(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090933
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】複合超電導体及び複合超電導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/10 20060101AFI20170227BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
H01B12/10ZAA
H01B13/00 561D
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-532612(P2013-532612)
(86)(22)【出願日】2012年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2012072504
(87)【国際公開番号】WO2013035707
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-194403(P2011-194403)
(32)【優先日】2011年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】坪内 宏和
(72)【発明者】
【氏名】清水 仁司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】境 利郎
(72)【発明者】
【氏名】高畑 一也
(72)【発明者】
【氏名】田村 仁
(72)【発明者】
【氏名】三戸 利行
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公告第01576416(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置され、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部以外の部分における前記金属被覆部材との間には配置されない部分を有している補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有する複合超電導体の製造方法。
【請求項2】
前記構造体形成工程は、前記被接合部を始点として、前記接合工程における応力の印加方向の延長上に前記補強部材が位置し、前記超電導体が、前記補強部材の間に位置するように前記構造体を形成する工程である請求項1に記載の複合超電導体の製造方法。
【請求項3】
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程であって、前記被接合部を始点として、接合工程における応力の印加方向の延長上に前記補強部材と前記超電導体が存在し、前記補強部材の両端部が、前記金属被覆部材に形成された補強部材固定部に位置するように前記構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有する複合超電導体の製造方法。
【請求項4】
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、前記金属被覆部材の内部に配置された充填材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
前記接合工程の後に、前記接合された前記構造体を加熱すると共に、外側から前記金属被覆部材に圧力を印加する工程と、
を有する複合超電導体の製造方法。
【請求項5】
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、前記金属被覆部材の内部に配置された充填材と、を有し、前記金属被覆部材には、前記充填材の余剰分および前記金属被覆部材内部の気体の少なくとも一方を放出するための放出孔が形成されている構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
前記接合工程の後に、前記接合された前記構造体を加熱すると共に、外側から前記金属被覆部材に圧力を印加する工程と、
を有する複合超電導体の製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも1箇所の被接合部の接合を、摩擦攪拌接合法によって行う、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複合超電導体の製造方法。
【請求項7】
前記金属被覆部材が、純アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記超電導体が化合物超電導体である、
請求項6に記載の複合超電導体の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1箇所の被接合部を有する純アルミニウムまたはアルミニウム合金である金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された化合物超電導体である超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を、前記超電導体に引っ張り歪みを加えた状態で、摩擦攪拌接合法によって、接合する接合工程と、
を有する複合超電導体の製造方法。
【請求項9】
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置され、表面にメッキ加工が施された超電導素線を撚り合わせて成型加工された超電導成形撚線であって、前記超電導成形撚線の表面のメッキが部分的に除去されている超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有する複合超電導体の製造方法。
【請求項10】
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程であって、前記被接合部を始点として、接合工程における応力の印加方向の延長上に前記補強部材が位置し、前記超電導体が、前記補強部材の間に位置するように前記構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有し、
前記金属被覆部材の内側表面にメッキ加工がなされており、前記超電導体と前記金属被覆部材はメッキ部分を介して接している、複合超電導体の製造方法。
【請求項11】
超電導体と、
前記超電導体の外周を包囲し、少なくとも1箇所の接合部を有する金属被覆部材と、
前記接合部と前記超電導体との間に配置された補強部材であって、前記接合部以外の部分における前記金属被覆部材と前記超電導体との間には配置されない部分を有する補強部材と、
を有する複合超電導体。
【請求項12】
前記補強部材は前記金属被覆部材よりも、0.2%耐力が大きい,
請求項11に記載の複合超電導体。
【請求項13】
超電導体と、
前記超電導体の外周を包囲し、少なくとも1箇所の接合部を有する金属被覆部材と、
前記接合部と前記超電導体との間に配置された補強部材と、
を有し、
前記金属被覆部材に、前記補強部材を固定する補強部材固定部が形成されており、前記補強部材が前記補強部材固定部に固定されている複合超電導体。
【請求項14】
超電導体と、
前記超電導体の外周を包囲し、少なくとも1箇所の接合部を有する金属被覆部材と、
前記接合部と前記超電導体との間に配置された補強部材と、
を有し、
前記金属被覆部材と前記超電導体の間には、充填材が存在する複合超電導体。
【請求項15】
前記超電導体は、複数の超電導線が撚り合わされて形成された超電導成型撚線である請求項11〜請求項14のいずれか1項に記載の複合超電導体。
【請求項16】
前記超電導線は、芯線の外周に複数本の超電導素線が配置されて圧縮成型された圧縮成型超電導線である請求項15に記載の複合超電導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合超電導体及び複合超電導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、その超電導特性を維持するため、液化ヘリウム等の冷媒に浸漬したり、冷凍機等と組み合わせたりして、強制的な方法や間接的な方法により、冷却して使用されるのが一般的である。具体的には、アルミニウムの高い比熱、高い熱伝導度、調整しやすい電気伝導度、小さい比重、低い放射性等の特徴を生かし、該アルミニウムとNbTi等の合金超電導材料からなる超電導体と複合化した複合超電導体が実用化されている(例えば特開2000−164053号公報参照)。
【0003】
また、特開2001−267120号公報においては、これらの合金超電導材料が複合化されたアルミニウム被覆導体同士を接続して超電導コイルが製造するために、摩擦攪拌接合(FSW)による接続の適用が紹介されている。
【0004】
さらに、特開2007−214121号公報においては、高性能な複合超電導体として、臨界電流密度、臨界磁場、臨界温度といった超電導特性が優れた化合物超電導材料等を超電導体とし、その超電導体とアルミニウム等の金属部材との熱的、機械的、電気的な接触状態が制御された複合超電導体が開示されている。
【0005】
一般的に、化合物超電導体は、原材料に熱処理等の生成処理を施すことによって製造されるが、機械的歪みに弱い。従って、合金系超電導材料の超電導体に適用されてきた被覆押し出しや複合伸線等の製造方法を適用すると、塑性加工が加わることにより、部分的にその臨界電流特性が低下する問題が生じる。この問題を解決するための方法として、摩擦攪拌接合(FSW)が、化合物超電導体とアルミニウムを複合化するための接合方法として適用された。従来、2つの銅製の部材を組み合わせた金属部材により形成された中空部にNb
3Sn超電導体を配置し銅製部材の接合部をハンダ付けする方法(例えば、低温工学39巻9号 2004年 383〜390頁、安藤俊就 参照)があったが、この金属部材をアルミニウムとすることは困難であった。しかし、FSWの適用により、銅製部材に代えてアルミニウム製部材を金属部材とすることが可能となった。アルミニウムは、熱伝導度が大きく、比熱が高く、表面が酸化しやすいため、ハンダ付けの場合には、表面の酸化被膜を除去した状態で、大きな熱量を急速に与える必要があったが、FSWを適用することで、大きな熱量を与えることが回避できる。
一方、特開平09−069318号公報においては、2つの強化部材を組み合わせて形成された中空部にNbTi超電導体と安定化材を収容し、強度部材同士をアーク溶接又はビーム溶接する方法が開示されている。
しかし、ハンダ付けやロウ付け、アーク溶接(ティグ溶接やミグ溶接)やビーム溶接等の従来法では、溶接時に金属部材に与える熱量の調節が難しいため、接合部の寸法精度の低下や、溶接時の熱によって超電導体が変形したり変質したりする危険があった。FSWはその接合が溶融接合ではなく固相接合であるために、これらの従来技術上の問題を克服することができると期待されている。
【発明の開示】
【0006】
特開2007−214121号公報の効果を確認するために追試を行ったところ、複合導体の構造設計や使用する金属被覆部材の材料強度によっては、金属被覆部材の接合部位が座屈し、その際に金属被覆部材内部の化合物超電導体が機械的ダメージを受けてしまい、複合導体の通電性能が低下する場合があることが明らかになった。これは、特に長尺の複合超電導体に適用した場合に不具合の発生リスクが高いだけでなく、短尺の複合超電導体であっても量産製造歩留に悪影響を及ぼすことが懸念される。さらには、金属被覆部材と超電導体との間にできる空隙部位に、金属の充填材を配置する複合化工程において、充填材の温度が管理されていないために、その充填材の状態が固体化したり液体化したりする可能性がある。そのため、その充填材が金属被覆部材と超電導体の空隙部位に不均一に配置されたり、固体化した充填材が超電導体を圧迫したりすることによって、超電導体にダメージを与えるという問題があった。また、従来技術では、超電導体として歪感受性の高い化合物超電導体を使用している場合、冷却歪により超電導体の通電特性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、超電導体の外周を包囲する金属被覆部材の接合部にかかる応力の影響を緩和できる、超電導体と金属被覆部材との複合超電導体を提供し、また、超電導体の外周を包囲する金属被覆部材の接合部の接合による超電導体へのダメージを緩和できる超電導体と金属被覆部材との複合超電導体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の第1態様に係る複合超電導体の製造方法は、
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置され
、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部以外の部分における前記金属被覆部材との間には配置されない部分を有している補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有する。
【0009】
この構成によれば、接合による超電導体へのダメージを緩和できる。
【0010】
本発明の第2態様に係る複合超電導体の製造方法では、第1態様において、
前記構造体形成工程は、前記被接合部を始点として、前記接合工程における応力の印加方向の延長上に前記補強部材が位置し、前記超電導体が、前記補強部材の間に位置するように前記構造体を形成する工程である。
【0011】
本発明の第3態様に係る複合超電導体の製造方法では
、
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程であって、前記被接合部を始点として、
接合工程における応力の印加方向の延長上に前記補強部材と前記超電導体が存在し、前記補強部材の両端部が、前記金属被覆部材に形成された補強部材固定部に位置するように前記構造体を形成する
構造体形成工程
と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有する。
【0012】
本発明の第4態様に係る複合超電導体の製造方法では
、
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された
超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された
補強部材と、前記金属被覆部材の内部に配置された充填材と、を有する構造体を形成する
構造体形成工程
と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
前記接合工程の後に、前記接合された前記構造体を加熱すると共に、外側から前記金属被覆部材に圧力を印加する工程
と、
を有する。
【0013】
この構成によれば、充填後の充填材の不均一さを低減するとともに、複合超電導体内部の空隙を減らすことによって、複合超電導体自身の体積を減らすことができる。
【0014】
本発明の第5態様に係る複合超電導体の製造方法では
、
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、前記金属被覆部材の内部に配置された充填材と、を有し、前記金属被覆部材には、前記充填材の余剰分および前記金属被覆部材内部の気体の少なくとも一方を放出するための放出孔が形成されている
構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
前記接合工程の後に、前記接合された前記構造体を加熱すると共に、外側から前記金属被覆部材に圧力を印加する工程と、
を有する。
【0015】
この構成によれば、余剰な充填材や空気を放出することができ、充填率が向上する。
【0016】
本発明の第6態様に係る複合超電導体の製造方法では、第1態様〜第5態様のいずれかにおいて、前記少なくとも1箇所の被接合部の接合を、摩擦攪拌接合(FSW)法によって行う。
【0017】
摩擦攪拌接合(FSW)法は、先端に突起状のピンを備えた接合ツールを所定の回転数で回転させながら接合部に押し付け、これにより発生した摩擦熱で接合部の材料が軟化して塑性流動を起こし、接合部の材料が融点にまで加熱されることはなく、固体状態での塑性流動現象を利用して接合するものである。このように、摩擦攪拌接合(FSW)法による接合は、溶融接合でなく、固相接合なので、超電導体と金属被覆部材との熱的、機械的、電気的な接触状態制御された複合超電導体が得られる。また、金属被覆部材としてアルミニウムを使用できるようになる。さらに、接合時に金属被覆部材に与える熱量の調節も容易になり、接合部の寸法精度が向上し、接合時の熱によって超電導体が変形したり変質したりするのを抑制できるようになる。
【0018】
本発明の第7態様に係る複合超電導体の製造方法では、第6態様において、前記金属被覆部材が、純アルミニウムまたはアルミニウム合金であり、前記超電導体が化合物超電導体である。
【0019】
この構成によれば、摩擦攪拌接合(FSW)法による接合は、溶融接合ではなく、固相接合なので、接合時に金属被覆部材に与える熱量の調節も容易になる。そのため、機械的に弱い化合物超電導体と、純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属被覆部材とを、効果的に複合化できるようになる。
【0020】
本発明の第8態様に係る複合超電導体の製造方法では
、
少なくとも1箇所の被接合部を有する純アルミニウムまたはアルミニウム合金である金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された化合物超電導体である超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を、前記超電導体に引っ張り歪みを加えた状態で、
摩擦攪拌接合法によって、接合する接合工程と、
を有する。
【0021】
この構成によれば、歪み特性を有している超電導体(化合物超電導体)の場合に効果があり、歪みを開放して複合化でき、冷却歪による性能低下の抑制が可能となる。
【0022】
本発明の第9態様に係る複合超電導体の製造方法では
、
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置され、表面にメッキ加工が施された超電導素線を撚り合わせて成型加工された超電導成形撚線であって、前記超電導成形撚線の表面のメッキが部分的に除去されている
超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有する。
【0023】
この構成によれば、超電導体の表面が凸凹になり、金属被覆部材との滑りを抑制することができる。超電導体と金属被覆部材との滑りを低減することにより、超電導体と金属被覆部材との接触状態を良好にすることができる。
【0024】
本発明の第10態様に係る複合超電導体の製造方法では
、
少なくとも1箇所の被接合部を有する金属被覆部材と、前記金属被覆部材の内側に配置された超電導体と、前記超電導体と前記少なくとも1箇所の被接合部との間に配置された補強部材と、を有する構造体を形成する構造体形成工程であって、前記被接合部を始点として、接合工程における応力の印加方向の延長上に前記補強部材が位置し、前記超電導体が、前記補強部材の間に位置するように前記構造体を形成する構造体形成工程と、
その後、前記少なくとも1箇所の被接合部を接合する接合工程と、
を有し、
前記金属被覆部材の内側表面にメッキ加工がなされており、前記超電導体と前記金属被覆部材はメッキ部分を介して接している。
【0025】
この構成によれば、金属被覆部材と充填材との接合性を向上することができる。
【0026】
本発明の第11態様に係る複合超電導体は、
超電導体と
、
前記超電導体の外周を包囲し、少なくとも1箇所の接合部を有する金属被覆部材と、
前記接合部と前記超電導体との間に配置された補強部材
であって、前記接合部以外の部分における前記金属被覆部材と前記超電導体との間には配置されない部分を有する補強部材と、
を有する。
【0027】
この構成によれば、接合部と超電導体との間に補強部材が配置されているので、接合部にかかる応力の影響を緩和でき、当該応力に耐える効果がある。
【0028】
本発明の第12態様に係る複合超電導体では、第11態様において、前記補強部材は前記金属被覆部材よりも、0.2%耐力が大きい。
【0029】
本発明の第13態様に係る複合超電導体では
、
超電導体と、
前記超電導体の外周を包囲し、少なくとも1箇所の接合部を有する金属被覆部材と、
前記接合部と前記超電導体との間に配置された補強部材と、
を有し、
前記金属被覆部材に、前記補強部材を固定する補強部材固定部が形成されており、前記補強部材が前記補強部材固定部に固定されている。
【0030】
この構成によれば、補強部材を固定することができ、超電導体側に補強部材が動くことを抑制することができて、超電導体にダメージを与えずに複合超電導体の組み合わせができる等確実性を増すことができる。
【0031】
本発明の第14態様に係る複合超電導体では
、
超電導体と、
前記超電導体の外周を包囲し、少なくとも1箇所の接合部を有する金属被覆部材と、
前記接合部と前記超電導体との間に配置された補強部材と、
を有し、
前記金属被覆部材と前記超電導体の間には、充填材が存在する。
【0032】
この構成によれば、補強部材を入れることで大きくなった隙間を小さくするために、充填材が有効に寄与する。
【0033】
本発明の第15態様に係る複合超電導体では、第11態様〜第14態様のいずれかにおいて、前記超電導体は、複数の超電導線が撚り合わされて形成された超電導成型撚線である。
【0034】
本発明の第16態様に係る複合超電導体では、第15態様において、前記超電導線は、芯線の外周に複数本の超電導素線が配置されて圧縮成型された圧縮成型超電導線である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施例1に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施例1に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1に係る複合超電導体の断面構造を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例2に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施例2に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施例2に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例2に係る複合超電導体の断面構造を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の実施例3に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の実施例3に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例3に係る複合超電導体の断面構造を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例3に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例4に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施例4に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図13】
図13は、比較例に係る複合超電導体の断面構造を示す図である。
【
図14A】
図14Aは、本発明の実施例5に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図14B】
図14Bは、本発明の実施例5に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図14C】
図14Cは、本発明の実施例5に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図14D】
図14Dは、本発明の実施例5に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【
図14E】
図14Eは、本発明の実施例5に係る複合超電導体の製造工程を示す図である。
【0036】
本発明の実施の形態は、合金超電導材料(NbTi等)だけでなく、機械的歪みに弱い化合物超電導材料(Nb
3Sn、Nb
3Al、Bi系超電導材料、Y系超電導材料、MgB
2系超電導材料)等で構成される超電導体にも適用可能な、超電導体とアルミニウム等の金属被覆部材とを複合化した複合超電導体に関するものである。特に、通電特性が複合化前の通電特性よりも低下することが極めて少ない複合超電導体を提供する。
【0037】
本発明の実施の形態によると、特開2007−214121号公報で示された従来技術における、矩形断面溝型材と嵌合型材を用いた段付勘合方式や、突合せ部材のみの段無勘合方式においては、FSW接合時に接合部位が座屈し内部の超電導体にダメージを与える場合があったが、接合部位の直下(内側)に、接合を行う部位の材質よりも強度の高い材質からなる補強部材を配置(裏当て)し、FSW時の部材の座屈を防止することにより、超電導体にダメージを与えることが無いまたは抑制することができる。
【0038】
さらに、本発明の実施の形態によると、金属充填材の溶融温度以下の温度で、開放部位を有するアルミニウム型材と、超電導体と、充填材とを組み合わせた後、アルミニウム部材の開放部位をFSWにより接合する。超電導体を圧迫しない状態で、開放部位を有するアルミニウム部材と充填材と超電導体を組み合わせ、FSWによりアルミニウム部材の開放部位を接合してアルミニウム複合導体を得た後、その内部の充填材がアルミニウム複合材と超電導体との間にできている空隙部位を充填するように、充填材の融点温度以上の温度に保持した状態で、加熱圧縮を行う。さらに、アルミニウム複合部材に、過剰な充填材や空気を放出するための放出孔を設けておくことで、スムーズな充填が促進される。これらの効果により、本発明の実施の形態によると、アルミニウム複合材と超電導体の隙間に充填材が進入し、空隙部位を10%未満とすることができるので、アルミニウム複合部材と超電導体の(電気的かつ機械的)接触状態が良好となり、実用的なアルミニウム複合超電導体を得ることができる。
【0039】
さらに本発明の実施の形態によると、超電導素線を撚り合わせてなる超電導体を長手方向に引っ張ることによって、超電導素線に0.4%以下の引っ張り歪を加えた状態で組み合わせ、超電導素線にその引っ張り歪が加えられた状態でアルミニウム複合部材を接合し、さらにはその状態で加熱圧縮を行う。0.4%を超える引張り歪みを加えると化合物超電導体にダメージを与えてしまい性能低下が生じる可能性が高くなるので好ましくない。
これにより、超電導素線の冷却歪による性能低下を抑制することができる。なお、引っ張り歪みが0%またはそれ未満(圧縮歪み)の場合には、冷却歪による性能低下の抑制効果は得られない。また、超電導素線に引っ張り歪みの代わりに、0.1%〜1%の曲げ歪みを経験させておいても同様な効果を得ることができる。この製造方法は、超電導体と、アルミニウム部材と、融点以下の温度の充填材を連続的に供給し組み合わせる工程と、アルミニウム部材内部に超電導体と充填材と空隙部がある状態でアルミニウム開放部位をFSWにより接合する工程と、充填材の融点以上の温度で圧縮し空隙部位を10%未満とする工程を介して製造しているので、実用的な複合超電導体の安定した長尺製造や量産製造が可能となる。
【0040】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る超電導線材の製造方法について具体的に説明する。なお、図中、同一又は対応する機能を有する部材(構成要素)には同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0041】
以下、本発明の実施の形態のうち、複合超電導体における最良の形態の例を上げて説明する。
【0042】
まず、
図4Aに示すように、断面が矩形のアルミニウム合金からなる溝型形材21の大溝23に、Crメッキを施した未反応Nb
3Sn超電導線を複数本撚り合わせて矩形状に成型し、その成形撚線の表面の一部のメッキをヤスリで擦って除去した後、Nb
3Sn生成熱処理を施した超電導撚線(超電導体)30を配置する。さらに、SUS304からなる補強部材40の片端部を超電導体30の両脇、かつ、アルミニウム合金からなる溝型形材21の小溝25に配置し、さらに、超電導体30に接するようにテープ状の充填材70,71を配置した後、アルミニウム合金からなる溝型形材22の大溝24を嵌合させ、かつ、補強部材40のもう片側の端部を溝型形材22の小溝26に配置し、
図4Bに示すように、溝型形材21および溝型形材22からなる金属被覆部材20の両側面に現れる2箇所の継ぎ目52に、先端にピン(図示せず)を有する接合ツール60を所定の回転数で回転させながら押し付け、FSWで接合した。すなわち、
図10に示す工程のとおり、接続部を有する金属被覆部材20(溝型形材21および溝型形材22)の内部に超電導体30を配置する工程(A)と、接続部と超電導体30の間に補強部材40を配置する工程(B)と、FSW工程(工程(C))とを行った。
【0043】
この際、
図10に示す工程のとおり、金属被覆部材20の内部に超電導体30を配置する工程(A)と、接合部と超電導体30の間に補強部材40を配置する工程(B)と、金属被覆部材同士(溝型形材21および溝型形材22)の接合部が補強部材40と接するように金属被覆部材20をFSWにより接合する工程(C)とを、超電導体30に0.4%以下の範囲内で引っ張り歪を印加した状態で行った。
【0044】
また、上記工程(C)よりも前に、充填材70,71を金属被覆部材20の内部に配置する工程(D)を行い、また、工程(C)の後に、加熱圧縮によって充填材70,71を超電導体30と金属被覆部材20の間に充填する工程(E)を行うことで、
図4A、
図4B、
図5に示す複合超電導体10を製造した。
【0045】
上記は、本発明の実施の形態のうち、複合超電導体における最良の形態の例であるが、本発明の実施の形態はこれに限られるわけではなく、以下のような形態を適用することができる。
【0046】
上記最良の形態では、超電導体30はNb
3Sn超電導素線が18本撚り合わされた超電導成型撚線を使用したが、超電導体30はこれに限られるわけではなく、大容量化を目的に、芯線の外周に複数本の超電導素線を配置し圧縮成型することで形成された圧縮成型超電導線を、任意の本数撚り合わせて、更に圧縮成型することで形成された超電導成型撚線を使用してもよい。圧縮成型超電導線を用いることで、複合超電導体10内での超電導素線の占積率を更に向上させることができ、充填材70,71の占積率を更に低下させることができる。
これにより、複合超電導体10の電流密度が高くなり、かつ、複合超電導体10を構成する超電導体30中の超電導素線の動きも抑制されるので、複合超電導体10の通電安定性が向上する。また、複合超電導体10内の充填材の量を低減することができるため、複合超電導体10の接合等における長手方向の製造安定性が良好な複合超電導体10を得ることができる。
【0047】
超電導体30に圧縮成型超電導線を適用する際、圧縮成型超電導線の芯線としては銅、銅合金、ステンレス鋼等を用いることができる。
特に、超電導体30が高圧縮率の超電導成型撚線の場合には、芯線の径方向における強度が超電導素線の径方向における強度よりも低いことが望ましく、例えば、無酸素銅からなる銅線又は表面が無酸素銅であるCuNb合金複合線や、表面が無酸素銅であるCuNi合金複合線を芯線に用いることが適している。超電導素線よりも強度が低い芯線を用いることで、芯線が成型時に選択的に変形し、超電導素線のダメージを小さくすることができる。また、このような場合には、芯線を撚線構造とすることで、更に芯線が成型時に選択的に変形しやすくなる。
【0048】
一方、超電導成型撚線の製造工程や巻線工程において、曲げ歪や引張り歪などによる大きい応力が超電導成型撚線に印加される場合には、芯線の強度が超電導素線よりも高いことが望ましく、例えば、CuNb合金やステンレス鋼からなる芯線を用いることが適している。超電導素線よりも強度が高い芯線を用いることで、超電導成型撚線の製造工程や巻線工程において、印加される大きい応力に対する強度メンバーとして芯線が機能し、超電導素線のダメージを小さくすることができる。この効果は、Nb
3Sn生成熱処理済みの超電導成型撚線を適用した場合においても得ることができる。
また、大容量化を目的とした別の形態として、任意の撚り本数からなる平角成形超電導撚線を奇数本転位させながら集合させた転位導体であっても良い。
【0049】
また、ここでは、超電導体30と面する金属被覆部材である溝型形材21および22の内側表面に、メッキ加工を施していないが、NiメッキやSnメッキ等を施すと充填材の材質によっては接合性が良くなるので望ましい。さらには、超電導素線に施すメッキはNb
3Sn素線の場合はCrメッキを施すのが一般的であるが、メッキの材質はその限りではない。
【0050】
Nb
3Sn超電導線等の化合物超電導線はCuNb合金等の強化材と複合化した高強度型の線材を用いることもできる。充填材はテープ状のものを挿入しても良いし、予めハンダ等の充填材で平角成形超電導撚線を含浸してあっても良い。充填材70,71は、超電導体30と金属被覆部材20の接触状態(機械的、熱的、電気的)を良くするのが目的であるから、超電導体30の性能が低下しない温度かつ金属被覆部材20の強度を低下しない温度で溶融する、低融点金属であることが望ましい。
【0051】
接合される金属被覆部材20は、同種のアルミニウム合金である必要は無く、強度の違うアルミニウム合金や、銅やアルミニウム合金等の異種の金属部材を用いてもよい。
【0052】
上記最良の形態では、補強部材40は、SUS304を使用したが、SUS304である必要は無く、金属被覆部材20よりも0.2%耐力が大きければ、Cu合金や、溝型形材よりも調質の異なる同種のアルミニウム合金であってもよい。例えば、同一のアルミニウム合金金属であっても、調質の違い(例えば6061−T4処理とT6処理)によって2割以上の強度差を得ることができる。また、補強部材40の強度や形状は複合超電導体10の用途に応じて選択するのが好ましい。FSWによる接合の場合には、FSWによる接合部位の強度変化や、複合後の複合超電導体10全体の強度分布を考慮することが望ましい。補強部材40の強度や形状を適宜選択することで、複合超電導体10をコイル化した際の巻線性や通電時の機械的安定性を向上することができる。
【0053】
加熱圧縮方法は、後で詳述するが、
図6A、
図6Bの摩擦加熱による方法や、
図11Aに示す加熱圧縮ローラー84による方法、
図11Bに示す加熱した圧縮用ダイス85による方法などが適用できるが、これらを複合化した方法なども適用できる。また、FSW接合部位は、複合部材において2箇所対称な位置を接合する例を示したが、製品の要求特性に応じて非対称とすることもできる。
【0054】
一方、超電導体30の外周に凹凸を形成したり、金属被覆部材12,20の超電導体30を内包する側の面に、凹凸を形成したりすることは、超電導体30と金属被覆部材12,20の接触状態(機械的、熱的、電気的)が良くなるので望ましい。
さらには、圧縮充填工程での圧縮量に応じて、充填材70,71の量を調整し、充填材70,71の挿入スペースを金属被覆部材20に設けることが望ましい。また、圧縮が健全に行われるために、金属被覆部材20に変形のきっかけとなる起点部位を予め設けておくことが望ましい。
なお、本実施形態では、充填材70,71は接合工程(工程C)の前に金属被覆部材20の内部に配置されているが、これに限らず、接合工程(工程C)後に充填材70,71を金属被覆部材20の内部に導入してもよい。また、充填材70,71を接合工程(工程C)の前に金属被覆部材20の内部に配置し、更に、接合工程(工程C)の後に、新たな充填材を金属被覆部材20の内部に補充してもよい。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明のいくつかの具体的な実施例を示し、本発明についてより詳細に説明する。
【0056】
(実施例1)
図1A、
図1B、
図2、
図3を参照して、断面が矩形状の複合超電導体10を説明する。まず、超電導体30について説明する。直径1mm、銅比1、ブロンズ比2.3、フィラメント径3.7μm、ツイストピッチ25mmの反応熱処理前のNb
3Sn超電導素線をブロンズ法により製作し、素線表面にCrメッキ加工を施した後、該CrメッキNb
3Sn超電導素線18本を撚り合わせて平角成形加工を施し、その後、650℃×96hrのNb
3Sn反応熱処理をアルゴン雰囲気中で行って、幅9.2mm×厚さ1.8mm、撚りピッチ94mmの反応熱処理済みのNb
3Sn平角成形撚線を製作した。
次に、金属被覆部材12について説明する。幅17mm×厚さ5mmのアルミニウムA6061−T6合金の中央に、幅11mm×深さ3.5mmの幅広溝15の溝加工を施した断面が矩形のチャンネル材11と、幅広溝15に嵌合する幅11mm×厚さ1.5mmのアルミニウムA6061−T6合金で製作した嵌合形材13で、金属被覆部材12を構成した。
次に、補強部材40について説明する。厚み0.75mm、幅2mmのSUS304の平角線を補強部材40として、超電導撚線からなる超電導体30の幅方向両端部に1本ずつ配置した。この時、幅広溝15の幅は、配置された補強部材40,40の幅(0.75mm×2)分を除いた9.5mm相当となる。
ここで、複合超電導体10を構成する超電導体30、チャンネル材11、嵌合形材13、補強部材40を次のように配置し、接合前の構造体を形成した。チャンネル材11に形成された幅広溝15の幅方向の両端部に補強部材40を、補強部材40の間に超電導体30を配置し、補強部材40と超電導体30が収容された幅広溝15の高さ(厚み)方向の開空間に嵌合形材13を配置した。
次に、FSW接合について説明する。上記の反応熱処理済みのNb
3Sn平角成形撚線からなる超電導体30を相当幅9.5mm×深さ3.5mmの溝15に挿入した後、その成型撚線の両脇に補強部材4を配置し、幅11mm×厚み1.5mmの嵌合形材13を溝15に嵌合させ、アルミニウムチャンネル材11と嵌合形材13の2箇所の継ぎ目51を、それぞれFSWによって接合した。
FSW接合においては、先端にピン(図示せず)を有するFSWの鋼製の回転工具60を嵌合形材13に押し当てることにより、間接的に反応熱処理済みのNb
3Sn平角成形撚線からなる超電導体30の幅広面に対して略垂直(図中P1方向)に面圧がかかるように接合を行った。なお、回転数:2500rpm、接合速度500mm/分で、工具60を水平移動させる条件を採用した。このようにして、実施例1に係る幅17mm×厚さ5mmの複合超電導体10を得た。
ここで、金属被覆部材12中の超電導体30と補強部材40は、接合の際の応力(面圧)の印加方向を考慮して配置した。補強部材40は継ぎ目51(被接合部)を始点として印加された応力のP1方向の延長上に位置し、超電導体30はP1方向の延長上に位置していない。このような配置により、補強部材40は、嵌合形材13に印加されるP1方向の応力を、嵌合形材13の幅方向の両端部において保持しており、嵌合形材13が超電導体30の収容部分に落ち込むことを抑制している。
【0057】
(実施例2)
図3、
図4A、
図4B、
図5を参照して、断面が矩形状の複合超電導体の別の実施例を説明する。
超電導体30は、上記実施例1と同じものを使用した。
金属被覆部材20は、溝型形材21および溝型形材22で構成した。
断面が矩形の溝型形材21の大溝23に、超電導体30を配置し(
図3、工程A)、さらに、厚さ0.5mm、幅2.5mmの補強部材40の片端部を超電導体30の両脇、かつ、溝型形材21の小溝25に配置し(
図3、工程B)、さらに、超電導体30の上側と下側に、厚さ0.2mm、幅8.5mmのテープ状のインジウムからなる充填材70、71を配置した後(
図3、工程D)、溝型形材22の大溝24を嵌合させ、かつ、厚さ0.5mm、幅2.5mmの補強部材40のもう片側の端部を溝型形材22の小溝26に配置し、両側面に現れる2箇所の継ぎ目52をFSWで接合した(
図3、工程C)。
溝型形材21、22は、A6061−T6合金を用いた。補強部材40はSUS304を用いた。接合はFSWにて行い、先端にピン(図示せず)を有するFSWの鋼製の回転工具60を、嵌合形材21、22の側面の2箇所の継ぎ目52に押し当てることにより、反応熱処理済みのNb
3Sn平角成形撚線の幅広面に対して略平行方向から面圧がかかるようにした。なお、回転数:2500rpm、接合速度500mm/分で、工具60を水平移動させる条件を採用した。このようにして、
図5に示す、実施例2に係る幅12.5mm×厚さ4mmの複合超電導体10を得た。
ここで、金属被覆部材12中の超電導体30と補強部材40は、接合の際の応力(面圧)の印加方向を考慮して配置した。補強部材40と超電導体30は継ぎ目52(被接合部)を始点として印加された応力のP2方向の延長上に位置し、補強部材40は金属被覆部材12の小溝25(補強部材固定部)に配置されている。このような配置により、補強部材40は、嵌合形材21、22に印加されるP2方向の応力を、継ぎ目52(被接合部)の直下において受けており、かつ、金属被覆部材12の小溝25において、補強部材40が受けた応力を補強部材40の厚み方向での両端部で保持しているため、嵌合形材21、22が超電導体30の収容部分に落ち込むことを抑制している。
【0058】
(実施例3)
図6A、
図6B、
図7、
図8、
図11A、
図11Bを参照して、本実施例を説明する。
実施例2で示した複合超電導体10を、さらに高性能化するために、
図8に示す製造方法を適用して、充填率を向上させるために加熱圧縮82(
図7参照)を行った(
図8、工程E)。加熱圧縮する方法は、
図6A、
図6Bに示すように、ピンの無いFSWの回転工具60で押さえつけて摩擦熱で加熱し同時に圧縮する方法を採用した。この時、圧縮によって溝24、23内の空隙を少なくする際に、金属被覆部材20を構成する、溝型形材22のアルミニウム複合部材が座屈して超電導体30に対してダメージを加えないように、圧縮寸法および圧縮力を調整した。さらに、充填材70,71の融点よりも高く、金属被覆部材20を構成するアルミニウム複合部材の軟化温度より低い温度となるように摩擦熱の温度を調節した。この際、加熱により充填材70,71が溶け、金属被覆部材20と超電導体30の間の空間が充填材72によって満たされた状態となった。このようにして、
図7に示すような、実施例3に係る幅12.5mm×厚さ3.9mmの複合超電導体10を得た。
なお、加熱圧縮82は、FSWの回転工具60によるもの以外に、
図11Aに示す加熱圧縮ローラー84による方法、
図11Bに示す加熱した圧縮用ダイス85による方法でも同様に高性能化できることができた。これらいずれの加熱圧縮の場合でも、溝型形材22のアルミニウム複合部材が座屈して超電導体30に対してダメージを加えないように、圧縮寸法および圧縮力を調整した。さらに、充填材70の融点よりも高く、金属被覆部材20を構成するアルミニウム複合部材の軟化温度より低い温度となるように加熱温度を調節した。加熱圧縮方法は、複合超電導体の外周形状や内部構造に応じて最適な方法を採用すべきであるが、複数の方法を組み合わせても良い。また、金属被覆部材の表面にFSW施工時に発生したバリやキズ等の凹凸部がある場合には、その部位を除去してから、加熱圧縮を行うことが、内部の超電導体にダメージを与えないという観点から望ましい。さらには、
図6、
図11A、
図11Bで示したような工具と複合超電導体10が接触することによって、加熱と圧縮が同時に行われることが重要であるが、さらに厳密な温度管理をするために、加熱圧縮施工前の予備過熱や施工後の冷却を行うこともできる。
【0059】
(実施例4)
実施例3で示した複合超電導体10を、さらに高性能化するために、
図9、
図10に示す製造方法を適用して、超電導撚線からなる超電導体30に、0.02%の引っ張り歪を印加(
図9の矢印91参照)した状態で、補強部材40と組み合わせ(
図10、工程B)、充填材70、71と組み合わせ(
図10、工程D)、FSW(
図10、工程C)にて接合部位を接合し、その後、圧縮充填(
図10、工程E)を施工した。加熱圧縮する方法は、実施例3と同様に、ピンの無いFSWの回転工具で押さえつけて摩擦熱で加熱し同時に圧縮する方法を採用した。このようにして得た実施例4に係る複合超電導体10は、幅12.5mm×厚さ3.9mmであり、断面構造は
図7に示した実施例3と同様であった。
【0060】
(実施例5)
図14A〜
図14Eを参照して、超電導体30に圧縮成型超電導線を用いて形成された超電導成型撚線を適用した複合超電導体10を説明する。
円圧縮導体を1次撚線とした2重成型平角撚線(超電導成型撚線)を用いた複合超電導体について説明する。
図14Aに示すように、直径1.7mm、銅比1、ブロンズ比2.5、フィラメント径2.5μm、ツイストピッチ30mmの反応熱処理前のNb
3Sn超電導素線をブロンズ法により製作し、素線表面にCrメッキ加工を施した後、該CrメッキNb
3Sn超電導素線31を、直径1.7mmの銅線32の周囲に6本撚り合わせた1次撚線を施す。その後、
図14Bに示すように、断面が円形となるように圧縮加工を行い、直径4.8mmの1次撚線の円圧縮導体である圧縮成型超電導線33を得た。その後、
図14Cに示すように、この圧縮成型超電導線33を36本撚り合わせて平角形状に成型することにより2重成型撚線を製作し、650℃×96hrのNb
3Sn反応熱処理をアルゴン雰囲気中で行って、幅87mm、厚さ9.2mmの反応熱処理済みのNb
3Sn超電導線で構成される超電導成型撚線(超電導体30)を製作した。なお、
図14Dは、平角形状に成型された36本の超電導成型撚線30のうちの1本の平角成型超電導線34を示している。
次に、金属被覆部材について説明する。幅100mm×高さ12.5mmのアルミニウムA6061−T6合金の中央に、幅89mm×深さ5mmの幅広の大溝23、24をそれぞれ加工し、それらの側面両側に、幅1.1mm×深さ2.5mmの幅細の小溝25、26を加工した断面が矩形のアルミニウムチャンネル材21、22を製作した。FSW施工における裏当て材として機能する厚み1mm、幅14mmのSUS304平角線からなる補強材40を製作した。
2重成型平角撚線30を溝付アルミチャンネル材21、22の大溝23、24部に設置し、さらに、その両側の小溝25、26に1本ずつ補強材40を配置した。アルミニウムチャンネル材21、22同志の2箇所の継ぎ目52を、それぞれFSWによって接合した。FSW接合条件は、実施例2における施工条件と同様とした。
【0061】
(比較例)
図12A、
図12B、
図13を参照して、比較例の複合超電導体100を説明する。幅17mm×厚さ5mmのアルミニウム合金6061−T6の中央に、幅11mm×深さ1.5mmの幅広溝105と幅9.5mm×深さ2mmの幅狭溝104の2段の溝加工を施した断面が矩形のアルミニウムチャンネル材(溝付形材101)と、幅11mm×深さ1.5mmの幅広溝に嵌合するアルミニウム合金6061−T6からなる嵌合形材102を製作した。溝付形材101と嵌合形材102で金属被覆部材103を構成した。
反応熱処理済みのNb
3Sn平角成形撚線(実施例1で用いたものと同じ超電導体30)を幅9.5mm×深さ2mmの幅狭溝104に挿入した後、嵌合形材102を幅11mm×深さ1.5mmの幅広溝105に嵌合させ、チャンネル材101と嵌合形材102の2箇所の継ぎ目53を、それぞれFSWによって接合した。接合の際、FSWの回転工具60を嵌合形材102に押し当てることにより、反応熱処理済みのNb
3Sn平角成形撚線の幅広面に対して略垂直に面圧がかかるようにして、幅17mm×厚さ5mmの複合超電導体100を得た。尚、FSWの接合条件は、実施例1と同様とした。
【0062】
得られた複合超電導体100に対して、次の項目について評価を行った。それぞれの項目に関しては、次のような測定を行い、評価基準を設けた。
(1)導体全断面積当たりの臨界電流密度
Ic(臨界電流、8T、4.2Kでの1μV/cmの電界が発生したときの電流で定義)/複合超電導体の断面積、で求められる。
A:200A/mm
2以上 (評価点 3)
B:150A/mm
2以上200A/mm
2未満 (評価点 2)
C:100A/mm
2以上150A/mm
2未満 (評価点 1)
D:100A/mm
2A未満 (評価点 0)
(2)充填率
金属被覆部材20,103内部の容積に対する、超電導体30、補強部材40、充填材72等で構成される充填部材の体積比率で定義する。
A:95%以上 (評価点 3)
B:88%以上95%未満 (評価点 2)
C:78%以上88%未満 (評価点 1)
D:78%未満 (評価点 0)
(3)総合評価
導体全断面積当りの臨界電流密度と充填率の評価点の合計
A: 評価点 5以上
B: 評価点 3又は4
C: 評価点 1又は2
D: 評価点 0
【0063】
本発明による実施例1〜4の複合超電導体と比較例の超電導体の性能を比較した結果を表1に示す。
実施例1の複合超電導体では、臨界電流の低下は見られなかったが、従来技術を用いた比較例の複合超電導体では、臨界電流が1割程度低下した。
実施例2の複合超電導体においては、実施例1と同様に臨界電流の低下は殆ど無く、8Tの外部磁場下において9kA以上の通電が可能であった。導体電流全断面積当たりの臨界電流密度としては、実施例1の複合超電導体の約1.7倍であった。これは、超電導体が同じ場合、特性低下が無い限りは、複合化する金属被覆部材が小さい程、複合超電導体全断面積当りの電流密度が大きくなるためである。実施例2において複合化する金属被覆部材を小さくできたのは、本発明による効果であると考えられる。
実施例3の複合超電導体は、実施例2と比較すると、充填率および導体電流密度の向上が確認された。これは、加熱圧縮を施工しているため、金属被覆部材と超電導撚線との接合性が増大したものと考えられる。また、補強材があるので圧縮力の調整が容易であったため、加熱圧縮による超電導特性の低下は発生しなかったと考えられる。
実施例4の複合超電導体は、総合評価において最良であった。これは、実施例3の効果に、施工時に印加した引っ張り歪効果により、冷却においてもNb
3Sn超電導線に印加される圧縮歪が緩和されたため、通電特性の向上が見られたためであると考えられる。
結果として、本発明による複合超電導体は、超電導部位の充填率が高く、導体臨界電流密度が高いことから、総合的に従来技術よりも優れていると評価できる。
【0064】
【表1】
【0065】
一方、実施例5の複合超電導体は、実施例1〜4で用いた超電導体とは異なり、設計上の通電電流容量が100kA級の大容量導体である。試験装置の通電容量の都合上、圧縮成形後の1次撚線(圧縮成型超電導線33)から1本の素線(CrメッキNb
3Sn超電導素線31)を取り出して通電試験を行なった結果によれば、圧縮加工後に撚り戻した素線は、圧縮加工を施す前の素線の性能を保持していた。さらに、1次撚線を圧縮加工せずに2次撚線の加工のみ圧縮成形加工を施した超電導成型撚線と比較すると、充填率は5%程度向上したことから、この形態が複合超電導体の大容量化と高電流密度化のために有効であると考えられる。
【0066】
以上のように、本発明の実施の形態によれば、合金超電導材料(NbTi等)だけでなく、機械的歪みに弱い化合物超電導材料(Nb
3Sn、Nb
3Al、Bi系超電導材料、Y系超電導材料、MgB
2系超電導材料)等からなる超電導体とアルミニウム等の金属被覆部材とを複合化し、通電特性が複合化前の通電特性よりも低下することが極めて少ない実用的な複合超電導体を提供することができる。
【0067】
日本出願2011−194403の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0068】
種々の典型的な実施の形態を示しかつ説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。従って、本発明の範囲は、次の請求の範囲によってのみ限定されるものである。