特許第6090895号(P6090895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6090895硫黄系正極材料を用いた全固体リチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090895
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】硫黄系正極材料を用いた全固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20170227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170227BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20170227BHJP
   H01M 4/137 20100101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M4/62 Z
   H01M4/60
   H01M4/137
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-101746(P2012-101746)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-229257(P2013-229257A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】幸 琢寛
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】幸 妥絵
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】清野 美勝
(72)【発明者】
【氏名】太田 剛
(72)【発明者】
【氏名】川澄 一仁
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−033875(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129103(WO,A1)
【文献】 特開2010−153296(JP,A)
【文献】 特開2010−257878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄変性ポリアクリロニトリルと硫化物系固体電解質とを含む正極と、
硫化物系固体電解質を含む電解質層と、を含み、
正極に含まれる硫化物系固体電解質及び電解質層に含まれる硫化物系固体電解質は、ともにSとPとLiを必須成分とし、
正極に含まれる硫化物系固体電解質及び電解質層に含まれる硫化物系固体電解質は、同一であっても異なっていてもよいことを特徴とする全固体リチウム二次電池。
【請求項2】
正極及び電解質層に含まれる硫化物系固体電解質が、ともに硫化リチウムと五硫化二リンとから製造されることを特徴とする請求項1記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項3】
前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、68:32〜73:27であることを特徴とする請求項2記載の全固体リチウム二次電池。
【請求項4】
正極及び電解質層に含まれる硫化物系固体電解質が、ともにLi11結晶を含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の全固体リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池性能の劣化が少なく長寿命であって、電気容量の大きい高性能の、耐熱性が高く安全性に優れた、硫黄系正極材料を用いた全固体リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系の有機電解液を用いた現行のリチウム二次電池は、安全性に課題が残されていると考えられている。
現在、正極と負極の間にあるセパレータは、ポリプロピレンやポリエチレン製の微多孔膜、又はこれらを複数重ねた構造のものが一般的に使われており、厚さは15〜40μm程度である。電池内に混入した異物や、金属デンドライトによって、このセパレータが貫通し、これにより、正負極が短絡して急激に電流が流れ、発熱して、時には発火に至ることがある。また、高温環境下では、セパレータが収縮したり、溶けたりすることにより、正負極が短絡し、発熱して、時には発火に至ることがある。
有機電解液は高いイオン伝導度を示すものの、電解液が液体でかつ可燃性であることから電池として用いた場合、漏洩、発火等の危険性が懸念されている。また、有機電解液は、組成にもよるが100〜200℃程度で蒸発してしまい、これが発火に繋がるという問題もある。
【0003】
これらの課題を解決するために、次世代リチウムイオン電池用電解質として、液系電解液に替わる、より安全性の高い固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の開発が盛んに行われている。
固体電解質にも様々な種類があるが、中でも、導電性の高い硫化物系の固体電解質が注目されている(特許文献1)。
固体電解質はセパレータの役割を兼ねるため、固体電解質を用いることにより、別途セパレータを使用する必要がなくなる。また、固体電解質自体が耐熱性を有するため、数百℃の高温で溶けたり蒸発したりすることはない。よって、固体電解質の使用は、正負極が短絡するリスクを大幅に低減できる。
【0004】
ここで、硫化物系の固体電解質を用いた全固体二次電池では正極活物質に遷移金属酸化物正極活物質を用いることが一般的である。しかし、該全固体電池では、硫化物系の固体電解質が遷移金属酸化物正極活物質を劣化させてしまうという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-228570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、従来に比し、電池性能の劣化が少なく長寿命であって、電気容量が大きく、耐熱性が高く安全性に優れた全固体リチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の全固体リチウム二次電池は、硫黄変性ポリアクリロニトリルと硫化物系固体電解質とを含む正極と、硫化物系固体電解質を含む電解質層と、を含み、前記硫化物系固体電解質は、SとPとLiを必須成分とする全固体リチウム二次電池である。
【0008】
本発明の全固体リチウム二次電池によれば、硫化物系固体電解質を含む電解質層を用いることにより、安全且つ電気容量が高い全固体リチウム二次電池とすることができる。
硫黄変性ポリアクリロニトリルを正極活物質に用いると正極中の正極活物質が正極中の硫化物系固体電解質により劣化せず、長寿命の全固体リチウム二次電池とすることができる。
正極及び電解質層ともに耐熱性が高いため、高温環境下でも、安全且つ高性能な全固体リチウム二次電池とすることができる。
【0009】
本発明の全固体リチウム二次電池は、前記硫化物系固体電解質が、硫化リチウムと五硫化二リンとから製造される全固体リチウム二次電池であることが好ましい。また、硫化リチウムと五硫化二リンのモル比が、68:32〜73:27であることが好ましい。
これにより、より電気容量が高い全固体リチウム二次電池とすることができる。
【0010】
本発明の全固体リチウム二次電池は、前記硫化物系固体電解質が、Li11結晶構造を含む全固体リチウム二次電池であることが好ましい。
これにより、リチウムイオン伝導性が向上し、高性能な全固体リチウム二次電池とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電池性能の劣化が少なく長寿命であって、電気容量の大きい高性能の、耐熱性が高く安全性に優れた全固体リチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の全固体リチウム二次電池の概略拡大断面図である。
図2】硫黄変性ポリアクリロニトリルを製造するための反応装置を模式的に示す概略図である。
図3】硫黄変性ポリアクリロニトリルのラマンスペクトルを示す図面である。
図4】導電助剤を添加した状態で熱処理して得られた硫黄変性ポリアクリロニトリルを模式的に示す図面である。
図5】硫黄変性ポリアクリロニトリルのX線回折パターンを示す図面である。
図6】実施例1の硫黄変性ポリアクリロニトリルのラマンスペクトルを示す図面である。
図7】実施例1の全固体リチウム二次電池の充放電曲線である。
図8】比較例1の全固体リチウム二次電池の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の全固体リチウム二次電池について説明する。
【0014】
本発明の全固体リチウム二次電池は、硫黄変性ポリアクリロニトリルと硫化物系固体電解質とを含む正極と、硫化物系固体電解質を含む電解質層と、を含み、前記硫化物系固体電解質は、SとPとLiを必須成分とすることを特徴とする全固体リチウム二次電池である。
本発明の全固体リチウム二次電池は、コイン型リチウム二次電池であることが好ましい。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の全固体リチウム二次電池の概略拡大断面図である。
図1において、コイン型リチウム二次電池1は、電池素子2、金属製ケース3、金属製封口板4、ガスケット5及びばね6を備えている。
また、電池素子2は、第一電極としての正極21、固体電解質層22及び第二電極としての負極23を有し、正極21は集電体211を、負極23は集電体231及び金属平板232を有している。この電池素子2は、図1に示すように、正極21及び負極23が、固体電解質層22を挟むように積層されており、正極21の下面に集電体211が、負極23の上面に集電体231が積層され、集電体231の上面に金属平板232が積層されている。
【0016】
(1)正極
まず、正極21について説明する。
正極21は、ほぼ円形の薄板状の形状としてあり、下面は集電体211を介して金属製ケース3と当接し、上面が固体電解質層22と当接する。
正極は硫黄変性ポリアクリロニトリルと硫化物系固体電解質とを含む。
下記するように正極には、硫黄変性ポリアクリロニトリルと硫化物系固体電解質以外に導電性物質を含めることができる。
また、硫化物系固体電解質は下記する電解質層に含まれる硫化物系固体電解質と同様であることからここでの記載は省略する。
なお、電解質層に含まれる硫化物系固体電解質と正極に含まれる硫化物系固体電解質とは同一であることが電池製造上好ましいが、異なっていてもよい。
硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末をポリアクリロニトリル粉末と混合し、硫黄の流出を防止できる状態で、非酸化性雰囲気下で加熱する方法により、ポリアクリロニトリルの閉環反応と同時に、硫黄の蒸気がポリアクリロニトリルと反応して得られる、硫黄によって変性されたポリアクリロニトリルのことをいう。
具体的には、以下の方法で製造する。
【0017】
硫黄変性ポリアクリロニトリルの製造方法
(a)原料
本発明の方法では、原料としては、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末を用いる。
【0018】
硫黄粉体の粒径については、特に限定的ではないが、篩いを用いて分級した際に、150μm〜40μm程度の範囲内にあるものが好ましく、100μm〜40μm程度の範囲内にあるものがより好ましい。
【0019】
ポリアクリロニトリル粉末としては、重量平均分子量が10,000〜300,000程度の範囲内にあるものが好ましい。また、ポリアクリロニトリルの粒径については、電子顕微鏡によって観察した際に、0.5〜50μm程度の範囲内にあるものが好ましく、1〜10μm程度の範囲内にあるものがより好ましい。
【0020】
硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末の混合割合については、特に限定的ではないが、ポリアクリロニトリル粉末100重量部に対して、硫黄粉体を50〜1000重量部程度とすることが好ましく、50〜500重量部程度とすることがより好ましく、150〜350重量部程度とすることが更に好ましい。
【0021】
(b)硫黄変性ポリアクリロニトリルの製造方法
本発明の製造方法では、上記した硫黄の粉末とポリアクリロニトリルの粉末を原料として用い、硫黄の流出を防止しつつ、非酸化性雰囲気下において原料粉末を加熱する。これにより、ポリアクリロニトリルの閉環反応と同時に、蒸気状態の硫黄がポリアクリロニトリルと反応して、硫黄によって変性されたポリアクリロニトリルが得られる。
【0022】
硫黄の流出を防止しつつ加熱する方法の一例として、密閉された雰囲気中で加熱する方法を採用できる。この場合、密閉された雰囲気としては、加熱によって発生する硫黄の蒸気が散逸しない程度の密閉状態が保たれていればよい。
【0023】
また、非酸化性雰囲気としては、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度とした減圧状態;窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気;硫黄ガス雰囲気等とすればよい。
【0024】
密閉状態の非酸化性雰囲気とするための具体的な方法については特に限定はなく、例えば、硫黄蒸気が散逸しない程度の密閉性が保たれる容器中に原料を入れて、容器内を減圧状態又は不活性ガス雰囲気として加熱すればよい。その他、硫黄粉末とポリアクリロニトリルの粉末の混合物を、アルミニウムラミネートフィルム等の硫黄の蒸気と反応を生じない材料で真空包装した状態で加熱してもよい。この場合、発生した硫黄蒸気によって包装材料が破損しないように、例えば、水を入れたオートクレーブ等の耐圧容器中に、包装された原料を入れて加熱し、発生した水蒸気で包装材の外部から加圧する状態とすることが好ましい。この方法によれば、包装材料の外部から水蒸気によって加圧されるので、硫黄蒸気によって包装材料が膨れて破損することが防止される。
【0025】
硫黄粉体とポリアクリロニトリル粉体は、単に混合しただけの状態でも良いが、例えば、混合物をペレット状に成形した状態としてもよい。
【0026】
加熱温度は、250〜500℃程度とすることが好ましく、250〜450℃程度とすることがより好ましく、250〜400℃程度とすることがさらに好ましい。
【0027】
加熱時間については、特に限定的ではなく、実際の加熱温度によって異なるが、通常、上記した温度範囲内に10分〜10時間程度保持すればよく、30分〜6時間程度保持することが好ましい。本発明方法によれば、この様な短時間で硫黄変性ポリアクリロニトリルを形成することが可能である。
【0028】
また、硫黄の流出を防止しつつ加熱する方法のその他の例として、反応によって生成する硫化水素を排出する開口部を有する反応容器中で、硫黄蒸気を還流させながら硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末を含む原料粉末を加熱する方法を採用できる。この場合、硫化水素を排出するための開口部は、発生した硫黄蒸気がほぼ完全に液化して還流し、開口部からの硫黄蒸気の流出を防止できる位置に設ければよい。例えば、反応容器内の温度が100℃以下程度となる部分に開口部を設けることによって、反応によって生成する硫化水素については該開口部から外部に排出されるが、硫黄蒸気は開口部の部分では凝縮して、外部に排出されることなく反応容器中に戻すことができる。
【0029】
この方法で使用できる反応装置の一例の概略図を図2に示す。図2に示す装置では、原料粉末を収容した反応容器を電気炉中に入れ、反応容器の上部は、電気炉から露出した状態としている。このような装置を用いることによって、反応容器の上部は、電気炉中の反応容器の温度より低い温度となる。この際、反応容器の上部の温度が硫黄蒸気が液化する温度であればよい。図2に示す反応容器では、該反応容器の上部は、シリコーンゴム製の栓をして、この栓に硫化水素を排出するための開口部と、不活性ガスを導入するための開口部を設けている。更に、シリコーンゴム製の栓には、原料温度を測定するために熱電対が設置されている。シリコーンゴム製の栓は、下に凸状の形状であり、この部分で凝縮して液化した硫黄は、容器下部に滴下する。反応容器は、例えば、アルミナタンマン管、耐熱ガラス管等の熱や硫黄による腐食に対して強い材料を用いることが好ましい。シリコーンゴム製の栓は、例えば、フッ素樹脂製のテープで腐食防止のための処理が施されている。
【0030】
反応容器内を非酸化性雰囲気とするためには、例えば、加熱初期には、不活性ガス導入口から、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを導入して不活性ガス雰囲気とすればよい。原料の温度が上昇すると徐々に硫黄蒸気が発生するので、析出した硫黄によって不活性ガス導入口が閉塞することを避けるために、原料の温度が100℃程度以上となると、不活性ガス導入口を閉じることが好ましい。その後加熱を続けることによって、発生する硫化水素とともに不活性ガスが排出されて、反応容器内は、主として硫黄蒸気雰囲気となる。
【0031】
この場合の加熱温度も、密閉された雰囲気中で加熱する方法と同様に、250〜500℃程度とすることが好ましく、250〜450℃程度とすることがより好ましく、250〜400℃程度とすることがさらに好ましい。反応時間についても、上記した方法と同様に250〜500℃の温度範囲に10分〜10時間程度保持すればよいが、通常は、反応容器の内部が上記した温度範囲に達した後、加熱を停止すれば、反応は発熱を伴うため、上記した温度範囲に必要な時間保持されることになる。また、発熱反応による昇温分を含めて最高温度が上述の加熱温度に達するように加熱条件を制御することが必要である。尚、反応は発熱を伴うために、毎分10℃以下の昇温速度が望ましい。
【0032】
この方法では、反応中に生じた余分な硫化水素ガスが除去されて、反応容器内は硫黄の液体と蒸気で満たされる状態が保持されており、密閉容器中で反応を行なう場合よりも硫黄粉末とポリアクリロニトリルとの反応を促進させることができる。
【0033】
反応容器から排出された硫化水素は、過酸化水素水、アルカリ水溶液等を通過させることによって、硫黄の沈殿を形成して処理すればよい。
【0034】
反応容器内が所定の反応温度に達した後、加熱をやめて自然冷却して、生成した硫黄変性ポリアクリロニトリルと硫黄の混合物を取り出せばよい。
【0035】
本発明方法によれば、この様な簡便な方法で高い電気容量の硫黄変性ポリアクリロニトリルを得ることができる。
【0036】
(c)硫黄変性ポリアクリロニトリル
上記した方法によれば、ポリアクリロニトリルの閉環反応と、硫黄とポリアクリロニトリルとの反応が同時に生じて、硫黄によって変性されたポリアクリロニトリルが得られる。
【0037】
得られた硫黄変性ポリアクリロニトリルは、元素分析の結果、炭素、窒素、及び硫黄を含み、更に、少量の酸素及び水素を含む場合もある。
【0038】
上記した製造方法の内で、密閉された雰囲気中で加熱する方法によれば、得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルは、元素分析の結果より、該硫黄変性ポリアクリロニトリル中の含有量として、炭素が40〜60質量%、硫黄が15〜30質量%、窒素が10〜25質量%、水素が1〜5質量%程度の範囲となる。
【0039】
また、上記した製造方法の内で、硫化水素ガスを排出しながら加熱する方法では、得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルは、硫黄の含有量が大きくなり、元素分析とXPS測定によるピーク面積比の計算結果より、該硫黄変性ポリアクリロニトリル中の含有量として、炭素が25〜50質量%、硫黄が25〜55質量%、窒素が10〜20質量%、酸素が0〜5質量%、水素が0〜5質量%程度の範囲となる。この方法で得られる硫黄含有量の大きい硫黄変性ポリアクリロニトリルは、正極活物質として使用した際には、電気容量が大きくなる。
【0040】
また、本発明の方法によって得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルは、室温から900℃まで20℃/分の昇温速度で加熱した際の熱重量分析による重量減は400℃時点で10%以下である。一方、硫黄粉末とポリアクリロニトリル粉末の混合物を同様の条件で加熱すると120℃付近から重量減少が認められ、200℃以上になると急激に硫黄の消失に基づく大きな重量減が認められる。
【0041】
更に、該硫黄変性ポリアクリロニトリルは、CuKα線によるX線回折の結果、硫黄に基づくピークが消失して、回折角(2θ)が20〜30°付近にブロードなピークのみが確認される。
【0042】
これらの点から、上記した方法で得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルは、硫黄とポリアクリロニトリルの単純な混合物ではなく、硫黄変性ポリアクリロニトリルでは、硫黄は、(1)閉環の進行したポリアクリロニトリルと結合した状態と、(2)ポリアクリロニトリルの環化反応により生成した共役構造が形成するグラフェン状化合物の層間や細孔内の、(1)(2)どちらか一方、または(1)(2)の両方に存在していると考えられる。
【0043】
ポリアクリロニトリル100重量部に対して、硫黄原子を200重量部用いて得られた硫黄変性ポリアクリロニトリルについてのラマンスペクトルの一例を図3に示す。該硫黄変性ポリアクリロニトリルは、ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトの1331cm-1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm-1〜1800cm-1の範囲で1548cm-1、939cm-1、479cm-1、381cm-1、317cm-1付近にピークが存在することを特徴とするものである。上記したラマンシフトのピークについては、ポリアクリロニトリルに対する硫黄原子の比率を変更した場合にも同様のピーク位置に観測されるものであり、本発明方法で得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルを特徴づけるものである。317cm-1、381cm-1、479cm-1、939cm-1のピークは共役構造に起因する振動に帰属され、ポリアクリロニトリルの環化反応に由来する。1331cm-1、1548cm-1のピークはそれぞれカーボンのDバンドとGバンドに対応し、硫黄が脱水素反応を起こして黒鉛化を促進したものと考えられる。環化反応によって分子内の共役系が多くなるため前駆体の白色から黒色へ変色した。また、474cm-1のピークについてはC-S結合またはS-S結合に由来する振動であると推定されるが、低波数領域であるため同定が難しい。上記した各ピークは、上記したピーク位置を中心としては、ほぼ±8cm-1の範囲内に存在することができる。尚、上記したラマンシフトは、日本分光社製 RMP-320(励起波長λ=532nm、グレーチング:1800gr/mm、分解能:3cm-1)で測定したものである。尚、ラマンスペクトルは、入射光の波長や分解能の違いなどにより、ピークの数が変化することや、ピークトップの位置がずれることがある。
【0044】
上記した方法で得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルは、原料物質であるポリアクリロニトリルを加熱した場合に起こる閉環反応が3次元的に縮合環を形成して進むという特性を持つため、硫黄と混合して加熱することで、ポリアクリロニトリルが三次元的に架橋した硫黄変性ポリアクリロニトリル構造が形成される。
【0045】
(d)熱処理工程
上記した方法で得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルは、更に、非酸化性雰囲気中で加熱することによって、未反応の硫黄が存在する場合に、これを除去することができる。これにより、より高純度の硫黄変性ポリアクリロニトリルを得ることができる。熱処理後の硫黄変性ポリアクリロニトリルは、充放電のサイクル特性がより向上する。
【0046】
非酸化性雰囲気としては、例えば、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度とした減圧状態;窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気等でよい。
【0047】
加熱温度は、150〜400℃程度とすることが好ましく、150〜300℃程度とすることがより好ましく、200〜300℃程度とすることが更に好ましい。加熱時間が高くなりすぎると、硫黄変性ポリアクリロニトリルが分解することがあるので注意が必要である。
【0048】
熱処理時間は、特に限定的ではないが、通常、1〜6時間程度とすることが好ましい。
【0049】
例えば、上記した方法で得られる硫黄変性ポリアクリロニトリルに、硫化物系固体電解質と、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等の導電助剤とを、混合して、これに集電体を圧着させることで正極を製造することができる。
正極には結着材を含んでいても良い。
結着材としては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidine DiFluoride:PVdF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。硫黄変性ポリアクリロニトリルに、硫化物系固体電解質、導電助剤、結着材を混合したものを乳鉢やプレス機を用いて混練してフィルム状とし、これを集電体へプレス機で圧着する方法によっても正極を製造することができる。
硫化物系固体電解質の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、硫黄変性ポリアクリロニトリル100重量部に対して、10〜100重量部程度とすることができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、硫黄変性ポリアクリロニトリル100重量部に対して、5〜30重量部程度とすることができる。また、結着材の使用量についても、特に限定的ではないが、例えば、硫黄変性ポリアクリロニトリル100重量部に対して、10〜20重量部程度とすることができる。
【0050】
集電体としては、特に限定はなく、従来からリチウム二次電池用正極として使用されている材料、例えば、ステンレス鋼(SUS)、Al、Au、Pt、Tiの箔やメッシュ、カーボン繊維の織布、不織布などを用いることができる。
【0051】
また、導電助剤の内で、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、黒鉛等の結晶性の高い炭素材料については、ポリアクリロニトリルの閉環反応に伴う硫黄変性ポリアクリロニトリルの生成反応を阻害することがないので、硫黄変性ポリアクリロニトリルを製造する際に、原料となる硫黄粉末及びポリアクリロニトリル粉末に加えた状態で加熱処理するのが導電性を向上させるために好ましい。特に、気相法炭素繊維(VGCF)を用いる場合には、直径が100nm〜500nm、長さが5μm〜数20μmのものが好適である。図4は、導電助剤を添加した状態で熱処理して得られた硫黄変性ポリアクリロニトリルの構造を模式的に示す図面である。図4に示すように、この方法では、直径数100nm程度の硫黄変性ポリアクリロニトリル粒子の表面や粒子間にナノレベルでの導電性ネットワークを構築することができ、より導電性に優れた正極活物質とすることができる。この場合の導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、硫黄粉末及びポリアクリロニトリル粉末の合計量100重量部に対して1〜50重量部程度、好ましくは、5〜20重量部程度とすることができる。この方法で得られる炭素材料が複合化された硫黄変性ポリアクリロニトリル粉末は、導電性が良好であり、集電体に塗着させて正極とする際に、導電助剤や結着材の量を大幅に低減でき、電極容量密度や電極出力密度を大幅に向上させることができる。
【0052】
本発明において、正極は、上記の硫黄変性ポリアクリロニトリルの他に、硫化物系固体電解質を含む。硫化物系固体電解質は、後述する電解質層に含まれる硫化物系固体電解質と同じものを用いることができるが、固体電解質層のものに対して、組成を適宜調整してもよいし、結晶性固体電解質であっても、ガラス状固体電解質であってもよい。電池作製上、電解質層と同じものを用いるのが好ましい。
【0053】
(2)電解質層
次に電解質層について説明する。
固体電解質層22はリチウムイオン伝導性固体電解質を含み、このリチウムイオン伝導性固体電解質は硫化物系固体電解質である。硫化物系固体電解質は、S、P及びLiを必須成分とする。
また、硫化物系固体電解質は、B、Si、Ge及びAlからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含んでいても良い。
固体電解質層22は、正極とほぼ同じ円形の薄板状の形状としてある。
【0054】
硫化物系固体電解質は、例えば、硫化リチウム(LiS)及び五硫化二リン(P);硫化リチウム、単体リン及び単体硫黄;又は硫化リチウム、五硫化二リン、単体リン及び/又は単体硫黄を原材料として製造することができる。
【0055】
硫化物系固体電解質を、硫化リチウムと五硫化二リンとから製造する場合、混合モル比は、通常50:50〜80:20、好ましくは60:40〜75:25である。特に好ましくは、LiS:P=68:32〜73:27(モル比)程度である。
【0056】
上記材料の混合物を溶融反応した後、急冷する、又はメカニカルミリング法(以下、MM法という場合がある)により処理することにより、ガラス状固体電解質が得られる。得られたガラス状固体電解質をさらに熱処理すると、結晶性固体電解質である硫化物系固体電解質が得られる。
【0057】
硫化物系固体電解質は、Li11構造体の結晶構造を有することが好ましい。
Li11構造体の結晶構造を有する硫化物系固体電解質を全固体リチウム二次電池に用いるとより高性能の全固体リチウム二次電池を製造することができる。
ここで、Li11構造体の結晶構造は、X線回折測定すると、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測される。
【0058】
硫化物系固体電解質粒子の粒径は、0.01μm以上100μm以下が好ましく、0.01μm以上50μm以下であることがより好ましい。上記粒径はレーザー回折式粒度分布測定方法によって求めることができる。
0.01μm未満であるとハンドリングが困難になるおそれがある。50μmより大きいと活物質との接触面積が小さくなり、イオン伝導性が低くなる恐れがある。より好ましくは、硫化物系固体電解質粒子の粒径は、0.05μm以上20μm以下である。
【0059】
レーザー回折式粒度分布測定方法は、組成物を乾燥せずに粒度分布を測定することができ、具体的には、組成物中の粒子群にレーザーを照射してその散乱光を解析して粒度分布を測定する。
なお、本発明では、固体電解質は乾燥した状態で測定している。
具体的な測定方法は以下の通りである。測定装置として、例えばMalvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000を用いることができる。
まず、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。上記混合物を十分混合した後、固体電解質を添加して粒子径を測定する。
ここで、固体電解質の添加量は、上記装置で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するレーザー散乱強度が規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることができなくなる恐れがある。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定ができない恐れがある。
【0060】
上記装置では、固体電解質の添加量に基づきレーザー散乱強度が表示されるので、上記レーザー散乱強度範囲に入る添加量を見つける。
【0061】
(3)負極
負極23は、負極活物質を含む。
硫化物系固体電解質及び/又は導電助剤を含んでいても良い。
【0062】
本発明の全固体リチウム二次電池は、正極活物質である硫黄変性ポリアクリロニトリルにLiが含まれていない。
よって、負極活物質としては、Liが含まれた、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質を用いる必要がある。負極活物質としては、この電池分野において負極活物質として公知のものが使用でき、例えばLi‐金属合金を用いることができ、中でもLi‐In合金が安定して用いられる。
硫化物系固体電解質は固体電解質層に含まれるものと同じである。
【0063】
導電助剤としては、炭素材料、金属粉末及び金属化合物から選択される物質や、これらの混合物が挙げられる。
【0064】
負極は、結着剤を含んでいてもよい。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0065】
また、正極と同様に、導電助剤及び結着材を混合したものを、乳鉢やプレス機を用いて混練してフィルム状とし、これを集電体へプレス機で圧着する方法によっても負極を製造することができる。
集電体としては、正極と同様の集電体を用いることができる。
【0066】
(4)金属平板
金属平板232は集電体として備えられ、公知の集電体を用いることができる。
例えば、SUSの平板や、Au、Pt、Al、Ti、黒鉛や、Cu、Ni等のように硫化物系固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【0067】
(5)金属製ケース
金属製ケース3は、電池素子2などを密封するためのケースであり、正極21が載置されるほぼ円形状の底板と、この底板と一体的にプレス成形された円筒状の側板とからなっている。この金属製ケース3は、通常、ステンレス製のケースであり、電池素子2、ガスケット5、ばね6、及び、金属製封口板4の側板を収納する。電池素子2、ガスケット5、ばね6、及び、金属製封口板4の側板を収納した金属製ケース3は、側板の上部が内側にかしめられることによって、電池素子2及びばね6を密封する。
また、金属製ケース3は、上記の底板が正極21と対面した状態で当接するので、正極21と電気的に接続され、第一電極端子(正極端子)となる。
【0068】
(6)金属製封口板
金属製封口板4は、通常、ステンレス製の封口板であり、ばね6と接触するほぼ円形状の上板と、この上板と一体的にプレス成形された円筒状の側板とからなっている。この側板は、先端部が外側に折り返されており、外側側板と内側側板とからなる二重円筒構造を有している。上述した、内側にかしめられた金属製ケース3の側板の上部は、ガスケット5を介して、二重円筒構造の外側側板の先端部と係合する。これにより、金属製封口板4は、金属製ケース3に強固に取り付けられ、金属製ケース3及び金属製封口板4は、電池素子2及びばね6を密封する。
また、金属製封口板4は、上記の上板が負極23と対面した状態で、ばね6と当接し、さらに、ガスケット5によって、金属製ケース3に対して絶縁されている。したがって、金属製封口板4は、負極23と電気的に接続され、第二電極端子(負極端子)となる。
【0069】
(7)ガスケット
ガスケット5は、絶縁性の樹脂からなり、金属製ケース3と金属製封口板4とを絶縁する。
また、ガスケット5は、ほぼ円筒状としてあり、金属製封口板4の外側側板と内側側板が嵌入される環状の溝が形成されている。このガスケット5は、円筒の内面側に電池素子2が嵌入され、環状の溝に金属製封口板4の外側側板と内側側板が嵌入され、さらに、金属製ケース3の側板に嵌入される。これにより、ガスケット5は、金属製ケース3と金属製封口板4の内部に、電池素子2とばね6を密封する。また、正極21、固体電解質層22及び負極23と金属製封口板4の側板とを絶縁し、さらに、金属製ケース3と金属製封口板4とを絶縁する。
【0070】
(8)ばね
本実施形態のばね6は、波型座金の一種であり、円環状の金属板を、複数の波型を有する形状にプレス加工した構造としてある。また、ばね6の材料は、導電性の金属であり、通常、ばね鋼などが用いられる。
このばね6は、負極23の集電体231と金属製封口板4との間に、収納されており、形成された波型の凸部が金属製封口板4と当接し、形成された波型の凹部が集電体231と当接している。これにより、集電体231と金属製封口板4は、電気的に接続され、また、正極21と金属製ケース3との電気的な接続を維持することができる。さらに、ばね6は、集電体231と負極23との接触面圧、負極23と固体電解質層22との接触面圧、及び、固体電解質層22と正極21との接触面圧を高めることができる。このように、電池素子2がばね6によって加圧されるので、コイン型リチウム二次電池1は、接触不良に起因する電流密度の低下を抑制することができる。
【0071】
ここで、ばね6によって、電池素子2に印加される圧力が、約0.1MPa以上であるとよい。このようにすると、コイン型リチウム二次電池1は、効果的に電流密度の低下を抑制することができる。
また、ばね6によって、電池素子に印加される圧力は、3MPa以上であることがより好ましい。さらに好ましくは、10MPa以上である。
また、本実施形態のばね6は、上述した構造としてあるが、この構造に限定されるものではない。つまり、導電性の弾性体の一例である。したがって、様々な形状のばね(たとえば、導電性の材料からなるばね座金など)を用いることができる。さらに、ばね6の代わりに、他の導電性の弾性体(たとえば、導電性塗料を塗布した弾性を有する樹脂板や、導電性及び弾性を有する樹脂からなるスペーサなど)を用いてもよい。
【0072】
また、本実施形態のばね6は、複数の凹部が、集電体231を下方に押圧している。
ここで、好ましくは、本実施形態のばね6は、集電体231をより均一に押圧することができるとよい。たとえば、図示してないが、円板にほぼ半球状の凸部と凹部を配設した構造とするとよい。このようにすると、ばね6は、集電体231と負極23との接触面圧、負極23と固体電解質層22との接触面圧、及び、固体電解質層22と正極21との接触面圧を、高めるとともに、各接触面においてほぼ均一な状態にすることができる。このようにすると、接触面圧のばらつきによって、十分な接触を得られず、電流密度が低下するといった不具合を回避でき、コイン型リチウム二次電池1の信頼性を向上させることができる。
【0073】
本願発明は、ラミネート型セルなどであってもよく、上記実施形態に限定されない。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例1
(製造例1−電解質層)
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7-330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
続いて、この反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0076】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0077】
(3)硫化物系固体電解質の製造
上記(2)で製造した硫化リチウムと五硫化二リン(アルドリッチ社製)を用いて、国際公開公報WO07/066539の実施例1と同様の方法で固体電解質の製造及び結晶化を行った。
具体的には、下記のように行った。
上記(2)で製造した硫化リチウム0.6508g(0.01417mol)と五硫化二リン(アルドリッチ社製)を1.3492g(0.00607mol)をよく混合した。そして、この混合した粉末と直径10mmのジルコニア製ボール10ケと遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)アルミナ製ポットに投入し完全密閉するとともにこのアルミナ製ポット内に窒素を充填し、窒素雰囲気にした。
そして、はじめの数分間は、遊星型ボールミルの回転を低速回転(85rpm)にして硫化リチウムと五硫化二リンを十分混合した。その後、徐々に遊星型ボールミルの回転数を上げ370rpmまで回転数を上げた。遊星型ボールミルの回転数を370rpmで20時間メカニカルミリングを行った。このメカニカルミリング処理をした白黄色の粉体をX線測定により評価した結果、ガラス化(硫化物ガラス)していることが確認できた。この硫化物ガラスのガラス転移温度をDSC(示差走査熱量測定)により測定したところ、220℃であった。
この硫化物ガラスを窒素雰囲気下、300℃で2時間加熱した。
得られた硫化物ガラスセラミックスについて、X線回折測定したところ、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
【0078】
得られた硫化物系固体電解質を、直径13mm(1.327cm)、100mgに形状を整えた。
【0079】
(製造例2−正極)
ポリアクリロニトリル粉末と硫黄粉末を1:5重量比で加え乳鉢で混合して出発原料とした。この原料を反応容器として用いるアルミナタンマン管(外径60mm、内径50mm、長さ180mm、アルミナSSA-S、ニッカトー製)に入れた。
【0080】
アルミナタンマン管の開口部は、ゴム製アダプターに固定したシリコーンゴム栓(15号)で蓋をし、シリコーンゴム栓がアルミナタンマン管の内部雰囲気に触れる部分には、フッ素樹脂製テープを巻いてシリコーンゴム栓が内部雰囲気に直接触れないようにした。
【0081】
シリコーンゴム栓には、3箇所穴をあけ、熱電対を入れたアルミナ保護管(外径4mm、内径2mm、長さ250mm、アルミナSSA-S、ニッカトー製)と2本のアルミナ管(外径6mm、内径4mm、長さ150mm、アルミナSSA-S、ニッカトー製)を取り付けた。アルミナ保護管に入れた熱電対は、その先端を試料に接触させ、試料温度の測定に用いた。2本のアルミナ管はそれぞれ不活性ガス導入管と内部ガスの排気管として用いるものであり、蓋の底面から3mm出るように配置した。ガス導入管には、アルゴンガス配管を接続し、ガス排気管には、過酸化水素水をくぐらせる配管を接続して、硫化水素ガスのトラップとした。
【0082】
図2に概略の構造を示す反応装置を用い、上記したアルミナタンマン管を電気炉(ルツボ炉、開口部80mm、タンマン管の加熱部分100mm)に入れ、アルミナタンマン管の内部にアルゴンを100cc/分の流量で10分間流した。アルミナタンマン管の内部の試料を毎分5℃の昇温速度で加熱して、100℃でアルゴンガスを止めた。200℃付近から内部でガスが発生し、360℃で加温を停止した。試料の温度は400℃まで上昇し、以後低下した。室温付近まで冷却後に生成物を取り出した。
【0083】
生成物中に残っている未反応の硫黄については、生成物を乳鉢で粉砕して生成物2gをガラスチューブオーブンに入れ、真空引きを行いながら250℃で3時間加熱することによって除去した。この操作により未反応の硫黄は蒸発し、硫黄変性ポリアクリロニトリルが得られた。
【0084】
得られた生成物について、X線回折測定を行なった。X線源には、CuKαを用いた。得られたX線回折パターンを図5に示す。回折角(2θ)が20°〜30°の範囲では、25°付近にピーク位置を有するブロードな回折ピークだけが観察された。
【0085】
また、この生成物について日本分光社製 RMP-320(励起波長λ=532nm、グレーチング:1800gr/mm、分解能:3cm-1)を用いてラマン分析を行なった。得られたラマンスペクトルを図6に示す。図6において、横軸はラマンシフト(cm-1)であり、縦軸は相対強度である。図6から判るように、生成物のラマン分析結果によれば、1328cm-1付近に主ピークが存在し、かつ、200cm-1〜1800cm-1の範囲で1558cm-1、946cm-1、479cm-1、379cm-1、317cm-1付近にピークが存在した。
【0086】
得られた硫黄変性ポリアクリロニトリルを活物質とし、これと製造例1で得られた固体電解質と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)と気相法炭素繊維(VGCF:vapor grown carbon fiber)を、硫黄変性ポリアクリロニトリル:固体電解質:AB:VGCF=50:50:3:2の重量比で乳鉢混合し、正極合材とした。
【0087】
(製造例3−負極)
厚さ0.5mmのLi−In合金箔を直径12mmの円形に打ち抜いたものに直径12mmのSUSメッシュを圧着したものを、負極とした。
【0088】
(製造例4−電池)
上記固体電解質90mgを、直径13.0mmのダイス鋼SKD11製の円筒金型に投入し、1MPaで加圧後、更に上記正極合材を6.096mg投入して1MPaで加圧し、更に直径12mmに打ち抜いたSUSメッシュを投入して、50MPaで加圧した。続いて、正極とは反対側から上記負極を投入し、三層構造とした後、10MPaで加圧して電池ペレットとした。
上記電池ペレットを、ほぼ図1に示す構成で2032型コインセルとし、実施例1のコイン型電池を作製した。すなわち、ガスケットにはPP製を用い、正極及び負極側のスペーサには0.5mmのSUS板を用いた。ばねは、皿ばねを適用した。この皿ばね及び0.5mmのスペーサ2枚を適用した場合のコイン電池内部の圧力は、10MPaであった。
なお、コイン電池内部の圧力は、感圧紙を用いることにより、固体電解質のほぼ中心部分を測定した。
【0089】
比較例1
正極活物質にLiNi0.8Co0.15Al0.05を用い、活物質:固体電解質=70:30重量比で正極合材を作製した。正極合材を9.153mg使用して正極を作製した。この正極を用い、負極にはInを使用し、上記製造例3と同じ方法で比較例1のコイン型電池を作製した。尚、正極にLiが含まれているため、負極にはLiが含まれていないInを使用した。
【0090】
図7は実施例1のコイン型電池の充放電曲線、図8は比較例1のコイン型電池の充放電曲線である。縦軸は電圧、横軸は活物質1g当たりの電気容量を示している。
【0091】
実施例1の試験は以下の条件で行った。
電圧範囲:3.0‐1.0V vs Li/Li
電流 :0.02C
試験温度:60℃
【0092】
比較例1の試験は以下の条件で行った。
電圧範囲:3.7‐1.8V vs In
電流 :0.03C
試験温度:60℃
【0093】
図8に示すように、比較例1の全固体リチウム二次電池は、サイクル数がすすむに従い電気容量が大幅に減少していることがわかる。
一方、図7に示すように、実施例1の全固体リチウム二次電池は、サイクル数がすすんでも電気容量の減少が、比較例に比べ顕著に小さいことがわかる。
この結果から、本発明の全固体リチウム二次電池は、電池性能の劣化が少なく長寿命であって、電気容量の大きい高性能の全固体リチウム二次電池であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車等の主電源に好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0095】
1 コイン型リチウム二次電池
2 電池素子
3 金属製ケース
4 金属製封口板
5 ガスケット
6 ばね
21 正極
211 集電体
22 固体電解質層
23 負極
231 集電体
232 金属平板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8