特許第6206900号(P6206900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206900固体電解質シート、電極シート、及び全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206900
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】固体電解質シート、電極シート、及び全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20170925BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170925BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20170925BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170925BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170925BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170925BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20170925BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20170925BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M10/0585
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M4/62 Z
   H01B1/06 A
   H01B1/10
   H01B13/00 Z
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-248186(P2012-248186)
(22)【出願日】2012年11月12日
(65)【公開番号】特開2014-96311(P2014-96311A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(74)【代理人】
【識別番号】100141944
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 猛
(72)【発明者】
【氏名】幸 琢寛
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】清野 美勝
(72)【発明者】
【氏名】太田 剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 正克
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−243735(JP,A)
【文献】 特開2011−154902(JP,A)
【文献】 特開2008−103258(JP,A)
【文献】 特開平11−260336(JP,A)
【文献】 特開2010−250982(JP,A)
【文献】 特開2010−186682(JP,A)
【文献】 特開2005−285447(JP,A)
【文献】 特開平11−219727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体からなり
前記ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である固体電解質シート。
【請求項2】
前記ガラスセラミックス固体電解質が、リチウム元素(Li)、硫黄元素(S)及び燐元素(P)を含むガラスセラミックス固体電解質である請求項に記載の固体電解質シート。
【請求項3】
前記電子絶縁性の無機繊維が、ガラス繊維及びセラミックス繊維から選択される1以上である請求項1又は2に記載の固体電解質シート。
【請求項4】
前記支持体が、空隙率が80〜99%である不織布である請求項1〜のいずれかに記載の固体電解質シート。
【請求項5】
少なくともリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体からなり、
前記ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である固体電解質シートの製造方法であって、
前記ガラスセラミックス固体電解質を、少なくとも硫化リチウム及び五硫化二リンを用いて製造する、固体電解質シートの製造方法。
【請求項6】
前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、60:40〜85:15である請求項に記載の固体電解質シートの製造方法
【請求項7】
リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質、電極材、及び無機繊維からなる支持体からなり
前記ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である電極シート。
【請求項8】
前記ガラスセラミックス固体電解質が、リチウム元素(Li)、硫黄元素(S)及び燐元素(P)を含むガラスセラミックス固体電解質である請求項に記載の電極シート。
【請求項9】
前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミックス繊維及び金属繊維、炭素繊維から選択される1以上である請求項7又は8に記載の電極シート。
【請求項10】
前記支持体が、ガラス繊維、セラミックス繊維及び金属繊維、炭素繊維から選択される1以上の繊維で形成される織布若しくは不織布、金属発泡体、又はこれらの複合体である請求項7〜9のいずれかに記載の電極シート。
【請求項11】
前記支持体の空隙率が、80〜99%である請求項7〜10のいずれかに記載の電極シート。
【請求項12】
リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質、電極材、及び無機繊維からなる支持体からなり、
前記ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である電極シートの製造方法であって、
前記ガラスセラミックス固体電解質を、少なくとも硫化リチウム及び五硫化二リンを用いて製造する、電極シートの製造方法。
【請求項13】
前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、60:40〜85:15である請求項12に記載の電極シートの製造方法
【請求項14】
請求項1〜に記載の固体電解質シート及び請求項7〜11に記載の電極シートから選択される1以上を備える全固体二次電池。
【請求項15】
請求項1〜に記載の固体電解質シート及び請求項7〜11に記載の電極シートのいずれか1以上を1MPa〜100MPaで加圧する工程を含む全固体二次電池の製造方法。
【請求項16】
150〜360℃の範囲の温度で熱処理する工程を含む請求項15に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解質シートと、請求項7〜11のいずれかに記載の電極シートを貼り合わせ、得られた積層体を1MPa〜100MPaで加圧する工程を含む全固体二次電池の製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載の全固体二次電池の製造方法であって、
少なくともリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体からなる固体電解質シートと、
リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質、電極材、並びに無機繊維からなる支持体からなる電極シートとを、貼り合わせて積層体を製造する工程、
前記積層体を1MPa〜100MPaで加圧する工程、及び
前記加圧した積層体を150〜360℃の温度範囲で熱処理する工程
を含む全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質シート、電極シート、及び全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のリチウムイオン電池には、電解質として有機系電解液が主に用いられている。有機系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、電解液が液体でかつ可燃性であることから、電池として用いた場合に、漏洩、発火等の危険性が懸念されている。従って、次世代リチウムイオン電池用電解質として、より安全性の高い固体電解質の開発が期待されている。
【0003】
かかる課題を解決するために、イオウ(S)元素、リチウム(Li)元素及びリン(P)元素を主成分として含有する硫化物系固体電解質が開発され、この硫化物系固体電解質を用いた電池として全固体リチウム電池が開発された。
上記全固体リチウム電池において使用される硫化物系固体電解質は、通常、粉末状である。従って、取り扱いの便宜上、シート状の固体状態にすることが求められている。しかしながら、粉末の固体電解質だけからなる単一層の薄膜シートは形成が困難であったり、電池作製にあたって複雑な工程を必要であった。また、全固体電池の極材層には電解質を混合する必要があるが、粉末状の電解質であるとエネルギー密度が低下する等の課題があった。
【0004】
このような問題に対し、特許文献1は、リチウムイオン伝導性固体電解質と熱可塑性高分子樹脂を乾式で混合し、加熱下で圧延した固体電解質シートを開示している。しかしながら、シートの製造時、固体電解質の支持体として熱可塑性高分子樹脂を混合するので、固体電解質のイオン伝導パスが高分子の鎖で切断され、イオン伝導度が低下する問題があった。
【0005】
特許文献2は、固体電解質インクを不織布にスプレーで塗布した固体電解質シートを開示している。しかし、不織布を構成するポリマー鎖で、固体電解質のイオン伝導パスが切断されるため、イオン伝導度の低下が避けられない。
【0006】
非特許文献1は、固体電解質スラリーをPET(ポリエチレンテレフタレート)製メッシュ(厚さ100μm、開口率70%)に塗布し、溶剤を乾燥させながら加圧する手法により、メッシュ入り固体電解質シートを開示している。しかし、PET製メッシュは、耐熱性や安定性(固体電解質等と反応しない)が不十分であった。
【0007】
特許文献3は、固体電解質ガラスセラミックスを不織布に充填した固体電解質シートを開示している。しかし、イオン伝導度が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−133209号公報
【特許文献2】特開平1−115069号公報
【特許文献3】特開2008−103258号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】新エネルギー産業総合開発機構平成13年度成果報告書(「安定性を向上させた全固体リチウム電池用新規無機電解質の開発」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、大面積を有する自立した固体電解質シートを提供することである。
本発明の他の目的は、製造が容易で、連続プロセス及び大量生産が適用可能な固体電解質シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の固体電解質シート等が提供される。
1.少なくともリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体を含む固体電解質シート。
2.前記ガラス固体電解質が、リチウム元素(Li)、硫黄元素(S)及び燐元素(P)を含むガラス固体電解質である1に記載の固体電解質シート。
3.前記ガラス固体電解質が、少なくとも硫化リチウム及び五硫化二リンを用いて製造されるガラス固体電解質である1又は2に記載の固体電解質シート。
4.前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、60:40〜85:15である3に記載の固体電解質シート。
5.少なくともリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体を含み、
前記ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である固体電解質シート。
6.前記ガラスセラミックス固体電解質が、リチウム元素(Li)、硫黄元素(S)及び燐元素(P)を含むガラスセラミックス固体電解質である5に記載の固体電解質シート。
7.前記ガラスセラミックス固体電解質が、少なくとも硫化リチウム及び五硫化二リンを用いて製造されるガラスセラミックス固体電解質である5又は6に記載の固体電解質シート。
8.前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、60:40〜85:15である7に記載の固体電解質シート。
9.前記電子絶縁性の無機繊維が、ガラス繊維及びセラミックス繊維から選択される1以上である1〜8のいずれかに記載の固体電解質シート。
10.前記支持体が、空隙率が80〜99%である不織布である1〜9のいずれかに記載の固体電解質シート。
11.少なくともリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質と電子絶縁性の無機繊維からなる支持体を含む積層体又は複合体を150℃〜360℃でホットプレスする工程を含む固体電解質シートの製造方法。
12.11に記載の固体電解質シートの製造方法から得られる固体電解質シート。
13.リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質、電極材、並びに無機繊維からなる支持体を含む電極シート。
14.前記ガラス固体電解質が、リチウム元素(Li)、硫黄元素(S)及び燐元素(P)を含むガラス固体電解質である13に記載の電極シート。
15.前記ガラス固体電解質が、少なくとも硫化リチウム及び五硫化二リンを用いて製造されるガラス固体電解質である13又は14に記載の電極シート。
16.前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、60:40〜85:15である15に記載の電極シート。
17.リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質、電極材、及び無機繊維からなる支持体を含み、
前記ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である電極シート。
18.前記ガラスセラミックス固体電解質が、リチウム元素(Li)、硫黄元素(S)及び燐元素(P)を含むガラスセラミックス固体電解質である13に記載の電極シート。
19.前記ガラスセラミックス固体電解質が、少なくとも硫化リチウム及び五硫化二リンを用いて製造されるガラスセラミックス固体電解質である17又は18に記載の電極シート。
20.前記硫化リチウムと前記五硫化二リンのモル比が、60:40〜85:15である19に記載の電極シート。
21.前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミックス繊維及び金属繊維、炭素繊維から選択される1以上である13〜20のいずれかに記載の電極シート。
22.前記支持体が、ガラス繊維、セラミックス繊維及び金属繊維、炭素繊維から選択される1以上の繊維で形成される織布若しくは不織布、金属発泡体、又はこれらの複合体である13〜21に記載の電極シート。
23.前記支持体の空隙率が、80〜99%である13〜22のいずれかに記載の電極シート。
24.1〜10及び12に記載の固体電解質シート、並びに13〜23に記載の電極シートから選択される1以上を備える全固体二次電池。
25.1〜10及び12に記載の固体電解質シート、並びに13〜23に記載の電極シートのいずれか1以上を1MPa〜100MPaで加圧する工程を含む全固体二次電池の製造方法。
26.150〜360℃の範囲の温度で熱処理する工程を含む25に記載の全固体二次電池の製造方法。
27.5〜8のいずれかに記載の固体電解質シートと、17〜20のいずれかに記載の電極シートを貼り合わせ、得られた積層体を1MPa〜100MPaで加圧する工程を含む全固体二次電池の製造方法。
28.1〜4のいずれかに記載の固体電解質シートと、13〜16のいずれかに記載の電極シートを貼り合わせ積層体を製造する工程、
前記積層体を1MPa〜100MPaで加圧する工程、及び
前記加圧した積層体を150〜360℃の温度範囲で熱処理する工程
を含む全固体二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大面積を有する自立した固体電解質シートが提供できる。
本発明によれば、製造が容易で、連続プロセス及び大量生産が適用可能な固体電解質シートが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で製造した電池の概略断面図である。
図2】実施例1で製造した固体電解質シートの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[固体電解質シート]
本発明の第1の固体電解質シートは、リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体を含む。
第1の固体電解質シートは、支持体を含むことで自立した固体電解質シートであり、大面積化が可能である。
【0015】
本発明の第2の固体電解質シートは、リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質と、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体を含み、ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している固体電解質である。融着とは、粒子状の固体電解質の一部が溶解し、溶解した部分が他の固体電解質と一体化することを意味する。
第2の固体電解質シートは、支持体を含むことで自立した固体電解質シートであり、大面積化が可能である。また、固体電解質が、結晶化しているガラスセラミックス固体電解質であることで、高いイオン伝導度を示すことができる。
【0016】
第1の固体電解質シート及び第2の固体電解質シートの厚さは、それぞれ好ましくは1μm以上300μm以下であり、より好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0017】
第1の固体電解質シート及び第2の固体電解質シートは、第1の固体電解質シートでは、イオン伝導媒体がガラス固体電解質であるのに対し、第2の固体電解質シートでは、イオン伝導媒体が互いに融着したガラスセラミックス固体電解質粒子からなる固体電解質である点で異なるが、支持体及び固体電解質の組成は共通する。
以下、第1の固体電解質シート及び第2の固体電解質シート(以下、これらをまとめて単に本発明の固体電解質シートという場合がある)の構成部材について説明する。
【0018】
(1)電子絶縁性の無機繊維からなる支持体
本発明の固体電解質シートの支持体として電子絶縁性の無機繊維を用いることで、導電率の低下を抑制しつつ、シートを自立化させることができる。
電子絶縁性の無機繊維としては、例えばガラス繊維及びセラミックス繊維が挙げられる。ガラス繊維のガラスの具体例としては、ソーダ石灰ガラス、シリカ(クリスタル)ガラス、ホウケイ酸ガラス、カリガラスが挙げられる。また、セラミックス繊維のセラミックスの具体例としては、アルミニウム酸化物、カルシウム酸化物、マグネシウム酸化物、セメント、石綿、ロックウール、その他の電子絶縁性の鉱物等が挙げられる。
固体電解質シートを構成する電子絶縁性の無機繊維は、上記の単体、又は2種以上の複合体のいずれでもよい。
【0019】
無機繊維からなる支持体を自立化したシートとするため、支持体は繊維同士を接着させる結着剤が含まれていてもよい。結着剤は、後述の結着剤のほかにも、PVA、塩ビ系結着剤等の一般的な結着剤でもよい。一般的な無機不織布は、例えば40重量%以下、15重量%以下、10重量%以下の結着剤を含む場合がある。
【0020】
電子絶縁性の無機繊維の断面形状は、どのような形状であってもよいが、好ましくは円形、楕円形、四角形、三角形等である。また、無機繊維の繊維表面には、凹凸があってもよい。
電子絶縁性の無機繊維の繊維直径又は断面の最大長は、好ましくは0.5μm〜200μmであり、より好ましくは1μm〜50μmである。
【0021】
電子絶縁性の無機繊維からなる支持体は、好ましくは不織布の形態又は織布の形態で自立したシート状である。この場合のシートの厚さは、好ましくは1〜500μmであり、より好ましくは5〜50μmである。
電子絶縁性の無機繊維からなる支持体の空隙率は、好ましくは80〜99%であり、より好ましくは85〜98%である。
【0022】
支持体の空隙率は、以下のように求めることができる。
空隙率[%]=(1−(支持体の見かけの密度[g/cm])/(支持体材料の真密度[g/cm])×100
尚、支持体の見かけの密度は、以下のように求めることができる。
支持体の見かけの密度[g/cm]=支持体の重さ[g]/(支持体の体積=面積×厚さ[cm])
また、支持体材料の真密度は、その材料の空隙がゼロの時の密度を用いればよい。
【0023】
本発明の固体電解質シートにおいて、支持体と固体電解質は、体積比で30:70〜0.5:99.5%が好ましく、より好ましくは20:85〜1:99%である。
尚、上記体積比で、(1−空隙率):(空隙率)となることが理想的であるが、加圧や加熱等の処理や支持体と固体電解質の仕込み比率により変化することがある。
【0024】
(2)リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質
第1の固体電解質シートが含むリチウム元素及び硫黄元素を含むガラス固体電解質(以下、単にガラス固体電解質という場合がある)は、イオン伝導度を有する物質であって、常温(例えば25℃)下で固体の物質である。
尚、ガラス固体電解質は、結晶相を含まない固体電解質である。結晶相の有無は、X線回折測定で確認することができ、測定によりピークが観測されない固体電解質は、結晶相を含まない固体電解質である。
【0025】
ガラス固体電解質は、硫黄とリチウムとリンを構成元素として含むことが好ましい。
また、ガラス固体電解質は、B、Si、Ge及びAlからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含んでいてもよい
【0026】
ガラス固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)及び五硫化二燐(P);硫化リチウム、単体燐及び単体硫黄;又は硫化リチウム、五硫化二燐、単体燐及び/又は単体硫黄を原材料として製造することができる。
【0027】
ガラス固体電解質を、硫化リチウムと、五硫化二燐から製造する場合、混合モル比は、通常50:50〜85:15、好ましくは60:40〜85:15、より好ましくは65:35〜77:23である。特に好ましくは、LiS:P=68:32〜73:27(モル比)程度である。
【0028】
上記材料の混合物を溶融反応した後、急冷する、又はメカニカルミリング法(以下、MM法という場合がある)により処理することにより、ガラス固体電解質が得られる。得られたガラス固体電解質をさらに熱処理すると、結晶性固体電解質である後述するガラスセラミックス固体電解質が得られる。
【0029】
ガラス固体電解質粒子の粒径は、0.01μm以上50μm以下であることが好ましい。
0.01μm未満であるとハンドリングが困難になるおそれがある。50μmより大きいと活物質との接触面積が小さくなり、イオン伝導性が低くなるおそれがある。ガラス固体電解質粒子の粒径は、より好ましくは0.05以上20μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上100μm以下であり、特に好ましくは0.1μm以上50μm以下である。
上記粒径はレーザー回折式粒度分布測定方法によって求めることができる。
【0030】
レーザー回折式粒度分布測定方法は、組成物を乾燥せずに粒度分布を測定することができ、具体的には、組成物中の粒子群にレーザーを照射してその散乱光を解析して粒度分布を測定する。
尚、本発明では、固体電解質は乾燥した状態で測定している。
具体的な測定方法は以下の通りである。測定装置として、例えばMalvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000を用いることができる。
【0031】
まず、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。上記混合物を十分混合した後、固体電解質を添加して粒子径を測定する。
ここで、固体電解質の添加量は、上記装置で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するレーザー散乱強度が規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることができなくなる恐れがある。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定ができない恐れがある。
上記装置では、固体電解質の添加量に基づきレーザー散乱強度が表示されるので、上記レーザー散乱強度範囲に入る添加量を見つける。
【0032】
(3)リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質
第2の固体電解質シートが含むリチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質(以下、単にガラスセラミックス固体電解質という場合がある)は、結晶相を含む固体電解質である。ここで、含まれる結晶構造は、Li11構造体であることが好ましい。
結晶相の有無は、X線回折測定で確認することができ、測定によりピークが観測される固体電解質は、結晶相を含む固体電解質である。例えばLi11構造体の結晶構造は、X線回折測定すると、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測される。
【0033】
第2の固体電解質シートのガラスセラミックス固体電解質は、固体電解質粒子が互いに融着している。固体電解質粒子が互いに融着していることで、広範囲のイオン伝導パスを形成することができる。
尚、固体電解質粒子が融着していることは、第2の固体電解質シートを光学顕微鏡を用いて観察し、固体電解質粒子同士の界面の境目が観察できないことにより確認できる。
【0034】
(4)その他
固体電解質シートは、さらに結着剤を含んでいてもよい。
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)などの耐熱樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0035】
固体電解質シートが結着剤を含む場合において、固体電解質シートにおける固体電解質と結着剤の配合比は、好ましくは固体電解質:結着剤=90.0:10.0〜99.9:0.1[重量%]であり、より好ましくは固体電解質:結着剤=99.0:1.0〜99.9:0.1である。
シートの柔軟性付与効果の面からは、結着剤の配合量は、0.1重量%以上が好ましい。
【0036】
[固体電解質シートの製造方法]
固体電解質シートの製造方法は、特に問わないが、支持体に固体電解質粉末が均一に配置されるようにできればよい。また、できる限り空隙のない状態とするのが好ましい。
第1の固体電解質シートは、支持体にガラス固体電解質粉末を塗布又は充填し、得られた積層体又は複合体を加圧することで支持体にガラス固体電解質粉末が充填されたシートとして得られる。また、第2の固体電解質シートは、得られた第1の固体電解質シートをさらに熱処理することで得られる。
尚、支持体である織布又は不織布に、固体電解質粉末を充填する前に固体電解質を結晶化させてしまうと、充填後に熱処理をしても固体電解質同士が融着せず、第2の固体電解質シートは得られない。
【0037】
例えば、アルミニウム箔上に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを配置し、その上に固体電解質粉末を均一にスプレー塗布又は静電塗布し、その上に支持体を置き、さらにその上に固体電解質を均一にスプレー塗布又は静電塗布し、PTFEシートを配置し、アルミニウム箔を置き、固体電解質で支持体を挟むようにして、これを加熱し、プレスすることで、空隙のない固体電解質シートを得ることができる。支持体の表面だけに塗布するだけではなく、支持体の空隙を埋めるように、固体電解質粉末が充填されるようにすることが好ましい。
尚、アルミニウム箔に替えて、別の素材のシート(箔)を用いてもよい。その場合、硫化され難く、空気中の水分を通しに難くく、かつ、340℃の温度でも変質し難い素材で特性を有する素材であることが好ましい。
また、PTFEシートに替えて、別の素材のシート(箔)を用いてもよい。その場合、硫化され難く、固体電解質シートから剥離しやすく、かつ、340℃の温度でも変質し難い素材であることが好ましい。
加えて、上記の機能を併せ持つ素材であれば、1枚のシート(箔)で挟むことでもでき得る。
【0038】
固体電解質粉末の塗布は、上記スプレー塗布及び静電塗布の他に、固体電解質を溶媒に分散させてスラリー状にとしたものを、支持体に塗布してもよい。固体電解質スラリーを塗布・乾燥することで、支持体に均一に固体電解質を配置し、空隙のない電解質シートを得ることができる。
使用する溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒がこのましく、水分含有量が少ない、好ましくは10ppm以下に、特に好ましくは、1ppm以下のものである。
結着剤を用いる場合には、スラリーには、結着剤を分散させるのが好ましい。また、乾燥と同時に、又は乾燥後、加熱・圧縮し、支持体との密着性を向上させるのがよい。
【0039】
使用する固体電解質は、ガラス又はガラスとガラスセラミックスの混合物が好ましい。
プレス成形する場合、用いる結着剤他により異なるが、加熱圧縮、双方向ローラーによるロール圧縮、又はそれらの組合せ等の方法を用いることができる。
加圧は、プレス機による方法、及び2つのロール間を通すロールプレス方法等が挙げられる。圧力は、通常0.01〜200MPa、好ましくは、1〜150MPa、特に好ましくは、5〜100MPaの範囲がよい。加圧により固体電解質シートは、通常、厚密化され、形状を保持しやすくなる。
【0040】
加熱温度は、好ましくは、ガラス固体電解質のガラス転移温度(Tg)以上、ガラス固体電解質の結晶化温度(Tc)+100℃以下であることが好ましい。加熱温度がガラス固体電解質のTg未満の場合、製造時間が非常に長くなるおそれがある。一方、(Tc+100℃)を超えると、得られる結晶成分を有する固体電解質中に不純物等が含まれる場合があり、イオン伝導度が低下するおそれがある。
【0041】
加熱温度は、より好ましくは、(Tg+5℃)以上、(Tc+90℃)以下、さらに好
ましくは、(Tg+10℃)以上、(Tc+80℃)以下である。
例えばリチウム及び硫黄を含むガラス固体電解質であれば、加熱温度は、150℃以上360℃以下であり、好ましくは160℃以上350℃以下であり、より好ましくは180℃以上310℃以下であり、さらに好ましくは180℃以上290℃以下であり、特に好ましくは190℃以上270℃以下である。
【0042】
ガラス固体電解質の結晶化温度は、示差熱−熱重量測定等で特定することができ、例えば熱重量測定装置(メトラートレド社製TGA/DSC1)を使用し、ガラス固体電解質約20mgを、昇温速度10℃/分で加熱することにより測定することで特定できる。
尚、結晶化温度等は昇温速度等により変化することあり、熱処理する昇温速度に近い速度での測定でのTcを基準に選ぶ必要がある。従って、実施例以外の昇温速度で処理する場合は、最適な熱処理温度は変化するが、熱処理する昇温速度で測定されたTcを基準として上記条件にて熱処理することが望ましい。
【0043】
加熱時間は、0.005分以上、10時間以下が好ましい。さらに好ましくは、0.005分以上、5時間以下であり、特に好ましくは、0.01分以上、3時間以下である。0.005分未満だと電解質にガラス成分が多く含まれることになり、イオン伝導度が低くなるおそれがある。10時間を越えると、固体電解質中に不純物等が発生する場合があり、イオン伝導度が低下するおそれがある。
【0044】
[電極シート]
本発明の第1の電極シートは、リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラス固体電解質と、電極材と、無機繊維からなる支持体を含む。
第1の電極シートは、支持体を含むことで自立した電極シートであり、大面積化が可能である。
【0045】
本発明の第2の電極シートは、リチウム元素(Li)及び硫黄元素(S)を含むガラスセラミックス固体電解質と、電極材と、無機繊維からなる支持体を含み、ガラスセラミックス固体電解質が、ガラスセラミックス固体電解質粒子が互いに融着している電解質である。
第2の電極シートは、支持体を含むことで自立した電極シートであり、大面積化が可能である。また、固体電解質が、結晶化しているガラスセラミックス固体電解質であることで、高いイオン伝導度を示すことができる。
【0046】
第1の電極シート及び第2の電極シート(以下、これらをまとめて単に本発明の電極シートという場合がある)の厚みは、それぞれ好ましくは1μm以上300μm以下であり、より好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0047】
第1の電極シート及び第2の電極シートは、第1の電極シートでは、イオン伝導媒体がガラス固体電解質であるのに対し、第2の電極シートでは、イオン伝導媒体が互いに融着したガラスセラミックス固体電解質粒子である点で異なるが、支持体及び固体電解質の組成は共通する。
尚、本発明の固体電解質シートの支持体が、電子絶縁性の無機繊維からなる支持体であるのに対し、第1の電極シート及び第2の電極シートの支持体は、無機繊維からなればよく、電子絶縁性の無機繊維に限定されない点で異なる。その他、電極シートが含む固体電解質等は、固体電解質シートと同様である。
また、電極シートは、さらに導電助剤及び/又は結着剤を含んでいてもよい。
以下、本発明の電極シートが含み、本発明の固体電解質シートが含まない電極材、並びに無機繊維からなる支持体について説明する。
【0048】
(1)無機繊維からなる支持体
無機繊維としては、ガラス繊維、セラミックス繊維、金属繊維、及びカーボン繊維が挙げられる。
ガラス繊維及びセラミックス繊維は、電子導電性を有するガラス及びセラミックスであってもよい。従って、ソーダ石灰ガラス、シリカ(クリスタル)ガラス、ホウケイ酸ガラス、カリガラス、アルミナ、カルシア、マグネシア、セメント、石綿、ロックウール、その他電子絶縁性の鉱物からなる繊維だけでなく、チタニア等の電子導電性を有するセラミックの繊維も使用できる。
【0049】
炭素繊維からなる支持体を使用することができる。炭素繊維は、例えばポリアクリロニトリル、ピッチ等を高温で炭化させた繊維である。この炭素繊維を不織布又は織布にしてシート化し、支持体として用いることができる。
【0050】
電子絶縁性の無機繊維であっても、その繊維の表面に、真空蒸着、スパッタ成膜、メッキ等の手法を用いて、金属、炭素等の電子導電性の被膜を形成して電子導電性を付与し、電子導電性無機繊維として使用することもできる。
電子導電性を有する支持体を用いることで、電極の導電性を高める効果が期待できる。
【0051】
電極シートが負極シートである場合、支持体を構成する金属繊維は、340℃以下の加熱時に硫化され難く、かつ負極電位でもLiと合金化し難い金属が好ましく、Ti、ステンレス鋼が好適である。また、加熱時に硫化するCu、Ni等であっても、表面を硫化し難い材料でコートすれば負極用の金属に使用することが可能である。
電極シートが正極シートである場合、支持体を構成する金属繊維は、340℃以下の加熱時に硫化され難く、かつ正極電位でも酸化され難い金属が好ましく、Au、Pt、Al、Ti、ステンレス鋼が好適であり、入手容易性からAl、Ti、ステンレス鋼がより好ましい。
【0052】
無機繊維からなる支持体は、好ましくは不織布の形態又は織布の形態で自立したシート状である。また、無機繊維が金属繊維である場合は、さらに金属発泡体の形態であってもよい。
これら場合の支持体の厚さは、好ましくは1〜500μmであり、より好ましくは5〜50μmである。また、無機繊維からなる支持体の空隙率は、好ましくは80〜99%であり、より好ましくは85〜98%である。
【0053】
(2)電極材
電極材は、正極活物質と負極活物質を含む。
電極シートが電極材として正極活物質を含む場合、当該シートは正極シートとして機能できる。同様に、電極シートが電極材として負極活物質を含む場合、当該シートは負極シートとして機能できる。
【0054】
負極活物質としては、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質、電池分野において負極活物質として公知のものが使用できる。また、本発明で使用する負極活物質は、公知の負極活物質だけでなく、将来開発される負極活物質であってもよく、購入可能なものも使用することができることは言うまでもない。
例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等が挙げられる。又はその混合物でもよい。好ましくは、人造黒鉛である。
また、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属スズ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を、負極活物質として用いることができる。中でも、高い理論容量を有するケイ素、スズ、リチウム金属が好ましい。
特に、ケイ素と酸素の両元素を構成元素に含む負極活物質(酸化ケイ素)が、高い容量と良好なサイクル特性を有するものとして好ましい。
【0055】
正極活物質としては、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質、電池分野において正極活物質として公知のものが使用できる。また、本発明で使用する正極活物質は、公知の正極活物質だけでなく、将来開発される正極活物質であってもよく、購入可能なものも使用することができることは言うまでもない。
例えば、V、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(ここで、0<a<1、0<b<1、0<c<1、a+b+c=1)、LiNi1−YCo、LiCo1−YMn、LiNi1−YMn(ここで、0≦Y<1)、Li(NiCoMn)O(0<a<2、0<b<2、0<c<2、a+b+c=2)、LiMn2−ZNi、LiMn2−ZCo(ここで、0<Z<2)、LiMPO(ここで、M=Co、Mn、Fe)、LiMSiO(ここで、M=Co、Mn、Fe)、LiMBO(ここで、M=Co、Mn、Fe)、硫黄、有機硫黄系化合物が挙げられる。
【0056】
負極活物質と固体電解質の配合割合は、負極活物質:固体電解質=50重量%:50重量%〜90重量%:10重量%が好ましく、負極活物質:固体電解質=55重量%:45重量%〜80重量%:20重量%がより好ましく、負極活物質:固体電解質=60重量%:40重量%〜75重量%:25重量%がさらに好ましい。
正極活物質と固体電解質の配合割合は、正極活物質:固体電解質=50重量%:50重量%〜90重量%:10重量%が好ましく、正極活物質:固体電解質=60重量%:40重量%〜80重量%:20重量%がより好ましく、正極活物質:固体電解質=65重量%:35重量%〜75重量%:25重量%がさらに好ましい。
【0057】
(3)その他
電極シートは、さらに結着剤及び/又は導電助剤を含むことができる。
導電助剤としては、炭素材料、金属粉末及び金属化合物から選択される物質や、これらの混合物が挙げられる。
導電助剤の具体例としては、好ましくは炭素、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つの元素を含む物質であり、より好ましくは炭素単体、炭素、ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。
特に導電助剤の炭素材料の具体例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等、カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維(VGCF)、グラフェンが挙げられる。これらは単独でも2種以上でも併用可能である。
上記の導電助剤のなかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラック、デンカブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維(VGCF)、グラフェンが好適である。
【0058】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質シート及び本発明の電極シートから選択される1以上を備える全固体二次電池である。
従って、本発明の全固体二次電池は、(i)本発明の固体電解質シートのみを備える全固体電池、(ii)本発明の電極シートのみを備える全固体電池、並びに(iii)本発明の固体電解質シート及び本発明の電極シートの両方を備える全固体電池を含む。
上記の(i)、(ii)及び(iii)の全固体電池について、本発明の固体電解質シート及び電極シート以外の部材については、電池分野において公知の部材を使用することができる。
【0059】
(i)の場合において、負極層は、好ましくは下記式(1)で表わされる負極活物質、ポリイミドバインダ及び/又は上述の導電助剤を含む負極層である。
LiSiO …(1)
(X:0以上5以下の数、yは0以上1.6以下の数である。)
ポリイミドバインダとしては、一般的に販売されるポリイミド前駆体を使用すればよく、カプトン等の膜を製造するためのポリイミドを使用するよりも、カーボン繊維複合体等に使用される3次元的に架橋するタイプのポリイミドを使用することが、負極のサイクル劣化を抑えることができ、より好ましい。
LiSiO、カーボン導電助剤及びポリイミドバインダからなる負極層、又はLiSiO、カーボン導電助剤、支持体及びポリイミドバインダからなる負極層が好ましい。
【0060】
式(1)で表わされる負極活物質は、本発明の電極シートの電極材としても有用であり、例えば(iii)の場合、負極層がLiSiO、カーボン導電助剤、支持体、固体電解質及びポリイミドバインダからなる負極層であると好ましい。
【0061】
(ii)の場合において、固体電解質層は、好ましくは硫化物系固体電解質からなる層が好ましい。当該硫化物系固体電解質は、形状が粒子であっても粒子でなくてもよい点を除いて本発明の電解質シート及び電極シートに用いる固体電解質と同様である。
【0062】
集電体は、公知の集電体を用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、ステンレス鋼、炭素繊維シートや、Cu、Ni等のように硫化物系固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【0063】
[全固体二次電池の製造方法]
本発明の全固体二次電池は、本発明の固体電解質シート及び本発明の電極シートのいずれか1以上含む積層体を、例えば1MPa〜100MPaで加圧することで製造できる。積層体に付加する圧力は、好ましくは25MPa〜50MPaである。
全固体二次電池の製造において、例えば本発明の固体電解質シートだけを用い、本発明の電極シートを使用しない場合、正極シート及び負極シートは、公知のシートを使用することができる。
【0064】
全固体二次電池の製造に使用する本発明の固体電解質シート及び電極シートが、ガラス固体電解質を含むシート(第1の固体電解質シート及び第1の電極シート)である場合、得られた積層体を例えば150〜360℃の温度範囲で熱処理することで、シート中のガラス固体電解質をガラスセラミックス固体電解質とすることができる。
好ましい熱処理温度は、270〜340℃である。
【0065】
本発明の全固体電池の製造方法は、好ましくは本発明の第1の固体電解質シートと、本発明の第1の電極シートを貼り合わせて積層体とし、得られた積層体を1MPa〜100MPaで加圧し、加圧した積層体を150〜360℃の温度範囲で熱処理することにより全固体電池を製造する。または、本発明の第1の固体電解質シートと、本発明の第2の電極シートを貼り合わせて積層体、または、本発明の第2の固体電解質シートと、本発明の第1の電極シートを貼り合わせて積層体を用いることもできる。
固体電解質シート及び電極シートを共にガラス固体電解質を含むシートを用いることで、加熱時に固体電解質シートと電極シートの界面での融着が起こるため該界面がより強固に密着され、界面抵抗が低下することでイオン導電性がより向上し、最終的に電池とした時の、入出力特性等の性能が向上する。また、充放電に伴う電極の膨張収縮時にも界面が剥がれ難く、さらに、携帯機器や車載用の電池では使用時の振動で界面が剥離して電池が劣化することを抑える効果が増す。また、熱処理工程が1回で済み、製造工程を短縮することができる。
【0066】
本発明の全固体電池の製造方法は、好ましくは本発明の第2の固体電解質シートと、本発明の第2の電極シートを貼り合わせて積層体とし、得られた積層体を1MPa〜100MPaで加圧して全固体電池を製造する。
固体電解質シート及び電極シートを共にガラスセラミックス固体電解質を含むシートを用いることで熱処理工程を省略でき、製造工程を短縮することができる。
【実施例】
【0067】
製造例1(高純度硫化リチウムの製造)
高純度硫化リチウムの製造は、国際公開公報WO2005/040039A1の実施例と同様に行った。具体的には、下記のように行った。
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
続いて、この反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0068】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0069】
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0070】
製造例2(固体電解質ガラスの製造)
製造例1で製造した高純度硫化リチウムを用いて、国際公開公報WO07/066539の実施例1と同様の方法で固体電解質の製造及び結晶化を行った。
具体的には、下記のように行った。
製造例1で製造した高純度硫化リチウム0.6508g(0.01417mol)と五硫化二燐(アルドリッチ社製)を1.3492g(0.00607mol)をよく混合した。そして、この混合した粉末と直径10mmのジルコニア製ボール10ケと遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)アルミナ製ポットに投入し完全密閉するとともにこのアルミナ製ポット内に窒素を充填し、窒素雰囲気にした。
そして、はじめの数分間は、遊星型ボールミルの回転を低速回転(85rpm)にして硫化リチウムと五硫化二燐を十分混合した。その後、徐々に遊星型ボールミルの回転数を上げ370rpmまで回転数を上げた。遊星型ボールミルの回転数を370rpmで20時間メカニカルミリングを行い、白黄色の粉体である硫化物ガラスを得た。
【0071】
メカニカルミリング処理して得られた白黄色の粉体のガラス化(硫化物ガラス)は、X線測定により確認した。この硫化物ガラスのガラス転移温度をDSC(示差走査熱量測定)により測定したところ、220℃であった。また、得られた硫化物ガラスの導電率は、9.8×10−5S/cmであった。
【0072】
実施例1
[固体電解質シートの製造]
Al箔(厚さ50μm)上にPTFEシート(ニチアス製ナフロンテープ、厚さ0.5mm)を敷き、製造例2で得られた硫化物ガラス10g、支持体としてガラス不織布(オリベスト製ガラス不織布ペーパーSAS−030、厚さ231μm、坪量29.6g/m、密度0.130g/cm、ガラス繊維:9μm径×13mm)、製造例2で得られた硫化物ガラス10gの順に配置して、硫化物ガラスが支持体に均一になるようにし、その上にPTFEシート、Al箔を載せた。
この積層体を、ホットプレス装置(テスター産業製SA−401)にて、1トン、270℃、10minの条件でプレス加熱した。加熱・加圧処理後、Al箔とPTFEシートを剥がし、厚み300μmの電解質シートを得た。得られた電解質シートを直径12.0mmに打ち抜き、円形シート形状に整えた。
得られたシートの断面を、光学顕微鏡を用いて観察した。シートの断面写真を図2に示す。このシートの断面において、複数の粒子同士が融着しており、空隙が少ない成形体であることが確認された。また、得られた電解質シートは、曲げてもクラックが発生することがなく、打ち抜いても周辺部の割れもなかった。
【0073】
[電池の製造及び評価]
(1)負極活物質(SiO粉末)の合成
SiO粉末(高純度化学製、平均粒径1μm、アモルファス状態)7.51gとSi粉末(高純度化学製、平均粒径5μm)3.51gを直径4mmのジルコニア製ボールとともにジルコニア製ポットに入れ、アルゴン雰囲気に満たされたグローブボックス中で蓋を閉めた。高エネルギー型遊星ボールミル装置(栗本鐵工所製)を用いて重力加速度150Gで10時間メカニカルアロイング処理を施すことにより、SiO粉末を合成した。
得られたSiO粉末の平均粒径は5μmであり、Si/Oのモル比は0.9〜1.1の範囲内である。
【0074】
(2)負極の製造(負極塗工法による負極の製造)
(1)で合成したSiO粉末8.0gと、導電助剤であるケッチェンブラック(KB)0.5gと、結着剤であるポリイミド(PI)前駆体(LV−042、東レ製)1.5g(固形分換算)を、粘度調整用の溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を混ぜながら混合・混練して電極スラリーを得た。
この電極スラリーを厚さ10μmのSUS304素材性ステンレス鋼箔上へドクターブレードを用いて塗工し、大気中80℃で10分仮乾燥後、減圧下200℃で5時間乾燥させるとともに、ポリイミド前駆体をイミド化させてポリイミドにした。これを室温まで冷却したのち、φ9mmの円形に打ち抜き、負極を製造した。得られた負極一枚あたりに含まれるSiOの重量は0.75mgであった
【0075】
(3)電池の製造
得られた負極と電解質シートとを、これらの負極層と固体電解質が接触する向きに重ねあわせて卓上ハンドプレス機を用いて20MPaでプレス処理した後、厚さ0.5mmのLi−In合金箔(Li/Inの重量比は4)を、直径9mmの円形に打ち抜いたものを、負極と反対側に貼り付けて対極とし、負極層/固体電解質層/Li−In合金層の三層構造である電池ペレットとした。
【0076】
得られた電池ペレットを使用して、図1に示す概略断面図を有するコイン型リチウム二次電池(2032型コインセル)を作製した。
図1のコイン型リチウム二次電池1は、金属製ケース3及び金属製封口板4の間に、電池素子2を嵌め込んだ形態を有する。電池素子2は、金属ケース3側から集電体211、正極(又は対極)21、固体電解質層22、負極23、集電体231、金属平板(スペーサ)232をこの順に積層した構造であり、正極(又は対極)21、固体電解質層22、負極23が、それぞれ上述した電池ペレットのLi−In合金層、固体電解質層、負極層に相当する。
ポリプロピレン(PP)製のガスケット5を用いた。また、金属平板232には0.5mmのSUS板を2枚用いた。ばね6は、皿ばねを適用した。この皿ばね及び0.5mmのスペーサ2枚を適用した場合のコイン電池内部の圧力は、10MPaであった。
尚、コイン電池内部の圧力は、感圧紙を用いることにより、固体電解質のほぼ中心部分を測定した。
【0077】
得られたリチウム二次電池について、以下に示す条件で充放電試験を実施し、評価した。
その結果、0.05Cの電流で、初期充電容量(Li吸蔵側)2246mAh/g、2nd放電(Li放出側)1269mAh/gの容量を得ることができた。また、電流を0.02Cにしたところ、1453mAh/gの高い放電容量が得られ、電流値0.2Cでも969mAh/gが得られた。
充放電試験の条件は、以下の通りである:
電圧範囲:1.0〜0.0V vs.Li/Li
電流 :0.05C、0.02C、0.2C
試験温度:80℃
【0078】
実施例2
負極シートと電解質シートのプレス処理をしなかった他は実施例1と同様にして、電池を製造し、評価した。尚、得られた3層構造の電池ペレットには凹凸が見られた。
試験結果は、0.05Cの電流で、初期充電容量(Li吸蔵側)979mAh/g、2nd放電(Li放出側)593mAh/gの容量を得ることができた。
【0079】
実施例3
支持体として、ガラス繊維不織布の代わりに、ガラス不織布ペーパー(GMC−00−10E、厚さ51μm、坪量9.5g/m、密度0.19g/cm、王子特殊紙製)を用いて固体電解質シートを製造した他は実施例2と同様にして固体電解質シート及び電池を製造し、評価した。
尚、得られた固体電解質シートの厚みは73μmであり、得られた3層構造の電池ペレットには凹凸が見られた。
試験結果は、0.05Cの電流で、初期充電容量(Li吸蔵側)415mAh/g、2nd放電(Li放出側)170mAh/gの容量を得ることができた。
【0080】
実施例4
(1)正極シートの製造(ガラス繊維支持体を用いた正極シートの製造)
エタノール:187mL、リチウムエトキシド(LiOC):9.31g、チタンイソプロポキシド(Ti(O−i−C):63.30gの混合液であるLiTi12前駆体液を、転動流動コーティング装置(マルチプレックス MP−01、パウレック製)を用いて、2g/min.の速度でLi(Ni0.8Co0.15Al0.05)O粉末に噴霧した。その後、LiTi12前駆体液で表面をコーティングしたLi(Ni0.8Co0.15Al0.05)O粉末を、空気中400℃で1時間加熱して、表面をLiTi12の被膜にした。これにより、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O粉末(平均粒径:5μm)の表面に、LiTi12を5nmの厚さで均一にコーティングした。
LiTi12のコーティング層は、後述するホットプレス処理で、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)Oと硫化物固体電解質の反応が出来るだけ起こらないようにする目的である。
【0081】
LiTi12コートLi(Ni0.8Co0.15Al0.05)Oとアセチレンブラック、VGCF(気相法炭素繊維)、製造例2で得られた硫化物ガラスを、70:3:2:30重量比となるように秤量・混合した。得られた混合粉末を、支持体となる、ガラス不織布ペーパー(GMC−00−10E、厚さ51μm、坪量9.5g/m、密度0.19g/cm、王子特殊紙製)の空隙に充填した。得られたガラス不織布ペーパー/混合粉末複合体を、PTFEシート(ニチアス製ナフロンテープ、厚さ0.5mm)で挟み、さらにその外側をAl箔(厚さ50μm)で挟んだ。
この積層体を、ホットプレス装置(テスター産業製SA−401)にて、1トン、270℃、10minの条件でプレス加熱した。加熱・加圧処理後、Al箔とPTFEシートを剥がし、厚み83μmの正極シートを得た。得られた正極シートを直径9.0mmに打ち抜き、円形シート形状に整え、正極シートを製造した。
【0082】
(2)負極シートの製造(ガラス繊維支持体を用いた負極シートの製造)
等しいモル量のSiとSiOだけでなく、さらに金属Li片を25重量%加えた他は、実施例1の(1)と同様にして、Li-SiO合金を製造した。Liを加えることで、SiOの有する初期不可逆容量を補償した。これによりLiを含有する正極と組み合わせて電池を作製した場合に、正極の持つLiをSiOの初期不可逆容量を補うために使って無駄にするようなことがなくなり、電池全体の電気容量を大きくすることができる。
得られたLi-SiO合金、アセチレンブラック、VGCF、及び製造例2で得られた硫化物ガラスを、50:3:2:50重量比となるように秤量・混合した。得られた混合粉末を、(1)の正極シートの製造と同様にしてガラス不織布ペーパーに充填し、ホットプレスしてシート化し、打ち抜いて直径9mmの負極シートを得た。得られた負極シートの厚みは、78μmであった。
【0083】
(3)固体電解質シートの製造
実施例3と同様にして固体電解質シートを製造した。
【0084】
(4)電池の製造
得られた正極シート、負極シート及び固体電解質シートを、正極シート及び負極シートの間に、固体電解質シートを挟む形で接触させ、卓上ハンドプレス機を用いて40MPaでプレス処理して、正極層/固体電解質層/負極層の三層構造である電池ペレットとした。
得られた電池ペレットを使用して、実施例1と同様のコイン型リチウム二次電池(2032型コインセル)を作製した。
【0085】
得られたリチウム二次電池について、以下に示す条件で充放電試験を実施し、評価した。
その結果、0.02Cの電流で、初期充電容量(正極のLi放出側)77.4mAh/g(正極活物質重量換算)、2nd放電(正極のLi吸蔵側)77.0mAh/g(正極活物質重量換算)の容量を得ることができた。
充放電試験の条件は、以下の通りである:
電圧範囲:4.4〜1.5V vs.Li/Li
電流 :0.02C
試験温度:80℃
【0086】
比較例1
支持体として、ガラス繊維不織布の代わりにPETメッシュ(厚さ250μm、繊維径30μm、開口率75%)を用いた他は、実施例1と同様にして固体電解質シートを製造した。
尚、固体電解質シート製造の際、支持体の収縮が見られたものの、シート状の固体電解質シートは得られた。得られたシートを直径12.0mmに打ち抜き、円形シート形状に整えて用いた。
【0087】
比較例2
製造例2で得られた硫化物ガラス10gとポリプロピレン粉末(粒径5μm)1gを混合したものに、ヘキサン10mLを加えて混合し、スラリーを得た。該スラリーを厚さ20μmのステンレス鋼箔上にドクターブレードを用いて均一に塗布したのち、乾燥空気中70℃でヘキサンを蒸発させ除去した。残った硫化物ガラスとポリプロピレンの混合膜の両面を、実施例1と同様に、PTFEシート及びAl箔で挟んで、得られた積層体を、ホットプレス装置にて、1トン、270℃、10minの条件でプレス加熱した。
加熱・加圧処理後、Al箔とPTFEシートを剥がし、得られた固体電解質シートを直径12.0mmに打ち抜き、円形シート形状に整えた。
【0088】
製造例2で得られた硫化物ガラスを270℃で加熱し結晶化した70LiS・30Pガラスセラミックス固体電解質、実施例1及び比較例1−2の固体電解質シートの導電率をそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例1の固体電解質シートは、支持体を含むにも関わらず、ガラスセラミックス単体の導電率と比較して、90%程度の導電率を維持しているのに対して、比較例1及び比較例2の固体電解質シートでは、1/10以下まで低下している。
表1の結果より、本発明の固体電解質シートは、ほとんど導電率を低下させることなく、薄くて柔軟性を有する固体電解質シートであることが分かった。また、本発明の製造方法を用いれば、固体電解質シートの大型化が容易に実現でき得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の固体電解質シート及び本発明の電極シートから選択される1以上を備える全固体二次電池は、移動体通信機器、携帯用電子機器、電動自転車、電動二輪車、電気自動車、風力発電や太陽電池用の定置用蓄電池等の主電源に好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0092】
1 コイン型リチウム二次電池
2 電池素子
211 集電体
21 正極(対極)
22 固体電解質層
23 負極
231 集電体
232 金属平板
3 金属製ケース
4 金属製封口板
5 ガスケット
6 ばね
図1
図2