特許第6241788号(P6241788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241788
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】アンテナ装置および無線送信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20171127BHJP
   H01P 5/18 20060101ALI20171127BHJP
   H01P 1/38 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   H04B1/04 A
   H04B1/04 P
   H01P5/18
   H01P1/38
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-125585(P2014-125585)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-5185(P2016-5185A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健
(72)【発明者】
【氏名】関 智弘
(72)【発明者】
【氏名】野島 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】日景 隆
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−278096(JP,A)
【文献】 特開2008−278097(JP,A)
【文献】 特開2013−098894(JP,A)
【文献】 特開平07−273688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H01P 1/38
H01P 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送線路を通じて入力される無線周波数信号を電磁波に変換して空間に放射する電磁波放射部と、
前記伝送線路上に設けられ、前記電磁波放射部に前記無線周波数信号が入力される際に発生した反射波を抽出する反射波抽出部と、
前記反射波抽出部により抽出された前記反射波の電力を整流して直流電力を出力する整流部と、
を備え
前記反射波抽出部は、サーキュレータから構成され、
前記サーキュレータは、
前記無線周波数信号による高周波電力が入力される第1ポートと、
前記第1ポートに入力された無線周波数信号による高周波電力を前記電磁波放射部へ出力するとともに、前記反射波による高周波電力が入力される第2ポートと、
前記第2ポートに入力された前記反射波による高周波電力を前記整流部に出力する第3ポートと、
を有し、
前記電磁波放射部の入力反射係数をR、前記無線周波数信号を発生させる増幅器の電力効率をηPA、前記整流部の電力変換効率をηCV、前記サーキュレータの通過係数をLcとしたときに、
(ηPA×ηCV×R×Lc+1)×Lc>1
なる関係を満足することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
伝送線路を通じて入力される無線周波数信号を電磁波に変換して空間に放射する電磁波放射部と、
前記伝送線路上に設けられ、前記電磁波放射部に前記無線周波数信号が入力される際に発生した反射波を抽出する反射波抽出部と、
前記反射波抽出部により抽出された前記反射波の電力を整流して直流電力を出力する整流部と、
を備え
前記反射波抽出部は、方向性結合器から構成され、
前記方向性結合器は、少なくとも、
前記無線周波数信号による高周波電力が入力される第1ポートと、
前記第1ポートに入力された無線周波数信号による高周波電力を前記電磁波放射部へ出力するとともに、前記反射波による高周波電力が入力される第2ポートと、
前記第2ポートに入力された前記反射波による高周波電力を前記整流部に出力する第3ポートと、
を有し、
前記電磁波放射部の入力反射係数をR、前記無線周波数信号を発生させる増幅器の電力効率をηPA、前記整流部の電力変換効率をηCVとしたときに、
ηPA×ηCV×(1+0.5×R)>1、且つ、ηPA×ηCV>2/3
なる関係を満足することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
前記伝送線路は平衡型線路であることを特徴とする請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記整流部から出力された直流電力を蓄える蓄電部を更に備えたことを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
アレーアンテナを備えた無線送信装置であって、
前記アレーアンテナは、請求項1からの何れか1項に記載のアンテナ装置をアレー化して備えたことを特徴とする無線送信装置。
【請求項6】
請求項1からの何れか1項に記載のアンテナ装置を備えた無線送信装置であって、
前記無線周波数信号の電力を増幅する増幅器と、
所定の電源から得られる電力を前記増幅器の動作電源電力として前記増幅器に供給し、前記整流部から前記直流電力が出力された場合、前記所定の電源から前記増幅器に供給される電力を制限すると共に前記直流電力を前記増幅器の動作電源電力として前記増幅器に供給する電源制御部と、
を備えた無線送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置および無線送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線送信装置の送信電力効率は、直流電源等の動作電源から無線送信装置に供給される動作電源電力のうち、実際にアンテナ装置から空間に放射される電磁波の電力の割合により表される。送信電力効率を改善するための技術として、非特許文献1には、高効率電力増幅器構成法により、無線送信装置において最も電力を消費する電力増幅器の電力効率を向上する技術が記載されている。
【0003】
無線送信装置の送信電力効率を改善するためには、上述の電力増幅器の電力効率を改善することのほかに、アンテナ装置に入力される無線周波数の電力とアンテナ装置から空間に放射される電磁波の電力との比によって表されるアンテナ放射効率を改善することが重要である。アンテナ放射効率は、アンテナ装置の入力インピーダンス整合がとれているか否か応じて異なり、入力インピーダンス整合がとれていれば、アンテナ放射効率が高くなり、入力インピーダンス整合がとれていなければ、アンテナ放射効率が低下する。
【0004】
図8(A)および図8(B)は、従来技術によるアンテナ装置4を備えた無線送信装置の送信電力効率を説明するための図であり、このうち、図8(A)は、アンテナ装置4の入力インピーダンス整合がとれている場合の送信電力効率を説明するための図であり、図8(B)は、アンテナ装置4の入力インピーダンス整合がとれていない場合の送信電力効率を説明するための図である。
【0005】
図8(A)および図8(B)において、入力端子1を通じて入力された電力Psの無線周波数信号は増幅器2(電力増幅器)によって増幅される。増幅器2から出力された無線周波数信号の電力Ptは、増幅器2とアンテナ装置4との間の接続点4aを通じてアンテナ装置4に供給される。アンテナ装置4は、電力Ptを電磁波に変換して空間に放射する。増幅器2の動作電源として電源3から直流電力Pdcが増幅器2に供給されている。この例では、無線送信装置の送信電力効率は、電源3から増幅器2に供給される直流電力Pdcと、アンテナ装置4から放射された電磁波の電力Pout’との比(Pout’/Pdc)によって表される。
【0006】
一般に、アンテナ装置において、放射導体の共振により高効率で電磁波を空間に放射するために、放射導体の物理サイズは、放射導体の共振周波数で定まる或る一定の大きさに設定され、入力インピーダンス整合がとられている。アンテナ装置4の入力インピーダンス整合がとれている場合、図8(A)に例示するように、増幅器2からアンテナ装置4に供給される無線周波数信号の電力Ptの一部の電力Pt12が反射波となり、電磁波の形成に寄与しないものの、電力Ptの大部分の電力Pt11は電磁波に変換される。このため、アンテナ装置4の入力インピーダンス整合がとれていると、アンテナ放射効率および送信電力効率が高くなり、増幅器2から出力される無線周波数信号のエネルギーは高い効率でアンテナ装置4から空間に放射される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F. H. Raab, “Maximum Efficiency and Output of Class-F Power Amplifiers,” IEEE Trans. on Microwave Theory and Techniques, Vol. 49, No. 6, pp.1162-1166, June 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、携帯端末に代表されるように、無線通信装置の小型化が推し進められている。無線通信装置の小型化を実現するためには、小型集積化されたアンテナ装置と通信回路を実現する必要がある。また、アレー化によりアンテナ装置の利得の向上を図る場合や、アンテナ装置の放射指向性を制御する場合にも、小型集積化されたアンテナ装置と無線送信装置を実現する必要がある。
【0009】
しかしながら、アンテナ装置を小型化するためには放射導体の物理サイズを小さくする必要があり、放射導体の物理サイズを小さくすると、無線周波数信号の波長との関係でアンテナ装置の入力インピーダンス整合をとることが困難になる。アンテナ装置の入力インピーダンス整合がとれないと、アンテナ装置において、無線周波数で放射導体の共振が得られなくなる。
【0010】
この場合、図8(B)に例示するように、増幅器2からアンテナ装置4に供給される無線周波数信号の電力Ptの一部の電力Pt21が電磁波に変換されるものの、電力Ptの大部分の電力Pt22は、アンテナ装置4と増幅器2との間の接続点4aで反射され、増幅器2側に戻される。即ち、増幅器2から出力される電力Ptの大部分は空間に放射されない。
【0011】
従って、アンテナ装置4の入力インピーダンス整合がとれていないと、アンテナ放射効率が低下する。この結果、電源3から増幅器2に供給される電力Pdcとアンテナ装置4から空間に放射される電磁波の電力Pout’との割合、即ち、無線送信装置の送信電力効率が低下する。
【0012】
更に具体的に説明する。
図9(A)及び図9(B)は、アンテナ装置の放射導体の長さと入力抵抗との関係の一例を示す特性図であり、このうち、図9(A)は、ダイポールアンテナのアンテナ長と入力抵抗との関係を示す特性図であり、図9(B)は、ループアンテナのループ長と入力抵抗との関係を示す特性図である。図9(A)において、横軸は、ダイポールアンテナの放射導体の長さであるアンテナ長Lを波長λで正規化した値(L/λ)を表し、縦軸は、ダイポールアンテナの入力抵抗を表す。また、図9(B)において、横軸は、ループアンテナの放射導体の長さであるループ長Dを波長λで正規化した値(D/λ)を表し、縦軸は、ループアンテナの入力抵抗を表す。
【0013】
通常、ダイポールアンテナの場合、棒状の放射導体の全長は、入力された無線周波数信号の例えば半波長に設定され、無線周波数信号の周波数で放射導体が共振する。ダイポールアンテナの入力インピーダンスは、例えば約73オームである。
【0014】
図9(A)から理解されるように、ダイポールアンテナのアンテナ長(L/λ)を無線周波数信号の半波長より短くすると、ダイポールアンテナの入力抵抗が大幅に小さくなる傾向を示す。このため、外付けの整合回路により入力インピーダンス整合を実現することが困難になる。無線送信装置の増幅器の出力とダイポールアンテナの入力抵抗が整合していないと、放射導体の共振を得ることができなくなる。このため、ダイポールアンテナに効率よく電力を供給することが困難になり、アンテナ放射効率が大幅に劣化する。また、図9(B)から理解されるように、ループアンテナについても、ダイポールアンテナと同様、ループ長(D/λ)を短くすると、ループアンテナの入力抵抗が大幅に小さくなり、入力インピーダンス整合を実現することが困難になる。
【0015】
このように、アンテナ装置の放射導体のサイズを無線周波数信号の半波長よりも小さくしてアンテナ装置を小型化することは、アンテナ装置の入力インピーダンス整合を劣化させる。アンテナ装置の入力インピーダンスの整合が劣化すると、上述したように、無線送信装置の増幅器からアンテナ装置に供給される無線周波数信号の電力の大部分が反射され、実際にアンテナ装置から空間に放射される電磁波の電力が小さくなる。このため、アンテナ放射効率が低下し、無線送信装置の送信電力効率が低下する。コードレス電話機のアンテナや無線タグのように、無線伝送距離が十分に短く、アンテナ放射効率が低下しても必要とされる信号強度が得られる用途を除けば、無線周波数信号の半波長よりも大幅に小さい微小サイズの放射導体を用いることは、アンテナ放射効率および送信電力効率の観点から好ましくない。
【0016】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、入力インピーダンス整合が劣化しても、送信周波数に依存することなく、送信電力効率を改善することができるアンテナ装置および無線送信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するため、次に述べるように、電磁波を空間に放射する電磁波放射部(導体部分)から反射されて無線送信装置の電力増幅器側に戻る反射波の電力を別経路で直流電力に変換し、その直流電力を回収して無線送信装置等の電源電圧として利用できるように構成したアンテナ装置および無線送信装置を提供する。
【0018】
本発明の一態様によるアンテナ装置は、伝送線路を通じて入力される無線周波数信号を電磁波に変換して空間に放射する電磁波放射部と、前記伝送線路上に設けられ、前記電磁波放射部に前記無線周波数信号が入力される際に発生した反射波を抽出する反射波抽出部と、前記反射波抽出部により抽出された前記反射波の電力を整流して直流電力を出力する整流部と、を備えたアンテナ装置の構成を有する。
【0019】
前記アンテナ装置において、例えば、前記伝送線路は平衡型線路である。
前記アンテナ装置において、例えば、前記反射波抽出部は、サーキュレータから構成され、前記サーキュレータは、前記無線周波数信号による高周波電力が入力される第1ポートと、前記第1ポートに入力された無線周波数信号による高周波電力を前記電磁波放射部へ出力するとともに、前記反射波による高周波電力が入力される第2ポートと、前記第2ポートに入力された前記反射波による高周波電力を前記整流部に出力する第3ポートと、を有する。
【0020】
前記アンテナ装置において、例えば、前記反射波抽出部は、方向性結合器から構成され、前記方向性結合器は、少なくとも、前記無線周波数信号による高周波電力が入力される第1ポートと、前記第1ポートに入力された無線周波数信号による高周波電力を前記電磁波放射部へ出力するとともに、前記反射波による高周波電力が入力される第2ポートと、前記第2ポートに入力された前記反射波による高周波電力を前記整流部に出力する第3ポートと、を有する。
【0021】
前記アンテナ装置において、例えば、前記電磁波放射部の入力反射係数をRとし、前記無線周波数信号を発生させる増幅器の電力効率をηPAとし、前記整流部の電力変換効率をηCVとしたときに、前記電磁波放射部の入力反射係数と、前記増幅器の電力効率と、前記整流部の電力変換効率は、ηPA×ηCV×(1+0.5×R)>1、且つ、ηPA×ηCV>2/3なる関係を満足する。
前記アンテナ装置において、例えば、前記整流部から出力された直流電力を蓄える蓄電部を更に備える。
【0022】
本発明の一態様による無線送信装置は、アレーアンテナを備えた無線送信装置であって、前記アレーアンテナは、上記のアンテナ装置をアレー化して備える。
本発明の一態様による無線送信装置は、上記のアンテナ装置を備えた無線送信装置であって、前記無線周波数信号の電力を増幅する増幅器と、所定の電源から得られる電力を前記増幅器の動作電源電力として前記増幅器に供給し、前記整流部から前記直流電力が出力された場合、前記所定の電源から前記送信増幅器に供給される電力を制限すると共に前記直流電力を前記増幅器の動作電源電力として前記増幅器に供給する電源制御部と、を備えた無線送信装置の構成を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、入力インピーダンス整合が劣化しても、送信周波数に依存することなく、送信電力効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を示す図である。
図3】本発明の第2実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を補足説明するための図である。
図4】本発明の第3実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を示す図である。
図5図4に示す本発明の第3実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を補足説明するための図である。
図6】本発明の第4実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を示す図である。
図7】本発明の第5実施形態によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の構成例を示す図である。
図8】従来技術によるアンテナ装置を備えた無線送信装置の送信電力効率を説明するための図であり、(A)は、アンテナ装置の入力インピーダンス整合がとれている場合の送信電力効率を説明するための図であり、(B)は、アンテナ装置の入力インピーダンス整合がとれていない場合の送信電力効率を説明するための図である。
図9】アンテナ装置の放射導体の長さと入力抵抗との関係の一例を示す特性図であり、(A)は、ダイポールアンテナのアンテナ長と入力抵抗との関係を示す特性図であり、(B)は、ループアンテナのループ長と入力抵抗との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態によるアンテナ装置150を備えた無線送信装置100の構成例を示す図である。
第1実施形態によるアンテナ装置150を備えた無線送信装置100は、アンテナ装置150の電磁波放射部151に高周波電力を給電する伝送線路上に、電磁波放射部151からの反射波を抽出する反射波抽出部152を設け、電磁波放射部151からの反射波を反射波抽出部152により抽出し、その反射波の電力を直流電力に変換して再利用する機能を有する。
【0026】
具体的には、無線送信装置100は、入力端子110、送信増幅器(電力増幅器)120、電源制御部130、バッテリや商用電源等の電源140、アンテナ装置150を備えている。送信増幅器120の入力部には、入力端子110を通じて電力Psの無線周波数信号Ssが供給される。送信増幅器120は、電力Psの無線周波数信号Ssを増幅して電力Ptの無線周波数信号Stを出力する。送信増幅器120から出力された無線周波数信号Stの電力Ptはアンテナ装置150に供給される。
【0027】
電源制御部130は、送信増幅器120の動作電源電力Pdcinを供給するための構成要素である。本実施形態では、電源制御部130は、バッテリや商用電源等の所定の電源140から得られる電力Pdcを送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして送信増幅器120の電源端子(図示なし)に供給する。また、電源制御部130は、アンテナ装置150の整流部153から直流電力Pdcretが出力された場合、動作電源電力Pdcinとして所定の電源140から送信増幅器120に供給される電力を制限すると共に、直流電力Pdcretを送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして送信増幅器120の電源端子(図示なし)に供給する。
【0028】
アンテナ装置150は、電磁波放射部151、反射波抽出部152、整流部153を備えている。送信増幅器120の出力部と電磁波放射部151とは伝送線路(符号なし)を介して接続されており、上記伝送線路上には反射波抽出部152が設けられている。即ち、送信増幅器120の出力部と電磁波放射部151との間には、反射波抽出部152が接続されている。送信増幅器120の出力部と反射波抽出部152との間は伝送線路を介して接続され、反射波抽出部152と電磁波放射部151との間も伝送線路を介して接続されている。
【0029】
電磁波放射部151は、送信増幅器120から伝送線路を通じて入力される無線周波数信号Stを電磁波に変換して空間に放射するための構成要素である。本実施形態では、電磁波放射部151は、共振波長を無視した超小型設計のダイポールアンテナから構成され、その放射導体の長さは、例えば、無線周波数の電波伝搬空間内波長の10分の1以下に設定されている。即ち、電磁波放射部151の放射導体の長さは、必ずしも入力インピーダンス整合をとることを前提として設定されていない。
なお、電磁波放射部151は、所望の無線通信に必要とされる電磁波を空間に放射し得ることを限度として、任意の形式のアンテナから構成することができ、その放射導体の長さも任意に設定し得る。
【0030】
反射波抽出部152は、送信増幅器120から出力された無線周波数信号Stが電磁波放射部151に入力される際に発生する反射波を抽出するための構成要素である。
整流部153は、反射波抽出部152により抽出された反射波の電力Pretを整流して直流電力Pdcretを出力するための構成要素である。
【0031】
なお、第1実施形態では、アンテナ装置150に電力Ptの無線周波数信号Stを供給するための伝送線路は、アンテナ装置150から所望の電磁波を放射することができることを限度として、不平衡型線路であってもよく、平衡型線路であってもよい。即ち、送信増幅器120と反射波抽出部152との間の伝送線路と、反射波抽出部152と電磁波放射部151との間の伝送線路は、不平衡型線路であってもよく、平衡型線路であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0032】
次に、第1実施形態によるアンテナ装置150を備えた無線送信装置100の動作を説明する。ここでは、送信増幅器120から出力される電力Ptの無線周波数信号Stがアンテナ装置150に入力される際に発生する反射波の電力Pretを回収し、この反射波の電力Pretを送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして利用するまでの無線送信装置100の動作を説明する。
【0033】
無線周波数信号Ssが送信増幅器120に入力されていない状態では、電源制御部130は、送信増幅器120の動作電源電力Pdcinを、バッテリや商用電源等の所定の電源140の電力Pdcから得る。即ち、電源制御部130は、電源140から得られる電力Pdcを動作電源電力Pdcinとして送信増幅器120に供給する。この状態から、電力Psの無線周波数信号Ssが送信増幅器120に入力されると、送信増幅器120は、無線周波数信号Ssを増幅して電力Ptの無線周波数信号Stをアンテナ装置150に出力する。
【0034】
送信増幅器120からアンテナ装置150に入力された無線周波数信号Stは、反射波抽出部152を通じて電磁波放射部151に供給される。このとき、電磁波放射部151に供給される無線周波数信号Stの一部が、反射波抽出部152と電磁波放射部151との間の接続点151aで反射される。電磁波放射部151の接続点151aで反射された反射波は、反射波抽出部152に入力される。反射波抽出部152は、電磁波放射部151で反射された反射波を抽出し、その反射波の電力Pretを整流部153に出力する。整流部153は、反射波抽出部152により抽出された反射波の電力Pretを整流して直流電力Pdcretを生成し、直流電力Pdcretを電源制御部130に供給する。
【0035】
電源制御部130の検知部132は、整流部153から直流電力Pdcretが入力されると、直流電力Pdcretを検知する。検知部132は、直流電力Pdcretを検知すると、電流制限部131に対し、電源140から送信増幅器120に供給される動作電源電力Pdcinを制限すると共に直流電力Pdcretを送信増幅器120の動作電源電力Pdcretとして利用する旨の指示を出力する。
【0036】
電流制限部131は、検知部132からの上記の指示を受けると、整流部153から供給される直流電力Pdcretの電流に相当する量だけ、所定の電源140からの電力Pdcの電流を制限する。このとき、電流制限部131は、整流部153から直流電力Pdcretを受電し、直流電力Pdcretを利用して送信増幅器120の動作電源電力Pdcinを生成する。
【0037】
具体的には、整流部153から供給される直流電力Pdcretが、送信増幅器120の動作に必要とされる電力未満である場合、電流制限部131は、直流電力Pdcretの全てを動作電源電力Pdcinとして利用すると共に、不足分の電力(Pdc−Pdcret)を所定の電源140の電力Pdcから得る。この場合、整流部153から出力される直流電力Pdcretの電流分だけ、所定の電源140から供給される電力Pdcの電流量が減少されるため、電源140の電力Pdcの消費が抑制される。なお、エネルギー保存則から、直流電力Pdcretが動作電源電力Pdcin以上になることはない。
【0038】
このように、電磁波放射部151で反射された反射波の電力Pretは、反射波抽出部152で回収され、整流部153から直流電力Pdcretとして電源制御部130に帰還される。電源制御部130の電流制限部131は、整流部153から供給される直流電力Pdcretに応じて電源140の電力Pdcの利用を制限し、反射波の電力Pretから生成された直流電力Pdcretを送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして利用する。このため、電源140の電力Pdcと電磁波放射部151から放射される電磁波の電力Poutとの比(Pout/Pdc)によって表される送信電力効率を改善することができ、無線送信装置100全体での消費電力を低減することが可能となる。
【0039】
従来の技術による無線送信装置の構成方法では、例えば、電磁波放射部151の入力部(接続点151a)において送信増幅器120側とのインピーダンス整合がとられ、例えば、目安として入力反射係数(SパラメータのS11)が−10dB以下に設定される。この場合、電磁波放射部151から送信増幅器120側への反射波の電力は、電磁波放射部151の入射波の電力Ptの1/10以下となる。即ち、送信増幅器120から出力される無線周波数信号Stの電力Ptの約90パーセントは、電磁波放射部151での損失を除いて、電磁波として空間に放射される。
【0040】
一方、本発明の第1実施形態によれば、アンテナ装置150の電磁波放射部151の放射導体として、入力インピーダンス整合をとることが困難な微小な放射導体を使用した場合には、一般のアンテナ装置と同様に、電磁波放射部151の入射波の大半は反射されるため、全体の効率は低下する。しかし、第1実施形態では、反射波抽出部152が、電磁波放射部151での反射波を抽出し、整流部153が、反射波抽出部152によって抽出された反射波の電力Pretを整流して直流電力Pdcretとして回収する。そして、電源制御部130が、整流部153により整流された直流電力Pdcretを利用して送信増幅器120の動作電源電力Pdcinを生成する。
【0041】
このように、第1実施形態によれば、反射波の電力Pretが送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして利用されるので、入力インピーダンス整合が劣化しても、送信周波数(無線周波数信号の周波数)に依存することなく、無線送信装置100全体で送信電力効率を改善することができる。
【0042】
また、第1実施形態によれば、反射波の電力Pretを回収して送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして利用するので、微小サイズ(例えば、無線周波数信号の半波長以下のサイズ)の電磁波放射部151を用いたことにより入力インピーダンス整合がとれなくても、アンテナ放射効率と送信電力効率の各特性に優れた微小アンテナを実現することができる。
【0043】
また、第1実施形態によれば、微小サイズ(例えば、無線周波数信号の半波長以下のサイズ)の電磁波放射部151を用いた場合において、電磁波放射部151の共振現象を利用しないので、アンテナ放射効率と送信電力効率の送信周波数に対する依存性を抑制することが出来る。
【0044】
また、第1実施形態によれば、電磁波放射部151を微小サイズの放射導体から構成し、アンテナ装置150を小型に構成することができるため、無線送信装置100を高集積化することを実現することができる。
【0045】
また、第1実施形態によれば、微小サイズの電磁波放射部151からなるアンテナ素子をアレー化することができる。このため、空間に放射される電磁波の振幅だけでなく、位相の放射指向特性を柔軟に制御することができるいわゆるパターンコントロールアンテナを実現することができる。この場合、各アンテナ素子から空間に放射される電磁波の電力は小さくなるが、多数のアンテナ素子を並列化することにより、空間に放射される電磁波の電力として、共振型アンテナ等を使用した場合と同等の電力を得ることができる。
【0046】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図2は、本発明の第2実施形態によるアンテナ装置250を備えた無線送信装置200の構成例を示す図である。
【0047】
第2実施形態による無線送信装置200は、上述の第1実施形態による図1に示す無線送信装置100の構成において、アンテナ装置150に代えてアンテナ装置250を備えている。アンテナ装置250は、上述の第1実施形態による図1に示すアンテナ装置150の構成において、アンテナ装置150に電力Ptを供給するための伝送線路として平衡型線路161を備えている。即ち、送信増幅器120と反射波抽出部152との間の伝送線路と、反射波抽出部152と電磁波放射部151との間の伝送線路は、それぞれ、平衡型線路161である。その他は第1実施形態と同様である。
【0048】
第2実施形態によれば、平衡型線路161を流れる高周波電流によって形成される電磁界(図示なし)は、平衡型線路161を構成する2本の線路導体間の内部空間に閉じ込められる。これにより、平衡型線路161から外部の空間へ放射される電磁波が抑制され、電磁波放射部151以外の部分からの電磁波の放射が抑えられる。このため、アンテナ装置150に電力Ptを供給するための伝送線路でのエネルギーの損失を低減することができる。従って、第2実施形態によれば、送信電力効率の更なる改善効果を得ることができる。
【0049】
ここで、第2実施形態による効果を補足説明するために、平衡型線路161に代えて不平衡型線路を備えた場合について検討する。
図3は、図2に示す本発明の第2実施形態によるアンテナ装置250を備えた無線送信装置200の構成例を補足説明するための図であり、図2に示す平衡型線路161に代えて不平衡型線路162を備えた構成例を示す図である。図3の例では、送信増幅器120と反射波抽出部152との間の伝送線路と、反射波抽出部152と電磁波放射部151との間の伝送線路は、それぞれ、不平衡型線路162から構成され、不平衡型線路162は、例えば不平衡型のマイクロストリップ線路である。
【0050】
図3の例によれば、アンテナ装置150に電力Ptを供給する過程で不平衡型線路162には高いレベルの反射波が発生し、大きな定在波が発生する。そのため、不平衡型線路162が一種のアンテナとして機能し、不平衡型線路162から不必要な方向へ電磁波Etが放射される。不平衡型線路162から放射される電磁波Etの電力が大きいと、例えばアレー構成によるパターンコントロールアンテナ等を実施する用途において不要な方向へ電磁波の放射が行われるため、所望のアンテナ放射パターンを得ることが困難になる。
【0051】
従って、送信増幅器120から電磁波放射部151へ電力Ptを伝送する伝送線路(即ち、送信増幅器120と反射波抽出部152との間の伝送線路と、反射波抽出部152と電磁波放射部151との間の伝送線路)として、マイクロストリップ線路のような不平衡型線路162を用いるよりも、図2に示す平衡型線路161を用いた方が望ましい。ただし、図3に示す不平衡型線路162からの不要な電磁波Etの放射は、通信が破綻しないことを限度として許容することができ、本発明は不平衡型線路の使用を排除しない。
【0052】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図4は、本発明の第3実施形態によるアンテナ装置350を備えた無線送信装置300の構成例を示す図である。
図4に示す無線送信装置300は、上述の第1実施形態による図1に示す無線送信装置100の構成において、アンテナ装置150に代えてアンテナ装置350を備える。アンテナ装置350は、上述の第1実施形態による図1に示すアンテナ装置150の構成において、反射波抽出部152としてサーキュレータ352を備えている。即ち、反射波抽出部152は、サーキュレータ352から構成されている。その他は第1実施形態または第2実施形態と同様である。
【0053】
サーキュレータ352は、第1ポート(符号なし)、第2ポート(符号なし)、第3ポート(符号なし)を備える。第1ポートは、送信増幅器120の出力部に接続されている。第1ポートには、送信増幅器120から出力された無線周波数信号Stによる高周波電力Ptが入力される。第2ポートは、電磁波放射部151の入力部(接続点151a)に接続されている。第2ポートからは、第1ポートに入力された無線周波数信号Stによる高周波電力Ptが電磁波放射部151へ出力される。また、第2ポートには、電磁波放射部151からの反射波による高周波電力が入力される。第3ポートは、整流部153の入力部に接続されている。第3ポートからは、第2ポートに入力された上記反射波による高周波電力が整流部153に出力される。
【0054】
サーキュレータ352の通過係数Lc(0<Lc≦1)は、高周波電力Ptの無線周波数信号Stがサーキュレータ352を順方向で伝達するときの信号レベルの変動の度合いを示す量である。一般に、マイクロ波用のサーキュレータ製品の通過係数Lcは−1dB程度である。送信増幅器120から出力された無線周波数信号Stはアンテナ装置350のサーキュレータ352の第1ポートに入力される。サーキュレータ352に入力された無線周波数信号Stの電力Ptのうち、次式(1)により表される電力Ptaが、第2ポートから電磁波放射部151に出力される。
【0055】
Pta=Lc×Pt …(1)
【0056】
電磁波放射部151に入力された電力Ptaの無線周波数信号の一部は、電磁波放射部151から空間に放射され、残りは接続点151aで反射され、反射波となってサーキュレータ352の第2ポートに入力される。電磁波放射部151の反射係数をR(0<R<1)とすると、電磁波放射部151から空間に放射される電磁波の電力Poutは、次の式(2)により表される。
【0057】
Pout=Lc×Pt×(1−R) …(2)
【0058】
また、電磁波放射部151の接続点151aから反射波となってサーキュレータ352の第2ポートに入力される無線周波数信号の電力(反射波の電力)Pretは、次の式(3)により表される。
【0059】
Pret=Lc×Pt×R …(3)
【0060】
サーキュレータ352の第2ポートに入力された反射波の電力Pretは、整流部153に入力され、整流部153により直流電力Pdcretに変換される。直流電力Pdcretは、電源制御部130に入力される。整流部153により変換された直流電力Pdcretは、電源制御部130に供給される。直流電力Pdcretは、次式(4)により表される。式(4)において、ηCVは整流部153の電力変換効率を表し、電力変換効率ηCVは、無線周波数の電力から直流電力への変換効率を表し、整流部153における直流−直流変換器での効率も含む。
【0061】
Pdcret=ηCV×Lc×Pt×R …(4)
【0062】
ここで、送信増幅器120の利得Gが十分に高く、即ち、Pt>>Psなる関係が成り立ち、電源制御部130から送信増幅器120に供給される動作電源電力Pdcinと送信増幅器120の電力効率ηPAとの積が送信増幅器120から出力される無線周波数信号の電力Ptと等しいとする。即ち、次式(5)が成り立つとする。
【0063】
Pt=ηPA×Pdcin …(5)
【0064】
無線送信装置300全体の送信電力効率η(即ち、無線送信装置300が消費する電源電力、言い換えれば、バッテリ等の電源140の消費量に対する、空間に放射される無線周波数の電磁波の電力Poutの割合)は、次式(6)により表される。
【0065】
η=Pout/(Pdcin−Pdcret) …(6)
【0066】
式(6)の分母において、整流部153から電源制御部130に帰還される直流電力Pdcretを送信増幅器120の動作電源電力Pdcinから差し引いている点に注目されたい。第3実施形態によるアンテナ装置350が有する直流電力Pdcretの帰還機能により、式(6)の分母に直流電力Pdcretの減算が含まれる。この直流電力Pdcretが大きいほど、式(6)の分母の値は小さくなるため、無線送信装置300全体の送信電力効率ηは大きくなる。式(2)、式(4)、式(5)を式(6)に代入すると、次式(7)が得られる。式(7)に示すように、送信電力効率ηは、送信増幅器120の変換効率ηPAと整流部153の変換効率ηCVと電磁波放射部151の反射係数Rの関数として表すことができる。
【0067】
η={ηPA(1−R)×Lc}/{1−ηPA×ηCV×R×Lc} …(7)
【0068】
参考として、前述の図8(B)を参照して、上述の第3実施形態による直流電力Pdcretの帰還機能がない場合の送信電力効率ηを求める。
第3実施形態によるアンテナ装置350を使用しない場合の無線送信装置の構成は、図8(B)に示す従来の無線送信装置と同様になり、図8(B)に示される無線送信装置、即ち、直流電力の帰還機能がない無線送信装置の送信電力効率ηは次式(8)により表される。式(8)において、Pout’は、図8(B)に示す従来構成においてアンテナ装置4の電磁波放射部から放射される電磁波の電力を表している。
【0069】
η=Pout’/Pdcin …(8)
【0070】
この場合も、送信増幅器120の利得Gが十分に高く、電源制御部130から送信増幅器120に供給される動作電源電力Pdcinと送信増幅器120の電力効率ηPAとの積が送信増幅器120から出力される無線周波数信号の電力Ptと等しいと仮定する。ここで、電磁波放射部151から空間に放射される無線周波数の電磁波の電力Pout’は、次式(9)によって表される。
【0071】
Pout’=(1−R)×Pt=ηPA×Pdcin×(1−R) …(9)
【0072】
式(8)と式(9)から、無線送信装置の送信電力効率ηは次式(10)のように表される。
【0073】
η=Pout’/Pdcin=ηPA×(1−R) …(10)
【0074】
式(10)に示される従来の無線送信装置の送信電力効率ηよりも、第3実施形態によるアンテナ装置350を用いた無線送信装置300の効率η(式(7))が大きい場合、即ち、η<ηなる大小関係が成立する場合に第3実施形態による無線送信装置300が有用であるといえる。よって、第3実施形態による無線送信装置300が有用となる条件は、式(7)と式(10)を用いて、次式(11)により表される。
【0075】
(ηPA×ηCV×R×Lc+1)×Lc>1 …(11)
【0076】
ここで、第3実施形態による無線送信装置300において、式(11)によって示される条件が満足されるかどうかについて、一例を挙げて検証する。
基準インピーダンスが50オームの回路において、電磁波放射部151の入力抵抗が1オームの場合、電磁波放射部151の反射係数Rが0.961となるため、リターンロスはわずか0.346dBである。この例から、反射係数Rを0.961と仮定する。その他のパラメータを次のように仮定する。
【0077】
ηCV=0.9
Lc=0.9
ηPA=0.7
【0078】
従来構成による無線送信装置の送信増幅器の効率ηは、式(10)より、次式(12)のように算出される。
【0079】
η=ηPA×(1−R)=0.7×(1−0.961)=0.027 …(12)
【0080】
これに対し、第3実施形態によるアンテナ装置350を備えた無線送信装置300の送信電力効率ηは、式(7)より、次式(13)のように算出される。
【0081】
η={ηPA×(1−R)×Lc}/{1−ηPA×ηCV×R×Lc}=0.7×(1−0.96)×0.9/(1−0.7×0.9×0.0961×0.9)=0.048 …(13)
【0082】
上述の例では、第3実施形態によるアンテナ装置350を用いた無線送信装置300の効率ηと従来構成による無線送信装置の送信増幅器の効率ηとの比(η/η)は、式(12)および式(13)から、約1.8(=0.048/0.027)となり、送信電力効率ηは約1.8倍に向上している。従って、第3実施形態によれば、従来構成に比較して、無線送信装置300全体の送信電力効率ηを向上させることができる。
【0083】
図5は、図4に示す本発明の第3実施形態によるアンテナ装置350を備えた無線送信装置300の構成例を補足説明するための図である。図5に示す無線送信装置300aはアンテナ装置350aを備え、アンテナ装置350aは、図4に示す整流部153に代えて、負荷装置であるダミーロード155を備えている。また、図5に示すサーキュレータ154は図4に示すサーキュレータ352に対応している。図5に示すアンテナ装置350aの構成は従来装置の構成に相当し、ダミーロード155は、サーキュレータ154から出力される反射波の電力Pretを消費することにより反射波を吸収するためのものである。図5の構成によれば、反射波が通信に与える影響を抑制することができる。
【0084】
しかしながら、図5に示す従来装置に相当する構成によれば、サーキュレータ154から出力される電力Pret(=Lc×Pt×R)は、ダミーロード155によって消費され、送信増幅器120の動作電源電力Pdcinとして利用されることはない。従ってこの場合、反射波による電力Pretは送信電力効率ηの向上に寄与しない。これに対し、第3実施形態による図4に示す無線送信装置300によれば、上述したように、サーキュレータ154により回収された反射波の電力Pretを整流して直流電力Pdcretに変換する整流部153を備えたことにより、無線送信装置300の送信電力効率を改善することができる。
【0085】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
図6は、本発明の第4実施形態によるアンテナ装置450を備えた無線送信装置400の構成例を示す図である。
【0086】
図6に示す無線送信装置400は、上述の第1実施形態による図1に示す無線送信装置100の構成において、アンテナ装置150に代えてアンテナ装置450を備える。アンテナ装置450は、上述の第1実施形態による図1に示すアンテナ装置150の構成において、反射波抽出部152として、方向性結合器452および電力合成器453を備えている。即ち、第4実施形態では、図1に示す反射波抽出部152が方向性結合器452および電力合成器453から構成されている。方向性結合器452は、例えば3dB方向性結合器である。電力合成器453は、極めて低損失で電力を合成することができる例えばウィルキンソン分配器等である。
【0087】
方向性結合器452は、第1ポート452a、第2ポート452b、第3ポート452c、第4ポート452dを備える。第1ポート452aは、送信増幅器120の出力部に接続されている。第1ポート452aには、送信増幅器120から出力された無線周波数信号Stによる高周波電力Ptが入力される。第2ポート452bは、電磁波放射部151の入力部(接続点151a)に接続されている。第2ポート452bからは、第1ポート452aに入力された無線周波数信号Stによる高周波電力Ptの2分の1の電力(0.5×Pt)が電磁波放射部151へ出力される。また、第2ポート452bには、電磁波放射部151からの反射波による高周波電力(0.5×Pt×R)が入力される。
【0088】
第3ポート452cおよび第4ポート452dは、電力合成器453の入力部に接続されている。第3ポート452cからは、第2ポート452bに入力された反射波の高周波電力(0.5×Pt×R)の2分の1の電力(0.25×Pt×R)が電力合成器157に出力される。第4ポート452dからは、第1ポート452aに入力された高周波電力Ptの2分の1の電力(0.5×Pt)が電力合成器453に出力される。
【0089】
電力合成器453の出力部は、整流部153の入力部に接続されている。電力合成器453の出力部からは、上述の方向性結合器452の第3ポート452cから出力された電力(0.25×Pt×R)と第4ポート452dから出力された電力(0.5×Pt)とを合成して得られる電力(0.5×(1+0.5×R)×Pt)が整流部153に供給される。
その他は第1実施形態または第2実施形態と同様である。
【0090】
送信増幅器120から出力された電力Ptの無線周波数信号Stはアンテナ装置450に入力される。入力された無線周波数信号Stは、方向性結合器452の第1ポート452aへ入力される。方向性結合器452に入力された電力Ptのうちの半分の電力(0.5×Pt)は第2ポート452bから電磁波放射部151に出力され、残りの半分(0.5×Pt)は方向性結合器452の第4ポート452dから電力合成器157に出力される。方向性結合器452の第2ポート452bから電磁波放射部151に出力される電力をP452bとし、方向性結合器452の第4ポート452dから電力合成器453に出力される電力をP452dとすれば、これら電力P452b,P452dは、次式(14)によって表される。
【0091】
P452b=P452d=0.5×Pt …(14)
【0092】
方向性結合器452の第2ポート452bから電磁波放射部151に入力された信号の電力は、一部が空間に放射され、残りは反射されて方向性結合器452の第2ポート452bに戻る。電磁波放射部151の反射係数をR(0<R<1)とすると、空間に放射される電力レベルPoutは次式(15)により表される。
【0093】
Pout=0.5×Pt×(1−R) …(15)
【0094】
また、電磁波放射部151の入力部から反射波として方向性結合器452の第2ポート452bに戻る反射波の電力Pretは次式(16)により表される。
【0095】
Pret=0.5×Pt×R …(16)
【0096】
式(16)により表される電力Pretのうちの半分は方向性結合器452の第3ポート452cから電力合成器453に入力される。よって、式(14)と式(16)より、電力合成器453から出力される電力をP453とすれば、電力P453は次式(17)により表される。
【0097】
P453=0.5×Pt×(1+0.5×R) …(17)
【0098】
式(17)により表される電力P453は整流部153に入力され、直流に変換されたのち、電源制御部130に入力される。整流部153における無線周波数の反射波の電力Pretから直流電力Pdcretへの電力変換における電力変換効率をηCVとすれば、整流部153から出力される直流電力Pdcretは、次式(18)により表される。
【0099】
Pdcret=ηCV×0.5×Pt×(1+0.5×R) …(18)
【0100】
ここで、送信増幅器120の利得Gが十分に高く、即ち、Pt>>Psなる関係が成り立ち、電源制御部130から送信増幅器120に供給される動作電源電力Pdcinと送信増幅器120の電力効率ηPAとの積が送信増幅器120から出力される無線周波数信号の電力Ptと等しいとする。即ち、次式(19)が成り立つとする。
【0101】
Pt=ηPA×Pdcin …(19)
【0102】
無線送信装置400全体の送信電力効率η(即ち、無線送信装置400が消費する電源電力、言い換えれば、バッテリ等の電源140の消費量に対する、空間に放射される無線周波数の電磁波の電力Poutの割合)は、次式(20)により表される。
【0103】
η=Pout/(Pdcin−Pdcret) …(20)
【0104】
ここで、式(20)の分母において、整流部153から帰還する直流電力Pdcretを送信増幅器120の動作電源電力Pdcinから差し引いている点に注目されたい。第4実施形態によるアンテナ装置450が有する直流電力の帰還機能により、式(20)の分母に電力Pdcretの減算が含まれる。この直流電力Pdcretが大きいほど、式(20)の分母の値は小さくなるため、無線送信装置400全体の送信電力効率ηは大きくなる。式(15)、式(18)、式(19)を(20)に代入すると、次式(21)が得られる。式(21)に示すように、送信電力効率ηは、送信増幅器120の変換効率ηPAと整流部153の変換効率ηCVと電磁波放射部151の反射係数Rの関数として表すことができる。
【0105】
η=0.5×Pt×(1−R)/{Pt/ηPA−ηCV×0.5×Pt×(1+0.5×R)}=ηPA×(1−R)/{2−ηPA×ηCV×(1+0.5×R)} …(21)
【0106】
第4実施形態では、3dB方向性結合器452により送信増幅器120の出力をあらかじめ半分に分けて電磁波放射部151に出力しているため、全体効率が低くなるように見える。しかし、それは、電磁波放射部151の反射係数Rが大きい場合、つまり電磁波放射部151の入力インピーダンス整合がとれていない場合には当てはまらない。従って、第4実施形態によれば、入力インピーダンス整合がとれていない状況において、送信電力効率ηを改善する効果が得られる。
【0107】
第4実施形態では、上述のように電磁波放射部151の反射係数Rが大きい場合に送信電力効率ηを改善する効果が得られるが、次に、電磁波放射部151の反射係数がどのような範囲にあるときに送信電力効率ηの改善効果が得られるのかを定量的に検討する。
【0108】
第4実施形態によるアンテナ装置450を使用しない場合の無線送信装置の構成は、図8(B)に示す従来の無線送信装置の構成と同様である。図8(B)に示される、直流電力の帰還機能がない無線送信装置の送信電力効率ηは、次式(22)により表される。式(22)において、Pout’は、図8(B)に示す従来構成においてアンテナ装置4の電磁波放射部から放射される電磁波の電力を表している。
【0109】
η=Pout’/Pdcin …(22)
【0110】
ここで、電磁波放射部151から空間に放射される無線周波数の電磁波の電力Pout’は、次式(23)によって表される。
【0111】
Pout’=(1−R)×Pt=ηPA×Pdcin×(1−R) …(23)
【0112】
式(22)、式(23)から、無線送信装置の送信電力効率ηは次式(24)のように書き換えられる。
【0113】
η=Pout’/Pdcin=ηPA×(1−R) …(24)
【0114】
上記の式(24)に示される従来の無線送信装置の効率ηよりも、第4実施形態によるアンテナ装置450を用いた無線送信装置400の送信電力効率η(式(21))が大きい場合、つまり、η<ηなる大小関係が成立する場合に第4実施形態による無線送信装置400が有用であるといえる。よって、第4実施形態による無線送信装置400が有用となる条件は、式(21)と式(24)を用いて、次式(25)により表される。
【0115】
ηPA×(1−R)<ηPA×(1−R)/{2−ηPA×ηCV×(1+0.5×R)} …(25)
【0116】
式(25)を書き換えると、次式(26)が得られる。式(26)から、反射係数Rが式(26)を満たす大きな値であるとき、本発明が有用となることがわかる。
【0117】
R>2×{1/(ηPA×ηCV)−1} …(26)
【0118】
送信増幅器120と整流部153の各変換効率が高ければ、反射係数Rがより小さな場合でも本発明が有用であるといえる。また、反射係数Rは必ず1より小さいので、式(26)の右辺も1より小さい値である必要がある。つまり、次式(27)が満足される必要がある。
【0119】
ηPA×ηCV>2/3 …(27)
【0120】
第4実施形態では、電磁波放射部151が非常に小型で反射係数Rが大きい場合、即ち、反射係数Rが1に近い値をとる場合を想定しているので、第4実施形態によるアンテナ装置450の有用性は明らかである。従って、第4実施形態によれば、無線送信装置400の送信電力効率ηを有効に改善することができる。
【0121】
<第5実施形態>
図7は、本発明の第5実施形態によるアンテナ装置150を備えた無線送信装置500の構成例を示す図である。
第5実施形態による無線送信装置500は、上述の第1実施形態による図1に示す無線送信装置100の構成において、電源制御部130に代えて電源制御部530を備える。電源制御部530は、上述の第1実施形態による図1に示す電源制御部130の構成において、整流部153から出力された直流電力Pdcretを蓄えるための蓄電部133を更に備えている。即ち、電源制御部530は、直流電力Pdcretをエネルギーとして蓄積する機能、即ち二次電池を充電する機能を有している。第5実施形態では、蓄電部133は、電流制限部131と検知部132との間に接続されている。その他は第1実施形態から第4実施形態の何れかと同様である。
【0122】
第5実施形態によれば、電源制御部530が蓄電部133を備えたことにより、例えば電源140の容量よりも大きな電力が必要になった場合、蓄電部133に蓄積されたエネルギーを纏めて利用することができ、送信増幅器120が必要とする電力を安定的に確保することができる。
【0123】
<第6実施形態>
第6実施形態による無線送信装置は、上述した第1実施形態から第5実施形態による無線送信装置において、アンテナ装置を多数アレー化して備えた構成を有している。即ち、第6実施形態による無線送信装置は、アレーアンテナを備え、上記アレーアンテナは、第1実施形態から第5実施形態の何れかのアンテナ装置をアレー化して備えている。その他は第1実施形態から第5実施形態の何れかと同様である。
【0124】
第6実施形態によれば、第1から第5実施形態によるアンテナ装置を多数アレー化して備えたことにより、位相指向性をコントロールすることが可能な無線送信装置を実現することができる。前述したように、電磁波放射部151の放射導体の物理サイズを小さくすると、送信電力効率ηが劣化するが、第6実施形態によるアレー化されたアンテナ装置を使用すれば、送信電力効率ηの劣化を補うことが可能となる。これに対し、上述した第1実施形態から第5実施形態によれば、電磁波放射部151の放射導体の物理サイズを小さくすると、空間に放射される電磁波の電力Poutを大きくすることはできないが、第6実施形態によれば、アンテナ装置をアレー化することにより、アンテナ装置から放射される電磁波の電力を大きくすることが可能となる。
【0125】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意の変形や修正等が可能である。
【符号の説明】
【0126】
100,200,300,400,500…無線送信装置、110…入力端子、120…送信増幅器(電力増幅器)、130,530…電源制御部、133…蓄電部、140…電源、150,250,350,450…アンテナ装置、352…サーキュレータ、151…電磁波放射部、152…反射波抽出部、153…整流部、155…ダミーロード、161…平衡型線路、162…不平衡型線路、452…方向性結合器、453…電力合成器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9