒトオートタキシン抗体を含まない緩衝液での残存活性に対する阻害活性を示す。リゾホスフォリパーゼD活性測定はFEBS letters 571,197−204,2004を若干変更し行った。具体的には、サンプル20μLと2mMのリゾホスファチジルコリン(14:0−リゾホスファチジルコリン)、100mM Tris−HCl、500mM NaCl、5mM MgCl2、0.05% Triton X−100(pH9.0)を含む基質溶液20μLを混合し、37℃にて6時間から一昼夜反応させた。続いて本酵素反応により生成したコリンを定量するため、0.5mM TOOS(N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−3−メチルアニリン)、10Unit/mL 西洋ワサビペルオキシダーゼ、0.01% Triton X−100、100mM Tris−HCl(pH8.0)からなるR1溶液150μLを加え5分間放置した後、1mM 4−アミノアンチピリン、10Unit/mL コリンオキシダーゼ、0.01% Triton X−100、100mM Tris−HCl(pH8.0)からなるR2溶液50μLを加えた。30分後、既知濃度塩化コリンを対象に550nmの吸光度を測定し活性値とした。抗体R10.30およびR10.31を除く抗体では吸収性能を発揮しており、実施例6におけるHisProbeを用いた溶液中の天然形態のヒトオートタキシンの結合性能を反映した結果を示しており、抗原を直接イムノプレートに結合させた結果を反映しない。抗体R10.30およびR10.31において血清から吸収性能とHisProbe−HRPを用いた測定での差は組換えヒトオートタキシンと血清中に存在するヒトオートタキシンの構造あるいは存在状態に差がありこれら抗体が血清中のヒトオートタキシンを認識できないことが推測される。
【0038】
実施例8:モノクローナル抗体の他動物種オートタキシンへの反応性確認
実施例5により精製した代表的な抗体による動物血清中オートタキシンへの反応性を血清リゾホスフォリパーゼD活性の吸収により検証した。ストレプトアビジンが固定化された磁性微粒子BioMagストレプトアビジン(QIAGEN,Cat.No.311711)20μL(50%サスペンジョン溶液)に対し実施例5で作製したビオチン標識抗ヒトオートタキシン抗体10μgを添加し、抗ヒトオートタキシン固定化磁性微粒子を準備した。未反応の抗体をTBSTにより洗浄後、TBSTにより2.5倍希釈した動物血清125μLを添加し、2時間反応させた。反応後、磁石により磁性微粒子を除去し、上清中のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した。抗ヒトオートタキシン抗体未添加のストレプトアビジン固定化磁性微粒子により処理を行った動物血清のリゾホスフォリパーゼD活性に対する活性の阻害率を検証した結果を図5および表1に示す。縦軸に動物血清の種類を、横軸に活性阻害率(吸収率)を示す。活性吸収率は抗ヒトオートタキシン抗体を含まない緩衝液での残存活性に対する阻害活性を示す。R10.23に代表されるようにヒトオートタキシンに特異的な抗体から、何種かの動物オートタキシンと交差反応性を示すものまで多様性に富んだ抗体群が取得できた。エピトープ位置の詳細な解析を、オートタキシン断片を大腸菌発現させた抗原を用いて試みたが、ほとんど全ての抗体が可溶性オートタキシン断片と反応性を示さず、エピトープの特定に至らなかった。しかし、取得したモノクローナル抗体はヒトオートタキシン上の異なるエピトープを認識する抗体群で構成されていることが予想され2抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイ構築が可能性を示唆する結果を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例9:ヒトオートタキシン標準品の調製
実施例5で精製した抗体を用い抗体固定化担体を作製し、抗原の精製ならびにヒト血清から抗原の除去を行なったヒトオートタキシンゼロ血清の調製を行った。これらを材料として用いヒトオートタキシン免疫測定に用いる標準品(ヒトオートタキシン既知濃度サンプル)の調製を行った。具体的には実施例5に従い精製を行ったモノクローナル抗体R10.23をHiTrap NHS−活性化5mLカラム(GEヘルスケア バイオサイエンス(株),Cat.No.17−0717−01)に対し25mgの抗体をマニュアルに従い結合させた。本R10.23結合カラムを用い、0.8μmのフィルターにより不純物を除去したヒト血清200mLを1mL/minの流速で送液しカラム素通り画分を回収した。本素通り画分中のヒトオートタキシンは実施例6記載のELISA測定法において反応性を示さないことを確認した。本品を標準品作製用のベース血清としさらに、ゼロ濃度標準品とした。精製抗原の調製は昆虫細胞・バキュロウイルス系で発現させた全長ヒトオートタキシンを材料に行った。培養上清1LをR10.23結合カラムに流速1mL/minの流速にて送液し、続いてPBSにより未結合蛋白質の洗浄を行った。カラムを通過したPBSの280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認し、続いて100mMグリシン緩衝液pH3.5を用い結合蛋白質を溶出させた。溶出液は1/10容量の1M−Tris pH8.0を添加することにより中性に戻した後、TBSにより速やかに透析処理を行なった。図6は全長ヒトオートタキシン精製品のSDS−PAGE像および、抗オートタキシンペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。図中レーンMは分子量マーカーを示す。レーン1は1μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行い、CBBにより染色した像を示す。レーン2〜5はウェスタンブロッティング像を示す。すなわち0.25μg/レーンにて精製抗原を還元条件下SDS−PAGEを行った後、PVDF膜に転写した。ブロッキング処理後、レーン2はラット抗オートタキシンペプチドモノクローナル抗体(アミノ酸配列49−59を認識(配列番号2)、レーン4はウサギ抗オートタキシンペプチドポリクローナル抗体(アミノ酸配列671−686(配列番号2)を認識)、レーン3,5は抗ヒトオートタキシンを含まない非特異的結合検出のためのバックグラウンドとして検出を行った。精製抗原はCBB染色像においては2本バンドとして確認され、抗ペプチド抗体を用いたウェスタンブロッティングにおいては実施例2同様分子量105kDa付近に2本以上のバンドが検出されており糖鎖の差、あるいは培養、精製過程での分解を示唆する結果が得られた。本精製全長ヒトオートタキシンをBCA蛋白定量キット(Pierce Biotechnology,Inc.,Cat.No.23225)により濃度測定し、ヒトオートタキシン濃度とした。本精製ヒトオートタキシン抗原を上記ヒトオートタキシン除去ヒト血清に添加し既知濃度標準品を調製した。
【0041】
実施例10:サンドイッチELISA測定系用抗体組み合わせの選択
精製抗体ならびにビオチン標識抗体を用い、サンドイッチELISA測定系が構築可能な抗体の組み合わせ評価を行なった。96穴イムノプレート(NUNC)に、精製抗体2μg/mLを含むTBS溶液を50μL/ウェルにて添加し、一昼夜、4℃にて抗体プレートに結合させる。TBSにより3回洗浄後、実施例9により精製した組換え全長ヒトオートタキシンをELISAアッセイ緩衝液(3% BSA、10mM MgCl2、0.1% Tween 20を含むTBS)にて精製ヒトオートタキシン100ng/mLになるよう希釈し、50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間放置後、TBSTにより4回洗浄し、0.8μg/mLのビオチン標識抗体を含むELISAアッセイ緩衝液を50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間放置後、TBSTにより4回洗浄し、1000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Zymed社製)を含むELISAアッセイ緩衝液を50μL/ウェルにて添加した。1時間室温で放置後、TBSTにより6回洗浄し、TMB基質を50μL/ウェルで添加した。室温10分後、1N−リン酸により反応を停止しOD450の吸光度を測定した。図7に代表的な結果を示す。R10.21およびR10.23に関してそれぞれをイムノプレートに1次抗体としてコーティングし、ヒトオートタキシンと反応させた後、他の抗体群を用いて2抗体サンドイッチELISAにより反応性を検出した結果を上段(左図R10.21、右図R10.23をプレートコートした際の結果)を示す。また、同様に取得抗体群をイムノプレートに1次抗体としてコーティングし、R10.21およびR10.23を2次抗体として用い反応性を検出した結果を下段(左図R10.21、右図R10.23を検出用2次抗体とした際の結果)に示す。横軸は使用した抗体(上段:2次抗体、下段:1次抗体)、縦軸は450nmの吸光度による反応性を示す。グラフ上段、下段の比較より同じ抗体の組み合わせにおいても1次抗体、2次抗体の用い方により反応性を示す場合、示さない場合が確認された。図8に取得した抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAでの反応性の一覧を示した。本結果で反応性を示さないものは、サンドイッチELISA構築が不可能である組み合わせを示しており、反応性を示した組み合わせは構築可能なことを示唆している。横方向にイムノプレートに結合させた1次抗体を、縦方向に2次抗体の名称を示している。また、表中の数値は450nmの吸光度を示しており、−は吸光度0.5以下を示している。組み合わせ評価全529通りのうち0.5以上の反応性を示した組み合わせは、16通りであり、全体の約3%であった。また、実施例6との関連で図2に示したヒトオートタキシンを直接イムノプレートに結合させたELISAに反応性を示したR10.16、R10.48、R10.49の3種のモノクローナル抗体を用いた組み合わせではサンドイッチELISAを構築できなかった。すなわち、ヒトオートタキシンを直接イムノプレートに結合させた通常のスクリーニング方法により取得した抗体ではサンドイッチELISAを構築できない、あるいは構築することが非常に困難であることを示唆しており、本発明の手法による抗体スクリーニング方法は非常に効果的な手法であることを示している。
【0042】
実施例11:2ステップサンドイッチELISA測定法によるヒトオートタキシンの定量 実施例9で反応性を示した抗ヒトオートタキシン抗体の組み合わせを用い、2ステップ2抗体サンドイッチELISAによる血清中のヒトオートタキシン測定系を構築した。固相用抗体としてR10.23を用い、2次抗体としてR10.21を用い測定系の検証を行った。固相用抗体R10.23はペプシン消化によりF(ab)2化し使用した。実施例9と同様にR10.23を96穴イムノプレート(NUNC社製)に2μg/mL濃度で50μL/ウェルにて添加し、一昼夜、4℃にてプレートに結合させた。TBSにより3回洗浄後、3% BSAを含むTBSを250μL/ウェルで添加し2時間ブロッキング処理を行った。TBSにより3回洗浄後、実施例10で作製した標準品ならびに濃度未知のヒト血清をELISAアッセイ緩衝液で1/5に希釈し50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間反応後、TBSTにより4回洗浄し、0.8μg/mLのビオチン標識R10.21を含むELISAアッセイ緩衝液を50μL/ウェル添加した。室温で2時間放置後、TBSTにより4回洗浄し、1000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Zymed社製)を含むELISA緩衝液を50μL/ウェル添加した。1時間室温放置後、TBSTにより6回洗浄し、TMB基質を50μL/ウェルで添加した。室温30分後、1N−リン酸により反応を停止し450nmの吸光度を測定した。図9にヒトオートタキシン既知濃度の標準品6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)による検量線を示す。検量線の回帰は3次回帰により行った。ヒトオートタキシン濃度依存的に450nmの吸光度上昇が確認された。本検量線を用い未知濃度のヒト血清で得られた450nmの吸光度より検体中のヒトオートタキシンの濃度を算出した。また、測定に用いたヒト血清中のリゾホスフォリパーゼD活性を実施例7に従い決定し、ヒトオートタキシン濃度との相関性を検証した。図10はヒト血清42検体の結果を示しており、横軸にリゾホスフォリパーゼD活性を、縦軸にヒトオートタキシン濃度を示す。血清中のヒトオートタキシン濃度とリゾホスフォリパーゼD酵素活性は相関係数r=0.8934と良好な相関関係を示しており、本サンドイッチELISA法により血清中のオートタキシン濃度定量が可能なことが示された。
【0043】
実施例12:1ステップサンドイッチELISA測定法によるヒトオートタキシンの定量 実施例10で反応性を示した抗ヒトオートタキシン抗体の組み合わせを用い、2抗体1ステップサンドイッチELISAによる血清中のヒトオートタキシン測定系を構築した。固相用抗体としてR10.23を用い、2次抗体としてR10.21を用い測定系の検証を行った。固相用抗体R10.23はF(ab)2化し使用した。2次抗体となるR10.21はアルカリ性ホスファターゼとSulfo−SMCCを用い酵素標識を行なった。実施例9と同様にR10.23を96穴イムノプレート(NUNC社製)に2μg/mLで添加し、一昼夜、4℃にてプレートに結合させた。TBSにより3回洗浄後、3% BSAを含むTBSを250μL/ウェルで添加し2時間ブロッキング処理を行った。0.57μg/mLのアルカリ性ホスファターゼ標識R10.21を含むELISAアッセイ緩衝液をTBS 50μl/ウェルで添加し、速やかに−40℃にて凍結した。一昼夜をかけて減圧下凍結乾燥品とし、1ステップサンドイッチELISA測定試薬を作製した。測定は、実施例10で作製した標準品ならびに濃度未知のヒト血清を0.125% Tween 20水溶液により1/5倍希釈し50μL/ウェルにて添加した。室温で2時間反応後、TBSTにより4回洗浄し、TMB基質を50μL/ウェルで添加した。室温30分後、1N−リン酸により反応を停止し450nmの吸光度を測定した。図11にヒトオートタキシン既知濃度の標準品6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)による検量線を示す。検量線の回帰は3次回帰により行った。ヒトオートタキシン濃度依存的に450nmの吸光度上昇が確認された。本検量線を用い未知濃度のヒト血清で得られた450nmの吸光度より検体中のヒトオートタキシンの濃度を算出した。また、測定に用いたヒト血清中のリゾホスフォリパーゼD活性を実施例7に従い決定し、ヒトオートタキシン濃度との相関性を検証した。図12は横軸にリゾホスフォリパーゼD活性を、縦軸にヒトオートタキシン濃度を示す。血清中のヒトオートタキシン濃度とリゾホスフォリパーゼD酵素活性は相関係数r=0.9185と良好な相関関係を示しており、本サンドイッチELISA法により血清中のオートタキシン濃度定量が可能なことが示された。
【0044】
実施例13:1ステップサンドイッチELISA測定法による癌患者検体のヒトオートタキシンの定量と診断
健常人検体および癌患者血清検体のヒトオートタキシン濃度の定量を行い、健常人に対する有意差を検証した。癌患者血清としては、前立腺癌マーカーPSA(Prostare Specific Antigen)、消化器癌マーカーCA19−9、乳癌マーカーCA153、卵巣癌マーカーCA125がカットオフを超える検体を用い、実施例12に従い1ステップサンドイッチELISAを実施した。それぞれの癌マーカーは全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600II(Tosoh Corporation)、ならびに体外診断薬として製造承認を得ている各マーカー測定試薬を用い実施した。癌患者血清の陽性判断は、PSA(>10ng/mL)、CA19−9(>38ng/mL)、CA153(>23ng/mL)、CA125(>32ng/nL)とした。図13および表2に結果を示す。健常人血清中オートタキシン濃度に対し、いずれの癌検体群も有意(p<0.001)に高値を示した。本結果より、血清中のオートタキシン濃度定量は癌の診断に有効であることが示された。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例14:1ステップサンドイッチELISA測定法による慢性肝疾患患者検体のヒトオートタキシンの定量と診断
健常人検体146検体および慢性肝疾患(CLD:Chronic liver disease)患者血清検体29検体のヒトオートタキシン濃度の定量を行い、健常人に対する有意差を検証した。実施例12に従い1ステップサンドイッチELISAを実施した。図14に結果を示す。健常人(149検体)及び慢性肝疾患群(27検体)の測定値平均±標準偏差はそれぞれ、0.756±0.045、0.1866±1.244ng/mLであり、有意差p<0.0001を示した。また、表3に慢性肝疾患患者検体17例を用い既存肝疾患マーカーであるヒアルロン酸、血清アルブミン、総ビリルビン濃度、血小板数、プロトロンビン時間を測定値とオートタキシン濃度との関係を示した。いずれの既存マーカーに対してもヒトオートタキシン濃度は相関性を示した。本結果より、血清中のオートタキシン濃度定量は慢性肝疾患の診断あるいは診断補助に有効であり、かつその疾患の程度を反映することが示された。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例15:ヒト精漿の測定
健常人精漿中のオートタキシンの定量とリゾホスフォリパーゼD活性測定を行った。オートタキシンの定量は、全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600II(承認番号13B3X90002000003)を用いて行った。2抗体1ステップサンドイッチ測定試薬は、実施例12同様、固相用抗体としてF(ab)2化R10.23を1.2μg、2次抗体としてアルカリ性ホスファターゼ標識R10.21を0.57μg用い、5%ゼラチン、10mM MgCl2を含むELISAアッセイ緩衝液50μLを測定カップに分注し、一昼夜凍結乾燥を行った。本測定試薬を用い、自動化装置により測定を行った。測定条件は、20μLの検体と130μLの0.1% Triton X−100溶液を測定カップに分注し、37℃にて10分間反応を行った。反応後コハク酸緩衝液により洗浄後、4−メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し、アルカリ性ホスファターゼにより分解、生成した4−メチルウンベリフェロンの単位時間当たりの生成濃度を測定することにより定量を行った。ヒトオートタキシン既知濃度の標準品6濃度(0,0.34,0.675,1.35,2.70,5.40μg/mL)による検量線を用いた際の、健常人オートタキシン濃度は0.164μg/mLであった。一方、実施例7に従い、精漿中のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した結果、図15左に示すとおり、基質であるリゾホスファチジルコリン存在、非存在下においてコリン生成量に大きな差が認められず、10倍希釈した精漿においても非常に高値を示した。基質非存在下で高値を示すことより、内在性のコリンを測定していることが推測され、その測定値から健常人精漿中のコリン濃度は、約40mMと非常に高濃度であり、実施例7によるリゾホスフォリパーゼD活性測定時の基質濃度が2mMであることより、本コリン濃度を排除した測定を行うためには、精漿検体を1000倍程度希釈する必要がある。本希釈操作によりオートタキシンも同時に希釈されるため、酵素活性測定には長時間が必要であることが予測される。精漿中のリゾホスフォリパーゼD高値活性が内在性コリンによるものであることを確認するため、精漿検体を8時間TBSにて充分透析し低分子物質を除去した後のリゾホスフォリパーゼD活性を図15中央に示す。透析により、高値を示していたリゾホスフォリパーゼD活性であるコリン生成量は1/100程度まで低下した。また、透析後の精漿のリゾホスフォリパーゼD活性を測定した結果、図15右に示すとおり、基質非存在下に対し基質存在下で酵素活性を確認できた。基質非存在下では、反応温度4℃での酵素反応を停止制御した際の測定値と同等であった。これら、結果より、精漿中には非常に高濃度のコリンが存在し、コリン生成度を指標としたリゾホスフォリパーゼD活性測定は困難であり、本発明による免疫測定方法によりはじめて定量可能なことを示す結果である。
【0049】
実施例16:オートタキシン測定試薬の調製
水不溶性担体(内部にフェライトを練り込んだ粒子径約1.5mmのエチレンビニルアルコール性)に抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を100ng/担体になるように37℃にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて40℃、4時間ブロッキングを行ない抗体固定化担体とした。標識抗体は抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.21)をペプシン処理によりF(ab)2化した後、SPDP(N-スクシニミジル3-[2-ピリジルジチオ]プロピオネート)を用いアルカリ性ホスファターゼと結合させ酵素標識抗体とした。磁力透過性の容器(容量1.2mL)に12個の抗体固定化担体を入れた後、1μg/mLの標識抗体を含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)50μLを容器に添加し凍結乾燥を施しオートタキシン測定試薬とした。オートタキシン測定試薬は窒素充填下密閉封印シールを施し測定まで4℃にて保管した。
【0050】
実施例17:ヒトオートタキシン標準品の調製
抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を用い抗体固定化担体を作製し、抗原の精製ならびにヒト血清から抗原の除去を行なったヒトオートタキシンゼロ血清の調製を行った。これらを材料として用いヒトオートタキシン免疫測定に用いる標準品(ヒトオートタキシン既知濃度サンプル)の調製を行った。具体的にはR10.23をHiTrap NHS−活性化5mLカラム(GEヘルスサイエンス,Cat.No.17−0717−01)に対し25mgの抗体をマニュアルに従い結合させた。本R10.23結合カラムを用い、0.8μmのフィルターにより不純物を除去したヒト血清200mLを1mL/minの流速で送液しカラム素通り画分を回収した。本素通り画分中のヒトオートタキシンは実施例16記載の測定試薬にて反応性を示さないことを確認した。本品を標準品作製用のベース血清としさらに、ゼロ濃度標準品とした。精製抗原の調製は昆虫細胞・バキュロウイルス系で発現させた全長ヒトオートタキシンを材料に行った。培養上清1LをR10.23結合カラムに流速1mL/minの流速にて送液し、続いてPBSにより未結合蛋白質の洗浄を行った。カラムを通過したPBSの280nmの吸光度が0.01以下になったことを確認し、続いて100mMグリシン緩衝液pH3.5を用い結合蛋白質を溶出させた。溶出液は1/10容量の1M−Tris pH8.0を添加することにより中性に戻した後、TBSにより速やかに透析処理を行なった。精製全長ヒトオートタキシンをBCA蛋白定量キット(Pierce Biotechnology,Inc.,Cat.No.23225)により濃度測定し、ヒトオートタキシン濃度とした。本精製ヒトオートタキシン抗原を上記ヒトオートタキシン除去ヒト血清に添加し既知濃度標準品を調製した。
【0051】
実施例18:オートタキシン測定試薬の評価
実施例16にて作製したオートタキシン測定試薬を用い実施例17で作製した標準品を用い試薬性能評価を実施した。評価用装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-1800(東ソー株式会社製:製造販売届出番号13B3X90002000002)を用いた。標準品濃度は0、0.313、0.625、1.25、2.5及び5.0μg/mLの6濃度標準品を使用した。全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA-1800の測定原理は標準品あるいはヒト血清検体20μLと界面活性剤を含む希釈液130μLを実施例16で作製したオートタキシン測定試薬容器に自動で分注される。37℃恒温下10分間の抗原抗体反応を経て、界面活性剤を含む緩衝液にて8回の洗浄が行われた後、4−メチルウンベリフェリルリン酸塩を添加し単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロン生成濃度をもって測定値(nmol/L・sec)とする。標準品測定時の測定値を表4に、そしてそれを用いた検量線を図16に示す。また、本検量線およびゼロ濃度標準品の(平均値+2×標準偏差)より算出した最小検出感度は110ng/mLであった。
【0052】
【表4】
【0053】
実施例19:オートタキシン測定試薬の再現性試験
オートタキシン測定試薬で得られる結果の再現性を検証するため、実施例18で作成した検量線を用いてコントロール検体3例にて再現性試験を実施した。同時再現性として検体を10重測定し変動係数(%CV:coefficient variation = 標準偏差/平均値×100)を算出し、表5に示す。また、数日おきに検体を測定し0日目測定値からの変動ならびに全測定値の変動係数を算出し、その結果を表6に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
いずれの変動係数も10%以下を示しておりオートタキシン測定試薬にて得られる結果は信頼しうることが証明された。
【0057】
実施例20:白血病、悪性リンパ腫検体の測定
全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA−600IIを使用し、健常人120例、白血病、悪性リンパ腫215例の血清検体をオートタキシン測定試薬にて測定した。その結果を表7に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
男性健常人74例の測定値は平均値 0.656μg/mL、標準偏差0.121μg/mL、最小値0.401μg/mL、最大値1.088μg/mLであった。また、女性健常人46例の測定値は平均値 0.852μg/mL、標準偏差0.184μg/mL、最小値0.621μg/mL、最大値1.590μg/mLであった。白血病および悪性リンパ腫215例の測定を実施した。対象検体は健常人、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病)、慢性白血病(慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、前駆リンパ球性白血病)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫)、その他白血病、悪性リンパ腫(慢性活動性EBV感染症、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫)であり、それぞれの検体数も表7に示す。測定結果は図17及び18に示すとおり、非ホジキンリンパ腫において男性、女性いずれも有意差p<0.01をもって高値を示した。
【0060】
実施例21:非ホジキンリンパ腫の詳細な評価
実施例20で測定した非ホジキンリンパ腫をさらに詳細に分類し、評価を実施した。その結果を表8、並びに図19、20に示す。濾胞性リンパ腫において男性、女性それぞれにおいて有意差p<0.05、p<0.01をもって高値を示した。
【0061】
【表8】
【0062】
実施例22:オートタキシン濃度とリゾホスファチジン酸濃度の相関性試験
オートタキシンは生理活性脂質であるリゾホスファジン酸(LPA)産生を介して、癌の浸潤及び転移と係わっていることが明らかとなっている。そこで、血清中のオートタキシン濃度を測定し、LPA濃度との相関性を検討した。LPA測定はClin.Chim.Acta 333,59−67,2003に従い行った。具体的には、測定試薬として以下の組成を含む100mM HEPES緩衝液(pH 7.6)を準備した。
【0063】
(測定試薬組成)
20kU/L リゾホスフォリパーゼ(EC.3.1.1.5)
1.3kU/L ペルオキシダーゼ
100kU/L グリセロール3リン酸オキシダーゼ(G3PO;EC1.1.3.21)
10kU/L グリセロール3リン酸脱水素酵素(G3PDH;EC1.1.1.8)
10kU/L α−ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSD;EC1.1.1.50)
10μM ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NADH)
1mM コール酸(cholic acid)
0.5mM TOOS
1mM 4−アミノアンチピリン
0.01% Triton X−100
測定は9μLの血清およびLPA濃度既知の標準品を上記測定試薬240μLと混合後、37℃にてインキュベートし7分後および9分後での570nmの吸光度を測定した。7分から9分までの測定値の増加量(rate値=吸光度/分)を算出し、標準品測定値より作成した検量線を用い血清検体中のLPA濃度を算出した。測定検体中のオートタキシン抗原濃度とLPA濃度の相関性を検証した結果、図21に示す通り、相関係数r=0.621と良好な相関が認められた(なお、一般的にr=0.5以上であればかなり高い相関性があると判断できる)。
【0064】
従来LPA濃度の測定はLPA自身が不安定であり、かつ、採血後血清中に自然に生成されることから臨床での測定が困難であったが、本発明によるオートタキシン測定は容易であり、かつ、LPA濃度と良好な相関性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、ヒト検体中に含まれる天然形態のヒトオートタキシンに対する抗体、ならびにそれを用いたヒトオートタキシンの定量方法ならびに定量試薬に関する。これらを用いることにより癌の診断方法および肝臓疾患の診断方法が可能となる。さらに、本発明は、ヒト検体中に含まれるヒトオートタキシンを免疫学的に定量する方法によって濃度を測定することにより、これまで明確な血清診断マーカーがなかった悪性リンパ腫、特に日本人の大多数を占める非ホジキンリンパ腫、さらには濾胞性リンパ腫の検査、あるいは検査補助が可能となる。
図2
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]