特許第6048951号(P6048951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048951ケミカルループ法における高活性酸素キャリア材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048951
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ケミカルループ法における高活性酸素キャリア材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20161212BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C01G49/00 C
   !H01B1/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-170908(P2012-170908)
(22)【出願日】2012年8月1日
(65)【公開番号】特開2014-31282(P2014-31282A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行者名:東京大学大学院新領域創成科学研究科 環境システム学専攻 刊行物名:平成23年度修士論文発表要旨 発行年月日:2012年2月8日 (2)発行者名:社団法人化学工学会 刊行物名:化学工学会第77年会 研究発表講演要旨集(DVD−ROM) 発行年月日:2012年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】大友 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】幡野 博之
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−296880(JP,A)
【文献】 特開2011−224488(JP,A)
【文献】 特開2013−123689(JP,A)
【文献】 特開2007−039327(JP,A)
【文献】 特開2008−200640(JP,A)
【文献】 特開2010−029822(JP,A)
【文献】 特開2006−346598(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0299997(US,A1)
【文献】 特開2013−255911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00ー49/08
H01B 1/00−1/24
B01J 21/00−38/74
C01B 3/00−6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素キャリア及び担体を含み、前記担体が、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体であり、前記酸素キャリアが、Fe、NiO、CuO、CuO、Ti/Fe鉱石、及びTiOからなる群から選択される1以上であるケミカルループ法に使用される酸素キャリア材料。
【請求項2】
AがCaであり、BがFeである、請求項に記載の酸素キャリア材料。
【請求項3】
前記酸化物イオン伝導体におけるBサイトが他の金属イオンでドープされている、請求項1又は2に記載の酸素キャリア材料。
【請求項4】
酸素キャリア及び担体を含む酸素キャリア材料を用いることを特徴とするケミカルループ法であって、前記担体が、、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む酸素キャリア材料であり、前記酸素キャリアが、Fe、NiO、CuO、CuO、Ti/Fe鉱石、及びTiOからなる群から選択される1以上である、ケミカルループ法。
【請求項5】
酸素キャリア材料を酸化する酸化反応系と酸素キャリア材料を還元する還元反応系との間で酸素キャリア材料を循環させることで熱あるいは水素と同時に二酸化炭素や窒素を得るケミカルループ燃焼あるいはケミカルループ改質を実施するためのシステムであって、酸素キャリア材料が、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む、前記ケミカルループ燃焼あるいはケミカルループ改質を実施するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な酸素キャリア材料、特に、ケミカルループ法に用いられる酸素キャリア材料、及び当該酸素キャリア材料を用いたケミカルループ法に関る。
【背景技術】
【0002】
炭化水素類から二酸化炭素と熱の同時生成を行なうエネルギー変換システムとしてケミカルループ法(Chemical looping)が提案されており、高いエネルギー変換効率を有することに加えて、エネルギー損失を伴わずに二酸化炭素の分離回収が可能であり、また、燃焼過程においてNOxの発生を抑制することができるため環境性能が高いことから近年注目を集め、研究が活発に行なわれている。
【0003】
ケミカルループ法は、金属粒子を酸化する酸化反応系と金属酸化物を還元する還元反応系との間で金属粒子および金属酸化物を循環させることで熱あるいは水素と同時に二酸化炭素や窒素ガスを得るようにしたエネルギー変換システムであり、燃料を直接空気と燃焼させる代わりに、酸素源として金属酸化物中の格子酸素を用いることにより、燃焼反応を「金属粒子の酸化」と、「金属酸化物の還元」という2つに分け、両者を物理的な粒子の循環で結ぶシステムである。燃料と空気は直接接触することがなく、金属を媒体として純酸素のやり取りをしている。図1にケミカルループ法の概略を示す。
【0004】
ケミカルループ法(ケミカルループ燃料およびケミカルループ改質)では、メタンなどの炭化水素は、還元反応系において、酸化金属の還元剤として働き、金属の還元反応で吸熱する。さらに、還元反応系では、燃料の炭化水素と酸化金属から供給される酸素のみが存在し、そのため、排ガス成分はほぼ二酸化炭素と水だけとなる。そのために、排出されたガスを冷却して水を取り除けばほぼ純粋なCOを容易に回収可能となる。また酸化反応系には、空気と金属粒子だけが供給され酸化反応によって発熱するが、燃焼温度が比較的低いことからサーマルNOxは殆ど生成しない。また、ケミカルループ燃焼では高い発電効率が得られるという利点もある。加えて、ケミカルループ改質では、還元反応系において、燃料の炭化水素と酸化金属に加え、水蒸気を供給することで、水素および一酸化炭素を含む燃料ガスを生成することができる。また、酸化反応系においても、還元に必要な熱を得る以外の還元された酸化金属と水蒸気の反応により、水素を生成させることができる。
【0005】
このようにケミカルループ法は様々な利点を有するが、その実用化には、還元反応速度の向上と格子酸素利用率の向上が必要とされており、低コストで高性能な酸素キャリア材料の開発が必要であり、その研究も行なわれている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Ishida et al.,Energy Conversion and Management 43(2002)1469
【非特許文献2】M.Ryden et al.,Int.J of Hydrogen Energy 31(2006)1271
【非特許文献3】M.Ishida et al.,Energy&Fuels12(1998)223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケミカルループ法で用いられる酸素キャリア材料は、通常、金属酸化物の酸素キャリアと担体から主に構成されており、従来は、酸素キャリアとしてFeが用いられ、担体としてAlや熱安定性が高いNiAlなどのスピネル構造体が用いられていた。
本発明者らは、酸素キャリア担体として固体酸化物燃料電池部材などに用いられるZn1−x2−δ(YSZ)、Ce0.9Gd0.12−δ(GDC)等の酸化物イオン伝導体を用いたところ、還元反応速度を向上させ得ることが示唆された。しかしながら、これらの材料は貴金属を含有することから材料コストが高いため、経済性の観点から実用化するのは困難である。従って、低コストで高活性な酸素キャリア材料は未だ実用化には至っていない。
【0008】
本発明は、還元反応速度及び格子酸素利用率を向上させることができ、更に材料コスト面でも有利である、ケミカルループ法に適した酸素キャリア材料を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、格子酸素欠陥を有する酸化物イオン伝導体に着目し、材料コスト面及び合成方法の簡便性を含めて種々検討したところ、特定の酸化物イオン伝導体がケミカルループ法の運転温度付近で高い酸化物イオン伝導度を有することを知見した。そして、これらの特定の酸化物イオン伝導体を用いることにより、還元反応速度及び格子酸素利用率を従来品に対して著しく向上させることができ、更にコスト的にも有利である酸化物キャリア材料を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、以下の構成を有するものである。
(1)A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む酸素キャリア材料。
(2)酸素キャリア及び担体を含み、担体が、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体である、(1)に記載の酸素キャリア材料。
(3)酸素キャリアが、Fe、NiO、CuO、CuO、Ti/Fe鉱石、及びTiOからなる群から選択される1以上である、(2)に記載の酸素キャリア材料。
(4)酸素キャリアが、Fe又はNiOである、(2)又は(3)に記載の酸素キャリア材料。
(5)酸化物イオン伝導体がAである、(1)〜(4)のいずれか1に記載の酸素キャリア材料。
(6)AがCaであり、BがFeである、(1)〜(5)のいずれか1に記載の酸素キャリア材料。
(7)酸化物イオン伝導体が他の金属イオンでドープされている、(1)〜(6)のいずれか1に記載の酸素キャリア材料。
(8)酸素キャリア及び場合により担体を含み、酸素キャリアが、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体である、(1)に記載の酸素キャリア材料。
(9)酸化物イオン伝導体がAである、(8)に記載の酸素キャリア材料。
(10)AがCaであり、BがFeである、(8)又は(9)に記載の酸素キャリア材料。
(11)酸化物イオン伝導体が他の金属イオンでドープされている、(8)〜(10)のいずれか1に記載の酸素キャリア材料。
(12)ケミカルループ法に使用される、(1)〜(11)のいずれか1に記載の酸素キャリア材料。
(13)A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む酸素キャリア材料を用いることを特徴とするケミカルループ法。
(14)酸素キャリア材料を酸化する酸化反応系と酸素キャリア材料を還元する還元反応系との間で酸素キャリア材料を循環させることで熱あるいは水素と同時に二酸化炭素や窒素を得るケミカルループ燃焼あるいはケミカルループ改質を実施するためのシステムであって、酸素キャリア材料が、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む、当該システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸素キャリア材料は、還元反応速度を向上させることができ、更に、格子酸素の利用率も向上させることができる。
特に、担体として、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体と、酸素キャリアを含む本発明の酸素キャリア材料は、従来技術に対して、低コストで、かつ還元活性を大幅に高めることができることから、ケミカルループ法の実用化に大きく寄与するものである。
また、本発明の上記酸化物イオン伝導体を用いると、それ自体が酸素キャリアとして機能し、更に、ケミカルループ法における酸化還元サイクルにおいて当該酸化物イオン伝導体は分解と再生を繰り返すことができる。従って、本発明の酸化物イオン伝導体単独でも酸素キャリア材料を構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ケミカルループ法の概略図。
図2】Fe/CFO複合試料(実施例1)のXRD測定結果。
図3】各種酸素キャリア材料のSEM像。
図4】各種酸素キャリア材料についての3%H(無加湿)による昇温還元TG測定結果。
図5】還元反応前後及び酸化後のFe/CFO複合試料(実施例1)のXRD測定結果。
図6】加湿CHを用いた還元反応実験装置(熱重量・示差熱同時分析装置)の概略図。
図7】各種酸素キャリア材料についての昇温CH還元反応実験結果(昇温速度:10℃/分)。
図8】各種酸素キャリア材料のCH還元反応開始温度の比較。
図9】各種酸素キャリア材料についての900℃での5%CH(10%HO)による還元反応TGの測定結果。
図10】各種酸素キャリア材料についての、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃での定温還元反応TGの測定結果。
図11】実施例1の試料を用いた、酸化還元反応繰り返し試験の結果。
図12-1】各種酸素キャリア材料についての750〜950℃の反応温度域における段階1の反応完結時間。
図12-2】各種酸素キャリア材料についての900℃での反応完結時間の比較。
図13-1】各種酸素キャリア材料についての750〜950℃において100秒反応させた時の格子酸素利用率。
図13-2】各種酸素キャリア材料についての900℃で100秒反応させた時の格子酸素利用率の比較。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特定の酸化物イオン伝導体を含む酸素キャリア材料に関し、当該酸素キャリア材料は特にケミカルループ法の触媒として好適に使用される。
【0014】
本発明の酸素キャリア材料は、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む。
、ABO、ABOは、夫々、ブラウンミラライト型、ペロブスカイト型、スピネル型の構造を有する酸化物イオン伝導体である。本発明においては、好ましくは、Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。
【0015】
本発明の一つの態様は、酸素キャリア材料が、酸素キャリア及び担体を含み、担体が、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体である。ここで、Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。
【0016】
本発明においては、酸素キャリアとして、ケミカルループ法に使用される任意の酸素キャリアを用いることができるが、好ましくは、Fe、NiO、CuO、CuO、Ti/Fe鉱石、及びTiOからなる群から選択される1以上の酸素キャリアが用いられる。特に好ましくは、酸素キャリアとして、Fe又はNiOが用いられる。
【0017】
本発明の特に好ましい実施形態において、酸素キャリア材料は、AがCaであり、BがFeである、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体からなる担体を含む。本発明においては、とりわけ、担体として、CaFeを用いるのが特に好ましい。
【0018】
本発明においては、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体におけるBサイトは、他の金属イオンでドープされていてもよい。ドープする金属イオンとしては、Ti、Al、Mn等があげられる。ドープする方法としては、公知の方法(例えば、合金法、拡散法、イオン注入法)を使用することができる。
【0019】
本発明の酸素キャリア材料には、製法の過程において、酸素キャリアと担体以外に、多孔剤やバインダー等を含有させることができる。多孔剤としては、グラファイト、活性炭等、バインダーとしては、エチルセルロース、テレピネオール等を用いることができる。
【0020】
本発明の酸化物イオン伝導体の製法として、例えば、以下の固相法で合成することができる。例えば、CaFeの場合、CaOとFeを化学両論比で混合し、例えば、600〜800℃で2〜5時間で仮焼成を行い、その後、例えば、900〜1100℃で2〜10時間の条件で本焼成を行なうことで調製することができる。
【0021】
本発明の酸素キャリア及び担体を含む酸素キャリア材料は、例えば、以下の含浸法で調製することができる。酸素キャリアと担体である酸化物イオン伝導体を、酸素キャリアの重量分率が、例えば5%〜40%の割合になるように所定量混合し、所定時間ボールミルで粉砕・混合し、乾燥、例えば、600〜800℃で2〜5時間で仮焼成を行い、その後、例えば、900〜1100℃で2〜10時間の条件で本焼成を行い調製することができる(酸素キャリア/担体複合試料粉末)。
【0022】
本発明のもう一つ別の態様は、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体からなる酸素キャリアを含む酸素キャリア材料である。ここで、Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。
前記の通り、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体は、酸素キャリア材料の担体としての機能を有するが、これら酸化物イオン伝導体は、還元反応においてそれ自体が還元されることが見出された。従って、当該酸化物イオン伝導体は、単独でも酸素キャリアとしての機能を有するものである。更に、上記酸化物イオン伝導体は、一旦還元された場合でも、酸化反応過程において元の酸化物イオン伝導体に再生することができる。
【0023】
本発明のもう一つ別の態様において、A、ABO又はABOから選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を酸素キャリアとして使用する場合には、別の担体を用いても用いなくてもよい。別の担体を用いる場合には、例えば、アルミナ(Al)等を使用することができる。
【0024】
上記本発明のもう一つ別の態様においても、前記と同様に、製法の過程において、酸素キャリアと担体以外に、多孔剤やバインダー等を含有させることができる。
【0025】
本発明の酸素キャリア材料、即ち、(1)A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体である担体及び酸素キャリアを含む酸素キャリア材料、(2)A、ABO又はABO(A、Bは上記の通り。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体である酸素キャリア及び場合により担体を含む酸素キャリア材料は、何れもケミカルループ法に好適に使用することができる。
【0026】
本発明のもう一つの態様は、本発明の酸素キャリア材料を使用したケミカルループ法に関わる。
【0027】
ケミカルループ法とは、金属粒子を酸化する酸化反応系と金属酸化物を還元する還元反応系との間で金属粒子および金属酸化物を循環させることで熱あるいは水素を得るケミカルループ燃焼あるいはケミカルループ改質を実施するためのシステムである。従って、本発明の好ましい一つの実施形態は、酸素キャリア材料を酸化する酸化反応系と酸素キャリア材料を還元する還元反応系との間で酸素キャリア材料を循環させることで熱を得るケミカルループ燃焼を実施するためのシステムであって、酸素キャリア材料が、A、ABO又はABO(Aは、Ca、Ba、Sr又はMgを表し、Bは、Fe、Cu又はMnを表す。)から選択される少なくとも1以上の酸化物イオン伝導体を含む、ケミカルループ燃焼システムである。
本発明のケミカルループ燃焼システムおよびケミカルループ改質システムでは、酸化反応系を司る酸化反応系装置と還元反応系を司る還元反応系装置とがそれぞれ独立した施設として設置されている。また、両装置間での金属粒子および金属酸化物の移送を行う移送系装置をさらに備えていてもよい。
【0028】
ケミカルループ燃焼では、還元反応系装置に燃料が供給されて還元反応により排ガス成分の二酸化炭素と水が排出される。本発明のケミカルループ法(ケミカルループ燃焼システムおよびケミカルループ改質システム)においては、燃料として、メタンなどの炭化水素、石油、固体燃料、液体燃料、バイオマス等を使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0030】
1.合成実施例(酸素キャリア材料の合成)
担体として格子酸素欠陥を持つ酸化物イオン伝導体CaFe(CFO)とCe0.9Gd0.12−δ(GDC)を用いた。また、比較例として、一般的に担体として利用されているα−Alを用いた。
CFOは、次の手順で固相法により合成した。CaOとFeを化学両論比で混合し、15時間ボールミルで粉砕・混合し、乾燥後、メノウ乳鉢で30分間粉砕した。次に、仮焼成(800℃、2時間)し、更にメノウ乳鉢で粉砕混合してから、本焼成(1000℃、5時間)を行なうことでCFOを得た。また、α−AlとGDCは、それぞれ関東化学、第一稀元素株式会社から購入したものを用いた。
次に、Fe/担体複合試料を以下の手順で含浸法により調製した。各担体と30重量%のFeを混合し、15時間ボールミルで粉砕・混合し、乾燥後、メノウ乳鉢で30分間粉砕した後、仮焼成(800℃、2時間)した。仮焼成した試料に、グラファイト(多孔剤)を、Fe/担体複合試料とグラファイト(多孔剤)が所定の体積割合(多孔度 = 0.4)になるように添加し、さらにエチルセルロース(バインダー)を所定の重量割合(1wt%)で混合し、錠剤成型した(10mmφ、3t/cm)。その後、焼成(1100℃、3時間)の工程を経て、Fe/担体複合試料(酸素キャリア材料)を得た。
以下、担体として、CFOを用いて得られたFe/担体複合試料を実施例1と、GDCを用いて得られた複合試料を参考例1と、α−Alを用いて得られた複合試料を比較例1とする。
【0031】
2.酸素キャリア材料の同定
1で得られた試料の同定をX線回折(XRD)及びSEMにより行なった。XRDは、SmartLab(Rigaku社製)を使用し、SEMは、JSK5600(JEOL社製)を使用した。
担体としてCFOを用いて得られた複合試料のXRDの測定結果を図2に示す。図2から、CFOに特有なピークを確認することができる。
また、担体として、CFO、GDC、α−Alを用いて得られた複合試料のSEM観察結果と平均粒子径を図3に示す。なお、平均粒子径は、SEM観測により求めた。
【0032】
3.水素還元反応の特性評価
各酸素キャリア/担体複合試料に対して、3%H(無加湿)による昇温還元TG測定から得られたTG曲線を比較した結果を図4に示す。比較例1、実施例1、参考例1の各試料において、夫々、600℃、550℃、350℃付加からの大きな重量減少が確認された。この重量減少は、Feの水素還元により、Fe中の格子酸素の引き抜きによるものである。また、30重量%担持された全てのFeがFeまで完全還元された場合の理論重量減少量は0.090であり、参考例1と比較例1の試料の実験結果とほぼ一致した。一方、実施例1(30重量%Fe/CFO)については他の2つの試料とは異なる水素還元挙動を示し、重量減少量が最大で0.22と著しく大きな値を示した。この結果は、Feの還元と共に担体として用いたCFO自体も還元され、分解していることを示している。
次に、還元後の試料についてXRD測定から試料成分を同定したところ、CFOは検出されず、原料物質(Fe、CaO)のみが検出され、水素還元反応におけるCFOの分解が確認された(図5の中段のスペクトルを参照)。また、実施例1の重量減少からも、30重量%Fe/CFO中の鉄由来の格子酸素の全量が引き抜かれた際の重量減少は0.22であることから、鉄からの選択的な酸素の引き抜きが行なわれたことが示される。
更に、還元後の実施例1の試料を空気中で酸化したところ、CFOのピークが再び検出され(図5の下段のスペクトルを参照)、ケミカルループ法における酸化還元サイクルにおいてCFOは分解と再生を繰り返すことが示唆される。
【0033】
4.メタン還元反応の特性評価
4−1.昇温還元実験による評価
熱重量分析法により、加湿CHを用いた還元反応実験における各酸素キャリア材料試料の重量変化を測定した。測定装置は、図6に示す熱重量・示差熱同時分析装置(TG−DTA)を用いた。
反応器(reactor)内の試料台の上に、実施例1、参考例1、比較例1の各酸素キャリア/担体複合試料を15〜20mg装填した。メタン/HO/空気=1:2:17(5%CH、S/C=2)の燃料を流速200sccmで供給して、室温〜1000℃にかけて2〜20℃/分の間で昇温速度を変化させて測定を行なった。10℃/分で行なった結果を図7に示す。
図7から、重量減少は、比較例1では950℃付近、実施例1では820℃付近、GDCでは720℃付近から始まっていることが確認され、それぞれの還元開始温度が求められた。図8に各試料での還元開始温度を比較した結果を示す。
また、この温度域では、CFOとGDCを担体として用いると、重量減少が多段階で進行していることが確認された。段階1及び2の反応は、夫々、以下の式(1)、(2)に相当すると考えられる。
なお、上記実験の温度域においては式(3)の挙動は観察されなかったが、還元反応温度を上げることでFeまで完全に還元されると考えられる。
【0034】
4−2.メタン還元反応の温度依存性の評価
750〜950℃の温度域において、メタン/HO/空気=10:20:170(5%CH、10%HO一定)の濃度の燃料を流速200sccmで供給して、定温での還元反応TGを測定した。図9に、900℃での5%CH(10%HO)による還元反応の結果を示す。
ここで、縦軸のX(転化率)は、上記式(1)〜(3)の各段階の転化率の和、即ち、X=X+X+Xで定義され、以下の式(4)で表される。
m:重量(mg)、mred:完全還元状態(Fe)での重量(mg)
oxi:完全酸化状態(Fe)での重量(mg)
【0035】
図9における反応初期の傾きから、Feの還元反応速度は、実施例1が比較例1より顕著に大きいことが分かる。また、転化率についても、実施例1が比較例1より向上していること分かる。このことから、本発明の酸素キャリア材料を使用することにより、格子酸素利用率が向上することが示される。
また、各試料について、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃の定温で還元反応TGを測定した結果を図10に示す。
【0036】
4−3.繰り返し還元反応挙動の評価
900℃で定温還元反応(雰囲気:加湿5%CH/空気(SC=2))を行い、その後に、900℃で定温酸化反応(空気中雰囲気)を行なう繰り返し酸化還元反応の試験を行った。実施例1の試料を用いて、5回の繰り返し試験を行った結果を図11に示す。同図から、5回の繰り返し酸化還元反応後においても反応速度は概ね変化がないことが示される。
【0037】
5.メタン還元反応速度解析
(1)未反応核モデルによる解析
上記で得られた750〜950℃の温度域での定温還元反応の測定結果を用いて、未反応核モデル(Shrinking core model、式(5)〜(7))より反応速度定数及び活性化エネルギーを算出した。得られた結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
(2)段階1の反応完結時間の比較
表1で得られたデータを用いて、750〜950℃の反応温度域における、段階1の反応完結時間を求めた。その結果を図12−1に示す。また、900℃における各試料の反応完結時間の比較を図12−2に示す。
図12−1から、実施例1は比較例1に対し、反応完結時間が顕著に短縮されていることが分かる。特に、図12−2に示すように、900℃において、比較例1の反応完結時間が687秒に対し、実施例1では53秒と大幅に短縮されている。
【0040】
(3)格子酸素利用率の比較
次に、表1で得られたデータを用いて、750〜950℃の反応温度域における、100秒反応させた時の格子酸素利用率を求めた。その結果を図13−1に示す。また、各試料についての900℃で100秒反応させた時の格子酸素利用率の比較を図13−2に示す。
図13−1から、実施例1は比較例1に対し、100秒反応させた時の格子酸素利用率も顕著に向上していることが分かる。特に、図13−2に示すように、900℃で100秒反応させた時の格子酸素利用率は、比較例1では0.03に対し、実施例1では0.18と格段に向上している。
【0041】
上記の実施例で示したように、本発明の酸素キャリア材料を用いると、担体としてAlを用いた従来の酸素キャリア材料に比べて、還元反応開始温度を低くできるとともに、反応完結時間を大幅に短縮し、格子酸素利用率を格段に高めることができる。また、材料のコスト面でみると、比較例1の酸素キャリア材料が960〜1200(円/1mol)であり、参考例1では330〜390(円/1mol)であるのに対し、実施例1の酸素キャリア材料では30〜35(円/1mol)と格段に廉価で調製できる。
このように、本発明の酸素キャリア材料は、従来技術に対して、低コストで、かつ還元活性を大幅に高めることができることから、ケミカルループ法の実用化に向けて大きく寄与できるものである。
更に、本発明の酸化物イオン伝導体を用いると、それ自体が酸素キャリアの機能を有し、更に、ケミカルループ法における酸化還元サイクルにおいてCFOは分解と再生を繰り返すことができる。従って、本発明の酸化物イオン伝導体単独でも酸素キャリア材料を構成することが可能である。
図1
図2
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図11
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】