特許第6041390号(P6041390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041390
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】光共振器構造
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20161128BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20161128BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   G01N21/27 Z
   G01N21/41 Z
   G02B6/122 301
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-215227(P2013-215227)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-78866(P2015-78866A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 勉
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 弦
(72)【発明者】
【氏名】林 勝義
(72)【発明者】
【氏名】為近 恵美
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】和田 一実
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ ジンナン
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】平井 格郎
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−047604(JP,A)
【文献】 特表2005−509918(JP,A)
【文献】 特開2014−115553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/27
G01N 21/41
G02B 6/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッド層の上に形成されたシリコンからなる第1コアと、
前記第1コアの一部に配置される共振部と、
前記共振部を挟んで前記第1コアに形成された2つの反射部と、
前記第1コアに接続するシリコンからなる第2コアより構成されたモード変換部と、
前記第1コアの延在方向に周期的に1列に配列されて前記クラッド層の法線方向に柱状とされ、前記共振部の前記第1コアに形成された複数の第1穴部と、
前記第1コアの延在方向に周期的に1列に配列されて前記クラッド層の法線方向に柱状とされ、前記反射部の前記第1コアに形成された複数の第2穴部と、
前記第2コアの延在方向に周期的に1列に配列されて前記クラッド層の法線方向に柱状とされ、前記モード変換部に形成された第3穴部と
を備え、
前記反射部のフォトニックバンドギャップ内に、対象とする波長の光のエネルギーがあり、
前記第2穴部は、前記第1穴部より大きな径とされ、
前記反射部に隣接する前記第3穴部は、第1穴部と同じ径とされている
ことを特徴とする光共振器構造。
【請求項2】
請求項1記載の光共振器構造において、
前記モード変換部は、複数の前記第3穴部を備え、複数の前記第3穴部は、前記共振部より離れるほど穴径が小さくされていることを特徴とする光共振器構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の光共振器構造において、
前記第1コアおよび前記第2コアは、前記クラッド層の上に並列して配置され、
前記モード変換部に接続して前記第2コアに形成された光結合領域と、
前記第2コアの延在方向に周期的に1列に配列されて前記クラッド層の法線方向に柱状とされ、前記第1穴部と同じ形状で同じ間隔で前記光結合領域に形成された複数の第4穴部と
を備えることを特徴とする光共振器構造。
【請求項4】
請求項1または2記載の光共振器構造において、
前記第2コアは、前記第1コアに連続して形成され、
前記第1コアの少なくとも一方の反射部に前記モード変換部が連続して配置されていることを特徴とする光共振器構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光共振器構造において、
前記第1コアおよび前記第2コアは、断面形状が矩形とされていることを特徴とする光共振器構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンからなるコアにより光共振器を構成した光共振器構造に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光分子を標識剤とする蛍光ラベルにより特定分子を検出する蛍光型バイオセンサと異なり、ラベルフリーで光学的に分子検出を行うバイオセンサの研究開発が、人体の化学物質の分析や病気の早期発見などの医療応用の観点で進められている。ラベルフリーで光学的に分子検出を実施する技術として、例えば、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance:SPR)測定器を用いた測定がある。SPR測定器は、分子吸着による屈折率/反射率変化を検出できる。この技術は、生化学研究で広く用いられているが、小型化に難がある。専門家による分析を必要とせず、家庭で簡便に利用できるバイオセンサには、小型化・低価格化が必須であり、エレクトロニクス同様、LSI(Large Scale Integration)の加工技術を用いてチップ上に機能集積したセンサが望ましい。
【0003】
今日まで、LSIの加工技術を用いて作製された光学的手法によるセンサチップが報告されている。例えば、板状のシリコン層(Siスラブ)を、数100nmの幅・高さの矩形断面をもつ細線に加工したシリコン光導波路をベースに、Mach−Zehnder干渉計を構成したセンサがある(非特許文献1参照)。また、上述したシリコン光導波路をベースに、μmサイズの直径の微小リング光共振器を構成したセンサがある(非特許文献2参照)。
【0004】
抗原抗体反応により光導波路表面に選択的に分子が吸着することによって、屈折率に変化が生じ、光の透過率が変化することで分子を捉えることが可能となる。透過率の変化は、共振の起こる波長(共振波長)がシフトすることによる。また、シリコンスラブに周期的に穴を形成したフォトニック結晶(PhC)において、一部に穴を形成しない部分を設け(非特許文献3,非特許文献4参照)、また、穴の大きさを変えた点欠陥を設けて光共振器として動作させること(非特許文献5,非特許文献6参照)により、分子吸着を捉えることが可能である。
【0005】
しかし、これらの共振器の多くでは、光のパワーが主にシリコン中に閉じ込められており、導波路から弱くしみ出したエバネッセント波で表面に吸着した分子を捉えているため、SPR測定に比べると感度(検出濃度の下限)に難がある。高感度化には、導波路側壁の粗さを原子レベルで低減する超精密加工により、共振器のQ値(quality factor)を極めて高くする必要がある(非特許文献7参照)。一方、シリコン導波路中にスロットと呼ばれる空隙を設け(非特許文献8参照)、また、フォトニック結晶中で点欠陥となっている1個の穴のサイズを調整し(非特許文献6参照)、導波路や光共振器からしみ出した光強度を増加させることにより、検出感度を向上させる試みがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Densmore et al. , "Silicon photonic wire biosensor array for multiplexed real-time and label-free molecular detection", Opt. Lett. , vol.34, pp.3598-3600, 2009.
【非特許文献2】K. De Vos et al. , "Silicon-on-Insulator microring resonator for sensitive and label-free biosensing", Opt. Express, vol.15, no.12, pp.7610-7615, 2007.
【非特許文献3】V. Taccafondo et al. , "Single-strand DNA detection using a planar photonic-crystal-waveguide-based sensor", Opt. Lett. , vol.35, no.21, pp.3673-3675, 2010.
【非特許文献4】S. Mandel and D. Erickson, "Nanoscale optofluidic sensor arrays", Opt. Express, vol.16, no.3, pp.1623-1631, 2008.
【非特許文献5】M. R. Lee and P. M. Fauchet, "Nanoscale microcavity sensor for single particle detection", Opt. Lett. , vol.32, no.22, pp.3284-3286, 2007.
【非特許文献6】M. R. Lee and P. M. Fauchet, "Two-dimensional silicon photonic crystal based biosensing platform for protein detection", Opt. Express, vol.15, no.8, pp.4530-4535, 2007.
【非特許文献7】A. M. Armani et al. , "Label-Free, Single-Molecule Detection with Optical Microcavities", Science, vol.317, pp.783-787, 2007.
【非特許文献8】T. Claes et al. , "Label-Free Biosensing With a Slot-Waveguide-Based Ring Resonator in Silicon on Insulator", IEEE Photonics Journal, vol.1,no.3, pp.197-204, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、検出感度の向上は、シリコンによる微小リング光共振器やフォトニック結晶を用いた共振器のQ値(quality factor)を高くすることで実現できる。しかしながら、現状は、主に、導波路側壁の粗を原子レベルで低減する超精密加工によって、共振器のQ値の向上を図っている。この加工は容易ではなく、従来では、Q値を向上させることが容易ではないという問題があった。
【0008】
さらに,シリコンによるフォトニック結晶においては,共振器に光を閉じ込めるためのミラー構造を通じて光を入射する必要があるが、入射光の反射損失が不可避であるという問題がある。検出感度の向上には、反射損失を低減し、光共振器内部へ導入される光の強度を向上させる必要がある。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、容易に製造できるシリコンによるフォトニック結晶を用い、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光共振器構造は、クラッド層の上に形成されたシリコンからなる第1コアと、第1コアの一部に配置される共振部と、共振部を挟んで第1コアに形成された2つの反射部と、第1コアに接続するシリコンからなる第2コアより構成されたモード変換部と、第1コアの延在方向に周期的に1列に配列されてクラッド層の法線方向に柱状とされ、共振部の第1コアに形成された複数の第1穴部と、第1コアの延在方向に周期的に1列に配列されてクラッド層の法線方向に柱状とされ、反射部の第1コアに形成された複数の第2穴部と、第2コアの延在方向に周期的に1列に配列されてクラッド層の法線方向に柱状とされ、モード変換部に形成された第3穴部とを備え、反射部のフォトニックバンドギャップ内に、対象とする波長の光のエネルギーがあり、第2穴部は、第1穴部より大きな径とされ、反射部に隣接する第3穴部は、第1穴部と同じ径とされている。
【0011】
上記光共振器構造において、モード変換部は、複数の第3穴部を備え、複数の第3穴部は、共振部より離れるほど穴径が小さくされているようにするとよい。
【0012】
上記光共振器構造において、第1コアおよび第2コアは、クラッド層の上に並列して配置され、モード変換部に接続して第2コアに形成された光結合領域と、第2コアの延在方向に周期的に1列に配列されてクラッド層の法線方向に柱状とされ、第1穴部と同じ形状で同じ間隔で光結合領域に形成された複数の第4穴部とを備える構成としてもよい。
【0013】
また、光共振器構造において、第2コアは、第1コアに連続して形成され、第1コアの少なくとも一方の反射部にモード変換部が連続して配置されているようにしてもよい。
【0014】
上記光共振器構造において、第1コアおよび第2コアは、断面形状が矩形とされているとよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したことにより、本発明によれば、容易に製造できるシリコンによるフォトニック結晶を用い、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態における光共振器構造の構成を示す構成図である。
図2図2は、共振部104内部へ導入される光の強度の状態を示す特性図である。
図3図3は、共振部104内部へ導入される光の強度の状態を示す特性図である。
図4図4は、本発明の実施の形態における光共振器構造の第1コア102より構成される導波路部分における波長1.55μmの光の状態を示す説明図である。
図5図5は、本発明の実施の形態における光共振器構造の第1コア102による光導波路の透過スペクトルを示す特性図である。
図6図6は、本発明の実施の形態における光共振器構造の共振部104付近の光強度を示す説明図である。
図7図7は、本発明の実施の形態における光共振器構造の共振部104と反射部105,106との接続距離を変化させた場合の、第1コア102による光導波路の透過スペクトルの変化を示す特性図である。
図8図8は、本発明における実施の形態における光共振器構造をバイオセンサへ応用した構成を示す構成図である。
図9図9は、本発明における実施の形態における光共振器構造をバイオセンサへ応用した構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における光共振器構造の構成を示す構成図である。図1の(a),(c)は平面を示している。図1の(b)は、図1の(a)の断面を示している。
【0018】
この光共振器構造は、クラッド層101の上に形成されたシリコンからなる第1コア102および第2コア103を備える。第1コア102には、共振部104および2つの反射部105,反射部106が形成されている。反射部105,反射部106は、共振部104を挟んで配置されている。
【0019】
また、共振部104の第1コア102には、複数の第1穴部141が形成されている。第1穴部141は、クラッド層101の法線方向に伸びる柱状とされている。また、第1穴部141は、第1コア102の延在方向に周期的に1列に配列されている。
【0020】
また、反射部105,106にも、複数の第2穴部151,161が形成されている。第2穴部151,161も、クラッド層101の法線方向に伸びる柱状とされている。また、第2穴部151,161も、第1コア102の延在方向に周期的に1列に配列されている。ここで、第2穴部151,161は、第1穴部141より大きな径とされている。
【0021】
第2コア103には、モード変換部107,モード変換部108が形成されている。モード変換部107,108にも、クラッド層101の法線方向に伸びる柱状の、複数の第3穴部171,181が形成されている。また、第3穴部171,181は、第2コア103の延在方向に周期的に1列に配列されている。加えて、複数の第3穴部171は、共振部104より離れるほど穴径が小さくされている。同様に、複数の第3穴部181も、共振部104より離れるほど穴径が小さくされている。
【0022】
ここで、図1の(a)および(b)に例示する光共振器構造は、第2コア103は、第1コア102に連続して形成されている。また、第1コア102の反射部151,161に、モード変換部171,181が連続して配置されている。ここで、例えば、モード変換部108を設けない構成としてもよい。また、モード変換部107の方を設けない構成としてもよい。
【0023】
また、図1の(c)に例示する光共振器構造は、第1コア102および第2コア103が、クラッド層101の上に並列して配置されている。この構成においては、モード変換部107,108に接続して第2コア103に形成された光結合領域109を備える。また、光結合領域109は、複数の第4穴部191を備える。光結合領域109も、クラッド層101の法線方向に伸びる柱状とされている。また、光結合領域109は、第2コア103の延在方向に周期的に1列に配列され、第1穴部141と同じ形状で同じ間隔とされている。
【0024】
第1穴部141および第2穴部151,161は、周囲のコア部と屈折率が異なる状態となる。また、第1穴部141と第2穴部151,161とは、穴径および穴の配置周期が異なる。
【0025】
第2穴部151,161の穴径およびこれらの配置周期により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ内に、対象とする波長の光のエネルギーがある。一方、第1穴部141の穴径および穴の配置周期により決定されるフォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ外に、対象とする波長の光のエネルギーがある。
【0026】
第1穴部141による共振部104のフォトニックバンドギャップの上端より大きなエネルギーのバンド(エアバンド)に光のエネルギーがあるように、反射部105,106における複数の第2穴部151,161、および第1穴部141の穴径および穴の配置周期が設定されている。
【0027】
上述した構成とすることで、反射部105,106がミラーとして機能し、共振部104が共振器として機能する。この結果、第1コア102による光導波路を導波する光が、共振部104では第1穴部141の穴の内部に多く存在する状態となる。この状態でバイオセンサとして機能させると、検出分子と光の相互作用が増加し、Q値の向上によらずに検出感度が向上できる。また、共振部104,反射部105,106は、各穴部を1列に並べて構成しているので、第1コア102による光導波方向に垂直な方向へ広がりがなく、2次元フォトニック結晶に比較して小さな面積で構成できる。このため、例えば、1つのチップの上に複数の光共振器構造を集積させることが容易である。
【0028】
また、共振部104に形成されている第1穴部141と同じ径の穴を少なくとも1個備えるモード変換部107,108を備えることで、第1コア102による光導波路への入射光のモードを、共振部104に閉じ込められる光のモードと一致させることが可能となり、入射損失が低減する。図1に示した例では、外側に配置された第3穴部171,181ほど、径を徐々に減少させているが、この構成は必須ではない。モード変換部107,108は、第1穴部141と同じ径の穴を少なくとも1個備えていればよい。なお、上述したように、径を徐々に減少させる場合、モード変換部が開始される箇所の穴は、第1穴部141と同じ径とすることが重要である。
【0029】
このモード変換機能を利用して、共振部104内部へ導入される光の強度を増強できる。図2に示すように、点線で示すモード変換部を備えない場合に比較し、実線で示すモード変換部を備える場合の方が、光透過率が向上している。
【0030】
さらに、モード変換部107,108に、複数の第3穴部171,181を備える場合は、外側に配置された第3穴部171,181ほど、径を徐々に減少させてもよい。このような構造を備えることにより、入射光のモード変換の効率を向上できるため、入射損失が低減する。図3に示すように、点線で示す穴径を変化させない場合に比較し、実線で示す穴径を変化させた場合の方が、光透過率が向上している。
【0031】
このように、モード変換機能を利用することで、共振部104の第1穴部141の内部により多くの光を存在させことができるようになる。このため、実施の形態における光共振器構造をバイオセンサとして機能させると、検出分子と光の相互作用が増し、検出感度を向上できる。
【0032】
ところで、上述した実施の形態における光共振器構造は、よく知られたSOI(Silicon on Insulator)基板を用いることで形成(作製)できる。例えば、SOI基板の埋め込み絶縁層をクラッド層101とし、表面シリコン層をパターニングすることで、各コア部および穴部を形成すればよい。
【0033】
上述した実施の形態における光共振器構造を用いたバイオセンサでは、共振部104の第1穴部141内部への分析対象の分子吸着による屈折率や光吸収の変化が、第1コア102,第2コア103よりなる光導波路を導波する光スペクトルのピーク波長や強度の変化として検出できる。
【0034】
ここで、バイオセンサとして機能させるためには、バイオマーカを共振部104に吸着させる必要がある。バイオマーカは、測定対象の液体,気体中に存在する微量の分子である場合が多く、効率よく共振部104に吸着させるためには、共振部104以外の部分を保護膜で覆い、共振部104に、直接バイオマーカが溶けている検体液、検体ガスを接触させるようにすればよい。
【0035】
具体的には、ディスペンサなどを用い、対象となる液体やガスを共振部104に滴下し、また吹き付ける方法がある。また、共振部104をマイクロ流路内に組み込み、外部圧力あるいは毛細管力(液体の場合)などによって、共振部104まで対象とする液体やガスを輸送する方法がある。このような方法により、第1穴部141に検出分子を吸着させることができる。
【0036】
測定では、共振部104の第1穴部141内にバイオマーカを吸着させた光共振器構造の一方から光を入射し、反対側で出射光を受光し、入射光と出射光の比較あるいは出射光のセンシング前後(例えば、抗原抗体反応の前後)の比較をすることによって行われる。入射光は、バイオマーカのセンシング前後での屈折率変化に感応する波長領域をカバーするものとする。入射光が単一波長の時は、出射光の強度変化を観測する。
【0037】
入射光の波長をスキャンして入射波長の毎に強度変化を測定することで、スペクトル変化を測定することができる。ブロードな波長をもつ入射光を用い出射光を分光すれば、同様なスペクトル変化を短時間で得ることができる。光源、受光器は、バイオ材料の安定性や熱耐性、測定時間などを勘案し、測定対象、測定方法に応じて最適なものを選択すればよい。
【0038】
また、図1の(c)を用いて説明した第1コア102および第2コア103を並列して設ける構成では、第2コア103による光導波路の一方から光を入射し、反対側で出射光を受光する。また、光源、受光器は、光共振器構造をとモノリシックに作製してもよく、また、部品を後から組み立てて構成してもよい。あるいは、光源、受光器を、外部装置として設けるようにしてもよい。
【0039】
以下に、波長1.55μm域で動作する光共振器構造について説明する。第1コア102は直線状とし、幅は400nm、厚さ(高さ)は220nmとする。反射部105,106は、波長1.55μmの光がフォトニックバンドギャップ内にあるように、第2穴部151,161の穴径および穴の配置周期を設定する。
【0040】
共振部104は、波長1.55μmの光がフォトニックバンドギャップ上端よりも大きなエネルギーのバンド(エアバンド)中にあるように、第1穴部141の穴径および穴の配置周期を設定する。
【0041】
図4は、第1コア102より構成される導波路部分における、波長1.55μmの光の状態を示す説明図である。図4において、黒丸で示す領域は、穴の配置周期で規格化した穴の半径が、0.15〜0.30、穴の配置周期が410〜570nmの領域である。この領域において、フォトニックバンドギャップ中に波長1.55μmの光が含まれる。
【0042】
図4において、白三角で示す領域は、穴の配置周期で規格化した穴の半径が0.15〜0.23、穴の配置周期が450〜570nmの領域である。この領域において、フォトニックバンドギャップ上端よりも大きなエネルギーのバンド(エアバンド)に波長1.55μmの光が含まれる。
【0043】
次に、第1コア102による光導波路の透過スペクトルについて、図5を用いて説明する。ここでは、反射部105,106は、第2穴部151,161の配置周期で規格化した第2穴部151,161の半径が0.175であり、第2穴部151,161の配置周期が410nmである。また、共振部104は、第1穴部141の配置周期で規格化した第1穴部141の半径が0.125であり、第1穴部141の配置周期が490nmである。また、共振部104と反射部105,106との接続距離(端の穴の中心間距離:エッジ距離)は、275nmとしている。図5に示すように、波長1.54μm付近に共振ピークが見られ、光共振器として機能していることが分かる。
【0044】
共振ピークの波長では、図6の(a)に示すように、共振部104のフォトニック結晶の穴の内部において光強度が大きくなる。なお、この例では、反射部105,106の外側にモード変換部を設けていないため、透過率が0.1程度と小さい値である。
【0045】
また、波長1.46μm付近のピークは、図6の(b)に示すように、反射部105,106と共振部104との接続部分が、光共振器として機能することにより生じるピークである。
【0046】
エッジ距離(共振部104と反射部105,106との接続距離)を変化させた場合の透過スペクトルの変化の例を図7に示す。図7において、(a)は、エッジ距離が0.25μm、(b)は、エッジ距離が0.3μm、(c)は、エッジ距離が0.35μm、(d)は、エッジ距離が0.4μmである。図7に示されているように、エッジ距離を増加させることで、共振ピークは長波長側に移動する。エッジ距離を適切な値に設定することで、共振ピークの位置が制御できることを示している。
【0047】
次に、前述した実施の形態における光共振器構造をバイオセンサへ応用した例について図を用いて説明する。例えば、図1の(a),(b)を用いて説明した光共振器構造を、図8に示すように、互いに平行な状態に2つ配置する。図8に示すように、クラッド層101の上に、第1コア102aおよび第2コア103aからなる第1光共振器構造と、第1コア102bおよび第2コア103bからなる第2光共振器構造とを、並列に配置する。これら2つの光共振器構造は、互いに光学的に相互作用しないよう充分な間隔で配置する。また、2つの光共振器構造の共振部104の領域は、測定対象の液体が接触可能な測定領域とされている。他の領域には、液体が接触しないように保護膜で被覆しておくとよい。
【0048】
上述したように2つの光共振器構造を並列に配置したバイオセンサにおいて、まず、測定領域に、検出したい抗原に対する抗体を含む溶液を滴下する。滴下は、XYZ位置の精密制御が可能なアームにディスペンサが取り付けられたロボットを使用して行う。あるいは、顕微鏡下で手動にてピペッタにより滴下しても構わない。
【0049】
測定領域では、クラッド層101,各コア、および共振部104を構成する穴内部に、一様に抗体が物理吸着するようになる。一定時間静置した後、上記測定領域を純水でリンスし、吸着していない抗体を洗い流す。さらに、非特異吸着を避けるためのブロッキング剤を測定領域に滴下し、この後、純水でリンスし、自然乾燥させる。
【0050】
なお、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などの自己接着力がありゴム弾性を有する材料から微細溝を形成し、この微細溝に、上述した2つの光共振器構造の測定領域が配置されるように貼り合わせたマイクロ流路を形成してもよい。このマイクロ流路にシリンジポンプを接続し、前述した各液体を流し、また、乾燥用空気を順次流すことで、上述同様に測定領域における各コアおよび穴部内に対する抗体の固定化が可能である。
【0051】
次に、例えば、第1コア102bおよび第2コア103bからなる第2光共振器構造に、強い光を導波させる。第1コア102bの共振部104では、増強した光強度となるため、局部的に温度が上昇し、当該領域に吸着している抗体が不活性化する。なお、このように不活性にしても、抗体の密度、屈折率は変わらないとする。
【0052】
次に、抗原の入っていない参照液を測定領域に滴下(供給)する。参照液は、検体液に屈折率等が類似した性質を有するものであればよい。参照液が測定領域に配置された状態で、2つの光共振器構造における各々の透過スペクトルを測定する。
【0053】
次に、今度は、検体液を測定領域に滴下し、2つの光共振器構造における各々の透過スペクトルを測定する。
【0054】
ここで、測定領域の第1コア102aおよび第2コア103aからなる第1光共振器構造においては、表面に抗原と抗体が結合した領域が形成されている。これに対し、測定領域の第1コア102bおよび第2コア103bからなる第2光共振器構造においては、表面には不活性化した抗原と溶液の領域が形成されている。
【0055】
これら両者の表面近傍の屈折率の違いが、共振ピークの波長に対応する。共振ピーク位置を参照液との比較、第1光共振器構造と第2光共振器構造との間で比較することにより、検体液中の抗原を検出することができる。このように2つの光共振器構造を用いることで、リファレンス(基準)も同時に測定できるため、測定結果における温度ドリフト等の影響を小さくすることができ、高精度な検出が可能になる。
【0056】
次に、前述した実施の形態における光共振器構造をバイオセンサへ応用した他の例について図9を用いて説明する。例えば、図1の(c)を用いて説明した光共振器構造を、図9に示すように、直列に並べて2つ配置する。図9に示すように、クラッド層101の上に、第1コア202aおよび第2コア203aからなる第1光共振器構造と、第1コア202bおよび第2コア203aからなる第2光共振器構造とを直列に配置する。この例では、第2コア203aおよび第2コア203aは、同じコア部113に形成されている。
【0057】
また、第1光共振器構造の共振部104の領域は、測定対象の液体が接触可能な第1測定領域とされ、第2光共振器構造の共振部104の領域は、測定対象の液体が接触可能な第2測定領域とされている。他の領域には、液体が接触しないように保護膜で被覆しておくとよい。
【0058】
また、前述同様に、PDMSなどの自己接着力がありゴム弾性を有する材料から微細溝を形成し、この微細溝に、上述した2つの光共振器構造の測定領域が配置されるように貼り合わせたマイクロ流路を形成してもよい。このマイクロ流路にシリンジポンプを接続し、前述した各液体を流し、また、乾燥用空気を順次流すことで、上述同様に測定領域における各コアおよび穴部内に対する抗体の固定化が可能である。
【0059】
以下、上述した2つの光共振器構造によるバイオセンサを用いた測定について説明する。
【0060】
まず、検出したい抗原に対する抗体を含む溶液をこの第1測定領域に滴下する。第1測定領域では、ここに露出しているクラッド層101,コア部、および穴内部に、一様に抗体が物理吸着するようになる。一定時間静置した後、純水でリンスし吸着していない抗体を洗い流す。さらに、非特異吸着を避けるためのブロッキング剤を第1測定領域に滴下し、同様にリンスし、自然乾燥させる。この後、第1測定領域の抗体液を、加熱あるいは紫外線照射などにより不活性化する。
【0061】
次に、第2測定領域に上記光対を含む溶液を滴下する。一定時間静置した後、純水でリンスし、吸着していない抗体を洗い流す。さらに、非特異吸着を避けるためのブロッキング剤を第1測定領域に滴下し、同様にリンスし、自然乾燥させる。
【0062】
次に、抗原の入っていない参照液を、第1測定領域および第2測定領域に滴下し、コア部113による光導波路を導波する透過スペクトルを測定する。この時、第1コア202aにおける共振部104由来の共振ピークと、第1コア202bにおける共振部104由来の共振ピークが同時に観測される。
【0063】
次に第1測定領域に検体液をさらに滴下し、共振ピークの移動を観測する。第2測定領域においても検体液を追加滴下し、共振ピークの移動を観測する。
【0064】
第2測定領域では抗原・抗体の結合反応が起きるため、第1測定領域よりも大きく屈折率が変化する。このため第1測定領域、第2測定領域で、共振ピークの移動量が異なる。ピークの移動量から検体液中の抗原を検出することができる。このように2つの光共振器構造を用いることで、リファレンス(基準)も同時に測定できるため、測定結果における温度ドリフト等の影響を小さくすることができ、高精度な検出が可能になる。
【0065】
以上に説明したように、本発明では、第1穴部が1列に配列された共振部を、フォトニックバンドギャップ内に対象とする波長の光のエネルギーがある状態となるように第2穴部が1列に配列された2つの反射部で挟んで光共振器構造とし、第2穴部は、第1穴部より大きな径とされているようにした。この構成とすることで、共振部では、対象とする波長の光が、第1穴部の内部に多く存在する状態となる。この結果、本発明によれば、容易に製造できるシリコンによるフォトニック結晶を用い、Q値の向上によらずに検出感度が向上できるようになる。
【0066】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した説明では、各コアを断面矩形としているが、これに限るものではない。図1の(c)を用いて説明した光共振器構造では、各コアは、断面を矩形とすることが重要であるが、図1の(a)を用いて説明した光共振器構造では、コアは、周囲にスラブ部を備える所謂リブ型としもよい。ただし、断面が矩形のコアとするとで、クラッド層との選択エッチングによりコア形状が形成できるなど、形成が容易である。
【符号の説明】
【0067】
101…クラッド層、102…第1コア、103…第2コア、104…共振部、105,106…反射部、107,108…モード変換部、109…光結合領域、141…第1穴部、151,161…第2穴部、171,181…第3穴部、191…第4穴部。
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図9
図6