特許第6133749号(P6133749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133749酸化鉄ナノ磁性粒子粉およびその製造方法、当該酸化鉄ナノ磁性粒子粉を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133749
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】酸化鉄ナノ磁性粒子粉およびその製造方法、当該酸化鉄ナノ磁性粒子粉を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/06 20060101AFI20170515BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20170515BHJP
   H01F 10/20 20060101ALI20170515BHJP
   H01F 41/22 20060101ALI20170515BHJP
   B82Y 25/00 20110101ALI20170515BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20170515BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20170515BHJP
【FI】
   C01G49/06 Z
   H01F1/11
   H01F10/20
   H01F41/22
   B82Y25/00
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-213154(P2013-213154)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-224027(P2014-224027A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-94467(P2013-94467)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】吉清 まりえ
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】所 裕子
(72)【発明者】
【氏名】太郎良 和香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−063199(JP,A)
【文献】 特開2008−063201(JP,A)
【文献】 特開2008−063200(JP,A)
【文献】 特開2008−100871(JP,A)
【文献】 特開2009−206476(JP,A)
【文献】 S.PONCE-CASTANEDA et al.,Jouranl of Sol-Gel Science and Technology,2003年,Vol.27,p.247-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/06
H01F 10/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単相ε−Feであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子からなることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子粉。
【請求項2】
前記単相ε−Feが、置換元素を含んでいないことを特徴とする請求項1に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉。
【請求項3】
保磁力が0.35kOe以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉と、SiOからなることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜。
【請求項5】
単相ε−Feであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子からなる酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法であって、
平均粒径15nm以下のβ―FeO(OH)と純水を混合し、Fe換算濃度0.01モル/L〜1モル/Lの分散液を調製し、前記β―FeO(OH)1モルあたり3〜30モルのアンモニアをアンモニア水溶液の滴下により添加し、0〜100℃攪拌、さらに前記β―FeO(OH)1モルあたり0.5〜15モルのテトラエトキシシランを滴下し、15〜30時間で攪拌した後、室温まで放冷、その後、前記β―FeO(OH)1モルあたり1〜30モルの硫酸アンモニウムを加えて沈殿を析出させ、採集し、純水で洗浄、乾燥、粉砕し、粉砕物を得、前記粉砕物を酸性雰囲気下、900〜1200℃未満、0.5〜10時間熱処理し、解粒処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して攪拌することでシリコン酸化物を除去して、酸化鉄ナノ磁性粒子粉を得ることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法。
【請求項6】
前記酸化性雰囲気として大気を用いることを特徴とする請求項5に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法。
【請求項7】
前記β−FeO(OH)ナノ微粒子として、平均粒径15nm以下のものを用いることを特徴とする請求項5または6に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法。
【請求項8】
単相ε−Feであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法であって、
平均粒径15nm以下のβ―FeO(OH)と純水を混合し、Fe換算濃度0.01モル/L〜1モル/Lの分散液を調製し、前記β―FeO(OH)1モルあたり3〜30モルのアンモニアをアンモニア水溶液の滴下により添加し、0〜100℃攪拌、さらに前記β―FeO(OH)1モルあたり0.5〜15モルのテトラエトキシシランを滴下し、15〜30時間で攪拌した後、室温まで放冷してシリコン酸化物で被覆したβ−FeO(OH)ナノ微粒子を含む分散液を得、
当該分散液を基板上に塗布した後に、酸化性雰囲気下で900℃〜1200℃未満、0.5〜10時間の熱処理することで酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜を得ることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記酸化性雰囲気として大気を用いることを特徴とする請求項8に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録媒体や電磁波吸収に用いられる酸化鉄ナノ磁性粒子粉およびその製造方法、当該酸化鉄ナノ磁性粒子粉を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ε−Fe相は酸化鉄の中でも極めて稀な相であるが、本発明者らは2004年に、逆ミセル法とゾルゲル法を用いた化学的ナノ微粒子合成法により初めて単相としてこれを得た。そして、得られたε−Fe相は、室温において20kOe(1.59×10A/m)という巨大な保磁力を示すことを見出した。これは酸化物磁性体最大の値であった。また、当該ε−Fe相は、182GHzという非常に高い周波数において自然共鳴現象による電磁波吸収を示すことも見出し、これは、磁性体最高の吸収周波数であった。このように、当該ε−Fe相は巨大な磁気異方性を有する。
本発明者らは特許文献1として、金属置換型ε−MFe(2-x)相を有する微粒子を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−174405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高密度磁気記録という観点から、粒径の小さい磁性材料の開発は非常に重要である。しかしながら、従来の磁性フェライトは磁気異方性が小さいため、粒径が10nm以下の微粒子になると強磁性の特性が失われてしまう。
一方、磁気記録媒体用途の磁性材料は、記録の高密度化のために粒径が小さいことが望まれると伴に、記録媒体において良好な保磁力分布(SFD)を得るために、粒径のバラツキが小さいことが望まれる。
これまで、金属置換型ε酸化鉄(ε−MFe(2-x))では単相のε酸化鉄は合成可能であったが、金属置換元素を含まない単相のε−Feは合成が難しいことが知られており、例えば、通常のゾルゲル法では単相が得られないと考えられていた。
さらに、磁気記録媒体の記録密度を高めるためには、前述の通り、微粒子化が必須となる。しかし、当該微粒子化に伴って、保磁力が大幅に低下してしまうという問題があった。一般的に、ε酸化鉄へ置換元素Mを添加すると保磁力は低下してしまうため、置換元素を含まないε酸化鉄を合成できれば、微粒子でかつ高保磁力を有する磁性粉を得られることが期待できる。さらに、α酸化鉄やγ酸化鉄などの異相が析出すると、保磁力が著しく低下してしまう場合がある。そこで、α酸化鉄やγ酸化鉄などの異相の析出を、保磁力が低下しない水準に抑制し、ε酸化鉄を合成することが望ましいことに想到した。
【0005】
さらに、当該置換元素を含まないε酸化鉄は、特異な磁気的特性を有し、磁気記録材料および磁気光学材料としての展開が期待される。当該展開の為には、単相のε−Feを含む薄膜を得ることが求められる。
【0006】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、15nm以下、好ましくは10nm以下の平均粒径でも強磁性の特性を有する酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉、および、その製造方法を提供することである。さらに、当該酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決する為、本発明者らが研究を行った結果、ε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉であれば、平均粒径が15nm以下さらには10nm以下であっても強磁性の特性を有し、高密度磁気記録材料としての適用が可能になることを知見した。
【0008】
一方、従来の技術に係る、ε−Fe相を有する微粒子粉を得る合成法として、
(1)逆ミセル法とゾルゲル法の組み合わせによる合成法(ロッド型のε−Fe相を有する結晶)、
(2)メソポーラスシリカを鋳型に用いたナノ微粒子合成法、が挙げられる。
しかし、いずれの合成法においても少量の試料しか得られず、得られる酸化鉄ナノ磁性粒子の平均粒径も25nmより大きい。
また、ε−Fe相を主相とする酸化鉄ナノ磁性粒子粉の合成法としては、
(3)ゾルゲル法による合成法、
(4)立方晶酸化鉄をシリコン酸化物で覆われた状態において熱処理する合成法、等の報告があるが、生成する酸化鉄ナノ磁性粒子にはα−Fe相などの磁気特性を低下させる不純物相が含まれる。
以上の課題を解決する為、本発明者等らが研究を行った結果、出発原料として、β−FeO(OH)(酸化水酸化鉄)ナノ微粒子を用い、当該(酸化水酸化鉄)ナノ微粒子をシリコン酸化物で覆って大気雰囲気下で熱処理することで、単相のε−Fe相であり、平均粒径15nm以下、さらには10nm以下の酸化鉄ナノ磁性粒子が生成することを知見した。
【0009】
さらに、上述した(酸化水酸化鉄)ナノ微粒子をシリコン酸化物で覆ったものを、適宜な基板上に塗布して熱処理を加えることで、単相ナノサイズのε−Fe相を有する微粒子粉を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜を得ることが出来ることにも想到し、本発明を完成したものである。
【0010】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
単相ε−Feであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子からなることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子粉である。
第2の発明は、
前記単相ε−Feが、置換元素を含んでいないことを特徴とする第1の発明に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉である。
第3の発明は、
保磁力が0.35kOe以上であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉である。
第4の発明は、
第1から第3の発明のいずれかに記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉と、SiOからなることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜である。
第5の発明は、
単相ε−Feであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子からなる酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法であって、
平均粒径15nm以下のβ―FeO(OH)と純水を混合し、Fe換算濃度0.01モル/L〜1モル/Lの分散液を調製し、前記β―FeO(OH)1モルあたり3〜30モルのアンモニアをアンモニア水溶液の滴下により添加し、0〜100℃攪拌、さらに前記β―FeO(OH)1モルあたり0.5〜15モルのテトラエトキシシランを滴下し、15〜30時間で攪拌した後、室温まで放冷、その後、前記β―FeO(OH)1モルあたり1〜30モルの硫酸アンモニウムを加えて沈殿を析出させ、採集し、純水で洗浄、乾燥、粉砕し、粉砕物を得、前記粉砕物を酸性雰囲気下、900〜1200℃未満、0.5〜10時間熱処理し、解粒処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して攪拌することでシリコン酸化物を除去して、酸化鉄ナノ磁性粒子粉を得ることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法である。
第6の発明は、
前記酸化性雰囲気として大気を用いることを特徴とする第5の発明に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法である。
第7の発明は、
前記β−FeO(OH)ナノ微粒子として、平均粒径15nm以下のものを用いることを特徴とする第5または第6の発明に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法である。
第8の発明は、
単相ε−Feであって、平均粒径が15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法であって、
平均粒径15nm以下のβ―FeO(OH)と純水を混合し、Fe換算濃度0.01モル/L〜1モル/Lの分散液を調製し、前記β―FeO(OH)1モルあたり3〜30モルのアンモニアをアンモニア水溶液の滴下により添加し、0〜100℃攪拌、さらに前記β―FeO(OH)1モルあたり0.5〜15モルのテトラエトキシシランを滴下し、15〜30時間で攪拌した後、室温まで放冷してシリコン酸化物で被覆したβ−FeO(OH)ナノ微粒子を含む分散液を得、
当該分散液を基板上に塗布した後に、酸化性雰囲気下で900℃〜1200℃未満、0.5〜10時間の熱処理することで酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜を得ることを特徴とする酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法である。
第9の発明は、
前記酸化性雰囲気として大気を用いることを特徴とする第8の発明に記載の酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉は、平均粒径15nm以下でありながら、保磁力が0.35kOe以上と、優れた磁気特性を有していた。
さらに、高密度磁気記録材料および磁気光学材料としての展開という観点から、最適と考えられる平均粒径を有する単相ナノサイズのε−Fe相を有する微粒子を含む、酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法の概念図である。
図2】ε−Fe相、α−Fe相、およびγ−Fe相の結晶構造の模式的な概念図である。
図3】実施例に係る試料のX線回折(XRD)パターンである。
図4】実施例に係る試料のXRDパターンに対するリートベルト解析結果である。
図5】実施例に係る試料のTEM写真である。
図6】実施例に係る試料の粒径のバラツキを示すグラフである。
図7】実施例に係る試料の磁化−外部磁場曲線を示すグラフである。
図8】本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉における平均粒径と保磁力との関係を示すグラフである。
図9】酸化鉄ナノ磁性粒子粉における保磁力の粒径依存性を示す模式的なグラフである。
図10】本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の合成方法を示す模式図である。
図11】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜のXRDパターンおよびリートベルト解析結果である。
図12】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の外観である。
図13】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜断面SEM写真である。
図14】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜断面の模式図である。
図15】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜のUV−visスペクトルの透過率を示すグラフである。
図16】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜のUV−visスペクトルの吸光度を示すグラフである。
図17】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の室温におけるファラデー楕円率(FE)の波長依存性を示すグラフである。
図18】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の室温におけるファラデー回転角(FR)の波長依存性を示すグラフである。
図19】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の、波長390nmにおける、ファラデー楕円率の外部磁場依存性を示すグラフである。
図20】実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜における、磁化−外部磁場曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子と酸化鉄ナノ磁性粒子粉)
本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉は、ε−Fe相の単相で、平均粒径15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉である。ここで、ε−Fe相、後述するα−Fe相およびγ−Fe相の有する構造の模式的な概念図を図2に示す。尚、図2において、大きい黒色の球は鉄イオンを示し、小さい灰色の球は酸素イオンを示している。
次に、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の実施例試料1〜4のX線粉末回折(XRD)パターンを図3に示す。尚、図3において、黒いバーはε−Fe相のピークを示し、丸印はγ−Fe相のピークを示している。
尚、当該試料1は後述する実施例1に係る試料であって製造工程において、950℃焼成されたものであり、試料2は後述する実施例2に係る試料であって1000℃焼成されたものであり、試料3は後述する実施例3に係る試料であって1020℃焼成されたものであり、試料4は後述する実施例4に係る試料であって1026℃焼成されたものであり、比較例試料は後述する比較例1に係る試料であって1000℃焼成されたものである。
【0014】
各試料のXRDパターンのリートベルト解析を行ったところ、試料1〜4においてε−Fe相が100%であり、比較例試料ではε−Fe相が66%、γ−Fe相が34%であることが判明した。即ち、試料1〜4はε−Fe単相の酸化鉄ナノ磁性粒子粉であることが判明した。尚、当該試料1〜4、比較例試料のXRDパターンに対するリートベルト解析結果を図4に示す。尚、図4において、黒いドットは観測値を示し、黒線は解析値を示し、灰色線は観測値と解析値との差分を示し、黒いバーはε−Fe相のブラッグピーク位置を示している。
以上の結果から、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉を構成する酸化鉄ナノ磁性粒子のε−Fe相は、Fe以外の金属元素を置換元素として含有していないことが理解できる。
【0015】
次に、実施例試料1〜4、比較例試料について透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行ったところ、実施例試料1〜4においては、球状の酸化鉄ナノ磁性粒子が観察された。尚、当該実施例試料1〜4、比較例試料のTEM写真を図5に示す。
また、実施例試料1〜3において、平均粒径は5.2〜9.4nmと15nm以下であり、粒径のバラツキは±1.7〜2.8nmと小さいものであり、実施例試料4は平均粒径10.6nmであり、粒径のバラツキは±3.3nmであった。尚、当該実施例試料1〜4、比較例試料の粒径のバラツキを示すグラフを図6に示す。
【0016】
次に、実施例試料1〜3について、300Kにおける磁化−外部磁場曲線測定したところ飽和磁化は10.8〜13.3emu/g、保磁力は0.35〜3.5kOe、残留磁化は0.6〜4.0emu/gであり、実施例試料4の飽和磁化は14.1emu/g、保磁力は6.7kOe、残留磁化は5.2emu/gであり、いずれも強磁性体であることが判明した。尚、当該実施例試料1〜4、比較例試料の磁化−外部磁場曲線を示すグラフを図7に示す。
【0017】
本発明に係る実施例試料1〜4、比較例試料の酸化鉄ナノ磁性粒子粉における平均粒径と保磁力との関係を示すグラフである図8に示す。各試料の平均粒径に対する保磁力のプロットより、平均粒径の減少に伴い保磁力も小さくなることが判明した。当該図8のプロットは、保磁力の粒径依存性を示していると考えられる。ここで、比較例試料に対し、実施例試料1〜4は、平均粒径に対して、より高い保磁力を有することが判明した。これは、比較例では異相であるγ−Fe相が生成しており、保磁力が大きく低下したためである。
すなわち、本発明による大きな効果は、平均粒径15nm以下で単相のε−Feの合成を実現し、それによって微粒子でありながら高い保磁力を有するε−Feの合成に初めて成功したものである。
【0018】
図9に示すように、一般的に保磁力には、粒径依存性があることが知られている。粒径を小さくしていくと保磁力は増加し、単磁区構造になったところで最大となる。これは、多磁区構造では磁壁移動が起きるのに対し、単磁区では回転磁化過程のみで磁化するためである。粒径をさらに小さくすると保磁力は減少していき、超常磁性領域では保磁力はゼロとなる。この現象は、粒子が非常に小さくなると熱揺らぎの影響が大きくなり、スピンが反転しやすくなることで説明される。図8で見られる傾向は、図9の単磁区構造の領域で見られる保磁力の減少に対応しており、本発明に係るε−Fe相の磁気異方性が大きいことにより、超常磁性状態に達する粒径が小さく、平均粒径15nm以下、さらには10nm以下の磁性体が得られたと考えられる。
【0019】
(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法)
ここで、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法について、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法の概念図である図1を参照しながら説明する。
平均粒径15nm以下の酸化水酸化鉄(III)ナノ微粒子(β−FeO(OH))と純水とを混合して、鉄(Fe)換算濃度が0.01モル/L以上、1モル/L以下の分散液を調製した。
当該分散液へ、前記酸化水酸化鉄(III)1モルあたり3〜30モルのアンモニアを、アンモニア水溶液の滴下により添加して、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で撹拌した。
さらに、当該アンモニアを添加した分散液へ、前記酸化水酸化鉄(III)1モルあたり0.5〜15モルのテトラエトキシシラン(TEOS)を滴下し、15時間以上、30時間以下で撹拌した後、室温まで放冷した。
当該放冷した分散液へ、前記酸化水酸化鉄(III)1モルあたり1〜30モルの硫酸アンモニウムを加えて沈殿を析出させた。
当該析出した沈殿物を採集し純水で洗浄した後、60℃程度で乾燥させた。さらに当該乾燥した沈殿物を粉砕して粉砕粉を得た。
当該粉砕粉を酸化性雰囲気下、900℃以上、1200℃未満、好ましくは950℃以上、1150℃以下で、0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間の熱処理を施し熱処理粉を得た。得られた熱処理粉を、解粒処理したのち、液温60℃以上70℃以下の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に添加し、15時間以上、30時間以下攪拌することにより、当該熱処理粉からシリコン酸化物を除去し、ε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉を生成させた。
尚、上記酸化性雰囲気として大気を用いることは、コスト、作業性の観点から好ましい。
次いで、濾過処理や遠心分離等により、生成したε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉を分離・採集し水洗を行って、本発明に係るε−Fe相の単相であり平均粒径15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉を得た。さらに、焼成条件の制御により平均粒径10nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉を得ることも出来た(後述する実施例1、2参照。)。
さらに、生成した酸化鉄ナノ磁性粒子粉においてFe、O以外の元素であって1.0重量%以上の検出をされたものはなかった。従って、生成したε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子は置換元素を含んでいないと考えられる。
【0020】
(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法と、従来の技術に係るゾルゲル法との比較)
ここで、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法と、従来の依技術に係るゾルゲル法とを、粒子サイズと保磁力の観点から比較する。
従来の技術に係るゾルゲル法では、後述の比較例に示すとおり、単相であり平均粒径15nm以下のε酸化鉄を得ることが出来なかった。その結果として、保磁力の高いε酸化鉄は得られなかった。また、置換元素として、Alを置換させたAl置換ε酸化鉄は同様に低い保磁力しか得られないことから、従来の技術に係るゾルゲル法では、粒径15nm以下の微粒子で保磁力の高い酸化鉄ナノ磁性粒子を合成できなかった。これに対し、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法では、置換元素を含まず、単相のε酸化鉄が合成できるため、15nm以下の微粒子で保磁力の高いε酸化鉄を合成できることが理解できる。
【0021】
(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の製造方法)
本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の合成方法について、図10を参照しながら説明する。
上記(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法)にて説明したものと同様に、平均粒径15nm以下の酸化水酸化鉄(III)ナノ微粒子(β−FeO(OH))と純水とを混合して、鉄(Fe)換算濃度が0.01モル/L以上、1モル/L以下の分散液を調製した。
当該分散液へ、前記酸化水酸化鉄(III)1モルあたり3〜30モルのアンモニアを、アンモニア水溶液の滴下により添加して、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で撹拌した。
さらに、当該アンモニアを添加した分散液へ、前記酸化水酸化鉄(III)1モルあたり0.5〜15モルのテトラエトキシシラン(TEOS)を滴下し、15時間以上、30時間以下で撹拌した後、室温まで放冷した。
【0022】
得られた分散液を、スピンコート法等の塗布方法を用いて、石英基板等の適宜な基板上に塗布して成膜した。そして、当該成膜を、酸化性雰囲気下、900℃以上、1200℃未満、好ましくは950℃以上、1150℃以下で、0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間の熱処理を施すことにより、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜を得ることが出来た。
尚、上記酸化性雰囲気として大気を用いることは、コスト、作業性の観点から好ましい。
【0023】
(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の構造、形態)
上述の製造方法により得られた、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜のX線回折(XRD)パターンおよびリートベルト解析(図11)から、ε−Fe相を有する微粒子であることが判明した。またシェラー式の適用により、当該ナノサイズのε−Fe相を有する微粒子の平均粒径は、9nm程度であることが判明した。得られた磁性粒子薄膜は、図12の写真に示すように透明であり、図13に示す断面SEM写真から、その膜厚が約570nmであることが判明した。したがって、図14の模式図に示すように、シリコン酸化物中に単相ナノサイズのε−Fe相を有する微粒子が分散して含まれている形態であると考えられる。
【0024】
(本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の磁気光学特性、磁気特性)
また、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の保磁力は、室温で3kOe程度を有していた。さらに、当該薄膜は、磁気光学効果を有していることも判明した。そして、当該薄膜に対するSQUID測定の結果、ファラデー効果の結果と保磁力とが合致していることも判明した。
【0025】
(まとめ)
本発明において、保磁力が0.35kOe以上と、磁気記録、磁気遮蔽等の分野での応用が期待できるε−Fe相の単相であり平均粒径15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子と、それを含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉、および、当該酸化鉄ナノ磁性粒子粉を含む酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜が得られた。磁気記録材料としての応用において当該酸化鉄ナノ磁性粒子は、従来の技術に係るε−Fe相を有する結晶よりもさらなる高密度化が可能になる。
【0026】
また、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉の製造方法は、出発原料として、平均粒径15nm以下の酸化水酸化鉄(III)ナノ微粒子(β−FeO(OH))を用いることにより、ε−Fe相の単相であり平均粒径15nm以下で、粒径のバラツキが小さく、強磁性を有する酸化鉄ナノ磁性粒子を含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉を、従来の技術より簡便に合成することが出来た。さらに、従来の技術に比べ、より広い焼成温度領域でε−Fe相が得られた。そして、当該広い焼成温度領域を活用した焼成温度制御により、酸化鉄ナノ磁性粒子粉の粒径を制御することが可能になり、当該粒径制御による磁気特性の制御、特に保磁力を大きく変化させることが可能であることが判明した。例えば、焼成温度を1020℃とした場合では、上述した保磁力が3.5kOeと磁気記録に適した値を示す、ε−Fe相の単相であり平均粒径15nm以下である酸化鉄ナノ磁性粒子と、それを含む酸化鉄ナノ磁性粒子粉が得られた。
以上のことから、本発明は、合成法の簡便性や材料の安全性・安定性という観点からも、様々な用途での工業的応用が期待される。
【0027】
上述したように、本発明に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の保磁力は、室温で3kOe程度を有し、磁気光学効果を有している。この結果、当該薄膜は、磁気記録材料として非常に適した特性を有している。本発明によれば、単純なFe組成を有する材料でありながら、このような小粒径粒子を含む強磁性体薄膜が得られたことから、広い応用面を有すると考えられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を参照しながら本発明を説明する。
[実施例1]
1L三角フラスコに、純水420mLと平均粒径約6nmの酸化水酸化鉄(III)ナノ微粒子(β−FeO(OH))のゾル8.0gを入れ、均一分散液となるまで撹拌した。
ここに、25%アンモニア水溶液19.2mLを滴下し、50℃で30分間攪拌した。さらにこの分散液に、テトラエトキシシラン(TEOS)24mLを滴下し、50℃で20時間攪拌した後、室温まで放冷した。当該分散液が室温まで放冷したら、硫酸アンモニウム20gを加えて沈殿を析出させた。当該析出した沈殿物を遠心分離処理により採集した。採集した沈殿物を純水で洗浄し、シャーレに移して60℃乾燥機中で乾燥させた後、メノウ製乳鉢で粉砕し粉砕粉とした。
当該粉砕粉を炉内に装填し、大気雰囲気下、951℃、4時間の熱処理を施し熱処理粉とした。得られた熱処理粉を、メノウ製乳鉢で解粒処理したのち、5モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で、液温65℃、24時間攪拌することにより、熱処理粉からシリコン酸化物を除去した。次いで、濾過処理により、シリコン酸化物が除去された熱処理粉を採集し水洗を行って、実施例1に係るε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉試料を得た。
当該合成条件を表1に示す。以下、実施例2〜4も同様である。
【0029】
得られた試料に係るXRDパターンのリートベルト解析を行ったところ、ε−Fe相が100%であることが判明した。具体的には、試料のXRDパターンについて、α−Fe相、γ−Fe相、ε−Fe相の相分率をリートベルト解析により求めた。
得られた試料に係るXRDパターンを図3において実施例試料1として示し、当該XRDパターンに対するリートベルト解析結果を図4において実施例試料1として示し、さらに測定結果を表2に示す。以下、実施例2〜4、比較例1も同様である。
【0030】
また、得られた試料を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察して平均粒径を求めたところ、5.2nmであった。具体的には、TEMにより試料の100万倍の写真を撮影し、当該写真から各試料粒子における最も大きな径と最も小さな径を測定し、その平均値を算出することにより求めた。独立した各試料粒子の少なくとも100個以上について求めた粒子径の平均値を、試料の粉末の平均粒子径とした。
得られた試料に係るTEM写真を図5において実施例試料1として示し、試料の粒度のバラツキを示すグラフを図6において実施例試料1として示し、さらに測定結果を表2に示す。
【0031】
また、得られた試料の磁気特性(飽和磁化、保磁力、残留磁化)を測定した。具体的には、カンタムデザイン社製MPMS7のSQUID(超伝導量子干渉計)を用い、最大印加磁界50kOe、温度300Kで測定した。
得られた試料に係る磁化−外部磁場曲線を示すグラフを図7において実施例試料1として示し、さらに測定結果を表2に示す。以下、実施例2〜4、比較例1も同様である。
【0032】
[実施例2]
粉砕粉を炉内に装填し、大気雰囲気下、1002℃、4時間の熱処理を施し熱処理粉とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係るε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉試料を得た。
実施例1と同様の操作を行って、得られた試料に係るXRDパターンのリートベルト解析を行ったところ、ε−Fe相が100%であることが判明した。また、得られた試料を透過型電子顕微鏡(TEM)にて10万倍で観察したところ、平均粒径は7.8nmであった。
得られた試料に係るXRDパターンを図3において実施例試料2として示し、当該XRDパターンに対するリートベルト解析結果を図4において実施例試料2として示し、TEM写真を図5において実施例試料2として示し、試料の粒度のバラツキを示すグラフを図6において実施例試料2として示し、磁化−外部磁場曲線を示すグラフを図7において実施例試料2として示し、さらに測定結果を表2に示す。尚、測定条件は実施例1と同様である。
【0033】
[実施例3]
粉砕粉を炉内に装填し、大気雰囲気下、1020℃、4時間の熱処理を施し熱処理粉とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係るε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉試料を得た。
実施例1と同様の操作を行って、得られた試料に係るXRDパターンのリートベルト解析を行ったところ、ε−Fe相が100%であることが判明した。また、得られた試料を透過型電子顕微鏡(TEM)にて10万倍で観察したところ、平均粒径は9.4nmであった。
得られた試料に係るXRDパターンを図3において実施例試料3として示し、当該XRDパターンに対するリートベルト解析結果を図4において実施例試料3として示し、TEM写真を図5において実施例試料3として示し、試料の粒度のバラツキを示すグラフを図6において実施例試料3として示し、磁化−外部磁場曲線を示すグラフを図7において実施例試料3として示し、さらに測定結果を表2に示す。尚、測定条件は実施例1と同様である。
【0034】
[実施例4]
粉砕粉を炉内に装填し、大気雰囲気下、1026℃、4時間の熱処理を施し熱処理粉とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4に係るε−Fe相の単相である酸化鉄ナノ磁性粒子粉試料を得た。
実施例1と同様の操作を行って、得られた試料に係るXRDパターンのリートベルト解析を行ったところ、ε−Fe相が100%であることが判明した。また、得られた試料を透過型電子顕微鏡(TEM)にて10万倍で観察したところ、平均粒径は10.6nmであった。
得られた試料に係るXRDパターンを図3において実施例試料4として示し、当該XRDパターンに対するリートベルト解析結果を図4において実施例試料4として示し、TEM写真を図5において実施例試料4として示し、試料の粒度のバラツキを示すグラフを図6において実施例試料4として示し、磁化−外部磁場曲線を示すグラフを図7において実施例試料4として示し、さらに測定結果を表2に示す。尚、測定条件は実施例1と同様である。
【0035】
[比較例1]
1L三角フラスコに、純水413mLとFe(NO・9HO20.6gとを入れ、均一溶液となるまで撹拌した。ここに、25%アンモニア(NH)水溶液34mLを純水379mLで希釈したものを滴下し30分攪拌した。さらにこの溶液に、テトラエトキシシラン(Si(OC)33.9mLを滴下した。20時間攪拌した後、室温まで放冷した。当該分散液が室温まで放冷したら、沈殿物を遠心分離処理により採集した。採集した沈殿物を純水で洗浄し65℃で一晩乾燥させた後、メノウ製乳鉢で粉砕し、粉砕粉とした。
当該粉砕粉を炉内に装填し、大気雰囲気下、1000℃、4時間の熱処理を施し熱処理粉とした。得られた熱処理粉を、メノウ製乳鉢で解粒処理したのち、5モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で、液温65℃、24時間攪拌することにより、熱処理粉からシリコン酸化物を除去した。次いで、濾過処理により、シリコン酸化物が除去された熱処理粉を採集し水洗を行って、比較例1に係る酸化鉄ナノ磁性粒子粉試料を得た。
この後は、実施例1と同様の操作を行って、得られた試料に係るXRDパターンのリートベルト解析を行ったところ、ε−Fe相が66%、γ−Fe相が34%であることが判明した。また、得られた試料を透過型電子顕微鏡(TEM)にて60万倍で観察したところ、平均粒径は8.8nmであった。
さらに測定結果を表2に示す。尚、測定条件は実施例1と同様である。
【0036】
[実施例5]
(酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の合成)
実施例1と同様に、1L三角フラスコに、純水420mLと平均粒径約6nmの酸化水酸化鉄(III)ナノ微粒子(β−FeO(OH))のゾル8.0g(Fe換算で濃度10質量%)を入れ、均一分散液となるまで撹拌した。
ここに、25%アンモニア水溶液19.2mLを、1〜2滴/secで滴下し、50℃で30分間攪拌した。さらにこの分散液に、テトラエトキシシラン(TEOS)24mLを2〜3滴/secで滴下し、50℃で20時間攪拌した後、室温まで放冷し分散液を得た。
【0037】
得られた分散液を、スピンコート法により石英基板上に製膜した。そして、大気雰囲気下、1000℃の炉内で4時間の熱処理を施し、単相ナノサイズε−Fe微粒子がシリコン酸化物中に分散して含まれている酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜を得た。
【0038】
(酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の構造、形態)
上述の製造方法により得られた、実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜のX線回折(XRD)パターンを図11に示す。
当該XRDパターンに対し、リートベルト解析を行ったところ、シリコン酸化物中に単相ナノサイズε−Fe微粒子が含まれている形態であることが判明した。またシェラー式の適用により、当該単相ナノサイズε−Fe微粒子の平均粒径は9nmであることが判明した。
【0039】
得られた酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の外観写真を図12に、当該薄膜の断面SEM写真を図13に示す。図13に示す断面SEM写真より、当該薄膜の膜厚は、570士10nmであると求められた。そして、上述した酸化水酸化鉄とテトラエトキシシランとの仕込み組成から、ε−FeとSiOとの体積比は、ε−Fe:SiO=1:16と見積もられる。
以上の結果から、当該薄膜の断面の構造は、図14に模式的に示すように、例えば平均粒径9nmの単相ナノサイズε−Fe微粒子が、例えば厚さ570nmシリコン酸化物中に分散して含まれている状態であると考えられる。
【0040】
(酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜の磁気光学特性、磁気特性)
実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜のUV−visスペクトルの透過率のグラフを図15に、吸光度のグラフを図16に示す。
そして、当該薄膜の室温におけるファラデー楕円率(FE)の波長依存性のグラフを図17に示し、ファラデー回転角(FR)の波長依存性のグラフを図18に示す。
また、当該薄膜に係るファラデー楕円率のシグナルが最も強く観察された波長390nmにおいて、ファラデー楕円率の外部磁場依存性を測定した結果のグラフを図19に示す。尚、図19において実線はアイガイドである。
さらに、当該薄膜に対しSQUID測定を行った結果のグラフを図20に示す。尚、図20において実線はアイガイドである。
以上の結果から、当該薄膜の室温における保磁力は3kOeであることが判明した。そして、磁気光学効果が得られることも判明した。さらに、ファラデー効果の結果と保磁力とが合致していることも判明した。
【0041】
(まとめ)
実施例5に係る酸化鉄ナノ磁性粒子薄膜は、透明なε−Fe薄膜であって、厚みは約570nmであり、平均粒径9nmの単相ナノサイズのε−Fe微粒子が分散したものであった。当該薄膜の有する約3kOeの保磁力は、磁気記録材料として非常に適していると考えられる。さらに、単純なFe組成を有する材料でこのような小粒径の強磁性体薄膜が得られたことは、広い応用分野が期待出来る。
【表1】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20