(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、酸化亜鉛(ZnO)を材料として用いた半導体素子が注目されている。例えば、発光ダイオードの材料としてZnOを用いることにより、窒化ガリウム(GaN)を材料と用いた場合と比較して低価格且つ高品質な発光ダイオードを作製することが可能となる。しかし、ZnO含有膜はアクセプタをドーピングすることが難しいため、ZnO含有膜をp型化することは困難であった。
【0003】
従来、ZnOを主成分とするp型半導体の形成方法として、ZnO含有膜を結晶成長させる際に窒素等のアクセプタを添加する方法が知られている。例えば、特許文献1には、分子線エピタキシー法を用いて、n型ZnO基板上にp型MgZnO層を形成した半導体素子が記載されている。このp型MgZnO層は、主原料として亜鉛(Zn)及び酸素ガス(O
2)を用いて形成されおり、p型ドーパントの原料として窒素ガス(N
2)が用いられている。
【0004】
また、特許文献2には、常圧下において、塩化亜鉛(ZnCl
2)及び水(H
2O)からなる反応ガスを基板が収容される反応容器内に導入し、且つ、アンモニア(NH
3)をp型不純物原料ガスとして反応容器内に導入することによって、基板上に窒素が添加されたZnO含有膜を結晶成長させることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された分子線エピタキシー法は、超高真空状態を維持してZnO含有膜を成長させる必要があり、半導体膜を量産するには不向きである。
【0007】
これに対し、特許文献2に記載の方法では、常圧化においてZnO含有膜を成長させているので、量産性を向上させることができる。しかし、この方法では、窒素源であるアンモニアが分解することによって処理容器内に水素ガス(H
2)が発生し、この水素ガスによってZnO含有膜の表面がエッチングされてしまう。これにより、ZnO含有膜の結晶に欠陥が生じる場合がある。
【0008】
このため、当技術分野においては、常圧下において、高いドーピング濃度の窒素が添加され、且つ、結晶性に優れたZnO半導体膜を作製することができる、原料供給源、製造装置、製造方法、及びこれらによって作製された発光素子が要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明の態様に係るZnO含有膜成長用の原料供給源は、ZnO含有膜が形成されるべき基板を収容する反応容器内にZnO含有膜成長用の原料を供給する原料供給源であって、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する原料収容部と、原料収容部を加熱する加熱部と、原料収容部内が常圧になるように、塩素及び水素を含まないキャリアガスを原料収容部内に供給するキャリアガス供給源と、反応容器内が常圧になるように、一酸化窒素を含む反応ガスを反応容器内に供給する反応ガス供給源と、制御装置と、を備え、制御装置は、原料収容部内にキャリアガスを供給する際に、加熱部を制御することにより、原料収容部内をZnが気化する温度にする、ことを特徴とする。
【0010】
この原料供給源によれば、原料収容部内を加熱することにより、原料収容部内においてZnが常圧下で気化する。気化したZnは、原料収容部内に供給される塩素及び水素を含まないキャリアガスによって搬送され、反応容器内部に原料ガスとして供給される。また、反応容器内が常圧になるように、一酸化窒素を含む反応ガスが反応容器内に供給され、この反応ガスと原料ガスとが反応することにより、基板上にZnO含有膜が形成される。ここで、原料ガスは、塩素を含まず、ZnO含有膜のエッチングが生じることがないため、ZnO含有膜を低温によって成長させることが可能である。アクセプタである窒素のドーピング量は成長温度に依存する性質があり、少なくとも700℃以下の低温においては窒素のドーピング濃度が高くなる。また、原料ガスは水素を含まないため、水素ガスによるエッチングに起因する結晶欠陥の発生が防止される。このため、この原料供給源によれば、常圧下において、高いドーピング濃度の窒素が添加され、且つ、結晶性に優れたZnO半導体膜を作製することが可能なZnO含有膜成長用の原料ガスを供給することができる。
【0011】
本発明の態様に係るZnO膜の製造装置は、ZnO膜が形成されるべき基板が配置される設置台と、設置台を収容する反応容器と、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する原料収容部と、設置台及び原料収容部を加熱する加熱部と、原料収容部内が常圧になるように、塩素及び水素を含まないキャリアガスを原料収容部内に供給するキャリアガス供給源と、反応容器内が常圧になるように、一酸化窒素を含む反応ガスを反応容器内に供給する反応ガス供給源と、制御装置と、を備え、制御装置は、原料収容部内にキャリアガスを供給する際に、加熱部を制御することにより、原料収容部内をZnが気化する第1温度にするとともに、設置台を第1温度以上の第2温度にする、ことを特徴とする。
【0012】
この製造装置によれば、原料収容部内を加熱することにより、原料収容部内においてZnが常圧下で気化する。気化したZnは、原料収容部内に供給される塩素及び水素を含まないキャリアガスによって搬送され、反応容器内部に原料ガスとして供給される。また、反応容器内が常圧になるように、一酸化窒素を含む反応ガスが反応容器内に供給され、この反応ガスと原料ガスとが反応することにより、基板上にZnO含有膜が形成される。ここで、原料ガスは、塩素を含まず、ZnO含有膜のエッチングが生じることがないため、ZnO含有膜を低温によって成長させることが可能である。アクセプタである窒素のドーピング量は成長温度に依存する性質があり、少なくとも700℃以下の低温においては窒素のドーピング濃度が高くなる。また、原料ガスは水素を含まないため、水素ガスによるエッチングに起因する結晶欠陥の発生が防止される。このため、この製造装置によれば、常圧下において、高いドーピング濃度の窒素が添加され、且つ、結晶性に優れたZnO半導体膜を作製することができる。
【0013】
前記制御装置では、反応ガスは、酸素を含まないようにしてもよい。この場合には、反応容器内において、ZnO含有膜のドーピングに寄与する一酸化窒素ガスの分圧を高めることができるため、より高いドーピング濃度の窒素が添加されたZnO半導体膜を作製することができる。
【0014】
前記制御装置では、第1温度は、300℃〜400℃であり、第2温度は、400℃〜600℃であってもよい。第1温度を上記温度範囲とすることにより、Znを適切に気体化し、第2温度を上記温度範囲とすることにより、ZnO含有膜を適切に成長させることができる。
【0015】
本発明の態様に係るZnO膜の製造方法は、ZnO含有膜が形成されるべき基板が配置される設置台と、設置台を収容する反応容器と、反応容器内部に連通し、Znを含有する固体原料を収容する原料収容部と、設置台及び原料収容部を加熱する加熱部と、原料収容部内が常圧になるように、塩素及び水素を含まないキャリアガスを原料収容部内に供給するキャリアガス供給源と、反応容器内が常圧になるように、一酸化窒素を含む反応ガスを反応容器内に供給する反応ガス供給源と、制御装置と、を備える製造装置を用いたZnO含有膜の製造方法であって、設置台に基板を設置する設置工程と、制御装置が、キャリアガス供給源及び反応ガス供給源を制御することにより、キャリアガスを原料収容部内に供給するとともに、反応ガスを反応容器内に供給し、且つ、加熱部を制御することにより、原料収容部内をZnが気化する第1温度にするとともに、設置台を第1温度以上の第2温度にする、成膜工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
この製造方法によれば、上述のように、常圧下において、高いドーピング濃度の窒素が添加され、且つ、結晶性に優れたZnO半導体膜を作製することができる。
【0017】
前記製造方法では、基板がZnO基板であり、設置工程において、基板の+C面上にZnO含有膜が成長するように、基板を設置してもよい。この場合には、より高いドーピング濃度の窒素が添加されたZnO半導体膜を作製することができる。
【0018】
本発明の態様に係る発光素子は、
基板の−C面に設けられたZnO含有膜を含む発光素子であって、前記ZnO含有膜は、
深さ0.7μm以下において、窒素のドーピング濃度が1×10
20atm/cm
3以上であることを特徴とする。
【0019】
この発光素子によれば、ZnOを材料として用いることにより、発光素子の低価格化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の原料供給源、製造装置、製造方法によれば、常圧下において、高いドーピング濃度の窒素が添加されたZnO半導体膜を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態に係るZnO含有膜成長用の原料供給源、ZnO含有膜の製造装置、製造方法及びZnO含有膜を含む発光素子について説明する。同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
まず、一実施形態に係るZnO含有膜の製造装置について説明する。
図1は、一実施形態に係るZnO含有膜の製造装置1を概略的に示す断面図であり、当該製造装置1の断面を示している。
図2は、
図1に示される製造装置1のII―II線に沿った断面図である。
【0024】
製造装置1は、原料収容部10、反応容器20、キャリアガス供給源16、反応ガス供給源32、及び不活性ガス供給源34を備えている。製造装置1は、常圧下において基板2上に窒素が添加されたZnO含有膜を形成する装置である。本明細書において、「常圧」とは、超高真空状態を除く圧力の意味であり、具体的には、0.7atm〜1.3atmの範囲を意味する。原料収容部10、キャリアガス供給源16、反応ガス供給源32、及び不活性ガス供給源34は、原料供給源として機能する。
【0025】
反応容器20は、ZnO含有膜が形成されるべき基板2を収容する手段であり、その内部空間として反応空間S1を画成している。この反応容器20は、側壁22a、上壁22b、及び底壁22cを含んでいる。一例としては、側壁22aは、軸線Zに沿って上下方向に延在する略筒形状をなしている。
【0026】
上壁22bは、側壁22aの上端側に設けられている。上壁22bには排気孔30aを有する排気管30が取り付けられている。排気管30は、排気装置36に接続されている。排気装置36は、後述する制御装置40によって制御され、排気される気体の流量を制御し、そして、反応容器20内の圧力を調整する。排気装置36は、ドライポンプなどの真空ポンプを有している。排気装置36によって、反応容器20内及び原料収容部10が常圧に維持される。底壁22cは、側壁22aの下端側に設けられており、反応容器20内に収容される構造物を支持する。
【0027】
反応容器20の内部には、上端が閉鎖された円筒状の反応管24が設けられている。反応管24は、例えば石英(SiO
2)、炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料からなる。反応管24の側面には、複数の開口部24aが形成されている。
【0028】
反応管24内の中空部には、設置台26が設けられている。設置台26は、支持部26a及び複数の載置台26bを含んでいる。載置台26bは、円板状をなし、その上面に複数の基板2を水平に保持し得る。一例では、
図2に示されるように、1つの載置台26bの上面には、7枚の基板2が載置され得る。載置台26bは、軸線Zに沿って所定の間隔によって離間し、複数配置されており、これらの載置台26bが長尺状の支持部26aによって支持されている。
【0029】
支持部26aの基端側には、回転機構28が設けられている。回転機構28は、支持部26aを回転軸として、複数の載置台26bを回転可能に構成されている。また、反応容器20は、反応容器20内部を加熱するヒータ(加熱部)H1を更に備えている。ヒータH1は、反応容器20の側壁22aの内周に沿って複数設けられている。ヒータH1は、抵抗加熱、ランプ加熱、高周波加熱等の原理を用いた加熱手段である。一例としては、抵抗加熱を用いた加熱炉を採用することができる。ヒータH1は、ヒータ電源38に接続されており、ヒータ電源38から供給される電力によって熱を発生し、そして、反応容器20内部、すなわち設置台26を加熱する。ヒータ電源38は、後述する制御装置40によって制御され、ヒータH1に供給する電力を制御し、そして、ヒータH1の発熱量を調整する。
【0030】
原料収容部10は、収容容器12を備えている。収容容器12は、その内部空間として収容空間S2を画成している。原料収容部10は、ステージ14及び、ステージ14上に配置される固体原料Mを収容空間S2内に収容する。固体原料Mは、ZnO含有膜の原料となるZnを含有する。
【0031】
原料収容部10は、原料収容部10内部を加熱するヒータ(加熱部)H2を更に備えている。ヒータH2は、抵抗加熱、ランプ加熱、高周波加熱等の原理を用いた加熱手段である。一例としては、抵抗加熱を用いた加熱炉を採用し得る。ヒータH2は、ヒータ電源15に接続されており、ヒータ電源15から供給される電力によって熱を発生し、そして、ステージ14を加熱し得る。ヒータ電源15は、制御装置40によって制御され、ヒータH2に供給する電力を制御し、そして、ヒータH2の発熱量を調整する。ヒータH2を用いて原料収容部10内部を加熱することにより、固体原料Mに含まれるZnの一部が気体化する。
【0032】
キャリアガス供給源16は、原料収容部10内が常圧になるように、キャリアガスを原料収容部10内に供給する。キャリアガス供給源16は、導管P1を介して原料収容部10の内部と連通している。キャリアガス供給源16は、その内部に貯えるガス源からキャリアガスを供給する。導管P1は、キャリアガス供給源16から供給されたキャリアガスを収容容器12内に導入する。キャリアガス供給源16は、制御装置40に接続され、導管P1に供給するガス流量を制御し、そして、原料収容部10内へ供給されるキャリアガスの流量を調整する。
【0033】
キャリアガス供給源16から供給されるキャリアガスは、塩素(Cl)及び水素(H)を含まない不活性ガスである。一例では、窒素ガス(N
2)をキャリアガスとして用いることができる。ここで、「塩素及び水素を含まない」とは、塩素及び水素を全く含まないことだけではなく、ZnO膜の製造において無視できる程度の塩素及び水素を含んでいることを含む概念である。具体的には、「塩素及び水素を含まない」とは、キャリアガス内の塩素及び水素の含有割合がそれぞれ1%以下(モル濃度)であることを示している。
【0034】
また、原料収容部10は、導管P2を介して反応容器20の内部と連通している。導管P2の一端は原料収容部10に接続されており、導管P2の他端側は反応容器20を貫通し、そして、反応容器20の側壁22aと反応管24の側壁との間の空間に軸線Z方向に沿って延びている。導管P2の反応容器20内に位置する部分には、原料収容部10から搬送されたZnを含む原料ガスを反応容器20内に供給する複数のガス供給孔h2が形成されている。
【0035】
反応ガス供給源32は、反応容器20内が常圧になるように、反応ガスを反応容器20内に供給する。反応ガス供給源32から供給される反応ガスは、一酸化窒素(NO)を含むガスである。反応ガスは、更に窒素ガスを含んでいてもよい。また、反応ガスは、少なくとも塩素、水素、及び酸素の何れかを含まないこととしてもよい。特に、反応ガスが酸素を含まないことにより、ZnO含有膜のアクセプタとして寄与する窒素の分圧を高めることができる。反応ガス供給源32は、導管P3を介して反応容器20の内部と連通している。導管P3は反応容器20及び反応管24の上面を貫通し、そして、反応管24の側壁と設置台26との間の空間に軸線Z方向に沿って延びている。導管P3の反応管24内に位置する部分には、反応ガス供給源32から搬送された一酸化窒素を含む反応ガスを反応容器20内に供給する複数のガス供給孔h3が形成されている。
【0036】
不活性ガス供給源34は、反応容器20内が常圧になるように、不活性ガスを反応容器20内に供給する。不活性ガス供給源34から供給される不活性ガスは、例えば窒素ガスである。不活性ガス供給源34は、導管P4を介して反応容器20の内部と連通している。導管P4は反応容器20及び反応管24を貫通し、そして、反応管24の側壁と設置台26との間の空間に軸線Z方向に沿って延びている。導管P4の反応管24内に位置する部分には、不活性ガス供給源34から搬送された不活性ガスを反応容器20内に供給する複数のガス供給孔h4が形成されている。上記のように、原料収容部10から供給される原料ガス、反応ガス供給源32から供給される反応ガス、及び不活性ガス供給源34から供給される不活性ガスは、それぞれ異なる経路を介して反応容器20内に導入されることになる。なお、不活性ガス供給源34は、必須の構成ではない。
【0037】
製造装置1は、製造装置1の各部の制御を行う制御装置40を備え得る。制御装置40は、キャリアガス供給源16によってキャリアガスの流量の制御、反応ガス供給源32によって反応ガスの流量の制御、不活性ガス供給源34によって不活性ガスの流量の制御、回転機構28によって載置台26bの回転速度の制御、ヒータ電源15によって原料収容部10の温度制御、ヒータ電源38によって反応容器20の温度制御等を行う。この制御装置40は、例えば、プログラム可能なコンピュータ装置であり得る。
【0038】
次に、製造装置1内における、原料ガス、反応ガス及び不活性ガスの流れについて説明する。キャリアガス供給源16から供給されたキャリアガスは、導管P1を介して、原料収容部10内に導入される。原料収容部10に導入されたキャリアガスは、原料収容部10内において気化したZnを搬送し、Znを含む原料ガスとして導管P2を介して反応容器20内に流入する。そして、導管P2のガス供給孔h2から噴出されたZnを含む原料ガスは、開口部24aを通過し、そして、反応管24の内部に配置された基板2の方向へと流れる。
【0039】
反応ガス供給源32、及び不活性ガス供給源34のそれぞれから供給された反応ガス、及び不活性ガスは、それぞれ導管P3のガス供給孔h3及び導管P4のガス供給孔h4を介して、直接反応管24内に流入する。これにより、反応管24の内部空間では、原料ガスに含まれるZnと反応ガスに含まれるNOとが反応し、載置台26bに配置された基板2上にZnO含有膜2Aが成長する。このZnO含有膜2Aは、窒素がアクセプタとして高濃度にドーピングされた、p型のZnO含有半導体膜である。
【0040】
ZnO含有膜2Aの成長に寄与した反応管24内の原料ガス、反応ガス及び不活性ガスは、排気装置36の吸引作用によって、原料ガスが流入した開口部24aに対向する側に設けられた開口部24aを通過し、そして、反応管24の外部に流出する。そして、原料ガス、反応ガス、及び不活性ガスは、排気管30を介して反応容器20の外部に流出する。
【0041】
次に、
図3は、上述の製造装置1を用いた一実施形態に係るZnO含有膜2Aの製造方法について説明する。一実施形態では、まず、工程S1において、反応容器20内に基板2を搬入し、そして、設置台26の載置台26bに設置する(設置工程)。一例では、基板2は、水熱合成法で作製された1cm角のZnO基板である。一実施形態では、工程S1において、基板2のZnO結晶構造のうち+C面が上面となるように、基板2を設置してもよい。つまり、基板2の+C面上にZnO含有膜2Aが形成されるように基板2を設置してもよい。後述するように、基板2の+C面上にZnO含有膜2Aを形成することによって、ZnO含有膜2Aに、より高い濃度の窒素が添加されるためである。
【0042】
続いて、工程S2において、ヒータH1及びヒータH2を制御し、そして、原料収容部10内及び反応容器20内を加熱する(成膜準備工程)。工程S2においては、制御装置40が、ヒータ電源15を制御することにより原料収容部10内をZnが気化する温度(第1温度)にするとともに、ヒータ電源38を制御することにより設置台26をZnが気化する温度以上の温度(第2温度)にする。具体的には、制御装置40は、ヒータ電源15を制御し、そして、原料収容部10内を300℃〜400℃にするとともに、ヒータ電源38を制御し、そして、設置台を400℃〜600℃にし得る。この際に、均一なZnO膜を成長させるために、制御装置40は、回転機構28を制御し、そして、基板2が載置された載置台26bを回転させてもよい。
【0043】
続く工程S3において、上記加熱を維持しつつ、制御装置40は、キャリアガス供給源16、反応ガス供給源32、及び不活性ガス供給源34を制御し、そして、それぞれ原料ガス、反応ガス、及び不活性ガスを反応容器20内に供給する(成膜工程)。制御装置40は、排気装置36を制御し、そして、反応容器20内及び原料収容部10を常圧に維持する。このようにして、基板2上にZnO含有膜2Aが成膜される。
【0044】
以上説明したZnO含有膜の製造装置1及びZnO含有膜の製造方法においては、常圧下において原料収容部10内を加熱することにより、原料収容部10内において固体原料Mに含まれるZnが常圧下で気化される。気化されたZnは、原料収容部10内に供給される塩素及び水素を含まないキャリアガスによって搬送され、反応容器内部に原料ガスとして供給される。また、反応容器内が常圧になるように、一酸化窒素を含む反応ガスが反応容器20内に供給され、この反応ガスと原料ガスとが反応することにより、ZnO含有膜2Aが形成される。ここで、原料ガスは、塩素を含まず、ZnO含有膜のエッチングが生じることがないため、ZnO含有膜2Aを400℃〜600℃という比較的低温によって、成長させることが可能である。アクセプタである窒素の添加(ドーピング)量は成長温度に依存する性質があり、少なくとも700℃以下の低温においては窒素のドーピング濃度が高くなる。更に、発明者は、Znと一酸化窒素の組み合わせは反応性が高いことを見出した。このため、この製造装置1及び製造方法によれば、常圧下において、高いドーピング濃度の窒素が添加されたZnO半導体膜2Aを作製することができる。また、原料ガスは水素を含まないため、水素ガスによるエッチングに起因する結晶欠陥の発生が防止される。したがって、この製造装置1及び製造方法によれば、優れた結晶性を有するZnO半導体膜2Aを作製することができる。
【0045】
また、反応ガスが酸素を含まないようにすることにより、反応容器20内において、ZnO含有膜2Aのドーピングに寄与する一酸化窒素ガスの分圧を高めることができるため、より高いドーピング濃度の窒素が添加されたZnO半導体膜を作製することができる。
【0046】
また、制御装置40が、ヒータ電源15を制御し、そして、原料収容部10内を300℃〜400℃に制御する。また、ヒータ電源38を制御し、そして、設置台を400℃〜600℃に制御することにより、Znを適切に気化し、ZnO含有膜2Aを適切に成長させることができる。
【0047】
図1に示された製造装置1を用いてZnO含有膜2Aのサンプルを製造し、各種特性について評価した。サンプルの製造条件は、次に示す通りである。
【0048】
(サンプルの製造条件)
・反応容器内圧力=1atm
・基板2:ZnO基板
・キャリアガス:N
2
・反応ガス:NO+N
2(NOの分圧:4.4×10
−3atm)
・不活性ガス:N
2
・キャリアガスの流量:300sccm
・反応ガスの流量:750sccm
・不活性ガスの流量:1200sccm
・原料収容部10内の温度:375℃
・成長時間:5時間
【0049】
図4は、上記製造条件で作製されたサンプルの深さ(μm)と窒素のドーピング濃度(atm/cm
3)との関係を示すグラフである。ZnO含有膜2Aは、基板2の+C面及び−C面のそれぞれの上に結晶成長させることで作製した。ZnO含有膜2Aの成長温度、すなわち設置台26の温度は400℃とした。この測定は、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて行った。
【0050】
なお、
図4において、深さ0〜0.7μmまでは結晶成長されたZnO含有膜2Aであり、深さ0.7μm以降は下地となる基板2である。
図4に示されるように、基板2の+C面上に成長させたZnO含有膜2Aでは、深さ0.7μm以下において、1×10
21atm/cm
3を超える窒素がドーピングされており、非常にドーピング濃度の高いZnO膜が形成されていることが確認された。一方、基板2の−C面上に成長させたZnO含有膜2Aでは、窒素の一部が下地である基板2に拡散しており、深さ0.7μm以下では、窒素のドーピング濃度は1×10
20atm/cm
3以上であることが確認された。
【0051】
図5(a)は、上記製造条件で作製されたサンプルの成長温度とX線回折測定によって得られたΔFWHM値との関係を示すグラフである。ここでは、ZnO含有膜2Aは、基板2の+C面上に結晶成長させることにより作製した。ΔFWHM値は、サンプルのFWHM値に対する基板2のFWHM値の差分値である。ΔFWHM値は、tilt成分((0002)面のX線ロッキングカーブ半値幅)及びtwist成分((10−11)面のX線ロッキングカーブ半値幅)について測定した。
図5(a)に示されるように、成長温度を400℃〜600℃に変化させたときのΔFWHM値は、−10〜10arcsecである。この値から、サンプルのFWHM値は、基板2のFWHM値と比較しても殆ど変化がなく、非常に高品質な結晶が得られていることが確認された。
【0052】
図5(b)は、上記製造条件で作製されたサンプルの成長温度とX線回折測定によって得られたa軸及びc軸のΔ格子定数との関係を示すグラフである。ここでは、ZnO含有膜2Aは、基板2の+C面上に結晶成長させることで作製した。Δ格子定数は、サンプルの格子定数に対する基板2の格子定数の差分値である。
図5(b)に示されるように、成長温度を400℃〜600℃に変化させたときのa軸及びc軸のΔ格子定数は、−0.0007〜0.0001Åである。この値から、サンプルの格子定数は、基板2の格子定数と比較しても殆ど変化がなく、非常に高品質な結晶が得られていることが確認された。
【0053】
また、異なる成長温度によって作製されたサンプルについて、室温におけるフォトルミネッセンス(PL)によって評価した。
図6は、異なる成長温度によって作製されたサンプル1〜3のPLスペクトルを示す。
図6の横軸は光のエネルギーを示し、縦軸はPL強度を示す。
図6(a)は成長温度を400℃としたサンプル1のPLスペクトルであり、
図6(b)は成長温度を500℃としたサンプル2のPLスペクトルであり、
図6(c)は成長温度を600℃としたサンプル3のPLスペクトルである。サンプル1〜3の成長温度を除く他の製造条件は、上述したサンプルの製造条件と同じである。ここでは、サンプル1〜3のZnO含有膜2Aは、基板2の+C面上に結晶成長させることで作製した。
【0054】
図6(b)及び
図6(c)に示されるように、サンプル2及びサンプル3のPL発光のピークは3.2eV〜3.5eVに観察された。一方、サンプル1については、3.2eV〜3.5eVにおいてPL発光のピークは観察されなかった。なお、3.8eV付近において観察されるピークは、PL発光用のレーザに因るものであり、作製されたサンプルに起因するものではない。
【0055】
次に、基板2の+C面上及び−C面上に、異なる成長温度によってZnO含有膜2Aを成長させたときのZnO含有膜2Aの膜厚を評価した。ZnO含有膜2Aの成長時間は、5時間であり、成長温度を除く他の製造条件は、上述したサンプルと同じとした。
図7は、異なる成長温度によって作製されたサンプルのZnO含有膜2Aの膜厚を示す。
図7に示されるように、成長温度が500℃より低い範囲においては、500℃に近づくほどZnO含有膜2Aの膜厚が大きくなり、成長温度が500℃より高い範囲においては、500℃よりも高くなるほどZnO含有膜2Aの膜厚が小さくなることが確認された。しかし、400℃〜600℃の範囲においては、ZnO含有膜2Aの成長速度の変化は小さく、成長温度の変化に因る影響は小さいことが確認された。
【0056】
上述したように、一実施形態に係る製造装置1によれば、常圧下において、基板2上に1×10
20atm/cm
3以上の窒素がドーピングされたZnO含有膜2Aを成長させることができる。
【0057】
この含有膜2Aを含む発光素子42を
図8に示す。この発光素子42は、常温下において、ZnO基板2上に成長されたZnO含有膜2Aを含んでいる。下地となる基板2は、ZnOを主成分とするn型半導体である。ZnO含有膜2Aは、1×10
20atm/cm
3以上のドーピング濃度の窒素が添加されたp型半導体であり、基板2との界面にpn接合を形成している。ZnO含有膜2Aの上には、電極E1が形成されている。基板2の下面全面には電極E2が形成されている。電極E1及びE2は、例えばTi/Auを材料として用い、蒸着法を用いて形成することができる。電極E2をグランドに接続し、上面電極E1に加える電圧を変化させることにより、発光素子42が発光する。この発光素子42によれば、ZnOを半導体の材料として用いることにより、発光素子の低価格化を図ることができる。
【0058】
以上、実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、
図3の工程S2〜S3は、任意の順序によって行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、原料収容部10が反応容器20の外部に設けられているが、原料収容部10を反応容器20内に収容することもできる。また、原料収容部10及び反応容器20は、必ずしも排気装置36を用いて常圧にする必要はない。例えば、原料収容部10及び反応容器20は、排気装置36を備えずに、反応容器20に設けられた排気管30から外気を取り入れて、常圧に維持してもよい。