(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090897
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】フェノール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/54 20060101AFI20170227BHJP
C07C 39/04 20060101ALI20170227BHJP
C07C 39/06 20060101ALI20170227BHJP
C07C 39/07 20060101ALI20170227BHJP
C07C 43/23 20060101ALN20170227BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
C07C37/54
C07C39/04
C07C39/06
C07C39/07
!C07C43/23 A
!C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-179019(P2012-179019)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-37354(P2014-37354A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年7月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「天然多環芳香族からの構成単環芳香族類の単離回収基盤技術開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100081765
【弁理士】
【氏名又は名称】東平 正道
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓人
(72)【発明者】
【氏名】龍門 尚徳
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】多湖 輝興
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−129405(JP,A)
【文献】
特開2012−102297(JP,A)
【文献】
三和正宏 他,バイオマス廃液の有用化学物質への転換反応,化学工学会秋季大会研究発表講演要旨集,Vol.32,1999年 8月26日,page.303
【文献】
増田隆夫 他,鉄系触媒によるバイオマス由来廃液の分解反応,第86回触媒討論会 討論会A予稿集,2000年 8月28日,page.115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/54
C07C 39/04
C07C 39/06
C07C 39/07
C07B 61/00
C07C 43/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、酸化分解法、及びマイクロ波加熱法を含む群から選択される処理方法によってリグニン含有バイオマスを処理することにより得られるリグニン分解物を、触媒及び水を用いて、流通式反応器により下記条件の下で処理する工程を有し、
前記触媒が水酸化鉄、四酸化三鉄、及び三酸化二鉄の少なくともいずれか1つの鉄系触媒を主要構成成分とするフェノール類の製造方法。
条件1:水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/原料(g/h))が1〜20
条件2:反応器内の圧力が0.2〜30MPa
【請求項2】
条件1において、水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/原料(g/h))を2〜10に設定し、
条件2において、圧力を2〜23MPaに設定する請求項1に記載のフェノール類の製造方法。
【請求項3】
上記条件1,2に加えてさらに下記条件の下でリグニン分解物を処理する請求項1又は2に記載のフェノール類の製造方法。
条件3:反応器内の温度が300〜500℃
条件4:触媒量(g)/リグニン分解物の供給速度(g/h)が0.1〜10
【請求項4】
前記条件3において、前記反応器内の温度が350〜450℃に設定されることにより、フェノール及びクレゾールが製造される請求項3に記載のフェノール類の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が前記主要構成成分のほかに、アルミナ、シリカ、チタニア、及びマグネシアのうち少なくともいずれか1つの成分を含む請求項1〜4のいずれかに記載のフェノール類の製造方法。
【請求項6】
前記触媒が前記主要構成成分のほかに、ジルコニア及びセリアの少なくともいずれか1つの成分を含む請求項1〜5のいずれかに記載のフェノール類の製造方法。
【請求項7】
前記リグニン含有バイオマスが、セルロース系バイオマスを糖化する過程で得られる副生成物、及びパルプ製造過程で得られる副生成物から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載のフェノール類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン又はリグニンを含有する材料中のリグニンを分解して得られるリグニン分解物を出発物質として用いてフェノール類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりから、カーボンニュートラルなバイオマスを用いて製造したバイオエタノールが、新たな燃料として注目されている。これまでのバイオエタノールは主に、デンプンや糖など食料と競合する原料から製造されており、これら原料の食料向け供給量の減少や価格の高騰に繋がるなどの問題が指摘されていた。そこで現在は、食料と競合しないセルロース系バイオマスからエタノールを製造する技術への注目が高まっている。
【0003】
セルロース系バイオマスとして、例えば、パームヤシの樹幹及び空房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ヤトロファ種皮及び殻、木材チップなどが挙げられる。これらはいずれも糖に変換できるセルロースやヘミセルロースのほか、リグニンを含有している。
【0004】
リグニンは、上述した原料を、バイオエタノールの製造の前処理である糖化処理した段階で、セルロースやヘミセルロースと分離された固体の残渣に含まれる。この残渣は、そのまま燃料として利用することができる。しかし、リグニンを分解すると、フェノール誘導体などが得られることから、この残渣を燃料として使用するよりも、フェノール誘導体を原料としてさらに別の化学工業製品に展開する方が付加価値が一層高い。
そこで、リグニンを分解することによってリグニン分解物を得て、得られたリグニン分解物を出発物質として、さらに化学工業製品の原料となり得る化合物を製造する方法が開発されている。
一例として、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、2−ベンジルオキシフェノール、グアヤコール、アセトフェノン、1−フェニル−1−プロパノールなどの化合物を含むリグニン由来の物質において、前記化合物の2つの芳香族間のアルキルエーテル結合や、芳香環に結合するメトキシ基とカルボニル基とを、特定の触媒を用いて分解しフェノール類を製造する方法が開示されている(非特許文献1参照)。
また、リグニンを含有する材料を可溶化する反応と、可溶化したリグニン分解物が含まれる可溶化液の接触分解反応の2段階の反応を経て、リグニンからフェノールやクレゾールを製造する方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoshikawa et al. Journal of the Japan Petroleum Institute, 53, (3), 178-183 (2010)
【非特許文献2】吉川琢也ほか,2011年,第41回石油/石油化学討論会 要旨集,2E08
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述したような触媒に接触させる方法では、触媒に接触させるリグニン由来物質や、リグニン分解物の可溶化液には、非常に広い分子量分布のリグニンが含まれており、単独で液体のものもあれば、固体のものもある。
このように、非特許文献1,2に開示された方法では、比較的分子量の大きなリグニンは、触媒の目詰まりを起こし易く、触媒活性を低下させる。また、触媒層に達するまでの間の重合が促進され、コーク生成量が増加する。
このため、リグニンを含有する原料から、さらに化学工業製品の原料となり得る化合物を製造する方法には、さらなる改善の余地が残されていた。
そこで、本発明は、リグニンを含有する材料から、特定のフェノール類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、リグニンを含有する材料から得られるリグニン分解物を特定条件で処理することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るフェノール類の製造方法は、オルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、酸化分解法、及びマイクロ波加熱法を含む群から選択される処理方法によってリグニン含有バイオマスを処理することにより得られるリグニン分解物を、触媒及び水を用いて、流通式反応器により下記条件の下で処理する工程を有し
、触媒が水酸化鉄、四酸化三鉄、及び三酸化二鉄の少なくともいずれか1つの鉄系触媒を主要構成成分とする。
条件1:水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/原料(g/h))が1〜20
条件2:反応器内の圧力が0.2〜30MPa
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リグニンを含有する材料から特定のフェノール類を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例及び比較例で用いた回分式反応装置を説明する構成図である。
【
図2】実施例及び比較例で用いた流通式反応装置を説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フェノール類の製造方法]
本発明の実施形態に係るフェノール類の製造方法は、リグニンを含有する材料を分解して得られるリグニン分解物を、触媒及び水を用いて、流通式反応器により下記条件の下で処理する工程を有する。
条件1:水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/原料(g/h))が1〜20
条件2:反応器内の圧力が0.2〜30MPa
【0012】
また、本実施形態に係るフェノール類の製造方法では、上記条件1,2に加えてさらに下記条件の下でリグニン分解物を処理することが好ましい。
条件3:反応器内の温度が300〜500℃
条件4:触媒量(g)/リグニン分解物の供給速度(g/h)が0.1〜10
上記条件3において、反応器内の温度は、350〜450℃に設定されることが好ましい。これにより、フェノール及びクレゾールが製造される。
【0013】
<リグニン含有材料>
本発明の実施形態に係るフェノール類の製造方法において用いることのできるリグニンを含有する材料としては、例えば、リグニン含有バイオマス、リグニン含有樹脂等が挙げられる。なかでも、リグニン含有バイオマスが好ましい。リグニン含有バイオマスとしては、例えば、パームヤシの樹幹・空房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ヤトロファ種皮・殻、木材チップなどが挙げられる。これら材料のリグニン含量は、15〜40質量%程度である。
リグニン含有バイオマスとしては、上述したもののほか、セルロース系バイオマスを糖化する過程で得られる副生成物、及びパルプ製造過程で得られる副生成物から選ばれる少なくとも1種であってもよい。さらに、リグニン含有バイオマスとしては、上述したもののほか、セルロース系バイオマスを糖化する過程で得られる糖化残渣、及びパルプ製造過程で得られる黒液が挙げられる。セルロース系バイオマスを糖化する過程で、セルロース及びヘミセルロースを加水分解して糖を取り出した残りの残渣は、リグニンを主成分とする固体である。このため、この残渣をリグニン含有材料として用いることができる。
【0014】
(リグニン分解物の製造方法)
リグニン含有バイオマスから得られるリグニン分解物は、リグニン含有バイオマスをオルガノソルブ法、加圧熱水法、水蒸気爆砕法、アンモニア処理法、酸化分解法、及びマイクロ波加熱法を含む群から選択される処理方法により得られるものであることが好ましい。
オルガノソルブ法とは、有機溶媒を用いて、高温、高圧下でリグニン含有バイオマスを処理する方法である。
加圧熱水法とは、臨界点(374℃、22MPa)付近の亜臨界領域の高温、高圧状態の水中でリグニン含有バイオマスを処理する方法である。
水蒸気爆砕法とは、原料のリグニン含有バイオマスに水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することでリグニン含有バイオマスを爆砕する方法である。
アンモニア処理法とは、加熱、加圧されたアンモニア存在下で、リグニン含有バイオマスを処理する方法である。
酸化分解法とは、有機過酸化物、過酸化水素、酸素などを酸化剤として、リグニン含有バイオマスを酸化分解する方法である。
マイクロ波加熱法とは、マイクロ波と物質の相互作用による、物質の加熱を利用し、リグニン含有バイオマスを熱分解する方法である。
また、リグニン分解物を得る分解方法としては、このほかに、例えば、一般的な回分式反応器、半回分式反応器などを利用することができる。また、リグニンを含有する材料と、水と、アルコールとからなるスラリーをスクリュー又はポンプ等で押し出しながら反応させる方式も適用可能である。この方法は、水及びアルコールを含む溶媒中において、リグニンを含有する材料を下記条件の下で処理する分解工程を有する方法である。
条件A:該材料と該溶媒との質量比が1〜50質量%である
条件B:該溶媒における水とアルコールのモル比が1/1〜20/1である
【0015】
本発明では、水及びアルコールを含む溶媒を用いることにより、リグニンの分解反応により生成したカルボン酸と、アルコールとが反応し、エステルが生成される。生成されたエステルにより、反応性が高く重合しやすいカルボン酸が不活性化されるという効果が得られる。
【0016】
本発明の実施形態において、溶媒に用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどの直鎖アルコールや分岐アルコールが挙げられる。アルコールは、多価アルコールでもよい。溶媒に用いられる水としては、例えば、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。
【0017】
また、リグニンを含有する材料と溶媒(水とアルコールとを含む)の質量比は、1〜50質量%である。
【0018】
本願発明の実施形態に係るリグニン分解物の製造方法は、分解工程において、条件A及びBと併せて、さらに、下記の条件が設定されてもよい。
条件C:該溶媒の温度が150〜400℃である
条件D:処理時間が1分〜10時間である
【0019】
以上説明したリグニン分解物の製造方法により製造されるリグニン分解物は、例えば、以下の構造を有する化合物である。
【0021】
<触媒>
本発明の実施形態に係るフェノール類の製造方法において用いることのできる触媒は、水酸化鉄(FeOOH)、四酸化三鉄(Fe
3O
4)、及び三酸化二鉄(Fe
2O
3)の少なくともいずれか1つの鉄系触媒を主要構成成分とすることが好ましい。
本実施形態で用いる好適な鉄系触媒の具体例としては、例えば、下記の式(1)で表される触媒が挙げられる。
CeO
2(a)/ZrO
2(b)/Al
2O
3(c)/FeO
x ・・・・(1)
式(1)中、a、b、cは、それぞれ、触媒中のCe、Zr、AlがCeO
2、ZrO
2、Al
2O
3になったと仮定した場合の含有量[質量%]を表し、aは0〜15、bは2〜15、cは、3〜20の範囲の数値を示す。また、xは、酸化鉄化合物の酸素の組成(割合)を示す。a、b、cとしては、aが0〜6、bは4〜10、cは4〜10の範囲がより好ましい。
【0022】
触媒としては、上記主要構成成分のほかに、アルミナ、シリカ、チタニア、及びマグネシアのうち少なくともいずれか1つの副成分を含んでいてもよい。さらに、触媒は、主要構成成分及び副成分のほかに、ジルコニア及びセリアの少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。
このような触媒の具体例としては、FeOx−SiO
2−ZrO
2系触媒、FeOx−TiO
2−ZrO
2系触媒、FeOx−MgO−ZrO
2系触媒、FeOx−ZrO
2系触媒、FeOx−Al
2O
3−ZrO
2系触媒などが挙げられる。なかでも、FeOx−ZrO
2系触媒、FeOx−Al
2O
3−ZrO
2系触媒が好ましく、とりわけ、CeO−ZrO
2−Al
2O
3−FeO
xを用いることが好ましい。
【0023】
上記製造方法により製造される化合物としては、フェノール類、カテコール類などが挙げられる。
フェノール類としては、フェノール、クレゾールが挙げられる。その他フェノール類としては、クレゾールを除くアルキルフェノール類が挙げられる。アルキルフェノール類としては、アルキル基が炭素数2〜3の飽和又は不飽和炭化水素基であり、直鎖状及び分岐状のものを含む。また、フェノール類としてアルキルオキシフェノール類が挙げられる。具体的には、メトキシフェノール、エトキシフェノールが挙げられる。カテコール類としては、カテコール、アルキルカテコール類が挙げられる。
【0024】
<各条件>
流通式反応器における条件1の、水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/リグニン分解物(g/h))が1未満であると、コークの生成量が増加してフェノール類の収量が低下する。また、20を超えると、反応性が低下してフェノール類の収量が低下する。上記観点から、水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/リグニン分解物(g/h))は、2〜10であることが好ましい。より好ましくは、2〜7.5である。これにより、フェノール及びクレゾールの収率を高めることができる。
本発明の実施形態に係るフェノール類の製造方法において用いられる水としては、例えば、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。
条件2の、反応器内の圧力が0.2MPa未満であると触媒層に達するまでの間の重合が促進され、リグニン分解物による触媒の目詰まりが起こり易く、触媒作用が低下し、フェノール類の収量の低下を招く。30MPaを超えると、生成フェノール類の重合が促進され、フェノール類の収量の低下を招く。上記観点から、条件2の圧力は、1〜25MPaに設定されることが好ましい。条件2の圧力は、より好ましくは、2〜23MPaであり、さらに好ましくは、10〜20MPaである。この範囲であれば、フェノール及びクレゾールの収率を高めることができる。
条件3の、反応器内の温度が300℃未満であると反応性が低下し、500℃を超えるとリグニン分解物が重合し、コークの生成量が増加する。上記観点から、温度は、350〜450℃であることがより好ましい。
条件4の、触媒量(g)/リグニン分解物の供給速度(g/h)が0.1未満であると反応性が低下し、10を超えるとリグニン分解物が重合し、コークの生成量が増加する。上記観点から、触媒量(g)/リグニン分解物の供給速度(g/h)は、0.5〜5であることがより好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係るフェノール類の製造方法では、上記観点から、上記工程の条件1:水とリグニン分解物の供給量比(水(g/h)/原料(g/h))を2〜10に設定し、条件2:反応器内の圧力を2〜23MPaに設定し、条件3:反応器内の温度を350〜450℃に設定することにより、フェノール類のうち、フェノール及びクレゾールを製造することができる。
【0026】
上記製造方法により製造されたフェノールは、例えばフェノール樹脂やポリカーボネート等の原料に用いることができる。クレゾールは、医薬、消毒剤、殺菌剤等の原料に用いることができる。また、上記以外のアルキルフェノール類は、非イオン界面活性剤(アルキルフェノールエトキシレート)の原料、プラスチックの酸化防止剤の原料、塩化ビニールの安定剤の原料等に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例及び比較例]
<実施例1>
(触媒の調製)
硝酸鉄、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸セリウム、硝酸アルミニウムの水溶液を混合し、30分間撹拌した。触媒は、Fe、Zr、Ce、Alが、Fe
2O
3、ZrO
2、CeO
2、Al
2O
3になったと仮定した場合、ZrO
2が7.5質量%、CeO
2が2.5質量%、Al
2O
3が7.0質量%となるよう調製した。
約10質量%のアンモニア水をマイクロフィーダーで滴下し、pH7まで中和した。中和後、1時間撹拌した後、吸引濾過した。吸引濾過後、得られた固形物を100℃で24時間乾燥した。乾燥後に粉砕し、500℃、2時間空気焼成し、CeO
2(2.5)−ZrO
2(7.5)−Al
2O
3(7.0)−FeO
x触媒を得た。
(リグニン分解物の調製)
リグニン(脱アルカリリグニン、東京化成工業株式会社製)0.7g、イオン交換水10.4g、1−ブタノール(特級、和光純薬工業株式会社製)10.6gを、
図1に示す回分式反応装置に入れた。このとき、水/1−ブタノールのモル比は4/1であり、かつ溶媒の合計量は21gであった。回分式反応装置の反応器内を窒素でパージした後、350℃まで昇温し、2時間反応を行った。反応時間は、所定温度に達してからの経過時間とした。また、熱電対にて温度を測定した。反応終了後、回分式反応装置の反応器を冷却し、温度が室温付近まで下がった後、反応器の中味を全て取り出して濾過した。濾液を1−ブタノール相と水相とに分離した。1−ブタノール相には、リグニン分解物が含まれる。
【0028】
(流通式反応器によるリグニン分解物の分解処理)
続いて、
図2に示す流通式反応装置の反応器に上記調製した、CeO
2(2.5)−ZrO
2(7.5)−Al
2O
3(7.0)−FeO
x触媒を充填した。水とリグニン分解物が含まれた1−ブタノール相とを反応器内に供給し、下記条件で触媒による接触分解処理を実施した。
供給量比(水/リグニン分解物含有1−ブタノール相):2.5
反応器内圧:15.0MPa
反応器内温度:400℃
触媒量(g)/リグニン分解物の供給速度(g/h):0.5h
【0029】
(フェノール類の収率計算)
上記分解処理によって得られた成分におけるフェノール類の収率を下記式により計算した。
フェノール類の炭素収率(C−mol%)=
フェノール類中の炭素量(C−mol)÷リグニン中の炭素量(C−mol)×100
【0030】
<実施例2>
反応器内圧を2MPaとした以外は、実施例1と同一条件にて反応を行った。
<実施例3>
反応器内圧を5MPaとした以外は、実施例1と同一条件にて反応を行った。
<実施例4>
反応器内圧を23MPaとした以外は、実施例1と同一条件にて反応を行った。
【0031】
<実施例5>
供給量比(水/リグニン分解物含有1−ブタノール相)を5.0とした以外は、実施例1と同一条件にて反応を行った。
<実施例6>
供給量比(水/リグニン分解物含有1−ブタノール相)を7.5とした以外は、実施例1と同一条件にて反応を行った。
【0032】
<比較例1>
反応器内圧を0.1MPa(常圧)とした以外は、実施例1と同一条件にて反応を行った。
<参考例1>
参考例は、実施例1における流通式反応装置による触媒反応前のリグニン分解物である。
【0033】
[評価結果]
実施例及び比較例の方法によって得られたフェノール類の収率(C−mol%)を第1表に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
第1表に示すように、高圧(2〜23MPa)にすることで、フェノール、クレゾール及びその他アルキルフェノール類の収率が向上することがわかった。また、水とリグニン分解物の供給量比(水/リグニン分解物)を高くすることにより、フェノール及びクレゾールの収率(選択率)が向上することがわかった。