特許第6240528号(P6240528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240528
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ニッケルインク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20171120BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C09D11/00
   H01B1/22 A
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-28367(P2014-28367)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-151512(P2015-151512A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 彰広
(72)【発明者】
【氏名】一田 優馬
(72)【発明者】
【氏名】原 靖
(72)【発明者】
【氏名】川畑 貴裕
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0003364(US,A1)
【文献】 特開2007−091530(JP,A)
【文献】 特開2008−153136(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/135113(WO,A1)
【文献】 特開2008−127657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
H01B 1/00− 1/24
C07F 9/00− 19/00
C07B 31/00− 63/04
C07C 1/00−409/44
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸ニッケル(II)及びトリエチレンテトラミンを含むニッケルインク組成物。
【請求項2】
ギ酸ニッケル(II)とトリエチレンテトラミンのモル比が1:1〜1:6である請求項に記載のニッケルインク組成物。
【請求項3】
加熱しニッケル金属膜を形成する際、酸素濃度10%以下で実施する請求項1又は2に記載のニッケルインク組成物。
【請求項4】
基板に塗布後、温度190℃以上で加熱しニッケル金属膜を形成する請求項1〜のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【請求項5】
さらにエタノールアミン類を含む請求項1に記載のニッケルインク組成物。
【請求項6】
エタノールアミン類が、モノエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンから成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項に記載のニッケルインク組成物。
【請求項7】
エタノールアミン類が、ギ酸ニッケル(II)に対し、モル比で1以上である請求項5又は6に記載のニッケルインク組成物。
【請求項8】
さらに、有機溶媒を含む請求項1、5,6のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【請求項9】
有機溶媒が、アルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステルから成る群より選ばれる少なくとも一種である請求項に記載のニッケルインク組成物。
【請求項10】
基板に塗布後、温度150℃以上で加熱しニッケル金属膜を形成する請求項1、5〜9のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケルインク組成物に関する。さらに詳しくは、塗布又は印刷した後、加熱することによりニッケル金属膜を形成するためのニッケルインク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板、電子部品などに電極、配線を形成する方法として、基板、電子部品に金属をメッキした後、これをフォトレジストなどでマスクし、マスクしていない金属をエッチング除去する方法が広く使用されてきた。しかし、この方法は、高導電性の微細配線を形成するには好適だが、工程数が多く、金属資源を無駄にするという問題がある。
【0003】
上記の方法以外にも、導電性インク組成物を基材に塗布又は印刷した後、加熱して電極又は電気配線等を形成するという方法も、広く用いられている。この方法は、工程数が少なく、金属資源も有効に使われる。金属としては、銀、アルミなどが実用化され、広く使用されている。これらのインク組成物の多くは、金属微粒子を使用しており、加熱で微粒子を凝集、融着させ、電極、配線を形成するものである。
【0004】
ニッケルインク組成物に関しても多くの開発がなされている。これらのニッケルインク組成物はニッケル金属粉末と有機バインダー、無機バインダー、溶剤から構成されている。例えば、ニッケル粉末、シランカップリング剤、溶剤からなるインク組成物(特許文献1、参照)、ニッケル粉末、樹脂結合剤、有機溶剤からなるインク組成物(特許文献2、参照)、ニッケル粉末、セラミック粉末からなるインク組成物(特許文献3、参照)、貴金属とニッケル塩から調製した平均一次粒子径が100nm以下のニッケル微粒子を使用するインク組成物(特許文献4、参照)、酸化ニッケルとセラミック粉末の混合物を還元して得られたニッケル微粉末を使用するインク組成物(特許文献5、参照)、リンを含むニッケル粉末を使用するインク組成物(特許文献6、参照)、アルコール類、グリコール類にニッケル粒子を分散したインク組成物(特許文献7、参照)、ニッケル粉末、無機物、有機バインダー、溶剤からなるインク組成物(特許文献8、参照)、ニッケル塩、アミンを還元剤で還元して得られたニッケルコロイドを使用するインク組成物(特許文献9、参照)、塩基性炭酸ニッケルをヒドラジンで還元して得られたニッケル粉末を使用する方法(特許文献10、参照)などが知られている。
【0005】
しかし、これらのインク組成物は、いずれもニッケル粒子を含んでおり、近年の印刷の微細化に関しては問題がある。安価なニッケル粉末は粒径が大きいため、微細印刷に適しておらず、微細印刷に適するようニッケル粒子を微細化すると高価になる。
【0006】
そこで、ニッケル粒子を含まないインク組成物の開発が望まれている。
【0007】
また、バインダーを含むニッケルインク組成物は導電性が低い。導電性を高めるには、インク組成物を塗布した後、300℃以上の高温で処理する必要があり、適用できる用途に制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−281307号公報
【特許文献2】特開2009−37974号公報
【特許文献3】特開2008−277066号公報
【特許文献4】特開2006−161128号公報
【特許文献5】特開2006−45607号公報
【特許文献6】特開2002−150834号公報
【特許文献7】特開2007−146117号公報
【特許文献8】特開平10−144561号公報
【特許文献9】特開2004−124237号公報
【特許文献10】特開2005−82818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニッケル粒子を含まず、300℃以下の温度で焼成することができる、高導電性(低抵抗)のニッケルインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ニッケル金属膜を形成するインク組成物について鋭意検討した結果、ギ酸ニッケル(II)、エチレンアミン類を含むインク組成物が、窒素下200℃で焼成してもニッケル金属膜が形成でき、しかもその膜が高導電性(低抵抗)となるという新規な事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのニッケルインク組成物である。
【0012】
[1]ギ酸ニッケル(II)及びエチレンアミン類を含むニッケルインク組成物。
【0013】
[2]エチレンアミン類が、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ピペラジン、アミノエチルピペラジン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ジメチルピペラジン、トリメチルアミノエチルピペラジンから成る群より選ばれる少なくとも一種である上記[1]に記載のニッケルインク組成物。
【0014】
[3]エチレンアミン類が、トリエチレンテトラミンである上記[1]又は[2]に記載のニッケルインク組成物。
【0015】
[4]ギ酸ニッケル(II)とトリエチレンテトラミンのモル比が1:1〜1:6である上記[3]に記載のニッケルインク組成物。
【0016】
[5]加熱しニッケル金属膜を形成する際、酸素濃度10%以下で実施する上記[1]〜[4]に記載のニッケルインク組成物。
【0017】
[6]基板に塗布後、温度190℃以上で加熱しニッケル金属膜を形成する上記[1]〜[5]のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【0018】
[7]エチレンアミン類が、エチレンジアミンである上記[1]又は[2]に記載のニッケルインク組成物。
【0019】
[8]さらにエタノールアミン類を含む上記[1]、[2]又は[7]のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【0020】
[9]エタノールアミン類が、モノエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンから成る群より選ばれる少なくとも一種である上記[8]に記載のニッケルインク組成物。
【0021】
[10]エチレンアミン類が、ギ酸ニッケル(II)に対し、モル比で0.5〜10である上記[1]、[2]、[7]〜[9]のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【0022】
[11]エタノールアミン類が、ギ酸ニッケル(II)に対し、モル比で1以上である上記[8]〜[10]のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【0023】
[12]さらに、有機溶媒を含む上記[1]、[2]、[7]〜[11]のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【0024】
[13]有機溶媒が、アルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステルから成る群より選ばれる少なくとも一種である上記[12]に記載のニッケルインク組成物。
【0025】
[14]基板に塗布後、温度150℃以上で加熱しニッケル金属膜を形成する上記[1]、[2]、[7]〜[13]のいずれかに記載のニッケルインク組成物。
【発明の効果】
【0026】
本発明のニッケルインク組成物は、ニッケル粒子を含まず高導電性(低抵抗)のニッケル金属膜が得られるニッケルインク組成物であり、コンデンサなどの電子デバイスの製造において、少ない工程で配線が形成でき、しかも低温で微細配線を形成できるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のニッケルインク組成物の必須成分は、ギ酸ニッケル(II)、エチレンアミン類である。
【0028】
本発明のニッケルインク組成物において、ギ酸ニッケル(II)は、加熱によってニッケル金属を生成する。使用するギ酸ニッケル(II)に特に制限はなく、工業的に一般に流通しているものを使用することができる。ギ酸ニッケル(II)は無水塩を使用しても良いし、水和塩を使用しても良い。
【0029】
本発明のニッケルインク組成物において、エチレンアミン類とは、エチレン鎖の両端にアミノ基を有する化合物をいう。エチレンアミン類は、ギ酸ニッケル(II)を低温で分解するために使用する。
【0030】
本発明のニッケルインク組成物において、エチレンアミン類を例示すると、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ピペラジン、アミノエチルピペラジン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ジメチルピペラジン、トリメチルアミノエチルピペラジン等が挙げられる。これらのエチレンアミン類のいずれを使用しても良く、ニッケル金属膜の形成が容易なトリエチレンテトラミン、ニッケル膜形成後に残存し難く、ギ酸ニッケル(II)を溶解し易いエチレンジアミンが特に好ましい。これらのエチレンアミンは単独で使用しても、二種類以上を使用しても良い。
【0031】
本発明のニッケルインク組成物において、好ましく用いられるトリエチレンテトラミンとギ酸ニッケル(II)を含む組成物は、室温で安定であり、加熱した場合は190℃で容易に分解する。トリエチレンテトラミンは加熱時に揮発し、ニッケル金属膜に残存しない。使用するトリエチレンテトラミンに特に制限はなく、工業的に広く流通している安価な製品を使用することができる。一般にトリエチレントトラミンとして知られている工業製品は、直鎖状トリエチレンテトラミン、分岐状トリエチレンテトラミン、2種類のピペラジン誘導体を主成分とする4種以上のアミン混合物であり、混合物を使用しても一向に差支えない。
【0032】
本発明のニッケルインク組成物において、トリエチレンテトラミン以外のアミンを添加することができる。添加できるアミンとしては、オクチルアミン、1−アミノデカン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミンなどが例示できるが、これ以外のアミンを添加しても一向に差支えない。
【0033】
本発明のニッケルインク組成物において、ギ酸ニッケル(II)とトリエチレンテトラミンの比は、得られるニッケル金属膜の導電性及び膜厚の観点から、モル比で、1:1〜1:6が好ましく、1:1〜1:4がさらに好ましい。
【0034】
本発明のニッケルインク組成物には、防食剤、溶剤、増粘剤、界面活性剤も添加することができる。これらの添加剤には一般に使用されているものを使用することができ、特に制限はない。防食剤は、ニッケル膜、ニッケル配線を形成した後、ニッケル金属を保護するのに有効であり、溶剤、増粘剤、界面活性剤は、インクの塗布性、安定性を改良できる。
【0035】
本発明のニッケルインク組成物において、好ましく用いられるエチレンジアミンとギ酸ニッケル(II)を含む組成物を使用する場合は、さらにエタノールアミン類を添加することが好ましい。
【0036】
本発明のニッケルインク組成物において、エタノールアミン類とは、エチレン鎖にアミノ基と、水酸基が存在する化合物をいう。エタノールアミン類は、ギ酸ニッケル(II)を溶解し、ニッケル塩の還元を促進するために添加する。またエタノールアミン類は空気中の炭酸ガスを吸収しても固体になりにくく、インクの物性が損なわれないし、空気中の酸素による金属、塩の酸化も抑制することができる。
【0037】
本発明のニッケルインク組成物において使用できるエタノールアミン類を例示すると、モノエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン等が挙げられる。これらのエタノールアミン類のいずれを使用しても良く、ニッケル膜形成後に残存し難く、しかも組成物の他の成分と反応し難い2−(ジメチルアミノ)エタノール、N−メチルジエタノールアミン、ギ酸ニッケル(II)の溶解性に優れたモノエタノールアミンが特に好ましい。これらのエタノールアミン類は単独で使用しても、二種類以上を使用しても良い。
【0038】
本発明のニッケルインク組成物において、エチレンジアミンは、ギ酸ニッケル(II)の溶解性及びエチレンジアミンの残存性の観点から、ギ酸ニッケル(II)1モルに対して、モル比で0.5〜10が好ましく、1〜8が更に好ましい。
【0039】
本発明のニッケルインク組成物において、エタノールアミン類は、ギ酸ニッケル(II)の溶解性、分散性の観点から、ギ酸ニッケル(II)1モルに対して、モル比で1以上が好ましい。
【0040】
本発明のニッケルインク組成物には、有機溶媒を添加することができる。有機溶媒はインクを希釈するとともに、基材への親和性を高めることができる。使用できる有機溶媒に制限はなく、一般にインクに含まれているものが使用でき、あえて例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ターピネオールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルターシャリーブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテルなどのエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどのエステルなどが挙げられる。
【0041】
本発明のニッケルインク組成物は、加熱してニッケル金属膜を形成する。エチレンジアミン、エタノールアミン類を使用する場合、加熱温度は雰囲気によって異なるため、限定することは困難であるが、非酸化雰囲気、例えば、窒素、アルゴン、水素中で加熱する場合、150℃〜300℃が好ましく、170℃〜250℃がさらに好ましい。高温で加熱するほど、生成したニッケル金属膜は緻密になり、膜中の不純物は少なくなるが、300℃を超える温度で加熱しても、その効果は小さい。150℃未満で加熱した場合、ニッケル金属膜の生成には工業的でないほど長時間を要し、また不純物を多く含む膜が形成される。酸素濃度が5%以上の雰囲気で加熱する場合、加熱温度は170℃〜300℃が好ましく、180℃〜250℃がさらに好ましい。酸素濃度が5%以上で加熱した場合、有機物が酸化され、ニッケル金属膜中に残存するため、非酸化雰囲気で加熱する場合より、高温が必要となる。
【0042】
本発明のニッケルインク組成物は、高導電性を有することからコンデンサなどの電極を形成するニッケル膜に好適に使用され、微細配線化が可能であるなどの効果が期待できる。また、磁気シールドなどの用途にも使用することができる。
【0043】
本発明のニッケルインク組成物を基板に塗布した後、加熱することで、ニッケル金属膜を形成することができる。加熱温度が低いため、用いる基板に特に制限はなく、例えば、PET、PEN、PC、ポリイミド、ナイロン、エポキシなどの樹脂、セラミックス、ガラス、紙等が使用できる。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
【0045】
NF:ギ酸ニッケル(II)
NFH:ギ酸ニッケル(II)・2水塩
EDA:エチレンジアミン
TETA:トリエチレンテトラミン
MEA:モノエタノールアミン
MMEA:N−メチルエタノールアミン
DMEA:N,N−ジメチルエタノールアミン
MDEA:N−メチルジエタノールアミン
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
AA:アセチルアセトン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
実施例1
NFに対して2倍モルのTETAを加え混合し、ニッケルインク組成物を調製した。これを100μmの厚さでガラス基板上に塗布した。窒素雰囲気下で220℃、30分加熱し、ニッケル金属膜を得た。
【0046】
このニッケル金属膜の膜厚を光学顕微鏡で測定したところ、3.66μmだった。表面抵抗率を四探針法低抵抗率計で測定したところ、1.347Ω/□であり、体積抵抗は493μΩ・cmであった。
【0047】
生成した膜のX線回折から、完全にニッケル金属になっており、酸化物は存在していなかかった。
【0048】
比較例1
NFに対して2倍モルのオクチルアミンを加え混合し、ニッケルインク組成物を調製した。これを100μmの厚さでガラス基板上に塗布した。窒素雰囲気下で220℃、30分加熱した。
【0049】
この膜の表面抵抗率を四探針法低抵抗率計で測定したところ、導電性はなかった。
【0050】
実施例2〜5
実施例1で調製したニッケルインク組成物を実施例1と同様の方法でガラス基板上に塗布し、窒素下、表1記載の温度で30分加熱した。
生成した膜の体積抵抗を実施例1と同様に測定し、表1に記した。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例6〜9
表2記載のモル比でNFとTETAを混合し、ニッケルインク組成物を調製した。実施例1と同様の方法でガラス基板上に塗布し、窒素下、230℃で30分加熱し、ニッケル膜を形成した。生成した膜の体積抵抗を実施例1と同様に測定し、表2に記した。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例10
NFH 1g、EDA 2g(EDA/NFHのモル比 6.2)、MDEA 1g(MDEA/NFHのモル比 1.6)、DEG 1gを混合し、ニッケルインク組成物を調製した。これを100μmの厚さでガラス基板上に塗布した。窒素雰囲気下で230℃、60分加熱し、ニッケル金属膜を得た。
【0055】
このニッケル金属膜の膜厚を段差計で測定したところ、2μmであり、体積抵抗は50mΩ・cmであった。
【0056】
比較例2
NFH 1g、MDEA 2g(MDEA/NFHのモル比 3.2)、DEG 1g、を混合したが、NFがインク組成物に溶解せず、スラリー状態になった。このスラリー状インク組成物を100μmの厚さでガラス基板上に塗布した。窒素雰囲気下で230℃、60分加熱したが、絶縁膜であり、ニッケル金属にならなかった。
【0057】
実施例11〜18
NFH 1gを表3記載の組成と混合した。なお、表3記載の組成は、NFHに対するモル比で記した。こうして調製したニッケルインク組成物を実施例1と同様の方法でガラス基板上に塗布し、窒素下、表3記載の温度で60分加熱した。
【0058】
生成した膜の体積抵抗を実施例1と同様に測定し、表3に記した。
【0059】
【表3】