【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0030】
1.合成実施例(酸素キャリア材料の合成)
担体として格子酸素欠陥を持つ酸化物イオン伝導体Ca
2Fe
2O
5(CFO)とCe
0.9Gd
0.1O
2−δ(GDC)を用いた。また、比較例として、一般的に担体として利用されているα−Al
2O
3を用いた。
CFOは、次の手順で固相法により合成した。CaOとFe
2O
3を化学両論比で混合し、15時間ボールミルで粉砕・混合し、乾燥後、メノウ乳鉢で30分間粉砕した。次に、仮焼成(800℃、2時間)し、更にメノウ乳鉢で粉砕混合してから、本焼成(1000℃、5時間)を行なうことでCFOを得た。また、α−Al
2O
3とGDCは、それぞれ関東化学、第一稀元素株式会社から購入したものを用いた。
次に、Fe
2O
3/担体複合試料を以下の手順で含浸法により調製した。各担体と30重量%のFe
2O
3を混合し、15時間ボールミルで粉砕・混合し、乾燥後、メノウ乳鉢で30分間粉砕した後、仮焼成(800℃、2時間)した。仮焼成した試料に、グラファイト(多孔剤)を、Fe
2O
3/担体複合試料とグラファイト(多孔剤)が所定の体積割合(多孔度 = 0.4)になるように添加し、さらにエチルセルロース(バインダー)を所定の重量割合(1wt%)で混合し、錠剤成型した(10mmφ、3t/cm
2)。その後、焼成(1100℃、3時間)の工程を経て、Fe
2O
3/担体複合試料(酸素キャリア材料)を得た。
以下、担体として、CFOを用いて得られたFe
2O
3/担体複合試料を実施例1と、GDCを用いて得られた複合試料を参考例1と、α−Al
2O
3を用いて得られた複合試料を比較例1とする。
【0031】
2.酸素キャリア材料の同定
1で得られた試料の同定をX線回折(XRD)及びSEMにより行なった。XRDは、SmartLab(Rigaku社製)を使用し、SEMは、JSK5600(JEOL社製)を使用した。
担体としてCFOを用いて得られた複合試料のXRDの測定結果を
図2に示す。
図2から、CFOに特有なピークを確認することができる。
また、担体として、CFO、GDC、α−Al
2O
3を用いて得られた複合試料のSEM観察結果と平均粒子径を
図3に示す。なお、平均粒子径は、SEM観測により求めた。
【0032】
3.水素還元反応の特性評価
各酸素キャリア/担体複合試料に対して、3%H
2(無加湿)による昇温還元TG測定から得られたTG曲線を比較した結果を
図4に示す。比較例1、実施例1、参考例1の各試料において、夫々、600℃、550℃、350℃付加からの大きな重量減少が確認された。この重量減少は、Fe
2O
3の水素還元により、Fe
2O
3中の格子酸素の引き抜きによるものである。また、30重量%担持された全てのFe
2O
3がFeまで完全還元された場合の理論重量減少量は0.090であり、参考例1と比較例1の試料の実験結果とほぼ一致した。一方、実施例1(30重量%Fe
2O
3/CFO)については他の2つの試料とは異なる水素還元挙動を示し、重量減少量が最大で0.22と著しく大きな値を示した。この結果は、Fe
2O
3の還元と共に担体として用いたCFO自体も還元され、分解していることを示している。
次に、還元後の試料についてXRD測定から試料成分を同定したところ、CFOは検出されず、原料物質(Fe、CaO)のみが検出され、水素還元反応におけるCFOの分解が確認された(
図5の中段のスペクトルを参照)。また、実施例1の重量減少からも、30重量%Fe
2O
3/CFO中の鉄由来の格子酸素の全量が引き抜かれた際の重量減少は0.22であることから、鉄からの選択的な酸素の引き抜きが行なわれたことが示される。
更に、還元後の実施例1の試料を空気中で酸化したところ、CFOのピークが再び検出され(
図5の下段のスペクトルを参照)、ケミカルループ法における酸化還元サイクルにおいてCFOは分解と再生を繰り返すことが示唆される。
【0033】
4.メタン還元反応の特性評価
4−1.昇温還元実験による評価
熱重量分析法により、加湿CH
4を用いた還元反応実験における各酸素キャリア材料試料の重量変化を測定した。測定装置は、
図6に示す熱重量・示差熱同時分析装置(TG−DTA)を用いた。
反応器(reactor)内の試料台の上に、実施例1、参考例1、比較例1の各酸素キャリア/担体複合試料を15〜20mg装填した。メタン/H
2O/空気=1:2:17(5%CH
4、S/C=2)の燃料を流速200sccmで供給して、室温〜1000℃にかけて2〜20℃/分の間で昇温速度を変化させて測定を行なった。10℃/分で行なった結果を
図7に示す。
図7から、重量減少は、比較例1では950℃付近、実施例1では820℃付近、GDCでは720℃付近から始まっていることが確認され、それぞれの還元開始温度が求められた。
図8に各試料での還元開始温度を比較した結果を示す。
また、この温度域では、CFOとGDCを担体として用いると、重量減少が多段階で進行していることが確認された。段階1及び2の反応は、夫々、以下の式(1)、(2)に相当すると考えられる。
なお、上記実験の温度域においては式(3)の挙動は観察されなかったが、還元反応温度を上げることでFeまで完全に還元されると考えられる。
【0034】
4−2.メタン還元反応の温度依存性の評価
750〜950℃の温度域において、メタン/H
2O/空気=10:20:170(5%CH
4、10%H
2O一定)の濃度の燃料を流速200sccmで供給して、定温での還元反応TGを測定した。
図9に、900℃での5%CH
4(10%H
2O)による還元反応の結果を示す。
ここで、縦軸のX(転化率)は、上記式(1)〜(3)の各段階の転化率の和、即ち、X=X
1+X
2+X
3で定義され、以下の式(4)で表される。
m:重量(mg)、m
red:完全還元状態(Fe)での重量(mg)
m
oxi:完全酸化状態(Fe
2O
3)での重量(mg)
【0035】
図9における反応初期の傾きから、Fe
2O
3の還元反応速度は、実施例1が比較例1より顕著に大きいことが分かる。また、転化率についても、実施例1が比較例1より向上していること分かる。このことから、本発明の酸素キャリア材料を使用することにより、格子酸素利用率が向上することが示される。
また、各試料について、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃の定温で還元反応TGを測定した結果を
図10に示す。
【0036】
4−3.繰り返し還元反応挙動の評価
900℃で定温還元反応(雰囲気:加湿5%CH
4/空気(SC=2))を行い、その後に、900℃で定温酸化反応(空気中雰囲気)を行なう繰り返し酸化還元反応の試験を行った。実施例1の試料を用いて、5回の繰り返し試験を行った結果を
図11に示す。同図から、5回の繰り返し酸化還元反応後においても反応速度は概ね変化がないことが示される。
【0037】
5.メタン還元反応速度解析
(1)未反応核モデルによる解析
上記で得られた750〜950℃の温度域での定温還元反応の測定結果を用いて、未反応核モデル(Shrinking core model、式(5)〜(7))より反応速度定数及び活性化エネルギーを算出した。得られた結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
(2)段階1の反応完結時間の比較
表1で得られたデータを用いて、750〜950℃の反応温度域における、段階1の反応完結時間を求めた。その結果を
図12−1に示す。また、900℃における各試料の反応完結時間の比較を
図12−2に示す。
図12−1から、実施例1は比較例1に対し、反応完結時間が顕著に短縮されていることが分かる。特に、
図12−2に示すように、900℃において、比較例1の反応完結時間が687秒に対し、実施例1では53秒と大幅に短縮されている。
【0040】
(3)格子酸素利用率の比較
次に、表1で得られたデータを用いて、750〜950℃の反応温度域における、100秒反応させた時の格子酸素利用率を求めた。その結果を
図13−1に示す。また、各試料についての900℃で100秒反応させた時の格子酸素利用率の比較を
図13−2に示す。
図13−1から、実施例1は比較例1に対し、100秒反応させた時の格子酸素利用率も顕著に向上していることが分かる。特に、
図13−2に示すように、900℃で100秒反応させた時の格子酸素利用率は、比較例1では0.03に対し、実施例1では0.18と格段に向上している。
【0041】
上記の実施例で示したように、本発明の酸素キャリア材料を用いると、担体としてAl
2O
3を用いた従来の酸素キャリア材料に比べて、還元反応開始温度を低くできるとともに、反応完結時間を大幅に短縮し、格子酸素利用率を格段に高めることができる。また、材料のコスト面でみると、比較例1の酸素キャリア材料が960〜1200(円/1mol)であり、参考例1では330〜390(円/1mol)であるのに対し、実施例1の酸素キャリア材料では30〜35(円/1mol)と格段に廉価で調製できる。
このように、本発明の酸素キャリア材料は、従来技術に対して、低コストで、かつ還元活性を大幅に高めることができることから、ケミカルループ法の実用化に向けて大きく寄与できるものである。
更に、本発明の酸化物イオン伝導体を用いると、それ自体が酸素キャリアの機能を有し、更に、ケミカルループ法における酸化還元サイクルにおいてCFOは分解と再生を繰り返すことができる。従って、本発明の酸化物イオン伝導体単独でも酸素キャリア材料を構成することが可能である。