(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6232008
(24)【登録日】2017年10月27日
(45)【発行日】2017年11月15日
(54)【発明の名称】酸化抑制剤及びこれを用いた油脂含有飲食品
(51)【国際特許分類】
C09K 15/22 20060101AFI20171106BHJP
C11B 5/00 20060101ALI20171106BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20171106BHJP
A23L 3/3526 20060101ALI20171106BHJP
【FI】
C09K15/22
C11B5/00
A23D9/00
A23L3/3526
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-56511(P2015-56511)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-175983(P2016-175983A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年7月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113332
【弁理士】
【氏名又は名称】一入 章夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160037
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 真紀
(72)【発明者】
【氏名】宮下 和夫
(72)【発明者】
【氏名】塩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愛
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−147636(JP,A)
【文献】
国際公開第2001/042390(WO,A1)
【文献】
特開平5−320048(JP,A)
【文献】
特開平8−259988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K15/22、
A23D9/00、
A23L3/3526、
C11B5/00、
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴイド塩基構造を有する化合物のアミノ基とカルボニル化合物のカルボニル基とが結合した構造を有するアミノカルボニル化合物を有効成分とする酸化抑制剤。
【請求項2】
前記カルボニル化合物が、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、脂肪酸類から選択される化合物である、請求項1に記載の酸化抑制剤。
【請求項3】
前記カルボニル化合物が、プロパナール、プロペナール(アクロレイン)、2−/3−ヘキセナール、2−ペンテナール、2,4,7−デカトリエナール、2−ブテナール、2−ブチルフラン、アセトアルデヒド、4,5−エポキシ−2−ヘプタナール、ブタナール、オクタン酸メチル、9−オキソノナン酸メチル、3,6−ノナジエナール、2,4−ヘプタジエナール、ヘキサナール、2−ヘプテナール、ヘプタナール、ノナナール、ペンタナール、オクタナールよりなる群から選択される化合物である、請求項1に記載の酸化抑制剤。
【請求項4】
前記カルボニル化合物が、2−プロパノン、2−ブタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−オクテン−2−オンよりなる群から選択される化合物である、請求項1に記載の酸化抑制剤。
【請求項5】
前記カルボニル化合物が、10−オキソ−8−デセン酸メチル、ヘプタン酸メチル、10−オキソデカン酸メチル、ノナン酸メチル、8−オキソオクタン酸メチル、オクタン酸メチル、9−オキソノナン酸メチル、フランオクタン酸メチル、2,4−オクタジエン−2−オン、13−オキソ−9,11−トリデカンジエン酸メチル、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸よりなる群から選択される化合物である、請求項1に記載の酸化抑制剤。
【請求項6】
前記スフィンゴイド塩基構造を有する化合物が、ジヒドロスフィンゴシン、スフィンゴシン、N,N−ジメチルスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、4−スフィンゲニン、8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−8−スフィンゲニン、4,8−スフィンガジエニン、9−メチル−4,8−スフィンガジエニン、4,8,10−スフィンガトリエニン及び9−メチル−4,8,10−スフィンガトリエニンよりなる群から選択される化合物である、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の酸化抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の酸化抑制剤を配合してなる油脂。
【請求項8】
前記酸化抑制剤の配合量が1ppt以上である、請求項7に記載の油脂。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の油脂を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化抑制剤に関する。より詳しくは、スフィンゴイドとアルデヒド類等のカルボニル化合物とが結合した物質を有効成分とする酸化抑制剤及びそれを含有する油脂、及び該油脂を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品分野などにおいて、豚又は牛などの動物脂、魚油、植物油などの天然素材由来の油脂類が広く利用されている。
【0003】
油脂の構成成分である脂肪酸の中で、必須脂肪酸であるリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の二重結合を持つ不飽和脂肪酸は、生体内で種々の代謝を受け、プロスタグランジン等の化合物に変換されて、生体の恒常性や機能維持に重要な役割を果たしている。
【0004】
最近では、不飽和脂肪酸、特に二重結合を2個以上含む多価不飽和脂肪酸の研究が進み、n−3系又はn−6系の必須脂肪酸であるリノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の有効性が明らかにされてきている。これに伴って、これらの不飽和脂肪酸を含む油脂、例えば大豆油又はべに花油等の植物油、魚油又はこれらを含む食品が多数且つ大量に提供されるようになってきた。
【0005】
一方、不飽和脂肪酸には、空気中の酸素や溶液中に溶解している酸素によって酸化されることで、パーオキサイド等の好ましくない過酸化物が生成され易いという問題が指摘されている。特に、油脂若しくは油脂含有食品中に含まれる微量の鉄若しくは銅等の金属又はアスコルビン酸などによって又は光化学反応によって酸化反応が促進されてしまうことがある。そのため、窒素ガス置換などを行っても、酸化による油脂又は油脂含有食品の腐敗、着色、戻り臭の発生などの風味の劣化による品質低下を防ぐことは難しいとされている。
【0006】
一般には、食品成分の酸化という問題は、トコフェロールやソルビン酸、大豆リン脂質、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等の酸化抑制剤を添加することで、解決が図られる。しかし、不飽和脂肪酸の酸化を抑制するには、これらの通常の酸化抑制剤は多量に使用されなければならない。
【0007】
アミノ酸と糖質とのアミノカルボニル反応によって生成されるアミノカルボニル化合物も、自動酸化や熱酸化などの酸化反応の抑制に効果的であることが知られている。しかし、かかるアミノカルボニル化合物は一般的には極性が高く親水性であるため、油脂の酸化抑制剤としては適切であるとは言えない。
【0008】
特許文献1は、ジヒドロキシスフィンゴシンを有効成分とする油脂の酸化抑制剤を開示している。しかし、かかる酸化抑制剤の有効性を十分に発揮させるにはジヒドロキシスフィンゴシンとα‐トコフェロールとの共存が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−147636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、強力な酸化抑制作用を有し、不飽和脂肪酸特に多価不飽和脂肪酸の酸化を防止することのできる、新規な酸化抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、スフィンゴイドのアミノ基とカルボニル化合物のカルボニル基とが結合して生成するアミノカルボニル化合物が非常に強い酸化抑制作用を有することを見出し、以下の本発明を完成させた。
【0012】
(1)スフィンゴイド塩基構造を有する化合物のアミノ基とカルボニル化合物のカルボニル基とが結合した構造を有するアミノカルボニル化合物を有効成分とする酸化抑制剤。
(2)カルボニル化合物が、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、脂肪酸類から選択される化合物である、(1)に記載の酸化抑制剤。
(3)カルボニル化合物が、プロパナール、プロペナール(アクロレイン)、2−/3−ヘキセナール、2−ペンテナール、2,4,7−デカトリエナール、10−オキソ−8−デセン酸メチル、ヘプタン酸メチル、10−オキソデカン酸メチル、ノナン酸メチル、8−オキソオクタン酸メチル、2−ブテナール、2−ブチルフラン、アセトアルデヒド、4,5−エポキシ−2−ヘプタナール、ブタナール、オクタン酸メチル、9−オキソノナン酸メチル、3,6−ノナジエナール、2,4−ヘプタジエナール、ヘキサナール、2−ヘプテナール、ヘプタナール、ノナナール、ペンタナール、オクタナール、2−プロパノン、2−ブタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−オクテン−2−オン、フランオクタン酸メチル、2,4−オクタジエン−2−オン、13−オキソ−9,11−トリデカンジエン酸メチル、ヘプタン酸、オクタン酸及びノナン酸よりなる群から選択される化合物である、(1)又は(2)に記載の酸化抑制剤。
(4)スフィンゴイド塩基構造を有する化合物が、ジヒドロスフィンゴシン、スフィンゴシン、N,N−ジメチルスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、4−スフィンゲニン、8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−8−スフィンゲニン、4,8−スフィンガジエニン、9−メチル−4,8−スフィンガジエニン、4,8,10−スフィンガトリエニン及び9−メチル−4,8,10−スフィンガトリエニンよりなる群から選択される化合物である、(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化抑制剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の酸化抑制剤を配合してなる油脂。
(6)酸化抑制剤の配合量が油脂に対して1ppt以上である、(5)に記載の油脂。
(7)(5)又は(6)に記載の油脂を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明による酸化抑制剤は酸化抑制能が強く、油脂類特に多価不飽和脂肪酸を多く含む油脂の酸化を抑制して、油脂類の酸化に起因する変質を防止することができる。さらに本発明による酸化抑制剤は、油脂以外の食品成分に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】スフィンゴイド塩基構造を有する化合物の代表例の化学構造を示す図である。図中、(A)はスフィンゴシン、(B)はジヒドロスフィンゴシンをそれぞれ示す。
【
図2】スフィンゴイド塩基構造を有する化合物であるスフィンゴシンとカルボニル化合物(R1−CO−R2)とが結合したアミノカルボニル化合物の構造の例を示す。図中、(A)はスフィンゴイド塩基中のアミノ基にカルボニル化合物のカルボニル炭素が共有結合し、カルボニル酸素が水酸基に還元された化合物、(B)は(A)のカルボニル酸素由来の水酸基がアミノ基の水素とともに水として脱離した化合物、(C)は(B)の二重結合が還元された化合物を示す。
【
図3】本発明の酸化抑制剤による酸素吸収量の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】ジヒドロスフィンゴシンとプロパナールが結合したアミノカルボニル化合物の構造の例を示す図である。図中、(A)はジヒドロスフィンゴシンのアミノ基にプロパナールのカルボニル炭素が共有結合し、カルボニル酸素が水酸基に還元された化合物、(B)は(A)のカルボニル酸素由来の水酸基がアミノ基の水素とともに水として脱離した化合物、(C)は(B)の二重結合が還元された化合物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、スフィンゴイド塩基構造を有する化合物のアミノ基とカルボニル化合物のカルボニル基とが結合した構造を有するアミノカルボニル化合物を有効成分とする酸化抑制剤に関する。
【0016】
本発明におけるスフィンゴイド塩基構造を有する化合物は、代表的には長鎖アミノアルコールの一種であるスフィンゴイドである。本発明において利用可能なスフィンゴイドは、例えば、ジヒドロスフィンゴシン、スフィンゴシン、N,N−ジメチルスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、4−スフィンゲニン、8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−8−スフィンゲニン、4,8−スフィンガジエニン、9−メチル−4,8−スフィンガジエニン、4,8,10−スフィンガトリエニン、9−メチル−4,8,10−スフィンガトリエニンなどが挙げられる。スフィンゴイド塩基構造において、二重結合の位置や数に格別の制限はない。
図1に代表的なスフィンゴイド塩基の構造を示す。(A)はスフィンゴシンの構造を示し、(B)はジヒドロスフィンゴシンの構造を示す。
【0017】
スフィンゴイドは、スフィンゴイド塩基を含むスフィンゴ脂質を加水分解することによって調製することができる。スフィンゴ脂質は、動物や植物に広く存在し、長鎖塩基成分であるスフィンゴイド塩基と脂肪酸が酸アミド結合したセラミドを共通構造とし、これにさらに糖又はリン酸及び塩基が結合した構造を有する。糖がグリコシド結合したものはスフィンゴ糖脂質と、リン酸及び塩基が結合したスフィンゴリン脂質と呼ばれる。
【0018】
本発明におけるスフィンゴイド塩基構造を有する化合物は、穀類や豆類などの植物、乳、牛の脳などの動物又は微生物などから得られるスフィンゴ脂質から調製することができる。例えば、ジヒドロスフィンゴシンは、乳中に存在するスフィンゴリン脂質であるスフィンゴミエリン、スフィンゴ糖脂質であるラクトシルセラミド又はグルコシルセラミドなどから加水分解によって調製することが可能である。
【0019】
本発明におけるカルボニル化合物は、スフィンゴイド塩基構造を有する化合物の該塩基中のアミノ基と反応し得るカルボニル基を有する化合物であればよく、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、脂肪酸類などが挙げられる。
【0020】
アルデヒド類として、例えば、プロパナール、プロペナール(アクロレイン)、2−/3−ヘキセナール、2−ペンテナール、2,4,7−デカトリエナール、2−ブテナール、アセトアルデヒド、4,5−エポキシ−2−ヘプタナール、ブタナール、3,6−ノナジエナール、2,4−ヘプタジエナール、ヘキサナール、2−ヘプテナール、ヘプタナール、ノナナール、ペンタナール、オクタナールを用いることができる。
【0021】
ケトン類として、例えば、2−プロパノン、2−ブタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−オクテン−2−オン、2,4−オクタジエン−2−オンを用いることができる。
【0022】
エステル類としては、例えば、10−オキソ−8−デセン酸メチル、ヘプタン酸メチル、10−オキソデカン酸メチル、ノナン酸メチル、8−オキソオクタン酸メチル、オクタン酸メチル、9−オキソノナン酸メチル、フランオクタン酸メチル、13−オキソ−9,11−トリデカンジエン酸メチルを用いることができる。
【0023】
脂肪酸類としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸を用いることができる。
【0024】
本発明において特に好ましいカルボニル化合物は、プロパナール又はプロペナール(アクロレイン)である。
【0025】
本発明の酸化抑制剤は、上記スフィンゴイド塩基構造を有する化合部と該塩基中のアミノ基と反応し得るカルボニル基を有する化合物とのアミノカルボニル反応によって得ることができる。
図2に、本発明の酸化抑制剤の幾つかの例の化学構造を示す。
【0026】
本発明にかかるアミノカルボニル反応は、一般的なアミノカルボニル反応と同じ条件の下で行うことができる。例えば、ほぼ等モル比のスフィンゴイド塩基構造を有する化合物とカルボニル基を有する化合物とをリン酸緩衝液等の適当な溶媒中で混合した後、常圧、60℃〜120℃で10分間〜2時間置いて反応させればよい。また反応物は、カラムクロマトグラフィその他の一般的な方法によって分離精製することができる。
【0027】
本発明の酸化抑制剤はアミノカルボニル化合物の一種であることから、アミノカルボニル化合物が有する自動酸化や熱酸化などの酸化反応を抑制する効果がある。さらに、本発明の酸化抑制剤は長鎖塩基構造を有しているため、従来から知られているアミノカルボニル化合物と異なり油溶性であり、油脂の抗酸化に有用である。
【0028】
本発明の酸化防止剤は、油脂に添加されることにより、油脂の酸化を防止することができる。特に、本発明の酸化抑制剤は、常温の油脂、または融点以上に加温して液状にした油脂中に添加し、混合又は分散させることが好ましい。
【0029】
本発明の酸化抑制剤の油脂への添加量は、油脂又はこれを含有する食品の種類に応じて適当に変更することができるが、油脂に対して本発明の酸化防止剤が1ppt以上の割合で含有されることが好ましい。添加量が1ppt未満となると、酸化抑制効果が低くなる。酸化抑制効果を目的とする場合は、添加量を増すほど顕著な効果を得ることができる。
【0030】
本発明の酸化抑制剤は、油脂以外の飲食品にも添加することができる。飲食品に添加する方法に特に制限はないが、例えば、本発明の酸化抑制剤を脱イオン水に懸濁あるいは溶解し、他の飲食品と撹拌混合した後、適当な形態に調製すればよい。撹拌混合の条件としては、本発明の酸化抑制剤が均一に混合し得るものであればよく、ウルトラディスパーサー(IKAジャパン社製)やTKホモミクサー(プライミクス社製)等を使用して撹拌混合することも可能である。また、本発明の酸化抑制剤を含む溶液は、飲食品用原料として使用しやすいように、必要に応じて、RO膜等での濃縮又は凍結乾燥して使用してもよい。本発明の酸化抑制剤に対しては、医薬品、飲食品又は飼料の製造に通常使用される殺菌処理を行うことが可能であり、粉末状の酸化抑制剤の場合には乾熱殺菌も可能である。したがって、本発明の酸化抑制剤は、液状、ゲル状、粉末状、顆粒状等様々な形態の医薬品、飲食品や飼料の製造において利用することができる。
【0031】
本発明の酸化抑制剤は、油脂、特に多価不飽和脂肪酸を含有する油脂又はこれを含む食品に添加されることで、戻り臭を抑制したり食品の風味を維持したりすることができる。また、風味劣化を長期間抑制するために、酸化抑制剤を配合した油脂及び食品の賞味期限を延長することができる。また、公知の油溶性酸化抑制剤(例えば、β−カロチンなど)と併用して用いることもでき、相乗的な効果を得ることもできる。
【0032】
本発明の酸化抑制剤が添加された油脂は、単独で通常の食用油脂として用いることもでき、マーガリン、スプレッド等の油性食品、サラダドレッシング、クッキー、バターケーキ、育児用粉乳等の調製粉乳又はコーヒークリーム、ホイップクリーム等のクリーム類等の食品の原料として用いることも可能である。本発明の酸化抑制剤を添加した油脂を原料とする食品は、保存時の酸化が抑制され、保存に伴う過酸化物価(POV)の上昇や、酸化臭の発生等が抑制される。
【0033】
また、本発明の酸化抑制剤が添加された油脂をてんぷら、ポテトチップス、ドーナッツ、かき揚げ、フライ等の揚げ物用の油として使用した場合、長時間使用しても油の劣化が起こりにくくなる。したがって本発明の酸化抑制剤が添加された油脂は、業務用に大量のフライ食品を製造する際の揚げ油として適している。通常、揚げ油としては、油の酸化を回避するために多価不飽和脂肪酸の含有量が比較的少ないパーム油などが使用されるが、本発明の酸化抑制剤を利用することで、多価不飽和脂肪酸を多く含む大豆油や菜種油を揚げ油として使用することも可能となる。さらに、本発明の酸化抑制剤を添加した油脂を用いて揚げ物を調製した場合、調製された揚げ物の酸化も抑制される。
【0034】
以下に、実施例及び試験例を示し、より詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
<実施例1>
スフィンゴシンとプロパナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてスフィンゴシンのアミノ基とプロパナールのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度95%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品1)を得た。
【0036】
<実施例2>
バターセーラム粉末にエタノールを加え一晩浸漬した後、吸引ろ過してろ液を回収した。残渣をエタノールに一晩浸漬し、抽出を繰り返した。ろ液を濃縮した後、クロロホルム/メタノール/水(10:5:3、v/v/v)に溶解し、一晩液液分配を行った。下層のクロロホルム層を回収し、濃縮した。更に溶媒を完全に除去してバターセーラム脂質を得た。
【0037】
次に、液液分配と溶媒抽出法を用いてバターセーラム脂質から中性脂質の除去及び極性脂質の分離を行った。極性脂質画分に、多量のジエチルエーテルを加え、−20℃で一晩静置した。その後、ろ過し、ろ液を回収した。ろ液は濃縮し、完全に溶媒を除去し、スフィンゴ脂質画分として回収した。
【0038】
スフィンゴ脂質画分に多量のピリジンを加え、−20℃で一晩静置した。その後、ろ過し、ろ液を回収した。ろ液は濃縮し、完全に溶媒を除去し、スフィンゴミエリン(SPM)画分として回収した。得られたSPMに対して、塩酸を用いた酸加水分解を行った。分解物をシリカゲルカラムクロマトグラフィを用いて精製し、99%の高純度のジヒドロスフィンゴシンを得た。
【0039】
ジヒドロスフィンゴシンと2−ペンテナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてジヒドロスフィンゴシンのアミノ基と2−ペンテナールのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度90%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品2)を得た。
【0040】
<試験例1>
実施例1及び実施例2で得られた各酸化抑制剤の酸化抑制効果について、酸化実験により評価を行った。実施例品1、実施例品2及び酸化抑制剤のコントロールとしてのα−トコフェロールそれぞれ(1mg)を魚油トリグリセリド(魚油TG)(99mg)と混合し、分析試料とした。なお、酸化抑制剤を含まないコントロールとして魚油TG(100mg)を用いた。
【0041】
分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴム及びアルミシールバイアルで栓をした。40℃、暗所にてインキュベートした後、一定時間ごとにバイアル瓶上部の空気40μLを採取して熱伝導度検出器(TCD)装置のGCに注入した。酸化に伴い空気中の酸素のピークが減少するので、酸素と窒素のピーク比の変化により脂質の酸化による酸素吸収量を算出した。各測定値の平均値の推移を
図3に示す。グラフの縦軸は残存酸素量(%)を、横軸は酸化時間(時間)を示す。実験に使用した魚油TGの脂肪酸組成及び分析条件を下に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
[GCの分析条件]
装置:島津GC−14B型ガスクロマトグラフ[島津製作所(株)]
インテグレーター:島津 C−R8A 型クロマトデータ処理装置[島津製作所(株)]
電圧機:AMP−7B[島津製作所(株)]
検出器:TCD
カラム:Molecular sieves−5A(60/80mesh;3m)
カラム温度:50℃
注入口温度:100℃
検出口温度:100℃
キャリアガス:ヘリウムガス
ヘリウム圧:50kPa
【0044】
魚油TGは20:5n−3(EPA)と22:6n−3(DHA)といった高度不飽和脂肪酸を多く含むため(表1)、極めて酸化されやすく、測定開始50時間経過後にはバイアル瓶の大半の酸素が酸化により消費された。一方、実施例品1又は実施例品2を魚油TGに添加した場合の酸素吸収速度は、無添加(魚油TGのみ)の場合のそれに比べて明らかに遅くなっており、測定開始後300時間後でも大部分の酸素が残存していた。これに対して、α−トコフェロールを魚油TGに添加した場合の酸素吸収速度は、無添加の場合のそれよりも遅いものの、実施例品1又は実施例品2を添加した場合のそれに比べて明らかに速かった。以上のことから、実施例品1又は実施例品2を魚油TGに添加した場合は優れた酸化抑制効果が得られることが明らかとなった。
【0045】
<実施例3>
ホエータンパク質濃縮物(WPC)の10%水溶液にプロテアーゼを作用させて得られた反応液をクロロホルム−メタノール(2:1)溶液で抽出した後、濃縮し、さらにアセトン抽出してリン脂質画分を得た。得られたリン脂質画分をシリカゲルクロマトグラフィーに供し、クロロホルム−メタノール溶液で段階抽出したものを凍結乾燥し、精製スフィンゴミエリンを得た。精製標品を薄層クロマトグラフィーにより分画し、ディットマー試薬で発色した後、デンシトメーターを用いて定量した。その結果、スフィンゴミエリン含有率は95.2%であった。
【0046】
スフィンゴミエリンに対して、塩酸を用いた酸加水分解を行った。分解物をシリカゲルカラムクロマトグラフィを用いて精製し、99%の高純度のジヒドロスフィンゴシンを得た。
【0047】
ジヒドロスフィンゴシンとプロペナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてジヒドロスフィンゴシンのアミノ基とプロペナールのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度92%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品3)を得た。
【0048】
<実施例4>
スフィンゴミエリン5〜6mgに0.03MのCaCl
2を含む0.1M Tris緩衝液(pH7.4)1.5mlを加えた混合物を10秒間音波処理し、C.perfringens由来のホスホリパーゼC 3mgとジエチルエーテル1.5mlを加えた。混合物を激しく振り混ぜた後、室温で3時間、たびたび振り混ぜながら温置した。エーテル3mlを加え、混合物を振り混ぜ、遠心し、エーテル層を取り出した。混合物をエーテル3mlで再び抽出した。全エーテル抽出液を蒸留水で洗い、遠心し、微量の水を取り除くために窒素気流下にエーテル溶液を濃縮乾固させてセラミド混合物を得た。
【0049】
セラミド混合物4mgを1M KOH/メタノールの2mlと70℃で18時間還流し、加水分解した。次いでジエチルエーテル4mlと蒸留水2mlを加え、長鎖塩基をエーテル層に分配させ、これを回収し、濃縮乾固させた。この長鎖塩基をシリカゲルカラムクロマトグラフィを用いて精製し、99%の高純度のジヒドロスフィンゴシンを得た。
【0050】
ジヒドロスフィンゴシンとプロパナールをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてスフィンゴシンのアミノ基とプロパナールのカルボニル基が結合した化合物(
図4の(A)(B)(C))の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度92%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品4)を得た。
【0051】
<実施例5>
フィトスフィンゴシンと2−ペンタノンをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてフィトスフィンゴシンのアミノ基と2−ペンタノンのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度89%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品5)を得た。
【0052】
<実施例6>
ジヒドロスフィンゴシンとオクタン酸メチルをリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてジヒドロスフィンゴシンのアミノ基とオクタン酸メチルのカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度86%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品6)を得た。
【0053】
<実施例7>
スフィンゴシンとヘキサン酸をリン酸緩衝液に溶解混合し、100℃にて1時間加熱処理を行った。LC/MSにてスフィンゴシンのアミノ基とヘキサン酸のカルボニル基が結合した化合物の生成を確認した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、純度92%の本実施例の酸化抑制剤(実施例品7)を得た。
【0054】
<試験例2>
魚油に対する実施例品3〜7の酸化抑制効果について、過酸化物価(POV)の測定と官能評価により評価を行った。各実施例品(1mg)を魚油TG(99mg)と混合し、分析試料とした。なお、酸化抑制剤を含まないコントロールとして魚油TG(100mg)を用いた。分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴム及びアルミシールバイアルで栓をした。40℃、暗所にて2ヶ月インキュベートした。インキュベート後の試料を、POVの測定及び8名の風味パネルにより評価した。官能評価はコントロールとして用いた無添加の魚油の戻り臭を5点とし、点数を評価した。すなわち、点数が低いほうが戻り臭がなく、風味は良好であることを示す。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示されるように、保存2ヵ月後に無添加の魚油TGのPOVが1.5kg/meqであったのに対して、各実施例品を添加した魚油TGのPOVは0.4又は0.5kg/meqであった。また、無添加の魚油TGに比べて各実施例品を添加した魚油は戻り臭が抑えられていた。以上の結果から、魚油TGに各実施例品の酸化抑制剤を添加することで酸化安定性が向上し、魚油中の不飽和脂肪酸の酸化による戻り臭の生成を抑制し、風味劣化を防ぐ効果があることが明らかとなった。
【0057】
<試験例3>
酸化抑制剤の有効量を評価するために、各酸化抑制剤の量をそれぞれ0ppt(水準1)、0.1ppt%(水準2)、0.5ppt(水準3)、1ppt(水準4)とした4水準の試験試料を用いて、試験例1と同様の方法を用いて酸化安定性試験を行った。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示されるように、魚油試料中の各実施例品の配合量が1ppt未満である水準1〜3では、100時間後の残存酸素量は無添加とほとんど差が認められなかった。このように、各実施例品の酸化抑制効果は1ppt以上の添加により発揮され、1ppt未満では十分な効果が得られない。
【0060】
<試験例4>
大豆油の光劣化に対する実施例品1〜4の酸化抑制効果について官能評価により評価を行った。実施例品1〜4(1mg)を大豆油TG(99mg)と混合し、分析試料とした。なお、酸化抑制剤を含まないコントロールとして大豆油TG(100mg)を用いた。分析試料を分析用バイアル瓶(5mL)に精秤した後、ブチルセプタムゴム及びアルミシールバイアルで栓をし、5℃のショーケース内(3500ルクス)にて7日間インキュベートした。インキュベート後の試料を8名の風味パネルにより評価した。官能評価はコントロールとして用いた無添加の大豆油の戻り臭を5点とし、点数を評価した。すなわち、点数が低いほうが戻り臭がなく、風味は良好であることを示す。結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示されるように、無添加の大豆油TGに比べて実施例品1〜4を添加した大豆油は戻り臭が抑えられていた。以上の結果から、大豆油TGに実施例品1〜4の酸化抑制剤を添加することで酸化安定性が向上し、大豆油中の不飽和脂肪酸の酸化による戻り臭の生成を抑制し、風味劣化を防ぐ効果があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、酸化抑制能が強く、油脂類特に多価不飽和脂肪酸を多く含む油脂の酸化を抑制して、油脂類の酸化に起因する変質を防止することができる酸化抑制剤として利用可能である。また本発明は、酸化油脂以外の食品成分に対しても利用可能である。