(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095064
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20170306BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20170306BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
G02B6/44 316
G02B6/036
G02B6/02 461
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-175954(P2013-175954)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45704(P2015-45704A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】半澤 信智
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻川 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】
奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/124816(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/108467(WO,A1)
【文献】
特開2004−191748(JP,A)
【文献】
特開2001−174661(JP,A)
【文献】
特開平02−301701(JP,A)
【文献】
特開2007−179058(JP,A)
【文献】
特開2013−088818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02− 6/036
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、
前記コア部を包囲し、屈折率が前記コア部の屈折率より小さいクラッド部と、
前記クラッド部の外周端を包囲し、屈折率が前記クラッド部の屈折率より大きい被覆部と、
を備え、
前記被覆部は、
光ファイバの直線状態のとき、前記コア部の導波モードの実効屈折率よりも屈折率が小さく、
光ファイバの曲げ半径140mmの状態のとき、前記コア部の導波モードの実効屈折率と等しい屈折率となる転移点を有することを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記コア部を複数有することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記複数のコア部のうち、前記クラッド部の外周端に最も近い位置にあるコア部の中心から前記クラッド部の外周端までのクラッド厚が35μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩損失の小さい光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光損失低減のため、漏洩損失の小さい光ファイバが検討されている(例えば、非特許文献1〜2参照。)。
【0003】
また、伝送容量の拡大のために、複数の異なる波長の光を波長多重した光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズが問題となり、伝送の大容量化が制限されている。これらの制限を緩和するために、1本の光ファイバ中に複数のコアを有するマルチコアファイバが検討されている(例えば、非特許文献3〜7参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Katsuyama, M. Tokuda, N. Uchida, and M. Nakahara, “New method for measuring V−value of a single−mode optical fibre”,Electron. Lett., vol. 12, pp. 669−670, Dec. 1976.
【非特許文献2】「導波光学」(12章)、左貝 潤一著、共立出版、2004年
【非特許文献3】H. Takara et al., “1.01−Pb/s (12 SDM/222 WDM/456 Gb/s)Crosstalk−managed Transmission with 91.4−b/s/Hz Aggregate Spectral Efficiency”, in ECOC2012, paper Th.3.C.1 (2012)
【非特許文献4】J. Sakaguchi et al., “305 Tb/s Space Division Multiplexed Transmission Using Homogeneous 19−Core Fiber”, J. Lightwave Technol. vol.31, pp.554−562 (2013).
【非特許文献5】T. Hayashi et al., “Design and fabrication of ultra−low crosstalk and low−loss multi−core fiber”, Opt. Express vol.19, pp.16576−16592(2011).
【非特許文献6】K. Imamura et al., “Multi Core Fiber with Large Aeff of 140 μm2 and Low Crosstalk”, in ECOC2012, paper Mo.1.F.2
【非特許文献7】T. Hayashi et al., “Uncoupled multi−core fiber enhancing signal−to−noise ratio”, Opt. Express vol.20, pp.B94−B103 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
漏洩損失を小さくするために、コア部の中心からクラッド部の外周端までのクラッド厚を厚くすると、クラッド部の外径が大きくなるという問題がある。クラッド部の外径が大きくなると、光ファイバの曲げに対する機械的信頼性が劣化してしまう。
【0006】
マルチコア光ファイバでも、漏洩損失を小さくするために、クラッド部の外周端に最も近い位置にあるコア部の中心からクラッド部の外周端までのクラッド厚を厚くすると、クラッド部の外径が大きくなるという問題がある。クラッド部の外径が大きくなると、クラッド部の断面の単位面積当たりに存在するコア部の数が低下し、空間利用効率が低下してしまう。また、光ファイバの曲げに対する機械的信頼性が劣化するだけでなく、マルチコア光ファイバ同士の接続の際、接続損失を一定以下とするために許容される角度ずれが小さくなってしまう。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、クラッド部の外径を大きくすることなく、漏洩損失の小さい光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、クラッド部の外周端を包囲する被覆部の屈折率を所定の範囲内の光ファイバとした。
【0009】
具体的には、本発明は、
コア部と、
前記コア部を包囲し、屈折率が前記コア部の屈折率より小さいクラッド部と、
前記クラッド部の外周端を包囲し、屈折率が前記クラッド
部の屈折率より大
きい被覆部と、
を備え
、
前記被覆部は、
光ファイバの直線状態のとき、前記コア部の導波モードの実効屈折率よりも屈折率が小さく、
光ファイバの曲げ状態のとき、前記コア部の導波モードの実効屈折率と等しい屈折率となる転移点を有することを特徴とする光ファイバ
である。
ここで、前記曲げ状態は、光ファイバの曲げ半径140mmの状態としてもよい。
この構成によれば、クラッド部の外径を大きくすることなく、漏洩損失の小さい光ファイバを提供することが可能である。
【0010】
また、本発明の光ファイバは、前記コア部の中心から前記クラッド部の外周端までのクラッド厚が35μm以下としてもよい。
この構成によれば、漏洩損失が小さく、クラッド厚の薄い光ファイバを提供することが可能である
【0011】
また、本発明の光ファイバは、前記コア部を複数有してもよい。
この構成によれば、クラッド部の外径を大きくすることなく、漏洩損失が小さいマルチコア光ファイバを提供することが可能である。
【0012】
また、本発明の光ファイバは、前記複数のコア部のうち、前記クラッド部の外周端に最も近い位置にあるコア部の中心から前記クラッド部の外周端までのクラッド厚が35μm以下としてもよい。
この構成によれば、漏洩損失が小さく、クラッド厚の薄いマルチコア光ファイバを提供することが可能である
【発明の効果】
【0013】
本発明の光ファイバは、クラッド部の外径を大きくすることなく、漏洩損失を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の光ファイバの断面構造を示す概略図である。
【
図2】本発明のマルチコア光ファイバの断面構造を示す概略図である。
【
図3】波長1550nmにおける被覆部の屈折率に対する漏洩損失の変化を示した図である。
【
図4】Δcoat>Δneffの場合の転移点の変化に関する概念図である。
【
図5】Δcoat<Δneffの場合の転移点の変化に関する概念図である。
【
図6】波長1625nmにおける被覆部の屈折率に対する漏洩損失の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0016】
本発明の光ファイバの断面構造を示す概略を
図1に示す。
図1において、コア部11の周囲にクラッド部12が配置され、クラッド部12の周囲が被覆部13で覆われている。コア部11、クラッド部12及び被覆部13の屈折率は、それぞれ、n
1、n
2及びn
3である。クラッド厚は、コア部11の中心からクラッド部12の外周端までの距離CTで定義される。
【0017】
また、本発明のマルチコア光ファイバの断面構造を示す概略を
図2に示す。
図2において、複数のコア部11の周囲にクラッド部12が配置され、クラッド部12の周囲が被覆部13で覆われている。コア部11、クラッド部12及び被覆部13の屈折率は、それぞれ、n
1、n
2及びn
3である。クラッド厚は、コア部11のうち、クラッド部12の外周端に最も近い位置にあるコア部11の中心からクラッド部12の外周端までの距離CTで定義される。
【0018】
以下の説明は、
図1に示す光ファイバ及び
図2に示すマルチコア光ファイバに共通する。
【0019】
ここで、コア部11のクラッド部12に対する比屈折率差Δcore及び被覆部13のクラッド部12に対する比屈折率差Δcoatは以下の式であらわされる。
Δ
core=(n
12−n
22)/(2n
12) (1)
Δ
coat=(n
32−n
22)/(2n
32) (2)
上記式(1)、式(2)において、n
1>n
2であり、被覆部13の屈折率を1.5程度にすれば、コア部11の比屈折率差は高くても1%程度であることから、n
3>n
1>n
2の関係を実現できる。
【0020】
なお、n
1>n
2の条件は、コア部11及びクラッド部12の材料を純石英ガラス、またはゲルマニウム(Ge)やアルミニウム(Al)、リン(P)などの屈折率を増加させる不純物や、フッ素(F)、ボロン(B)などの屈折率を低減させる不純物を添加した石英ガラスを用いることで実現できる。
【0021】
被覆部13の比屈折率差に対する漏洩損失の関係を計算したものを
図3に示す。
図3では、コア部11の中心からクラッド部12の外周端までの距離であるクラッド厚CTを20〜40μmの範囲で変化させている。波長については1550nmであり、コア部11の半径は4.5μm、Δcoreは0.35%、漏洩損失は光ファイバの曲げ半径140mmのときの損失としている。この光ファイバの構造においては、コア部11の導波モードの実効屈折率neffは、クラッド部12に対する導波モードの比屈折率差Δneffが0.169%となる値である。
【0022】
ここで、曲げ半径140mmとした理由は、非特許文献1に記載の通り遮断波長の測定に曲げ半径140mmが用いられており、光ケーブル敷設時に光ファイバが受ける曲げの実効的な半径が140mmとなるからである。
【0023】
図3に示す計算結果から、漏洩損失は被覆部13の屈折率が大きい領域ではほとんど変化せず、ある値を閾値として漏洩損失が下がる。このコア部11においては、導波モードの実効屈折率をneffとし、クラッド部12に対する導波モードの比屈折率差は次式で表される。
Δ
neff=(n
neff2−n
22)/(2n
neff2) (3)
前述のように、比屈折率差Δneffが0.169%であったが、計算の結果、
図3の閾値がこのΔneffに対応することがわかった。つまり、被覆部13の屈折率n
3がコア部11の導波モードの実効屈折率neffより大きい領域では漏洩損失は変化しないが、被覆部13の屈折率n
3が導波モードの実効屈折率neffより小さくなると漏洩損失が低減されることがわかった。
【0024】
これは、
図4に示すようにΔcoat>Δneffの場合、転移点r
c(被覆の屈折率がneffを上回る位置)はΔcoatに依存しないため、曲げ損失の値は、クラッド厚CTが一定であればΔcoatに依存しないが、
図5に示すようにΔcoat<Δneffの場合、Δcoatが小さくなるほど転移点r
cは大きくなり、クラッド厚CTが一定であれば、Δcoatの値が小さいほど曲げ損失の値は小さくなるからである。非特許文献2に記載の通り、転移点を超えた位置の電界は振動特性を示し、放射成分となる。転移点がファイバ中心からクラッド部12の側に移動することで、転移点以降に存在する電界強度が小さくなり、放射する電界パワーの量が小さくなるためである。
【0025】
また、被覆部13の屈折率差n
3がクラッド部12の屈折率n
2より小さくなると、クラッド部12をコアとし、被覆部13をクラッドとした多数の伝搬モードが発生し、マルチモード化することから好ましくない。
【0026】
0%<Δcoat<Δneff、つまり屈折率で表現して、n
2<n
3<neffとすることで、クラッド厚CTの減少に伴う漏洩損失の増加を抑圧することができ、従来の光ファイバよりクラッド厚CTを低減可能である。マルチコア光ファイバの場合は、小さな外径のクラッド部12に多数のコア部11を配置することができ、空間利用効率を向上させることができる。
【0027】
同様に、波長1625nmにおける被覆の比屈折率差に対する漏洩損失の関係を計算したものを
図6に示す。波長以外の条件は、
図3と同様である。この光ファイバの構造においては、コア部11の導波モードの実効屈折率neffは、クラッド部12に対する導波モードの比屈折率差Δneffが0.159%となる値である。一般的には、波長が長くなると漏洩損失が増加するため、1550nmの時の計算結果より漏洩損失が大きくなっているが、Δneffを境に漏洩損失が下がる傾向は同じである。
【0028】
ITU−Tのファイバ勧告G.652において、光損失の上限が0.4dB/kmと規定されており、波長1625nmにおいて0.4dB/km以下であれば、一般的に用いられている1625nm以下の通信波長帯で漏洩損失を0.4dB/km以下とすることができる。被覆部13の屈折率を制限しない場合、つまりn
3>n
1>n
2の関係にある時にはCT>35μmとしなければならないが、被覆部13の屈折率を0%<Δcoat<Δneffとすることで、CT<35μmの領域においても漏洩損失を0.4dB/km以下とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、光通信システムの伝送媒体として適用することができるため、光通信システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
11:コア部
12:クラッド部
13:被覆部