【実施例】
【0085】
まず、本実施例で用いる活性炭の各物性値は、以下の方法により測定した。
【0086】
[比表面積及び細孔半径1nm以下の細孔容積]
試料(活性炭)の、比表面積及び細孔半径1nm以下の細孔容積は、窒素吸着等温線測定を行い、得られた吸着等温線から算出した。具体的には、まず、サンプル管に、試料を0.1g充填し、300℃で5時間減圧下で前処理を行った。Belsorp28SA(日本ベル(株)製)を用いて、サンプル部を液体窒素温度にて、前記試料に対する窒素吸着等温線測定を行った。得られた吸着等温線を、BEL解析ソフトウェア(Version4.0.13)用いて、最も相関係数が高くなる2点を、相対圧0.01以下と、相対圧0.05〜0.1の間より選択し、比表面積を求めた。また、細孔半径1nm以下の細孔容積は前記ソフトウエアのCI法により算出した。
【0087】
[ゼータ電位差]
試料(活性炭)のゼータ電位は、ゼータ電位測定装置を用いて測定した。具体的には、まず、四ホウ酸ナトリウム濃度が10mmol/L及び0.01mmol/Lの水溶液100mLに対して、活性炭粉末(中心粒子径6〜7μm)を20mg添加し、分散液を調製した。この分散液を、ゼータ電位測定装置(RANK BROTHERS社製「MARKII」)を使用し、ゼータ電位を算出するための25℃における粒子移動速度を測定した。粒子移動速度の測定は、所定のセルに分散液を導入しセル測定部中の分散液中の粒子を顕微鏡により観察し、20V電圧下における粒子移動速度を測定した。粒子移動速度は5〜10粒子について、60.3μmの距離を移動する時の時間(秒)を測定した。測定した時間の平均値(S)を用いて、下記式に従って、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位と、0.01mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位とをそれぞれ求めた。そして、その差(ゼータ電位差)を算出した。算出に必要な電極間距離は8.53cmである。
【0088】
電場A(V/cm)=20/8.53=2.345V/cm
粒子泳動速度L(μm/sec)=60.3/S
移動度(Mobility)(μm・cm/sec・V)=L/A
ゼータ電位(mV)=−12.83×移動度。
【0089】
[糖液脱色性能]
糖液脱色性能は、糖液の吸光度を測定することにより評価した。具体的には、まず、三温糖(三井製糖(株)製)350gを採取しイオン交換水を300ml加えて、70℃以下で攪拌溶解させる。冷却後、NaOH又はHClによりpHを7±0.1に調整する。一方で、グラニュー糖(三井製糖(株)製)300gを採取しイオン交換水を300ml加えて、70℃以下で攪拌溶解させる。冷却後、NaOH又はHClによりpHを7±0.1に調整する。前記2種類の糖液を用いて、波長420nmにおける吸光度を0.75〜0.78の範囲に調整した糖液を糖液脱色性能測定用原液とする。
【0090】
100mlの共栓付三角フラスコに活性炭を0.092g秤量し、前記糖液脱色性能測定用原液を50ml加え、50℃で130〜140往復/分の振幅速度で振騰を1時間行う。50℃の恒温槽中で、ろ紙5Cを用いてろ過を行い、ろ液の波長420nm及び700nmにおける吸光度を測定し、下記式により糖液脱色性能を計算した。
【0091】
吸光度(420nm)−吸光度(700nm)=A
(Aブランク−Aサンプル)/Aブランク=糖液脱色性能(%)
(式中、Aブランクは、活性炭を入れていないときのAであり、Aサンプルは、活性炭を入れたときのAである)。
【0092】
[XPSによる酸素原子%]
パラジウム吸着前の活性炭をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ(株)製「PHI Quantera SXM」)で、X線励起条件:100μm−25W−15kV、対陰極:Al、測定範囲:1000μm×1000μm、圧力:6x10
−7Paの測定条件で測定し、O1sの波形分離解析し、酸素原子%を算出した。
【0093】
[XPSによるパラジウムの結合状態]
パラジウムを吸着させた活性炭をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ(株)製「PHI Quantera SXM」)でパラジウムの結合状態を、X線励起条件:100μm−25W−15kV、対陰極:Al、測定範囲:1000μm×1000μm、圧力:6x10
−7Paの測定条件で測定し、Pd3dのスペクトルから各種活性炭の結合状態を解析した。Pd3d5/2の結合種の帰属を示す(XPSハンドブック参考)。
【0094】
Pd:335.3eV(±0.2)
PdO:336.3eV(±0.2)
halides:337.1eV(±0.7)
PdO
2:338.0(±0.3)。
【0095】
次に、本実施例で用いる活性炭について、説明する。
【0096】
製造例1(活性炭No.1)
アルカリ土類金属が4g/kgのヤシ殻炭100gを、賦活温度920℃賦活した。賦活時のガス組成は、CO
2分圧が10%、H
2O分圧が30%で、その他ガスはN
2である。賦活時間は、20分で実施した。得られた活性炭を、1mol/Lの塩酸水溶液で洗浄し水洗した後、乾燥した。得られた乾燥品を、流動炉にて700℃で30分間熱処理した。熱処理時のガスは、LNG燃焼ガスにより実施した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0097】
製造例2(活性炭No.2)
4000g/L濃度の塩化亜鉛水溶液を、オガ屑100gに対して、100mL添着させた後、速度5℃/分で700℃まで昇温し、700℃で1時間保持後冷却した。得られた活性炭を、1mol/Lの塩酸で煮沸洗浄を行い、水洗した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0098】
製造例3(活性炭No.3)
アルカリ土類金属が1g/kgのヤシ殻炭100gを、製造例1と同じ条件で賦活を行った。賦活時間は、3時間で実施した。得られた活性炭を、1mol/Lの塩酸で洗浄し水洗した後、乾燥し、製造例1と同様の熱処理をした。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0099】
製造例4(活性炭No.4)
オガ屑100gに対して、75%濃度のリン酸水溶液をリン酸が150gになるように含浸させ、550℃の温度で熱処理を行った。熱処理時には空気を3L/分の割合で流した。熱処理後、得られた焼成品を煮沸水洗にて洗浄した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0100】
製造例5(活性炭No.5)
オガ屑100gに対して、75%濃度のリン酸水溶液をリン酸が100gになるように含浸させ、550℃の温度で熱処理を行った。熱処理時には空気を3L/分の割合で流した。熱処理後、得られた焼成品を煮沸水洗にて洗浄した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0101】
製造例6(活性炭No.6)
フェノール樹脂繊維を300℃で1時間の酸化処理を行い、その酸化処理品を700℃で乾留処理を1時間行った。得られた乾留処理したフェノール樹脂繊維を賦活温度950℃にてLPG燃焼ガス雰囲気で5時間処理した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0102】
活性炭No.7
市販の活性炭(クラレケミカル(株)製「GW−H」)を、活性炭No.7とした。その各種物性を表1に示す。
【0103】
活性炭No.8
市販の活性炭(クラレケミカル(株)製「KW」)を、活性炭No.8とした。その各種物性を表1に示す。
【0104】
製造例7(活性炭No.9)
オガ屑を乾留して得られる素灰を原料として、実施例1と同条件にて賦活30分行った。得られた活性炭を1mol/Lの塩酸で洗浄し水洗を行い乾燥した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0105】
活性炭No.10
市販の活性炭(クラレケミカル(株)「GW」)を、活性炭No.10とした。その各種物性を表1に示す。
【0106】
製造例8(活性炭No.11)
フェノール樹脂繊維を300℃で1時間の酸化処理を行い、その酸化処理品を700℃で乾留処理を1時間行った。得られた乾留処理したフェノール樹脂繊維を賦活温度950℃にてLPG燃焼ガス雰囲気で3時間処理した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
製造例A(活性炭保持フィルタA)
100Lの小型ビーター(叩解機)に水道水100Lに対し、活性炭No.6(繊維状活性炭)を、乾燥重量で1.5kg投入し、次いでバインダとしてフィブリル化アクリルパルプ(日本エクスラン工業(株)製「Bi−PUL/F」)を乾燥重量で0.075kg相当分を投入し、繊維状活性炭とバインダの分散混合及びビーターの固定歯と回転歯の隙間を狭めて、繊維状活性炭を細分化する。繊維状活性炭の繊維長が短くなると、一定形の形状に成形したとき、充填性が向上するため、単位容積当りの重量が増加する。この単位容積当りの重量を叩解密度と称し、繊維状活性炭の短さの尺度とした。叩解密度を測定するための成形体として、特許第3516811号公報に記載されている多数の吸引用小孔を設けた二重管状の成形型で、吸引用小孔径3mmφ、ピッチ5mmの中軸に300メッシュの金網を巻きつけ、中軸径18mmφ、外径40mmφ、外径鍔間隔50mmの金型を用意し、中心部からスラリーを吸引することによって円筒型の成形体を作製した。成形体の乾燥品の寸法、重量から叩解密度0.18g/mlのスラリーを得、この叩解密度のスラリーを標準スラリーとした。
【0109】
この標準スラリー7Lに、JIS 30/60Meshとなるように分級した活性炭No.1(粒状)0.735kg、湿式粒度分析装置(日機装(株)製「マイクロトラックMT3000」)で測定したD50が約40μmとなるように粉砕した活性炭No.1(粉末状)を0.21kg、及びフィブリル化アクリルパルプ(Bi−PUL/F)を乾燥重量換算で0.053kg投入し、更に水道水を追加して、スラリー量を110Lとした。
【0110】
上記スラリーを使用し、吸引成形して250mm×250mm×5mmの成形体を作製した。
【0111】
作製した成形体を乾燥し、内径10mmφのトムソン刃で打ち抜き、外形10mmφ厚み5mmの活性炭保持フィルタAとした。このとき、成形体の重量は、0.09gであった。
【0112】
また、活性炭保持フィルタAに含まれる活性炭の混合状態における上記細孔容積は、351mm
3/gであった。
【0113】
製造例B(活性炭保持フィルタB)
製造例Aと同様の標準スラリー7Lに対し、JIS 30/60Meshとなるように分級した活性炭No.7(粒状)0.735kg、湿式粒度分析装置(日機装(株)製「マイクロトラックMT3000」)で測定したD50が約40μmとなるように粉砕した活性炭No.7(粉末状)を0.21kg、及びフィブリル化アクリルパルプ(Bi−PUL/F)を乾燥重量換算で0.053kg投入し、更に水道水を追加して、スラリー量を110Lとした。製造例Aと同様に吸引成形、乾燥、及び打ち抜き加工を実施し、活性炭保持フィルタBとした。このとき、成形体の重量は、0.13gであった。
【0114】
また、活性炭保持フィルタBに含まれる活性炭の混合状態における上記細孔容積は、79mm
3/gであった。
【0115】
製造例C(活性炭保持フィルタC)
製造例Aと同様の標準スラリー22Lのみに水道水88Lを加え、製造例Aと同様に吸引成形、乾燥、及び打ち抜き加工を実施し、活性炭保持フィルタCとした。このとき、成形体の重量は、0.07gであった。
【0116】
また、活性炭保持フィルタCに含まれる活性炭上記ゼータ電位差は、14.9mVであった。また、活性炭保持フィルタCに含まれる活性炭の混合状態における上記細孔容積は、200.0mm
3/gであった。
【0117】
活性炭保持フィルタの配合割合を表2に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
[実施例]
(実施例1)
まず、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを5.4mg/L、スズを250mg/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を標準液として使用した。
【0120】
次に、以下に示す方法により、本実施形態に係る回収方法を評価した。
【0121】
まず、
図3に示すように、Pd−Sn触媒模擬廃液を供給槽31に貯留した。この貯留されたPd−Sn触媒模擬廃液を、ポンプ32で汲み上げて、活性炭保持フィルタ33を通過させた。その後、通過した液体(ろ液)を、回収槽34に貯留した。そして、回収槽34に貯留された液体の、パラジウム(Pd)濃度を測定して、パラジウム濃度の減少量から、活性炭保持フィルタ33における、パラジウムの回収率を算出した。なお、ろ液のパラジウム濃度やスズ濃度は、ろ液20mlに有害金属測定用硝酸(和光純薬工業(株)製)50μlを添加し、ICP発光分光分析装置(パーキン・エルマー(株)製「Optical Emission Spectrometer Optima 4300 DV」)を使用し測定した。また、ポンプ32の出力等を調整することで、通液速度や空間速度SV等を適宜調整することができる。なお、
図3は、本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法を評価するための装置である。
【0122】
そして、Pd−Sn触媒模擬廃液に塩酸を添加し、表3に示す所定の酸濃度にしたものを、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として用い、活性炭保持フィルタとして、上記活性炭保持フィルタAを用いて、活性炭保持フィルタにおける、パラジウムの回収率を測定した。その際、通液速度を240mL/hとし、空間速度SVを600/hと設定した。その結果を、表3に示す。
図4にも、その結果をグラフ化したものを示す。なお、表3には、酸濃度、空間速度SV、供給した液体のPd濃度(入口Pd濃度)、ろ液のPd濃度(出口Pd濃度)、及び入口Pd濃度及び出口Pd濃度から算出されたPd回収率を示す。なお、Pd回収率は、入口Pd濃度と出口Pd濃度との差分を、入口Pd濃度で除した値である。また、出口Pd濃度における「<0.2」は、出口Pd濃度が0.2mg/L未満であり、検出限界より濃度が低いことを示す。また、Pd回収率における「>96%」は、Pd回収率が96%より高いものであり、出口Pd濃度が検出限界以下であることによる。また、
図4は、酸濃度とPd回収率との関係を示したグラフである。なお、
図4において、この実施例1の結果は、折れ線41で示す。
【0123】
【表3】
【0124】
表3及び
図4からわかるように、Pd−Sn触媒模擬廃液に塩酸を添加し、酸濃度を高めたほうが、Pd回収率が高まる。また、酸濃度が0.8mol/L以上であれば、80%以上の高いPd回収率が得られることがわかった。このことから、酸濃度を0.8mol/L以上に調整することが、Pd回収効率の点で好ましいことがわかる。また、酸濃度を0.95mol/L以上に調整することで、出口Pd濃度が検出限界以下となり、Pdをほぼ100%回収することができることがわかった。このことから、酸濃度を0.95mol/L以上に調整することが、さらに好ましいことがわかる。
【0125】
また、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由について検討した。
【0126】
まず、Pd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い状態、例えば、酸濃度が0.2mol/Lで使用した活性炭保持フィルタの表面を、分析領域を500μm□として、XPS(X線光電子分光)分析した。その結果を、SnO
2のXPS分析結果と合わせて、
図5に示す。なお、
図5には、活性炭保持フィルタの表面の3箇所のXPS分析結果51、52、53と、SnO
2のXPS分析結果54とを示す。
図5から、活性炭保持フィルタの表面の結果51、52、53には、同じ結合エネルギの箇所にピークが確認できる。そして、そのピークは、SnO
2の結果54のピークと略同じである。これらのことから、活性炭保持フィルタの表面に、SnO
2としてのSnが吸着されていることがわかる。これが、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由の1つであると考えられる。なお、
図5は、活性炭保持フィルタの表面のXPS分析結果を示す。
【0127】
また、Pd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い状態、例えば、酸濃度が0.2mol/Lで使用した活性炭保持フィルタの表面を、XRD(X線回折)分析を行っても、SnO
2やSnO・OHのピークが確認できた。このことから、活性炭保持フィルタの表面に、SnO
2やSnO・OHとしてのSnが吸着されていることがわかる。これが、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由の1つであると考えられる。
【0128】
また、Pd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い状態、例えば、酸濃度が0.2mol/Lでは、Pdは酸化しない。
【0129】
また、Pd−Sn触媒模擬廃液のゼータ電位を測定した。具体的には、酸濃度を種々変化させたときの、Pd−Sn触媒模擬廃液のゼータ電位を測定した。すなわち、Pd−Sn触媒模擬廃液のゼータ電位と酸濃度との関係を測定した。このときに用いたPd−Sn触媒模擬廃液は、Pd濃度を5mg/L、Sn濃度を250mg/Lに調整した。その結果を
図6に示す。
図6から、酸濃度を高めると、ゼータ電位が低下することがわかった。このことから、酸濃度の低いPd−Sn触媒模擬廃液には、パラジウム、及びパラジウムの周囲に存在するスズの一部が、Pd
0・nSnOOH
+の状態で存在することが考えられる。また、酸濃度の高いPd−Sn触媒模擬廃液には、パラジウム、及びパラジウムの周囲に存在するスズが、Pd
0・nSnCl
42−の状態で存在することが考えられる。これらのことから、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合に、活性炭保持フィルタの表面に、SnO
2やSnO・OHとしてのSnが吸着しやすいと考えられる。これが、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由の1つであると考えられる。なお、
図6は、酸濃度とゼータ電位との関係を示したグラフである。
【0130】
また、プールベのpH電位図からも、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合には、Snの酸化反応が起こっていると推察される。
【0131】
SnCl
42− → SnO(OH)
+・OH
− → SnO
2・H
2O↓(白濁)
このことから、活性炭の細孔を、SnがSnO
2として閉塞し、Pdの吸着性を低下させると推察する。このことから、これが、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由の1つであると考えられる。
【0132】
以上のことから、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が高い場合には、パラジウム、及びパラジウムの周囲に存在するスズが、Pd
0・nSnCl
42−の状態で存在すると考えられる。このため、活性炭の細孔を、Snが閉塞させることがなく、Pdの回収率を充分に高めることができると考えられる。これに対して、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合には、パラジウム、及びパラジウムの周囲に存在するスズの一部が、Pd
0・nSnOOH
+の状態で存在されると考えられる。このため、活性炭の細孔にSnがSnO
2として閉塞し、Pdの吸着性を低下させると推察する。具体的には、活性炭が、
図7に示すような状態になると推察される。まず、活性炭は、
図7に示すように。細孔71として、マクロ孔72と、そのマクロ孔72の内壁に存在する、マクロ孔72より小さいメソ孔73とが存在する。そして、パラジウム74は、このメソ孔73に保持される。しかしながら、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合には、
図7に示すように、マクロ孔72の内壁上に、スズ75がSnO
2として、蓄積し、メソ孔73を閉塞してしまい、Pdの吸着性を低下させると推察する。このために、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度が低い場合には、Pd回収率が高まらず、酸濃度が高い場合に、Pd回収率が高まると考えられる。なお、
図7は、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液の酸濃度が低い場合における、活性炭の状態を説明するための概念図である。
【0133】
(実施例2)
塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを4.7mg/L、スズを250mg/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を使用し、活性炭保持フィルタとして、活性炭保持フィルタAの代わりに、活性炭保持フィルタBを用いたこと以外、実施例1と同様である。その結果は、表4に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
(実施例3)
活性炭保持フィルタとして、活性炭保持フィルタBの代わりに、活性炭保持フィルタCを用いたこと以外、実施例2と同様である。その結果は、表5に示す。
【0136】
【表5】
【0137】
表4及び表5からわかるように、活性炭保持フィルタとして、実施例1で用いたものとは異なるものを用いても、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液の酸濃度が高いほど、Pd回収率が高い。
【0138】
また、この実施例2及び実施例3での結果(表4及び表5に示した結果)も、
図4に示す。なお、実施例2での結果は、折れ線42で示し、実施例3での結果は、折れ線43で示す。
【0139】
また、活性炭保持フィルタに備える活性炭としては、他の活性炭を用いたものであっても、同様の傾向を示すものである。具体的には、活性炭No.10以外の活性炭No.1〜11のいずれを用いてもよい。また、これらの活性炭を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0140】
(実施例4)
次に、Pd回収率に対する、空間速度の影響を検討した。
【0141】
(実施例4−1)
まず、 塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを2.1mg/L、スズを100mg/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を使用し、酸濃度を1.4mol/Lに固定し、空間速度を表6に示す速度に変更したこと以外、実施例1と同様である。その結果は、表6に示す。
【0142】
(実施例4−2)
まず、 塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを4.9mg/L、スズを250mg/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を使用し、酸濃度を1.4mol/Lに固定し、空間速度を表6に示す速度に変更したこと以外、実施例1と同様である。その結果は、表6に示す。
【0143】
【表6】
【0144】
また、この実施例4−1及び実施例4−2での結果(表6に示した結果)は、
図8に示す。なお、実施例4−1での結果は、折れ線81で示し、実施例4−2での結果は、折れ線82で示す。なお、
図8は、Pd回収率と空間速度との関係を示したグラフである。
【0145】
通常、フィルタを用いた、吸着による回収では、空間速度が高いほど、回収率が低下するものである。一方で、表6及び
図8からわかるように、通過工程が、活性炭を備えるフィルタに、空間速度500/h以上という比較的高速な条件下で、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液を通過させる工程であっても、前記水溶液の酸濃度を高めることで、比較的高い回収率が維持できる。このことから、比較的高速で処理でき、さらに、比較的高い回収率を実現できる。
【0146】
(実施例5)
次に、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液を循環させる場合について検討した。以下に示す方法により、本実施形態に係る回収方法を評価した。具体的には、
図3に示すように、Pd−Sn触媒模擬廃液を液槽91に貯留した。この貯留されたPd−Sn触媒模擬廃液を、ポンプ92で汲み上げて、活性炭保持フィルタ93を通過させた。その後、通過した液体(ろ液)を、液槽91に戻した。このように、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液を、活性炭保持フィルタ93を通過するように、循環させた。そして、所定時間経過後に、液槽91に貯留された液体の、パラジウム(Pd)濃度を測定して、パラジウム濃度の減少量から、活性炭保持フィルタ33における、パラジウムの回収率を算出した。なお、
図9は、本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法を評価するための装置である。
【0147】
この実施例5における条件は、流量が600mL/hであり、空間速度SVが1500/hであり、Pd−Sn触媒模擬廃液の液量が100mLである。また、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを20.1mg/L、スズを1.1g/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を使用した。すなわち、初期のPd濃度は、20.1mg/Lである。塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液の酸濃度は、1.4mol・Lである。また、活性炭保持フィルタは、上記活性炭保持フィルタA〜Cをそれぞれ用いた。
【0148】
この結果を表7に示す。また、表7に示した結果は、
図10にも示す。なお、
図10は、循環時間と、Pd濃度との関係を示すグラフである。また、活性炭保持フィルタAを用いた結果は、折れ線101で示し、活性炭保持フィルタBを用いた結果は、折れ線102で示し、活性炭保持フィルタCを用いた結果は、折れ線103で示す。
【0149】
【表7】
【0150】
表7及び
図10からわかるように、循環時間が長いほど、液槽91に貯留されている液体のPd濃度が低下する。このことから、循環時間が長いほど、Pd回収率を確実に高めることができることがわかる。
【0151】
なお、白金や金についても、パラジウムと同様に回収できた。