(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<近赤外蛍光色素>
本発明に係る樹脂組成物が含有する近赤外蛍光色素は、当該樹脂組成物から得られる成形体等に要求される製品品質や、混合される樹脂成分の種類等を考慮して、適宜選択して用いることができる。近赤外蛍光色素には無機系蛍光色素と有機系蛍光色素がある。当該蛍光色素は、蛍光極大波長が近赤外領域にあるものであれば特に限定されるものではないが、より簡便に製造できる点から有機系蛍光色素が望ましい。
【0012】
前記有機系の近赤外蛍光色素としては、例えば、ポリメチン系色素、アントラキノン系色素、ジチオール金属塩系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、インドフエノール系色素、スチリル系色素、アルミニウム系色素、ジイモニウム系色素、アゾ系色素、アゾ−ホウ素系色素、国際公開2007/126052号公報などに記載のボロンジピロメテン(BODIPY)系色素等の化合物が挙げられる。
【0013】
本発明に係る樹脂組成物が含有する近赤外蛍光色素としては、上記記載の色素の中でも、シアニン系色素、アゾ−ホウ素系色素、ボロンジピロメテン(BODIPY)系色素、フタロシアニン系色素が、量子収率の点から好ましく、特に、下記式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物が耐熱性の点から好ましい。量子収率が低い場合には、十分な発光強度が得られないおそれがあり、また、耐熱性が低い場合には、樹脂との混練の際に色素が分解するおそれがあるからである。
【0014】
<アゾ−ホウ素錯体化合物>
本発明に係る樹脂組成物が含有する近赤外蛍光色素は、下記式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物である。
【0016】
[式(I)中、
Xは、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
R
1は、C
1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C
1-12アルコキシ基、アリールオキシ基又はハロゲン原子を示すか、或いは、一方のR
1は、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR
1は、独立してC
1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C
1-12アルコキシ基、アリールオキシ基又はハロゲン原子を示し;
R
2とR
3は、一体となって−O−基、−S−基もしくは−N(R
8)−基(ここで、R
8は水素原子又はC
1-12アルキル基を示す)を形成し、且つR
4とR
5は水素原子基を示すか、或いは、R
4とR
5は、一体となって−O−基、−S−基、もしくは−N(R
8)−基(R
8は上記と同義を示す)を形成し、且つR
2とR
3は水素原子基を示し;
R
6とR
7は、独立して水素原子基、C
1-12アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し;
上記アリール基又はヘテロアリール基の置換基は、C
1-12アルキル基、モノ(C
1-12アルキル)アミノ基、ジ(C
1-12アルキル)アミノ基、水酸基及びC
1-12アルコキシ基からなる群より選択される1以上の基を示す。]
【0017】
本発明において、「アリール基」は芳香族炭化水素基を意味する。例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基等であり、好ましくはC
6-10アリール基、より好ましくはフェニル基である。
【0018】
「ヘテロアリール基」は、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環、6員環又は縮合環を有する芳香族ヘテロシクリル基を意味する。「ヘテロアリール基」としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、フリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾール基等の5員環ヘテロアリール基;ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基等の6員環ヘテロアリール基;インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、キノリジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基などの縮合ヘテロアリール基を挙げることができる。好ましくは窒素原子を含むヘテロアリールであり、より好ましくはベンゾチアゾリル基である。
【0019】
「C
1-12アルキル基」とは、炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状の1価脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノナニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等である。R
6〜R
7としては、C
2-12アルキル基が好ましく、C
2-10アルキル基がより好ましく、特にn−C
2-8アルキル基が好ましい。その他の場合では、C
1-6アルキル基が好ましく、C
1-4アルキル基がより好ましく、C
1-2アルキル基がより好ましく、メチル基がより好ましい。
【0020】
「アリールエテニル基」は、上記アリール基に置換された−CH=CH−基を示し、トランス型であってもシス型であってもよいが、安定性の点からトランス型のものが好ましい。また、「アリールエチニル基」は、上記アリール基に置換された−C≡C−基を示す。
【0021】
「C
1-12アルコキシ基」は、C
1-12アルキルオキシ基を意味し、C
1-6アルコキシ基が好ましく、C
1-4アルコキシ基がより好ましく、C
1-2アルコキシ基がより好ましく、メトキシ基がより好ましい。また、本発明において用いられるアゾ−ホウ素錯体化合物において、2つのR
1がアルコキシ基である場合には、炭化水素基同士が結合してホウ素原子と共に環状構造を形成していてもよい。
【0022】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を例示することができ、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0023】
「モノ(C
1-12アルキル)アミノ基」は、1つの上記C
1-12アルキルに置換されたアミノ基を意味し、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基等を挙げることができ、好ましくはモノC
1-6アルキルアミノ基であり、より好ましくはモノC
1-4アルキルアミノ基であり、さらに好ましくはモノC
1-2アルキルアミノ基である。
【0024】
「ジ(C
1-12アルキル)アミノ基」は、2つの上記C
1-12アルキルに置換されたアミノ基を意味する。当該基において、2つのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ジC
1-12アルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ブチルメチルアミノ基、エチルプロピルアミノ基、ブチルエチルアミノ基等を挙げることができ、好ましくはジ(C
1-6アルキル)アミノ基であり、より好ましくはジ(C
1-4アルキル)アミノ基であり、さらに好ましくはジ(C
1-2アルキル)アミノ基である。
【0025】
本発明において用いられるアゾ−ホウ素錯体化合物(I)としては、一方のR
1が、上記Xとも結合している−O−C(=O)−基を示し、6員環を形成するものであり、且つ他方のR
1が、独立してC
1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C
1-12アルコキシ基、アリールオキシ基又はハロゲン原子を示す化合物、及び、下記式(I
1)〜(I
3)で表される化合物が好適である。中でも、式(I
1)で表される化合物がより好ましい。式(I
1)中、Yは置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示し、R
1〜R
7は、前記式(I)中のR
1〜R
7と同義を示す。また、式(I
2)及び(I
3)中、X及びR
1〜R
7は、前記式(I)中のX及びR
1〜R
7と同義を示す。
【0027】
なお、式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物は、例えば、下記式(II)で表されるヒドラゾン化合物(II)にホウ素化合物を反応させることにより合成できる(例えば、特許文献2参照。)。下記式中、X及びR
1〜R
7は前記式(I)中のX及びR
1〜R
7と同義を示す。また、R
9はC
1-12アルキル基、アリール基、アリールエテニル基、アリールエチニル基、C
1-12アルコキシ基、アリールオキシ基又はハロゲン原子であり、R
1と同一であるか或いはR
1よりも脱離し易い基を示す。
【0029】
<樹脂成分>
本発明に係る樹脂組成物が含有する樹脂成分は、特に限定されるものではなく、成形体を形成した際に要求される製品品質等を考慮して、公知の樹脂組成物やその改良物から適宜選択して用いることができる。例えば、当該樹脂成分は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。本発明に係る樹脂組成物が含有する樹脂成分としては、熱可塑性樹脂であることが好ましい。本発明において用いられる樹脂成分としては、1種のみを用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合する場合には、相溶性の高い樹脂同士を組み合わせて用いることが好ましい。
【0030】
本発明において用いられる樹脂成分としては、例えば、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等のウレタン系樹脂;ポリカーボネート(PC);ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル等のアクリル系樹脂;ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリトリメチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリブチレンナフタレ−ト等のポリエステル系樹脂;ナイロン(登録商標)等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン(PS)、イミド変性ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、イミド変性ABS樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合(SAN)樹脂、アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン(AES)樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、シクロオレフィン樹脂等のオレフィン系樹脂;ニトロセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、イソシアヌレート系エポキシ樹脂、ヒダントイン系エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂;メラミン系樹脂;シリコーン系樹脂;フッ素系樹脂;ゴム系樹脂等が挙げられる。中でも、前記式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物の分散性が高いことから、当該樹脂成分としては、PU、PET、PVC、PC、PMMA、PSが好ましく、これらのうちの2種以上を混合して使用しても構わない。
【0031】
また、本発明において用いられる樹脂成分としては、耐放射線性を有するものが好ましい。耐放射線性を有する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂などが挙げられる。これら以外の樹脂であっても、添加剤を併用することにより耐放射線性を向上させることができる。当該添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定化剤、有機系増核剤等が挙げられる。
【0032】
なお、本発明に係る樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物の場合、樹脂成分としては、樹脂成分全体として熱可塑性樹脂であればよく、少量の非熱可塑性樹脂を含有していてもよい。同様に、本発明に係る樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物の場合、樹脂成分としては、樹脂成分全体として熱硬化性樹脂であればよく、少量の非熱硬化性樹脂を含有していてもよい。
【0033】
<樹脂組成物>
本発明に係る樹脂組成物は、前記樹脂成分に近赤外蛍光色素を混合・分散させることにより製造できる。近赤外蛍光色素を樹脂成分に混合・分散する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法で行ってもよく、さらに添加剤を併用しても構わない。例えば、適当な溶媒に溶解させた樹脂組成物溶液に、近赤外蛍光色素を添加して分散させてもよい。また、溶媒を使用しない場合も、樹脂組成物に近赤外蛍光色素を添加して溶融混練させ、本発明に係る樹脂組成物を得ることができる。こうして樹脂中に近赤外蛍光色素が均一に分散された状態の樹脂組成物が得られる。
【0034】
樹脂組成物中の近赤外蛍光色素の含有量は、近赤外蛍光色素が樹脂に混合し得る濃度であれば特に限定されるものでは無いが、発光強度とその検出感度の観点からは0.0001質量%以上が好ましく、濃度消光や発光の再吸収による検出感度の観点からは1質量%以下が好ましく、0.001〜0.5質量%の範囲がより好ましい。
【0035】
本発明に係る樹脂組成物は、耐放射線性に優れた近赤外蛍光を発する。ここで、蛍光を発する樹脂組成物が「耐放射線性に優れている」とは、放射線照射による極大吸収波長の吸光度の減衰率〔([放射線照射前の吸光度]−[放射線照射後の吸光度])/[放射線照射前の吸光度]×100(%)〕が小さいことを意味する。ここで、極大吸収波長の吸光度の減衰率とは、600〜1100nmの波長領域での最大の吸光度を有する極大吸収波長の吸光度の減衰率を意味する。具体的には、本発明に係る樹脂組成物は、25kGyの放射線照射による極大吸収波長における吸光度の減衰率が50%以下である。減衰率がこの範囲であれば実用的に問題は無いが、感度の点から本発明に係る樹脂組成物としては、25kGyの放射線照射による極大吸収波長における吸光度の減衰率が30%以下であるものが好ましく、20%以下であるものがより好ましく、15%以下であるものがさらに好ましい。
【0036】
また、本発明に係る樹脂組成物としては、放射線照射による極大吸収波長の変化は小さい方が好ましく、放射線照射前の極大吸収波長と放射線照射後の極大吸収波長の差は、30nm以下であればよく、20nm以下がより好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。さらにまた、本発明に係る樹脂組成物としては、放射線照射による極大蛍光波長の変化は小さい方が好ましく、放射線照射前の極大蛍光波長と放射線照射後の極大蛍光波長の差は、30nm以下であればよく、20nm以下がより好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。
【0037】
樹脂組成物に放射線の照射をする場合は、目的に応じて放射線の種類や照射線量を適宜選択すればよい。例えば、医療器具を放射線滅菌する場合は、5kGy以上の照射線量で行なわれることが多い。医療器具の種類や滅菌工程設備によって適宜最適なものを選択すればよいが、滅菌レベルを保つために照射線量を高く設定する必要がある場合もある。一般に、50kGy以上の照射において耐放射線があれば、充分な滅菌が可能となる観点から、本発明に係る樹脂組成物としては、50kGy照射時の極大吸収波長の吸光度の減衰率が70%以下であるものが好ましく、60%以下であるものがより好ましく、50%以下であるものがさらに好ましい。
【0038】
一般的に、蛍光色素から発される蛍光を検出する場合、励起光の散乱光や反射光も検出器に入ってきてしまうため、通常は、検出器に励起光の波長域をカットするフィルターが入れられている。このような検出器では、励起光と蛍光の波長域が重複し、蛍光がフィルターによってカットされる波長域にある蛍光色素の蛍光は検出できないという問題がある。蛍光と励起光を区別し、蛍光のみを高感度で検出することを可能にするためには、近赤外蛍光色素のストークスシフト(極大吸収波長と極大蛍光波長の差)が充分に大きいことが必要である。
【0039】
そこで、本発明に係る樹脂組成物は、ストークスシフト(極大吸収波長と極大発光波長の差)が大きいものが好ましく、ストークスシフトが50nm以上のものがより好ましい。ストークスシフトが大きいほど、励起光によるノイズカットのためのフィルターが備えられている一般的な検出器を用いた場合でも、当該成形体から発される蛍光をより高感度で検出することが可能である。
【0040】
本発明に係る樹脂組成物は、近赤外領域の励起光で励起しても目視状態で色彩が変わらず、かつ、不可視の近赤外領域の蛍光を発し、検出器で検出できる。したがって、近赤外領域の励起光に対しては極大吸収波長が650nm以上であればよいが、吸収効率の観点からは、極大吸収波長が励起光の波長に近い方が好ましく、665nm以上がより好ましく、680nm以上であることが特に好ましい。
【0041】
本発明に係る樹脂組成物及び当該組成物から得られる成形体は、被照射物の色彩が変わらず、かつ、検出感度を考慮すると、極大蛍光波長が700nm以上であれば実用的には問題がないが、720nm以上であることが好ましく、740nm以上であることがより好ましく、760nm以上であることが特に好ましい。なお、極大吸収波長が短い場合には、近赤外領域における検出感度の観点から、ストークスシフトがより大きいことが好ましい。
【0042】
本発明に係る樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、前記樹脂成分と前記式(I)で表されるアゾ−ホウ素錯体化合物以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、結晶化促進剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、離型剤等が挙げられる。
【0043】
<成形体>
本発明に係る樹脂組成物を加工することにより、25kGyの放射線照射による極大吸収波長における吸光度の減衰率が50%以下という、非常に耐放射線性に優れた近赤外蛍光を発する成形体が得られる。成形方法は、特に限定されないが、キャスティング(注型法)、金型を用いた射出成形、圧縮成形及びTダイ等による押し出し成形、ブロー成形などが挙げられる。
【0044】
蛍光検出は、市販されている蛍光検出装置等を使用し、常法により実施することができる。蛍光検出に用いる励起光としては、任意の光源を使用でき、波長幅が長い近赤外線ランプの他、波長幅が狭いレーザー、LEDなどを使用することができる。
【0045】
本発明に係る樹脂組成物から得られた成形体は、励起光照射により、耐放射線性の高い近赤外蛍光を発する。この優れた耐放射線性のため、当該成形体は、医療用具や滅菌環境で使用される器具等のように放射線滅菌処理がなされる器具として特に好ましい。また、原子力発電プラントや宇宙空間等のように放射線が強い環境下で使用される器具等としても使用できる。
【0046】
本発明に係る樹脂組成物から得られた成形体は、近赤外領域の光を照射しても色彩が変わらず、従来よりも高感度に検出可能な近赤外蛍光を発するため、当該成形体は、特に、患者の体内に挿入したり留置したりする医療用具に好適である。
【0047】
本発明に係る樹脂組成物から得られた成形体を蛍光検出する場合には、近赤外領域の励起光を照射することが好ましいが、被照射物の色彩が多少赤みを帯びても構わない場合には、必ずしも近赤外線領域の励起光を使用する必要はない。例えば、励起光を照射して体内の医療用具を蛍光検出しようとした場合、皮膚などの生体に対する透過性の高い波長領域で励起光を使用することが必要となるが、この場合には、生体透過性の高い650nm以上の励起光を使用すればよい。
【0048】
当該医療用具としては、例えば、ステント、コイル塞栓子、カテーテルチューブ、注射針、シャントチューブ、ドレーンチューブ、インプラント等が挙げられる。
【0049】
<滅菌方法>
本発明に係る樹脂組成物から得られた成形体を滅菌する場合には、当該滅菌方法としては、医療用具等の滅菌の際に使用される各種方法を用いることができる。例えば、医療用具等の滅菌方法は、高圧蒸気滅菌、EOG滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌、紫外線滅菌等が挙げられる。その中でも、γ線や電子線滅菌に代表されるような放射線滅菌は、効率的で処理方法が簡便であることから、好ましい処理方法である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[製造例1]アゾ−ホウ素錯体化合物の合成
(1) ヒドラゾン化合物の製造
合成装置用ナスフラスコに、オルトキノン誘導体(200mg,5.33×10
−4mol)と2−ヒドラジノ安息香酸塩酸塩(402mg,2.13×10
−3mol)を加えた後、さらにメタノール:水:ジメチルスルホキシド=3:4:4の混合溶媒(55mL)を加え、50℃で加熱撹拌した。反応を開始すると、反応溶液に結晶が析出した。反応開始から13時間後、反応溶液の加熱をやめ、撹拌しながら室温で放冷した。析出した結晶を濾別し、メタノール:水=4:1の混合溶媒で洗浄し、赤茶色粉末状結晶を得た(収量:96mg,収率:35.3%)。この化合物は溶解性が低いため、これ以上精製せず、ホウ素錯体化を行った。
【0052】
(2) アゾ−ホウ素錯体化合物の製造
上記(1)で得られた赤茶色粉末状結晶(200mg,3.92×10
−4mol)を300mLナスフラスコに入れ、ジクロロメタン(70mL)を加えた。さらにトリエチルアミン(137mg,1.37×10
−3mol)を加えてヒドラゾン化合物を完全に溶解させてから、三フッ化ホウ素エーテル錯塩(334mg,2.35×10
−3mol)を滴下し、室温で撹拌して反応を行った。反応開始から3日間後、TLCで反応の進行が確認できなくなったため、水を加えて反応を停止した。ジクロロメタン層を分離し水洗した後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル=10/1)で精製し、緑色粉末結晶である目的化合物を得た(収量:62.2mg,収率:29.4%)。
【0053】
1H-NMR(CDCl
3)δ=1.03(6H,t,J=7.46),1.40-1.49(4H,m),1.66-1.74(4H,m),3.47(4H,t),6.78(1H,d,J=2.20),6.90(1H,dd,J=2.20,J=9.16),7.48(1H,t,J=7.44),7.66-7.78(3H,m),8.13(1H,d,J=9.16),8.30-8.33(2H,m),8.39(1H,d,J=7.70),8.75(1H,d,J=7.70)
【0054】
【化4】
【0055】
[実施例1]
TPUペレット(製品名:Tecoflex EG65D、Lubrizol社製)55gと、製造例1で合成したアゾ−ホウ素錯体化合物55mgを混ぜて、ペレット表面に色素を付着させた。次いで、当該ペレットをラボプラストミルに投入し、設定温度190℃で10分間溶融混練(kneading)した。その後、混練された色素含有樹脂を取り出し、フィルム化した。
【0056】
フィルム化は、以下のようにして行った。まず、溶融混練された色素含有樹脂を200℃に熱した鉄板で挟みながら5分間加熱し、当該鉄板を冷却しながら、5〜10mPaでプレスした。このときのフィルムの厚みは約300μmであった。
【0057】
得られたフィルムの吸収スペクトルをSHIMADZU社製の紫外可視近赤外分光光度計「UV3600」で測定し、発光スペクトルを浜松ホトニクス社製の絶対PL量子収率測定装置「Quantaurus−QY C11347」で測定したところ、極大吸収波長が683nm、極大蛍光波長が818nmであり、極大吸収波長における吸光度は2.8、発光効率(量子収率)は0.09であった。
【0058】
次いで、当該フィルムに25kGyのγ線を照射し、その後に同様にして吸収スペクトルと発光スペクトルを測定した。その結果、極大吸収波長が683nm、極大蛍光波長が818nmであり、極大吸収波長における吸光度は2.4、発光効率は0.09であった。つまり、極大吸収波長における吸光度の減衰率は14%であり、当該フィルムは、γ線照射前後において、吸収/発光特性はほとんど変化しなかった。
【0059】
[比較例1]
アゾ−ホウ素錯体化合物に代えて、市販の近赤外蛍光色素IR−140(Aldrich社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして色素含有樹脂を成形したフィルムを製造した。
得られたフィルムについて、吸収スペクトルと発光スペクトルを、実施例1と同様にして測定したところ、極大吸収波長が823nm、極大蛍光波長が900nmであり、極大吸収波長における吸光度は2.2であった。
【0060】
次いで、当該フィルムに25kGyのγ線を照射し、その後に同様にして吸収スペクトルと発光スペクトルを測定したところ、極大吸収波長が823nm、極大蛍光波長が870nmであり、極大吸収波長における吸光度は0.8であった。つまり、当該フィルムでは、極大吸収波長における吸光度の減衰率は64%と高い上に、γ線照射により極大蛍光波長も30nm短くシフトしてしまっており、γ線照射前後において、吸収/発光特性は大きく変化していた。