【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人日本学術振興会最先端研究開発支援プログラム「低炭素社会創成へ向けた炭化珪素(SiC)革新パワーエレクトロニクスの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの利用において、生成から利用までの間に多段階の電力変換(交流・直流変換、電圧や周波数変換)が行われており、多数の半導体パワーデバイスが用いられている。これら半導体パワーデバイスを低損失化、高性能化することは電力利用の大幅節減につながる。特に、太陽光発電、風力発電、コジェネレーション等が接続された将来の電気エネルギーネットワーク(スマートグリッド)においては、電力の安定供給を実現するために超高電圧・高効率電力変換器が必須となる。この変換器において、超高耐圧(13kV超)かつ低損失の半導体パワーデバイスがカギとなるが、Si等の既存の半導体では実現不可能である。
一方、SiCは、Siに比べて絶縁破壊電界強度が約10倍、禁制帯幅と熱伝導率が約3倍という優れた物性を持ち、しかも広範囲の伝導性制御(n型、p型とも)が容易な間接遷移型半導体であるので、Siでは到達できない超高耐圧の半導体パワーデバイスの実現を可能とする。
【0003】
超高耐圧の半導体パワーデバイスとしては、その特性を発揮するために不純物濃度が1×10
15cm
−3〜1×10
13cm
−3で、厚みが100μmを超えるドリフト層を有することになるが、このドリフト層の抵抗が無視できなくなる。特に、ショットキーダイオードやMOSFETといったユニポーラー動作のデバイスではドリフト層の抵抗の影響が顕著になる。これを回避するために、伝導度変調を利用できるバイポーラ動作デバイス、例えばPiNダイオード、IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)が利用される。
【0004】
n型ドリフト層を用いるn−ch IGBTは、p型ドリフト層を用いるp−ch IGBTに比べて、MOSFETのチャンネル抵抗が低いこと、n型ドリフト層の少数キャリアライフタイムが長いことからp−ch IGBTに比べてオン抵抗をより低減することが可能である。
n−ch IGBTを作製するためには、一般的にはp型炭化珪素単結晶基板上にn型ドリフト層を100μm以上エピタキシャル成長させ、そのドリフト層表面にMOSFETを形成させる必要がある。この時、n型ドリフト層としては、極めて高品質な結晶であることが求められる。特に、バイポーラ動作をする炭化珪素デバイスでは、ドリフト層中に基底面転位が存在すると、導通時に基底面転位が拡張し、積層欠陥を発生させ、この積層欠陥が導通時の抵抗となりオン抵抗が増加することが分かっている。
ドリフト層は、エピタキシャル成長により作製されるが、ドリフト層に存在する基底面転位は、基本的に下地となる炭化珪素単結晶基板から伝搬したものである。そのため、炭化珪素単結晶基板が低転位密度であることが求められる。
炭化珪素単結晶基板は、昇華法により作製されるが、n型の炭化珪素単結晶基板の高品質化が非常に進んでおり、転位密度数100cm
−3、基底面転位密度ゼロといった結晶も得られている。
一方、p型の炭化珪素単結晶基板は、高品質化が進んでおらず、n型同様の高品質炭化珪素単結晶基板を得ることはできていない。加えて、p型炭化珪素単結晶基板は、高不純物濃度化が難しく、n型炭化珪素単結晶基板の場合、比抵抗20mΩcm以下のものを製作可能なのに比べ、p型炭化珪素単結晶基板の場合、比抵抗は、数Ωcm程度とn型に比べて一桁から二桁高抵抗である。そのため、p型炭化珪素単結晶基板を用いるn−ch IGBTでは、単結晶基板の抵抗が無視できなくなる。
【0005】
このような課題に対して、高品質なn型基板を用いて、そのn型基板上にn型ドリフト層を100〜180μm程度エピタキシャル成長させ、更にp型層を数μmの厚みでエピタキシャル成長させ、その後、n型基板を除去し、その基板を除去した面にMOSFETを形成し、IGBT構造とする方法が提案されている(非特許文献1、2参照)。
しかしながら、この方法では、実際に素子作製プロセスを実施する際のウエハ厚みは、ドリフト層の厚みとなることから、ドリフト層の厚みだけでウエハとしての機械的強度を維持することが困難で、6インチ等の大口径ウエハを用いて素子作製プロセスを実施する際にウエハが破損してしまう問題がある。特に10kV前後のIGBTの場合、必要とされるドリフト層の厚みは、100μm前後となり、ドリフト層の厚みだけでは機械的強度を維持することができない。
このウエハの破損を回避するためには、最後に成長させるp型層を厚く成長させ、機械的強度を維持する必要がある。しかしながら、エピタキシャル成長によりp型単結晶薄膜を厚く、且つ不純物を高濃度にドーピングすることは困難で、これまでの事例では、膜厚80μm〜100μmで、Alの不純物濃度が5.3×10
18cm
−3程度のものしか報告されていない(非特許文献3参照)。
この程度のAlの不純物濃度では、その比抵抗が数100mΩcm程度と大きくなり、導通時の抵抗増加要因となってしまう。これは、炭化珪素単結晶中のAlの活性化率が数%から10%と低いことによる。一方、n型単結晶薄膜では、n型不純物となる窒素の活性化率がほぼ100%であるため、不純物濃度が5.3×10
18cm
−3程度の場合でも、20mΩcm程度と低抵抗になる。
ここで、非特許文献3に開示されている方法では、ウエハの機械的強度を付与するため、エピタキシャル成長時の成長温度を2,000℃とし、p型炭化珪素単結晶基板を製造する温度に近い、非常に高い成長温度条件を採用している。このような高温の成長温度とすれば、200μm/hの高速成長でエピタキシャル成長層を成長させることができると同時に厚膜化による機械的強度を得ることができる。
しかしながら、AlのSiC中への取り込みにおける成長温度の影響については、成長温度に反比例することが分かっており(非特許文献4参照)、成長温度を高温条件にするにつれて、p型炭化珪素単結晶層としてのエピタキシャル成長層に導入されるAlの量が減少することから、非特許文献3の方法では、p型炭化珪素単結晶層におけるAlの不純物濃度を高濃度にすることが困難であるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、機械的強度に優れ、かつ、導電時の抵抗を低減可能な半導体構造物、半導体装置及び該半導体構造物の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を行った結果、エピタキシャル成長技術を用いてSiC中に高濃度にAlドーピングを行いながらエピタキシャル層の厚膜化を行うことにより、機械的強度に優れ、かつ、低抵抗なp型エピタキシャルウエハが作製できることの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも、α型の結晶構造を有し、
不純物としてアルミニウム
のみを1×10
19cm
−3以上の不純物濃度で含み、
比抵抗が100mΩcm以下であり、かつ厚みが50μm以上である
エピタキシャル層としてのp型炭化珪素単結晶層を有することを特徴とする半導体構造物
。
<
2> p型炭化珪素単結晶層に含まれるアルミニウムの不純物濃度が、1×10
20cm
−3以上である前記<1
>に記載の半導体構造物。
<
3> 更に、p型炭化珪素単結晶層と接合する、α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であるn型炭化珪素単結晶層を有する前記<1>から<
2>のいずれかに記載の半導体構造物。
<
4> 総厚みが250μm以上である前記<1>から<
3>のいずれかに記載の半導体構造物。
<
5> (0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に直接又は間接形成され、前記α型の結晶構造を有し、
不純物としてアルミニウム
のみを1×10
19cm
−3以上の不純物濃度で含
み、比抵抗が100mΩcm以下であるエピタキシャル層としてのp型炭化珪素単結晶層と、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であり、前記p型炭化珪素単結晶層と接合して配されるn型炭化珪素単結晶層と、を有することを特徴とする半導体構造物。
<
6> p型炭化珪素単結晶層の厚みが0.5μm以上である前記<
5>に記載の半導体構造物
。
<
7> 総厚みが250μm以上である前記<
5>から<
6>のいずれかに記載の半導体構造物。
<
8> 更に、α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが10μm以下である第1n型炭化珪素単結晶層と、前記α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
17cm
−3以上1×10
18cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが0.5μm以上5μm以下である第1p型炭化珪素単結晶層と、を有し、(0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させた前記α型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に、前記第1n型炭化珪素単結晶層と、第2n型炭化珪素単結晶層としてn型炭化珪素単結晶層と、前記第1p型炭化珪素単結晶層と、第2p型炭化珪素単結晶層としてp型炭化珪素単結晶層とが、この順で形成される前記<
5>から<
7>いずれかに記載の半導体構造物。
<
9> 更に、α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以上1×10
17cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが1μm以下である第3n型炭化珪素単結晶層を有し、前記第3n型炭化珪素単結晶層が第2n型炭化珪素単結晶層と第1p型炭化珪素単結晶層との間に配される前記<
8>に記載の半導体構造物。
<
10> 厚みのばらつきを示すTTVの数値が、オフ基板が有するTTVの数値以下である前記<
5>から<
9>のいずれかに記載の半導体構造物。
<
11> IGBT半導体装置として、前記<
8>から<
10>のいずれかに記載された半導体構造物の[000−1]C面上にMOS構造が形成されたことを特徴とする半導体装置。
<
12> 前記<1>から<
10>のいずれかに記載の半導体構造物の製造方法であって、少なくとも、
気相化学成長法により、炭化珪素源及びアルミニウム源を導入してp型炭化珪素単結晶層をα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶の下地層上にエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程を有し、前記エピタキシャル成長工程が、1,500℃以上1,700℃以下の温度条件及び5×10
3Pa以上25×10
3Pa以下の圧力条件で実施されることを特徴とする半導体構造物の製造方法。
<
13> エピタキシャル成長工程におけるp型炭化珪素単結晶層のエピタキシャル成長速度が、15μm/h以上100μm/h以下である前記<
12>に記載の半導体構造物の製造方法。
<
14> 炭化珪素源としてシランガス及びプロパンガスを用い、前記炭化珪素源のキャリアガスとして水素ガスを用いる前記<
12>から<
13>のいずれかに記載の半導体構造物の製造方法。
<
15> p型炭化珪素単結晶層が、(0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に直接又は間接形成される前記<
12>から<
14>のいずれかに記載の半導体構造物の製造方法。
<
16> 更に、(0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であるn型炭化珪素単結晶層を形成するn型炭化珪素単結晶層形成工程を有し、エピタキシャル成長工程が、前記n型炭化珪素単結晶層を下地層として、p型炭化珪素単結晶層をエピタキシャル成長させる工程である前記<
12>から<
15>のいずれかに記載の半導体構造物の製造方法。
<
17> 更に、(0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが10μm以下である第1n型炭化珪素単結晶層を形成する第1n型炭化珪素単結晶層形成工程と、前記第1n型炭化珪素単結晶層上に、前記α型の結晶構造を有し、前記窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上である第2n型炭化珪素単結晶層を形成する第2n型炭化珪素単結晶層形成工程と、前記第2n型炭化珪素単結晶層上に、前記α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
17cm
−3以上1×10
18cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが0.5μm以上5μm以下である第1p型炭化珪素単結晶層を形成する第1p型炭化珪素単結晶層形成工程と、を有し、エピタキシャル成長工程が、前記第1p型炭化珪素単結晶層を下地層として、p型炭化珪素単結晶層をエピタキシャル成長させる工程である前記<
12>から<
16>のいずれかに記載の半導体構造物の製造方法。
<
18> 更に、第2n型炭化珪素単結晶層上に、α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以上1×10
17cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが1μm以下である第3n型炭化珪素単結晶層を形成する第3n型炭化珪素単結晶層形成工程を有し、第1p型炭化珪素単結晶層形成工程が、前記第3n型炭化珪素単結晶層上に第1p型炭化珪素単結晶層を形成する工程である前記<
17>に記載の半導体構造物の製造方法。
<
19> 更に、エピタキシャル成長工程後、第2n型炭化珪素単結晶層と第1n型炭化珪素単結晶層とを剥離させ、オフ基板及び前記第1n型炭化珪素単結晶層を除去する除去工程を有する前記<
17>から<
18>のいずれかに記載の半導体構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、機械的強度に優れ、かつ、導電時の抵抗を低減可能な半導体構造物、半導体装置及び該半導体構造物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(半導体構造及び半導体装置)
本発明の半導体構造及び半導体装置の各実施形態を以下に説明する。
【0013】
<第1実施形態>
本発明の半導体構造は、少なくとも、α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
19cm
−3以上の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であるp型炭化珪素単結晶層を有する。
前記不純物濃度が1×10
19cm
−3以上であると、アルミニウムの活性化率が高まり、導電時の抵抗を低減させることができる。その理由としては、高濃度にアルミニウムが添加されたことにより、添加されたアルミニウム同士の平均的な距離が近くなり、そのためクーロンポテンシャルが遮蔽されて、アルミニウムが価電子帯からホールを捕獲しなくなり、活性化率が高くなったものと考えられる。この効果は、前記不純物濃度に比例して得られるので、前記不純物濃度としては、6×10
19cm
−3以上がより好ましく、1×10
20cm
−3以上であると、アルミニウムの活性化率が100%になり、特に好ましい。
なお、前記不純物濃度としては、高いほど好ましいが、上限値としては、1×10
21cm
−3程度である。
【0014】
前記p型炭化珪素単結晶層の厚みが50μm以上であると、半導体装置製造プロセスに必要な機械的強度として十分な機械的強度を得ることができる。また、このような観点から前記厚みとしては、100μm以上がより好ましい。
なお、前記p型炭化珪素単結晶層の厚みの上限値としては、必要以上の機械的強度を付与することにより製造効率が低下することを回避する観点から、300μm程度である。
【0015】
また、前記p型炭化珪素単結晶層の比抵抗としては、低いほど好ましく、例えば、100mΩm以下であることが好ましく、20mΩm以下がより好ましい。この時のアルミニウムの活性化率としては、5%以上が好ましく、100%がより好ましい。なお、前記比抵抗の下限値としては、5mΩm程度が好ましい。
【0016】
前記p型炭化珪素単結晶層中の炭化珪素(SiC)の結晶構造は、α型とされる。このような結晶構造を有すると、大口径且つ高品質なα型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、前述のp型炭化珪素単結晶の高品質化、及び素子応用に有利である。
【0017】
前記半導体構造物は、半導体装置の一部材として、前記p型炭化珪素単結晶層だけで構成されていてもよいし、他の構造を有していてもよい。前記他の構造としては、特に制限はなく、基板、n型半導体層が挙げられる。
また、前記半導体構造物の総厚みとしては、特に制限はないが、前記半導体構造物を用いて形成される素子の形成プロセスに必要な機械的強度を付与する観点から、250μm以上であることが好ましい。なお、前記総厚みの上限値としては、350μm程度である。
【0018】
前記半導体構造物の一例として、
図1に第1実施形態に係る半導体構造物の断面構造を示す。
この第1実施形態に係る半導体構造物1は、n型炭化珪素単結晶層2と、n型炭化珪素単結晶層2と接合するp型炭化珪素単結晶層3とを有し、その接合面がp/n接合とされる。
【0019】
p型炭化珪素単結晶層3は、α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
19cm
−3以上の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上とされる。
p型炭化珪素単結晶層3が、このような構成を有すると、前記p型炭化珪素単結晶層について説明した通り、機械的強度に優れ、導電時の抵抗を低減可能な半導体構造物を実現できる。
【0020】
n型炭化珪素単結晶層2の炭化珪素の結晶構造としては、特に制限はないが、α型であると、大口径且つ高品質なα型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、n型炭化珪素単結晶層の高品質化、及び素子応用に有利である。
また、n型炭化珪素単結晶層2中の窒素の濃度としては、特に制限はないが、1×10
15cm
−3以下であることが好ましい。前記濃度が1×10
15cm
−3を超えると、10kVを超える超高耐圧素子には適さなくなる。なお、前記濃度の下限値としては、5×10
13cm
−3程度が好ましい。
また、n型炭化珪素単結晶層2の厚みとしては、特に制限はないが、50μm以上であると、機械的強度を維持する点で好ましい。なお、前記厚みの上限値としては、300μm程度が好ましい。
【0021】
<第2実施形態>
また、本発明の他の半導体構造は、前記第1実施形態におけるp型炭化珪素単結晶層が、少なくとも、(0001)面に対して、0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に直接又は間接形成され、前記α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
19cm
−3以上の不純物濃度で含むp型炭化珪素単結晶層と、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であり、前記p型炭化珪素単結晶層と接合して配されるn型炭化珪素単結晶層と、を有する。
【0022】
前記p型炭化珪素単結晶層中の不純物濃度が1×10
19cm
−3以上であると、アルミニウムの活性化率が高まり、導電時の抵抗を低減させることができる。また、このような観点から前記不純物濃度としては、6×10
19cm
−3以上がより好ましく、1×10
20cm
−3以上であると、アルミニウムの活性化率が100%になり、特に好ましい。
なお、前記不純物濃度としては、高いほど好ましいが、上限値としては、1×10
21cm
−3程度である。
【0023】
前記p型炭化珪素単結晶層の厚みとしては、特に制限はないが、0.5μm以上であると、p/n接合構造を形成するのに十分な厚みである。また、機械的強度を維持するという観点から前記厚みとしては、50μm以上がより好ましく、100μm以上が特に好ましい。
なお、前記p型炭化珪素単結晶層の厚みの上限値としては、オン抵抗低減の観点並びに素子作製プロセスへの適合の観点から、300μm程度が好ましい。
【0024】
また、前記p型炭化珪素単結晶層の比抵抗としては、低いほど好ましく、例えば、100mΩm以下であることが好ましく、20mΩm以下がより好ましい。なお、前記比抵抗の下限値としては、5mΩm程度が好ましい。
【0025】
前記p型炭化珪素単結晶層中の炭化珪素(SiC)の結晶構造は、α型とされる。このような結晶構造を有すると、4H型の結晶構造を取ることができ、大口径且つ高品質な4H型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、表面平坦性に優れ、低欠陥密度、且つ高い電子移動度というエピタキシャル成長層の高品質化、並びに素子応用に有利である。
【0026】
前記n型炭化珪素単結晶層の炭化珪素の結晶構造がα型であると、大口径且つ高品質なα型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、n型炭化珪素単結晶層の高品質化、及び素子応用に有利である。
また、前記n型炭化珪素単結晶層中の窒素の濃度が1×10
15cm
−3を超えると、10kVを超える超高耐圧素子には適さなくなる。なお、前記濃度の下限値としては、5×10
13cm
−3程度が好ましい。
また、前記n型炭化珪素単結晶層2の厚みが50μm以上であると、機械的強度を維持する点で好ましい。なお、前記厚みの上限値としては、300μm程度が好ましい。
【0027】
前記オフ基板の傾斜角(オフ角)が、(0001)面に対して0°を超え8°以下であると、ステップフロー成長により表面平坦性の優れた炭化珪素単結晶層を作製することができる。また、α型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶製であると、大口径且つ高品質なα型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、エピタキシャル成長層の高品質化、及び素子応用に有利である。なお、前記傾斜角は、規格による数値を示し、誤差(±0.25°)を許容する。例えば、8°規格のオフ基板であれば、8°の傾斜角に対して、±0.25°の誤差を許容する。
また、このオフ基板上に、前記p型炭化珪素単結晶層を直接又は間接形成すると、ステップフロー成長により表面平坦性の優れた炭化珪素単結晶層を作製することができる。
【0028】
前記半導体構造物は、半導体装置の一部材として、前記オフ基板及び前記p型炭化珪素単結晶層だけで構成されていてもよいし、他の構造を有していてもよい。前記他の構造としては、特に制限はなく、n型半導体層が挙げられる。また、前記半導体構造物としては、最終的に前記オフ基板を取り除いて構成されていてもよい。
また、前記半導体構造物の総厚みとしては、特に制限はないが、前記半導体構造物を用いて形成される素子の形成プロセスに必要な機械的強度を付与する観点から、250μm以上であることが好ましい。なお、前記総厚みの上限値としては、350μm程度である。
【0029】
前記半導体構造物の一例として、
図2に第2実施形態に係る半導体構造物の断面構造を示す。
この第2実施形態に係る半導体構造物10は、オフ基板11上に、n型炭化珪素単結晶層12と、n型炭化珪素単結晶層12と接合するp型炭化珪素単結晶層13とを有し、その接合面がp/n接合とされる。
【0030】
オフ基板11としては、(0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板とされる。
オフ基板11が、このような構成を有すると、前記オフ基板について説明した通り、ステップフロー成長により表面平坦性の優れた炭化珪素単結晶層を作製することができる。
【0031】
p型炭化珪素単結晶層13は、α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
19cm
−3以上の不純物濃度で含む層とされる。
p型炭化珪素単結晶層13が、このような構成を有すると、前記p型炭化珪素単結晶層について説明した通り、導電時の抵抗を低減可能な半導体構造物を実現できる。
【0032】
n型炭化珪素単結晶層12は、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であり、前記p型炭化珪素単結晶層と接合して配される。
n型炭化珪素単結晶層12が、このような構成を有すると、前記n型炭化珪素単結晶層について説明した通り、機械的強度に優れるとともに、p/n接合を有する超高耐圧素子に適した半導体構造物を実現することができる。
【0033】
<第3実施形態>
次に、前記半導体構造物の他の例として、
図3に第3実施形態に係る半導体構造物の断面構造を示す。
この第3実施形態に係る半導体構造物20は、オフ基板21上に、第1n型炭化珪素単結晶層22と、第2n型炭化珪素単結晶層23と、第1p型炭化珪素単結晶層24と、第2p型炭化珪素単結晶層25とが、この順に積層されて構成される。
この第3実施形態に係る半導体構造物20は、第2実施形態に係る半導体構造物10の変形例であり、オフ基板21、第2n型炭化珪素単結晶層23、第2p型炭化珪素単結晶層25は、それぞれ第2実施形態に係る半導体構造物10における、オフ基板11、n型炭化珪素単結晶層12、p型炭化珪素単結晶層13と同様の構成であるため、説明を省略し、第1n型炭化珪素単結晶層22及び第1p型炭化珪素単結晶層24について説明する。
【0034】
第1n型炭化珪素単結晶層22は、基板と第2n型炭化珪素単結晶層との不純物濃度差によるストレスを緩和させる目的で配される。
この第1n型炭化珪素単結晶層22は、α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが10μm以下である層であることが好ましい。即ち、前記結晶構造がα型であると、4H型の結晶構造を取ることができ、大口径且つ高品質な4H型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、表面平坦性に優れ、低欠陥密度といったn型炭化珪素単結晶層の高品質化が可能であり、前記不純物濃度が1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下であると、基板と第1n型炭化珪素単結晶層との不純物濃度差によるストレスを緩和に適しており、前記厚みが10μm以下であると、前記基板と第2n型炭化珪素単結晶層との不純物濃度差によるストレスの緩和に適している。なお、前記厚みの下限値としては、5μm程度が好ましい。
【0035】
第1p型炭化珪素単結晶層24は、導通時にキャリア注入により伝導度変調を生じさせる目的で配される。
この第1p型炭化珪素単結晶層24は、α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
17cm
−3以上1×10
18cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが0.5μm以上5μm以下である層であることが好ましい。即ち、前記結晶構造がα型であると、4H型の結晶構造を取ることができ、大口径且つ高品質な4H型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、表面平坦性に優れ、低欠陥密度といったn型炭化珪素単結晶層の高品質化が可能であり、前記不純物濃度が1×10
17cm
−3以上1×10
18cm
−3以下であると、キャリア注入に好ましく、前記厚みが0.5μm以上5μm以下であると、導通時の抵抗抑制に好ましい。
【0036】
また、第3実施形態に係る半導体構造物20としては、厚みのばらつきを示すTTV(Total Thickness Variation)の数値が、オフ基板21が有するTTVの数値以下であることが好ましい。このような構造を有すると、半導体装置作製工程上好ましい。なお、TTVは、光の干渉を利用したウエハ厚みの面内ばらつきを非破壊、非接触で調べる装置を用いることにより、測定することができる。
【0037】
なお、第3実施形態に係る半導体構造物20を製造した後、オフ基板21及び第1n型炭化珪素単結晶層22を取り除くことで、残余の構造をIGBT半導体装置形成用の半導体ウエハとして用いることができる。
【0038】
<第4実施形態>
次に、前記半導体構造物の他の例として、
図4に第4実施形態に係る半導体構造物の断面構造を示す。
この第4実施形態に係る半導体構造物30は、オフ基板31上に、第1n型炭化珪素単結晶層32と、第2n型炭化珪素単結晶層33と、第3n型炭化珪素単結晶層36と、第1p型炭化珪素単結晶層34と、第2p型炭化珪素単結晶層35とが、この順に積層されて構成される。
この第4実施形態に係る半導体構造物30は、第3実施形態に係る半導体構造物20の変形例であり、第3n型炭化珪素単結晶層36以外のオフ基板31、第1n型炭化珪素単結晶層32、第2n型炭化珪素単結晶層33、第1p型炭化珪素単結晶層34、第2p型炭化珪素単結晶層35は、それぞれ第3実施形態に係る半導体構造物20における、オフ基板21、第1n型炭化珪素単結晶層22、第2n型炭化珪素単結晶層23、第1p型炭化珪素単結晶層24、第2p型炭化珪素単結晶層25と同様の構成であるため、説明を省略し、第3n型炭化珪素単結晶層36について説明する。
【0039】
第3n型炭化珪素単結晶層36は、p/n接合界面の特性を改善する目的で配される。
この第3n型炭化珪素単結晶層36は、α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以上1×10
17cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが1μm以下である層であることが好ましい。即ち、前記結晶構造がα型であると、4H型の結晶構造を取ることができ、大口径且つ高品質な4H型炭化珪素単結晶基板上にホモエピタキシャル成長をさせることができ、表面平坦性に優れ、低欠陥密度といったn型炭化珪素単結晶層の高品質化が可能であり、前記不純物濃度が1×10
15cm
−3以上1×10
17cm
−3以下であると、耐電圧特性上好ましい。また、前記厚みが1μm以下であると、前記のように耐電圧特性上好ましい。なお、前記厚みの下限としては、0.1μm程度である。
【0040】
また、第4実施形態に係る半導体構造物30としては、第3実施形態に係る半導体構造物20と同様に、厚みのばらつきを示すTTVの数値が、オフ基板31が有するTTVの数値以下であることが好ましい。
【0041】
なお、第4実施形態に係る半導体構造物30は、第3実施形態に係る半導体構造物20と同様に、製造後、オフ基板31及び第1n型炭化珪素単結晶層32を取り除くことで、残余の構造をIGBT半導体装置形成用の半導体ウエハとして用いることができる。
【0042】
<第5実施形態>
次に、半導体装置の一例として、
図5に第5実施形態に係る半導体装置の断面構造を示す。なお、第5実施形態に係る半導体装置は、半導体装置の例としてIGBT半導体装置の構成例を示すものであり、本発明の前記半導体構造物は、この他の半導体装置にも適用することができる。
この第5実施形態に係る半導体装置40(IGBT半導体装置)は、第3実施形態に係る半導体構造物20からオフ基板21及び第1n型炭化珪素単結晶層22を取り除き、MOS構造として、第2n型炭化珪素単結晶層23上に絶縁膜46を介してゲート電極47を形成したものに係る。即ち、符号45は、第2p型炭化珪素単結晶層を示し、符号44は、第1p型炭化珪素単結晶層を示し、符号43は、第2n型炭化珪素単結晶層を示し、これらの層は、それぞれ、第3実施形態に係る半導体構造物20の第2p型炭化珪素単結晶層25、第1p型炭化珪素単結晶層24、第2n型炭化珪素単結晶層23と同様に構成される。
【0043】
絶縁膜46及びゲート電極47としては、特に制限はなく、公知の方法により形成することができる。なお、
図5に示すMOS構造は、説明のために簡略化した一構成例であり、これに代えて、従来公知のMOS構造から目的に応じて適宜選択して形成することができる。
このような半導体装置40の構成によれば、IGBT半導体動作を発揮させることができ、機械的強度に優れ、低抵抗の半導体構造物をウエハとして利用した、超高耐圧かつ低損失の半導体パワーデバイスを実現することができる。
【0044】
(半導体構造物の製造方法)
本発明の半導体構造物の製造方法は、少なくとも、炭化珪素源及びアルミニウム源を導入してp型炭化珪素単結晶層をα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶の下地層上にエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程を有し、中でも、前記エピタキシャル成長工程を1,500℃以上1,700℃以下の温度条件及び5×10
3Pa以上25×10
3Pa以下の圧力条件で実施することを技術の核とする。
このようなエピタキシャル成長条件とすることで、前記本発明の機械的強度に優れ、かつ、導電時の抵抗を低減可能な半導体構造物の製造が実現可能とされる。
即ち、アルミニウムを高濃度で含む前記p型炭化珪素単結晶層を形成する場合、従来では、イオン注入技術を用いる方法しか存在しない。しかしながら、非特許文献1,2などに示されるように180μmと厚いn型エピタキシャル膜に対して数μm程度しかp型炭化珪素単結晶が存在しないため、基板を除去してしまうと機械的強度が不十分で素子プロセス中にウエハが破損しやすくなる。しかし、前記半導体構造物の製造方法によれば、膜厚が厚く且つ低抵抗な前記p型炭化珪素単結晶層をエピタキシャル成長させることができ、基板除去後も、素子プロセスに十分耐え得る機械的強度を確保することが可能となる。
【0045】
前記温度条件としては、前記数値範囲内である限り、特に制限はないが、1,580℃以上1,650℃以下がより好ましい。前記温度条件が1,580℃未満であると、三角欠陥による結晶性の低下やSi液滴発生による成長速度の低下が生じ、厚い前記p型炭化珪素単結晶層を適切な時間内に成長させることができないことがあり、1,650℃を超えると、キャリアガス(水素ガス)の水素エッチング効果が強くなり、成長速度及びAlの結晶中への取り込み量が低下し、低抵抗の前記p型炭化珪素単結晶層を適切な時間内に成長させることができないことがある。
また、前記圧力条件としては、前記数値範囲内である限り、特に制限はないが、10×10
3Pa以上14×10
3Pa以下がより好ましい。例えば、前記圧力条件が14×10
3Paを超えると、前記p型炭化珪素単結晶層に大きな膜厚分布が生じ、基板を剥離した時の並行度が維持できないことがある。
【0046】
前記エピタキシャル成長工程におけるp型炭化珪素単結晶層のエピタキシャル成長速度としては、特に制限はないが、効率的に成長させやすく、Alを高濃度にドーピングさせやすいことから、15μm/h以上100μm/h以下が好ましく、15μm/h以上50μm/h以下がより好ましい。
【0047】
前記炭化珪素源としてとしては、特に制限はなく、公知の炭化珪素源を用いることができ、例えば、シランガス、プロパンガスを用いることができる。また、前記炭化珪素源のキャリアガスとして、水素ガス等を用いることができる。また、前記アルミニウム源としては、トリメチルアルミニウム等を用いることができる。
ここで、前記炭化珪素源に含まれるCとSiの組成比(モル比)であるC/Siとしては、次式、0.6≦C/Si≦1.1を満たすことが好ましい。前記組成比が0.6未満であると、得られる前記p型炭化珪素単結晶層の低抵抗化が実現できないことがあり、1.1を超えると、前記p型炭化珪素単結晶層が得られないか、得られた前記p型炭化珪素単結晶層の機械的強度が著しく低下することがある。
また、前記キャリアガスとして前記水素ガスを用い、前記炭化珪素源の珪素源として前記シランガスを用いる場合、前記キャリアガス中のHと前記シランガス中のSiの組成比(モル比)であるH/Siとしては、次式、450≦H/Si≦1,700が好ましい。前記組成比が450未満であると、前記p型炭化珪素単結晶層の成長表面に凹凸が生じることがあり、1,700を超えると、前記p型炭化珪素単結晶層を形成するための減圧状態を維持できなくなることがある。
【0048】
前記p型炭化珪素単結晶層としては、特に制限はないが、ステップフロー成長により表面平坦性の優れた炭化珪素単結晶層の作製が可能となる観点から、(0001)面に対して0°を超え8°以下傾斜させたα型の結晶構造を有する炭化珪素単結晶のオフ基板上に直接又は間接形成されることが好ましい。
【0049】
更に、前記半導体構造物の製造方法としては、前記オフ基板上に、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上であるn型炭化珪素単結晶層を形成するn型炭化珪素単結晶層形成工程を有することが好ましく、この場合、前記エピタキシャル成長工程としては、前記n型炭化珪素単結晶層を下地層として、p型炭化珪素単結晶層をエピタキシャル成長させる工程とされる。
このようなn型炭化珪素単結晶層を形成することで、p/n接合を有する前記第2実施形態に係る半導体構造物を製造することができる(
図2参照)。
【0050】
前記n型炭化珪素単結晶層形成工程における、前記n型炭化珪素単結晶層の形成方法としては、特に制限はなく、公知の化学気相成長法により、エピタキシャル成長させる方法が挙げられる。また、形成の際の炭化珪素源としてとしては、例えば、シランガス、プロパンガスを用いることができる。また、前記炭化珪素源のキャリアガスとして、水素ガス等を用いることができる。また、前記窒素源としては、窒素ガス等を用いることができる。
【0051】
更に、前記半導体構造物の製造方法としては、前記オフ基板上に、前記α型の結晶構造を有し、窒素を1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが10μm以下である第1n型炭化珪素単結晶層を形成する第1n型炭化珪素単結晶層形成工程と、前記第1n型炭化珪素単結晶層上に、前記α型の結晶構造を有し、前記窒素を1×10
15cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが50μm以上である第2n型炭化珪素単結晶層を形成する第2n型炭化珪素単結晶層形成工程と、前記第2n型炭化珪素単結晶層上に、前記α型の結晶構造を有し、アルミニウムを1×10
17cm
−3以上1×10
18cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが0.5μm以上5μm以下である第1p型炭化珪素単結晶層を形成する第1p型炭化珪素単結晶層形成工程と、を有することが好ましく、この場合、前記エピタキシャル成長工程としては、前記第1p型炭化珪素単結晶層を下地層として、前記p型炭化珪素単結晶層を第2p型炭化珪素単結晶層としてエピタキシャル成長させる工程とされる。
このような前記各工程を有すると、前記第3実施形態に係るIGBT半導体装置の製造に好適な半導体構造物を製造することができる(
図3参照)。
【0052】
なお、前記第1n型炭化珪素単結晶層形成工程及び前記第2n型炭化珪素単結晶層形成工程における前記第1n型炭化珪素単結晶層及び前記第2n型炭化珪素単結晶層としては、前記n型炭化珪素単結晶層の形成方法に準じて形成することができる。
また、前記第1p型炭化珪素単結晶層形成工程における前記第1p型炭化珪素単化粧層の形成方法としては、特に制限はなく、公知の化学気相成長法により、エピタキシャル成長させる方法が挙げられる。また、形成の際の炭化珪素源としてとしては、例えば、シランガス、プロパンガスを用いることができる。また、前記炭化珪素源のキャリアガスとして、水素ガス等を用いることができる。また、前記アルミニウム源としては、トリメチルアルミニウム等を用いることができる。
【0053】
更に、前記半導体構造物の製造方法としては、前記第2n型炭化珪素単結晶層上に、α型の結晶構造を有し、前記窒素を1×10
15cm
−3以上1×10
17cm
−3以下の不純物濃度で含み、かつ厚みが1μm以下である第3n型炭化珪素単結晶層を形成する第3n型炭化珪素単結晶層形成工程を有することが好ましく、この場合、前記第1p型炭化珪素単結晶層形成工程としては、前記第3n型炭化珪素単結晶層上に第1p型炭化珪素単結晶層を形成する工程とされる。
前記第3n型炭化珪素単結晶層形成工程を有すると、前記第3n型炭化珪素単結晶層のp/n接合界面の特性が改善された前記第4実施形態に係る半導体構造物を製造することができる(
図4参照)。
【0054】
なお、前記第3n型炭化珪素単結晶層形成工程における前記第3n型炭化珪素単結晶層としては、前記n型炭化珪素単結晶層の形成方法に準じて形成することができる。
【0055】
更に、前記半導体構造物の製造方法としては、エピタキシャル成長工程後、第2n型炭化珪素単結晶層と第1n型炭化珪素単結晶層とを剥離させ、オフ基板及び前記第1n型炭化珪素単結晶層を除去する除去工程を有することが好ましい。
前記除去工程を有することで、前記半導体構造物を前記IGBT半導体装置の製造に好適な半導体ウエハとして利用することができる。
前記除去の方法としては、特に制限はなく、例えば、研磨等の機械的手段が挙げられる。
【0056】
前記半導体構造物としては、厚みのばらつきを示すTTVの数値が、前記オフ基板が有するTTVの数値以下であることが好ましい。このような半導体構造物を得る方法としては、前記オフ基板側の面を基準面としてエピタキシャル成長させた前記第2p型炭化珪素単結晶層側の成長面を研磨することにより、前記半導体構造物全体のTTVを前記オフ基板と同じかそれ以下とし、その後、前記成長面を基準面として前記オフ基板を研磨除去することにより、前記オフ基板除去後の前記半導体構造物のTTVを前記オフ基板と同じかそれ以下の値にする方法が挙げられる。
このようなTTVを有する半導体構造物を素子形成プロセスに用いることで、素子形成プロセスの歩留まりを向上させることができる。
【0057】
なお、前記半導体構造物を用いて前記IGBT半導体装置を製造する方法としては、前記第3実施形態及び前記第4実施形態に係る半導体構造物から、前記オフ基板及び前記第1n型炭化珪素単結晶層を除去した後、前記第2n型炭化珪素単結晶層上に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成し、MOSFET構造を作製する方法が挙げられる(前記第5実施形態に関する
図5参照)。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
結晶成長用のオフ基板として(0001)Si面から[11−20]方向に8°傾いたn型のα型の結晶構造を有する4H炭化珪素単結晶基板(SiC基板)を用意した。
このSiC基板を横型の気相化学成長装置(CVD装置)の反応管内に設置した後、反応管内に水素ガスを80slm(1.3519×10
2Pam
3/s)の流量で流しながら、その反応管内の圧力を10×10
3Paに制御した。
この状態でCVD装置の高周波加熱により、SiC基板を1,620℃まで加熱し、この状態を20分間維持させた後、SiC基板表面を清浄化した。
【0059】
SiC基板表面清浄後、シランガスを90sccm(1.5209×10
−1Pam
3/s)、プロパンガスを30sccm(5.07×10
−2Pam
3/s)、それぞれ反応管内に導入することにより、原料ガスのCとSiの組成比を1:1に制御し、更に、p型不純物であるAl源としてトリメチルアルミニウムを40sccm(6.76×10
−2Pam
3/s)で同時に反応管内に導入して、SiC基板上にエピタキシャル成長を行い、SiC基板上にp型炭化珪素単結晶層が形成された実施例1に係る半導体構造物を製造した。なお、このp型炭化珪素単結晶層中のAlの不純物濃度は、1.5×10
20cm
−3とした。
【0060】
製造の際、エピタキシャル成長速度を22μm/hとして4時間エピタキシャル成長させ、厚さ90μmのp型炭化珪素単結晶層を形成している。
【0061】
実施例1では、p型炭化珪素単結晶層中のAl濃度を1.5×10
20cm
−3としたが、Al濃度を1×10
19cm
−3以上とすれば、
図6に示すように、Alの活性化が認められ、更に、Al濃度を1×10
20cm
−3以上とすれば、Alの活性化率が100%となり、p型炭化珪素単結晶層の抵抗を大幅に低減することが可能となる。なお、
図6は、p型炭化珪素単結晶層のAl不純物の活性化率を示す図である。
【0062】
実施例1の半導体構造物に関し、Van der Pauw法により比抵抗測定を行ったところ、
図7に示すように40mΩcmという比抵抗値が確認された。なお、
図7は、p型炭化珪素単結晶層中に取り込まれたAlの濃度と、そのp型炭化珪素単結晶層の比抵抗との関係を示す図である。
即ち、実施例1では、トリメチルアルミニウムを40sccm(6.76×10
−2Pam
3/s)流して比抵抗40mΩcmのp型炭化珪素単結晶層を形成したが、トリメチルアルミニウムの量を増やすことでAlの不純物濃度を増加させることができ、比抵抗を
図7に示すように更に低下させることができる。
【0063】
図8に実施例1に係る半導体構造物の断面SEM像を示す。このSEM像に基づき、該半導体構造物の厚みを測定した。ここでは、該半導体構造物の切断面をイオンビームにより平坦化(
図8中央部)し、その平坦部をSEMにより観察した。観察の結果、コントラストの濃淡が得られ濃度の薄い部分が成長層、濃度の濃い部分が基板である。この濃度の薄い部分の厚みを測定したところ90μmであった。
このように実施例1では、90μm厚のp型炭化珪素単結晶層を形成したが、エピタキシャル成長時間を更に伸ばすことで、容易に厚みを100μm以上にすることができる。一方、エピタキシャル成長時間を逆に短くすることで、容易に厚みが0.5μmのp型炭化珪素単結晶層を形成することもできる。
【0064】
(実施例2)
結晶成長用のオフ基板として(0001)Si面から[11−20]方向に8°傾いたn型のα型の結晶構造を有する4H炭化珪素単結晶基板(SiC基板)を用意した。このSiC基板をn型炭化珪素単結晶層形成に特化した気相化学成長装置(CVD装置)の反応管内に設置し、水素をキャリアガス、シランガス及びプロパンガスを原料ガス、窒素ガスをn型ドーパントとして使用し、SiC基板上に窒素不純物濃度が5×10
18cm
−3の第1n型炭化珪素単結晶層を10μmの厚みでエピタキシャル成長させた。
次いで、第1n型炭化珪素単結晶層の形成方法と同様の形成方法にて、第1n型炭化珪素単結晶層上に、窒素不純物濃度が5×10
14cm
−3の第2n型炭化珪素単結晶層を150μmの厚みでエピタキシャル成長させた。
この状態の半導体構造物をCVD装置から取り出し、n型/p型いずれでも成長可能なCVD装置に設置した。
反応管内の温度条件を1,620℃とし、圧力条件を10×10
3Paとし、水素をキャリアガスとして80slm(1.3519×10
2Pam
3/s)の量で導入し、原料ガスとしてのシランガス及びプロパンガスをそれぞれ60sccm(1.014×10
−1Pam
3/s)、20sccm(3.38×10
−2Pam
3/s)で導入し、窒素ガスをn型ドーパントとして導入し、第2n型炭化珪素単結晶層上に窒素不純物濃度が2×10
16cm
−3の第3n型炭化珪素単結晶層を成長速度15μm/hで1μmエピタキシャル成長させた。
次いで、トリメチルアルミニウムをp型ドーパントとして使用し、第3n型炭化珪素単結晶層上に、Al不純物濃度が8×10
17cm
−3の第1p型炭化珪素単結晶層を2μmの厚みでエピタキシャル成長させた。なお、この際のエピタキシャル成長条件としては、第3n型炭化珪素単結晶層の成長条件と同様とした。
次いで、第1p型炭化珪素単結晶層の形成方法と同様の形成方法にて、第1p型炭化珪素単結晶層上にAl不純物濃度が1×10
20cm
−3の第2p型炭化珪素単結晶層を120μmの厚みでエピタキシャル成長させた。ただし、この際のエピタキシャル成長条件としては、シランガス及びプロパンガスをそれぞれ90sccm(1.5209×10
−1Pam
3/s)、30sccm(5.07x10
−2Pam
3/s)で導入し、成長速度は、22μm/hとした。
これにより、総厚みが283μmのエピタキシャル成長層を有する実施例2に係る半導体構造物を製造した。この実施例2に係る半導体構造物の構造を示す概略を
図9(a)に示す。
【0065】
この実施例2に係る半導体構造物から第1n型炭化珪素単結晶層基板及びSiC基板を取り除くことで、総厚みが273μmの半導体構造物を形成することができる。この半導体構造物の第1n型炭化珪素単結晶層を取り除いた側の第2n型炭化珪素単結晶層の面は、[000−1]C面となるが、その[000−1]C面にMOS構造を形成することによりIGBT構造の半導体装置とすることができる。
【0066】
なお、実施例2の半導体構造物の製造にあたり、第2n型炭化珪素単結晶形成後、CVD装置を変更して、第3n型炭化珪素単結晶層以降の各層を形成したが、一台のCVD装置ですべての層を連側的にエピタキシャル成長させて形成してもよい。
加えて、連続成長の場合、第2n型炭化珪素単結晶層形成後に、第3n型炭化珪素単結晶層を形成する必要はなく、第2n型炭化珪素単結晶層上に第1p型炭化珪素単結晶層を直接エピタキシャル成長させてもよい。
【0067】
実施例1及び2の半導体構造物を構成する各層に含まれる不純物濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定される。
また、実施例1及び2の半導体構造物を構成する各層の厚みは、電子顕微鏡を用いて測定される。
【0068】
上記から明らかなように、本発明に係る半導体構造物では、p型炭化珪素の抵抗を従来の1/100以下に低減できることが確認できた。また、p型層(第2p型炭化珪素単結晶層)の厚膜化により、機械的強度を付与するためのp型炭化珪素基板を用いることなく、機械的強度に優れ、IGBT構造を構築する上で必要なp/n接合構造を有する半導体構造物(半導体ウエハ)を製造可能であることが確認できた。
また、実施例1及び2では、4H−炭化珪素単結晶基板を用いたが、6H−炭化珪素単結晶基板等を用いることができる。また、実施例1及び2では、[11−20]方向に8°傾斜させたオフ基板を用いたが、オフ角には依存せずに、実施することが可能である。加えて、実施例1及び2では、Si面にエピタキシャル成長層を形成したが、C面にエピタキシャル成長層を形成してもよい。
【0069】
(実施例3)
本発明の半導体構造物の製造条件の最適化を目的として、以下に実施例1の好適な製造条件から製造条件を変更した場合の製造例を説明する。
即ち、SiC基板表面清浄後、基板温度が1,620℃の状態でシランガス、プロパンガス、トリメチルアルミニウムを反応管内に導入して、SiC基板上にエピタキシャル成長によるp型炭化珪素単結晶層を形成することに代えて、基板温度を1,500℃まで下げた後、シランガス、プロパンガス、トリメチルアルミニウムを反応管内に導入して、SiC基板上にエピタキシャル成長によるp型炭化珪素単結晶層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る半導体構造物を製造した。
実施例3に係る半導体構造物の製造の際しては、エピタキシャル成長速度が18μm/hとなり、実施例1に係る半導体構造物の製造におけるエピタキシャル成長速度(22μm/h)に比べて低下した。なお、実施例3に係る半導体構造物では、この成長速度でエピタキシャル成長させ、厚み90μmのp型炭化珪素単結晶層を形成している。
また、実施例1に係る半導体構造物では、p型炭化珪素単結晶層中のAl濃度が1.5×10
20cm
−3であったが、実施例3に係る半導体構造物のp型炭化珪素単結晶層では、8.5×10
20cm
−3と、Al濃度を高くすることができている。しかしながら、形成されたp型炭化珪素単結晶層は、
図10に示すように、β型の炭化珪素が形成されていることを示す3角形状の欠陥がウエハ全面に多数発生しており、部分的に多結晶化していることが分かる。そのため、結晶が脆くなり、機械的強度が低下するものと推察される。なお、
図10は、実施例3に係る半導体構造物のp型炭化珪素単結晶層の成長表面を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【0070】
(実施例4)
SiC基板表面清浄後、反応管内に導入する原料ガスのCとSiの組成比を1:1から1.2:1に変更して、SiC基板上にSiC基板上にエピタキシャル成長によるp型炭化珪素単結晶層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る半導体構造物を製造した。
実施例4に係る半導体構造物のp型炭化珪素単結晶層の結晶表面は、
図11に示すように凸凹のある状態となり、本実施例の製造条件では、C/Siの組成比の変更により、高品位のp型炭化珪素単結晶層の形成には、至らなかったことが分かった。なお、
図11は、実施例4に係る半導体構造物のp型炭化珪素単結晶層の成長表面を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【0071】
(実施例5)
SiC基板表面清浄後、反応管内に導入する原料ガスのCとSiの組成比を1:1から0.5:1に変更して、SiC基板上にSiC基板上にエピタキシャル成長によるp型炭化珪素単結晶層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る半導体構造物を製造した。
実施例5に係る半導体構造物では、p型炭化珪素単結晶層の比抵抗が、500mΩcmと高くなり、本実施例の製造条件では、C/Siの組成比の変更により、低抵抗化が不十分となることが分かった。