特許第6202732号(P6202732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202732分岐光ファイバ特性解析装置及びその解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202732
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】分岐光ファイバ特性解析装置及びその解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20170914BHJP
   G01M 11/02 20060101ALI20170914BHJP
   H04B 10/071 20130101ALI20170914BHJP
   H04B 10/077 20130101ALI20170914BHJP
   H04B 10/272 20130101ALI20170914BHJP
【FI】
   G01M11/00 R
   G01M11/02 J
   H04B10/071
   H04B10/077
   H04B10/272
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-215096(P2013-215096)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-78859(P2015-78859A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】高橋 央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 千尋
(72)【発明者】
【氏名】保立 和夫
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/165587(WO,A1)
【文献】 特開平02−186236(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/126738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 − G01M 11/08
H04B 10/00 − H04B 10/90
H04J 14/00 − H04J 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基幹光ファイバの一方端を光スプリッタによってN(Nは2以上の自然数)系統に分岐し、前記光スプリッタの分岐端部それぞれに分岐光ファイバの一方端を光結合し、前記分岐光ファイバそれぞれの他方端に試験光波長を反射する光反射フィルタを設置した被測定光ファイバの分岐光ファイバ特性を解析する分岐光ファイバ特性解析装置であって、
レーザによる連続光を第一試験光、第二試験光、ローカル光の波形に符号化して出力する光源モジュールと、
前記第一試験光及び前記ローカル光の光周波数を変更する光周波数変更手段と、
前記光周波数変更手段の出力光から前記第一試験光と前記ローカル光とを分岐する分岐手段と、
前記光周波数の変更を受けた第一試験光をパルス化する第1のパルス化手段と、
前記第二試験光をパルス化する第2の光パルス化手段と、
それぞれ前記符号化されパルス化された第一試験光及び第二試験光を合波する合波素子と
記合波素子で合波された試験光を前記被測定光ファイバの基幹光ファイバに入射し、前記分岐光ファイバそれぞれの前記光反射フィルタで反射されて当該基幹光ファイバの入射端から出射される戻り光を抽出する光サーキュレータと、
前記第一試験光及び第二試験光の前記被測定光ファイバへの入射タイミングを一致させる光遅延手段と、
前記戻り光から抽出された第一試験光を前記分岐手段で分岐されるローカル光で検波して前記第一試験光と前記ローカル光との光ビート信号を得る検波手段と、
前記光ビート信号を受光して電気信号に変換する光受信器と、
前記電気信号から前記第一試験光に発生する誘導ブリルアン後方散乱光を測定して前記被試験光ファイバの特性を解析する演算処理装置と
を具備し、
前記演算処理装置は、前記光スプリッタによる分岐点から前記光反射フィルタまでのN系統の分岐光ファイバについて、それぞれの長さの最小の差が分岐光ファイバ識別分解能ΔLより長い場合に、前記光源モジュールで生成される第一及び第二試験光とローカル光の符号を変化させつつ、前記誘導ブリルアン後方散乱光を測定することで、前記分岐光ファイバの特性を解析することを特徴とする分岐光ファイバ特性解析装置。
【請求項2】
前記光周波数変更手段は、前記第一試験光及び第二試験光の周波数差が、前記被測定光ファイバ内で誘導ブリルアン後方散乱光が生じるブリルアン周波数シフト量に相当するように変更することを特徴とする請求項1記載の分岐光ファイバ特性解析装置。
【請求項3】
前記光源モジュールは、
注入電流に基づいて前記連続光のレーザを発生し、前記注入電流により前記連続光を任意波形に変調する光源と、
前記光源への注入電流を前記第一試験光、第二試験光及びローカル光それぞれの変調波形に合わせて連続的に変化させ、前記第1及び第2の光パルス化手段により時間分割させることで、符号化した第一及び第二試験光及びローカル光を発生する光符号化器と
を備えることを特徴とする請求項1記載の分岐光ファイバ特性解析装置。
【請求項4】
前記演算処理装置は、
前記第一及び第二試験光による誘導ブリルアン散乱を測定し、
前記複数の分岐光ファイバそれぞれの距離に対するブリルアン散乱光分布を測定し、
前記測定結果それぞれから前記複数の分岐光ファイバにおける個別の損失分布を解析することを特徴とする請求項1記載の分岐光ファイバ特性解析装置。
【請求項5】
前記演算処理装置は、
前記第一及び第二試験光の符号を指定することで、前記被試験光ファイバ中における前記分岐光ファイバ終端からの誘導ブリルアン散乱位置を指定し、
前記第一試験光及びローカル光の符号を指定することで、前記被試験光ファイバのどの分岐光ファイバから反射された第一試験光に対応する電気信号であるかを特定し、得られた電気信号から誘導ブリルアン散乱光を解析した後、その解析結果を出力する解析処理を実行し、
前記N系統の分岐光ファイバのうち最長の分岐光ファイバからの前記第一試験光が到達するまで待機した後、前記第一及び第二試験光及びローカル光の符号を変更して前記解析処理を繰り返して前記分岐光ファイバそれぞれの損失分布を取得することを特徴とする請求項1記載の分岐光ファイバ特性解析装置。
【請求項6】
基幹光ファイバの一方端を光スプリッタによってN(Nは2以上の自然数)系統に分岐し、前記光スプリッタの分岐端部それぞれに分岐光ファイバの一方端を光結合し、前記分岐光ファイバそれぞれの他方端に試験光波長を反射する光反射フィルタを設置した被測定光ファイバの分岐光ファイバ特性を解析する分岐光ファイバ特性解析方法であって、
レーザによる連続光を第一試験光、第二試験光、ローカル光の波形に符号化し、
前記第一試験光及び前記ローカル光の光周波数を所定周波数変更し、
前記光周波数変更出力光から前記第一試験光と前記ローカル光とを分岐し、
前記光周波数の変更を受けた第一試験光をパルス化し、
前記第二試験光をパルス化し、
それぞれ前記符号化されパルス化された第一試験光及び第二試験光を合波し
記合波された試験光を前記被測定光ファイバの基幹光ファイバに入射し、前記分岐光ファイバそれぞれの前記光反射フィルタで反射されて当該基幹光ファイバの入射端から出射される戻り光を抽出し、
前記第一試験光及び第二試験光の前記被測定光ファイバへの入射タイミングを一致させ
記戻り光から抽出され第一試験光を前記分岐されたローカル光で検波して前記第一試験光と前記ローカル光との光ビート信号を得て、
前記光ビート信号を受光して電気信号に変換し、
前記電気信号から前記第一試験光に発生する誘導ブリルアン後方散乱光を測定して前記被試験光ファイバの特性を解析するようにし、
前記光スプリッタによる分岐点から前記光反射フィルタまでのN系統の分岐光ファイバについて、それぞれの長さの最小の差が分岐光ファイバ識別分解能ΔLより長い場合に、前記第1及び第2試験光とローカル光の符号を変化させつつ、前記誘導ブリルアン後方散乱光を測定することで、前記分岐光ファイバの特性を解析することを特徴とする分岐光ファイバ特性解析方法。
【請求項7】
前記第一及び第二試験光の周波数差を、前記被測定光ファイバ内で誘導ブリルアン後方散乱光が生じるブリルアン周波数シフト量に相当させることを特徴とする請求項6記載の分岐光ファイバ特性解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばPON(Passive Optical Network)型の光線路において、光スプリッタで分岐された各分岐光ファイバの特性を個別に測定し解析する分岐光ファイバ特性解析装置とその解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバなどの光線路を使用する光通信システムでは、光線路の故障を検出し、または、故障位置を特定するために光パルス線路監視装置が用いられる。光パルス線路監視装置は、光が光線路内を伝搬するに伴い、その光と同じ波長の後方散乱光が生じて逆方向に伝搬することを利用する。すなわち、光線路に試験光として光パルスを入射すると、この光パルスが破断点に到達するまで後方散乱光を発生し続け、試験光と同じ波長の戻り光が光パルスを入射した光線路の端面から出射される。この後方散乱光の継続時間を測定することにより、光線路の破断位置を特定することが可能となるものである。この原理に基づく監視装置としては、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)が代表的である。
【0003】
しかしながら、従来の光パルス線路監視装置では、PON(Passive Optical Network)型の光分岐線路については、光スプリッタからユーザ装置側に位置する分岐光ファイバを、あるいは光デバイス(例えば反射型フィルタ)、スプリッタやファイバ接続部品など、光線路に接続されている光装置の状態を、個別に識別することは困難である。すなわち、通信事業者設備ビルから敷設されている幹線光ファイバが光スプリッタにより複数の光ファイバに分岐されるため、試験光も光スプリッタによる複数の光ファイバに分岐され、光スプリッタによる分岐後の各光ファイバ(以下、「分岐下部光ファイバ」)に一様に分配される。その後、各光ファイバ心線からの戻り光が入射端に戻る際、光スプリッタで重なり合ってしまう。このため、入射端で観測されるOTDR波形からは、どの分岐光ファイバに故障が生じているかを識別できなくなる。このように既存の光パルス線路監視装置は基本的に1本の光線路に対してのみ有効であり、光分岐線路に対しては、そのまま適用することはできない。
【0004】
そこで、光分岐線路に対する光パルス線路監視装置の適用を可能とするための技術が提案されている。(非特許文献1、特許文献1、非特許文献2参照)
非特許文献1では、試験光を反射する光フィルタをターミネーションフィルタとしてユーザ装置の手前に設置し、各ユーザからの反射光の強度を高分解能なOTDR装置により測定するというものである。この測定によれば、光スプリッタより下流の分岐光ファイバにおける距離分解能として2mの精度を得られることが報告されている。しかしながら、この技術では、故障心線の特定と、ユーザ装置か光線路のどちらが故障しているかといった故障位置の切り分けが可能であるにとどまっており、分岐下部光ファイバのどの位置で故障が発生しているかを特定することができない。
【0005】
特許文献1では、光スプリッタとして、光の多光束干渉を利用するアレイ導波路による回折格子型の波長合分波器を用い、波長可変光源により試験光の波長を切り替えて被試験光線路を選択するという提案がなされている。この提案の手法によれば、波長可変光源の波長を掃引し、反射光の波長を光反射処理部で検出し、その波長を基準に試験光の波長を設定することで、試験光の波長に対応付けて各光線路の個別監視を実現することができる。しかしながら、アレイ導波路による回折格子型の波長合分波器に代表される、波長ルーティング機能を持つ光分岐装置は一般的に高価であり、多くの加入者を収容するアクセス系光システムに用いることはコスト面で難しい。さらには、このような光部品は温度依存性が大きく、温度調整機能を付加する必要もあるため、システムを構築する際に必要となるコストが高くなり好ましくない。
【0006】
非特許文献2では、ポンプ光パルスとプローブ光パルスの二つの試験光パルスを入射し、両試験光の衝突位置でのブリルアン利得を解析することにより、スプリッタ下部心線個別の損失分布を得るという提案がなされている。しかしながら、パルス法を用いたブリルアン利得解析は、分岐ファイバ識別分解能は1mより長くなる。これは、パルス法において、パルス幅がブリルアン散乱のフォノン寿命(〜1m)より狭いときに感度が著しく劣化するためである。特許文献2に記載の手法は、試験光のパルス幅より長い分岐光ファイバ長差がないと測定できない。そのため、集合住宅などの隣同士が近く、分岐ファイバ長差が1mより短い場合には測定できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-87017号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Enomoto et al., "Over 31.5dB dynamic range optical fiber line testing system with optical fiber fault isolation function 32dB-branched PON", OFC2003 Technical Digest, paper ThAA3(2003), pp. 608-610
【非特許文献2】H. takahashi et al., "Individual fault location in PON using pulsed pump-probe Brillouin analysis", Electronics letters, vol.47, pp.1384-1385(2011).
【非特許文献3】梶原康嗣“光波コヒーレンス関数の合成法による長尺ファイバブラッググレーティングングのブラッグ波長分布測定システム”http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/29062/1/37066461.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、PON型の光分岐線路において、光スプリッタからユーザ装置側の分岐下部光ファイバ、および光スプリッタなどの光デバイス装置を監視するにあたり、新たに光デバイスや光線路構成を変更することなく(既設設備を変更することによりコストをかけることなく)、所外既設設備(同一特性の分岐光ファイバと同一波長光反射フィルタ)を使用するのみで分岐光ファイバ特性を個別に測定ことを可能とし、分岐光ファイバ長差が1mより短い場合でも測定可能な技術が求められている。
【0010】
本発明は、上記の事情に着目してなされたもので、PON型光分岐線路において、所内既設設備の光デバイスや光線路構成を変更せずに、所外設備のみで分岐光ファイバ特性を個別に測定することができ、分岐光ファイバ長差が1mより短い場合でも測定することのできる分岐光ファイバ特性解析装置及びその解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る分岐光ファイバ特性解析装置は、以下のような態様の構成とする。
(1)基幹光ファイバの一方端を光スプリッタによってN(Nは2以上の自然数)系統に分岐し、前記光スプリッタの分岐端部それぞれに分岐光ファイバの一方端を光結合し、各被測定光ファイバの分岐光ファイバ特性を解析する分岐光ファイバ特性解析装置であって、レーザによる連続光を第一試験光、第二試験光、ローカル光の波形に符号化して出力する光源モジュールと、前記第一試験光及び前記ローカル光の光周波数を変更する光周波数変更手段と、前記光周波数変更手段の出力光から前記第一試験光と前記ローカル光とを分岐する分岐手段と、前記光周波数の変更を受けた第一試験光をパルス化する第1のパルス化手段と、前記第二試験光をパルス化する第2の光パルス化手段と、それぞれ前記符号化されパルス化された第一試験光及び第二試験光を合波する合波素子と、前記被測定光ファイバの複数の分岐光ファイバそれぞれの他方端に配置され、前記第一及び第二試験光の波長を反射し、それ以外の波長の光を透過する複数の光反射フィルタと、前記合波素子で合波された試験光を前記被測定光ファイバの基幹光ファイバに入射し、当該基幹光ファイバの入射端から出射される戻り光を抽出する光サーキュレータと、前記第一試験光及び第二試験光の前記被測定光ファイバへの入射タイミングを一致させる光遅延手段と、前記第一試験光を前記分岐手段で分岐されるローカル光で検波して前記第一試験光と前記ローカル光との光ビート信号を得る検波手段と、前記光ビート信号を受光して電気信号に変換する光受信器と、前記電気信号から前記第一試験光に発生する誘導ブリルアン後方散乱光を測定して前記被試験光ファイバの特性を解析する演算処理装置とを具備し、前記演算処理装置は、前記光スプリッタによる分岐点から前記光反射フィルタまでのN心の分岐光ファイバについて、それぞれの長さの最小の差が分岐光ファイバ識別分解能ΔLより長い場合に、前記光源モジュールで生成される第1及び第2試験光とローカル光の符号を変化させつつ、前記誘導ブリルアン後方散乱光を測定することで、前記分岐光ファイバの特性を解析する態様とする。
【0012】
(2)(1)において、前記光周波数変更手段は、前記第1試験光及び第2試験光の周波数差が、前記被測定光ファイバ内で誘導ブリルアン後方散乱光が生じるブリルアン周波数シフト量に相当するように変更する態様とする。
【0013】
(3)(1)において、前記光源モジュールは、注入電流に基づいて前記連続光のレーザ光を発生し、前記注入電流により前記連続光を任意波形に変調する光源と、前記光源への注入電流を前記第一試験光、第二試験光及びローカル光それぞれの変調波形に合わせて連続的に変化させ、前記第1及び第2の光パルス化手段により時間分割することで、符号化した第一及び第二試験光及びローカル光を発生する態様とする。
【0014】
(4)(1)において、前記演算処理装置は、前記第1及び第2試験光による誘導ブリルアン散乱を測定し、前記複数の分岐光ファイバそれぞれの距離に対するブリルアン散乱光分布を測定し、前記測定結果それぞれから前記複数の分岐光ファイバにおける個別の損失分布を解析する態様とする。
【0015】
(5)(1)において、前記演算処理装置は、前記第一及び第二試験光の符号を指定することで、前記被試験光ファイバ中における前記分岐光ファイバ終端からの誘導ブリルアン散乱位置を指定し、前記第一試験光及びローカル光の符号を指定することで、前記被試験光ファイバのどの分岐光ファイバから反射された第一試験光に対応する電気信号であるかを特定し、得られた電気信号から誘導ブリルアン散乱光を解析した後、その解析結果を出力する解析処理を実行し、前記N系統の分岐光ファイバのうち最長の分岐光ファイバからの前記第一試験光が到達するまで待機した後、前記第一及び第二試験光及びローカル光の符号を変更して前記解析処理を繰り返して前記分岐光ファイバそれぞれの損失分布を取得する態様とする。
【0016】
また、本発明に係る光線路特性解析方法は、以下のような態様の構成とする。
(6)基幹光ファイバの一方端を光スプリッタによってN(Nは2以上の自然数)系統に分岐し、前記光スプリッタの分岐端部それぞれに分岐光ファイバの一方端を光結合し、各被測定光ファイバの分岐光ファイバ特性を解析する分岐光ファイバ特性解析方法であって、レーザによる連続光を第一試験光、第二試験光、ローカル光の波形に符号化し、前記第一試験光及び前記ローカル光の光周波数を所定周波数変更し、前記光周波数変更出力光から前記第一試験光と前記ローカル光とを分岐し、前記光周波数の変更を受けた第一試験光をパルス化し、前記第二試験光をパルス化し、それぞれ前記符号化されパルス化された第一試験光及び第二試験光を合波し、前記被測定光ファイバの複数の分岐光ファイバそれぞれの他方端に、前記第一及び第二試験光の波長を反射し、それ以外の波長の光を透過する複数の光反射フィルタを配置し、前記合波された試験光を前記被測定光ファイバの基幹光ファイバに入射し、当該基幹光ファイバの入射端から出射される戻り光を抽出し、前記第一試験光及び第二試験光の前記被測定光ファイバへの入射タイミングを一致させ、前記第一試験光を前記分岐されたローカル光で検波して前記第一試験光と前記ローカル光との光ビート信号を得て、前記光ビート信号を受光して電気信号に変換し、当該電気信号から前記第一試験光に発生する誘導ブリルアン後方散乱光を測定して前記被試験光ファイバの特性を解析するようにし、前記光スプリッタによる分岐点から前記光反射フィルタまでのN心の分岐光ファイバについて、それぞれの長さの最小の差が分岐光ファイバ識別分解能ΔLより長い場合に、前記第1及び第2試験光とローカル光の符号を変化させつつ、前記誘導ブリルアン後方散乱光を測定することで、前記分岐光ファイバの特性を解析する態様とする。
【0017】
(7)(6)において、前記第一及び第二試験光の周波数差を、前記被測定光ファイバ内で誘導ブリルアン後方散乱光が生じるブリルアン周波数シフト量に相当させる態様とする。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明によれば、光スプリッタ下部側における個別の分岐光ファイバの特性分布を取得するために、各分岐光ファイバ長が異なることと、分岐光ファイバそれぞれの終端に試験光波長を反射する光反射フィルタを備えることのみを条件としているため、現在のPON型光線路を一切取り替えることなく低コストで精密に測定可能であり、必要となる分岐光ファイバ長が1mより短い場合でも測定可能な分岐光ファイバ特性解析装置及びその解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る分岐光ファイバ特性解析装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示す解析装置の光符号化器において、第一試験光、第二試験光及びローカル光をそれぞれ符号化する任意波形を示す波形図。
図3図1に示す解析装置で解析される距離−損失分布の例を示す特性図である。
図4図1に示す解析装置の第一試験光と第二試験光との間に生じるブリルアン利得の相関ピークの変化を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
図1は、本発明の実施形態に係る分岐光ファイバ特性解析装置の構成を示す図である。図1に示す解析装置は、第一試験光が被測定ファイバ中で受けたブリルアン利得の特性分布を求めることができるものである。
【0021】
光源11から出力されたレーザによる連続光は分岐素子12により分岐される。この分岐された光の一方を第一試験光(プローブ光)、他方を第二試験光(ポンプ光)とする。ここで、上記光源11は、上記第一試験光、第二試験光に続いてローカル光を出力する。また、上記光源11は、光符号化器13からの波形信号に基づいて出力光を適宜符号化する。光符号化器13は、具体的には、光源11のレーザ注入電流を任意波形で変調するように構成され、第一試験光、第二試験光及びローカル光をそれぞれ符号化する任意波形を、図2に示すように、時間的に連続で出力する。このとき、光源11からは、第一試験光、第二試験光、ローカル光が順次連続して出力される。
【0022】
第一試験光は、光周波数変更器14により光周波数をfBだけ変化させる。光周波数変更器14は、具体的には駆動する正弦波発生器15からの信号周波数に応じて変調側波帯の周波数が変化する機能を持つ外部変調器であればよく、LiNbO3を用いた位相変調器、振幅変調器やSSB変調器でよい。
【0023】
上記光周波数変更器14の出力光は分岐素子16によって2系統に分岐され、その一方の分岐光は、光パルス化器17で図2に示す第一試験光部分が抽出されてパルス化される。また、上記第二試験光は、光遅延器18で所定時間遅延された後、光パルス化器19で図2に示す第二試験光部分が抽出されてパルス化され、光増幅器20で増幅された後、合波素子21にて、パルス化された第一試験光と合波される。
【0024】
すなわち、光源11の出力光は、光パルス化器17により、符号化した第一試験光のみにパルス化され、パルス化器19により、符号化した第二試験光のみにパルス化される。このとき、光遅延器18によって第一試験光と第二試験光の入射時間差を調整し、合波素子21により符号化した第一試験光と符号化した第二試験光を合波し、サーキュレータ22を通過して被測定光ファイバ23に入射する。ここで、光遅延器18は、第一試験光と第二試験光の被試験光ファイバに入射する時間差をゼロにできればよく、光ファイバ自体で長さを調整すればよい。
【0025】
上記被測定光ファイバ23は、基幹光ファイバ230と光スプリッタ231と分岐光ファイバ2321〜232N(Nは2以上の自然数)と分岐光ファイバ終端に設置された光反射フィルタ2331〜233Nにより構成される。光スプリッタ231でN分岐された第一試験光と第二試験光は、分岐光ファイバ2321〜232N中のそれぞれでインタラクションし、第一試験光はブリルアン増幅を受ける。このブリルアン増幅を受けた第一試験光と第二試験光は光サーキュレータ22に到達し、光フィルタ24により第一試験光のみが光ヘテロダイン受信器25に到達し、分岐素子16で第1試験光から分岐されたローカル光と合波した後、光受信器26で受信される。
【0026】
光受信器26からの出力電流は、A/D変換器27でデジタル信号に変換されてから、演算処理装置28に入力される。演算処理装置28は、入力された電流値に対して下記で説明する分岐ファイバ情報の分離方法、ブリルアン利得解析方法、分布測定方法の演算処理を行い、例えば図3(a)〜(c)に示すような距離に対する損失分布を求める。
【0027】
次に上述した本実施形態の分岐光ファイバ特性解析装置の動作について説明する。
まず、光符号化器13、光周波数変更器14、被測定光ファイバ23、光受信器26には次の条件を満足する必要がある。
(条件1)光符号化器13において、第一試験光を符号化する符号φn(t)と第二試験光を符号化する符号Ψn(t)とは、所望の時間差tにおいて常に周波数差f1(f1は0を含む任意の数)が一定であり、それ以外の時間差において周波数差が一定でないこと。
(条件2)光周波数変更器14による周波数シフトは、ブリルアン周波数シフトfBと条件1記載の符号間周波数差f1との差周波数と等しいこと。
(条件3)第一試験光を符号化する光符号化手段の符号φn(t)とローカル光を符号化する光符号化器13の符号θn(t)は、所望の時間差tにおいて相関が1であり、それ以外の時間差において相関が0であること。
(条件4)分岐光ファイバ2321〜232Nの最小のファイバ長差が、分岐光ファイバ識別分解能ΔLより長いこと。
(条件5)光受信器26の帯域は、(条件1)の周波数差f1を受光可能な帯域であること。
【0028】
ここで、条件1〜5は次のような意味を持っている。
条件1は、所望の位置zのみのブリルアン利得情報を取得するための条件である。
光符号化器13の符号特性が上記の場合、被測定光ファイバ23中の所望の位置zにおいて、条件2と合わせることで、第一試験光と第二試験光の周波数差が常にブリルアン周波数シフトと等しくなるため、符号長に渡ってブリルアン増幅を受ける。それ以外の位置では、第一試験光と第二試験光の周波数差が揺らぐため、符号長に渡って常にブリルアン増幅を受けるわけではない。そのため、第一試験光の符号長に渡って積分することで、所望の位置zでのブリルアン利得を取得可能である。
【0029】
条件2は、第二試験光により第一試験光がブリルアン増幅を受けるために必要となる条件である。また、条件3および条件4は、分岐光ファイバ2321〜232Nの個別の損失情報を取得するために必要な条件である。
光符号化器13の符号特性が上記の場合、分岐光ファイバ終端の光反射フィルタ2331〜233Nで反射されて戻ってきた第一試験光を、符号θn(t)で変調したローカル光と符号長に渡って相関をとることで、任意の分岐光ファイバ2321〜232Nから戻ってきた第一試験光の強度を得ることが可能となる。
条件5は、光符号を精確に測定するためには、光受信器26の帯域は、A/D変換器27の帯域は、それぞれ条件1の周波数差f1より広い必要がある。
【0030】
上記の条件1〜5を満足する場合の、本発明を用いた分岐光ファイバの特性解析方法を説明する。
波長の異なる二つの試験光(第一試験光、第二試験光)を用いる。第一試験光はプローブ光であり、光周波数f0−fBとする。第二試験光はポンプ光であり、光周波数f0とする。ここで、f0はポンプ光の光周波数、fBはブリルアン後方散乱による光周波数シフト量とする。
符号化した第一試験光と符号化した第二試験光を被測定光ファイバ23に入射する。
第一試験光と第二試験光は、光スプリッタ231によりN分岐される。
【0031】
(i) ブリルアン利得解析方法
第一試験光(プローブ光)と第二試験光(ポンプ光)の周波数がfBだけ差がある場合、第一試験光と第二試験光が対向伝搬すると、ブリルアン散乱が発生し、第一試験光は式(1) で表される増幅を受ける。
【0032】
【数1】
ここで、αBはブリルアン利得、gBはブリルアン散乱係数、zcは分岐光ファイバ入射端から第一試験光と第二試験光がインタラクションした位置までの距離、Ipump(z)は分岐光ファイバ入射端から距離zだけ離れた位置における第二試験光(ポンプ光)の強度、tcは符号長、vは光ファイバ中の光速である。
【0033】
i(N=i)番目の分岐光ファイバ232iの心線#iの損失係数をαi、分岐光ファイバ232iの心線#iを往復する場合の全損失を1−Diとすると、終端の光反射フィルタ233iで反射された後、分岐光ファイバ232iの入射端に入射する第一試験光の強度Iprobe(2Li)は、式(2)で表される。
【0034】
【数2】
式(2)より、分岐ファイバ入射端での第一試験光の強度Iprobe(2Li)は、Ipump(z)のみの関数となる。
ここで、Ipump(z)は、式(3)で表される。
【0035】
【数3】
よって、式(2)は、式(3)を用いると式(4)として表される。
【0036】
【数4】
上記(4)式を用いてブリルアン利得を解析することにより、インタラクションした場所までの損失を取得することができる。上記の各分岐光ファイバ232iからの戻りの光Iprobe(2Li)は、光スプリッタ231から光受信器26までの光ファイバにより同じ損失を受ける。よって、ブリルアン利得を解析すれば、線路損失を測定することができる。
【0037】
(ii)分布測定方法
第一試験光の符号化をφn(t)、第二試験光の符号化をψn(t)とすると、φn(t)とψn(t)は、ある時間差tのときのみ周波数差がfBで一定であり、それ以外の時間差において周波数差が一定でない符号である。
被測定光ファイバ23の入射端から分岐下部光ファイバ#a(1≦a≦Nの整数)の終端までの長さをLaとする。符号化された第一試験光は、分岐下部光ファイバ#aの終端に設置された光反射フィルタにより反射される。反射して戻ってきた第一試験光と第二試験光は対向伝搬し、被測定ファイバ23中でインタラクションする。ここで、第一試験光の符号をφ1〜φnまで変化させ、第二試験光の符号をψ1〜ψnまで変化させる。
【0038】
例えば、以下のように周波数変調した場合を考える。
【数5】
Δfは符号化の変調振幅、fmnはn番目の変調周波数、Θは初期位相である。このとき、φnとψnで符号化した第一試験光と第二試験光を被測定光ファイバ23中に入射した場合、図4(c)に示すように、周波数差が一定の位置が周期的に表れる。この間隔をdmnとすると、
【0039】
【数6】
となる。この位置z(相関ピーク位置)において、図4(a)〜(d)に示すように、第一試験光と第二試験光は周波数差がブリルアン周波数シフトと等しくなるため、符号長に渡ってブリルアン増幅を受ける。ここで、式(6)より、変調周波数fmnを変化させることで間隔dmnが変わり、相関ピーク位置を変化できる。または、式(5)のψnの初期位相Θを変化させることでも相関ピーク位置を変化させることができる。そのため、変調周波数fmnまたは初期位相Θを変化させながら測定を繰り返すことで、ブリルアン利得の分布情報を取得することが可能である。
【0040】
(iii)分岐ファイバの分離方法
第一試験光の符号φn(t)とローカル光の符号θn(t)は、ある時間差t1のときのみ相関が1であり、それ以外の時間差t2において相関が0となる符号である。
【0041】
【数7】
但し、演算子・はベクトルの内積を表している。
第一試験光が分岐光ファイバ#aの終端の光反射フィルタで反射され、光受信器26に到達する時間をtdaとすると、式(8)で表される。
【0042】
【数8】
ここで、Laは入射端から分岐下部ファイバ#aの終端の光反射フィルタまでの距離である。
他の分岐光ファイバ#b(1≦b≦Nの整数)から戻ってきた第一試験光が光受信器26に到達する時間tdbは、式(9)で表される。
【0043】
【数9】
よって、#a、#bから光受信器26に戻る第一試験光の時間差は、式(10)で表される。
【0044】
【数10】
a ≠ Lbのとき、異なる分岐光ファイバから反射されて戻ってきた第一試験光が光受信器26に到達する時間が異なる。ここで、異なる分岐光ファイバから戻ってきた、符号化された第一試験光は、光スプリッタ231で合波される。異なる分岐光ファイバから戻ってきた第一試験光が光スプリッタ231で合波されるとき、符号の位相はずれている。光受信器26側へ戻ってきた第一試験光は、以下の式で与えられる。
【0045】
【数11】
そこで、分岐#Nから戻ってきた第一試験光に合わせて、ローカル光の符号θN(t)を生成する。
【0046】
【数12】
このとき、θa(t)と受信した信号の相関を取ることで、分岐#aの位置zでのブリルアン利得が得られる。また、θb(t)と受光した信号の相関を取ることで、分岐#bの位置zでのブリルアン利得が得られる。つまり、受光側へ戻ってきた第一試験光Idと符号θN(t)の相関を取ることで、分岐下部光ファイバの情報を分離して取得可能である。
【0047】
ここで、非特許文献3(第3.3節の式(3.28))によると、分岐光ファイバを分離識別する分解能は、符号化した第一試験光の符号特性により決まる。符号化した第一試験光は、符号同士の相関により復号する。式(5)で符号化した場合の分岐光ファイバを識別する分解能(分岐光ファイバ識別分解能)ΔLは、
【0048】
【数13】
となる。このため、分岐光ファイバ識別分解能は、パルス幅ではなく、符号特性により決まるため、分岐光ファイバ識別分解能をフォノン寿命より短くすることが可能となる。式(13)より、Δfを50MHz以上で変調することで、分岐光ファイバ識別分解能を1mより短くすることができる。
【0049】
つまり、光受信側で得られた第一試験光を、初期位相を変化させて復号化することで、分岐毎の情報に分離することが可能となる。また、正弦波変調を用いた場合、Δfを50MHz以上で変調することで、分岐ファイバ識別分解能は1mより短くすることが可能であり、Δfを5GHzにすることで、約1cmの分岐光ファイバ識別分解能を実現することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、(i)〜(iii)の各測定結果と、条件(1)〜(5)を満たした場合、PON型光分岐線路の分岐下部光ファイバの個別の損失分布測定が、既設所外設備(光スプリッタと分岐光ファイバと分岐光ファイバ終端に設置された光反射フィルタ)の構成のみで測定可能であり、分岐光ファイバ識別分解能は1mより短くすることができる。
【0051】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成を削除してもよい。さらに、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0052】
11…光源、12…分岐素子、13…光符号化器、14…光周波数変更器、15…正弦波発生器、16…分岐素子、17…光パルス化器、18…光遅延器、19…光パルス化器、20…光増幅器、21…合波素子、23…被測定光ファイバ、230…基幹光ファイバ、231…N分岐光スプリッタ、2321〜232N…分岐光ファイバ、2331〜233N…光反射フィルタ、24…光フィルタ、25…光ヘテロダイン受信器、26…光受信器、27…A/D変換器、28…演算処理装置。
図1
図2
図3
図4