【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、層状ケイ酸塩鉱物と合成樹脂とを含有する水蒸気バリアフィルムであって、前記層状ケイ酸塩鉱物として非膨潤性粘土鉱物と膨潤性粘土鉱物とを含有し、前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量が水蒸気バリアフィルムの全重量に対して30重量%以上90重量%以下であり、かつ、40℃、90%RHの環境下での水蒸気透過度が0.5g/m
2・day以下であ
り、前記非膨潤性粘土鉱物は、膨潤力が5mL/2g未満であり、前記膨潤性粘土鉱物は、膨潤力が5mL/2g以上である水蒸気バリアフィルムである。
以下に、本発明を詳述する。
【0013】
本発明者らは、非膨潤性粘土鉱物と膨潤性粘土鉱物とを含有する層状ケイ酸塩鉱物を特定量配合することにより、高い機械的強度を有し、柔軟性、難燃性、及び、水蒸気バリア性に優れる水蒸気バリアフィルムを得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
これまでの水蒸気バリアフィルムは、水蒸気バリア性を発揮させるために膨潤性粘土鉱物を用いていた。膨潤性粘土鉱物は層間イオンを有するために分散媒中で膨潤と剥離をし、分散媒除去中に徐々に積層し、水蒸気等のガスバリア性を発揮することが知られている。しかしながら、膨潤性粘土鉱物を用いたフィルム、例えば、膨潤性粘土鉱物と非膨潤性粘土鉱物と合成樹脂とのコンポジットフィルムは、均一な分散液の調製が難しく、均一なフィルムの形成が困難であった。また、通常、膨潤性粘土鉱物を用いたフィルムは厚くすることが困難であり、製膜過程で亀裂や割れが生じるため40μm以上の厚みのものを作製することが困難であった。
また、非膨潤性粘土鉱物は通常、板状結晶が高配向したフィルムを得ることができないため、非膨潤性粘土鉱物を用いて高い水蒸気バリア性を有するフィルムを作製することは困難であった。そこで、本発明者らは、まず、膨潤性粘土鉱物と非膨潤性粘土鉱物とを特定量含有する均一な分散液を、特定の混合方法を用いることにより調製できることを見出した。更に、驚くべきことに、非膨潤性粘土鉱物単一では板状結晶が高配向したフィルムにならないが、この均一な分散液を用いることで、非膨潤性粘土鉱物を含めてすべての粘土鉱物が高配向したフィルムとなり、高い水蒸気バリアを発揮することを見出した。これにより、高い機械的強度を有し、柔軟性、難燃性、及び、水蒸気バリア性に優れる水蒸気バリアフィルムを開発することに成功した。
【0014】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、層状ケイ酸塩鉱物を含有する。
本発明の水蒸気バリアフィルムは、前記層状ケイ酸塩鉱物として、非膨潤性粘土鉱物と膨潤性粘土鉱物とを含有する。
なお、本明細書において、前記「非膨潤性」とは、水や有機溶媒に加えた際にほとんど膨潤しないことをいう。具体的には、膨潤力が5mL/2g未満であるものをいう。
前記「膨潤力」は、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−104−77、ベントナイト(粉状)の膨潤力測定方法に準じた方法で、水100mLの入った100mL容メスシリンダーに粘土鉱物の粉末2.0gを少量ずつ入れて自然沈降させ膨潤した粘土鉱物の見かけ容積を読むことで測定することができる。
前記非膨潤性粘土鉱物を含有せず、膨潤力が5mL/2g以上の膨潤性粘土鉱物のみを含有する場合、分散媒への分散性が悪くなり、フィルムが表面の平坦性に劣るものとなる。前記非膨潤性粘土鉱物の膨潤力の好ましい上限は4mL/2g、より好ましい上限は3mL/2gである。特に限定されるわけではないが、実用上の観点から、好ましい下限は0.5mL/2gである。
【0015】
前記非膨潤性粘土鉱物としては、例えば、天然物又は合成物の雲母、タルク、カオリン、パイロフィライト等が挙げられる。なかでも、得られるフィルムの機械的強度や水蒸気バリア性の観点から、層電荷が0である粘土鉱物が好ましく、タルク、カオリン、パイロフィライトからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましい。前記非膨潤性粘土鉱物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本明細書において、前記「膨潤性」とは、水や有機溶媒に加えた際に膨潤することをいう。前記膨潤性粘土鉱物の層間にはナトリウムイオン等のイオンが存在し、それらのイオンと溶媒の親和力により膨潤性粘土鉱物は膨潤する。具体的には、上述した「膨潤力」が5mL/2g以上であるものをいう。
前記膨潤性粘土鉱物を含有せず、膨潤力が5mL/2g未満の非膨潤性粘土鉱物のみを含有する場合、得られるフィルム中の粘土鉱物の積層化が悪くなり、水蒸気透過度が大きくなる。前記膨潤性粘土鉱物の膨潤力の好ましい下限は18mL/2g、より好ましい下限は50mL/2g、更に好ましい下限は80mL/2gである。特に限定されるわけではないが、実用上の観点から、好ましい上限は105mL/2gである。
【0017】
前記膨潤性粘土鉱物としては、例えば、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、イライト、セリサイト等が挙げられる。また、市販品としては、例えば、ソマシフ(コープケミカル社製)、クニピア(クニミネ工業社製)等が挙げられ、クニピアが好ましく用いられる。なかでも、得られるフィルムの平滑性や水蒸気バリア性の観点から、層電荷が1/2単位胞あたり0.2〜0.6である粘土鉱物が好ましく、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、及び、スチーブンサイトからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましい。前記膨潤性粘土鉱物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記膨潤性粘土鉱物は、分散液の分散性を向上させることを目的として、シリル化剤と反応させて変性したものであることが好ましい。
前記シリル化剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0019】
前記膨潤性粘土鉱物は、膨潤性や耐水性を向上させることを目的として、層間陽イオンを交換したものであることが好ましい。
前記層間陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオン、アンモニウムイオン化合物、ホスホニウムイオン化合物等のオニウムイオン、水素イオン等に交換することが好ましく、層間イオンが1価である、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン化合物、ホスホニウムイオン化合物、水素イオン等がより好ましい。耐水性の効果を高める観点から、リチウムイオンに交換することが更に好ましい。
【0020】
前記層状ケイ酸塩鉱物の平均粒子径によっても、得られる水蒸気バリアフィルムの性質が変わるため、前記層状ケイ酸塩鉱物は、粒子径を選択した上で使用することが好ましい。
【0021】
前記膨潤性粘土鉱物の平均粒子径の好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は50μmである。前記膨潤性粘土鉱物の平均粒子径が0.01μm未満であると、フィルム中の粘土鉱物の積層化が悪くなり、水蒸気透過度が大きくなることがある。前記膨潤性粘土鉱物の平均粒子径が50μmを超えると、得られるフィルムが表面の平坦性に劣るものとなることがある。前記膨潤性粘土鉱物の平均粒子径のより好ましい下限は0.05μm、より好ましい上限は20μm、更に好ましい下限は0.1μm、更に好ましい上限は15μmである。
また、前記非膨潤性粘土鉱物の平均粒子径の好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は50μmである。前記非膨潤性粘土鉱物の平均粒子径が0.1μm未満であると、得られるフィルムが機械的強度に劣るものとなることがある。前記非膨潤性粘土鉱物の平均粒子径が50μmを超えると、得られるフィルムが表面の平坦性に劣るものとなることがある。前記非膨潤性粘土鉱物の平均粒子径のより好ましい下限は0.2μm、より好ましい上限は20μm、更に好ましい下限は0.5μm、更に好ましい上限は15μmである。
なお、前記膨潤性粘土鉱物、前記非膨潤性粘土鉱物の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計等を用いて粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0022】
前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量は、水蒸気バリアフィルムの全重量に対して、下限が30重量%、上限が90重量%である。前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量が30重量%未満であると、得られるフィルムの水蒸気透過度が高くなるだけでなく、耐熱性も悪くなる。前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量が90重量%を超えると、得られるフィルムが機械的強度に劣るものとなる。前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量の好ましい下限は35重量%、好ましい上限は85重量%、より好ましい下限は40重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい下限は50重量%、更に好ましい上限は70重量%、特に好ましい下限は60重量%である。
【0023】
前記膨潤性粘土鉱物の含有量は、層状ケイ酸塩鉱物全重量に対して、好ましい下限が2重量%、好ましい上限が80重量%である。前記膨潤性粘土鉱物の含有量が2重量%未満であると、得られるフィルムの水蒸気透過度が高くなることがある。前記膨潤性粘土鉱物の含有量が80重量%を超えると、得られるフィルムが機械的強度に劣るものとなることがある。前記膨潤性粘土鉱物の含有量のより好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は70重量%、更に好ましい下限は10重量%、更に好ましい上限は60重量%、特に好ましい下限は20重量%、特に好ましい上限は50重量%である。
即ち、前記非膨潤性粘土鉱物と前記膨潤性粘土鉱物との比は、重量比で98:2〜20:80であることが好ましい。前記非膨潤性粘土鉱物の比率が20%未満であると、得られるフィルムが機械的強度に劣るものとなることがある。前記非膨潤性粘土鉱物の比率が98%を超えると、得られるフィルムの水蒸気透過度が高くなることがある。
【0024】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、合成樹脂を含有する。
前記合成樹脂は特に限定されず、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニル樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられる。なかでも、耐熱性の観点から、前記合成樹脂は、耐熱性合成樹脂が好ましく、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)が好ましい。
前記耐熱性合成樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられる。なかでも、得られる不燃フィルムの製膜性、耐熱性、及び、機械的強度が特に優れるものとなることから、ポリイミド樹脂及び/又はポリアミドイミド樹脂が好適に使用される。
【0025】
前記ポリイミド樹脂は、下記式(1)の繰り返し構造を有する化合物であり、前記ポリアミドイミド樹脂は、下記式(2)の繰り返し構造を有する化合物である。
【0026】
【化1】
【0027】
式(1)中、R
1は4価であり、ベンゼン環を一つ又は二つ有する有機基である。なかでも、R
1は下記式(3)に示す構造であることが好ましく、前記ポリイミド樹脂は、R
1として下記式(3)に示す構造を単独で有するものであってもよいし、2種類以上有する共重合体であってもよい。
【0028】
【化2】
【0029】
式(2)中、R
2は3価であり、ベンゼン環を一つ又は二つ有する有機基である。なかでも、R
2は下記式(4)に示す構造であることが好ましく、前記ポリアミドイミド樹脂は、R
2として下記式(4)に示す構造を単独で有するものであってもよいし、2種類以上有する共重合体であってもよい。
【0030】
【化3】
【0031】
式(1)及び式(2)中、R
3は2価でありベンゼン環を一つ又は二つ有する有機基である。なかでも、R
3は下記式(5)に示す構造であることが好ましく、前記ポリイミド樹脂及び前記ポリアミドイミド樹脂は、R
3として下記式(5)に示す構造を単独で有するものであってもよいし、2種類以上有する共重合体であってもよい。
【0032】
【化4】
【0033】
なかでも、得られる水蒸気バリアフィルム支持層が安価で機械的強度に優れるものとなることから、R
1、R
2、及び、R
3は、下記式(6)に示す構造であることが好ましい。前記ポリイミド樹脂は、R
1、R
3として下記式(6)に示す構造を単独で有するものであってもよいし、2種類以上有する共重合体であってもよい。また、前記ポリアミドイミド樹脂は、R
2、R
3として下記式(6)に示す構造を単独で有するものであってもよいし、2種類以上有する共重合体であってもよい。
【0034】
【化5】
【0035】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、機械的強度を上げるため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤を含有していてもよい。
前記シラン系カップリング剤としては、例えば、アミノ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、メタクリル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤及びイソシアネート系シランカップリング剤等が挙げられる。
前記チタネート系カップリング剤としては、例えば、少なくとも炭素数1〜60のアルキレート基を有するチタネート系カップリング剤、アルキルホスファイト基を有するチタネート系カップリング剤、アルキルホスフェート基を有するチタネート系カップリング剤もしくはアルキルパイロホスフェート基を有するチタネート系カップリング剤等が挙げられる。
前記カップリング剤は、事前に層状ケイ酸塩鉱物と混合させて作用させておいてもよいし、後述する水蒸気バリアフィルム用分散液に混合してもよい。
【0036】
前記カップリング剤の使用量は、層状ケイ酸塩鉱物の全重量に対して好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は3.0重量%である。前記カップリング剤の使用量が0.1重量%未満であると、カップリング剤を使用する効果が充分に発揮されないことがある。前記カップリング剤を、3.0重量%を超えて使用しても、使用量に見合った効果が得られないことがある。前記カップリング剤の使用量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は2.0重量%である。
【0037】
本発明の水蒸気バリアフィルムの厚みは、10μm以上であることが好ましい。水蒸気バリアフィルムの厚みが10μm未満であると、水蒸気バリア性が低下するだけでなく、機械的強度が低くなり、取り扱いが困難になることがある。水蒸気バリアフィルムの厚みは、20μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましく、45μm以上であることが更により好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。
また、本発明の水蒸気バリアフィルムの厚みは、250μm以下であることが好ましい。水蒸気バリアフィルムの厚みが250μmより大きいと、硬くなり曲げ強度が低下することがある。水蒸気バリアフィルムの厚みは200μm以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、40℃、90%RHの環境下での水蒸気透過度が0.5g/m
2・day以下である。前記40℃、90%RHでの水蒸気透過度が0.5g/m
2・dayを超えると、電気材料等の用途に用いることが困難となる。前記40℃、90%RHでの水蒸気透過度は、0.2g/m
2・day以下であることが好ましく、0.1g/m
2・day以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、UL94規格薄手材料垂直燃焼試験(VTM試験)において、燃焼性分類がVTM−0であることが好ましい。なお、前記VTM試験は、フィルム試験片を円筒状に巻き、クランプに垂直に取付け、20mmの大きさの炎による3秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により表1に示した燃焼性分類の判定を行うものである。
本発明の水蒸気バリアフィルムにおいて、UL94規格VTM試験を行う際のフィルム厚みは200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0040】
【表1】
【0041】
また、本発明の水蒸気バリアフィルムは、UL94規格垂直燃焼試験(V試験)において、燃焼性分類がV−0であることが好ましい。なお、前記V試験は、試験片クランプに垂直に取付け、20mmの大きさの炎による10秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により表2に示した燃焼性分類の判定を行うものである。
【0042】
【表2】
【0043】
更に、水蒸気バリアフィルムは、UL94規格125mm垂直燃焼試験(5V試験)において、燃焼性分類が5V−A又は5V−Bであることが好ましい。なお、前記5V試験は、短冊試験片をクランプに垂直に取付け、125mmの大きさの炎による5秒間接炎を5回行い、その燃焼挙動により燃焼性分類の判定を行い、更に、平板試験片を水平に保持し、下方から125mmの大きさの炎の5秒間接炎を5回行い、その燃焼挙動により表3に示した燃焼性分類の判定を行うものである。
【0044】
【表3】
【0045】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、国土交通省令第151号「鉄道に関する技術上の基準を定める法令」に基づく鉄道車両用材料燃焼試験の「不燃性」に該当するものであることが好ましい。
【0046】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、ISO5660−1に準拠したコーンカロリーメーターによる発熱性試験において、加熱開始後20分間の総発熱量がサンプル面積に対して8MJ/m
2以下であり、加熱開始後20分間の最大発熱速度が、サンプル面積に対して300kW/m
2以下であり、かつ、試験開始から着火するまでの時間が60秒以上であることが好ましい。
【0047】
本発明の水蒸気バリアフィルムの引裂強度は、25N/mm以上であることが好ましい。前記引裂強度が25N/mm未満であると、フィルムが破れやすくなり、取扱いが困難となる。前記引裂強度は、30N/mm以上であることがより好ましく、40N/mm以上であることが更に好ましい。
なお、本明細書において前記引裂強度は、JIS K7128−1に準拠した測定法によって求められる値である。
【0048】
本発明の水蒸気バリアフィルムの引張強度は、25N/mm
2以上であることが好ましい。前記引張強度が25N/mm
2未満であると、フィルムが破れやすくなり、取扱いが困難となる。前記引張強度は、30N/mm
2以上であることがより好ましく、40N/mm
2以上であることが更に好ましい。
なお、本明細書において前記引張強度は、JIS K7127−1に準拠した測定法によって求められる値であり、引張強度試験機を用い、つかみ間隔80mm、引張速度20mm/分の条件で測定される。
【0049】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、JIS K5600−5−1(1999)に準拠した円筒形マンドレル法による耐屈曲性試験において、フィルムの割れの起こるマンドレル直径が20mm以下であることが好ましい。前記フィルムの割れの起こるマンドレル直径が20mmを超えると、柔軟性に劣るものとなることがある。前記フィルムの割れの起こるマンドレル直径は、15mm以下であることがより好ましく、12mm以下であることが更に好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0050】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、絶縁破壊電圧が20kV/mm以上であることが好ましい。前記絶縁破壊電圧が20kV/mm未満であると、電気材料等の用途に用いることが困難となる。前記絶縁破壊電圧は、25kV/mm以上であることがより好ましく、30kV/mm以上であることが更に好ましい。
【0051】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、IEC61730−2:2004 11.1項に準じた部分放電試験を行った際の部分放電電圧が少なくとも700V以上であることが好ましい。前記部分放電電圧が700V以下であると、電解集中が起こりフィルムの局所的な劣化が起こるため、電気材料に用いることが困難となる。前記部分放電電圧は1000V以上が好ましく、1500V以上であることがより好ましく、2000V以上であることが更に好ましい。
【0052】
本発明の水蒸気バリアフィルムにおける、40℃の水に24時間浸漬した後の吸水率は、2.0重量%以下であることが好ましい。前記吸水率が2.0重量%を超えると、電気材料等の用途に用いることが困難となる。前記吸水率は、1.0重量%であることがより好ましい。
【0053】
本発明の水蒸気バリアフィルムにおける、40℃、RH90%の環境下に24時間放置した後の吸湿率は、2.0重量%以下であることが好ましい。前記吸湿率が2.0重量%を超えると、電気材料等の用途に用いることが困難となる。前記吸湿率は、1.0重量%以下であることがより好ましい。
【0054】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、85℃、85%RHの環境下に保管する耐候性試験で、少なくとも500時間保管しても表面や断面に変色や剥離の変化が無いことが好ましい。前記耐候性試験において、500時間以下で変化が現れるものは、太陽電池等、屋外用途での使用が困難となる。前記耐候性試験で表面や断面に変色や剥離の変化が現れる時間は、1000時間以上であることがより好ましく、2000時間以上であることが更に好ましく、3000時間以上であることが特に好ましい。
【0055】
本発明の水蒸気バリアフィルムの製造に用いる水蒸気バリアフィルム用分散液であって、分散媒と、不揮発成分である層状ケイ酸塩鉱物並びに合成樹脂及び/又は合成樹脂の前駆体とを含有し、前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量が不揮発成分の全重量に対して30重量%以上90重量%以下である水蒸気バリアフィルム用分散液もまた、本発明の1つである。
【0056】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、分散媒と、膨潤性粘土鉱物とを含有する膨潤性粘土鉱物分散液を調製する工程1と、分散媒と、非膨潤性粘土鉱物と、合成樹脂及び/又は合成樹脂の前駆体とを含有する非膨潤性粘土鉱物分散液を調製する工程2と、膨潤性粘土鉱物分散液と非膨潤性粘土鉱物分散液とを混合し、本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液を調製する工程3と、調製した水蒸気バリアフィルム用分散液を基板上に展開して静置する工程4と、基板上に展開した水蒸気バリアフィルム用分散液から分散媒を除去してフィルム状に成形する工程5とを有する方法により、製造することができる。このような水蒸気バリアフィルムの製造方法もまた、本発明の1つである。
膨潤性粘土鉱物分散液と、非膨潤性粘土鉱物分散液を混合することにより、本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液を調製する本発明の水蒸気バリアフィルムの製造方法によれば、従来は困難であった、高い機械的強度を有し、柔軟性、難燃性、及び、水蒸気バリア性に優れる水蒸気バリアフィルムを製造することができる。
【0057】
本発明の水蒸気バリアフィルムの製造方法は、分散媒と、膨潤性粘土鉱物とを含有する膨潤性粘土鉱物分散液を調製する工程1を有する。
【0058】
前記工程1の膨潤性粘土鉱物分散液の調製において、膨潤性粘土鉱物と分散媒とを混合する前に、前記膨潤性粘土鉱物をシリル化剤と反応させて変性し、更に、層間陽イオンを交換することが好ましい。
前記膨潤性粘土鉱物をシリル化剤と反応させる方法としては、例えば、膨潤性粘土鉱物とシリル化剤とをボールミル処理する方法、自転公転ミキサーで混合する方法等が挙げられる。
前記膨潤性粘土鉱物の層間陽イオンを交換する方法としては、例えば、膨潤性粘土鉱物と交換する陽イオンを含有する水溶液とを振とうにより混合分散させる方法、攪拌機で撹拌する方法、自転公転ミキサーで混合分散させる方法等が挙げられる。
【0059】
前記工程1の膨潤性粘土鉱物分散液の調製では、膨潤性粘土鉱物と分散媒とを混合することにより、膨潤性粘土鉱物がゲル化し、更に分散媒を加えることにより、膨潤性粘土鉱物分散液が得られる。前記工程1において、膨潤性粘土鉱物分散液とせずにゲル化した状態のまま用いると、得られる水蒸気バリアフィルム用分散液にダマが発生し、均一な水蒸気バリアフィルムを作製することができなくなる。
【0060】
前記工程1において調製される膨潤性粘土鉱物分散液における前記膨潤性粘土鉱物の含有量は、膨潤性粘土鉱物分散液の全重量に対して、好ましい下限が1重量%、好ましい上限が20重量%である。前記膨潤性粘土鉱物の含有量が1重量%未満であると、分散媒が多くなり、分散媒の除去に時間を要することがある。前記膨潤性粘土鉱物の含有量が20重量%を超えると、水蒸気バリアフィルム用分散液の粘性が高くなり、製膜できなくなることがある。前記膨潤性粘土鉱物の含有量のより好ましい下限は1.5重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0061】
前記膨潤性粘土鉱物分散液における分散媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン等の炭化水素系溶媒や、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒や、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル−イソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒や、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒や、ジエチルエーテル、メチル−tertブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒や、ベンゼン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、o−クレゾール等のベンゼン系溶媒や、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄系溶媒、水等を使用することができる。なかでも、合成樹脂の溶解性が高くなることから、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、スルホラン、及び、水からなる群のうち少なくとも一種であることが好ましい。これらの分散媒は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
本発明の水蒸気バリアフィルムの製造方法は、分散媒と、非膨潤性粘土鉱物と、合成樹脂及び/又は合成樹脂の前駆体とを含有する非膨潤性粘土鉱物分散液を調製する工程2を有する。
【0063】
前記工程2において調製される非膨潤性粘土鉱物分散液における不揮発成分の含有量は、非膨潤性粘土鉱物分散液の全重量に対して、好ましい下限が18重量%、好ましい上限が65重量%である。前記不揮発成分の含有量が18重量%未満であると、水蒸気バリアフィルム用分散液が不均一になり、均一なフィルムが得られなくなることがある。前記不揮発成分の含有量が65重量%を超えると、水蒸気バリアフィルム用分散液の粘度が高くなり、製膜できなくなることがある。前記不揮発成分の含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は55重量%である。
なお、本明細書において前記「不揮発成分」とは、常圧で沸点を持たない、又は、沸点が300℃以上の成分を意味する。不揮発成分の割合は、熱重量測定(TG)や示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)やエバポレーター等を用いて真空蒸発により分散媒を除去し、残存した固形物の重量から求めることができる。
【0064】
本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液における膨潤性粘土鉱物、非膨潤性粘土鉱物については、本発明の水蒸気バリアフィルムと同様のものであるため、その説明を省略する。
【0065】
本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液における合成樹脂としては、上述した本発明の水蒸気バリアフィルムと同様のものが挙げられる。
前記合成樹脂の前駆体としては、例えば、ポリアミド酸が挙げられ、該ポリアミド酸をイミド化することにより、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂が得られる。
前記ポリアミド酸をイミド化する方法としては、例えば、ポリアミド酸を加熱閉環してイミド化する方法、ポリアミド酸を化学閉環してイミド化する方法が挙げられる。
【0066】
前記ポリアミド酸を加熱閉環してイミド化する方法は特に限定されず、例えば、前記ポリアミド酸を分散媒中に分散させて、120〜400℃で0.5〜24時間加熱する方法が挙げられる。
【0067】
前記非膨潤性粘土鉱物分散液における分散媒としては、前記膨潤性粘土鉱物分散液における分散媒と同様のものを用いることができる。
【0068】
本発明の水蒸気バリアフィルムの製造方法は、膨潤性粘土鉱物分散液と非膨潤性粘土鉱物分散液とを混合し、本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液を調製する工程3を有する。
【0069】
本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液における前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量は、不揮発成分の全重量に対して、下限が30重量%、上限が90重量%である。前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量が30重量%未満であると、得られるフィルムの水蒸気透過度が高くなる。前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量が90重量%を超えると、得られるフィルムが機械的強度に劣るものとなる。前記層状ケイ酸塩鉱物の含有量の好ましい下限は35重量%、好ましい上限は85重量%、より好ましい下限は40重量%、より好ましい上限は80重量%、更に好ましい下限は50重量%、更に好ましい上限は70重量%、特に好ましい下限は60重量%である。
【0070】
前記工程4において、分散液を基板上に展開する方法としては、ドクターブレードやバーコーター等を用いて膜状に塗布する方法等が挙げられる。
【0071】
前記工程4において、基板上に展開する分散液の厚みは100μm以上であることが好ましい。前記分散液の厚みが100μm未満であると、得られる水蒸気バリアフィルムが薄くなり、機械的強度が低くなることがある。前記分散液の厚みのより好ましい下限は150μm、更に好ましい下限は200μmである。
【0072】
前記分散液を展開する基板としては、分散液と基板との相溶性や濡れ性、乾燥後の剥離性の観点から、ガラス製、ポリエチレンテレフタレート製、ポリイミド製、ポリエチレン製、又は、ポリプロピレン製のものが好ましい。
【0073】
前記工程5において、基板上に展開した水蒸気バリアフィルム用分散液から分散媒を除去する方法としては、種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、加熱蒸発法や、これらの方法の組み合わせが可能である。これらの方法のうち、例えば、分散液を容器に流し込む加熱蒸発法を用いる場合、基板上に塗布された分散液を、水平を保った状態で、強制送風式オーブンで20〜150℃の温度条件下、好ましくは、30〜120℃の温度条件下で0.5〜24時間程度、好ましくは2〜12時間乾燥することにより、フィルムが得られる。
なお、作製するフィルムの欠陥を無くす観点から、前記工程5において、分散媒を除去する際の温度は150℃以下であることが好ましい。
【0074】
本発明の水蒸気バリアフィルム用分散液に合成樹脂の前駆体を配合した場合は、得られたフィルムを更に電気炉等を使用し加熱することにより、水蒸気バリアフィルムを得ることができる。具体的には例えば、合成樹脂の前駆体としてポリアミド酸を配合した場合、前記で得られたフィルムを120〜400℃で0.5〜24時間熱処理することにより、水蒸気バリアフィルムを得ることができる。
【0075】
本発明の水蒸気バリアフィルムは、柔軟性、耐湿性、及び、高い機械的強度を有することから、太陽電池バックシートに使用することができる。このような太陽電池バックシートもまた、本発明の1つである。
【0076】
本発明の水蒸気バリアフィルム又は本発明の太陽電池バックシートを用いてなる太陽電池もまた、本発明の1つである。本発明の水蒸気バリアフィルム及び本発明の太陽電池バックシートは柔軟性、耐湿性、及び、高い機械的強度を有するため、これを用いた本発明の太陽電池は、耐久性、耐候性に優れるものとなる。また、通常、太陽電池バックシートは、複数の樹脂層からなる多層構造を有するため、長期に亙って使用すると樹脂層間を接着する接着剤層等が劣化するという問題があった。しかしながら、本発明の水蒸気バリアフィルムは単層または2層以上積層させ一体化した積層体で太陽電池バックシートに用いることができるため、このような太陽電池の経年劣化を抑制することができる。
【0077】
本発明の太陽電池の一例を表す断面模式図を
図1に示す。
図1に示すように、本発明の太陽電池1は、光起電力により光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子2を有しており、該太陽電池素子2は封止剤3によって封止されている。また、本発明の太陽電池1は、太陽光を受ける側の表面に光透過性基板4を有し、光透過性基板4と反対側の面に、本発明の太陽電池バックシート5を有する。
【0078】
また、本発明の太陽電池の別の一例を表す断面模式図を
図2に示す。
図2では、
図1と同様に、本発明の太陽電池1は、太陽電池素子2が封止剤3によって封止されている。本発明の太陽電池1は、太陽光を受ける側の表面に光透過性基板4を有し、光透過性基板4と反対側の面に、本発明の水蒸気バリアフィルム6を有する。
【0079】
前記太陽電池素子2としては、光起電力により光エネルギーを電気エネルギーに変換できるものであれば特に限定されず、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、化合物半導体(3−5族、2−6族、その他)等を用いることができ、なかでも、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、CIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)が好ましい。
【0080】
前記封止剤3としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族カルボン酸エステル共重合体、あるいはこれらのけん化物等を含む封止剤が挙げられる。
【0081】
前記光透過性基板4は太陽電池1の太陽光を受ける側の最表層に位置するため、透明性に加え、耐候性、撥水性、耐汚染性、機械強度等に優れることが好ましい。
前記光透過性基板4の材料としては、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる樹脂製の基板や、ガラス基板等が挙げられ、なかでも、耐候性及び耐衝撃性に優れ、安価に作製することができることからガラス基板が好ましい。また、特に耐侯性が優れることから、フッ素樹脂も好適に用いられる。
【0082】
本発明の太陽電池1を製造する方法は特に限定されないが、例えば、光透過性基板4、太陽電池素子2が封止された封止剤3、本発明の太陽電池バックシート5の順に重ねて真空ラミネートする方法や、光透過性基板4、封止剤3、本発明の水蒸気バリアフィルム6上に形成された太陽電池素子2の順に重ねて真空ラミネートする方法等が挙げられる。