【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度産業技術研究開発(革新的触媒による化学品製造プロセス技術開発プロジェクトのうち二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発)(国庫債務負担行為に係るもの)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒、或いは、請求項5〜8のいずれかに記載の光水分解反応用電極を、水又は電解質水溶液に浸漬し、該光触媒又は光水分解反応用電極に光を照射して光水分解を行う、水素及び/又は酸素の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光触媒活性を大きく向上させ得るような助触媒、光触媒活性が高く光水分解用の触媒として適用可能な光触媒及び当該光触媒を用いた光水分解用電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、光半導体の種類によっては、Co及びMnを含む酸化物粒子が光触媒活性を大きく向上させ得る助触媒となり得ることを知見した。すなわち、従来技術においては、酸化マンガンにCoをドープしたことによる目立った効果は認められないとされていたところ、光半導体との相性によって、Coをドープしたことによる効果が顕著となる場合があることを知見した。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
第1の本発明は、Ti、V、Nb及びTaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む光半導体に、助触媒としてCo及びMnを含む酸化物粒子が少なくとも担持されてなる、光触媒である。
【0009】
本発明において、「Ti、Ta、V及びNbからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む光半導体」とは、当該元素を含む酸化物、酸窒化物、窒化物、(オキシ)カルコゲナイド等、光触媒として用いられる光半導体を意味する。「光半導体」の形態としては、助触媒を担持し得るような形態であればよく、粒子状、塊状等種々の形態が採用できる。「Co及びMnを含む酸化物粒子」とは、酸化マンガン中にコバルトがドープされてなる形態、酸化コバルト中にマンガンがドープされてなる形態のいずれかを意味する。すなわち、一つの粒子中にCo及びMnが含まれていることを意味し、酸化コバルト粒子と酸化マンガン粒子とを単に混合したものについては「Co及びMnを含む酸化物粒子」には含まれないものとする。「少なくとも担持されてなる」とは、光半導体に当該酸化物粒子に加えてそれ以外の助触媒が担持されていてもよいことを意味する。
【0010】
第1の本発明において、酸化物粒子におけるCoとMnとのモル比(Co/Mn)が1/50以上1以下であることが好ましい。
【0011】
第1の本発明において、酸化物粒子の粒子径が1.0nm以上25nm以下であることが好ましい。
【0012】
第1の本発明において、光半導体100質量部に対し、酸化物粒子が0.005質量部以上1.0質量部以下担持されてなることが好ましい。尚、当該担持量は、光半導体に水素生成助触媒及び酸素生成助触媒の双方を担持させる場合を想定したものである。
【0013】
第2の本発明は、第1の本発明に係る光触媒を用いた光水分解反応用電極である。
【0014】
ただし、光水分解反応用電極とする場合は、光触媒において光半導体100質量部に対し、酸化物粒子が0.008質量部以上20.0質量部以下担持されてなるようにするとよい。或いは、光半導体の表面の20%以上が酸化物粒子に覆われてなるようにするとよい。当該担持量は、光半導体にCo及びMnを含む酸化物粒子のみを助触媒として担持させる場合を想定したものである。
【0015】
第2の本発明によれば、測定電位0.62V(vs.RHE)における光電流密度0.25mA/cm
2以上を達成できる。
【0016】
第3の本発明は、第1の本発明に係る光触媒、或いは、第2の本発明に係る光水分解反応用電極を、水又は電解質水溶液に浸漬し、該光触媒又は光水分解反応用電極に光を照射して光水分解を行う、水素及び/又は酸素の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、Co及びMnを含む酸化物粒子を助触媒として特定の光半導体に担持させることで、助触媒を担持させない場合、或いは、Mnのみを含む酸化物粒子を担持した場合及びCoのみを含む酸化物粒子を担持した場合と比較して、光触媒活性を大きく向上させることが可能である。すなわち、本発明によれば、光触媒活性を大きく向上させ得るような助触媒、光触媒活性が高く光水分解用の触媒として適用可能な光触媒、及び当該光触媒を用いた光水分解用電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.光触媒
本発明に係る光触媒は、Ti、V、Nb及びTaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む光半導体に、助触媒としてCo及びMnを含む酸化物粒子が少なくとも担持されてなることを特徴とする。
【0020】
1.1.光半導体
本発明に係る光触媒に用いられる光半導体は、Ti、V、Nb及びTaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含んでなるものであり、例えば、これらの元素のいずれかを含んだ酸化物、酸窒化物、窒化物、(オキシ)カルコゲナイド等が挙げられる。具体的には、TiO
2、CaTiO
3、SrTiO
3、Sr
3Ti
2O
7、Sr
4Ti
3O
7、K
2La
2Ti
3O
10、Rb
2La
2Ti
3O
10、Cs
2La
2Ti
3O
10、CsLaTi
2NbO
10,La
2TiO
5、La
2Ti
3O
9、La
2Ti
2O
7、La
2Ti
2O
7:Ba、KaLaZr
0.3Ti
0.7O
4、La
4CaTi
5O
7、KTiNbO
5、Na
2Ti
6O
13、BaTi
4O
9、Gd
2Ti
2O
7、Y
2Ti
2O
7、(Na
2Ti
3O
7、K
2Ti
2O
5、K
2Ti
4O
9、Cs
2Ti
2O
5、H
+−Cs
2Ti
2O
5(H
+−CsはCsがH
+でイオン交換されていることを示す。以下同様)、Cs
2Ti
5O
11、Cs
2Ti
6O
13、H
+−CsTiNbO
5、H
+−CsTi
2NbO
7、SiO
2−pillared K
2Ti
4O
9、SiO
2−pillared K
2Ti
2.7Mn
0.3O
7、BaTiO
3、BaTi
4O
9、AgLi
1/3Ti
2/3O
2等のチタン含有酸化物;LaTiO
2N等のチタン含有酸窒化物;La
5Ti
2CuS
5O
7、La
5Ti
2AgS
5O
7、Sm
2Ti
2O
5S
2等のチタン含有(オキシ)カルコゲナイド;
BiVO
4、Ag
3VO
4等のバナジウム含有酸化物;
K
4Nb
6O
17、Rb
4Nb
6O
17、Ca
2Nb
2O
7、Sr
2Nb
2O
7、Ba
5Nb
4O
15、NaCa
2Nb
3O
10、ZnNb
2O
6、Cs
2Nb
4O
11、La
3NbO
7、H
+−KLaNb
2O
7、H
+−RbLaNb
2O
7、H
+−CsLaNb
2O
7、H
+−KCa
2Nb
3O
10、SiO
2−pillared KCa
2Nb
3O
10(Chem.Mater.1996,8,2534.)、H
+−RbCa
2Nb
3O
10、H
+−CsCa
2Nb
3O
10、H
+−KSr
2Nb
3O
10、H
+−KCa
2NaNb
4O
13)、PbBi
2Nb
2O
9等のニオブ含有酸化物;CaNbO
2N、BaNbO
2N、SrNbO
2N、LaNbON
2等のニオブ含有酸窒化物;Ta
2O
5、K
2PrTa
5O
15、K
3Ta
3Si
2O
13、K
3Ta
3B
2O
12、LiTaO
3、NaTaO
3、KTaO
3、AgTaO
3、KTaO
3:Zr、NaTaO
3:La、NaTaO
3:Sr、Na
2Ta
2O
6、K
2Ta
2O
6(pyrochlore)、CaTa
2O
6、SrTa
2O
6、BaTa
2O
6、NiTa
2O
6、Rb
4Ta
6O
17、H
2La
2/3Ta
2O
7、K
2Sr
1.5Ta
3O
10、LiCa
2Ta
3O
10、KBa
2Ta
3O
10、Sr
5Ta
4O
15、Ba
5Ta
4O
15、H
1.8Sr
0.81Bi
0.19Ta
2O
7、Mg−Ta oxide(Chem.Mater.2004 16, 4304−4310)、LaTaO
4、La
3TaO
7等のタンタル含有酸化物;Ta
3N
5等のタンタル含有窒化物;CaTaO
2N、SrTaO
2N、BaTaO
2N、LaTaO
2N、Y
2Ta
2O
5N
2、TaON等のタンタル含有酸窒化物 等が用いられる。
【0021】
太陽光を利用した光水分解反応をより効率的に生じさせる観点からは、上記各種光半導体のうち、可視光応答型の光半導体を用いることが好ましい。具体的には、LaTiO
2N、BaNbO
2N、BaTaO
2N、TaON、BiVO
4、Ta
3N
5が好ましく、この中でも特に、LaTiO
2N、BaNbO
2N、BaTaO
2N、TaON、BiVO
4が好ましい。上記の各種光半導体は、固相法、溶液法等の公知の合成方法によって容易に合成可能である。
【0022】
光半導体の形態(形状)については、以下に説明する助触媒を担持して光触媒として機能し得るような形態であれば特に限定されるものではなく、光触媒の設置形態等に合わせて、粒子状、塊状、板状等を適宜選択すればよい。特に、水分解反応用光触媒とする場合は、粒子状の光半導体の表面に助触媒を担持することが好ましい。この場合、粒子径の下限が好ましくは50nm以上であり、上限が好ましくは500μm以下である。尚、本願において「粒子径」とは、定方向接線径(フェレ径)の平均値(平均粒子径)を意味し、XRD、TEM、SEM法等の公知の手段によって測定することができる。
【0023】
1.2.助触媒
本発明に係る光触媒は、上記した光半導体に、助触媒としてCo及びMnを含む酸化物粒子が少なくとも担持されてなる。
【0024】
「Co及びMnを含む酸化物粒子」とは、酸化マンガン中にコバルトがドープされてなる形態、酸化コバルト中にマンガンがドープされてなる形態のいずれであってもよく、Co
3−xMn
xO
4(0<x<3)で示される酸化物とすることが好ましい。当該酸化物粒子におけるCoとMnとのモル比(Co/Mn)は、好ましくは1/50以上1以下であり、下限がより好ましくは1/10以上、特に好ましくは1/9以上であり、上限がより好ましくは4/5以下であり、特に好ましくは2/3以下である。CoとMnとのモル比をこのような範囲に調整することで、光触媒活性を一層向上可能な助触媒とすることができる。
【0025】
当該酸化物粒子は、上記した光半導体の表面に担持可能な程度の大きさであればよい。光半導体の表面に酸化物粒子を担持させるためには、粒子状、塊状、板状等の光半導体よりも酸化物粒子が小さい必要がある。特に粒子径が50nm以上500μm以下の光半導体粒子の表面に、粒子径が1.0nm以上25nm以下の酸化物粒子を担持させる形態が好ましい。酸化物粒子の粒子径は下限がより好ましくは1.2nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上であり、上限がより好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。酸化物粒子の粒子径をこのような範囲に調整することで、光触媒活性を一層向上可能な助触媒とすることができる。
【0026】
このようなナノサイズの酸化物粒子を製造する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、マンガン原料(オレイン酸マンガン等)とコバルト原料(ステアリン酸コバルト等)とを有機溶媒(1−オクタデセン等)に溶解させ、減圧脱気し、窒素置換のうえ、温度を上昇させながら還流し、その後放冷することで、沈殿物としてCo及びMnを含む酸化物ナノ粒子が得られる。得られた酸化物ナノ粒子はテトラヒドロフラン等の溶媒において適宜分散させることで凝集を防ぐことができる。このようにして得られる酸化物ナノ粒子は、NaCl型のMnOとCoOの固溶体となる。
【0027】
1.3.光半導体表面への助触媒の担持
本発明に係る光触媒は、上記した光半導体表面に少なくとも上記した酸化物粒子を助触媒として担持してなる。「少なくとも」とは、当該酸化物粒子に加えてそれ以外の助触媒を共担持させても良い趣旨である。例えば、周期表第6族〜第10族から選ばれる1つ以上の元素を含む化合物を助触媒として共担持させることができる。具体的には、水素生成用助触媒として、Pt、Pd、Rh、Ru、Ni、Au、Fe、Ru−Ir、Pt−Ir、NiO、RuO
2、IrO
2、Rh
2O
3、NiS、MoS
2、NiMoS、Cr−Rh複合酸化物、コアシェル型Rh/Cr
2O
3、Pt/Cr
2O
3が挙げられ、酸素生成用助触媒として、Cr、Sb、Nb、Th、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Irの金属、これらの酸化物又は複合酸化物(ただし、Co及びMnを含む酸化物を除く)が挙げられる。
【0028】
光半導体への酸化物粒子の担持量については、光触媒活性を向上可能な量であれば特に限定されるものではない。例えば、粒子径が50nm以上500μm以下の光半導体粒子の表面に、粒子径が1.0nm以上25nm以下の酸化物粒子を担持させる場合において、さらに当該酸化物粒子に加えてそれ以外の他の助触媒(上記の水素生成用助触媒等)を共担持させたい場合は、光半導体(光半導体粒子)100質量部に対し、当該酸化物粒子を0.005質量部以上1.0質量部以下担持することが好ましい。下限はより好ましくは0.008質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、上限はより好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。これにより光半導体表面の一部のみを当該酸化物粒子で覆うことができ、当該酸化物粒子で覆われていない光半導体表面にその他の助触媒を担持させることができる。このような形態は、一の光触媒粒子の表面において水素生成反応と酸素生成反応との双方を生じさせて光水分解を行う場合等に好適である。
【0029】
或いは、光半導体の表面に当該酸化物粒子のみを助触媒として担持させてもよい。例えば、粒子径が50nm以上500μm以下の光半導体粒子の表面に、粒子径が1.0nm以上25nm以下の酸化物粒子のみを担持させる場合は、光半導体(光半導体粒子)100質量部に対し、当該酸化物粒子を0.008質量部以上20.0質量部以下担持することが好ましい。下限はより好ましくは0.009質量部以上、さらに好ましくは0.010質量部以上であり、上限はより好ましくは5.0質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下、特に好ましくは2.0質量部以下である。これにより光半導体表面の略全体を当該酸化物粒子で均一に覆うことができ、光触媒活性が向上する。このような形態は、光触媒を光水分解反応用電極に適用する場合に好適である。
【0030】
尚、共担持させる場合おいて、助触媒全体の担持量は少なすぎても効果がなく、多すぎると助触媒自身が光を吸収・散乱するなどして光触媒の光吸収を妨げたり、再結合中心として働いたりしてかえって触媒活性が低下してしまう。このような観点から、光触媒における助触媒全体(当該酸化物粒子及びそれ以外の助触媒の合計)の担持量は、光半導体100質量部に対して、好ましくは0.008質量部以上5.0質量部以下、より好ましくは0.009質量部以上3.0質量部以下、特に好ましくは0.010質量部以上2.0質量部以下である。
【0031】
光半導体表面に当該酸化物粒子を担持させる方法としては、特に限定されるものではないが、当該酸化物粒子を含む分散溶液に光半導体を含浸し、光半導体の表面に酸化物粒子を吸着させたうえで適宜焼成に供することで光半導体表面に酸化物粒子を担持する方法が好ましい。この方法は、酸化物粒子としてナノサイズの粒子を、光半導体表面全体に均一に担持させたい場合に好適である。例えば、酸化物粒子と光半導体粒子とを有機溶媒(テトラヒドロフラン等)内で混合し、任意に超音波処理をした後、さらに光半導体粒子の表面に酸化物粒子を吸着させるための適当な結合剤(16−ヒドロキシヘキサデカン酸等)を添加する。その後、適宜攪拌をしたうえで、洗浄処理に供することで、光半導体粒子の表面に酸化物粒子が吸着した光触媒前駆体が得られる。当該前駆体を任意に焼成することで、光半導体の表面に酸化物粒子が均一に担持された光触媒を得ることができる。
【0032】
或いは光半導体膜上にディップコートやドロップキャスト、スプレー塗布、静電塗布、スピンコートのような方法によって酸化物粒子を塗布することで、光半導体表面に酸化物粒子を担持させることもできる。
【0033】
以上の通り、本発明に係る光触媒によれば、特定の光半導体の表面にCo及びMnを含む酸化物粒子を助触媒として担持させることで、光触媒活性が大きく向上する。これは、酸化マンガンにCoをドープしたことによる目立った効果は認められないとされていた従来技術からは想到できない顕著且つ特有の効果である。
【0034】
2.光水分解反応用電極
光触媒を実際に水の分解に使用する場合における光触媒の形態については特に限定されるものではなく、水中に光触媒粒子を分散させる形態、光触媒粒子を固めて成形体として当該成形体を水中に設置する形態、基材上に光触媒層を設けて積層体とし当該積層体を水中に設置する形態、集電体上に光触媒を固定化して光水分解反応用電極とし対極とともに水中に設置する形態等が挙げられる。特に、光水分解反応を大規模にて行う場合、バイアスを付与して水分解反応を促進できる観点から、光水分解反応用電極とするとよい。
【0035】
光水分解反応用電極は公知の方法により作製可能である。例えば、いわゆる粒子転写法(Chem. Sci., 2013,4, 1120-1124)によって容易に作製可能である。すなわち、ガラス等の第1の基材上に光触媒粒子を載せて、光触媒層と第1の基材層との積層体を得る。得られた積層体の光触媒層表面に蒸着等によって導電層(集電体)を設ける。ここで、光触媒層の導電層側表層にある光触媒粒子が導電層に固定化される。その後、導電層表面に第2の基材を接着し、第1の基材層から導電層及び光触媒層を剥がす。光触媒粒子の一部は導電層の表面に固定化されているので、導電層とともに剥がされ、結果として、光触媒層と導電層と第2の基材層とを有する光水分解反応用電極を得ることができる。
或いは、光触媒粒子が分散されたスラリーを集電体の表面に塗布して乾燥させることで、光水分解反応用電極を得てもよいし、光触媒粒子と集電体とを加圧成形等して一体化することで光水分解反応用電極を得てもよい。また、光触媒粒子が分散されたスラリー中に集電体を浸漬し、電圧を印可して光触媒粒子を電気泳動により集電体上に集積してもよい。
或いは、助触媒の担持を後工程で行うような形態であってもよい。例えば、上記した粒子転写法において、光触媒粒子ではなく光半導体粒子を用いて、同様の方法で光半導体層と導電層と第2の基材層とを有する積層体を得て、その後、光半導体層の表面に助触媒としての酸化物粒子を担持させることで、光水分解反応用電極を得てもよい。
【0036】
上述したように、本発明に係る光触媒を光水分解反応用電極に適用する場合、電極性能を向上させる観点から、光触媒において、光半導体100質量部に対して酸化物粒子が0.008質量部以上20質量部以下担持されていることが好ましい。或いは、同様の観点から、光半導体の表面の20%以上が当該酸化物粒子に覆われてなることが好ましい。光半導体表面における酸化物粒子の被覆率は、光触媒粒子を一方向から見た場合における光半導体が占める部分と酸化物粒子が占める部分とを、SEM−EDS等によって特定することで算出することができる。例えば、SEM写真図における光半導体部分の面積と酸化物粒子部分の面積とを特定し、(酸化物粒子部分の面積)/{(光半導体部分の面積)+(酸化物粒子部分の面積)}により被覆率を算出することができる。
【0037】
本発明に係る光触媒を用いることにより光水分解反応用電極の性能が向上する。具体的には光源AM1.5G(100mW/cm
2)、測定電位0.62(vs.RHE)における光電流密度0.25mA/cm
2以上、好ましくは0.29mA/cm
2以上、さらに好ましくは0.35mA/cm
2以上を達成可能である。光電流密度が0.25mA/cm
2以上において、変換効率0.2%以上の水分解が可能となり、植物と同等以上の変換効率を達成することができる。
【0038】
3.水素及び/又は酸素の製造方法
本発明においては、上記した光触媒、或いは、上記した光水分解反応用電極を、水又は電解質水溶液に浸漬し、当該光触媒又は光水分解反応用電極に光を照射して光水分解を行うことで、水素及び/又は酸素を製造することができる。
【0039】
例えば、上述のように導電体で構成される集電体上に光触媒を固定化して光水分解反応用電極を得る一方、対極として水素生成触媒を担持した導電体を使用し、液体状又は気体状の水を供給しながら光を照射し、水分解反応を進行させる。必要に応じて電極間に電位差を設けることで、水分解反応を促進することができる。或いは、対極として水素生成触媒を担持した光半導体を使用してもよい。この場合、光半導体としては水素生成反応を触媒する公知の光半導体を用いることができる。
【0040】
一方、絶縁基材上に光触媒粒子を固定化した固定化物に、又は、光触媒粒子を加圧成形等した成形体に、水を供給しながら光を照射して水分解反応を進行させてもよい。或いは、光触媒粒子を水又は電解質水溶液に分散させて、ここに光を照射して水分解反応を進行させてもよい。この場合、必要に応じて攪拌することで、反応を促進することができる。
【0041】
水素及び/又は酸素の製造時の反応条件については特に限定されるものではないが、例えば反応温度を0℃以上200℃以下とし、反応圧力を2MPa(G)以下とする。
照射光は650nm以下の波長を有する可視光、又は紫外光である。照射光の光源としては太陽や、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の太陽光近似光を照射可能なランプ、水銀ランプ、LED等が挙げられる。
【0042】
以上のように、本発明によれば、特定の光半導体にCo及びMnを含む酸化物粒子を担持させることで、光水分解反応に対して十分な触媒活性を有する光触媒を得ることができ、水分解反応用電極等として大規模に水素及び/又は酸素を製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)SrTiO
3
1.1.CoドープMnO(Co
xMn
1−xO固溶体)ナノ粒子の作製
CoドープMnOナノ粒子(Coドープ量40モル%)の合成法を以下に示す。
【0045】
窒素雰囲気下でエタノール(30mL)、蒸留水(40mL)、ヘキサン(70mL)の混合溶媒中に硝酸マンガン(40mmol)とオレイン酸ナトリウム(80mmol)を溶解し、70℃で一晩加熱した。分液漏斗で有機相を分取し、溶媒を留去した後、減圧乾燥を3日間行った。生成したオレイン酸マンガン(0.24mmol)とステアリン酸コバルト(0.16mmol)を1−オクタデセン(10mL)中で混合し、次のような手順で加熱処理を行った。混合物を減圧下120℃で1時間加熱し、続いて温度を10℃・min
−1で300℃まで昇温した。300℃にてマグネチックスターラーで30分間撹拌した後、室温まで冷却した。生成物をアセトン、エタノールで洗浄した後、THFに分散させてCoドープMnOナノ粒子を得た。TEM(日本電子(JEOL)社製、JEM−1011、加速電圧100kV)での観察の結果、CoドープMnOナノ粒子の平均直径はおよそ9nmであった。
【0046】
他のCoドープ率を有するCoドープMnOナノ粒子(Coドープ量:0モル%、10モル%、20モル%、および30モル%)の合成は、上記の合成条件および金属前駆体の総量を0.4mmolに保ち、オレイン酸マンガンとステアリン酸コバルト比を変えることによって行った。
【0047】
1.2.酸化物ナノ粒子の光半導体への担持
SrTiO
3(和光純薬工業株式会社製、99.9%)に対してSrCl
2を十倍量加え、1100℃で10時間加熱し水洗することによりSrTiO
3を調製した。調製したSrTiO
3(150mg)をCoドープMnOナノ粒子(SrTiO
3に対して、計0.05質量%のCoドープMnOナノ粒子)を分散させたTHFに懸濁した。超音波処理を行った後、16−ヒドロキシヘキサデカン酸のTHF溶液(4mM、4.5mL)を懸濁液に加え、3時間撹拌した。この処理で全てのCoドープMnOナノ粒子はSrTiO
3表面に吸着した。CoドープMnOナノ粒子の吸着したSrTiO
3を空気中で室温から5K・min
−1の速度で400℃まで昇温し、トータルで3時間焼成した。焼成後、CoドープMnOナノ粒子は、Co
xMn
3−xO
4に変化したが、粒子サイズに大きな変化は見られなかった。CoドープMnOナノ粒子が全量吸着していることはUV−visスペクトルで確認されており、Co及びMnのSrTiO
3に対する金属担持量は、仕込み量と同じく0.05質量%である。以上のようにしてCo
xMn
3−xO
4/SrTiO
3を得た。
【0048】
1.3.全分解の測定方法及び測定結果
<Rh/Cr
2O
3(core/shell)/SrTiO
3/Co
xMn
3−xO
4の調製>
上記の通り調製したCo
xMn
3−xO
4/SrTiO
3をNa
3RhCl
6(SrTiO
3に対して0.3質量%Rh)水溶液に懸濁し、
図1(a)に示す装置を用い、空気の非存在下で光(λ>300nm)を4時間照射しRh(III)を金属Rhに光還元した。Rhの析出の後、得られたサンプルをCr(NO
3)
3水溶液(0.8mM、SrTiO
3に対して0.5質量%Cr)に懸濁し、再度光(λ>300nm)を4時間照射しCr(NO
3)
3をCr
2O
3に還元した。光照射はカットオフフィルターを備えた300Wキセノンランプを使用した。光照射時には冷却水を使用し溶液温度を室温に保つようにした。生成物を蒸留水でよく洗浄し、十分に乾燥させ、Rh/Cr
2O
3(core/shell)/SrTiO
3/Co
xMn
3−xO
4を得た。
【0049】
<Rh/Cr
2O
3(core/shell)/SrTiO
3の調製>
Co
xMn
3−xO
4/SrTiO
3の代わりに、未担持のSrTiO
3を用い、これに上述したようにしてRh/Cr
2O
3(core/shell)を担持し、さらに空気中で室温から5K・min
−1の速度で400℃まで昇温し、トータルで3時間焼成することで、Rh/Cr
2O
3(core/shell)/SrTiO
3を調製した。
【0050】
<光水分解反応>
光照射装置として、
図1に示す装置を使用した。当該装置においては、300Wキセノンランプ(λ>300nm)とカットオフフィルターとを備えるものとした。上記で調製した光触媒0.1gと100mL純水とを閉鎖循環系に接続した反応容器内で数回脱気し、空気の残っていないことを確認した。その後に光照射を開始し、ガスの生成量を測定した。生成ガスの定量はガスクロマトグラフィーを使用した。結果を
図2に示す。
【0051】
図2に示す結果から明らかなように、Rh/Cr
2O
3に加えて、助触媒としてCo及びMnを含有する酸化物を共担持させた場合は、Mn酸化物を助触媒として共担持させた場合、或いは、Rh/Cr
2O
3のみを担持させた場合と比較して、水素ガス生成量、酸素ガス生成量ともに増大している。具体的には、Coドープ量が増大するほどガス生成量が増大し、光触媒活性が向上することが分かる。
【0052】
(実施例2−1〜2−5)BiVO
4
2.1.CoドープMnO(Co
xMn
1−xO固溶体)ナノ粒子の作製
上述した方法と同様の方法により、CoドープMnOナノ粒子(Coドープ量10モル%、20モル%、30モル%、40モル%)を作製した。
【0053】
2.2.酸化物ナノ粒子の光半導体への担持
J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 11459-11467 に記載の方法により、BiVO
4を合成した。具体的にはV
2O
5(関東化学社製、99.0%)とBi(NO
3)
3・5H
2O(関東化学社製、99.9%)の水溶液を室温で3日間撹拌することによりBiVO
4を得た。
得られたBiVO
4(130mg)をCoドープMnOナノ粒子(BiVO
4に対して、0.2質量%もしくは1.0質量%)を分散させたTHF(13mL)に懸濁した。超音波処理を行った後、16−ヒドロキシヘキサデカン酸のTHF溶液(4mM、3.9mL)を懸濁液に加え、3時間撹拌した。この処理で全てのCoドープMnOナノ粒子はBiVO
4表面に吸着した。CoドープMnOの吸着したBiVO
4を空気中で室温から5K・min
−1の速度で400℃まで昇温し、トータルで3時間焼成することにより担持を行った。
【0054】
2.3.光水分解反応用電極の作製
ナノ粒子を担持したBiVO
4(30mg)を1mLの2−プロパノールに懸濁させ、この懸濁液200μLを第1のガラス基材(ソーダライムガラス30×30mm)上に滴下、乾燥を3回繰り返して光触媒層を形成した。次に、コンタクト層となるTiを真空蒸着法により積層した。装置はULVAC VPC−260Fを使用し、0.5μm程度積層した。次に、集電層となるAuを真空蒸着法により2μm程度積層した。その後、エポキシ樹脂を用いて集電層に第2のガラス基材(ソーダライムガラス)を接着した。最後に第1のガラス基材を除去し、純水中で10分間超音波洗浄することで、光触媒層/Tiコンタクト層/Au層を備えた光水分解反応用電極を得た。比較例3は電極として、Snを用いた以外は同様の方法で電極を作製した。
【0055】
2.4.全分解の測定方法及び測定結果
以下の測定条件によって、光水分解反応用電極を用いて電解液の分解を行った。測定電位0.62Vにおける光電流密度を評価の指標とした。結果を以下の表1に示す。
【0056】
<測定条件>
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=7.0 電解液Kpi(KH
2PO
4溶液/K
2HPO
4溶液)、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−0.4V、E
1=0.8V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
・ 測定電位 0.62V
【0057】
(比較例1−1〜1−3)
2.5.Coナノ粒子の作製
Langmuir,2010,26,478 に記載の方法により、Coナノ粒子を合成した。具体的には、 窒素雰囲気下でオルトジクロロベンゼン(12mL)のジオクチルアミン(0.70mmol)とオレイン酸(0.62mmol)を溶解し、さらに炭酸コバルト(0.6mmol)のオレイン酸溶液3mLを加え、182℃で2時間加熱した。室温まで冷却後、生成物をエタノールで洗浄した後、ヘキサンに分散させてCoナノ粒子を得た。TEM(日本電子(JEOL)社製、JEM−1011、加速電圧100kV)での観察の結果、Coナノ粒子の平均直径はおよそ8nmであった。
得られたCoナノ粒子を実施例2と同様の方法によりBiVO
4へ担持させた後、光水分解反応用電極を作製した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示す結果から明らかなように、助触媒としてCo及びMnを含有する酸化物を担持させた場合は、助触媒を担持しない場合、助触媒としてMn酸化物を担持させた場合、或いは、助触媒としてCo酸化物を担持させた場合と比較して、光水分解反応による光電流密度が増大している。
【0060】
以上の通り、Ti、V、Nb及びTaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む光半導体においては、助触媒としてCo及びMnを含む酸化物粒子を担持させることで、光触媒活性を向上させることが可能であることが示された。