特許第6117718号(P6117718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧

<>
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000002
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000003
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000004
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000005
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000006
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000007
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000008
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000009
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000010
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000011
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000012
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000013
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000014
  • 特許6117718-リチウム複合酸化物 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6117718
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20170410BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20170410BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170410BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170410BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/485
   H01M4/505
   H01M4/525
   C01G45/00
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-40958(P2014-40958)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-166291(P2015-166291A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2016年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藪内 直明
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 芳男
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102306779(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0143803(US,A1)
【文献】 特開2000−231920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
C01G 45/00
H01M 4/485
H01M 4/505
H01M 4/525
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の組成式:
LixyMoz
(式中、MはMn、Ru、Sn、Mg、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、xは0.60〜0.75の範囲であり、yは0.15〜0.25の範囲であり、zは0.075〜0.20の範囲である。)
で表され、Moの平均価数が5.7〜6.0である複合酸化物。
【請求項2】
カチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つ請求項1に記載の複合酸化物。
【請求項3】
Li5ReO6型の結晶構造において、ReのサイトがMo又はMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ請求項1又は2に記載の複合酸化物。
【請求項4】
Li4MoO5型の結晶構造において、Moのサイトの一部がMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ請求項1又は2に記載の複合酸化物。
【請求項5】
Li2MnO3型の結晶構造において、MnのサイトがMo又はMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ請求項1又は2に記載の複合酸化物。
【請求項6】
x+y+z=0.95〜1.05である請求項1〜5の何れか一項に記載の複合酸化物。
【請求項7】
MがNi、Mn、Fe及びCoから選択される1種又は2種以上である請求項1〜6の何れか一項に記載の複合酸化物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の複合酸化物を正極活物質として備えた非水電解質二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載の正極を備えた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム複合酸化物に関し、とりわけリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池の正極活物質として有用なリチウム複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の民生機器や電気自動車の電池としての需要が急上昇しており、大きな市場が見込まれている。リチウムイオン電池の正極は、一般に正極活物質と、導電材と、バインダーとを混合して調製した正極材をアルミニウム箔等からなる集電体の片面又は両面に塗布して乾燥後にプレスすることにより作製される。
【0003】
リチウムイオン二次電池に使用する正極活物質としては層構造をもつLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、及びスピネル構造をもつLiMn24といったリチウムと遷移金属の複合酸化物がこれまで代表的であり、容量密度、充放電サイクル耐久性及び安全性といった正極活物質に求められる特性を改良するために各種の研究がなされている。最近では、リチウムイオン電池の高容量化の観点からCo、Ni、Mnといった典型的な遷移金属に加えて、モリブデンに着目した研究もなされている。
【0004】
特開2010−135325号公報(特許文献1)では、Li2MoO3に多様な異種元素をドーピングさせて得られるカソード活物質は、電気的特性が改善されて多様な二次電池、例えば、リチウム電池などに有用に使用できることが記載されている。そして、Li2MoO3の化合物において、モリブデンの一部が異種元素Mで置換された複合酸化物が開示されている。具体的には、LixyMoz3(式中、x、y及びzは0.1≦x≦2.3、0<y≦0.3、0.7≦z≦1.1を満たし、Mは、Ga、Ge、Mg、Zn、Cd、K、Na、Ca、Si、Cu、Sn、B、P、Se、Bi、As、Zr、Cr、Sr、Sc、Y、Ba、希土類元素及びこれらの混合物からなる群から選択された一つ以上を表す。)で表される化合物を含む正極活物質が記載されている。
【0005】
WO2002/041419(特許文献2)には、現行のLiCoO2より高容量で充電状態での熱安定性に優れ、かつより安価な非水電解質二次電池用正極活物質を提供することを課題として、下記組成式(1)で示されるリチウム複合酸化物よりなり、このリチウム複合酸化物が、六方晶結晶構造に帰属する主回折ピークに加えて、LiとWの複合酸化物および/またはLiとMoの複合酸化物の回折ピークを含むX線回折図を示すことを特徴とする、非水電解質二次電池用正極活物質:LiaNibCocMnde2・・・(1)(式中、Mは、WおよびMoの1種または2種を意味し、0.90≦a≦1.15、0<b<0.99、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0<c+d≦0.9、0.01≦e≦0.1、b+c+d+e=1である。)が記載されている。
【0006】
特許第2526093号公報(特許文献3)では、リチウム二次電池の正極活物質として、Li2-xMoO3(式中、xは0<x≦1で、2−xはまずLi2MoO3を合成し、該Li2MoO3からLiを電気化学的に抜いて用いることを示す)で示されるリチウム−モリブデン酸化物を用いることによって、電圧を高め、エネルギー密度の高いリチウム二次電池が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−135325号公報
【特許文献2】WO2002/041419
【特許文献3】特許第2526093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、Moに着目したリチウム複合酸化物というのは幾つか知られているが、Moは最大で6までの酸化数を取り得ることから、種々のリチウム複合酸化物を形成できる可能性が秘められている。そして、その中から非水電解質二次電池用の正極活物質として有用な、新たなリチウム複合酸化物が得られる可能性も残されている。そこで、本発明はモリブデンを含有する新規リチウム複合酸化物を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は一側面において、次の組成式:LixyMoz
(式中、MはMn、Ru、Sn、Mg、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、xは0.60〜0.75の範囲であり、yは0.15〜0.25の範囲であり、zは0.075〜0.20の範囲である。)
で表される複合酸化物である。
【0010】
本発明に係る複合酸化物の一実施形態においては、カチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つ。
【0011】
本発明に係る複合酸化物の別の一実施形態においては、Li5ReO6型の結晶構造において、ReのサイトがMo又はMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ。
【0012】
本発明に係る複合酸化物の更に別の一実施形態においては、Li4MoO5型の結晶構造において、Moのサイトの一部がMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ。
【0013】
本発明に係る複合酸化物の更に別の一実施形態においては、Li2MnO3型の結晶構造において、MnのサイトがMo又はMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ。
【0014】
本発明に係る複合酸化物の更に別の一実施形態においては、x+y+z=0.95〜1.05である。
【0015】
本発明に係る複合酸化物の更に別の一実施形態においては、MがNi、Mn、Fe及びCoから選択される1種又は2種以上である。
【0016】
本発明は別の一側面において、本発明に係る複合酸化物を正極活物質として備えた非水電解質二次電池用正極である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る正極を備えた非水電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非水電解質二次電池用の正極活物質として有用な、モリブデンを含有する新たなリチウム複合酸化物を提供することができる。特に、本発明においては、置換金属元素Mを所定の割合だけドーピングしたことで、Li4MoO5よりも充放電特性の改善されたリチウム複合酸化物を得ることも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の複合酸化物(Li4/6Ni1/6Mo1/6O)とLi5ReO6(シミュレーション)のXRDスペクトルの比較図である。
図2】実施例1の複合酸化物を正極活物質として電気化学用セルを作製し、充放電試験を行ったときの充放電曲線である。
図3】実施例2の複合酸化物(Li22/30Mn5/30Mo3/30O)とLi4MoO5(シミュレーション)のXRDスペクトルの比較図である。
図4】実施例2の複合酸化物を正極活物質として電気化学用セルを作製し、充放電試験を行ったときの充放電曲線である。
図5】実施例3の複合酸化物(Li42/60Ni5/60Mn5/60Mo8/60O)とLi4/3Ni1/3Mo1/32(シミュレーション)のXRDスペクトルの比較図である。
図6】実施例3の複合酸化物を正極活物質として電気化学用セルを作製し、充放電試験を行ったときの充放電曲線である。
図7】比較例1の複合酸化物(Li4MoO5)のXRDスペクトルである。
図8】比較例1の複合酸化物を正極活物質として電気化学用セルを作製し、充放電試験を行ったときの充放電曲線である。
図9】Li5ReO6の結晶構造を示す模式図である。
図10】Li5ReO6における岩塩型構造の(111)面においてLiとReが規則配列している様子を示す模式図である。
図11】Li4MoO5の結晶構造を示す模式図である。
図12】実施例4の複合酸化物(Li26/40Ni5/40Mn5/40Mo4/40O)とLi4/3Ni1/3Mo1/32(シミュレーション)のXRDスペクトルの比較図である。
図13】実施例3の複合酸化物を正極活物質として電気化学用セルを作製し、充放電試験を行ったときの充放電曲線である。
図14】Li2MnO3の結晶構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(組成)
本発明に係る複合酸化物は、一般には下記の組成式で表される。
LixyMoz
(式中、MはMn、Ru、Sn、Mg、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnよりなる群から選択される1種又は2種以上であり、xは0.60〜0.75の範囲であり、yは0.15〜0.25の範囲であり、zは0.075〜0.20の範囲である。)
【0021】
本発明に係る複合酸化物は一実施形態において、x+y+z=0.95〜1.05であり、好ましくはx+y+z=1である。岩塩型の結晶構造を得る観点からは、x+y+zを上記範囲とすることが必要である。x+y+z=1が岩塩型単相の結晶を得る上で理想的であるが、カチオンが不足したり又は酸素が過剰となったりすることで、x+y+zが1未満になった場合でも、0.95程度までは岩塩型構造を取ることが可能である。また、逆にx+y+zが1より大きくなった場合でも、1.05程度までは岩塩型構造を取ることが可能である。
【0022】
該複合酸化物は基本的には、モリブデン酸リチウム(Li4/5Mo1/5O)に対して、リチウム又はモリブデンの一部を他の金属元素Mで置換した組成を有する。Mとして上記の金属元素を選んだのは、電池容量、安全性、構造安定性などの理由による。中でも、容量発現性の理由から、MとしてはNi、Mn、Fe及びCoから選択される1種又は2種以上を使用するのが好ましく、Ni及びMnの何れか1種又は2種を使用するのがより好ましい。
複合酸化物には意図した元素以外の不純物が含まれる場合があるが、合計で1000質量ppm以下であれば、ほとんど特性に影響はない。従って、複合酸化物中にこのような微量の不純物が含まれていても、本発明の範囲内である。
【0023】
式中、xは金属元素中のLiの比率を表す。モリブデン酸リチウム(Li4/5Mo1/5O)を基準にすると、LiがMに置換される度合を表していると評価できる。Mに置換される度合が多くなるほどxが小さくなる。xが0.60未満だと移動できるLi量が少なくなり電池容量が低下する傾向にある一方で、xが0.75を超えるとMの量が少なくなり、電子伝導の低下をもたらしやすい。そこで、xは0.60〜0.75の範囲である。xの制御は複合酸化物を製造する際にリチウム供給源の量を調節することにより行うことができる。
【0024】
yは金属元素中のMの比率を表す。モリブデン酸リチウム(Li4/5Mo1/5O)を基準にすると、Mが多いほどMによるLi又はMoの置換度合が高いことを示す。yが0.15未満だとLi又はMoに対する置換量が少なくなり、電子伝導の低下をもたらしやすい一方で、yが0.25を超えると不純物相を含まない単一の結晶が得られにくい。そこで、yは0.15〜0.25の範囲である。yの制御は複合酸化物を製造する際のMの供給源の量を調節するにより行うことができる。
【0025】
zは金属元素中のMoの比率を表す。モリブデン酸リチウム(Li4/5Mo1/5O)を基準にすると、MoがMに置換される度合を表していると評価できる。Mに置換される度合が多くなるほどzが小さくなる。zが0.075未満だと置換による容量増加の効果が低い一方で、zが0.20を超えると電子伝導の低下をもたらしやすい。そこで、zは0.075〜0.20の範囲である。zの制御は複合酸化物を製造する際にMo供給源の量を調節することにより行うことができる。
【0026】
本発明に係る複合酸化物は一実施形態において、Moの平均価数は5.7〜6.0である。モリブデン酸リチウム(Li4/5Mo1/5O)におけるMoの価数はMoが取り得る最大価数の6である。そのため、モリブデン酸リチウムにおいては、Moがこれ以上酸化されないことから、二次電池用の正極活物質として使用したときに充放電がされ難いという問題がある。
【0027】
従って、本発明に係る複合酸化物において、Moの平均価数を6価近傍に設定した場合、これを正極活物質として使用したときに十分な充放電特性が得られない可能性も考えられる。しかしながら、置換金属元素Mで置換することで、モリブデン酸リチウム充放電容量が大きく増加する。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、これは以下の理由によるものと考えられる。一つ目は置換金属の酸化還元により充放電が行われることである。二つ目は置換金属の存在により導電性が改善され、Mo単独では起こりづらい酸素の酸化還元により充放電が行われることである。本発明において、Moの平均価数はX線光電子分光法により測定する。
【0028】
なお、本発明においては、組成は、材料の各元素(Li、Ni、Mo等)をICP(ICP分光分析装置)による定量分析で決定することとする。
【0029】
(結晶構造)
本発明に係る複合酸化物は一実施形態において、母構造が酸化物イオンから構成された岩塩型構造でカチオンの一部がオーダリングした構造を持つ。本発明に係る複合酸化物は、岩塩型構造として、Li5ReO6型、Li4MoO5型又はLi2MnO3型を取ることができる。結晶構造が決定されるメカニズムは明らかになっていないが、置換する金属に依存して何れの結晶構造を取る。
【0030】
本発明に係る複合酸化物は一実施形態において、Li5ReO6型の結晶構造において、ReのサイトがMo又はMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ。Li5ReO6の結晶構造は、図9に示すように、空間群c2/m(単斜晶系)に属し、格子定数はa=5.06796Å、b=8.73158Å、c=5.02936Åであることが知られている(T.Betz, R.Hoppe, Z.Anorg.Allg.Chem.512.19-33(1984))。Li5ReO6においては、酸素骨格は岩塩型構造と同じで、その6配位八面体サイトをReとLiが1:5の比で規則配列している構造をもつ。また、Li5ReO6の結晶構造を岩塩型構造としてみると二つの(001)面があり、(001)面に平行に、ReがないLiの層と、ReとLiが1:2の原子比で規則配列した層をもつ層状構造をもつ(図10参照)。本発明において、“Li5ReO6型の結晶構造”というとき、それは結晶の骨組みが一致することを指すものであり、格子定数の一致までを指すものではない。
【0031】
本発明に係る複合酸化物は一実施形態において、Li4MoO5型の結晶構造において、Moのサイトの一部がMに置換されており、Liのサイトの一部がMに置換された結晶構造を持つ。Li4MoO5の結晶構造は、図11に示すように、空間群P−1に属し、格子定数はa=5.119Å、b=7.727Å、c=5.064Åであることが知られている(T.Betz, R.Hoppe, Z.Anorg.Allg.Chem.573.157-169(1989))。本発明において、“Li4MoO5型の結晶構造”というとき、それは結晶の骨組みが一致することを指すものであり、格子定数の一致までを指すものではない。
【0032】
本発明に係る複合酸化物は一実施形態において、Li2MnO3型の結晶構造において、MnのサイトがM又はMoに置換された結晶構造を持つ。Li2MnO3の結晶構造は、図14に示すように、空間群C2/mに属し、格子定数はa=4.937Å、b=8.532Å、c=5.032Å、beta=109.46degであることが知られている(P. STROBEL AND, B. LAMBERT-ANDRON,JOURNAL OF SOLID STATE CHEMISTRY 75, 90-98 (1988))。本発明において、“Li2MnO3型の結晶構造”というとき、それは結晶の骨組みが一致することを指すものであり、格子定数の一致までを指すものではない。
【0033】
(製造方法)
本発明に係る複合酸化物の製造方法について説明する。本発明に係る複合酸化物の製造方法の一実施形態においては、リチウム化合物と、6価のモリブデン化合物と、Mn、Ru、Sn、Mg、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu及びZnよりなる群から選択される1種又は2種以上の金属の化合物とを、目的とする金属組成比で有する混合物を用意する工程と、当該混合物を焼成する工程を含む。
【0034】
リチウム化合物としては、限定的ではないが、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸水素リチウム、酢酸リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過酸化リチウムが挙げられる。中でも、溶解性の高い炭酸リチウム、水酸化リチウムが好ましい。
【0035】
6価のモリブデン化合物としたのは溶解性が高いためである。限定的ではないが、三酸化モリブデン(MoO3)が例として挙げられる。
【0036】
金属元素Mとしてニッケルを採用する場合、マンガン化合物としては、限定的ではないが、金属ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫酸ニッケルが挙げられる。
【0037】
金属元素Mとしてマンガンを採用する場合、マンガン化合物としては、限定的ではないが、金属マンガン、酸化マンガン、水酸化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、ヨウ化マンガン、硫酸マンガンが挙げられる。
【0038】
金属元素Mとしてコバルトを採用する場合、コバルト化合物としては、限定的ではないが、金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、硝酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、ヨウ化コバルト、硫酸コバルトが挙げられる。
【0039】
金属元素Mとしてその他の金属、すなわちRu、Sn、Mg、Al、Ti、V、Cr、Fe、Cu又はZnを採用する場合にも、同様にそれらの炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物等を使用することができる。
【0040】
混合方法について説明する。混合の方法は、限定的ではないが、粉末状の原料をそのまま乳鉢等で混合する方法、原料を水及び/又は有機溶媒に溶解又は懸濁させた後に撹拌混合する方法が挙げられる。より均一に混合できることから後者の方法が好ましい。
後者の方法の好適な一例を挙げる。まず、純水で水酸化リチウム水溶液を作製する。水溶液中の水酸化リチウム濃度は混合する量に合わせて5〜120g/L程度が適当である。続いて、水酸化リチウム水溶液に所望の量のモリブデン、ニッケル及びコバルト等の金属の化合物粉末を投入し、撹拌混合する。
【0041】
得られた原料混合物の水溶液又は水分散液から水分を蒸発させた後、適正条件下で酸化処理(酸化雰囲気中での焼成等)することにより本発明に係る複合酸化物が得られる。酸化処理前に所望の形状に成型してもよい。酸化処理は、材料温度を800〜1100℃に保持して加熱するのが好ましい。800℃未満ではLiとその他の金属が均一にならず、1100℃を超えると、リチウム欠陥が増大し、容量低下などの特性劣化を招く。また、当該保持温度における保持時間は0.5〜20時間とするのが好ましい。保持時間が短すぎるとLiとその他の金属が均一にならない一方で、長すぎると比表面積の低下もしくはリチウム欠陥の増加をもたらし容量低下などの特性劣化をもたらすからである。
【0042】
その後、冷却するが、原料混合物の加熱開始から焼成を経て室温に冷却されるまで連続して空気又は酸素などの酸素含有ガスを流すことが好ましい。酸化処理の際に酸素欠陥やモリブデンの酸化数の低下を防止する為である。
【0043】
得られた複合酸化物はリチウムイオン電池用等の非水電解質二次電池用の正極活物質として利用でき、公知の手段に従い、非水電解質二次電池用正極を作製することができる。例えば、本発明に係る正極活物質の粉末にポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン又はポリアミドアクリル樹脂等のバインダー、及びアセチレンブラック、黒鉛等の導電材を混合して正極合剤を調製する。
【0044】
正極合剤を調製する際には、各原料を均一に混合することが電池容量発現の観点で重要である。混合方法は特に限定しないが、多軸分散型混練機、遊星式混練機、ボールミル等が使用できる。
【0045】
次いで、この正極合剤をスラリーとして、アルミニウム箔等の集電体に塗布し、プレスすることにより正極を作製することができる。更には、本発明に係る正極を利用して、常法に従って、非水電解質二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池を製造することが可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0047】
(比較例1:Li4MoO5
(合成)
3.43gのLiOH・H2O(重量にして3%過剰)粉末と酸化モリブデン(MoO3)粉末2.83gを乳鉢で混合し、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0048】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP(SIIナノテクノロジー社製SPS3520UV)により各元素の含有量を測定し、Li4MoO5であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法(アルバック・ファイ株式会社製5600MC)で下記の条件(以下の試験例も同様)で測定したところ、6であることが確認された。
到達真空度:10-7Pa台
励起源:単色化 AlKa
出力:210W
検出面積:800μmφ
入射角:45度
取り出し角:45度
中和銃:必要に応じて使用
スパッタ条件:イオン種:Ar+、加速電圧:1〜3kV
【0049】
(結晶構造)
高速一次元検出器(株式会社リガク製 D/teX Ultra)を備えたX線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を図7に示す。文献(R.Hoppe et al., Z. Anorg. Allg Chem 573 (1989) 157〜169)記載のXRD結果と一致したことから、P−1の結晶構造をもつと考えられる。
【0050】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(600rpm)で24時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0051】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は室温下、1.0〜5.0Vの範囲で行った。結果を図8に示す。1サイクル目でも100mAh/gを下回っており、数サイクル繰り返すと容量が0になった。このことから、Li4MoO5自体は実用性のある容量を発現することが難しいことが分かる。
【0052】
(実施例1:Li4/6Ni1/6Mo1/6O)
(合成)
0.6700gのLiOH・H2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2661mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO3)粉末0.5176gを溶かし、更に塩基性炭酸ニッケル粉末0.4665gを加え、モル比でLi:Ni:Mo=4:1:1に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0053】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP(SIIナノテクノロジー社製SPS3520UV型)により各元素の含有量を測定し、組成(x、y、z)=(4/6、1/6、1/6)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法で測定したところ、6であることが確認された。
【0054】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を図1に示す。また、T.Betz, R.Hoppe, Z.Anorg.Allg.Chem.512.19-33(1984)より引用したLi5ReO6型のLi4/3Ni1/3Mo1/32(シミュレーション)のXRDスペクトルを図1に合わせて示す。一部に不純物も見られるが、主立ったピークが一致している。当該複合酸化物は、Li5ReO6のRe7+のサイトがMo6+に、Li+のサイトが一部Ni2+に置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。
【0055】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(600rpm)で24時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0056】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は室温下、1.5〜4.5Vの範囲で行った。結果を図2に示す。2サイクル目まではNi2+/Ni4+の理論容量(193mAh/g)を超えていることが分かる。このことは、O(酸素)が酸化還元に寄与したことを示唆している。また、10サイクル後でも充放電共に100mAh/g以上を示した。更に、充電曲線と放電曲線での電圧差が小さいことからみて、充放電間の分極が小さいことも分かる。
【0057】
(実施例2:Li22/30Mn5/30Mo3/30O)
(合成)
0.8037gのLiOH・H2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.3192mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO3)粉末0.3617gを溶かし、更に炭酸マンガン(MnCO3)粉末0.5175gを加え、モル比でLi:Mn:Mo=22:5:3に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0058】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP(SIIナノテクノロジー社製SPS3520UV型)により各元素の含有量を測定し、組成(x、y、z)=(22/30、5/30、3/30)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法で測定したところ、6であることが確認された。
【0059】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を図3に示す。また、T. Betz and R. Hoppe, Z. Anorg. Allg. Chem., 1984, 512, 19.より引用したLi4MoO5(シミュレーション)のXRDスペクトルを図3に合わせて示す。一部に不純物も見られるが、主立ったピークが一致している。当該複合酸化物は、Li4MoO5の一部のLiと一部のMoのサイトがMnに置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。
【0060】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(200rpm)で12時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0061】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は室温下、1.5〜4.8Vの範囲で行った。結果を図4に示す。初回充電容量よりも3サイクル目の充電容量が高く、460mAh/gまで上昇した。
【0062】
(実施例3:Li42/60Ni5/60Mn5/60Mo8/60O)
(合成)
0.7088gのLiOH・H2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2815mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO3)粉末0.4455gを加え、更に炭酸マンガン(MnCO3)粉末0.2391g及び塩基性炭酸ニッケル0.2510gを加え、モル比でLi:Ni:Mn:Mo=42:5:5:8に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発乾固させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0063】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP−MS(SIIナノテクノロジー社製SPQ−9100型)により各元素の含有量を測定し、組成(x、y、z)=(42/60、10/60、8/60)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法で測定したところ、6であることが確認された。
【0064】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を図5に示す。また、T. Betz and R. Hoppe, Z. Anorg. Allg. Chem., 1984, 512, 19.より引用したLi5ReO6型のLi4/3Ni1/3Mo1/32(シミュレーション)のXRDスペクトルを図5に合わせて示す。当該複合酸化物は、Li5ReO6のRe7+のサイトがMo+6に、Li+のサイトがNiに置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。なお、MnはLi+及びRe7+のいずれのサイトにも置換している可能性がある。
【0065】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(200rpm)で12時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0066】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は60℃の温度で、1.5〜4.5Vの範囲で行った。結果を図6に示す。5サイクル後もNi2+/Ni4+の理論容量(151mAh/g)を超えていることが分かる。
【0067】
(実施例4:Li26/40Ni5/40Mn5/40Mo4/40O)
(合成)
【0068】
<No.1: 3重量%過剰Li>
0.64gのLiOH・H2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2544mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液を調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO3)粉末0.3252gを加え、更に炭酸マンガン(MnCO3)粉末0.3490g及び塩基性炭酸ニッケル0.3664gを加え、モル比でLi:Ni:Mn:Mo=26:5:5:4に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0069】
<No.2: 10重量%過剰Li>
0.6840gのLiOH・H2O(重量にして10%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2717mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO3)粉末0.3252gを加え、更に炭酸マンガン(MnCO3)粉末0.3490g及び塩基性炭酸ニッケル0.3664gを加え、モル比でLi:Ni:Mn:Mo=26:5:5:4に対してLiが重量比で10%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0070】
(組成)
得られたNo.1及びNo.2の複合酸化物について、ICP−MS(SIIナノテクノロジー社製SPQ−9100型)により各元素の含有量を測定し、いずれも組成(x、y、z)=(26/40、10/40、4/40)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線吸収分光法で測定したところ、いずれも6であることが確認された。
【0071】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られたNo.1及びNo.2の複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を図12に示す。また、T. Betz and R. Hoppe, Z. Anorg. Allg. Chem., 1984, 512, 19.より引用したLi5ReO6型のLi4/3Ni1/3Mo1/32(シミュレーション)のXRDスペクトルを図12に合わせて示す。当該複合酸化物は、Li5ReO6のRe7+のサイトがMo+6に、Li+のサイトがNiに置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。なお、MnはLi+及びRe7+のいずれのサイトにも置換している可能性がある。
【0072】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)のNo.2とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(200rpm)で12時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0073】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は60℃の温度で、1.5〜4.5Vの範囲で行った。結果を図13に示す。5サイクル後もNi2+/Ni4+の理論容量(151mAh/g)を超えていることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14