(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6278462
(24)【登録日】2018年1月26日
(45)【発行日】2018年2月14日
(54)【発明の名称】磁場検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20180205BHJP
G01R 33/20 20060101ALI20180205BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20180205BHJP
【FI】
G01N24/00 P
G01R33/20
G01N21/17 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-146572(P2014-146572)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-23965(P2016-23965A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】松崎 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 志郎
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
【審査官】
立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0308813(US,A1)
【文献】
特表2013−537303(JP,A)
【文献】
特開2011−180570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/26
G01N 21/17
G01R 33/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子のNV中心における電子スピンに電場を印加し、以下の式(第1の状態)で示される|Br〉と、以下の式(第2の状態)で示される|Da〉の間の前記電子スピンのエネルギー差を、ターゲットAC磁場の周波数に等しい状態とする周波数制御ステップと、
前記電子スピンを|0〉に偏極させる電子スピン状態制御ステップと、
|0〉に偏極した前記電子スピンに、|0〉と前記|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を印加する第1マイクロ波印加ステップと、
前記第1マイクロ波印加ステップの後で、前記電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させる相互作用ステップと、
前記電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させた後、|0〉と前記|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を前記電子スピンに印加する第2マイクロ波印加ステップと、
前記第2マイクロ波印加ステップの後で、前記検出素子にレーザー光を照射することで前記電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出ステップと
を備えることを特徴とする磁場検出方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶中の空孔およびこの空孔に隣接する位置の窒素原子とからなるNV中心を備えるダイヤモンドを用い
た磁場検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学やナノテクノロジーなどの分野では、ナノメートル程度の空間分解能で微弱な磁場を検出できる検出装置(検出器)の実現が望まれている。このような高性能磁場検出器のひとつとして、原子間力顕微鏡(AFM)などの走査型プローブ顕微鏡のプローブ先端に、単一NV中心を含んだダイヤモンドを設けた装置が存在する。NV中心は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素(Nitrogen)と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。
【0003】
このNV中心を備えるダイヤモンドを用いた磁場検出では、マイクロ波を用いてNV中心の電子スピンの重ね合わせの状態を生成し、ターゲット磁場のもとでラーモア歳差運動させ、この後でレーザー光を当ててスピンの状態を読み出すことで、磁場の強度を求めていた(非特許文献1参照)。
【0004】
より詳細に説明する。上述した磁場検出では、走査型プローブ顕微鏡の先端に、電子スピンをひとつ含む単一NV中心のダイヤモンドを設けた装置が用いられる。電子スピンは、磁場により歳差運動を行うが、NV中心においてはレーザー光の照射により電子スピンの状態が読み出せるため、磁場の情報を光に変換して検出することが可能になる。この装置を用い、角周波数がνのAC磁場(交流電流による磁場)を計測するには、以下のような方法が用いられる(非特許文献1参照)。
【0005】
NV中心の電子スピンは、スピン1なので|0〉と|1〉と|−1〉の三準位がある。ただし、数十mTほどの磁場を印加し、ゼーマン分裂によるデチューニングを利用することで|−1〉の状態を実効的に切り離すことででき、実効的に2準位系として扱えるようになる。この状態では、ハミルトニアン(Hamiltonian;ハミルトン関数)は、近似的に以下の式(5)で示すことができる。
【0006】
【数1】
【0007】
式(1)において、Dはゼロ磁場分裂、gはg因子、μBはボーア磁子、B
exは印加されたDC磁場(直流電流による磁場)、B
tはターゲットのAC磁場を表す。
【0008】
ここで、電子スピンの状態の読み出し、および特定の状態への偏極は、レーザー光の照射による基底状態から励起状態への光学的遷移を利用することで行う。また、装置のプローブを操作し、プローブの先端に取り付けてあるダイヤモンドを、予め計測する場所へと移動させた後、ある与えられた時間T秒のうちに以下に説明する操作を行うことで磁場を計測する。
【0009】
まず、第1ステップで、NV中心を光によって基底状態|0〉に偏極させる。第2ステップで、マイクロ波−π/2パルスを電子スピンに印加して|0〉と|1〉の間に遷移を起こし、電子スピンを以下の式(2)に示す重ね合わせの状態とする。
【0010】
【数2】
【0011】
第3ステップで、NV中心の電子スピンをターゲットの磁場のもとでラーモア歳差運動させ、電子スピンを以下の式(3)に示す重ね合わせの状態とする。
【0012】
【数3】
【0013】
第4ステップで、歳差運動が始まってからある時間τ/2が経過したときに、マイクロ波−πパルスを電子スピンに印加して、電子スピンを以下の式(4)に示す重ね合わせ状態とする。
【0014】
【数4】
【0015】
第5ステップで、第4ステップでから時間τ/2が経過したときに、マイクロ波−π/2パルスを電子スピンに印加して、電子スピンを以下の式(5)に示す重ね合わせ状態とする。
【0016】
【数5】
【0017】
第6ステップで、レーザー光を用いて、スピンの状態が|0〉であるか|1〉であるかの測定を行う。スピンの状態(重ね合わせ状態)が|0〉である確率P
0は、以下の式(6)で示される。式(6)において、Bは、角周波数2π/τを持つAC磁場成分を表す。
【0018】
【数6】
【0019】
第1ステップから第6ステップを繰り返し、|0〉が測定(検出)された確率を求めることで、角周波数が2π/τのAC磁場の強さを求める。
【0020】
なお、上述した測定では、以下の式(7)および式(8)の関係を用いている。
【0021】
【数7】
【0022】
しかし、上述した磁場検出では、NV中心を二準位系として扱う必要があったため、ターゲット磁場以外に、数十mT程度の外部磁場をNV中心に予め印加しておく必要があった。外部磁場は、局所的に印加することが難しいために、磁場検出対象物に磁場が印加されやすい。このため、上述した磁場検出では、強い磁場をかけることのできない超伝導体や生体などの物質上で、微小磁場を読み取ることはできない。
【0023】
近年になって、DC磁場センサーに関しては、外部磁場を必要とせずに磁場を検出する手法が開発された。具体的には、偏極したマイクロ波を用いて電子スピンに特定の励起状態を生成し、電子スピンをターゲットの磁場と相互作用させる。この後、レーザー光を用いてスピンの状態を読み出すことで、DC磁場の強度を求める。
【0024】
より詳細に説明する。上述したDC磁場検出では、ハミルトニアンは、以下の式(9)に示すように記述され、式(9)の|Br〉は、式(10)で定義され、式(9)の|Da〉は、式(11)で定義される。
【0025】
【数8】
【0026】
以下、上述した系におけるDC磁場Bの検出について説明する。
【0027】
第1ステップで、NV中心を光によって基底状態|0〉に偏極させ、第2ステップで、偏極したマイクロ波−πパルスを電子スピンに印加して、電子スピンの|Br〉の状態を生成する。第3ステップで、NV中心の電子スピンをターゲットの磁場Bと時間tの間相互作用させ、電子スピンを以下の式(12)で示される状態とする。
【0028】
【数9】
【0029】
第4ステップで、第2ステップと同じ方向に偏極したマイクロ波−πパルスを電子スピンに印加し、電子スピンを以下の式(13)で示される状態とする。
【0030】
【数10】
【0031】
第5ステップで、レーザー光を当ててスピンの状態を読み出す。このとき、読み出しの結果が|0〉である確率は、以下の式(14)で示される。
【0032】
【数11】
【0033】
上述した第1ステップから第5ステップを繰り返し、読み出された|0〉の確率を求めることで、DC磁場の強さを求める。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】J. M. TAYLOR et al. , "High-sensitivity diamond magnetometer with nanoscale resolution",Nature Physics, vol.4, pp.810-816, 2008.
【非特許文献2】K. Fang et al. , "High-Sensitivity Magnetometry Based on Quantum Beats in Diamond Nitrogen-Vacancy Centers", PHYSICAL REVIEW LETTERS, vol.110, 130802, 2013.
【非特許文献3】F. Dolde et al. ,"Electric-field sensing using single diamond spins", NATURE PHYSICS, vol.7, pp.459-463, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
しかしながら、上述したDC磁場の検出では、高周波のAC磁場を読み出すことはできない。また、ターゲット磁場以外に、環境の核スピンから生じる低周波の磁場揺らぎが存在する場合、そのノイズがNV中心の電子スピンの寿命を減らしてしまい、磁場センサーの精度を下げてしまうという問題点もあった。
【0036】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、AC磁場が、精度を低下させることなく検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明に係る磁場検出方法は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子のNV中心における電子スピンに電場を印加し、以下の式(第1の状態)で示される|Br〉と、以下の式(第2の状態)で示される|Da〉の間の電子スピンのエネルギー差を、ターゲットAC磁場の周波数に等しい状態とする周波数制御ステップと、電子スピンを|0〉に偏極させる電子スピン状態制御ステップと、|0〉に偏極した電子スピンに、|0〉と|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を印加する第1マイクロ波印加ステップと、第1マイクロ波印加ステップの後で、電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させる相互作用ステップと、電子スピンを測定対象の磁場に相互作用させた後、|0〉と|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を印加する第2マイクロ波印加ステップと、第2マイクロ波印加ステップの後で、検出素子にレーザー光を照射することで電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出ステップとを備える。
【0038】
な
お、磁場検出装置は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドからなる検出素子と、検出素子のNV中心における電子スピンに電場を印加し、以下の式(第1の状態)で示される|Br〉と、以下の式(第2の状態)で示される|Da〉の間の電子スピンのエネルギー差を、ターゲットAC磁場の周波数に等しい状態とする周波数制御手段と、電子スピンを|0〉に偏極させる電子スピン状態制御手段と、|0〉に偏極した電子スピンに、|0〉と|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を印加するマイクロ波印加手段と
、検出素子にレーザー光を照射するレーザー光源と、レーザー光源によりレーザー光が照射された検出素子の電子スピンの状態を検出する電子スピン状態検出手段と備える。
【0039】
【数12】
【0040】
上記磁場検出装置において、電子スピン状態制御手段は、レーザー光源により検出素子にレーザー光を照射して検出素子の電子スピンを|0〉に偏極させればよく、電子スピン状態検出手段は、レーザー光源により検出素子にレーザー光を照射した検出素子から放出される光子を検出する光子検出部であればよい。
【発明の効果】
【0041】
以上説明したことにより、本発明によれば、AC磁場が、精度を低下させることなく検出できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態における磁場検出装置の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態における磁場検出方法を説明するフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における磁場検出装置の構成を示す構成図である。また、
図2は、本発明の実施の形態における磁場検出方法を説明するフローチャートである。
【0044】
磁場検出装置は、検出素子101,周波数制御部102,電子スピン状態制御部103,マイクロ波制御部104,および光子検出部(電子スピン状態検出手段)105を備える。
【0045】
検出素子101は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔との対からなる複合不純物欠陥であるNV中心を有するダイヤモンドから構成されている。検出素子101は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)のプローブ110先端に取り付けて用いればよい。また、走査型トンネル顕微鏡(STM)および走査型近接場光顕微鏡(SNOM)などの走査型プローブ顕微鏡のプローブ先端に取り付けて用いてもよい。
【0046】
周波数制御部102は、電場印加電極などから構成されている電場発生部113を制御し、検出素子101のNV中心における電子スピン121のスピン状態を制御する。なお、磁場発生部113は、検出素子101に電場を印加できる電極である。例えば、磁場発生部113は、検出素子101を取り巻く筒状の電極であればよい。上述した電場による制御では、電子スピン121における|Br〉と|Da〉との間のエネルギー差を、測定対象115におけるAC磁場116の周波数に等しくする。なお、|Br〉は、式(10)で定義される電子スピン121の状態である。また、|Da〉は、式(11)で定義される電子スピン121の状態である。
【0047】
電子スピン状態制御部103は、検出素子101のNV中心における電子スピン121を|0〉(基底状態)に偏極させる。例えば、検出素子101にレーザー光を照射する光源112を備え、電子スピン状態制御部103は、光源112を制御して検出素子101にレーザー光を照射し、光学的遷移を利用して電子スピン121を|0〉の状態に偏極させる。
【0048】
マイクロ波制御部104は、マイクロ波照射部111を制御し、検出素子101のNV中心における|0〉の状態とされた電子スピン121に、共鳴するマイクロ波パルスを印加する。ここでは、電子スピン121の|Br〉と|Da〉との間のエネルギー差を、測定対象115におけるAC磁場116の周波数に等しい状態に制御するために、|0〉と|Br〉との間のエネルギー差に共鳴するマイクロ波−πパルスを、検出素子101の電子スピン121に印加する。
【0049】
光子検出部105は、電子スピン121の状態を、レーザー光が照射された検出素子101より検出する。光子検出部105は、光源112によりレーザー光を照射された検出素子101から放出される光子を検出する。
【0050】
上述した実施の形態における磁場検出装置の電子スピン121を備える径におけるハミルトニアンは、以下の式(15)で示される。
【0052】
式(15)において、Eは、電場発生部113により検出素子101の電子スピン121に印加される電場を示す。また、dは、電気双極子モーメントを示す。また、B
tは、以下の式(16)で表される測定対象115におけるAC磁場116の強度である。
【0054】
従って、電場発生部113により検出素子101の電子スピン121に印加される電場Eは、「2dE=ν」を満たすような値に調整する。NV中心の電気双極子モーメントは20Hz・cm/Vなので(非特許文献3)、例えば1MHzのAC磁場を読み出すためには、10V/μmの電場をかければ良いことがわかる。ここで、回転座標系に移り、回転波近似を用いることで、ハミルトニアンは以下の式(17)に示すように書き換えることができる。
【0056】
次に、本発明の実施の形態における磁場検出方法について、
図2のフローチャートを用いて説明する。
【0057】
まず、ステップS201で、検出素子101のNV中心における電子スピン121に電場を印加し、|Br〉と|Da〉の間の電子スピン121のエネルギー差を、ターゲットAC磁場の周波数に等しい状態とする(周波数制御ステップ)。周波数制御部102の制御により電場発生部113で、電子スピン121に対して電場(電界)を印加する。
【0058】
次に、ステップS202で、電子スピン121を|0〉に偏極させる(電子スピン121状態制御ステップ)。電子スピン状態制御部103が、光源112を制御して検出素子101にレーザー光を照射し、光学的遷移を利用して電子スピン121を|0〉の状態に偏極させる。
【0059】
次に、ステップS203で、|0〉に偏極した電子スピン121に、|0〉と|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を印加する(第1マイクロ波印加ステップ)。マイクロ波制御部104が、マイクロ波照射部111を制御し、|0〉と|Br〉との間のエネルギー差に共鳴するマイクロ波−πパルスを、検出素子101の電子スピン121に印加する。
【0060】
次に、上述したステップS203の後、ステップS204で、電子スピン121を測定対象の磁場に相互作用させる(相互作用ステップ)。プローブ110を動作させて検出素子101を移動させ、測定対象115からのAC磁場116が検出可能な位置に、検出素子101を配置し、AC磁場116に相互作用させる。時間tの間だけ相互作用させる。これにより、電子スピン121は、以下の式(18)に示す状態となる。
【0062】
上述したステップS204の後、ステップS205で、|0〉と|Br〉との間の差に共鳴するマイクロ波を、電子スピン121に印加する(第2マイクロ波印加ステップ)。このマイクロ波の印加により、電子スピン121は、以下の式(19)に示す状態となる。
【0064】
上述したステップS205の後、ステップS206で、電子スピン状態制御部103の制御により光源112からのレーザー光を検出素子101に照射し、この結果、検出素子101から放出される光子を光子検出部105で検出することで、電子スピン121の状態を検出する(電子スピン121状態検出ステップ)。
【0065】
上述したステップS202〜ステップS206を、設定されている回数(例えば10回)行い(ステップS207)、この後、ステップS208で、検出された電子スピン121の状態が|0〉となる確率を求め、ステップS209で、測定対象115におけるAC磁場116の強度を算出する。
【0066】
ステップS206における検出で、電子スピン121の状態が|0〉と読み出せる確率は、以下の式(20)で示される。
【0068】
従って、|0〉と読み出せる確率より、測定対象115におけるAC磁場116の強度B
tが算出できる。
【0069】
以上に説明したように、本発明によれば、|Br〉と|Da〉の間のNV中心における電子スピンのエネルギー差を、電場を印加することでターゲットAC磁場の周波数に等しい状態とするようにしたので、外部磁場を印加することなく、AC磁場の読み出しが可能になる。また、本発明では、|Br〉と|Da〉の間にエネルギー差があるので、環境からくる磁場の低周波揺らぎの影響を受けづらいことが大きな利点である。
【0070】
また、ゼロ磁場分裂エネルギーDは、温度依存性を持つため時間的に揺らぐことが知られているが(非特許文献1)、本発明では電子スピンを磁場と相互作用させているときの状態の時間発展にゼロ磁場分裂エネルギーDの値は寄与してこないため、上記温度揺らぎの影響も受けることがないのも大きな特徴である。これらのように、本発明によれば、AC磁場が、精度を低下させることなく検出できるようになる。
【0071】
本発明によって、超伝導体や生体などの強い磁場をかけられない敏感な物質において、AC磁場の計測が可能になる。さらに、磁場の低周波揺らぎと温度揺らぎの影響を受けないため、前述した関連する技術に比較して、高精度でのAC磁場読み出しが可能になる。
【0072】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0073】
101…検出素子、102…周波数制御部、103…電子スピン状態制御部、104…マイクロ波制御部、105…光子検出部(電子スピン状態検出手段)、110…プローブ、111…マイクロ波照射部、112…光源、113…電場発生部、115…測定対象、116…AC磁場、121…電子スピン。