特許第6270147号(P6270147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6270147無線通信方法、無線通信システム及び無線通信プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6270147
(24)【登録日】2018年1月12日
(45)【発行日】2018年1月31日
(54)【発明の名称】無線通信方法、無線通信システム及び無線通信プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 28/06 20090101AFI20180122BHJP
   H04W 74/04 20090101ALI20180122BHJP
   H04W 72/08 20090101ALI20180122BHJP
   H04W 24/10 20090101ALI20180122BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20180122BHJP
【FI】
   H04W28/06
   H04W74/04
   H04W72/08
   H04W24/10
   H04W84/12
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-142546(P2014-142546)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2016-19238(P2016-19238A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姜 聞杰
(72)【発明者】
【氏名】アベーセーカラ ヒランタシティラ
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 伸一
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 政一
(72)【発明者】
【氏名】衣斐 信介
【審査官】 相澤 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 延堂 拓也、外3名,重複セル環境でのBSS内集中制御型OFDMA無線LANシステムにおける端末クラスタ化に関する一検討,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.113 No.93,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2013年 6月13日,第113巻,P141〜P146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信ネットワークに属する任意の無線セルにおいて、基地局および複数の端末局が前記無線セルに存在する通信構成における無線通信方法であって、
間接収集方法と直接収集方法を組み合わせて、前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行うステップと、
前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、前記無線セル内の前記端末局の中から、当該無線セル外の前記端末局それぞれの通信可能エリア内に当該無線セル内の前記端末局が少なくとも1つあるようにして間接チャネル情報収集を適用する最小限の前記端末局を選択し、選択されなかった当該無線セル内の前記端末局に直接収集方法を適用することにより、最小限にした前記端末局がRTS/CTSフレームにより行う無線媒体の予約が、全セル内の前記端末局がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約と同等になるように予約を行うステップと、
前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、直接チャネル情報収集に用いるCSIフレームのフレーム時間長が最短とするための変調符号方式及び多元接続方式を適用するステップと、
前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行った後、前記基地局が前記チャネル情報に基づいて通信品質指標が向上するように無線リソースを割り当て、無線セル内の前記端末局に割り当て結果を通知するステップと、
前記割り当て結果が通知された無線セルの前記端末局が、割り当て結果に則って前記基地局と情報伝送を行い、前記基地局に対して成否応答を行うステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項2】
無線通信ネットワークに属する任意の無線セルにおいて、基地局および複数の端末局が前記無線セルに存在する通信構成における無線通信システムであって、
間接収集方法と直接収集方法を組み合わせて、前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行う手段と、
前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、前記無線セル内の前記端末局の中から、当該無線セル外の前記端末局それぞれの通信可能エリア内に当該無線セル内の前記端末局が少なくとも1つあるようにして間接チャネル情報収集を適用する最小限の前記端末局を選択し、選択されなかった当該無線セル内の前記端末局に直接収集方法を適用することにより、最小限にした前記端末局がRTS/CTSフレームにより行う無線媒体の予約が、全セル内の端末局が前記RTS/CTSフレームによる無線媒体の予約と同等になるように予約を行う手段と、
前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、直接チャネル情報収集に用いるCSIフレームのフレーム時間長が最短とするための変調符号方式及び多元接続方式を適用する手段と、
前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行った後、前記基地局が前記チャネル情報に基づいて通信品質指標が向上するように無線リソースを割り当て、無線セル内の前記端末局に割り当て結果を通知する手段と、
前記割り当て結果が通知された無線セルの前記端末局が、割り当て結果に則って前記基地局と情報伝送を行い、前記基地局に対して成否応答を行う手段と
を備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
コンピュータに、請求項1に記載の無線通信方法を実行させるための無線通信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信ネットワークにおける通信方法、通信プロトコルに係り、特に、セル単位で構成される無線ネットワークにおいて、各セルの基地局がそのセルの端末局との間で無線通信を行う無線通信方法、無線通信システム及び無線通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、無線LANシステムは、無線局免許を必要としないアンライセンスバンドにおいて運用されており、他の無線システムとの周波数帯域の共有を図るため、無線LANシステムは、媒体アクセス制御方式としてCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)方式を採用している。CSMA/CA方式とは、IEEE 802.11標準規格(例えば、非特許文献1参照)においてDCF(Distributed Coordination Function)方式として規定されている自律分散型の媒体アクセス制御方式である。CSMA/CA方式を用いることで、各端末はキャリアセンスおよびランダムバックオフによって信号の衝突を回避しつつ、自律分散的に送信権を獲得できる。
【0003】
しかしながら、CSMA/CA方式を用いる場合、端末はあくまでランダムに送信権の獲得を試みるため、同一BSS(Basic Service Set)内にQoS(Quality of Service)を要求する端末が存在する場合でも、システムはQoSを保証した通信を行うことができない。また、各端末のチャネル状況は無線伝播路のフェージングの影響によって受信SNR(Signal-to-Noise power Ratio)が低下した端末が送信権を獲得した場合、無線リソースの利用効率は低下し、受信SNRが高い端末が送信権を獲得した場合と比較してスループットが低下する。
【0004】
QoSを高い確率で保証し、無線リソースの利用効率を向上することにより高いスループットを達成するには、各端末のトラヒック状況およびチャネル状況に関する情報を収集し、収集したそれらの情報に基づいて無線リソースの割り当てを行う必要がある。そのような伝送を実現する手法として、セルラシステムのように無線リソースを集中管理するオペレータが、端末の状況に応じて動的に無線リソースを割り当てる集中制御型リソースマネージメントが考えられる(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、アンライセンスバンドにおいて運用される規格の異なるすべてのシステムを、セルラシステムのようにオペレータが集中管理することは容易ではないため、セルラシステムにおける集中制御型リソースマネージメントを無線LANシステムに直接導入することは望ましくない。
【0006】
そこで、異種の無線システムとの周波数共用を図りつつ、QoS保証および無線リソースの利用効率の向上を図る手法として、BSS内集中制御型OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)無線LANシステムが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
BSS内集中制御型OFDMA無線LANシステムでは、BSS内のAP(基地局;Access Point)に接続する端末(以下、BSS内端末と称する)がCSMA/CA方式を用いて送信権を獲得した後、RTS(Request to Send)フレームを送信し、APがこれを受信後CTS(Clear to Send)フレームを送信する。その後BSS内の各端末がCTSフレームを順に送信する。これらの制御フレームを受信した、BSSに参加していない他の端末(以下、BSS外端末と称する)に、無線リソースを占有する時間を通知することで無線媒体の予約をして、予約した無線リソースをBSS内で共有できる。
【0008】
以上の手順によって、BSS内端末で構成されるシステムは周辺の他の無線システムとの周波数共用を図りつつ、APを中心とした集中制御型リソースマネージメントを行っている。また、APはRTSフレームおよびCTSフレームによって各端末のトラヒック状況を収集しつつチャネル状況の推定を行う。集約したこれらの情報を基に、QoSを要求する端末に優先的に無線リソースを割り当てることにより高確率でQoSを保証する。また、あるサブチャネルに関して最も受信SNRの高い端末にそのサブチャネルを割り当てることでデータフレームの伝送レートを向上しスループットの向上を図っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】IEEE 802.11-2012, “IEEE Standard for Information Technology- Telecommunications and Information Exchange Between Systems- Local and Metropolitan Area Networks- Specific Requirements - Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications, ” 2012.
【非特許文献2】S. Xie, Y. Liu, Y. Zhang, and R. Yu, “A Parallel Cooperative Spectrum Sensing in Cognitive Radio Networks, ”IEEE Trans. Vehic. Technol.,vol. 59, pp. 4079-4092, Oct. 2010.
【非特許文献3】S. Miyamoto, S. Sampei, and W. Jiang,“Novel DCF-Based Multi-User MAC Protocol for Centralized Radio Resource Management in OFDMA WLAN Systems, ” IEICE Trans. Commun., Vol. E96-B, no. 9, pp. 2301-2312, Sept. 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したBSS内集中制御型無線LANシステムにおいては、以下に示す(1)、(2)を行うことが必要である。
(1)高い確率でQoSを保証しながらより高いスループットを達成できるように無線リソースを割り当てるには、全BSS内端末のトラヒック情報およびチャネル情報をAPへ収集すること。
(2)無線リソースの占有中に干渉源になり得る各BSS外端末との衝突を防止するため、それらのBSS外端末に対して、無線媒体を占有する時間長を通知する形で無線媒体の予約を行うこと。
【0011】
一方、その「BSS内端末の情報をAPへ収集」と「BSS外端末に対する無線媒体予約」は本来送信したい情報を格納したデータフレームそのものではなく、データフレームを高品質高効率に伝送するための前処理に過ぎない。従って、最終的に高いシステムスループットを達成するには、これらの前処理から発生する制御フレームやマネジメントフレーム(以下、前処理フレームと称する)のフレーム時間長を最短にし、前処理フレームが無線媒体を占有する期間を最短にするのが望ましい。情報伝送に対する前処理フレームの存在については様々な呼び方があり、シグナリングオーバヘッド、MACオーバヘッド、制御オーバヘッド、通信オーバヘッドなどと呼ばれることがある。本質はまったく同様なことである。
【0012】
以下では、まず、「チャネル情報推定」と「無線媒体予約」と「前処理フレームの時間長」との三者間の関係を整理する。次に、従来技術であるBSS内集中制御型無線LANシステムの課題を示す。
【0013】
<チャネル情報推定と前処理フレーム時間長との関係>
無線LANを含めて、現在の多くの無線システムでは同期検波方式を採用されている。その場合、前処理フレーム(それ以外の無線フレームも同様であるが、ここでは前処理フレームに焦点を絞って説明する)には通常トレーニング信号部分とデータ信号部分は含まれる。送信局から受信局へ前処理フレームが送信した場合、受信局ではまず、受信したトレーニング信号部分に基づいてチャネル情報CSI(Channel State Information)を推定する。次に、推定で得られたチャネル情報CSIに基づいて復調・復号などの一連の信号処理を通じてデータ信号部分に格納された送信情報の復元を試みる。
【0014】
このようにトレーニング信号による高精度のチャネル推定は信頼性ある通信の前提であるため、通常トレーニング信号は固定パターン信号を用いることが多く、その時間長の調節は基本的にできない。
【0015】
一方、データ信号は受信局が高精度なチャネル情報CSIに基づいて復調・復号処理を通じて最終的に送信された情報を正確に復元さえできれば良い。従って、高効率な情報伝送ができるように、許容な誤り率範囲内で多様な変調方式・符号方式・多元接続方式などを適宜に組み合わせてデータ信号を構築することがよくある。その結果、データ信号の時間長が最短となるように、許容な誤り率範囲内で変調符号方式や多元接続方式などを選び、データ信号による無線媒体の占有期間を最短にすることができる。
【0016】
従って、前処理フレームの時間長の調節も基本的には、トレーニング信号部分ではなく、データ信号部分の時間長の調節によって実現される。実際の無線LANシステム(非特許文献1)では、固定パターン信号であるプリアンブル部分は前処理フレームのトレーニング信号部分に相当する。
【0017】
一方、適応変調符号化や多元接続方式などが適用できるペイロード部分は前処理フレームのデータ信号部分に相当する。チャネル情報CSIの推定に用いるプリアンブル部分の時間長は調整できないが、ペイロード部分の時間長は許容な誤り率範囲内で変調符号方式や多元接続方式を選べば、最短にすることができる。このようにペイロード部分を最短化することで無線LANの前処理フレームの時間長を最短にできる。
【0018】
<無線媒体予約と前処理フレーム時間長との関係>
無線媒体の占有中にBSS外端末との衝突を防止するため、干渉源になり得る各BSS外端末に対して、無線媒体を占有する時間長を通知することで無線媒体を予約する必要がある。
【0019】
現在の無線LANでは、この無線媒体の予約はAPとBSS内端末との間でのRTS/CTSフレーム交換によって実現できる。このRTS/CTSフレームは無線LANの前処理フレームの一種であり、同じくトレーニング信号部分であるプリアンブル部分とデータ信号部分であるペイロード部分が含まれる。
【0020】
RTS/CTSフレームのプリアンブル部分は、他の無線LANの前処理フレームと同様に、受信局がチャネル情報CSIの推定ができるようにトレーニング信号として固定パターンの信号で構成されている。そのため、プリアンブル部分の時間長の短縮はできない。
【0021】
一方、RTS/CTSフレームのペイロード部分は、無線媒体の予約情報が記載されている。無線媒体の予約という目的を最大限に果たせるように、つまりBSS外端末で受信された際にその誤り率が最小となるように、RTS/CTSフレームのペイロード部分は、低効率高信頼性の変調符号方式による6Mbpsモードしか適用できない。その結果、他の無線LANの前処理フレームと異なり、許容の誤り率範囲内で変調符号方式や多元接続方式を選ぶことでペイロード部分の時間長を最短にすることはできない。
【0022】
このように、RTS/CTSフレームの時間長は、他の無線LANの前処理フレームと同様にペイロード部分を最短にすることでRTS/CTSフレームの時間長を最短にすることはできない。言い換えれば、個々のRTS/CTSフレームのフレーム時間長の調節はできないため、RTS/CTSフレーム交換による無線媒体の占有期間を短縮させるには、RTS/CTSフレーム交換に用いるRTS/CTSフレームの数を減らす以外の方法はない。
【0023】
<従来BSS内集中制御型無線LANシステムの課題>
前述した従来BSS内集中制御型無線LANシステムでは、以下の(3)、(4)を行うことが必要である。
(3)高い確率でQoSを保証しながらより高いスループットを達成できるように無線リソースを割り当てるには、全BSS内端末のトラヒック情報およびチャネル情報をAPへ収集すること。
(4)無線リソースの占有中に干渉源になり得る各BSS外端末との衝突を防止するため、それらのBSS外端末に対して、無線媒体を占有する時間長を通知することで無線媒体の予約を行うこと。
【0024】
従来BSS内集中制御型無線LANは、RTS/CTSフレームのプリアンブル部分はチャネル情報の推定に利用できることとペイロード部分は無線媒体の予約に利用できることに着目し、各BSS内端末とAPとの間でのRTS/CTSフレーム交換という前処理を通じて(3)と(4)を実現している。
【0025】
具体的には、APと各BSS内端末との間でRTS/CTSフレーム交換をして、個々のBSS内端末からのRTS/CTSフレームのプリアンブル部分を利用して該当BSS内端末のチャネル情報を推定することで、全BSS内端末のチャネル情報を収集する(前述の(3))。同時に、個々のBSS内端末からのRTS/CTSフレームのペイロード部分は干渉源となり得る各BSS外端末に媒体占有の時間長を通知して、無線媒体の予約を行う(前述の(4))。
【0026】
しかし、個々のRTS/CTSフレームはプリアンブル部分だけではなく、ペイロード部分も(受信誤り率が最小となるように、変調符号方式の適応による)時間長の調節はできない。すなわち、RTS/CTSフレームの時間長は短縮できない。従って、BSS内端末の数が増えるとRTS/CTSフレーム交換に用いるフレーム数も比例して増えるため、その結果前処理フレームの媒体占有期間が長くなり、システムスループットの低下を招いてしまうという問題がある。
【0027】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、システムスループット低下を抑えることができる無線通信方法、無線通信システム及び無線通信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、無線通信ネットワークに属する任意の無線セルにおいて、基地局および複数の端末局が前記無線セルに存在する通信構成における無線通信方法であって、間接収集方法と直接収集方法を組み合わせて、前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行うステップと、前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、前記無線セル内の前記端末局の中から、当該無線セル外の前記端末局それぞれの通信可能エリア内に当該無線セル内の前記端末局が少なくとも1つあるようにして間接チャネル情報収集を適用する最小限の前記端末局を選択し、選択されなかった当該無線セル内の前記端末局に直接収集方法を適用することにより、最小限にした前記端末局がRTS/CTSフレームにより行う無線媒体の予約が、全セル内の前記端末局がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約と同等になるように予約を行うステップと、前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、直接チャネル情報収集に用いるCSIフレームのフレーム時間長が最短とするための変調符号方式及び多元接続方式を適用するステップと、前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行った後、前記基地局が前記チャネル情報に基づいて通信品質指標が向上するように無線リソースを割り当て、無線セル内の前記端末局に割り当て結果を通知するステップと、前記割り当て結果が通知された無線セルの前記端末局が、割り当て結果に則って前記基地局と情報伝送を行い、前記基地局に対して成否応答を行うステップとを有することを特徴とする。
【0029】
本発明は、無線通信ネットワークに属する任意の無線セルにおいて、基地局および複数の端末局が前記無線セルに存在する通信構成における無線通信システムであって、間接収集方法と直接収集方法を組み合わせて、前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行う手段と、前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、前記無線セル内の前記端末局の中から、当該無線セル外の前記端末局それぞれの通信可能エリア内に当該無線セル内の前記端末局が少なくとも1つあるようにして間接チャネル情報収集を適用する最小限の前記端末局を選択し、選択されなかった当該無線セル内の前記端末局に直接収集方法を適用することにより、最小限にした前記端末局がRTS/CTSフレームにより行う無線媒体の予約が、全セル内の前記端末局がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約と同等になるように予約を行う手段と、前記間接収集方法と前記直接収集方法を組み合わせる際に、直接チャネル情報収集に用いるCSIフレームのフレーム時間長が最短とするための変調符号方式及び多元接続方式を適用する手段と、前記無線セル内の前記端末局から前記基地局へチャネル情報の収集を行った後、前記基地局が前記チャネル情報に基づいて通信品質指標が向上するように無線リソースを割り当て、無線セル内の前記端末局に割り当て結果を通知する手段と、前記割り当て結果が通知された無線セルの前記端末局が、割り当て結果に則って前記基地局と情報伝送を行い、前記基地局に対して成否応答を行う手段とを備えることを特徴とする。
【0030】
本発明は、コンピュータに、前記無線通信方法を実行させるための無線通信プログラムである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、従来技術を適用した無線ネットワークに比べ、同等のQoSを確保しながら、より高いシステムスループット、短い伝送遅延などの通信品質向上を実現することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】対象無線セルにおける無線局配置の一例を示す図である。
図2】従来技術によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。
図3】本発明の実施形態によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。
図4】対象無線セルにおける無線局配置の一例を示す図である。
図5】従来技術によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。
図6】本発明の実施形態によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。
図7】上りリンク通信のシミュレーションの設定例を示す図である。
図8】NRT端末とオーバヘッド率の関係を示す図である。
図9】NRT端末数とBSS内合計スループットの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態による無線通信システムを説明する。始めに、チャネル情報収集の方法を整理した上、本発明の実施形態による無線通信システムを説明する。各BSS内端末からAPへチャネル情報を収集する方法として、通常間接収集方法(Implicit CSI Feedback)と直接収集方法(Explicit CSI Feedback)の2つがある。以下では無線LANを例にしながら2つの方法を説明する。
【0034】
間接収集方法では、各BSS内端末からチャネル情報の推定に必要なプリアンブル信号をAPへ送り、APは受信したプリアンブル信号に基づいてチャネル情報を推定する形で全BSS内端末のチャネル情報を収集する。
【0035】
無線LANで間接収集方法を実施する場合、RTS/CTSフレームはプリアンブル部分を含むため、前処理としてのRTS/CTSフレーム交換を利用すれば、全BSS内端末から順にAPへプリアンブルを送ることができる。APは順に受信したこれらのプリアンブルに基づいてチャネル情報を推定する形で間接的に全BSS内端末のチャネル情報を収集する。従来技術によるBSS内集中制御型無線LAN(非特許文献3)のチャネル情報収集方法はこの間接収集方法に分類できる。
【0036】
RTS/CTSフレームによる間接チャネル情報収集の長所は、ペイロード部分は低速高信頼性の6Mbpsモードが採用されているため媒体予約に向いていて、ペイロードによる媒体予約とプリアンブルによるチャネル情報収集の両方が同時にできることである。一方、その短所は、RTS/CTSフレームはプリアンブル部分とペイロード部分の両方が時間長の短縮ができず、BSS内端末数が増えるとRTS/CTS交換に用いるRTS/CTSフレーム数も比例して増加するため、前処理フレームの媒体占有期間が長くなり、システムスループットの低下を招いてしまう。
【0037】
直接収集方法では、APからチャネル情報の推定に必要なプリアンブル信号を各BSS内端末へ送信し、各BSS内端末は受信したプリアンブル信号に基づいて、まず各自のチャネル情報を推定し、次に推定したチャネル情報をCSIフレームのペイロード部分に格納してAPへ送り返す。APは受信したこれらのCSIフレームのペイロード部分に格納されたチャネル情報を受取る形で全BSS内端末のチャネル情報を収集する。
【0038】
無線LANで直接収集方法を実施する場合、RTS/CTSフレームはプリアンブル部分を含むため、まずAPから各BSS内端末へRTS/CTSフレームを送信することが考えられる。次に、各BSS内端末はAPからのプリアンブルに基づいて各自のチャネル情報をまず推定し、次に推定したチャネル情報をCSIフレームのペイロードに格納してAPへ送り返せば、APはチャネル情報を受取る形で直接的に全BSS内端末のチャネル情報を収集する。
【0039】
CSIフレームによる直接チャネル情報収集の長所は、ペイロード部分は許容誤り率範囲内で高効率な変調方式や多元接続方式の適用による時間長の短縮ができることである。その結果CSIフレームも短縮され、前処理の媒体占有期間が短縮となり、システムスループットが向上になる。一方、その短所は、CSIフレームのペイロード部分は高効率な変調方式や多元接続方式を適用するゆえに、RTS/CTSフレームのペイロード部分で適用する低効率高信頼の6Mbpsモードに比較して受信誤り率が高くなり、媒体予約情報を各BSS外端末に周知する媒体予約目的を最大限に果たすことは困難である。
【0040】
勿論、媒体予約をしないという選択肢もあるが、その場合APとBSS内端末との間の情報伝送期間中に同一周波数帯域を利用する周辺の無線システムと干渉し合う、衝突し合う可能性がある。特に、無線LANを初めとするアンライセンス無線帯域で運用される無線機が急増する今日の通信情勢では、媒体予約をせずに情報伝送を開始することは、他システムとの干渉や衝突の可能性が高く、結果的に無線ネットワーク全体のスループット低下を招いてしまう恐れがある。
【0041】
このように、チャネル情報に関する間接収集方法と直接収集方法はそれぞれの長所と短所ある。従来技術によるBSS内集中制御型無線LANのチャネル情報収集方法はこの間接収集方法に分類できるため、間接方法の長所と短所の両方を受けることになる。
【0042】
本実施形態では、両チャネル情報収集方法の長所が最大限に発揮できるように、短所が最大限に回避できるように、間接収集方法と直接収集方法を組み合わせて、BSS内端末からAPへのチャネル情報収集を行う。
【0043】
また、間接収集方法と直接収集方法を組み合わせる際に、RTS/CTSフレーム数の増加に起因する無線媒体占有期間の長期化を回避するため、RTS/CTSフレームによる間接チャネル情報収集を適用する無線セル内端末数を最小限にする。
【0044】
また、RTS/CTSフレームによる間接チャネル情報収集方法を適用する無線セル内端末数を最小限にする際、その最小限にした端末がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約と、全セル内端末がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約と同等若しくはそれに近い予約効果を確保する。
【0045】
また、間接収集方法と直接収集方法を組み合わせる際に、直接チャネル情報収集方法に用いるCSIフレームの構成方針としてフレーム時間長が最短となるように、多様な高効率な変調符号方式や多元接続方式の適用を許容する。
【0046】
また、無線セル内の端末から基地局APへのチャネル情報を収集した後、基地局APがそれらのチャネル情報に基づいてシステムスループットやQoSなどの通信品質指標が向上するように無線リソースを割り当てること、及び無線セル内の端末に割り当て結果を周知する。
【0047】
さらに、割り当て結果が周知された無線セルの端末がその割り当て結果に則って基地局APと情報伝送を行うこと、及びAPと成否応答を行う。
【0048】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態による無線通信システムを説明する。図1図2図3は、BSS内集中制御型無線LANシステムにおける上りリンク通信について示している。図1は、対象無線セルにおける無線局配置の一例を示す図である。図2は、従来技術によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。図3は、本発明の実施形態によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。
【0049】
従来技術(図2)では、まず、BSS内の端末#1は、ランダムバックオフ後RTSフレームを送信する。これを受信したAPは、CTSフレームを送信し、RTSフレームを送信した端末#1以外の全BSS内端末にCTSフレームの送信を要求する。
【0050】
端末#1以外のBSS内端末#2、#3、#4、#5、#6、#7は、順にCTSフレームを送信し、干渉源になり得るBSS外端末#a、#b、#cに対して無線媒体の予約を行う。
【0051】
ここまでBSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7が送信したRTS/CTSフレームの中には各自のトラヒック情報が記載されているため、APはこれらのRTS/CTSフレームを受信することで各BSS内端末のトラヒック情報を収集できる。
【0052】
また、BSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7が送信したRTS/CTSフレームの中にはチャネル情報の推定に用いるプリアンブル部分が含まれているため、APはこれらのRTS/CTSフレームを受信することで各BSS内端末のチャネル情報を推定する形で全BSS内端末のチャネル情報を間接的に収集できる。
【0053】
APはこれらのフレームによって収集した情報を基に、通信リソースの割り当てを実施し、更にリソース割り当ての結果をARBIフレームで全端末に割り当て結果を通知する。ARBIフレームを受信した各BSS内端末は割り当て結果に沿ってデータフレームの伝送を行い、APからの成否応答を受け取った後通信権を解放する。
【0054】
次に、図3を参照して、本実施形態による無線通信システムを説明する。まず、BSS内の端末#1は、ランダムバックオフ後RTSフレームを送信する(図3(1))。
【0055】
これを受信したAPは、全BSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約は予約空間の重複があったり必要以上に広げたりする傾向に着目し、その全端末による予約と同等若しくはそれに近い予約効果を最小限のBSS内端末数#2と#7の2台だけでCTSフレームの送信で確保するように決定する。
【0056】
一方、CTSフレームを送信することで無線媒体の予約をしなくて良いBSS内端末#3、#4、#5、#6については、それらの端末のチャネル情報の収集はCSIフレームの送信による直接収集で行うと決定する。更に、これらの決定をAPが送信するCTSフレームに記載して各BSS内端末に通知する(図3(2))。
【0057】
次に、BSS内端末#2と#7は、APからのCTSフレームに記載された決定に基づいて、CTSフレームを送信し、BSS外端末#a、#b、#cに対して無線媒体の予約を行う(図3(3))。図1に示す無線局の配置であれば、この場合は従来技術のように全BSS内端末による無線媒体予約と同等の予約効果が得られる。
【0058】
次に、BSS内端末#3、#4、#5、#6は、まず、APからのCTSフレームのプリアンブル部分に基づいて各自のチャネル情報CSIを推定する。続いて、推定で得られたチャネル情報CSIをCSIフレームのペイロード部分に記載してAPに送信する。この場合、CSIフレームの構成方針としてはフレーム時間長が短くなるように、許容の誤り率範囲内で高効率な変調符号方式や多元接続方式の適用を許容する(図3(4))。
【0059】
次に、ここまでBSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7が送信したRTS/CTSフレームおよびCSIフレームの中には各自のトラヒック情報が記載されているため、APはこれらのフレームを受信することで各BSS内端末のトラヒック情報を収集できる。また、BSS内端末#1、#2、#7が送信したRTS/CTSフレームの中にはチャネル情報の推定に用いるプリアンブル部分が含まれているため、APはこれらのRTS/CTSフレームを受信することでBSS内端末#1、#2、#7のチャネル情報を推定する形で該当端末のチャネル情報を間接的に収集することができる。
【0060】
一方、BSS内#3、#4、#5、#6が送信したCSIフレームの中にはチャネル情報を記載したペイロード部分が含まれているため、APはこれらのCSIフレームを受信することでBSS内端末#3、#4、#5、#6のチャネル情報を直接的に収集することができる(図3(5))。
【0061】
このように、本実施形態では、無線媒体予約効果を維持しつつ、チャネル情報の間接収集方法と直接収集方法を組み合わせることで全BSS内端末のチャネル情報をAPへ収集することができる。ただし、ここで言うチャネル情報CSI(Channel State Information)とは無線伝播路の伝播応答だけに限定する必要はなく、伝播応答に応じた変復調符号方式MCS(Modulation Coding Scheme)や、若しくはそれ以外のチャネル状況を反映する指標の総称である。APはこれらの収集した情報を基に、通信リソースの割り当てを実施し、更にリソース割り当ての結果をARBIフレームで全端末に割り当て結果を通知する。
【0062】
次に、ARBIフレームを受信した各BSS内端末は割り当て結果に沿ってデータフレームの伝送を行う(図3(6))。
【0063】
次に、各BSS内端末はAPからの成否応答を受け取った後通信権を解放する(図3(7))。
【0064】
図3から分かるように本実施形態のようにAPと端末間の通信を行うことで、従来技術に比べて前処理の無線媒体占有期間が短縮でき、結果的に上りリンクにおけるシステムスループットの向上が実現できる。
【0065】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態による無線通信システムを説明する。図4図5図6は、BSS内集中制御型無線LANシステムにおける下りリンク通信について示している。図4は、対象無線セルにおける無線局配置の一例を示す図である。図5は、従来技術によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。図6は、本発明の実施形態によるBSS内集中制御型無線LAN技術を示す図である。
【0066】
従来技術(図5)では、まず、BSS内のAPは、ランダムバックオフ後RTSフレームを送信する。これを受信した各BSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7は、順にCTSフレームを送信し、干渉源になり得るBSS外端末#a、#b、#cに対して無線媒体の予約を行う。
【0067】
ここまでBSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7が送信したCTSフレームの中には各自のトラヒック情報が記載されているため、APはこれらのRTS/CTSフレームを受信することで各BSS内端末のトラヒック情報を収集できる。
【0068】
また、BSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7が送信したCTSフレームの中にはチャネル情報の推定に用いるプリアンブル部分が含まれているため、APはこれらのRTS/CTSフレームを受信することで各BSS内端末のチャネル情報を推定する形で全BSS内端末のチャネル情報を間接的に収集できる。
【0069】
APはこれらのフレームによって収集した情報を基に、通信リソースの割り当てを実施し、更にリソース割り当ての結果をARBIフレームで全端末に割り当て結果を通知する。ARBIフレームを受信した各BSS内端末は割り当て結果に沿ってデータフレームの伝送を行い、APからの成否応答を受け取った後通信権を解放する。
【0070】
次に、図6を参照して、本実施形態による無線通信システムを説明する。まず、BSS内のAPは、全BSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約は予約空間の重複があったり必要以上に広げたりする傾向に着目し、その全端末による予約と同等若しくはそれに近い予約効果を最小限のBSS内端末数#2と#7の2台だけでCTSフレームの送信で確保するように決定する。
【0071】
一方、CTSフレームを送信することで無線媒体の予約をしなくて良いBSS内端末#1、#3、#4、#5、#6については、それらの端末のチャネル情報の収集はCSIフレームの送信による直接収集で行うと決定する。更に、これらの決定をAPが送信するRTSフレームに記載して、ランダムバックオフ後そのRTSフレームを送信する(図6(1))。
【0072】
次に、BSS内端末#2と#7は、APからのRTSフレームに記載された決定に基づいて、CTSフレームを送信し、BSS外端末#a、#b、#cに対して無線媒体の予約を行う(図6(2))。図4に示す無線局の配置であれば、この場合は従来技術のように全BSS内端末による無線媒体予約と同等の予約効果が得られる。
【0073】
次に、BSS内端末#1、#3、#4、#5、#6は、まず、APからのCTSフレームのプリアンブル部分に基づいて各自のチャネル情報CSIを推定する。続いて、推定で得られたチャネル情報CSIをCSIフレームのペイロード部分に記載してAPに送信する。この場合、CSIフレームの構成方針としてはフレーム時間長が短くなるように、許容の誤り率範囲内で高効率な変調符号方式や多元接続方式の適用を許容する(図6(3))。
【0074】
次に、ここまでBSS内端末#1、#2、#3、#4、#5、#6、#7が送信したCTSフレームおよびCSIフレームの中には各自のトラヒック情報が記載されているため、APはこれらのフレームを受信することで各BSS内端末のトラヒック情報を収集できる。また、BSS内端末#2、#7が送信したCTSフレームの中にはチャネル情報の推定に用いるプリアンブル部分が含まれているため、APはこれらのRTS/CTSフレームを受信することでBSS内端末#2、#7のチャネル情報を推定する形で該当端末のチャネル情報を間接的に収集することができる。
【0075】
一方、BSS内#1、#3、#4、#5、#6が送信したCSIフレームの中にはチャネル情報を記載したペイロード部分が含まれているため、APはこれらのCSIフレームを受信することでBSS内端末#1、#3、#4、#5、#6のチャネル情報を直接的に収集することができる。
【0076】
このように、本実施形態では、無線媒体予約効果を維持しつつ、チャネル情報の間接収集方法と直接収集方法を組み合わせることで全BSS内端末のチャネル情報をAPへ収集することができる。ただし、ここで言うチャネル情報CSI(Channel State Information)とは無線伝播路の伝播応答だけに限定する必要はなく、伝播応答に応じた変復調符号方式MCS(Modulation Coding Scheme)や、若しくはそれ以外のチャネル状況を反映する指標の総称である。APはこれらの収集した情報を基に、通信リソースの割り当てを実施し、更にリソース割り当ての結果をARBIフレームで全端末に割り当て結果を通知する(図6(5))。
【0077】
次に、ARBIフレームを受信した各BSS内端末は割り当て結果に沿ってデータフレームの伝送を行う(図6(5))。
【0078】
次に、各BSS内端末はAPからの成否応答を受け取った後通信権を解放する(図6(6))。
【0079】
図6から分かるように本実施形態のようにAPと端末間の通信を行うことで、従来技術に比べて前処理の無線媒体占有期間が短縮でき、結果的に下りリンクにおけるシステムスループットの向上が実現できる。
【0080】
次に、前述した無線通信システムの数値実験について説明する。前述した無線通信システムの伝送特性を評価するため、上りリンク通信について計算機シミュレーションを行った。図7は、上りリンク通信のシミュレーションの設定例を示す図である。シミュレーション諸元と想定する端末配置はここに示す通りである。
【0081】
BSS内端末は、APからの距離がd(m)である円(破線の円)周上に一様ランダムに配置する。なお、BSS内端末のうち一台はQoSを要求するパケットを送信するRT(Real Time)端末とし、その他の端末はQoSに関して制約のないパケットを送信するNRT(Not Real Time)端末とする。
【0082】
また、BSS外端末(STA)を中心とする円はBSS外端末の信号が検知できる領域を示している。
【0083】
比較対象として、BSS内集中制御型OFDMA無線LANシステム(非特許文献3)を用いる。また、スループット評価では、DCF方式との比較も行う。
【0084】
図8は、NRT端末とオーバヘッド率の関係を示す図である。ここで、オーバヘッド率とは、BSS内端末がリソースを占有している合計時間のうち、データフレームの伝送が行われていない時間の割合を指す。
【数1】
【0085】
図8に示すように、BSS内集中制御型OFDMA無線LANシステム(original OFDMA WLAN System)に比べ、本発明による無線通信システム(
Proposed OFDMA WLAN System)オーバヘッド率が低下していることが分かる。
【0086】
これは、無線媒体の予約を行う端末を限定し、トラヒック状況およびチャネル状況の収集のため送信されるCSIフレームの送信に際して高効率な変調符号方式を行ったためである。また、オーバヘッド率の差はNRT端末数が増加するに従い大きくなり、BSS内端末数が増加した環境下でのシグナリングオーバヘッド削減に、前述した無線通信システムが有効であると確認できる。
【0087】
図9は、QoS満足率が99%以上であるという条件を満たしたうえでの、NRT端末数とBSS内合計スループットの関係を示す図である。ここで、QoS満足率とは、RT端末が送信するすべてのパケットのうち、要求遅延時間内に送信されたパケットの割合を指す。
【数2】
【0088】
従来技術(非特許文献3)では、端末数が増加した場合には、シグナリングオーバヘッドの増加により、DCF方式の特性との差が小さくなっていく。
【0089】
しかし、本発明による無線通信システムでは、前述したシグナリングオーバヘッドの削減により、端末数が増加した場合にも高いスループットを達成できていることが確認できる。また、APと端末間の距離をそれぞれ20mと40mの場合を示しているが、距離に依存せず本発明による無線通信システムが有効であると確認できる。
【0090】
以上説明したように、異種の無線通信システムとの周波数共用を図りつつ、QoS保証および無線リソースの利用効率の向上を図ることが可能なBSS(Basic Service Set)内集中制御型無線LANシステムでは、APでのBSS内の端末情報の収集や、BSSに参加していない他の端末への無線リソース占有時間の通知などの前処理により、制御フレームやマネジメントフレームのフレーム時間長が長くなり、システムスループットが低下するという問題がある。
【0091】
本実施形態では、間接収集方法と同等の受信誤り率を直接収集方法で確保できる端末を直接収集方法を行う端末とし、APに収集するチャネル情報を間接収集方法と直接収集方法を組み合わせて収集することを特徴とする。
【0092】
この構成により、チャネル情報を間接収集方法と直接収集方法を組み合わせることで全BSS内端末のチャネル情報をAPへ収集することができる。また、組み合わせる際に、RTS/CTSフレームによる間接チャネル情報収集を適用する無線セル内端末数を、全セル内端末がRTS/CTSフレームによる無線媒体の予約時と同等若しくはそれに近い予約効果を確保できるのに必要最小限のものとするため、RTS/CTSフレーム数の増加に起因する無線媒体占有期間の長期化を回避できる。
【0093】
また、組み合わせる際に、直接チャネル情報収集方法に用いるCSIフレームの構成方針としてフレーム時間長が最短となるように、多様な高効率な変調符号方式や多元接続方式の適用を許容するため、CSIフレームの短縮、そして全無線セル内端末のチャネル情報収集に費やす前処理の無線媒体占有期間の短縮ができる。
【0094】
以上の効果によって、最終的に前述した無線通信ネットワークでは、従来技術を適用した無線通信ネットワークに比べ、同様なQoSを確保しながら、より高いシステムスループット、短い伝送遅延などの向上した通信品質が実現できる。
【0095】
前述した実施形態におけるAP、端末をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
【0096】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
従来技術を適用した無線ネットワークに比べ、同等のQoSを確保しながら、より高いシステムスループット、短い伝送遅延などの通信品質向上を実現することが不可欠な用途に適用できる。
【符号の説明】
【0098】
AP・・・アクセスポイント(基地局)、#1〜#7・・・BSS内端末、#a〜#c・・・BSS外端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9