特許第6017432号(P6017432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017432セルロースファイバーをバインダーとして含有するリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物及びリチウム二次電池用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017432
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】セルロースファイバーをバインダーとして含有するリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物及びリチウム二次電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20161020BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20161020BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20161020BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20161020BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/1391
   H01M4/1397
   H01M4/58
   H01M4/485
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-534741(P2013-534741)
(86)(22)【出願日】2012年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2012074040
(87)【国際公開番号】WO2013042720
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2015年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-204721(P2011-204721)
(32)【優先日】2011年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】林 寿人
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】上杉 理
(72)【発明者】
【氏名】門磨 義浩
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/061871(WO,A1)
【文献】 特開2002−042817(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/025148(WO,A1)
【文献】 特開平11−219708(JP,A)
【文献】 J.Power Sources,2008年,175(1),p.553−557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/1391
H01M 4/1397
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質(A)、導電助剤(B)、及び水系バインダーとして微細化されたセルロースファイバー(C)を含有し、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて水を分散媒として測定される体積累計50%における粒子径が0.01μm乃至40μmであり、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、植物由来セルロースから調製され、
前記電極活物質(A)は、リチウム−遷移金属リン酸化合物又はリチウムと遷移金属を含む酸化物である、
リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物。
【請求項2】
電極活物質(A)、導電助剤(B)、及び水系バインダーとして微細化されたセルロースファイバー(C)を含有し、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて水を分散媒として測定される体積累計50%における粒子径が0.01μm乃至40μmであり、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、植物由来セルロースから調製され、
前記電極活物質(A)は、リチウムチタン複合酸化物である、
リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物。
【請求項3】
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、高圧ホモジナイザー、グラインダー及び媒体攪拌ミルからなる群から選択されるいずれかの湿式粉砕方法によって調製されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物。
【請求項4】
前記導電助剤(B)は、黒鉛粉末、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、またはカ
ーボンナノファイバーであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物。
【請求項5】
電極集電体と、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を用いて該電極集電体上に形成された層を含む、リチウム二次電池用電極。
【請求項6】
正極、負極、または、正極及び負極として請求項に記載のリチウム二次電池用電極を備えることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項7】
電極集電体上に、電極活物質(A)と導電助剤(B)とを含む電極層を形成するための水系バインダーであって、微細化されたセルロースファイバー(C)を含有し、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて水を分散媒として測定される体積累計50%における粒子径が0.01μm乃至40μmであり、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、植物由来セルロースから調製され、
前記電極活物質(A)は、リチウム−遷移金属リン酸化合物又はリチウムと遷移金属を含む酸化物である、
水系バインダー。
【請求項8】
電極集電体上に、電極活物質(A)と導電助剤(B)とを含む電極層を形成するための水系バインダーであって、微細化されたセルロースファイバー(C)を含有し、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて水を分散媒として測定される体積累計50%における粒子径が0.01μm乃至40μmであり、
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、植物由来セルロースから調製され、
前記電極活物質(A)は、リチウムチタン複合酸化物である、
水系バインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースファイバーを用いたリチウム二次電池用電極の製造に用いる水系バインダー、これを含むリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物、これを用いて形成したリチウム二次電池用電極、及びこれを備えたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、携帯電話機をはじめとする携帯端末、ハイブリッドカー、電気自動車及び電動アシスト自転車に用いるバッテリーは急速に普及するとともに、更なる小型化や軽量化が求められている。これら各種製品に用いられるバッテリー(充電式電池)には、エネルギー密度が高く、軽量であるという利点を有するリチウムイオン二次電池が用いられるようになってきている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、通常、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることのできる正極活物質を含む正極と、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることのできる負極活物質を含む負極と、電解質より構成され、リチウムイオン二次電池用電極の作製は、通常、電極形成用スラリーを電極集電体に塗布、乾燥させる方法が採られる。
電極形成用スラリーとしては、正極活物質、負極活物質などの電極活物質、バインダー及び分散媒を混合、混練したものが挙げられる。従来から、バインダー及び分散媒としては、有機溶媒系バインダーが主に用いられており、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をバインダーとし、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの極性溶媒を分散媒として用いるのが代表的である。
【0004】
ところで、セルロースは、分子内に水素結合可能なヒドロキシ基を数多く有するために、電極集電体や電極活物質との結着性に優れる電極用バインダーとなり得ると考えられる。すなわち、セルロースを電極用バインダーとして用いた場合、電極製造過程で電極に対する応力や、充放電サイクルで生じるリチウムイオンの吸蓄や放出、及び温度変化による電極自体の体積変化が生じたとしても、応力を緩和し、電極集電体と電極活物質との剥離や脱落を防止でき、密着性低下の抑制が可能と考えられる。(特許文献1参照)
【0005】
一方、従来より検討されている前述の有機溶媒系のバインダーは、集電体と電極活物質との結着性に優れる反面で、電極形成用スラリーを混練・塗布する際に有機溶媒の使用を必要とする点がコストの面からも環境保全の観点からも課題とされていた。このため、有機溶媒を使用しない新たなバインダー組成として、水へ溶解または分散する樹脂をバインダーとして用いる試みが検討されている。このような水系スラリーをバインダーとして用いる際、電極活物質等のスラリー中での分散性向上や充放電サイクル特性の向上、電池容量維持率向上のために、前述のセルロース系化合物の併用が検討されている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−100439号公報
【特許文献2】特開2010−170993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで検討されてきた従来技術では、リチウムイオン二次電池において所望の電池容量、または所望の充放電サイクル特性を発現させるには高価なバインダーを用いる必要があり、また前述のとおり有機溶媒の使用を必要とし、コストの面からも環境保全の観点からも大きな課題とされていた。
一方で、水系バインダーを用いた場合であっても、有機溶媒系バインダーと比較して電極集電体と活物質の結着性が低いことや、十分な電池容量が得られない等、実用性の観点からさらなる改善が望まれるものであった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、有機溶媒を用いずとも電極活物質と導電助剤の均一性を向上させることができ、また、電極集電体と電極活物質、導電助剤との結着性も向上させることができる、新たなリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を提供することを目的とする。
また本発明は、前記リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を用いて形成した電極を備えた、充放電サイクル特性、及び電池容量が向上したリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、微細化されたセルロースファイバーの水分散液から水を除去すると、セルロースファイバーが網目状の構造を形成することに着目した。そしてこの微細化されたセルロースファイバーを従来検討されているセルロース系化合物の代わりにリチウム二次電池の電極形成用スラリー組成物のバインダーとして採用することにより、有機溶媒を使用した従来の問題点(コスト、環境安全性)を解消できるだけでなく、これまで検討された水系バインダーで不十分とされた、電極集電体と活物質の結着性や電池容量といった実用面の課題をも改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明はリチウム二次電池電極形成用のスラリー組成物であって、電極活物質(A)、導電助剤(B)、及び水系バインダーとして微細化されたセルロースファイバー(C)を含有することを特徴とする、リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物に関する。
【0011】
前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて水を分散媒として測定される体積累計50%における粒子径が0.01μm乃至40μmであることが好ましい。
また、前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼式摩砕機)及び媒体攪拌ミルからなる群から選択されるいずれかの湿式粉砕方法によって調製されることが好ましい。
さらに、前記微細化されたセルロースファイバー(C)は、植物由来セルロースまたはバクテリアセルロースから調製されることが好ましい。
【0012】
また前記電極活物質(A)は、例えばリチウムチタン複合酸化物である。
さらに前記導電助剤(B)は、黒鉛粉末、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、またはカーボンナノファイバーであることが好ましい。
【0013】
また本発明は、電極集電体と、前記リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を用いて該電極集電体上に形成された層を含む、リチウム二次電池用電極に関する。
そして本発明は、正極、負極、または、正極及び負極として前記リチウム二次電池用電極を備えることを特徴とするリチウム二次電池に関する。
【0014】
さらに本発明は、電極集電体上に、電極活物質(A)と導電助剤(B)とを含む電極層を形成するための水系バインダーであって、微細化されたセルロースファイバー(C)を含有することを特徴とする水系バインダーに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物は、該組成物中の電極活物質と導電助剤の均一性の向上を実現でき、また電極集電体への塗布性に優れ、そして電極集電体と電極活物質及び導電助剤との結着性を優れたものとすることができる。
また本発明のリチウム二次電池用電極は、電極集電体と電極活物質及び導電助剤との結着性に優れた電極であり、そして該電極を用いたリチウム二次電池は、従来の有機溶媒系バインダーを用いて作製したリチウム二次電池と同等またはそれを超える放電サイクル特性及び電池容量を獲得することができる。
さらに本発明のリチウム二次電池用電極は、低温における電池特性に優れた電極であり、そして該電極を用いたリチウム二次電池は、低温条件下において、従来の有機溶媒系バインダーを用いて作製したリチウム二次電池及び既存の水溶性高分子バインダーを用いて作製したリチウム二次電池と同等またはそれを超える放電サイクル特性及び電池容量を獲得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は実施例1で作製した電極の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図2図2は実施例2で作製した電極の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図3図3は実施例1、実施例2、比較例1乃至比較例3で作製したリチウム二次電池において、充放電レートを0.1Cから3Cに変化させた場合の25℃における充放電レート特性(充放電曲線)を示す図である。
図4図4は実施例1、実施例2、比較例1乃至比較例3で作製したリチウム二次電池の25℃における充放電サイクル特性を示す図である。
図5図5は実施例1、比較例2及び比較例3で作製したリチウム二次電池の0℃における充放電レート特性(充放電曲線)を示す図である。
図6図6は実施例1、比較例2及び比較例3で作製したリチウム二次電池の0℃における充放電レート特性(サイクル特性)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物、及びそれを用いて形成したリチウム二次電池用電極、リチウム二次電池、並びに該スラリー組成物に用いる水系バインダーについて順次説明する。
【0018】
〔二次電池電極形成用スラリー組成物〕
本発明の二次電池電極形成用スラリー組成物は、電極活物質(A)、導電助剤(B)、及び水系バインダーとして微細化されたセルロースファイバー(C)を含有することを特徴とする。
【0019】
<水系バインダー:微細化されたセルロースファイバー(C)>
本発明の上記スラリー組成物において、最大の特徴は、水系バインダーとして微細化されたセルロースファイバー(C)を用いる点にある。微細化されたセルロースファイバー(C)は、実際には後述するセルロースファイバー分散液の形態で用いられ、二次電池の電極形成にあたり、分散液より水を除去するとセルロースファイバーが網目状の構造を形成することにより、電極活物質(A)及び導電助剤(B)を含む電極層を電極集電体上に結着させるための有用なバインダーとしての役割を担うものである。
【0020】
本発明で使用する微細化されたセルロースファイバーの原料となるセルロースとしては、従来のセルロースファイバーの製造に使用されている原料を広く用いることができる。例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物・食物残渣など植物由来のセルロースまたはバクテリアセルロース、ホヤセルロースなど微生物若しくは動物産生のセルロースを原料として用いることができる。これらセルロースは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
なかでも、植物由来のセルロースまたはバクテリアセルロースを原料として用いることが好ましい。
【0021】
本発明においては、これらセルロース原料を粉砕し、微細化されたセルロースファイバーを用いる。セルロースの粉砕方法は限定されないが、本発明の目的に合う繊維径にまで微細化するには、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼式摩砕機)、あるいはビーズミルなどの媒体攪拌ミルといった、強いせん断力が得られる方法が好ましい。また、これらの中でも高圧ホモジナイザーを用いて微細化することが好ましく、例えば特開2005−270891号公報に開示されるような湿式粉砕法、すなわち、セルロースを分散させた水分散液を、一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射して衝突させることにより、セルロースを粉砕するものであって、例えばスターバーストシステム((株)スギノマシン製の高圧粉砕装置)を用いることにより実施できる。
【0022】
前述の高圧ホモジナイザーを用いてセルロースファイバーを微細化する際、微細化や均質化の程度は、高圧ホモジナイザーの超高圧チャンバーへ圧送する圧力と、超高圧チャンバーに通過させる回数(処理回数)、及び水分散液中のセルロース濃度に依存することとなる。
圧送圧力(処理圧力)は、通常、50MPa乃至250MPaであり、好ましくは100MPa乃至245MPaである。圧送圧力が50MPa未満の場合には、セルロースファイバーの微細化が不充分となり、微細化により期待される効果が得られない。
また、微細化処理時の水分散液中のセルロース濃度は0.1質量%乃至30質量%、好ましくは1質量%乃至10質量%である。水分散液中のセルロース濃度が0.1質量%未満だと生産性が著しく低く、30質量%より高い濃度だと粉砕効率が低く、所望の微細化されたセルロースファイバーが得られない。
微細化の処理回数は、前記水分散液中のセルロース濃度にもよるが、セルロース濃度が0.1質量%乃至1質量%の場合には処理回数は10パス乃至50パス程度で充分に微細化されるが、1質量%乃至10質量%では50パス乃至200パス程度必要となる。また、30質量%を超える高濃度な場合は、数百回以上の処理回数が必要となり、工業的観点から非現実的である。
【0023】
本発明に用いられる微細化されたセルロースファイバー(C)の微細化の評価は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定器を用いることができる。本発明においては、前述の湿式粉砕法などによって得られたセルロースファイバーの水分散液の体積粒度分布を測定したとき、体積累計50%における粒子径(メジアン径)が0.01μm乃至40μm、特に好ましくは0.05μm乃至10μmであるセルロースファイバーを用いることが好ましい。
粒子径が、0.01μm未満であると、セルロースファイバーが短繊維化されすぎることにより添加効果が得られず、すなわち、次いで得られるリチウム二次電池電極形成用のスラリー組成物を用いて得られる二次電池用電極において、電極集電体と、電極活物質及び導電助剤を含む電極層の結着性の改善につながらない。また、粒子径が40μmより大きいと、セルロースファイバーの微細化が不充分なものとなり、すなわち、前記電極層の均一性が不充分となるために、期待した効果が得られない。
【0024】
なお、本発明に用いられる微細化されたセルロースファイバーは、繊維径について特に制限するものでは無いが、0.001乃至10μm、好ましくは0.01乃至1μmのものである。また、アスペクト比(L/D)についても特に制限されるものでは無いが、10乃至100,000であり、好ましくは100乃至10,000である。
【0025】
また本発明に用いられる微細化されたセルロースファイバーは、前述の湿式粉砕法よって得られたセルロースファイバーの水分散液の形態にて、スラリー組成物の調製に用いることができる。
なおこうして得られる微細化されたセルロースファイバーを含む水系バインダーも本発明の対象である。
【0026】
リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物中の微細化されたセルロースファイバー(C)の量は、通常、該スラリー組成物中の固形分合計量100質量部に対し、たとえば0.01質量部乃至50質量部であり、より好ましくは0.1質量部乃至20質量部である。
【0027】
<電極活物質(A)>
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物に含まれる電極活物質(A)としては、正極活物質または負極活物質が挙げられる。
【0028】
前記正極活物質としては、例えば、リチウム−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−鉄複合酸化物、リチウム−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物及びリチウム−遷移金属硫酸化合物などのリチウムと遷移金属を含む酸化物、リン酸化合物、硫化物、ケイ酸塩化合物、フッ化物が挙げられる。また電極活物質として二種類以上の正極活物質を併用したもの、導電性物質と複合化したものを用いてもよい。
上記正極活物質の中でも、特にリン酸鉄リチウムが好ましい。これは、構造中のPOポリアニオンが熱的に安定であるため、従来の正極活物質と比べ高い安全性が期待されること、良好な容量保持特性を示すことによる。また中心金属である鉄は資源埋蔵量が豊富であり、低コスト、低環境負荷であるため量産化に適しているという点からも好ましい。
【0029】
また、前記負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、ハードカーボン、天然黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素材料、リチウムチタン酸化物(LTO)を代表とする酸化物、硫化物、窒化物、フッ化物などのリチウム−遷移金属化合物、金属材料、ならびにリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金及びリチウムケイ素合金などのリチウム合金が例示される。また電極活物質として二種類以上の負極活物質を併用したもの、導電性物質と複合化したものを用いてもよい。
上記負極活物質の中でも、特にリチウムチタン複合酸化物が好ましい。これは、従来より負極として用いられてきた炭素電極は作動電位が低く(0.9V vs Li/Li)、このため金属リチウムが析出しやすく内部短絡を起こしやすいという欠点があり、これに対して、リチウムチタン複合酸化物は作動電位が高く(1.55V vs Li/Li)、固体電解質被膜(SEI)が形成されにくいことにより、高い安全性が期待されることによる。またリチウムチタン複合酸化物は、充放電時の体積変化が少ないことから、電池寿命の向上が期待できる点からも好ましい。
【0030】
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物中の電極活物質(A)の量は格別限定されないが、通常、該スラリー組成物中の固形分合計量100質量部に対し、たとえば50質量部乃至99.9質量部であり、より好ましくは80質量部乃至99.0質量部である。
電極活物質の配合量が50質量部未満では、充分な電池容量が得られず、充放電サイクル特性も悪い。また、配合量が99.9質量部より多い場合、水系バインダー(微細化されたセルロースフィバー(C))の添加量が充分でなくなるために、電極集電体への親和性が低く、塗布性が悪く、次いで得られる電極の結着性が充分に得られず、充放電により電極からの活物質の剥離や脱落が誘発されるなど、耐久性に劣る虞がある。
【0031】
<導電助剤(B)>
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物に含まれる導電助剤(B)としては、炭素材料を用いることができ、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック)、繊維状炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー)を挙げることができる。中でもカーボンブラックは、微粒で表面積が大きく、本発明の上記スラリー組成物中に少量添加することにより、得られる電極内部の導電性を高め、充放電効率及び大電流放電特性を向上させることも可能である。
【0032】
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物中の導電助剤(B)の量は格別限定されないが、通常、該スラリー組成物中の固形分合計量100質量部に対し、たとえば0.1質量部乃至20質量部であり、より好ましくは0.5質量部乃至10質量部である。
【0033】
<その他成分>
また、本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物中には、前記電極活物質(A)及び導電助剤(B)の分散剤として、水溶性ポリマーを含んでもよい。水溶性ポリマーとしては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(PAA)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)が挙げられる。これら分散剤としての水溶性ポリマーは二種類以上が併用されてもよい。
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物中の分散剤の使用量は、微細化されたセルロースファイバー(C)100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上500質量部以下が更に好ましい。
【0034】
<リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物の調製方法>
本発明のリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物は、含有する電極活物質(A)及び導電助剤(B)が該組成物中に均一に分散された状態にあることが好ましい。その調製方法は、特に限定されるものではないが、たとえば水系バインダーである微細化されたセルロースファイバーを製造するための湿式粉砕工程において、セルロース原料と電極活物質及び導電助剤とを共存させた状態で、前記セルロース原料の微細化、及び電極活物質及び導電助剤の混合、または分散処理を同時に行い、スラリー組成物を調製してもよい。
あるいは、例えば、水系バインダーである微細化されたセルロースファイバーを調製後、該ファイバーと電極活物質及び導電助剤とを共存させた状態で、乳鉢などを用いて湿式混練することによってスラリー組成物を調製してもよい。
【0035】
〔リチウム二次電池用電極〕
本発明のリチウム二次電池用電極は、電極集電体と、前記リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を用いて該電極集電体上に形成された層、即ち電極活物質層を含めて構成される。前記電極活物質層は充放電反応の中心を担う活物質を含む層である。
【0036】
本発明のリチウム二次電池用電極に用いられる電極集電体は、アルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス(SUS)など、導電性の材料から選択される。電極集電体の形状としては、例えば、箔状、平板状、メッシュ状、ネット状、ラス状、パンチングメタル状、或いはエンボス状、またはこれらの組み合わせを挙げることができ、好ましくは箔状のものが使用される。電極集電体の一般的な厚さは1μm乃至30μmであるが、この範囲を外れる厚さの電極集電体を用いてもよい。
【0037】
電極活物質層は、例えば電極集電体上に前記リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることにより形成される。
前記電極形成用スラリー組成物の電極集電体上への塗布方法は、特に限定されないが、例えば、ロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、ダイコーター等の一般的に用いられている手法が採用され得る。
塗布後、電極集電体の表面に形成された塗膜を乾燥させる手段は特に制限されず、例えば、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥等、電極製造において従来公知の技術を採用することができる。塗膜の乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、上記電極形成用スラリー組成物の塗布量及びスラリー組成物からの水分揮発速度に応じて、例えば40℃乃至100℃にて、1時間乃至24時間の間より適宜選択される。
このようにして得られる電極活物質層の厚さは、一般的に、0.01μm乃至100μm、好ましくは1μm乃至50μmである。
【0038】
なお、リチウム二次電池としては、リチウムメタル二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池などが挙げられるが、本発明のリチウム二次電池用電極は、例えばリチウムイオン二次電池向けの電極として用いられる。
【0039】
〔リチウム二次電池〕
本発明のリチウム二次電池は、前記リチウム二次電池用電極を正極、または負極の少なくとも一方に使用したものである。すなわち、本発明のリチウム二次電池は、正極活物質または負極活物質を含む前記リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を電極集電体上に塗布し、乾燥して得られる電極を含むものである。
【0040】
リチウム二次電池の電解液は、特に限定されず、液状またはゲル状で用いられるものが挙げられ、前述の負極活物質、正極活物質の種類に応じて、二次電池としての機能を発揮するものを適宜選択すればよい。
例えば、電解質としては、LiClO、LiBF、CFSOLi、LiI、LiAlCl、LiPFなど、従来のリチウム二次電池で常用される電解液の電解質が挙げられる。
また電解液の溶媒としては、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物類、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物類、リン酸エステル化合物類などが例示され、一般に、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類が好適である。
【0041】
また、前記リチウム二次電池用電極を正極として用いた場合、対極の負極には前述の<負極活物質>として挙げた活物質を使用でき、前記リチウム二次電池用電極を負極として用いた場合、対極の正極には前述の<正極活物質>として挙げた活物質を使用できる。これら各活物質を、電極集電体にバインダーを用いるなどして担持させることにより、負極あるいは正極として用いることができる。或いは上記活物質は単独で、例えば金属または合金単体で電極として用いることもできる。
【0042】
また、本発明のリチウム二次電池は、その形状などについても特に制限はなく、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、扁平型、角型、或いは電気自動車などに用いる大型のものなど、いずれであってもよい。
【0043】
本発明のリチウム二次電池は、高容量で長寿命であることから、その特性を生かして、小型で多機能な携帯機器の電源をはじめとして、従来公知のリチウム二次電池が適用されている各種用途に好ましく用いる事ができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明の特徴をより具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0045】
実施例、比較例で用いた測定法を以下に記載する。
〔走査型電子顕微鏡観察〕
電極断面の観察は、電極をエポキシ樹脂へ埋包させた後、スライス片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子(株)製 JSM−7001F、加速電圧15kV)にてその断面観察を行った。
〔粉末X線回折測定〕
合成した試料の構造解析は、粉末X線回折測定(理学電機(株)製 RINT2200、測定条件:ステップ幅0.02°、線源CuKα、λ=1.541Å、管電圧40kV、管電流30mA)を用いて行なった。
〔充放電特性〕
作製したリチウム二次電池は、電池充放電計測システム(北斗電工(株)製、HJR−1010mSM8A)を用いて定電流充放電試験を行い、充放電特性を評価した。電流密度は17.5mAg−1乃至1750mAg−1(0.1C乃至10C:1C(175mAg−1)は1時間で活物質の理論容量に達する電流密度である)の範囲とし、電圧範囲は1.2V乃至3.0V、測定温度は25℃または0℃で行なった。
【0046】
[合成例1:電極活物質(LTO)作製]
蒸留水400mLへシュウ酸二水和物25.6g、炭酸リチウム3.2gを添加し溶解させた。次いで、エタノール20mLへ予め溶解しておいたチタニウムテトライソプロポキシド29.2gを加え、80℃において3時間撹拌した。その後、スプレードライ(東京理化器械(株)製 SD−1000、乾燥条件:入口温度160℃、出口温度100℃、噴射圧力100kPa、熱風量0.7m/分、流量400mL/時間)を用いて乾燥させ、800℃(昇温・降温速度:1℃/分)において12時間焼成した。粉末X線回折測定から、得られた電極活物質は、立方晶、空間群Fd−3mのリチウム過剰のLTOであった。
【0047】
[合成例2:水系バインダー(微細化されたセルロースファイバー水分散液)の調製]
市販セルロース粉末(Celite社製 Fibra−Cell BH−100)5質量部を純水495質量部へ分散させて、微細化処理((株)スギノマシン製 スターバーストシステム)(200MPa、50Pass)を行い、微細化されたセルロースファイバー水分散液を得た。得られたセルロースファイバー水分散液をシャーレに測りとり、110℃にて5時間乾燥を行い、水分を除去して残渣の量を測定し、濃度を測定した。その結果、水中の微細化されたセルロースファイバー濃度(固形分濃度)は、0.74質量%であった。
【0048】
[実施例1]
〔リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物・電極及びコインセル型二次電池作製〕
合成例1で得た電極活物質:電子伝導助剤(アセチレンブラック(電気化学工業(株)製 デンカブラック)):合成例2で得た水系バインダー(微細化されたセルロースファイバー水分散液)を88:6:6の質量比に秤量し、メノウ乳鉢を用いて15分程度混合し、リチウム二次電池電極形成用スラリー組成物を作製した。
次いで、電極集電体としてのアルミニウム箔(宝泉(株)製、膜厚20μm)へ、ドクターブレード法で塗布し、乾燥機で80℃にて3時間乾燥させた。その後、電極層を塗布したアルミニウム箔を、ロールプレス後、コルクボーラーを用いて打ち抜き、ディスク状に成型したものを真空下、80℃にて12時間乾燥させた。走査型電子顕微鏡を用いて、得られた電極の断面観察を行ったところ、膜厚は7μmであった(図1)。
さらに、本実施例で得られた電極と、対極に金属リチウムを用いてリチウム二次電池を作製した。リチウム二次電池は常法に従い、R2032コインセル型二次電池を作製した。
なお、コインセルの作製手順は以下のとおりである。すなわち、本実施例で得られた電極を正極に用い、負極には直径12mmに打ち抜いた金属リチウム箔(本荘ケミカル(株)製)、電解液には1mol・dm−3LiPF/(エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=30:70質量%)(三菱化学(株)製 水分量20ppm以下)、セパレーターにはセルガード社製#2325(厚さ25μm、空孔率40%、透気度620秒を用いR2032コインタイプセルを作製した。リチウム二次電池の作製は、室温、乾燥アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0049】
[実施例2]
合成例1で得た電極活物質:電子伝導助剤(アセチレンブラック(電気化学工業(株)製 デンカブラック)):合成例2で得た水系バインダーを92:6:2の質量比で秤量した以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物及び電極を作製した。走査型電子顕微鏡にて、得られた電極の断面観察を行ったところ、膜厚は7μmであった(図2)。
次いで、実施例1と同様の方法にてコインセル型二次電池を作製した。
【0050】
[比較例1]
水系バインダーとして、カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬(株)製)を用いて、合成例1で得た電極活物質:電子伝導助剤(アセチレンブラック(電気化学工業(株)製 デンカブラック)):水系バインダー(カルボキシメチルセルロース)を88:6:6の質量比とした以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物及び電極を作製し、実施例1と同様の方法にてコインセル型二次電池を作製した。
【0051】
[比較例2]
水系バインダーとして、ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製)を用いて、合成例1で得た電極活物質:電子伝導助剤(アセチレンブラック(電気化学工業(株)製 デンカブラック)):水系バインダー(ポリアクリル酸)を88:6:6の質量比とした以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物及び電極を作製し、実施例1と同様の方法にてコインセル型二次電池を作製した。
【0052】
[比較例3]
非水系バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVdF、(株)クレハ製)を用いて、合成例1で得た電極活物質:電子伝導助剤(アセチレンブラック(電気化学工業(株) 製デンカブラック)):非水系バインダーを88:6:6の質量比とした以外は、実施例1と同様の方法にてリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物及び電極を作製し、実施例1と同様の方法にてコインセル型二次電池を作製した。
【0053】
〔塗布性〕
実施例1及び実施例2、並びに比較例1乃至比較例3にて作製したリチウム二次電池電極形成用スラリー組成物の、電極集電体であるアルミ箔上への塗布性について、目視にて評価した。評価結果を表1に示す。
【0054】
〔環境負荷〕
スラリー組成物に用いた分散媒に関して、環境保全の観点から評価した。
【0055】
〔充放電レート特性(充放電曲線)〕
実施例1及び実施例2、並びに比較例1乃至比較例3にて作製したリチウム二次電池に対して、25℃にて0.1C、0.5C、1C、2Cまたは3C(1C=175mAg−1)の定電流で1.2Vまで充電した後、続いて充電時と同じ定電流条件にて3.0Vまで放電するという充放電サイクルを、各電流密度にて5回ずつ繰り返して行った。その後、0.1Cの条件で5回充放電(1.2V−3.0V折り返し)を行い、その後、1Cの条件(1.2V−3.0V折り返し)にて、充放電のレート特性を評価した。1C及び3Cの比率で3Vまで充電した際の容量を、各リチウム二次電池の電池容量として評価した結果を表1に示す。
また、充放電レートを0.1Cから3C(1C=175mAg−1)に変化させた場合の充放電レート特性(充放電曲線)につき、図3に示す。
表1及び図3に示すように、実施例1及び実施例2で作成した二次電池は、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いた比較例3と同等の充放電レート特性を示した。
【0056】
【表1】
【0057】
〔充放電サイクル特性〕
実施例1及び実施例2、並びに比較例1乃至比較例3にて作製したリチウム二次電池に対して、25℃にて0.1C、0.5C、1C、2Cまたは3C(1C=175mAg−1)の定電流で1.2Vまで充電した後、続いて充電時と同じ定電流条件にて3.0Vまで放電するという充放電サイクルを、各電流密度にて5回ずつ繰り返して行った。その後、0.1Cの条件で5回充放電(1.2V−3.0V折り返し)を行い、その後、1Cの条件(1.2V−3.0V折り返し)にて、充放電のサイクル特性を評価した。
図4に、実施例及び比較例にて作製したリチウム二次電池の充放電サイクル特性を示す。1C定電流充放電における30回以上でのサイクル特性を見ると、実施例1及び実施例2と比較して、比較例1及び比較例2は、徐々に放電容量が減少した。
【0058】
〔低温特性〕
実施例1、比較例2及び比較例3にて作製したリチウム二次電池に対して、0℃にて0.1C、0.5C、1C、2C、3C、5Cまたは10C(1C=175mAg−1)の定電流で1.2Vまで充電した後、続いて充電時と同じ定電流条件にて3.0Vまで放電するという充放電サイクルを、各電流密度にて5回ずつ繰り返して行った。その後、0.1Cの条件で5回充放電(1.2V−3.0V折り返し)を行い、低温(0℃)における充放電のサイクル特性を評価した。
実施例1、比較例2及び比較例3にて作製したリチウム二次電池の低温(0℃)における充放電レート特性(充放電曲線)を図5に、充放電レート特性(サイクル特性)を図6に示す。図5及び図6に示すように、実施例1で作製した二次電池は、各電流密度でバインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いた比較例3とほぼ同等の放電容量を示した。一方で、0.5C以上の電流密度を見ると、バインダーとして既存の水溶性高分子(ポリアクリル酸)を用いた比較例2では、実施例1と比較して、電流密度の増加に伴い大きく放電容量が低下した。
図3
図4
図5
図6
図1
図2