特許第6103646号(P6103646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103646
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20170316BHJP
   G01N 11/02 20060101ALI20170316BHJP
   G01N 11/10 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   G01N11/00 A
   G01N11/02
   G01N11/10
【請求項の数】7
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-522982(P2013-522982)
(86)(22)【出願日】2012年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2012066723
(87)【国際公開番号】WO2013002380
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2011-145603(P2011-145603)
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】下山 勲
(72)【発明者】
【氏名】松本 潔
(72)【発明者】
【氏名】竹井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】野田 堅太郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 良介
(72)【発明者】
【氏名】神谷 哲
(72)【発明者】
【氏名】外山 義雄
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−311250(JP,A)
【文献】 中井亮仁, 田中悠輔, 橋本康史, 松本潔, 下山勲,超小型MEMS3軸触覚センサチップ,日本ロボット学会学術講演会予稿集(CD-ROM),日本,2009年 9月15日,Vol.27th,Page.ROMBUNNO.3E2-08
【文献】 Kentaro Noda, Kazunori Hoshino, Kiyoshi Matsumoto, Isao Shimoyama,A shear stress sensor for tactile sensing with the piezoresistive cantilever standing in elastic mat,Sensors and Actuators A: Physical,2006年 3月13日,Volume 127, Issue 2,Pages 295−301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00−13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の粘性を特定する分析装置であって、
流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、
前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と
前記弾性体層に覆われた前記センサ部と、前記流体から受ける圧力を計測する圧力センサとが設けられ、前記流体内にて移動させる本体と、
前記センサ部から得られた計測結果と、前記圧力センサから得られた圧力計測結果とから、前記流体の粘度係数を算出する粘度係数算出手段とを備え、
前記本体には、該本体を前記流体内で移動させる移動方向と直交する側面に前記弾性体層に覆われた前記センサ部が設けられ、前記本体を前記流体内で移動させる移動方向に垂直な一端面に前記圧力センサが設けられている
ことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
流体の粘性を特定する分析装置であって、
流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、
前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、
前記センサ部が複数設けられた本体とを備え、
各前記センサ部は、互いに直交するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の3軸方向の前記流体からのせん断応力を検知して前記流体の粘性を特定する前記計測結果を得る
ことを特徴とする分析装置。
【請求項3】
流体の粘性を特定する分析装置であって、
水平線に対し傾斜するように設置された流路と、
流路表面に前記流体が自重により流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、
前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、
前記流路表面を流れる前記流体の表面流速と、前記流路表面を流れる前記流体の該流路表面からの高さである流体高さとを取得し、前記センサ部からの前記計測結果と、前記表面流速と、前記流体高さとから、前記流体の粘度係数を算出する算出手段を備える
ことを特徴とする分析装置。
【請求項4】
流体の粘性を特定する分析装置であって、
流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、
前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、
前記弾性体層の流路表面との間に前記流体を配置させた状態で回動することで該流体を移動させる回転基板を備え、
前記センサ部は、前記回転基板が回動したときに前記弾性体層が変位することで可動した前記可動部の変化状態を基に、前記流体の粘性を特定する計測結果を得る
ことを特徴とする分析装置。
【請求項5】
流体の粘性を特定する分析装置であって、
流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、
前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、
前記流体が内部の中空領域を通過する管状の本体を備え、
前記本体の壁部には、前記弾性体層で覆われ、前記本体の壁部の上端部から下端部まで周方向に所定間隔を開けて配置された複数の前記センサ部が設けられており、
前記センサ部は、前記中空領域を前記流体が通過するときに前記弾性体層が変位することにより可動した前記可動部の変化状態を基に、前記流体の粘性を特定する計測結果を得る
ことを特徴とする分析装置。
【請求項6】
前記センサ部は、前記可動部の可動状態を抵抗値の変化として検知するピエゾ抵抗層を備え、前記計測結果が前記ピエゾ抵抗層から得られる抵抗値変化率である
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項記載の分析装置。
【請求項7】
前記センサ部から得られた前記抵抗値変化率を基に、前記流体から受けるせん断応力を算出するせん断応力算出手段を備える
ことを特徴とする請求項記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関し、例えば流動性食品等の流体の粘性を分析する分析装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
現在、流動性食品の粘度を計測する手法としては、レオメータと言われる回転式粘度計が用いられている。例えば、この回転式粘度計は、回転子の円錐状の底面を、粘度測定対象の流体に浸漬した後、回転子を回転させたときに底面が流体から受ける粘性抵抗力に基づいて流体の粘度を測定し得るようになされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−61333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、流動性食品等のような流体の粘度の測定は、嚥下能力の低下した高齢者が嚥下の容易な流動性食品を調理等する際にも重要となっており、高齢化社会に向けて様々な場所で流体の粘度を測定できることが望まれている。また、例えば、複数種類の流動性食品の粘性を比較する場合でも、各流体の粘度を分析するのに、回転子を回転させる回転式粘度計による粘度の分析手法を用いるだけでなく、その他にも新たな分析手法の提案が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来にない新規な分析手法を用いた分析装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、流体の粘性を特定する分析装置であって、流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、前記弾性体層に覆われた前記センサ部と、前記流体から受ける圧力を計測する圧力センサとが設けられ、前記流体内にて移動させる本体と、前記センサ部から得られた計測結果と、前記圧力センサから得られた圧力計測結果とから、前記流体の粘度係数を算出する粘度係数算出手段とを備え、前記本体には、該本体を前記流体内で移動させる移動方向と直交する側面に前記弾性体層に覆われた前記センサ部が設けられ、前記本体を前記流体内で移動させる移動方向に垂直な一端面に前記圧力センサが設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2は、流体の粘性を特定する分析装置であって、流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、前記センサ部が複数設けられた本体とを備え、各前記センサ部は、互いに直交するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の3軸方向の前記流体からのせん断応力を検知して前記流体の粘性を特定する前記計測結果を得ることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3は、流体の粘性を特定する分析装置であって、水平線に対し傾斜するように設置された流路と、流路表面に前記流体が自重により流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、前記流路表面を流れる前記流体の表面流速と、前記流路表面を流れる前記流体の該流路表面からの高さである流体高さとを取得し、前記センサ部からの前記計測結果と、前記表面流速と、前記流体高さとから、前記流体の粘度係数を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4は、流体の粘性を特定する分析装置であって、流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、前記弾性体層の流路表面との間に前記流体を配置させた状態で回動することで該流体を移動させる回転基板とを備え、前記センサ部は、前記回転基板が回動したときに前記弾性体層が変位することで可動した前記可動部の変化状態を基に、前記流体の粘性を特定する計測結果を得ることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5は、流体の粘性を特定する分析装置であって、流路表面に前記流体が流れることで、該流体からのせん断応力により変位する弾性体層と、前記弾性体層に覆われており、該弾性体層が変位することにより可動する可動部の変化状態を基に前記流体の粘性を特定する計測結果を得るセンサ部と、前記流体が内部の中空領域を通過する管状の本体とを備え、前記本体の壁部には、前記弾性体層で覆われ、前記本体の壁部の上端部から下端部まで周方向に所定間隔を開けて配置された複数の前記センサ部が設けられており、前記センサ部は、前記中空領域を前記流体が通過するときに前記弾性体層が変位することにより可動した前記可動部の変化状態を基に、前記流体の粘性を特定する計測結果を得ることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項6は、前記センサ部は、前記可動部の可動状態を抵抗値の変化として検知するピエゾ抵抗層を備え、前記計測結果が前記ピエゾ抵抗層から得られる抵抗値変化率であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項7は、前記センサ部から得られた前記抵抗値変化率を基に、前記流体から受けるせん断応力を算出するせん断応力算出手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来にない新規な分析手法を用いた分析装置を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施の形態による分析装置の全体構成を示す概略図である。
図2】せん断力センサの流路表面を流体が流れる際の様子を示す概略図である。
図3】流路表面を流れる流体の速度分布を示す概略図である。
図4】せん断力センサの詳細構成を示す概略図である。
図5】せん断力センサの製造方法の説明に供する概略図である。
図6】せん断力センサの製造方法の説明に供する概略図である。
図7】せん断力センサの製造方法の説明に供する概略図である。
図8】せん断力センサの製造方法の説明に供する概略図である。
図9】カンチレバー部の可動部を起立させるときの説明に供する概略図である。
図10】カンチレバー部の詳細構成を示す概略図である。
図11】せん断力センサの流路表面に流体が流れる前と後のセンサ部の変位の様子を示した概略図である。
図12】流体が流路表面を流れる際の抵抗値変化率の時間変化を示すグラフである。
図13】流体が流路表面を流れる際の様子を示す写真である。
図14】抵抗値変化率と流量との関係を示すグラフである。
図15】表面流速と流量との関係を示すグラフである。
図16】せん断応力と表面流速との関係を示すグラフである。
図17】算出した粘度係数とサンプル粘度との関係を示すグラフである。
図18】第2の実施の形態による分析装置の構成を示す概略図である。
図19】本体を動かした際に本体の周辺を流れる流体の様子を示す概略図である。
図20】せん断力センサ及び圧力センサ周辺で流体の流れる様子を示す概略図である。
図21】第3の実施の形態による分析装置を示す概略図である。
図22】本体を動かした際に本体の周辺面を流れる流体の様子を示す概略図である。
図23】せん断力センサにおけるセンサ群の構成を示す概略図である。
図24】第1センサ部、第2センサ部及び第3センサ部の詳細構成を示す概略図である。
図25】流体からy軸方向にせん断応力が与えられたときの第1センサ部、第2センサ部及び第3センサ部の様子を示す概略図である。
図26】流体からz軸方向に圧力が与えられたときの第1センサ部、第2センサ部及び第3センサ部の様子を示す概略図である。
図27】第3の実施の形態による分析装置を任意の方向に移動させるときの一例を示す概略図である。
図28】第4の実施の形態による分析装置の構成を示す概略図である。
図29】第4の実施の形態における変形例の分析装置の構成を示す概略図である。
図30】第5の実施の形態による分析装置の構成を示す概略図である。
図31】第6の実施の形態による分析装置の構成を示す概略図である。
図32】第7の実施の形態による分析装置の構成を示す概略図である。
図33図32の分析装置の詳細構成を示す断面図である。
図34】抵抗値変化率△R/Rと圧力Pの関係を説明するために、概略的に示した両持ち梁センサ部の側断面図である。
図35】分析装置を水内にて往復移動させたときのせん断応力と圧力とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0017】
1,35,41,55,61,70,80,90 分析装置
2,45,87,98a,98b 弾性体層
3 センサ部
7 情報処理装置(算出手段)
50a 第1センサ部(センサ部)
50b 第2センサ部(センサ部)
50c 第3センサ部(センサ部)
95a 片持ち梁センサ部(センサ部)
95b 両持ち梁センサ部(センサ部)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0019】
(1)第1の実施の形態
(1−1)分析装置の全体構成
【0020】
図1において、1は本発明による分析装置を示し、センサ部3が弾性体層2で覆われたせん断力センサ4を有した粘度センサ4aと、粘度特定対象となる流体の表面流速(後述する)及び流体高さ(後述する)を計測するための撮像装置5と、センサ部3からの出力信号を増幅する増幅器6と、撮像装置5及び増幅器6と電気的に接続された情報処理装置7とから構成されている。
【0021】
ここで、粘度センサ4aは、流路形成部9と基台10とから構成されており、流路形成部9にせん断力センサ4を備えている。流路形成部9は、水平線に対し傾斜角度θの傾きでせん断力センサ4の流路表面2aが傾斜するように基台10上に設置されており、当該流路表面2a上を流体が自重により流れ落ちるようになされている。なお、図1においては、せん断力センサ4の流路表面2aと平行な軸をx軸とし、流体が流路表面2aに沿ってx方向に流れることとなる。
【0022】
実際上、この流路形成部9には、例えばアクリル板からなる長方形状の板部12が設けられており、この板部12の上端部と両側部に沿って例えばアクリル板からなる壁部13a,13b,13cが設けられ、これら壁部13a,13b,13cで取り囲まれた長方形状の流路形成領域ER1が板部12上に形成されている。そして、流路形成部9には、この流路形成領域ER1にせん断力センサ4が設けられている。
【0023】
また、流路形成部9には、板部12の上端部に沿って設けられた壁部13aの中央に吐出口15が穿設されており、この吐出口15にチューブ16を介して流体供給手段17が接続されている。流路形成部9は、流体供給手段17により流体が注入されると、吐出口15からせん断力センサ4の弾性体層2の流路表面2a上に流体が吐出され得る。これにより弾性体層2には、壁部13aの吐出口15から吐出された流体が平面状の流路表面2aに沿って流れ落ちてゆき、センサ部3上の流路表面2aを通過し得るようになされている。
【0024】
せん断力センサ4は、流路形成部9の板部12上の所定位置に設けられた後述するセンサ部3と、板部12及びセンサ部3を覆うように流路形成領域ER1に形成された弾性体層2とから構成されている。弾性体層2は、柔軟性を有しており、外部に露出した流路表面2a上を流体が流れ、この際に生じる流体からのせん断応力(流路表面2aに平行なx方向に働く力)によって同じくx方向に弾性変形し得るようになされている。
【0025】
実際上、この実施の形態の場合、弾性体層2は、例えばPDMS(Polydimethylsiloxane;ポリジメチルシロキサン)等のシリコンゴムを主剤とし、このPDMSと硬化剤とからなる二液を所定の混合比率(例えば、20:1)で混合して柔軟性を調整しつつ硬化されており、流路表面2aを流れ落ちる流体からのせん断応力により、x方向に弾性変形し得るようになされている。また、図2に示すように、弾性体層2は、流体FLが流れ落ちる流路表面2aが平面状に形成され、流体FLが流路表面2a上を均一に流れ落ち、センサ部3上の流路表面2aを通過して流路形成部9の下端開口部まで流れるようになされている。
【0026】
弾性体層2は、流路表面2aに沿って流体FLが流れ落ちる際に生じる流体FLからのせん断応力により、流体FLが流れる方向(x方向)に向けて全体が移動し、これによりカンチレバー構造のセンサ部3の角度を変位させ、当該センサ部3に有するピエゾ抵抗層(後述する)の抵抗値Rを変化させ得るようになされている。このようにセンサ部3は、変位前のピエゾ抵抗層の抵抗値をRとしたとき、流路表面2aを流体が流れ落ちる際に、弾性体層2が変位することで与えられる負荷により変位し、これを抵抗値変化率△R/Rとして計測し得る。
【0027】
ここで、流体FLによりせん断力センサ4に対して与えられるせん断応力をτとし、粘度係数(ここでは粘度とも言う)をμとし、図3に示すように、流路表面2a上をx方向に流れる流体FLの表面の流速(以下、これを表面流速と呼ぶ)をUとし、x軸と直交するy軸に延びる流体FLの流路表面2aからの高さ(以下、これを流体高さと呼ぶ)をhとすると、次式の関係が成立する。
【0028】
【数1】
【0029】
従って、分析装置1では、センサ部3での抵抗値変化率△R/Rを基にせん断応力τを算出し、これとは別に流路表面2aで流れる流体FLの表面流速Uを測定し、さらにこれとは別に流路表面2aでの流体高さhを確定することで、情報処理装置7において粘度係数μを算出し得、この粘度係数μを基に流体FLがどの程度の粘性を有しているか否かを使用者に判断させることができる。なお、せん断応力τの算出は、「(1−2)センサ部の詳細構成」にて後述する。
【0030】
表面流速Uは、センサ部3を跨いだ計測距離(20[mm])間を、流体FLがどの程度時間を要して移動したかを基に、速度(表面流速)=計測距離/時間で算出する。実際上、分析装置1では、流体FLを壁部13b側から撮像装置5によって撮像し、撮像装置5から得られる撮像データを情報処理装置7にて解析して表面流速Uと流体高さhとを特定し得る。実際上、撮像装置5は、例えばカメラからなり、図2に示したように、流路表面2aの計測距離内を流れる流体FLが画角範囲内に納まるように、流体FLの側面側(x軸及びy軸と直交するz軸方向側)から流体FLを撮像するように調整されている。
【0031】
情報処理装置7は、撮像装置5から受け取った撮像データを基に、画角中において流体FLの気泡等の特徴点が、計測距離をどの程度時間をかけて移動したかを計測し、その計測結果と、予め設定された計測距離とから表面流速Uを算出し得るようになされている。
【0032】
また、表面流速Uを算出する際には、同じ粘性を有した流体FLであっても流路表面2aを流れる流量によって表面流速Uも変化するため、流路表面2aでの流体高さhも重要となる。そこで、撮像装置5は、流路表面2aを流れる流体FLを壁部13b側から撮像し、情報処理装置7によりその撮像データを解析することで流路表面2aからの流体FLの流体高さhを測定し得るようになされている。
【0033】
因みに、流体高さhの算出手法としては、どのような手法を用いてもよく、例えば予め設定した流体高さhとなるように流体供給手段17から流路表面2aに吐出する流体FLの流量を調整し、情報処理装置7にて流体高さhを定数として予め記憶させておくようにしてもよい。なお、この場合、撮像装置5は、表面流速Uのみを算出するために用いられ、流体FLの特徴点を上面側(y軸方向側)から撮像してもよい。
【0034】
このようにして、分析装置1は、情報処理装置7において、流体FLによるせん断応力τと、流体FLの表面流速Uと、流体FLの流体高さhとを基に、上述した数1の式から粘度係数μを算出し、当該粘度係数μを使用者に表示部等を用いて通知することで、使用者が流体FLの粘性を判断し得る。
【0035】
(1−2)センサ部の詳細構成
次に、せん断力センサ4におけるセンサ部3の詳細構成について説明する。図4に示すように、せん断力センサ4のセンサ部3は、流路形成部9の板部12に固着される基台部20を備え、この基台部20にL字状に折り曲げられたカンチレバー部21の一端が固定された構成を有する。
【0036】
カンチレバー部21は、一端に設けられ、基台部20に固定される基部21aと、基部21aに連接した一対のヒンジ部21bと、他端に設けられ、ヒンジ部21bを介在させて基部21aに連接した平板状の可動部21cとで構成されており、外力が加えられていないとき、屈曲したヒンジ部21bによって可動部21cが板部12に対しほぼ垂直に起立した状態に保持され得る。
【0037】
カンチレバー部21は、Si薄膜で形成されたL字状のSi上層23を有し、このSi上層23の表面に薄膜状のピエゾ抵抗層24が形成されており、基部21a及び可動部21cのピエゾ抵抗層24上にAu/Ni薄膜25,26が設けられている。なお、基台部20には、Si下層27が設けられており、Si下層27の所定位置にSiO2層28を介してカンチレバー部21の基部21aが設けられている。
【0038】
カンチレバー部21は、Si上層23及びピエゾ抵抗層24がnmオーダーの薄膜状に形成され、ンジ部21bが細長い長方形状に形成されていることから、弾性体層2から外力が加わると、この外力を可動部21cが受けとめ、屈曲部分のヒンジ部21bを中心に容易に傾倒し得、ヒンジ部21bのピエゾ抵抗層24がピエゾ素子として機能し得る。
【0039】
ここで、この実施の形態の場合、カンチレバー部21は、ヒンジ部21bを除いてAu/Ni薄膜25,26で覆われていることにより、ヒンジ部21bの変形のみを抵抗値として計測し得るようになされている。すなわち、このカンチレバー部21は、外力によってヒンジ部21bが変形すると、ヒンジ部21bの結晶格子に歪みが生じ、半導体のキャリアの量や移動度が変動して抵抗値が変化し得る。かくしてセンサ部3では、二脚構造のヒンジ部21bの端点の電極(Au/Ni薄膜25)間に電位差を与え、ヒンジ部21bの抵抗値変化率△R/Rを計測し、その計測結果からカンチレバー部21に働く力(流体からのせん断応力τ)を計測し得るようになされている。
【0040】
なお、このカンチレバー部21には、基部21aに設けたAu/Ni薄膜25に配線29が電気的に接続されているとともに、ヒンジ部21bでの抵抗値変化率△R/Rを計測するために当該配線29がホイーストンブリッジ回路を用いた増幅器6に電気的に接続されている。
【0041】
また、センサ部3は、板部12を被覆するポリパラキシレン(商品名パリレン)でなる厚さ1[μm]程度の保護膜30により被覆されており、この保護膜30によって、カンチレバー部21における可動部21cの直立状態が維持されているものの、弾性体層2が変位した際にはこれに応じて可動部21cが傾倒し得るように形成されている。
【0042】
(1−3)せん断力センサ及び粘度センサの製造方法
次に、上述したせん断力センサ4の製造方法について以下説明する。図5A及び図5Bに示すように、表面からSi上層23、SiO2層28及びSi下層27の順に積層されたSOI(Silicon On Insulator)基板32を用意する。なお、このSOI基板32をHF(フッ化水素)溶液中で洗浄し、SOI基板32の表面に形成されている自然酸化膜を除去する。
【0043】
その後、すぐにn型不純物試薬P-59230(OCD,東京応化)をSOI基板32の表面にスピンコートし、熱酸化炉を用いて当該SOI基板32を熱拡散し、不純物を100[nm]以下の厚さでドープして、図6A及び図6Bに示すように、Si上層23にピエゾ抵抗層24を形成する。次いで、SOI基板32のピエゾ抵抗層24表面にAu/Ni層をスパッタリングにより形成し、その後、所定の形状にパターニングして、このAu/Ni層をマスクとして用い、ピエゾ抵抗層24及びSi上層23をDRIE(Deep Reactive Ion Etching)にてエッチングを行う。これにより、図7A及び図7Bに示すように、SOI基板32は、基部21aとなる基部形成領域33aにAu/Ni薄膜25が形成されるとともに、ヒンジ部21bとなるヒンジ部形成領域33bにピエゾ抵抗層24が露出し、可動部21cとなる可動部領域33cにAu/Ni薄膜26が形成され得る。
【0044】
次に、基部形成領域33aを残して、ヒンジ部形成領域33b及び可動部領域33cの直下にあるSi下層27をDRIEによってエッチングし、さらにSiO2層28をHF(フッ酸)ガスによって除去することで、図8A及び図8Bに示すように、Si下層27の開口領域27aにカンチレバー部21のヒンジ部21b及び可動部21cが配置され、可動部21cを自由端とした状態を形成し得る。
【0045】
次いで、これとは別に、アクリル板を接着剤により貼り合わせて形成した流路形成部9を用意し、図9に示すように、この流路形成部9の板部12に接着剤を介して上述したセンサ部3を固定させた後、板部12の下方からy軸方向に磁場(本図中矢印B方向)を加え、磁場により、Au/Ni薄膜26を有した自由端である可動部21cをy軸方向に変位させ得る。これによりカンチレバー部21は、ヒンジ部21bが折り曲がり可動部21cが起立して、当該可動部21cの面部がx軸方向に対し垂直に配置された状態となる。なお、磁場は、ネオジム磁石(NE009,二六製作所)を用いて加える。
【0046】
この状態で、図4に示すように、CVD法により板部12及びセンサ部3上にパリレンからなる厚さ1[μm]の保護膜30を成膜し、可動部21cが起立した状態を保護膜30によって維持させ得る。次いで、センサ部3の基台部20に電極として設けたAu/Ni薄膜25に、増幅器6に接続されている配線29を接続させる。
【0047】
続いて、流路形成部9の壁部13a,13b,13cで囲まれた流路形成領域ER1(図1)に、センサ部3全体を覆い、流路表面2aが平面状の弾性体層2を形成する。具体的にここでは、弾性体層2となる弾性材料としてPolydimethyl siloxane(PDMS:(株)東レ・ダウコーニング製、SILPOT184)を使用する。この場合、先ずPDMSの主剤と硬化剤とを例えば重量比20:1の割合で混合し、弾性体層2となる弾性材料を作製する。なお、ここでは、せん断力センサ4での流体FLの粘度の計測精度を向上させるため、例えば主剤と硬化剤とを重量比10:1とした弾性部材よりも、ヤング率の低い重量比20:1の弾性部材を用いることが好ましい。
【0048】
次いで、主剤と硬化剤を混合した弾性材料たるPDMSを遠心式脱泡装置(あわとり錬太郎 ARE-250,シンキー)を用いて攪拌し、デシケータで脱泡作業を行った後、これを流路形成部9の壁部13a,13b,13cで囲まれた流路形成領域ER1に流し込み、当該流路形成部9を再度デシケータに入れて脱泡を行う。その後、約70[℃]に保ったオーブンにて40分間ベークし、弾性部材たるPDMSを硬化させて弾性体層2を形成することで、流路形成部9の流路形成領域ER1にせん断力センサ4を形成し得る。
【0049】
なお、この際、流路形成部9が傾いてしまうと、弾性体層2の流路表面2aが平面状とならず一様な流れが保障され難いことから、流路表面2aが傾かないよう3分毎に90度ずつ回転させながらベークすることが好ましい。最後に、弾性体層2の流路表面2aを水平線に対して所定の傾斜角度θに傾斜させた状態で流路形成部9を基台10に固定することで、粘度センサ4aを作製できる。
【0050】
(1−4)せん断力センサの抵抗値変化率とせん断応力との関係について
ここで、せん断力センサ4のセンサ部3で計測した抵抗値変化率△R/Rと、流体FLからのせん断応力τとの関係について説明する。図10Aに示すように、可動部21c及びヒンジ部21bの厚さは微小であることから、これら可動部21c及びヒンジ部21bの厚さをt[m]とし、図10Bに示すように、可動部21c及びヒンジ部21bの全長L1[m]、可動部21cの板長L[m]、可動部21cの全幅b[m]、1つのヒンジ部21bの脚幅w[m]、可動部21c(梁)の先端に負荷される力F[N]、可動部21c(梁)のヤング率E[Pa]、カンチレバー部21の圧電係数πLとした場合、カンチレバー部21の先端における変位νと、カンチレバー部21の抵抗値変化率△R/Rの関係は下記のようになる。但し、ここでは、カンチレバー部21の変形は、片持ち梁の1次モード変形に近似できるとし、その他の変形は無視できるものとする。
【0051】
【数2】
また、静定梁問題としてカンチレバー部21の変形を考えると、力Fにより発生するカンチレバー部21の先端での変位νは以下のようになる。
【0052】
【数3】
但し、Iは可動部21c(梁)の断面二次モーメントであり、以下の式より求められる。
【0053】
【数4】
【0054】
これら数3及び数4を用いたとき、上述した数2は以下の式のように、流体FLのせん断応力τによる荷重Fと抵抗値変化率△R/Rとの関係に表すことができる。
【0055】
【数5】
また、センサ部3の表面積S[m2]とすると、上記数5は下記のように表される。
【0056】
【数6】
【0057】
かくして、分析装置1では、カンチレバー部21の厚さt[m]、全長L1[m]、板長L[m]、全幅b[m]、脚幅w[m]、ヤング率E[Pa]、圧電係数πL、表面積S[m2]の各定数を情報処理装置7に予め記憶させておき、センサ部3において計測された抵抗値変化率△R/Rを、増幅器6を介して情報処理装置7に送出する。これにより情報処理装置7は、これらカンチレバー部21に関する各定数と、センサ部3にて計測した抵抗値変化率△R/Rとを基にせん断応力τを算出し得るようになされている。
【0058】
そして、情報処理装置7では、撮像装置5からの撮像データを基に測定した流路表面2aで流れる流体FLの表面流速Uと、特定した流路表面2aでの流体高さhと、上述したセンサ部3の抵抗値変化率△R/Rを基に得たせん断応力τとに基づいて、上述した数1の式から流体FLの粘度係数(粘度)μを算出することができ、これを表示部等の通知手段でユーザに通知することで、流体FLの粘性を分析させ得るようになされている。
【0059】
(1−5)動作及び効果
以上の構成において、せん断力センサ4では、ヒンジ部21bが変形することによりピエゾ抵抗層24の抵抗値が変化するセンサ部3が弾性体層2に覆われており、この弾性体層2の平面状の流路表面2aが所定の傾斜角度θで傾斜するように設けられている。
【0060】
また、このせん断力センサ4では、センサ部3に対して予め所定の入力電圧が印加され、この状態で、弾性体層2の流路表面2aに沿って上方から流体FLが流される。これにより、せん断力センサ4では、図11Aに示すように、流体FLが流路表面2aを流れる前に板部12に直立したセンサ部3のカンチレバー部21が、流路表面2aに流体FLが流れることで、図11Bに示すように、流体FLからのせん断応力τにより弾性体層2が流体FLの流れる方向(X方向)に変形し、この弾性体層2の変形がカンチレバー部21まで伝わり、直立していたカンチレバー部21が流体FLの流れる方向に傾倒する。
【0061】
ここで、弾性体層2は、PDMSの主剤と硬化剤とが所定の重量比の割合で混合させ低いヤング率とした弾性部材により形成されていることから、流体FLからのせん断応力τが仮に小さくても、加えられたせん断応力τの方向へ確実に変形でき、流体FLからのせん断応力τによりカンチレバー部21を傾倒させることができる。
【0062】
これにより分析装置1では、センサ部3のヒンジ部21bが変形することにより、抵抗値の変化を計測することができる。情報処理装置7では、センサ部3での抵抗値変化率△R/Rを基に、上述した数6を用いて流体FLからのせん断応力τを算出することができる。
【0063】
かくして、この分析装置1では、例えば複数種類の流体FLを比較するときには、これら流体FLを同じ流量で流すことで、センサ部3からの計測結果たるせん断応力τの相違を参考にして、使用者に対し流体FLの粘性の相違を比較させることができ、その結果、流体FLの粘度を分析させることができる。
【0064】
また、この分析装置1では、撮像装置5が流路表面2aを流れる流体FLを、側面側から撮像するようにしたことにより、所定の計測距離を流れる流体FLの様子を撮像できると同時に、流体FLが流路表面2aからどの程度の流体高さhにあるかを撮像できる。
【0065】
これにより、この分析装置1では、この撮像装置5からの撮像データを解析することにより流路表面2aを流れる流体FLの移動距離と、移動時間を特定し、これら移動距離及び移動時間から流体FLが流路表面2aを流れる際の表面流速Uを算出できる。
【0066】
さらに、この分析装置1では、流路表面2aを流れる流体FLを側面から撮像装置5で撮像していることで、これにより得られる撮像データを情報処理装置7にて解析して流路表面2aを流れる流体FLの流体高さhを特定することができる。
【0067】
これにより情報処理装置7では、せん断力センサ4から得られた流体FLの抵抗値変化率△R/Rと、撮像装置5から得られた撮像データを基に特定した流体FLの表面流速Uと、流体FLの流体高さhとを基に、上述した数1に基づいて流体FLの粘度係数(粘度)μを算出することができ、かくして粘度係数μを使用者に通知し、流体FLがどの程度の粘性を有しているかを認識させることができる。
【0068】
また、せん断力センサ4は、弾性体層2により覆われ、カンチレバー部21が外部に非露出状態になっていることにより、流体FL等の物質が直接接触してしまうことによる損傷を防止でき、壊れ難いせん断力センサ4を提供することができる。
【0069】
以上の構成によれば、流路表面2aに流体FLが流れることで、流体FLからのせん断応力により変位する弾性体層2と、この弾性体層2に覆われており、弾性体層2が変位することにより可動する可動部21cを有するセンサ部3とを設けたことにより、粘性抵抗力に基づいて流体の粘度を測定する従来の回転式粘度計とは異なり、可動部21cの変化状態を基に流体FLの粘性を分析することができ、かくして従来にない新規な分析手法を用いた分析装置1を提案できる。
【0070】
(1−6)検証試験
次に、上述した「(1−3)せん断力センサ及び粘度センサの製造方法」に従って製造した粘度センサ4aを備える分析装置1を用意し、各種検証試験を行った。実際上、粘度センサ4aは、約2[mm]四方であるセンサ部3のチップに対し、十分大きな流路幅として30[mm]をとった流路形成部9を用いた。また、流路形成部9は、壁面の高さの約5倍である40[mm]程度まで下端開口部から離した位置にセンサ部3を配置した。また、流路形成部9では、流体FLの定常な流れを計測するため、壁部13aから下端開口部までの流路形成領域ER1の長さを200[mm]とした。そして、流路形成部9は、45度に傾いた基台10上に設置し、流路表面2aを約45度に傾けた。
【0071】
また、サンプルとして用いる流体FLは、せん断応力τの計算の容易なニュートン流体で、かつ粘性の調整できる液体であるシリコーンオイル(KF-96-100cs,KF-96H-3万cs,信越シリコーン)を用いた。ここでは、粘度係数μをパラメータとして設定するために、異なる粘度係数を持つ2種類のシリコーンオイルを混合することで、粘度係数μの調整を行った。なお、KF-96-100csは、動粘度100[cs]、密度0.965×103[kg/m3]であり、粘度係数μが9.65×10-2[Pa・s]である。また、KF-96H-30000csは、動粘度30000[cs]、密度0.976×103[kg/m3]であり、粘度係数μが29.28[Pa・s]である。
【0072】
ここでは、分析装置1によって粘性を分析する流体FLとして、粘度域が0.1〜1.0[Pa・s]の食品を念頭において、上述した2種類のシリコーンオイルを混合して粘度係数μを調整し、粘度係数μが0.1[Pa・s]、0.5[Pa・s]、0.75[Pa・s]、1.0[Pa・s]の異なるサンプル粘度でなる4種類のサンプル流体を用意した。なお、サンプル流体の作製に用いた2種類のKF-96-100cs とKF- 96H-30000csの重量比(重量比KF-96-100cs:KF-96H-30000cs)は、下記の表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
なお、分析装置1では、カンチレバー部21が荷重を受けると、それに応じて抵抗値が変化するものの、カンチレバー部21から出力する抵抗値変化は微小であるため、計測にはホイーストンブリッジ回路を備えた増幅器6を用いた。
【0075】
ここでは、12[ml]、内径15[mm]、断面積177[mm2]で、内部がサンプル流体でシリンジが満たされた流体供給手段17を用意し、図示しない一軸可動ステージにシリンジを固定して一軸可動ステージを駆動させることによりシリンジ内のサンプル流体を流路形成部9の吐出口15(図1)から流路表面2aに吐出させた。この際、単位時間当たりのサンプル流体の流路表面2aへの吐出量は、一軸可動ステージを一定速度で駆動させることによって一定量に保った。
【0076】
次いで、流路形成部9における流路表面2aを流れるサンプル流体の表面流速Uを計測するため、撮像装置5としてカメラを用いてこの流路表面2aを流れるサンプル流体を撮像した。この際、サンプル流体の表面流速Uの指標として、流路表面2aを流れるサンプル流体の表面に形成された気泡等の特徴点を用いた。なお、流路形成部9の壁部13bにセンサ部3を跨いで、20[mm]間に渡って5[mm]ごとに線を引いた。その間をサンプル流体の特徴点が通過する時間を計測して、サンプル流体の表面流速Uを特定した。なお、ここで用いたカメラは1秒を30フレームに分けて撮影し得るため、1/30秒単位での計測が可能である。
【0077】
この際、センサ部3からの抵抗値変化率△R/Rを情報処理装置7にて保存するようにした。そして、流体供給手段17のシリンジに入っているサンプル流体を全て流しきった時点でカメラによる撮像画像の録画を止め、これらセンサ部3からの抵抗値変化率△R/Rと、カメラからの撮像画像の録画とを各サンプル流体毎にそれぞれ記録した。なお、ここでせん断力センサ4はセンサ部3が非常に脆いため、流路表面2aを直接拭くことができない。そのため、次に流路表面2aを流すサンプル流体を流路表面2aに3回流し、流路表面2aに前のサンプル流体が残らないように流路表面2aを洗い流した。
【0078】
ここで、流路形成部9の板部12に固定したセンサ部3から得られた抵抗値変化率△R/Rの計測結果としては、図12に示すような結果が得られた。この結果から、サンプル流体を流路表面2aに流し始めてから約1.5秒後にサンプル流体がセンサ部3上を通過したことが分かる。また、カメラにより得られた撮像画像としては、図13A図13Dに示すような結果が得られた。なお、図13A図13Dにおいて、点線DL1はサンプル流体の外郭を示し、その点線DL1の内側がサンプル流体を示している。
【0079】
ここで、図12において、0[s]以上1.5[s]未満までのAは、図13Aに示すようにサンプル流体がセンサ部3上を通過する前の状態であり、図12において、1.5[s]でのBは、図13Bに示すようにサンプル流体がセンサ部3上を通過開始するときであり、図12において、1.5[s]を超え3.25[s]未満までのCは、図13Cに示すようにサンプル流体がセンサ部3上を安定して通過する前の状態であり、図12において、3.25[s]以上5[s]以下までのDは、図13Dに示すようにサンプル流体がセンサ部3上を安定して定常的に一定量が流れているときである。
【0080】
図13Cに示す画像からCでのサンプル流体は流路幅に十分広がっておらず、流れ方向(x方向)だけでなく、サンプル流体の流れに垂直な流路幅方向にもサンプル流体が動いている考えられる。そのため、このCの段階でのデータは純粋なサンプル流体の流れ方向のせん断応力によるものではないと考えられる。サンプル流体が、図13Dに示すような状態になると、サンプル流体は流路幅に十分広がり、流れが安定し定常状態にあると考えられる。
【0081】
ここで図13Aに示すようなサンプル流体の状態でのセンサ部3の平均抵抗値をRAとし、図13Dに示すようなサンプル流体の状態でのセンサ部3の平均抵抗値をRDとすると、サンプル流体が図13Dに示すような状態にあるとき、センサ部3に(RD-RA)/RAに対応する力が働いていることが分かる。
【0082】
ただし,RA図12に示すBからの直前の1秒間の平均をとり、RD図12に示すCからの直後1秒間の平均をとった。そして、4種類の各サンプル流体について、それぞれ5段階の流量に対して、このような抵抗値変化率△R/Rの計測を行った結果、各サンプル流体の流量Qと、そのときのせん断力センサ4での抵抗値変化率△R/Rとの関係について、図14に示すような結果が得られた。なお、このような計測は3回行い、その分散をエラーバーとして図14に示した。この図14に示す結果から、サンプル流体の流量Qが多く、また粘性が大きいほど、センサ部3での抵抗値変化率△R/Rが高くなる傾向があることが確認できた。
【0083】
次に、サンプル流体の表面流速Uと、サンプル流体の流量Qとの関係について確認したところ、図15に示すような結果が得られた。なお、表面流速Uは、カメラからの撮像画像を解析し、流体FLの気泡等の特徴点が20[mm]移動するのに要する時間△Tを計測し、表面流速U=20/△T[mm/s]として算出する。図15に示す結果から、サンプル流体では、流量Qが大きくなると、それに応じて表面流速Uも大きくなる傾向があることが確認できた。
【0084】
次に、各サンプル流体について、せん断力センサ4上での表面流速Uと、せん断力センサ4からの抵抗値変化率△R/Rを基に算出した各サンプル流体のせん断応力τとの関係について検証した結果、図16に示すような結果が得られた。図16に示す結果から、サンプル流体の表面流速U[m/s]と、せん断力センサ4でのサンプル流体からのせん断応力τ(抵抗値変換率△R/R)とは比例関係にあることを確認できた。
【0085】
さらに、流路表面2aでの各サンプル流体の流体高さhを計測し、表面流速Uとせん断応力τと流体高さhとから上述した数1を基に粘度係数μを算出した。そして、この算出した粘度係数μと、各サンプル流体の調整時のサンプル粘度μ´との関係を調べた結果、図17に示すような結果が得られた。図17に示した結果から、算出した粘度係数μとサンプル粘度μ´との対応が取れていることが確認でき、分析装置によって計測した表面流速Uとせん断応力τと流体高さhとに基づいて、サンプル流体の最適な粘度係数μを算出できたことを確認できた。
【0086】
(2)第2の実施の形態
図18において、35は、第2の実施の形態によるスティック型の分析装置を示し、流体FL内にて所定の方向に移動させるだけで、流体FLの粘度を計測し得るように構成されており、使用者が携帯し易いように小型化が図られている。実際上、この分析装置35は、細長い四角柱形状で形成された棒状部材からなる本体36を備えており、この本体36の四辺のうち一側面36aにせん断力センサ37が設けられているとともに、一側面36aと直角に配置された一端面36bに圧力センサ38が設けられた構成を有する。
【0087】
ここで、本体36には、せん断力センサ37及び圧力センサ38がともに中央位置よりも低い下端部近傍に設けられている。これにより本体36は、粘性を分析する流体FLが貯溜した容器CAに中央位置付近まで入れることで、せん断力センサ37及び圧力センサ38を同時に流体FL内に浸漬し得るようになされている。
【0088】
このような分析装置35は、せん断力センサ37及び圧力センサ38が流体FL内に配置させた状態で、一端面36b及び他端面36cが対向している前後方向(移動方向)x2に動かされることにより、図18のA-A´部分の断面構成を示す図19に示すように、本体36の一端面36bに流体FLが当たるとともに、一側面36aに沿って流体FLが流れる。これにより分析装置35では、一側面36aに沿って流れる流体FLからのせん断応力をせん断力センサ37で計測し得るとともに、流体FLからの圧力を圧力センサ38で計測し得るようになされている。
【0089】
実際上、本体36は、一側面36a及び他側面36dも凹凸のない平面状に形成され、当該一側面36aの一部に形成された凹み部36e内にせん断力センサ37を有し、当該せん断力センサ37の弾性体層2の流路表面2aと、一側面36aとが面一に形成されている。ここで、流体FL内にて例えば前後方向x2に動かした場合、本体の一側面及び他側面に沿って流れた流体FLは、せん断力センサ37の流路表面2aにも流れる(図19中、矢印FL1で示す)。
【0090】
ここで、せん断力センサ37に与えられる流体FLからのせん断応力については以下のように考察できる。但し、ここでは、流体FLが食品のように十分粘度が高く、本体36を前後方向x2に移動させる速度が遅い(生じる流れのレイノルズ数が十分小さく、例えば1以下である)ものとする。この場合、せん断力センサ37上を基準とし、一側面36aに平行な軸をx軸とし、一側面36aに垂直な軸をy軸として座標を設定すると、せん断力センサ37の流路表面2a付近(境界層)には、図20Aに示すような速度勾配が生じる。この流体FLの流れによってせん断力センサ37の流路表面2aに加えられる摩擦力は、下記の式で表されるせん断応力となる。
【0091】
【数7】
【0092】
ここで、τ(x)はせん断力センサ37の流路表面2aに加わるせん断応力、uは流路表面2a上に生じるx軸方向の流速、μは流体FLの粘度(粘度係数)とする。ここで、流路表面2a上の流体FLの流れの速度に関するブラシウスの方程式によると、平板上でのx軸方向の流速は下記のように表される。
【0093】
【数8】
【0094】
【数9】
【0095】
但し、Uは、境界層外側の流速が一定となっている領域の表面流速であり、ηは、流路表面2a上での流体FLの流れの速度分布がx軸上の位置に寄らず相似形を取ることを表す相似変数であり、δは、境界層の厚み(流路表面2a上から速度分布が一定になる位置までの距離)である。ナビエ・ストークス方程式によると、流路表面2a上に生成される境界層の厚みは、下記に示すように、時間変化する関数であり、定常流れの表面流速と、せん断力センサ37の位置によって求めることができる。ただし、ρは液体の密度である。
【0096】
【数10】
【0097】
上述した数7〜数9から、せん断力センサ37の流路表面2aに流体FLから加わるせん断応力τ(x)は下記のように表すことができる。但し、kは比例定数とする。
【0098】
【数11】
【0099】
一方、本体36の一端面36bに設けた圧力センサ38に加わる圧力方向の力Fは下記のように表すことができる。但し、Qは圧力センサ38に単位時間当たり加わる流体FLの流れの流量であり、Aは圧力センサ38の表面積である(図20B)。
【0100】
【数12】
上述した数11及び数12から流体の粘度μは下記のように表すことができる。
【0101】
【数13】
【0102】
【数14】
【0103】
但し、Pは圧力センサ38前面に加わる流体FLの圧力とし、Kは比例定数とする。数14に示すように、比例定数Kにはせん断力センサ37のセンサ部(後述する)位置xと流体FLの密度ρの二つの変数が含まれているが、せん断力センサ37のセンサ部位置は一意に決定することが可能であること、密度ρは計測する対象が食品などと限られており、ほとんどの粘性分析対象物の密度が1.0程度であることから、定数と近似して扱うことができる。
【0104】
かくして、第2の実施の形態による分析装置35では、上述した数13の結果が示すように、本体36の一端面36bに圧力センサ38を設けるとともに、本体36の一側面36aにせん断力センサ37を設けることにより、流体FLの粘度(粘度係数)μを計測することができる。
【0105】
なお、せん断力センサ37は、図4に示したように、上述した第1の実施の形態のせん断力センサ4と同一構成を有しており、センサ部3が板部12上に配置され、このセンサ部3を覆うように弾性体層2が設けられた構成を有する。このセンサ部3は、本体36の一側面36aに対して直立するようにカンチレバー部21が配置されているとともに、当該カンチレバー部21における可動部21cの面部が前後方向x2に対して垂直に配置されている(図4)。
【0106】
センサ部3を覆う弾性体層2は、上述した第1の実施の形態と同様の弾性部材からなり、外部に露出した流路表面2aが平面状に形成され、当該流路表面2aが本体36の一側面36aと面一に形成されている。弾性体層2は、前後方向x2に本体36が動かされることにより、流体FLが流路表面2aに沿って流れ、当該流体FLからのせん断応力が流路表面2aに与えられると、それに応じて変形してセンサ部3を前後方向x2に傾倒させ得るようになされている。かくしてセンサ部3では、流体FLからのせん断応力の大きさに応じてカンチレバー部21の傾倒度合いが変化し、これに応じてピエゾ抵抗層24の抵抗値も変化し得るようになされている。
【0107】
ここで、本体36には、CPU等からなる情報処理手段(図示せず)を内蔵しており、この情報処理手段によって、せん断力センサ37からの抵抗値変化率△R/Rを基に、上述した数6から流体FLからのせん断応力τを算出し得る。また、情報処理手段は、圧力センサ38に加わる流体FLからの圧力Pを、当該圧力センサ38から受け取り、上述した数13を基に、計測したせん断応力τと圧力Pとから粘度係数μを算出し得るようになされている。
【0108】
以上の構成において、分析装置35では、流体FL内にせん断力センサ37と圧力センサ38とを浸し、この状態のまま前後方向x2に本体36を移動させることにより、せん断力センサ37のセンサ部3が変形し、これにより抵抗値変化率△R/Rを計測することができる。
【0109】
また、分析装置35では、本体36に内蔵させた情報処理手段によって、センサ部3での抵抗値変化率△R/Rを基に上述した数6を用い流体FLからのせん断応力τを算出することができ、かくしてせん断力センサ37からの抵抗値変化率△R/Rを基に使用者に対し流体FLの粘性を分析させることができる。
【0110】
また、この分析装置35では、圧力センサ38が設けられていることにより、流体FL内にて本体36を前後方向x2に移動させた際、圧力センサ38が流体FLから受ける圧力Pを計測することができる。これにより、分析装置35では、本体36内部に設けた情報処理手段によって、上述した数13を基に、これら流体FLのせん断応力τと、流体FLから受ける圧力Pとから流体FLの粘度係数(粘度)μを算出することができ、かくして粘度係数μを音声通知や表示部に表示することで使用者に通知し、流体FLがどの程度の粘性を有しているかを認識させることができる。
【0111】
因みに、上述した圧力センサ38は、種々の構造のものを適用することができ、例えば後述する「(3)第3の実施の形態」にて述べる両持ち梁のカンチレバー部51を備えた第3センサ部50c(図24にて説明する)を備え、この第3センサ部50cが弾性体層で覆われた圧力センサを適用してもよい。
【0112】
以上の構成によれば、流路表面2aに流体FLが流れることで、流体FLからのせん断応力により変位する弾性体層2と、この弾性体層2に覆われており、弾性体層2が変位することにより可動する可動部21cを有するセンサ部3とを設けたことにより、粘性抵抗力に基づいて流体の粘度を測定する従来の回転式粘度計とは異なり、可動部21cの変化状態を基に流体FLの粘性を分析することができ、かくして従来にない新規な分析手法を用いた分析装置35を提案できる。
【0113】
また、この分析装置35では、弾性体層2aに覆われたセンサ部3と、流体FLから受ける圧力を計測する圧力センサ38とを設けるようにしたことにより、センサ部3から得られた計測結果と、圧力センサ38から得られた圧力計測結果とから、流体FLの粘度係数μを算出することでき、かくして粘度係数μに基づいて流体FLがどのような粘性を有しているかを分析することができる。
【0114】
(3)第3の実施の形態
図21において、41は第3の実施の形態による携帯型の分析装置を示し、この分析装置41は、第2の実施の形態による分析装置35と異なり流体FLをかき混ぜる方向が特に決められておらず、流体FL内にて本体42を任意の方向に移動させるだけで、流体FLの粘度を計測し得るように構成されている。
【0115】
実際上、この分析装置41は、円柱状に形成された棒状部材からなる本体42を備えており、当該本体42の下端部近傍の周辺面42aに複数のせん断力センサ44a,44b…が設けられている。この実施の形態の場合、図22に示すように、本体42には、等間隔を開けて4つのせん断力センサ44a,44b,44c,44dが設けられており、本体42を流体FL内にて所定の方向に移動させることにより、流体FLが本体42の周辺面42aに沿って流れるとともに、せん断力センサ44a,44b,44c,44dの流路表面45aにも流体FLが流れるように構成さている。ここで、これら複数のせん断力センサ44a,44b,44c,44dは全て同一構成を有していることから、そのうち1つのせん断力センサ44aに着目してその構成について説明する。
【0116】
図23に示すように、せん断力センサ44aは、センサ群46と、センサ群46を覆う直方体状の弾性体層45とを備え、互いに直交するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の3軸方向にそれぞれ加わる流体FLからのせん断応力をセンサ群46において計測し得るようになされている。センサ群46は、x軸方向に働く外力を感知する第1センサ部50aと、x軸方向と直交するy軸方向に働く外力を感知する第2センサ部50bと、x軸方向及びy軸方向と直交するz軸方向に働く外力を感知する第3センサ部50cとが基台部49に設けられており、これら第1センサ部50a、第2センサ部50b及び第3センサ部50cが互いに所定間隔を空けて基台部49上に配置された構成を有する。
【0117】
図24に示すように、第1センサ部50a及び第2センサ部50bは、上述した第1の実施の形態によるセンサ部3と同一構成を有しており、基台部49に固定される基部21aと、基部21aに連接した一対のヒンジ部21bと、自由端たる可動部21cとで構成されたカンチレバー部21を備え、2脚構造のヒンジ部21bによって可動部21cが基台部49に対して直立した状態に保持され得る。この実施の形態の場合、第1センサ部50aは、可動部21cの面部がx軸方向に対して垂直に配置されており、x軸方向に加わる流体FLからのせん断応力により可動部21cがx軸方向に傾倒し得るようになされている。
【0118】
また、第2センサ部50bは、可動部21cの面部がy軸方向に対して垂直に配置されており、y軸方向に加わる流体FLからのせん断応力により可動部21cがy軸方向に傾倒し得るようになされている。一方、これに対して第3センサ部50cは、これら第1センサ部50a及び第2センサ部50bとは異なり、平面状の可動部51cが基台部49に対してほぼ面一に設けられた平面型のカンチレバー部51を備えている。
【0119】
このカンチレバー部51は、可動部51cの対向する両端部に薄板状のヒンジ部51bがそれぞれ設けられており、流体FLからのせん断応力がz軸方向から流路表面2aに与えられると、変形した弾性体層45からの力を可動部51cにて受け止め、当該可動部51cがz軸方向に変位し得るようになされている。かくして第3センサ部50cでは、流体FLからz軸方向に加わるせん断応力の大きさに応じて、カンチレバー部51の変位度合いが変化し、これに応じてピエゾ抵抗層の抵抗値も変化し得るようになされている。
【0120】
このように、これら第1センサ部50a、第2センサ部50b及び第3センサ部50cは、弾性体層45から外力が加わると、3軸方向からそれぞれ加わる外力を、対応する可動部21c,51cが受けとめ、それぞれのヒンジ部21b,51bが変位することで当該ヒンジ部21b,51bのピエゾ抵抗層によりヒンジ部21b,51bの変形のみを抵抗値として計測し得るようになされている。すなわち、これら第1センサ部50a、第2センサ部50b及び第3センサ部50cは、ヒンジ部21b,51bの端点の電極間に電位差を与え、ヒンジ部21b,51bの抵抗値変化△R/Rを計測し、その計測結果からカンチレバー部21,51にそれぞれ働く力(流体FLからのせん断応力τ)を計測し得るようになされている。
【0121】
そして、図22に示すように、分析装置41では、本体42を流体FL内に浸けた状態で、任意の方向へ移動させた際、例えば、流体FLの流れに正対している(流体FLの流れに反応している)2箇所のせん断力センサ44b,44cからの出力から算出した合力の向きや大きさを基に、本体42の流路表面45aでの圧力Pと、流路表面45aの流体FLからのせん断応力τを計測し、その大きさを基に上述した数13と同様の関係を導きだし、粘度係数μを計測し得るように構成されている。
【0122】
実際上、図4との同一部分に同一符号を付した図25のように、流体FL内で本体42を移動させ、y軸方向に流体FLが流れた場合には、例えばせん断力センサ44bの弾性体層45の流路表面45aにも流体FLが流れて、当該流体FLから受けるせん断応力によって、このせん断力センサ44bの弾性体層45が流体FLの流れる方向y1に移動し変位し得る。これによりセンサ群46は、流路表面2aに対し可動部21cが直立している第1センサ部50a及び第2センサ部50bのカンチレバー部21が、弾性体層45の変位にともない傾倒し、これにより第1センサ部50a及び第2センサ部50bの抵抗値が変化し得る。因みに、図25に示すせん断力センサ44bは、上述した「(1−3)せん断力センサ及び粘度センサの製造方法」にて説明したせん断力センサ4と製造方法に従って作製できる。
【0123】
一方、図26に示すように、流体FL内で本体42を移動させ、z軸方向に流体FLが流れた場合、例えばせん断力センサ44bでは、弾性体層45の流路表面45aに流体FLが当たり、当該流体FLから受ける圧力Pによって、このせん断力センサ44bの弾性体層45がz軸方向から内側に向けて押され、当該弾性体層45が流体FLの流れる方向z1に変位し得る。これによりセンサ群46は、流路表面2aと平行した可動部51cを有した第3センサ部50cのカンチレバー部51が、弾性体層45からの外力を受け止めることで可動部51cが凹み、これにより曲がったヒンジ部51bでの抵抗値が変化し得る。
【0124】
ここで、分析装置41では、流体FL中で本体42を移動させた際の流体FLの流れ方を考慮して、4箇所にせん断力センサ44a,44b,44c,44dを配置し(図22)、流体FLの流れに正対している(すなわち、流体の流れに反応している)例えば2箇所のせん断力センサ44b,44cからそれぞれ得られた出力を基に流体FLの合力の向き・大きさを求め、これら合力の向き・大きさから、流体FLからの圧力Pと、流体FLからのせん断応力τとを計測し得る。
【0125】
そして、分析装置41では、例えば2箇所のせん断力センサ44b,44cから得られた流体FLからの圧力Pと、流体FLからのせん断応力τとから、上述した数13の関係式から、流体FLの粘度係数μを計測し得るようになされている。
【0126】
以上の構成において、この分析装置41では、本体42の周辺面42aに複数のせん断力センサ44a,44b,44c,44dを設け、3軸方向のせん断応力が計測可能なセンサ群46を各せん断力センサ44a,44b,44c,44dにそれぞれ設けるようにした。このような分析装置41では、これらせん断力センサ44a,44b,44c,44dを流体FL内に浸けて、例えば、図21に示すように、使用者によって本体42の長手方向が鉛直に維持されたまま、本体42が水平に移動されても、図23に示す第1センサ部50a、第2センサ部50b及び第3センサ部50cのうち、可動部21cの面部がx軸方向に対して垂直に配置された第1センサ部50aにより流体FLからのせん断応力τを計測できる。また、分析装置41では、これと同時に、可動部51cの面部がz軸方向に対して垂直に配置された第3センサ部50cにより流体FLからの圧力Pを計測できる。これにより、分析装置41では、センサ群46から得られた流体FLのせん断応力τと圧力Pとを基に、上述した数13から粘度係数μを算出することができる。
【0127】
また、分析装置41では、これらせん断力センサ44a,44b,44c,44dを流体FL内に浸けて、例えば、図27に示すように、使用者によって本体42の長手方向が鉛直から所定角度θ1傾けられた状態のまま、本体42がこの角度方向に沿って移動されても、図23に示す第1センサ部50a、第2センサ部50b及び第3センサ部50cのうち、可動部21cの面部がx軸方向に対して垂直に配置された第1センサ部50aと、可動部21cの面部がy軸方向に対して垂直に配置された第2センサ部50bとにより、流体FLからのせん断応力τを計測できる。またこれと同時に、分析装置41では、可動部51cの面部がz軸方向に対して垂直に配置された第3センサ部50cにより流体FLからの圧力Pを計測できる。これにより、分析装置41では、センサ群46から得られた流体FLのせん断応力τと圧力Pとを基に、上述した数13から粘度係数μを算出することができる。
【0128】
このように分析装置41では、流体FLをかき混ぜる方向が特に決められておらず、流体FL内にて本体42を任意の方向に移動させるだけで、センサ群46により流体FLのせん断応力τ及び圧力Pを計測でき、これら計測結果から流体FLの粘度係数μを算出することができ、かくして粘度係数μを使用者に通知し、流体FLがどの程度の粘性を有しているかを認識させることができる。
【0129】
(4)第4の実施の形態
図28において、55は第4の実施の形態による携帯型の分析装置を示し、この分析装置55は、第2の実施の形態による分析装置35とは本体52の形状がY字状に形成されている点と、せん断力センサ37が2つ設けられている点とで相違している。
【0130】
この場合、本体52は、所定の厚みを有しており、棒状の把持部53の下端部から第1脚部54aと第2脚部54bに二股に分岐し、これら第1脚部54a及び第2脚部54b間が下端部から離れるに従って幅広になるように形成されている。これに加えて、第1脚部54aには、第2脚部54bと対向する内面52bに2つのせん断力センサ37が縦方向に並んで配置されているとともに、この内面52bと直交する前面52aに圧力センサ38が設けられている。
【0131】
このような分析装置55は、本体52に設けられたせん断力センサ37及び圧力センサ38を流体FL内に浸し、この状態のまま本体52を前後方向(移動方向)x2に移動させるだけで、流体FLの粘度係数μを計測し得るように構成されている。ここで、せん断力センサ37は、上述した第1及び第2の実施の形態と同一構成を有しており、センサ部3が板部12上に配置され(図4)、このセンサ部3を覆うように弾性体層2が設けられた構成を有している。センサ部3は、第1脚部54aの内面52bに対して直立するようにカンチレバー部21が配置されているとともに、当該カンチレバー部21における可動部21cの面部が前後方向x2に対して垂直に配置されている。
【0132】
センサ部3を覆う弾性体層2は、外部に露出した流路表面2aが平面状に形成され、当該流路表面2aが第1脚部54aの内面52bと面一に形成されている。弾性体層2は、前後方向x2に本体52が動かされることにより、流体FLが流路表面2aに沿って流れ、当該流体FLからのせん断応力により変形してセンサ部3に外力を伝え、当該センサ部3を前後方向x2に傾倒させ得るようになされている。かくしてセンサ部3では、流体FLからのせん断応力の大きさに応じてカンチレバー部21の傾倒度合いが変化し、これに応じてピエゾ抵抗層の抵抗値も変化し得るようになされている。
【0133】
本体52には、CPU等からなる情報処理手段(図示せず)が内部に設けられており、この情報処理手段によって、センサ部3からの抵抗値変化率△R/Rを基に、上述した数6から流体FLからのせん断応力τを算出し得る。また、情報処理手段は、圧力センサ38に加わる流体FLからの圧力Pを圧力センサ38から受け取り、上述した数13を基に、計測したせん断応力τと圧力Pとから粘度係数μを算出できる。
【0134】
なお、上述した実施の形態においては、第1脚部54a及び第2脚部54b間の距離が次第に広がってゆくY字状でなる本体52からなる分析装置55を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図29に示すように、第1脚部63a及び第2脚部63b間の距離が一定の距離に保たれた本体62からなる分析装置61を適用してもよい。
【0135】
実際上、本体62は、第1脚部63aの一端部及び第2脚部63bの一端部が棒状の連接部64で連接されており、この連接部64の中央に外方に延びた棒状の把持部65が立設した構成を有している。第1脚部63aには、第2脚部63bと対向する内面62bに例えば3つのせん断力センサ37が縦方向に並んで配置されているとともに、この内面62bと直交する前面62aに圧力センサ38が設けられている。
【0136】
このような本体62を有した分析装置61でも、他の構成が上述した第4の実施の形態による分析装置55と同一構成を有していることにより、内部の情報処理手段によって、各せん断力センサ37においてセンサ部3からの抵抗値変化率△R/Rを基に、上述した数6から流体FLからのせん断応力τを算出し、圧力センサ38に加わる流体FLからの圧力Pと、計測したせん断応力τとから、上述した数13を基に粘度係数μを算出できる。
【0137】
(5)第5の実施の形態
図30において、70は第5の実施の形態による回転型の分析装置を示し、上述した第2の実施の形態と同一構成を有したせん断力センサ37が基板72に設けられた構成を有している。また、この分析装置70は、せん断力センサ37において弾性体層2で覆われた直立したセンサ部(図示せず)に対向するように回転基板73が設置された構成を有する。回転基板73は、円盤状に形成されており、弾性体層2の平面状の流路表面2aに対し、平面状の対向面部をほぼ平行に配置させ得るとともに、弾性体層2の流路表面2aとの間に所定の隙間が形成され得るように配置され得る。
【0138】
また、この回転基板73は、せん断力センサ37の流路表面2aに対して対向面部をほぼ平行に保った状態のまま、回転軸z3を中心にして、例えば時計回り又は反時計回りのいずれか一方方向に、一定のずり速度で回転し得るようになされている。なお、他の実施の形態として、この際、せん断力センサ37の流路表面2aに対して対向面部をほぼ平行に保った状態のまま、回転軸z3を中心に時計回りに一定のずり速度で回転した後、反時計回りに反転して一定のずり速度で回転し、これら時計回りと反時計回りを一定周期で繰り返すようにしてもよい。
【0139】
また、この回転基板73は、回転軸z3方向に沿って移動し得、せん断力センサ37の流路表面2aとの隙間を調整可能な構成を有している。これにより、分析装置70では、せん断力センサ37の流路表面2aと、回転基板73の対向面部との間隔を空けた後、これら流路表面2a及び対向面部間に所定粘度の流体FLを配置させ、回転基板73を流体FL側に近づけてゆくことで、せん断力センサ37の流路表面2aと対向面部とにより流体FLを挟み込めるように構成されている。
【0140】
ここで、せん断力センサ37は、上述した第1の実施の形態と同一構成を有したセンサ部3(図30では図示せず)が板部12に固定され、このセンサ部3を覆うように弾性体層2が形成されており、上述した第1の実施の形態と同様に弾性体層2の変形に応じてセンサ部3のカンチレバー部21が傾倒してセンサ部3の抵抗値が変化し得るようになされている。
【0141】
実際上、このせん断力センサ37は、回転基板73の回転軸z3を避けるように基板72上に配置されており、センサ部3が回転基板73の対向面部と対向する位置に設けられているとともに、センサ部3の可動部の面部が回転基板73の回動方向x4に対して垂直に配置されている。
【0142】
これによりせん断力センサ37は、回転基板73と弾性体層2との間に流体FLを密着配置させた状態で、回転基板73を所定のずり速度で回転させることにより、流体FLを回動方向x4へ移動させ得るようになされている。この際、センサ部3は、回動方向x4に移動する流体FLからのせん断応力を弾性体層2から受け、カンチレバー部21が回動方向x4側へ傾倒し、抵抗値が変化し得る。
【0143】
実際上、回転基板73と弾性体層2との間に配置される流体FLとして、粘性の低い流体FLと、粘性の高い流体FLとでは、粘性の高い流体FLが粘性の低い流体FLよりも、せん断応力が高く、これに応じてセンサ部3にて生じる抵抗値変化率△R/Rも高くなることから、使用者がこの抵抗値変化率△R/Rを基に流体FLの粘性を分析し得る。
(6)第6の実施の形態
【0144】
図31において、80は第6の実施の形態による分析装置を示し、この分析装置80は、円筒形状に形成された管状型の本体81を有し、本体81内に形成された中空領域ER2を流体FL3,FL4が通過し得るように構成されている。この分析装置80は、本体81内を流れる流体FL3,FL4を本体81内から取り出すことなく、本体81内を流れる流体FL3,FL4がどのような粘性を有し、本体81内で流体FL3,FL4がどのような状態で流れているかを推測可能な計測結果を得ることができる。
【0145】
実際上、本体81には、半円筒状の半体壁部82と、半円筒状のせん断力センサ83とが縁部を合わせた状態にて固定され、円筒形状に形成された構成を有している。実際上、せん断力センサ83には、半円筒状に形成された基板85が設けられ、この基板85の内周面に複数のセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gが設けられており、これら複数のセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86g全てを覆うように弾性体層87が形成されている。
【0146】
せん断力センサ83は、基板85の厚みが半体壁部82の厚みよりも薄肉に形成されており、基板85上のセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gを覆う弾性体層87の流路表面87aが半体壁部82の内周面と面一に形成されており、中空領域ER2において半体壁部82と境に凹凸がなく、本体81内の中空領域ER2を流体FL3,FL4がスムーズに流れるようになされている。
【0147】
実際上、せん断力センサ83には、例えば上端部から下端部まで周方向に沿って複数のセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gが所定間隔を開けて設けられている。この実施の形態の場合、せん断力センサ83には、上端部と中間部と下端部とにそれぞれセンサ部86a,86d,86gが設けられ、上端部及び中間部間に2つのセンサ部86b,86cが設けられているとともに、中間部及び下端部間にも2つのセンサ部86e,86fが設けられ、合計つのセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gが周方向に沿って配置されている。
【0148】
ここで、各センサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gは、上述した第1の実施の形態によるセンサ部3と同一構成を有しており、カンチレバー部21における可動部21cの面部(図4)が流体FL3,FL4の流れる方向に対して垂直に配置され、基板85表面に対し可動部21cが直立するように形成されている。弾性体層87は、このような複数のセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gを覆うことで、センサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gを本体81内に対して非露出状態とさせている。また、この弾性体層87は、本体81内に露出する流路表面87aが凹凸のない滑らかな断面半円状に形成されており、本体81内を流れる流体FL3,FL4が流路表面87aに沿ってスムーズに流れるように形成されている。
【0149】
以上の構成において、このような分析装置80では、本体81内に流体FL3,FL4が流れると、当該流体FL3,FL4が接触している弾性体層87部分が流体FL3,FL4からのせん断応力によって流れ方向に変位し、これに対応したセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gが変形することにより抵抗値が変化し得る。また、分析装置80では、図示しない情報処理手段によりセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gからの出力電圧を測定することで、センサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gでの抵抗値の変化を計測することができる。
【0150】
これにより、分析装置80では、センサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gでの抵抗値変化率△R/Rを基に本体81内を流れる流体FL3,FL4の粘性を分析することができる。また、この分析装置80では、流体FL3,FL4と接触していない領域の弾性体層87は変位することなく、流体FL3,FL4と接触している弾性体層87だけが流体FL3,FL4からのせん断応力により変位し、当該流体FL3,FL4の流れる高さまでのセンサ部86d,86e,86f,86gの抵抗値だけが変化する。かくして、分析装置80では、これらセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gの抵抗値変化率△R/Rを基に本体81内にてどの高さまで流体FL3,FL4が流れているか容易に推測することができる。
【0151】
さらに、この分析装置80では、本体81内を例えば水とオイルの混合流体が流れた場合、比重の違いによって、図31に示すように本体81内の下部に水(この場合、流体FL4)が流れ、上部に比重の小さいオイル(この場合、流体FL3)が流れる。このとき、分析装置80では、水とオイルの粘性の違いから、水が接触している弾性体層87部分と、オイルが接触している弾性体層87部分との変位の程度が異なることから、水が流れている領域でのセンサ部86e,86f,86gからの抵抗値変化率△R/Rと、オイルが流れている領域でのセンサ部86dからの抵抗値変化率△R/Rとが異なるものとなる。
【0152】
この場合、分析装置80では、本体81内に水を流したときの流量と、そのときのセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gからの抵抗値変化率△R/Rとの関係を予め計測しておくとともに、本体内にオイルを流したときの流量と、そのときのセンサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86gからの抵抗値変化率△R/Rとの関係を予め計測しておき、この関係データを情報処理手段に記憶させておく。
【0153】
これにより分析装置80では、本体81内に水とオイルを流してこれを解析する際に、センサ部86a,86b,86c,86d,86e,86f,86にて計測した抵抗値変化率△R/Rを、この関係データと対比することで本体81内に流れる水の流量やオイルの流量を推測することもできる。
【0154】
(7)第7の実施の形態
図18との対応部分に同一符号を付して示す図32において、90は、第7の実施の形態によるスティック型の分析装置を示し、第2の実施の形態と同様に、流体内にて所定の方向に往復移動させるだけで、流体の粘度μを計測し得るように構成されている。実際上、この分析装置90は、細長い四角柱形状に形成された棒状部材からなる本体91を備え、使用者が親指、人差し指及び中指で本体91を把持し得、かつ使用者が携帯し易いように本体91の小型化が図られている。
【0155】
本体91は、四辺のうち一側面91aにせん断力センサ92が設けられているとともに、この一側面91aと直角に配置された一端面91bに圧力センサ93が設けられた構成を有する。ここで、本体91は、せん断力センサ92及び圧力センサ93をともに下端部近傍に備えており、容器に貯溜した流体内に、せん断力センサ92及び圧力センサ93を同時に浸漬し得るようになされている。
【0156】
このような分析装置90は、第2の実施の形態と同様に、せん断力センサ92及び圧力センサ93を流体内に配置させた状態で、一端面91bに対し垂直方向(本体91の長手方向(Z軸方向)と、一側面91aからの垂線方向(y軸方向)とに直交するX軸方向)となる前後方向x2に動かされることにより、本体91の一端面91bに流体が直接当たるとともに、一側面91aに沿って流体が流れる。これにより分析装置90では、一側面91aに沿って流体が流れる際、せん断力センサ92にて検出した計測結果を基に、一側面91aが流体から受けるせん断応力τを算出し得るようになされている。また、これと同時に分析装置90では、この際、圧力センサ93にて検出した計測結果を基に、一端面91bが流体から受ける圧力Pを算出し得るようになされている。
【0157】
実際上、本体91には、平面状に形成された一側面91a及び一端面91bの下端部近傍の一部に、四辺状の凹み部91e,91fが形成されており、一方の凹み部91e内にせん断力センサ92が配置され、他方の凹み部91f内に圧力センサ93が配置されている。本体91は、せん断力センサ92に設けられた弾性体層98aの流路表面が外部に露出しており、この流路表面が一側面91aと面一に形成されている。また、本体91は、圧力センサ93に設けられた弾性体層98bの流路表面も外部に露出しており、この流路表面も一端面91bと面一に形成されている。
【0158】
ここで、この第7の実施の形態による分析装置90は、せん断力センサ92の構成と、圧力センサ93の構成とが上述した第2の実施の形態とは相違しており、図23に示した第3の実施の形態である片持ち梁の第1センサ部50aと同一構成でなる片持ち梁センサ部95aがせん断力センサ92に設けられ、同じく図23で示した第3の実施の形態である両持ち梁の第3センサ部50cと同一構成でなる両持ち梁センサ部95bが圧力センサ93に設けられている点に特徴を有する。
【0159】
実際上、図33に示すように、このせん断力センサ92は、片持ち梁センサ部95aが凹み部91e内の底部に設置されており、これら片持ち梁センサ部95a全体を覆うように弾性体層98aが設けられた構成を有する。せん断力センサ92は、流体内にて本体91がx軸方向に沿って移動されると、流体から受ける外力により弾性体層98aが変形し、これに応じてx軸方向に働く外力を片持ち梁センサ部95aが感知し得る。
【0160】
因みに、片持ち梁センサ部95a及び両持ち梁センサ部95bは、上述したように、図23に示した第1センサ部50a及び第3センサ部50cと同一構成を有していることから、詳細な構成については説明が重複するため、ここでは説明を省略する。この場合、片持ち梁センサ部95aは、可動部21cの面部がx軸方向に対し垂直に配置されており、x軸方向に加わる流体からのせん断応力τにより可動部21cがx軸方向に傾倒し得るようになされている。
【0161】
片持ち梁センサ部95aでは、流体から加わるせん断応力τの大きさに応じて、カンチレバー部21の変位度合いが変化し、これに応じてピエゾ抵抗層の抵抗値も変化し得るようになされている。この場合、片持ち梁センサ部95aは、ヒンジ部21bの端点の電極間に電位差を与え、ヒンジ部21bの抵抗値変化△R/Rを計測し、その計測結果からカンチレバー部21にそれぞれ働く力(流体からのせん断応力τ)を計測し得る。
【0162】
一方、圧力センサ93は、両持ち梁センサ部95bが凹み部91f内の底部に配置され、当該両持ち梁センサ部95b全体を覆うように弾性体層98bが設けられた構成を有する。この場合、凹み部91fには、底部に空隙部91hが形成されており、この空隙部91h上に両持ち梁センサ部95bの可動部51c及びヒンジ部51bが位置するように両持ち梁センサ部95bの基台部51aが底部に固定されている。
【0163】
これにより、圧力センサ93は、流体からの圧力Pがx軸方向側から弾性体層98bの流路表面に与えられると、その圧力Pにより弾性体層98bが僅かに潰れ、変形した弾性体層98bからの力を可動部51cにて受け止め、当該可動部51cがx軸方向に変位し得るようになされている。かくして両持ち梁センサ部95bでは、流体からx軸方向に加わる圧力の大きさに応じて、カンチレバー部51の変位度合いが変化し、これに応じてピエゾ抵抗層の抵抗値も変化し得るようになされている。この場合、両持ち梁センサ部95bは、ヒンジ部51bの端点の電極間に電位差を与え、ヒンジ部51bの抵抗値変化△R/Rを計測し、その計測結果からカンチレバー部51に働く力(流体からの圧力P)を計測し得る。
【0164】
このような構成を有する分析装置90であっても、上述した数7〜14の関係が成り立ち、せん断力センサ92の計測結果からせん断応力τを算出し、圧力センサ93の計測結果から圧力Pを算出して、数13のμ=K(τ2/P3/2)を基に、流体の粘度(粘度係数)μを算出し得る。具体的に、せん断力センサ92の片持ち梁センサ部95aは、計測結果として抵抗値変化率△R/Rを得、本体91内に内蔵した情報処理手段(図示せず)に送出し得る。これにより情報処理手段は、せん断力センサ92から受け取った抵抗値変化率△R/Rと、上述した数6とを基に、せん断応力τを算出し得るようになされている。
【0165】
一方、圧力センサ93では、圧力Pを受けると、抵抗値変化率△R/Rと、圧力Pについて、下記のような関係が成り立つと考えられる。ここで、図34A及び図34Bは、抵抗値変化率△R/Rと圧力Pの関係を説明するために、圧力センサ93の両持ち梁センサ部95bを概略的に表した側断面図である。
【0166】
先ず、図34Aに示すように、弾性体層98b中に埋め込まれた両持ち梁構造の両持ち梁センサ部95bに対して圧力P[Pa]が加えられた際、両持ち梁51dの端部たるヒンジ部51bに生じるひずみεを算出する。因みに、このとき、圧力Pの大きさが十分に小さく、弾性体層98bの変形量が十分に小さいと仮定すると、仮に、両持ち梁51dの下部にも弾性体層98bの弾性体が入り込んでいても、この部分の弾性体の変形はほぼ無視できると考えられる。この仮定の下では、弾性体層98bに対しx軸方向から圧力P[Pa]が加わると、図34Bに示すように、弾性体層98b表面に加えられた圧力Pと同じ大きさの圧力Pが、ヒンジ部51bによって両端を固定された両持ち梁51dにも加わっていると考えられる。
【0167】
ここで、両持ち梁51dの長さをL[mm]、幅をW [mm]、厚みをT[mm]とすると、両持ち梁51dの端部(ヒンジ部51b)に生じるモーメントの大きさMは次の数15のように表すことができる。
【0168】
【数15】
このとき、端部たるヒンジ部51bに生じるひずみεは、両持ち梁51dの断面が長方形であることを考え下記の数16のように表すことができる。
【0169】
【数16】
【0170】
ただし、Zは両持ち梁51dの断面二次係数とし、Eは両持ち梁51dのヤング率とする。このひずみεによって生じるピエゾ抵抗素子の抵抗値変化率△R/Rは、ピエゾ抵抗素子のゲージ率をKとしたとき、下記の数17のように表すことができる。
【0171】
【数17】
【0172】
以上より、圧力センサ93は、計測結果として得られた抵抗値変化率△R/Rを用いて、数16と数17とを基に、圧力Pを算出し得るようになされている。実際上、圧力センサ93の両持ち梁センサ部95bは、流体から受ける外力から抵抗値変化率△R/Rを計測結果とし得、これを情報処理手段に送出する。情報処理手段は、圧力センサ93から受け取った抵抗値変化率△R/Rと、上述した数16及び数17を基に、圧力Pを算出し得る。これにより分析装置90は、情報処理手段によって、せん断力センサ92の計測結果から算出したせん断応力τと、圧力センサ93の計測結果から算出した圧力Pとを用い、数13のμ=K(τ2/P3/2)から粘度μを算出し得る。
【0173】
次に、図32に示した分析装置90を実際に作製し、この分析装置90を用いてせん断応力τ及び圧力Pの計測試験を行った。なお、移動方向のせん断応力を計測するせん断力センサ92には、約200[μm]程度の片持ち梁センサ部95aを設け、移動方向からの圧力を計測する圧力センサ93には、約200[μm]程度の両持ち梁センサ部95bを設けた。
【0174】
この場合、一定のピストン運動を行うアーム部を備えた駆動装置を用意し、当該アーム部に分析装置90を鉛直に固定させた後、分析装置90のせん断力センサ92及び圧力センサ93を水中に入れた。そして、駆動装置によって、本体91の一端面91bと垂直方向となる方向(図32中のx軸方向)に向けて直線上に往復運動させた(周波数2[Hz]、往復幅50[mm])。このとき分析装置90から得られた圧力Pとせん断応力τとを調べたところ、図35に示すような結果が得られた。図35の結果のうち、波形の山部及び谷部をサンプリングポイントとして値を読み取ったところ、圧力Pは10[Pa]であり、せん断応力τは0.4[Pa]であった。
【0175】
なお、他の粘度計にて予め測定した試料(水)の粘度mは0.9[mPa・s]であった。そこで、粘度μを0.9[mPa・s]とし、圧力Pを10[Pa]とし、せん断応力τを0.4[Pa]として、上述した数13のμ=K(τ2/P3/2)から比例定数Kを求めたところ175.8であった。従って、分析装置90では、比例定数K=175.8を代入した数13を予め記憶しておくことで、せん断力センサ92の計測結果から算出したせん断応力τと、圧力センサ93の計測結果から算出した圧力Pとを用い、数13から粘度μを算出し得る。
【0176】
因みに、上述した実施の形態においては、可動部21cがx軸方向に傾倒し得る片持ち梁センサ部95aを一側面91aに設け、x軸方向に加わる圧力を受け止める一端面91bに両持ち梁センサ部95bを設けて、流体内で本体91をx軸方向に沿って往復移動させて、流体の粘度μを算出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、可動部21cの面部をz軸方向(本体91の軸方向)に対し垂直に配置し、可動部21cがz軸方向に傾倒し得る片持ち梁センサ部を一側面91aに設け、z軸方向に加わる圧力を受け止める本体91の底面部に両持ち梁センサ部95bを設けて、流体内で本体91をz軸方向に沿って上下移動させて、流体の粘度μを算出するようにしてもよい。
【0177】
(8)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、これら上述した実施の形態を組み合わせたりしてもよく、また第2の実施の形態による分析装置35や、第3の実施の形態による分析装置41等に、それぞれ加速度センサを設けるようにしてもよい。
【0178】
このように加速度センサを設けた場合には、加速度センサにより検知した加速度が0のとき、せん断力センサ37や圧力センサ38などの計測結果を測定すれば、本体を動かし始めた不安定な状態時ではなく、本体を一定の速度で流体FL内にて移動させているときのせん断応力τや圧力Pを計測し得、より正確な粘度係数μを算出することができる。
【0179】
また、上述した実施の形態においては、圧力センサ38を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ジャイロセンサ等の各種計測手段を設け、これら計測手段から得られる計測結果を、粘度係数τを算出するのに補足のデータとして用いるようにしてもよい。因みに、加速度センサを組み込んだ場合には、加速度センサからの出力を積分して、加速度センサの移動速度を算出することができる。この場合、圧力センサが不要となり、加速度センサとせん断力センサのみで粘度を算出することができる。
【0180】
さらに、上述した第1の実施の形態において、前記センサ部からの前記計測結果と、前記表面流速と、前記流体高さとから、前記流体の粘度係数を算出する算出手段として、流路形成部9と別体に設けた情報処理装置7を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、流路形成部9に内蔵した情報処理手段を算出手段として適用してもよい。
【0181】
さらに、上述した第2〜第4、第7の実施の形態において、前記センサ部から得られた計測結果と、前記圧力センサから得られた圧力計測結果とから、前記流体の粘度係数を算出する粘度係数算出手段として、本体36,42,52,62,91に内蔵した情報処理手段(図示せず)を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、本体36,42,52,62,91とは別体に設けた情報処理手段を粘度係数算出手段として適用してもよい。
【0182】
さらに、上述した第1〜第7の実施の形態については各構成を適宜組み合わせても良く、例えば、第4の実施の形態による分析装置55,61には、一方向の外力を検知するせん断力センサ37に換えて、第3の実施の形態に用いた3軸方向の外力を検知し得るせん断力センサ44aを適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の分析装置は、例えば牛乳やジュース、介護食等の食品にトロミ調整剤を添加し、食品にトロミを与えた際、このトロミを与えた流動性食品がどの程度の粘度を有しているかを確認したいときに利用できる。
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