(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スルホン酸基を有する繊維状活性炭は、繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱した後、スルホン酸基を導入することにより得られたものである、請求項1に記載の炭素系固体酸。
【背景技術】
【0002】
従来、エステル化、加水分解、アルキル化、アルコールの脱水縮合、オレフィンの水和などの各種の化学反応には、種々の酸触媒が用いられており、化学工業などにおいては、酸触媒として硫酸が広く用いられている。硫酸は安価であるため、多量に使用される。しかしながら、硫酸は液体であるため、反応後の生成物からの硫酸の分離、回収、精製、再利用の工程、生成物中に残留する硫酸の中和工程、中和で生成した塩の除去工程、廃水処理工程などに、多大なエネルギーが必要という問題がある。
【0003】
一方、固体酸触媒は、硫酸などの液体酸に比して、分離、回収が容易であり、繰り返し使用しやすいため、硫酸などの液体酸触媒の代替として、固体酸触媒も用いられるようになっている。
【0004】
固体酸触媒しては、例えば、シリカ−アルミナ、ゼオライトなどが使用されている。しかしながら、これらの固体酸触媒は、例えば水中で使用すると触媒活性が低下するため、硫酸の代替として工業的に用いることは困難である。
【0005】
近年、水中でも使用し得る固体酸触媒として、炭素質材料にスルホン酸基を導入した炭素系固体酸が開発されている。
【0006】
炭素質材料にスルホン酸基を導入した炭素系固体酸として、例えば、特許文献1には、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸または発煙硫酸で加熱処理し、多環式芳香族炭化水素の縮合及びスルホン化を行うことによって得られる固体酸が開示されている。また、例えば、特許文献2には、フェノール樹脂を炭化処理及びスルホン化処理して得られるスルホン酸基含有炭素質材料を含む固体酸触媒が開示されている。さらに、例えば、特許文献3には、グルコース、セルロースなどを部分炭化して得られる無定形炭素にスルホン酸基を導入した固体酸が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの炭素系固体酸では、触媒活性が十分でなかったり、繰り返し使用した場合に、触媒活性が低下しやすいという問題がある。このような状況下、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が低下し難い新規な炭素系固体酸の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、滴定法で測定される酸量が大きく、優れた触媒活性を有し、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い新規な炭素系固体酸を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該炭素系固体酸からなる炭素系固体酸触媒、及びこれらの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、スルホン酸基を有する繊維状活性炭を含む炭素系固体酸であって、炭素系固体酸を100℃の熱水中で1時間処理した後、滴定法で測定した酸量が、1.0mmol/g以上を示す炭素系固体酸は、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難くなることが明らかとなった。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. スルホン酸基を有する繊維状活性炭を含む炭素系固体酸であって、
前記炭素系固体酸を100℃の熱水中で1時間処理した後、滴定法で測定した酸量が、1.0mmol/g以上を示す、炭素系固体酸。
項2. 前記スルホン酸基を有する繊維状活性炭は、繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱した後、スルホン酸基を導入することにより得られたものである、項1に記載の炭素系固体酸。
項3. 前記酸素ガスの存在下における加熱温度が、300℃以上である、項1または2に記載の炭素系固体酸。
項4. 前記繊維状活性炭が、窒素及びホウ素の少なくとも一方を含む、項1〜3のいずれかに記載の炭素系固体酸。
項5. 項1〜4のいずれかに記載の炭素系固体酸からなる、固体酸触媒。
項6. 繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱する酸化工程と、
前記酸化工程の後、酸化された繊維状活性炭と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合して、前記酸化された繊維状活性炭にスルホン酸基を導入するスルホン酸基導入工程と、
を備える、項1〜4のいずれかに記載の炭素系固体酸の製造方法。
項7. 炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合するホウ素ドープ工程と、
前記ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を前記酸化された繊維状活性炭に担持させる工程と、
をさらに備える、項6に記載の炭素系固体酸の製造方法。
項8. 前記繊維状活性炭と窒素含有化合物とを混合する窒素ドープ工程をさらに備える、項6に記載の炭素系固体酸の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、滴定法で測定される酸量が大きく、優れた触媒活性を有し、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い新規な炭素系固体酸を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該炭素系固体酸からなる炭素系固体酸触媒、及びこれらの製造方法を提供することができる。当該炭素系固体酸触媒は、水中でも使用することができるため、例えば硫酸を酸触媒として用いる化学反応用の酸触媒として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の炭素系固体酸は、スルホン酸基を有する繊維状活性炭を含む炭素系固体酸であって、炭素系固体酸を100℃の熱水中で1時間処理した後、滴定法で測定した酸量が、1.0mmol/g以上を示すことを特徴とする。以下、本発明の炭素系固体酸、当該炭素系固体酸を用いた炭素系固体酸触媒、及びこれらの製造方法について詳述する。
【0015】
本発明の炭素系固体酸に含まれる繊維状活性炭は、スルホン酸基を有する。後述の通り、本発明の炭素系固体酸に含まれる繊維状活性炭においては、例えば、原料となる繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱した後、酸化された繊維状活性炭にスルホン酸基を導入することにより、炭素系固体酸を100℃の熱水中で1時間処理した後、滴定法により測定される酸量が、1.0mmol/g以上を示す炭素系固体酸とすることができる。
【0016】
炭素系固体酸の原料となる繊維状活性炭としては、酸素ガスの存在下に加熱することにより酸化され、かつ、スルホン酸基を導入できるものであれば特に制限されず、例えば、JIS K1477に記載されたような多孔質繊維状の活性炭が挙げられる。本発明において、繊維状活性炭の繊維径は特に制限されないが、好ましくは1〜30μm程度が挙げられる。また、繊維状活性炭の平均繊維長さは、特に制限されないが、好ましくは0.1mm以上が挙げられる。なお、繊維状活性炭の平均繊維長さは、JIS K1477に記載された方法により求めた値である。また、繊維状活性炭の比表面積は、特に制限されないが、好ましくは500〜2000m
2/g程度が挙げられる。繊維状活性炭の比表面積は、JIS K1477に記載されたBET法により求めた値である。
【0017】
本発明の炭素系固体酸は、例えば、原料となる上記の繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱した後、スルホン酸基を導入することにより得られる。具体的には、まず、スルホン酸基を導入する前に、原料となる繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱することにより、繊維状活性炭を酸化する。この酸化により、繊維状活性炭中にカルボキシル基、水酸基などの酸基が導入される。繊維状活性炭にカルボキシル基などが導入されることにより、その後、繊維状活性炭にスルホン酸基が導入された際に、カルボキシル基などがスルホン酸基を安定化すると考えられる。このため、滴定法で測定される酸量が大きくなると共に、炭素系固体酸の触媒活性を高め、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とし得る。カルボキシル基などによるスルホン酸基の安定化効果は、例えば、次のように考えることができる。カルボキシル基などが繊維状活性炭中に導入されることより、例えば水中などにおいてイオン化したカルボキシル基などの電子がスルホン酸基に供給され、スルホン酸基の硫黄原子とこれが結合した炭素原子との結合が強められ、スルホン酸基が安定化すると考えられる。この結果、スルホン酸基が触媒として効果的に機能し、かつ、繰り返し使用してもスルホン酸基が繊維状活性炭から脱離し難く、触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能になると考えられる。
【0018】
さらに、本発明において、炭素系固体酸に繊維状活性炭を用いることにより、粉末状活性炭、粒状活性炭などを用いる場合に比して、滴定法で測定される酸量が大きく、触媒活性を高めつつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能となる。これは、粉末状活性炭、粒状活性炭などに比して、繊維状活性炭の比表面積が大きいため、触媒として機能するスルホン酸基、及びスルホン酸基を安定化させるカルボキシル基などの他の酸基をより多く導入できることなどに起因すると考えられる。さらに、繊維状活性炭を用いることにより、後述の固体酸触媒として用いる際の取り扱い性(反応後の生成物からの固体酸触媒の分離、回収、精製、再利用のしやすさなど)がより一層高められる。さらに、繊維状活性炭を用いることにより、例えばフィルター状の固体酸触媒などとして好適に使用することができる。
【0019】
酸素ガスの存在下における繊維状活性炭の加熱は、例えば、空気中で行うことができる。また、加熱温度としては、繊維状活性炭を酸化できる温度であれば特に制限されないが、例えば300℃以上、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上が挙げられる。なお、加熱温度が高すぎると、燃え尽きてしまう場合があるため、加熱温度の上限値としては、通常、550℃程度、好ましくは500℃程度が挙げられる。加熱時間としては、加熱温度等に応じて適宜設定すればよく、例えば、1〜20時間程度、好ましくは1〜5時間程度が挙げられる。
【0020】
次に、酸化した繊維状活性炭にスルホン酸基を導入するスルホン化処理を行う。スルホン化処理の方法としては、特に制限されず、例えば、酸化した繊維状活性炭と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄の少なくとも一種とを混合する方法が挙げられる。より詳細には、濃硫酸または発煙硫酸と酸化した繊維状活性炭とをアルゴン、窒素などの不活性ガスの存在下に混合する方法や、三酸化硫黄ガスと酸化した繊維状活性炭とをアルゴン、窒素などの不活性ガスの存在下に接触させる方法などが挙げられる。
【0021】
濃硫酸または発煙硫酸を用いてスルホン酸基を導入する場合、酸化した繊維状活性炭に対する濃硫酸または発煙硫酸の量としては、特に制限されず、酸化した繊維状活性炭1質量部に対して、濃硫酸または発煙硫酸が、例えば5〜1000質量部程度、好ましくは100〜500質量部程度が挙げられる。濃硫酸または発煙硫酸を用いる場合、スルホン化処理の温度としては、例えば20〜250℃程度、好ましくは50〜200℃程度が挙げられる。濃硫酸または発煙硫酸を用いる場合、スルホン化処理の時間としては、例えば5〜150分間程度、好ましくは30〜120分間程度が挙げられる。
【0022】
三酸化硫黄ガスを用いてスルホン酸基を導入する場合、スルホン化処理における三酸化硫黄ガスの濃度としては、特に制限されず、例えば5〜100体積%程度、好ましくは20〜50体積%程度が挙げられる。三酸化硫黄ガスを用いる場合、スルホン化処理の温度としては、特に制限されず、例えば20〜250℃程度、好ましくは50〜200℃程度が挙げられる。三酸化硫黄ガスを用いる場合、スルホン化処理の時間としては、例えば5〜150分間程度、好ましくは30〜150分間程度が挙げられる。
【0023】
本発明の炭素系固体酸は、スルホン化処理の後、100℃の熱水などによりスルホン酸基を導入した繊維状活性炭を洗浄、乾燥して、余剰の硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄などを除去することができる。熱水による洗浄は、例えばソックスレー抽出法などにより、100℃での環流下で行うことができる。さらに、加圧下で洗浄を行うことにより、洗浄時間を短縮することも可能である。
【0024】
本発明の炭素系固体酸は、100℃の熱水中で1時間処理した後、滴定法で測定した酸量が1.0mmol/g以上を示す。本発明において、滴定法によって測定される酸量とは、具体的には、炭素系固体酸を適量の水に浸漬し、濃度0.1Nまたは0.01NのNaOH水溶液を用いた単純滴定法、または濃度0.1Nまたは0.01NのNaOH水溶液と濃度0.1Nまたは0.01NのHCl水溶液を用いた逆滴定法により測定して求められる値である。単純滴定法は、簡便に行えるため、炭素系固体酸の酸量を予備的に測定する方法として適している。また、逆滴定法は、炭素系固体酸の酸量をより正確に測定する方法として適している。本発明の炭素系固体酸は、100℃の熱水中で1時間処理した後、上記の逆滴定法で測定した酸量が1.0mmol以上を示す。また、本発明の炭素系固体酸中において、スルホン酸基以外に例えばカルボキシル基や水酸基などの他の酸基が含まれる場合には、本発明における酸量とは、スルホン酸基と他の酸基とを併せた酸量である。炭素系固体酸が示す酸量としては、好ましくは1.5mmol/g以上が挙げられる。当該酸量が1.0mmol/g未満の場合には、炭素系固体酸を化学反応に対する酸触媒として使用する場合に、酸触媒としての活性が不十分となる場合がある。本発明の炭素系固体酸は、100℃の熱水中で1時間処理した後、滴定法で測定した酸量が1.0mmol/g以上を示すことにより、後述の固体酸触媒として好適に使用することができる。
【0025】
本発明の炭素系固体酸においては、繊維状活性炭が窒素及びホウ素の少なくとも一方を含んでいてもよい。繊維状活性炭に窒素を含有させる(ドープする)方法としては、特に制限されず、例えば、上記の酸素ガスの存在下における繊維状活性炭の加熱を行う前に、原料となる繊維状活性炭と窒素含有化合物とを混合する方法が挙げられる。窒素含有化合物としては、繊維状活性炭に窒素をドープできるものであれば、特に制限されず、好ましくはフェナントロリン(ジアザフェナントロレン)、アザフェナントレン、アザアントラセン、ジアザアントラセンなどが挙げられる。窒素含有化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。原料となる繊維状活性炭と窒素含有化合物との混合は、例えば、窒素含有化合物の溶液に繊維状活性炭を浸漬する方法などが挙げられる。本発明の炭素系固体酸が窒素を含む場合、窒素の含有量としては、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上が挙げられる。本発明において、炭素系固体酸中の窒素の含有量は、元素分析法により測定することができる。
【0026】
繊維状活性炭にホウ素を含有させる方法としては、特に制限されず、例えば、炭素質材料前駆体にホウ素がドープされたホウ素含有炭素質材料前駆体を、上記の酸化された繊維状活性炭に担持させる方法が挙げられる。炭素質材料前駆体にホウ素をドープして、ホウ素含有炭素質材料前駆体を得る方法としては、特に制限されず、例えば、炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する方法が挙げられる。
【0027】
炭素質材料前駆体としては、ホウ素を担持できるものであれば特に制限されず、好ましくは糖質、芳香族化合物、樹脂などが挙げられる。炭素質材料前駆体は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
糖質としては、特に制限されないが、好ましくはグルコース、スクロース(砂糖)、マルトース、フルクトース、ラクトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、セルロース、デンプン、アミロースなどが挙げられる。
【0029】
芳香族化合物としては、特に制限されないが、例えば、単環芳香族化合物、多環芳香族化合物が挙げられる。単環芳香族化合物としては、好ましくはベンゼンまたは置換ベンゼンが挙げられる。置換ベンゼンの置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトシキ基などの炭素数1〜4のアルコキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子;水酸基、アミノ基、ビニル基などが挙げられる。また、多環芳香族化合物としては、好ましくはナフタレン、ピレン、ベンゾ(α)ピレン、ベンゾアントラセン、アントラセン、フェナントレン、コロネン、ケクレン、ビフェニル、ターフェニルなどが挙げられる。多環芳香族化合物は、置換基を有していてもよい。多環芳香族化合物が有し得る置換基としては、例えば、置換ベンゼンと同様のものが例示できる。なお、これらの芳香族化合物は、タール、ピッチなどに含まれており、タール、ピッチなど芳香族化合物として用いてもよい。
【0030】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0031】
ホウ素含有化合物としては、炭素質材料前駆体にホウ素をドープできるものであれば、特に制限されず、好ましくはホウ酸、フェニルボロン酸、n−ブチルボロン酸、トリフェニルボロキシン、ホウ酸トリメチルなどが挙げられる。ホウ素含有化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、ホウ素含有化合物としてホウ酸などを用いる場合、上記の炭素質材料前駆体は、水酸基を有することが好ましい。炭素質材料前駆体が水酸基を有する場合、当該水酸基とホウ酸などの水酸基との間の加熱・脱水でエステル結合を形成することにより、好適にホウ素をドープさせ得るからである。炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物との混合は、加熱下に行うことが好ましい。加熱温度としては、特に制限されないが、好ましくは50℃〜180℃程度が挙げられる。また、ホウ素のドープは、加圧下に行ってよい。さらに、炭素質材料前駆体にホウ素をドープする際には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、炭素質材料前駆体及びホウ含有化合物の溶解性などに応じて、適宜選択することができ、例えば水、エタノールなどが挙げられる。
【0032】
ホウ素含有炭素質材料前駆体を、上記の酸化された繊維状活性炭に担持させる方法としては、特に制限されず、例えば、ホウ素含有炭素質材料前駆体が溶解した溶液に上記の酸化された繊維状活性炭を浸漬し、乾燥させる方法などが挙げられる。ホウ素含有炭素質材料前駆体を溶解する溶媒としては、例えば、水、エタノールなどが挙げられる。なお、上記のスルホン化処理は、酸化された繊維状活性炭にホウ素含有炭素質材料前駆体を担持させた後に行うことができる。
【0033】
本発明の炭素系固体酸において、ホウ素を担持する場合、ホウ素の含有量としては、好ましくは0.0001質量%〜20質量%の範囲、より好ましくは0.005質量%〜20質量%の範囲が挙げられる。本発明において、炭素系固体酸中のホウ素の含有量は、元素分析法により測定することができる。
【0034】
本発明の炭素系固体酸は、滴定法で測定される酸量が大きく、酸触媒を用いる化学反応に対して、優れた触媒活性を有し、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い。このため、本発明の炭素系固体酸は、固体酸触媒として好適に使用することができる。特に、本発明の炭素系固体酸は、水中においても触媒として機能し得るため、例えば硫酸触媒の代替となる固体酸触媒として好適に使用することができる。
【0035】
本発明の炭素系固体酸が固体酸触媒として触媒し得る化学反応としては、例えば公知の酸触媒を用いた化学反応が挙げられる。このような化学反応としては、例えば、エステル化、加水分解、アルキル化、アルコールの脱水縮合、オレフィンの水和などが挙げられる。
【0036】
本発明の炭素系固体酸は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、原料となる上記の繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱する酸化工程を行う。繊維状活性炭を酸素ガスの存在下に加熱する方法は、上記の通りである。次に、酸化工程の後、酸化された繊維状活性炭と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合して、酸化された繊維状活性炭にスルホン酸基を導入するスルホン酸基導入工程を行う。当該スルホン酸基導入工程についても、上記のスルホン化処理の通りである。
【0037】
また、本発明の炭素系固体酸の製造方法においては、繊維状活性炭と窒素含有化合物とを混合する窒素ドープ工程を備えていてもよい。本発明の製造方法において、窒素ドープ工程をさらに備えることにより、繊維状活性炭に窒素がドープされた炭素系固体酸が得られる。繊維状活性炭と窒素含有化合物とを混合して、窒素がドープされた繊維状活性炭を得る方法は、上記の通りである。なお、窒素ドープ工程は、繊維状活性炭の酸化工程の前に行うことができる。
【0038】
また、本発明の炭素系固体酸の製造方法においては、炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合するホウ素ドープ工程と、ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を上記の酸化された繊維状活性炭に担持させる工程とをさらに備えていてもよい。本発明の製造方法において、これらの工程をさらに備えることにより、繊維状活性炭にホウ素がドープされた炭素系固体酸が得られる。炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する方法、及びホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を上記の酸化された繊維状活性炭に担持させる方法は、上記の通りである。なお、ホウ素含有炭素質材料前駆体を上記の酸化された繊維状活性炭に担持させる工程は、前記スルホン酸基導入工程の前に行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0040】
<参考例1>
1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)を、管状炉を用いて空気中450℃で1時間加熱(1時間かけて昇温した後、450℃で1時間保持)して酸化した(酸化処理)。次に、酸化した繊維状活性炭を丸底フラスコ内の濃硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを表1に記載の温度に設定したマントルヒーターにセットし、表1に記載の時間環流し、繊維状活性炭にスルホン酸基を導入して炭素系固体酸を得た(スルホン化処理)。次に、得られた炭素系固体酸を純水で何度もすすいだ後、50℃で1時間乾燥させた。乾燥後の炭素系固体酸を30mlの水に沈め、濃度0.1NのNaOH水溶液を用いた滴定法により測定し、炭素系固体酸の酸量を簡便な方法で予備的に測定した。結果を表1に示す。
【0041】
<参考例2>
繊維状活性炭を加熱しなかったこと以外は、参考例1と同様にして硫酸処理を行い、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、参考例1と同様の簡便な方法で予備的
に測定した。結果を表1に示す。
【0042】
<参考例3>
表1の硫酸処理を発煙硫酸処理としたこと以外は、参考例1と同様にして得られた炭素系固体酸の酸量を、参考例1と同様の簡便な方法で予備的
に測定した。結果を表1に示す。
【0043】
<参考例4>
繊維状活性炭を加熱しなかったこと以外は、参考例3と同様にして発煙硫酸処理を行い、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、参考例1と同様の簡便な方法で予備的
に測定した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
参考例1〜4の予備的な実験結果から、繊維状活性炭を加熱処理した場合、加熱処理しなかった場合に比して酸量が大きくなり、さらに、スルホン化処理による酸量の増加も非常に大きくなることが明らかとなった。
【0046】
<参考例5>
繊維状活性炭の加熱条件を、それぞれ表2のようにしたこと以外は、参考例3と同様にして、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、参考例1と同様の簡便な方法で予備的
に測定した。結果を表2に示す。なお、スルホン化処理条件は、発煙硫酸(30%)を用い、150℃で1時間とした。
【0047】
【表2】
【0048】
参考例5の結果から、空気中での加熱温度が350℃〜450℃と高くなるにつれて、炭素系固体酸の酸量が大きくなることが明らかとなった。
【0049】
<実施例1>
1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)を、管状炉を用いて空気中400℃で2時間加熱(1時間かけて昇温した後、400℃で2時間保持)して酸化した(酸化処理)。次に、酸化した繊維状活性炭を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間環流し、繊維状活性炭にスルホン酸基を導入して炭素系固体酸を得た(スルホン化処理)。次に、得られた炭素系固体酸を純水で何度もすすいだ後、100℃の熱水で1時間処理した。その後、50℃で1時間乾燥させた。乾燥後の炭素系固体酸を30mlの水に沈め、濃度0.1NのNaOH水溶液と濃度0.01NのHCl水溶液を用いた逆滴定法により、炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は1.2mmol/gであった。結果を表3に示す。
【0050】
<比較例1>
繊維状活性炭を空気中で加熱する代わりに、窒素中で加熱したこと以外は、実施例1と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は0.85mmol/gであった。結果を表3に示す。
【0051】
<比較例2>
繊維状活性炭を空気中で加熱せずにそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は0.60mmol/gであった。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に示されるように、繊維状活性炭を空気中で加熱し、スルホン酸基を導入した実施例1の炭素系固体酸は、滴定で測定した酸量が大きかった。一方、繊維状活性炭を窒素中で加熱し、スルホン酸基を導入した比較例1の炭素系固体酸では、酸量は小さかった。また、繊維状活性炭を加熱せずにスルホン酸基を導入した比較例2についても、酸量は小さかった。
【0054】
<実施例2>
フェナントロリン1gを、エタノール9gに溶かした水溶液を得た。得られた水溶液に、1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)を浸漬し、取り出して乾燥させ、繊維状活性炭に窒素をドープした。次に、この繊維状活性炭を乾燥した後、管状炉を用いて空気中450℃で1時間加熱(1時間かけて昇温した後、450℃で1時間保持)して酸化した。次に、実施例1と同様にして、酸化された繊維状活性炭にスルホン酸基を導入して炭素系固体酸を得た。次に、得られた炭素系固体酸を純水で何度もすすいだ後、100℃の熱水で1時間処理した。その後、50℃で1時間乾燥させた。乾燥後の炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。その結果、炭素系固体酸の酸量は1.7mmol/gであった。結果を表4に示す。また、後述の実施例4と同様にして、実施例2で得られた炭素系固体酸を用いてセロビオース加水分解反応速度を測定した。結果を表6に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示される様に、繊維状活性炭に窒素を含ませた実施例2の炭素系固体酸についても、繊維状活性炭を空気中で加熱し、スルホン酸基を導入することにより、滴定で測定した酸量が大きくなることが明らかとなった。
【0057】
<実施例3>
1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)を、管状炉を用いて空気中400℃で2時間加熱処理(1時間かけて昇温した後、400℃で2時間保持)して酸化した。一方、グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液を得た。得られた水溶液をオートクレーブ容器(50mlに入れ、120℃設定の乾燥機で12時間加熱に供した。次に、得られた水溶液に、上記で酸化した繊維状活性炭を浸漬し、取り出して乾燥させた。次に、実施例1と同様にして、スルホン酸基を導入し、炭素系固体酸を得た。次に、得られた炭素系固体酸を純水で何度もすすいだ後、100℃の熱水で1時間処理した。その後、50℃で1時間乾燥させた。乾燥後の炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。その結果、炭素系固体酸の酸量は2.1mmol/gであった。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示される様に、繊維状活性炭にホウ素を含ませた実施例3の炭素系固体酸についても、繊維状活性炭を空気中で加熱し、スルホン酸基を導入することにより、滴定で測定した酸量が大きくなることが明らかとなった。
【0060】
<実施例4>
繊維状活性炭の加熱温度を450℃とし、加熱時間を1時間(1時間かけて昇温した後、450℃で1時間保持)としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は1.1mmol/gであった。また、得られた炭素系固体酸を触媒として用いて、セロビオース加水分解反応速度を以下のようにして測定した。結果を表6に示す。
【0061】
[セロビオース加水分解反応速度の測定]
ねじ口試験管(マルエムNR−10)に水(3ml)と、実施例4で得られた炭素系固体酸(それぞれ、表6の[ ]内に示した重量)と、セロビオース(15mg)と、撹拌子を加え、キャップを閉めて密閉した。100℃に保った恒温槽の中に設置した耐熱マグネチックスターラーにより、試験管の加熱撹拌を行い反応させた。45分経過後に恒温槽から出して反応液の一部(0.3mL)をサンプリングした後、恒温槽に戻して更に45分反応させ、1回目の反応終了とした。45分、90分にサンプリングした反応液中のグルコース量をMerck社製RQフレックス装置と同装置用のグルコース試験紙(16720−1M)を用いて定量した。グラフの横軸に反応時間(45分(すなわち0.75時間)及び90分(すなわち1.5時間))、縦軸に各々のグルコース生成量(μmol)をプロットし、原点を通る最小二乗法により傾きを求めた。この値を触媒量で除することによりグルコース生成速度(μmol/h/g)を求めた。反応後の炭素系固体酸はろ過して回収し、イオン交換蒸留水中で3回すすいで洗浄した後、室温で乾燥して2回目の反応に用いた。以下、同様に反応を繰り返し、実施例4で得られた炭素系固体酸を用いたセロビオース加水分解反応速度の測定をそれぞれ3回ずつ行った。セロビオース加水分解反応速度、及びセロビオース加水分解反応速度の保持率([3回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の測定結果を表6に示す。
【0062】
<比較例3>
1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)をそのまま炭素系固体酸として用いた。実施例4と同様にして、炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は0.04mmol/gであった。また、実施例4と同様にして、セロビオース加水分解反応速度の測定を行った。結果を表6に示す。
【0063】
<比較例4>
スルホン酸基を導入しなかったこと以外は、実施例4と同様にして得た炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は0.3mmol/gであった。また、実施例4と同様にして、セロビオース加水分解反応速度の測定を行った。結果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示されるように、繊維状活性炭を空気中で酸化し、スルホン酸基を導入した実施例2及び4の炭素系固体酸では、酸化しなかった比較例3及び4の炭素系固体酸に比して、酸量が著しく大きくなり、セロビオース加水分解反応速度が大きく、さらに繰り返し使用しても、セロビオース加水分解反応速度が高いままに維持されることが明らかとなった。
【0066】
[アンモニア昇温脱離実験]
実施例4、比較例3及び4で得た炭素系固体酸について、アンモニア昇温脱離(Temperature−Programmed Desorption)実験を行い、炭素系固体酸の酸強度及び酸量を評価した。アンモニアの吸着は、アンモニア水の蒸気を用い湿式で行った。それぞれ、所定量の炭素系固体酸を20mLのスクリュー管瓶に入れ、200mLの広口瓶の中に置いた。炭素系固体酸に触れないように広口瓶の底に約10mLの30%アンモニア水を注ぎ、広口瓶の蓋をして室温で30〜60分間静置して試料にアンモニアを飽和吸着させた。アンモニア吸着後の炭素系固体酸を内径6mmの石英反応管に入れ、上下に石英ウールを詰めて保持し、TP5000型昇温脱離測定装置(ヘンミ計算尺株式会社製)にセットした。反応管を100℃に加熱し、水蒸気を含んだHeガスを100mL/minで流通して、弱い酸点に吸着したアンモニアを除去した。続けてドライなHeを流通してパージした後、10℃/minで昇温し、脱離ガスを装置付属の質量分析計にて測定し、アンモニア由来のシグナルとしてm/e=16の信号強度を温度に対してプロットして得られたグラフを
図1に示す。
図1に示されるように、比較例3の未処理の繊維状活性炭を用いた場合には、大きな脱離は観測されなかった。一方、空気中450℃で加熱した比較例4の繊維状活性炭では、約180℃に脱離ピークが観測された。このピークは、繊維状活性炭表面のカルボキシル基に吸着したアンモニアの脱離ピークであると考えられる。また、空気中450℃で加熱した後、スルホン酸基を導入した実施例2では、同じく180℃に脱離ピークが見られる他、更に高温側の260℃にも脱離ピークが観測された。260℃の脱離ピークは、スルホン酸基の導入により生成した強酸点に吸着したアンモニアの脱離ピークであると考えられる。