(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202359
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/152 20170101AFI20170914BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20170914BHJP
【FI】
C01B32/152
B82Y40/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-540917(P2012-540917)
(86)(22)【出願日】2011年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2011074720
(87)【国際公開番号】WO2012057229
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年9月18日
【審判番号】不服2016-11185(P2016-11185/J1)
【審判請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-239584(P2010-239584)
(32)【優先日】2010年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】羽場 英介
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 馨
【合議体】
【審判長】
大橋 賢一
【審判官】
中澤 登
【審判官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/076885(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/991
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレンと、該アセチレンからカーボンナノチューブを生成するための触媒と、を使用して、反応器中に配置された加熱状態の支持体上に前記カーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブの製造方法であって、
前記アセチレン、二酸化炭素及び不活性ガスからなる原料ガスを、前記触媒を担持させた前記支持体上に流通させることで、前記支持体上に前記カーボンナノチューブを合成させる合成工程を有し、
前記原料ガスにおいて、前記アセチレンの分圧が1.33×101〜6.67×103Paであり、前記二酸化炭素の分圧が6.67×101〜1.33×104Paであり、且つ、前記アセチレンと前記二酸化炭素との分圧比(アセチレン/二酸化炭素)が0.1〜0.7である、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記原料ガスにおいて、前記アセチレンの分圧が1.60×102〜2.67×103Paであり、前記二酸化炭素の分圧が1.01×103〜4.05×103Paであることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記合成工程において、前記カーボンナノチューブの合成を1分間以上行う、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記支持体が、粉末状、ビーズ状、ハニカム状、多孔質状、ファイバー状、チューブ状、ワイヤー状、網状、格子状、スポンジ状、板状及び層状の中から選択される一つの形状を有する構造物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを筒状に巻いた構造を有し、アスペクト比の非常に大きい一次元構造を有する材料である(非特許文献1を参照。)。カーボンナノチューブは、機械的にすばらしい強度と柔軟性、半導体的また金属的導電性、更に化学的にも非常に安定な性質を持つことが知られている。カーボンナノチューブの製造方法は、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(以下、CVD(Chemical Vapor Deposition)法という。)等が報告されている。特にCVD法は大量合成、連続合成、高純度化に適した合成方法として注目されている合成法である(例えば、非特許文献2を参照)。
【0003】
特に単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」という。)は巻き方やその直径によって金属的性質、半導体的性質を示すことが確認されており、電気電子素子等への応用が期待されている。SWCNTの合成には、ナノチューブを成長させる触媒CVD法(例えば、非特許文献3を参照。)が主流となっている。この触媒CVD法は、金属のナノ粒子を触媒とする。そして、気体の炭素源を供給しながら、高温で炭素源を熱分解し、触媒の金属のナノ粒子からナノチューブを成長させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.Iijima, Nature 354, 56 (1991).
【非特許文献2】齋藤理一郎、篠原久典 共編 「カーボンナノチューブの基礎と応用」培風館、2004年
【非特許文献3】H. Dai, A. G. Rinzler, P. Nikolaev, A. Thess, D.T. Colbert, and R.E. Smalley, Chem. Phys. Lett. 260, 471 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒CVD法において、炭素源としてアセチレンを用いる場合、アセチレンが低濃度であると、カーボンナノチューブは成長可能だが原料供給量が少ないために大量生産に適さず、また、長尺のカーボンナノチューブを得るのに時間がかかる。一方で、アセチレンを高濃度にすると、触媒の炭化失活を助長し、カーボンナノチューブの成長が停止してしまうため、やはり長尺のカーボンナノチューブが得られない。触媒の炭化失活を抑制する手段として水を微量に添加する方法が知られているが、水の添加量の厳密な制御が必要となるうえ、アセチレンを高濃度にした際の触媒失活の抑制が不十分であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述のような技術背景のもとになされたものであり、アセチレンを高濃度に供給した場合でも触媒失活を有効に抑えることができ、長尺なカーボンナノチューブを効率的に製造することができる、カーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、アセチレンと、アセチレンからカーボンナノチューブを生成するための触媒と、を使用して、反応器中に配置された加熱状態の支持体上にカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブの製造方法であって、アセチレン、二酸化炭素及び不活性ガスからなる原料ガスを、触媒を担持させた支持体上に流通させることで、支持体上にカーボンナノチューブを合成させる合成工程を有し、原料ガスにおいて、アセチレンの分圧が1.33×10
1〜1.33×10
4Paであり、二酸化炭素の分圧が1.33×10
1〜1.33×10
4Paであり、且つ、アセチレンと二酸化炭素との分圧比(アセチレン/二酸化炭素)が0.1〜10である、カーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【0008】
かかる製造方法によれば、アセチレン、二酸化炭素及び不活性ガスからなる原料ガスを用いるとともに、原料ガス中のアセチレン及び二酸化炭素の分圧、並びに、それらの分圧比を上記範囲内に制御することにより、アセチレンを高濃度に供給した場合でも触媒失活を有効に抑えることができ、長尺なカーボンナノチューブを効率的に製造することができる。
【0009】
これらの効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、CVD中のカーボンナノチューブの成長停止は、触媒粒子のオストワルド熟成による粗大化に起因すると考えられている。二酸化炭素の添加は、触媒原子の表面拡散を抑制し、触媒粒子の粗大化を防ぎ、結果として安定した長尺なカーボンナノチューブが得られると考えられる。また、本発明のカーボンナノチューブの製造方法においては、二酸化炭素は水とは異なり高濃度に供給することができるために微量制御の必要がなく、また、アセチレンを高濃度にした場合であっても触媒失活を有効に抑えることができ、大量生産に好適な条件を提供することができる。
【0010】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、上記原料ガスにおいて、アセチレンの分圧が6.67×10
1〜6.67×10
3Paであり、二酸化炭素の分圧が6.67×10
1〜6.67×10
3Paであることが好ましい。これにより、平均直径の変化を2nm以下に抑えながら、短時間で300μm以上の長さにカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0011】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、上記合成工程において、カーボンナノチューブの合成時間を1分間以上とすることが好ましい。これにより、同一触媒からカーボンナノチューブを300μm以上成長させること、及び、触媒に対するカーボンナノチューブの収量を体積比で1万倍以上にすることができる。
【0012】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、支持体が、粉末状、ビーズ状、ハニカム状、多孔質状、ファイバー状、チューブ状、ワイヤー状、網状、格子状、スポンジ状、板状及び層状の中から選択される一つの形状を有する構造物であることが好ましい。支持体がこのような形状であると、基板法や流動層法等のカーボンナノチューブの製造方法における、種々の反応器形態に適用することができる。
【0013】
〔用語の定義〕
本発明の明細書、請求の範囲で用いる用語を定義する。
「カーボンナノチューブ」は、グラフェンシートを筒状に巻いた構造を有した、微細な構造物をいう。
【0014】
「支持体」は、触媒、触媒担体(担体層)(具体例は後述する。)等を、反応器中に保持するための構造体であり、固体材料でできている。触媒は、例えば、触媒の原料を気体化させ、その気体原料を支持体上に接触させることで担持することができる。又は、触媒は、触媒の原料を支持体上に付着させ、加熱処理することで支持体に担持させることができる。
【0015】
「触媒」とは、支持体上に担持されたものであり、一般的な触媒を意味する。「触媒」にアセチレンを供給してカーボンナノチューブを合成するとき、「触媒」は、カーボンナノチューブの合成の仲介、促進、効率化等の働きをし、それによりアセチレンからカーボンナノチューブが合成される。また、「触媒」の働きによってカーボンナノチューブが合成される。「触媒」は、アセチレンを取り込み、カーボンナノチューブを吐き出す役割を持つ材料を意味する。更に、「触媒」は、ナノメーターオーダーの大きさを有するナノ粒子を意味する。
【0016】
「触媒担体」(担体層)とは、触媒のナノ粒子が付着している材料のことである。「触媒担体」は、支持体上に形成され、その上に金属のナノ粒子の触媒が担持される。支持体が触媒担体の機能を兼ねることもできる。
【0017】
「カーボンナノチューブの合成」は、炭素が触媒上にチューブ状の構造を作りながら成長することをいう。カーボンナノチューブの合成の同意語として「カーボンナノチューブの成長」を用いる。
【0018】
「原料ガス」は、アセチレン、二酸化炭素及び不活性ガス(キャリアガス)からなる混合ガスをいう。
【0019】
「反応器」は、その中に支持体が配置された装置であり、触媒担体の原料、触媒の原料、アセチレンを含む原料ガス、キャリアガス、分離ガス等の気体流を供給するための供給管、合成後の気体流が排出されるための排出管が接続されている密閉装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アセチレンを高濃度に供給した場合でも触媒失活を有効に抑えることができ、長尺なカーボンナノチューブを効率的に製造することができる、カーボンナノチューブの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態のカーボンナノチューブの製造方法に係る製造装置の概要を示す概略図である。
【
図2】
図2は、基板上に生成したカーボンナノチューブの外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、支持体上に原料ガスを流通させることでカーボンナノチューブの生成を行うものである。以下、本発明のカーボンナノチューブの製造方法を構成する主な要素について、要素毎にそれぞれ説明する。
【0024】
〔製造方法〕
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、アセチレンと、アセチレンからカーボンナノチューブを生成するための触媒と、を使用して、反応器中に配置された加熱状態の支持体上にカーボンナノチューブを合成するカーボンナノチューブの製造方法である。この製造方法は、アセチレン、二酸化炭素及び不活性ガスからなる原料ガスを、触媒を担持させた支持体上に流通させることで、支持体上にカーボンナノチューブを合成させる合成工程を有する。
【0025】
上記原料ガスにおいて、アセチレンの分圧は1.33×10
1〜1.33×10
4Paであり、二酸化炭素の分圧は1.33×10
1〜1.33×10
4Paである。好ましくは、アセチレンの分圧は6.67×10
1〜6.67×10
3Paであり、二酸化炭素の分圧は6.67×10
1〜6.67×10
3Paである。また、アセチレンと二酸化炭素との分圧比(アセチレン/二酸化炭素)は0.1〜10である。これらにより、長尺(例えば、300μm以上)のカーボンナノチューブを高速で成長させることができる。
【0026】
〔反応温度〕
また、本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、CNT成長時の温度(=反応温度=支持体の温度)を500℃以上1000℃以下に保持した状態で行うことが好ましい。より好ましくは700℃以上900℃以下で行うのが好ましい。CNT成長時の温度の好ましい上限を1000℃としたのは、アセチレンが熱分解して煤になる温度以下にすることを意図している。また、支持体の温度の好ましい下限を500℃としたのは、触媒が活性を保持し、カーボンナノチューブをより効率的に合成する観点からである。
【0027】
〔反応時間〕
上記合成工程において、カーボンナノチューブの合成を1分間以上行うことが好ましく、1〜100分間行うことがより好ましい。反応時間は、カーボンナノチューブの長さをどの程度にするかの目的に応じて変わる。合成時間が長ければ、長いカーボンナノチューブの合成ができる。この合成時間は、材料の種類、必要なカーボンナノチューブの長さによって、決定されるものであり、上述の値に限定されるものではない。
【0028】
〔支持体〕
支持体は、耐熱性、耐腐食性、耐薬品性、機械的強度特性等がよい理由から、セラミックスを材料に用いることが好ましい。支持体には、O、N、C、Si、Al、Zr、及びMgの中から選択される1以上の元素を含む公知の酸化物系、窒化物系、炭化ケイ素系等のセラミックスを用いるとよい。しかしながら、支持体はセラミックスに限定されるものではなく、W、Ta、Mo、Ti、Al、Fe、Co、及びNiの中から選択される1以上の元素を含む金属又は合金からなる金属素材や、炭素を用いてもよい。
【0029】
支持体の加熱は、その支持体を直接加熱又は間接的に加熱する手段により行うことができる。特に、高温に加熱された加熱炉内に支持体を配置する手段を用いることが好ましい。具体的には、本発明では、カーボンナノチューブを熱CVD法により合成する。この熱CVD法は、気体、又は液体原料を気化し、その蒸気の気相中、或いは基材表面での化学反応により薄膜を形成する方法である。本発明はこのように、支持体を加熱することで触媒を高温化し、アセチレンを含む原料ガスを供給してカーボンナノチューブの合成を行う。
【0030】
この化学反応を起こさせるエネルギーを、基材や反応容器壁から熱エネルギーの形で与えるものが熱CVD法として知られている。この加熱方法は、反応器全体を加熱炉により加熱することでカーボンナノチューブを合成するものでもよい。また、支持体を通電加熱することでカーボンナノチューブを合成してもよい。つまり、反応器全体を加熱炉により加熱する代わりに、支持体を通電加熱することでカーボンナノチューブを合成してもよい。
【0031】
〔担体〕
触媒担体(担体層)は、好ましくはSi、Al、Mg、Zr、Ti、O、N、C、Mo、Ta及びWの中から選択される1以上の元素を含む。例えば、触媒担体は、SiO
2、Al
2O
3やMgO等の酸化物、Si
3N
4やAlN等の窒化物、SiC等の炭化物で形成されているとよい。特にAl
2O
3−SiO
2の複合酸化物が好ましい。
【0032】
触媒は、成分にV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、W及びAuの中から選択される1以上の元素を含むものがよい。また、触媒は、上述した触媒担体(担体層)又は触媒担体を兼ねた支持体の上に形成される。触媒の大きさは、直径が0.4nm以上15nm以下であることが好ましい。触媒はFe又はCoであることが好ましい。
【0033】
触媒担体と触媒との組み合わせとしては、カーボンナノチューブの生産性の観点から、触媒担体がAl
2O
3であり、触媒がFeであることが好ましい。また、直径が小さいカーボンナノチューブを効率的に得る観点からは、触媒担体がAl
2O
3であり、触媒がCoであることが好ましい。
【0034】
〔原料ガスの供給〕
原料ガスは、アセチレン、二酸化炭素及びキャリアガスからなる。アセチレンは、反応器内に、気体状態で供給される。キャリアガスは、カーボンナノチューブの生成に影響を与えない窒素及びアルゴン等を好適に使用することができ、また水素等を用いてもよい。
【0035】
原料ガスを、好ましくは1.013×10
3Pa(0.01気圧)から1.013×10
6Pa(10気圧)で支持体上に流通させることで熱CVD法を行う。具体的には、原料ガスを1.013×10
3Pa(0.01気圧)から1.013×10
6Pa(10気圧)で前述した触媒に送気させることで、カーボンナノチューブの合成を行う。
【0036】
原料ガスにおいて、アセチレンの分圧は1.33×10
1〜1.33×10
4Pa(0.1〜100Torr)であり、二酸化炭素の分圧は1.33×10
1〜1.33×10
4Pa(0.1〜100Torr)である。好ましくは、アセチレンの分圧は6.67×10
1〜6.67×10
3Pa(0.5〜50Torr)であり、二酸化炭素の分圧は6.67×10
1〜6.67×10
3Pa(0.5〜50Torr)である。
【0037】
また、原料ガスにおいて、アセチレンと二酸化炭素との分圧比(アセチレン/二酸化炭素)は0.1〜10であり、0.15〜4.0であることが好ましく、0.15〜0.7であることがより好ましい。アセチレン及び二酸化炭素の上記分圧及び分圧比をこれらの範囲に調節することにより、長尺(例えば、300μm以上)のカーボンナノチューブを短時間で成長させることができる。
【0038】
〔生成物〕
合成されたカーボンナノチューブの直径は、0.4nm以上10nm以下であるとよい。カーボンナノチューブの直径は、触媒の種類、その大きさによって決定されるものであり、この値に限定されるものではない。カーボンナノチューブの長さは、合成時間によって決定されるものであり、短いカーボンナノチューブを必要とする用途の場合は、合成時間を短くする。長いカーボンナノチューブを必要とする用途の場合は、合成時間を長くする。
【0039】
カーボンナノチューブは、単層のものであっても良く、複数の層から構成されるものであってもよい。カーボンナノチューブは、1層以上10層以下の層から構成されるとよい。本発明のカーボナノチューブの製造方法は、各種構造のカーボンナノチューブの製造が可能であるが、SWCNTの製造に適した方法である。また、本発明のカーボンナノチューブの製造方法では、触媒の大きさ、成分を制御することで、各種構造のカーボンナノチューブの製造が可能である。従来の製造方法では、SWCNTを効率良く生産することが困難であったが、本発明のカーボンナノチューブの製造方法によれば、SWCNTの生産効率を飛躍的に向上させることができる。
【0040】
図1は、本発明を熱CVD法で行う場合のカーボンナノチューブの製造装置を示す概略図である。反応器21は、一端が閉じられた横置型の円筒から構成されており、容器の外部から内部へ通じた原料ガス供給管25を備えている。反応器21の周囲には加熱器24が設置されている。触媒が担持された支持体基板23は、石英ボート22に載置されて、反応器21内に配置されている。触媒を担持する支持体には、基板以外にも、例えば、粉末状、ビーズ状、ハニカム状、多孔質状、ファイバー状、チューブ状、ワイヤー状、網状、格子状、スポンジ状、層状のものを使用することができる。
【0041】
〔担体及び触媒の担持〕
支持体基板23に、スパッタ法等により担体原料及び触媒原料を担持する。支持体に担体の機能も持たせることも可能であり、その際には担体を担持する必要は必ずしもない。次に、支持体基板23を反応器21内に設置し、キャリアガス流通下で所定の温度まで加熱する。
【0042】
本発明のカーボンナノチューブの製造においては、基板上で触媒量を連続的に変化させる周知のコンビナトリアル手法を用いてもよい(例えばS. Noda, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 46 (17), 399-401 (2007).を参照。)。本手法を用いることにより、CNT長尺化の最適触媒条件の探索を大幅に簡略化することができる。
【0043】
〔支持体上でのカーボンナノチューブの合成〕
上記のように加熱された、触媒が担持された支持体基板23上に原料ガス供給管25を通じてアセチレンを含む原料ガスを流通すると、支持体基板23上にカーボンナノチューブを合成することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
次に本発明の実施の形態を実施例によって詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
本発明の実施例1を説明する。ここでは、基板(支持体)として石英基板を用い、触媒は該基板上にスパッタ成膜した。
【0047】
触媒担持に際しては、既知のコンビナトリアル手法を用いた。すなわち、Alを基板上に傾斜担持させ、その後チャンバを空気開放した。その後FeをAlと直交方向から傾斜担持し、Al及びFeのライブラリを作製した。Alの膜厚は基板幅15mmの両端部がそれぞれ60nmから1nm、Feの膜厚は基板幅15mmの両端部がそれぞれ4nmから0.1nmになるよう分布させた。
【0048】
このようにして触媒を担持させた基板を、
図1に示す反応器内に設置した。反応温度は、800℃とし、1.2Torr アセチレン/7.6Torr 二酸化炭素/アルゴン balanceで常圧の原料ガスを反応器に供給した。反応時間は30分とした。
【0049】
生成したカーボンナノチューブの長さを定規で測定し、結果を表1に示した。生成したカーボンナノチューブの外観を
図2に示す。本実施例では、触媒の担持にコンビナトリアル手法を用いたため、生成したカーボンナノチューブの高さに横方向の分布がある。
図2はFeの傾斜方向と垂直に、カーボンナノチューブの側面から撮影したカーボンナノチューブの成長高さを表しており、最も高く成長した領域(Fe触媒膜厚0.6nm領域)で高さ3.5mmまで成長した。
【0050】
(実施例2
,参考例3及び4,実施例5〜7)
アセチレン及び二酸化炭素の分圧を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2
,参考例3及び4,実施例5〜7のカーボンナノチューブを製造した。生成したカーボンナノチューブの長さをそれぞれ表1に示した。
【0051】
(比較例1〜4)
アセチレン及び二酸化炭素の分圧を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1〜4のカーボンナノチューブを製造しようと試みたが、カーボンナノチューブの生成を目視で観察することはできなかった。
【0052】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法は、長尺のカーボンナノチューブの大量生産が可能であり、その製造コストも大きく下げることができる。従って、本発明で製造されるカーボンナノチューブの用途は、透明電極、半導体薄膜、リチウムイオン電池の電極材料、燃料電池の電極材料、電気二重層キャパシタの電極材料、コンポジットポリマーのフィラー材料、電子放出銃、電界放出ディスプレイ、顕微鏡プローブ、ガス吸蔵材料等への応用が注目される。特に、本発明で製造される単層カーボンナノチューブの用途は、透明電極、リチウムイオン電池の電極材料、電気二重層キャパシタの電極材料等への応用が注目される。
【符号の説明】
【0054】
21…反応器、22…石英ボート、23…支持体基板、24…加熱器、25…原料ガス供給管。