特許第6115939号(P6115939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115939
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】研磨液の性状測定装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20170410BHJP
   B24B 37/34 20120101ALI20170410BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   B24B37/00 K
   B24B37/34
   H01L21/304 622E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-49687(P2013-49687)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-172156(P2014-172156A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 尚典
(72)【発明者】
【氏名】望月 宣宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵友
(72)【発明者】
【氏名】深川 博信
(72)【発明者】
【氏名】木村 景一
(72)【発明者】
【氏名】カチョーンルンルアン パナート
【審査官】 宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0187200(US,A1)
【文献】 特開2006−088292(JP,A)
【文献】 特開2006−088261(JP,A)
【文献】 特表2007−520083(JP,A)
【文献】 米国特許第7201634(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00−37/34
B24B 57/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッド上に研磨液を供給しつつ研磨ヘッドにより研磨対象の基板を保持し基板を研磨テーブル上の研磨パッドに押圧して基板の被研磨面を研磨する研磨装置における研磨パッド上の研磨液の性状測定装置であって、
研磨パッド上に配置され、研磨テーブルの回転方向において研磨ヘッドの下流側に設置され研磨パッド上で研磨液を堰き止めて研磨液を貯留する研磨液貯留機構と、
前記研磨液貯留機構に貯留された研磨液の性状を測定するセンサーを備え
前記研磨液貯留機構に、該研磨液貯留機構の下面が研磨パッドに接触して該研磨液貯留機構の内周面により研磨液を堰き止めて研磨液を貯留する貯留部を形成し、該貯留部に前記センサーのプローブを設置し、
前記研磨液貯留機構の下面の一部に、前記研磨液貯留機構の内周面と外周面とを連通し、前記貯留部に貯留された研磨液を排出する排出部が形成されていることを特徴とする研磨液の性状測定装置。
【請求項2】
前記研磨液貯留機構及び前記センサーは、前記研磨テーブルの半径方向においてそれぞれ複数備えられていることを特徴とする請求項に記載の研磨液の性状測定装置。
【請求項3】
前記センサーは、研磨液のpHまたはORPを測定するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨液の性状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板を研磨テーブル上の研磨パッドに押圧して、研磨液を供給しながら基板上に形成された金属膜や絶縁膜などの薄膜を研磨する研磨装置に関するもので、特に研磨パッド上の研磨液の性状を測定する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲しながら段差がより大きくなるので、配線層数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理しなければならない。また光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面を平坦化処理する必要がある。
【0003】
従って、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨装置を用いて、シリカ(SiO)やセリア(CeO)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッドに供給しつつ半導体ウエハなどの基板を研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
CMPプロセスを行う研磨装置は、研磨パッドを有する研磨テーブルと、半導体ウエハなどの基板を保持するための研磨ヘッドとを備えている。このような研磨装置を用いて基板の研磨を行う場合には、研磨ヘッドにより基板を保持して基板を研磨パッドに対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨パッド上に研磨液を供給しつつ研磨テーブルと研磨ヘッドとを相対運動させることにより基板を研磨パッドに摺接させ、基板の被研磨面を平坦かつ鏡面に研磨する。
【0005】
研磨プロセスにおいて、研磨液の成分濃度等は研磨性能に影響を及ぼすため、特許文献1には、研磨装置から排出された研磨液を回収容器に回収し、回収した研磨液のゼータ電位を測定し、測定値が所定値よりも小さい時にはゼータ電位調整剤を添加して凝集状態にある研磨砥粒を分散状態にし、ゼータ電位が所定値以上の研磨液を研磨装置に循環させる研磨方法が記載されている。
また、特許文献2には、平坦化プロセスの種々のステップを制御するための調整プロセス中において研磨パッド上から排出された廃液(デブリス、研磨スラリ、化学的又はその他の副生成物を含む)を分析ユニットに回収し、回収した廃液中の所定の元素濃度等の要素を分析して廃液の特性を評価し、評価された廃液特性に基づいて平坦化プロセスを制御するようにしたCMP装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−167769号公報
【特許文献2】特表2007−520083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CMPプロセスを行う研磨装置にあっては、CMPプロセス中、研磨液は研磨パッド上に常時供給され、研磨パッドから常時廃液として排出されているが、研磨パッド上に供給された研磨液のなかには、殆ど研磨に寄与することなく研磨能力を残したまま排出されてしまう研磨液も多量にある。したがって、供給した研磨液の研磨能力を最大限に活用しているわけではなく、総じて十分な研磨能力を保持している研磨液を排出してしまっているという問題がある。
【0008】
また、特許文献1および2に記載されているように、従来にあっては、研磨装置から排出された研磨液(又は廃液)を回収し、回収した研磨液(又は廃液)中の成分濃度等を測定・分析することが行われていた。この場合、回収した研磨液(又は廃液)中には、デブリス(研磨屑)、研磨スラリ、化学的又はその他の副生成物などが含まれている。したがって、研磨装置から排出された研磨液を回収し、回収した研磨液(又は廃液)を測定・分析することでは、実際の研磨時に又は研磨直後の研磨液の性状を測定したことにはならないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、研磨パッド上に存在する研磨液の性状を安定して直接測定することのできる、研磨液の性状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明の研磨液の性状測定装置は、研磨パッド上に研磨液を供給しつつ研磨ヘッドにより研磨対象の基板を保持し基板を研磨テーブル上の研磨パッドに押圧して基板の被研磨面を研磨する研磨装置における研磨パッド上の研磨液の性状測定装置であって、研磨パッド上に配置され、研磨テーブルの回転方向において研磨ヘッドの下流側に設置され研磨パッド上で研磨液を堰き止めて研磨液を貯留する研磨液貯留機構と、前記研磨液貯留機構に貯留された研磨液の性状を測定するセンサーを備え、前記研磨液貯留機構に、該研磨液貯留機構の下面が研磨パッドに接触して該研磨液貯留機構の内周面により研磨液を堰き止めて研磨液を貯留する貯留部を形成し、該貯留部に前記センサーのプローブを設置し、前記研磨液貯留機構の下面の一部に、前記研磨液貯留機構の内周面と外周面とを連通し、前記貯留部に貯留された研磨液を排出する排出部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、研磨パッド上で研磨液を堰き止めることで、安定して研磨液の性状を測定するのに十分な量の研磨液を貯留する研磨液貯留機構を設けたため、研磨パッド上に存在する研磨液の性状を直接測定することができる。本発明により測定した研磨液の性状は、研磨液の供給条件などの研磨条件の制御に活用することができる。
また、本発明によれば、研磨液貯留機構は、研磨テーブルの回転方向において研磨ヘッドの下流側に設けられているため、研磨に供した直後の研磨液の性状を測定することが可能となる。
さらに、本発明によれば、研磨液貯留機構に貯留された研磨液が長時間滞留することなく、研磨パッド上の研磨液の性状の変化を正確に測定することができる。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記研磨液貯留機構及び前記センサーは、前記研磨テーブルの半径方向においてそれぞれ複数備えられていることを特徴とする。
本発明によれば、研磨テーブルの半径方向における研磨液の性状の違いを測定することが可能となる。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、前記センサーは、研磨液のpHまたはORPを測定するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下の効果を奏する。
研磨パッド上で研磨液を堰き止めることで、安定して研磨液の性状を測定するのに十分な量の研磨液を貯留する研磨液貯留機構を設けたため、研磨パッド上に存在する研磨液の性状を直接測定することができ、測定した研磨液の性状を研磨液の供給条件などの研磨条件の制御に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る研磨液の性状測定装置を設置した研磨装置の概略平面図であり、研磨パッド,研磨ヘッド,研磨液供給ノズル,性状測定装置の配置関係を図示している。
図2図2は、性状測定装置の構成を示す図であり、図2(a)は研磨液貯留機構の研磨パッド上での作用を模式化した断面図であり、図2(b)は研磨液貯留機構の底面図である。
図3図3は、図1に示す性状測定装置の変形例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る研磨装置および研磨方法の実施形態を図1乃至図3を参照して説明する。図1乃至図3において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明に係る研磨液の性状測定装置を設置した研磨装置の概略平面図である。図1に示すように、研磨装置1は、研磨テーブル8(図2を参照)に支持された研磨パッド2と、研磨対象物である半導体ウエハ等の基板を保持して研磨テーブル8上の研磨パッド2に押圧する研磨ヘッド3と、研磨パッド2上に研磨液(スラリー)を供給する研磨液供給ノズル4とを備えている。
【0019】
研磨ヘッド3は、その下面に真空吸着により半導体ウエハ等の基板を保持するように構成されている。研磨ヘッド3および研磨テーブル8は、矢印で示すように同一方向に回転し、この状態で研磨ヘッド3は、基板を研磨パッド2に押圧する。研磨液供給ノズル4からは研磨液が研磨パッド2上に供給され、基板は、研磨液の存在下で研磨パッド2との摺接により研磨される。
【0020】
図1に示すように、性状測定装置5は、研磨ヘッド3に近接して設置されており、研磨パッド2上の研磨テーブルの回転方向において前記研磨ヘッドの下流側に設置されている。
【0021】
性状測定装置5は、図2(a)に示すように、研磨パッド2上で研磨液を堰き止めて研磨液を貯留する研磨液貯留機構6と、研磨液貯留機構6に貯留された研磨液の鮮度に関わる物理量を測定するセンサー7とを備えている。
【0022】
研磨液貯留機構6は、図2(b)に示すように、略U字状に形成されており、研磨液貯留機構6の下面が研磨パッド2に接触することにより研磨液貯留機構6の内周面により研磨液を堰き止めて研磨液を貯留する貯留部を形成している。研磨液貯留機構6の下流側底部には、研磨液貯留機構6の内周面と外周面とを連通し、貯留部に貯留された研磨液を排出するための排出部9が形成されている。
【0023】
また、センサー7は、pHまたはORP(酸化還元電位)を測定するセンサーであり、そのプローブが研磨液貯留機構6の貯留部に設置されている。
研磨液貯留機構6は、研磨テーブル8の回転に伴って流入した研磨液Sを堰き止め、センサー7での安定した測定に十分な液位を確保する。同時に、排出部9から貯留された研磨液Sの一部を排出するため、研磨液貯留機構6内に研磨液Sが長時間滞留することはない。
【0024】
図3は、図1に示す性状測定装置5の別の設置例を示す概略平面図である。図3に示す例においては、研磨パッドの略半径方向に複数の性状測定装置5が配置されている。図示例では、3個の性状測定装置5が所定間隔をおいて配置されている。これら複数の性状測定装置5は、研磨パッド2の略半径方向の複数箇所において研磨液の性状が測定できるようになっている。図3では、図示を省略しているが、各性状測定装置5に対応して研磨液貯留機構6が設置されている。
【0025】
つぎに、センサー7で測定された研磨液の性状(pHまたはORP)とCMPプロセスの関係について説明する。
CMPプロセス用の研磨液は、砥粒に加え各種添加剤成分を含むことが知られているが、これらの添加剤成分にはそれぞれ、pHや酸化還元電位調節、砥粒の分散性向上、研磨表面での保護膜形成、溶出した金属イオンとの錯体形成などの役割がある。研磨の状況によって、研磨液の成分濃度は変化するため、測定される研磨液の性状も変化する。安定した研磨性能を得るためには、研磨液の各成分濃度を最適値に保つことが重要であり、このためには研磨液の性状をできるだけ実際に研磨が行われている箇所に近い位置で監視することが望ましい。
【0026】
研磨性能に対する研磨液の液性変化の影響は、以下のようなものがある。
研磨液のpHが変化すると、砥粒のゼータ電位が変化することで砥粒の凝集状態が変わり、研磨性能が変化したりスクラッチが発生しうる。またpH変化に伴って錯化剤の酸解離度が変化すると金属錯体の生成量に影響すると考えられ、これにより金属錯体として液中に存在可能な金属量が変化することで、研磨性能に影響が出る。
【0027】
また、pHと酸化還元電位の変化は金属の反応性に影響するため、金属表面における不動態層形成や錯体形成に影響し、研磨性能を変化させる。
研磨液のpHや酸化還元電位の変化は、研磨液の液中成分の濃度変化と相関があるため、pHや酸化還元電位の変化を監視することで、間接的に成分濃度を監視することができる。
【0028】
研磨の進行に伴う研磨液の各種の液性変化の要因としては、さまざまな要因がある。pH変化については、研磨が進行し、液中の錯化剤が金属イオンとの錯体形成に消費されると、錯化剤の解離平衡が変化し、非解離だった錯化剤が解離すると共にプロトンを放出することでpHが低下する。また銅イオンのように1価と2価の酸化状態を取り得る場合、酸化剤や還元剤共存下で銅イオンが触媒的に作用し、ある成分の酸化分解反応などを促進し、その反応に伴ってプロトンが生成/消費されることでpHを変化させる。
【0029】
研磨液の酸化還元電位(ORP)変化については、銅イオンのように金属錯体を形成し、かつ1価や2価の酸化状態を取り得る場合、触媒的な作用で酸化剤や還元剤を消費することでORPが変化する。また金属と錯体を形成する前の錯化剤の状態では酸化還元されにくかった成分が、金属イオンと錯体を形成することで酸化還元され易くなり、結果として金属錯体濃度が増えるにつれて酸化還元剤が金属錯体との酸化還元反応に消費され、ORPが変化してしまうことがある。
【0030】
このように、本発明に係る性状測定装置で測定した研磨液の性状を活用すれば、研磨液の供給条件などの研磨条件(CMPプロセス条件)をより効果的に制御することが可能となる。
【0031】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
1 研磨装置
2 研磨パッド
3 研磨ヘッド
4 研磨液供給ノズル
5 性状測定装置
6 研磨液貯留機構
7 センサー
8 研磨テーブル
9 排出部
S 研磨液
図1
図2
図3