【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、独立請求項の特徴により達成される。
【0010】
ある態様によると、本発明はマイクロリソグラフィ投影露光装置の制御ループに関し、この制御ループは:
- 投影露光装置内の要素の位置の特徴を示すセンサ信号を生成するための、少なくとも1つの位置センサ;
- 少なくとも1つのアクチュエータ;及び
- アクチュエータが位置センサからのセンサ信号に応じて要素に印加する力を調節する、閉ループコントローラ
を備え、
- 制御応答を安定させる目的で、制御ループ内に少なくとも1つのローパスフィルタが存在する。
【0011】
本発明はまず、要素、より詳細にはミラーを作動させるための設備を含む制御ループにローパスフィルタを配設するという発想、及びこれを行うにあたって、系内で発生する共振及びフィルタ周波数を適切に調整することにより、要素の位置又はミラーの位置を調節する際に十分な安定性を保証するという発想に基づくものである。
【0012】
以下の文では要素としてミラーを想定し、投影露光装置としてEUV用に設計されたものを想定しているが、本発明はこれに限定されない。従って、本発明をその他の(より詳細には光学)要素(例えばレンズ等)、及び/又はDUV用(即ち200nm未満の波長、より詳細には160nm未満の波長用)に設計された投影露光装置に実装することもできる。
【0013】
制御ループ内におけるローパスフィルタの本発明による使用は、このようなローパスフィルタが、位相プロファイルの変化、より詳細には制御ループの位相マージンの減少を引き起こす限り、明らかなものではなく;これは
図5a〜bから最もよく認識できる。
図5a〜bは、このようなフィルタの減衰効果を2つの異なるQファクタに関する曲線に基づいて例示しつつ、動作−力抑制の例示的な変換関数(
図5a)及び対応する位相応答(
図5b)を示す。
【0014】
原則として、二次フィルタにおけるアクチュエータの力の抑制は、励起周波数とフィルタ周波数の間の相対的な間隔に左右され;これは
図5aから最もよく認識できる。フィルタ周波数未満の周波数範囲の励起は抑制されない。フィルタ周波数を上回ると、アクチュエータの力は−40dB/decadeによって更に抑制される。減衰が大きくなるにつれて、フィルタ周波数近傍で発生する共振の鋭さは、剛性ライン又はマスライン未満に低減される。Qファクタは共振ピークのサイズを記述し、
図5aは比較的弱い減衰(大きな共振ピーク、Q=250)及び比較的強い減衰(小さな共振ピーク、Q=0.7)に関するプロファイルを図示する。フィルタが機械的手段によって実装される場合、この場合のフィルタ周波数f
Fは
【数1】
によって与えられ、ここでkは機械フィルタを形成するバネ質量系のバネ定数を表し、m
は機械フィルタのフィルタ質量を表す。
【0015】
図5bによると、共振が減衰されない又は共振の減衰が弱い場合、フィルタ周波数の近傍において出力信号から入力信号へ180°の位相シフト(符号の変化に対応する)が存在する。減衰がより強い場合(
図5bのQ=0.7に関する破線の曲線に対応する)、0°の位相(即ち「同相の入力及び出力信号」)から180°の位相への、実質的により緩やかな遷移が存在し、従って、共振周波数未満の周波数について既に有意な位相変移が存在し、その結果、制御ループの所望の反応はもはや十分に迅速ではない。結果として、上述の位相プロファイルに関して、制御ループ内で比較的強い減衰特性を有するローパスフィルタは本質的に望ましくない。
【0016】
これらの着想に由来して、本発明はここで、要素又はミラーを作動させるための設備を含む制御ループ内でローパスフィルタを使用できるという更なる発見に基づいており、このローパスフィルタは、5以上の比較的大きいQファクタに対応する比較的弱い減衰特性(即ち例えば0.7のQファクタを有し得る従来のフィルタ回路との比較)を有する。図面を参照して以下でより詳細に説明するように、実質的に低いQファクタ又は強い減衰特性を有するローパスフィルタを用いて抑制される有意な共振は、比較的弱い減衰特性を有するこのようなローパスフィルタを使用した結果として、フィルタ周波数の近傍でゆっくりと許容される。
【0017】
しかしながら発明者らは、フィルタ周波数の近傍におけるこの更なる共振は、それにもかかわらず制御ループが安定し、かつ所望の制御品質を示すように構成され得ることを発見した。言い換えると、フィルタ周波数近傍の更なる共振は、それが標的化方式で適切に構成されている限り、性能の劣化を引き起こさず、従って共振は制御ループの不安定化を引き起こさない。結果として、強い減衰特性又は低いQファクタを有するローパスフィルタを使用する場合と異なり、ローパスフィルタは上述の望ましくない位相ロス効果を回避しながら、同時に要素又はミラーの共振周波数を抑制し続けることができる。
【0018】
要素又はミラーの共振周波数、即ち要素本体又はミラー本体の柔軟な固有モードは一般に、ミラー制御ループの変換関数において弱く減衰された共振スパイクとして視認可能である。(フィルタが無い場合に関する
図2において以下で見るように)これらはここで、閉ループ制御の達成可能な帯域幅即ち制御品質を制限する。
【0019】
ローパスフィルタのフィルタ周波数は好ましくは、ミラーの最小固有周波数値の95%未満、詳細には80%未満、より詳細には60%である。
【0020】
この実施形態は、
図5aに基づいて既に説明したように、フィルタを用いてミラーの特定の共振周波数を抑制する効果が増大すると、フィルタのフィルタ周波数(即ち、機械フィルタの場合の質量バネ系の固有周波数)が低くなるため、有利である。同時に、本発明によると、制御ループの安定性を維持するために、フィルタ周波数を無作為に低く設定しない。従って、フィルタ周波数は好ましくは、少なくとも係数4〜5だけ帯域幅より高い。その結果、この場合の帯域幅は、要素又はミラーを位置決めする際に制御品質及び(例えばウェハテーブルの運動等の結果としての)外乱を制御する能力を決定する。
【0021】
ローパスフィルタは、フィルタ回路として具体化することができ、より詳細には、閉ループコントローラ、位置センサ又はアクチュエータ内に電気回路又は電子回路を有することができる。
【0022】
更なる実施形態では、ローパスフィルタは機械フィルタとして具体化される。
【0023】
まず、質量バネ系で形成される機械フィルタは本質的に、本発明の範囲において求められるような比較的弱い減衰特性又は高いQファクタを有する。
【0024】
その上、質量バネ系の形態の機械フィルタとしてローパスフィルタを実装することには、機械フィルタが、アクチュエータに属するアクチュエータマス、例えばアクチュエータがボイスコイルモータ又はローレンツアクチュエータとして具体化されている場合はこのアクチュエータの磁石のマスを備えるよう、機械フィルタを実装することができ、このアクチュエータは、アクチュエータマスとミラーとの機械的連結と共に既に質量バネ系を形成し、対応する機械フィルタを形成する、という利点がある。このような実施形態では、対応するアクチュエータのマスは変形を伴う接着技術等を用いてミラーに取り付けられたり、又はこのような変形を遮断する役割を果たす弾性接続を用いてミラーに取り付けられたりすることはもはや無く、対応するアクチュエータはローパスフィルタを形成する質量バネ系のバネによって標的化方式でミラーから遮断される。
【0025】
バネを介してミラーをアクチュエータマスに連結することによる、このアクチュエータマスのミラーからのこのような遮断は、図面を参照して以下に詳細に説明するように、ミラーの共振周波数の増大をもたらし、これは磁石マスの省略及びこれに伴う効果的に振動するマスの減少に由来するものであり、また例えばフィルタ回路として実装される同一の減衰特性を有するローパスフィルタと比較して、フィルタのフィルタ周波数は変化しないままである。
【0026】
全体として、以上によりローパスフィルタの効率は再び上昇するが、これは(
図5aに基づいて既に説明したように)ローパスフィルタの抑制が、抑制されるべき周波数の値の増大又はフィルタ周波数からこの抑制されるべき周波数への間隔の増大とともに増大するためである。
【0027】
本発明の実施形態では、機械フィルタは位置センサ、アクチュエータに属するアクチュエータマス又はアクチュエータマスとミラーとの機械的連結を備えることができる。その上、アクチュエータマスと要素又はミラーとの機械的連結はピンを有することができる。その上、本発明の実施形態では、アクチュエータの駆動回転軸に対する軸方向への機械的連結の剛性の、横方向の剛性に対する比は、少なくとも100である。このために、ピンには特に2つのフレクシャーベアリングを設けることができる。
【0028】
実施形態では、閉ループ制御によって制御される各アクチュエータは要素又はミラーとの固有の機械連結を有し、上記機械連結へのアクチュエータの更なる連結は有さない。この実施形態の利点は、各アクチュエータに関連する(及び例えばピンと一体となって具体化される)質量バネ系の固有周波数を独立して決定でき、これによって特に全ての固有周波数を同一の値に調整することができる点である。
【0029】
本発明の更なる態様によると、マイクロリソグラフィ投影露光装置内の要素を作動させるための設備は:
- 機械的連結を介して要素にそれぞれ連結され、少なくとも自由度1で調節することができる力を要素にそれぞれ印加する、少なくとも2つのアクチュエータ
を有し、
- これらのアクチュエータそれぞれについて、各アクチュエータに属するアクチュエータマスは、アクチュエータと関連する機械的連結と共に質量バネ系を形成し、これはローパスフィルタとして機能し、
- これら質量バネ系の固有周波数は、これら固有周波数のうち最大のものの10%に等しい互いからの最大偏差を有する。
【0030】
このようなアプローチは、1つだけではなく(アクチュエータの異なる駆動回転軸に対する)多数の異なるフィルタ周波数が設備内に存在する場合に、必要であれば、所望の制御品質がもはや達成されていない特定の回転軸において帯域幅の調整又は低減を行わなければならないような状況に関するものである。従って、フィルタの効果と制御品質との間の可能な限りの妥協点という意味において、複数のフィルタ周波数ができる限り近いと有利である。フィルタ周波数をほぼ同一の値にチューニングすることにより、結果として、系内で発生する周波数を考慮しながら、アクチュエータ内の要素又はミラーの位置のより安定した閉ループ制御を行うことが可能となる。
【0031】
2つのアクチュエータは好ましくは互いに垂直な駆動回転軸を有する。このような配置は、アクチュエータの互いに対するクエンチ効果及びこのようなクエンチ効果に伴う閉ループコントローラの不安定性を排除できるという点で有利である。
【0032】
2つのアクチュエータはより詳細には、二脚架を形成できる。
【0033】
ある実施形態では、ローパスフィルタを形成する質量バネ系の固有周波数はそれぞれ、要素又はミラーの最小固有周波数の値の95%未満、詳細には80%未満、より詳細には60%未満である。
【0034】
これは同様に、フィルタを用いて特定の共振周波数を抑制する効率が、フィルタのフィルタ周波数(即ち機械フィルタの場合の質量バネ系の固有周波数)が低いほど上昇するという発想に基づくものである。
【0035】
この実施形態は、多数のローパスフィルタが存在する場合の、フィルタ周波数の上述のような可能な限りの対応とは独立して有利である。
【0036】
従って更なる態様によると、本発明はまた、マイクロリソグラフィ投影露光装置内の要素を作動させるための設備に関し、この設備は、
- 機械的連結を介して要素に連結され、少なくとも自由度1で調節することができる力を要素に印加する、少なくとも1つのアクチュエータ
を有し、
- アクチュエータに属するアクチュエータマスは、アクチュエータと関連する機械的連結と共に質量バネ系を形成し、これはローパスフィルタとして機能し、
- 質量バネ系の固有周波数は、要素の最小固有周波数の値の95%未満である。
【0037】
この場合も、ローパスフィルタを形成する質量バネ系の固有周波数は好ましくは、要素又はミラーの最小固有周波数の値の80%未満、詳細には70%未満、より詳細には60%未満、そしてより詳細には50%未満である。
【0038】
本発明で使用するローパスフィルタは代替として又は上記に加えて、制御ループ内に存在するセンサシステムによって(又はこれと共に)形成することもでき、ここでこのセンサシステムは弾性バネ要素を備える。
【0039】
従って更なる態様によると、本発明はマイクロリソグラフィ投影露光装置内の要素を作動させるための設備に関し、この設備は、
- 少なくとも自由度2で要素の位置及び/又は挙動を決定するための少なくとも1つのセンサ要素であって、機械的連結を介して要素又は基準構造に接続される、センサ要素
を有し、
- 少なくとも2である自由度について、センサ要素はそれぞれ機械的連結と共に、ローパスフィルタとして機能する質量バネ系を形成し、
- これら質量バネ系の固有周波数は、これら固有周波数のうち最大のものの10%に等しい互いからの最大偏差を有する。
【0040】
この態様によると、本発明は、本発明によるローパスフィルタが原理的に、(図面を参照して以下により詳細に説明するように)制御ループ内のどこにでも設置でき、即ち、制御ループが含む位置センサの場所にも設置できるという発想に由来する。例として、このような位置センサは要素又はミラーに適合したスケール又は標的を有することができ、センサヘッドはこのスケール又は標的を読み取ることができ、適切なバネ系に組付けることができ、バネの周波数で振動でき、その結果機械フィルタを同様に実装することができる。センサグレーティングマスmが小さくなることにより、センサ接続の剛性kもまた小さくすることができ、これは各自由度に必要なフィルタ周波数を実装するために必要である。
【0041】
更なる態様によると、本発明はマイクロリソグラフィ投影露光装置内の要素を作動させるための設備に関し、この設備は、
- 少なくとも自由度1で要素の位置及び/又は挙動を決定するための少なくとも1つのセンサ要素であって、機械的連結を介して要素又は基準構造に接続される、センサ要素
を有し、
- 少なくとも1である自由度について、センサ要素は機械的連結と共に、ローパスフィルタとして機能する質量バネ系を形成し、
- この質量バネ系の固有周波数は、要素の最小固有周波数の値の95%未満である。
【0042】
ある実施形態によると、各ローパスフィルタは少なくとも5、詳細には少なくとも20、より詳細には少なくとも50、そしてより詳細には少なくとも80のQファクタを有する。このアプローチは既に上述した発見、即ちローパスフィルタの減衰特性が強過ぎる場合、低周波数範囲の位相は「失われ」、要素又はミラーは時間遅延を有してコントローラの出力に追従し、これは最終的に制御品質の劣化を招く、という発見に由来するものである。
【0043】
ある実施形態によると、設備は要素又はミラーをそれぞれ自由度1で作動させるための6つのアクチュエータを有する。
【0044】
本発明は更に、上述の特徴を有する設備又は制御ループを有する、マイクロリソグラフィ投影露光装置に関する。
【0045】
本発明の更なる実施形態は、以下の説明及び従属請求項から知ることができる。添付の図面に示す例示的実施形態に基づいて、本発明を以下により詳細に説明する。