【実施例】
【0046】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0047】
(比較例1:Li
4MoO
5)
(合成)
3.43gのLiOH・H
2O(重量にして3%過剰)粉末と酸化モリブデン(MoO
3)粉末2.83gを乳鉢で混合し、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0048】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP(SIIナノテクノロジー社製SPS3520UV)により各元素の含有量を測定し、Li
4MoO
5であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法(アルバック・ファイ株式会社製5600MC)で下記の条件(以下の試験例も同様)で測定したところ、6であることが確認された。
到達真空度:10
-7Pa台
励起源:単色化 AlKa
出力:210W
検出面積:800μmφ
入射角:45度
取り出し角:45度
中和銃:必要に応じて使用
スパッタ条件:イオン種:Ar
+、加速電圧:1〜3kV
【0049】
(結晶構造)
高速一次元検出器(株式会社リガク製 D/teX Ultra)を備えたX線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を
図7に示す。文献(R.Hoppe et al., Z. Anorg. Allg Chem 573 (1989) 157〜169)記載のXRD結果と一致したことから、P−1の結晶構造をもつと考えられる。
【0050】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(600rpm)で24時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0051】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF
6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は室温下、1.0〜5.0Vの範囲で行った。結果を
図8に示す。1サイクル目でも100mAh/gを下回っており、数サイクル繰り返すと容量が0になった。このことから、Li
4MoO
5自体は実用性のある容量を発現することが難しいことが分かる。
【0052】
(実施例1:Li
4/6Ni
1/6Mo
1/6O)
(合成)
0.6700gのLiOH・H
2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2661mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO
3)粉末0.5176gを溶かし、更に塩基性炭酸ニッケル粉末0.4665gを加え、モル比でLi:Ni:Mo=4:1:1に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0053】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP(SIIナノテクノロジー社製SPS3520UV型)により各元素の含有量を測定し、組成(x、y、z)=(4/6、1/6、1/6)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法で測定したところ、6であることが確認された。
【0054】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を
図1に示す。また、T.Betz, R.Hoppe, Z.Anorg.Allg.Chem.512.19-33(1984)より引用したLi
5ReO
6型のLi
4/3Ni
1/3Mo
1/3O
2(シミュレーション)のXRDスペクトルを
図1に合わせて示す。一部に不純物も見られるが、主立ったピークが一致している。当該複合酸化物は、Li
5ReO
6のRe
7+のサイトがMo
6+に、Li
+のサイトが一部Ni
2+に置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。
【0055】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(600rpm)で24時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0056】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF
6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は室温下、1.5〜4.5Vの範囲で行った。結果を
図2に示す。2サイクル目まではNi
2+/Ni
4+の理論容量(193mAh/g)を超えていることが分かる。このことは、O(酸素)が酸化還元に寄与したことを示唆している。また、10サイクル後でも充放電共に100mAh/g以上を示した。更に、充電曲線と放電曲線での電圧差が小さいことからみて、充放電間の分極が小さいことも分かる。
【0057】
(実施例2:Li
22/30Mn
5/30Mo
3/30O)
(合成)
0.8037gのLiOH・H
2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.3192mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO
3)粉末0.3617gを溶かし、更に炭酸マンガン(MnCO
3)粉末0.5175gを加え、モル比でLi:Mn:Mo=22:5:3に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0058】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP(SIIナノテクノロジー社製SPS3520UV型)により各元素の含有量を測定し、組成(x、y、z)=(22/30、5/30、3/30)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法で測定したところ、6であることが確認された。
【0059】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を
図3に示す。また、T. Betz and R. Hoppe, Z. Anorg. Allg. Chem., 1984, 512, 19.より引用したLi
4MoO
5(シミュレーション)のXRDスペクトルを
図3に合わせて示す。一部に不純物も見られるが、主立ったピークが一致している。当該複合酸化物は、Li
4MoO
5の一部のLiと一部のMoのサイトがMnに置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。
【0060】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(200rpm)で12時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0061】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF
6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は室温下、1.5〜4.8Vの範囲で行った。結果を
図4に示す。初回充電容量よりも3サイクル目の充電容量が高く、460mAh/gまで上昇した。
【0062】
(実施例3:Li
42/60Ni
5/60Mn
5/60Mo
8/60O)
(合成)
0.7088gのLiOH・H
2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2815mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO
3)粉末0.4455gを加え、更に炭酸マンガン(MnCO
3)粉末0.2391g及び塩基性炭酸ニッケル0.2510gを加え、モル比でLi:Ni:Mn:Mo=42:5:5:8に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発乾固させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0063】
(組成)
得られた複合酸化物について、ICP−MS(SIIナノテクノロジー社製SPQ−9100型)により各元素の含有量を測定し、組成(x、y、z)=(42/60、10/60、8/60)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線光電子分光法で測定したところ、6であることが確認された。
【0064】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られた複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を
図5に示す。また、T. Betz and R. Hoppe, Z. Anorg. Allg. Chem., 1984, 512, 19.より引用したLi
5ReO
6型のLi
4/3Ni
1/3Mo
1/3O
2(シミュレーション)のXRDスペクトルを
図5に合わせて示す。当該複合酸化物は、Li
5ReO
6のRe
7+のサイトがMo
+6に、Li
+のサイトがNiに置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。なお、MnはLi
+及びRe
7+のいずれのサイトにも置換している可能性がある。
【0065】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(200rpm)で12時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0066】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF
6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は60℃の温度で、1.5〜4.5Vの範囲で行った。結果を
図6に示す。5サイクル後もNi
2+/Ni
4+の理論容量(151mAh/g)を超えていることが分かる。
【0067】
(実施例4:Li
26/40Ni
5/40Mn
5/40Mo
4/40O)
(合成)
【0068】
<No.1: 3重量%過剰Li>
0.64gのLiOH・H
2O(重量にして3%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2544mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液を調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO
3)粉末0.3252gを加え、更に炭酸マンガン(MnCO
3)粉末0.3490g及び塩基性炭酸ニッケル0.3664gを加え、モル比でLi:Ni:Mn:Mo=26:5:5:4に対してLiが重量比で3%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0069】
<No.2: 10重量%過剰Li>
0.6840gのLiOH・H
2O(重量にして10%過剰)をイオン交換水60mLに溶かし、0.2717mol/L濃度の水酸化リチウム水溶液60mLを調製した。次いで、当該水酸化リチウム水溶液に酸化モリブデン(MoO
3)粉末0.3252gを加え、更に炭酸マンガン(MnCO
3)粉末0.3490g及び塩基性炭酸ニッケル0.3664gを加え、モル比でLi:Ni:Mn:Mo=26:5:5:4に対してLiが重量比で10%過剰の懸濁液を調整した。この懸濁液をホットスターラーで攪拌後、水分を蒸発させた。
得られた試料を乳鉢で粉末にして、ペレットに成型した後、空気を流しながら小型炉で1050℃に昇温して2時間保持することにより焼成を行った。
【0070】
(組成)
得られたNo.1及びNo.2の複合酸化物について、ICP−MS(SIIナノテクノロジー社製SPQ−9100型)により各元素の含有量を測定し、いずれも組成(x、y、z)=(26/40、10/40、4/40)であることが確認された。また、モリブデンの平均価数をX線吸収分光法で測定したところ、いずれも6であることが確認された。
【0071】
(結晶構造)
X線回折装置(株式会社リガク製MultiFlex)(CuKα線)を用いて、得られたNo.1及びNo.2の複合酸化物のXRDスペクトルを、出力40kV、20mA、スキャン速度8°/min、サンプリング0.02°の条件で分析した。結果を
図12に示す。また、T. Betz and R. Hoppe, Z. Anorg. Allg. Chem., 1984, 512, 19.より引用したLi
5ReO
6型のLi
4/3Ni
1/3Mo
1/3O
2(シミュレーション)のXRDスペクトルを
図12に合わせて示す。当該複合酸化物は、Li
5ReO
6のRe
7+のサイトがMo
+6に、Li
+のサイトがNiに置換された結晶構造をもつと考えられる。また、このことから当該複合酸化物はカチオンの一部がオーダリングした岩塩型構造を持つともいえる。なお、MnはLi
+及びRe
7+のいずれのサイトにも置換している可能性がある。
【0072】
(電池評価)
正極活物質(上で合成した複合酸化物)のNo.2とアセチレンブラック(和光純薬製)を80:20の質量割合で秤量し、乾式ボールミル(200rpm)で12時間混合した。次いで、バインダー(PVDF樹脂:Polysciences製)を有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、先述した正極活物質とアセチレンブラックの混合物を、正極活物質:アセチレンブラック:バインダー=72:18:10(質量比)となるように加えてスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。
【0073】
続いて、対極をLi箔とした評価用の電気化学用セルを作製し、電解液として1M−LiPF
6をEC/DMC(体積比1:1)に溶解したものを用いて、電流密度10mA/gで充放電試験を行った。充放電試験は60℃の温度で、1.5〜4.5Vの範囲で行った。結果を
図13に示す。5サイクル後もNi
2+/Ni
4+の理論容量(151mAh/g)を超えていることが分かる。