【文献】
Soeda, A. et al.,Quantum computation over the butterfly network,Physical Review A,2011年 7月27日,84. 012333
【文献】
Kobayashi, H. et al.,Constructing quantum network coding schemes from classical nonlinear protocols,2011 IEEE International Symposium on Information Theory Proceeding,2011年,pp.109-113
【文献】
Kobayashi, H. et al.,Perfect quantum network communication protocol based on classical network coding,2010 IEEE International Symposium on Information Theory Proceedings,2010年 6月,pp.2686-2690
【文献】
Ma. S.-Y. et al.,Probabilistic quantum network coding of M-qudit states over the butterfly network,Optics Communications,2009年,Volume 283, Issue 3,pp.497-501
【文献】
Shi, Y., et al. ,On Multicast in Quantum Networks,2006 40th Annual Conference on Information Sciences and Systems,2006年 3月,pp.871-876
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配信先のノードである受信ノードの数Mよりも少ない数の送信量子状態をそれぞれ有するN個の送信ノードs
1,s
2,…,s
Nから、M個の受信ノードの各々に前記送信量子状態を高精度で近似する量子状態を配信するマルチキャスト方法であって、
d
(n),Q
(n)をn(n=1,2,…,N)に応じて定まる正の整数とし、
→aを0≦a
1≦…≦a
Q≦dの関係を満たす数列a
1,a
2,…,a
Qとし、jを正の整数としてS
jをj次の置換群とし、
→cを数列とし|
→c|を数列を構成する要素の数とし、
→c
σを数列
→cを構成する各数を置換σによって置換した数により構成される数列とし、Ω_(
→c)を数列
→cに対して定義される集合{
→c
σ|σ∈S_|
→c|}とし、(
→a,
→x)を2つの数列
→a,
→xを直列に並べた数列とし、d
(n)[Q
(n)]は整数
【数101】
を表すとし、|Ω_(
→c)|を集合を構成する要素の数とし、P(・)を・への射影演算子として、各送信ノードs
n(n=1,2,…,N)において、以下の式で定義される測定を行う第1測定ステップと、
【数102】
前記第1測定ステップを実行して得られる測定結果である古典情報
→x
(n)を前記M個の受信ノードに古典通信路を使って送信する古典通信ステップと、
前記送信ノードの状態を前記M個の受信ノードに送信する古典ネットワーク符号化プロトコルを、前記第1測定ステップを実行して得られる量子状態を初期値とする量子ネットワーク上でシミュレートするシミュレートステップと、
前記シミュレートステップにより生成される量子ネットワーク上のエンタングル状態に対して、フーリエ基底への測定を行う第2測定ステップと、
→0
(n)をM個の0列とし、
【数103】
とし、
【数104】
とし、~A
m(n)を受信ノードt
mに存在する状態空間とし、D
1(n)を受信ノードt
1に属し|σ∈S
M〉を正規直交基底とするM!次元の量子状態空間とし、C
m(n)を受信ノードt
mに属し|m∈{1,2,…,M}〉を正規直交基底とするM次元の量子状態空間とし、E
m(n),G
m(n)を受信ノードt
mに属し|a∈Z
(d)〉を正規直交基底とするd
(n)次元の量子状態空間とし、F
1(n)を受信ノードt
1に属し、
【数105】
を正規直交基底とする(d
(n))
M次元の量子状態空間とし、jを正の整数として(
→a,
→x)
jを数列(
→a,
→x)のj番目の要素として、前記第2測定ステップにより生成される量子状態と前記M個の受信ノードの間で共有されている補助状態であるエンタングル状態とからなる量子状態
【数106】
にユニタリ演算を施すことにより、
【数107】
である量子状態を生成する第1演算ステップと、
前記第1演算ステップで生成された量子状態に対して、m≠1における空間~A
mG
mC
mとC
mの測定を行う第3測定ステップと、
前記第3測定ステップで得られた結果により特定される空間~A
1G
1D
1へのユニタリ演算を施すことにより、
【数108】
である量子状態を生成する第2演算ステップと、
b
mを数列
→bのm番目の要素とし、
−Ω_(
→a,
→b)を|
→a|=|
→b|が成り立つ二つの数列
→aと
→bに対して定義される集合{σ|σ∈S_|
→a|,
→a
σ=
→b}とし、|ψ_(
→x)(
→b)>を
→b∈Ω_((
→a,
→x))となる
→aが存在する時に、
【数109】
で定義される量子状態であり、定義域の範囲の全ての入力
→bにおいて規格化されていているとともに、互いに直交しているとして、前記第2演算ステップで生成された量子状態を、
【数110】
で表されるものとして、空間~A
1G
1D
1に対する測定を行う第4測定ステップと、
前記第4測定ステップで得られた結果により特定される空間F
1へのユニタリ演算を施すことにより
【数111】
である量子状態を生成する第3演算ステップと、
前記第3演算ステップで生成された量子状態に対して、各mについて、空間F
1,mに対する測定を行う第5測定ステップと、
→cを数列とし|
→c>
symを|Ω_
→c|
(-1/2)Σ_(
→c’∈Ω_
→c)|
→c’>として、空間F
1がM個のZ
d次元の部分空間F
1,mにより構成されるとして、各mについて、前記第5測定ステップで得られた空間F
1,mに対する測定結果により特定される部分空間E
mへのユニタリ演算を施すことにより、
【数112】
である量子状態を生成する第4演算ステップと、
を有するマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法。
1個の送信ノードs
1から、2個の受信ノードt
1,t
2の各々に前記送信ノードs
1の送信量子状態を高精度で近似する量子状態を配信するマルチキャスト方法であって、
dを正の整数とし、P(・)を・への射影演算子として、前記送信ノードs
1において、以下の式で定義される測定を行う第1測定ステップと、
【数115】
前記第1測定ステップを実行して得られる測定結果である古典情報xを前記2個の受信ノードに古典通信路を使って送信する古典通信ステップと、
前記送信ノードの状態を前記2個の受信ノードに送信する古典ネットワーク符号化プロトコルを、前記第1測定ステップを実行して得られる量子状態を初期値とする量子ネットワーク上でシミュレートするシミュレートステップと、
前記シミュレートステップにより生成される量子ネットワーク上のエンタングル状態に対して、フーリエ基底への測定を行う第2測定ステップと、
A
mとB
m とC
mとD
mとE
mとF
mとG
mはそれぞれt
mに存在している状態空間であり、~A
mをA
mとB
mとからなる状態空間とし、D
1は|(1,2)〉と|(2,1)〉を正規直交基底とする2次元空間であり、C
mは|1〉と|2〉を正規直交基底とする2次元空間とし、A
m,B
m,E
m,G
mを|α∈Z
d〉を正規直交基底とするd次元の空間とし、F
1を|(α,α’)∈Z
d(×)2>を正規直交基底とするd
2次元空間として、前記第2測定ステップにより生成される量子状態と前記2個の受信ノードの間で共有されている補助状態であるエンタングル状態とからなる量子状態
【数116】
にユニタリ演算を施すことにより、
【数117】
である量子状態を生成する第1演算ステップと、
前記第1演算ステップで生成された量子状態に対して、空間~A
2G
2C
2とC
1の測定を行う第3測定ステップと、
前記第3測定ステップで得られた結果により特定される空間~A
1G
1D
1へのユニタリ演算を施すことにより、
【数118】
である量子状態を生成する第2演算ステップと、
Ω
a,xをa=xの時は(x,x)のみからなる集合で、a≠xの時は、(a,x), (x,a)の二つの要素からなる集合であるとし、|ψ
x(b
1,b
2)〉はb
1=x又はb
2=xの時に
【数119】
によって定義される量子状態であり、定義域において全ての入力(b
1,b
2)に対して規格化されていると共に、互いに直交しているとして、前記第2演算ステップで生成された量子状態を、
【数120】
で表されるものとして、空間~A
1G
1D
1に対する測定を行う第4測定ステップと、
前記第4測定ステップで得られた結果により特定される空間F
1へのユニタリ演算を施すことにより、
【数121】
である量子状態を生成する第3演算ステップと、
前記第3演算ステップで生成された量子状態に対して、各mについて、空間F
1,mに対する測定を行う第5測定ステップと、
a
1,a
2を数列とし|a
1,a
2〉
symはa
1≠a
2のときは
【数122】
でありa
1=a
2のときは|a
1,a
1〉として、空間F
1がM個のZ
d次元の部分空間F
1,mにより構成されるとして、各mについて、前記第5測定ステップで得られた空間F
1,mに対する測定結果により特定される部分空間E
mへのユニタリ演算を施すことにより、
【数123】
である量子状態を生成する第4演算ステップと、
を有するマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
量子状態を量子ネットワークによってマルチキャストするにあたって、送信する量子状態の精度を100%にするためには、コピー不可能性の定理により、受信者の数のだけ、送信者は量子状態を用意する必要がある。しかし、量子状態の精度がある程度低下しても良い場合においては、入力の量子状態の数を減らしても、原理的にはマルチキャストは可能である。また、その結果として、量子ネットワークに要求する性能も下げられる可能性がある。
【0009】
特許文献1に記載された技術は、初めてそのような条件の緩和を行ったプロトコルであり、非常に有効なプロトコルであるものの、バタフライネットワークで、かつ転送効率が2という非常に限定的な状況でのみ利用可能であり、また、プロトコルはその特殊な条件に強く依存しているため、他のネットワークに適応できない。
【0010】
そこで、本発明は、特許文献1と同様に送信する量子状態の精度を100%にするという条件を緩和した条件のもとで、任意の形状のネットワークに適応可能なマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によるマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法は、配信先のノードである受信ノードの数Mよりも少ない数の送信量子状態をそれぞれ有するN個の送信ノードs
1,s
2,…,s
Nから、M個の受信ノードの各々に前記送信量子状態を高精度で近似する量子状態を配信するマルチキャスト方法であって、d
(n),Q
(n)をn(n=1,2,…,N)に応じて定まる正の整数とし、
→aを0≦a
1≦…≦a
Q≦dの関係を満たす数列a
1,a
2,…,a
Qとし、jを正の整数としてS
jをj次の置換群とし、
→cを数列とし|
→c|を数列を構成する要素の数とし、
→c
σを数列
→cを構成する各数を置換σによって置換した数により構成される数列とし、Ω_(
→c)を数列
→cに対して定義される集合{
→c
σ|σ∈S_|
→c|}とし、(
→a,
→x)を2つの数列
→a,
→xを直列に並べた数列とし、d
(n)[Q
(n)]は整数
【0012】
【数1】
【0013】
を表すとし、|Ω_(
→c)|を集合を構成する要素の数とし、P(・)を・への射影演算子として、各送信ノードs
n(n=1,2,…,N)において、以下の式で定義される測定を行う第1測定ステップと、
【0014】
【数2】
【0015】
前記第1測定ステップを実行して得られる測定結果である古典情報
→x
(n)を前記M個の受信ノードに古典通信路を使って送信する古典通信ステップと、前記送信ノードの状態を前記M個の受信ノードに送信する古典ネットワーク符号化プロトコルを、前記第1測定ステップを実行して得られる量子状態を初期値とする量子ネットワーク上でシミュレートするシミュレートステップと、前記シミュレートステップにより生成される量子ネットワーク上のエンタングル状態に対して、フーリエ基底への測定を行う第2測定ステップと、
→0
(n)をM個の0列とし、
【0016】
【数3】
【0017】
とし、
【0018】
【数4】
【0019】
とし、~A
m(n)を受信ノードt
mに存在する状態空間とし、D
1(n)を受信ノードt
1に属し|σ∈S
M〉を正規直交基底とするM!次元の量子状態空間とし、C
m(n)を受信ノードt
mに属し|m∈{1,2,…,M}〉を正規直交基底とするM次元の量子状態空間とし、E
m(n),G
m(n)を受信ノードt
mに属し|a∈Z
(d)〉を正規直交基底とするd
(n)次元の量子状態空間とし、F
1(n)を受信ノードt
1に属し、
【0020】
【数5】
【0021】
を正規直交基底とする(d
(n))
M次元の量子状態空間とし、jを正の整数として(
→a,
→x)
jを数列(
→a,
→x)のj番目の要素として、前記第2測定ステップにより生成される量子状態と前記M個の受信ノードの間で共有されている補助状態であるエンタングル状態とからなる量子状態
【0022】
【数6】
【0023】
にユニタリ演算を施すことにより、
【0024】
【数7】
【0025】
である量子状態を生成する第1演算ステップと、前記第1演算ステップで生成された量子状態に対して、m≠1における空間~A
mG
mC
mとC
1の測定を行う第3測定ステップと、前記第3測定ステップで得られた結果により特定される空間~A
1G
1D
1へのユニタリ演算を施すことにより、
【0026】
【数8】
【0027】
である量子状態を生成する第2演算ステップと、b
mを数列
→bのm番目の要素とし、
−Ω_(
→a,
→b)を|
→a|=|
→b|が成り立つ二つの数列
→aと
→bに対して定義される集合{σ|σ∈S_|
→a|,
→a
σ=
→b}とし、|ψ_(
→x)(
→b)>を
→b∈Ω_((
→a,
→x))となる
→aが存在する時に、
【0028】
【数9】
【0029】
で定義される量子状態であり、定義域の範囲の全ての入力
→bにおいて規格化されていているとともに、互いに直交しているとして、前記第2演算ステップで生成された量子状態を、
【0030】
【数10】
【0031】
で表されるものとして、空間~A
1G
1D
1に対する測定を行う第4測定ステップと、前記第4測定ステップで得られた結果により特定される空間F
1へのユニタリ演算を施すことにより
【0032】
【数11】
【0033】
である量子状態を生成する第3演算ステップと、前記第3演算ステップで生成された量子状態に対して、各mについて、空間F
1,mに対する測定を行う第5測定ステップと、
→cを数列とし|
→c>
symを|Ω_
→c|
(-1/2)Σ_(
→c’∈Ω_
→c)|
→c’>として、空間F
1がM個のZ
d次元の部分空間F
1,mにより構成されるとして、各mについて、前記第5測定ステップで得られた空間F
1,mに対する測定結果により特定される部分空間E
mへのユニタリ演算を施すことにより、
【0034】
【数12】
【0035】
である量子状態を生成する第4演算ステップと、を有する。
【0036】
本発明の一態様によるマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法は、1個の送信ノードs
1から、2個の受信ノードt
1,t
2の各々に前記送信ノードs
1の送信量子状態を高精度で近似する量子状態を配信するマルチキャスト方法であって、dを正の整数とし、P(・)を・への射影演算子として、前記送信ノードs
1において、以下の式で定義される測定を行う第1測定ステップと、
【0037】
【数13】
【0038】
前記第1測定ステップを実行して得られる測定結果である古典情報xを前記2個の受信ノードに古典通信路を使って送信する古典通信ステップと、前記送信ノードの状態を前記2個の受信ノードに送信する古典ネットワーク符号化プロトコルを、前記第1測定ステップを実行して得られる量子状態を初期値とする量子ネットワーク上でシミュレートするシミュレートステップと、前記シミュレートステップにより生成される量子ネットワーク上のエンタングル状態に対して、フーリエ基底への測定を行う第2測定ステップと、A
mとB
mとC
mとD
mとE
mとF
mとG
mはそれぞれt
mに存在している状態空間であり、~A
mをA
mとB
mとからなる状態空間とし、D
1は|(1,2)〉と|(2,1)〉を正規直交基底とする2次元空間であり、C
mは|1〉と|2〉を正規直交基底とする2次元空間とし、A
m,B
m,E
m,G
mを|α∈Z
d〉を正規直交基底とするd次元の空間とし、F
1を|(α,α’)∈Z
d(×)2>を正規直交基底とするd
2次元空間として、前記第2測定ステップにより生成される量子状態と前記2個の受信ノードの間で共有されている補助状態であるエンタングル状態とからなる量子状態
【0039】
【数14】
【0040】
にユニタリ演算を施すことにより、
【0041】
【数15】
【0042】
である量子状態を生成する第1演算ステップと、前記第1演算ステップで生成された量子状態に対して、空間~A
2G
2C
2とC
1の測定を行う第3測定ステップと、前記第3測定ステップで得られた結果により特定される空間~A
1G
1D
1へのユニタリ演算を施すことにより、
【0043】
【数16】
【0044】
である量子状態を生成する第2演算ステップと、Ω
a,xをa=xの時は(x,x)のみからなる集合で、a≠xの時は、(a,x), (x,a)の二つの要素からなる集合であるとし、|ψ
x(b
1,b
2)〉はb
1=x又はb
2=xの時に
【0045】
【数17】
【0046】
によって定義される量子状態であり、定義域において全ての入力(b
1,b
2)に対して規格化されていると共に、互いに直交しているとして、前記第2演算ステップで生成された量子状態を、
【0047】
【数18】
【0048】
で表されるものとして、空間~A
1G
1D
1に対する測定を行う第4測定ステップと、前記第4測定ステップで得られた結果により特定される空間F
1へのユニタリ演算を施すことにより、
【0049】
【数19】
【0050】
である量子状態を生成する第3演算ステップと、前記第3演算ステップで生成された量子状態に対して、各mについて、空間F
1,mに対する測定を行う第5測定ステップと、a
1,a
2を数列とし|a
1,a
2〉
symはa
1≠a
2のときは
【0051】
【数20】
【0052】
でありa
1=a
2のときは|a
1,a
1〉として、空間F
1がM個のZ
d次元の部分空間F
1,mにより構成されるとして、各mについて、前記第5測定ステップで得られた空間F
1,mに対する測定結果により特定される部分空間E
mへのユニタリ演算を施すことにより、
【0053】
【数21】
【0054】
である量子状態を生成する第4演算ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、送信する量子状態の精度は100%でなくてもよいという条件のもとで、任意の形状のネットワークに適応可能なマルチキャスト量子ネットワーク符号化方法が構築できる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
[既存技術の概要]
量子ネットワーク符号化を分類する場合、背景技術で説明したように目的の面からも分類できるが、手段に関しても分類する事ができる。具体的には、ノード間の古典情報/量子情報の通信をどの様に許容するかで分類ができる。具体的には、例えば1ビットの古典情報通信と1量子ビットの量子情報を同等のコストととらえ、その総和を制限するというモデルがある。これは、1量子ビットの量子情報の通信のみを用いて古典情報を送る場合には、1ビットの古典情報しか送ることができない、という理論的な対応に裏打ちされたモデルである。もう一方で、古典情報の通信は無制限に許可され、量子情報の通信のみを制限するというモデルがある。このモデルは、量子通信を実現するのは古典通信を実現するのに比べれば桁違いに困難であるという実験的事実に裏打ちされたモデルである。
【0058】
本発明は、古典情報通信が無制限に許可されるモデルによるものである。このような量子ネットワークモデルにおける従来技術としては、参考文献1に説明されている技術と参考文献2を用いたその非線形符号への一般化が存在する。
【0059】
[参考文献1]H. Kobayashi, F. Le Gall, H. Nishimura, M. Roetteler, Proceedings of the 2010 IEEE International Symposium on Information Theory (ISIT 2010), 2686 (2010)
[参考文献2]H. Kobayashi, F. Le Gall, H. Nishimura, M. Roetteler, Proceedings of the 2011 IEEE International Symposium on Information Theory (ISIT 2011), pp. 109-113, (2011).
参考文献1,2はいずれも量子ネットワーク符号化技術に関するものではなく、セッション間で量子情報のやり取りを行う量子セッション間ネットワーク符号に関する技術である。
【0060】
参考文献1は、1個の送信ノードとN個の受信ノードを持ち、送信ノードから各受信ノードへの情報の転送レートがr(単位時間当たりrビットをN個すべての受信ノードに送信可能)であるような古典線型マルチキャストネットワーク符号を元にして、対応する古典通信が無制限に許容された量子ネットワーク上で場合において、N個のうちの任意の1個の受信ノードに単位時間当たりr量子ビットの情報を送信する量子ネットワーク符号の作成法を提案している。
【0061】
参考文献2は、N個の送信ノードとN個の受信ノードを持つ転送レートrの古典セッション間ネットワーク符号を元にして、無制限に古典通信が許される量子ネットワーク上でN個の送信ノードとN個の受信ノードを持つ転送レートr(送信ノードから対応する受信ノードへ、それぞれ単位時間当たりr量子ビットを送信可能)のセッション間ネットワーク符号の作成法を提案している。
【0062】
参考文献2では、非線形な古典セッション間ネットワーク符号に対しても、対応する量子セッション間ネットワーク符号の作成法を提案しているが、同じ手法は参考文献2で考えられているマルチキャストネットワーク符号化にも適応可能で、これにより1個の送信ノードとN個の受信ノードを持ち、転送レートがrであるような非線形も含む任意の古典マルチキャストネットワーク符号を元にして、N個の受信ノードのうちの任意のr個に1量子ビットの情報を送信する自由な古典情報通信を許す量子ネットワーク符号が作成できることがわかっている。
【0063】
参考文献1,2は、セッション間の量子情報の送信を目的とした量子ネットワーク符号化技術であって、本発明が対象とする複数の送信ノードから複数の受信ノードへ情報を送信するタスクとは対象としているタスクが異なる。ただし、古典情報のネットワークコーディングを援用して対応する量子ネットワークを定義し、符号化を具体的に構成しているという点が、本発明と同じであり本発明の説明に有用であるため、以下バタフライネットワークを例にとって参考文献1,2の詳細を説明する。
【0064】
バタフライネットワークは
図1で表されるネットワークであり、1つの送信ノード(s)と2つの受信ノード(t
1,t
2)と4つの中継ノード(1,2,3,4)とアーク(s;1),(s;2),(1;3),(1;t
1),(2;3),(2;t
2),(3;4),(4;t
1),(4;t
2)から構成される。各アークは単位時間当たりd値の古典情報を伝送可能であるとすると、
図1に表される方法で符号化することで、単位時間あたりd
2値の古典情報のマルチキャスト通信が可能である。今、与えられたノードがn個の入力アークとm個の出力アークを持つとするとノードでの(古典)符号は一般にZ
d(×)nからZ
d(×)mへの写像f
k(a
1,a
2,…,a
n)=(a’
1,a’
2,…,a’
m)という形で与えられる、ここでは
【0066】
で与えられる。最後に受信ノードが復号
【0068】
を行うことで、入力b
1,b
2が2つの受信ノードに到達する。iを正の整数としてZ
iはiに関する剰余類群である。次に上記の古典ネットワーク符号を参考文献1に従って量子ネットワーク符号に書き換える。量子バタフライネットワークは、
図1において入力がb
1,b
2の代わりにd
2次元空間に含まれる量子状態
【0070】
で与えられる。また、古典情報の場合、各アークは単位時間当たりにd値の古典情報の通信を許されていたが、ここでは各アークは単位時間当たりd次元の量子状態の送信が許される。又、古典通信はすべてのノード間で無制限かつ瞬時に行われるものとする。この条件の下で、対応する量子ネットワーク上の量子ネットワーク符号化は以下の3つのステップで構成される。
【0071】
1. 古典プロトコルを量子ネットワーク上で形式的にシミュレートすることによりエンタングル状態を量子ネットワーク上に構成する。
【0072】
2. 余計なエンタングルメントをフーリエ基底への測定で壊すことによって、量子状態全体空間を縮小する。ここで、フーリエ基底とは、
【0075】
3. 測定結果に依存する位相のずれを訂正する。
【0076】
これらのステップは、参考文献1のようにノードごとに行ってもよいし、参考文献2のようにすべてのノードに対してステップ1を行ってから、ステップ2と3を順に行っていっても良い。
【0077】
ステップ1では、Z
d(×)nからZ
d(×)mへの写像f:(a
1,a
2,…,a
n)→f(a
1,a
2,…,a
n)∈Z
d(×)mに対してn+m個のd次元量子状態に対するユニタリーゲート
【0079】
を作用させる。ここで、U
fは一意ではなく、上式を満たす任意のユニタリーゲートでよい。今、ノードに対する入力量子状態が
【0081】
という一般のn個のd次元量子状態だとすると(ここでa
iはZ
dの元であり、複素係数
【0085】
を満たす)、初期化された補助空間を用意しユニタリーゲートU
fを作用させた後の状態は、
【0087】
となる。ここで、入力のn個のd次元量子状態を消す必要がある。これは、次のように行われる。まず、入力のn個のd次元量子状態のそれぞれを、フーリエ基底、すなわち
【0089】
で測定しその出力を(p
1,p
2,…,p
n)とする。この操作で、ユニタリーゲートの出力状態は、測定結果(p
1,p
2,…,p
n)に依存して以下のように変形される。
【0091】
欲しい状態と上記の状態との間には、測定結果に依存する位相のずれ
【0093】
がある。この位相のずれを訂正するためには、測定結果(p
1,p
2,…,p
n)とfに依存して量子ゲートを作用させる必要がある。これが量子ネットワーク符号化の最後のステップとなるのだが、最も複雑なところであるので、一般的な手法はここでは説明しない。代わりにバタフライネットワークの場合のプロトコルを例示する。なお、すでに定義しているf
1等については、上記のような3ステップを実施することなく、入力量子ビットと初期化された補助量子ビット|0〉に対してゲートC-X:|a
1,a
2〉→|a
1,a
1(+)a
2〉を演算するだけで、上記の手法ですべてのステップを行った場合と同じ結果を得る。以下では、ノード1,2,4はこちらの処理を使う。
【0094】
バタフライネットワークにおける
図1で表される古典ネットワーク符号に対応する量子ネットワーク符号は以下のように構成される。なお、以下では、単位時間あたりの各ノードの操作と、その結果得られる単位時間における入力状態と出力状態の関係のみを扱う。実際の量子通信は単位時間あたりに以下の操作を繰り返す事で行われる。
【0095】
1. ノードsは2個のd次元空間に含まれる状態|Ψ
in〉を生成し、2つの空間をそれぞれノード1と2に送信する。
【0096】
2. ノード1とノード2は、それぞれ、受け取った量子状態と新しい量子状態|0〉を合わせてC-X ゲートを演算し、ノード1はノード3とノードt
1に、ノード2はノード3とノードt
2に出力量子状態を1つずつ送信する。
【0097】
3. ノード3は、ノード1とノード2から受け取った合計2個の量子状態と初期化された補助量子ビット|0〉にU_f
3を掛け(f
3は既出)、更にノード1とノード2から送られた量子状態をそれぞれフーリエ基底で測定して、測定結果(p
1,p
2)を得る。ここで、p
1はノード1から来た量子状態空間に対する測定結果、p
2はノード2から来た量子状態空間への測定結果である。p
1をノードt
1、p
2をノードt
2に送信する。最後にノード3は残った量子状態(自分で最初に用意した量子状態) をノード4に送信する。
【0098】
4. ノード4は、ノード3から受け取った状態と初期化された補助量子ビット|0〉をあわせてC-Xゲートを演算する。ノードt
1とt
2に出力した二つの量子状態をそれぞれ送信する。
【0099】
5. ノードt
1はノード1から受信した量子状態にZ
p1を演算する。ノードt
2もノード2から受信した量子状態にZ
p1を演算する。ここで
【0102】
6. ノードt
1はノード1とノード4から送られてきた合計2個の量子状態に対してノード1からの状態を制御状態としてC-X ゲートの逆演算を作用させる。同様に、ノードt
2はノード1とノード4から送られてきた合計2個の量子状態に対してノード2からの状態を制御ビットとしてC-X ゲートの逆演算を作用させる。上記のプロトコルを行うことで、入力量子状態
【0104】
に対して、ノードt
1 とノードt
2の4 つの量子状態の出力
【0108】
となる。ここで量子空間A
mとB
mはノードt
mが持っている。ここから、フーリエ基底での測定とその測定結果に応じたZ演算で、|Ψ
in〉の一つ目の状態空間を状態空間A
1のA
2どちらか望む方、|Ψ
in〉の二つ目の状態空間を状態空間B
1とB
2のどちらか望む方に再構成することができる。たとえば、A
1とB
2に構成したければ、A
2をフーリエ基底で測定し、得られた測定結果pに応じてZ
pをA
1に作用させ、更にB
1をフーリエ基底で測定し、得られた測定結果qに応じてZ
qをB
2に作用させると良い。これら一連の操作によって、
【0111】
以上が、従来技術であるが、上記の古典ネットワーク符号を元にした量子ネットワーク符号はマルチキャストという目的を全くはたしていない。すなわち、もとの古典のネットワーク符号は、d
2値の情報(b
1, b
2)を終端ノードt
1とt
2の両方に配信している(
図1) が、対応する上記の量子ネットワーク符号は、2つのd次元空間にふくまれる量子状態の|Ψ
in〉の各々の空間をノードt
1とt
2に送信することしかできていない。なお、ノード1、「もしくは」ノード2に量子状態全体を送信することも可能であることは容易にわかる。この場合、もう片方のノードには入力量子状態に関する何の情報も残されない。
【0112】
本発明では、例えば、量子状態の|Ψ
in〉を2つのノードt
1とt
0両方に配信する事を目指す。すなわち、プロトコルの出力状態
【0116】
となる量子ネットワーク符号を目指す。しかし、入力状態を変更させない場合、このようなタスクは量子力学の原理に反するため作成不可能であることは有名なクローン禁止定理(例えば、参考文献3参照。)より明らかである。一方、クローン禁止定理が許容する限界の精度となる出力状態を与えるプロトコルは『量子最適対称普遍クローン機械』と呼ばれる。そこで、本発明では、ネットワーク上でこの『量子最適対称普遍クローン機械』を実行する量子ネットワーク符号を提案する。
【0117】
[参考文献3]M.A. Nielsen, I.L. Chuang, "Quantum Computation and Quantum Information", Cambridge University Press (2000)
そのために、本発明でも、参考文献1,2と同様に古典的なネットワークコーディングによるマルチキャストプロトコルを援用して、若干の量子もつれを受信者間におけるリソースとして利用する量子ネットワーク符号化プロトコルを構成する。
【0118】
[バタフライネットワーク]
まず、バタフライネットワークの場合を例に、本発明の基本的な原理を説明する。援用する古典ネットワークとそこから生成する量子ネットワークの関係は参考文献1,2と同等の関係にある。
【0123】
によって定義される測定を|Φ〉に対しておこなう。ただし、P(・)はベクトル・への射影演算子である。δはいわゆるクロネッカーのデルタであり、x
1=x
2であればδ(x
1,x
2)=1であり、x
1=x
2であればδ(x
1,x
2)=1であり、x
1≠x
2であればδ(x
1,x
2)=0である。測定結果がxの時の出力状態として得られる量子状態は
【0127】
として、規格化していない表現とする)。測定結果xはノードt
1とノードt
2に古典通信路を使って古典コンピュータによる通信装置により伝えられるものとする。測定の結果得られる量子状態はd次元空間中の量子状態であるが、┌(d)
(1/2)┐次元の二つの量子空間の中に存在する量子状態と考える。ノードsでは、このd次元の入力状態|Φ〉を|Ψ
in〉として、[既存技術の概要]の欄で示したプロトコルを利用することで、
【0129】
が出力として得る。m=1,2として、~A
mはA
mとB
mからなる状態空間であるとする。m=1,2として、A
mとB
mはt
mに存在している状態空間のことである。ここで、事前に受信ノードであるt
1とt
2の間で
【0131】
をリソースとして共有しているとする。(C
mとD
mはそれぞれt
mに存在している状態空間であり、D
1は|(1,2)〉と|(2,1)〉を正規直交基底とする2次元空間であり、C
mは|1〉と|2〉を正規直交基底とする2次元空間である (この量子もつれはt
1とt
2の間でEPR対と同等の量子もつれを持っており、送信しようとしている量子状態の次元に依存しない事に注意されたい)。ここで、補助空間として、G
1E
1F
1とG
2E
2をそれぞれのノードt
1とt
2に持ち込む。G
mとE
mは|α∈Z
d〉を正規直交基底とするd次元空間であり、F
1は|(α,α’)∈Z
d(×)2〉を正規直交基底とするd
2次元空間である。古典通信によって受信したx∈Z
dを使う事で、全系を
【0133】
とすることができる。ここで、ノードt
1に対して、
【0135】
となるユニタリ演算を作用させる。その後に、2つのノードt
mに対して
【0137】
となるユニタリ演算を作用させる。ただし、各々の式において(1/2,2/1)は前者を1としたときは後者を2とし(1,2)、前者を2としたときには後者を1とする(2,1)ことを意味することとする。すると、
【0140】
次に受信ノードであるt
1とt
2のそれぞれにおいて、上記演算により得られた量子状態をフーリエ基底で測定して、位相の修正をするという操作をするわけであるが、以下のように一般化した枠組みでみる。
【0141】
操作1, {|u〉}
u, {|v〉}
vを正規直交基底とする。
【0143】
が与えられた場合、Cの空間での測定とその結果を用いたAの空間へのユニタリ変換を実行することで
【0145】
を得る事ができる事が容易に証明できる。このような操作を今後『空間Aを使って空間Cを消去する』という言い方をする事とする。注意として、この操作において空間を跨いだ測定やユニタリ変換を行っていない点と、純粋に空間Cを無視すると失われてしまう位相情報が残されて全系が純粋状態のままである点に注意されたい。
【0146】
具体的な操作は以下のように実行する。
【0147】
Cの空間次元をdとした場合、のフーリエ基底
【0149】
による射影測定をおこない、測定結果pを得る。測定後の状態はpを用いて
【0151】
と記述する事ができる。次に出力pに応じて
【0153】
で定義されるユニタリ行列を作用させると所望の状態が得られる。
【0154】
以上の一般論の立場にたつと、空間~A
1G
1D
1を使って空間~A
2G
2C
2を消去し、空間D
1を使って空間C
1を消去することで
【0156】
が得られる。この表現をインデックスの付け替えによって
【0158】
と書きなおす事ができる。ただし、Ω
a,xはa=xの時は、(x,x)のみからなる集合で、a≠xの時は、(a,x), (x,a)の二つの要素からなる集合であるとする。|ψ
x(b
1,b
2)〉はb
1=x又はb
2=xの時に
【0160】
によって定義される量子状態である。ここで、定義域において全ての入力(b
1,b
2)に対して規格化されていると共に、互いに直交している。そこで、空間F
1を使って空間~A
1G
1D
1を消去する事ができ、
【0162】
が得られる。空間F
1の状態|(b
1,b
2)>
F1はZ
d次元2つの部分空間F
1,1とF
1,2に分解し|(b
1,b
2)>
F1,1F1,2と書く事ができる。ここで、にさらに空間E
mを使って空間F
1,mを消去することで
【0164】
が得られる。ただし、|a
1,a
2〉
symはa
1≠a
2のときは
【0166】
であり、a
1=a
2のときは|a
1,a
1〉とする。そもそも、古典的な値xが測定によって確率的に生成されたことを考慮すると、最終的に得られる量子状態の密度行列は
【0170】
と書く事ができる。ただし、P
symは対称空間への射影であるとする(対称空間とは、ここでは、|a
1,a
2〉
symで張られるd(d+1)/2次元空間である)。これを書き直すと、
【0172】
が得られる。二つの部分空間に対して対称的であるこの密度行列において、その各々の部分空間は二つの受信ノードにそれぞれ存在する。また、この密度行列は、1つ純粋状態から2つの複製を作ろうとした場合の、複製精度の理論限界をあたえる量子状態を表していることがよく知られおり、それぞれの量子状態の複製精度は(1/2)+(1/(d+1))になる。このように複製精度の理論限界を達成する装置は一般的に『量子最適対称普遍クローン機械』と呼ばれ参考文献4に記載されている。本発明は量子ネットワーク符号を用いて『量子最適対称普遍クローン機械』の作成に成功した点に特徴がある。
【0173】
[参考文献4]V. Scarani, S. Iblisdir, and N. Gisin, Rev. Mod. Phys. 77, 1225, (2005)
以上が、各々のアークにおいて┌d
(1/2)┐次元の完全な量子通信が可能で、古典通信は任意のノードで許され、受信者間でEPRペアをリソースとして持っている場合のd次元の量子状態を2受信者に配送する提案プロトコルである。
【0174】
ただし、上の条件は実効的に実現されれば良い事を注意しておく、例えば「完全な量子通信」は不完全な量子通信と誤り訂正で代用できるし、d’次元の量子もつれの2者間での共有は、その2者間におけるd’次元の完全な量子通信と同等である。
【0175】
[バタフライネットワークでの従来技術との比較]
量子情報のマルチキャストを行う方法は当業者が容易に思いつく方法としては2つある。
【0176】
・純粋に、|Φ〉をアーク(s;1),(1;t
1)と(s;2),(2; t
2)を使って、t
1とt
2に単純に送るというプロトコルが考えられる。この場合の各アークにd次元の量子情報を送る容量が必要である。
【0177】
・(s;1),(1;t
1)と(s;1),(1;3),(3;4),(4;t
1)となどt
1への通信路を2本確保し|Φ〉を100%の精度でt
1へ送信し、そこで最適な複製をしてから、片割れをt
1とt
2の間のエンタングルメントなどを利用して量子テレポーテーションをおこなうプロトコルが考えられる。この場合の各アークでは┌d
(1/2)┐元の量子通信を確保すればよいという点では本提案プロトコルと同じであるが、t
1とt
2との間で共有しなければならない量子もつれについては、提案プロトコルでは2次元の量子もつれで十分であるのに対して、この方法ではd次元の量子もつれが必要となる。
【0178】
・バタフライネットワークに限れば、特許文献1はバタフライネットワーク上でd=4の場合に、受信ノードにおける量子もつれ状態の共有が不要であるという点以外は、本発明と同じ状況でのプロトコルが例示されていると言える。ただし、量子最適対称普遍クローニング機械になっておらず、本発明よりも低い複製精度しか出せていない。
【0179】
以上のように、従来の手法よりも良い点がみられる切り口が至る所にある。これが非自明なネットワークプロトコルを初めて提案したことで実現した。
【0180】
[一般的ネットワーク符号化から生成される量子ネットワーク符号化プロトコル]
N個の送信ノードからそれぞれ
【0182】
値(ここでnは送信ノードのラベルで1≦n≦Nを満たす)の古典情報をM個のすべての受信ノードへマルチキャストをおこなう古典ネットワークコーディングをおこなうプロトコルが存在する事を仮定する。この時このプロトコルを利用して、対応する量子ネットワークにおいて、N個の送信ノードからそれぞれd
(n)次元(1≦n≦N)の量子情報(Q
(n)個のコピーがn番目の送信ノードに与えられる)をM個の受信ノードへマルチキャストする量子プロトコルを構成する。ここで、構成されたプロトコルによってマルチキャストされた量子状態の複製精度はそれぞれ
【0184】
となる。これは、量子力学が許容する最適な複製精度であり、当プロトコルは例えば参考文献4に記載された『量子最適対称普遍クローン機械』をN個それぞれの入力ノードが並列に実現している。ただし、ここで対応関係にあると述べている古典的ネットワークと量子的ネットワークは以下の関係にあるとする。
【0185】
・古典ネットワークにおいて通信が許容されるノードのペアと量子ネットワークにおいて通信が許容されるノードのペアは等しい。
【0186】
・古典ネットワークにおいて単位時間当たりに各アークが通信する古典情報のサイズをと量子ネットワークにおいて単位時間当たりに各アークが通信する量子状態の次元が等しい。
【0187】
・量子ネットワークにおいて古典通信は無制限に可能である。
【0188】
・量子ネットワークにおいて、複数の受信者間に通信次元に依存しない量子もつれをリソースとして共有している。(具体的な形は以下の詳細に記述してある。)
以下具体的に、古典ネットワーク符号化を使って量子ネットワーク符号化を定義する。
【0189】
まず、N個の送信ノードをs
1,s
2,…,s
N、M個の受信ノードをt
1,t
2,…,t
Mとし、個々のノードが配送しようとする状態を
【0193】
が各送信ノードs
nに与えられているものとする。この時、このように書き下せる任意の状態|Φ
(n)〉は
【0195】
と書き下せ、d
(n)[Q
(n)]次元の対称空間に含まれることがわかる。ただし、
【0197】
と定義する。ここで、Ω_(
→a)は数列
→aに対して定義される集合で
【0199】
|
→a|は数列
→aの要素数を表し、S
QはQ次の置換群、|Ω_(
→a)|は集合Ω_(
→a)の要素数をあらわす。置換σ∈S_(|
→a|)に対して
→a
σは数列(a
σ(1),a
σ(2),…,a
σ(Q))をあらわすものとする。これらから、|Φ
(n)〉をd
(n)[Q
(n)]次元の量子状態とみなすことができる。ただし、これらの定義から|
→α>
symのノルムが1になっていることに注意されたい。
【0202】
によって定義される測定を|Φ
(n)〉に対しておこなう。ただし、(
→a,
→x)は二つの数列を直列に並べた数列とする。測定結果が
→xの時の出力状態として得られる量子状態は
【0206】
として、規格化していない表現とする)。測定結果
→x
(n)は受信ノードt
mに古典通信路を通じて古典コンピュータによる通信装置により伝えられるものとする。
【0207】
次に、バタフライネットワークの時と同様に、対応する古典的ネットワーク符号のルールに従って、N個の送信ノードで作られた独立な量子状態の情報をM個の受信ノードに送る。つまり、全ての送信ノードs
nにおけるd
(n)[Q
(n)]次元の量子状態|Φ
(n)〉の直積を|Ψ
in〉として、[既存技術の概要]で示したプロトコルを実行する。この時、中間のノードでおこなう古典的なプロトコルにおける
【0209】
という計算は計算のたびごとに補助の量子空間を用意し、
【0211】
を満たすユニタリ行列をおこなう事で代用する。そして計算後にのこされた空間はそのままそのノードが保持する。
【0212】
古典的なネットワーク符号化によって古典情報がマルチキャストできるという事実から、一連の量子操作等を実行した後の状態は
【0214】
と書くことができる。ただし、ここでVは送信者(送信ノード)・受信者(受信ノード)・中継者(中継ノード)をふくむすべてのノードを表す。また、C
vはノードvに存在する状態空間であり、~A
m(n)は受信ノードt
mに存在する状態空間である。
【0215】
ここで、任意のv∈Vに対して、空間~A
1(1)~A
1(2)…~A
1(N)を使って空間C
vを消去する事ができ、
【0217】
がえられる。以上が、対応する古典ネットワーク符号を利用した部分である。以下、ここで得られた量子状態と、M個の受信ノード間でリソースとして量子もつれを利用して、各送信ノードが送信しようとした量子状態に近い状態を各受信ノードで作成するプロトコルを明示する。まず、利用する量子もつれは具体的には
【0219】
とかけるものとする。ただし、C
m(n)はノードt
mに属し|m∈{1,2,…,M}〉を正規直交基底とするM次元の量子状態空間であり、D
1(n)はノードt
1に属し|σ∈S
M〉を正規直交基底とするM!次元の量子状態空間とする。注意として、上記のN個の量子もつれは全てにおいてノードt
1が他のノードと非対称的となっているが、nの値に応じて異なるノードがt
1の役割を果たしても以後の議論は同様に展開できる。ここで、補助空間としてG
m(n)とE
m(n)とF
1(n)を持ち込む。G
m(n)E
m(n)はそれぞれノードt
mに属し|a∈Z_d
(n)〉を正規直交基底とするd
(n)次元の量子状態空間であり、F
1(n)をt
1に属し
【0221】
を正規直交基底とする(d
(n))
M次元の量子状態空間である。次に、古典通信によって受信した
【0225】
と記述できる。ただし、
→0
(n)はM個の0列とする。ここで、nを引数として分割された直積空間のそれぞれ含まれる状態、
【0227】
に対して以下の処理をおこなう(ただし、(n)の記号は簡単のため省略する)。
まず、t
1において
【0229】
を作用させた後に、全ての受信ノードt
mにおいて
【0233】
が得られる。ただし、二つの数列
→aと
→xを直列に並べた数列(
→a,
→x)に対して(
→a,
→x)
mは数列(
→a,
→x)のm番目の要素とする。つまり、式(36)(式(37))で定義されるユニタリ演算U
0,U
m∈{1,2,…,M}は、補助空間F
1(E
m)における量子状態が、当該受信ノードが保有している空間~A
1G
1(~A
mG
m)における量子状態|
→a,
→x>を空間C
mにおける量子状態|σ〉(|σ(m)〉)で指定されるインデックスで選択した要素の値をもつ状態(インデックス順で置き換えた状態)となるように変換する演算である。ここで任意の1<m≦Mに対して、空間~A
1G
1D
1を使って空間~A
mG
mC
mを消去し、D
1を使ってC
1を消去する事ができ
【0237】
に対して次の一般的に成り立つ関係式を利用する。
【0239】
ただし、Ω_(
→a,
→b)を|
→a|=|
→b|が成り立つ二つの数列
→aと
→bに対して定義される集合{σ|σ∈S_|
→a|,
→a
σ=
→b}とする。ここで、式(40)の関係式を使う事で、式(39)は
【0241】
と書くことができる。ただし、|ψ_(
→x)(
→b)>を
→b∈Ω_((
→a,
→x))となる
→aが存在する時に、
【0243】
で定義される量子状態であり、定義域の範囲の全ての入力
→bにおいて規格化されていているとともに、互いに直交している。そこで、空間F
1を使って空間~A
1G
1D
1を消去する事ができ、
【0245】
が得られる。空間F
1の状態|
→b>_F
1はM個のZ
d次元の部分空間F
1,mに分解し
【0247】
と書く事ができる。ここで、さらに空間E
mを使って空間F
1,mをそれぞれのmで消去することで
【0249】
が得られる。ただし、ここでは~α_
→aの定義を陽に使うとともに、|
→b>
symは
【0251】
とする。そもそも、古典的な値xが測定によって確率的に生成されたことを考慮すると、最終的に得られる量子状態の密度行列は
【0255】
と書く事ができる。ただし、P
symは対称空間への射影であるとする(対称空間とは、ここでは、|
→b>
symで張られるd[|
→b|]次元空間である)。これを書き直すと、
【0257】
が得られる。M個の部分空間に対して対称的であるこの密度行列において、その各々の部分空間はそれぞれ受信ノードt
mに存在する。また、この密度行列は、Q個の純粋状態からM個の複製を作ろうとした場合の、複製精度の理論限界をあたえる量子状態を表していることがよく知られおり、それぞれの量子状態の複製精度は
【0259】
となる。以上の操作を受信ノードの各々の直積状態に対して実行する事で
【0261】
が得られる。直積になっている個々の対称的な状態における個々の部分空間が各々の受信ノードt
mに存在する。すなわち、このプロトコルは、d次元量子状態をN個入力し、その複製M個を出力する例えば参考文献4に記載された『量子最適対称普遍クローン機械』をネットワーク上で実現することに成功している。
【0262】
[量子演算装置]
各量子状態における測定及びユニタリ演算は、量子演算装置により実現される。量子演算装置は、量子コンピュータ単体で実現できる。量子コンピュータの実現する物理系としては、例えば、イオントラップを用いる方法(J. I. Cirac and P. Zoller, Quantum computations with cold trapped ions, Physical Review Letter 74;4091, 1995)、量子ビットとして光子の偏光や光路を用いる方法(Y. Nakamura, M. Kitagawa, K. Igeta, In 3-rd Proc. Asia-Pacific Phys. Comf., World Scientific, Singapore, 1988)、液体中の各スピンを用いる方法(Gershenfield, Chuang, Bulk spin resonance quantum computation, Science, 275;350, 1997)、シリコン結晶中の核スピンを用いる方法(B. E. Kane, A silicon-based nuclear spin quantum computer, Nature 393, 133, 1998)、量子ドット中の電子スピンを用いる方法(D. Loss and D. P. DiVincenzo, Quantum computation with quantum dots, Physical Review A 57, 120-126, 1998)、超伝導素子を用いる方法(Y. Nakamura, Yu. A. Pashkin and J. S. Tsai, Coherent control of macroscopic quantum states in a single-cooper pair box, Nature 393, 786-788, 1999)等を例示できる。また、それぞれの物理系に対する量子コンピュータの実現方法については、「http://www.ipa.go.jp/security/fy11/report/contents/crypto/crypto/report/QuantumComputers/contents/doc/qc_survey.pdf」や「M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Computation and Quantum Information, Cambridge UniversityPress, Chapter 7 Physical Realization」に詳しい。