特許第6118634号(P6118634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6118634ベーキングパウダ及びその製造方法、並びに、そのベーキングパウダを用いた食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118634
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ベーキングパウダ及びその製造方法、並びに、そのベーキングパウダを用いた食品
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/00 20060101AFI20170410BHJP
   A21D 2/02 20060101ALI20170410BHJP
   A21D 2/12 20060101ALI20170410BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20170410BHJP
【FI】
   A21D2/00
   A21D2/02
   A21D2/12
   !A21D13/08
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-104971(P2013-104971)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-223042(P2014-223042A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 努
(72)【発明者】
【氏名】篠田 栄司
(72)【発明者】
【氏名】千葉 仁司
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−045961(JP,A)
【文献】 特開2011−067195(JP,A)
【文献】 特公昭48−004541(JP,B1)
【文献】 米国特許第06312741(US,B1)
【文献】 欧州特許出願公開第02570030(EP,A1)
【文献】 特開2013−081386(JP,A)
【文献】 特開2000−210049(JP,A)
【文献】 特開2001−286255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
A23D 7/00−9/06
A23L 5/00−5/30
A23L 29/00−29/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FROSTI/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸水素ナトリウムと、中位径100μm以上、融点55℃〜75℃の油脂でコーティングされた酸性剤を含むベーキングパウダであって、
前記酸性剤は、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤からなり、前記1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤の表面が前記1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤を含む前記油脂でコーティングされてなることを特徴とするベーキングパウダ。
【請求項2】
前記1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と前記1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤との重量比率が5:1〜1:1であることを特徴とする請求項1に記載のベーキングパウダ。
【請求項3】
1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と、1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤と、中位径100μm以上、融点55℃〜75℃の油脂を前記融点以下で撹拌した後、炭酸水素ナトリウムを加えるベーキングパウダの製造方法。
【請求項4】
前記1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と前記1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤との重量比率が5:1〜1:1であることを特徴とする請求項3に記載のベーキングパウダの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のベーキングパウダを用いて食品を製造する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーキングパウダ及びその製造方法、並びに、そのベーキングパウダを用いた食品に関する。特に、コーティング剤でコーティングされた酸性剤を含む遅効性のベーキングパウダ及びその製造方法、並びに、そのベーキングパウダを用いた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーキングパウダは、膨張剤の一種であり、炭酸ガスを発生する主剤の炭酸水素ナトリウム(重曹)と、主剤に反応してガス発生の速度を調整する助剤として作用する焼きミョウバン、フマル酸、酒石酸ナトリウム等の酸性剤と、保存中に主剤と助剤が反応しないよう濃度を適正にして保存性を高める小麦粉、澱粉のような賦形剤からなる食品添加物である。
膨張剤には、酸性剤により炭酸ガスの発生時間を制御し、低い温度で大量のガスを発生させる即効性のもの、高い温度になってから大量のガスを発生させる遅効性のもの、じっくり焼き上げるために長い加熱時間に耐えられる持続性のもの等があることが知られている。そのうち、遅効性のベーキングパウダの酸性剤としては、従来、焼きミョウバンがよく使用されていたものの、それにはアルミニウムが含まれるため、近年、その使用が敬遠される傾向にある。
そこで、その代替品として、ベーキングパウダの成分粒子をコーティング剤でコーティングすることにより、遅効性を得る試みがいくつか提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベーキングパウダ原料とシュガーエステルのような高融点油脂を、70〜85℃という融点以上の温度で混合、撹拌し、ベーキングパウダ原料を油脂でコーティングする方法が示されている。
また、特許文献2には、1種の酸性剤と硬化菜種油のような高融点油脂とを融点以下の温度で混合、撹拌して接触衝突させ、酸性剤表面を油脂でコーティングする方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−333591号公報
【特許文献2】特開2011−67195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の製造方法は、ベーキングパウダ原料と油脂を混合する際、高温に加熱するため、主剤である炭酸水素ナトリウムが酸性剤によらず炭酸ガスと水に自己分解してしまう上、さらに、そこで溶出された水により分解反応をさらに進めてしまい、ベーキングパウダの炭酸ガス発生量等の品質が大幅に低下してしまうという問題がある。
また、高温に加熱して溶融した油脂とベーキングパウダ原料との混合物を撹拌、冷却する際、固体に戻る油脂を撹拌で分散させることができず、最終的に得られるベーキングパウダ中に中位径1mm以上の混合物粒子を生じさせてしまう。そのため、このベーキングパウダに加水して得られた生地には、水に溶けない中位径1mm以上の粒子が残ってしまい、二次加工に悪影響を与えるという問題がある。
また、特許文献1の製造方法は、ベーキングパウダ原料、すなわち、炭酸水素ナトリウムや酸性剤だけでなく、本来、コーティングの必要性がない賦形剤までコーティングしているため、油脂の使用に無駄が多いという問題がある。
【0006】
特許文献2の製造方法では、コーティングされる酸性剤の種類により、油脂を酸性剤表面にうまくコーティングすることが出来ず、目的とする遅効性のベーキングパウダが得られない場合があるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点を解消し、酸性剤の種類によらず、油脂を酸性剤にコーティングすることができ、目的とする遅効性を有する、品質の良いベーキングパウダ及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記ベーキングパウダを用いて製造される食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るベーキングパウダは、炭酸水素ナトリウムと、中位径100μm以上、融点55℃〜75℃の油脂でコーティングされた酸性剤を含むベーキングパウダであって、酸性剤は、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤とからなり、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤の表面が1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤を含む油脂でコーティングされてなるものである。
【0009】
1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤との重量比率は、5:1〜1:1であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るベーキングパウダの製造方法は、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と、1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤と、中位径100μm以上、融点55℃〜75℃の油脂を前記融点以下で撹拌した後、炭酸水素ナトリウムを加えるものである。
【0011】
1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤との重量比率は、5:1〜1:1であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る食品の製造方法は、上記ベーキングパウダを用いて製造するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベーキングパウダにより、ガス発生の時間や温度をより厳密に制御することが可能な遅効性ベーキングパウダを提供することができる。
また、本発明のベーキングパウダの製造方法により、酸性剤の中位径の大きさにかかわらず、油脂を酸性剤の表面全面にコーティングすることができる。
また、本発明のベーキングパウダを用いることにより、食感の良い食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の一実施形態に係る油脂コーティングの反応を説明するための図である。
図2】ベーキングパウダを用いて製造された生地の内部構造を示す図であり、(A)がこの発明の一実施形態に係るベーキングパウダを用いた場合、(B)が油脂コーティングしていない粗粒子酸性剤と微粒子酸性剤を含むベーキングパウダを用いた場合、(C)が油脂コーティングされた粗粒子酸性剤と、油脂コーティングされていない微粒子酸性剤を含むベーキングパウダを用いた場合を示す。
図3】(A)は、30℃におけるガス発生量の結果を示す図であり、(B)は、50℃におけるガス発生量の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0016】
まず、図1を参照して、この発明の一実施形態に係るベーキングパウダの製造方法を説明する。
この実施形態のベーキングパウダの製造方法は、まず、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と、1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤と、中位径100μm以上、融点55℃〜75℃の粉末状の油脂を、その油脂の融点以下の温度で撹拌して、油脂が酸性剤にコーティングされた後、炭酸水素ナトリウムを加えるものである。
【0017】
ここで、酸性剤とは、食品に添加可能で、常温で固体である酸またはその塩からなるものであり、例えば、アジピン酸、L‐アスコルビン酸、塩化アンモニウム、クエン酸、クエン酸カルシウム、グルコノデルタラクトン、DL‐酒石酸、L‐酒石酸、DL‐酒石酸水素カリウム、L‐酒石酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム(無水)、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、乳酸、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸カルシウム、DL‐リンゴ酸、DL‐リンゴ酸ナトリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムが挙げられる。
【0018】
本発明者らは、高融点油脂を酸性剤表面にコーティングする方法について鋭意研究したところ、酸性剤の中位径が油脂の中位径よりも小さい場合、油脂の表面に酸性剤がコーティングされてしまい、所望する遅効性が得られないことを見出すとともに、油脂の大きさと対等またはそれ以上の酸性剤に油脂を混合させなければ、酸性剤の表面に油脂をコーティングすることができないことを知見した。
そのため、酸性剤の粗粒子と微粒子を区分する中位径は、コーティング剤として使用する高融点油脂の中位径に対する相対的な値であればよいが、100μmで区分することが好ましい。融点55〜75℃の油脂は、粉砕の際に生じる熱により溶けやすいため、中位径200μm未満の粒子にすることは工業的に難しく、中位径100μm未満の粒子を市場で安価に入手することはできない。そのため、実質的に中位径100μm以上の酸性剤粒子を含んでいれば、酸性剤の表面に油脂をコーティングすることができるからである。
【0019】
市販されている酸性剤において、中位径が100μm以上の酸性剤としては、例えば、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコノデルタラクトン、酒石酸などの有機酸およびその塩、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カリウム、炭酸カリウムなどの無機塩等が挙げられる。
また、中位径が100μm未満の酸性剤としては、例えば、フマル酸ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、L酒石酸水素カリウムなどの有機酸およびその塩、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カリウム、炭酸カリウムなどの無機塩等が挙げられる。
【0020】
中位径100μm以上、融点55〜75℃の粉末状の油脂の具体例としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、不飽和脂肪酸を含む液状の油脂(例えば、菜種油、パーム油、大豆油、綿実油、コーン油、牛脂、ラード等)に水素添加処理を行って飽和脂肪酸量を増やし固形化したもの、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤等が挙げられる。
【0021】
中位径100μm以上の酸性剤と、中位径100μm未満の酸性剤と、中位径100μm以上、融点55〜75℃の粉末状の油脂をその油脂の融点以下で混合撹拌することにより、図1に示されるような油脂コーティング反応が起こる。
まず、図1(A)に示されるように、中位径100μm以上の酸性剤粗粒子と、中位径100μm未満の酸性剤微粒子と、粉末状の中位径100μm以上の油脂とを混合し、その油脂の融点以下の温度で撹拌し始めると、酸性剤粗粒子と油脂粒子とが衝突し、局所的に発熱(ホットスポット)が生じる。次いで、ここで生じた熱により油脂粒子の一部が溶融し、図1(B)に示されるように、酸性剤粗粒子の表面に付着する。次いで、このような酸性剤粗粒子と油脂粒子との衝突が何度も繰り返されることにより、油脂が酸性剤粗粒子の表面に次々と付着していく。また、このような付着過程において、酸性剤微粒子が油脂内に取り込まれ、酸性剤微粒子も油脂により被覆される。その結果、図1(C)に示されるように、酸性剤粗粒子の表面全面に、酸性剤微粒子を含む油脂がコーティングされる。
【0022】
このようなコーティングを行うことにより、中位径が100μm以上の酸性剤の表面だけでなく、100μm未満の酸性剤粒子も油脂により被覆させることができる。
また、コーティングする油脂をその融点以下の温度で混合撹拌するため、ベーキングパウダ中に、水に溶けない1mm以上の粒子を生じさせることもなく、二次加工に悪影響を与えることもない。
【0023】
なお、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤との重量比率は、5:1〜1:1であることが好ましい。このような重量比率であれば、酸性剤粒子の表面全面にムラなく油脂をコーティングすることができる。また、酸性剤粒子により油脂表面をコーティングしてしまうこともない。
また、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤からなる酸性剤と、高融点油脂との重量比率は、20:1〜10:1であることが好ましい。より好ましくは、17:1〜11:1であることが好ましい。このような重量比率であれば、酸性剤を油脂でコーティングすることができる。
【0024】
また、酸性剤は、中位径や溶融速度のような特性の異なる酸性剤を複数種類、混合することが好ましい。各酸性剤を油脂で被覆することもできるため、ガスを発生させる時間や温度を細かく調節することができる。また、その結果、目的とする遅効性をより厳密に制御することができる。
【0025】
このような製造方法で得られたベーキングパウダは、図1(C)に示されるように、炭酸水素ナトリウムと、中位径100μm以上、融点55℃〜75℃の油脂でコーティングされた酸性剤を含むベーキングパウダであって、酸性剤は、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤とからなり、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤の表面が1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤を含む油脂でコーティングされてなるものである。
【0026】
酸性剤が、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤とからなり、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤の表面が1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤を含む油脂でコーティングされていることにより、この酸性剤を含むベーキングパウダを用いて食品を製造した場合、食品の食感を良くすることができる。
【0027】
ここで、食品の食感を「火抜け」という特性で評価する場合があるが、まず、この「火抜け」について説明する。「火抜け」とは、焼きあがったスポンジ状生地内部の空洞を高温の蒸気が通り抜け、まだ焼きあがっていない生地の部分に熱が伝わる伝わりやすさのことをいう。例えば、ホットプレートでホットケーキを調理する場合、下面から除々に焼きあがっていくが、蒸気がその焼きあがったスポンジ状組織内を通り抜けることができないと、中層部に熱が伝わらず、生焼けになってしまうが、そのような状態を「火抜けが悪い」という。
この「火抜け」という特性は、例えば、ホットケーキのような食品の生地を作成する際、小麦粉の糊化が開始される温度(60度)前後におけるガス発生具合が大きく影響する。
【0028】
この実施形態のベーキングパウダにおいては、中位径100μm以上の酸性剤と中位径100μm未満の酸性剤がコーティングされているため、生地を作成する際、小麦粉の糊化が開始される温度前後までガス発生を遅らせることができる。また、中位径100μm以上の酸性剤は大きな気泡を発生させ、中位径100μm未満の酸性剤は小さな気泡を多数発生させるため、図2(A)に示されるように、多数の小さな気泡を含み、大きな気泡同士が小さな気泡で接合されたスポンジ状構造をもつ生地をつくることができる。このようなスポンジ状構造であれば、主体である大きな気泡同士の壁を蒸気が通り抜けることができる通路が確保されているため、火抜けを良くすることができる。また、生地中に小さな気泡が多く存在することで、より軽い食感を与えることもできる。
【0029】
一方、いずれの酸性剤にもコーティングを施していないベーキングパウダを用いた場合は、小麦粉の糊化が開始される温度前後でのガス発生が十分に行われず、図2(B)に示されるように、大きな気泡同士すら繋がっていないスポンジ状構造になってしまう。
また、中位径100μm以上の酸性剤のみコーティングされたベーキングパウダを用いた場合は、小さな気泡の発生が小麦粉の糊化が開始される温度前後で十分に行われず、スポンジ状組織の中に小さな気泡を残すことができないため、図2(C)に示されるように、大きな気泡同士が接合しただけのスポンジ状構造となってしまう。
【0030】
また、この実施形態においては、複数種類の酸性剤を用いることができ、また、各酸性剤を油脂で被覆することもできるため、ガスを発生させる時間や温度を細かく調節することができる。また、その結果、目的とする遅効性をより厳密に制御することができる。
【0031】
なお、この実施形態においては、1種類以上の100μm以上の酸性剤と1種類以上の100μm未満の酸性剤の重量比率は、5:1〜1:1であることが好ましい。このような重量比率であれば、火抜けがよく食感の良い食品を得ることができる。
また、1種類以上の中位径100μm以上の酸性剤と1種類以上の中位径100μm未満の酸性剤からなる酸性剤と、高融点油脂との重量比率は、20:1〜10:1であることが好ましい。より好ましくは、17:1〜11:1であることが好ましい。このような重量比率であれば、所望する遅効性を得ることができる。
【0032】
また、1種類以上の100μm以上の酸性剤と1種類以上の100μm未満の酸性剤として、ガスの発生を遅らせる時間やガスが発生する温度が異なる酸性剤を種々に組み合わせることができるため、食品の種類や特性にあわせて、より厳密にガスの発生の時間や温度を制御することができる。
【0033】
なお、この実施形態では、炭酸水素ナトリウムと油脂コーティングされた酸性剤からなるものをベーキングパウダとしたが、これに限定されず、保存性を高めるために、小麦粉やコーンスターチ(澱粉)等の賦形剤を含ませることもできる。
【0034】
この実施形態にかかるベーキングパウダは、通常、遅効性ベーキングパウダが用いられる食品であれば、特に限定されず、使用することができる。通常、遅効性ベーキングパウダが用いられる食品の具体例としては、ドーナツ類などの揚げ菓子類、蒸しパン類、マフィン、パウンドケーキ、スポンジケーキ等のケーキ類、シュー菓子類、クッキー類、今川焼、どら焼きなどの和菓子類、天ぷら等の揚げ物類、お好み焼き、たこ焼き等の食品が挙げられる。
【0035】
この実施形態にかかるベーキングパウダは、上述したような食品を調理するのに適したミックス粉の原料としても使用することもできる。
【0036】
以上、本発明に係る食品の包装方法について詳細に説明したが、本発明はこの実施形態には限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
下記表1に示す重量割合で、100μm以上の酸性剤であるフマル酸(中位径:180μm)及びグルコノデルタラクトン(中位径:170μm)と、100μm未満の酸性剤であるリン酸二水素カルシウム(中位径:34μm)と、100μm以上の高級脂肪酸(ステアリン酸:中位径:320μm)とを混合したものを、縦型混合機(槽内径:200nm)に入れ、撹拌羽根回転数:2000rpmにて、粉温50〜55℃に達するまで撹拌して、酸性剤に油脂コーティングを行った。
次いで、下記表1に示す重量割合で、重曹(炭酸水素ナトリウム)と、賦形剤であるコーンスターチを加えて、実施例1のベーキングパウダを製造した。
【0038】
【表1】
【0039】
(比較例1)
高級脂肪酸(ステアリン酸)を加えなかった以外は、実施例1と同様の方法で比較例1のベーキングパウダを製造した。
【0040】
(比較例2)
表1に示す重量割合で、各酸性剤をそれぞれ単独で、高級脂肪酸(ステアリン酸)と混合し、実施例1と同じ条件で撹拌し油脂コーティングした後、油脂コーティングされた各酸性剤を混合した。
次いで、表1に示す重量割合で、重曹と、賦形剤であるコーンスターチを加えて、比較例2のベーキングパウダを製造した。
【0041】
実施例1、比較例1及び比較例2で得られたベーキングパウダは、下記のようにして、ガス発生量の測定をおこなうとともに、これらベーキングパウダを用いてホットケーキを作成し、その評価を行った。
【0042】
(1)ガス発生量の測定
実施例1、比較例1及び比較例2で得られたベーキングパウダ4gをウォーターバスに浸漬された容器内の一定の温度に維持された水100mlに投入してガス発生を促し、ガス発生量の経時変化を測定した。この結果を表2、図3(A)、(B)に示す。図3(A)及び(B)の縦軸は、ガス発生量(ml)を示し、横軸は、経過時間(秒)を示す。図3(A)は、容器内の水を30℃に維持した場合、図3(B)は、50℃に維持した場合を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2及び図3に示されるように、100μm以上の酸性剤と100μm未満の酸性剤の両方を油脂コーティングした実施例は、図3(A)の30℃である場合でも、図3(B)の50℃である場合でも、比較例1及び2に比べてガス発生量が少なく、温度が上昇するにつれて除々にガス発生量が増加していることが確認された。
【0045】
(2)二次加工試験(製菓試験結果)
まず、実施例1、比較例1及び比較例2で得られたベーキングパウダを用いて、下記のように、ホットケーキを調理し、作成したホットケーキについて、三段階で評価した。
具体的には、小麦粉100g、砂糖30g、ブドウ糖10g、脱脂粉乳5g、油脂10gからなる粉体48g、ベーキングパウダ2g、水33g及び全卵17gを混合し、得られた生地を170℃に加熱した銅板上にて片面3分間焼成した後、反転してもう片方の面を3分間焼成した。
作成したホットケーキは、「火抜け」の具合を、三段階(優:○ 、中間:△、劣:×)で評価した。
このような各実施例及び比較例のホットケーキの食感の官能評価の結果を、先述したガス発生量(ml)の結果の一部とともに、下記表3に示す。
【0046】
【表3】

(ホットケーキ評価コメント)
実施例1:内層は縦目で歯切れが良い、食感としてはソフト感、軽さが感じられ、火抜けが良い。
比較例1:内層は丸めで歯切れが悪い、しっとりした食感で火抜けが悪い。
比較例2:内層はやや丸め、しっとりとした食感でやや火抜けが悪い。
【0047】
表3に示されているように、中位径100μm以上の酸性剤と中位径100μm未満の酸性剤のいずれにも油脂がコーティングされた実施例は、30℃及び50℃におけるガス発生量が比較例1や2に比べて少なく、ある程度、温度が上昇した、小麦粉の糊化開始温度(60度)前後において、大きい気泡や小さな気泡の発生が多く行われたと考えられる。そのため、生地内部において、図2(A)に示されるように、大きな気泡同士の壁に蒸気が通り抜けることができる通路が確保され、火抜けが良くなり、また、より軽い食感を得ることができたと考えられる。
また、表3から、酸性剤に油脂コーティングを行った実施例や比較例2に比べ、酸性剤が油脂コーティングされていない比較例1は30℃及び50℃におけるガス発生量が多いことがわかる。そのため、比較例1では、ホットケーキの食感に大きく影響する小麦粉の糊化開始温度60度前後でのガス発生が十分行われず、図2(B)に示されるように、生地内部において、気泡同士がつながっていないスポンジ状の構造に焼きあがってしまうため、蒸気が通りぬけず、火抜けが悪くなってしまったと考えられる。
一方、酸性剤に油脂コーティングが行われた実施例及び比較例2は、比較例1に比べて、小麦粉の糊化開始温度60度前後でのガス発生が多く、図2(A)や(C)に示されるように、気泡同士が接合したスポンジ構造が形成される。そのため、比較例1に比べて、火抜けが良く、食感の評価がよいと考えられる。
比較例2は、各酸性剤をそれぞれ単独で油脂コーティングを行う処理はしたものの、100μm未満の酸性剤の表面のコーティングが上手く行われなかったと考えられる。そのため、小麦粉の糊化開始温度60度前後での小さな気泡を生じさせるガス発生が十分行われず、図2(C)に示されるように、気泡同士の接合が十分に行われなかったため、実施例よりも食感が劣っていると考えられる。
【0048】
以上、本発明に係るベーキングパウダ及びその製造方法、並びに、そのベーキングパウダを用いた食品について一実施形態を挙げて詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行っても良いのはもちろんである。
図1
図2
図3