【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/規則性ナノ多孔体精密分離膜部材基盤技術の開発」に係る共同研究業務及び委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、前記複数段の蒸気透過分離膜全体のうち、前記分離膜装置の非透過側の最終出口から1/8〜1/2の範囲に配設されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水溶性有機物の濃縮方法。
前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、前記分離膜装置のうち水溶性有機物を99.0質量%以上の中間濃度から前記要求濃度まで濃縮するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水溶性有機物の濃縮方法。
前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、水の透過度が前記他の蒸気透過分離膜における水の透過度以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水溶性有機物の濃縮方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、IPAの濃縮度を、例えば99.9質量%以上となるように非常に高くする場合に、高い膜性能を持つ蒸気透過分離膜を用いると、蒸気透過分離膜を備えた分離膜装置全体として大きな膜面積が必要となってしまうという問題があった。これは、蒸気透過分離膜の高選択性のために、蒸気透過分離膜の透過側がほとんど水となってしまい、膜分離のためのドライビングフォース(原料側と透過側の水の分圧差)が小さくなってしまうことが原因であることに、本願発明者は着目し、本発明を創作するに至った。
【0007】
ここで、ドライビングフォースを改善するために、原料側の圧力を高めたり、透過側の圧力を下げたりすることがある程度の範囲で可能であるが、原料側の圧力を高めると、蒸留塔全体の圧力や圧縮機の吐出圧を上げることが必要となり、装置コストや圧縮機の動力が増加してしまうという問題があった。また、透過側の圧力を下げていくと、透過側の水の凝縮温度が0℃に達してしまい、凍結の問題等が生じる可能性があった。加えて、透過側の圧力を下げて真空度を上げることにも限界があり、改善が必要であった。
【0008】
本発明は前記のような問題を解決するためになされたものであり、蒸留と膜分離を組み合わせたハイブリッドプロセスにあって、水溶性有機物の濃度を非常に高くする場合であっても、高濃度の水溶性有機物の回収及び省エネルギー化を図るとともに、膜面積を削減することで装置の低コスト化を達成することが可能な水溶性有機物の濃縮方法及び水溶性有機物の濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、蒸留と膜分離により水溶性有機物を濃縮する濃縮方法であって、水より沸点が低い水溶性有機物と水との混合物、あるいは水と共沸物を形成し当該共沸物の沸点が水より低い水溶性有機物と水との混合物を含む原料を蒸留塔に入力し、前記原料を蒸留する蒸留工程と、前記蒸留工程で得られた塔頂蒸気を、水蒸気を選択的に透過する複数段の蒸気透過分離膜を有する分離膜装置に導入し、前記蒸気透過分離膜の膜分離により前記分離膜装置における非透過側の最終出口から99.0質量%を超える要求濃度の水溶性有機物を得る膜分離工程と、を含み、前記蒸気透過分離膜における水の透過度をK
_W、水溶性有機物の透過度をK
_Aとした場合における透過度比K
_W/K
_Aについて、前記分離膜装置における非透過側の少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜は、他の蒸気透過分離膜より透過度比が低いことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記分離膜装置における非透過側の少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜の前記透過度比が50〜200であり、前記他の蒸気透過分離膜の前記透過度比が200〜500であることを特徴とする。
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、前記複数段の蒸気透過分離膜全体のうち、前記分離膜装置の非透過側の最終出口から1/8〜1/2の範囲に配設されることを特徴
とする。
【0011】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、前記分離膜装置のうち水溶性有機物を99.0質量%以上の中間濃度から前記要求濃度まで濃縮するものであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、水の透過度が前記他の蒸気透過分離膜における水の透過度以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記分離膜装置の透過成分の少なくとも一部が前記蒸留塔に導入されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記要求濃度が99.9質量%以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法は、前記した本発明において、前記水溶性有機物がイソプロパノール、エタノール、メタノール及びブタノールよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮装置は、蒸留と膜分離により水溶性有機物を濃縮する濃縮装置であって、水より沸点が低い水溶性有機物と水との混合物、あるいは水と共沸物を形成し当該共沸物の沸点が水より低い水溶性有機物と水との混合物を含む原料が入力され、当該原料を蒸留する蒸留塔と、前記蒸留塔の塔頂蒸気を導入して水蒸気を選択的に透過する複数の蒸気透過分離膜を有し、当該蒸気透過分離膜の膜分離により非透過側の最終出口から少なくとも99.0質量%を超える要求濃度の水溶性有機物を得る分離膜装置と、を備え、前記蒸気透過分離膜における水の透過度をK
_W、水溶性有機物の透過度をK
_Aとした場合における透過度比K
_W/K
_Aについて、前記分離膜装置における非透過側の少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜は、他の蒸気透過分離膜より透過度比が低いことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る水溶性有機物の濃縮装置は、前記した本発明において、前記分離膜装置における非透過側の少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜の前記透過度比が50〜200であり、前記他の蒸気透過分離膜の前記透過度比が200〜500であることを特徴とする。
本発明に係る水溶性有機物の濃縮装置は、前記した本発明において、前記他の蒸気透過分離膜より透過度比が低い蒸気透過分離膜は、水の透過度が前記他の蒸気透過分離膜における水の透過度以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、蒸留と膜分離を組み合わせたハイブリッドプロセスを用い、省エネルギー性を維持しながら、分離膜装置における非透過側の少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜が分離膜装置における他の蒸気透過分離膜より透過度比が低くなるようにしているので、水溶性有機物について高濃度で濃縮した成分が得られることに加え、分離膜装置全体における蒸気透過分離膜の膜面積の削減を図ることができ、装置の低コスト化にも繋がる水溶性有機物の濃縮方法及び濃縮装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
【0021】
(I)水溶性有機物の濃縮装置1の構成:
以下、
図1に示す水溶性有機物の濃縮装置1を用いて、本発明に係る水溶性有機物の濃縮方法を説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る水溶性有機物の濃縮装置1の一態様を示した概略図である。
図1に示す本実施形態に係る水溶性有機物の濃縮装置1(以下、「濃縮装置1」とする場合がある。)は、蒸留塔2、複数段の蒸気透過分離膜5を有する分離膜装置51,52を基本構成として備え、蒸留と膜分離により水溶性有機物と水との混合物を含む原料から水溶性有機物を濃縮するものである。
【0023】
(a)蒸留工程:
図1に示す濃縮装置1にあって、蒸留塔2は、経路Aを通過する濃縮対象となる水溶性有機物と水を含む混合物が原料として入力(導入)される。原料は、水より沸点が低い水溶性有機物と水との混合物、あるいは水と共沸物を形成し、かかる共沸物の沸点が水より低い水溶性有機物と水との混合物を含む。水溶性有機物としては、主としてアルコールが挙げられ、水より沸点が低い水溶性有機物としては、例えば、メタノール等が挙げられる。また、水と共沸物を形成し、かかる共沸物の沸点が水の沸点より低い水溶性有機物としては、例えば、エタノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール等が挙げられ、これらの水溶性有機物を使用することができる。
【0024】
蒸留塔2は、経路Aから入力された水溶性有機物と水との混合物からなる原料を、気体状態の水溶性有機物を含む塔頂蒸気と、液体状態の水からなる缶出液に分離する。蒸留塔2は棚段式等、蒸留操作に適したものであれば特に限定されない。蒸留塔2における塔底の液の一部はリボイラー16によって加熱されて蒸気となり、塔内を流下する液体と熱交換をしながら塔内を上昇する。このため、塔底においては蒸気の成分のほとんどは水であるが、塔頂の近くでは水溶性有機物の濃度が大きくなる。なお、塔底から取り出された液の残部は、缶出液として取り出される。
【0025】
蒸留塔2では、加圧蒸留、常圧蒸留等の各種蒸留を実施することができる。蒸留塔2の段数としては、特に制限はなく、要求される水溶性有機物の濃度スペック等により適宜決定することができる。また、蒸留塔2では、原料を概ね85.0質量%以上の水溶性有機物に濃縮することが好ましく、例えば、要求濃度スペック(仕様)が99.0質量%を超え99.9質量%未満である場合は、85.0質量%以上から99.0質量%未満となることが好ましく、要求濃度スペックが99.9質量%以上である場合は、85.0質量%以上99.9質量%未満の水溶性有機物に濃縮することが好ましいが、特にこの範囲には限定されない。
【0026】
蒸留塔2から出力された塔頂蒸気は、経路Bを通過して分岐部4に到達し、経路C側と経路E側とに分岐される。本実施形態にあっては、分岐部4から経路C側への塔頂蒸気については分離膜装置51,52に送られるが、経路E側への塔頂蒸気を蒸留塔2に戻して還流するように構成されている。
【0027】
分岐部4で分離されて、経路D,Eを通過して蒸留塔2に戻される塔頂蒸気は、冷却器10に導入されて冷却凝縮される。冷却器10によって冷却凝縮された塔頂蒸気は、コンデンサドラム(リフラックスドラムとも呼ばれる。)11を通過し、経路Eを通過して、再び蒸留塔2の塔頂に環流される。
【0028】
(b)膜分離工程:
分岐部4を通過した塔頂蒸気は、経路Cを通過して分離膜装置51に導入される。分離膜装置51及びその後段の分離膜装置52は、導入される塔頂蒸気のうち水蒸気を選択的に透過する複数段の蒸気透過分離膜5を有する。蒸気透過分離膜5(蒸気分離膜とも呼ばれる。)は、水蒸気成分(透過成分)を透過して取り出し、残りの成分(非透過成分)を蒸気の状態で分離して経路に送り出す。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る濃縮装置1にあっては、2台の分離膜装置51,52が配設されている態様を示している。また、分離膜装置51,52の透過側の経路F,Hには冷却器14,15が配設されており、透過した水蒸気を冷却凝縮させることにより透過側の圧力を下げることができる。さらに経路F,Hには、この透過側の減圧を維持するための真空ポンプ12,13が配設されている。かかる冷却器14,15により発生した透過側の減圧状態と導入側(分離膜装置51であれば経路C側、分離膜装置52であれば経路G側)との圧力差(分圧差)をドライビングフォースとして、分離膜装置51,52を構成する蒸気透過分離膜5について水蒸気成分を優先的に透過させることができる。真空ポンプ12,13は、冷却用水によって透過する水蒸気を冷却凝縮する冷却器14,15を介して減圧している。
【0030】
なお、前記したように、ドライビングフォースを確保するため、透過側の圧力を下げる必要があるが、凝縮温度も下がるため、冷却器14,15として冷媒としてチルド冷却を用いるチルド冷却器を使用するようにしてもよい。
【0031】
蒸気透過分離膜5における透過度比にあって、例えば、水の透過度K
_Wについては、10
−6mol/m
2・Pa・sないしはそれ以上とした場合に、水溶性有機物の透過度K
_A(mol/m2・Pa・s)を調整して、所望の透過度となるようにすればよい。また、膜面積は、前記の透過度や、濃縮装置1における処理量により決定されるものであるが、特に範囲は限定されない。
【0032】
蒸気透過分離膜5の種類は、水溶性有機物を構成する成分の種類や、導入される留出蒸気の温度、圧力等の諸条件により適宜決定すればよく、例えば、有機(高分子)系であれば、ポリイミド膜、ポリビニルアルコール膜、酢酸セルロース系の膜等が、無機系であれば、ゼオライト膜、炭素膜、セラミックス多孔膜等が挙げられる。また、本発明にあっては、水(水蒸気)を選択的に透過し、他の成分との分離を効率よく行うことができる水蒸気透過分離膜を用いることができ、特に、原料が、イソプロパノール等の水溶性有機物と水の2成分系の場合には、水(水蒸気)を透過し、蒸気状態のイソプロパノール等と分離するゼオライト膜、ポリイミド膜等を水蒸気透過分離膜として使用することができ、イソプロパノール等の水溶性有機物と水の混合物から効率的かつ選択的に水溶性有機物の脱水・凝縮を図ることができる。ゼオライト膜としては、例えば、A型膜、Y型、モルデナイト型、チャバサイト型等のゼオライトを利用した膜が挙げられる。
【0033】
蒸気透過分離膜5の構成(細孔径、形状、多孔質・非多孔質等)は、特に制限はなく、前記した蒸気透過分離膜5の種類と同様、原料を構成する成分の種類や、導入される水溶性有機物の温度、圧力等の諸条件により適宜決定すればよい。また、蒸気透過分離膜5は、多管式の、いわゆる分離膜モジュールのような形態で用いるようにしてもよい。
【0034】
蒸気透過分離膜5を分離膜モジュールとした場合は、1段(1パス)や2段(2パス)(1段(1パス)に1組の蒸気透過分離膜5が対応する。)の分離膜モジュールが一般的であるが、段数が増えるほど原料を高濃縮できる一方、圧損が増加するため、例えば、分離膜装置51,52の合計で4〜8段のものを使用することが好ましい。
【0035】
本実施形態にあっては、2台の分離膜装置51,52のうち後段にある分離膜装置(本実施形態にあっては分離膜装置52。以下同じ。)における蒸気透過分離膜5について、蒸気透過分離膜5における水の透過度をK
_W、水溶性有機物の透過度をK
_Aとした場合、透過度比をK
_W/K
_Aとすると、分離膜装置52における非透過側の少なくとも最終出口の直前側の蒸気透過分離膜5が、分離膜装置51,52における他の蒸気透過分離膜5より透過度比が低くなるようにする。かかる構成とすることにより、ハイブリッドプロセスによる高省エネルギー性、高濃度の水溶性有機物の高回収率を維持した上で、低装置コスト(小膜面積)を達成することができる。なお、本発明において、「分離膜装置52における最終出口」とは、分離膜装置52における製品取り出し口(
図1の太字矢印の位置)を指し、「直前側の蒸気透過分離膜5」とは、かかる最終出口(製品取り出し口)に一番近い側における蒸気透過分離膜5を指すものである。
【0036】
本発明において、分離膜装置52は、非透過側の最終出口から99.0質量%を超える所望の濃度(要求濃度)の水溶性有機物を得るものである。そのため、分離膜装置51,52を構成する蒸気透過分離膜5について、少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜5以外の蒸気透過分離膜(以下、「他の蒸気透過分離膜」や「高透過度比の蒸気透過分離膜」とする場合がある。)5については、例えば、透過度比が概ね100以上とし、200〜500の範囲内から選択することが好ましく、少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜5との関係で決定するようにすればよい。一方、分離膜装置52における少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜(以下、「低透過度比の蒸気透過分離膜」とする場合がある。)5については、他の蒸気透過分離膜5に対して透過度比が低くなるようにするが、例えば、透過度比が50〜200の範囲内から選択することが好ましい。
【0037】
ここで、分離膜装置52における少なくとも最終段の蒸気透過分離膜5を、他の蒸気透過分離膜より透過度比を低くすることにより、前記の効果を奏する理由を、水溶性有機物としてイソプロピルアルコール(IPA)を例に挙げて説明する。
【0038】
図2は、
図1の濃縮装置1において、分離膜装置52を構成する蒸気透過分離膜5の最終出口におけるIPAの濃度が99.0質量%を超える場合(例えば、99.9質量%の場合等)の、透過度比に対するリボイラー16の必要熱量、及び蒸気透過分離膜5の必要膜面積との関係を示した図である。
図2の透過度比は、分離膜装置51,52を構成する全ての蒸気透過分離膜5の透過度比を一律に変更した場合を示している。なお、
図2及び後記する
図3は、水溶性有機物をIPAとし、水と混合した混合物を原料とし、分離膜装置52を構成する蒸気透過分離膜5の最終出口におけるIPAの濃度を所望の濃度(例えば、
図2では99.0質量%を超える99.9質量%等の濃度に対し、
図3では
図2より低い99.0質量%等の濃度)に設定した場合における最適条件等を、シミュレーション解析を行った場合の結果である。
図2に示すように、分離膜装置52を構成する蒸気透過分離膜5の最終出口におけるIPAが99.0質量%を超える場合における、透過度比に対するリボイラー16の必要熱量は、透過度比が大きくなるほど減少する。換言すれば、透過度比が小さくなるほど、必要熱量が増大する。これは、99.0質量%を超えるような高濃度のIPAを得るためには、透過度比が小さい低性能な蒸気透過分離膜5を用いることで蒸気透過分離膜5の透過側に漏れたIPAを、蒸留塔2へのリサイクルによって回収する必要が生じることに基づく。
【0039】
一方、透過度比に対する蒸気透過分離膜5の必要膜面積は、透過度比が50〜100の範囲において、膜面積が極小となる部分(最適部)が生じる。これは、99.0質量%を超えるレベルの高濃度に濃縮する蒸気透過分離膜5の膜面積が増大していくためであり、これに対して、99.0質量%以下と濃度スペックが低くなると、ドライビングフォースが十分確保できるので、この部分が不要になる(後記する
図3参照)ために生じる現象である。以下、より詳しく説明する。
【0040】
図2に示すように、透過度比が100を超えた場合は、透過度比が高くなるにつれて、蒸気透過分離膜5について大きな膜面積が必要とされる。透過度比が100を超えた状態で、透過度比が大きくなるにつれて大きな膜面積を必要とするのは、蒸気透過分離膜5における最終出口の直前側のドライビングフォース(原料側と透過側の水の分圧差)が小さくなってしまうことが原因と考えられる。
【0041】
最終出口の直前側のドライビングフォースを大きくするためには、例えば、透過側の圧力を下げる方法が考えられるが、この場合、透過側の水を凝縮できなくなる場合があるという問題がある。
【0042】
一方、ドライビングフォースを大きくするためには、透過度比が低い蒸気透過分離膜5を適用することが考えられる。透過度比が低い蒸気透過分離膜5を適用すると、IPAの透過側へのロスが増大するが、IPAが透過側にロスする方が、透過側の水の分圧を低くすることができ、ドライビングフォースを大きくすることに役立つ。ここで、蒸気透過分離膜5について、透過度比が低いものを適用すると、前記したようにIPAの透過側のロスが増大するとともに、
図2に示すように、投入熱量が増加するという問題がある。その一方で、分離膜装置51,52のうち最終出口の直前側の蒸気透過分離膜5だけについて透過度が低いものを適用する場合にあっては、IPAのロスの増大や投入熱量の増大はわずかである一方、大きなドライビングフォースを得られ、透過成分(水)が飛躍的に透過してくれることになり、さらなる濃縮が期待でき、かつ、分離膜装置51,52全体の膜面積を狭く抑えることになると考えられる。
【0043】
図2からは、IPAの濃縮純度が99.0質量%を超える場合、特に99.9質量%以上のように高い場合、透過度比には、膜面積を最小にする最適部が存在することがわかる。本実施形態では、かかる最適部が存在することを利用して、少なくとも分離膜装置52における非透過側の最終出口の直前側付近に配設される蒸気透過分離膜5について、低透過度比の蒸気透過分離膜5を採用するようにして、ドライビングフォースの増大及びそれによる水溶性有機物の高濃縮化を図っている。
【0044】
本発明にあっては、分離膜装置51,52における蒸気透過分離膜5は、少なくとも最終出口側の蒸気透過分離膜5について他の蒸気透過分離膜5より透過度比が低くなるようにしているが、他の蒸気透過分離膜5より透過度が低い蒸気透過分離膜(低透過度比の蒸気透過膜)5は、分離膜装置51,52の非透過側の最終出口から所定範囲に配設することが好ましい。このようにすることにより、水溶性有機物の濃度を高濃縮とする状態にあっても水の分圧差をスムースに維持することができ、前記した効果を効率よく奏することができる。なお、かかる所定範囲としては、例えば、他の蒸気透過分離膜5も含めた複数段の蒸気透過分離膜5全体に対して、最終出口側から1/8〜1/2の範囲とすることが好ましく、1/8〜1/4とすることが特に好ましい。ここで、最終出口から1/8〜1/2(もしくは1/4)の範囲を占める蒸気透過分離膜5を後部の蒸気透過分離膜5、これ以外の蒸気透過分離膜5(他の蒸気透過分離膜5)を前部の蒸気透過分離膜5と称した場合、後部の蒸気透過分離膜5の大部分(例えば90%や95%に相当する段数等)の透過度比が、前部の蒸気透過分離膜5の大部分(例えば90%や95%に相当する段数等)の透過度比よりも低いケースなども、本発明の範囲に含まれる。また、前部の蒸気透過分離膜5において非透過側の最終出口に向かって透過度比が段階的に低くなると共に後部の蒸気透過分離膜5において非透過側の最終出口に向かって透過度比が段階的に低くなる場合(前部の蒸気透過分離膜5のうちの最後(最後の段)の分離膜の透過度比と後部の蒸気透過分離膜5のうちの最初(最初の段)の透過度比とが等しい場合を含む。)等も、後部の蒸気透過分離膜5の透過度比が前部の蒸気透過分離膜5の透過度比よりも全体として低い(例えば平均として低い)限り、本発明の範囲に含まれる。
【0045】
本発明にあって、少なくとも最終出口側の蒸気透過分離膜5ないしは前記した所定範囲(例えば、前記した1/8〜1/2等)に配設される低透過度比の蒸気透過分離膜5は、水溶性有機物を99.0質量%以上の所定の中間濃度から所望の濃度まで濃縮するものである。これは、分離膜装置51,52における全てについて高透過度比の蒸気透過分離膜5を使用した場合、濃縮が進むにつれて水のドライビングフォース(分圧差)が取れなくなってしまうことに対して、少なくとも最終出口側ないしは最終出口から所定範囲について低透過度比の蒸気透過分離膜5とすることによって、多少のIPAがロスしてしまう一方、ドライビングフォースを維持することで、水の透過度比が高い蒸気透過分離膜5の場合と比較してそれ以上に透過することになり、更なる濃縮が進むからである。このようにして、低透過度比の蒸気透過分離膜5が、高透過度比の蒸気透過分離膜5により濃縮された水溶性有機物をさらに濃縮する蒸気透過分離膜5となると考えられる。
【0046】
また、低透過度比の蒸気透過分離膜5は、水の透過度が高透過度比の蒸気透過分離膜5における水の透過度以上であることが好ましい。これは、低透過度比の蒸気透過分離膜5の膜面積を小さくすることができるためである。一般に、求められる製品の濃度スペックにより、脱水しなければいけない水の量が決定されるので、蒸気透過分離膜5の膜面積は、単位面積あたりの水の透過量が大きいほど小さくできることになる。一方、透過度比が小さいと透過側への水溶性有機物の漏れが大きくなるので、製品量の減少と水中の水溶性有機物の濃度が高くなってしまうという問題が生じるが、必要膜面積は水の透過度でほとんど決まるので、低透過度比の蒸気透過分離膜5について、水の透過度を高透過度比の蒸気透過分離膜5における水の透過度以上とすることにより、膜面積は小さくできることになる。
【0047】
なお、
図2に示した最適部は、IPAの濃縮濃度を緩和していくと、徐々に小さくなり、99.0質量%等IPAが99.0質量%以下となる場合には、最適部は消失する。
図3は、
図1の濃縮装置1において、分離膜装置52を構成する蒸気透過分離膜5の最終出口におけるIPAの濃度が99.0質量%の場合における、透過度比に対するリボイラー16の必要熱量、及び透過度比に対する蒸気透分離膜5の必要膜面積との関係を示した図である。
【0048】
図3に示すように、リボイラー16の必要熱量及び蒸気透過分離膜5の膜面積は、透過度比が大きくなるほど(水の透過度を一定とすると、IPAの透過度が小さくなるほど)減少する傾向を示し、
図2のような透過度比に対する膜面積の極小部は存在しなくなる。
図2及び
図3より、前記した最適部(極小部)の存在は、
図2に示したように、蒸気透過分離膜5の最終出口におけるIPAの濃度が99.0質量%を超える高濃度の場合でのみ発現し、濃度が高くなるほど顕著になると考えられる。このことからも、本発明は、99.0質量%を超える所望の濃度として蒸気透過分離膜5(分離膜装置52)における非透過側の最終出口から得られる水溶性有機物の濃度が99.9質量%以上といった極めて高濃度の要求がある場合に効果的である。
【0049】
本発明にあっては、以上のようにして分離膜装置51,52による脱水・濃縮が行われるが、分離膜装置51,52で分離された成分のうち、99.0質量%を超える濃度とされた非透過成分(水溶性有機物)は、経路Iを通過して、冷却器17で冷却・凝縮された後、回収部20から系外に出力されて回収される。
【0050】
一方、分離膜装置51,52で分離された成分のうち、透過成分である水を主とする成分は、分離膜装置51,52を構成する蒸気透過分離膜5の選択特性の程度にもよるが、若干ではあるが非透過成分(水溶性有機物)が含まれている場合がある。本実施形態に係る濃縮装置1にあっては、蒸気状態の透過成分が通過する経路F,Hに、かかる蒸気状態の透過成分を凝縮するための冷却器14,15及びポンプ18,19が配設されており、かかる冷却器14,15で凝縮された透過成分が、経路Jを通過して再度蒸留塔2に導入されることになる。本発明にあっては、最終出口の直前側付近に配設される蒸気透過分離膜5について、低い透過度比の蒸気透過分離膜5を採用することにより、透過側への水溶性有機物のロス量が増加するため、水溶性有機物の回収率が低下するという懸念があるが、透過成分の凝縮水を蒸留塔2に導入することにより、プロセス全体の省エネルギー性をほとんど損なうことなく、水溶性有機物を高純度かつ高回収率で脱水できる。
【0051】
また、蒸留塔2で分離された、水溶性有機物をほとんど含まない液体状態の水からなる缶出液は、蒸留塔2の塔底に連接された経路K及び経路Lを通過した後、経路Aに配設された熱交換器3に導入されて、原料の予熱や蒸発に使用され、回収部21から系外に出力され、回収される。なお、系外に出される缶出液の一部は、経路Mを通過した後、リボイラー16で熱交換が行われ、蒸留塔2に戻される。
【0052】
以上説明した本発明によれば、蒸留塔2による蒸留と複数の蒸気透過分離膜5を備えた分離膜装置51,52による膜分離を組み合わせたハイブリッドプロセスを用い、省エネルギー性を維持しながら、分離膜装置52における非透過側の少なくとも最終出口の直前側に配設される蒸気透過分離膜5が分離膜装置51,52における他の蒸気透過分離膜5より透過度比が低くなるようにしているので、水溶性有機物について高濃度で濃縮した成分が得られることに加え、分離膜装置51.52全体における蒸気透過分離膜5の膜面積の削減を図ることができ、装置の低コスト化にも繋がる技術を提供することができる。
【0053】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0054】
例えば、前記した実施形態では、
図1に示すように、蒸気透過分離膜5を有する分離膜装置51,52が2台配設された態様を示したが、分離膜装置51,52の台数は任意であり、水溶性有機物に対して要求される濃度スペック等に応じて適宜決定するようにすればよい。
【0055】
前記した実施形態では、
図1に示すように、蒸気状態の透過成分が、凝縮された後経路Jを通過して再度蒸留塔2に導入される態様を示したが、透過成分の一部を再度蒸留塔2に導入するようにしてもよく、透過成分を蒸留塔2に導入しないようにしても構わない。
【0056】
また、
図1に示した濃縮装置1について、蒸留塔2と熱交換器3との間に予熱器を配設し、入力される原料が適当な温度に予熱されるようにしてもよい。予熱器としては、例えばスチーム予熱等の公知の加熱手段を用いたものを使用することができる。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例等に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等に何ら限定されるものではない。
【0058】
[参考例1]
指標として用いた参考例1の水溶性有機物の濃縮装置100の構成を
図4に示す。
図4は、参考例1の水溶性有機物の濃縮装置100の構成を示した概略図であり、濃縮装置100は、分離膜装置(蒸気透過分離膜)を有さず、3台の蒸留塔81〜83、リボイラー84〜86、液々分離器87、冷却器88,89を備える。なお、
図4に示した濃縮装置100の主な仕様は下記のとおりである。
【0059】
(装置の仕様)
蒸留塔(共沸塔)81:塔径 100mm、高さ 20m、充填物 SUS304製
5/8ボールリング
蒸留塔(脱水塔)82:塔径 50mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
蒸留塔(排水ストリッパー)83:塔径 50mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
エントレーナーの種類:ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン
【0060】
基準熱量を確認するため、
図4に示した濃縮装置100を用いて、水溶性有機物をイソプロパノール(IPA)とし、水と混合した混合物を原料とし、入力時におけるIPAの濃度を13.0質量%、水の濃度を87.0質量%として、回収部90の最終出口におけるIPAの濃度が高純度(99.9質量%以上)となるようにIPAの濃縮操作を行った場合における、濃縮操作に必要な熱量(3台のリボイラー84〜86への投入熱量)を、プロセスシミュレーションソフトウェアによりシミュレーション解析を行った。
【0061】
具体的には、IPAと水の混合物からなる原料を、1塔目の蒸留塔(共沸塔)81に入力し、IPAの濃度が所定の共沸混合物になるように濃縮した。蒸留塔(共沸塔)81の塔頂から得られる共沸混合物は、2塔目の蒸留塔(脱水塔)82に送られ、エントレーナーにより水が塔頂より抜き出されることにより、蒸留塔(脱水塔)82の塔底の回収部90から高純度のIPAが得られることになる。なお、塔頂のエントレーナーと水は凝縮された後に液々分離器87で液々分離され、液々分離後の水相は、3塔目の蒸留塔(排水ストリッパー)83により処理されて、塔底より共沸混合物中に含まれていた水が回収部91で得られることになる。そして、濃縮に必要な熱量をシミュレーションにより解析して求め、求められた熱量の合計を指標として1.0と定めた。なお、1.0のうち、リボイラー84の投入熱量は0.65、リボイラー85の投入熱量は0.32、リボイラー86の投入熱量は0.03であった。
【0062】
[解析例1ないし解析例3]
次に、
図1に示した濃縮装置1を用いて、水溶性有機物をイソプロパノール(IPA)とし、水と混合した混合物を原料とし、入力時におけるIPAの濃度を13.0質量%、水の濃度を87.0質量%として、分離膜装置52の最終出口におけるIPAの濃度が99.9質量%を超える所望の濃度(解析例1)、99.9質量%(解析例2)、99.0質量%(解析例3)となるように、前記した(a)蒸留工程及び(b)膜分離工程に従い、それぞれIPAの濃縮操作を行った場合についてシミュレーション解析を行った。なお。解析例1ないし解析例3における蒸留塔2の基本的な条件は下記のとおりである。
【0063】
(基本的な条件)
経路Cにおける圧力:400kPaG
経路Cにおける塔頂蒸気の温度:126℃
経路CにおけるIPAの濃度:85.0質量%
経路F(分離膜装置51の透過側)の圧力:10kPaA
経路H(分離膜装置52の透過側)の圧力:2kPaA
冷却器14:冷水での冷却
冷却器15:チルド冷却
【0064】
(蒸留塔2の仕様)
蒸留塔(共沸塔)2:塔径 100mm、高さ 20m、充填物 SUS304製 5/8ボールリング
【0065】
なお、解析は、
図1に示した濃縮装置1の分離膜装置51,52(2台)については、蒸気透過分離膜5として1段(1パス)に蒸気透過分離膜1つの分離膜モジュールを使用し、分離膜装置51については2段(2パス)、分離膜装置52については4段(4パス)、合計6段(6パス)とした。そして、蒸気透過分離膜5の透過度比を全て共通とした状態で前記の濃縮操作を行った場合における、「分離膜装置における蒸気透過分離膜の透過度比」に対する、「参考例1で求めた必要熱量に対する、蒸留塔のリボイラー投入熱量」(以下、単に、「リボイラー投入熱量」とする場合もある。
図5ないし
図8についても同じ。)」、及び「透過度比=20の場合の蒸気透過分離膜の膜面積に対する膜面積比」(以下、単に「膜面積比」とする場合がある。
図5ないし
図8についても同じ。)をプロセスシミュレーションソフトウェアによりシミュレーション解析を行った。結果を
図5ないし
図7に示す。
【0066】
なお、前記したように、参考例1に示した濃縮装置100の3台のリボイラー84〜86への投入熱量の合計(総投入熱量)は1.0であり、投入熱量はこれを算出の基準とした。同様に、透過度比=20は初期値であり、これを算出の基準とし、透過度比を初期値(=20)から高くしていった場合の結果を算出した。透過度比は、水の透過度比K
_Wについては5×10
−6mol/m
2・Pa・sと固定し、IPAの透過度比K
_A(mol/m2・Pa・s)を変動させるようにして調整した。
【0067】
図5は、解析例1(分離膜装置52の非透過側の最終出口におけるIPAの濃度が99.9質量%を超える所望の濃度)における結果を示した図である。
図5に示すように、膜面積比は、透過度比が概ね50〜100の範囲で一番小さくなる最適部を示した。また、最適部以降は、透過度比が高くなるにつれて上昇する傾向を示し、
図2と共通した。なお、かかる上昇は、分離膜装置52(蒸気透過分離膜5)の最終パスのドライビングフォースが小さくなってしまうことが原因であると考えられる。
【0068】
また、リボイラー投入熱量は、透過度比が20(初期値)における必要熱量が一番高く、それから透過度が高くなるにつれて徐々に減少していく傾向を示した。これも
図2と共通した。
【0069】
図6は、解析例2(分離膜装置52の非透過側の最終出口におけるIPAの濃度が99.9質量%)における結果を示した図である。
図6は、
図5と同様な傾向を示し、
図2と共通した。
【0070】
図7は、解析例3(分離膜装置52の非透過側の最終出口におけるIPAの濃度が99.0質量%)における結果を示した図である。
図5及び
図6で示されたような、膜面積比における透過度比が概ね50〜100の範囲で一番小さくなるという傾向(最適部の発現)は消失し、透過度比が高くなるほど、膜面積比、リボイラー投入熱量とも減少する傾向を示し、
図3と共通した。
【0071】
以上より、分離膜装置52の非透過側の最終出口におけるIPAの濃度が99.0質量%を超えると、膜面積比は、透過度比が概ね50〜100の範囲で一番小さくなり、それ以降は、透過度比が高くなるにつれて上昇する傾向を示し、透過度比が50〜100とした範囲に最適部を示した。
【0072】
[実施例1]
図1に示した濃縮装置1を用いて、分離膜装置51,52については前記した解析例1と同様な分離膜モジュールを蒸気透過分離膜5として使用する一方、分離膜装置52における非透過側の最終出口の直前側(4段(4パス)のうち最終段(最終パス)1つだけ)に配設される蒸気透過分離膜5について透過度比が100の蒸気透過分離膜5を使用し、それ以外の蒸気透過分離膜5については透過度比が500として、解析例1(分離膜装置52の最終出口におけるIPAの濃度が99.9質量%以上)と同様な操作とした。そして、前記した(a)蒸留工程及び(b)膜分離工程に従い、IPAの濃縮操作を行った場合における、参考例1で求めた必要熱量に対する、蒸留塔のリボイラー投入熱量(リボイラー投入熱量)、及び透過度比=20の場合の膜面積に対する膜面積比(膜面積比)を、プロセスシミュレーションソフトウェアによりシミュレーション解析を行い、解析例1について全ての蒸気透過分離膜5の透過度比を500とした場合の結果と比較した。結果を
図8及び表1に示す。
【0073】
(結果)
【表1】
【0074】
図8は、実施例1における結果を示した図であって、透過度比に対するリボイラー投入熱量、及び蒸気透過分離膜の膜面積比との関係を示した図である。
図8及び表1に示すように、
図1に示した濃縮装置1を用い、分離膜装置52の非透過側の最終出口の直前側について透過度比が100の蒸気透過分離膜5を使用した実施例1の濃縮操作は、解析例1の結果と比較して、膜面積比が低くなり、膜面積の削減に繋がることが確認できた。また、前記したように膜面積比が低くなっても、リボイラー投入熱量はほぼ同等であり、省エネルギー性も維持できることが確認できた。