【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人精密工学会、2013年度精密工学会春季大会プログラム&アブストラクト集、平成25年2月27日発行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に形成された支持部によって前記基板から浮いた状態で支持される微小機械振動子と、この微小機械振動子の上または周囲に配置された、所望の光波長に対して熱吸収率が波長依存性を有するナノ周期構造とを備えた光検出振動子を利用して光波長を計測する光波長計測方法であって、
前記光検出振動子の振動特性を計測する検出ステップと、
前記光検出振動子への計測対象光の照射による前記光検出振動子の振動特性の変化に基づいて前記計測対象光の波長を求める光波長決定ステップとを含むことを特徴とする光波長計測方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る光検出振動子の概略構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る光波長検出原理を説明する図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る光検出振動子の作製方法を説明する工程断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る光検出振動子を上方から撮影した電子顕微鏡写真である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る光検出振動子の詳細な構造を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る光検出振動子の振動スペクトルを示す図である。
【
図7】計測対象光の波長と光検出振動子の初期共振周波数からの共振周波数シフト量との関係を示す図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係る光波長計測装置の構成例を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る光検出振動子の構造を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係る他の光検出振動子の構造を示す斜視図である。
【
図11】本発明の第2の実施の形態に係る他の光検出振動子の構造を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第2の実施の形態に係る他の光検出振動子の構造を示す斜視図である。
【
図13】本発明の第2の実施の形態に係る他の光検出振動子の構造を示す斜視図である。
【
図14】本発明の第2の実施の形態に係る他の光検出振動子の構造を示す斜視図である。
【
図15】本発明の第2の実施の形態に係る光検出振動子の作製方法を説明する工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を用いた実施の形態について詳細に説明する。本実施の形態では、両持ち梁型の微小機械振動子に、表面プラズモン共鳴による光の異常透過現象(文献「K.L.van der Molen,et al.,“Influence of hole size on the extraordinary transmission through subwavelength hole arrays”,Appl. Phys. Lett.,Vol.85,p.4316-4318,2004」参照)を励起可能なナノ周期構造を組み合わせることにより波長計測機械振動子を作製した。
【0015】
微小機械振動子は、質量や電磁気的力、電荷など様々な微小物理量を、振動変化を介して取り出し可能なメカニカル構造体である。光照射に伴う熱の発生によっても内部応力の変化等が原因でその共振特性を変化させる。この効果は、波長計測に活用できるものと考えられるものの、光の波長と機械振動子の材質によっては、光照射箇所の材料の吸収率が波長依存を示さないこともあり、機械振動子への熱吸収を任意に制御する必要があった。例えば、波長1.5μm帯の光に対し、Au,Cu,Pt,Agなど様々な物質は,波長変化に応じて吸収率がほとんど変化しない。
【0016】
本実施の形態では、
図1に示すように、波長1.5μm帯の光に対し異常透過現象を励起可能なナノ周期構造3を、両持ち梁型の微小機械振動子2に組み込むことにより、微小機械振動子2における熱吸収に波長依存性をもたせた。熱吸収による梁内部の応力変化に伴う微小機械振動子2の振動特性変化を計測することで、光の波長を計測する。
【0017】
図2は本実施の形態の光波長検出原理を説明する図である。
図1に示したような光検出振動子1に光を照射すると(
図2ステップS1)、光検出振動子1のナノ周期構造3において表面プラズモン共鳴による光の異常透過現象が励起され(ステップS2)、このナノ周期構造3の熱吸収率の光波長依存性に応じて微小機械振動子2に応力変化が生じ(ステップS3)、これにより微小機械振動子2の振動特性(共振周波数、Q値、振幅)に変化が生じる(ステップS4)。微小機械振動子2の振動特性の変化と光の波長との関係を予め調べておけば、光検出振動子1に照射された光の波長を求めることができる(ステップS5)。
【0018】
図3(A)〜
図3(D)は本実施の形態の光検出振動子1の作製方法を説明する工程断面図である。本実施の形態では、集束イオンビーム化学気相成長法(特開2001−107252号公報、文献「S.Matsui,et al.,“Three-dimensional nanostructure fabrication by focused-ion-beam chemical vapor deposition”,J. Vac. Sci. Tech.,B,18,p.3181-3184,2000」参照)、及びウェットエッチング、蒸着、集束イオンビームエッチングを用いて光検出振動子1を作製する。
【0019】
具体的には、まず最初にSi基板10上に、集束イオンビーム化学気相成長法を用いてダイアモンドライクカーボン(diamond-like carbon:DLC)からなる振動子パターン11を製膜する(
図3(A))。ここでは、加速電圧30kV、ビーム電流6.3pAのガリウム集束イオンビーム(Ga
+FIB)を、フェナントレン(C
14H
10)雰囲気下においてSi基板10上で走査し、DLCからなる薄膜状の振動子パターン11を堆積させた。フェナントレン導入圧力はおよそ1×10
-4Pa、ドーズ(Dose)量50×10
15ions/cm
2、ビーム滞在時間(Dwell time)15μsecで作製した。
【0020】
その後、水酸化テトラメチルアンモニウム(Tetramethylammonium hydroxide:TMAH)系ウェットエッチング溶液を用いて、Si基板10の表面のSi露出層をエッチングし、DLCからなる微小機械振動子2を作製する(
図3(B))。微小機械振動子2の厚さは74nm、微小機械振動子2の梁の長さは例えば数μm程度である。ここでは、65℃のTMAH溶液で30分エッチングした後、65℃の純水で5分間リンスを行った。微小機械振動子2は、エッチングによって形成されたSi製の支持部4によって両端付近が固定されることによりSi基板10から浮いた状態で支持される両持ち梁型の構造を有する。
【0021】
微小機械振動子2の作製後、蒸着法により厚さ60nmのAu薄膜12を微小機械振動子2上に製膜した(
図3(C))。
最後に、FIB(Focused Ion Beam)を利用したエッチング加工によってAu薄膜12にナノ周期構造3を作製する(
図3(D))。本実施の形態では、金属材料からなる凹凸構造をnmオーダーで周期的に配置したものをナノ周期構造3としている。具体的には、
図1に示したようにAu薄膜12に平面視円形の穴をドットマトリクス状(正方配列)に形成したものをナノ周期構造3とした。穴の直径は300nm、穴の間隔は750nmである。ここでは、加速電圧30kV、ビーム電流6.3pAのFIBを用いた。また、ドーズ(Dose)量を35×10
15ions/cm
2、ビーム滞在時間(Dwell time)を15μsecとした。以上で、光検出振動子1の作製が完了する。
【0022】
図4に本実施の形態の光検出振動子1の電子顕微鏡写真を示す。本実施の形態で作製した光検出振動子1は、
図5に示すように熱吸収層(プラズモン吸収層)及び振動構造体としてのDLC製の微小機械振動子2と、波長依存性を有する光の異常透過現象(プラズモン)励起のためのAu製のナノ周期構造3と、Si製の支持部4とから構成されている。
【0023】
この光検出振動子1の振動特性は、光ヘテロダイン振動計を用いて計測することができる。光ヘテロダイン振動計は、計測光を光検出振動子1に照射して、光検出振動子1の振動特性を非接触で検出する装置である。計測光として用いたレーザー光の波長は、632.8nmである。また、励振は、波長408nmの半導体レーザーから励振光を光検出振動子1に照射する光励振法により行った。なお、光ヘテロダイン振動計は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。
図6は本実施の形態の光検出振動子1の振動スペクトルを示す図である。光検出振動子1の初期共振周波数は、4.21MHzであった。
【0024】
次に、光検出振動子1に対し、計測対象となる波長1535nm〜1565nmのレーザー光を照射し、光検出振動子1の共振周波数を計測した。本実施の形態では、計測対象光の光源として、波長1535nm〜1565nmの波長可変レーザーを用いた。また、レーザー光の対物出射パワーは、各々の波長において2mWとした。
図7に、計測対象光の波長と光検出振動子1の初期共振周波数からの共振周波数シフト量との関係を示す。
図7に示すように初期共振周波数からの共振周波数シフト量は計測対象光の波長に依存し、計測対象光の波長の長波長化に伴い、共振周波数シフト量は減少した。
【0025】
この
図7の結果は、本実施の形態の光検出振動子1を用いて、光波長の計測が可能であることを示している。以上により、微小機械振動子2に、光の異常透過現象を励起可能なナノ周期構造3を組み合わせることにより、光の波長計測が可能であることを実証した。
【0026】
図8は本実施の形態の光波長計測装置の構成例を示す図である。光波長計測装置は、光検出振動子1と、光検出振動子1に計測対象光を照射する波長可変レーザー等の光源5と、光検出振動子1の振動特性を計測する光ヘテロダイン振動計等の検出部6と、計測対象光の照射による光検出振動子1の振動特性の変化から計測対象光の波長を求める光波長決定部7とから構成される。
【0027】
光波長決定部7には、光検出振動子1の初期の振動特性(例えば初期共振周波数)が予め登録されると共に、光検出振動子1の振動特性の変化量(例えば共振周波数シフト量)と計測対象光の波長との関係が予め登録されている。光波長決定部7は、光検出振動子1の初期の振動特性と検出部6の計測結果とから、光検出振動子1の振動特性の変化量を算出し、この光検出振動子1の振動特性の変化量に対応する計測対象光の波長を、予め登録された関係に基づいて決定すればよい。
【0028】
なお、光検出振動子1の振動特性の変化量と計測対象光の波長との関係を数式で近似できる場合には、光検出振動子1の振動特性の変化量と計測対象光の波長との関係を表す数式を光波長決定部7に予め登録しておけばよい。この場合、光波長決定部7は、光検出振動子1の振動特性の変化量に対応する計測対象光の波長を予め登録された数式に基づいて算出すればよい。以上のような光波長決定部7は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って上記のような処理を実行する。
【0029】
以上、詳細に説明したように、本実施の形態によれば以下のような効果を奏することができる。
(1)光波長依存性を有する光学ナノ周期構造を用いて微小機械振動子での熱吸収を制御することにより、計測対象光の波長に応じて振動特性が変化する光検出振動子を作製することができ、この光検出振動子を用いて光の波長計測を達成できる。
(2)形状や寸法により光波長に対する特性を設計することのできる光学ナノ周期構造を、微小機械振動子上あるいは微小機械振動子の周辺に配置することにより、さまざまな光波長帯に対し振動特性を変化させることが可能な光検出振動子を作製することができ、この光検出振動子を用いて様々な波長を有する光の波長計測に有効な波長計を作製することができる。
【0030】
なお、光検出振動子1の作製は、既存の超微細加工技術(電子ビーム露光技術、フォトリソグラフィー、ナノインプリント技術、ドライエッチング技術、ウェットエッチング技術、蒸着、スパッタリング、化学気相成長法等)を複数組み合わせ使用することでも可能であり、光検出振動子1の作製方法は本実施の形態に限定するものではない。
【0031】
また、本実施の形態では、微小機械振動子2の構造材料としてDLCを用いているが、本発明の趣旨に基づき他の材料を用いることも可能であり、それら他の材料を本発明の範囲から排除するものでない。また、本実施の形態では、ナノ周期構造3をAuを用いて作製しているが、Pt,Agなどの他の金属材料を用いて作製することも可能である。
【0032】
本発明において、計測可能な光波長は、ナノ周期構造3の寸法と形状と材質(誘電率)により決定される。したがって、計測したい光波長に応じてナノ周期構造3の寸法と形状と材質を設計すればよい。また、光波長に対する計測感度、光波長に対する分解能は、ナノ周期構造3の寸法と形状と材質(誘電率)、および微小機械振動子2の材質(光吸収率、線膨張係数)と共振特性(共振周波数、Q値、振動モード等)により決定される。したがって、所望の計測感度、所望の分解能に応じてナノ周期構造3の寸法と形状と材質、および微小機械振動子2の材質と共振特性を設計すればよい。
【0033】
また、本実施の形態では、波長1535nm〜1565nm、パワー2mWの光を計測対象としているが、上記のとおり光の特性(波長やパワー)に応じて計測可能波長、計測感度を制御することが可能なので、本実施の形態以外の波長およびパワーの光を計測対象としてもよい。
【0034】
[第2の実施の形態]
光検出振動子の形状は、本発明の趣旨に基づいて、種々の変形・応用が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。微小機械振動子の形状については、例えば両持ち梁型、片持ち梁型、薄膜型などの形状が考えられる。
図9は本実施の形態の光検出振動子1aの構造を示す斜視図である。光検出振動子1aは、例えばDLCからなる両持ち梁型の微小機械振動子2の表面全体にAu薄膜12を形成し、微小機械振動子2の一方の固定端の位置に、ナノ周期構造3と同形状のナノ周期構造3aを形成したものである。
【0035】
図10は本実施の形態の別の光検出振動子1bの構造を示す斜視図である。光検出振動子1bは、例えばDLCからなる両持ち梁型の微小機械振動子2の表面の特定箇所、具体的には一方の固定端の位置にAu薄膜12を形成し、このAu薄膜12にナノ周期構造3と同形状のナノ周期構造3bを形成したものである。
【0036】
図11は本実施の形態の別の光検出振動子1cの構造を示す斜視図である。光検出振動子1cは、例えばDLCからなる片持ち梁型の微小機械振動子2cの表面の特定箇所、具体的には固定端の位置にAu薄膜12を形成し、このAu薄膜12にナノ周期構造3と同形状のナノ周期構造3cを形成したものである。
【0037】
図12は本実施の形態の別の光検出振動子1dの構造を示す斜視図である。光検出振動子1dは、例えばDLCからなる両持ち梁型の微小機械振動子2の表面の特定箇所、具体的には2つの支持部4のうちの一方の支持部4の位置にAu薄膜12を形成し、このAu薄膜12を加工して同心円弧状のナノ周期構造3dを形成したものである。
【0038】
図13は本実施の形態の別の光検出振動子1eの構造を示す斜視図である。光検出振動子1eは、例えばDLCからなる両持ち梁型の微小機械振動子2eの周囲にAu薄膜12を形成し、このAu薄膜12を加工して同心円状のナノ周期構造3eを形成したものである。ここでは、第1の実施の形態と同様に微小機械振動子2eの下部のSi基板をエッチングすることによって、微小機械振動子2eの下に空洞13が形成されている。これにより、微小機械振動子2eは、中央が空洞のSi製の支持部4eによって両端が固定されることによりSi基板から浮いた状態で支持される両持ち梁型の構造となっている。
【0039】
図14は本実施の形態の別の光検出振動子1fの構造を示す斜視図である。光検出振動子1fは、例えばDLCからなる薄膜型の微小機械振動子2fの表面にAu薄膜12を形成し、このAu薄膜12を加工して同心円状のナノ周期構造3fを形成したものである。
図13の場合と同様に、微小機械振動子2fの下部のSi基板をエッチングすることによって、微小機械振動子2fの下に空洞13が形成されている。これにより、Si製の支持部4fは中央が空洞の形状となっている。平面視円形の微小機械振動子2fは、複数本の梁を介して周辺部と接続され、この周辺部が支持部4fによって固定されることにより、Si基板から浮いた状態で支持される構造となっている。
【0040】
図11に示したような片持ち梁型の微小機械振動子2cを用いる場合は、発生熱による振動子2cの機械的特性(ヤング率や密度)の変化や長さの変化に伴う振動特性の変化を利用して光波長検出を行うこととなる。
ナノ周期構造については、第1の実施の形態のように微小機械振動子の梁中央に形成するだけでなく、
図9〜
図12に示したように、梁の特定の位置に形成してもよいし、梁の固定端に形成してもよいし、支持部の上に形成してもよい。
【0041】
また、ナノ周期構造は、第1の実施の形態のようにドットマトリクス状(正方配列)だけでなく、平面視円形の穴を正三角形の頂点に配置する三角配列のナノ周期構造でもよいし、
図12に示したような同心円弧状のナノ周期構造でもよいし、
図13、
図14に示したような同心円状のナノ周期構造でもよい。同心円弧状や同心円状のナノ周期構造を用いた場合、アンテナ効果によるプラズモン集中に伴う発生熱に対し本発明の原理を適用することでも光波長検出が期待できる。
【0042】
なお、
図14に示した光検出振動子1fを作製するには以下のようにすればよい。最初に、Si基板10へのFIBイオン注入によりSiベースのエッチングマスクとなる振動子パターン11fを作製する(
図15(A))。ここでは、加速電圧30kV、ビーム電流60pA、ドーズ量7×10
15ions/cm
2とした。振動子パターン11fの厚さは50nmである。
【0043】
続いて、振動子パターン11fの上に、集束イオンビーム化学気相成長法を用いてDLCからなる同心円状のナノ凹凸構造15を形成する(
図15(B))。ここでは、加速電圧30kV、ビーム電流60pA、ドーズ量250×10
15ions/cm
2、ビーム滞在時間8μsecとした。ナノ凹凸構造15の高さは150nm、凹凸構造のピッチは1340〜1700nmである。
【0044】
その後、TMAH系ウェットエッチング溶液を用いて、Si基板10の表面のSi露出層をエッチングし、Si基板10から浮いた微小機械振動子2fを作製する(
図15(C))。ここでは、65℃のTMAH溶液で19分間エッチングを行なった。
最後に、ナノ凹凸構造15の上に蒸着法により厚さ70nmのAu薄膜12を製膜することにより、同心円状のナノ周期構造3fを形成する(
図5(D))。以上で、光検出振動子1fの作製が完了する。